icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina33巻11号

1996年11月発行

雑誌目次

今月の主題 心エコーToday 何を診断できるか—原理,正常波形と臨床応用

Mモード心エコー図と断層(2D)心エコー図

著者: 林輝美

ページ範囲:P.2015 - P.2021

ポイント
●心エコー図検査および診断の基本は断層心エコー図(2D心エコー図)であり,心臓の構造や血行動態の観察に優れた診断法である.
●心臓の全体像をもれなく記録するための基本断面像は,左室長軸像,短軸像,四腔像である.胸骨左縁,心尖部,剣状突起下,鎖骨上窩などから探触子をあてる.
●心エコー画像をリアルタイムで観察しながら診断を進め,各断面像からの情報を頭のなかで立体構築する.
●Mモード心エコー図は距離分解能,時間分解能に優れているため,心臓の各組織の運動速度や大きさの測定,弁運動などの詳細な分析に利用する.

3D・4D心エコー図

著者: 三神大世 ,   北畠顕

ページ範囲:P.2022 - P.2025

ポイント
●多断面の断層心エコー図と各断面の位置情報を心電図・呼吸同期下に収集し,時相を揃えて再構成することにより三次元(3D)像あるいは3D動画(四次元,4D)像を得ることができる.
●現在,マルチプレーン経食道探触子の振動子をプロペラ状に回転させる方法が最もよく用いられる.また,同様の方法を体表から行うことも可能となってきている.
●3D心エコー図法は,肉眼観察に近い形で弁膜病変や心奇形などの心病変を観察することを可能とし,手術計画作成などへの貢献が予想される.また,超音波刺入方向によらない任意方向の距離計測,あるいは仮定を含まない正確な容積計測などへの応用が期待される.

ドプラ法

著者: 渡辺弘之 ,   吉川純一

ページ範囲:P.2026 - P.2030

ポイント
●超音波ドプラ法は,赤血球からの超音波のドプラ効果を利用し血流速を測定する方法で,血行動態の定量的評価が可能である.
●ドプラ法には連続波ドプラ法,パルスドプラ法とカラードプラ法がある.連続波ドプラ法は特定の深さでの流速測定は不可能であるが,測定可能な血流速に上限がない.パルスドプラ法は,特定部位での血流速測定が可能であるが,測定可能な血流速に限界がある.カラードプラ法は,血流の探触子に対する方向と速度をカラー表示することが可能である.
●心エコー図を用いて心機能を正確に評価するためには,心エコー断層図による形態的変化の把握と同時に,ドプラ法を用いて血行動態の定量的評価を行うことが重要である.

経食道心エコー図

著者: 刀禰尚 ,   友近康明 ,   松﨑益德

ページ範囲:P.2032 - P.2035

ポイント
●心臓および大血管の解剖学的位置関係をあらかじめ把握しておく.
●検査の目的を明瞭にし,適応を注意深く決定する.
●検査自体による患者への侵襲性を考慮し,HIVなど感染症に対する予防を行う.
●通常の経胸壁アプローチとの相違点をよく把握しておく.

負荷心エコー法

著者: 小柳左門

ページ範囲:P.2036 - P.2039

ポイント
●負荷心エコー法は冠動脈疾患の診断に優れ,心筋虚血の部位や重症度について簡便に判定できる.
●運動負荷心エコー法は生理的負荷であり,診断率も高いが,体動や呼吸の影響を受けやすく,検査には熟練が必要である.
●運動が十分にできない症例などでは,薬物負荷心エコー法が有用であり,特にドブタミン負荷法は高い診断率が得られる.
●心筋viabilityの診断には,低用量のドブタミン負荷法が有用である.

コントラスト心エコー法

著者: 林英宰 ,   三嶋正芳

ページ範囲:P.2040 - P.2045

ポイント
●心筋コントラストエコー法とは,超音波コントラスト剤を冠動脈内に注入し,心筋エコー輝度を増強させ,その解析から心筋灌流状況を評価しようとする手法である.
●心筋コントラストエコー法を虚血性心疾患に適用することにより,心筋梗塞領域の同定,梗塞心筋のviability(生存度)の評価,側副血行路の機能評価,心内膜下虚血の可視化などが可能である.
●肺血管床を通過する超音波コントラスト剤を用いて,静脈注入による左心系コントラストエコー法が可能になった.
●超音波コントラスト剤と心エコー装置側の進歩により,静脈内投与による非観血的心筋コントラストエコー法の可能性が現実のものとなってきた.

血管内エコー法

著者: 出川敏行 ,   山口徹

ページ範囲:P.2046 - P.2049

ポイント
●血管内エコー法は新しい冠動脈硬化の診断法である.従来,摘出冠動脈標本でしか知り得なかった冠動脈の内膜の形態学的変化や血管のgiometricな変化を生体内で知ることができるようになり,冠動脈疾患の病態の理解が深まった.
●冠インターベンションの治療効果の判定,デバイスの選択にも用いられ役立っている.

血管内ドプラ法

著者: 大倉宏之 ,   赤阪隆史

ページ範囲:P.2050 - P.2054

ポイント
●ドプラガイドワイヤーにより,安全かつ容易に冠動脈内血流速を測定することが可能である.
●正常冠血流速波形は収縮期と拡張期の二峰性で,拡張期優位である.
●狭窄近位部と狭窄部の血流速を計測することにより,連続の式を応用して冠動脈狭窄率の推定が可能である.
●安静時の冠血流速と,パパベリンやアデノシンなどを負荷した際の反応性充血時における冠血流速から,冠血流予備能が測定できる.

どう診断するか—効果的な心エコー法の組み合わせ

よい心エコー図をとるコツ

著者: 桑子賢司

ページ範囲:P.2057 - P.2059

ポイント
●通常の記録は左半側臥位,軽い呼気停止下で行う.
●探触子は胸壁に密着させ,またあまり力を入れて握らない.
●基本的な断面像をきれいに描出できるようになることが大切である.
●記録の順番を決めておくと見落としがない.

どれがアーチファクトか

著者: 山室淳 ,   吉田清

ページ範囲:P.2060 - P.2063

ポイント
●超音波の通過方向に反射の大きい平面が存在すると,超音波はその対象物体で反射し方向を変える.その方向を変えた超音波により新たな虚像を作る.このような反射を,本来の単純な反射と区別して多重反射という.
●超音波探触子より送り出される超音波ビームには,メインとなる超音波ビーム(メインローブ)と,ほかに斜め方向にも同時に向かう超音波ビームがある.これをサイドローブという.
●生体内を通過する超音波が対象物体によりすべて反射されるか,あるいは吸収されると,その背方には超音波が届かないため何もないようにみえる.この現象を音響陰影という.

形態異常の診断

心室と心房

著者: 横田慶之

ページ範囲:P.2065 - P.2069

ポイント
●左室負荷疾患や虚血性心疾患,種々の心筋疾患では,その病態に応じて種々の程度に左室壁肥大や左室拡大が進展する.
●右室負荷疾患や右室心筋疾患では右室拡大がみられるが,その拡大様式は各疾患の病態により異なる.
●心室の壁肥大心や拡大心の病態の評価には,断層法による各種断面を用いて左室の形態・動態を詳細に観察する必要があるが,同時にドプラ法による血流動態の観察が有用である.
●心房の拡大は房室弁疾患,心室機能障害,心房細動などでみられる.
●断層法は心房壁や心房内構造物の描出に有用であるが,より詳細な観察には経食道心エコー法を施行する必要がある.

房室弁と半月弁

著者: 鈴木真事

ページ範囲:P.2070 - P.2072

ポイント
●僧帽弁疾患の診断には,左室長軸断層像を基本にして,正中部のみでなく前交連側,後交連側も観察する.次に短軸断面にて,僧帽弁逸脱部位の広さや僧帽弁狭窄症の弁口面積などを計測する.
●大動脈弁疾患の診断には,短軸断層による観察が重要である.
●三尖弁,肺動脈弁の観察は,成人ではそれぞれの弁の短軸像は描出不能なことが多いため長軸方向の断面で観察する.
●いずれの弁膜症の診断においても,経食道心エコー法を併用すると診断能力が向上する.
●カラードプラ法を併用したほうが弁の形態異常を見つけやすい.

大動脈・肺動脈・下大静脈

著者: 羽田勝征

ページ範囲:P.2073 - P.2076

ポイント
●胸部心エコーで観察されるのは上行大動脈基部である.
●大動脈径には弁輪径,バルサルバ洞径,およびその上方,の3ヵ所がある.
●肺動脈が拡張する疾患には肺動脈弁狭窄,左右短絡疾患,肺高血圧症,特発性肺動脈拡張症がある.
●下大静脈径の正常値は15mm以下である.

心筋・心膜

著者: 増山理 ,   永野玲子 ,   山本一博 ,   堀正二

ページ範囲:P.2077 - P.2081

ポイント
●左室肥大とは,左室重量係数の増加を指す用語である.
●左室の形態は,左室重量係数と相対的左室壁厚の両者により評価される.
●求心性左室肥大は,左室圧負荷疾患,二次性蓄積性心筋疾患に多くみられる.
●遠心性左室肥大は,左室容量負荷疾患,左室収縮機能低下時に多くみられる.
●局所的な左室形態異常をきたす疾患には,肥大型心筋症,虚血性心疾患,肺高血圧症などがある.
●心タンポナーデの心エコー上の特徴は,右房・右室前壁の拡張期虚脱であり,重症度は心嚢液貯留量よりも心膜腔内圧に依存する.

先天性心疾患

著者: 里見元義 ,   安河内聰 ,   岩崎康 ,   汲由喜宏

ページ範囲:P.2082 - P.2085

ポイント
●形態上のバランスの乱れをみる:正常心では左右のバランスのとれた形をしている.左右の心房のバランス,左右の心室のバランスがくずれた形態をみた場合に,先天性心疾患の診断のきっかけとなることが多い.
●血流の乱れをみる:正常心では心内と大血管内の血流は乱流を生じることはない.血流の乱れをみた場合には,短絡,逆流,狭窄のいずれかを考える.
●形態と血行動態を統合的に診断する:形態と血流は別個のものではなく,血流の乱れは形態の乱れのために必然的に起こってくるものである.

機能異常の診断

心室の収縮機能と拡張機能

著者: 竹中克

ページ範囲:P.2087 - P.2089

ポイント
●心室機能の評価には,容積と圧の情報が必要である.
●左室容積の測定法には,左室形態を楕円体と仮定する方法と仮定をおかないSimpson法とがある.
●心拍出量は,心エコー法あるいはドプラ法により算出される.
●左室収縮能の簡便な指標は,前負荷と後負荷の影響を受けることを念頭に置いて使用すべきである.
●左室拡張能を評価する新しい方法として,Mモードカラードプラ法による左室内血流伝播速度や,心筋ドプラ法による左室局所の壁運動速度などがある.

心血管の内圧測定

著者: 岩瀬正嗣

ページ範囲:P.2090 - P.2096

ポイント
●連続波ドプラ法を用いれば圧較差の評価が可能である.特に三尖弁逆流血流の最高流速から,簡易Bernoulli式(P=4V2)により右室・右房間の圧較差を求めることは比較的容易である.右室ないしは肺動脈収縮期圧の評価には,右房圧として単純に10mmHgを加えるだけでも充分なことが多い.
●健常人でもしばしば三尖弁逆流血流を検出できることがあるが,その場合には最高流速が2.5m/sec(圧較差25mmHg)以下であり,有意な肺高血圧の存在を否定することが可能となる.

心臓内の血流動態

著者: 水重克文 ,   舛形尚

ページ範囲:P.2098 - P.2101

ポイント
●経静脈性コントラストエコー法では,エコー源である微小気泡が血流に沿って拡散することにより,血流自体が可視化でき,心腔内の血液流路と広がりを正確に知ることができる.
●心筋梗塞などでの壁運動異常によって,左室内血流路にも異常を生じ,左室内局所での血液うっ滞,左室壁在血栓形成の危険性を評価できる.
●左心耳コントラストエコーの観察から左心耳内血栓形成を予測できる.
●左室内のコントラストエコーの経時曲線の解析から左心機能の評価も可能である.

冠動脈内の血流動態

著者: 土井泰治 ,   田内潤

ページ範囲:P.2102 - P.2105

ポイント
●冠動脈内の血流情報を得ることにより,冠動脈造影のみでは評価困難な冠血流動態の異常を評価できる.
●ドプラガイドワイヤにより冠動脈末梢や狭窄部以遠での選択的な血流計測が可能である.
●冠動脈狭窄部血流や冠血流予備能の計測により冠動脈病変の機能的狭窄度を評価できる.
●表在冠動脈に狭窄がなくとも,冠抵抗血管の機能異常により冠血流予備能は低下する.

虚血性心疾患の診断と治療への応用

狭心症の診断と評価

著者: 石蔵文信

ページ範囲:P.2107 - P.2109

ポイント
●狭心症では原則的に壁運動異常は認めず,冠動脈正常例の壁運動と区別することは難しいが,注意深い観察により虚血性心疾患の存在を推測することは可能である.
●壁運動異常の判定は初心者には難しく,必ず壁厚変化を考慮に入れて判定すべきである.
●心エコー法の最終目標は直接冠動脈を描出することであるが,現実は冠動脈起始部を観察できる程度である.
●狭心症の心エコー診断には基本的には負荷テストが必要であり,病態により負荷方法を選ぶべきである.

急性および陳旧性心筋梗塞の診断と評価

著者: 石光敏行

ページ範囲:P.2110 - P.2114

ポイント
●超音波診断法は心筋梗塞の診断に際して,まず第一に選択される画像診断法である.
●特に再灌流療法適応例では,緊急冠動脈造影の適応を決めるうえで決定的な役割を有する.
●急性心筋梗塞の超音波所見には,新たに出現した壁運動異常,収縮期壁厚異常がある.
●陳旧性心筋梗塞では,上記の所見とともにエコー輝度の上昇,壁の菲薄化が認められる.

急性心筋梗塞の合併症の診断と評価

著者: 澤田準

ページ範囲:P.2115 - P.2117

ポイント
●見落としてはならない心筋梗塞の合併症は,心筋断裂と右室梗塞である.
●心筋断裂は急性期以後に生じることもあるので,急性期以後の経過観察も重要である.
●心拍出量の減少が,左室壁運動から予測されるよりも重度であれば,右室梗塞や僧帽弁閉鎖不全の有無を確認しなければならない.
●合併症の出現部位を予測し,必要な情報を効率よく集めるためには,冠動脈支配の理解が必要である.
●血流異常を伴う合併症では,カラードプラ法による異常血流の検出が診断に役立つ.

急性心筋梗塞の心筋灌流

著者: 伊藤浩

ページ範囲:P.2118 - P.2122

ポイント
●急性心筋梗塞再灌流療法の効果判定は,直接的には心筋コントラストエコーによる心筋血流の評価,間接的には壁運動改善動態の評価から行われる.
●再灌流後責任冠動脈にコントラスト剤を注入すると,通常risk areaは心筋染影され心筋灌流が得られたことを示唆するが,なかには広範な非染影領域が残存する(no-reflow現象)例が存在する.かかる例は梗塞サイズが大きく,心機能改善も不良である.
●壁運動改善は気絶心筋の機能的回復により生じるが,ドブタミン負荷により急性期に気絶心筋の範囲を推定することが可能である.
●以上の方法による心筋viabilityの評価は,治療戦略を決定するうえで極めて重要である.

冠動脈硬化症と血管内エコー法・ドプラ法

著者: 山岸正和 ,   宮武邦夫

ページ範囲:P.2123 - P.2127

ポイント
●血管内エコー法により正常冠動脈を観察すると,血管内腔に隣接して薄い一層の高輝度エコー層を認め,これに続く低輝度エコー層は存在しても極めて薄い.
●動脈硬化が進展すると,高輝度エコー層の拡大を認める.低輝度エコー層が血管中膜を必ずしも反映するとは限らない.
●冠動脈スパスム発症部位では軽度の内膜肥厚が観察され,スパスム発生と動脈硬化の関連が推察される.
●血管内ドプラ法による冠血流速の測定から“連続の式”を応用した冠動脈狭窄度の算出が可能である.

冠動脈インターベンションと血管内エコー法

著者: 矢嶋純二 ,   本江純子 ,   斎藤穎

ページ範囲:P.2128 - P.2131

ポイント
●Deviceの選択には,CAG(coronary angiography)上の病変形態に加え,IVUS(intra-vascular ultrasound)による病変形態の把握が重要である.
●IVUSによるdevice選択には,石灰化の程度と局在が大きく影響する.
●DCA(directional coronary atherectomy)のend pointには,IVUS上最小血管内径3mm以上,面積狭窄率50%以下が望ましい.
●stent植え込みのend pointには,IVUS上,strutを血管壁に十分密着させること,sym-metry indexを0.7以上とすることが望ましい.

弁膜疾患の診断と治療への応用

僧帽弁膜症の診断と評価

著者: 平井寛則 ,   鈴木真事

ページ範囲:P.2133 - P.2137

ポイント
●僧帽弁狭窄症:単に弁尖の肥厚,硬化を評価するだけでなく,弁下組織など僧帽弁複合も下分に観察する.弁口面積の算出は,直接トレースかpressure half timeを用いる.
●僧帽弁閉鎖不全症:診断と重症度の評価はカラードプラ法を用いるが,その成因は断層法で観察するのがよい.

大動脈弁膜症の診断と評価

著者: 中村一彦

ページ範囲:P.2138 - P.2142

ポイント
●大動脈弁狭窄症,閉鎖不全症の診断には超音波検査は必須の検査である.
●大動脈弁狭窄症の病因診断には超音波断層法での長軸像,短軸像での観察が必要であり,重症度評価には連続波ドプラ法による弁口部の最大流速の検出が必要である.
●大動脈弁閉鎖不全症の存在診断,重症度評価にはカラードプラ法が有用であり,病因診断には断層法で上行大動脈,大動脈弁,左室流出路の観察が重要である.

三尖弁膜症と肺高血圧症の診断と評価

著者: 小澤優樹

ページ範囲:P.2143 - P.2147

ポイント
●三尖弁狭窄症では,僧帽弁狭窄症と類似した所見を呈する.
●ドプラ法は,三尖弁逆流の診断と重症度評価にきわめて有用であり,三尖弁逆流の最大血流速度からBernoulliの簡易式を用いて,収縮期の右室圧(肺動脈圧)を推定することができる.
●軽度の三尖弁逆流は健常者にも認められるため,軽度の三尖弁逆流を認めるときには,それが生理的なものか病的なものかを判断することは重要である.
●断層法やMモード法は,肺高血圧の存在を診断するには有用であるが,連続波ドプラ法は,肺動脈圧を推定することができ,肺高血圧の定量的な評価にきわめて有用である.

感染性心内膜炎と心エコー法

著者: 中村憲司 ,   石塚尚子

ページ範囲:P.2149 - P.2151

ポイント
●不明熱の鑑別診断には感染性心内膜炎と結核を必ず念頭に置き,感染性心内膜炎の除外診断は慎重に行う.
●狭窄弁などの品質的変化の強い弁に発症する心内膜炎病変には注意を要する.
●大動脈心内膜炎では,僧帽弁や周辺組織への炎症の波及に十分注意する.

人工弁の評価

著者: 佐伯文彦

ページ範囲:P.2152 - P.2154

ポイント
●人工弁は,その構造から機械弁と生体弁に大別される.
●人工弁の閉鎖不全には,transvalvular leakageとperivalvular leakageがあり,弁座周囲から発生するperivalvular leakageの検出には,多方面からの詳細な観察が欠かせない.
●人工弁狭窄の診断では,弁葉の運動や性状の観察が困難な場合があり,むしろドプラ心エコー法による圧較差の計測が有用である.

その他の循環器疾患の診断と治療への応用

肥大型心筋症・拡張型心筋症の診断と評価

著者: 永田正毅

ページ範囲:P.2156 - P.2159

ポイント
●1995年にWHO/ISFCは心筋症の定義を変えた.これに対しての日本の対応は決まっていない.
●拡張型心筋症は左室や右室の拡大と収縮力の低下を特徴とする.肥大型心筋症は,心室壁厚の不均一肥大があり,左室腔は正常か狭小化する.ほかに拘束型心筋症と,今回新しく催不整脈性右室心筋症(arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy)が加わった.

急性心膜炎・心タンポナーデと収縮性心膜炎

著者: 田畑智継 ,   大木崇

ページ範囲:P.2160 - P.2163

ポイント
●急性心膜炎の診断は,心エコー法による少量の心膜液貯留の検出のみでなく,特徴的臨床所見や炎症反応を参考にする.
●心タンポナーデでは,心膜液の急激あるいは大量の貯留により,心膜腔内圧が上昇して心室充満障害をきたし,右室の拡張期虚脱,奇脈現象,心室中隔・左室後壁の平行運動がみられる.
●収縮性心膜炎は,硬化した心膜により心室充満が障害され,心室内圧曲線は拡張期dipand plateau所見を示す.Mモード法の心室中隔あるいはパルスドプラ法の房室弁口および静脈血流速波形は,これに対応した特徴的パターンを示す.

解離性大動脈瘤

著者: 許俊鋭 ,   松村誠 ,   尾本良三

ページ範囲:P.2164 - P.2167

ポイント
●Stanford A型の急性大動脈解離は緊急手術が必要である.
●急性期の診断は,経食道心エコー図を含む心エコー図検査が最有力である.
●心エコー図検査では心嚢水貯留,大動脈逆流,大動脈弁輪郭大,上行大動脈の解離所見(intimal flap),あるいは頸動脈・大腿動脈・腹部大動脈の解離所見をチェックする.
●上行大動脈上部は,経食道心エコー図では観察不能なecho blind areaとなっている.
●新しい大動脈解離に対する超音波診断法として,心腔内エコー(intracardiac ultra-sound:ICUS)が臨床に導入された.

成人の先天性心疾患

著者: 天野恵子

ページ範囲:P.2168 - P.2171

ポイント
●成人の先天性心疾患症例では,心房中隔欠損,心室中隔欠損,動脈管開存,肺動脈弁狭窄,ファロー四徴,大動脈・大動脈弁異常の6大疾患が約7〜8割を占める.
●診断にあたっては,常に複数の病変を合併する可能性があることを念頭に置いて,まず区分診断法(segmental approach)を施行し,心・血管構築の決定を行う.
●続いて,弁病変(狭窄弁,逆流弁)の有無の観察,短絡部位の同定,圧較差,肺動脈圧,短絡量の算出を行い,最後に収縮能・拡張能の評価を行う.

心臓腫瘍

著者: 筒井洋 ,   宮武邦夫

ページ範囲:P.2172 - P.2174

ポイント
●断層心エコー図法で心腔内に腫瘤を確認した場合,まず腫瘤表面の性状,内部エコー,付着部,可動性を観察する.
●腫瘤の観察にとどまらず周辺組織,心嚢水や心外膜肥厚の有無を観察し,超音波ドプラ法により血行動態の評価も行う.
●経胸壁心エコーの後,経食道エコー法,CT,MRIなどを施行し,周辺臓器を含めたより詳細な観察を行う.
●原発性心臓腫瘍の8割は良性で,組織型では粘液腫が最も多い.

脳梗塞と血栓・動脈硬化

著者: 友近康明 ,   田中伸明 ,   松崎益徳

ページ範囲:P.2175 - P.2180

ポイント
●左房・左心耳内の血栓の診断には経食道心エコー法が有用である.
●モヤモヤエコーは血液のうっ滞を示し,易血栓形成状態にあることを示唆する所見である.
●心筋梗塞や拡張型心筋症例など左室機能が低下している場合は,左室内血栓の有無も検索すべきである.
●胸部大動脈粥状病変の診断には経食道心エコー法が有用である.

鼎談

心エコー図の進歩と効果的な使い方

著者: 吉川純一 ,   別府慎太郎 ,   山口徹

ページ範囲:P.2193 - P.2202

 山口(司会)今日はお忙しいところをお集まりいだたきましてありがとうございます.
 心エコー図は,Mモードの時代からみると現在では非常に進歩し,今やどこの病院,病棟でも,時には外来でも常備されていて,まさに現代の聴診器ともいえる普及ぶりです.今日は,大ベテランでかつ第一線で活躍されているお二人の先生に現時点での心エコー図の可能性について,お伺いしたいと思います.

理解のための33題

ページ範囲:P.2183 - P.2189

カラーグラフ 塗抹標本をよく見よう・11

白血病(1)

著者: 久保西一郎 ,   藤田智代 ,   森澤美恵 ,   浜田恭子 ,   高橋功 ,   三好勇夫

ページ範囲:P.2211 - P.2215

急性リンパ性白血病
 図1は急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia:ALL)の末梢血塗抹標本である.小型で,細胞質の乏しい均一なリンパ芽球が多数出現している.FAB分類でL1と分類される症例である.標本を観察していると,ALL細胞に混じって,図2で示すような壊れた細胞(図中↓)が認められた.これらは第9回の連載でも紹介したが,グンプレヒトの核影(Gumprecht shadow)と呼ばれるもので,塗抹標本を作成するときに壊れた白血病細胞の核残存物である.特にリンパ増殖性疾患の際によく認められる.
 この塗抹標本の観察を続けていると,図3に示す形態をした核影が認められた.Gumprecht核影にはバスケット細胞(basket cell)という名もついているが,なるほど図3で示した核影はどこか果物かごに似ている.Basket cellという名はこのような観察から由来したのではないだろうか,などと思いながら写真を撮った次第である.

グラフ 高速CTによるイメージング・10

脳血管病変における三次元CT血管像(3D-CT)

著者: 小倉祐子 ,   片田和廣 ,   加藤良一 ,   古賀佑彦 ,   佐野公俊 ,   加藤庸子 ,   神野哲夫 ,   井田義宏 ,   石黒雅伸 ,   片方明男 ,   岩瀬秋吉

ページ範囲:P.2217 - P.2223

 頭蓋内血管は複雑に走行し,脳血管造影などの投影像ではどの方向から観察しても血管同士の重なりが避けられず,血管の全体像の把握にはステレオ視を駆使するなどの少なからぬ経験と知識が要求される.一方,三次元CT(以下,3D-CT)は,CTのボリュームデータを用いて立体表示する手法で,これを血管像に応用した三次元CT血管像(three-dimensional CT angiography:以下,3D-CTA)によれば,特殊な訓練を受けていない者でも複雑な血管像を容易に立体把握することが可能である.
 脳血管病変における3D-CTAの応用は,以前よりthin sliceの軸位断像を数十枚にわたり撮影することで試みられていた1).近年ではヘリカルスキャンCT(以下,HES-CT)の開発により造影剤の有効利用と高い連続性が可能となったため,より簡便で良好な3D-CTAが得られるようになってきた2,3).さらに現在,コンピュータ計算処理能力の向上により,得られた三次元データの後処理は格段に高度化・高速化し,3D-CTAの臨床応用は今や実用化されつつある.本稿では,HES-CTを用いた脳血管領域,主に脳動脈瘤における3D-CTAにつき,代表的症例を呈示しながら述べる.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2205 - P.2210

Drug Information 副作用情報・8

薬剤性ショック(5)—心室頻拍;torsades de pointes

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.2225 - P.2227

 薬剤性ショック(4)で,過量中毒型ショックを起こす薬剤としてあげたもの1)のほとんどは,条件によっては,薬剤性の不整脈(多くはQT延長からtorsades de pointes(Tdp)型心室頻拍)を起こし,突然死の原因になり得る.ジソピラミド(リスモダン®,ノルペース®)やプロカインアミドなどの抗不整脈剤,フェノチアジン系,ブチロフェノン系の抗精神病用薬,ドンペリドン(ナウゼリン®)などの制吐薬だが,他にも種々の薬剤によって薬剤性の不整脈が生じる.これらの薬剤は,本誌9月号1)で記したように,化学構造上も作用機序上も共通点を有する.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・19

サレルノの医学校

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.2228 - P.2229

 ヒポクラテス医学を継承し発展させたガレノスは,西暦200年にローマで死んだ.やがてイスラム帝国がスペインまで勢力を伸ばし,8世紀から13世紀にかけて医学の主導権はアラブ医学者の手中にあった.アラブ医学者の中には,その学理の核心をガレノス医学におく者も多く,有名なペルシャ人のイブン・シナ(アビケンナ)が11世紀前半に書いた『カノン』(医学典範)も,疾病論や「自然力」思想などガレノス医学の影響が濃い.12世紀後半にスペインからエジプトに逃れたユダヤ人の哲学者マイモニデスも,ガレノス学派の医者であった.ガレノスのギリシヤ語原典の多くが欧州で焼失したこともあって,10世紀中頃からペルシャやエジプトのアラビア語医書のラテン語への再翻訳が行われた.その中心地は中部イタリア西岸のサレルノや北イタリアのボローニヤであった.
 ナポリの南東30マイルのサレルノの辺りでは,ガレノスの死後もギリシヤ語が話されていた.サレルノの町はティレーニア海に臨み,背後に高い山が連なる温暖な町で,帝政ローマ時代から保養地として知られ,529年にモンテ・カシノの山上に聖ベネディクトゥスが教団を開き,7世紀末には僧院ができ,9世紀には病院も建てられた.これと並行して成立したサレルノ医学校は,ナポリやボローニヤの医学校と同じく,僧院から独立した俗人学校で,やがて12世紀にはボローニヤ医学校,モンペリエ医学校と並ぶ医学教育の中心となった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?