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文献詳細

雑誌文献

medicina33巻12号

1996年11月発行

文献概要

iatrosの壺

原因不明の薬物中毒

著者: 吉川智加男1

所属機関: 1寺元記念病院内科

ページ範囲:P.204 - P.204

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 薬剤にまつわる事例で,今でも印象深い症例を紹介させていただく.
 40歳の男性で,昨日来よりの嘔吐・下痢を主訴として来院.来院時,意識清明なるも全身倦怠感強く,嘔吐・下痢が頻回で臍周囲の疼痛を訴え,冷汗も著明であった.本人および家人より病歴を聴取するが,食物・飲物に心あたりなく食中毒も否定的で,急性胃腸炎として治療を開始した.バイタルサインは体温37.1℃,脈拍88/min,血圧154/88mmHgと大きな異常なく,ただちに十分な輸液を開始したが,徐々に全身の脱力が起こり,起坐も不能,開口も不十分となり,唾液も誤飲するようになった.主な入院時検査はTP7.8,GOT34,GPT44,γGTP456(iv/l),LDH427(iv),T-Bil1.8,ChE0.02(△pH),BUN13,Crn1.0,Na143,K4.4,Cl102,BS105,CRP(−),WBC9,900,RBC498万,Hb17.6,Ht46.7%で,ChEの著明な低下とγGTPの著増以外は大きな異常を認めなかった.翌日には意識レベルが低下し呼吸状態も悪化したため,人工呼吸を開始し,呼吸・循環を維持しながら原因究明に努めた.意識レベルの低下とともに両眼の著明な縮瞳(ピンホール様)を認めたため,脳幹梗塞を疑い頭部MRI検査を施行したが,異常所見なく,その他の神経学的検査も正常であった.翌日の臨床検査の成績はTP8.7,GOT26,GPT31,γGTP392,ChE0.01,T-Bil1.5,CPK311,LDH573,BS241,アミラーゼ206と,ChEの低下,γGTPの著増に加えて高血糖,高アミラーゼ血症,高CPK血症を認めた.さらに発汗異常と流涙あり,有機リン中毒を考えざるを得ない状況となり,来院時の血清を分析したところ,血中よりスミチオンが46ng/nl検出され,有機リン中毒と判明し,アトロピン投与により軽快した.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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