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文献詳細

雑誌文献

medicina33巻12号

1996年11月発行

iatrosの壺

喘息発作の治療が意識障害を改善した

著者: 藤井隆1

所属機関: 1公立学校共済組合近畿中央病院内科

ページ範囲:P.239 - P.239

文献概要

 6年前のことであるが,61歳の女性で,気管支喘息の治療のために定期的に通院されていた患者さんがいた.喘息の病型は内因性(感染型)で気管支拡張薬(持続性テオフィリン製剤,β刺激剤),去痰薬の服用で軽い咳,痰はあるものの呼吸困難を生じるような喘息発作は滅多に起こらなかった.7月のある土曜日,午後に院外の研究会に出る予定でその前に病院に立ち寄っていたが,その患者さんの夫から「今朝から元気がなく様子がおかしい」と電話連絡があった.当直医に依頼して病院を出ることも考えたが,なんとなく気になり,共同発表する演者には悪かったが研究会への出席を中止した.来院されたとき,覚醒していて会話・歩行は可能であるが,表情に乏しく行動は無目的であった.四肢麻痺は認めなかったが見当識は明らかに障害され,診察している筆者が誰であるのかわからなかった.また,記銘力も低下していて意識障害レベルはJCSのI−3であった.
 脳血管障害の可能性を考えて,精査および経過観察が必要と判断し入院してもらったが,一般状態が良好なこと,また週末であったことより,CTなどの検査は週明けでもよいように思われ,注意深く経過を観察することとした.ところがその日の夜10時頃,病室にいた私の前で突然激しい喘息発作が出現した.当日服薬がなされていなかったためと思われた.ただちにネオフィリン®とステロイド(ソル・コーテフ®)を点滴で投与し,発作軽快後も翌朝まで喘息の重積発作に準じてネオフィリン®とソル・コーテフ®の持続点滴を行った.翌朝喘息発作は消失,呼吸状態も良好であったが,驚くことに意識レベルはまったく正常となり,会話に対する応答も的確で,行動もまったく異常のない状態に改善していた.頭部CTの検査も必要のないようにさえ思われたが,翌日検査したところ,右側硬膜下血腫,脳浮腫高度,脳室の圧迫と偏位が著明で,危険な脳ヘルニアを起こすおそれのあるくらいの重症であった.直ちに脳外科のある病院に搬送して緊急手術を行い,事なきを得た.滅多に生じなかった喘息発作がたまたま起こり,その治療(ステロイド)が脳浮腫を軽減させて意識障害を改善させたわけである.後日の問診で,入院の2週間前に鉄製のガス検針メーターで右側頭部を強く打撲したことがあったとのことである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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