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雑誌目次

雑誌文献

medicina33巻12号

1996年11月発行

雑誌目次

循環器疾患治療薬 ジギタリス(強心薬)

ジゴキシン(サンド,山之内)=ジゴシン(中外)/ラニラピッド(ペーリンガー・マンハイム—山之内)

著者: 田村勤

ページ範囲:P.11 - P.13

 血管拡張薬,特にACE阻害薬の短期的ならびに長期的有効性が示されてからは,うっ血性心不全治療薬としてのジギタリスの地位は低下している.さらに,ジギタリスには中毒という問題が常につきまとい,使用しづらい薬剤という印象が強い.しかし,ジギタリスの薬物動態を理解して使用すれば,ジギタリスは現在でもうっ血性心不全に対して有用な薬剤である.これまで種々のジギタリス製剤が用いられてきたが,その薬物動態が明らかになるにつれ,現在では主としてジゴキシン(ジゴキシン®,ジゴシン®)とメチルジゴキシン(ラニラピッド®)が使用され,ジギトキシンやデスラノシドなどはあまり用いられなくなってきている.

カテコールアミン系(強心薬)

イノバン(協和醗酵)

著者: 相川丞 ,   山口徹

ページ範囲:P.15 - P.16

●カテコールアミンに共通する強心作用機序
 カテコールアミンは,心筋細胞膜上のβ1受容体に結合し,細胞膜のアデニレートシクラーゼを活性化させる.この活性化によりATPよりcAMPが産生され,cAMPdependent protein kinase(Aキナーゼ)が活性化する.Aキナーゼは細胞膜のCaチャネルを開口し,細胞質内にCaが流入,筋小胞体からもCaが放出され,細胞質内で増加したCaが収縮蛋白と結合して心筋収縮が起こる.また,Aキナーゼは筋小胞体のphospholambanに作用し,細胞質内のCaを筋小胞体に取り込み,次の放出にそなえる(図).

ドブトレックス(塩野義)

著者: 相川丞 ,   山口徹

ページ範囲:P.17 - P.17

臨床薬理
●作用機序:ドブタミン(ドブトレックス®)は合成カテコールアミンで,強力なβ1受容体刺激作用をもち,心筋細胞のβ1受容体に作用して心筋収縮力を増加させる.また,弱いβ2受容体刺激作用とα受容体刺激作用をもつとされている(表1,15ページ)が,筆者らの検討によれば,末梢血管に対して治療濃度域においてα遮断作用を示すことが判明した1).したがって,β2受容体刺激作用とα受容体遮断作用により末梢血管を拡張させるため,血圧上昇作用は弱く,左室拡張末期圧と肺動脈圧を低下させる.交感神経末端からのノルエピネフリン遊離作用は認めない.
●血中濃度モニタリング:半減期が短く必要ない.血行動態のモニタリングから投与量を決定する.

ノルアドレナリン(三共)

著者: 相川丞 ,   山口徹

ページ範囲:P.18 - P.18

臨床薬理
●作用機序:ノルエピネフリン(ノルアドレナリン®)は内因性カテコールアミンで,強力なα受容体刺激作用とβ1受容体刺激作用をもっている.心筋細胞のβ1受容体に作用して心筋収縮力を増加させ,末梢血管のα受容体に作用して強力な血管収縮作用を示す.本剤はイノバン®,ドブトレックス®がもつβ2受容体刺激作用をもたないため,血圧の上昇作用は強力である(表1,15ページ)が,心筋酸素消費量を増加させる.
●血中濃度モニタリング:半減期が短く必要ない.血圧,心拍数の変動に注意して投与量を決定する.

ボスミン(第一)

著者: 相川丞 ,   山口徹

ページ範囲:P.19 - P.19

臨床薬理
●作用機序:エピネフリン(ボスミン®)は内因性のカテコールアミンで,ノルアドレナリン®同様強力なα受容体刺激作用とβ1受容体刺激作用をもっている.ノルアドレナリン®と異なる点は,β2受容体刺激作用をもつことである(表1,15ページ).ノルアドレナリン®同様,心筋細胞のβ1受容体に作用して心筋収縮力を増加させるが,末梢血管のα受容体を介して血管を収縮させるため,血圧を上昇させ,心筋酸素消費量を増加させる.
●血中濃度モニタリング:半減期が短く必要ない.血圧,心拍数の変動に注意して投与量を決定する.

カルグート(田辺)

著者: 相川丞 ,   山口徹

ページ範囲:P.20 - P.20

臨床薬理
●作用機序:デノパミン(カルグート®)はその化学構造にカテコール核をもたないため,カテコールアミンには分類されないが,β1受容体刺激薬という点で他のカテコールアミンと共通である.ただし,β1受容体の部分活性薬であるため心拍数増加が起こりにくく,β受容体のdown regulationを起こしにくいという利点がある.本剤は,心筋細胞のβ1受容体に作用して心筋収縮力を増加させ,冠動脈に対してはβ1受容体刺激作用,末梢血管に対してはα受容体遮断作用により血管拡張作用を示す1)ため,心不全治療においては理にかなった薬剤で,国内で開発されたものである.
●血中濃度モニタリング:ジギタリスと異なり治療濃度域が広いため,血中濃度の測定は必要ない.

ホスホジエステラーゼ阻害薬(強心薬)

アムコラル(明治製菓)=カルトニック(山之内)

著者: 相川丞 ,   山口徹

ページ範囲:P.21 - P.22

臨床薬理
●作用機序:アムリノンは,cAMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼIIIを阻害して,細胞質内のcAMP濃度を増加させることによりAキナーゼを活性化して,細胞質内のCa濃度を増加させ心筋収縮力を増加させる.心筋細胞におけるcAMP以降の細胞内情報伝達系はカテコールアミンと同様であるが,β1受容体を介さないため,心筋細胞のβ受容体のdown regulationは起こらない(図,15ページ).また,血管平滑筋細胞のホスホジエステラーゼIIIを阻害して,cAMPの増加により血管拡張作用を示す.●血中濃度モニタリング:治療血中濃度域は1.0〜4.0μg/mlであるが,5〜15μg/kg/minの維持量投与でこの血中濃度域に入るため,重篤な肝腎障害を伴わないかぎり血中濃度の測定は必要ない.血圧,心拍出量など血行動態のモニタリングから投与量を決定する.

硝酸薬(狭心症治療薬・心不全治療薬)

ニトロールR(エーザイ)=フランドル(トーアエイヨー)

著者: 小早川直 ,   百村伸一

ページ範囲:P.23 - P.24

 臨床薬理
 ●作用機序:硝酸薬は血管を弛緩させる.その機序として,分子構造中のNO2基が血管平滑筋細胞内でNO(EDRF)となり,guanylate cyclaseを活性化し,cyclic GMPを増加させ,G kinaseの活性化をもたらして細胞内Ca濃度を低下させる経路が想定されている.静脈系を拡張し,静脈還流量を減少させ,100μm以上の比較的太い冠動脈を拡張させることで抗狭心症作用をもたらす.また,うっ血性心不全の状態においては静脈還流を減少させ,心室充満圧を低下させるが,心迫出量はむしろ増加し,肺うっ血を寛解するなど抗心不全作用を示す.

ミオコールスプレー(トーアエイヨー)

著者: 小早川直 ,   百村伸一

ページ範囲:P.25 - P.26

臨床薬理
●作用機序:ニトロールR®の項を参照.
●吸収・分布・代謝・排泄:舌下投与されたニトログリセリンは粘膜から吸収され,1分後から血漿中に出現する.舌下粘膜からの吸収であるため,肝での初回通過効果を受けない.代謝は主に肝臓で行われ,代謝産物は尿中,呼気中に排泄される.最高血漿中濃度到達時間(Tmax)は3.4分,消失半減期は2.7分であるが,作用持続時間は噴霧後約30分である.

ニトロペン(日本化薬)

著者: 小早川直 ,   百村伸一

ページ範囲:P.27 - P.27

臨床薬理
●作用機序:ニトロールR®の項を参照.
●吸収・分布・代謝・排泄:舌下投与されたニトログリセリンは,粘膜から吸収され全身循環に入り,1分後から血漿中に出現する.舌下粘膜からの吸収であるため,肝での初回通過効果を受けない.代謝は主に肝臓で行われ,代謝産物は尿中,呼気中に排泄される.最高血漿中濃度到達時間(Tmax)は4分,消失半減期は3.8分,作用持続時間は舌下後約1時間である.

ニトロダームTTS(チバガイギー)

著者: 小早川直 ,   百村伸一

ページ範囲:P.29 - P.29

臨床薬理
●作用機序:ニトロールR®の項を参照.
●吸収・分布・代謝・排泄:本剤はニトログリセリン25mgを含有する貼付剤で,ヒトの皮膚に24時間貼付したとき,約5mgを放出する.放出制御膜によって,皮膚の損傷など透過性が高い場合にも,吸収速度が一定となるように設計されている.皮膚から吸収されたニトログリセリンは,肝臓での初回通過効果を受けず全身循環に入り,貼付1時間後から24時間後に除去するまで安定した血中濃度を保つ.除去後はほぼ1時間以内に血中から消失する.

ミリスロール(日本化薬)

著者: 小早川直 ,   百村伸一

ページ範囲:P.30 - P.31

臨床薬理
●作用機序:ニトログリセリンの作用機序については,同じ硝酸薬のISDN(ニトロールR®)の項を参照.
●吸収・分布・代謝・排泄:代謝は主に肝臓で速やかに行われ,蓄積性はない(半減期は約5分).代謝産物はほぼ24時間以内に尿中,呼気中に排泄される.点滴静注に伴い,速やかに(5分後に定常状態に達する)作用がみられる.

カルシウム拮抗薬(狭心症治療薬・降圧薬・不整脈治療薬・心不全治療薬)

アダラート(バイエル)

著者: 高沢謙二

ページ範囲:P.32 - P.33

 本剤は降圧作用にすぐれ,血管攣縮性狭心症にも確実な効果を発揮する.しかしながら,急激な効果が反射性の交感神経緊張を引き起こし虚血性心疾患に不利に働くこともあり,緊急性と副作用の発現に十分配慮して使用する必要がある.

ペルジピン(山之内)

著者: 高沢謙二

ページ範囲:P.34 - P.34

 本剤はアダラート®と同じジヒドロピリジン誘導体であるが,マイルドな降圧を示し,脳血流増加作用もあることより,高齢者の治療薬として有用である.

ワソラン(エーザイ)

著者: 高沢謙二

ページ範囲:P.35 - P.35

 本剤は,海外では降圧薬としても使用されているが日本での適応はない.降圧作用はニフェジピンに比べて弱いが,心筋収縮および刺激伝導系抑制効果は強い.

ヘルベツサー(田辺)

著者: 高沢謙二

ページ範囲:P.37 - P.38

 本剤の降圧作用は比較的緩徐であり,アダラート®に比べ反射性交感神経緊張を起こすことも少ないが,徐脈や房室ブロックをきたしやすい.β遮断薬との併用は注意が必要であり,併用するときには内因性交感神経刺激作用(ISA)を有するβ遮断薬を選択すべきである.

ノルバスク(ファイザー)

著者: 高沢謙二

ページ範囲:P.39 - P.40

 本剤は第三世代のCa拮抗薬と呼ばれ,血管拡張性の副作用をなくし服薬コンプライアンスの向上を目指して開発されたものである.ニフェジピンに比べ,動悸,顔面紅潮などの血管拡張性の副作用が少なく,投与後の血中濃度の上昇が緩やかで長時間安定した薬物濃度を維持する.一方,不安定狭心症のように速やかな効果発現を期待するときには用いられないことを銘記しておく必要がある.

β遮断薬(降圧薬・狭心症治療薬・不整脈治療薬)

インデラル(住友,ゼネカ)

著者: 横田慶之

ページ範囲:P.41 - P.43

 現在β受容体はβ1,β2,β3の3つのサブタイプに分類されており,β1受容体の刺激は心機能促進,腸平滑筋弛緩,脂質分解促進,レニン分泌促進に働き,β2受容体の刺激は気管支・血管平滑筋の弛緩,骨格筋収縮促進,インスリン分泌促進に働く.また,シナプス前β2受容体の刺激はシナプスからのノルエピネフィリン分泌を促進させる.ただ,これらのサブタイプの局在は臓器特異的なものではなく,心臓にもβ2受容体が存在しており,効果器への作用の違いはβ1,β2受容体の分布率の差に基づいている.従来よりβ遮断薬の分類としてPrichardの分類1)がよく用いられている.すなわち,β1,β2受容体の両者を非選択的に遮断するものをⅠ類,β1選択性のものをⅡ類,α遮断作用を併せもつものをⅢ類とし,これら3類を内因性交感神経系刺激作用(ISA)と膜安定化作用(MSA)の有無により1群(ISA・MSA),2群(ISA・MSA),3群(ISA・MSA),4群(ISA・MSA)とする分類である.

ミケラン(大塚)

著者: 横田慶之

ページ範囲:P.44 - P.45

 β遮断薬には,単にβ受容体に結合してβ受容体を遮断するだけではなく,β受容体の効果発現部位に刺激を与えて交感神経刺激作用を示す,すなわち内因性交感神経刺激作用(ISA)を有するものがある.ISAを有するβ遮断薬はβ遮断作用による過度な心機能抑制を起こしにくく,末梢循環障害や気管支喘息の誘発,代謝への影響が少ない.
 ミケラン®(塩酸カルテオロール)は本邦にて開発された,ISAを有し,膜安化作用のない非選択性β遮断薬であり,Prichard分類1)のI類,第3群に属する.

ロプレソール(チバガイギー)

著者: 横田慶之

ページ範囲:P.46 - P.47

 非選択性のβ遮断薬はβ1受容体のみではなくβ2受容体も遮断する結果,気管支平滑筋や血管平滑筋の収縮や糖・脂質代謝障害などの悪影響をもたらす可能性がある.このため,末梢のβ2受容体に影響を与えないβ遮断薬が望ましいと考えられてきた.β1選択性β遮断薬はβ2受容体遮断の程度に比しβ1受容体の遮断が強いため,β2受容体遮断に伴う副作用が少ないものと考えられる.
 ロプレソール®(酒石酸メトプロロール)は,内因性交感神経刺激作用や膜安定化作用のないβ1選択性の強いβ遮断薬であり,Prichard分類1)のII類,4群に属する.

テノーミン(住友,ゼネカ)

著者: 横田慶之

ページ範囲:P.48 - P.49

 テノーミン®(アテノロール)は内因性交感神経賦活作用と膜安定化作用のいずれも有さないβ1選択性β遮断薬であり,ロプレソール®(チバガイギー),セロケン®(藤沢)と同じくPrichad分類1)のII類,4群に属する.本剤は,ロプレソール®,セロケン®とは異なり極めて親水性の高いβ遮断薬であり,血中濃度半減期が長く,血液—脳関門の移行が少ない.このことは本剤投与にても,β2遮断作用と中枢神経抑制作用による副作用がともに少なく,しかも比較的低用量での1日1回投与が可能であることを意味している.

アルマール(住友)

著者: 横田慶之

ページ範囲:P.50 - P.51

 β遮断薬投与時には代償性にα作用が亢進し,降圧作用を減弱させたり,狭心症状の増悪などの副作用をきたすことがある.ゆえにβ遮断薬の循環調節作用にα遮断作用が加われば,その有用性はさらに増すものと期待される.また,α遮断作用は代謝系,特にβ遮断薬による脂質代謝の悪影響を相殺するメリットも期待できる.
 アルマール®(塩酸アロチノロール)は本邦で開発された,α1遮断作用を有し,内因性交感神経遮断作用と膜安定化作用のない非選択性β遮断薬であり,Prichard分類1)III類,4群に属する.

その他(狭心症治療薬)

シグマート(中外)

著者: 小早川直 ,   百村伸一

ページ範囲:P.52 - P.52

臨床薬理
●作用機序:ニコランジルは,硝酸基を有するニコチン酸アミド誘導体であり,硝酸薬としての作用機序に加えてKチャネル開口薬の機序をもつ.本剤は血管平滑筋細胞膜のATP感受性Kチャネルを開き,膜電位を過分極にして電位依存性Caチャネルを閉じることで細胞内Ca濃度が低下し,血管が弛緩する.前者の作用は主として心外膜側の太い冠動脈を拡張させ,後者の作用は細い冠動脈を拡張させると考えられている.
●吸収・分布・代謝・排泄:ラット経口投与では血漿中濃度は30分後に最高となり,半減期は1.35時間.代謝物は24時間までに尿中に68%,胆汁中に11%,呼気中に7%排泄される.

α遮断薬(降圧薬・心不全治療薬)

カルデナリン(ファイザー)

著者: 高橋克敏 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.53 - P.53

臨床薬理
●作用機序:末梢血管に存在するα1受容体(シナプス後α受容体)を選択的に遮断することにより,末梢血管を拡張させ,総末梢血管抵抗を低下させる結果として降圧作用を示す.
●血中濃度モニタリング:不要.

不整脈治療薬

アミサリン(第一)

著者: 副島京子 ,   小川聡

ページ範囲:P.54 - P.55

臨床薬理
●作用機序:Vaughan Williams分類のクラスIa群のNaチャネルブロッカーである.I群抗不整脈薬は,Naチャネルを遮断することにより心筋内の興奮伝導を抑制する.薬剤とチャネルとの結合解離速度はチャネルの状態により修飾される(modulated channel theory).プロカインアミドはチャネルとの解離速度が遅く,拡張期にチャネルから十分に解離しない.したがって,薬物と結合するチャネルの数は興奮回数に依存して増えるため,ブロックの程度も増加する(use-dependentblock).つまり,活動電位第0相の立ち上がり(Vmax)をuse-dependentに遅延させる.心房,心室,副伝導路の活動電位持続時間の延長作用も有し,不応期を延長する.自動能の抑制作用も有する.プロカインアミドは,同じIa群のキニジンやジソピラミドに比較して抗コリン作用が弱く,QT延長の程度も少ない.交感神経抑制作用を有するがその機序は不明である.体表面心電図ではPR,QRS,QTともに延長する.

リスモダン(ヘキスト・マリオン・ルセル—中外)

著者: 副島京子 ,   小川聡

ページ範囲:P.56 - P.57

臨床薬理
●作用機序:前述したプロカインアミドと同様にIa群に含まれる.INaをブロックし,心房と心室の伝導を抑制する.活性化Naチャネルとの親和性が高くuse-dependencyを示す.INaブロックに加えてIk,IK1,Ito,ICaなどのブロックにより活動電位持続時間が延長すると考えられている.心拍数は洞機能不全のある症例では減少する.器質的心疾患のない症例では,抗コリン作用のためかえって心拍数が増加することもある.副伝導路に対しては順伝導の不応期を延長するが,逆伝導にはあまり影響のないことが多い.顕性WPW症候群(Wolff-Parkinsom-White symdrome)では本剤を内服するとデルタ波が消失するが,順行性房室回帰性頻拍(房室結節を順行性に伝導し,副伝導路を逆行性に伝導する)では無効のこともある.
 心臓のM2レセプターを介する抗コリン作用により,房室結節の伝導が亢進したり心拍数の増加を認めることがある.また,心外の腸管平滑筋のM4(便秘),唾液腺のM3レセプター(口渇)などを介する副作用も認める.

メキシチール(日本ベーリンガー)

著者: 副島京子 ,   小川聡

ページ範囲:P.58 - P.59

臨床薬理
●作用機序:Ib群はINaをブロックし,プルキンエ系,心室のVmaxを抑制する.正常組織よりも異常組織内の伝導を抑制する.また不活性化Naチャネルと結合するとされているが,その解離速度が早くAPDを短縮し,またuse-depen—dent blockを呈する.したがって,洞調律時には伝導抑制はほとんどなく,頻脈時にのみ作用を有するという好都合な特徴がある.
●吸収・分布・代謝・排泄:2〜4時間が血中濃度のピークである.吸収率はほぼ100%で,肝臓で約10%が代謝される(first pass effect).急性心筋梗塞では吸収が不完全で血中濃度のピークは4〜6時間である.肝臓で代謝される.クリアランスは肝硬変では著明に低下するが,心不全,腎不全ではほとんど正常である.また,血液透析にても除去されない.催奇形性は動物においては認めないがヒトのデータはない.乳汁中に分泌される.

キシロカイン(藤沢—アストラ)

著者: 副島京子 ,   小川聡

ページ範囲:P.60 - P.61

 静注専用の抗不整脈薬で,1950年以前は局所麻酔薬として使われていた.一般に,心室性不整脈に対する緊急治療の第一選択薬である.したがって,集中治療室,術中などに使用されることが多い.

タンボコール(エーザイ)

著者: 副島京子 ,   小川聡

ページ範囲:P.62 - P.63

 Ic群抗不整脈薬の催不整脈作用は,CAST(car-diac arrhythmia suppression trial)により知られるようになった1).このスタディは心筋梗塞後の患者の予後は心室性不整脈の抑制により減少するという仮説のもとに,220人の心筋梗塞後の症例を対象に行われたランダマイズドスタディである.その結果Ic群のフレカイニドあるいはエンカイニド内服群では,プラセボに比較して有意に突然死が増加した(9.5%vs3.6%).心室性不整脈が抑制されても生存率改善には結びつかず,かえって死亡率を悪化させることが明らかとなった.陰性変力作用による左室機能不全からの不整脈が生じやすくなった可能性が考えられる.この結果すっかり悪者になったIc群であるが,器質的心疾患のない症例に対してはその限りではない.また,発作性心房細動や上室性不整脈に対して使用された場合,催不整脈作用はほとんど認めないといわれている.

アンカロン(大正)

著者: 副島京子 ,   小川聡

ページ範囲:P.64 - P.65

臨床薬理
●作用機序:冠動脈拡張薬としてヨーロッパで開発された.アミオダロンはⅢ群作用に加えてINa阻害作用(Ⅰ群),β阻害作用(Ⅱ群),ICa阻害作用をも併せもつ.またthyroxineの心臓への作用を予防する.INa阻害は不活性化チャネルに特異的なため,活動電位持続時間の長い組織,脱分極している組織,心拍数の早いときに最も強く現れる.アミオダロンはIksを主にブロックする.これは他のⅢ群薬にはみられない特徴で,活動電位持続時間の延長を早い心拍数時にも備えていることはこのことによる可能性がある.
●吸収・分布・代謝・排泄:13〜103日と非常に長い半減期をもつ.血中濃度が上がるまでに数週間かかり,薬効評価には時間を要する.

利尿薬

フルイトラン(塩野義)

著者: 高橋克敏 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.66 - P.66

臨床薬理
●作用機序:本剤は標準的なサイアザイド系利尿薬である.腎尿細管の主にヘンレ係蹄上行脚皮質部および遠位尿細管の近位部におけるNa・C1の再吸収を抑制することによってNa・C1を排泄し,これに伴い水の排泄も増加させて利尿作用が生ずる.本剤による利尿作用の結果,初期には循環血液量の減少により,長期には末梢血管拡張と昇圧物質に対する末梢血管反応性低下などにより,降圧作用が生ずると考えられる.すなわち,初期には心拍出量が減少し,長期には全末梢血管抵抗が低下して降圧する.
●血中濃度モニタリング:不要.

ナトリックス(住友)

著者: 高橋克敏 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.67 - P.67

臨床薬理
●作用機序:本剤の利尿作用はサイアザイド系利尿薬に類似することから,サイアザイド類似利尿薬と分類されることがある.ただし,本剤は腎遠位尿細管におけるNa・水の再吸収抑制による利尿作用(サイアザイド系利尿薬に共通する)に加えて,血管平滑筋の収縮抑制作用を有するとされる.前者による循環血液量の減少と,後者による末梢血管抵抗の低下作用によって降圧作用が生ずると考えられる.
●血中濃度モニタリング:不要.

中枢性交感神経抑制薬(降圧薬)

アルドメット(萬有)

著者: 高橋克敏 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.68 - P.68

臨床薬理
●作用機序:本剤の代謝産物であるα-メチルノルエピネフリンが主として延髄孤束核のα2受容体を刺激するため,末梢交感神経系活性が低下する.この結果として,主に総末梢血管抵抗が減少して血圧低下が生ずる.心拍出量も軽度低下するが,これは心拍数の減少傾向と静脈系の拡張による前負荷軽減による.脳血流量および腎血流量は維持される.
●血中濃度モニタリング:不要.

カタプレス(日本ベーリンガー/田辺)

著者: 高橋克敏 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.69 - P.69

臨床薬理
●作用機序:本剤は主として延髄孤束核のα2受容体を刺激して,末梢交感神経の活性低下と迷走神経の緊張亢進を生ずる.この結果,血行動態が変化して血圧低下が生ずると考えられる.投与初期には,心拍数低下傾向により心拍出量が低下して末梢血管抵抗は不変あるいは軽度の増加をきたすが,長期投与時には,心拍出量は前値に回復し末梢血管抵抗は次第に低下する.また,レニン,アルドステロンの分泌低下も降圧作用に一部関与すると考えられる.
●血中濃度モニタリング:不要.

ACE阻害薬(降圧薬・心不全治療薬)

レニベース(萬有)

著者: 濱田希臣

ページ範囲:P.70 - P.72

臨床薬理
●作用機序:レニン—アンジオテンシン—アルドステロン(RAA)系は,腎臓と内分泌系の血圧調節因子のなかで最も重要なものであり,本系の活性物質であるアンジオテンシンIIの作用を介して,血圧と体液量・電解質の調節を行っている.ACE阻害薬は図1に示すように,アンジオテンシンII生成の抑制,ブラジキニンの増加により,血圧の下降,心不全の改善をもたらしている.さらに,腎外組織におけるRAA系もオートクリン,パラクリンとして,循環調節系の重要な役割をになっている.心臓組織内RA系の亢進は,冠動脈には収縮と血管構成細胞などの増殖を,心筋細胞に対しては収縮力の増強作用を,また間質系細胞の著しい増殖をもたらすことが知られている.したがって,この系の持続的な亢進は心筋の線維化と心筋障害をもたらし,心臓ポンプ機能を減弱させるとともに,不整脈の発生を増加させる.ACE阻害薬はこれらの異常を抑制することが知られている.
●血中濃度モニタリング:本剤10mg1回経口投与によるTmaxは,腎機能の正常な高血圧患者では4時間,慢性腎不全高血圧患者では9時間であり,しかも血中濃度曲線下面積の著しい増大が認められる.腎機能障害患者での使用には注意が必要である.

カプトリル(三共—ブリストル)

著者: 濱田希臣

ページ範囲:P.73 - P.74

臨床薬理
●作用機序:本剤は世界で初めてのACE阻害薬であり,本邦では1983年2月より発売されている.作用機序はレニベース®と同様である.
●血中濃度モニタリング:本剤は,活性体にSH基をもつ,プロドラッグではないACE阻害薬である.カプトリル錠とカプトリル-Rの健康成人のTmaxは1.13時間と1.25時間であり,レニベース®10mg内服時のTmax4.0時間に比し,著しく短い.

ノバロック(シューリング)=タナトリル(田辺)

著者: 濱田希臣

ページ範囲:P.75 - P.76

臨床薬理
●作用機序:両剤はACE阻害活性を有するイミダプリラートのエチルエステル体であり,経口投与後にイミダプリラートとなり作用を発現するプロドラッグである.作用機序は基本的にはレニベース®と同様である.
●血中濃度モニタリング:健康成人に本剤10mgを経口単回投与した後のイミダプリラートのTmaxは7.3時間である.

血管拡張薬

注射用プロスタンディン(小野)=リプル(ミドリ十字)

著者: 江藤浩之 ,   一色高明

ページ範囲:P.77 - P.78

臨床薬理
●作用機序:血管平滑筋,血小板でのアデニレートシクラーゼ(AC)活性刺激によるcyclicAMP上昇により,血管平滑筋での弛緩,血小板での凝集抑制作用を発揮するPGE1製剤である.このうちリプル®は,PGE1を脂肪乳剤化したことにより病巣部に薬剤を高濃度に集中でき,副作用が他のPGE1製剤よりも軽減されている.臨床的には,慢性動脈閉塞症に伴う阻血性潰瘍での疼痛や冷感などの改善が認められている.

オパルモン(小野)

著者: 江藤浩之 ,   一色高明

ページ範囲:P.79 - P.79

臨床薬理
●作用機序:経口投与が可能なPGE1誘導体である.作用機序は,前項の「注射用プロスタンディン=リプル」と同様である.経口投与のため,外来でのコントロールに適している.

ドルナー(東レ・メディカル—山之内)=プロサイリン(科研)

著者: 江藤浩之 ,   一色高明

ページ範囲:P.81 - P.81

臨床薬理
●作用機序:PGI2はもともとは血管内皮細胞から産生されている.本剤は血管平滑筋,血小板でアデニレートシクラーゼ活性を刺激し,細胞内cyclic AMP上昇,Ca2+流入抑制などにより血流量増加作用,抗血小板作用を発現する経口可能なPGI2製剤である.血管内皮細胞保護作用も示す.臨床的には慢性動脈閉塞症に伴う阻血性潰瘍での疼痛や冷感などの改善が認められている.
適応疾患と剤形・用量・用法
●適応疾患:慢性動脈閉塞症(閉塞性血栓血管炎〔バージャー病〕,閉塞性動脈硬化症)に伴う潰瘍,疼痛および冷感の改善.

カリクレイン(吉富—バイエル)

著者: 江藤浩之 ,   一色高明

ページ範囲:P.82 - P.82

臨床薬理
●作用機序:ドイツバイエル社が開発した動物膵から抽出精製された組織カリクレインで,酵素作用により血液中α2—グロブリン分画に属するキニノゲンを分解し,低分子の活性ペプチドであるキニン(ブラジキニン,カリジン)を遊離する.キニンは末梢血管拡張ならびに微小循環速度の亢進によって血流増加作用(マイルドな抗圧作用)があり,組織代謝を改善する.主な作用部位は脳や四肢の末梢血管で,特に脳の血管床に選択性が強い.

プレタール(大塚)

著者: 江藤浩之 ,   一色高明

ページ範囲:P.83 - P.83

臨床薬理
●作用機序:血小板内ホスポジエステラーゼ(PDE)III分画の特異的な阻害作用により,cyclicAMPを増加させ,血小板凝集阻害作用を発揮する.また,血管平滑筋でも,PDE IIIの特異的な阻害作用によって血管拡張を引き起こす.血小板の二次凝集のみならず一次凝集をも抑制し,アスピリン,チクロピジン,PGE1,PGI2よりも血小板凝集抑制は強い.

昇圧薬

ドプス(住友)

著者: 江藤浩之 ,   一色高明

ページ範囲:P.84 - P.84

臨床薬理
●作用機序:ノルエピネフリン前駆物質として,体内でアミノ酸脱炭酸酵素によりノルエピネフリンに変換されて作用を発現する.血液—脳関門を通過しやすく,低下した脳内ノルエピネフリンを回復させる.臨床的には,パーキンソン病の治療において,本剤はノルエピネリン系を活性化してすくみ足を改善させる.また,中枢性神経疾患に伴う起立性低血圧に効果を認めている.

抗凝固薬

ワーファリン(エーザイ)

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.85 - P.85

 1920年頃,アメリカで牛が出血して死亡する病気が蔓延し,その原因として牧草であるスイートクローバの中からdicoumarolが抽出され,その誘導体としてワルファリン(ワーファリン®)が合成された.ワルファリンは初め殺鼠剤として使用されていたが,次第に抗凝血薬として臨床応用されるにいたった.

ヘパリンナトリウム(清水—武田)

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.86 - P.86

 本剤は豚の腸粘膜から抽出されたもので,ワルファリンと並んで代表的な抗凝血薬である.ワルファリンは経口投与で緩徐に作用するのに対し,本剤は静注投与が主体で,速効性がある.ヘパリン製剤としては,ヘパリンナトリウムとヘパリンカルシウムがある.

抗血小板薬

小児用バファリン(ライオン)

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.87 - P.87

 アスピリンは抗炎症作用,鎮痛解熱作用とともにすぐれた抗血小板作用をもち,血栓症の予防薬として最も古くから詳しく検討され,その効果が確認されている.

ペルサンチン(日本ベーリンガー)

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.88 - P.88

 本剤は,虚血性心疾患に対して冠血栓形成防止,冠動脈拡張を目的に,各種閉塞性動脈疾患や弁置換術後の症例に対して血栓・塞栓の予防に,ネフローゼ症候群では尿蛋白減少を目的に用いられている.

パナルジン(第一)

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.89 - P.89

 本剤は1973年,フランスで合成された経口抗血小板薬であり,アスピリン,シロスタゾールと並んで広く使用されている.

血栓溶解薬

アクチバシン(協和発酵)=グルトパ(三菱化成)/ハパーゼ(興和)

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.91 - P.92

 組織プラスミノーゲン活性化因子(tissue plasminogen activator:t-PA)はヒト組織に広く分布し,強力な血栓溶解作用を有している.1981年,Collenらがヒトt-PAの精製に成功し,1982年,米国Genentech社が遺伝子組換え法により,純度の高いヒトrecombinant tissue-type plasminogen activator(rt-PA:alteplase)の量産に成功した.本薬剤の急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法の有用性は全世界で証明され,1987年ニュージーランド,ドイツ,フランス,アメリカをはじめ欧米各国で臨床応用が認可され,日本でも1991年5月薬価基準に収載された.一方,ヒト正常細胞の細胞培養によるt-PA製剤(tisokinase)として,ハパーゼ®,プラスベータ®が1991年3月に薬価基準に収載されている.

ウロキナーゼ(ミドリ十字)

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.93 - P.93

 本剤は,血栓溶解薬として脳・末梢・肺・冠動脈などの血栓塞栓症に用いられている.健康人の尿より抽出したものと,ヒト正常腎細胞より組織培養したものがある.

消化器疾患治療薬 受容体拮抗薬(消化性潰瘍・胃炎治療薬)

タガメット(藤沢—スミスクライン)

著者: 福本四郎 ,   天野祐二

ページ範囲:P.96 - P.97

臨床薬理
●作用機序:本剤はヒスタミンの基本骨格であるイミダゾール環を有する薬剤で,胃酸を産生・分泌する胃壁細胞基底膜上にあるH2受容体に可逆的に結合し,胃粘膜局所の肥満細胞やエンテロクロマフィン様細胞で合成されたヒスタミンと競合することにより,ヒスタミン刺激を遮断することで酸分泌抑制効果を示す.その他,胃粘膜の血流増加作用,内因性プロスタグランジン・粘液糖蛋白の維持作用など効果は多岐にわたる.
●血中濃度モニタリング:高齢者腎不全症例ではモニタリングすることが望ましい.

ガスター(山之内)

著者: 福本四郎 ,   天野祐二

ページ範囲:P.99 - P.99

 タガメット®,ザンタック®と同様に,H2受容体拮抗薬として代表的な薬剤である.その特徴を中心に述べる.

ザンタック(グラクソ,三共)

著者: 福本四郎 ,   天野祐二

ページ範囲:P.100 - P.100

 タガメット®の項を参照されたい.本項では,本剤の特徴および他剤との差異を中心に述べる.

プロトンポンプ阻害薬

オメプラール(藤沢)

著者: 大井田正人 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.101 - P.102

臨床薬理
●作用機序:胃酸分泌の作用機序は,胃底腺の壁細胞に存在するガストリン受容体(CCK-B/Ga),ヒスタミン受容体(H2),ムスカリン受容体(M3)にそれぞれガストリン,ヒスタミン,アセチルコリンなどの酸分泌刺激物質が結合すると,細胞内の複雑な生化学反応が活性化される.これに引き続き,胃酸分泌機構の最終的段階でプロトンポンプとして働く酵素H,K—ATPaseが活性化され,その結果,細胞内の水素イオンと細胞外のカリウムイオンが交換されることにより胃内に酸(HCl)が分泌される.本剤は,血液中から壁細胞に取り込まれた後,酸性条件下で活性体(スルフェナミド)に変換する.活性体は胃酸分泌機構の最終的段階であるH,K—ATPaseのSH基と結合して,その酵素を阻害し酸分泌を抑制する.このため,プロトンポンプ阻害薬とも呼ばれ,その酸分泌抑制作用は他剤ではみられないほど強力である.
●血中濃度モニタリング:一般的には行われておらず,臨床的には必要はない.薬物の相互作用を考えるときは,一般的に対象薬の血中濃度測定を行う.

タケプロン(武田)

著者: 大井田正人 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.103 - P.103

臨床薬理
●作用機序:本剤はオメプラール®と同様に,胃酸分泌機構の最終的段階であるH,K—ATPaseの阻害作用を有するプロトンポンプ阻害薬である.詳細は前項(オメプラール®)を参照されたい.
●血中濃度モニタリング:一般的には行われていない.

酸中和薬(消化性潰瘍・胃炎治療薬)

マーロックス(山之内—ローヌ・ローラー)

著者: 宮原透

ページ範囲:P.104 - P.104

臨床薬理
●作用機序:本剤の懸濁内服用(顆粒タイプ)1g中の成分・分量は,乾燥水酸化アルミニウムゲル448mg(酸化アルミニウムとして224mg含有)と水酸化マグネシウム400mgである.その作用機序はアルミニウムとマグネシウムの含有から理解できるが,一つは胃内の中和・制酸作用である.服用後3分でpHは6.3前後に中和され,その持続時間が100分と報告されている.さらに,ラット実験潰瘍モデルにおいて用量依存的に胃粘膜損傷を抑制する.本剤投与後の内視鏡の観察では薬剤が胃粘膜に付着している.
●血中濃度モニタリング:一般臨床的には必要ではない.長期大量投与されている場合,血中マグネシウム,リン酸値を測定する.

潰瘍病巣保護薬(消化性潰瘍・胃炎治療薬)

アルサルミン(中外)

著者: 宮原透

ページ範囲:P.105 - P.105

臨床薬理
●作用機序:スクラルファートは,胃または十二指腸病変部を選択的に被覆保護することによって,結果的に粘膜抵抗性を高め,他方ではペプシンの基質蛋白と結合し,酸・ペプシンの攻撃を防ぐことによって,病変部の自然治癒を促進するものと考えられている.最近ではプロスタグランジン生成促進作用,EGF(epidermal growth factor,表皮細胞成長因子),FGF(fibroblast growth fac-tor,線維芽細胞成長因子)の効果増強作用などの報告もみられ,新たな作用も見いだされている.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要.

アルロイドG(共成—カイゲン)

著者: 宮原透

ページ範囲:P.107 - P.107

 臨床薬理
 ●作用機序:本剤は5%アルギン酸ナトリウム液剤であり,アルギン酸は昆布などに含まれる高分子電解質であり,このアルカリ塩はコロイド的性格をもち種々の薬理作用を有する.そのうち粘膜保護作用と止血作用は次の機序が確認されている.【粘膜保護作用】①粘膜被覆,②PD減少の抑制,③粘膜血流の増加,④胃粘膜ヘキソサミン量増加作用.【止血作用】①圧迫止血・血液拡散抑制,②血小板凝集・粘着,③フィブリン形成促進,④赤血球凝集,⑤線溶抑制.
 ●血中濃度モニタリング:アルギン酸ナトリウムは高分子で,吸収されないため必要はない.

その他の消化性潰瘍・胃炎治療薬

コランチル(塩野義)

著者: 早川滉

ページ範囲:P.108 - P.108

臨床薬理
●作用機序:【鎮痙作用】塩酸ジシクロベリンは,消化管の副交感神経末梢を遮断して平滑筋を弛緩させるアトロピン様作用と,平滑筋に直接に作用して弛緩させるパパベリン様作用との二重の鎮痙作用を有する.【制酸作用】酸化マグネシウムの制酸作用は速やかであり,他方,乾燥水酸化アルミニウムゲルの制酸作用は持続時間が長い.FUCHSの変法(in vitro)による制酸力試験で,本剤は0.1Nの塩酸溶液中で速やかに反応し,pH7.0〜8.0の高いpHまで急速に上昇する.以後は下降し,pH4付近を持続する.
●血中濃度モニタリング:本剤中の塩酸ジシクロベリンは,経口投与後速やかに吸収され,投与1〜2時間後に平均最高濃度を示す.主として尿中に排泄され,7日間連続経口投与時(健常成人)の尿中排泄率は79.5%である.

セルベックス(エーザイ)

著者: 早川滉

ページ範囲:P.109 - P.109

臨床薬理
●抗潰瘍作用:各種実験潰瘍(寒冷拘束ストレス,インドメタシン,アスピリン,レセルピン,酢酸,焼灼),各種実験胃粘膜病変(塩酸—アスピリン,エタノール,放射線)で,それぞれに強い抗潰瘍作用,胃粘膜病変改善作用が確認されている.さらに,活性酸素が関与していると考えられるCompound48/80,血小板活性化因子による胃粘膜障害を抑制する.
●作用機序:①胃粘液増加作用,②胃粘膜プロスタグランジン増加作用,③胃粘膜血流増加作用・改善作用,④胃粘膜保護作用,⑤胃粘膜増殖帯細胞の恒常性維持作用,⑥脂質過酸化抑制作用.

ムコスタ(大塚)

著者: 早川滉

ページ範囲:P.110 - P.110

臨床薬理
●抗潰瘍作用:各種実験潰瘍(水浸拘束ストレス,アスピリン,インドメタシン,ヒスタミン,セロトニン,幽門結紮,活性酸素が関与)および各種胃炎(タウロコール酸)に対して強い抗潰瘍作用を有し,実験胃炎の発生を抑制する.
●作用機序:①胃粘膜プロスタグランジン増加作用,②胃粘膜保護作用,③胃粘液増加作用,④胃粘膜血流量増加作用,⑤胃粘膜関門に対する作用,⑥胃アルカリ分泌亢進作用,⑦胃粘膜細胞回転賦活作用,⑧活性酸素に対する作用.

ドグマチール(藤沢)

著者: 早川滉

ページ範囲:P.111 - P.111

臨床薬理
●作用機序:胃・十二指腸潰瘍の場合,①焼灼潰瘍および酢酸潰瘍の実験で潰瘍を縮小させ,治癒促進効果を示す.②胃・十二指腸における血流を増加させる.また,視床下部後部電気刺激による胃粘膜血流の停滞ないし部分的虚血現象を抑制する.③胃および小腸の運動を亢進し,内容物の排出および通過を促進する.
 その他,強力な抗ドパミン作用,イミプラミン類似作用を有している.クロルプロマジンやハロペリドールが示す強い麻酔遷延作用は全く示さず,眠気・脱力感はない.精神分裂病,うつ病,うつ状態での適応も認められている.

消化管運動亢進薬・調律薬・鎮痙薬

プリンペラン(藤沢)

著者: 宮崎誠 ,   関口利和

ページ範囲:P.112 - P.113

臨床薬理
●作用機序:抗ドパミン作用を有する薬剤であり,血液—脳関門を通過する.延髄の第4脳室底に存在するchemoreceptor trigger zone(CTZ)に作用して,悪心・嘔吐を強く抑制する.また,消化管の迷走神経末端部に関与するドパミンレセプターを阻害し,アセチルコリン遊離促進作用を発現することから,下部食道括約筋(LES)圧の上昇,胃排出促進などを惹起する.
●血中濃度モニタリング:特に臨床上必要となることはない.

ナウゼリン(協和醗酵)

著者: 宮崎誠 ,   関口利和

ページ範囲:P.115 - P.116

臨床薬理
●作用機序:抗ドパミン作用を有するが,プリンペラン®と異なり血液—脳関門を通過しにくい.延髄の第4脳室底に存在するchemoreceptortrigger zone(CTZ)に選択的に作用して制吐作用を示す.末梢では,消化管の迷走神経末端部に関与するドパミンレセプターを阻害することで,アセチルコリンの遊離を増加させ,胃運動を亢進させる.また,胃前庭部—十二指腸協調運動を著明に促進し,胃排出遅延例では胃排出を促進し正常化させる.さらに,下部食道括約筋(LES)圧を上昇させることで,胃—食道逆流を防止する作用も有する.
●血中濃度モニタリング:特に臨床上必要となることはない.

アセナリン(ヤンセン—協和発酵)=リサモール(吉富)

著者: 宮崎誠 ,   関口利和

ページ範囲:P.117 - P.118

臨床薬理
●作用機序:消化管の輪状筋層と縦走筋層間に存在するアウエルバッハ神経叢の神経末端部に選択的に作用し,アセチルコリンの遊離を促進させる.その結果,上部消化管から下部消化管までの消化管運動を亢進させ,胃・十二指腸協調運動亢進作用,胃排出促進作用,下部食道括約筋(LES)圧上昇作用,腸内容物の輸送促進作用を示す.
●血中濃度モニタリング:特に臨床上必要となることはない.

セレキノン(田辺)

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.119 - P.120

臨床薬理
●作用機序:中枢を介さず,消化管平滑筋の受容体に直接作用し,食道から大腸にいたるまで広範囲の消化管運動の異常を,正常方向に調律すると考えられている.すなわち,亢進した消化管運動を抑制する一方,運動低下がみられれば逆に促進させるとされている.
●血中濃度モニタリング:臨床では行われない.

ブスコパン(日本ベーリンガー—田辺)

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.121 - P.122

臨床薬理
●作用機序:消化管をはじめとした腹部臓器の副交感神経節に働き,消化管運動の抑制,胃液分泌抑制,胆嚢収縮抑制などの作用を呈する.
●血中濃度モニタリング:臨床では不必要.

注射用グルカゴンG・ノボ(ノボノルディスク)

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.123 - P.124

 本薬剤は内分泌疾患の診断や,肝代謝機能の評価などにも用いられるが,本号の趣旨から,以下の適応に限定し述べることとする.

緩下剤

バルコーゼ(エーザイ)

著者: 永井孝三

ページ範囲:P.125 - P.125

 本剤は,糞便の“かさ(bulk)”を増加させる,いわゆる膨張性下剤であり,自然の排便に近く,腸管粘膜に炎症を起こさず,習慣性もないことから,慢性便秘症の治療に用いられる.

プルゼニド(サンド)

著者: 永井孝三

ページ範囲:P.126 - P.126

 最も多用されている下剤の一つだが,大腸刺激性下剤に属し,作用は強力だが習慣性を有し,大量投与により腸管粘膜に炎症を惹起し得るとされており,長期連用は避けるべきである.

アローゼン(科薬)

著者: 永井孝三

ページ範囲:P.127 - P.127

 センナ葉,センナ実および微量植物乾燥エキスを加えた生薬で,大腸刺激性下剤の一つである.

ラキソベロン(帝人)

著者: 小林清典

ページ範囲:P.129 - P.130

臨床薬理
●作用機序:本剤の主薬であるピコスルファートナトリウムは,胃・小腸では分解されず,大腸においてはじめて,大腸細菌叢由来の酵素(アリルスルファターゼ)の働きにより加水分解されて,活性型ジフェノール体となる.活性型ジフェノール体は,大腸の蠕動運動亢進作用および水分吸収阻害作用を示し,下剤としての作用を発揮する.
●体内動態と血中濃度モニタリング:経口的に投与された本剤は,大腸で活性型ジフェノール体となり,大部分は糞便とともに排泄される.また,一部は吸収され,肝臓でグルクロン酸抱合を受け,尿中または胆汁中に排泄される.なお,本剤の通常使用量(5〜15mg)での血中濃度は,いずれも測定限界値(0.5μg/ml)以下であり,検出することができないとされている.本剤は蓄積性もないことより,血中濃度をモニタリングする必要はない.

マグコロールP(堀井)

著者: 小林清典

ページ範囲:P.131 - P.131

臨床薬理
●作用機序:本剤は,マグネシウムの薬理作用にもとつく塩類下剤であり,体液に比べ高張である.マグネシウムは胃腸管よりの吸収が困難であるため,腸壁は半透膜として作用し,この塩類の内容物が体液と等張になるまで,水分は循環器系から腸管内に移行する.その結果,腸管内の水分量が著しく増加し,腸内容物が水溶化され容積が増大し,大腸運動を促進して排便にいたる.
●血中濃度モニタリング:本剤は血中にほとんど吸収されないので,血中濃度のモニタリングは特に必要としない.

新レシカルボン坐剤(京都薬品,ゼリア新薬)

著者: 小林清典

ページ範囲:P.132 - P.132

臨床薬理
●作用機序:本剤は,1個(2.6g)中に炭酸水素ナトリウム0.5g,無水リン酸二水素ナトリウム0.68gを含有し,添加物として軽質無水ケイ酸,大豆レシチンおよびハードファットを含む.本剤を肛門より直腸内に挿入することにより,直腸内で徐々に溶解し,微細球状態のCO2を発生する.このCO2により直腸粘膜が刺激され,また直腸が拡張することにより排便反射が誘発される.また,直腸の拡張刺激がS状結腸にも伝わり,大腸の蠕動運動が誘発されることにより,生理的に排便作用を発揮するように開発された便秘治療薬である.
●体内動態と血中濃度モニタリング:腸内に常在する無害な炭酸ガスを主体としており,人体に対して悪影響は少ない.血中濃度のモニタリングも必要ない.

ニフレック(ヘキスト・マリオン・ルセル)

著者: 小林清典

ページ範囲:P.133 - P.134

臨床薬理
●作用機序:本剤は,Davisら1)が考案したマクロゴール4000と各種電解質を含む特殊組成電解質液である.本剤は,経口摂取された後も腸管でほとんど吸収や分泌をうけない.大腸内視鏡検査や大腸手術時の前処置に本剤を用いることで,従来の前処置法と比較して,短時間にかつ確実に腸管内容物を排除することができる.実験動物(ラット,イヌ)を用いた基礎的検討でも,本剤の反復経口投与により水様便を排泄し,腸管内容物が有意に減少,排液も透明になることが観察され,明らかな腸管内洗浄効果が確認されている.
●体内動態と血中濃度モニタリング:本剤をラットに経口投与すると,主成分であるマクロゴール4000の大部分は吸収されず,糞中に排泄される.なお,一部は体内に取り込まれ,分解されず尿中に排泄される.ラットに本剤を経口投与した際のマクロゴール4000の血中濃度は,投与後2時間で最高値を示し,以後速やかに減少し,8時間後には測定限界以下になった.また本剤投与により,血清電解質バランスも大きく崩れなかった.ヒトへの投与においても,血清電解質バランスに大きな変動は認められず,マクロゴール4000の血中濃度も,大多数の症例で測定限界以下であった2).よって,血中濃度をモニタリングする必要性はない.

止痢薬・整腸薬

ロペミン(大日本)

著者: 桜井幸弘

ページ範囲:P.135 - P.136

臨床薬理
●作用機序:歴史的にも麻薬は強い止痢作用が知られており,その薬理作用の研究が進み,内因性オピオイドレセプターが明らかになった.オピオイドレセプターには少なくとも3つあることが確かめられている.塩酸ロペラミドはこのレセプターの1つに作用し,腸管運動の抑制を選択的に行い,かつ水分電解質の分泌を抑制し,吸収を促進し,強い止痢作用を現すとされている.コデインと同様でモルヒネとは異なり,中枢への取り込みはなく,多倖症をきたさない.また,消化管での作用は麻薬のような耐性がなく,いつまでも同じ量で有効である.消化管からの吸収は悪く,投与後4時間ほどで血中濃度はピークに達するという.また腸肝循環をするとされている.
●血中濃度モニタリング:血中濃度を測定する意義は少ない.

ビオフェルミンR(ビオフェルミン)

著者: 桜井幸弘

ページ範囲:P.137 - P.137

臨床薬理
●作用機序:大腸細菌叢を安定化することにより,細菌叢の乱れによる下痢・腹痛・腹満を軽減させる.in vitroでは乳酸菌は緑膿菌・ブドウ球菌などの増殖を乳酸などの産生により抑制するとされている.抗生物質投与による大腸細菌叢の変化は,糞便内の総細菌数は抗生物質投与後に109〜1010から104程度まで低下する.Streptococcus,Bacteroides,Lactobaccilusがその減少の原因である.当然ながら,抗生物質に耐性のこれらの細菌を投与すれば細菌叢の保持ができる.耐性乳酸菌と称するものは乳酸を生合成する菌類で,抗生物質に対する耐性を継代培養で獲得しており,必ずしもLactobaccilusではない.また,耐性は他の細菌に伝達されないことが確かめられている.

炎症性腸疾患治療薬

サラゾピリン(ミドリ十字)

著者: 野元健行 ,   牧山和也

ページ範囲:P.138 - P.139

臨床薬理
●作用機序1):サラゾスルファピリン(以下,SASP)は,スルファピリジン(以下,SP)と5—アミノサリチル酸(以下,5—ASA)のアゾ化合物である.経口投与法で約1/3は上部小腸から吸収され,残りは大腸内で腸内細菌によってSPと5—ASAに,分子量比で0.63:0.38の割合で分解される.SPは容易に吸収され,ほとんど肝臓でアセチル化(以下,Ac-SP)と水酸化,さらにグルクロン酸抱合を受けて尿中に排泄される.一方,5—ASAの大部分は便中に排泄されるが,約1/3は吸収されアセチル化を経て尿中に排泄される.SASPの有効成分は,潰瘍性大腸炎に対するSASP,SP,5—ASAの単独注腸法による比較試験の成績から5—ASAと考えられている.作用機序はまだ不明の点が多いが,①アラキドン酸代謝系の主にリポオキシゲナーゼ系代謝産物であるLTB4などの産生抑制,②活性酸素・フリーラジカルの産生抑制と消去,③サイトカイン(IL−1,IL−6,IL−8,TNF—αなど)の産生抑制,などが主な作用起点と考えられる2)

潰瘍性腸疾患治療薬

ペンタサ(日清製粉)

著者: 日比紀文

ページ範囲:P.140 - P.141

 潰瘍性大腸炎およびクローン病の薬物療法としてステロイドやサラゾスルファピリジン(SASP)が主として用いられている.しかし,SASPは,メサラジン(5-ASA)とキャリアであるスルファピリジン(SP)がアゾ結合した構造を有しており,服用後,大腸で腸内細菌のアゾリダクターゼによって5-ASAとSPに分かれる1).SASPの副作用は,SPが主な原因といわれている2)
 1977年,Azad Khanらにより5-ASAがSASPの活性本体であることが示された3)が,5-ASAを経口投与すると小腸上部で速やかに吸収され,病変部に有効量が到達しない.そこで,5-ASAをエチルセルロースで被膜した顆粒に,賦形剤を加え錠剤化し,小腸での吸収を抑え,かつ5-ASAの形で小腸および大腸に放出されるように工夫した経口放出調節製剤がペンタサ錠®である.

痔治療薬

強力ポステリザン(マルホ)

著者: 貞廣莊太郎

ページ範囲:P.143 - P.143

臨床薬理
●作用機序:局所感染防御作用,肉芽形成促進作用を有する大腸菌死菌浮遊液と,抗炎症作用を有するヒドロコルチゾンを含む.

サーカネッテン(日本新薬)

著者: 貞廣莊太郎

ページ範囲:P.144 - P.144

臨床薬理
●作用機序:消炎作用,毛細血管透過性抑制作用を有するパラフレボン(イオウを含む高分子ポリペプチド混合物)に,3種類の緩下剤(センナ,イオウ,酒石酸水素カリウム)を配合している.

プロクトセディル(ヘキスト・マリオン・ルセル)

著者: 貞廣莊太郎

ページ範囲:P.145 - P.145

臨床薬理
●作用機序:抗炎症作用のあるヒドロコルチゾン,抗生物質として硫酸フラジオマイシン,局所麻酔薬として塩酸ジブカイン,血管壁を強化するビタミンP様物質エスクロシドを含む.

膵疾患治療薬

フオイパン(小野)

著者: 河原弘規

ページ範囲:P.147 - P.147

臨床薬理
●作用機序:本剤はトリプシン,カリクレイン,プラスミン,トロンビン,エステラーゼに対して強い阻害作用を有する蛋白分解酵素阻害薬である.膵炎は,膵実質が膵酵素によって自己消化されて,壊死・脱落を起こすことによって発症する.本剤は,トリプシンの酵素活性を抑制することによって慢性膵炎の疼痛や炎症症状ならびにアミラーゼ値を改善する.
●血中濃度モニタリング:経口投与で速やかに吸収,代謝,排泄されるので,血中濃度モニタリングは不要である.

ミラクリッド(持田)

著者: 河原弘規

ページ範囲:P.148 - P.148

臨床薬理
●作用機序:急性膵炎の病態に関与する種々の膵酵素を広範囲に阻害し,これらの病態の重症化因子といわれている炎症性サイトカインの産生や,好中球エラスターゼの遊離,活性酸素の産生を抑制する.
●血中濃度モニタリング:投与後,最高血中濃度を示したのち速やかに排泄されるので,血中濃度モニタリングは不要である.

肝疾患治療薬

強力ネオミノファーゲンシー(ミノファーゲン)

著者: 井上和明

ページ範囲:P.151 - P.152

臨床薬理
●作用機序:強力ネオミノファーゲンシー®(Stronger Neo Minophagen C;SNMC)は,本邦で生薬として広く用いられる甘草の成分の一つであるグリチルリチンを主成分としている.グリチルリチンとは,トリペルエノイド系サポニンの一種であるグリチルリチン酸と二分子のグルクロン酸の抱合体である.SNMCを慢性肝炎患者に投与すると,ほぼ用量依存性にトランスアミナーゼを低下させることが広く認められている.その作用メカニズムは,βグルクロニダーゼにより生成されるグリチルリチン酸がステロイド代謝酵素と拮抗し,内因性のステロイドの作用を増強して抗炎症作用を増強するものと考えられてきたが,静脈内投与されたSNMCは,腸肝循環しながら肝に取り込まれ,その一部がグリチルレチン酸となるに過ぎない.今日考えられているSNMCのトランスアミナーゼを低下させる機序は,活性化マクロファージにおけるプロスタグランジンE2産生抑制やホスホリパーゼA2の作用阻害により,炎症性のケミカルメディエーターの産生を抑制することによる抗炎症作用と考えられている.
 SNMCのもっているもう一つの薬理作用は,内因性のインターフェロンγの産生を誘起することと,NK活性を増強して免疫応答を増強する免疫応答調節作用(biological responsemodifier;BRM)である.

モニラック(中外)

著者: 井上和明

ページ範囲:P.153 - P.154

臨床薬理
●作用機序:ラクツロース(モニラック®)は,ガラクトースとフルクトースがエーテル結合することにより,人工的に合成された二糖類である.人の消化管にはラクツロースを単糖類に分解する酵素が存在しないために,経口的に投与された本剤は消化や吸収を受けずに結腸へ到達する.本剤の作用機序は以下の3つに大別される.①水溶性であるので,結腸において水に溶けることにより浸透圧性緩下作用を発揮する.②結腸において一部が腸内細菌により分解を受けて,酢酸,プロピオン酸,酪酸,乳酸などの有機酸が産生されることにより,腸内のpHを低下させてアンモニアの腸管から血中への吸収を抑制する.実際に患者に本剤を投与すると,血中のpHは変化しないが便中のpHは低下する.こうしてできた血中と腸管との間のpHの勾配は,血中から腸管へのアンモニアの移行を促進し,同時に腸管中のアンモニアは非吸収性のNH4イオンに変化して腸管中にとどまり,血中に吸収されない.このようなアンモニアの移行は酸透析と呼ばれ,結腸はアンモニアの主要な産生臓器であるとともに主要排泄器官ともなり得る.さらに,本剤はアンモニア以外の毒性物質の腸管からの吸収も抑制するとの報告もある.③また,本剤の分解により産生されたこれらの有機酸は,腸管の蠕動運動を促進してアンモニアの排泄を促進する.

イントロンA(シェリング・プラウ—山之内)

著者: 高取正雄 ,   岩渕省吾

ページ範囲:P.155 - P.157

臨床薬理
●作用機序:本剤は白血球由来のインターフェロン(IFN)αの遺伝子組み換え型(α2b型)であり,抗腫瘍,抗ウイルス作用を目的として1981年に米国で開発された.肝疾患ではもっぱら抗ウイルス,免疫賦活作用が期待され,わが国では1989年にB型慢性肝炎,1992年にはC型慢性肝炎が効能追加されている.IFNはウイルスを直接不活化するのではなく,細胞の抗ウイルス作用を誘導しウイルス増殖を抑制する.IFNが受容体に結合すると,細胞内に2’−5’オリゴアデニールシンテターゼ(2-5AS),プロテインキナーゼ,ホスホジエステラーゼの3種類の酵素系が誘導される.2-5ASはウイルスのmRNAを分解し,ホスホ」ジエステラーゼは細胞内の2-5ASの濃度調節と同時にt-RNAの機能を失わせる.プロテインキナーゼは,ウイルス二重鎖RNAの存在下でウイルス蛋白の翻訳を抑制する.
●血中濃度モニタリング:抗ウイルス活性の指標としては,IFNの血中濃度よりも血中2-5 AS活性ないしウイルス量(HBV DNA,HCV RNAなど)が測定され,一般的には血中濃度測定の必要性はない.

胆石溶解薬

ウルソ(東京田辺)

著者: 松崎靖司

ページ範囲:P.159 - P.160

 ウルソデオキシコール酸(UDCA)は,本邦においては古くから“熊の胆”として癪の痛みに使用されてきた.つまり,胆石発作の治療薬として親しまれてきた.また,明治時代に本邦にてUDCAの構造決定がなされ,現在は胆石溶解療法や,胆汁うっ滞の治療薬として世界中で使用されている.UDCAとケノデオキシコール酸(CDCA)は,7位の水酸基部分の立体異性体である.

受容体拮抗型制吐薬

カイトリル(スミスクライン)

著者: 相澤信行

ページ範囲:P.161 - P.162

臨床薬理
●作用機序:抗悪性腫瘍薬治療で最も苦痛のある副作用は,吐気・嘔吐である.本剤が臨床に応用されたのは1992年頃からであるが,本剤が使用できるようになる前までは,大量の制吐薬を使用しても吐気・嘔吐を抑えるのは困難なことが多かった.本剤の出現によって,抗悪性腫瘍薬治療時の吐気・嘔吐はほとんど完全にコントロールできるようになってきた.
 吐気・嘔吐は,多くの場合,主にchemorece-ptor trigger zone(CTZ)に存在するドパミン受容体に対する刺激によって起こるが,抗悪性腫瘍薬を使用して起こる吐気・嘔吐は,このメカニズムとは異なっている.抗悪性腫瘍薬の投与により,主に小腸粘膜に存在する腸クロム親和性細胞が刺激されてセロトニンが放出される.放出されたセロトニンは,求心性腹部迷走神経末端にあるセロトニン受容体に結合し,その刺激が直接,あるいはCTZを介して嘔吐中枢に伝達され,吐気・嘔吐が起こる.

神経・筋疾患治療薬 抗めまい薬

メリスロン(エーザイ)

著者: 相原康孝

ページ範囲:P.164 - P.164

臨床薬理
●作用機序:本剤は,微小循環系,特に内耳の毛細血管前括約筋を弛緩し,内耳血管系の血流を増加するほか,内耳毛細血管の透過性を調整することにより,内リンパ水腫を除去する.また,内頸動脈の血液量を増加し,脳循環をも改善して,めまい,めまい感を消退させる.
●血中濃度モニタリング:不要.

ドラマミン(日本モンサント—大日本)

著者: 相原康孝

ページ範囲:P.165 - P.165

臨床薬理
●作用機序:本剤は迷路機能の亢進を抑制してめまい症状を軽快させるほか,嘔吐中枢にも抑制作用を示し,悪心・嘔吐を鎮める.
●血中濃度モニタリング:不要.

抗てんかん薬

デパケン(協和醗酵)

著者: 伊藤直樹

ページ範囲:P.166 - P.167

臨床薬理
●作用機序:まだ十分解明されていないが,バルプロ酸ナトリウム(VPA)は脳内の抑制系であるGABAニューロンの活動性を高め(脳内GABAの量も増加させる),また,フェニトインおよびカルバマゼピンと同様,Naイオンチャンネルの不活性化を延長させる(Naイオンに対する膜透過性の抑制)といわれている.
●吸収・分布・代謝・排泄:腸管からの吸収は迅速で,約1時間でピークに達し,生体内半減期は7〜10時間なので,1日2〜3回の投与が必要である.血清蛋白との結合率は93%と高く,血中濃度が75μg/mlで蛋白への結合は飽和する.通常の測定での血中濃度は蛋白と結合したものにfreeのものを加えた値であり,したがって75μg/ml以上では,freeのVPAの濃度が著明に増加するので注意が必要である(中枢性の効果および副作用はfreeのものによる).効果の判定および増量は定常状態に達してから行うが,その期間は2〜4日なので,3日ごとに増量できる.徐放剤は定常状態に達するまでの期間が7〜10日と長く,ゆっくり増量しなければならないが,1日2回の服薬でよく,血中濃度の変動が少ない.

テグレトール(チバガイギー)

著者: 伊藤直樹

ページ範囲:P.169 - P.169

臨床薬理
●作用機序:不明な点が多いが,フェニトインと同様,Naイオンチャンネルの不活性化を延長させ,また,シナプス膜へのCaイオンの流入を抑制するといわれている.代謝産物であるcarba-mazepine epoxideも抗てんかん作用を有する.
●吸収・分布・代謝・排泄:腸管からの吸収は遅く不定で,個人差があり,4〜8時間でピークに達する.血清蛋白との結合率は75%.半減期は服薬開始時には24時間と長いが,2〜3週後,自己酵素誘導が起こり,10〜20時間となる.定常状態に達するのに4〜6日かかる.

アレビアチン(大日本)

著者: 伊藤直樹

ページ範囲:P.170 - P.171

臨床薬理
●作用機序:治療量ではカルバマゼピンと同様,Naイオンチャンネルの不活性化を延長させる(Naイオンに対する膜透過性の抑制)が,GABA系には作用しないといわれている.
●吸収・分布・代謝・排泄:腸管からの吸収は遅く不定で,個人差があり,3〜12時間でピークに達する.半減期は20〜24時間と長いので,1日1〜2回の服用でよい.定常状態に達するには5〜15日かかる.治療血中濃度は10〜20μg/ml.血清蛋白との結合率は90%で,95%は肝臓で代謝される.代謝産物には抗てんかん作用はない.

痙縮・筋緊張治療薬

ミオナール(エーザイ)

著者: 桃井浩樹 ,   進藤政臣

ページ範囲:P.172 - P.173

臨床薬理
●作用機序:脊髄のγ運動ニューロン系に作用し,筋紡錘の求心性発射を抑制する1)とともに,脊髄での多シナプス反射を抑制することで筋緊張を緩和させる.また血管に対する作用も知られており,血管平滑筋への直接作用や筋交感神経抑制作用2)で血管を拡張し筋血流量を増加させるほか,脳底動脈拡張作用,椎骨動脈血流量の増加作用があるといわれている.

ダントリウムカプセル(山之内)

著者: 桃井浩樹 ,   進藤政臣

ページ範囲:P.174 - P.175

臨床薬理
●作用機序:中枢神経系に作用せず,筋そのものに作用する末梢性の筋弛緩薬である.骨格筋の収縮は,末梢神経からの刺激伝達で筋細胞膜の電気的興奮が筋線維内に誘導され,筋小胞体からCa2+が遊離し,troponinと結合することで発現する.ダントリウムは筋肉内の興奮—収縮連関における筋小胞体からのCa2+の遊離を抑制することで筋弛緩作用を呈する.一方,悪性症候群や悪性高熱に対しては末梢性の筋弛緩作用だけでなく,中枢神経系の細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制することにより,神経伝達物質の遊離亢進を抑制すると考えられている1,2)

アロフト(田辺)

著者: 桃井浩樹 ,   進藤政臣

ページ範囲:P.176 - P.177

臨床薬理
●作用機序:催眠薬のメタクァロンの関連化合物で,中枢性筋弛緩作用が強い薬物として選び出された.脊髄から上位の中枢(脳幹レベルでも)にかけて作用するといわれる.単シナプス反射より多シナプス反射を強く抑制する.催眠薬の誘導体ではあるが,中枢の抑制作用は強くない.

レボドパ(パーキンソン病・パーキンソン症候群治療薬)

ドパストン(三共)=ドパゾール(第一)=ドパール(協和発酵)

著者: 杉田之宏 ,   水野美邦

ページ範囲:P.178 - P.179

臨床薬理
●作用機序:L-dopaによる治療は,パーキンソン病の線条体で欠乏しているドパミン(DA)をその前駆物質であるL-dopaの投与により補充するもので,本症治療の基本である.DAは脳—血液関門を通過できないため,その前駆物質であるL-dopaを投与する.L-dopaは脳内に入り黒質線条体DAニューロンに取り込まれ,ドーパ脱炭酸酵素によりDAになり治療効果を現す.
●血中濃度モニタリング:L-dopa血中濃度は投与量と相関するが,長期治療での血中濃度は臨床症状の改善度とは必ずしも相関せず,一般治療での血中濃度モニタリングは必要でない.

ネオドパストン(三共)=メネシット(萬有)/イーシー・ドパール(協和発酵)=ネオドパゾール(第一)=マドパー(ロシュ)

著者: 杉田之宏 ,   水野美邦

ページ範囲:P.180 - P.181

臨床薬理
●作用機序:L-dopaによる治療は,パーキンソン病の線条体で欠乏しているドパミン(DA)をその前駆物質であるL-dopaの投与により補充するもので,本症治療の基本である.L-dopaは脳内に入り,黒質線条体DAニューロンに取り込まれDAとなり,治療効果を現す.しかし,L-dopaの95%以上が末梢組織のドーパ脱炭酸酵素でDAに変化してしまい,これによる高率の副作用の出現が問題となる.ドーパ脱炭酸酵素阻害薬(DIC)であるカルビドパ,ベンセラジドは脳内に移行せず,選択的に末梢のドーパ脱炭酸酵素を阻害する.DICの併用には,①L-dopaの内服量を1/5量に減量し得る,②効果の発現が早い,③血中濃度が安定維持できる,④消化器・循環器系副作用が少ない,などの利点がある1).なお,カルビドパとベンセラジドでは効果に本質的な差異はみられない5)

抗コリン作動薬(パーキンソン病・パーキンソン症候群治療薬)

アーテン(レダリー)

著者: 森若文雄 ,   田代邦雄

ページ範囲:P.182 - P.182

臨床薬理
●作用機序:アトロピン類似の抗コリン作用を示す.黒質線条体のドパミン作動ニューロンの障害による相対的コリン作動性ニューロンの機能亢進を抑制し,パーキンソン病の振戦・筋固縮を改善する.

アキネトン(大日本)

著者: 森若文雄 ,   田代邦雄

ページ範囲:P.183 - P.183

臨床薬理
●作用機序:アトロピン類似の抗コリン作用を示し,抗振戦薬,抗固縮薬,抗カタレプシー薬として用いられる.
●血中濃度モニタリング:臨床的に不要.

塩酸アマンタジン(パーキンソン病・パーキンソン症候群治療薬)

シンメトレル(チバガイギー)

著者: 久野貞子

ページ範囲:P.184 - P.184

臨床薬理
●作用機序:黒質線条体ドパミン(DA)作動神経終末からのDA放出促進作用,再取り込み抑制作用,合成促進作用および線条体でのNMDA受容体拮抗作用などにより,パーキンソン症状を改善すると推定されている.
●血中濃度モニタリング:通常の診療では行われていない.

ノルアドレナリン作動薬(パーキンソン病・パーキンソン症候群治療薬)

ドプス(住友)

著者: 平林久吾 ,   横地正之

ページ範囲:P.185 - P.185

 ドロキシドパは天然型1—ノルエピネフリンの前駆体である.

ドパミンアゴニスト(パーキンソン病・パーキンソン症候群治療薬)

パーロデル(サンド)

著者: 平林久吾 ,   横地正之

ページ範囲:P.186 - P.187

 本邦で市販供与されているドパミンアゴニストは,麦角アルカロイドの誘導体であるメシル酸プロモクリプチン(パーロデル®)とメシル酸ペルゴリド(ペルマックス®),および非麦角アルカロイド・アゼピン誘導体であるtalipexole hydrochloride(ドミン®)の3製剤である.

ペルマックス(イーライリリー)

著者: 平林久吾 ,   横地正之

ページ範囲:P.189 - P.189

臨床薬理
●作用機序:線条体のドパミンD2受容体のみならず,D1受容体に対しても親和性を有し,シナプス後ドパミンD1およびD2両受容体を刺激し,ドパミン作動作用を示す.
●血中濃度モニタリング:臨床的に必要ない.

脳循環代謝改善薬

サアミオン(田辺)/ケタス(杏林)/セロクラール(ヘキスト・マリオン・ルセル)

著者: 赫彰郎 ,   山室学

ページ範囲:P.190 - P.194

脳循環代謝改善薬とは
 脳梗塞,脳出血の後遺症として,片麻痺などの神経脱落症状のほか,意欲低下,自発性の低下,抑うつ,情緒障害などの精神症候がみられたり,頭重感,めまい,痺れ感などの自覚症状がみられることが多い.脳循環代謝改善薬は主に,こういった症状のある脳梗塞や脳出血の慢性期に投与される.脳循環代謝改善薬は脳循環改善薬と脳代謝改善薬に大別される.前者は脳血管拡張作用を有し,それにより脳血流量を増加させる.後者は脳のエネルギー代謝や神経伝達物質の調整によって脳の機能を改善する.後者では脳の代謝の改善により脳血流の改善もみられる.また,前者は脳血流の改善により脳の代謝を改善させるので,両者を明確に分類するのは困難なことが多く,両者の作用を併せもった薬剤も多い.
 脳循環改善薬が主としてめまいや頭重感などの自覚症状に有効であるとされるのに対して,脳代謝改善薬は自発性の低下や抑うつ状態などの精神症候に効果がある.投与方法は,脳循環改善薬1種類に脳代謝改善薬1種類を併用するか,脳代謝改善薬のうちから作用機序の異なるものを2種類選択することが多い.

脳代謝改善薬

セレボート(エーザイ)

著者: 小川紀雄

ページ範囲:P.195 - P.195

臨床薬理
●作用機序:脳内アセチルコリン,ノルアドレナリン,セロトニン系などの神経伝達機能を改善する.また,アセチルコリンレセプター結合能低下,脳内エネルギー代謝障害,脳波異常,脳血流低下などを改善する.
●血中濃度モニタリング:特に必要なし.

ドラガノン(ロシュ)

著者: 小川紀雄

ページ範囲:P.196 - P.196

 臨床薬理
 ●作用機序:中枢アセチルコリン神経系,グルタミン酸神経系の賦活作用により,脳梗塞後遺症の精神症状に効果を示すと考えられる.
 ●血中濃度モニタリング:血中濃度上昇に起因すると考えられる重篤な副作用は報告されていないことから,モニタリングは不要である.

脳圧降下薬

グリセオール(中外)

著者: 棚橋紀夫

ページ範囲:P.197 - P.197

臨床薬理
●作用機序:本剤は10%グリセリン,5%フルクトース加生理食塩液である.高浸透圧で,血液—脳関門を通りにくいため,静脈内に投与すると血液の浸透圧が上昇するに伴い,血液と脳組織浸透圧差が大きくなり,脳組織内の水が血中に移行することにより脳浮腫が軽減し,頭蓋内圧が下降する.また,グリセリンが代謝され,エネルギーとして利用されるとともに,脳内代謝過程に入り代謝改善を促すという間接作用を併せもつ.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要.

マンニットール(日研化学)

著者: 棚橋紀夫

ページ範囲:P.198 - P.198

臨床薬理
●作用機序:本剤はD—マンニトールの20%溶液で,浸透圧利尿作用を有する.静注された本剤は,ほとんど代謝を受けずに尿中に排泄される.しかも,本剤は腎糸球体から濾過された後,尿細管から吸収されないので利尿をもたらす.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要.

抗血小板薬

アスピリン(各社)

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.199 - P.200

臨床薬理
●作用機序:本剤は血小板において,アラキドン酸(AA)カスケードのうちのシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することにより,強力な血小板凝集作用を有するトロンボキサン(TX)A2の産生を抑制して,不可逆的に血小板凝集を抑制する.
●血中濃度モニタリング:日常臨床上,必要となることはない.

パナルジン(第一)

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.201 - P.201

臨床薬理
●作用機序:血小板膜ADP受容体を阻害することにより,ADP受容体・Gi蛋白複合体によるアデニル酸シクラーゼのダウンレギュレーションを阻害し,cyclic AMPを高値に保つことによりGPII b/IIIaへのフィブリノゲンの結合を阻害して,ADP依存性の血小板凝集に対する特異的な抑制作用を発揮する.
●血中濃度モニタリング:日常臨床上,必要になることはない.

抗凝血薬

ワーファリン(エーザイ)

著者: 峰松一夫

ページ範囲:P.202 - P.202

臨床薬理
●作用機序:ビタミンK依存性血液凝固因子(II,VII,IX,X)の肝臓内生合成を抑制する.
●血中濃度モニタリング:不要.

不随意運動治療薬

リボトリール(ロシュ)

著者: 間野忠明

ページ範囲:P.203 - P.204

臨床薬理
●作用機序:中枢神経系,特に大脳基底核や辺縁系に存在する抑制性のGABA作動ニューロンのシナプス後膜に位置するベンゾジアゼピン受容体にGABAのアゴニストとして高い親和性で結合して,GABAニューロンの抑制作用を特異的に増強する.脊髄運動ニューロンの活動性を中枢性に抑制し,強い筋弛緩作用,抗痙攣作用などを示す.
●血中濃度モニタリング:0.5mg錠2錠を経口投与した場合,最大血中濃度に達する時間は約2時間,半減期は約27時間とされている.有効血中濃度は0.01〜0.06μg/mgである.血中濃度が定常状態に達するまでに4〜6日を要する.

片頭痛治療薬

カフェルゴット(サンド)

著者: 坂井文彦

ページ範囲:P.205 - P.205

臨床薬理
 主たる作用は,酒石酸エルゴタミンによる頭部血管収縮あるいは拡張抑制による.片頭痛発作中の頭部血管の脈波を測定したWolffらの観察によると,酒石酸エルゴタミン静注により頭部血管の脈波の振幅は低下し,それとともに頭痛も軽減している.酒石酸エルゴタミンによる血管収縮が血管壁への直接作用なのか,あるいは脳血管を支配する三叉神経終末部に作用し,血管作動物質の放出をコントロールするのかについては未解決である.

ジヒデルゴット(サンド)

著者: 坂井文彦

ページ範囲:P.206 - P.206

薬理作用
●作用機序:血管収縮作用が主たる薬理作用である.脳血管をはじめ他の末梢血管にも作用するが,動脈系より静脈系に対する作用が強いとされている.最近,片頭痛治療薬として注目されているスマトリプタン(本邦未発売)同様,本剤は脳血管のセロトニン受容体の一つである5HTを刺激する.頭部血管拡張および血管周囲の炎症を抑制することにより片頭痛発作に有効と考えられている.

フルナール(協和醗酵)

著者: 坂井文彦

ページ範囲:P.207 - P.207

臨床薬理
●作用機序:塩酸フルナリジンは片頭痛発作の予防薬として使用される.血管作動物質が脳血管を収縮する際,最終的には細胞外Ca2+を細胞内に取り込むことにより血管平滑筋の収縮能を上昇させる.片頭痛の病態の引き金と考えられている脳血管収縮あるいは脳ハイポキシアの改善作用により,片頭痛の発症を予防する.

呼吸器疾患治療薬 鎮咳薬

リン酸コデイン(各社)

著者: 石浦嘉久 ,   藤村政樹

ページ範囲:P.210 - P.211

臨床薬理
●作用機序:本剤は,中枢性鎮咳薬として位置づけられており,延髄の咳中枢(延髄孤束核,疑核,脳幹網様体,VII,IX-XII脳神経核)の感受性閾値を高めることで,その働きを抑制する.
●血中濃度モニタリング:血漿から測定することは可能であるが1),日常臨床上は行われていない.

アスベリン(田辺)

著者: 石浦嘉久 ,   藤村政樹

ページ範囲:P.212 - P.212

臨床薬理
●作用機序:本剤は鎮痛薬Orthonの誘導体より発見された非麻薬性鎮咳薬である.延髄の咳中枢を抑制し鎮咳作用を発揮すると同時に,気管支腺分泌および気道粘膜線毛運動を亢進させ去痰作用を示す.鎮痛効果はない.また,常用量では中枢神経を興奮させる1)
●血中濃度モニタリング:本剤は安全域が広く,長年の使用経験から必要ないと考えられている.

アストミン(山之内)

著者: 石浦嘉久 ,   藤村政樹

ページ範囲:P.213 - P.214

臨床薬理
●作用機序:中枢性鎮咳薬であり,デキストロメトルファンに類似の構造と作用をもつ.延髄の咳中枢の感受性閾値を高め,その働きを抑制する.ヒスタミン遊離作用がある1)
●血中濃度モニタリング:血漿から測定することは可能であるが2),本剤は安全域が広いため,日常臨床上は行われていない.健常成人では,服用1〜2時間で最大濃度に達することに留意するとよい3)

メジコン(塩野義)

著者: 石浦嘉久 ,   藤村政樹

ページ範囲:P.215 - P.215

臨床薬理
●作用機序:中枢性鎮咳薬で,延髄の咳中枢の感受性閾値を高め,その働きを抑制する.Mor-phinan系化合物の一つであるが,鎮痛および麻薬としての作用をもたない.
●血中濃度モニタリング:測定可能だが,日常臨床上は行われていない.健常成人では,服用4〜5時間で最高値をとる1)

フスタギン(三共)

著者: 石浦嘉久 ,   藤村政樹

ページ範囲:P.216 - P.216

臨床薬理
●作用機序:オオバコ(車前草)の花期の全草から抽出したplantagineが有効成分である.鎮咳作用のほか消炎・利尿・止瀉作用をもつ.末梢性の鎮咳薬として分類され,気管支粘液の分泌促進,喀痰粘稠度低下作用があるとされているが,その機序の詳細については不明.呼吸鎮静作用を併せもつ1)
●血中濃度モニタリング:成分分析は可能だが通常は行われない.

ブロチン(三共)

著者: 石浦嘉久 ,   藤村政樹

ページ範囲:P.217 - P.217

臨床薬理
●作用機序:山桜または吉野桜などのPrunus属植物の樹皮中のニトリル配糖体が主成分1)である.末梢性鎮咳作用をもち,気管支上皮の線毛運動促進作用,気道粘液の分泌亢進,喀痰溶解作用を有する.
●血中濃度モニタリング:通常行われない.

去痰薬

ビソルボン(日本ベーリンガー)

著者: 竹村尚志 ,   玉置淳

ページ範囲:P.218 - P.218

臨床薬理
●作用機序:気管線毛運動を亢進する作用のみならず,気管支粘膜および粘膜下気管腺の分泌を活性化し,漿液分泌を増加させる.さらに,気道粘膜の杯細胞および気管腺において,粘液を溶解させる.
●吸収・分布・代謝・排泄:健康成人に塩酸ブロムヘキシン8mgを経口投与した場合,1時間で最高血中濃度に達し,半減期は約1.7時間である.肝臓で主に代謝され,健康成人に経口投与した場合,120時間後までに88%が尿中に,4%が糞中に排泄される1)

ムコソルバン(日本ベーリンガ—帝人)

著者: 竹村尚志 ,   玉置淳

ページ範囲:P.219 - P.219

臨床薬理
●作用機序:肺表面活性物質(サーファクタント)の分泌促進により,線毛のない肺胞・細気管支領域のクリアランスを亢進する1)とともに,気道液のゲル層の厚みを調節することで線毛の運動を円滑にさせ2),痰のクリアランスを促進する.加えて,気道液の分泌も促進し,痰の気道粘膜に対する粘着性を低下させ,痰の喀出を容易にする3)
●吸収・分布・代謝・排泄:健常成人に本剤30mg単回経口投与後の血漿中未変化体濃度は投与後2〜4時間でピークに達する.半減期は約5時間で,その後比較的速やかに減少する4).肝臓で代謝され,投与後72時間までに,未変化体およびその抱合体が50〜70%尿中へ排泄される5)

ムコダイン(杏林)

著者: 竹村尚志 ,   玉置淳

ページ範囲:P.221 - P.221

臨床薬理
●作用機序:痰の性状を線毛によって輸送されやすい生理的気道液の性状に近づける作用と,気道粘膜における線毛運動を促進し,傷害された線毛を修復する作用を有する1,2)
●吸収・分布・代謝・排泄:健康成人にカルボシステインとして500mg単回経口投与したとき,1.6〜2時間後に最高血中濃度に達し,半減期は約1.5時間である.カルボシステイン1gの単回経口投与では,2〜4時間後の尿中への排泄は未変化体がほとんどであり,72時間後までに95%以上が尿中に排泄される.

アレベール(日本商事)

著者: 竹村尚志 ,   玉置淳

ページ範囲:P.222 - P.222

臨床薬理
●作用機序:気管粘膜線毛運動を亢進させる1).また,その界面活性作用により,エアゾル吸入療法の基剤として広く用いられており,均一な粒子のエアゾルを形成し,その蒸発を抑制するので,エアゾル状態を持続して,ネブライザー吸入療法を有効なものとする2)
●吸収・分布・代謝・排泄:消化管からはほとんど吸収されない3)

第一世代交感神経刺激薬(気管支拡張薬)

ボスミン(第一)

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.223 - P.224

交感神経刺激薬とは
 交感神経刺激薬は,気管支喘息発作に対する気管支拡張薬として第一選択の薬剤である.投与方法には,吸入,経口,注射の3通りがあるが,多くは吸入で用いられる.最近では,ほとんどが携帯に便利なハンドネブライザー(MDI:metered-dose inhaler)用に作られている.気管支平滑筋は交感神経の興奮により弛緩し拡張する.交感神経刺激薬は,αとβの両方の受容体を刺激するが,気管支の拡張はβ受容体の興奮により起こる.気管支に分布している大部分の受容体はβ2受容体であり,したがつて,β受容体の刺激作用をもち,かつβ2受容体のみに選択性をもつ薬剤が最も有用である.最初に開発された交感神経刺激薬は第一世代(ボスミン®,メジヘラー・イソ®,ストメリンD®,アロテック®)と呼ばれ,α・β受容体あるいはβ1・β2受容体刺激作用を有していたため,気管支拡張作用と同時に循環系への副作用が問題であった.その後開発された第二世代(サルタノール®,ベネトリン®)はβ2選択性にすぐれ,循環系への影響が少なくなつており,現在でも治療の主役となっている.近年開発されている第三世代(メプチン®,ベロテック®)は,さらにβ2選択性にすぐれていると同時に作用持続時間が長くなっており(long-acting),1日2回投与ですむように改良されている.

メジヘラー・イソ(大日本)

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.225 - P.225

臨床薬理
 硫酸イソプロテレノールとして,交感神経β受容体に作用することにより気管支拡張効果を発現するが,β1受容体をも刺激するため,循環系への影響が強い.

ストメリンD(藤沢)

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.226 - P.226

臨床薬理
 硫酸イソプロテレノールにステロイド(デキサメサゾン)を加えた製剤で,イソプロテレノールの気管支拡張作用とステロイドによる抗炎症作用により,気管支収縮を軽減する.基本的にはメジヘラー・イソ®と同様に,β受容体刺激による気管支拡張が主な作用である.

アロテック(日本ベーリンガー)

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.227 - P.227

臨床薬理
 本剤は硫酸オルシプレナリンで,第一世代に属する薬剤であるが,イソプロテレノールに比し,β2選択性を有し,β2刺激作用はやや強く,β1刺激作用は弱い.

第二世代交感神経刺激薬(気管支拡張薬)

サルタノール(グラクソ)

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.228 - P.229

臨床薬理
 気道平滑筋に存在するβ受容体のほとんどはβ2受容体であるため,このβ2受容体を選択的に刺激すれば,気管支平滑筋の弛緩,気道粘膜,粘膜下の分泌亢進,透過性浮腫の軽減などの効果が発現される.本剤は硫酸サルブタモールであり,β2受容体だけを刺激してβ1受容体への作用を弱めた代表的なβ2刺激薬である.

ベネトリン(三共)

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.230 - P.230

臨床薬理
 硫酸サルブタモールであり,サルタノール®と同様である.

第三世代交感神経刺激薬(気管支拡張薬)

メプチン(大塚)

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.231 - P.231

臨床薬理
 塩酸プロカテロールとしてβ2受容体刺激作用を有するが,第二世代の薬剤よりさらにβ2選択性が高く,かつ作用の持続時間が長い(10〜12時間).したがって,投与回数が1日1〜2回でよく,治療のコンプライアンスの向上が図れる.

ベロテック(日本ベーリンガー)

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.232 - P.232

臨床薬理
 臭化水素酸フェノテロールとして,β2選択性が第二世代の薬剤より増強され,気管支平滑筋に対する作用は,イソプロテレノール,サルブタモールより強く,心血管系に対する作用は両剤より弱い.作用持続時間は両剤より長く,8時間以上持続する.

キサンチン系製剤(気管支拡張薬)

テオドール(三菱化学・日研)=テオロング(エーザイ)=ユニフィル(大塚)/ネオフィリン(エーザイ)

著者: 檀原高

ページ範囲:P.233 - P.236

 テオドール®,テオロング®,ユニフィル®はテオフィリン製剤で,ネオフィリン®(アミノフィリン)はテオフィリン(約85%)とエチレンジアミン(約15%)の合剤である.テオフィリンの薬理作用は呼吸器系,中枢神経系,心血管系,腎,消化器系,代謝に及ぶ(図1).本項では,気管支拡張作用など呼吸器系への作用を中心に解説する.

抗コリン薬(気管支拡張薬)

アトロベント(帝人)/テルシガン(日本ベーリンガー)

著者: 檀原高

ページ範囲:P.237 - P.239

 抗コリン薬は,主に副交感神経のムスカリン様作用を抑制することにより,気道収縮を予防する作用を有するとされる.気管支平滑筋収縮の予防として用いられる薬剤の投与経路は吸入が主体であり,現在テルシガン®(臭化オキシトロピウム),アトロベント®(臭化イプラトロピウム),フルプロン®(臭化フルトロピウム)が使用される.本剤は薬理作用としてアトロピン様作用を有するため,脳神経系,心血管系,消化器系,眼,前立腺など多岐にわたる標的臓器をもつが,先に述べたように本剤は吸入で用いられるため,これらの臓器への影響は少なく,本項では主に気道平滑筋と気道分泌の観点から解説する.

抗アレルギー薬

インタール(藤沢)

著者: 山田和人 ,   大田健

ページ範囲:P.240 - P.240

臨床薬理
●作用機序:肥満細胞の膜の安定化に直接的にも間接的にも働き,脱顆粒やヒスタミン遊離を抑制する.また,局所において好酸球・好中球の集積と活性化の抑制,Tリンパ球の集積抑制,マクロファージの活性化抑制,血小板の活性化抑制,知覚神経C-fiberの活性抑制,接着分子ICAM−1,VCAM−1,ELAM−1の発現抑制,IgE産生抑制などをもたらす.
●血中濃度モニタリング:必要なし.

ザジテン(サンド)

著者: 山田和人 ,   大田健

ページ範囲:P.241 - P.241

臨床薬理
●作用機序:肥満細胞や好塩基球などからのIgE抗体を介したヒスタミン,ロイコトリエン,血小板活性化因子(PAF)などの遊離を抑制する.また,アレルゲンによる好酸球の病巣部浸潤抑制作用,好酸球活性化の指標である血清ECP値の低下をもたらす.
●血中濃度モニタリング:必要なし.

オノン(小野)

著者: 中野純一 ,   大田健

ページ範囲:P.243 - P.243

臨床薬理
●作用機序:従来よりSRS-Aと呼ばれていたアラキドン代謝産物であるロイコトリエン(LT)C4,LTD4,LTE4の受容体拮抗薬であり,LTの生理作用である気管支収縮,気道の粘液分泌亢進および血管透過性亢進に対して抑制的な効果を有する.また,好酸球の浸潤を抑制することや,気道過敏性の亢進を抑制することも報告されている.
●血中濃度モニタリング:必要なし.

リザベン(キッセイ)

著者: 中野純一 ,   大田健

ページ範囲:P.244 - P.245

臨床薬理
●作用機序:肥満細胞,各種炎症細胞からのヒスタミン,ロイコトリエンなどの化学伝達物質の遊離を抑制する.また,サイトカイン(TGF—β1),活性酸素の産生あるいは遊離抑制作用を有し,ケロイド・肥厚性瘢痕由来線維芽細胞のコラーゲン合成を抑制する.
●血中濃度モニタリング:必要なし.

アゼプチン(エーザイ)

著者: 中野純一 ,   大田健

ページ範囲:P.246 - P.247

臨床薬理
●作用機序:肥満細胞からのIgE抗体を介したヒスタミン,ロイコトリエンなどの遊離抑制作用を有する.また,遊離されたヒスタミンの作用に拮抗し(H1受容体拮抗作用),あるいはロイコトリエンに対しても拮抗作用を有する.好中球や好酸球の遊走・浸潤の抑制,好中球からの活性酸素の遊離抑制作用も認められる.
●血中濃度モニタリング:必要なし.

ステロイド薬

プレドニン(塩野義)

著者: 馬島徹

ページ範囲:P.248 - P.252

ステロイド薬とは
 ステロイド薬は,強い抗炎症作用と免疫抑制作用があり,呼吸器疾患でも広く使われている.しかし,副作用も多く,使用にあたっては投与量・投与方法・投与期間などに注意を払わなければならない.はじめにステロイド薬の一般的な薬理作用,副作用について述べる.
 主な薬理作用は抗炎症作用であり,炎症および免疫担当細胞への作用が中心に検討されている.表1に示すように,ステロイド薬の作用としてサイトカインの産生抑制,炎症細胞などの分化・増殖の抑制,化学伝達物質の遊離抑制,炎症細胞の局所への細胞浸潤の抑制,細胞内代謝の抑制などがあり,強い抗炎症効果を発揮することが知られている.

メドロール(住友—ファルマシア・アップジョン)

著者: 馬島徹

ページ範囲:P.253 - P.253

臨床薬理
●作用機序:ステロイド薬としての作用機序はプレドニン®と同じである.抗炎症作用はラットによる検討では,皮下注でハイドロコーチゾンの2倍であった.好酸球減少作用・血糖上昇作用では,ヒトに経口投与した場合ハイドロコーチゾンの5倍,プレドニン®の1.25倍であった.ヒトでは経口投与でNa貯留作用は認められない.
●血中濃度モニタリング:正常人20人の平均では40mg単回経口投与2時間後に最高値329ng/mlであった.実際には血中濃度のモニタリングは行わない.

リンデロン(塩野義)

著者: 馬島徹

ページ範囲:P.254 - P.254

臨床薬理
●作用機序:ステロイド薬としての作用機序はプレドニン®と同じである.合成糖質副腎皮質ステロイド薬で,抗炎症作用,抗アレルギー作用のほか,広範囲の代謝作用や,種々の刺激に対する生体免疫反応の修飾を有する.抗炎症作用はハイドロコーチゾンの約20〜30倍であり,ミネラルコルチコイド作用はほとんどない.
●血中濃度モニタリング:健常成人に1回1.5mgの経口投与でピークは120分後の0.65μg/dlであり,1mg投与時の2倍である.実際には血中濃度のモニタリングは行わない.

サクシゾン(日研)=ソル・コーテフ(住友)

著者: 馬島徹

ページ範囲:P.255 - P.255

臨床薬理
●作用機序:ハイドロコーチゾンとしての作用機序は,ステロイド薬一般としての作用(表1,248ページ)と同じである.抗炎症作用はプレドニンの約1/4である.ミネラルコルチコイド作用はプレドニン®の約1.25倍である.
●血中濃度モニタリング:血中濃度は1回1mg/kg筋注後30〜60分で最高値となり,1回100mg静注後の生物学的半減期は約100分である.

ソル・メドロール(ファルマシア・アップジョン—住友)

著者: 馬島徹

ページ範囲:P.256 - P.257

臨床薬理
●作用機序:リソソーム膜の安定化,膜透過性亢進の抑制,心筋抑制因子(MDF)の増加抑制による抗ショック作用,補体系を介する白血球凝集抑制作用による抗炎症作用,アラキドン酸代謝産物の産生抑制による抗アレルギー作用,抗体産生の抑制作用がある.
●血中濃度モニタリング:6例に30 mg/kgを20分間で静注時の最高血漿中濃度は20μg/mlとなり,半減期4時間である.

ケナコルト—A(BMS)

著者: 馬島徹

ページ範囲:P.258 - P.258

臨床薬理
●作用機序:糖質代謝作用,抗炎症,抗アレルギー作用が強く,しかも鉱質代謝作用が弱いため,ナトリウム,水分の体内貯留に基づく浮腫などが少ないという特長をもっている.
●血中濃度モニタリング:筋注時の平均血中濃度は,3時間後に最高51.7μg/100mlとなり,以後6日目に15.2μg/100m1まで漸減,7日目から14日目までほぼ一定濃度で,有効血中濃度は14〜21日間持続している.尿中排泄は,第1日目12.5%,その後は極めて少なく7日間で16.5%である.

ベコタイド(グラクソ)=アルデシン(シェリング・プラウ)

著者: 馬島徹

ページ範囲:P.259 - P.259

臨床薬理
●作用機序:吸入ステロイド薬のbeclometha-sone dipropionate(BDP)は,血管収縮作用でみた局所の抗炎症作用はコーチゾールの5,000倍といわれている.気道上皮に対する抗炎症作用がみられる.血中吸収されたものは肝臓で速やかに代謝され,ステロイド活性の弱いbeclomethasonemonopropionateとなり,胆汁・尿中に排泄される.全身への影響は他のステロイド薬に比べ少ない.投与前に血漿ハイドロコーチゾン値およびACTHに対する反応性が低下していた全身性ステロイド薬依存の喘息患者で,BDP投与により全身性ステロイド薬の減量・離脱が可能となり,下垂体・副腎皮質系機能の回復が認められた.

抗結核薬

アプテシン(科研)=リファジン(第一)=リマクタン(チバガイギー)

著者: 町田和子

ページ範囲:P.260 - P.261

臨床薬理
●作用機序:細菌のDNA依存性RNA合成ポリメラーゼに働き,RNA合成を阻害する.半休止菌に対して滅菌作用を,分裂増殖結核菌に対して殺菌作用をもつ.最も強力な殺菌作用をもつイソニアジド(INH)との併用療法は,結核の初回短期療法の核である.
●血中濃度モニタリング:脂溶性で,内服後速やかに吸収され2〜4時間がピークで,2〜3時間が半減期である.肺・喀痰,骨組織,腎,リンパ液,脳脊髄液など組織への移行は良好で,腸肝循環を再循環し,脱アセチル化されて大便に排泄される.血中濃度モニターは研究的に施行.

ヒドラジッド(大塚)=イスコチン(第一)

著者: 町田和子

ページ範囲:P.262 - P.262

臨床薬理
●作用機序:分裂増殖結核菌に対し殺菌作用をもつ.
●血中濃度モニタリング:速やかに吸収され,組織への移行は良好.半減期は,迅速アセチレーターの1時間未満から遅延アセチレーターの3時間以上に及ぶ.後者では末梢神経炎などの副作用が出やすい.24時間以内にほとんど尿中に排泄される.

エサンブトール(レダリー—武田)=エブトール(科研)

著者: 町田和子

ページ範囲:P.263 - P.263

臨床薬理
●作用機序:静菌効果,耐性菌の発現の防止または遅延効果.結核菌の核酸合成経路を阻害.
●血中濃度モニタリング:経口投与後速やかに吸収され,2〜4時間でピーク,3〜4時間で半減.肺への移行良好で,尿排泄が主だが便中へ2割排泄される.

ピラマイド(三共)

著者: 町田和子

ページ範囲:P.264 - P.264

臨床薬理
●作用機序:他の薬剤では無効なpH5.0〜5.5の酸性環境下でも強い滅菌作用を示す.分裂増殖の旺盛な細胞外の菌のみでなく,代謝の障害された細胞内の菌にも有効.RFP(リファンピシン)との併用,特に治療早期の使用が有効.RFP+INH(イソニアジド)+SM(ストレプトマイシン)(EB;エタンブトール)に2カ月間PZAを加えた6カ月治療は,2カ月めの菌陰性化率の高いこと,再発率が標準治療と差のないことから,強力な短期治療として注目され,また住所不定者,在日外国人結核症例,糖尿病合併例,HIV陽性例など,問題のある症例の治療として特に期待される.
●血中濃度モニタリング:胃腸から容易に吸収され,全組織に速やかに分布,特に髄液への移行が良好.血中濃度のピークは服用2〜5時間後で,半減期は10時間,肝で代謝,腎に排泄.

硫酸ストレプトマイシン(明治製菓)

著者: 町田和子

ページ範囲:P.265 - P.265

臨床薬理
●作用機序:殺菌的に作用.
●血中濃度モニタリング:筋注後のピークは1〜2時間後.髄液への移行不良.腎より排泄.

特殊な呼吸器感染症治療薬

エリスロマイシン(富山化学)

著者: 杉山幸比古

ページ範囲:P.266 - P.266

臨床薬理
 本剤は,細菌のリボゾームに作用し,蛋白合成の阻害により抗菌作用(静菌的)を生じるとされている.血中濃度モニタリングは通常不要である.

バクタ(塩野義)

著者: 杉山幸比古

ページ範囲:P.267 - P.267

 バクタ®はST合剤の商品名で,持続性サルファ剤スルファメトキサゾール(sulfamethoxazole;SMX)に2,4-ジアミノピリジン系の抗菌物質トリメトプリム(trimethoprim;TMP)を配合した合剤である.

血液疾患治療薬 鉄剤(造血薬)

フェロミア(エーザイ)

著者: 澤田賢一

ページ範囲:P.272 - P.273

臨床薬理
●作用機序:本剤は,酸性から塩基性にいたる広いpH域で溶解し,低酸性でも吸収のよいクエン酸第一鉄ナトリウムを主剤とした非徐放性鉄剤である.

止血薬

ケイツー(エーザイ)

著者: 能登谷京 ,   澤田賢一 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.274 - P.275

 臨床薬理
 ●作用機序:ビタミンK依存性凝固因子といわれる血液凝固因子(Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ)は,γ-カルボキシルグルタミン酸(Gla)を有することによってその生理活性を現す.ケイツー®(ビタミンK2)は,その前駆蛋白(PIVKA:protein induced by vitamin K absence)のアミノ末端近傍に存在する特定のグルタミン酸残基(Glu)をGlaに変換する際のカルボキシル化反応にcofactorとして働く.すなわち本剤は,ビタミンK依存性血液凝固因子の肝における合成を促進し,生体の止血機構を賦活し生理的に止血作用を発現する.
 ●血中濃度モニタリング:ビタミンKの投与により臨床症状の改善または凝固系検査の改善が認められれば,血中濃度モニタリングは通常必要としない.

G-CSF製剤

グラン(麒麟麦酒—三共)/ノイトロジン(中外)

著者: 都築忍 ,   高松純樹

ページ範囲:P.276 - P.277

臨床薬理
●作用機序:G-CSF(granulocyte colony sti-mulating factor)は,好中球前駆細胞および成熟好中球に比較的特異的に作用するサイトカインであり,①好中球前駆細胞の増殖と分化を促進することにより末梢血中の好中球数を増加させ,②成熟好中球に対してはその遊走能・付着能・貪食能・殺菌能などの機能を亢進させることから,好中球減少症に対して広く使用される.また,③骨髄内造血前駆細胞の増加および末梢血中への動員を促すことから,末梢血造血幹細胞移植(PBSCT)に際して幹細胞採取にも応用されている.

ヒト免疫グロブリン製剤

ヴェノグロブリン-IH(ミドリ十字)

著者: 安保浩伸

ページ範囲:P.278 - P.278

 ヴェノグロブリン-IH®の適応疾患は,①特発性血小板減少性紫斑病,②重症感染症における抗生物質との併用,③低ならびに無ガンマグロブリン血症,④川崎病の急性期,である.本稿では,特発性血小板減少性紫斑病の治療薬としてのヴェノグロブリン-IH®について述べることとする.

製剤

レヂソール(萬有)

著者: 下平滋隆 ,   降旗謙一

ページ範囲:P.279 - P.280

臨床薬理
●作用機序:シアノコバラミン(ビタミンB12:VB12)は,正常な発育,造血,神経系には不可欠なビタミンである.造血機能に対しては,DNA合成過程で,葉酸を活性化することで作用し,ヘム合成前のメチルマロニルCoAからサクシニルCoAへの転換に関与する.また,神経組織に対してはVB12は髄鞘の形成促進,グリア細胞での核酸・蛋白代謝に関与している.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要.

葉酸

フォリアミン(日本製薬—武田)

著者: 下平滋隆 ,   降旗謙一

ページ範囲:P.281 - P.281

臨床薬理
●作用機序:プロテイルグルタミン酸(葉酸)は,ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DFR)によりジヒドロ葉酸(DHF)となり,さらに5,6,7,8—テトラヒドロ葉酸(THF)へ還元される.葉酸およびその誘導体は,DNA合成過程で造血機能維持のために不可欠な補酵素である.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要.

免疫抑制薬

サンディミュン(サンド)

著者: 杉原尚

ページ範囲:P.282 - P.283

 本剤は1970年,ノルウェーの高原土壌から分離された真菌の混合代謝産物中に発見された免疫抑制作用をもつ物質である.わが国においては1986年より,腎移植・骨髄移植における拒絶反応および移植片宿主病の抑制に使用されはじめ,翌年にはベーチェット病の眼症状に,1991年には肝移植に,さらに1992年には乾癬に対して適応となってきた.血液疾患に対しては,1995年,再生不良性貧血と赤芽球癆に対して効能・効果の追加が行われ,これらの疾患に対して使用可能となっている.再生不良性貧血は様々な原因によって起こる造血障害であるが,その詳細は明らかとはなっていない.幹細胞そのものの異常,造血微小環境の異常,免疫異常などが考えられている.

副腎皮質ホルモン製剤

プレドニン(塩野義)/水溶性プレドニン(塩野義)

著者: 杉原尚

ページ範囲:P.284 - P.285

臨床薬理
●作用機序:本剤の作用機序は単純ではない.細胞質内で特異的レセプターと結合し,核内に入り遺伝子上の選択的部位に作用し,炎症・免疫にかかわる複数の遺伝子の発現に促進的に,あるいは抑制的に働く.リンパ球では,未熟なT細胞や活性化T細胞が特に強い阻害作用を受ける.またB細胞では,抗体産生が抑制され,産生された免疫グロブリンの異化亢進も観察されている.
●血中濃度モニタリング:本剤の投与量は薬物動態学的評価なしに,治療効果と副作用発現の有無により調節されているのが現状である.血中濃度の簡便な測定法がないことや半減期が短いため,通常の投与量では定常状態の血中濃度を得ることが困難なことに起因している.

代謝・栄養障害治療薬 HMG-CoA還元酵素阻害薬(高脂血症治療薬)

メバロチン(三共)

著者: 馬渕宏

ページ範囲:P.288 - P.290

 高コレステロール(CHOL)血症は動脈硬化症,特に冠動脈硬化症の重要な危険因子である.現在,世界的に最もよく使われているCHOL低下薬はHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)である.

リポバス(萬有)

著者: 馬渕宏

ページ範囲:P.293 - P.293

臨床薬理
●作用機序:メバロチン®の項を参照.

その他の高脂血症治療薬

シンレスタール(第一)=ロレルコ(大塚)

著者: 長野豊

ページ範囲:P.294 - P.296

 プロブコールは,比較的強力なコレステロール低下薬として,わが国でも10年以上前から使われている.最近では抗動脈硬化薬としても認識されるようになり,現在も引き続き新しい知見が得られている薬剤である.

クエストラン(ブリストル)

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.297 - P.297

臨床薬理
●作用機序:腸管内で,本剤の構造中に含有されるClが胆汁酸,脂肪酸などと置換し,特に胆汁酸が結合することで,そのまま再吸収されることなく便中へ排泄される.したがって,胆汁酸の再吸収が抑制されることで,コレステロールから胆汁酸への異化系路が促進する.肝細胞内のコレステロールプールが減少することになり,肝細胞における低比重リポ蛋白(LDL)受容体活性が促進され,血中のLDLの取り込みが増加する.またHMG-CoA還元酵素活性の増加,7α-hydrox-ylase活性の亢進なども生ずる.
●血中濃度モニタリング:非吸収性であり,その必要はない.しかし,Clの吸収は生じやすい.

ベザトールSR(キッセイ)

著者: 笈田耕治 ,   中井継彦

ページ範囲:P.298 - P.300

臨床薬理
●作用機序:本剤における血清トリグリセライド(TG)低下作用は,肝臓においてアセチルCoAカルボキシラーゼ活性を抑制しTGの生合成過程を抑制すること,およびリポ蛋白リパーゼ活性および肝性リパーゼ活性を亢進し,血中リポ蛋白のTGを分解促進し,リポ蛋白代謝を促進することによる.血清コレステロール(Chol)の低下作用は,肝臓でのアセチルCoAからメバロン酸へのChol生合成過程を抑制すること,およびLDLレセプター活性を促進することによる.肝臓でのメバロン酸への合成抑制については,HMG-CoA還元酵素阻害作用も関与していることが確かめられている.
●吸収・分布・代謝・排泄:【吸収】健常成人に単回投与した場合の最高血中濃度到達時間は4.5時間,血中からの消失半減期3.0時間であった.【分布】ラットに単回投与すると,肝・腎・小腸に高い分布がみられ,中枢神経への移行は少なかった.【代謝】主な代謝経路はグルクロン酸包含と水酸化体と考えられている.なお,従来のフィブラート系薬剤は体内で活性型の遊離酸となるが,本剤はそのものとして活性を現す.【排泄】健常成人に単回投与した場合,24時間後までに68.9%が尿中に排泄された.

リポクリン(住友)

著者: 笈田耕治 ,   中井継彦

ページ範囲:P.301 - P.301

臨床薬理
●作用機序:本剤の作用機序として,①肝における脂肪酸の合成抑制・酸化促進をもたらしTGの合成を抑制する,②脂肪細胞におけるlipolysisを抑制することで脂肪酸の動員を抑制する,③リポ蛋白リパーゼ活性および肝性リパーゼ活性を亢進し,血中リポ蛋白のTGを分解促進し,リポ蛋白代謝を促進する,④LDLレセプター活性を増加させる,などが考えられている.
●吸収・分布・代謝・排泄:【吸収】本剤を単回投与した場合,平均血中濃度は4〜6時間後に最高に達し,以後10時間の生物学的半減期で低下した.また,連日投与すると投与5日目で血中濃度は平衡に達した.【分布】マウスおよびラットに2週間連続経口投与した場合,肝・腎・肺・血清で高く分布し,脳脊髄では認められない.【代謝】代謝変化を受けにくく,健常成人の一部の尿中に投与量の0.1%以下の微量の代謝体(モノエーテル体および水酸化体)が検出された以外は未変化体しか認められていない.【排泄】主として便中に排泄され,投与量の1%以下が尿中に排泄される.

ペリシット(三和化学)

著者: 芳野原 ,   鹿住敏

ページ範囲:P.302 - P.302

臨床薬理
●作用機序:本剤は,脂肪細胞における脂肪分解(lipolysis)の抑制,リポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性化,腸管からのコレステロール吸収抑制,肝におけるコレステロールの合成抑制,コレステロールの胆汁中への排泄促進などにより血清脂質を低下させる.また,プロスタグランジンを介した血管拡張作用,血小板凝集抑制作用も有する.

エパデール(持田)

著者: 龍野一郎 ,   平井愛山 ,   齋藤康

ページ範囲:P.303 - P.304

 1975年,Dyerbergらが,海棲類を主食とするグリーンランドの人々では虚血性心疾患などの血栓性疾患の罹患率が極めて低く,血清脂質も低値を示すとの事実を報告した.Bangらは,このグリーンランドの人々の血中に,多価不飽和脂肪酸であるイコサペント酸(エイコサペンタエン酸:EPA)が極めて高濃度に存在することを初めて明らかにした.その後,現在までにEPAが血清脂質の低下や血栓性疾患の改善に有効であることが明らかにされた.日本では世界に先駆けてイコサペント酸エチル(エパデール®)が高純度に精製され,1990年には閉塞性動脈硬化症に対し,そして1994年には高脂血症にも適応が拡大された.

速効型インスリン製剤

ヒューマリンR注U−40・U−100(イーライリリー)=ノボリンR注40・100(ノボノルディスク)

著者: 小林正

ページ範囲:P.305 - P.307

インスリン製剤—総論
 インスリン製剤は大きく分けると,表1のように速効型,中間型(混合型も含む),持続型インスリンに分けられる.これらのインスリンの作用時間は図1のように示され,これらを理解したうえで実際のインスリン注射療法を計画する必要がある.速効型は持続時間が短く7〜8時間以内にその効果は消失するので,主に食後血糖の上昇に対する抑制を目的として用いられたり,あるいはCSII(持続皮下インスリン注入)を目的としたり,また静脈内に直接注入される.中間型インスリンは20〜24時間持続するインスリン製剤として1日1回あるいは2回の注射にて,特にNIDDMの患者に用いられることが多い.NIDDMでは図2に示すように食後血糖の追加分泌が障害されているので,速効型インスリンを各食前に注射することも理にかなった方法であるが,混合型の中間型を朝夕2回注射すると朝食と夕食時の追加分泌を補うことが可能である.持続型インスリンは24時間以上持続するインスリン製剤であり,主に基礎分泌の補給が目的である.

中間型インスリン製剤(NPH製剤)

ヒューマリンN注U−40・U−100(イーライリリー)=ノボリンN注40・100(ノボノルディスク)

著者: 小林正

ページ範囲:P.308 - P.308

 ●剤形:注40・100単位/ml.
●基本的用量:初期1回4〜20単位,維持量1日4〜100単位.
●特徴と投与法:本剤はともにNPH製剤で,プロタミンを含む,持続が約24時間で,最大効果に達するのが8〜12時間であるので,1日に1回か2回のNIDDMの患者の治療,あるいはIDDMにおける強化インスリン療法の基礎分泌の代わりとして,眠前に注射する方法で用いられる.

中間型インスリン製剤(亜鉛懸濁製剤)

モノタード注40・100(ノボノルディスク)

著者: 小林正

ページ範囲:P.309 - P.309

 ●剤形:注40・100単位/ml.
●基本的用量:初期1回4〜20単位,維持量1日4〜80単位.
●特徴と投与法:亜鉛を含んだ懸濁液であり,吸収性のやや遅い結晶性と吸収性の速い無晶性のヒトインスリンを用いた本剤は,作用時間が20〜24時間とやや短いが,NIDDMの治療(1日1〜2回の注射)や,IDDMでの強化インスリン療法の眠前の注射に用いられる.

混合型インスリン製剤

ヒューマリン3/7注U−40・U−100(イーライリリー)=ノボリン30R注40・100(ノボノルディスク)/ヒューマリンU注U−40・U−100(イーライリリー)=ノボリンU注40・100(ノボノルディスク)

著者: 小林正

ページ範囲:P.310 - P.310

 ●剤形:注40・100単位/ml.
●基本的用量:初期1回4〜20単位,維持量1日4〜80単位.
●特徴と投与法:本剤は,中間型であるNPHインスリン70%と,速効型インスリン30%が既に混合されている製剤であり,あらかじめ混合されている(pre-mix)ので,便利であり,混合比が正確である.その効果は,30%含まれた速効型インスリンにより注射した後の食後の血糖を抑え,また70%の中間型インスリンにより,ほぼ24時間の血糖コントロールがカバーされる.

特殊インスリン製剤

ペンフィル(ノボノルディスク)/ノボレット(ノボノルディスク)/ヒューマカート(イーライリリー)

著者: 河盛隆造

ページ範囲:P.311 - P.311

 特殊インスリン製剤には,カートリッジ製剤としてペンフィル製剤,ヒューマカート製剤があり,さらに,ペン型シリンジ製剤を万年筆型シリンジに装填し,インスリン製剤とペンを一体化して使い捨てとしたのがノボレット製剤といえよう(表1参照,306ページ).
 以下に,剤形と基本的用量・用法のみあげておく.各製剤の特徴や投与法は前出インスリンの各項を参照されたい.

スルホニル尿素製剤(経口血糖降下薬)

オイグルコン(ペーリンガー・マンハイム,山之内)=ダオニール(ヘキスト・マリオン・ルセル)

著者: 若杉博子 ,   清野裕

ページ範囲:P.313 - P.313

臨床薬理
●作用機序:膵臓のランゲルハンス島β細胞SU受容体に結合するインスリン分泌促進を主とするが,肝での糖新生の抑制など膵外作用も知られている.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要.

グリミクロン(大日本)

著者: 若杉博子 ,   清野裕

ページ範囲:P.314 - P.314

臨床薬理
●作用機序:膵臓のランゲルハンス島β細胞SU受容体インスリン分泌促進.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要.

ジメリン(塩野義)

著者: 若杉博子 ,   清野裕

ページ範囲:P.315 - P.315

臨床薬理
●作用機序:膵臓のランゲルハンス島β細胞刺激によるインスリン分泌促進.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要.

ビグアナイド系製剤(経口血糖降下薬)

グリコラン(日本新薬)=メルビン(住友化学)

著者: 伴野祥一 ,   宇都木敏浩 ,   伊藤嘉人 ,   河津捷二

ページ範囲:P.316 - P.317

 一般名はメトホルミンで,既に日本ではビグアナイド系薬物として最も一般的に使用されているものである.ビグアナイド系薬物としては,このほかにブホルミンとフェンホルミンがあるが,フェンホルミンは強力で,乳酸アシドーシス発生による事故もあり,現在使用されなくなった.メトホルミンは乳酸アシドーシス発生も少なく(0.03/1,000人),1995年,これまでビグアナイド系製剤が市販されていなかった米国でもFDAの承認するところとなり,再び注目を集めるようになった.

ジベトスB(ヘキスト・マリオン・ルセル)

著者: 河津捷二 ,   宇都木敏浩 ,   伊藤嘉人 ,   伴野祥一

ページ範囲:P.318 - P.318

臨床薬理
●作用機序:血糖降下作用の機序については,いまだ確立していないが,作用機序はメトホルミンと同様で.その作用の主体はインスリン作用の増強にあると考えられる(グリコラン®の項を参照).
●吸収・分布・代謝・排泄:腸管より吸収されて,大部分未変化体のまま尿中に排泄される.半減期は2時間と短いが,作用時間は6〜14時間とされる.

αグリコシダーゼ阻害薬(食後過血糖改善薬)

グルコバイ(バイエル)

著者: 豊田隆謙

ページ範囲:P.321 - P.322

 一般名はアカルボース.1973年にActinoplanes utahensis菌培養液から抽出されたもので,構造はオリゴ糖の一種である.活性部位はバリエナミンである.

ベイスン(武田)

著者: 豊田隆謙

ページ範囲:P.323 - P.324

 ベイスン®はグルコバイ®と違い,構造はオリゴ糖ではなく,バリオールアミンであり,一般名はボグリボースである.1981年に武田薬品でStreptomyces hygroscopicus subsp.limoneus培養液から抽出された.

インスリン抵抗性改善薬

ノスカール(三共)

著者: 柏木厚典

ページ範囲:P.325 - P.326

 骨格筋,肝臓のインスリン抵抗性は,インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)発症の重要な要因である.トログリタゾン(ノスカール®)はチアゾリジンダイオン誘導体で,インスリン感受性組織のインスリン抵抗性を改善することにより高インスリン血症を改善し,同時に血糖を低下する薬剤で,肥満を伴うインスリン抵抗性糖尿病症例に特に有効である.1995年末製造承認をうけ,発売が予定されている.

糖尿病合併症治療薬

キネダック(小野)

著者: 堀田饒

ページ範囲:P.327 - P.328

臨床薬理
●作用機序:糖尿病性合併症の発症メカニズムは複雑多岐で,いまだ一定した見解はない.しかし,高血糖とそれに関連した代謝異常を中心として糖尿病性合併症が発症することに異論はなく,ポリオール代謝経路の活性亢進はその代表といえる.本代謝経路は,NADPH→NADp NAD→NADH
 グルコース→ソルビトール→フルクトースのわずか2つのステップからなり,最初のステップの律速酵素がアルドース還元酵素(aldose reductase;AR)である.発症メカニズムの詳細は別にして,本代謝経路の活性亢進で糖尿病性合併症が発症・進展するならば,その代謝経路を調節している律速酵素ARの活性抑制で合併症の発症・進展の阻止・遅延が理論的には可能となる.このような仮説に基づき開発されてきた薬剤がAR阻害薬エパルレスタット(キネダック®)である.
 高血糖状態で本代謝経路の活性が亢進され,合併症と関連した組織の細胞内ソルビトール産生増と蓄積が合併症を惹起する作用機序には,①浸透圧の上昇,②ミオイノシトール減少とNa/K-ATPase活性の低下,③NADH/NAD比の上昇,④プロテインキナーゼC活性の異常,が想定されている.

メチコバール(エーザイ)

著者: 安田斎

ページ範囲:P.331 - P.332

臨床薬理
●作用機序:メコバラミンはホモシステインからメチオニンが合成される際,補酵素として働く.さらに,生体内メチル基転移を促進することにより,核酸合成に関与し,転移RNAのメチル化を促進し,蛋白合成を促進させる.これらの過程は軸索骨格蛋白合成に影響する.一方,髄鞘の主要成分であるレシチンがセファリンより合成される際のメチル基転移反応に関与するS—アデノシルメチオニンの合成にも関与しているので,ビタミンB12欠乏で神経障害が惹起されることは想像に難くない.さらに,糖尿病では血中および坐骨神経のB12濃度の低下が報告されている.しかし,糖尿病性神経障害(DN)の発症機序にB12欠乏の関与が大きいとは考えられない.現在,DNに対するメコバラミンの治療効果の作用機序については不明な点が多いが,糖尿病ラットを用いた検討では,神経伝導速度低下の阻止,坐骨神経有髄神経線維密度の低下,線維直径の小径化,自律神経無髄線維の軸索病変などの改善が報告されている.しかし,神経ソルビトール高値,ミオイノシトール低値,神経Na/K—ATPase活性低値については改善しない.
●血中濃度モニタリング:血中濃度をモニターして個々の患者の治療に利用する意義は低い.

メトリジン(大正)

著者: 渥美義仁

ページ範囲:P.333 - P.333

臨床薬理
●作用機序:本剤は吸収後,主として肝臓で代謝されてグリシン残基が解離し,活性代謝物となる.この活性代謝物がα—アドレナリン受容体刺激を介して,末梢血管収縮作用,末梢血管抵抗増加作用を示す.心臓への直接作用はなく,脳組織血流量にも影響を及ぼさないとされている.

リズミック(大日本)

著者: 渥美義仁

ページ範囲:P.335 - P.336

臨床薬理
●作用機序:本剤はpyridazine核を有する非カテコールアミン類に属する間接型交感神経作動薬であり,もっぱら交感神経節後ニューロン末端に作用し,中枢神経作用はもたない.その間接型交感神経様作用は,交感神経内MAO-A阻害作用,ノルアドレナリン再吸収抑制作用,ノルアドレナリン放出作用によるものである.起立性低血圧作用に対抗しては,本剤の末梢血管収縮作用と心拍数増加作用が合わさって効果が現れると考えられている.一方,安静時高血圧が発現しにくいのは,本剤が肝臓で代謝されずにほとんど尿から未代謝のまま排泄され,蓄積しないからであろう.

抗肥満薬

サノレックス(サンド)

著者: 池田義雄

ページ範囲:P.337 - P.338

 食欲調節の多くが中枢性になされていることから,薬物による食欲抑制については古くから関心がもたれていた.ここでは,わが国における唯一の抗肥満薬であるマジンドール(サノレックス®)について解説する.

高尿酸血症治療薬

ザイロリック(ウエルカム)

著者: 藤森新

ページ範囲:P.339 - P.340

臨床薬理
●作用機序:プリン分解経路の最終ステップでヒポキサンチンをキサンチンから尿酸に酸化する酵素であるキサンチン酸化酵素を抑制して,尿酸の生成を阻害し,血中尿酸および尿中尿酸を低下させる.
●血中濃度モニタリング:必ずしも必要ではない.

ユリノーム(鳥居)

著者: 河野典夫

ページ範囲:P.341 - P.342

臨床薬理
●作用機序:本剤の血清尿酸降下作用は,腎近位尿細管ないしヘンレループにおける尿酸再吸収抑制に基づく,尿への尿酸排泄促進効果による.腸管(便中)への尿酸排泄促進効果も報告されているが,これはまだ確立されていない.
●血中濃度モニタリング:本剤100mgの1回投与後は,血中薬剤濃度は5〜6時間後に頂値を示す.連日100mg投与時は,血中濃度は2日間で急上昇し,以後徐々に上昇し,12日目に最大に達する.本剤50mg1回投与後は,血中濃度は過半数が2時間後に頂値,残りが4〜8時間後に頂値を示す.また,薬剤効果〔尿酸クリアランス(Cua)/クレアチニンクリアランス(Ccr)〕は4〜10時間後に最大に達し,以後徐々に減弱するが,24時間後もなお持続している.

カルシトニン製剤(骨粗鬆症治療薬)

エルシトニン(旭化成)

著者: 稲葉雅章 ,   森井浩世

ページ範囲:P.343 - P.345

 カルシトニンは1962〜1963年にイヌ,ラットなどの哺乳動物において発見され,その後の研究で魚類,鳥類にも見つかった.甲状腺C細胞で合成分泌され,Ca濃度の上昇が分泌刺激となる.破骨細胞に直接作用して,その骨吸収を抑止することが知られている.しかし,ヒトでの生理的な役割は確立されていない.すなわち,骨粗鬆症患者で,カルシトニンの分泌が障害されている旨の報告はみられるが確定的なものではない.しかし,カルシトニンがその薬理量において,破骨細胞の活性を低下させ,骨吸収を抑制するのはまぎれもない事実であり,このことから,骨吸収の程度が骨形成を上回り,骨の単位面積当たりの骨量が減少し,それに伴う腰骨痛や病的骨折を引き起こす骨粗鬆症に対して有効であると考えられた.本剤の一般名はエルカトニンであり,ウナギカルシトニンのジスルフィド結合をエチレン結合に変えて,物理化学的に安定化させた誘導体である.本剤は,ヒトカルシトニンよりその効力が強く,またCa低下作用の持続も長い.

オステン(武田)

著者: 山本逸雄

ページ範囲:P.346 - P.346

臨床薬理
●作用機序:本剤はイプリフラボン(C18H16O3,MW:280)を含有する薬剤であり,イプリフラボンは,in vitroおよび動物モデル実験にて,骨に対して直接骨吸収抑制作用を有し,また少量のエストロゲン存在下でカルシトニンの分泌を促進する作用を有し,これらの作用により,骨の喪失を防ぐものと考えられている.また臨床試験にて,骨痛の改善,および二重盲検試験にて骨量の増加作用が認められている.

ロカルトロール(ロシュ)

著者: 細井孝之 ,   大内尉義

ページ範囲:P.347 - P.348

臨床薬理
●作用機序:体内のビタミンD3は食品に由来するものと,体内において紫外線の影響のもとに,皮膚において合成されるものがある.ビタミンD3がその生理活性を発揮するには,1α位と25位が水酸化された1α,25-dihydroxy-vitamin D3になる必要がある.1α位の水酸化は腎臓で,25位の水酸化は肝臓で行われることが知られている.ロカルトロール(calcitriol;1α,25-dihydroxy-vitamin D3)はこの2つの水酸化が既に行われている製剤であり,このままの形で標的細胞に作用する.一方,アルファロール®あるいはワンアルファ®の製品名で知られる薬剤は1α-hydroxy-vitamin D3であり,ビタミンD3の1α位のみが水酸化されたものである.これらは,体内で吸収された後にさらに肝臓で水酸化される必要がある.
 1α,25-dihydroxy-vitamin D3は腸管や腎臓,骨組織といった標的臓器に作用する.腸管においてはカルシウムの吸収を促進し,腎臓においてはカルシウムの再吸収を促すことが示されている.この結果,骨粗鬆症患者,特に高齢者におけるカルシウム代謝を改善し,骨量の維持・増進に結びつくものと考えられる.さらに,骨では骨形成系,骨吸収系の両方に直接作用し,骨代謝を活性化することによって骨粗鬆症の治療効果が得られるものと考えられる.

アルファロール(中外)=ワンアルファ(帝人)

著者: 細井孝之 ,   大内尉義

ページ範囲:P.349 - P.350

臨床薬理
●作用機序:アルファロール®あるいはワンアルファの®製品名で知られる薬剤は同一の活性型ビタミンD3製剤である.これらの一般名は1α-hydroxy-vitamin D3であり,ビタミンD3の1α位が水酸化されたものである.ビタミンD3は食品中からも摂取されるが,体内においても,紫外線の影響のもと,皮膚において合成される.ビタミンD3がその生理活性を発揮するには1α位と25位が水酸化された1α,25-dihydroxy-vitamin D3になる必要があり,1α位の水酸化は腎臓で,25位の水酸化は肝臓で行われることが知られている.本剤は,この一方の水酸化がなされているということで活性型ビタミンD3の範疇に入れられるが,体内で吸収された後にさらに肝臓で水酸化される必要がある.
 1α-hydroxy-vitamin D3は,体内で1α,25-di-hydroxy-vitamin D3となり,腸管や腎臓,骨組織といった標的臓器に作用する.腸管においてはカルシウムの吸収を促進し,腎臓においてはカルシウムの再吸収を促すことが示されている.この結果,骨粗鬆症患者,特に高齢者におけるカルシウム代謝を改善し,骨量の維持・増進に結びつくものと考えられる.さらに,骨では骨形成系,骨吸収系の両方に直接作用し,骨代謝を活性化することによって骨粗鬆症の治療効果が得られるものと考えられる.

高カルシウム血症治療薬

アレディア(チバガイギー)

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.353 - P.354

 本剤はビスフォスフォネート(二リン酸塩)と呼ばれる一群の合成有機燐酸化合物の一つであり,基本骨格であるP-C—PにCH2—CH2—NH2の側鎖のついた3—アミノ−1-1・ヒドロキシプロピリデン・ビスフォスフォネート(パミドロネート)である.

内分泌疾患治療薬 成長ホルモン製剤(成長障害治療薬)

ジェノトロピン(住友)=ノルディトロピン(ノボノルディスク—山之内)=ヒューマトロープ(イーライリリー)

著者: 肥塚直美

ページ範囲:P.357 - P.359

臨床薬理
●作用機序:ヒト成長ホルモン(hGH)は191個のアミノ酸よりなるペプチドである.GHは成長促進作用のみならず,肝臓,筋肉,脂肪組織などに作用して蛋白・糖・脂肪代謝などに関与している.GHの骨成長の作用機構を図1に示すが,GHは肝・軟骨細胞でのIGF-I(インスリン様成長因子—I,ソマトメジンC)の産生を促し,このIGF—Iがendocrineあるいはautocrine,paracrine的に作用して骨成長を促すと考えられている.

成長ホルモン分泌抑制薬(先端巨大症治療薬)

パーロデル(サンド)

著者: 板東浩 ,   斎藤史郎

ページ範囲:P.360 - P.361

臨床薬理
●作用機序:パーロデル®,一般名プロモクリプチン(Br)は,1968年に開発された麦角アルカロイド誘導体であり,その後,本剤は薬理学的に特異性の高いドパミン作動薬であることが明らかになった.ドパミン作動薬は,正常者ではGH分泌を促進するが,多くの先端巨大症患者では逆にGH分泌を抑制する.この機序は,本剤が下垂体腺腫に直接作用し,D2レセプターを介してGH分泌を低下させるためとされる1)

サンドスタチン(サンド)

著者: 島津章

ページ範囲:P.362 - P.362

臨床薬理
●作用機序:本剤は,血中半減期が約2時間の持続型アナログで,ソマトスタチン受容体に結合する.サブタイプ2型および5型に親和性があり,下垂体ではGH・TSH分泌を抑制する.Gi蛋白を介するアデニル酸シクラーゼの抑制,Kチャネルを介する膜脱分極やホスファターゼ活性化などの細胞内機構による.

下垂体後葉ホルモン製剤(中枢性尿崩症治療薬)

デスモプレシン点鼻液(協和醗酵)

著者: 山田正三

ページ範囲:P.363 - P.364

臨床薬理
●作用機序:抗利尿ホルモン誘導体で,腎尿細管での水の再吸収を促進する.ピトレシン®に比し,抗利尿作用が強く,血管収縮作用,子宮収縮作用がほとんどない.不活性化機構は不明であるが,60%程度が尿中に排泄される.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不要である.

甲状腺ホルモン製剤(甲状腺機能低下症治療薬)

チラーヂンS(帝国臓器)

著者: 藤平隆司 ,   江藤澄哉

ページ範囲:P.365 - P.365

臨床薬理
●作用機序:体内に取り込まれたT4は,筋肉などの末梢組織において5´—脱ヨード酵素によってT3に変換される.T3は細胞の核内に取り込まれ,TRE(thyroid hormone responsive element)を介して,各種遺伝子の転写調節をすることによってホルモン作用を発現する.
●血中濃度モニタリング:厳密な意味でのモニタリングではないが,臨床的にはfT4,fT3,TSHの測定が有用である.機能低下症の原因の大部分が橋本病による原発性であるので,ネガティブフィードバック機構を正常化するようにTSHの値を目安に補充量を決定する.

抗甲状腺薬(甲状腺機能亢進症治療薬)

メルカゾール(中外)/チウラジール(東京田辺)=プロパジール(中外)

著者: 藤平隆司 ,   江藤澄哉

ページ範囲:P.366 - P.367

臨床薬理
●作用機序:メルカゾール®(以下,MMI)とチウラジール®=プロパジール®(以下,PTU)の両者は,甲状腺ホルモンの合成を阻害することによって機能亢進症を改善するが,PTUには末梢組織でのT4からT3への変換を阻害する作用もある.また,両者が甲状腺特異的自己免疫疾患であるBasedow病に有効な理由として,免疫抑制作用が推測されている.
●血中濃度モニタリング:臨床的に必ずしも必要でない.

副腎皮質ホルモン製剤(副腎皮質機能低下症治療薬)

コートリル(ファイザー)

著者: 岡本新悟

ページ範囲:P.368 - P.368

臨床薬理
●作用機序:副腎皮質から分泌されるコルチゾールと同一の製剤であり,糖質コルチコイドとしての作用と,用量依存的なミネラロコルチコイド作用,ならびに抗炎症作用・抗アレルギー作用を有する.
●血中濃度のモニタリング:投与中のコルチゾールの血中濃度は変動が大きく,補充量の指標にはならず,血中濃度のモニタリングは行わない.

ソル・コーテフ(住友)=サクシゾン(日研)

著者: 岡本新悟

ページ範囲:P.369 - P.370

臨床薬理
●作用機序:投与されると,速やかに解離してハイドロコルチゾンとなる.糖質コルチコイドとしての作用と用量依存的なミネラロコルチコイド作用を有する.
●血中濃度のモニタリング:本剤は主として一時的に大量投与を目的に使用され,コルチゾールのモニタリングは行わない.

プレドニン(塩野義)/水溶性プレドニン(塩野義)

著者: 岡本新悟

ページ範囲:P.371 - P.371

臨床薬理
●作用機序:合成副腎皮質ホルモン薬で,ハイドロコルチゾンの約4倍の抗炎症作用を有し,抗アレルギー作用,免疫抑制作用を有する.糖質コルチコイドとしての代謝に対する作用と,ハイドロコルチゾンの0.7〜0.8倍のミネラロコルチコイド作用を有している.
●血中濃度モニタリング:投与中の本剤の血中濃度のモニタリングは行わない.

ソル・メドロール(ファルマシア・アップジョン—住友)

著者: 岡本新悟

ページ範囲:P.372 - P.372

 臨床薬理
 ●作用機序:強力な抗ショック作用,免疫抑制作用と,抗炎症作用を有するが,ミネラロコルチコイド作業は極めて少ない.
 ●血中濃度モニタリング:本来,短期大量投与を目的としたステロイド製剤で,血中濃度をモニタリングすることはない.

デカドロン(萬有)

著者: 岡本新悟

ページ範囲:P.373 - P.373

臨床薬理
●作用機序:強力な抗炎症作用,抗アレルギー作用を有し,ミネラロコルチコイド作用は極めて少なく,合成ステロイド薬のなかでは下垂体抑制作用が最も強い.
●血中濃度モニタリング:本剤の血中濃度のモニタリングは行わない.

リンデロン(塩野義)

著者: 岡本新悟

ページ範囲:P.374 - P.374

臨床薬理
●作用機序:強力な抗炎症作用と抗アレルギー作用,免疫抑制作用を有し,ミネラロコルチコイド作用はほとんどない.
●血中濃度モニタリング:投与中の本剤の血中濃度のモニタリングは行わない.

性ホルモン製剤(性腺機能低下症治療薬)

エナルモンデポー(帝国臓器)

著者: 北原聡史 ,   大島博幸

ページ範囲:P.375 - P.376

臨床薬理
●作用機序:精巣で生合成・分泌されるテストステロンは,経口投与すると肝で短時間で代謝されてしまう.テストステロンの17βの水酸基をエナント酸でエステル化したものは,疎水性が高くデポー剤にでき,筋注により血中への移行を遅らせることができるため,本剤は長い作用時間を有する.血中に移行したエナント酸テストステロンは,標的組織で脱エステル化された後で組織内に取り込まれ,アンドロゲンレセプターと結合して,男性ホルモン作用を示す.
●血中濃度モニタリング:本剤の効果は血中テストステロン値で推定できるが,基本的には血中濃度のモニタリングは臨床的には不要である.本剤は筋注直後から高テストステロン値を示し,その後徐々に低下する.成人Klinefelter症候群患者に対する本剤250mgの投与では,3週以降は血中テストステロン値は正常値以下になったと報告されている.

プレマリン(旭化成)

著者: 苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.377 - P.378

臨床薬理
●作用機序:本剤は妊馬尿から抽出した天然結合型エストロゲン製剤で,その主成分はエストロンサルフェート(estrone sulfate)とエクイリンサルフェート(equilin sulfate)である.内服により腸管から吸収されたエストロンが作用を発揮する.エストロゲン製剤の主な作用は,性器に対する作用として,①子宮筋の肥大およびオキシトシンに対する感受性を高める作用,②子宮内膜を増殖させる作用,③子宮頸管腺の分泌を促進する作用,④卵管の運動を促進する作用,⑤腟粘膜の角化を増加する作用,⑥乳腺を成長させる作用,⑦プロラクチンの分泌を促進する一方,乳汁の分泌を抑制する作用などがある.また性器以外の作用としては,③視床下部・下垂体にフィードバックしてGnRHおよびゴナドトロピンの分泌を減少させる作用,⑨Ca代謝を通して骨の増殖を促進する作用,⑩女性の二次性徴の発現を促す作用などがある.

プロベラ(住友—ファルマシア・アップジョン)

著者: 苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.379 - P.380

臨床薬理
●作用機序:本剤は,合成プロゲストーゲンであるメドロキシプロゲステロンアセテート(me—droxyprogesterone acetate)製剤である.プロゲストーゲンの主な作用は,性器に対する作用として,①子宮筋のオキシトシンに対する感受性を弱める作用,②子宮内膜を分泌期化させる作用,③子宮頸管腺の分泌を抑制する作用,④腟上皮の角化を抑制する作用,⑤乳腺を成長させる作用,⑥去勢動物の妊娠維持作用などがある.また性器以外の作用としては,⑦視床下部・下垂体に働いて体温を上昇させる作用,⑧蛋白異化作用,⑨中枢にフィードバックしてGnRHおよびゴナドトロピンの分泌を減少させる作用などが知らされている.
 プロゲストーゲン製剤には上記のプロゲストーゲン活性以外に,エストロゲン活性およびアンドロゲン活性をもつものがあるが,本剤のエストロゲン活性やアンドロゲン活性は極めて弱く,プロゲストーゲン活性が高い製剤である.

プラノバール(ワイス)

著者: 苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.381 - P.381

臨床薬理
 本剤は,合成プロゲストーゲンであるノルゲストレル0.5mgと,合成エストロゲンであるエチニールエストラジオール0.05mgを含む合剤である.主な薬理作用はプロゲストーゲン作用(プロベラ®の項を参照)とエストロゲン作用(プレマリン®の項を参照)である.ノルゲストレルは各種プロゲストーゲンのなかでは黄体ホルモン作用,特に子宮内膜に対する作用や排卵抑制作用が非常に強い製剤であり,一方,エチニールエストラジオールも極めて強いエストロゲン活性を有し,ゴナドトロピン分泌抑制作用が強い製剤である.それらの合剤である本剤は,抗ゴナドトロピン作用,排卵抑制作用が強く,また子宮内膜の増殖や分泌期性変化を障害するので,経口避妊薬としても利用されている.

腎疾患治療薬 利尿薬

ラシックス(ヘキスト・マリオン・ルセル)

著者: 柳田太平 ,   吉富宏治

ページ範囲:P.384 - P.385

臨床薬理
●作用機序:ヘンレの太い上行脚の管腔側膜には,Na-K−2C1共輸送とKチャネルが存在し,基底側膜にはNaポンプとKチャネル,C1チャネルが存在しており,強力にNaを再吸収している.ループ利尿薬は,このNa-K−2C1共輸送体を選択的に阻害することで,利尿効果を発現している.ヘンレ上行脚でのNaC1の再吸収量は糸球体濾過量の20〜30%に相当するため,尿中Na排泄分画(FENa)は20〜30%となる.これは,サイアザイド系利尿薬の5〜10%に比し,ループ利尿薬が強力な利尿作用を有していることを示す.生理学的にNa-K−2C1共輸送体の存在が確かめられている臓器,すなわち小腸,唾液腺,耳下腺,涙腺,脈絡膜,汗腺などにも,ループ利尿薬が作用することを考慮に入れると,副作用の発現が理解できる.
●血中濃度モニタリング:通常は行われない.腎機能正常者に経口投与すると,1時間以内に利尿効果が出現し,作用は約6時間持続する.静脈内に投与した場合は,効果の発現は早く,30分以内にピークに達するが,持続は2〜3時間と短い.腸管でのフロセミドの吸収率は40〜60%であり,約半分は便中に排泄される.dose-responseは明らかであり,投与量を増せば効果も大きくなる.

アルダクトンA(日本モンサント—大日本)

著者: 柳田太平 ,   吉富宏治

ページ範囲:P.386 - P.387

臨床薬理
●作用機序:アルドステロンは,他のステロイドホルモンと同じように,標的細胞の基底側膜にある受容体に結合し,ホルモン—受容体複合体を形成する.この複合体が核のクロマチン受容体と結合後,アルドステロン誘導蛋白が合成され生理作用を発揮する.アルドステロンの主な作用部位は,皮質部集合管,髄質外層集合管と考えられており,集合管細胞における管腔側膜のNa,Kチャネルの増加,基底側膜のNa-K—ATPase活性の亢進,α間在細胞における管腔側膜のHポンプ活性の亢進,基底側膜のC1/HCO3交換輸送の亢進をもたらすことにより,Na再吸収,K分泌,H分泌を刺激する.スピロノラクトンはアルドステロン受容体と結合はするが,核内に移行せず生理活性を示さない.これによりアルドステロン拮抗阻害効果を示し,NaとC1の排泄を促進し,Kの排泄を抑制するカリウム保持性利尿薬として働く.また,副腎皮質において,3β—hydroxysteroid dehy—drogenase,21—hydroxylase,11β—hydroxylase,コレステロール側鎖切断酵素などのステロイド合成酵素を阻害し,アルドステロンの産生を抑制する作用をもつ.

ソルダクトン(日本モンサント—大日本)

著者: 柳田太平 ,   吉富宏治

ページ範囲:P.389 - P.389

臨床薬理
●作用機序:カンレノ酸カリウムはスピロノラクトンと同様に,アルドステロン受容体拮抗阻害効果を示すカリウム保持性利尿薬である.カンレノ酸カリウム自体はアルドステロン受容体とほとんど結合しないが,代謝産物であるカンレノンはスピロノラクトンの約30%の受容体結合能を有する.したがって,カンレノ酸カリウムの抗アルドステロン作用はカンレノンのアルドステロン受容体拮抗阻害効果によるものと考えられている.
●血中濃度モニタリング:通常は行われない.健常人に300mg静注にて,血漿中消失は二相性で半減期は分布相で0.84時間,排泄相で9.22時間.尿中排泄15.9%.

副腎皮質ステロイド(腎炎・ネフローゼ治療薬)

プレドニン(塩野義)

著者: 槇野博史 ,   弘中一江

ページ範囲:P.390 - P.392

臨床薬理
●作用機序:副腎皮質ステロイド薬のプレドニゾロンは,全身の諸臓器の細胞質に存在するステロイド受容体のスーパーファミリーに属するグルココルチコイド受容体(GR)に結合することにより,その作用を発揮する.プレドニゾロンと結合後,GRは活性型GRとなり,核内に移行して,標的遺伝子に作用して標的遺伝子の転写活性を調節することによって多彩な作用を発揮するとともに,重篤な副作用ももたらす.
 ステロイド薬は,少量投与では抗炎症作用を示し,最近の知見によると,①IL−1,TNF,GM—CSF,IL−3,IL−4,IL−5,IL−6,IL−8などの各種サイトカインの産生抑制によるものと考えられている.その他としては,②プロスタグランジンおよびその近縁物質の生成を抑制,③線維芽細胞および血管内皮細胞の反応性の低下・接着因子の減少,④一酸化窒素の産生抑制などの機序が考えられている.

水溶性プレドニン(塩野義)

著者: 槇野博史 ,   弘中一江

ページ範囲:P.393 - P.393

臨床薬理
●作用機序:通常の経口ステロイド療法では,ステロイドの血中濃度は20μg/dl前後であるが,パルス療法後は5mg/dl前後になる.パルス療法では,経口ステロイド療法に比し血中濃度が250倍に達し,また24時間後にも20μg/dlを保っている.したがって,強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を早期に発揮する.
●血中濃度モニタリング:通常は行わない.

免疫抑制薬(腎炎・ネフローゼ治療薬)

エンドキサン(塩野義)

著者: 富野康日己 ,   鈴木重伸

ページ範囲:P.394 - P.395

臨床薬理
●作用機序:本剤は肝臓で活性化され,DNAの複製を直接阻害する.その作用は用量依存性である.T細胞,B細胞,単球/マクロファージに作用するが,特にB細胞に対する作用が強く,抗体産生を抑制する〔アルキル化薬〕.
●血中濃度モニタリング:投与中の血中濃度のモニタリングは行わないが,副作用の予防のため,8〜12週以内(1クール)で総投与量が10gを超えないようにする.

サンディミュン(サンド)

著者: 富野康日己 ,   鈴木重伸

ページ範囲:P.396 - P.396

臨床薬理
●作用機序:本剤は,主としてT細胞(リンパ球)に,一部B細胞に働き,免疫抑制作用を発現する.特に,ヘルパーT細胞に作用してIL−2の産生・放出を抑制すると考えられている〔抗生剤由来免疫抑制薬〕.
●血中濃度モニタリング:トラフレベル(検査日の朝服薬前)の血中濃度が50〜150ng/mlになるように投与量を調節する.本剤は併用薬により血中濃度が変化しやすいので,注意する.

製剤(腎症・腎不全治療薬)

アルファロール(中外)/ロカルトロール(ロシュ)

著者: 根本正則 ,   深川雅史

ページ範囲:P.397 - P.398

 腎不全においては,二次性の副甲状腺機能亢進などが起こり得るが,これには①腎におけるビタミンD活性化の低下,また細胞外イオン化Caの低下,②活性型ビタミンD受容体(VDR)の低下,③VDR以降の経路での作用不全,などのビタミンDの作用不足をきたす病変が関係していることがわかってきている.
 従来,腎不全患者において,活性型ビタミンDは,主に二次性の副甲状腺機能亢進に対して,これのもたらす骨吸収亢進などに対する予防的な意味も含めて投与され,ある程度の効果を上げてきた.しかし近年では,特に透析患者においては逆に,副甲状腺機能低下を呈している例も見受けられるようになっており,この原因としてビタミンDの投与過剰が考えられている.

ACE阻害薬(腎不全進行阻止・蛋白尿治療薬)

カプトリル(三共—ブリストル)

著者: 石橋由孝 ,   花井順一 ,   奥田俊洋

ページ範囲:P.399 - P.400

臨床薬理
●作用機序:本剤をはじめとするACE阻害薬の作用機序は,主としてアンジオテンシンII産生の抑制と,一部にブラジキニン分解の抑制を介すると考えられる.ACE阻害薬が最近注目を集めているのは,心・腎等の臓器保護作用やインスリン抵抗性の改善など,降圧作用以外の長期予後に対する効果が認められるようになったためである.腎糸球体では,アンジオテンシンIIは輸入細血管より輸出血管に強く作用するので,ACE阻害薬により糸球体輸出細血管のほうがより拡張し,糸球体内圧が低下する.このことは糸球体にかかる負荷を軽減することになるので,長期的にみると,腎疾患における糸球体機能低下の速度も軽減する可能性がある.実際ACE阻害薬による蛋白尿減少などの腎保護作用は,糖尿病ラット,部分腎臓摘出ラットなど実験動物において十分確かめられている.臨床的にも,蛋白尿(500mg/day以上)があり,血中クレアチニン値が2.5mg/dl以下の軽度〜中等度の糖尿病性腎症をもつIDDM患者でカプトリルを使用すると,末期腎不全への進行が半減することが示された1)

抗血小板薬(腎不全進行阻止・蛋白尿治療薬)

ペルサンチン(日本ベーリンガー)

著者: 高橋剛

ページ範囲:P.401 - P.402

臨床薬理
●作用機序:本剤が血小板機能を抑制するメカニズムとして,次の3つが考えられている.①血小板のホスポジエステラーゼを阻害し,血小板内のcyclic AMP濃度を高め,直接血小板機能を抑制する.②血管内皮細胞に作用してPG-I2分泌を刺激する.③流血中のアデノシンの細胞(赤血球,内皮)内取り込みを抑制し,血管内皮—血小板接面でのアデノシン濃度を高める.アデノシンはA2レセプターを介して血小板内のcyclic AMP産生を刺激する.
 この3つの機序のうち,どれが薬理作用の主体をなすかについては結論が出ていない.しかし③以外は,常用量のペルサンチン®経口摂取では到達できない高濃度での作用である.in vivoの試験では,本剤単独での抗血小板作用はみられないとの報告が多い1).さらに,塩酸チクロピジン,シロスタゾール(①の作用をもつ)など他の抗血小板薬に,蛋白尿減少作用はみられない.したがって今のところ,薬理作用の主体は③と考えてよいと思われる.

コメリアン(興和)

著者: 高橋剛

ページ範囲:P.403 - P.403

臨床薬理
●作用機序:本剤の薬理作用としては,①血小板のホスホリパーゼを阻害する.②アデノシンの細胞内取り込みを阻害して,細胞外アデノシン濃度を高める.ペルサンチン®,コメリアン®とも冠血管拡張薬として使われるが,その機序は②によると考えられている.ペルサンチン®の項でも述べたように,腎作用の主体も②のアデノシンの増強としたいが,詳細な機序は不明といわざるを得ない.

造血剤(腎性貧血治療薬)

エスポー/エスボー皮下用(麒麟麦酒—三共)

著者: 秋澤忠男

ページ範囲:P.404 - P.405

 ヒト胎児肝細胞の遺伝子ライブラリーからクローニングされたヒトエリスロポエチン(EPO)DNAを,チャイニーズハムスター卵母細胞で発現させて得られた,遺伝子組み換えヒトEPO(rHuEPO)製剤である.

アレルギー・リウマチ性疾患治療薬 抗アレルギー薬

セルテクト(協和醗酵)

著者: 東田有智 ,   村木正人

ページ範囲:P.408 - P.409

臨床薬理
●作用機序:主な作用は,ヒスタミン,ロイコトリエンなどの遊離抑制作用である1〜3)が,ロイコトリエン,ヒスタミン,セロトニン,アセチルコリン,ブラジキニン,PAFに対する拮抗作用4〜6)なども有する.
●血中濃度モニタリング:臨床的には特に必要はない.

アレギサール(東京田辺)=ペミラストン(プリストル)

著者: 東田有智 ,   村木正人

ページ範囲:P.411 - P.412

臨床薬理
●作用機序:ペミロラストはヒト肺組織,鼻粘膜擦過片および末梢白血球,ラット腹腔浸出細胞,ラットおよびモルモット肺組織からのケミカルメディエーター(ヒスタミン,LTD4,LTB4,PGD2,TXA2,PAFなど)の遊離を用量依存的に抑制するが1),同濃度でCa2+の取込みも抑制し,同時に細胞内Ca2+濃度の上昇も抑制する.また,抗原刺激後の1,2—ジアシルグリセロール,イノシトール三リン酸およびアラキドン酸の上昇も抑制する2).このことは本剤がイノシトールリン脂質代謝を阻害することにより,ケミカルメディエーターの遊離に重要な細胞内Ca2+の上昇,プロテインカイネースCの活性を抑え,脱顆粒を抑制すると考えられる.さらにホスホジエステラーゼ阻害に基づくcAMP増加作用の関与も示唆されている.なお,好酸球の活性化抑制作用も認められているが,その機序はまだ明らかではない.
●血中濃度モニタリング:本剤10mgを1日2回連続投与した場合の血中濃度は,ほぼ1日を通じて10−6M(フリー体として0.227μg/ml)を上回っており,吸収における個人差はあまりなく,血中濃度のモニタリングの必要性はないと考えられる.

ロメット(三菱化学—東京田辺,日研)

著者: 東田有智 ,   村木正人

ページ範囲:P.413 - P.413

臨床薬理
●作用機序:主な作用は,ヒスタミン,SRS-A(slow reacting substance of anaphylaxis),PAF(plateret activating factor)などの化学伝達物質の遊離を抑制し,抗アレルギー作用を発現1〜3).酸性抗アレルギー薬であり,抗ヒスタミン作用や気管支拡張作用は有しない.
●血中濃度モニタリング:臨床的には特に必要ない.

トリルダン(ヘキスト・マリオン・ルセル)

著者: 灰田美知子

ページ範囲:P.414 - P.415

臨床薬理
●作用機序:末梢H1受容体に対して特異的な拮抗作用(マウス,モルモット)を示すほか,肥満細胞・好塩基球からの化学伝達物質の遊離抑制,またヒスタミン,PAF(血小板活性化因子),ロイコトリエン拮抗作用などを有する(モルモット).
●吸収・分布・代謝・排泄:健常男子にテルフェナジン60mgを1回経口投与した場合,肝臓の初回通過効果により99%以上が速やかに代謝され,テルフェナジンと同様の薬理活性を有するカルボン酸型代謝物(約95%)と非活性の脱アルキル型代謝物(約5%)が血中に出現する.血漿中のカルボン酸型代謝物濃度は投与後2.3時間で最高値(300ng/ml)を示し,半減期は3.4時間から12時間までである.

アレジオン(日本ベーリンガー—三共)

著者: 灰田美知子

ページ範囲:P.416 - P.416

臨床薬理
●作用機序:抗ヒスタミン作用,化学伝達物質遊離抑制作用のほか,ロイコトリエンC4,PAF(血小板活性化因子),ブラジキニンなどに対する拮抗作用を有する.
●吸収・分布・代謝・排泄:健康成人に本剤20mgを単回経口投与した場合,1.9時間で最高血漿中濃度36.4ng/mlに達した後に比較的緩慢に減衰し,半減期は9.2時間である.吸収率は約40%,生物学的利用率は約39%である.

ポララミン(シェリング・プラウ)

著者: 灰田美知子

ページ範囲:P.417 - P.418

臨床薬理
●作用機序:主としてH1受容体と結合することにより,遊離ヒスタミンと受容体との結合を競合的かつ可逆的に阻害するとされている.
●吸収・分布・代謝・排泄:空腹の健常人に4mgをカプセルにて投与すると,3時間後に血中濃度はピークに達し,その値(Cmax)は9.0±1.7(SE)ng/mlで,その後,7.9±2.5(SE)時間の半減期で血中より消失する.しかし,治療上,有効な血中濃度についての資料はない.

アイピーディ(大鵬)

著者: 土橋邦生

ページ範囲:P.419 - P.419

臨床薬理
●作用機序:①Th2サイトカイン(IL−4,IL—5)の産生を選択的に制御し,IgEの産生を選択的に抑制し,また好酸球の組織浸潤を抑制することによりアレルギー性炎症を抑制する.②肥満細胞からのヒスタミンの遊離を抑制する.
●血中濃度モニタリング:不要.

ブロニカ(武田)

著者: 土橋邦生

ページ範囲:P.421 - P.421

臨床薬理
●作用機序:トロンボキサン(TX)A2受容体拮抗薬.TXA2は,強力な平滑筋収縮と血小板凝集作用を有する生理活性物質であり,気道過敏性の亢進に重要な役割を担っている.本剤は,TXA2と気道にあるその受容体との結合を阻害し,TXA2の作用を抑制することにより気管支喘息を改善する.
●血中濃度モニタリング:不要.

ドメナン(キッセイ)=ベガ(小野)

著者: 土橋邦生

ページ範囲:P.422 - P.422

臨床薬理
●作用機序:トロンボキサン(TX)合成酵素阻害薬.TXA2は,強力な平滑筋収縮と血小板凝集作用を有する生理活性物質であり,気道過敏性の亢進に重要な役割を担っている.本剤は,TXA2合成酵素を選択的に阻害し,TXA2の産生を抑制する.
●血中濃度モニタリング:不要.

ステロイド薬

プレドニン(塩野義)

著者: 大森司 ,   西岡雄一

ページ範囲:P.423 - P.425

臨床薬理
●作用機序:臨床的薬理作用は,抗炎症作用と強力な免疫抑制作用である(補充療法は除く).しかし,作用はそのほかにも蛋白質・糖・脂肪代謝や各臓器への影響など広範にわたるため,様々な副作用を引き起こすことを忘れてはならない.①血液への影響;白血球数上昇,好中球増加,リンパ球,単球,好酸球,好塩基球減少がみられる.リンパ球では特にCD4細胞数の抑制が強い.この大部分は血管外プールへの移行であり,抗炎症作用,免疫抑制作用の一因となる.②抗炎症効果;炎症の早期反応の白血球,単球,マクロファージの遊走を抑制するとともに,これらの炎症細胞由来の化学遊離物質分泌も抑制する.主にホスホリパーゼA2の阻害によるプロスタグランジン,ロイコトリエンの生成を抑制する.また,後期反応である毛細血管,線維芽細胞増殖やコラーゲンの沈着も抑制する.③免疫抑制効果;免疫反応の最初の段階であるマクロファージの集積を低下させ,IL−1の産生・遊離を抑制し,表面抗原処理とT細胞の活性化を抑制する.また,活性化T細胞より産生されるサイトカイン(主にIL−2)を抑制し,活性化T細胞の増殖・分化を抑える.引き続き,細胞間相互作用の抑制によりB細胞の増殖,抗体産生も抑制する.
●血中濃度モニタリング:臨床的には不必要であるが,その疾患の活動性を表す臨床所見,検査値により個々に投与量の調節が必要である.

リンデロンV(塩野義)

著者: 松田和子

ページ範囲:P.426 - P.427

臨床薬理
●作用機序:一般にコルチコステロイドは,標的細胞の細胞質内のレセプターと結合後,核内に移行して特定蛋白を合成させ,その合成蛋白により作用が発現されると考えられる.
●血中濃度モニタリング:臨床的には必要としない.

免疫抑制薬

イムラン(ウエルカム—住友)

著者: 當間重人

ページ範囲:P.428 - P.429

臨床薬理
●作用機序:アザチオプリンおよび6—メルカプトプリン(6—MP)は,代謝拮抗型の化学療法剤として開発されたプリン類似体である.特に6—MPのイミダゾール誘導体である本剤は免疫抑制効果にすぐれ,臓器移植後の拒絶反応抑制のために広く用いられている.本剤は体内で代謝されて活性型のチオイノシン酸となり,これがイノシン酸と拮抗してプリンヌクレオチドの生合成を阻害することによりプリンの生合成に重要な種々の経路を阻害し,細胞周期上S期にある細胞の分裂増殖を阻止すると考えられている.
●血中濃度モニタリング:通常行わない.

エンドキサン(塩野義)

著者: 當間重人

ページ範囲:P.430 - P.431

臨床薬理
●作用機序:本剤はアルキル化剤であり,DNAや蛋白と共有結合することによりこれらの分子をクロスリンクする.すなわちDNAの複製を阻害するので,分裂期の細胞を特に強く障害することにより効果を発揮する.
●血中濃度モニタリング:通常行わない.

メソトレキセート(レダリー—武田)

著者: 當間重人

ページ範囲:P.432 - P.433

臨床薬理
●作用機序:本剤は葉酸類似体であり,葉酸と拮抗してdihydrofolate reductaseと結合しその作用を阻害して,tetrahydrofolateの生成を抑制する.tetrahydrofolateはDNAやRNAの合成に必須であるほか,セリン—グリシンの転換やメチオニン合成などのアミノ酸代謝にも重要な補酵素として作用するため,本剤は核酸合成やアミノ酸代謝の阻害により抗腫瘍効果を発揮するものと考えられ,通常用量で白血病に治療効果がある.後述の慢性関節リウマチなどの膠原病に対する本剤の免疫調節・抗炎症作用の機序は十分には解明されていない.
●血中濃度モニタリング:通常行わない.

ブレディニン(旭化成)

著者: 當間重人

ページ範囲:P.434 - P.434

臨床薬理
●作用機序:本邦で開発された代謝拮抗型の免疫抑制薬で,プリン合成系のイノシン酸からグアニル酸にいたる経路を拮抗阻害することにより核酸合成を抑制するが,高分子核酸中には取り込まれない.
●血中濃度モニタリング:通常行わない.

サンディミュン(サンド)

著者: 當間重人

ページ範囲:P.435 - P.436

臨床薬理
●作用機序:Tリンパ球の抗原認識に伴う活性化の初期段階を比較的選択的に阻害し,Tリンパ球のインターロイキン(IL)−2産生を抑制する.細胞内のシクロフィリンと結合し,最終的にNF—ATなどの転写因子活性を抑制することによりIL−2産生を抑制すると考えられている.
●血中濃度モニタリング:臓器移植患者に投与する際には,過量投与による副作用の発現および低用量投与による拒否反応の発現などを防ぐため,トラフレベルの血中濃度を移植直後は頻回に,その後は1カ月に1回を目安に測定し,また,ベーチェット病および乾癬患者に投与する際にも,副作用の発現を防ぐため1カ月に1回を目安に血中濃度を測定し,投与量を調節する.

抗リウマチ薬

シオゾール(塩野義)

著者: 井上哲文

ページ範囲:P.437 - P.437

臨床薬理
●作用機序:単球に対しては,高濃度でHLAclass II分子の表現を抑制するが,IL−1産生の抑制能はなく,遊走,貪食,化学発光,活性酸素産生の抑制能も極めて弱い.リンパ球に対しては,高濃度でその増殖を抑制するものの,おしなべて明確な作用を発揮しない.多形核白血球の凝集,貪食,化学発光,活性酸素産生に対する抑制作用も弱い.滑膜細胞の増殖を強力に抑制する.注目すべき薬理活性として,低濃度で転写因子のDNAへの結合を阻害することが報告されている.

リドーラ(藤沢—スミスクライン)

著者: 井上哲文

ページ範囲:P.438 - P.438

臨床薬理
●作用機序:単球に対しては,IL−1産生を抑制するとともに,遊走,貪食,化学発光,活性酸素産生を抑制する.リンパ球に対しては,高濃度でその増殖を抑制するものの,おしなべて作用は明確でない.多形核白血球に対する作用は強く,凝集,貪食,化学発光,活性酸素産生を高度に抑制する.また,滑膜細胞増殖に対する抑制作用がある.

メタルカプターゼ(大正)

著者: 井上哲文

ページ範囲:P.439 - P.439

臨床薬理
●作用機序:免疫担当細胞のうち,主要標的細胞はTリンパ球と考えられてきた.本剤はCu2+あるいはセルロプラスミンの存在下で活性酸素の産生を誘導し,これがTリンパ球増殖や,Bリンパ球による抗体産生におけるヘルパー機能の抑制につながる.そして近年,このような抑制はTリンパ球のみにとどまらず,Bリンパ球,NK細胞,線維芽細胞にも生ずることが明らかにされている.また,筆者らのグループは最近,単球系細胞における抑制は最終的にはアポトーシスにっながることを明らかにした.

オークル(日本新薬)

著者: 井上哲文

ページ範囲:P.441 - P.441

臨床薬理
●作用機序:本剤はラットのアジュバント関節炎,マウスのコラーゲン関節炎,MRL/lマウスの自然発症関節炎を抑制する.また,マウスにおいてIII型およびIV型アレルギー反応を抑制する.その機序として,サプレッサーT細胞の分化誘導と,IL−2産生増強によるその促進が想定されている.
 プラセボを対照とした16週間の臨床試験において,ランスバリー活動性指数および関節点数の評価項目で有意な改善が得られた.この試験においては疼痛関節数,腫脹関節数,朝のこわばり持続時間,疼痛点数の改善をも認めたが,対照群との間の有意差を示すことはできなかった.

リマチル(参天)

著者: 井上哲文

ページ範囲:P.442 - P.442

臨床薬理
●作用機序:メタルカプターゼ®と同様,その構造にSH基を有する.作用機序も共通するところが多く,Tリンパ球機能を抑制すると考えられているが,これに関する報告は多くない.筆者らのグループは,本剤がTリンパ球を介するBリンパ球の活性化を抑制すること,また,活性酸素の産生誘導を介し単球系細胞にアポトーシスを引き起こすことを明らかにした.

アサルフィジンEN(ファルマシア—参天)

著者: 井上哲文

ページ範囲:P.443 - P.443

臨床薬理
●作用機序:免疫担当細胞に対し,種々の作用を有する.活性化された単球や好中球は活性酸素を遊離するが,本剤はこれを除去する.また,好中球におけるロイコトリエンB4の産生や,血小板におけるトロンボキサンA2の産生を抑制する.そして,主要標的細胞はTリンパ球と考えられている.in vitroの系においては,各種のマイトジェンに対するTリンパ球の反応を抑制し,Tリンパ球依存性抗原による特異的抗体産生を抑制する.また,Tリンパ球のIL−2産生を抑制する.invivoでは,本剤の投与後12週の時点で活性化Tリンパ球の数は減少し,血清IgMやリウマトイド因子の値も低下する.さらに,病態モデルに関し,ラットのアジュバンド関節炎,ラットあるいはマウスのII型コラーゲン誘発関節炎,MRL/lマウスの自然発症関節炎に対する予防効果や抑制効果が確認されている.

非ステロイド性抗炎症薬

ボルタレン(チバガイギー)

著者: 篠原聡

ページ範囲:P.444 - P.445

臨床薬理
●作用機序:シクロオキシゲナーゼの活性を阻害することにより,炎症・疼痛などに関与するプロスタグランジンの合成を阻害する.
●血中濃度モニタリング:不要.

クリノリル(萬有)

著者: 篠原聡

ページ範囲:P.446 - P.446

臨床薬理
●作用機序:シクロオキシゲナーゼの活性を阻害することにより,炎症・疼痛などに関与するプロスタグランジンの合成を阻害する.本剤はインデン系のプロドラッグで,生体内で活性型に代謝されて効果を現す.
●血中濃度モニタリング:不要.

ロキソニン(三共)

著者: 篠原聡

ページ範囲:P.447 - P.447

臨床薬理
●作用機序:NSAIDはシクロオキシゲナーゼの活性を阻害することにより,炎症・疼痛などに関与するプロスタグランジンの合成を阻害する.本剤はプロピオン酸系のプロドラッグで,生体内で活性型のTrans-OH体(SRS配位)に変換されて効果を現す.
●血中濃度モニタリング:不要.

インフリー(エーザイ)

著者: 篠原聡

ページ範囲:P.448 - P.448

臨床薬理
●作用機序:NSAIDはシクロオキシゲナーゼの活性を阻害することにより,炎症・疼痛などに関与するプロスタグランジンの合成を阻害する.本剤は,インドール酸系のインドメタシンとファルネソールのエステルで,生体内で活性体であるインドメタシンに代謝されて効果を発現する.脂溶性であることから良好な組織移行性を示す.慢性関節リウマチ(RA)の関節液中では,インフリー由来のインドメタシンがインフリーよりも高濃度で存在する.したがって,生体内でのインフリーからインドメタシンへの活性化は,肝・腎のみならず炎症局所でも行われていると推定され,炎症局所に選択的に作用する可能性が示されている.このほか,インフリーは®プロドラッグに共通してみられる胃腸障害の軽減という特徴も有する.
●血中濃度モニタリング:不要.

フルカム(ファイザー)

著者: 篠原聡

ページ範囲:P.449 - P.449

臨床薬理
●作用機序:NSAIDは,シクロオキシゲナーゼの活性を阻害することにより,炎症・疼痛などに関与するプロスタグランジンの合成を阻害する.本剤は,オキシカム系のピロキシカムのプロドラッグで,非酸性構造をもつため胃からの吸収がほとんどなく,腸管エステラーゼで加水分解され,活性体であるピロキシカムとなり効果を発現する.
●血中濃度モニタリング:不要.

ソレトン(ケミファ)

著者: 篠原聡

ページ範囲:P.450 - P.450

臨床薬理
●作用機序:NSAIDは,シクロオキシゲナーゼの活性を阻害することにより,炎症・疼痛などに関与するプロスタグランジンの合成を阻害する.本剤は,プロピオン酸系に分類されるNSAIDで,選択的に炎症部位でプロスタグランジンを抑制するため胃腸障害,腎障害が少なく,内因性疼痛物質であるブラジキニンにより惹起される疼痛反応に対する強い抑制効果により鎮痛作用が比較的強い.
●血中濃度モニタリング:不要.

感染症治療薬 ペニシリン系抗生物質

ペントシリン(富山化学—三共)

著者: 青木眞

ページ範囲:P.452 - P.452

臨床薬理
●作用機序:およそ30ほどの酵素反応が関与する細胞壁の構成物ペプチドグリカンの合成を障害することによるとされる.ペニシリン結合蛋白(penicillin binding protein:PBP)と呼ばれるペプチドグリカン合成に関与する酵素の障害も重要な作用機序である.「抗緑膿菌用ペニシリン」と分類される薬剤であり,さらにカルボキシルペニシリンとユレアイドペニシリンとに大別される.ユレアイドペニシリンはナトリウムの含有量が少なく,さらにクレブシエラ,腸球菌に対する活性がすぐれているため,カルボキシルペニシリンを実質上置き換えてしまった感がある.
●吸収・分布・代謝・排泄:筋注か静注で用いる.特に投与量の約1/3が胆汁中に排泄され高濃度の胆汁濃度が得られ,腎機能障害時にも比較的投与量の変更が少なくてすむ.

ユナシン(ファイザー)

著者: 青木眞

ページ範囲:P.453 - P.453

臨床薬理
●作用機序:およそ30ほどの酵素反応が関与する細胞壁の構成物ペプチドグリカンの合成を障害することによるとされる.ペニシリン結合蛋白(penicillin binding protein:PBP)と呼ばれるペプチドグリカン合成に関与する酵素の障害も重要な作用機序である.ペニシリンと同様のβ—ラクタム環をもち,β—ラクタマーゼに不可逆的に結合することにより働くβ—ラクタマーゼ阻害薬であるスルバクタムの存在により,β—ラクタマーゼ産生菌などにも抗菌力をもつ.
●吸収・分布・代謝・排泄:生体内でアンピシリンとβ—ラクタマーゼ阻害薬スルバクタムとなり,基本的には腎から排泄される.

サワシリン(藤沢)

著者: 青木眞

ページ範囲:P.454 - P.455

臨床薬理
●作用機序:ペントシリン®,ユナシン®と同様に,30ほどの酵素反応が関与する細胞壁の構成物ペプチドグリカンの合成を障害することによるとされる.ペニシリン結合蛋白(penicillin bindingprotein;PBP)と呼ばれるペプチドグリカン合成に関与する酵素の障害も重要な作用機序であるとされるが,今日の科学をもってしても詳細なβ-ラクタム系抗生物質の作用機序は不明である.
●吸収・分布・代謝・排泄:アンピシリンとともに酸に対して安定であり,経口でよく吸収され,食事により吸収が障害されることが少ないとされる.吸収後は全身によく行きわたり,特に炎症の存在下では髄液,胸腔,関節腔,腹腔内にも移行する.排泄は基本的に腎から行われる.

セフェム系抗生物質

セファメジン(藤沢)

著者: 大石和徳

ページ範囲:P.456 - P.456

 臨床薬理
 ●作用機序:本剤は第一世代の注射用セフェム系抗生物質であり,他のβ-ラクタム薬と同様に,細胞壁合成の最終段階の架橋酵素transpeptidaseの働きを阻害する.
 ●血中濃度モニタリング:本剤2gを1時間で点滴静注した場合の最高血中濃度は172.4μg/mlで,血中半減期は1.4~1.8時間である.同じ条件下で,髄液中には2~3μg/ml,喀痰中には0.3~2.4μg/mlが移行する.本剤は第一世代セフェム系抗生物質中では最も血中濃度の持続性があり,かつ組織移行性にすぐれている.また,尿中には点滴終了7時間後までに88.2%が排泄される.腎機能障害時には,糸球体濾過率の低下に応じて血中半減期が延長する.

ケフラール(塩野義)

著者: 大石和徳

ページ範囲:P.457 - P.457

臨床薬理
●作用機序:本剤は経口用第一世代セフェム系抗生物質である.作用機序は他のβ—ラクタム薬と同様,細胞壁の合成阻害にあり,主にペニシリン耐性の黄色ブドウ球菌を含む各種のグラム陽性菌およびインフルエンザ菌などのグラム陰性菌に対し,広い抗菌スペクトラムと強い抗菌力を示す.
●血中濃度モニタリング:本剤は経口投与後,主として小腸上部より吸収される.500mg,250mg経口投与時の最高血中濃度は平均13.0μg/ml,7.4μg/mlであり,血中半減期は30〜50分と短い.組織中への薬剤移行は,扁桃および上顎洞粘膜への移行は最高血中濃度と同等であり,喀痰中への移行はその1/10程度である.また,本剤は内服8時間後までに尿中にその70%以上が排泄される.

パンスポリン(武田)

著者: 和田光一

ページ範囲:P.458 - P.459

 塩酸セフォチアム(CTM)は,1981年に発売されたいわゆる第二世代セフェム系抗菌薬である.商品名はパンスポリン®(武田)あるいはハロスポァ®(チバガイギー)で,静注用と筋注用が発売されている.

セフメタゾン(三共)

著者: 和田光一

ページ範囲:P.460 - P.460

 セフメタゾールナトリウム(CMZ)は,1980年に発売された最初のセファマイシン系抗菌薬であり,開発時期で分類すると第二世代セフェム系抗菌薬に位置する.

クラフォラン(ヘキスト・マリオン・ルセル)

著者: 和田光一

ページ範囲:P.461 - P.461

 セフォタキシムナトリウム(CTX)は,1981年に発売されたいわゆる第三世代セフェム系抗菌薬として,最初に開発された抗菌薬である.静注用と筋注用が発売されている.

ロセフィン(ロシュ—杏林)

著者: 安川正貴

ページ範囲:P.463 - P.463

臨床薬理
●作用機序:本剤の作用は,細菌の細胞壁合成阻害である.細菌細胞壁ペプチドグリカン架橋形成を阻害して,殺菌的に作用する.
●吸収・分布・代謝・排泄:喀痰,体液,組織などへの移行は良好である.本剤の特徴として,長い血中濃度半減期があげられる.健常人では,投与量・投与法にかかわらず半減期は7〜8時間で,既存のセフェム剤中最も長い.また,尿中・胆汁中排泄率がそれぞれ約55%,45%と,両者にバランスよく排泄されることも特徴である.

モダシン(グラクソ—田辺)

著者: 安川正貴

ページ範囲:P.464 - P.464

臨床薬理
●作用機序:細菌の細胞壁合成(細胞壁ペプチドグリカン架橋形成)阻害により,殺菌的に作用する.本剤は,7位側鎖にアミノチアゾリル基を導入することにより,グラム陰性菌に対する抗菌力が増強し,カルボキシプロピルオキシイミノ基を導入することにより,β—ラクマターゼに対する安定性が向上した.また,3位側鎖のピリジニウムメチル基と2位のカルボキシル基の間で分子内塩をつくる構造と7位側鎖の陰性荷電とにより,緑膿菌を含むグラム陰性菌に対してすぐれた外膜透過性を示す.
●吸収・分布・代謝・排泄:血中濃度半減期は約1〜2時間で,喀痰,体液,組織内への移行は良好である.静脈内投与後,体内ではほとんど代謝されることなく高濃度に尿中に排泄される.

スルペラゾン(ファイザー)

著者: 安川正貴

ページ範囲:P.465 - P.465

臨床薬理
●作用機序:本剤は,β—ラクタマーゼ阻害薬のスルバクタムナトリウムとセフェム系抗生剤のセフォペラゾンナトリウムを1:1の割合で配合した製剤である.
●吸収・分布・代謝・排泄:各種体液,組織への移行は良好で,体内でほとんど代謝されることなく,主としてスルバクタムは尿中に,セフォペラゾンは糞便中に排泄される.

バナン(三共—グラクソ)

著者: 安川正貴

ページ範囲:P.466 - P.466

臨床薬理
●作用機序:細菌の細胞壁合成阻害作用により殺菌作用を示す.
●吸収・分布・代謝・排泄:本剤はエステル化されているプロドラッグであり,腸管壁の非特異的エステラーゼにより分解され,セフポドキシムとして吸収される.空腹時より食後投与のほうが吸収は良好で,腎を介して尿中に排泄される.

セフゾン(藤沢)

著者: 舟田久

ページ範囲:P.467 - P.467

 経口用セフェム系抗生物質に属し,一般名はセフジニル(CFDN)である.グラム陽性菌・陰性菌に広範な抗菌スペクトルをもち,特に黄色ブドウ球菌や連鎖球菌に従来の経口用セフェム薬より強い抗菌力を示す.

マキシピーム(ブリストル)

著者: 舟田久

ページ範囲:P.469 - P.469

 セフェム系抗生物質に属し,日和見菌を含む広範なグラム陽性菌・陰性菌および嫌気性菌(バクテロイデス・フラジリスを除く)にすぐれた抗菌力を示す.

モノバクタム系抗生物質

アザクタム(エーザイ)

著者: 舟田久

ページ範囲:P.470 - P.470

 単環β—ラクタムを母核構造とするモノバクタム系抗生物質である.好気性グラム陰性菌に選択的に作用し,強い抗菌力を示す.しかし,グラム陽性菌や嫌気性菌には無効である.

カルバペネム系抗生物質

チエナム(萬有)

著者: 重松三知夫 ,   長井苑子

ページ範囲:P.471 - P.473

臨床薬理
●作用機序:本剤は,世界最初のカルバペネム系抗生物質のイミペネム(IPM)と,dehydropepti-dase-I(DHP-I)阻害薬であるシラスタチンナトリウム(CS)の合剤である.IPMはカルバペネム骨格という新規な化学構造と,緑膿菌,嫌気性菌を含めた広い抗菌スペクトラム,β-ラクタマーゼに対する高い安定性などの特徴を有する薬剤として合成されたが,腎の近位尿細管に局在するDHP-Iによって加水分解されてしまう.このため,DHP-Iの作用を阻害するとともに,IPMのもつ腎毒性を軽減する働きを有するCSが開発され,両者を1:1の比で配合することにより,チエナム®が完成された.
 IPMをはじめとするカルバペネム系抗生物質は,ペニシリン系薬やセフェム系薬とともにβ-ラクタム系に属し,その抗菌作用機序はβ-ラクタム系に共通する細胞壁合成阻害による.細菌の細胞壁上にはペニシリン結合蛋白penicillin bindingproteins(PBPs)が存在し,細胞壁合成の過程で酵素として機能しており,その種類と機能は菌種によって異なっている.β-ラクタム系薬は,β-ラクタム環の開環とともにPBPsと結合し酵素の機能を停止するが,IPMでは,主にPBP 2との結合親和性が強いという他のβ-ラクタム系薬との相違から,菌を球形膨化させ,速やかに溶菌するという特徴がある.

アミノ配糖体系抗生物質

ハベカシン(明治製菓)

著者: 河野修興

ページ範囲:P.475 - P.475

臨床薬理
●作用機序:細菌のリボゾームにおける蛋白合成阻害で殺菌的.
●血中濃度モニタリング:100mgを30分で投与する場合は必要.腎機能障害の疑いがあるときにも必要.

ゲンタシン(シェリング・プラウ)

著者: 河野修興

ページ範囲:P.476 - P.476

臨床薬理
●作用機序:細菌のリボゾームにおける蛋白合成阻害で殺菌的.
●血中濃度モニタリング:腎機能障害患者,新生児,未熟児,高齢者,長期間投与患者,大量投与患者では必要.最高血中濃度が12μg/ml以上,最低血中濃度が2μg/ml以上になると副作用発現率が増加する.

硫酸アミカシン(萬有)

著者: 河野修興

ページ範囲:P.477 - P.477

臨床薬理
●作用機序:細菌のリボゾームにおける蛋白合成阻害で殺菌的.
●血中濃度モニタリング:腎機能障害患者,新生児,未熟児,高齢者,長期間投与患者,大量投与患者では必要.最高血中濃度が35μg/ml以上,最低血中濃度が5μg/ml以上になると副作用発現率が増加する.

その他の殺菌性抗生物質

塩酸バンコマイシン(塩野義)

著者: 長谷川廣文

ページ範囲:P.479 - P.481

臨床薬理
●作用機序:塩酸バンコマイシン(VCM)は,Streptomyces orientalisから分離された分子量1,486のグリコペプチド系抗生物質である.VCMの作用機序は,細胞壁合成の初期過程においてムレインのD-alanil-D—alanineに水素結合して,ムレイン架橋酵素と基質との結合を阻害する1).したがって,VCMの抗菌スペクトラムは,メチシリン耐性ブドウ球菌(methicillin-resistant Sta-phylococcus aureus;MRSA)も含めたブドウ球菌属,連鎖球菌属,腸球菌属,クロストリジウム属などの好気性および嫌気性のグラム陽性菌に抗菌力を示すが,D-alanil-D—alanineの部位が外膜に覆われているグラム陰性桿菌にはほとんど抗菌力を示さない2).VCMに対する耐性菌は,黄色ブドウ球菌では報告がみられていないが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌や腸球菌属では欧米を中心に報告がみられており,今後本邦でも注意が必要である.

テトラサイクリン系抗生物質

ミノマイシン(レダリー—武田)/ビブラマイシン(ファイザー)

著者: 岡田薫

ページ範囲:P.482 - P.483

 テトラサイクリン系抗生物質(TC)であるミノマイシン(MINO)とビブラマイシン(DOXY)は,作用機序,抗菌スペクトル,排泄経路,副作用や剤形・規格までほぼ同様であるので一括して述べる.TC系薬は古い薬ではあるが,一部の感染症には依然重要な役目を担っている.

クロラムフェニコール系抗生物質

クロロマイセチン(三共)

著者: 岡田薫

ページ範囲:P.484 - P.484

臨床薬理
●作用機序:細菌の蛋白合成の後期を抑えて抗菌力を示し,その作用は静菌的である.
●血中濃度モニタリング:臨床的に血中濃度モニタリングは一般的ではない.

マクロライド系抗生物質

クラリシッド(ダイナボット—大日本)=クラリス(大正)

著者: 影山慎一

ページ範囲:P.485 - P.486

 クラリスロマイシンは新世代マクロライドとして登場した薬剤である.構造は14員環で,エリスロマイシンのlactone環6位水酸基をmethoxy基に変換したもので,その結果,酸に対して安定となり,胃酸によって分解されにくくなり,エリスロマイシンに比べ腸管吸収量の増加と半減期の延長,胃腸副作用の軽減化が特徴とされている.

注射用エリスロシン(大日本)

著者: 影山慎一

ページ範囲:P.487 - P.487

臨床薬理
●作用機序:エリスロマイシンは14員macro-cyclic lactone環に2つの糖鎖がついた構造を有する.抗菌学的作用機序はRNA依存性蛋白合成の阻害である.すなわち,50Sリボゾームのサブユニットと結合し,ペプチド合成をブロックする.主に静菌的に働く.経口投与すると胃酸に分解されやすいこと,吸収率が不安定のため,経口剤はエリスロマイシンの誘導体か腸管吸収の安定化をはかった製剤が繁用されている.
●血中濃度モニタリング:必要ない.

リンコマイシン系抗生物質

ダラシンS(住友—ファルマシア・アップジョン)

著者: 杉本勇二

ページ範囲:P.488 - P.489

臨床薬理
●作用機序:クリンダマイシン(CLDM)とマクロライド系薬は化学構造的には全く異なるが,作用機序は両者とも細菌細胞内のリボソーム50Sサブユニットに結合し,ペプチド転移酵素反応を阻害し蛋白合成を阻害することである.

ホスホマイシン系抗生物質

ホスミシン(明治製菓)

著者: 杉本勇二

ページ範囲:P.490 - P.490

臨床薬理
●作用機序:細胞壁合成阻害作用であるが,β—ラクタム薬が細胞壁ペプチドグリカン生合成系の最終段階で阻害するのに対し,ホスホマイシン(FOM)は初期段階のUDP-GIcNAcエノールピルビルトランスフェラーゼ反応を阻害し,殺菌的に作用する.

ニューキノロン剤

クラビット(第一)

著者: 長谷川均

ページ範囲:P.491 - P.492

臨床薬理
●作用機序:本剤はレボフロキサシン(LVFX)を含有するニューキノロン(NQ)系の経口抗菌薬である.抗菌作用は細菌のDNA合成に関与するDNAジャイレース活性を阻害し,殺菌的に作用する.オフロキサシン(OFLX)の2倍の抗菌力を有する.
●吸収・分布・代謝・排泄:経口投与した場合,約2時間で最高血中濃度に達し,約4〜6時間の半減期を示す.体液・組織内移行は,眼球,脳組織を除くいずれの臓器にも良好で,特に喀痰,胆汁には良く,蓄積されることなく,ほとんど未変化体のまま尿中に排泄される.加えて,好中球内へも良好な移行が認められた.

シプロキサン(バイエル)

著者: 長谷川均

ページ範囲:P.493 - P.493

臨床薬理
●作用機序:本剤は塩酸シプロフロキサシン(CPFX)を含有するニューキノロン(NQ)系の経口抗菌薬である.抗菌作用は細菌のDNA合成に関与するDNAジャイレース活性を阻害し,殺菌的に作用する.オフロキサシン,ノルフロキサシン,エノキサシンの2〜4倍の抗菌力を有する.
●吸収・分布・代謝・排泄:経口投与した場合,約1〜2時間で最高血中濃度に達し,約3〜4時間の半減期を示す.体液・組織内移行は,他のNQ薬と同様に,眼球内,髄液を除くいずれの臓器にも良好で,特に胆汁,前立腺には高く,蓄積されることなく未変化体のまま尿(約40〜50%)および糞便(約40%)中に排泄される.また,好中球内へも移行がよい.

抗真菌薬

ファンギゾン(ブリストル)

著者: 小島博嗣 ,   岡本昌隆 ,   平野正美

ページ範囲:P.494 - P.496

 悪性腫瘍,糖尿病,腎不全,自己免疫疾患,および各種の臓器移植術後やAIDSなど免疫不全状態における感染症対策は重要である.易感染宿主の致死的感染症の一つに深在性真菌症(deepmycosis;DM)があり,特に血液悪性腫瘍では剖検例の50%以上に真菌感染が存在する1).DMの原因菌にはカンジダ,アスペルギルス,クリプトコックス,ムコールなどがあるが,最近はアスペルギルス感染症が増加しており1),アスペルギルスを含め幅広い抗真菌スペクトラムを有するアムホテリシンB(AMPH)はDMの治療上重要である.本稿ではAMPHの特徴と,血液悪性疾患での高度顆粒球減少時における適応,用法などについて述べる.

ジフルカン(ファイザー)

著者: 二木芳人

ページ範囲:P.497 - P.498

臨床薬理
●作用機序:トリアゾール系抗真菌薬である本剤は,真菌細胞の小胞体におけるエルゴステロール合成阻害により,真菌細胞の増殖を抑制する.その作用は静菌的である.
●血中濃度モニタリング:アムホテリシンB(AMPH)などに比し,ヒトへの毒性は低いので,特に厳重なモニタリングは不要だが,長期投与例や髄膜炎治療時の髄液中濃度などは,安全面や効果面の確認のうえからモニタリングをしながらの使用が望ましい.

イトリゾール(ヤンセン—協和醗酵)

著者: 二木芳人

ページ範囲:P.499 - P.499

臨床薬理
●作用機序:トリアゾール系抗真菌薬であるイトリゾール®は,真菌細胞の小胞体におけるエルゴステロール合成阻害により抗真菌活性を示し,その作用は静菌的である.
●血中濃度モニタリング:原則的には必要ないが,本剤の吸収性はいくつかの要素に影響されるので,長期投与や効果不十分な例では検討されるべきである.

白癬治療薬

グリソビンFP(グラクソ,三共,藤沢)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.500 - P.500

臨床薬理
●作用機序:静菌的抗真菌薬であり,表在性病気真菌の発育を抑制する.しかし,皮膚以外の真菌には有効ではない.

抗ウイルス薬

ゾビラックス(住友—ウエルカム)

著者: 谷憲三朗

ページ範囲:P.501 - P.502

臨床薬理
●作用機序:アシクロビル(9—{〔2—ヒドロキシエトキシ〕メチル}グアニン)はグアノシンの非環状誘導体である.ウイルス特異的チミジンキナーゼの作用により,主にウイルス感染細胞でアシクロビル1リン酸に変換され,さらに細胞内酵素によりアシクロビル3リン酸になり,その後ウイルスDNAポリメラーゼに結合し,ウイルスDNA鎖の合成を停止させる.アシクロビルはウイルス感染細胞に選択的に取り込まれるため,細胞内でのアシクロビル3リン酸の濃度は,非感染細胞の40〜100倍になる.さらに,アシクロビル3リン酸はウイルスDNAポリメラーゼに対して,細胞DNAポリメラーゼよりも10〜30倍の親和性をもっている.以上の理由から,宿主の正常細胞に対しては極めて低毒性でありながら,抗ウイルス活性が得られることになる.抗ウイルス活性は,I型単純ヘルペス(HSV−1),II型単純ヘルペス(HSV−2),帯状疱疹ウイルス(VZV),EBウイルス,サイトメガロウイルスの順に高い.
●血中濃度モニタリング:アシクロビルは全般的に安全な薬剤であり,血中濃度のモニターなどは通常不要である.

デノシン(田辺)

著者: 谷憲三朗

ページ範囲:P.503 - P.504

臨床薬理
●作用機序:ガンシクロビル(9—〔1,3—ジヒドロキシ−2—プロポキシメチル〕グアニン)は2´デオキシグアノシンの類似体である.ウイルス特異的チミジンキナーゼの作用により,主にウイルス感染細胞でガンシクロビル1リン酸に変換され,さらに細胞内酵素によりガンシクロビル3リン酸になり,その後ウイルスDNAポリメラーゼに結合し,ウイルスDNA鎖の合成を停止させる.ガンシクロビルはウイルス感染細胞に選択的に取り込まれるため,細胞内でのガンシクロビル3リン酸の濃度は,非感染細胞の約10倍になる.さらに,ガンシクロビル3リン酸の抗ウイルス作用は,①ウイルスDNAポリメラーゼの競合阻害,②ウイルスDNAへの直接的組み込みによりDNA鎖の伸長自身を中断させること,によると考えられている.宿主細胞のDNAポリメラーゼα活性も阻害するが,そのためにはウイルスDNAよりも高濃度のガンシクロビル3リン酸を必要とする.抗ウイルス活性は,サイトメガロウイルス(CMV),I型単純ヘルペス(HSV−1),II型単純ヘルペス(HSV−2),帯状疱疹ウイルス(VZV),EBウイルスに対してもっている.

寄生虫・原虫用薬(トリコモナス治療薬)

フラジール(塩野義)/カマラ(アストラ)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.505 - P.505

臨床薬理
●作用機序:病原体に入り込んだメトロニダゾールはDNAに作用して抗菌力を現す.
●血中濃度モニタリング:短期間投与なので不要である.

寄生虫・原虫用薬(回虫駆除薬)

サントニン(日本新薬)/メベンダゾール(ヤンセン—協和醗酵)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.506 - P.506

臨床薬理
●作用機序:回虫駆除薬であり,回虫のリン酸代謝・糖代謝・酸化機構の阻害で効果を現す.

寄生虫・原虫用薬(糞線虫駆除薬)

ミンテゾール(萬有)/エスカゾール(スミスクライン)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.507 - P.507

臨床薬理
●作用機序:フマル酸還元酵素を阻害して,殺虫作用・駆虫作用を示す.虫卵と幼虫の産生を抑制する.

寄生虫・原虫用薬(吸虫駆除薬)

ビルトリシド(バイエル)/スパトニン(田辺)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.508 - P.508

臨床薬理
●作用機序:吸虫あるいは条虫の外被のカルシウムイオンに対しての透過性を高める.そのために筋肉の痙攣が起こり,後に筋肉の麻痺がくる.

寄生虫・原虫用薬(広域駆虫薬)

コンバントリン(ファイザー)

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.509 - P.509

臨床薬理
●作用機序:腸管内の寄生虫の麻痺を起こし,腸管の蠕動により,寄生虫は生きたまま排泄される.

カリニ肺炎治療薬

ベナンバックス(ローヌ・ローラ—中外)

著者: 森健

ページ範囲:P.511 - P.511

 本剤は,Tripanosomaなどの原虫性感染症の治療薬であったが,Ivadyら(Mschr Kinderheilk 106:10,1958)がカリニ肺炎に有効であることを報告して以来その治療に用いられるようになったもので,P.cariniiの原虫説が唱えられる根拠の一つであった.しかし現在,Pneumocystis cariniiは原虫と真菌の中間あるいはむしろ真菌に近い微生物とされている.カリニ感染症の治療には,cotrimoxazole(いわゆるST合剤)が第一選択薬とされているが,AIDS患者ではST合剤による副作用の出現頻度が高い.そのため本剤が用いられ,効果はST合剤とほぼ同等である.

解熱・鎮痛・向精神薬など 解熱・鎮痛・抗炎症薬(非ステロイド系)

メチロン(第一)

著者: 高野愼

ページ範囲:P.514 - P.514

臨床薬理
●作用機序:アミノピリンを水溶化する目的で作られたもので,解熱・鎮痛・抗炎症作用を有する.視床下部の体温調節中枢に作用し,熱放散をきたして解熱効果をもたらす.

ピリナジン(山之内)=ナパ(アストラ)=ピレチノール(岩城)

著者: 高野愼

ページ範囲:P.515 - P.515

臨床薬理
●作用機序:アセトアミノフェンはアセトアニリドやフェナセチン投与時の主な代謝産物で,それらの解熱鎮痛効果を現す本体と考えられている.視床下部体温調節中枢に作用して,皮膚血管を拡張し,体温の放散を増大して発熱時体温を下降する.また,痛覚閾値の上昇効果による鎮痛作用をもつ.内服によりよく吸収され,30分から1時間で最高血中濃度に達し,発熱時には投与後約3時間で最大効果を発現する.

疼痛治療薬

レペタン(大塚)

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.516 - P.516

臨床薬理
●作用機序:中枢神経系のμおよびκのオピオイド受容体にパーシャルアゴニストとして作用し,鎮痛効果を示す.
●血中濃度モニタリング:必要ない.

ソセゴン(山之内)

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.517 - P.518

臨床薬理
●作用機序:本剤は,中枢神経系を介してシナプス伝導をブロックすることにより鎮痛効果を示す.
●血中濃度モニタリング:必要ない.

アンペック(坐薬)(大日本)

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.519 - P.519

臨床薬理
●作用機序:MSコンチン®と共通する.
●血中濃度モニタリング:必要ない.

MSコンチン(塩野義)

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.520 - P.521

臨床薬理
●作用機序:中枢神経系のμおよびκレセプターに結合することにより,痛みの信号伝達を抑制すると推定されている.
●血中濃度モニタリング:必要ない.

入眠導入薬

レンドルミン(日本ベーリンガー)

著者: 吉内一浩 ,   久保木富房

ページ範囲:P.522 - P.523

臨床薬理
●作用機序1):本剤は,ベンゾジアゼピン類似の作用をもつチェノトリアゾロジアゼピン系の薬物であり,ベンゾジアゼピン受容体と結合することにより,中枢神経系の代表的抑制伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)の作用を増強し,情動を司る視床下部や大脳辺縁系を抑制すると考えられている.
●血中濃度モニタリング:通常行われていない.

アモバン(ローヌ・ローラー—中外)

著者: 吉内一浩 ,   久保木富房

ページ範囲:P.525 - P.526

臨床薬理
●作用機序1):本剤は,超短時間型に分類されているシクロピロロン系の睡眠鎮静薬であり,ベンゾジアゼピン系薬剤とは化学的な関連性はない.作用機序としては,GABA(γアミノ酪酸)ニューロンのシナプス後膜に存在するベンゾジアゼピン受容体の,ベンゾジアゼピン結合部位とは別の部位に高い親和性で結合し,GABA受容体のGABA親和性を増大させることにより,GABAニューロンの抑制機構を増強するものと考えられている.
●血中濃度モニタリング:通常行われていない.

抗不安薬

セルシン(武田)

著者: 村岡倫子

ページ範囲:P.527 - P.527

臨床薬理
●作用機序:大脳辺縁系と視床下部に選択的に作用し,抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を増強させることにより,不安や緊張を意識や高次の精神機能に影響を与えず改善する.抗不安作用,静穏作用,鎮静・催眠作用,筋弛緩作用,抗痙攣作用をバランスよく有しており,最も標準的な抗不安薬として広く用いられている.作用の発現は速く,経口投与では約1時間で最高血中濃度に達するが,中間活性代謝物の半減期が長いため作用持続時間が長い.
●血中濃度モニタリング:現在のところ臨床的には施行されていない.

リーゼ(吉富)

著者: 村岡倫子

ページ範囲:P.528 - P.528

 臨床薬理
 ●作用機序:大脳辺縁系と視床下部に選択的に作用し,抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を増強させることにより,不安や緊張を意識や高次の精神機能に影響を与えず改善する.すぐれた抗不安作用を有するが,鎮静・催眠作用や筋弛緩作用は弱く,眠気やふらつきが出現しにくい.吸収,排泄も速やかであり,副作用が少ない.半減期は短い.
 ●血中濃度モニタリング:現在のところ臨床的には施行されていない.

デパス(吉富)

著者: 村岡倫子

ページ範囲:P.529 - P.529

臨床薬理
●作用機序:大脳辺縁系と視床下部に選択的に作用し,抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を増強させることにより,不安や緊張を意識や高次の精神機能に影響を与えず改善する.強力な抗不安作用とともに,すぐれた鎮静・催眠作用,抗うつ作用,筋弛緩作用を示す.半減期は短い.
●血中濃度モニタリング:現在のところ臨床的には施行されていない.

ソラナックス(住友—ファルマシア・アップジョン)

著者: 村岡倫子

ページ範囲:P.530 - P.530

臨床薬理
●作用機序:大脳辺縁系と視床下部に選択的に作用し,抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を増強させることにより,不安や緊張を意識や高次の精神機能に影響を与えず改善する.強い抗不安作用,鎮静作用,筋弛緩作用,抗痙攣作用を有し,ジアゼパムより数倍強力な力価をもつ.半減期は短い.
●血中濃度モニタリング:現在のところ臨床的には施行されていない.

レスタス(鐘紡)

著者: 村岡倫子

ページ範囲:P.531 - P.531

臨床薬理
●作用機序:大脳辺縁系と視床下部に選択的に作用し,抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を増強させることにより,不安や緊張を意識や高次の精神機能に影響を与えず改善する.鎮静作用,抗痙攣作用が,ジアゼパムに比べて著しく強い.抗不安作用と運動系機能抑制作用の分離が大きく,安全域が広い.半減期が長いため,1日1回投与が可能である.
●血中濃度モニタリング:現在のところ臨床的には施行されていない.

抗うつ薬

ドグマチール(藤沢)

著者: 川原健資 ,   久保木富房

ページ範囲:P.532 - P.533

臨床薬理
●作用機序:低用量で抗うつ作用を示し,高用量では抗精神病作用を有する.前者の場合,前頭葉の前シナプス性ドパミン受容体を阻害することによって,ノルアドレナリン濃度を高めることから抗うつ作用を示すと考えられている.
●血中濃度モニタリング:通常行わない.

アモキサン(レダリー)

著者: 川原健資 ,   久保木富房

ページ範囲:P.534 - P.534

臨床薬理
●作用機序:脳神経細胞への遊離カテコールアミンの再取り込み阻害により,シナプスにおけるカテコールアミンの濃度を上昇させる.
●血中濃度モニタリング:通常行わない.

アナフラニール(チバガイギー)

著者: 川原健資 ,   久保木富房

ページ範囲:P.535 - P.535

臨床薬理
●作用機序:他の三環系抗うつ薬と同様に,脳内のセロトニン(5—HT)およびノルアドレナリン(NA)の神経終末への取り込み阻害による受容体刺激の増強が抗うつ効果と結びついていると考えられている.
●血中濃度モニタリング:通常行わない.

ルジオミール(チバガイギー)

著者: 川原健資 ,   久保木富房

ページ範囲:P.537 - P.537

臨床薬理
●作用機序:選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬である.神経終末へのカテコールアミン取り込み阻害作用によるcatecholaminergic acti-vityの増強が,抗うつ効果に結びついていると考えられている.
●血中濃度モニタリング:通常行わない.

iatrosの壺

午後の頭痛

著者: 木下栄治

ページ範囲:P.14 - P.14

 数年前になるが,外来に頭重感を訴える52歳の男性患者が来院した.来院時の血圧は190/110mmHgでアラセプリル50 mgを分2,ニフェジピン30 mgを分3で投与して,経過を観察していた.4週間後には外来随時血圧が142/84mmHgまで低下し,降圧効果が得られたにもかかわらず,頭重感が午後に出現するとのことであった.その後の通院で外来随時血圧はさらに低下し,正常血圧になったにもかかわらず,午後になると頭重感を訴えているため,鎮痛薬を投与しながら経過を観察していた.
 ある日ふとしたことで職業の話になり,その患者が「先生,私はこの年齢で孫にも恵まれ,悠々自適の生活だが,昔は理髪店をやっていて,子供に譲った.だけど午後から忙しくて午後だけ手伝っている」と話した.このため,一度ホルター血圧計を装着して1日の血圧日内変動を調べたところ,ちょうど,理髪店を手伝う時間に一致して血圧の上昇が認められた.昼のニフェジピンの服用時間を少しずらしたところ,頭重感は完全に消失し,血圧日内変動でも異常な血圧上昇は認められなかった.後で聞いてみると,やはり長年やってきた仕事でも緊張するとのことであった.

急性心筋梗塞雑感

著者: 高間俊夫

ページ範囲:P.22 - P.22

 今から12年前,医師国家試験の発表後,大学病院での約2週間のクルズスを終えて,研修先の市立病院へ赴任.さっそく下腹部から背部痛を訴え,夜間救急入院した男性の主治医となりました.顕微鏡的血尿を認めたことより,尿路結石症と診断し,ベット上安静,持続点滴を続けて疼痛は軽快しましたが,翌日の採血データをみてびっくり.CPK,LDHなどの心筋逸脱酵素が上昇しており,急性心筋梗塞であることが判明.臨床の難しさを痛感させられました.
 急性心筋梗塞症は,CCUがありPTCAが可能な施設だけでみる疾患ではなく,発症直後はまず近医やかかりつけ医の診察を受けることが多いのです.患者さんは狭心症や急性心筋梗塞は胸痛を伴うものと理解しており,胸痛を自覚しない場合は心臓が悪いとは思わずに,来院が遅れてしまいます.先日,糖尿病で当科外来通院中の80歳の女性が,急性心筋梗塞に伴うショック状態で午後9時頃来院.家人の話では,同日の昼前より心窩部痛や嘔気を訴えていたが,本人も家人も胃の具合が悪いだけと思い,心身性ショックに陥るまで来院しなかったため,結局救命できませんでした.たとえ胃の痛みと思っていても心臓の発作の場合があることを,本人や家人に指導しておくべきであったと反省させられました.急性心筋梗塞は,発症後いかに早く診断されるかで,救命率が違ってきます.

心疾患のターミナルケア

著者: 丹下正一

ページ範囲:P.24 - P.24

 末期患者の延命治療については,否定的な意見が大半を占める.循環器領域の心不全の末期状態では,延命のための延命か,一縷の望みを賭けた究極の治療を行っていくか,の判断をせまられ,難しさを痛感する.
 Becker型筋ジストロフィーの26歳の男性患者が,拡張型心筋症の心不全で入退院を繰り返していた.前回までは長期間のカテコールアミン静注と利尿薬の使用で改善をみたが,今回は右心不全による気分不快と食欲不振が著しく,経口摂取が困難となった.IVH療法とカテコールアミン,利尿薬の使用,腎機能低下に伴う血液透析(CVVH)を施し,一時回復の兆しをみた.繰り返す心不全のためか,患者は死への不安とベッド上での不自由な生活に耐えきれず,依存心が強くなってきた.家族や看護婦がいつもそばにいることを欲し,氷や水,果物などへの欲求頻度が多くなった.その経過中,再び尿量が減少し,病状が悪化した.この状態ではカテコールアミン離脱は困難と判断し,家族と予後について相談し,看護チームとカンファレンスをもった.治療方針としてIABPと気管内挿管は行わないことにした.これらの治療が安静を余儀なくするばかりでなく,挿管による苦痛と,患者とのコミュニケーションを著しく障害することと,病状の経過から内体的・精神的ストレスが過剰となる延命治療が,必ずしもこの患者のQOLを高めるとは思えないからであった.

老人の幸運? それとも非常識?

著者: 大川藤夫

ページ範囲:P.26 - P.26

 既に超高齢化社会を先取りした田舎の小病院(ベッド数50床)では,種々雑多な疾患を複数有する老人患者が診療の中心となっています.日々繰り返される診療のなかで,到底常識では理解できないようなことに遭遇することがあり,これこそが臨床医にとっての秘かな楽しみの一つでもあります.そのような患者の中でも特に印象的なのはMばっちゃんのことです.年齢は90歳を超え,背中の曲がった息子の手に引かれながら杖をついて今日も外来に来ます.「もう私の友達は近所にはいなくなってしまい,車で送ってもらわないと友達にも会えず,とても寂しい」と愚痴をこぼす一方で,若い頃教師をしていただけあって少し難聴気味にはなったものの,毎日欠かさず新聞の隅々まで目を通すことを日課としています.85歳を過ぎてからの数年間に,Mさんは少なくとも2枝以上の冠動脈に狭窄病変を有する急性心筋梗塞とその後の心不全および心房細動を患い,さらに右中大脳動脈領域の脳塞栓を併発したものの,左半身不全麻痺と軽い視空間認知障害を残すだけに回復,それもつかの間,左大腿動脈の閉塞性動脈硬化症による左下肢循環不全に陥ったが,幸いこれもまた,壊死にはいたらず下肢のしびれと冷感を引きずるだけとなったのです.そのようなわけで,Mさんはついに観血的な検査や処置はもうこりごりなので一切断ると申し出たのです.

外来における“不安定狭心症”の薬物療法

著者: 久保博

ページ範囲:P.31 - P.31

 日常の外来診療の中で,安定狭心症が不安定狭心症に移行するケースに遭遇することがある.このような時,無床診療所では患者をCCUのある病院へ転送すべきか判断に苦慮する.これは,内科レジデントが深夜,腹痛患者を診察した時に外科医を呼び出すかどうか迷うのに似ている.不安定狭心症に移行するケースの多くは,硝酸薬,Ca拮抗薬,β遮断薬,Kチャンネル開口薬(ニコランジル),抗血小板薬などは既に投与されている.そのため外来治療を決断した場合,ひと工夫が必要となる.以下にその例を挙げさせていただく.
 1)経皮的硝酸薬の追加—持続性硝酸イソソルビドを発作予防として内服している場合,一見重複と思えるが,ニトログリセリンの貼布を追加すると意外に奏効することが多い.この場合,イソソルビドを貼布するよりニトログリセリン貼布のほうがより有効のようである.また,これには直接胸に貼るという心理的効果も加わっているのかもしれない.

lc群抗不整脈薬(塩酸フレカイニド)の心臓ペーシングへの影響

著者: 北原公一

ページ範囲:P.38 - P.38

 lc群抗不整脈薬である塩酸フレカイニドは,近年,難治性の上室または心室性の頻脈性不整脈に対して有効性が認められ,多く臨床応用されてきている.本薬剤は副作用として,循環器系では陰性変力作用,洞房伝導,房室伝導の抑制,QTの延長,催不整脈性,精神神経系ではめまいやふらつきなどが報告されている.本稿では,塩酸フレカイニド(タンボコール®)による心臓ペーシングの閾値上昇を認めた一症例を紹介する.
 症例は71歳女性.1991年より動悸感を自覚,近医にて発作性心房細動の診断によりジソピラミドを投与されていた.1992年になって眩量感を伴うようになり,ホルター心電図上,最大7,200msecの洞停止を認めたため,当科に入院,洞機能不全症候群(Rubenstein III型)の診断によりDDDペースメーカーの植え込みを施行された.術後も一過性心房細動を認め,プロカインアミドを投与したが無効であり,1995年1月より塩酸フレカイニド200mg/dayの投与が開始された.5月に入って,以前とは異なった動悸感を自覚するようになったため外来を受診したところ,心電図上心房のペーシング不全を認め,入院となった.

抗不整脈薬と催不整脈作用

著者: 篭島充

ページ範囲:P.40 - P.40

 薬は両刃の剣である.誰でも知っていることだが,臨床の場で実感することは少ない.遭遇しても感覚が麻痺していて気づかないこともあるだろう.そんな私も循環器医の端くれ,抗不整脈薬の恐ろしさは身にしみている.
 〈症例1〉75歳女性.陳旧性心筋梗塞に発作性心房細動を合併,動悸を訴えて入院.除細動を狙ってピルジカイニド1日150mgを投与した.翌日モニターを見てびっくり.レート40台の心室調律となり血圧も60台に低下している.カテコールアミンにもいっこうに反応しない.ピルジカイニドの催不整脈作用と陰性変力作用である.一時ペーシングとvolume負荷でなんとか乗り切ったが,冷や汗ものであった.

心電図は信用できない

著者: 中山力英

ページ範囲:P.43 - P.43

 勤務医時代に経験した症例で,つくづく心電図は信用できないと思える症例を提示いたします.42歳の男性で,数日前より胸部圧迫感が出現し来院されました.安静時心電図は問題なく,負荷心電図も全くS-Tの変化はみられませんでしたが,症状が特有のため亜硝酸薬と舌下錠を持たせて帰宅.その夜たまたま私が当直のときに胸痛を訴えて再来院.来院時の心電図は症状があるにもかかわらず正常.そのまま入院していただきましたが,数時間後看護から,胸痛が強くなったとのことで連絡があり,再度心電図をとったところ前胸部誘導でS-Tの低下がみられました.梗塞ではないが症状が不安定なため,冠動脈造影を急遽行いました.ところが結果は,左前下行枝基部の亜閉塞で造影遅延がみられ,右冠動脈から側副血行路が出ていました.ウロキナーゼの局注を行ったところ残存病変が75%位で血行は良好になり,一時再疎通後の心室性不整脈を起こし不安定になりましたが,ことなきを得ました.このとき造影をしなかったら左前下行枝基部の閉塞になり,将来バイパス術の必要性もあったと思います.
 結論からいえば,側副血行路がみられたため心電図変化が出にくかったのですが,その後,私は心電図はあくまで参考にして胸部症状をなにより大事にしております.

異型狭心症における服薬指導の重要性

著者: 黒田篤

ページ範囲:P.45 - P.45

 異型狭心症の発作が,飲酒や喫煙で誘発されることはよく知られている.特にアルコール摂取の翌朝に発作が起きることが多いが,飲酒後に冠攣縮の予防目的で投与されているCa拮抗薬などの服用を怠ると,より重篤な発作が生じ,場合によっては心臓急死につながることもあるとされている.アルコールにて発作が誘発される症例では,禁酒を指導する必要があるが,発作が稀にしか起こらないような症例では,禁酒や服薬指導が守られないことがあるのが現実である.最近,冠動脈造影で冠攣縮が確認された異型狭心症の患者で,多量の飲酒後,Ca拮抗薬の服用を怠ったため重篤な発作をきたした症例を経験したので紹介する.
 症例は48歳男性.異型狭心症の診断にて,Ca拮抗薬(ニフェジピン徐放錠40 mg/day)を投与されていた.最近1年間は発作はほとんどなく経過良好であった.元来,アルコール類はほとんど摂取しないほうであったが,職場の同僚との会合にて多量の飲酒を行い,さらに主治医より指示されていたCa拮抗薬の服用も怠ってしまった.翌朝,これまで経験したことのない強い胸痛発作が出現し搬入されたが,既に心室細動となっており,直ちに電気的除細動と亜硝酸薬の投与を行い救命することができた.

患者にとっての最善の治療は?

著者: 丹下正一

ページ範囲:P.47 - P.47

 より良い治療技術が,日進月歩で開発されている.しかし,疾患に対して最善の治療と思ったことが,その患者にとって必ずしも最善ではないことを痛感させられた事件があった.
 57歳の頑強な男性が急性心筋梗塞でかつぎ込まれた.冠動脈造影で左前下行枝の閉塞を認め,primary PTCAにより再疎通に成功した.しかし病変部位に血栓を認めたため,治療上IABPが最善と考え,治療方針と2〜3日の安静が必要なことを説明し,患者の了解を得てIABPを挿入し,CCUに帰室させた.CCU入室後,安静の必要性を再度説明し,IABP挿入側の下肢の抑制を行った.しかし,次第に抑制に耐えられず興奮しはじめ,夜勤看護婦と当直医を殴りつけて,制止をきかずIABPの接続をはずしCCUから脱走し,100 m以上歩き病院外に出てしまった.主治医が到着したときには,患者はIABPの断端を股部から出し冷汗を流しながら,喫煙室の中で看護士の差し出すタバコをふかし落ちつきつつあった.説得されCCUのベットに戻った後は,殴ったスタッフに素直に謝っていた.私は,この患者が絶対安静と心身の抑制に耐えられるのは6時間が限度と判断した.

カルシウム拮抗薬の意外な副作用

著者: 祢津光廣

ページ範囲:P.49 - P.49

 カルシウム拮抗薬の投与により歯肉増殖症,視力障害,眼痛などの副作用が生じる場合がある.本稿では自験例を交えながら,あまり知られていないこれらの副作用について述べてみたい.
 1)歯肉増殖症:症例は60歳の男性.2年前,ホルター心電図および冠動脈造影法により冠攣縮性狭心症と診断が確定した.ニフェジピン40mg/dayの投与により狭心発作は完全に消失したが,15カ月後から歯肉増殖症が出現した.歯口清掃に加えて,ニフェジピンを20mg/dayに減量し,ニコランジルを併用したところ狭心発作もなく歯肉増殖症は次第に改善した.岩倉らの報告では,ニフェジピン服薬者の10.9%に歯肉増殖症がみられたとのことで,実際はかなりの症例数にのぼるものと考えられる.当院ではニフェジピンのほかにニソルジピン,ニルバジピンによる本症の発現例があり,カルシウム拮抗薬の種類に関係なく出現するものと考えられる.主な自覚症状は歯肉の腫れで,高齢者では「入れ歯が合わなくなった」と訴えることもある.本症の発現時期は服薬開始後平均10カ月程度で,遅発性である.本薬による歯肉増殖の発現機序として,末梢血液循環亢進による局所炎症の助長,コラーゲンの合成促進および分解抑制などの説があるが,確定していない.本症を認めた場合は,休薬するか,休薬が困難な場合は歯科専門医による積極的な歯周管理が必要である.

比較的使用頻度が多いが,医薬品情報に記載のない副作用をきたした症例

著者: 十念雅浩

ページ範囲:P.51 - P.51

1)Ca拮抗薬(アダラートL®):42歳男性.慢性腎不全で透析歴10年.当院紹介時,収縮期血圧190以上.紹介状では,降圧薬はカタプレス®3tab/dayのみ.血圧は以前より高いが,特別指摘されていないらしい.カタプレス®単独の理由が不明であったが,カタプレス®減量中止,アダラートL®(10mg)2tab/dayに変更後,収縮期血圧160以下に低下.腎性貧血はあるものの,アダラートL®投与約1カ月後,WBC 4,000→2,400,Hb8.1→6.4,Ht 25.5→19.6,PLT 13.2万→7.1万と汎血球減少を認め,直ちにアダラートL®中止(他の内服薬はアルファロール®,CaCO3).投与中止2カ月後より回復傾向,1年後には投与前値に回復した.
 Ca拮抗薬は,安全性・有用性が高く,本邦の高血圧症の約50%に投与されている.副作用として無顆粒球症が知られているが,汎血球減少もきたしうること,他院に紹介の際は,それまで投与した薬剤で,副作用発現の可能性,疑いも含め,確実に情報を伝える必要があると痛感した.

心窩部痛にご注意あれ

著者: 田島真帆

ページ範囲:P.55 - P.55

 午前中の忙しい外来が終わって,やっと一息ついたある日の午後のことである.1人の青年が,みぞおちのあたりが痛むといって外来にやってきた.25歳の土木作業員で,やせぎみではあるが,背は高くがっしりした体格をしている.話を聞くと,ここのところずっと痛みが続いているとのことである.当院に1週間ほど前に初診でかかっており,胃・十二指腸潰瘍の疑いで,H2ブロッカーが処方されていた.触診では,心窩部に一致して軽度の圧痛があり,やや膨隆している.年齢を考え,やはりまず胃潰瘍か十二指腸潰瘍であろうと思い,H2ブロッカーがほとんど効いていないのを疑問に思いつつも,胃内視鏡検査をすることとした.内視鏡では胃は全く正常であった.きっと大きな潰瘍が視界の中にとびこんでくるであろうと想像しながら十二指腸球部に挿入すると,なんと全く正常なのである.びらんの一つでもないかと思いしつこく見てみるが,何もない.患者にまず潰瘍であろうとムンテラした手前,結果をどう説明しようかと少々あせりつつ検査を終了した.そのとき,心窩部が膨隆していたのを思い出し,すぐに腹部エコーをしてみた.まず胆嚢をみてみたが,石はなく,腫大もない.総胆管や膵にも異常がない.おかしいと思いつつ肝臓をみてみると,左葉に何やら大きな塊がある.これは何だと思いつつよくみてみると,塊の周囲にはlow echoなハローがあり,内部はモザイクパターンを呈し肝表面より腹壁に向かって大きく突出している.

Torsades de pointesの一例

著者: 石元篤雄

ページ範囲:P.57 - P.57

 普段教科書や文献の上でよくわかっていても,いざ救急の場面になると慌てるものである.
 75歳の女性が,意識消失と痙攣を起こして救急車で搬送されてきた.来院時の心電図は心室頻拍で,直ちに電気的除細動を行い,洞調律に戻り意識も回復した.同時にリドカインの静注と持続点滴をしたが,その後も心室頻拍から細動を繰り返し,電気的除細動をしてその度ごとに洞調律に復帰した.メキシレチンやプロカインアミドを点滴したが効果はなかった.洞調律回復時の心電図は完全房室ブロックであり,家族から,通院中の近医で最近このことを言われていたことがわかった.10回以上も電気的除細動を繰り返しながらやっと一時ペースメーカーを挿入,70/minでペーシングして頻拍は消失した.繰り返す心室頻拍は完全房室ブロックに伴うtorsades de pointesだったのである.この患者は拡張型心筋症と発作性心房細動があり,利尿薬,Ca拮抗薬,Ia群抗不整脈薬を投与されており,10日前に完全房室ブロックが認められ,ペースメーカーを検討されているところだったそうである.

薬剤性肝障害の一例/針に御用心

著者: 濱戸教行 ,   黄正一 ,   木下栄治

ページ範囲:P.59 - P.59

 症例は49歳男性.主訴は,発熱と全身倦怠感.既往歴,家族歴,特になし.現病歴は,4日前からの発熱にて,近医受診し,肝酵素の上昇を認め,紹介入院となる.総ビリルビン2.3,GOT2,586,GPT3,581と著明に上昇.白血球は9,200と軽度上昇し,異型リンパ球を22%認めた.急性ウイルス性肝炎を疑い,対症療法で経過観察予定であったが,入院翌日に全身に多形滲出性紅斑出現.もう一度病歴を詳しく聞いてみると,最近カルバマゼピンを服用開始していることが判明.薬剤を中止するとともに,ステロイドの投与を開始.翌日には解熱し,順調に肝酵素も低下し,異型リンパ球も消失し,発疹も消失した.以上より,カルバマゼピンによる薬剤性肝炎と診断.
 カルバマゼピンによる肝障害と発疹は比較的多いが,本症例のように肝酵素が2,000〜3,000以上と著明に上昇することは少ない.急性ウイルス肝炎様の肝酵素の上昇を認めても,薬剤性肝炎を念頭に置き,また,病歴,薬剤歴を十分聴取する必要があることを改めて考えさせられた症例である.なお,IgMHA抗体,HBs抗原,HCV抗体は経過中陰性であった.

NSAIDsを処方する前にチョット注意/排尿障害の原因として市販の感冒薬も大事

著者: 中島一夫 ,   西山雅則

ページ範囲:P.61 - P.61

 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は,内科に限らず多くの診療科の多岐にわたる疾患に使用されるため,思わぬ事態に遭遇することが時にある.
 〈症例1〉70歳代女性.開業医にて感冒として薬を処方され,効果がないため当院当直時間に来院.開業医には連絡がつかず,当院の薬に変更するように言って帰宅させる.数日後に食思不振にて来院.胃内視鏡検査では胃潰瘍が多発.よく話を聞くと開業医の薬も止めずに服用し,両者にNSAIDsが含まれていた.おまけに整形外科から腰痛の薬としてNSAIDsを定期的に服用している!胃潰瘍にならないほうがおかしいぐらい.

抗狭心症薬の休薬により急性冠動脈閉塞を生じた不安定狭心症の一例

著者: 齋藤誠

ページ範囲:P.63 - P.63

 症例は,58歳男性.一過性脳虚血発作と糖尿病の既往がある.喫煙歴なし.これまでに狭心症の既往はない.平成7年2月24日午前3時,15分間持続する前胸部圧迫感を2度自覚した.午前3時55分,当院救急外来を受診.来院時,前胸部圧迫感は消失し,心電図所見は正常であった.不安定狭心症として入院を勧めたが,多忙のため拒否された.以後,1日量ニコランジル20mg,ジルチアゼム120mg,アスピリン81 mgおよびニトログリセリンテープ剤2枚の処方にて,狭心症発作は完全に消失した.3月9日のトレッドミル運動負荷検査では,心筋虚血は誘発されなかった.
 3月20日,アセチルコリン負荷を含めた冠動脈造影検査のため入院した.同日よりジルチアゼムを中止したが,胸痛は認めなかった.3月22日,検査当日,朝よりニコランジルを中止,午前11時,テープ剤を剥がした.午後1時,一時的ペースメーカー挿入後,対照としての右冠動脈造影を施行したところ,dominantな右冠動脈3番にhazinessを伴う80%の長い狭窄を認めた.複雑狭窄病変と判断し,直ちにニトログリセリン0.5mgを右冠動脈内に注入し,以後の検査を施行した.左冠動脈造影では回旋枝13番に60%の狭窄を認め,左室造影は正常であった.直後にジルチアゼム60mgを内服し,他の薬剤も再開した.

フロセミド投与にて誘発されたtorsades de pointesによる意識消失発作/漢方薬の服用方法について

著者: 天野利男 ,   溝部宏毅

ページ範囲:P.65 - P.65

 症例は90歳男性.1994年7月上旬より四肢の浮腫出現.7月23日より近医でフロセミド40mg,エナラプリル2.5mg,グルコン酸カリウム1mEq相当を処方され,浮腫は急速に消失.8月2日,転倒による左眼瞼外傷にて当院外科受診.縫合直前,突然意識消失.呼吸停止にいたるも,ほどなく意識回復.心電図では多源性心室性期外収縮,完全房室ブロックを呈し,血液検査ではK2.7mEq/lと低値を示した.入院後,再び意識消失.torsades de pointes(TdP)より心室細動に移行,直流除細動にて洞調律に復帰.このため,カリウムの補給を行いつつ永久ペースメーカー埋め込み術施行.以後,意識消失はみられなくなった.近医における心電図経過をみると,1991年の心電図では1度房室ブロック,完全右脚ブロック,左軸偏位,1993年には2度房室ブロック(Wenckebach)と房室ブロックの進展が認められており,今回完全房室ブロックによる徐脈性心不全を背景に,利尿薬内服による低K血症がTdPを誘発したと考えられた.
 フロセミドなどのカリウム排泄性利尿薬を使用するにあたっては,徐脈の有無をチェックし,代謝異常をきたしやすい高齢者では,薬剤初期量の減量や副作用のモニターを頻回に行うなどの注意が重要であると思われた.

立場変われば訴えも変わる

著者: 木下栄治

ページ範囲:P.72 - P.72

 今年5月に開業して約2カ月経った.病院勤務時代と異なり,様々なことに遭遇する毎日である.そのような診療生活のなかで,患者さんの訴えで考えさせられたことがあった.
 空咳はACE阻害薬の副作用の一つとして有名だが,筆者が病院に勤務していた頃はこの副作用を訴える患者さんは多くなかったので,新たなACE阻害薬の宣伝に来るMRの方が咳の副作用が少ないことを強調されても新薬に飛びつく気にはなれず,MRの方が困惑していた.ACE阻害薬については,1〜2剤を投与回数別に漫然と使用していたのである.しかし,勤務していた病院の近くに開業したため,病院時代に診察していた患者さんも来院してきて,ACE阻害薬の咳についての訴えが多くなった.また,新たな高血圧の患者さんにACE阻害薬を投与すると,病院時代と異なり明らかに空咳の訴えが多い.別に,開業したからといって私の態度が全く異なるわけではない.病院勤務時代も十分に副作用について聞いていたつもりであった.

ACE阻害薬投与後高カリウム血症を生じた心不全の一例/可能なこと,不可能なこと

著者: 小野直見 ,   中山貴裕

ページ範囲:P.74 - P.74

 心不全例で,薬剤投与により潜在する腎機能不全が顕在化し,驚かされた例を紹介する.
 虚血性心筋症の78歳男性が肺水腫で入院した.外来での心電図は完全左脚ブロック,心エコーで前壁中隔,下壁の壁運動は高度低下,後壁の動きも低下し,左室駆出率は30%だった.外来では硝酸イソソルビド,アスピリン,フロセミドを投与していた.入院時は心電図,心エコーとも変化ないが,心筋逸脱酵素が軽度上昇し,白血球も増加した.部位は不詳だが,小さな心筋梗塞から心不全を呈したと考えた.外来の薬にフロセミド静注を加え,肺水腫はコントロールできた.収縮期血圧は90mmHgで,尿量は約1,000 ml/dayだった.BUNは50 mg/dl,クレアチニンは1.8mg/dl,Kは4.5mEq/lだった.フロセミド静注は中止し,経口でマレイン酸エナラプリル2.5mgを追加した.3日後,尿量・クレアチニンとも変化なかったが,Kは6.8mEq/mlとなった.エナラプリル投与中止2〜3日後にKは正常に復した.

低栄養状態の心室頻拍にはマグネシウム静注を

著者: 西野雅巳 ,   田内潤

ページ範囲:P.78 - P.78

 72歳男性.慢性腎不全の急性増悪で他院へ入院し加療を受けていた.吐気が強いので念のため胃カメラをしたところ早期胃癌が発見され,手術にあたり透析が必要ということで,本院へ紹介転院となった.低栄養状態のため入院時より中心静脈栄養を行っていたが,入院5日目に突然心室頻拍となった.電気的除細動を行い,キシロカイン®静注を行っても,一時的に洞調律に復帰するだけで再び心室頻拍を繰り返すという状態であった.前日の血液検査をみたところ,カリウムは4.6mEq/lと正常であったが,マグネシウムは0.8mg/dlと低く,マグネシウム20mEqを10分で静注した.すると嘘のように心室頻拍は止まり,その後は点滴内にマグネシウムを入れ,ゆっくり補正することで,心室頻拍は全く認めなかった.次の日の血液検査ではマグネシウムは2.6mg/dlと正常化していた.後でわかったことだが,この患者は今までに不整脈の既往はなく,また,中心静脈栄養の中にマグネシウムは入れておらず,入院後ほとんど経口摂取できていない状態であった.
 1994年Suetaら1)は,心不全患者の心室頻拍にマグネシウム静注は有効と報告している.また,心室頻拍症は血中マグネシウム,カリウムに変化がなくても,マグネシウム投与によって改善する可能性があるとの報告もある2).いずれにしろ原因不明の難治性心室頻拍や低栄養状態の心室頻拍には,マグネシウム静注を試みるべきであろう.

身近な所に落し穴

著者: 西田雅弘

ページ範囲:P.90 - P.90

 10年ほど前,海辺の国立病院に勤務していたころのことです.月曜の朝,病院に行くと看護婦さんより,「昨日Oさんが胃が痛いといってこられ,当直の先生が診察され,入院になっていますのであとお願いします」とのこと.Oさんは29歳の男性.この病院の放射線技師で,私の釣り友達でもあり,週末には20kgを超える釣りえさ,釣り道具を持ち2〜3kmは岩場を歩いて釣りに出かけていました.「どうしました?」とたずねると,「昨日家で晩酌をして寝ていたら急に胃が痛みだして,当直の先生に注射をしてもらい,今はもうかなり良くなっている」とのことでした.「潰瘍ができているかもしれないので入院のついでに胃の検査をしてみましょうか」と,一応というかたちで診察をしていくと,心尖部で心膜摩擦音が聴取されました.怪訝に思いつつ心電図をとってみると,II,III,aVFでSTの上界,異常Q波がみられ,立派な下壁梗塞の所見でした.よく話を聞いてみると,突然の発症で冷汗を伴っていたとのこと.心窩部には圧痛がないなど心筋梗塞も考慮しておく必要があるにもかかわらず,注意が胃にばかり向いて危うく大きな誤診をするところでした.初対面の患者さんの場合には,いろいろな可能性を考えつつ診るものですが,身近な人の場合には何がしかの先入観や照れがあり,しかも医療従事者の訴えとあって,注意が胃にばかり向いてしまったものと思われます.

胃腸薬の意外な落し穴

著者: 加藤智弘

ページ範囲:P.97 - P.97

 一般に,胃腸薬は他系統の薬剤に比べ比較的副作用が少なく,容易に(手軽に?)使用される傾向があると思われる.また,種々の薬剤の消化管への副作用の抑制という目的で,かなり長期間にわたり使用される機会も多いと思われる.したがって,他の薬剤と同様にその作用と副作用についてはもちろんのこと,他の薬剤との相互作用についても熟知しておく必要があると思われる.
 H2受容体拮抗薬は,臨床に登場以来15年近く経ち,最近ではプロトンポンプ阻害薬が登場したものの,依然として潰瘍や胃炎の代表的な治療薬として使用されている.潰瘍・胃炎の形成時の攻撃因子に対する治療薬として重要であり,実際に有効でもあり,その使用頻度は非常に高い.また,その副作用の頻度はその圧倒的な使用量に比べて少なく,比較的安全に使用できる薬剤として認識されている.しかしながら,一方では低い頻度ながら無顆粒球症や肝障害を始めとして重大な副作用が報告されており,よく認識しチェックしておくことが大切である.私はこの種の薬剤使用患者に対しては,症状がなくとも使用開始後2週間以内には必ず採血を含めて副作用のチェックを励行している.

シクロスポリンによる難治性潰瘍性大腸炎の治療例

著者: 川村修司 ,   関孝一

ページ範囲:P.102 - P.102

 潰瘍性大腸炎(UC)は原因不明の炎症性腸疾患であるが,中等症以上の活動性を抑えるためには副腎皮質ホルモン薬が主力となる.近年,強力な免疫抑制薬として臓器移植分野で広く使用されているシクロスポリン(CsA)は,UC症例においても試され,その有用性が報告されている.われわれも治療に難渋したUC症例にCsAを投与し,一定の効果を得た.
 症例は39歳女性.1992年12月から2回/dayの下血があり,翌年3月来院,注腸透視,内視鏡検査(CF)などから直腸炎型のUCと診断.サラゾスルファピリジン(SASP)を投与し,改善した.1994年5月から頻回の粘血便,腹痛が出現し,注腸透視にて全大腸炎型のUC.IVH,SASP,プレドニゾロン(PSL)60mg/day静注にてもUCをコントロールできず,強い腹痛と10回/day以上の下血,発熱が続き,貧血(Hb 7.3g/dl)と低蛋白血症(Alb 1.8g/dl)が進んだ.8月20日からCsA内服を開始し,血中トラフレベルを100ng/ml以上に保つようCsAを漸増した(5 mg/kg/day).8月22日から腹痛軽減傾向を示し,9月末には下血消失,1回/dayの普通便となった.9月30日のCFでは,多発潰瘍は消失し,炎症性ポリポージスを認めた.1995年4月のCFでは,寛解期であった.その後にPSLを7.5mg/dayのまま,CsAを2.5mg/kg/dayに減じたところ,便回数が増え,下血が出没した.

大腸ポリペクトミー後の出血

著者: 小畑伸一郎

ページ範囲:P.114 - P.114

 大腸疾患への関心の高まりにつれ,大腸内視鏡検査による病変の拾い上げの増加,隆起性病変のみならず,陥凹性病変に対する内視鏡的切除の機会が増加している.それに伴う合併症として,出血,穿孔などの合併症が知られている.
 症例は42歳男性.半年前の大腸内視鏡検査で回盲部近くに山田3型8mmの隆起性病変が指摘され,ポリペクトミー希望で受診.術前の出血,凝固時間に異常なし,既往歴特になし.通常どおりポリペクトミー終了後,止血を確認し終了.翌日午後より下血.聞き直すと,某脳外科にて脳の薬と称して投薬を受けていたが,大腸の病気には関係がないと思い,言わなかったとのこと.薬を調べると,その一つにチクロピジンが含まれていた.効果の消失までの約1週間下血したが,幸い輸血なしで経過観察にて止血した.脳梗塞(チクロピジン,ワルファリン,アスピリン),弁膜症(ワルファリン),ASO(ベラプロストナトリウム)など,既往歴のはっきりしたものでは出血に影響を及ぼす薬剤にすぐに関心がいくが,若年で明らかな既往もなく,術前検査の異常もない本例のような症例では,問診で服用薬の有無は聞いてはいたのだが,チェックもれとなり,出血を起こしてしまった.

ピモベンダンが著効を示した大動脈弁閉鎖不全に伴う心不全の一例

著者: 岡田雅彦

ページ範囲:P.118 - P.118

 77歳男性で,大動脈弁閉鎖不全(AR)に伴う心不全症状があり,高齢のうえ左室収縮能の低下も高度で,手術時期を失したと考えられる患者が呼吸困難を主訴として入院.外来にてジギタリス,利尿薬,ACE阻害薬,硝酸薬の経口投与を受けており,入院後ドーパミンの少量持続静注,フロセミドの静注などを行ったが,自覚症状はあまり改善しなかった.そこで,ピモベンダン5mg/dayを経口投与したところ,投与当日から自覚症状が著明に改善し,「ものすごく良くなった」とのことであった.退院後1年以上にわたりピモベンダンの投与を続けているが,入院することもなく外来に通院している.
 ピモベンダンは,ホスポジエステラーゼ(PDE)阻害作用に加えて心筋収縮蛋白のCa2+感受性増強作用を有する強心薬であり,末梢血管拡張による心負荷軽減作用も併せ持っている.したがってARのような逆流性弁膜症に伴う心不全には有効であることが予測される.

肝障害および膀胱炎として入院した男性

著者: 井上徹

ページ範囲:P.120 - P.120

 47歳男性.排尿時痛,残尿感のため1週間前近医受診し,膀胱炎と診断された.アモキシシリン(AMPC),メフェナム酸の投薬を受けるも症状の著明な改善なく,その後肝障害も指摘されたため,本院内科を紹介され入院となった.なお2カ月前の検診では肝障害は指摘されていない.入院時直腸診では前立腺に肥大や圧痛を認めず.検尿:蛋白100mg/dl,RBC50/F,WBC50/F,円柱を認めず.WBC 7,300/mm3(seg 57%,eosin 6%),LDH 612IU/U,AST387IU/l,ALT440IU/l,ALP 24.1KAU,γGTP 210.7IU/l,BUN 22mg/dl,CRN1.Omg/dl,CRPO.3mg/dl,IgE1,444U/l.肝炎ウイルスはA,B,C型とも陰性で,EB,サイトメガロウイルス抗体の上昇も認めず.腹部エコーでは血管腫のみであった.尿培養では一般細菌,結核菌とも陰性.急性肝障害には薬剤の関与が疑われたためSNMCのみとし,他の薬はすべて中止した.患者は上記以外に,アレルギー性鼻炎のために他医にてトラニラストを2カ月前より処方されていた.膀胱炎の原因に薬剤も関与していると考え,尿沈渣のギムザ染色を施行したところ好中球:好酸球=5:1であり,好酸球の増加が認められた.

分枝鎖アミノ酸製剤とQOL

著者: 塩田哲也

ページ範囲:P.122 - P.122

 分枝鎖アミノ酸を中心とした特殊組成アミノ酸経口製剤が市場に出て既に8年が経過した.慢性肝不全に対する分枝鎖アミノ酸療法では,肝性脳症急性期に用いる輸液製剤に対して,脳症発現の予防や肝硬変の栄養状態改善の面で経口製剤の意義があるものと考えられる.アミノレバンEN®の臨床治験は1980年代初めに開始されたが,かなり早い時期から本製剤が投与されていた肝硬変の患者に最近再会できたので紹介したい.
 症例は現在72歳女性.1970年代後半から既に肝障害を指摘されており,のちに組織学的に肝硬変と診断された.1981年に肝性脳症発現のため大学病院に入院.当時,血中アンモニア211μg/dl,フィッシャー比0.85,KICG0.046であった.初回脳症から3カ月後にアミノレバンEN®の治験が開始されたが,投与2週間でフィッシャー比,窒素バランス,脳波,同年代の健常人より遅延していた反応時間などが改善した.その後も,脳症悪化で輸液製剤が使用された期間を除いてほぼ継続してアミノレバンEN®が投与されている.この患者は分枝鎖アミノ酸製剤が有効であった代表例として長く筆者の記憶に残っていたが,当地に赴任することで偶然再会することができた.最近はアミノレバンEN®2パック/dayの処方でフィッシャー比1.4,血清アルブミン3.49g/dl,総コレステロール224mg/dl程度である.

アミノレバン®使用中に起こった代謝性アシドーシス

著者: 田中江里

ページ範囲:P.124 - P.124

 患者は,慢性B型肝炎の女性で,肝性脳症を伴う肝不全をきたしてきたので,アミノレバン®1日1,000mlの点滴を開始した.もともと慢性腎不全があり,CRNNが3.0mg/dlであった.徐々にBUNが上昇し,CRNNとの乖離を示した.著明な脱水,消化管出血,尿量減少はなく,そのまま輸液を続けたところ,15日目に突然の頻呼吸となった.この時,BUNは208mg/dl,CRNNは3.6mg/dl,血液ガスは,pH7.064,PCO28.8torr,HCO32.5mEq/lで,代謝性アシドーシスを示した.また,血中アンモニア値も205μg/dlと高値であったが,意識障害,羽ばたき振戦はなかった.アミノレバン®長期投与による副作用と考え,直ちにアミノレバン®を中止し,重炭酸ナトリウム(メイロン®)でアシドーシスを補正したところ,翌日には呼吸状態は改善し,1週間後にはBUN1.9mg/dl,CRNN22.3mg/dl,3週間後にはBUN17.2mg/dl,CRNN1.8mg/dlと改善した.
 肝性脳症を伴う肝不全の時のアミノレバン®投与は,脳症の改善1)と安全な栄養補給2)が得られる.しかし,残存する窒素処理能力を上回ってアミノ酸が投与されると,血中アンモニア値が上昇して脳症が悪化したり,腎機能低下による酸排泄の低下から代謝性アシドーシスが進行することもある.アミノレバン®使用中にBUNの上昇が進行する場合には,これらを考え,早めの対処が必要である.

ゴリテリー液が救った命?

著者: 足立明

ページ範囲:P.142 - P.142

 10年前,地方の国立病院勤務時代に,20歳の大学生が両親と口論の後,かっとして農薬を飲んだとのことで救急搬送されて来ました.こういう場合,確信犯でないので軽症(刺激臭が強く実際には飲めない)がほとんどですが,診察してみると,あの嫌な臭い,咽頭部のただれと緑色粘膜様物の付着,ひと目でパラコート,それもある程度の量を服用したと診断できました.救急設備の整っていない病院で血漿交換もできず,活性炭もありません.ゾンデで胃洗浄すると,悪臭を伴う緑がかった胃液が出てきました.マニュアルによると腸洗浄がもっとも大切とのことで,当時大腸内視鏡の新しい前処置法として脚光をあびていたゴリテリー液を思いつき,薬局に頼んで用意してもらいました(市販されておらず,各病院の薬局で合成していた).経鼻胃ゾンデより3l注入,最初は嘔気を訴えましたが,右側臥位にして我慢させたところ,スムーズに幽門を通過した様子で,1時間以内に大量の下痢となり,下痢便にもパラコート臭が著明でした.この患者はのちに,尿中のパラコート定性反応が陽性と判明,急性期に腎不全,その後軽い肺線維症を併発しましたが,最終的に後遺症なく改善しました.
 文献によると,小腸に留まったパラコートが持続的に吸収され全身の臓器合併症が進むとあり,発症当初のゴリテリー液による腸管洗浄が著効したものと自負していますが,いかがでしょうか.

「あんまり痒くて気が狂いそうです」

著者: 河野通盛

ページ範囲:P.157 - P.157

 肝臓病を専門にしている関係上,慢性肝疾患の患者が皮膚の掻痒感を訴えるのにしばしば遭遇するが,その主因は胆汁酸の蓄積によると考えられている.多くの場合掻痒感は自制内で,治療法も抗ヒスタミン薬の投与など対症的に行う程度が一般的である.しかし,強烈な掻痒感を訴えた印象深い症例を経験したことがあるので紹介する.
 症例は49歳女性.近医より肝炎治療経過中に黄疸が出現したとして紹介を受けた.診察すると,確かに顕性黄疸を認めるが,それより特徴的なのが診察中も四六時中全身を掻きむしり,引っかき傷だらけの状況である.「先生,あんまり痒くて気が狂いそうです.何とかして下さい」と訴える.どう見ても尋常な掻痒感ではなさそうである.とりあえず入院として肝機能検査と超音波検査を行うと,どうやら肝硬変に胆石を合併しているようだが,閉塞性黄疸を疑う所見はない.翌日検査室から返却された血清総胆汁酸値を見て驚いた.なんと絶食下の採血にもかかわらず851μMもあるのである.実はこの症例,C型肝硬変患者に,胆石溶解療法の目的でケノデオキシコール酸が2週間投与され,その蓄積により肝不全と掻痒感を生じたものと後日判明した.痒さの原因物質である胆汁酸自体が蓄積したのだから痒いはずである.患者の症状は薬剤の中止とコレスチラミンの投与により軽快した.

過量と寡量

著者: 村岡重信

ページ範囲:P.173 - P.173

 本号でも薬剤の副作用につき注意の喚起がなされるはずです.薬剤は常に生命,身体の安全を害する危険性を内在し,安易な処方によって不幸な転帰をとる場合があり,逆に悪性症候群のように急激な中断で死亡することさえあって,慎重な処方が必要です.前医の処方が既知とは限らず,時には患者さん自身が知らなかったり,もしくは隠す場合さえあります.
 〈症例1〉常用薬を忘れて当地を訪れたある名士.大酒家でなく栄養良.手がふるえ,その後全身痙攣をくり繰した.痙攣をコントロールしたが幻視,眼球外転,構音障害,軽度の項部硬直,ややbriskな深部反射があり,麻痺なし.極めて興奮し,一睡もせず天井の虫煙(幻視)を見つめて暴れていた.血液,髄液,画像などで軽度高血糖以外異常なし.Wernicke脳症,脳血管障害,限局性脳炎などを疑い,サイアミン大量静注などしたが無効.翌日,長期間の大量バルビタール内服歴,生来の斜視が判明.最適量バルビタールを用い神経学的所見は急速に正常化した.薬物の禁断症状を思い出していたら急性バルビタール禁断症候群も考えたかもしれないが,謹厳な人格者が睡眠薬常習とは思わなかった.

Yさんの心身症

著者: 小出尚志

ページ範囲:P.175 - P.175

 心身症の患者さんを診るときは,いつもより少し丁寧に診察して,しかる後,「うん,これは病気ですね」と威厳をもって肯定します.しかる後,「痛いけれどよく効く注射」とセルシン®筋注を試みます.有効ならば内服処方し,「注射と同じ薬」を強調して「必ず効きます」と駄目押しします.これは,人心掌握のスペシャリストとの噂の高いS先生に教えて頂いた診察の極意の一つです.
 Yさんは40代後半の愛敬のある小太り顔の患者さんで,相当に変わっていました.「先生,目が見えないんです」と,両手で宙を掻き分けまさぐりながら診察室へ入ってきたのが初診でした.心身症(ヒステリー?)の診断にて,例のごとくセルシン®の筋注をしたところ著効しました.Yさんは過分な謝意を述べて帰られました.その後も,まっすぐ歩けないと四つん這いになって入ってきたり,両耳に手を当てて耳が聞こえないとか,あるいはふらふらすると壁にへばりついて蟹の横歩きで入ってきたり,訴えもしぐさもバリエーションに富んでいて外来の有名人でした.セルシン®筋注は彼のあらゆる訴えに著効し,おかげで私も名医の評判を得つつありました.1年ほど経たころ,Yさんは「先生は信用できるから」と小声で話しかけてきました.「実は,私はスパイなのです.異星人から地球監視の依頼を受けています.先生もスパイになりませんか?私が推薦すれば大丈夫です」.私の目は点になりましたが,彼の顔は真面目でした.そして,続いて聞かされたYさんの妄想は実によく体系づけられていました.精神科医の診断は“典型的な”精神分裂病でした.

クスリと高窒素血症

著者: 由良高文

ページ範囲:P.177 - P.177

 腎障害をきたす薬剤の定番といえば—例えば,慢性関節リウマチの66歳の女性.術前に腎機能に関して当科を受診した.カルテをめくっていると,図のように,BUN,Crの変動が大きく,BUN/Cr比は高い.患者は従来より「腎臓が悪い」ということで,フロセミドの内服を続けており,加えて,ボルタレン®坐薬50mgを1日2回使用していた.いったん利尿薬を中止し,坐薬の使用を可及的に減らしてもらったところ,Crはどんどん下がって1を切った.よくある話ながら,長く続いた高窒素血症があっけなく消退し,かえって印象的だった.
 次はかなり特殊な症例である.33歳男性.ゴルフの後の飲み会で,知人から歯痛のクスリをもらって内服したところが,翌日より腰痛と全身倦怠感が出現,近医で高窒素血症を指摘され,当科入院となった.入院時Crは8.4mg/dlと上昇していたが,当初から利尿が得られ,経過観察のみで症状の消失と腎機能値の正常化をみた.薬剤性急性間質性腎炎が疑われたが,腎生検では明らかな組織変化を認めず,半信半疑のまま,問題の鎮痛薬(グラフェニン)を少量飲んでもらうことにした.その翌日,腰背部痛と発熱が出現.「先生,こらほんまもんじゃ」と患者さん.Crは2.1mg/dlまで上昇した.気の重い数日間だった.実は,グラフェニンによる急性腎障害の報告は,外国文献にはあるのだ.

スルピリドによるパーキンソン症候群

著者: 白浜雅司

ページ範囲:P.179 - P.179

 スルピリドは抗消化性潰瘍作用と抗うつ作用,抗精神病作用をもつユニークな薬である.高プロラクチン作用で乳汁分泌などが起きるので妊娠する可能性のある女性には使いにくいが,他の三環系や四環系の抗うつ薬に比べて,食欲増進作用が強いこと,眠気や口渇感などの抗コリン作用が少ないことから,多くの内科系の医師が,うつ状態に対する薬として使用されているのではないかと思う.筆者自身,なんとなく元気がなく食欲が落ちているようなうつ状態の人(特に高齢者)に対して,スルピリド1回50mg,1日3回投与を処方して,効果のある人では1週間以内にほとんど食欲が出てきて元気になったと喜ばれていた.ところが,3カ月くらいスルピリドを継続服薬した60代のうつ病の男性が,何か顔の表情がさえなくなり,手が震えるという訴えをされるようになった.少し上腕の拘縮もあり,パーキンソン病が出てきたのではないかと神経内科に紹介した.結果は,ドグマチール®による薬剤性のパーキンソン症状が疑われるのでまず薬をやめて経過をみてほしいという返事であり,確かに止めると2週間ほどで症状は改善した.
 製薬会社のMRの方に聞くと,スルピリドはプリンペランの誘導体として開発された薬で,そのことが食欲亢進作用につながるのだが,確かに0.5〜1%の頻度でパーキンソン症状を出現することがあるとのコメントであった.筆者の勉強不足だったのかもしれないが,薬物ハンドブック的な教科書ではあまり触れられていない事柄であるので今回取り上げた.

一般老人医療現場で有用であったサープル®錠の使用経験

著者: 宮島宣夫

ページ範囲:P.181 - P.181

 笠岡第一病院は岡山県西南部の瀬戸内海に面した場所に位置し,148床の本院に70床の老人健康保健施設を併設,その一般診療と,協力病院となっている50床の特別養護老人ホームが隣接し,老齢化指数の高い地域性もあり,老人医療に対する仕事の比重が大きな施設です.
 6年前,川崎医大消化器内科より当院に赴任してきた私にとって,それまでの専門科と異なり医療上特に問題として感じたのは,個々により多種多様な老人の精神的な問題です.それに対しての有用な治療マニュアルはなく,また有効とされる種々の脳代謝改善薬,脳循環改善薬も満足する効果が得られず,家族や医療スタッフの頭を悩ませていました.

ウロキナーゼは効いたか?

著者: 金井秀行

ページ範囲:P.187 - P.187

 20歳の医大生がいた.サッカー部の主将を務め,名ウィングとして大学リーグで活躍した.〈事件1〉試合中,危険なタックルを受け,左膝を負傷.バキンと音がした.開業医受診.軽い捻挫との診断.しかしボールを蹴るたびに膝が痛んだ.大学病院で精密検査を受けるもやはり原因不明.時代はスポーツ医学が開花する前であった.22歳の秋,大学病院に膝の専門医が戻ってきた.やっと診断がついた.左膝外側半月板損傷および外側側副靱帯・前十字靱帯損傷.陳旧性だが,手術で劇的に良くなるかも知れない,と.心が踊った.そして迷った.〈事件2〉手術を受けることを決意.それはもう一度左足で思いきりボールを蹴りたいという純な思いからであった.内視鏡下の手術を希望したが,結局,関節部切開による手術となった.半月板は縦に裂けており,全別出術となった.陳旧性の靱帯損傷には手を付けず,筋力アップを図るリハビリとなった.術中,大腿部以下の阻血のためとにかく下肢がだるかったが,カムバックを夢みつつ耐えた.整形外科医になりたいとも思った.かすかな胸さわぎを感じながら.手術の終わった夜はなぜか胸が苦しく,ナースコールを何度も押した.オーバーかも知れないがこのまま死んでしまうのかとさえ思った.〈事件3〉手術後ギプスがきつく,何度も訴えた.辛抱が足りないとも言われた.4日目に減圧のためギプスカットが加えられた.楽になったが辛抱が足りなかったかとも反省した.6週間後念願の退院.本格的リハビリ開始.しかし,途端に左下肢が腫れた.象の足のように.〈事件4〉ウロキナーゼとの出会い—病院へ駆けつけた.整形外科から血管外科へ回された.そして,毎日ウロキナーゼ6万単位の左足背からの点滴,1週間.涙をこらえながら天井を見た.彼には何がどうなっているのかさっぱりわからなかった.整形外科主治医の回答も何か曖昧であった.結論—左外側半月板別出術後大腿深部静脈血栓症.発症は,術直後左大腿部が腫れたこと,胸痛が軽い肺塞栓と考えるとやはり術直後であり,約6週間の経過で初めて症状が顕性化したと思われる.
 さて,この時期の使用でウロキナーゼは効いたのだろうか?多分,効いたのだろう.なぜなら,その後青年はサッカーへのカムバックには結局失敗したし,後遺症のため整形外科医にもなれなかったが,多くのことを経験し,学び,人生には負けず,名医とは何か?いつも迷い続けながら内科医として頑張っているから.そして,彼が心筋梗塞患者,血栓症患者に用いたウロキナーゼの総量は1万単位を超えているだろうから.

検死中に生き返った老婆

著者: 松谷博之

ページ範囲:P.200 - P.200

 研修2年目の,当直をしていたときのこと.1月15日の成人の日の朝,83歳の老婆が救急車で搬送されてきた.

原因不明の薬物中毒

著者: 吉川智加男

ページ範囲:P.204 - P.204

 薬剤にまつわる事例で,今でも印象深い症例を紹介させていただく.
 40歳の男性で,昨日来よりの嘔吐・下痢を主訴として来院.来院時,意識清明なるも全身倦怠感強く,嘔吐・下痢が頻回で臍周囲の疼痛を訴え,冷汗も著明であった.本人および家人より病歴を聴取するが,食物・飲物に心あたりなく食中毒も否定的で,急性胃腸炎として治療を開始した.バイタルサインは体温37.1℃,脈拍88/min,血圧154/88mmHgと大きな異常なく,ただちに十分な輸液を開始したが,徐々に全身の脱力が起こり,起坐も不能,開口も不十分となり,唾液も誤飲するようになった.主な入院時検査はTP7.8,GOT34,GPT44,γGTP456(iv/l),LDH427(iv),T-Bil1.8,ChE0.02(△pH),BUN13,Crn1.0,Na143,K4.4,Cl102,BS105,CRP(−),WBC9,900,RBC498万,Hb17.6,Ht46.7%で,ChEの著明な低下とγGTPの著増以外は大きな異常を認めなかった.翌日には意識レベルが低下し呼吸状態も悪化したため,人工呼吸を開始し,呼吸・循環を維持しながら原因究明に努めた.意識レベルの低下とともに両眼の著明な縮瞳(ピンホール様)を認めたため,脳幹梗塞を疑い頭部MRI検査を施行したが,異常所見なく,その他の神経学的検査も正常であった.翌日の臨床検査の成績はTP8.7,GOT26,GPT31,γGTP392,ChE0.01,T-Bil1.5,CPK311,LDH573,BS241,アミラーゼ206と,ChEの低下,γGTPの著増に加えて高血糖,高アミラーゼ血症,高CPK血症を認めた.さらに発汗異常と流涙あり,有機リン中毒を考えざるを得ない状況となり,来院時の血清を分析したところ,血中よりスミチオンが46ng/nl検出され,有機リン中毒と判明し,アトロピン投与により軽快した.

慢性咳嗽

著者: 深町雄三

ページ範囲:P.214 - P.214

 一般診療の場では,咳嗽は極めて多い症状である.感冒や気道感染症,慢性気道炎症(DPB,Athma,Tbc,etc),あるいは悪性疾患などが頭に浮かぶし,また,これらの疾患が見逃されてはならない.しかし,呼吸器の各種器質的疾患をいくら検索しても明らかな原因を特定できず,「気のせい」とか「心身症によるもの」とされている場合もある.
 症例は72歳女性.主訴は夜間の咳.ここ数年来,床につくと咳が出るが,さほど激しくはなく,痰はほとんどからまない.発熱,胸痛はない.前医にて呼吸器の異常は気管支鏡まで含め検索したが,異常なし.既往に高血圧があり,β遮断薬・アンジオテンシン変換酵素阻害薬などの関与も前医にて検索されたが,試験投与や中止で症状の変化はない.当院での胸部X線写真,CT,呼吸機能にも異常は認めなかった.症状を再度聴取し直すと,咳の前に胸やけがすることがあるという,以前呼吸器を専門とする畏友が,「文献的に中年以上の女性の慢性咳嗽では,噴門部機能不全による胃酸やその蒸気の逆流によって起こるものが多くみられるとある」と話していたことを思い出し,当患者ではヘルニアがある可能性が高いと判断した.上部消化管内視鏡を施行したところ,滑出型ヘルニアと萎縮性胃炎を認めた.試験的に眠前のH2ブロッカー投与を行ったところ,当日より数年来悩まされていた夜間咳嗽が消失した.本来は,食道未端部のpHをモニターし,確定診断すべきであるが,症状がよくなったのにもう入院は嫌だとのことで,外来にて経過を診ている.いまだにH2ブロッカーをのみ忘れると咳が出るという.

気管支喘息の吸入指導

著者: 宮川洋介

ページ範囲:P.220 - P.220

 当外来では喘息,COPDの患者さんが多いため,月に1回喘息教室を開いて吸入指導およびピークフローメーターの使い方を中心とした内容の講義を行っているが,すべての患者が受講するわけではないので,外来でも吸入指導は欠かせない.吸入器を直接(β刺激薬),ないしはスペーサー(ステロイド薬,抗コリン薬)を使って,実際に患者の目の前で吸入してみせながら指導している.しかし,私が吸入するのは実際の薬剤が入ったものではなく,噴射剤のみ入ったいわゆる吸入練習用である.練習用とはいっても霧状に噴射剤は出るし,スペーサーに入れるときも「シュッ」と音がして臨場感もあり,患者さんへの説得力は抜群である.また,患者さんのなかには今までまじめに吸入しなかった人が,私が実際に吸入してみせると,練習用とは知らず「先生は私の治療のために吸入の薬を吸って指導してくれている」と感激し,心を入れ替えてしっかり吸入をするにようになることもある.その「改心」はピークフローメーター値に1〜2週後に如実に反映される.その時の充実感のために自ら吸入を続けていたが,最近になって噴射剤に過敏症になったのか,吸入中や吸入後の息止めの際に時折咳込むようになった.しかし,そこで私が咳込めば,患者さんの吸入薬に対する印象が悪くなるため簡単に咳込むわけにもいかず,涙をうっすら浮かべながら咳をこらえている.
 そろそろ実際の薬剤が入った吸入剤が必要になってきたようである.

ステロイド吸入中,細菌性気管支炎を合併した喘息にインタール®吸入を行いステロイド離脱が可能となった一例

著者: 大島充一

ページ範囲:P.224 - P.224

 喘息に対するステロイド吸入療法は喘息のコントロール上大変有用である一方,稀ではあるが,局所における免疫抑制により細菌性気管支炎を合併することがある.この場合,気道の炎症を制御しながらステロイドからの離脱を図ることは非常に難しい.他方,抗炎症薬であるインタール®(クロモグリク酸ナトリウム)には感染症の増悪を招くような免疫抑制作用は認められていない.細菌性肺炎の合併を契期に,BDP(プロピオン酸ベクロメタゾン)吸入からインタール®吸入へ移行可能であった患者について報告する.
 症例は18歳女性.6カ月前より喘息を発症し,前医で治療を開始されていた.喘息は非アトピー性であり,6カ月間BDP1日800μg(200μgずつ1日4回吸入)使用し,これまでコントロール良好であったが,38℃の発熱と咳嗽・膿性痰を訴えて当院を受診した.胸部X線・CTスキャンから右肺下葉に約1cmの小肺炎像が認められ,喀痰培養でStreptococcusを検出したため,FMOX(フロモキセフナトリウム)1gを1日2回点滴静注で投与開始した.同時にインタール®吸入を1回2mg,1日4回で開始し,定期的に動脈血酸素分圧を測定し(酸素吸入も併用しPaO2>80torrを維持),アミノフィリン持続点滴静注と間歇的β2-アゴニスト吸入を併用しつつ,BDPを5日ごとに200μgずつ減量した.2週間後に肺炎像は消失し,3週間後にはBDPから離脱しインタール®吸入のみで呼吸機能を維持できるようになった.この間,全身的なステロイド投与(静注・内服)は行っていない.退院後,ときどき外来においてアミノフィリン静注およびβ2-アゴニスト吸入を行うことにより小発作をコントロールできた.2カ月目には発作で夜間外来を訪れることがなくなり,現在は定期的に外来受診しながら通学している.

薬は“効かせる”もの

著者: 藤枝一雄

ページ範囲:P.229 - P.229

 かつて私の研修医時代には,喘息といえばほとんど条件反射的に「テオフィリン血中濃度の適正化」をまず考えたものだが,その後新しい喘息治療のガイドラインが発表されたり,吸入ステロイド薬の効用が強調されてきて,当時に比べればテオフィリン製剤もやや影が薄くなって,よい意味での再評価の対象になっている.
 Aさんは,50代の女性で,30年来の気管支喘息で治療をうけていた.そのAさんがある時,私の外来診察を受けに来た.外来カルテを繰ってみると,受診日の日付印が3カ月前からただの1日の欠落もないのでは?と見えるほどに続けて押されており,さらには同じ日付印が続いていたりするのである.最初は,「おや,妙だな」と感じたけれど,一瞬後に「あっ,この患者は毎日病院へ来ているのだ!」と思いいたり,改めてその患者の顔を見直してしまった.

C型肝炎ウイルス陽性の晩発性皮膚ポルフィリン症におけるIFN療法の試み

著者: 竹内孝男

ページ範囲:P.236 - P.236

 晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT)はポルフィリン症のなかで最も頻度の高い疾患であり,発症の原因としてはアルコール摂取,エストロゲン,薬剤などがあげられるが,最近ではC型肝炎ウイルスとの関連性が指摘されている.われわれはPCT合併C型慢性肝疾患の症例にインターフェロン(IFN)投与を試み,PCTの病勢を検討した.
 症例は61歳の男性で,昭和36年発症の尋常性乾癬が増悪して皮膚科に入院し,平成元年7月頃より出現していた褐色尿の精査目的で内科に転科.尿中δ—ALA,ポルフォビリノーゲン,便中および血中ウロ・コプロ・プロト各ポルフィリンがすべて正常であるにもかかわらず,尿中ポルフィリン体,コプロポルフィリン,便中ヘプタカルボキシポルフィリンの著明な高値,および腹腔鏡下肝生検から得られた肝組織所見,さらに紫外線照射によるポルフィリン体沈着の証明などよりPCTと確定診断し,経過観察中であった.その後の検査でHCV抗体(Ⅱ nd)陽性,HCV・RNAジェノチェック3+およびサブタイプⅢと判明.平成5年12月よりIFN—β1日600万単位を2週間連日点滴投与した.その結果,肝機能の改善はみられたが,尿中ポルフィリン体の減少傾向は認められなかった.

喘息発作の治療が意識障害を改善した

著者: 藤井隆

ページ範囲:P.239 - P.239

 6年前のことであるが,61歳の女性で,気管支喘息の治療のために定期的に通院されていた患者さんがいた.喘息の病型は内因性(感染型)で気管支拡張薬(持続性テオフィリン製剤,β刺激剤),去痰薬の服用で軽い咳,痰はあるものの呼吸困難を生じるような喘息発作は滅多に起こらなかった.7月のある土曜日,午後に院外の研究会に出る予定でその前に病院に立ち寄っていたが,その患者さんの夫から「今朝から元気がなく様子がおかしい」と電話連絡があった.当直医に依頼して病院を出ることも考えたが,なんとなく気になり,共同発表する演者には悪かったが研究会への出席を中止した.来院されたとき,覚醒していて会話・歩行は可能であるが,表情に乏しく行動は無目的であった.四肢麻痺は認めなかったが見当識は明らかに障害され,診察している筆者が誰であるのかわからなかった.また,記銘力も低下していて意識障害レベルはJCSのI−3であった.
 脳血管障害の可能性を考えて,精査および経過観察が必要と判断し入院してもらったが,一般状態が良好なこと,また週末であったことより,CTなどの検査は週明けでもよいように思われ,注意深く経過を観察することとした.ところがその日の夜10時頃,病室にいた私の前で突然激しい喘息発作が出現した.当日服薬がなされていなかったためと思われた.ただちにネオフィリン®とステロイド(ソル・コーテフ®)を点滴で投与し,発作軽快後も翌朝まで喘息の重積発作に準じてネオフィリン®とソル・コーテフ®の持続点滴を行った.翌朝喘息発作は消失,呼吸状態も良好であったが,驚くことに意識レベルはまったく正常となり,会話に対する応答も的確で,行動もまったく異常のない状態に改善していた.頭部CTの検査も必要のないようにさえ思われたが,翌日検査したところ,右側硬膜下血腫,脳浮腫高度,脳室の圧迫と偏位が著明で,危険な脳ヘルニアを起こすおそれのあるくらいの重症であった.直ちに脳外科のある病院に搬送して緊急手術を行い,事なきを得た.滅多に生じなかった喘息発作がたまたま起こり,その治療(ステロイド)が脳浮腫を軽減させて意識障害を改善させたわけである.後日の問診で,入院の2週間前に鉄製のガス検針メーターで右側頭部を強く打撲したことがあったとのことである.

偽性アルドステロン症

著者: 古賀英俊

ページ範囲:P.247 - P.247

 「まさかこの薬が命にかかわるような重大な副作用を起こすとは」と,内心冷やりとさせられた経験をお持ちの方もおありと思いますが,胃薬での偽性アルドステロン症はその代表かも知れません.本態性高血圧症の83歳の女性が,呼吸困難と全身浮腫で紹介来院されました.胸部X線所見などから胸水を伴う,うっ血心不全と考えられました.当然のことながら動脈血ガス分析では低酸素血症を認めたのですが,なぜか高炭酸ガス血症を伴う代謝性アルカローシスが認められ,心エコーでも左室機能の低下はごく軽度でした.さらに血清カリウム値が1.9mEq/lと著しい低カリウム血症を認めたことから,それまで服用されていた薬剤を調べましたところ,甘草を含有する胃炎治療薬が含まれていたことがわかりました.このため,本症例は甘草による偽性アルドステロン症であり,それによる体液貯留によって心不全をきたしたものと診断いたしました.さっそく原因薬剤の中止とカリウムの補給を行い,慎重に利尿薬やACE阻害薬の投与を行いましたところ,すっかり症状もとれて軽快退院されました.
 実はこの症例のほかにも,甘草を含有する別の胃薬によって偽性アルドステロン症をきたした症例を経験いたしましたが,いずれも小柄な高齢の女性であり,血清カリウム値が2mEq/lを切る著しい低カリウム血症を呈していました.同程度の低カリウム血症をきたしていながら,症状は重症の心不全,失神をきたす重篤な心室性不整脈,そして筋肉痛と四肢の筋力低下を主症状とする横紋筋融解と多様で,いずれも治療によっては生命に関わる重篤な状態でした.「胃薬ごときで?しかも常用量で……」ということなのですが,こうした例を思い出すたびに,たとえ常用量の胃薬でも,思わぬ副作用が生じて足元をすくわれないよう,日常の診療にあたって注意しなくてはならないと自分に言いきかせています.

吸入ステロイド療法の効果は?—やってみせて,真似てみさせて,褒めてやらねば

著者: 横山泰規

ページ範囲:P.252 - P.252

 気管支喘息のステロイド(beclometasone dipropionate:BDP)吸入療法には,今やゆるぎない評価がある.しかし,これも吸入手技の確実な伝授が前提のうえである.
 中等症で通年性の喘息発作を示す19歳男性の大学受験生がやってきたのは夏休み前.小児喘息のときから,徐放性テオフィリン薬と吸入・経口β2刺激薬で治療していたという.その日はピークフロー(PEF)で45%の発作の治療を行った.1週間ほどして,ピークフローメーターによる測定に興味を持ったことを確かめて,BDP吸入療法に踏み切った.身振り手振りで,1日400μgの吸入を教えた.ところが,秋風が立つ頃になってもいっこうに発作が減らず,普段もPEFが60%程度.来院の際,たまたま診察室でBDP吸入をさせてみた.彼は十分に息も吐かず,いきなり定量噴霧式吸入器(MDDを口元で噴霧した途端,驚いたように息を止めてしまった.これまでの謎が一気に氷解した.空中へ向けてMDIを噴霧してみると,確かに一瞬,びっくりするほどの音で薬剤が飛び出すので,彼の戸惑いも理解できた.

両刃の刃—ステロイド薬

著者: 村瀬登志彦

ページ範囲:P.257 - P.257

 A氏は若い頃炭坑で働き,塵肺症を長きにわたって患い,60歳にいたって喘息症状をきたすようになっていた.私の外来へは他医よりの紹介状を持って来院し,2年ほどが経過していた.前医の処方どおり,プレドニゾロン10mg/dayを常用し,特にステロイド薬による副作用もなく喘息症状もおおむね良好にコントロールされていた.若干,高血圧および高血糖の傾向があったため,プレドニゾロンの減量・中止を試みることとした.2週間に2.5mgずつ減量し,うまくいけば2カ月で中止する予定とした.7.5mg/dayへの減量は問題なく進み,5mg/dayへ減量した.減量がうまく進まないとすれば,喘息症状のぶり返しが起こると考え,理学所見に注意を払って経過をみたが,自覚症状も問題がなく順調に減量が進んでいるように思われた.その時点での生化学検査でGOT341U/l,GPT51IU/l,ALP230IU/l,LDH598IU/lなど軽微な肝機能異常が示されたが,特に気を止めなかった.さらに2.5mg/dayに減量した途端,本人が倦怠感,食思不振を訴えて来院し,生化学検査で,GOT455IU/l,GPT415IU/l,ALP322IU/l,LDH735IU/l,T-BIL5.4mg/dlという結果を得た.A型およびC型肝炎は否定されたがHB抗原陽性と判明し,前医に問い合わせたところ,A氏は無症候性HBキャリヤであったことが確認された.ステロイドを再度増量するも肝細胞の崩壊は加速度的に悪化し,胆汁うっ滞傾向も出現,亜急性肝炎の状態に陥った.しかし,プラズマフェレーシス,体外循環でのビリルビン除去などの濃厚治療を施し,約2カ月の長期を要してようやく一命を取り留めた.
 HBキャリヤのHB抗原および抗体のseroconversionを目的としてステロイドによるリバウンド療法というものがある.A氏の場合は意図せずにそのリバウントを引き起こし重症肝炎にいたらせてしまったと考えられた.多くの病態において使用されるステロイド薬は直接の副作用も当然注意されるべきであるが,この症例のように既に長期に使用されステロイドの存在が恒常化している個体において,その中止が予期しない現象を引き起こすことがあることを思い知らされた.それ以来,ステロイド薬の使用およびその増減については肝疾患にかかわる現病歴と既往歴をことさらに確認するようにしている.

皮内反応は,確実に皮内に

著者: 保戸山克宏

ページ範囲:P.261 - P.261

 患者は57歳男性.39℃を超える弛張熱が続いていた.臨床症状に乏しく,主な画像診断では異常は認めず,血沈,CRPなどの炎症反応のみで,とりあえず抗生剤を投与したが,効果は認められなかった.血液培養も頻回に施行したが,細菌は検出されず,患者が1年以内に世界中を旅行していたため,マラリア,レジオネラなどの検索も施行したが,異常なし.腫瘍や膠原病を示唆する所見も認められなかった.紹介状にはツベルクリン反応(ツ反)は陰性と記載されていたが,念のため結核も考えてツ反を施行し,各種の培養を施行したが,結果は陰性であり,またガフキーも陰性であった.
 このような検索を行っている間も,発熱は継続していた.当時施行されはじめたHIV抗体検査も行った.症例検討会では,日本ではまだ少ない輸入感染症ではないかという意見もあった.私は,“結核ではないか”という考えが捨て切れなかったため,結核の専門家に意見を求めると「ツ反は確実に皮内で行わないと,反応が不確実なことがあり,自信がなければ再検したほうがいい」とのことであった.そこで今度は確実に膨疹を作り,皮内でツ反を施行すると,48時間後には強陽性と出た.すかさず抗結核薬を投与すると,あれほど続いていた弛張熱が,3日後には36℃台に解熱した.病巣は特定できなかったが,その後も発熱は認められなかったため,患者は退院となった.

鉄欠乏性貧血

著者: 山下えり子

ページ範囲:P.273 - P.273

 〈その1〉健康診断の季節になると必ず,出戻り鉄欠乏性貧血の女性が何人か外来に受診する.小球性低色素性貧血で,問診上過多月経がある.本人は前回受診中に鉄剤を服用していたが,医師に「貧血は改善したから受診しなくていい」と言われたという.確かに貧血は一時的に改善するだろう.しかし貧血の原因の過多月経は改善しているのか?鉄欠乏性貧血の多くの女性は腹部超音波で子宮筋腫が見つかり婦人科に紹介する.一方,腹部超音波で所見がないどころか婦人科に受診しても器質的に異常なしという症例がある.いずれによせ巨大な子宮筋腫がないかぎり婦人科の先生は手術してくれないし,年齢によっては「なにも今切らなくても閉経を待ちましょう」という症例がほとんどである.そこで内科医はどうするべきか?原因が解決するまで長々と鉄剤を処方するしかないのである.では過多月経とは?それが多くの男性医師には理解できないようである.私の少ない外来経験からは,「昼でも夜用(ナプキン)が必要」という日が2日間以上,周期が3週間以内のどちらかが当てはまれば,まず放っておくと鉄欠乏性貧血になる.そういう症例にはきちんと閉経までのお付き合いを宣言すべきである.また鉄剤の投与は,血色素量の改善に次いでフェリチン値の正常化が得られたら,フェリチン値の一定化(20〜30ng/mlで十分)を目指して服用日を決める.例えば2〜3日に1錠とか,忘れないように月経中に1日1錠と.そうすれば貧血再発というショックを受ける女性は激減するであろう.
 〈その2〉高脂血症の治療方針は①食餌療法,②運動療法,③薬物療法であることは周知の事実である.高脂血症の患者が過多月経による鉄欠乏性貧血を合併していたら,鉄剤を処方するとともになんの気なしに「食事に気をつけて下さい」と言ってしまう.患者は脂肪制限を受けているが,多くの場合「貧血を治そう!」とレバー・卵・貝類を大いに食べ始める.したがって急に高脂血症のコントロールが悪くなる.それでは困るので,そういう場合は貧血の治療は鉄剤に任せてもらう.どうしても食餌療法でという場合は,「鉄・カルシウム強化,カロリー控えめ」という牛乳や鷲のマークの製薬会社から発売されている,女性をターゲットにした鉄分入り健康ドリンクを勧めている.食餌療法を指導するには普段からいくつかのスーパーマーケットに通い,どこにどういう商品が置いてあるかを知っておくと役に立つ.

ビタミンB12とチラーヂンS®併用投与で改善した悪性貧血の一例

著者: 前田貞則

ページ範囲:P.280 - P.280

 61歳女性.10月初旬より易疲労感あり,近医受診し,立ちくらみと味覚障害も認められたため,同医紹介で11月9日当科受診となる.顕著な貧血と顔面・四肢に浮腫を認め,即日入院となった.
 入院時の末梢血は白血球数1,300/μl,血色素4.8g/dl,血小板数15.8×104/μl,MCVは132flで大球性貧血と汎血球減少を呈し,赤芽球の出現がみられた.生化学検査でLDHは5,630IU/lと著明な上昇を認めた.骨髄穿刺検査で巨赤芽球を認め,さらに血清ビタミンB12は67pg/mlと低値で抗内因子抗体も陽性であった.内視鏡検査でも萎縮性胃炎を認め悪性貧血に合致したため,ビタミンB12を1000γ筋注で開始するも,反応悪く,開始1週間後の末梢血は白血球数2,500/μl,血色素4.9g/dl,血小板数11.8×104/μlで改善せず.汎血球減少をきたす疾患として,甲状腺疾患,SLEなどの有無も入院時に検査を実施.SLEについては抗核抗体および抗DNA抗体は陰性であった.甲状腺腫大はみられなかったが,T3は26ng/dl,T4は2.5μg/dlと低値で,TSHは54.3μU/mlと高値を呈し,サイロイドテストとマイクロゾームテストがおのおの1,600倍と陽性であり,橋本病の合併を認めた.チラーヂンS®併用を行ったところ,開始後数日で血色素の上昇をきたし(開始約10日後の血色素7.4g/dl),顔面・四肢の浮腫,全身倦怠感も次第に消失した.

HMG-CoA還元酵素阻害薬とCPK

著者: 田中謙二

ページ範囲:P.290 - P.290

 退職された先生から引き継いだ患者さんは66歳,145cm,66kgと,小太りの元気のいい女性でした.高コレステロール血症の診断で,プラバスタチン10mg/dayが投与されていましたが,コレテロールは259mg/dlと高値でした.その時,CPKが411IU/lと高値であることに気づきました.以前のデータをみると徐々に上昇してきているようです.HMG-CoA還元酵素阻害薬によるCPK上昇,横紋筋融解ととっさにひらめきました.とりあえず,シンバスタチン5mg/dayへ変更し,様子をみることにしましたが,その後も613IU/lとCPKの改善はみられません.そこで,ある可能性を考えて,検査をしてみました.結果は,賢明な読者はおわかりでしょうが,T30.62ng/ml,T41.06μg/dl,TSH152.4μIU/mlと立派な甲状腺機能低下症でした.臨床症状がなく,コレステロールとCPK以外に異常がみられないため見逃されていたようです.CPKの上昇を薬の副作用と思ったばかりに診断に時間がかかってしまいました.甲状腺ホルモンの補充を開始し,コレステロールとCPKは正常化しました.少し体調がよくなったのではないかと期待する私に,「少し体は締ったごとありますが,体重は減らんし,何も変わりません」とその患者は言うのでした.

固定薬疹を見逃してはいないか?

著者: 横山泰規

ページ範囲:P.296 - P.296

 慢性腎不全の透析患者さんは予想以上に頻繁に「かぜ症候群」に罹患するように思う(多い人で年5〜6回ぐらい).肺炎など合併症がないのを確かめて対症療法を行うが,3〜4日の総合感冒薬投与でほとんどが万事解決となる.
 昨年の冬は寒波で,巷間,“かぜ”が猛威を振るった.透析歴が20年の47歳の男性が,前日からの関節痛と悪寒,鼻汁,咽頭痛を訴えた.37.4℃の発熱と咽頭粘膜発赤のほかに所見がないため,3日分の総合感冒薬(PL顆粒®)を処方した.次の透析の際には“かぜ”症状はほぼ快方に向かっていたが,左大腿と右手背に赤褐色の斑があってなんとなく痛がゆいという.「どこかでぶっけたみたい」と患者さんの自己分析もあって,その場は終わった.

電解質補正時の注意

著者: 宮下綾 ,   中元秀友 ,   鈴木洋通

ページ範囲:P.304 - P.304

 高K血症は一般に腎機能が低下するに従ってよくみられる.特に,高齢で腎機能障害のある患者ではしばしば高K血症をみる.また,非ステロイド系消炎薬により高K血症が増悪することが知られている.さらに,この高K血症は致命的な不整脈を起こすことがあり,しばしば迅速な治療が要求される.高K血症の治療で比較的早い効果を期待できるものにグルコース—インスリン療法がある.これはインスリンがカリウムを細胞外から細胞内に取り込ませるようにする結果,細胞外のカリウムが低下することで効果をあげる.このとき,インスリンにより低血糖に陥ることを防止する目的でグルコースを補充する.今回の症例は非ステロイド系消炎薬を服用後に高K血症が生じ,その治療経過中に低Na血症が出現した.
 症例は74歳女性で,数年前より腎機能障害を指摘されていた.しかし,腎機能障害がどの程度であるのかは不明であった.腰痛にて近医を受診したところ,鎮痛薬の投与を受けたが痛みは軽減しなかった.数日後には手足のしびれを自覚した.他院を受診したところ,高K血症(血清K値8.5mEq/l),さらに心電図上心室細動をみたため,直ちにグルコース—インスリン療法が開始された.このときインスリン5単位に対して5%ぶどう糖500ccで輸液が行われた.約2,500ccを12時間輸液したところで血清K値は6.4mEq/lと低下しNaは120mEq/lで心電図上も洞性頻脈であった.その1時間後に患者の意識が低下していることが看護婦から報告された.そこで血清Na値を測定したところ117mEq/lであった.

病気は1つだけとは限らない

著者: 山崎忠男

ページ範囲:P.307 - P.307

 黄疸,腹痛,発熱を主訴に99歳の女性が入院してきた.この方は九州なまりがあり,たいへん小柄な方で愛敬もあり,可愛いおばあちゃんという印象であった.腹部エコー,腹部CT検査や臨床検査などから胆嚢結石,総胆管結石と診断された.高齢でもあり,身体所見からも手術的治療は困難と考えられ,胆管炎治療として抗生剤とともに内視鏡的乳頭切開術を施行し,総胆管結石の排石を行った.数回の施行で総胆管結石は除去され,胆管炎も治癒した.退院の時も大変感謝された.胆嚢結石については外来で経過観察していく方針であったが,その後は来院されず,忘れかけていた頃(6〜7カ月経過していたか),食欲不振で再び来院した.黄疸が再び出現し,衰弱と脱水もあり,即日入院した.再び胆石による症状と考えられ腹部エコー検査を病室で施行したところ,胆嚢結石だけでなく肝内に高エコー腫瘤が多発し,肝門部に胆管癌を思わせる腫瘍像と肝内胆管の拡張像を認めた.このときは一瞬目を疑った.わずか数カ月で全く異なるエコー像を示していた.経皮経肝胆道ドレナージ術を施行しようとしたが本人と家族の反対にあい施行できず,わずか数週間で死亡した.ERCPの写真を見直してみると,結石だけで満足していた感がありやや不十分であった.
 たいへん反省すべき症例であり,恥を忍んで紹介したが,皆さんもこういうことのないよう,必ずしも病気は1つだけとは限らないことを肝に(胆に?)銘じておきましょう.

他疾患の合併や薬剤による病態の修飾に注意を

著者: 中村信

ページ範囲:P.324 - P.324

 最近,示唆に富む症例を経験した.患者は糖尿症性腎症のため外来通院中で,経口糖尿病薬による血糖管理は不良であった.しかし,ある時期から急に血糖管理が良好となり,今までになかった低血糖を認めるほどになった.食事療法を守れるようになったのかと感心していたところ,下痢を訴えるようになり,血清蛋白・コレステロールの低下といった低栄養状態を呈し,下腿浮腫の増強・胸水貯留も認めるようになった.止痢薬,利尿薬(フロセミド)の投与によって,下痢・浮腫は軽快したが,低栄養の改善がなく低血糖傾向が続くため入院とした.
 入院後には,さらに汎血球減少症,軽度の肝障害も出現した.画像診断上は,肝硬変は否定的であったが脾腫があり,なんらかの肝疾患や悪性疾患の存在を疑ったため,その後各種画像検査・骨髄検査を進めたが,結果はシロであった.診断に苦慮した場合には常に薬剤の副作用を疑わねばならず,医薬品集を繕いてみると,フロセミドの副作用に汎血球減少症が報告されていた.そこで,フロセミドを休薬してみると,見事に血液所見は改善した(本例では,同じループ利尿薬であるブメタニドでは汎血球減少症を認めず,現在も投与中である).

尿を診るということ(1)

著者: 深町雄三

ページ範囲:P.332 - P.332

 診断機器の発達にともなって,理学所見の軽視が多くなっていることに注意が喚起されているが,手軽にできる検尿・尿所見についても,同様の危険性を感じている.
 症例は32歳女性.主訴は全身の疼痛.数年来,口内乾燥とう歯の増加を認めていたが,全身の疼痛が起こり,だんだんと悪化.歩行も困難となって近医受診.抗核抗体陽性よりなんらかの膠原病を疑われ紹介された.理学所見上,口内乾燥,う歯多数で,歩行はペンギン歩行.肋骨・中足骨などの骨上に明らかな圧痛を認めた.同部のX線写真では骨折の不完全治癒像を認めた.特殊検査では,ss-A8倍,ss-B16倍,Shirmer test,Gum test陽性,唾液腺造影でapple tree appearanceがみられ,小唾液腺の生検で萎縮とリンパ球の浸潤がみられ,シェーグレン症候群(SjS),sicca alone群は確定した.当時,私は研修1年目で,ここまではスムーズにきたものの,さてSjSと骨の破壊についてなんら解決しないまま2週間が過ぎた.最初からやり直しのつもりで,入院後の検査を見返していると,検尿で常にpHが8を超えている.改めて教科書や文献をながめてみると,renal tubular acidosis(RTA)の合併例がSjS,特にsicca alone群では頻度が高いとされている.念のために測定した動脈血ガス分析ではpH6.98,HCO38.9と著明な代謝性アシドーシスを示していた.SjSとRTAの合併であることまでわかれば,今度はRTAを調べてみればよい.RTAにはosteomalaciaの合併頻度が高いとどの教科書にも書いてある.X-P上認められた骨折の不完全治癒像は,骨軟化症に特異性が高い,Looser's lineと呼ばれる所見であった.本患者は,Shoel液の投与によって劇的に全身の疼痛が改善し,歩行も正常化した.未熟な医師に当たったばかりに,患者さんは不要な苦痛に約ひと月も苦しめられたかと思うと,今となっては冷汗が出る思いがする.検尿のpHが常にアルカリ性を呈することは,一般の,特に若い人では稀であることに気づけば,入院時に仮診断,検査方針,治療方針まで到達できる材料が揃っていたのである.理学所見は当然のこととして,検尿など簡単に施行できる検査の所見を軽視すべきではない.

腎不全におけるジギタリス療法

著者: 中元秀友

ページ範囲:P.336 - P.336

 症例は73歳女性.50歳時より近医にて糖尿病を指摘され,食事療法,運動療法,さらに経口糖尿病薬による血糖コントロールを行っていた.しかし血糖コントロール不良であり,65歳時より糖尿病性網膜症を指摘されていた.同じ頃から尿蛋白を指摘されており,最近腎機能の悪化も指摘されていた.また,70歳頃から近医にて心房細動に対しジゴキシンを0.125mg連日にて投与されていた.平成8年5月中句頃から食思不振,吐気が出現し,当院腎臓病センター受診し入院となった.当院入院時の検査ではBUN57mg/dl,クレアチニン(Cr)5.0mg/dl,Na137mEq/l,K4.9mEq/lであり,血中ジゴキシン濃度1.0ng/mlであった.各種制吐薬を使用するも症状改善なく,また内視鏡上も明らかな異状所見を認めないことから糖尿病に合併した胃腸症状と考え,入院3日目からエリスロマイシン(EM)を600mg/day,分3にて投与開始した.EM投与翌日には,著明な胃腸症状の改善を認めた.EMには消化管のモチリン受容体刺激作用1)があり,糖尿病に合併する胃腸症状に対して有用である2)との報告がなされており,本例もその著効例であった.食事摂取も可能となり,状態は安定していたが,EM投与開始7日目より心拍数40前後となり,血圧も90前後に低下し尿量が減少した.その日の検査ではBUN86mg/dl,Cr6.1mg/dl,Na138mEq/l,K3.9mEq/lであった.血中ジゴキシン濃度の上昇に伴う徐脈と思われた.EMにはジゴキシンの吸収を亢進させ,ジゴキシンの血中濃度を10〜40%増加させることが知られており,EMによる吸収亢進,さらに腎機能の悪化が影響したものと考え,ジゴキシンの投与を0.1mg/dayの隔日投与とした.さらにEMも400mg/dayに減量した.翌日には症状の改善を認め,心拍数も50台なった.
 本症例は,糖尿病に合併した胃腸症状にEMが著効を呈したが,それに伴いジゴキシンの吸収亢進をきたし,その効果が増強され,徐脈をきたした症例であった.本例のように,腎機能の低下した症例においてはジギタリス製剤の投与量には十分に注意し,さらに各種薬剤との相互作用には気をつける必要がある.さらに,血清Kなどの電解質にも注意する必要がある.特に透析患者においては,血中のK値の変動が激しく,思わぬ事態に出くわすことがある.したがって,腎不全患者でのジギタリス製剤投与にあたっては,常に血中濃度をモニターしつつ,その投与量,投与間隔にも細心の注意が必要と思われた.また,糖尿病性腎症患者の胃腸症状に対するEM療法も,原因不明の胃腸症状を訴える糖尿病患者には一度試みるべき治療方法と思われる.

難治性血液疾患で逝く若者から学ぶもの

著者: 西成民夫

ページ範囲:P.342 - P.342

 初発時から重症の再生不良性貧血のIさんは蛋白同化ホルモン,メチルプレドニゾロン—パルス療法,シクロスポリンA,大学病院でのエリスロポエチン,IL—1α,,IL—3,いずれも効果が認められず,骨髄バンクが普及したときには輸血量が多く移植も不可能でした.約9年の経過で,最後の2年間は当科外来で輸血とG—CSF投与を受け,またヘモクロマトーシスによる糖尿病のためにインスリン自己注射をしながら,電子部品の検査の仕事に情熱をかたむけていました.最期は重症肺炎・肺塞栓で他界しました.剖検では,29歳のその胸に胸腺が残存していました.
 治療抵抗性非ポジキンリンパ腫のAさん.大学で放射線療法,化学療法,末梢血幹細胞移植と大変な治療を受けた後,郷里の当院へ紹介入院となりました.腹部にはbulky massがあり,自分の病気とその余命いくばくもないことを知りながらも,最後まで明るく,病棟のスタッフにたくさんのことを教えてくれました.ミトキサントロン,イホスファミド他のsalvage therapyに耐えて,少しでも調子のよい日は笑顔が一層輝き,看護婦さんたちを逆に励ましてくれました.輸血しても血小板が2〜3万/mm3にしか上がらず,おそるおそる22Gのカテラン針を使って胸水・腹水を抜くと,楽になったとAさんは感謝してくれました.19歳の誕生日を迎えて間もなく他界されましたが,剖検が終わり出棺のとき,もう勤務時間外であったにもかかわらず,病棟の看護婦さんたちが皆Aさんを見送りに出てきました.棺に自分の顔をこすりつけ,声をあげて泣いているスタッフもおりました.

骨粗鬆症と腎障害

著者: 村井孝男

ページ範囲:P.350 - P.350

 最近,患者のなかで高齢者の占める割合が増えてきている.受診時には病気はかなり進行している例が多く,治療に苦慮する.入院の原因となった病気が治っても,検査をすすめているうちに他の病気がみつかり,入院期間がずるずるのび,退院できるときには,家族は,老人のいない生活に慣れ,老人の受け入れが難しくなる例がある.したがって高齢者を診るとき,どこまで検査の範囲を広げるかに頭を悩ますことが多い.
 以前勤めていた病院では,ときどき他科からの診療の依頼があった.大腿骨頸部骨折で整形に入院し,人工骨頭置換術を受け,リハビリ中で,骨粗鬆症に対しサケカルシトニン10U2回/週,イプリフラボン600mg,乳酸カルシウム3g,カルシトリオール0.75mgが処方され,2カ月後には食欲不振とBP180/90mmHgの高血圧が続く86歳の女性(入院時は正常血圧)が循環器科へ診察依頼となった.同僚の西野Drが診察したが,一度に血算,TP,Alb,T—Bil,ChE,GOT,GPT,ACP,LDH,γ—GTP,CPK,BUN,Cr,UA,T—Chol,TG,HDL,Na,K,Cl,Ca,P,血沈,CRP,RAの検査をオーダーしていた.一度にオーダーの出しすぎではないかと思ったが,結果は見事なものだった.BUN/Cr60.6/3.4,Ca13.6mg/dl(整形入院時のBUN/Crは20.1/0.7でCaは測っていなかった).ここまで出れば答は簡単で,Ca製剤,活性型Vit Dにより高Ca血症をきたし,このため多尿,食欲不振が起こり,脱水と腎へのmicrocalciticationによる腎障害,高血圧を引き起こしたと考えられる.この症例は幸いに輸液と内服中止によって1カ月でほぼ正常化し,その後腎もCaも正常のままである.活性型Vit Dへの感受性がたまたま非常に高かったということだと思うが,骨粗鬆症治療の通常量で起こっており,高齢者の骨粗鬆症の治療がますます増える傾向を考えると,このような例が増えてくるものと思われる.骨粗鬆症の治療の際には,漫然と投与せず,自覚症状に注意し,血清Caのモニタリングを頻回に行う必要があると思われた症例である.

TAE後に溶血性尿毒症症候群,肝梗塞を合併した肝癌症例

著者: 中尾多香昭

ページ範囲:P.361 - P.361

 肝癌に対するTAEの合併症について溶血性尿毒症症候群(HUS),肝梗塞についての報告は極めて少ない.本症例はTAEを施行後,重篤なHUS,肝梗塞を引き起こし,ハプトグロブリン療法,血液透析などで改善した肝癌の症例である.
 症例は60歳男性.B型肝硬変に合併したS7〜8の約6cmの肝癌で,TAEを施行.門脈はintact.A-Pshunt(-),ADM20mg,MMC10mg,リピオドール®10mlを動注し,TAEを行った.2日後より39℃の発熱,黒褐色尿(Hb尿)(図1),著明な貧血(Hb6.0g/dl),LDH高値,血小板減少(2.4万),急性腎不全(BUN86mg/dl,クレアチニン5.2mg/dl)などの状態を呈し,いわゆるHUSの病態に陥った.ハプトグロブリン療法と血液透析により,溶血,血小板,腎不全などすべて回復した.CTではS7〜8の腫瘍への著明なリピオドール®の集積と肝梗塞(図2)の所見が認められた.肝臓は肝動脈と門脈の二重支配を受けているため,肝梗塞は非常に発生しにくく,肝動脈の塞栓では発生せず,全身的あるいは局所的な酸素欠之をきたす要因(ショック,DIC,炎症など)が加われば生じる.一方HUSは,急性腎不全,溶血性貧血,血小板減少を主徴とする比較的稀な疾患であるが,MMCによって起こることも知られている.その機序としてMMCの直接的および免疫学的複合物沈着による血管内皮障害,血流障害が生じ血栓を形成したり,血管透過性の亢進,血液凝固異常などが考えられている.本剤では①リンパ球幼若化試験でMMC(+)ADM(-)で,まずMMCにより著明な溶血が起こり,それにfree Hb,微小血栓,DICなどが加わり,局所的に酸素欠乏を生じたか.②逆に,まず肝梗塞が起こり大量の壊死物質が生じ,それに微小血栓などが加わりHUSが併発したか,③リピオドール®が門脈内に逆流したことにより,動脈,門脈とも閉塞されたか,いずれの可能性も考えられるが詳細は不明である.TAEやMMC投与後に本例のような臨床症状を認めた場合は,HUSや肝梗塞なども考慮に入れる必要があると思われる.幸いにも救命し得たが,顔面蒼白になった症例である.

ベーチェット病の発熱にセファランチンが効果

著者: 布谷隆治

ページ範囲:P.364 - P.364

 ベーチェット病の高熱にセファランチンが効果を示した経験を記載する.
 16歳の男子高校生が,平成1年4月4日に39.1℃の発熱で受診.外来で抗生剤などが投与されたが,4月10日になっても解熱せず入院した.入院時に口蓋垂や口唇に小さなアフタがあったが,当初はベーチェット病と考えなかった.初診時の白血球数6,300ml(桿球44%,分葉球36%,好酸球0%,塩基球0%,単球5%,リンパ球15%).入院時の赤沈1時間値30mm,CRP(3+),抗核抗体(−),RA,ASO,ワ氏,抗クラミジア抗体,血液培養はいずれも(−),IgD5.0mg/dl,IgE1,208U/ml.IgE高値はスギ花粉症によるものと思われた.入院翌日の診察で,右大腿内側の径1cmの潰瘍と鼠径部リンパ節腫脹に気づいた.3日目になって,大腿部潰瘍が接する陰嚢部にもあたかも“とびひ”のように新たな潰瘍が出現した.ベーチェット病の陰部潰瘍の広がり方を知らず,伝染性膿痂疹を疑ってしまった.5日目に奈良医大皮膚科でベーチェット病と診断され,セファランチン投与を勧められた.ベーチェット病での多核白血球機能亢進,特に多核白血球の活性酸素産生能増加に対してセファランチンが抑制的に働くことから,再発性アフタ性潰瘍や眼・皮膚症状に有効であることを後になって知ったが,そのときは効果に対しては半信半疑であった.報告には30〜150mg/dayとあるが,わずか6mg/dayの投与開始の翌日から37℃台に急速に解熱したのには驚いた.6日後に再び38℃台に上昇し,ステロイドに変更したが,ベーチェット病の診断と治療方針を考える時間を得るには十分であった.平成1年10月17日にステロイドを中止し,現在にいたるまで再発はない.

3種の悪性腫瘍治療を可能にしたのは?

著者: 中村昇

ページ範囲:P.376 - P.376

 先日,70歳の男性患者の剖検に立ち会った.20年前に非B型慢性肝炎・特発性血小板減少性紫斑病と診断され,脾摘を受け,HCV肝硬変から肝癌に進展し,エタノール注入や肝動脈塞栓術・抗癌剤動注を繰り返し,無効となり亡くなられた.
 62歳の時,呼吸器科に紹介され,副鼻腔炎・気管支拡張症・緑膿菌肺炎で入院し,在宅酸素療法下に退院となった.通院中,背部の皮下結節に気づかれ,生検の結果皮膚T細胞性リンパ腫(HTLV—I陽性)と診断されたのは,翌年だった.血液内科に転科し,化学療法が行われ寛解となったが,緑膿菌肺炎がコントロールできなくなり,化学療法の継続は断念された.翌年に肝癌が診断され,治療が始められた.呼吸器科ではエリスロマイシン少量持続療法が奏効し,在宅酸素療法を離脱した.66歳になり,右上葉に空洞を伴う腫瘤が出現したため,気管支鏡を行ったが確診にいたらず,経皮穿刺生検目的で入院の際,リンパ腫の再発を発見した.血液内科と再協議の結果,再度化学療法を行うこととし,感染はなんとかコントロールし再び寛解となったが,半年後肺腫瘤は増大した.2度目の気管支鏡検査で扁平上皮癌と診断され,血液・肝・呼吸器の主治医が集まり,患者さんを含め相談となった.低肺機能・術後感染のリスクと,合併している他の疾病の予後を考え,放射線療法が選択され,60Gyの照射で寛解を得,再び外来通院可能となった.

副腎皮質ホルモン内服中の外来患者

著者: 川嶋乃里子

ページ範囲:P.378 - P.378

 臨床医ならば,副腎皮質ホルモン投与中の患者の血糖や感染症に留意するのは当然だが,ちょっとした油断からこんな結果にもなる.
 患者は54歳の男性.IgA腎症で肉眼的血尿が続き,プレドニゾロン20mg/day内服中だった.6日前よりの右頸部から右上肢への放散痛と右上肢の脱力を主訴に外来受診し,内科から整形外科へ,さらに神経内科に紹介されてきたのは夕方だった.発熱なく1カ月に約7kgの体重減少があり,軽度の意識障害(JCS1)と,右第7頸髄神経根症によると考えられる脱力と感覚障害あり,腱反射は右上腕三頭筋で消失,左上肢・両下肢で亢進しており,当初は硬膜外腫瘍(つまり転移性腫瘍)で脳転移を伴っているのかと思われた.早速頭頸部CTを撮り,第6・7頸椎と第1胸椎の骨破壊と椎体周囲に広がる腫瘤,さらに硬膜外腫瘤を認め,後二者は造影剤で増強され,脊髄は左側へ圧排されていた.放射線診断部からも転移性腫瘍とのレポートが戻ってきた.では入院して……と,血液検査の結果をみると,血糖576mg/dlである.あわててレギュラーインスリンの点滴を開始し,翌朝意識清明となったところで,もう一度患者にたずねてみると,約1カ月前に発熱・咽頭痛があり,内科よりレボフロキサシン300mg/dayを投与され軽快したが,軽い頸部痛が続いており,1週間前より著しい口渇がありペットボトルのジュースを大量に飲用したということだった.

高齢者骨髄腫の“日和見”経口化学療法

著者: 平田正弘

ページ範囲:P.380 - P.380

 骨髄腫はもともと高齢者に多く,異常γ-グロブリンによる高蛋白血症,貧血,病的骨折,腎不全,易感染性など多彩な症状を呈する.現在では種々の補助手段が開発され,強力な化学療法やインターフェロン療法があるが,いずれも副作用の面から高齢者には不適な場合が多い.Retrospectiveにみると,無治療経過観察のほうが余命が長いと推定される症例もしばしばあるが,骨髄像で骨髄腫細胞が多く貧血も強いときや,他の症状があってマイルドな治療を試みたい症例に,時に遭遇する.このようなときにはプレドニン®20mg/day,メルファラン4mg/dayを3日間投与,11日休薬(あるいは4投10休)の外来治療が奨められる.血小板数,白血球数を指標として減少傾向となればメルファランを休薬し,貧血が進めば時に輸血を行う.教科書には少量持続と間歇大量投与法が載っているが,本法は少量間歇投与療法である.本法と他の治療法の比較検討はなされていないので正確な有効率は不明だが,腎不全や重篤な感染症を起こさなければ,これで数年間比較的良好なQOLが得られる症例をしばしば経験する.さらに併用療法として,中等度の腎不全を合併した場合はクレメジン®1日を12〜30カプセル分3と,緩下剤を併用する.高γ-グロブリンを呈する症例は二重膜濾過血漿交換法(double filtration plasmapheresis:DFPP)を1〜2回併用すると効果的である.慢性血液透析の内シャント穿刺に用いる19G側孔付きハッピーキャスで大腿静脈あるいは内頸静脈を穿刺し脱血,同じく19G側孔なしハッピーキャスで太めの皮静脈を穿刺し返血すれば,太いショルドンカテーテルを留置しなくてよいし,短時間の圧迫で止血できる.DFPPには血流量は80〜100ml/min採れれば十分で,高齢者の場合,開始時は50〜60ml/minぐらいから徐々に増やしていくことと,事前に十分輸液して脱水のないようにしておくことが重要である.

腎不全とくすり

著者: 橋本泰樹

ページ範囲:P.385 - P.385

 多くの薬物は肝で代謝され,活性型または不活性型の代謝産物に変わる.代謝産物の排泄経路が主に腎を経由する場合は,腎障害時に蓄積をきたすため注意が必要である.腎不全時に薬を処方する際に,通常の用量を処方し,思わぬ副作用に遭遇した経験をもつ方も多いはずである.さらに厄介なのは,これらの薬剤による副作用が惹起されても,それがまったく認識されていない場合である.当然,この場合は延々とその薬の投与が続けられる結果となる.
 すべての薬物の代謝,排泄を覚えることは不可能であり,さらに個々の患者における代謝過程の個人差,吸収の程度,血漿アルブミンとの結合率を考慮すると,話は一層複雑である.添付文書には,腎障害時には減量が必要と書いてあっても,具体的な量が記されていない場合が多い.また,すべての薬剤について,製薬会社のインフォメーション担当者に問い合わせるのも時間がかかり,現実的な方法とは思えない.日常使用頻度の高い薬剤について腎不全時の大まかな投与量を知っていることが理想的であるが,これには時間と経験が必要である.そこで以下のことをお勧めしたい.

腎不全用アミノ酸製剤と意識障害

著者: 神野雄三

ページ範囲:P.387 - P.387

 必須アミノ酸療法は急性腎不全の救命率を高めると70年代に報告されて以来,金科玉条のごとく腎不全患者にAmiyuを投与する医師が少なくない.しかし,Amiyuの投与により肝性脳症をひき起こすことがある.透析患者7例中3例に意識障害をきたしたとの報告があり,かなり高頻度の出現率である.機序としてアルギニンの欠乏,分枝鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸比の低下などが考えられている.
 筆者が若手の頃,維持透析中で腎結核の疑いの60歳代の女性患者を受け持った.中心静脈栄養が必要となり,その際指導医より腎不全用必須アミノ酸製剤の投与の指示があり,Amiyuを使用したが,次第に傾眠傾向となり意識障害をきたしてきた.原因をあれこれと調べているうちに,昏睡状態に陥ってしまった.診断のつかぬままに脳梗塞として治療を行ったが,3週間の経過で亡くなり,剖検でも原因は不明であった.その後に,Amiyu投与中の透析患者に意識障害が認められるとの報告が散見されてきて,その原因を納得し,以後,腎不全患者にAmiyuを投与したことはなかった.

プロブコールが奏効したLipoprotein Glomerulopathy

著者: 雨森正記

ページ範囲:P.395 - P.395

 血清コレステロール700mg/dl以上,トリグリセライド(TG)1,000mg/dl以上という著明な高脂血症の患者さんが入院してきた.蛋白尿もみられ,腎生検の結果lipoprotein glomerulopathy(LG)と診断された.文献上,LGの高脂血症に対して薬物は効果があるが,蛋白尿に対しては無効とされていた.また,この患者さんほど著明な高脂血症の症例は報告されていなかった.
 この患者さんは,この病気は薬の副作用によって起こったものだと思っており,「医者からもらった薬のわかる本」の愛読者であった.高脂血症に対して薬を投与しようとしたが,最初は頑なに拒否された.そのため患者さんとよく相談し,その本に副作用の少ない薬として掲載されていたプロブコールを使うことにした.

甘草(licorice)による偽性アルドステロン症

著者: 石野貴子

ページ範囲:P.400 - P.400

 症例は69歳男性.4年前より両下肢のしびれあり,頸椎症と診断されたが手術を拒否し,6カ月前より近医にて八味地黄丸,桂枝加芍薬湯,荷薬甘草湯を処方されていた.1週間前より口喝,4日前より全身脱力感が進行し歩行不能となり,当院整形外科初診.血清K1.4mEq/lと低K血症を認め内科紹介入院.CPK10,445IU/l,ミオグロビン5,410.0ng/ml,尿中β2MG8,000μg/l以上.
 漢方薬に含まれる甘草の主成分であるglycyrrhizinの鉱質コルチコイド作用により尿中K排泄が増加し,低K血症が起こることはよく知られている.低K血症は横紋筋融解症を起こすため血中ミオグロビンが増加し,腎尿細管再吸収障害のため多尿となり脱水をまねく.また低K血症は心室性不整脈など致死的不整脈の原因となる.低K血症は多彩な致死的症状に発展するが,症状は徐々に進行するので患者は漢方薬の副作用とは疑わず,他科を受診する場合もあり,注意が必要である.

蛋白尿,腎不全にて発見された大動脈炎症候群の一例

著者: 金原幸司

ページ範囲:P.402 - P.402

 検診にて蛋白尿,腎不全を指摘され,原疾患の診断に苦慮した症例を紹介します.症例は51歳の女性で,平成5年の検診にて蛋白尿,高血圧,貧血,腎機能低下を指摘され当科受診し,同年11月4日当科入院.入院時,高血圧を認めましたが,血圧の左右差はなく,体表と血管雑音も聴取しませんでした.入院時検査では,血清クレアチニン2.5mg/dlと腎機能低下を認めました.腎生検にてIgA腎症と診断しました.入院時より37℃台の微熱が持続し,貧血,血沈の亢進,CRP高値を認め,原因検索のため,感染症,悪性疾患,膠原病などの検索を施行しましたが,微熱の原因は不明でありました.患者の退院希望強く,外来にて引き続き検索を行う予定にて12月8日退院.外来フォロー中レノグラムにて腎機能に左右差を認め,大動脈炎症候群を疑い,血管造影目的にて平成6年2月28日再入院.腹部大動脈造影で大動脈炎症候群と診断しました.
 大動脈炎症候群は大動脈や肺動脈を中心とした主幹動脈に病変が局在することを特徴とし,病変が冠動脈や腎動脈にも及ぶことは稀ならず認められますが,一般的にはこれより末梢の動脈に及ぶことはないとされています.したがって初診時蛋白尿,腎機能低下を示す症例は稀と思われます.大動脈炎症候群にIgA腎症,巣状糸球体腎炎,アミロイド腎などの合併例が報告されていますが,本例でも腎糸球体にIgAの沈着を認め,大動脈炎症候群とIgA腎症の合併と考えられました.近年,抗好中球細胞質抗体(ANCA)が血管炎と密接な関係があることが明らかになってきています.しかしながら,ANCAが陽性となるのは細動脈から毛細血管までの小型血管炎であり,大型血管炎ではANCAは陰性であります.したがって,大動脈炎症候群の診断には臨床症状および検査所見より大動脈炎症候群を疑い,血管造影にて確定診断をつけなければなりません.しかしながら,造影剤を使用する検査は腎不全患者には施行しにくく,本症例でも血管造影の施行について迷いましたが,最終的には血管造影にて確定診断を得ました.大動脈炎症候群や古典的多発性動脈炎はANCAなどの血液学的マーカーがなく,不明熱で診断に苦慮したときには疑ってみるべき疾患と思われます.この症例でも,もっと早くレノグラムを施行していれば,初回入院時に大動脈炎症候群と診断できたのではないかと思われ,紹介しました.

切断をまぬがれた左足

著者: 隈井知之

ページ範囲:P.412 - P.412

 患者さんは,平成8年1月3日に食思不振,脱水にて入院.入院時の検査では,CPK3,865,BUN108.5, CRE2.2, GOT91, GPT24,尿酸18.5, CRP11.7でした.脱水,腎不全に加えて動脈閉塞症を疑い全身検索を行うと,左下肢に軽度のチアノーゼが発見されました.早速,動脈造影を実施.左大腿動脈が膝関節直上にてほぼ完全閉塞しており,側副血行路はほとんど存在しない状態でした.本人,家族ともに血栓除去術は強く拒否されましたが,カテーテルを外腸骨動脈より進め閉塞部位直上に留置し,ウロキナーゼ,プロスタグランジン,FOY,抗生物質などを持続動脈注入することには同意されました.しかし,24時間注入後も側副血行路の軽度改善を認めるのみで,チアノーゼは増悪していきました.本人,家族の同意のもと,血管造影にてかすかにうつった末梢動脈をDSAで確認しながら,慎重に狭窄部位を越えてガイドワイヤーを進め,カテーテルを挿入しブジーしました.その直後の造影では,末梢動脈が確実に造影されました.翌日の造影では,前日以上に末梢動脈の造影所見の著明な改善を認め,同時に症状の改善をみました.本人,家族と十分話し合い同意を得たのち,冒険ではありましたが,ガイドワイヤー下にカテーテルを慎重に挿入,血流が下肢の末梢動脈にいきわたるようにできたことと,ウロキナーゼ・プロスタグランジンを血栓溶解,側副血行路の増大目的で投与したこと,閉塞部位より末梢側からのサイトカイン,炎症産物の放出を抑制するためプロスタグランジン,FOY,抗生物質を持続注入したことなどにより,下肢切断を回避できたのではないかと思っております.現在も,左下肢は壊死に陥らず元気に外来通院中です.
 以上,大腿動脈閉塞症を発症したものの,なんとか左足を切断することなく経過している患者さんについてご報告しました.

胸腔ドレナージあれこれ

著者: 平田正弘

ページ範囲:P.415 - P.415

 日常臨床において気胸,胸水貯留,血胸,膿胸などにしばしば遭遇し,ドレナージを必要とすることも多い.その際,air spaceやeffusion spaceが大きい場合はカテーテルの挿入が容易であるが,狭い場合や胸膜の癒着がある場合には困難を感じることが少なくない.最近では確実に,しかも容易に刺入できるキットが市販されている.アーガイル,トロッカーアスピレーションキット8F,20cmやTurner pneumothorax tube 6.3Fなどは非常に便利である.前者にはチューブ内に超小型のハイムリッヒ弁が2個埋め込まれている.刺入の容易さを強調したが,air leakが多い場合や膿や血液で粘稠なときはもちろん太いカテーテルを入れるべきである.しかし最近では,全身状態の不良な高齢者に,内科で,しかもベッドサイドで挿入を必要とする症例が増加する傾向にある.エコーで刺入路を決めて狭いスペースにも留置できる,さらに便利なカテーテルを紹介する.
 中心静脈用のアーガイルcvカテーテルセルジンガーキット14G,16Gで穿刺針の外套は細く,J型ガイドワイヤー付きなので5〜10mmのスペースがあれば留置できる.できれば尖端から10cm,15cmの位置を指で折り曲げて組織用鋏に小孔を開けておくとドレナージの効率がよい.このときカテーテルの断裂を防ぐため,小孔はカテーテルの全周の3分の1以下に留め,抜去時には愛護的にゆっくり引き抜くことが大切である.ドレナージは自然流出が基本だが,洗浄や抗ガン剤,癒着剤の注入が必要なこともある.このときの2本目のラインとしても,あるいはこれ1本でも重宝する.ドレーンバッグとの接続が一致せぬときは点滴セットのタコ管を紡錘コネクターの代わりに用いるとよい.唯一の欠点は中心静脈用なので健康保険で認められていないことにある.

サラゾスルファピリジン坐薬による脱感作

著者: 小畑伸一郎

ページ範囲:P.418 - P.418

 サラゾスルファピリジン(SSA)は潰瘍性大腸炎の治療薬として使用されるが,時に重篤な副作用を生じる.
 症例は37歳男性,左半結腸型潰瘍性大腸炎とSSA3gの投与後3日より皮疹,38℃の発熱のため当院紹介となる.眼球の充血,全身に紅斑性丘疹と両腋窩鼠径部のリンパ節を触知した.直腸よりS状結腸にかけてびらんを認め,組織学的に活動期の潰瘍性大腸炎に一致した所見であった.水溶性プレドニゾロン®(PDN)30mg投与により改善.PDN漸減中止したところ再び粘血便の出現をみ,SSA0.5g,1Tの投与2時間後,掻痒感の出現と皮疹の増悪を認めた.SSAによるStevens-Johnson症候群と診断し,PDN40mg投与を開始,粘血便,皮疹の改善を認めた.PDN投与後7日目よりSSA坐薬0.25g投与を開始した.皮疹などの副作用は認められず,21日目より0.5g,35日目より1.0gと増量した.その間PDNを漸減した.42日目より経口にてSSAを併用し,49日目には1.0g,4カ月目には2.0gの投与が可能となった.現在PDNは中止しているが臨床的にも組織学的にも緩解を保っている.

患者の訴え

著者: 河瀬吉雄

ページ範囲:P.425 - P.425

 1987年7月下旬,50歳の男性が一月にわたる夜間の発熱を主訴に来院した.リンパ節腫脹はなく,やや頻呼吸だが肺野にラ音は聴取せず,皮疹,浮腫は認めなかった.心尖拍動は二峰性に触知し,胸骨左縁で拡張期灌水様雑音を聴取した.血液検査では,血液化学に異常なく,白血球12,900/mm3,CRP21.8mg/dl,血沈145mm/hrと高度な炎症所見を認めた.新米医者であった私はこの時点で感染性心内膜炎(IE)による大動脈弁閉鎖不全症と確信し,心エコーで,大動脈弁逆流と弁に疣贅らしき構造物を認めると,小踊りするように上司に報告した.初診時に診断できた喜びでいっぱいで,熱が出ると両側下腿が痛むという訴えには注意を払わなかった.
 その日より抗生物質による治療を開始したが,一向に解熱せず,むしろ弁逆流が増強し心不全症状が悪化した.薬剤を変更しても無効で,血液培養の結果は陰性であった.全身を検索しても他に病巣は見当たらず,入院10日後に心臓外科医の手に委ねた.内科的にコントロール困難なIE,下肢血栓性静脈炎を合併,という診断のもと.

アロプリノールによりStevens—Johnson症候群を発症した一症例

著者: 山崎正行

ページ範囲:P.427 - P.427

 症例:64歳,女性.約10年前より肝障害あり.1994年1月上旬,感冒症状が遷延し,全身浮腫,腹水貯留,母趾基関節痛にて来院.肝硬変症に高尿酸血症,原発性甲状腺機能低下症を合併し,利尿薬アロプリノール(AP)を投与した.投与4日目より頬部に掻痒性紅斑,口唇に水疱,血痂が出現.全薬剤を中止後,ステロイド投与により2週間後に皮疹は軽快.貼布試験,リンパ球刺激試験にては原因薬剤が同定できず,APを1/10錠再投与後,顔面を中心に滲出性紅斑が出現し,同薬剤によるStevens—Johnson(SJ)症候群と診断した.
 APは尿酸生成抑制薬として高尿酸血症治療に広く使われている.しかし,発熱,消化器症状など比較的軽度なものから,腎不全,敗血症,意識障害を伴う中枢神経障害など重症の副作用もみられ,時には重篤なSJ症候群や,中毒性表皮壊死も報告されている.腎不全では薬疹が20%に出現しており,漫然とした使用は避けなければならない.

まちがい

著者: 大海庸世

ページ範囲:P.429 - P.429

〈その1〉サクシゾンとサクシン—救急病院として活躍しているある病院で,喘息重積患者が搬送されてきた時のことです.普段はやさしく温厚な院長も,救急の時には柔道で鍛えた大声で流れるような指示を飛ばすのです.『history!vital!血管確保!O2投与!ネオフィリン!サクシゾン!』
……しかし,一人のNSがもくもくと注射器に吸い込んでいたのは,サクシン……だったそうです
……オット!
 〈その2〉高カロリー輸液と経腸栄養——深夜の大学病院の病棟は,一見静かなようでも,NSは病室を巡回し,vital checkや点滴,各種パックの更新にあわただしく勤務をしているのです.ある晩,IVHがつまったと当直が呼ばれました.『フラッシュくらいしてから,呼べよ……』と,内心思いながら病室を覗いてみると,IVHのチューブ内は見慣れぬ白い粘稠な液体で固まっているのです……?そして,その先には経腸栄養のパックがつながっていたのです……!フラッシュをせずに呼んだNSの勝ちかア……翌朝病棟は,大問題となりました.

尿を診るということ(2)

著者: 深町雄三

ページ範囲:P.433 - P.433

 一般臨床医にとって尿を診ることが大事であることは,in—outバランスの管理,代謝異常の発見などごく当然のことであるが,高度先端技術に目を奪われおろそかになりがちなことも事実である.今回,尿を診ることを怠ったばかりに痛い目にあった経験を呈示する.
 症例は29歳女性.主訴は下腹部痛,同じ年の3月にも同様の症状があり,入院歴がある.この入院時にSIADH(Na110, ADH32)をきたしたが,補液にて自然緩解している.産婦人科的異常なく,試験開腹でも閉塞や虚血などの異常所見はなく,後腹膜も正常であった.同様の腹痛にて2回目の入院後,再びSIADHを起こし,Na108まで低下した時点で痙攣発作を起こし,原因不明の低Na血症とのことで,内科に転科転棟した.このとき,尿はオレンジ色をしていたが,痙攣発作後とのことで注意がおろそかになった.精神的に不安定となっていたのも,低Na血症と痙攣発作後であるためと考え,この時点で思考の中断が起きてしまった.精査に入ろうとしたときに,再度,激しい下腹部痛が起こり,対処に追われた.繰り返す発作的下腹部痛のため,両親が不安を覚え,他院での精査を希望したため,診てもらえるかどうか紹介状持参で相談しに行ってもらったところ,次の日,電話にて急性間欠性ポルフィリアは鑑別しましたかとの連絡があり,内科一同,なんでこれに気づかなかったかと,衝撃と悔悟の念で一杯になった.急性腹症の鑑別からでも,SIADHの鑑別からでも,当然たどり着くべき診断である.しかも本症例の,入院2週間前の病棟回診時,横紋筋融解症の患者の尿の色をみて,鑑別すべき疾患として忘れてはならないものとしてポルフィリアを指摘した直後のできごとのため,二重のショックを受けた,後日,返ってきた結果では,尿中アルドラーゼは低値,コプロポルフィリンは高値であった.前回入院時,自然緩解したと思われたときは,グルコースを含む輸液が十分なされていた.

慢性関節リウマチに対するアザチオプリン,メトトレキサート併用による顆粒球減少症・敗血症の救命例

著者: 大島充一

ページ範囲:P.436 - P.436

 抗リウマチ薬として使用される免疫抑制薬のなかには,少量であっても強い骨髄抑制をきたし,重篤な感染症を合併させる場合も少なくない.今回,アザチオプリン,メトトレキサートを投与されていた慢性リウマチ患者が敗血症を合併して来院し,救命にいたった経験をしたので報告する.
 症例は60歳女性.10年前より慢性関節リウマチを発症し,リウマチ専門病院に通院していた.1年前よりアザチオプリン1日50mgを服用して最初は有効であったが,2カ月前より関節痛の増悪が認められたため,1カ月前からメトトレキサート2.5mg週1回服用を併用で処方されるようになった.2日前より38℃の発熱と咽頭痛を認め,当院受診当日の朝から40℃の発熱と悪寒戦藻を訴えるようになったため自宅に近い当院を訪れた.当院初診時の末梢血には白血球数500/μl,好中球数100/μl,赤血球数450万/μl,血小板数8万/μlであった.この時,関節痛は全く訴えておらず,抗リウマチ効果は十分に得られていた.直ちに入院とし,骨髄穿刺を行ったところ,骨髄有核細胞数7千/μl,顆粒球系細胞約10%以下と著明な骨髄抑制が認められた.血液培養からグラム陰性桿菌(後に緑膿菌)を検出し,ペントシリンとイセパマイシン併用静注投与を行い,G-CSF250μg/dayの皮下注も使用した.入院後10日目に解熱,末梢血顆粒球数500/μl以上までの改善が得られた.腎・肺・心機能障害を残さず3週間の入院で以後退院となった.また,リウマチの活動度は顆粒球の増加(5,000/μl以上)とともに再度上昇するのが観察された.

レンチナンにより血小板増加が認められた特発性血小板減少性紫斑病(ITP)および胃癌の合併例

著者: 篠原正幸

ページ範囲:P.455 - P.455

 患者は65歳女性.6年前より近医でITPと診断され,摘脾後,ステロイド薬の投与を受けていたが,大腿骨頭壊死が出現したためステロイド薬の服用は中止していた.平成4年2月,旅行中に鼻出血があり,耳鼻科を受診したがショックとなったため内科に紹介された.
 初診時,ヘモグロビンは5.3g/dl,赤血球数は172×104/μl,血小板数は0.6×104/μlであった.濃厚赤血球輸血を行いショックは回復したが,貧血の改善が遅いため上部消化管内視鏡検査を行ったところ,胃前底部にボールマンIII型の潰瘍がみられ,毛細管性出血が認められた.トロンビンの散布,高張Na—エピネフリン液の局注を繰り返したが止血せず,γ—グロブリンの大量投与,HLA適合血小板輸血を行ったが血小板数も増加しなかった.潰瘍の生検結果は低分化型腺癌であった.手術,抗癌剤の投与は不可能と判断し,免疫化学療法としてレンチナンの単独投与(2mg/週)を行ったところ,投与2週後には血小板数は5.2×104/μlまで上昇し,内視鏡でも潰瘍からの出血は止血していることが確認された.その後も血小板数は5.0×104/μl前後に安定し,貧血の改善もみられたため自宅近くの病院へ転院した.

MRSA感染症治療の難しさ

著者: 鈴木伸

ページ範囲:P.462 - P.462

 種々の疾患を抱えた高齢者に発症したMRSA感染症の1例について紹介する.
 症例は83歳男性.肺気腫,気管支喘息,糖尿病にて通院中であった.完全房室ブロックが出現し,平成7年7月,ペースメーカーの植え込みを行った.植え込み時,気胸を生じ,気管支喘息が増悪したため,ステロイドの投与を行った.糖尿病のコントロールも悪化し,栄養不良も重なり,縫合不全を繰り返した.このため,創部の感染あるいは感染予防に,約1カ月にわたりCTM,CAZなどの抗生物質投与が余儀なくされた.同年10月,ペースメーカーポケット部に瘻孔が生じ,同部の細菌培養にてMRSAが検出された.VCMの点滴,ST合剤の創部への注入などの処置を行ったが,瘻孔は閉鎖しなかった.このため,同年12月,MRSA感染の要因となったジェネレーターおよびペーシングリードを抜去し,対側から再度ペースメーカーの植え込みを行った.これらの処置により,瘻孔は塞がり治癒した.その後,平成8年2月,肺炎,気管支喘息のため再入院となった.喀痰からMRSAが検出されたが,起炎菌ではなくコロニゼーションと判断し,CZOPの点滴をしたところ軽快した.

頭痛とバンコマイシン

著者: 塚田哲也

ページ範囲:P.481 - P.481

 患者さんは82歳女性.急性胆管炎の治療後にMRSAによる気管支炎を発症した.高齢のため,バンコマイシン0.5g×2/dayに減量して治療を行った.投与10日目より軽度の頭痛を訴え始めた.投与7日目のバンコマイシン血中濃度がトラフ値21.3μg/mlと高濃度であったことが,投与11日目に判明した.感冒症状なく,頭部CT検査は治療前と同様で,バンコマイシン投与中のBUN,Crはほぼ正常であった.気管支炎の治療を優先して,バンコマイシンを14日間投与した.頭痛はバンコマイシン投与終了後も9日間持続し,この間,患者さんの頭痛の訴えを聞くたびに肩身の狭い思いをした.
 バンコマイシンの添付文書には副作用として頭痛は指摘されていない.頭痛がバンコマイシンの副作用であったかどうかは,チャレンジテストでもしないかぎりわからないであろう.ただ言えることは,トラフ値の安定する投与開始後3ないし4日目に血中濃度を測定し,バンコマイシンを減量すれば頭痛の持続期間はもっと短かったかもしれないということであろうか.

コンプロマイズドホストにおけるスパラ®の著効例

著者: 児嶋真治

ページ範囲:P.483 - P.483

 新しいニューキノロン系薬剤が開発され臨床で使用されているが,予想以上に効果があった症例を最近経験した.
 症例は75歳男性で,骨髄異形性症候群(MDS)の患者であった.6ヵ月前にRAEBと診断され地元の病院で経過をみられていたが,白血化(RAEB-t)し難治性肺炎を併発したため当院へ入院した.入院当初より喀痰培養でXanthomonas maltophiliaが検出された.感受性はCPZ,MINOのみで,IPMをはじめとするペニシリン系,セフェム系,アミノグリコシド系などほぼ全耐性であった.RAEB-tはいわば再生不良性貧血と白血病が合併したような疾患で,末梢白血球はおよそ1,000/μlで特に好中球は200/μl程度であり,ほとんど自然治癒力は期待できなかった.CPZ,MINOをはじめとする種々の抗生剤,α—グロブリンまで投与したが,肺炎は悪化し高流量酸素吸入,IVHを必要とした.入院3ヵ月目になるとCPZ,MINOも耐性化し,これ以上の改善は期待できず余命1ヵ月以内と考えられ,ほぼ諦めかけていた.ところが,今まで使用しなかったSPFX(スパラ®)を投与(当院で最近採用されたばかりで感受性試験は未施行)したところ,4日目より解熱し約10日で酸素中止でき,肺の陰影も改善がみられた.保険の制約上投与14日目に中止し他剤に変更したところ,肺炎は改善がみられ,IVH管理もはずれ,経口で10割摂取と信じられないくらい改善した.

HTLV-Iassociated bronchopneumonopathy(HAB)にもマクロライド?

著者: 天野裕子

ページ範囲:P.486 - P.486

 14員環系マクロライド少量長期投与の効果は,びまん性汎細気管支炎(DPB)をはじめとする慢性下気道感染症において工藤らにより既に確立されており,最近では特発性間質性肺炎急性増悪の予防効果も検討されている.1989年,杉本らがHTLV-I associated myelopathy(HAM)における肺病変に活性化Tリンパ球の関与があり,エリスロマイシン(EM)が奏効するという注目すべき報告を行って以来,当科ではHTLV-I関連肺疾患にも積極的に使用し効果を上げている.1例目は胸部X線上びまん性粒状陰影を呈したIymphocytic interstitial pneumonia(LIP)合併HAMで,EM600mg投与により胸部X線は軽快したが,神経症状はEM単独では改善しなかった.2例目はHTLV-I carrierで,胸部X線上多発斑状陰影を呈し,いわゆる丸山らが提唱したHTLV-I as—sociated bronchopneumonopathy(HAB)に相当した.clarithromycin(CAM)200mgで胸部X線の改善を認めている.なおBALFでは,肺感染細胞が引き起こす過剰免疫と思われるリンパ球比率の著増(77%,50%)とOKT4/8の上昇(2.1,3.2)が2例ともにみられた.

エリスロマイシンの力

著者: 山下秀一

ページ範囲:P.489 - P.489

 発熱,咳嗽,胸部X線上の異常陰影で69歳の男性が紹介入院となった.理学所見上は右下肺野でcoarse cracklesを聴取した.胸部X線では右下肺野に小範囲の浸潤影を認めた.血液生化学上CPKが3,000mg/dl程度で横紋筋融解症の合併が示唆された.喀痰の塗抹では有意な細菌な認めなかった.とりあえず一般抗生剤にて治療を開始したが,発熱,呼吸苦ともに増悪し,X線上の陰影もわずか3日で一気に悪化した.酸素投与量を増量し,喀痰塗抹,培養を再検したがやはり有意な細菌を検出できず,抗生剤を広域なものに変更した.その翌日に,異常行動を中心とした脳症が出現した.呼吸数は30回,酸素もマスクで大量に投与してはいるものの,血液ガスは一応正常範囲で,脳症の原因が呼吸不全とは考えにくかった.髄液,頭部CTともに正常であった.この時点で,症状・経過よりレジオネラ肺炎を強く疑い,気管内挿管,ICU管理下にエリスロマイシンを開始した.効果は劇的で,悪化の一途をたどっていた肺炎は徐々に改善傾向を示した.途中腎不全が悪化し一時的に血液透析を必要としたが,約3カ月の経過で患者さんは治癒し元気な状態となった.レジオネラの抗体価はワンポイントであるが,1,024倍と有意な上昇を示し確診に至った.

敗血症と鑑別困難であった薬剤アレルギー例の経験

著者: 広瀬立夫

ページ範囲:P.492 - P.492

 薬剤の使用に関連して,私が特に印象に残っている経験を紹介してみたい.
 症例は19歳男性.1週間前から上気道炎症状および発熱が出現したため,近医で投薬を受けたが軽快せず,抗生剤(LMOX)を投与されたがさらに増悪,40℃台の発熱となった.両下肢に紫斑出現,低血圧もみられたため,DICを伴う敗血症性ショック疑いにて紹介入院となった.入院時BP82/50mmHg,BT40.1℃.検査結果はWBC8,200,Hb10.8g/dl,Plt3.4×104,血沈8mm/hrで肝機能・腎機能に異常を認めなかった.入院が土曜日の午後であったため,当直医は敗血症に対して抗生剤が無効と判断,LMOXに加えて他の抗生物質を追加したが症状改善せず,39℃の発熱が持続した.血小板はさらに低下し,1.2×104となった.私がこの患者を診たのは月曜日の朝になってからであった.一見して不審に思ったのは血圧80mmHg前後であるにもかかわらずショック症状がなかったことであった.ここで抗生物質を中止するか否かで激論が展開された.これが敗血症であった場合には抗生物質を中止するのは勇気がいることである.しかし薬剤による障害であれば直ちに抗生物質を中止しなければ命取りになる.たとえ敗血症であっても,現時点の抗生剤で症状は改善しておらず有効ではないと考え,中止してみることにした.その翌日,解熱とともに全身に著明な発疹が出現,一過性の無顆粒球症が出現し,数日後には軽快した.

成人水痘肺炎

著者: 平良正昭

ページ範囲:P.502 - P.502

 症例は26歳男性.発熱とともに顔面より全身に広がる小水泡性の皮疹を認め,救急室に来院.水痘の既往はなく,1歳の息子が約2週間前に水痘に罹患したことより成人水痘と考えた.自宅安静を指示し帰宅させたが,翌日も再来院,全身倦怠感著明なため入院させた.入院時の胸部X線写真では異常を認めなかった.アシクロビル250mg1日3回点滴静注にて治療を開始したが,39℃台の発熱が持続した.入院第3病日,急に呼吸困難とチアノーゼが出現.胸部X線写真にて両側肺野にびまん性の小粒状影を認めた.動脈血ガス検査ではPaO238.4mmHgと著明な低酸素血症をきたし,人工呼吸管理を要した.アシクロビル500mg1日3回点滴静注に増量し,7日間投与した.第8病日より解熱傾向になりX線写真上も粒状影消失したため,第10病日に人工呼吸器より離脱,皮疹も痂皮形成傾向となった.退院後の胸部X線写真像はほぼ正常化し,皮疹も瘢痕治癒した.水痘ウイルスに対する血清抗体価の有意な上昇,胸部X線写真におけるびまん性の小粒状陰影より水痘肺炎と診断した.

反復する消化管出血がありながら診断に苦慮したOsler-Weber-Rendu病の家系例

著者: 横井健治

ページ範囲:P.504 - P.504

 Osler-Weber-Rendu病は遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary haemorrhagic telangiec—tasia:HHT)ともいわれ,皮膚,粘膜,および実質臓器の毛細血管拡張と反復性出血を示す常染色体優生の遺伝性疾患であり,特に鼻出血が多くみられるが,消化管出血も稀ではない.先日,反復する消化管出血があり,ようやく診断にいたったHHTの2症例を経験した.
 症例1は69歳女性.約10年前から消化管出血を反復し,複数の施設で胃内視鏡検査を何十回となく受けていたが,そのたびに多発性出血性胃潰瘍による消化管出血と繰り返し診断されていた.しかし,多発する胃病変はびらんや潰瘍などの陥凹性病変ではなく,明らかに細かい血管の限局性の平坦な隆起よりなる毛細血管拡張であった.また,皮膚・口腔内粘膜にも同様の毛細血管拡張があり,長男にもやはり同様の皮膚の毛細血管拡張が認められた.

痛みの緩和にTopical Therapyを

著者: 川嶋乃里子

ページ範囲:P.518 - P.518

 ヘルペス後神経痛や膠原病・糖尿病などに伴う末梢神経炎の疼痛をコントロールするために,アミトリプチンなどの三環系抗うつ薬や,フェニトイン,カルバマゼピンなどの抗てんかん薬が用いられるが,効果が不十分だったり,副作用のため十分使用できない場合も多い.そんなときはtopicaltherapyを試みよう.以下,有効例をあげると,
 〈症例1〉69歳女性.ヘルペス後神経痛(右三叉神経第2・3枝)で某大学病院麻酔科などで治療をうけたが改善せず,発症5年後に当院受診.アミトリプチンを漸増したが十分な効果が得られず,5%アスピリン・クロロホルム液を局所に塗布したところ痛みは50%に軽減.

1文字違いの薬剤処方で感謝された一事例

著者: 野津和巳

ページ範囲:P.523 - P.523

 一般の臨床内科医が日常使いきれる薬剤の数は以外に少ない.200前後の薬剤が無理なく使いこなせれば内科医としては優秀であると聞いたことがある.医師は生涯学習が必要であることは言うまでもないが,新しい薬剤が出てくるたびに,その薬理作用,副作用,用法,用量さらには配合禁忌まで記憶して,無理なく使いこなすのはなかなか難しい.時に外来の代診を依頼されたりすると,他の医師の処方が,自分の通常処方する薬とかなり異なっていることによく気がつく.年配の医師の代診に立ったときなど,古い薬を使っておられるなと思うことが多々ある.その一方で,若い医師の代診のときは逆に知らない薬が多数処方してあったりする.それはそれでいろいろ勉強にはなるが,患者さんにとってどの処方がはたしてよかったのか,実際にはよくわからない.極端な場合には,あってはならないことであるが,間違えて処方した薬剤が有効であったことも稀に経験する.1文字違いの薬品で経験した薬剤有効例を紹介する.

聴診の重要性

著者: 山下秀一

ページ範囲:P.526 - P.526

 救急の現場で身体所見をきちんと取ることがいかに重要であるか,ということを再認識させられた症例を紹介する.
 患者は72歳の男性.肺気腫で以前当病院への入院歴があった.自宅で胸を押さえて苦しがり意識障害も認められるとのことで,救急隊より紹介となった.救急車にての来院時,意識は昏迷状態で,呼吸は浅く促迫し,ほとんど虫の息の状態であった.内科のスタッフの1人が気道を確保し,アンビューマスクで軽く押しながら酸素を投与したところ,サチュレーションモニターにて酸素飽和度90%以上を保ち得た.しかし,十分な換気が行われているとは考えられず,気管内挿管の準備がなされた.私は少し遅れて救急処置室に入り,ICUへベッドを確保する電話をしようとしたが,ふと気になって担当医に胸部聴診の所見を尋ねた.すると,まだ聴いていないとの答えだったので,挿管を止めつつ聴診したところ,左全肺野で呼吸音が著しく減弱していた.この時点で緊張性気胸を強く疑い,マスクでの軽いアシストのみで直ちに胸部X線写真を撮影した.予想どおり緊張性気胸であったので,胸部に小切開を加えペアンにて開胸し,緊張性気胸の状態を解除,そのうえで気管内挿管を施行した.もしそのまま挿管し,アンビューバッグにて加圧していたら,緊張性気胸の状態を一気に悪化させ心停止にいたったであろうことは想像に難くない.この患者の気胸は難治で,肺気腫のため手術も困難であったので,気管支鏡下に気管支塞栓術を施行し治癒せしめた.

尿路感染症で来院した喘息の患者さん

著者: 林浩司

ページ範囲:P.533 - P.533

 暮れも押し詰まった12月31日,深夜,救急外来に58歳の女性が受診.数日前より排尿痛があり,尿が濁っているという.この春に子宮筋腫で子宮摘除の手術を受けている.手術を受けてから何度か同様の症状で近医を受診し,内服薬を処方され軽快していた.今回は,その薬が余っていたので飲んでいたが改善せず,年末で医院も休みなので救急外来を受診したとのことであった.また,喘息を患っていたが,今は発作はないということであった.検尿の結果,沈渣尿中WBC多数/HPF,RBC1〜5/HPF,他の細胞成分などはみられなかった.尿路感染症(膀胱炎)と診断したが,子宮筋腫の手術後,頻回に感染していること,近医より処方された,おそらくは抗生物質が今ひとつ有効でないことなどから,複雑性膀胱炎で,βラクタマーゼ産生菌の感染も考えられたため,ニューキノロン剤(TFLX150mg×3)を7日分処方した.
 6日後,患者さんが再来された.「排尿痛はなくなり,尿の濁りもなくなりました.喘息の調子も非常によく,正月はきわめて快適に過ごせてありがとうございました.しかし,昨日より心なしか,ドキドキするような,また手も心なしか,振るえるような気がするのですが,脳卒中になったんじゃないかと心配で診てもらいに来ました」と.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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