icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina33巻3号

1996年03月発行

雑誌目次

今月の主題 肝疾患Q&A 肝疾患の疫学と機序

日本人のウイルス肝炎にはどのような特徴があるか

著者: 矢野右人

ページ範囲:P.418 - P.420

ポイント
●最近ウイルス肝炎はA型,B型,C型,D型,E型,F型,G型に分類されているが,わが国で臨床上問題になるのはA型,B型,C型の3者である.
●A型肝炎は経口感染で,急性肝炎として一過性感染しか存在せず,B型肝炎,C型肝炎は血液由来感染で,一過性感染のほか,キャリアとして持続感染が成立する.
●B型肝炎の持続感染が母子感染でのみ成立するのに反し,C型肝炎は水平感染でも容易にキャリアへ進展する.
●A型肝炎は,わが国では次第に抗体陽性者が高齢化し,感染対象が広がり,高齢化,重症化の傾向にある.
●B型肝炎,C型肝炎は既に予防対策が進み,キャリアは限定されてきた.
●C型対B型の疾病比は7.5対2.5とわが国ではC型肝炎キャリアが断然多数を占め,これらの肝硬変・肝癌への対応が問題である.

非B非C型慢性肝炎は何に起因するか

著者: 林紀夫 ,   三田英治 ,   鎌田武信

ページ範囲:P.421 - P.423

ポイント
●HBs抗原陰性のB型慢性肝炎も存在するため,肝機能異常を呈する症例ではHBe抗原の検索も一度は行うべきである.
●G型/GB-C型肝炎ウイルスが発見され,そのアッセイ系が導入される予定である.

サイレントB型肝炎のウイルスと病像はどこまで解明されたか

著者: 内田俊和

ページ範囲:P.424 - P.425

ポイント
●日本の非A非B非C非D非E型ウイルス肝炎は急性肝炎の約25%,慢性肝炎の3〜5%を占める.
●日本の非A非B非C非D非E型肝炎の大半(約80%)は血清マーカー陰性のサイレントB型肝炎である.
●B型肝炎でありながらB型ウイルスの血清マーカーが陰性なのは,ウイルスのX遺伝子に変異があるためである.
●このX遺伝子の変異のため,ウイルスの複製と発現が抑制され,マーカーが陽性にならないのであろう.
●サイレントB型肝炎の新たな測定系を開発中である.

母子感染予防によりHBVキャリアは消滅するか

著者: 白木和夫

ページ範囲:P.426 - P.428

ポイント
●わが国では1985年6月に厚生省「B型肝炎母子感染防止事業」が開始された.これによりすべての妊婦の検査が行われ,HBs抗原陽性でHBe抗原陽性の妊婦から生まれた児に限って,1986年1月以降,感染防止処置が公費負担で行われてきた.
●この結果,最近では乳児全人口でのHBVキャリア率は0.03%にまで低下したと推算されている.
●1995年4月からは,「B型肝炎母子感染防止事業」の見直しが行われ,児の感染防止処置が健康保険給付に移管されるとともに,対象がHBe抗原陰性のHBVキャリア妊婦からの出生児にまで拡大された.

献血者スクリーニングにより輸血後肝炎はどこまで制圧できるか

著者: 渡辺哲 ,   岡崎勲

ページ範囲:P.429 - P.431

ポイント
●輸血後肝炎の多くを占めていたC型肝炎は,供血者のスクリーニング検査に第二世代抗体測定法を用いることにより,ほぼ100%予防が可能となった.
●稀にみられるHBVによる輸血後肝炎では,劇症肝炎例が報告されている.
●現在でもわずかにみられる輸血後肝炎には,最近ウイルスが同定されたGBウイルスが関与している可能性がある.

医療従事者の職場感染によるウイルス肝炎は劇症化しやすいか

著者: 小坂義種 ,   為田靱彦 ,   高瀬幸次郎

ページ範囲:P.432 - P.434

ポイント
●1987年,三重大学小児科病棟で2名の医師と1名の看護婦がB型急性肝炎に罹患し,うち医師2名が劇症肝炎で死亡した.この2名の劇症肝炎患者の血清中のB型肝炎ウイルスの遺伝子学的解析の結果pre-core領域の変異がみられた.
●この出来事を契機として,医療従事者に対するワクチンの接種が普及し,その後医療従事者におけるB型肝炎の発生は激減している.
●特に,医療従事者で肝炎が劇症化しやすいとの成績はなく,単に感染の機会の多いことが劇症肝炎の多い原因と考えられる.
●最近では針刺し事故後のC型急性肝炎発生の報告が多く,今後感染予防対策が必要と考えられる.

肝炎ウイルスによる肝発癌機構はどこまで解明されてきたか

著者: 樋野興夫 ,   梶野一徳 ,   青木宏

ページ範囲:P.435 - P.437

ポイント
●慢性肝炎は肝発癌のrate limiting stepである.
●肝硬変結節のなかにはクローナルな細胞増生がある.
●肝硬変状態は高癌化状態である.
●Genomic instabilityの分子機構解明は大切である.
●肝癌の予防は,高癌化状態からnormo or hypo carcinogenic stateに導くことである.

肝腎症候群の発症機序は解明されたか

著者: 与芝真

ページ範囲:P.438 - P.440

ポイント
●肝腎症候群(hepatorenal syndrome:HRS)は,重症肝障害時の全身的循環動態の異常と腎内部の循環動態異常が組み合わされて発症する機能的な腎前性腎不全である.
●全身的には血管拡張がみられるのに腎血管には攣縮が起こる.
●その機序には種々の血管作動物質の関与が想定されているが,必ずしも治療に反映されておらず,十分解明されたとはいえない.
●臨床的観点からは,中分子領域に蓄積する新しい血管作動性物質の存在を想定したい.

自己免疫性肝炎の発症機序—何が解明され,何が未解決か

著者: 森實敏夫 ,   常松令

ページ範囲:P.441 - P.443

ポイント
●日本人の自己免疫性肝炎ではHLA DR 4, DR 2のいずれかが陽性であり,特に,β鎖の13番目のアミノ酸がいずれも塩基性アミノ酸で,DR 4ではヒスチジン,DR 2ではアルギニンである.これが,肝細胞特異的な膜抗原由来ペプチドの提示に関係している可能性が高い.
●肝細胞膜上に表現されるHLA class Iと肝特異的ペプチドの結合した複合体に対する細胞障害性T細胞の存在はいまだ証明されていない.
●今後,肝細胞破壊を引き起こす抗体の標的抗原と細胞障害性T細胞の認識する標的抗原のペプチド配列(モチーフ)とHLAの組み合わせが明らかにされ,それら免疫応答の起きる機序について研究が進められるであろう.

アルコール性肝障害におけるHCV感染の実態と役割は判明したか

著者: 石井裕正 ,   斎藤英胤

ページ範囲:P.445 - P.447

ポイント
●HCVの発見以来,アルコール性肝障害と考えられていた症例の中にHCV感染者が高率に認められる.
●HCV感染を重複したアルコール性肝障害の症例では,断酒によるトランスアミナーゼ値の回復も一つの診断の指標とする.
●従来,慢性の飲酒による宿主免疫能の低下によりウイルス量が増加すると考えられてきたが,近年,HCVの増殖に対してアルコールが直接促進的に作用する可能性が考えられている.この点に関してはいまだ直接的な証明がなく,さらに検討が必要である.
●組織gradingから判定すると,大量飲酒はC型慢性肝炎の組織像を増悪することが想定される.C型慢性肝炎の病理組織診断の際には慎重な飲酒歴の聴取が必要である.
●アルコール依存HCV感染者では,非感染者に比較してacetaldehyde adductに対する抗体が有意に高率に検出され,HCV感染,特に1b型の感染がアルコール性肝障害をさらに増悪することが考えられる.
●進行したウイルス性慢性肝障害においては,多量の飲酒がその病態を悪化させるが,少量の飲酒の影響については今後の検討を要する.

肝疾患の診断

肝疾患のスクリーニングにはどのような臨床所見と検査に注目すべきか

著者: 池上文詔

ページ範囲:P.450 - P.451

ポイント
●的確な病歴と正確な身体所見に基づく情報が必須である.
●必要最小限の検体検査項目(肝機能・尿検査)は,消化器病学会肝機能研究班の選択基準が標準である.
●肝機能検査以外には,HBV・HCVと血算(血小板・白血球)が有用である.
●画像検査,特に超音波検査は必須であるが,肝内占拠性病変には他の画像検査(CT・MRI)が補助的に必要である.慢性肝疾患には肝のアイソトープ検査が好適である.
●合併症を考慮し,二次性肝障害の可能性を常に念頭におくべきである.

HCV関連検査を日常診療でどのように使い分けるか

著者: 吉澤要 ,   田中栄司 ,   清澤研道

ページ範囲:P.452 - P.454

ポイント
●C型肝炎ウイルス(HCV)感染の診断には血清学的および遺伝子学的方法を用いる.
●血清学的診断は,HCV遺伝子の非構造領域やコア領域に対応したペプチドを抗原とした抗体測定で,現在はこれらのペプチドを組み合わせた第二世代あるいは第三世代HCV抗体測定系が開発され,C型慢性肝疾患の95%以上は診断可能である.
●遺伝子学的診断はHCVの存在診断として,HCV遺伝子をRT-PCR法(HCV RNAPCR定性)で検出する方法で,HCV抗体産生前のC型急性肝炎初期,抗体陰性の慢性例の診断,肝機能正常者でのHCV感染の既往とキャリアの鑑別,IFN治療の効果判定に有用である.
●bDNAプローブ法やHCVの遺伝子型の判定はIFN治療における効果予測に有用である.

肝生検は現在も肝疾患診断のgold standardか

著者: 山田剛太郎

ページ範囲:P.455 - P.457

ポイント
●肝生検診断の意義も,ウイルス学的・免疫血清学的診断法や画像診断法の進歩とともに変化している.
●肝生検診断は現在も,慢性肝炎の病時期の判定や治療方針の決定に非常に有用である.
●エコー下肝腫瘍生検は,微細な肝結節性病変の質的診断に有用である.
●慢性肝炎の新しい組織診断基準は,線維増生のstagingと炎症のactivityより構成されている.

慢性肝炎を活動性・非活動性に分類する意義はあるのか

著者: 永井孝三 ,   賀古眞

ページ範囲:P.458 - P.460

ポイント
●慢性肝炎の分類が国際的にも改定されつつある.
●その要諦は,①病因診断を明記すること,②主要所見のうち,時間的経過を反映する線維化と,その時点での壊死・炎症反応に分けて評価し,前者をステージ,後者をグレードとし数量化して併記する,ことにある.
●本邦でも欧米分類との整合性のとれた新分類が検討されており,活動性・非活動性に分ける従来の分類は廃止される可能性が高い.

非定型的な自己免疫性肝疾患の診断ではどのような点に留意すればよいか

著者: 池田有成 ,   佐藤芳之

ページ範囲:P.461 - P.463

ポイント
●自己抗体陰性の自己免疫性肝炎,原発性胆汁性肝硬変に注意する.
●合併する慢性甲状腺炎,Sjögren症候群,慢性関節リウマチなどの自己免疫性疾患が診断の手がかりとなる.
●ウイルスマーカー陰性の慢性肝炎,急性肝炎では自己免疫性肝炎の除外が必要である.疑わしければ治療を試みる.

薬物性肝障害をどのように疑い,原因薬をどう同定するか

著者: 北見啓之 ,   佐藤信紘 ,   浪久利彦

ページ範囲:P.465 - P.467

ポイント
●薬物性肝障害では,臨床経過における投薬と肝障害発症との因果関係の確認が重要である.
●中毒性肝障害,薬物代謝異常による肝障害,薬物アレルギー性肝障害とでは,その診断の仕方と原因薬同定の方法が異なる.
●中毒性肝障害と薬物代謝異常による肝障害では,原因薬が限定され,その原因薬に特有の臨床病型の肝障害が出現するのが特徴である.
●薬物アレルギー性肝障害では,肝障害に先行するアレルギー症状の出現が重要であり,原因薬の同定にはリンパ球刺激試験が有用である.

画像診断でびまん性肝疾患の鑑別はどこまで可能か

著者: 渡辺文彦

ページ範囲:P.468 - P.471

ポイント
●肝に対する画像診断としては,単純X線写真,超音波検査(US),CT,核医学検査(RI),MRI,胆道造影(RI,経静脈性,PTC,ERCP)などがあるが,US,CTが中心となる.
●USやCTでは,びまん性肝疾患で生じる肝の様々な形態的変化を的確に,また簡便にとらえることができる.肝硬変,脂肪肝は確定診断が可能である.
●従来は血液生化学検査や病理検査が主であったびまん性肝疾患の診断においても,画像診断の占める役割が増加している.
●本稿ではUS,CTでみられる基本的所見,ならびに代表的疾患での画像所見を概説する.

画像診断で肝細胞癌と境界病変の鑑別はどこまで可能か

著者: 川森康博 ,   松井修 ,   高島力

ページ範囲:P.472 - P.474

ポイント
●肝細胞癌の診断には,まずUS,CTなどで被膜形成やモザイク構造をとらえることが重要であるが,これらを描出できない場合,非特異的所見を呈する境界病変との鑑別は難しい.
●Dynamic CT, DSA(digital subtraction angiography)などによる早期(動脈性)濃染像の確認が肝細胞癌の診断に重要であり,境界病変では通常,早期(動脈性)濃染像を認めない.
●結節内門脈血流とMRI T 2強調像での信号強度の評価も肝細胞癌と境界病変の鑑別に有用であり,悪性度が増すに従い結節内門脈血流は減少し,T2強調像での信号強度は低信号から高信号へと変化する.
●今後,MRI用網内系造影剤などを用いて,機能的な面からもアプローチができる可能性がある.

肝細胞癌の腫瘍マーカーをどのように用いるか

著者: 武田和久 ,   松島寛 ,   大森晶彦

ページ範囲:P.475 - P.478

ポイント
●肝細胞癌マーカーのα-フェトプロテイン(AFP)や異常プロトロンビン(PIVKA-II)は,血清マーカーとして用いられているので,腫瘍の局在診断,すなわち画像診断の技術レベルとの兼ね合いで有用性が定まる.
●AFPは肝細胞癌の前癌病変としての慢性肝炎,肝硬変でも上昇するので,AFPが10,000ng/ml以上の進展肝細胞癌例でない限り,診断マーカーとしては用いられない.
●AFPの糖鎖異常に基づくAFP-L3およびAFP-P4の上昇例の中には,既に肝細胞癌が存在するものから,その後画像的に肝細胞癌と診断されるものまであるので,これらは肝細胞癌の予知・診断マーカーである.
●PIVKA-IIは,腫瘍径2cm以下の肝細胞癌では陽性例が少ないが,特異性が高いので,進展例の診断には有用である.
●p53遺伝子の突然変異やloss of heterozygosityの頻度は高分化型肝細胞癌では低いので,これらはむしろ肝細胞癌の進展度(脱分化度)のマーカーである.

C型慢性肝炎における肝細胞癌の早期診断はどのように行うか

著者: 江原正明

ページ範囲:P.479 - P.481

ポイント
●C型慢性肝炎・肝硬変の患者に対する肝細胞癌の早期診断のためには,3〜6カ月に1回の超音波検査を行うべきである.
●超音波検査(平均間隔5カ月)を定期的に行った肝硬変患者より発見された肝細胞癌のうち62%は腫瘍径2cm以下であった.
●肝細胞癌の確定診断において,画像診断は径1.5cm以下の腫瘍には限界がみられ,細径針を用いた組織生検が必要である.
●肝内実質エコーの粗造なパターンを示す例では,肝細胞癌発生のhigh risk群であり,造影CTあるいはMRIを年に1〜2回程度は行うべきである.
●フェライトなど網内系に取り込まれる組織特異性の新しいMR造影剤は早期発見に有望である.

肝疾患の治療

A型肝炎の治療—いつ,誰に,何を行うか

著者: 山田拓司 ,   大島充一 ,   間下信昭

ページ範囲:P.482 - P.483

ポイント
●感冒患者で消化器症状を伴っている場合は急性肝炎の存在を考慮する.
●A型急性肝炎は血清IgM-HA抗体で診断する.
●重症化・遷延化した場合にはA型肝炎以外の因子を検討する必要がある.
●急性腎不全の合併は劇症・重症肝炎例に多い.
●不活化A型肝炎ワクチンの抗体陽転率は100%である.

B型肝炎の治療—いつ,誰に,何を行うか

著者: 岩渕省吾

ページ範囲:P.485 - P.487

ポイント
●治療方針としては,①インターフェロン(IFN),ラミブジンなどの抗ウイルス療法,②ステロイド中断,プロパゲルマニウムなどの免疫賦活療法,③SNMCなどトランスアミナーゼ低下を主眼とした治療があり,これらが組み合わされる.
●マーカーとしては,①GPT(ALT)値,②血中HBV DNA量(プローブ法),e抗原価,③組織進展度(画像,肝生検像,血小板数,GOT(AST)/GPT比,プロトロンビン活性)を重視する.
●IFN療法ないしステロイド中断+IFN療法は,GPTが100U以上,血中HBV DNAが1,000pg/ml以下の例に効果的である.
●e-セロコンバージョン後もHBV変異株の増殖によりGPT上昇を示す例に対しては,肝硬変に進展していなければIFNは有効である.

C型肝炎の治療—いつ,誰に,何を行うか

著者: 漆原昭彦 ,   清澤研道

ページ範囲:P.488 - P.491

ポイント
●C型肝炎ウイルス(HCV)の感染がいったん成立すると,容易に慢性化し,自然治癒は困難である.C型肝炎は長期的に慢性肝炎,肝硬変,さらには肝細胞癌へと進展する.
●C型急性肝炎に対するインターフェロン(IFN)療法は,急性期におけるHCVの排除ならびに慢性化阻止に有効とされる.
●C型慢性肝炎に対するIFN療法により,約30〜40%の症例でHCV持続感染の終息および組織学的な治癒が期待でき,また肝癌の発生を減少させている.
●C型肝硬変の一部の症例については,IFN療法が有用で,また肝癌発生を減少させていると考えられる.

非A非B非C型肝炎の治療をどうすべきか

著者: 長谷部千登美 ,   関谷千尋

ページ範囲:P.493 - P.495

ポイント
●非A非B非C型肝炎の診断は,現在のところ,肝障害を起こし得る他の病因がすべて否定された除外診断によるしかない.
●その診療にあたっては,常に肝炎ウイルスや自己免疫機序,薬剤の関与など,病因となり得る因子を念頭に置くことが必要である.
●通常の血清学的検査においてB型・C型肝炎が陰性であっても,それらの遺伝子のみが検出される場合があり,注意を要する.
●治療方針は,肝障害を軽減するための一般的な肝庇護療法であり,強力ネオミノファーゲンCがよく使われる.
●ステロイド剤や抗ウイルス剤は適応とならない.

IFN療法が有効な症例をどう見つけるか

著者: 折戸悦朗 ,   溝上雅史

ページ範囲:P.496 - P.499

ポイント
●C型慢性肝炎に対するインターフェロン(IFN)療法が行われているが,著効となる例は30〜45%にすぎない.したがってIFN療法を行う場合,治療前にその有効性を予測し,適応や用法・用量を検討していくことが重要である.
●現在のところ,治療前血清ウイルス量,HCV genotype,肝線維化などが臨床的に治療効果予測のマーカーとして用いられている.また,IFN治療開始早期のHCV RNAの消失の有無も,その後の治療効果を反映しており有用である.
●したがって,IFN療法が有効と予測される症例群を見極めるためには,まずC型慢性肝炎であることを正確に診断すること,次に血清ウイルス量を定量すること,そしてウイルス量が低値であれば肝生検にて肝の線維化をみた後,十分著効が予測できそうな症例に対しては積極的にIFN療法を勧めていくことが重要である.

IFNの最良の投与スケジュールは決定されたか

著者: 飯野四郎

ページ範囲:P.501 - P.503

ポイント
●B型慢性肝炎のインターフェロン(IFN)療法は未完成であるが,長期療法が期待されている.
●C型慢性肝炎に対しては,IFNαであれば,連日4週間から週3回20〜22週間投与,IFNβであれば,連日8週間以上が,現状ではウイルス排除には望ましいと考えられる.
しかし,未解決な点も多い.

高齢者にどこまでIFN治療を勧めるか

著者: 茶山一彰

ページ範囲:P.504 - P.505

ポイント
●高齢者では,まずその患者の生命予後,肝不全死に至る可能性について考慮し,治療を選択する必要がある.
●C型慢性肝炎では,肝硬変に進行していない,慢性肝炎の状態から発癌する症例は少ない.したがって,生存中に肝硬変へ進行する可能性のない患者には不必要な治療はすべきではない.
●高齢者では,副作用の発現頻度が高いことに留意すべきである.特に,治癒する確率の低いgenotype 1b,高ウイルス量の症例では,高用量のインターフェロン(IFN)を用いても治癒は望みがたく,IFNは勧められない.
●患者のactivity,果たしている社会的役割,性格,治療に対する希望,期待度などについても考慮する必要がある.

IFN以外の肝炎治療薬に展望はあるか

著者: 松嶋喬

ページ範囲:P.507 - P.509

ポイント
●C型慢性肝炎の一部は肝硬変へ進展し,C型肝硬変は高率に肝癌を合併する.
●C型慢性肝炎の治療目的は肝硬変への進展を阻止することであり,HCV排除を目的としたインターフェロン(IFN)が第一選択薬である.
●IFNでHCVが排除されないC型慢性肝炎は,alanine aminotransferase(ALT)の安定化を指標として,肝硬変への進展阻止を目的とした薬物治療法を行う.
●IFN無効例に対する新しい抗ウイルス療法の開発,IFNと他剤との併用療法による治療効果向上の可能性の検討が今後の課題である.

UDCAはPBCの長期予後を改善できるのか

著者: 柴田実 ,   上野幸久

ページ範囲:P.510 - P.512

ポイント
●ウルソデオキシコール酸(UDCA)は,PBC治療薬のなかで,安全性と検査成績の改善という点で最も有用であり,本疾患の第一選択剤である.
●UDCAは,病初期に投与するほど有効であり,中等度以上の黄疸例には無効である.
●UDCA長期投与例の中には,当初は無症候性でも経過中に黄疸や食道静脈瘤が出現する例があり,治療法としての限界がうかがわれる.
●UDCAは,PBCの進行を遅らせるが治癒させることはできない.UDCAによりPBCの長期予後がどの程度改善するかは不明である.

難治性腹水にどう対処するか

著者: 金地研二

ページ範囲:P.513 - P.515

ポイント
●肝疾患に伴う難治性腹水の治療は安静,食塩の制限,利尿剤投与から始める.
●利尿剤はスピロノラクトンがfirst choiceであり,過剰投与に注意しつつ増量や他の利尿剤の併用を行う.
●必要に応じてアルブミン製剤を投与する.
●治療に抵抗する腹水に対しては,①アルブミン輸注を行いつつ治療的腹水穿刺を行うか,②LeVeen shuntなどにより腹水を直接静脈内へ還流するか,いずれかを選択する.

SBPに対する抗生物質をどう選択するか

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.517 - P.519

ポイント
●SBPの症状は,軽微であったり無症状のこともある.腹水のある肝硬変の患者が“調子を悪くした”ときはSBPを疑ってみる.
●診断の決め手は腹水穿刺による腹水中の好中球数である.
●診断がつけば,ただちに第三世代セフェムを投与する.
●抗生剤治療開始後に速やかな軽快をみないときは要注意である.

食道静脈瘤—EISか,EVLか

著者: 大政良二 ,   山本学 ,   鈴木博昭

ページ範囲:P.520 - P.522

ポイント
●食道胃静脈瘤の治療法を選択するときに留意することは,食道胃静脈瘤の治療時期(緊急出血例か,待期・予防例か),食道胃静脈瘤の程度,肝機能障害の程度,肝癌合併の有無などを考慮したうえで,EVL,EISあるいはEISとEVLの併用のいずれかを選択する.EISには種々の方法がある.その治療目標によって硬化剤を選択し,硬化剤の選択によって治療手技,治療時の侵襲程度が異なる.
●緊急出血例,肝機能高度不良例では,肝機能の維持,すなわち肝不全の防止を優先させ,できるだけ侵襲の少ない治療法(EVL,AS血管内外併用注入法によるEIS)を選択する.胃静脈瘤緊急出血例にはcyanoacrylate(CA)が有効である.肝機能が比較的良好な場合は,EIS,EVLのいずれを選択してもよい.手術適応を考慮しながら診療手順を進める.
●EVLは,硬化剤を用いるEISと比較すれば,手技は簡便で生体への侵襲も軽微である.また,EISとEVLを併用する治療によって治療回数,硬化剤の使用量を減らすことができる.

どのような状況でTIPSは最も有用か

著者: 磯部義憲

ページ範囲:P.524 - P.528

ポイント
●TIPSの適応は,①内視鏡的治療で止血が困難であった静脈瘤からの急性出血例,②内視鏡的治療に抵抗性または再出血を繰り返す治療困難例,とされる.
●欧米では,肝硬変症で肝移植予定患者に対して,術前,側副血行路を減少させ,手術時の出血量を減少させる目的で施行されている.
●難治性の腹水や,Budd-Chiari症候群のような肝静脈側の閉塞による門脈圧亢進症も適応とされる.
●合併症には,①手技的合併症:腹腔内出血,胆道出血,ステントの屈曲・逸脱など,②機能的合併症:肝性脳症,肝不全,腎不全(少ない),心不全(少ない),などがある.
●禁忌は,①高度肝硬変例(欧米ではChild-Pugh score 12点以上とされる.本邦ではまだ検討の余地がある),②腎機能不全例(術後,透析となる可能性があっても,適応と判断されたならその範疇ではない),③高度心不全例(特に難治性腹水例では術後,急激な循環血液量の増加,中心静脈圧の上昇をきたす),④肝内胆管拡張例,肝内門脈血栓,穿刺経路に腫瘍が存在するもの,などである.
●残された問題点として,肝内門脈血流の低下が肝機能に及ぼす影響がある.
●長期予後を左右するものとして,①高度肝硬変症における肝機能的にみた適応の限界,②ステントの開存期間,などがある.

小肝癌の治療法をどう選択するか

著者: 春日井博志 ,   藤田真 ,   佐々木洋

ページ範囲:P.529 - P.531

ポイント
●2cm以下の小肝癌の治療法には,主に切除術,PEIT,TAEの三者がある.
●切除術は,病巣を完全に除去できて,再発も比較的少ないが,術後合併症のリスクがある.PEITは,簡便かつリスクの低い治療法であり,腫瘍濃染のない症例には特に有効である.TAEは,腫瘍濃染のみられる多発例に有効であるが,他の治療法に比べて予後はやや不良である.
●小肝癌の治療法の選択にあたっては,腫瘍の進行程度および肝予備能などの背景因子を正確に分析したうえで決定すべきである.その場合,切除術を第一選択とし,切除不能例に対してはPEIT,TAEなどの内科的治療が望ましい.

肝細胞癌の非外科的治療はどこまで可能か

著者: 椎名秀一朗 ,   今村雅俊 ,   加藤直也

ページ範囲:P.532 - P.535

ポイント
●肝細胞癌では,多発性病変や合併する肝硬変などのため切除可能例は限られている.
●肝細胞癌では根治的切除が行われても,latent metastasisや異時性の多中心性発癌により,5年以内に70〜90%の症例で残肝再発がみられる.
●現在,PEITは小肝細胞癌の治療では外科的切除と同等の評価を得るまでになってきており,リスクのない症例でも外科的切除ではなくPEITを選択する施設が増えている.
●以前は,PEITの適応は病変数3個以下,最大径3cm以内といわれてきたが,最近では種々の工夫により適応拡大の傾向にある.
●それぞれの施設で各種治療法に得手不得手があるため,切除可能例にどこまで非外科的治療を行うかは各施設ごとに判断すべきである.

肝細胞癌の最良の治療手順をどう決定するか

著者: 黒川典枝 ,   沖田極

ページ範囲:P.536 - P.537

ポイント
●外科的切除が可能な肝細胞癌症例のうち,中・低分化型肝癌は切除を第一選択とすべきである.
●腫瘍径2cm以下の高分化型肝細胞癌は,PEITやPMCTなどで局所の根治が可能なため,その後の再発に備えて肝予備能を温存する意味からも内科的治療が望ましい.
●動脈血流の豊富な肝細胞癌に対しては,TAE,chemolipiodolizationとPEITの併用が効果的である.
●高率に再発する肝細胞癌の特性を念頭におき,厳密な経過観察と長期にわたる集学的治療を丹念に根気よく行うことが,予後の改善につながる.

漢方治療のために肝疾患の症候をどうとらえるか

著者: 星野恵津夫

ページ範囲:P.539 - P.541

ポイント
●投与すべき漢方薬は,腹診などの伝統的な漢方医学的診断あるいは現代医学的に得られた情報に基づいて決定されるが,その両者を総合して決定することが望ましい.
●現代医学的診療では必要ないが,漢方診療では極めて重要な患者情報として,食欲・便通・夜間尿・冷え・発汗傾向・口渇・月経周期と生理痛の程度(女性)がある.
●腹診は漢方診療では極めて重要な手技で,腹壁のパターンを把握することにより適切な漢方薬が決定できる.腹診では腹力・胸脇苦満・心下痞硬・腹直筋の緊張・臍傍の“瘀血”の抵抗圧痛点・臍上悸・臍下不仁などの有無を評価する.

肝疾患の生活指導—断酒すべきか,安静は心要か

著者: 渡辺明治

ページ範囲:P.542 - P.543

ポイント
●肝炎ウイルスとアルコールとの相互作用には不明な点が多いが,飲酒がウイルス肝炎の肝硬変への進展と肝発癌を促進している可能性があり,原則としてウイルス肝疾患例には禁酒を指導する.
●食後の安静は,健常例でも肝疾患例においてもよき習慣である.
●適度の運動の継続で,栄養代謝と免疫指標の異常が改善する.

肝疾患の遺伝子治療はどこまで期待できるか

著者: 松下栄紀 ,   金子周一 ,   小林健一

ページ範囲:P.544 - P.546

ポイント
●近年の分子生物学の進歩によって,遺伝子治療の概念が提唱され,1990年には実際の臨床に実施された.
●現在,HIVや癌を中心とする後天性疾患に対しても遺伝子治療の検討が積極的に行われているが,ヒトにおける有効性を示した報告はいまだ少ない.
●基礎レベルにおける遺伝子導入効率の改善,優れたベクターの開発,癌あるいは臓器特異的な遺伝子導入法および導入遺伝子の特異的発現の開発など,さらに安全性の確立がなされれば,遺伝子治療への期待は大きく膨らむものと考えられる.

肝移植—誰に,いつ,どこで行うか

著者: 矢永勝彦 ,   杉町圭蔵 ,   柏木征三郎

ページ範囲:P.547 - P.549

ポイント
●欧米では肝移植は進行した肝疾患の治療法として定着しており,米国のみで1994年には3,653例が行われている.
●肝移植の成績は現在,1年生存率78.6%で,特に原発性胆汁性肝硬変,胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞性肝疾患や,非B型肝硬変,代謝性疾患などで良好である.
●わが国では,1989年より生体部分肝移植が260例あまり行われているが,死体肝移植はいまだ離陸できず,移植関連学会合同委員会が10施設を特定している.

肝疾患の自然史と予後

健診で発見されたC型肝炎の経過は病院受診者と同様か

著者: 渋谷明隆 ,   竹澤三代子 ,   土橋健

ページ範囲:P.551 - P.553

ポイント
●健診で発見されたHCV抗体陽性例のうち,HCV RNA陽性例では検診時に肝機能が正常であっても組織学的には肝炎があり,長期間のうちには肝障害が顕著になる症例がある.
●HCV無症候性キャリアの期間およびその後の肝炎の程度は個体差が大きく,それにより予後が異なる.これらを規定する因子はまだ不明である.
●健診で発見されたC型肝炎も,病院受診例と同様に,肝炎全体の経過を意識した経過観察の集積が必要である.

慢性肝炎の進行を予測することは可能か

著者: 多羅尾和郎 ,   宮川薫 ,   大川伸一

ページ範囲:P.554 - P.556

ポイント
●腹腔鏡所見で,白色調の碁盤の中に赤褐色の比較的大きな小円形斑紋を認める“斑紋肝”を示す症例は,比較的短期間で結節肝(肝硬変)に移行する.
●肝生検組織所見でbridging necrosis(fibrosis)(P-P結合,P-C結合)を認める症例は,比較的早期に肝硬変症に移行する.
●進行したC型慢性活動性肝炎(CAH2b)においては,GPT年平均値が80単位以上を持続すると,92%の症例が3〜6年と比較的早期に肝硬変症に移行するのに対し,GPT年平均値が80単位未満に持続して抑えられると,比較的早期に肝硬変に移行する症例は17%にすぎず(p<0.01),GPT年平均を80単位未満に抑えることは治療指針として重要である.

非A非B非C型肝炎の予後は良好か

著者: 岡田俊一 ,   赤羽賢浩

ページ範囲:P.558 - P.559

ポイント
●急性肝炎の10〜20%は非A〜非E型肝炎である.
●慢性肝炎,肝硬変,肝細胞癌の数%から10%は非A〜非E型肝炎である.
●非A〜非E型肝炎の原因として,G型肝炎ウイルス(HGV)あるいはGBウイルス(GBV)が注目されている.

日本人の自己免疫性肝炎は海外とどう異なるか

著者: 銭谷幹男

ページ範囲:P.560 - P.562

ポイント
●日本人の自己免疫性肝炎と欧米症例では疾患感受性遺伝子が異なる.
●発症年齢は,わが国では中年以降が多く,欧米に比し若年発症例が少ない.
●わが国の自己免疫性肝炎はほとんどが抗核抗体陽性症例である.
●わが国では,C型慢性肝炎でAIHと鑑別困難な症例が存在する.
●わが国では,欧米に比し重症型,治療後再燃予後不良型は少ない.

理解のための43題

ページ範囲:P.564 - P.572

カラーグラフ 塗抹標本をよく見よう・3

赤血球の異常・3

著者: 久保西一郎 ,   藤田智代 ,   浜田恭子 ,   高橋功 ,   三好勇夫

ページ範囲:P.583 - P.586

 今回は始めに,検査成績のうえでは著しい貧血が認められるのに,末梢血の塗抹標本では赤血球の形態に,はっきりとした異常を認めない症例を2例紹介する.その後,奇形赤血球の出現した肺癌患者の末梢血塗抹標本を紹介し解説する.

グラフ 高速CTによるイメージング・3

膵の腫瘍性病変

著者: 森山紀之 ,   林孝行 ,   岩田良子 ,   村上康二 ,   佐竹光夫 ,   関口隆三 ,   縄野繁

ページ範囲:P.615 - P.619

 膵の腫瘍性病変のうち,臨床上最も問題となるのは膵癌である.膵癌の予後は他の癌と比較すると明らかに悪く,この原因としては,症状が出現した場合には既に腫瘍が膵外にまで浸潤していること,肝細胞癌におけるB型・C型肝炎感染の既往歴や抗体価の上昇,大腸癌における便潜血検査陽性などのような高危険群の設定が困難なこと,胃癌や肺癌などのように集団検診を行うほどの発生数がないこと,などが考えられる.
 このような予後の悪い膵癌の予後を少しでも良くするためには,膵癌の早期発見が急務であると考えられる.このためには,膵のCT診断を行う場合にも,従来行われていた10mm間隔でのCT撮影では不十分である.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.576 - P.581

演習 胸部CTの読み方・9

乾性咳嗽,微熱を繰り返した21歳の男性

著者: 横崎恭之 ,   重藤えり子 ,   山木戸道郎 ,   粟井和夫

ページ範囲:P.589 - P.594

Case
症例は21歳,男性.平成7年1月頃から,時に乾性咳嗽,微熱が出現し,近医の投薬により軽快していた.しかし,同じ症状を繰り返し,同年5月頃から咳嗽が次第に強くなり,6月に胸部X線写真を撮影,両肺野に計10個程度の2〜5cmの結節を認め,当科へ紹介された.職業は主に衣類の配送で,粉塵の吸入歴はなく,ペットの飼育もしていない.血液検査所見は,WBC 9,400(St 4%,Sg 65%,Eo 3%,Ba 1%,Ly 17%,Mo 10%),ESR 28,CRP 3.9, CEA 1.7で,他の一般生化学検査に著変はない.

図解・病態のメカニズム—分子レベルからみた神経疾患・7

トリプレットリピート病(2)—脊髄小脳変性症

著者: 池内健 ,   五十嵐修一

ページ範囲:P.595 - P.600

脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)は,小脳・脳幹系を中心に,脊髄や大脳基底核などの多系統に障害が及ぶ神経変性疾患である.中核となる臨床症状は,小脳性もしくは脊髄性の失調であり,そのため運動失調症と呼ばれることもある.SCDには遺伝性と非遺伝性のものがあり,さらに遺伝性の中にも,常染色体優性遺伝形式と常染色体劣性遺伝形式を示すものが存在しており,非常にheterogeneousな疾患群である.1987年の全国調査では,SCDの有病率は10万人あたり4.53人と推定されている1)
近年の分子遺伝学的研究の進歩により,従来まで原因不明とされていたSCDが,分子レベルでその病態が次々に明らかにされてきている.その結果,混乱していたSCDの診断・分類が,遺伝子変異を軸にして,世界的な趨勢として整理されつつある.その中でも,常染色体優性遺伝性SCDであるspinocerebellar ataxia type 1(SCA 1),歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(dentatorubral-pallidoluysian atrophy:DRPLA),Machado-Joseph病(MJD)が,その遺伝子変異として三塩基単純反復配列,すなわちトリプレットリピートの過剰な延長を病因としていることが明らかになり,SCDとトリプレットリピート病との関連が注目されている.

知っておきたい産科婦人科の疾患と知識・7

若年期の骨粗鬆症—無月経と腰痛

著者: 穴井孝信 ,   有馬和代 ,   宮川勇生

ページ範囲:P.605 - P.608

 骨粗鬆症の80%は女性であり,骨粗鬆症は女性の疾患といえる.他方,骨粗鬆症は更年期あるいは老年期の疾患であることはよく知られているが,その予防と管理における思春期および授乳期の重要性はあまり知られていない.ここでは,思春期と授乳期における2症例を示して,若年期の骨粗鬆症について述べたい.

Drug Information 副作用情報・2

薬剤性ショック(1)

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.609 - P.611

早期の適切な診断と処置が肝要
 薬剤による死亡原因として,ショックは非常に重要である.それまで(病気はあっても),元気であった人が突然死亡する.そのために,家族は医師の医療に不信をもち,医療訴訟の原因になるケースも多い.重症の薬剤性ショックは分単位の勝負である.発症早期の適切な診断,適切な処置が極めて大切であり,それを誤ると患者の生命にかかわる場合も多い.また,いかにショックの診断と処置が適切であっても,原因となった薬が患者の原疾患の治療に不適切である場合(適応外,用量・用法の間違い,禁忌薬など)は,訴訟になれば敗訴する可能性が大きくなる.しかも,薬剤によるショックは日常の診療でも決して少なくはなく,300床規模の当院のような病院でも年間数件程度経験するほどである.
 ショックの詳細な作用機序などについては他にゆずり,本稿では,ともすれば忘れられがちな,しかも実戦的には重要な事項についてその基本を述べる.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・11

インスリン発見を1ドルで売ったバンティング

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.612 - P.613

 1921年5月16日,トロント大学のネズミの出没する薄暗い研究室で,29歳の無名の外科医フレデリック・バンティングは研究を始めた.相棒はまだ22歳の医学生チャールズ・ベストであった.主任教授のマクラウドはすでに避暑にでかけ,10匹の犬とわずかな器材が彼らに残されていた.やがて許された8週間の期限である7月中旬になったが,2人の努力にもかかわらず有効な膵エキスは得られなかった.
 バンティングは前の年に,トロントから数百マイル離れたオンタリオ州ロンドンで開業した.しかし,1カ月後に得た収入は4ドルだけで,フィアンセも去って行った.向学心の強いバンティングは,知人の紹介でロンドン大学の生理学助手になり,秋に学生を指導するための準備として図書館で膵臓のことを調べていた.ストラスブルク大学のミンコフスキーらの実験で,膵臓を全摘すると糖尿病になることは1889年にわかっていたが,有効物質の抽出にはまだ成功していなかった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?