文献詳細
医道そぞろ歩き—医学史の視点から・11
文献概要
1921年5月16日,トロント大学のネズミの出没する薄暗い研究室で,29歳の無名の外科医フレデリック・バンティングは研究を始めた.相棒はまだ22歳の医学生チャールズ・ベストであった.主任教授のマクラウドはすでに避暑にでかけ,10匹の犬とわずかな器材が彼らに残されていた.やがて許された8週間の期限である7月中旬になったが,2人の努力にもかかわらず有効な膵エキスは得られなかった.
バンティングは前の年に,トロントから数百マイル離れたオンタリオ州ロンドンで開業した.しかし,1カ月後に得た収入は4ドルだけで,フィアンセも去って行った.向学心の強いバンティングは,知人の紹介でロンドン大学の生理学助手になり,秋に学生を指導するための準備として図書館で膵臓のことを調べていた.ストラスブルク大学のミンコフスキーらの実験で,膵臓を全摘すると糖尿病になることは1889年にわかっていたが,有効物質の抽出にはまだ成功していなかった.
バンティングは前の年に,トロントから数百マイル離れたオンタリオ州ロンドンで開業した.しかし,1カ月後に得た収入は4ドルだけで,フィアンセも去って行った.向学心の強いバンティングは,知人の紹介でロンドン大学の生理学助手になり,秋に学生を指導するための準備として図書館で膵臓のことを調べていた.ストラスブルク大学のミンコフスキーらの実験で,膵臓を全摘すると糖尿病になることは1889年にわかっていたが,有効物質の抽出にはまだ成功していなかった.
掲載誌情報