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雑誌目次

雑誌文献

medicina34巻3号

1997年03月発行

雑誌目次

今月の主題 消化器疾患の低侵襲治療手技

理解のための28題

ページ範囲:P.529 - P.534

食道疾患

食道疾患に対する低侵襲治療手技—現状と展望

著者: 幕内博康

ページ範囲:P.418 - P.420

ポイント
●食道静脈冶療の第一選択は内視鏡治療である.
●内視鏡的静脈瘤結紮術(EVI)は内視鏡的硬化療法(EIS)より簡便で,poor risk例にも適応となる.
●肝硬変末期例,肝癌末期例には予防的治療の適応はない.
●内視鏡的食道粘膜切除術(EEMR)は食道粘膜癌に対する第一選択の治療法である.
●鏡視下手術の適応が拡大するであろう.

食道静脈瘤—内視鏡的硬化療法

著者: 大政良二 ,   鈴木博昭

ページ範囲:P.421 - P.423

ポイント
●現在,食道静脈瘤の低侵襲治療としては内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS),内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)など多くの手技が行われている.その選択にあたって留意することは,食道静脈瘤の治療時期(緊急出血例,待期例,予防例であるか),食道静脈瘤の程度(F因子,RC signの程度),肝機能障害の程度,肝癌合併の有無などについてである.これらを考慮したうえで,患者のQOLを優先して,EISやEVLあるいはEISとEVLの併用のいずれかを選択する.
●EISは,使用する硬化剤によりEO法とAS法に大きく分けられる.その治療目標,すなわち,食道静脈瘤だけの治療を目的とする(AS法)のか,食道静脈瘤だけでなくその供血路まで治療する(EO法)のかにより硬化剤を選択する.硬化剤の種類によって治療手技,治療時の侵襲程度が異なる.
●緊急出血例,肝機能高度不良例では,肝機能の維持,すなわち肝不全の防止を優先させ,できるだけ侵襲の少ない治療法(EVL,ASの血管内外併用注入法によるEIS)を選択する.それでも止血できない出血例には,CA法が有効である.

食道静脈瘤—内視鏡的結紮術

著者: 遠藤徹 ,   大舘敬一 ,   草刈幸次

ページ範囲:P.424 - P.426

ポイント
●EVL(内視鏡的静脈瘤結紮術)はEIS(食道静脈瘤硬化療法)のと異なり,非透視下で施行でき,手技は比較的簡略である.
●EVLは局所的血流遮断であり,供血路までの塞栓効果は期待できない.併存胃静脈瘤には,ほかの治療法の選択が必要となる.
●EVLはEISと同様に,静脈瘤破裂への緊急止血に優れた低侵襲治療手技である.
●静脈瘤の荒廃効果は,EVL単独ではEISに比して早期に再発する率が高い.再発時には追加治療が必要となる.
●EVLでは造影剤や硬化剤による合併症がなく,術後の食道狭窄の頻度はEISに比べ少ない.

食道腫瘍—食道表在癌に対する内視鏡的粘膜切除術

著者: 青木純 ,   幕内博康 ,   三輪剛

ページ範囲:P.428 - P.431

ポイント
●EMR(内視鏡的粘膜切除術)は,病理学的診断が可能な有用な治療法である.
●早期食道表在癌に対するEMRの絶対的適応は深達度m1,m2の病変である.
●EMRの主な偶発症は出血,穿孔,狭窄である.
●早期食道表在癌に対するEMRの成績は極めて良好である.
●早期食道表在癌に対するEMRは,良好な予後とQOLが得られる最良の策である.

食道腫瘍—胸腔鏡的・腹腔鏡的アプローチ

著者: 井上晴洋 ,   河野辰幸 ,   遠藤光夫

ページ範囲:P.432 - P.433

ポイント
●食道癌に対するminimally invasive surgeryとして「胸腔鏡下食道切除術」を施行してきた.最近では「腹腔鏡下胃管作成術」を開始している.
●鏡視下手術のリンパ節郭清の程度は今後の課題であり,現在は適応を制限しながらの実施が望ましい.
●今後は「胸腔鏡下食道切除術」と「腹腔鏡下胃管作成術」を組み合わせた食道癌に対する鏡視下手術が完成されると思われる.

食道狭窄

著者: 嶋尾仁 ,   森瀬昌樹 ,   比企能樹

ページ範囲:P.434 - P.436

ポイント
●食道狭窄治療法として内視鏡的ブジーが行われる.
●悪性狭窄では拡張維持のため,ブジーの直後にステントが留置される.
●ステントはself-expandingタイプが挿入が容易である.
●ステントは抗癌剤治療や放射線治療と併用する.
●ブジー,ステント留置では穿孔と遅発性食道潰瘍に注意を払う.
●内視鏡胃瘻造設術の併用は,在宅期間の延長に有用である.
●悪性狭窄の治療は,経口摂取改善を目的とした姑息的治療で予後は不良である.

胃・十二指腸疾患

胃・十二指腸疾患に対する低侵襲治療手技—現状と問題点

著者: 多田正弘 ,   時山裕 ,   沖田極

ページ範囲:P.439 - P.441

ポイント
●内視鏡的治療は,腹壁を切開しない,全身麻酔が必要なく,術後の安静が外科手術よりも少ないという意味で低侵襲であり,QOLの観点から優れた治療として位置づけられている。
●しかし,一定の治療効果(根治効果)を得るのに,いかに治療範囲が縮小できるのか,すなわち最小限の侵襲で根治効果を求めるというのがこの治療法の本質である.つまり,単に内視鏡を用いて治療するというのではなく,最小限の治療侵襲で病変を根治させるという目的において,内視鏡が用いられている.

胃・十二指腸出血

著者: 高橋寛 ,   藤田力也

ページ範囲:P.442 - P.445

ポイント
●上部消化管出血の原因としては,消化性潰瘍からの出血頻度が最も高い.
●消化管出血患者の循環動態は流動的であり,全身管理を含めた治療を心がける必要がある.
●消化管出血の治療には,純エタノール局注法,ヒータープローブ法,クリップ止血法などがあるが,それぞれの止血機序を熟知しておかなければならない.特に,予想される合併症については,十分な配慮が必要である.
●それぞれの止血効果には有意差はみられず,どの止血法でも十分な止血効果が期待できる.しかし,脆弱な被癌部からの出血に対しては,クリップ止血法よりもエタノール局注法やヒータープローブ法などが効果的であり,疾患の特性を考えた治療が望まれる.

胃静脈瘤

著者: 豊永純 ,   酒井照博 ,   於保和彦

ページ範囲:P.446 - P.448

ポイント
●胃静脈瘤の急性出血例や待期例は積極的な治療の対象となるが,予防例の治療適応には専門医の判断が必要である.
●現在種々の胃静脈瘤の治療法があるが,患者の状態や血行動態を把握したうえで,治療を選択する必要がある.

胃腫瘍—内視鏡的アプローチ

著者: 鳥居惠雄 ,   西川温博 ,   三浦賢佑

ページ範囲:P.450 - P.453

ポイント
●胃腫瘍に対する内視鏡的アプローチは,内視鏡的切除法と内視鏡的組織破壊法に大別される.
●第一選択は病理組織学的診断の得られる内視鏡的切除法であるが,組織破壊法の併用が必要な場合もある.
●主たる診断・治療対象は胃腺腫および早期胃癌であるが,外科手術にて根治可能な病変を扱うため,慎重な適応選択が必要である.
●注意を要する合併症は出血.穿孔であり,術後安静と術直後よりの粘膜保護剤の投与が重要である.

胃腫瘍—腹腔鏡的アプローチ

著者: 大谷吉秀 ,   大上正裕 ,   北島政樹

ページ範囲:P.454 - P.457

ポイント
●腹腔鏡下手術は創が小さく,術後疼痛が軽微で,術後の運動制限が少ない.早期の社会復帰ができ,美容上優れている.
●腹腔鏡下胃局所切除術は,胃粘膜癌で隆起性病変(IIa)では腫瘍径25mm以下,凹性病変(IIc)では腫瘍径15mm以下でかつ潰瘍形成のない症例に適応となる.
●胃粘膜下腫瘍は,腫瘍径20mm以上で手技的に切除可能な症例を適応としている.
●広範囲に全層切除できることから,EMRに比べ安全,確実である.

胃腫瘍—経胃瘻的アプローチ

著者: 村井隆三

ページ範囲:P.458 - P.460

ポイント
●経皮経胃壁内視鏡下粘膜切除術(PTEMR)とは,局所麻酔下に行う胃瘻を用いた内視鏡下粘膜切除術である.
●内視鏡下に胃瘻を造設し,ここから腹腔鏡下手術用把持鉗子を胃内に直接挿入し,病変部を大きく確実に把持し,スネア鉗子にて粘膜切除を行う.
●EMR適応上限である20mm前後の比較的大きな病変でも,一括切除が可能である.
●噴門部などのEMR困難部位でも,容易にアプローチ可能である.

腸疾患

腸疾患に対する低侵襲治療手技—現状と展望

著者: 酒井義浩 ,   鴻上健一 ,   藤沼澄夫

ページ範囲:P.463 - P.465

ポイント
●小腸・大腸領域における低侵襲治療手技には,止血,摘除,狭窄解除,その他がある.
●主として内視鏡を用いて粘膜側より実施するが,内視鏡でも腹腔鏡のように漿膜側から実施することもあり,両者の併用や血管造影の技術を応用した方法との組み合わせもある.
●また,内腔から行う治療も,複数の内視鏡を動員して完壁を期す方法もあり,さらに内視鏡の改良や補助具の開発が進めば,より高度の複雑な治療法が可能になるものと思われる.

大腸出血性病変

著者: 永谷京平

ページ範囲:P.466 - P.468

ポイント
●下血,血便を主訴とする患者で大腸出血が疑われる場合は,全身状態が許せば速やかに大腸内視鏡検査を行い,出血の部位,状態,原因疾患を診断し治療方針を決定する.
●大腸出血の原因疾患は上部消化管出血と比べ非常に多彩であるが,血管の破綻による大量出血は稀である.
●血管の破綻による出血や再出血の可能性のある病変に対しては,低侵襲治療(内視鏡的止血法,経カテーテル止血法)の適応となる.
●壁の薄い大腸では,局所的に止血処置を繰り返すことは穿孔などの危険性が増すため,外科治療の適応は早めに考慮する.

大腸ポリープと早期癌—内視鏡的アプローチ

著者: 豊永高史 ,   廣岡大司

ページ範囲:P.469 - P.471

ポイント
●大腸では,粘膜内癌の診断基準が病理医によって異なっているのが現状である.
●生検はせず,摘除生検としての内視鏡切除を行う.
●内視鏡治療の適応は,粘膜内病変とsm1aまでの癌である.
●non-lifting sign陰性なら内視鏡切除可能である.
●病理組織でsm1b以深の深部浸潤,脈管侵襲陽性,切除断端の癌浸潤陽性,低・中分化腺癌のいずれかが認められれば,追加腸切除の適応である.

大腸ポリープと早期癌—腹腔鏡的アプローチ

著者: 澤田俊夫 ,   河村裕 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.472 - P.474

ポイント
●大腸ポリープと早期癌に対しては,まず可能であれば内視鏡的切除が試みられる.
●大きさが2〜3cm以上のポリープや平坦陥凹型などで内視鏡的切除が困難な場合は,低侵襲手術手技として腹腔鏡手術が選択される.
●腺腫・m癌はリンパ節転移のリスクがないので,腹腔鏡的アプローチによって局所切除や腸管切除が行われれば十分である.
●しかし,sm癌の一部(10%)にはリンパ節転移のリスクがある.したがって,これらに対しては,リンパ節郭清(D1,D2)を伴う外科治療法として腹腔鏡手術が行われなければならない.
●しかし,腹腔鏡的アプローチによるリンパ節郭清の適応は,今後の遠隔成績からの検討を待たなければならない.

進行大腸癌に対する腹腔鏡補助下手術

著者: 宮島伸宜 ,   山川達郎

ページ範囲:P.475 - P.476

ポイント
●進行大腸癌に対して低侵襲手術を行う場合,根治性が損なわれることがあってはならない.
●腹腔鏡下手術と通常の開腹手術を比較して,摘出リンパ節の個数に差はなく,十分な根治性が得られた.
●手術時間は腹腔鏡下手術で長くなる傾向があったが,手術手技の向上とともに短縮すると考えられる.
●腹腔鏡下手術後の回復は早く,優れた術式であると考えられる.

直腸腫瘍

著者: 金平永二 ,   大村健二 ,   渡辺洋宇

ページ範囲:P.478 - P.480

ポイント
●経肛門的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)は,低侵襲で直腸腫瘍のen bloc切除を行うことを目的に開発された.
●TEMにより直腸粘膜切除のほか,全層切除や壁欠損部の縫合閉鎖が可能となる.
●TEMの適応となる腫瘍は,内視鏡的粘膜切除により一括切除が困難な広基性の腺腫や粘膜癌,または小さくて分化度の高いカルチノイド腫瘍である.なお,TEMにより到達可能な部位は肛門縁から20cmである.
●TEMは,日本ではまだ普及途上の段階である.

炎症性腸疾患

著者: 渡邊昌彦 ,   日比紀文 ,   北島政樹

ページ範囲:P.481 - P.484

ポイント
●腹腔鏡下手術は創が小さく,運動制限が少ないので早期の社会復帰が得られる.
●Crohn病は若年者に多く,美容上優れた腹腔鏡下手術は適している.
●腹腔鏡下手術は癒着が軽度なので,再手術も同様に行える.

膵・胆道系疾患

胆膵疾患に対する低侵襲治療手技—現状と展望

著者: 中島正継 ,   安田健治朗 ,   平野誠一

ページ範囲:P.486 - P.489

ポイント
●胆膵疾患に対する低侵襲治療法は内視鏡手技が中心である.
●内視鏡のアプローチルートには経口経乳頭的ルート,経皮経肝的ルート,経皮経腹的ルートがあり,疾患の部位や病態に応じて選択する.
●経口経乳頭的ルートは比較的簡便で短時間に実施でき,胆膵領域の両方に応用できる手段である.
●開腹外科手術の対象であった良性疾患の大半は内視鏡的治療の適応になり,切除不能の悪性閉塞性黄疸の減黄維持にも応用される.

慢性膵炎

著者: 平田信人 ,   竹熊与志 ,   串田誉名

ページ範囲:P.490 - P.492

ポイント
●慢性膵炎の痛みには,膵炎そのものによって惹起される痛みと,膵管内圧の上昇による痛みとがある.
●膵管内圧上昇に伴う痛みは,膵液の流出を改善することによって軽快する.膵液流出を改善すれば慢性膵炎の増悪を防止することが可能であり,膵機能の温存をはかることができる.
●膵機能が廃絶した症例では,膵酵素を補充することにより低栄養状態を改善することが治療法の根本となる.
●慢性膵炎の原因の60%以上はアルコールであるので,飲酒をさせないための患者教育が最も大切である

膵仮性嚢胞

著者: 古屋直行 ,   武川建二 ,   長谷部修

ページ範囲:P.493 - P.495

ポイント
●6〜8週間以上経過した径5〜6cm以上の膵仮性嚢胞は自然消失の期待は少なく,感染・出血・腹腔内破裂などをきたす危険があり,ドレナージ術の適応がある.
●膵仮性嚢胞に対する低侵襲治療手技には経皮的治療,内視鏡的治療があり,良好な治療成績が報告されている.
●内視鏡的治療には,経消化管的穿刺ドレナージ術と経乳頭的ドレナージ術があり,特に膵管系と交通を有する嚢胞の場合には,経乳頭的ドレナージ術が有効である.
●いずれの治療手技においても,重篤な合併症をきたす危険があり,合併症に対する適切な処置および予防対策の検討が必要である.

胆嚢内結石

著者: 門田俊夫

ページ範囲:P.496 - P.498

ポイント
●胆嚢壁に異常を認めない無症状胆石は,定期的な超音波検査を前提に,経過観察が推奨される.
●有症状の胆石症には処置が必要である.
●その際,超音波検査やCT所見上,コレステロール結石には,胆石溶解療法,体外衝撃波療法(ESWL),腹腔鏡下胆嚢摘除術のいずれかを選択する.
●そのほかの結石には,腹腔鏡下胆嚢摘除術が最も適した術式といえる.
●腹腔鏡下胆嚢摘除術は,従来の開腹的胆嚢摘除術に比べて明らかに低侵襲であり,術後の落痛が少なく,入院期間も短い.

総胆管結石

著者: 伊藤慎芳

ページ範囲:P.499 - P.501

ポイント
●総胆管結石の治療は,内視鏡的な経乳頭的アプローチによる結石除去法が主流である.
●内視鏡的乳頭切開術は確立した方法であるが,内視鏡的乳頭拡張術も最近簡便な方法として注目されている.
●このほか,経皮的アプローチ,腹腔鏡的アプローチがあるが,評価の確立した手術治療,内視鏡的治療を考慮しつつ,施設によりまた症例に応じ,慎重に治療方針を決めることが要求される.

肝疾患

肝疾患に対する低侵襲治療手技—現状と展望

著者: 奥瀬千晃 ,   岩渕省吾

ページ範囲:P.503 - P.505

ポイント
●肝疾患に対する低侵襲治療手技(IT)には,経皮的エタノール注入療法(PEI),肝動脈塞栓療法(TAE)(化学塞栓療法を含む),経皮的マイクロ波凝固療法(PMCT),リザーバー植え込み動注療法,経皮経肝ドレナージ,TIPSなどがある.
●対象は肝細胞癌を中心に転移性肝癌,肝膿瘍,肝嚢胞,さらに肝硬変に伴う門脈圧亢進,難治性腹水などに対して行われる.
●肝細胞癌に対しどのようなITを行うかは,肝障害の原因,肝予備能,全身状態と腫瘍側の因子(タイプ,数,大きさ,部位など)とを総合的に評価する必要がある.
●超音波上観察可能な小肝癌はPEIが第一選択となる.
●肝炎ウイルス感染が多く,また肝移植の見通しが立たない現状では,今後ますますITが発展する傾向にある.
●ITの基本には肝臓病の十分な理解,IT施行医の技術向上が不可欠である.

肝細胞癌—肝動脈塞栓術(TAE)

著者: 磯部義憲

ページ範囲:P.506 - P.508

ポイント
●TAEの方法の選択基準は以下のとおりである.
 ①腫瘍栄養血管の有無(腫瘍濃染の有無)
 ②栄養血管の血管解剖
 ③腫瘍の肉眼形態
 ④腫瘍の占拠範囲(占拠率50%を境界)
 ⑤肝内門脈血流の有無(門脈腫瘍血栓の程度)
 ⑥動脈-門脈シャント・遠肝性門脈血流
 ⑦肝機能(ビリルビン値,ICG 15min,腹水など)
 ⑧腎機能
 ⑨肺血管とのシャントの有無

肝細胞癌—経皮的エタノール注入療法(PEIT)

著者: 椎名秀一朗 ,   今村雅俊 ,   小俣政男

ページ範囲:P.510 - P.511

ポイント
●肝細胞癌では,肝硬変の合併や多発性病変のため,切除の対象となる症例は限られている.さらに,根治的切除が行われても,5年以内に70〜90%の症例に残肝再発がみられる.
●肝細胞癌の治療はPEITの普及により大きく変化し,内科的治療でも局所の根治が得られるようになった.
●PEITが行われる症例の多くが,多発性病変や進行した肝硬変のため切除不能であることを考えると,PEITは優れた長期成績を達成していると考えられる.
●種々のテクニックを用いたPEITを行えば大部分の症例で局所的根治は可能である.

肝膿瘍

著者: 柴田実 ,   三田村圭二

ページ範囲:P.512 - P.514

ポイント
●わが国の肝膿瘍の90%以上は,胆道系の細菌感染から生じる化膿性肝膿瘍である、
●化膿性肝膿瘍の治療は,抗生物質の単独治療はほとんど効果が期待できず,低侵襲治療手技である膿瘍ドレナージと抗生物質の併用が標準的な治療法になっている.
●最近,胆道系の悪性腫瘍や閉塞性黄疸に続発した難治性の多発性肝膿瘍も増加しており,これらの疾患は膿瘍ドレナージのほかに内視鏡的逆行性胆管ドレナージや経皮経肝胆道ドレナージによる胆道減圧術も必要となる.

肝嚢胞

著者: 六倉俊哉

ページ範囲:P.515 - P.517

ポイント
●先天性肝嚢胞に対する治療適応は,巨大で圧排症状をきたしたものや,感染・出血・破裂例である.
●低侵襲治療手技としては嚢胞内エタノール注入療法があり,単発単房性のものに対しては容易に施行しうる.
●反復して治療が可能なため,巨大なもの,多房性のもの,多発性のものに対しても治療が可能である.
●エタノールの止血作用により嚢胞内出血の症例にも適応となる.
●嚢胞破裂により腹腔内出血を伴ったときには,手術療法を考慮する.
●肝包虫症や腫瘍性病変が疑われるときは手術療法が必要である.

その他の消化器系低侵襲治療手技

経皮内視鏡的胃痩造設術

著者: 鈴木裕 ,   久保宏隆 ,   青木照明

ページ範囲:P.520 - P.522

ポイント
●経皮内視鏡的胃痩造設術(PEG)とは,内視鏡を用いて非開腹的に胃痩を造設する手術術式である.
●PEGは,経腸栄養のアクセス目的と治療に用いられ,予想される効果がリスクを上回ると判断されたときのみ適応となる.
●通常の外科手術と同様の術前・術後管理が必要である.
●痩孔形成後は感染などの合併症はほとんどなく,交換も容易である.また,必要なくなれば抜去でき,縫合の必要もない、
●患者とその家族のQOL向上と医療経済を両立させる方法論になりえる可能性がある.

経頸静脈的肝内門脈大循環短絡路形成術(TIPS)

著者: 住野泰清 ,   山室渡

ページ範囲:P.523 - P.527

ポイント
●TIPSは,門脈大循環短絡路を作成し,門脈圧を著明に低下させる治療法である.
●技術を持った医師が行えば,低侵襲的かっ安全な門脈圧亢進症の治療法である.
●静脈瘤出血の止血率は高く,1年以内の再出血率が低い有用な治療法である.
●留意すべき合併症としては,門脈大循環短絡による肝性脳症,門脈圧低下による肝不全などがあげられる.

カラーグラフ 塗抹標本をよく見よう(最終回)

顆粒球

著者: 久保西一郎 ,   藤田智代 ,   森澤美恵 ,   浜田恭子 ,   高橋功 ,   三好勇夫

ページ範囲:P.547 - P.552

G-CSF投与による好中球の増加
 前回,好中球の著しい増加が認められた顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)産生肺癌患者の末梢血塗抹標本を紹介したが,今回は,化学療法中に生じた好中球減少症に対して投与されたG-CSFにより好中球の著しい回復が認められた悪性リンパ腫患者の末梢血と骨髄の塗抹標本を紹介する.
 図1はG-CSFの投与を受けた患者の末梢血塗抹標本である.成熟した分葉好中球の著しい増加が認められる.G-CSFの投与により増加した好中球の胞体内には,図のように活性化した好中球にしばしばみられると同様の多数の粗大顆粒が認められる.図1と同じ末梢血塗抹標本には骨髄芽球(図2),前骨髄球(図3,図中→),骨髄球(図4,図中→),後骨髄球(図4,図中*),stab(図5,図中→),分葉好中球(図5,図中*)と各成熟段階の好中球系細胞が認められた.図6はG-CSFの投与により好中球が増加している時期に得られた骨髄の塗抹標本である.骨髄芽球(→)をはじめとするいろいろな分化段階の好中球系細胞が認められ,骨髄において顆粒球系細胞が盛んに産生されていることがうかがえる.

図解・病態のメカニズム 腎疾患・3

Gitelman症候群

著者: 柴垣有吾 ,   内田俊也

ページ範囲:P.555 - P.560

概念
 Bartter症候群が提唱1)されて4年後の1966年にGitelmanらは,Bartter症候群と類似の臨床的特徴(低カリウム血症性代謝性アルカローシス,高レニン高アルドステロン血症,血圧正常など)を持ち,腎喪失による低マグネシウム血症を特徴とする3症例を報告した2).その後,Bettinelliらはこれら2つの症候群が尿中Ca排泄量により鑑別される(Bartter's:hypercalciuria,Gitelman's:hypocalciuria)ことを示し,Gitelmanの症例をGitelman症候群と呼ぶことを提唱した3).臨床的には,Bartter症候群は年少児(5〜6歳以下)より発症し,高度な体液量喪失傾向を示すが,Gitelman症候群は年長児以降に発症し,体液量喪失傾向は少ない.
 Gitelman症候群は生理学的解析から,接合部遠位尿細管(DCT)のNa-CI cotransporterの異常説が有力とされていた.そしてついに1996年,LiftonらのグループはGitelman症候群の患者家系の遺伝子解析からNa-CI cotransporter4)の遺伝子異常を見いだしたのである.

内科医が知っておきたい小児科学・最近の話題・3

小児のてんかん性疾患の分類と治療

著者: 大内美南

ページ範囲:P.561 - P.566

小児てんかん分類
 1.てんかん分類に関して
 てんかんとは,脳の神経細胞が発作性に異常な電気活動を起こし,一過性の脳機能障害を引き起こす慢性の疾患である.脳の解剖学的,生理学的機能分担に応じて発作の症状は多彩であるが,同一人においては発作の型はおおむね決まっている.
 てんかん症候群の分類は何年かごとに改定されているが,これは多彩な症状を示すてんかんの病態生理をどのように整理解釈し,治療と結びつけていくのかということが,学問的な発展に伴って変化しているからである.現在は1989年に改定された「てんかん,てんかん症候群および関連発作性疾患の分類」が国際分類として一般に用いられている(表1).

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.539 - P.544

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・3

患者から不満やいら立ちをぶつけられたら

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良

ページ範囲:P.572 - P.573

症例 医師の対応に腹を立てる患者
 タナカさん,64歳,男性.腰痛のため救急外来を受診.4日ほど前,起床時に突然発症し,その日はほとんど臥床していた.翌日から腰痛はやや軽減するも持続するため,本日午後に受診する予約をした.それをキャンセルして夜間来院した.当直のM医師が,病状の経過から夜間の救急でなく通常の診療時間に来るべきではないかと諭したところ,タナカさんが怒鳴りだした.
 「痛くてつらいから家の者に頼んで連れてきてもらったのに,診もしないで説教するとはどういうつもりだ.このやぶ医者!」

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・23

ライデン大学の医師資格試験

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.576 - P.577

 オランダのアムステルダムから汽車でライデン(現地ではレイデン)に向かう沿線の風景は,心を和ませる、見渡す限りの野原の中に小さな町が点在して,教会の尖塔や風車のある農家が見える.かつてシーボルトを乗せた馬車もこの道を駆け抜けたのであろう.小さな駅を出ると,道はすぐに運河に通じ,橋のたもとにブールハーフが生まれた1668年頃の絵のままのライデン大学が現れる.
 パドヴァ大学のヴェサリウスが『ファブリカ』を出版して12年後の1555年,オランダを支配していたスペイン王は,外科医を中心とする医療ギルドに医学教育のために年間1体の死刑囚の解剖を許可している.レンブラントが描いた「ニコラース・トゥルプの解剖実習」もその情景を伝えている.

Drug Information 副作用情報・12

意識障害(2)—インターフェロン脳症

著者: 浜六郎 ,   別府宏圀

ページ範囲:P.569 - P.571

 今回は,インターフェロン(IFN)による意識障害の例を紹介する.意識障害を生じうる種々の薬剤と,それぞれの治療方法は次回に述べる.
 【症例1】IFNによる譫妄の症例1)28歳の男性.警備の仕事に従事.注射による薬物嗜癖の既往がある、B型慢性活動性肝炎に対してIFNαによる治療(1,000万単位,隔日投与)を開始.6週間後,抑うつ状態になったり興奮したりして退職した.仕事をせず,自分のアパートに一人で籠もりきりとなり,外出しようとせず,友人ともまったく話をしようとしなくなった.外来受診時,自殺の目的でIFNαを静脈注射したと言ったため入院.入院時には広範な不安,強迫症,迫害の恐怖を訴えていた.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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