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雑誌目次

雑誌文献

medicina34巻4号

1997年04月発行

雑誌目次

今月の主題 高血圧の治療—新しい時代を迎えて 総論

高血圧治療の進め方

著者: 島田和幸

ページ範囲:P.586 - P.590

ポイント
●高血圧患者を漏れのないように診療するためには,次の各段階をふまえて進めていく:①本態性高血圧か二次性高血圧かを診断,②高血圧の合併症や関連するリスク因子の存在を把握,③血圧の程度や高血圧性臓器障害を評価して,高血圧の重症度を決定,④非薬物療法を指導,⑤個々の患者に適切な降圧薬を選択,⑥長期的な管理計面を立てて実行.
●おのおののステップをどのような基準で行うかは,客観的成績に基づいた様々なガイドラインや,経験的ではあるが合理的と思われる治療方針があり本特集で述べられる.
●高血圧診療を進めていく具体的手順と高血圧管理における問題点を指摘する.

大規模臨床試験の成績から

欧米の現況と方向

著者: 松岡博昭

ページ範囲:P.591 - P.594

ポイント
●大規模臨床試験により,成壮年者高血圧のみならず老年者高血圧においても降圧薬治療の有用性が示されている.
●サイアザイド系利尿薬やβ遮断薬を主に用いた大規模臨床試験では,脳血管障害の抑制効果は明らかであるが,冠動脈疾患の抑制効果は明確ではない.
●持効性Ca拮抗薬が脳血管障害を抑制するとの大規模臨床試験が,上海から報告されている.
●持効性Ca拮抗薬やACE阻害薬を用いた大規模臨床試験が欧米において進行中である.

日本の現況と方向

著者: 瀧下修一

ページ範囲:P.595 - P.599

ポイント
●わが国では,欧米のものに比肩できる大規模臨床試験は皆無に近く,試験成績も限られている.
●日本人の高血圧,動脈硬化症,心血管系疾患,遺伝・環境などは欧米人のものと同一ではなく,リスク管理に関するわが国独自の試験の必要性がいわれて久しいが,欧米の試験成績にただ乗りした状態が続いている.
●大規模臨床試験を行いにくくしている要因は多いが,解決に向けて組織的な対応が不可欠である.

高血圧ガイドラインから

高血圧ガイドライン—欧米の考え方

著者: 築山久一郎 ,   大塚啓子

ページ範囲:P.600 - P.604

ポイント
●治療の要否は疫学的成績により判断し,①未治療例の標的臓器障害の進展,②治療による絶対危険度の減少,と同時に,③相対危険度の減少を評価基準とする.
●欧米諸国の指針は疫学的成績を基盤に作成されているが,最近,絶対危険度を重視する傾向がみられる.
●血圧管理基準は疫学的成績の評価を基に作成された.しかし指針間に差があり,いずれの指針の妥当性が高いかは明確でない.
●各種の指針は共通して一次薬を利尿薬,β遮断薬,ACE阻害薬,Ca拮抗薬,α遮断薬とするが,初期治療薬を利尿薬,β遮断薬に限定する指針には反論もある.

老年者高血圧の治療指針

著者: 荻原俊男

ページ範囲:P.605 - P.607

ポイント
●老年者においても,収縮期高血圧を含めて高血圧は心血管疾患の危険因子である.
●老年者高血圧は,動脈硬化や加齢に伴う血圧調節系の異常など,青壮年者の本態性高血圧とは病態が著しく異なる.
●老年者高血圧の治療効果は確認されているが,超高齢者においては限界がある.
●高齢になるに従い治療対象,降圧目標は高めとし,緩やかにゆっくりと降圧をはかる.
●持効型Ca拮抗薬,ACE阻害薬を第一次薬としてよいが,これらの長期介入試験は現在進行中である.

家庭血圧・24時間血圧測定の意義

血圧測定装置の信頼性

著者: 川﨑晃一 ,   𡈽橋卓也

ページ範囲:P.609 - P.613

ポイント
●家庭血圧計の精度は上腕用,手首用,指用の順で低下する.
●指用の測定値は聴診法による測定値より著しく低値を示す場合が多く,自己血圧管理には不適である.
●家庭で1台購入する場合は上腕用を勧めたい.
●1回ではなく,数回測定した平均値で評価する.
●家庭血圧計の使用を勧める場合,説明書の内容を理解してもらうとともに,定期的な精度チェックが必要である.
●現在わが国で利用できるどの携帯型自動血圧計も,精度は一定の基準を満たしている
●適当なサイズのカブの選択と基本的注意事項を守れば,信頼できる測定値が得られる.

日常臨床における活用法

著者: 大塚邦明

ページ範囲:P.614 - P.618

ポイント
●血圧変動にはcircadian rhythmが観察される.
●血圧のcircadian rhythmには,身体活動度や精神的活動度が大きく関与している.
●24時間血圧(ABPM)の記録開始時には白衣効果が観察される.そのため,記録開始直後の2時間は白衣効果窓として対処することが望ましい.
●ABPMで最初に観察しなければならない血圧変動様式は,夜間の血圧下降(dipping)の有無と,起床に伴う一過性の血圧上昇(morning rise)の評価である.
●降圧に際してのABPMの指標は,24時間血圧平均値と24時間血圧変動性である.後者には短期的変動と長期的変動の2つがある.
●PAMELA研究は,家庭血圧の正常値が,収縮期/拡張期血圧おのおの121~132/75~81mmHgであることを示した.
●米国のAd Hoc Panelは,外来血圧・家庭血圧・24時間血圧・臓器障害の有無を考慮して,高血圧の評価とその治療にあたるよう勧告した.この勧告では,24時間血圧の評価として,24時間収縮期/拡張期血圧平均値がおのおの130/80mmHg未満は正常血圧,135/85mmHgを超える場合に高血圧と診断するよう提唱している.

降圧療法のベース

運動療法処方の実際

著者: 川久保清

ページ範囲:P.620 - P.622

ポイント
●運動療法は高血圧の非薬物療法の一つである.
●平成8年4月から高血圧症に対する運動療法指導管理料が新設された.
●運動療法の適応は臓器合併症のない軽症本態性高血圧症である.
●全身持久性運動を最大酸素摂取量の40〜50%強度で行うと,約10mmHg程度の降圧効果が得られる.
●補強運動として筋強化運動も併用してよい.

食事療法・生活指導

著者: 南順一 ,   河野雄平

ページ範囲:P.623 - P.625

ポイント
●食事療法は高血圧治療の基礎として重要であり,すべての高血圧患者に勧められる.
●食事療法の中では,カロリー制限による減量と食塩制限の降圧効果が最も確実である.
●喫煙している高血圧患者には禁煙指導が必要である.アルコールは制限を要するが,禁酒すべきではない.
●カリウム,カルシウム,マグネシウム,魚油,食物繊維,蛋白質は多めに摂取することが望ましい.
●食事療法については,一般に降圧効果は小さいことと患者のコンプライアンスが問題となる.

降圧薬の減量・中止とコンプライアンス

著者: 関顕

ページ範囲:P.626 - P.629

ポイント
●降圧薬の減量・中止については多くの研究成績が発表されているが、結果は様々である.したがって,減量・中止法として確立されたものがあるとはいいがたい.
●現状では,徐々に段階的に個々の患者を観察しながら行うのがよい.この際,一般療法を十分行う必要がある.
●減量・中止した者の予後が降圧薬継続服用者のそれより悪くならないことが重要である.
●減量・中止に際しては,コンプライアンスを悪化させないように配慮する.

降圧療法の最前線

夜間の血圧

著者: 大久保孝義 ,   今井潤

ページ範囲:P.630 - P.633

ポイント
●血圧日内変動が減弱ないし消失しているものは,“non-dipper”と呼ばれ,正常の血圧日内変動を有する“dipper”に比べ臓器障害が高度であるとの報告が多い.
●しかし近年,特に脳神経疾患との関連において,dipperの予後がnon-dipperに比し不良であるとの報告があり,non-dipperの予後および治療方針については今後検討していくべき多くの課題が残されている.

早朝の高血圧

著者: 桑島巌 ,   生沼幸子

ページ範囲:P.634 - P.638

ポイント
●急性心筋梗塞,心臓突然死,脳卒中などの脳心血管障害は午前8〜10時の間に発生しやすく,起床後の血圧上昇がその成因の一部に関与している.
●早朝の高血圧には,起床直後に急激に上昇するものと夜間睡眠中から徐々に上昇するものがあり,前者は高齢者に多くみられる.
●早朝の急激な血圧上昇には,交感神経αトーヌスの亢進に基づく末梢血管抵抗の増大が関与する.したがって,その抑制にはα遮断薬が有用と考えられる.
●夜間から血圧が上昇している例では,T/P比の高い降圧薬を選択し,夜間血圧も同時に下げることが望ましい.

白衣(性)高血圧の管理

著者: 齊藤郁夫

ページ範囲:P.639 - P.641

ポイント
●高血圧患者全体の20%以上が白衣高血圧である.
●白衣高血圧の心血管系合併症の発症頻度は正常者に近く,持続性高血圧より予後がよい.
●治療前のABPの拡張期血圧が85mmHg未満と低い白衣高血圧群では,降圧薬治療によりABPが低下しない.
●白衣高血圧における降圧薬治療の有用性についてはさらに長期で,大規模な検討が必要であるが,当面は,非薬物的治療で経過をみるのが常識的である.

見直される降圧薬

カルシウム拮抗薬論争

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.643 - P.645

ポイント
●Ca拮抗薬は降圧効果は優れているが,臓器保護効果はACE阻害薬などに比し,劣るか.
●血管拡張作用は強いが作用の持続時間が短いCa拮抗薬は,虚血性心疾患に対して悪影響を与えるか.作用の持続時間が長く,交感神経活性を増さないものは安全か.
●Ca拮抗薬は消化管出血や悪性腫瘍を生じやすいか.

ACE阻害薬のポテンシャル

著者: 川口秀明

ページ範囲:P.646 - P.649

ポイント
●ACE阻害薬は,降圧作用のほかに心・腎などの臓器保護作用がある.
●心不全治療薬として,生命予後の改善,運動耐容能の改善がみられる.
●高血圧性心肥大の抑制作用がある.
●心筋梗塞後や心肥大時に起こる心筋組織のリモデリングを抑制する.

アンジオテンシンII受容体拮抗薬への期待

著者: 後藤淳郎

ページ範囲:P.651 - P.654

ポイント
●AT1拮抗薬は血管,副腎,腎,交感神経,心などにおけるAT1を介するアンジオテンシンIIの作用を特異的に抑制する.
●高血圧症患者でのAT1拮抗薬単独投与で,ACE阻害薬を含めた他の降圧薬と同等以上の有効性が示されている.
●AT1拮抗薬では,ACE阻害薬に比べて咳の出現頻度は確かに少ない.
●AT1拮抗薬が,ACE阻害薬を超える,より有効な薬剤であるかについては,今後の成績が注目される.

α遮断薬の利点

著者: 三浦幸雄

ページ範囲:P.656 - P.659

ポイント
●α1遮断薬は,カテコールアミンの作用点であるα1受容体を遮断することにより,抵抗血管を拡張して血圧を下げる.
●交感神経活性の亢進による過大な血圧上昇を抑制し,血圧の日内変動を正常化させる.
●心・腎機能に悪影響はなく,高脂血症の改善,血小板凝集能の抑制,インスリン抵抗性の改善などのユニークな属性を有し,若年者から老年者まで適応が広い.
●持効性製剤では,起立性低血圧などの副作用も克服され,有用性が向上した.

利尿薬・β遮断薬を擁護する

著者: 小澤利男

ページ範囲:P.660 - P.662

ポイント
●降圧薬の選択は,無作為長期大規模治験を第一の根拠とすべきである.この意味から,利尿薬とβ遮断薬はCa拮抗薬,ACE阻害薬に優先する.
●降圧薬の評価は,非薬物療法を十分に行ったのち,施行されるべきである.
●β遮断薬は,心不全に投与されうるが,Ca拮抗薬にその適応はない.
●心肥大の退縮が各降圧薬で異なるか否かは,まだ必ずしも定まってはいない.

T/P比の意義と限界

著者: 長谷部直幸 ,   菊池健次郎

ページ範囲:P.663 - P.666

ポイント
●T/P比とは,降圧薬服用後の最大降圧度(P:peak値)で,最小降圧度(T:trough値)を除した値である.
●T値,P値ともに,プラセボ服用時の血圧値を差し引いて算出する.
●T/P比は,持続的な安定した降圧療法の臨床的指標の一つであり,50%以上が望ましいとされている.
●同一薬剤のT/P比でも,投与量,投与間隔,測定条件などによって値が異なる可能性がある.

合併症を伴う高血圧—個別治療の実際

急性期脳血管障害

著者: 篠原幸人

ページ範囲:P.668 - P.671

ポイント
●高血圧は脳血管障害の危険因子の一つであるが,また脳血管障害発作直後にも発作自体による一過性高血圧がみられる.
●各種脳血管障害患者の脳血流は,発症直後からかなり長期にわたって,血圧依存性に変動する.
●虚血牲脳血管障害では,収縮期血圧が220mmHgを超えないかぎり,原則として降圧薬は使用しない.
●発症直後で血腫増大の可能性のある脳出血や,再発の可能性の高いくも膜下出血では積極的に降圧を試みてよい.

慢性期脳血管障害

著者: 伊藤泰司 ,   松本昌泰

ページ範囲:P.673 - P.675

ポイント
●慢性期脳血管障害を有する高血圧患者では,健常人に比して脳循環自動調節能が低下しており,過剰あるいは急速な降圧により医原性に脳梗塞を引き起こす可能性がある.
●患者個々の脳循環障害の自動調節能の程度を測定する臨床的指標は確立していないが,頭部CTによる脳室周囲高信号域(PVL)所見などが参考になる.
●慢性期脳血管障害を有する高血圧患者に対する降圧薬の選択としては,脳循環面からみると,Ca拮抗薬やACE阻害薬などが利尿薬やβ遮断薬に比して使いやすい.

高血圧性心疾患

著者: 日和田邦男

ページ範囲:P.676 - P.679

ポイント
●高血圧患者の左心室は,持続性の後負荷増加に対する適応現象に端を発した求心性リモデリングに始まり,求心性肥大,さらには遠心性肥大へと進展する.この一連の形態変化に対して,左室機能が障害された状態を高血圧性心疾患という.
●求心性リモデリングの段階から拡張機能の障害が始まり,遠心性肥大にいたってさらに収縮機能障害が加わる.
●高血圧が長期間持続して,拡張機能,収縮機能ともに高度に障害されると高血圧性心不全にいたる.
●求心性肥大は,降圧療法によって退縮するが,左室重量係数が200g/m2以上の遠心性肥大は,降圧療法によっても退縮は難しい.
●左室肥大の退縮に有効な降圧薬はACE阻害薬である.

虚血性心疾患

著者: 松浦秀夫

ページ範囲:P.681 - P.684

ポイント
●一般療法の指導が重要である.
●高脂血症,糖尿病,高尿酸血症など,虚血性心疾患を悪化させる他の合併症のコントロールにも注意を払う.
●各薬剤特有の禁忌,慎重投与の条件に留意する.
●いずれの薬剤を用いる場合も,過度な降圧は行わず,症状や心電図変化の経過をみながら徐々に降圧するよう心がける.
●薬物療法にはβ遮断薬,徐効性(長時間作用型)Ca拮抗薬,ACE阻害薬,あるいはα1遮断薬が用いられるが,β遮断薬は冠攣縮群性狭心症や心不全合併症例には禁忌,速効性(短時間作用型)Ca拮抗薬は急性心筋梗塞症例には禁忌である.

腎疾患

著者: 中村哲也

ページ範囲:P.686 - P.689

ポイント
●腎障害を伴った高血圧症では,高血圧が腎機能障害を引き起こしたのか(高血圧性腎硬化症),腎障害によって高血圧が引き起こされたのか(腎実質性高血圧)の鑑別が大切である.
●血清クレアチニン濃度が2.5mg/dl未満の場合には,ACE阻害薬やCa拮抗薬を病態を考慮しながら第一選択薬として使用し,第二選択薬としてα遮断薬あるいはβ遮断薬を用いる.
●血清クレアチニンが2.5mg/dlを超すような場合には,ACE阻害薬は腎機能を低下させることがあるため,他の薬剤のほうが安全であると思われる.Ca拮抗薬やα遮断薬は第一選択の薬剤と考えられる.

糖尿病

著者: 片山茂裕

ページ範囲:P.691 - P.693

ポイント
●インスリン非依存型糖尿病患者の40〜60%が最終的に高血圧になる.
●糖尿病に高血圧が合併すると,脳血管障害や冠動脈疾患の発症率が2〜3倍に達する.
●高血圧の合併は腎症の進展を加速する.ACE阻害薬の有効性が明らかになりつつある.
●脳血管障害や冠動脈疾患の発症を予防し,腎症の進展を予防する降圧治療が必要である.
●130/85mmHg以下を降圧目標とする.

高脂血症

著者: 芦田映直

ページ範囲:P.695 - P.697

ポイント
●サイアザイドおよびループ利尿薬は,総コレステロール,トリグリセリド(TG)を上昇させ,HDLコレステロールを低下させることがある.
●内因性交感神経刺激作用(ISA)のないβ遮断薬はTGを上昇させ,HDLコレステロールを低下させることがある.
●α1遮断薬はHDLコレステロールを上昇させ,LDLコレステロール,TGを低下させる.
●その他の降圧薬は脂質代謝に影響しない.
●利尿薬かISAのないβ遮断薬を使う場合は,血清脂質を2〜3カ月後に再検査する.有意の変化が起こった場合は,他の薬物を考慮するか,脂質を低下させる適当な治療法を開始する.

高血圧緊急症

著者: 高橋伯夫

ページ範囲:P.699 - P.702

ポイント
●高血圧が直接生命に危機をもたらす病態が高血圧緊急症であり,速やかな治療,すなわち降圧をはかることが必要である.
●現在,本態性高血圧の治療分野では,緩徐で血圧変動の少ない,T/P比の高い薬剤による治療が推奨されているが,緊急症は治療に急を要する病態であり,直ちに降圧効果を示す薬剤で,主に非経口的に持続的に投与することで一定の降圧を維持する.
●脳浮腫を伴う症例で,分の単位での対処の違いが生死を分かつ例もある.
●高血圧緊急症では,一般に主要な臓器の血管障害から機能障害を伴っているために,過度の降圧はむしろ臓器障害機能を低下させることがあり,治療目標血圧は高いレベルに設定し,急速に一定のレベルまで下げたあとは徐々に目標を下げることが必要である.
●治療により予後が著明に改善する病態であるので,積極的に治療すべきである.

妊娠

著者: 三品直子 ,   成瀬光栄 ,   成瀬清子 ,   関敏郎 ,   出村博

ページ範囲:P.703 - P.705

ポイント
●妊娠経過中の高血圧は,原因のいかんにかかわらず治療の対象となる.
●治療の主体は薬物療法であり,症例に応じて使い分けるが,第一選択薬としてはα-メチルドーパ,β遮断薬,α・β遮断薬が用いられる場合が多い.
●血圧管理の目安は,一般に140/90mmHg以下,妊娠中毒症では150/100mmHg前後である.
●経過中は各種検査所見,自他覚症状の推移などに厳重に目を配り,子癇前症など危険な徴候が現れた際は,速やかに産科に入院させられる態勢にしておくこと.

小児・若年者高血圧とその治療

著者: 海老原昭夫

ページ範囲:P.706 - P.709

ポイント
●小児の高血圧では二次性高血圧の頻度の高いのが特徴である.
●二次性高血圧について,原疾患の治療を優先するのは成人の場合と同様である.
●本態性高血圧について,非薬物療法を優先することも成人の場合と同様であるが,特に小児では肥満を伴うことが多いので,その場合にはカロリーの制限が重要である.
●薬物療法については,①成長期にあるものに対する長期投与の影響が明らかにされていないことや,②長期追跡の成績では何もしなくても血圧が正常化する例が多いことなどから,非薬物療法の徹底をはかり,できるだけ薬物投与を避けることが望ましい.

セミナー・病態と降圧薬

脳循環

著者: 藤島正敏

ページ範囲:P.711 - P.713

ポイント
●高血圧では脳血流は低下し,脳自動調節下限域は右方(上方)へ偏位している.そこで,急速過度の降圧は脳血流をさらに低下させる.
●高血圧に伴う脳循環動態の異常は,加齢,高血圧の罹病期間と重症度,脳血管障害の合併によって増強する.
●降圧薬のなかで脳血流の増加作用を有するものはCa拮抗薬,α1遮断薬で,一方,脳自動調節下限域を左方(下方)へ移動(改善)させるのはACE阻害薬,α1遮断薬である.

腎循環

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.714 - P.716

ポイント
●腎微小循環は血圧調節に重要な役割を果たしている.
●腎微小循環には様々な血管作動物質が関与している.
●血管作動物質の中でもレニン-アンジオテンシン系はその主体をなしている.
●アンジオテンシンIIと他の血管作動物質の相互作用も重要である.
●降圧薬以外にもこの微小循環に様々な影響を与える薬剤がある.

心肥大・動脈硬化

著者: 星野洋一 ,   永井良三

ページ範囲:P.718 - P.721

ポイント
●心肥大を誘導する因子としてアンジオテンシンIIとカテコールアミンは,降圧薬と関係が深い.
●臨床的にもACE阻害薬,β遮断薬,α1遮断薬には心肥大退縮効果が認められる.また,近日発売になるアンジオテンシンII受容体拮抗薬も心肥大抑制効果が期待できる.
●臨床的に抗動脈硬化を示す有効な降圧薬は現在のところ認められない.しかし,動脈硬化の促進因子である内皮機能低下を改善するACE阻害薬の効果が注目される.

インスリン抵抗性と肥満

著者: 久代登志男 ,   飯田慎一郎 ,   上松瀬勝男

ページ範囲:P.722 - P.725

ポイント
●インスリンは糖代謝以外にナトリウム代謝,交感神経機能,細胞増殖,脂質代謝に重要な役割を果たしている.
●インスリン抵抗性と代償性高インスリン血症に伴うそれらの作用異常が,高血圧,動脈硬化に関連すると考えられる.
●肥満はインスリン抵抗性,脂質代謝異常,交感神経機能亢進を伴うことが多く,高血圧と左室肥大を伴う頻度が高い.
●降圧療法によりインスリン抵抗性,脂質代謝異常,交感神経機能亢進を悪化させるべきでなく,減量,運動療法が重要である.
●降圧薬はACE阻害薬,α1遮断薬,長時間作用型Ca拮抗薬,および少量の利尿薬が勧められる.

対談

高血圧—最近の話題

著者: 島田和幸 ,   島本和明

ページ範囲:P.727 - P.736

高血圧の成因・治療における最近の考え方
変わってきた高血圧のとらえ方
島田本日は高血圧の治療やその成因の研究について最近のトピックスを中心に,島本先生とお話し合いしたいと思います.
早速ですが,高血圧に対する概念,あるいは治療方針といったものが,かつての悪性高血圧の治療などと比べると最近ではかなり変わってきました.特に,欧米を中心にした高血圧の治療ガイドラインがわが国にも強く影響を与えていますね.

理解のための30題

ページ範囲:P.739 - P.745

カラーグラフ 感染症グローバリゼーション・1【新連載】

目で見るマラリア対策(1)—マラリアの疫学

著者: 金子明

ページ範囲:P.747 - P.752

 マラリアは,現在なお人類にとって最も重要な健康問題の一つである.図1は現在の世界におけるマラリア浸淫地を示したものであるが,世界保健機関(WHO)によると,世界人口の半数はマラリア感染の危険性がある地域に居住しており,年間約2億人の新たな発症があり,約200万人が死亡している.そのマラリア死の多くは小児である.
 現在,マラリアはアジア,アフリカ,中南米の熱帯・亜熱帯地方の国々に集中しているが,元々は地球上のより広い範囲に広がっていた.図2に示すように,人類による大規模なマラリア対策が開始される前である1946年の時点では,日本,北米,欧州,豪州などでもマラリアの伝播が起こっていた.ただし,アフリカであってもキリマンジャロなどの3,000m級の高地,および太平洋の内ポリネシアの島々には媒介蚊が生息せず,元からマラリア伝播はなかった.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.755 - P.760

図解・病態のメカニズム 腎疾患・4

Liddle症候群

著者: 佐々木成

ページ範囲:P.765 - P.768

 Liddle症候群は,病態生理的特徴から,腎臓のNa channelの異常に起因する疾患であることは推測されていた.最近,上皮型のNa channelがクローニングされ,そしてLiddle症候群家系の患者において,このNa channel遺伝子の異常が証明されたことにより,本疾患はchannel病の一典型例となっている.

内科医が知っておきたい小児科学・最近の話題・4

原発性免疫不全症候群の遺伝子診断

著者: 岩田力

ページ範囲:P.769 - P.773

 原発性免疫不全症候群は,特異的な免疫系をつかさどるリンパ球の先天的な欠損または機能不全や,非特異的な免疫系である顆粒球や補体の欠損もしくは機能不全によって生ずる,易感染性を共通の特徴とする疾患群である.その多くは遺伝的な背景があり,近年の分子生物学の進歩によって責任遺伝子が明らかにされ,確定診断が遺伝子の異常を証明することによって可能となってきた.ここでは,現在可能である遺伝子診断につき簡単に紹介する.

Drug Information 副作用情報・13

意識障害(3)

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.781 - P.784

意識障害の多彩な原因
意識障害の原因は多い.意識障害をみたら,薬剤性を考える前にまず,意識障害を生ずる原因を鑑別する必要がある.意識障害を生ずる原因は大きく3つに分類される1).表1は,Cecilの内科書(20th, ed)1)に筆者が加筆したものである.すなわち,①頭蓋内に塊(mass)を生じる病変,②中毒性,代謝性あるいはびまん性の病変によるもの,③精神病性の無反応である.
薬剤性意識障害は主に「中毒性」の中に分類されるが,代謝性の変化が薬剤により影響されることは多いし,感染症性の変化が薬剤により影響される場合もある.また,頭蓋内に塊を生じる病変が薬剤により生じる場合(良性頭蓋内圧亢進症など)もありうるので,必ずしも単純にはいかないが,整理の意味でこの分類は非常に役立つ.

日常診療に必要なHIV感染の知識・1【新連載】

HIV感染症/AIDSの疫学情報—最近の動向

著者: 鎌倉光宏 ,   桜井賢樹

ページ範囲:P.785 - P.789

 世界に2,260万人と推算されるHIVキャリア(生存AIDS患者を含む)の存在と,報告されているだけで150万人を超えるAIDS患者(死亡者を含む累積数)の発生は,今世紀医学上の最大の問題といっても過言ではない.
 WHO(世界保健機関)の報告による世界の累積患者数は,増加の速さは減少したものの,1996年6月末から同年10月末の4カ月間で約15万人も増加している.特に,アジアにおける罹患数の急増が認められ,インド,タイ,ミャンマーなどを中心に今後の爆発的な患者・感染者の増加が懸念される.
 本稿では世界およびわが国におけるAIDS/HIVの現況を整理し,疫学的考察を行った.

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・4

患者が医師の専門領域に疑問を表明したとき

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良 ,   竹中直美

ページ範囲:P.790 - P.791

症例陰茎痛を訴えるうつ病の患者
オオノさん,65歳,男性.陰茎の先端痛が我慢できないため救急外来を受診した.同一の症状で10年前に膀胱頸部硬化症,7年前に慢性前立腺の既往.半年前から痛みが再発し,1カ月前に泌尿器科で経尿道前立腺切除術を受け治療は成功,痛みは軽快した.ところが,最近になって再び悪化,「じっと座っていられないほど」の痛みで,腰痛を伴ってきた.整形外科にかかり異常なしと診断され,さらに内科にも受診中という.焦燥感があり,表情が固い.不眠,食欲低下,気力の減退,希死念慮を認めた.
「ご家族はどうおっしゃっていますか」と質問したところ,90歳の父親と二人暮らしで,妻を昨年亡くしていた.二人の子供夫婦とは同居していない.明日,妻の一周忌で法事があるが,痛みでとても長くは座っていられそうもないという.オオノさんの話から,喪失体験によるanniversaryreaction,焦燥性うつ病も強く疑われることを説明し,服薬を勧めた.

演習 腹部CTの読みかた・1

腹部CT読影の基本—造影CT

著者: 岩田美郎

ページ範囲:P.774 - P.779

連載にあたって
腹部CTの読み方に関して1年間の連載を行うことになりました.この連載のねらいとするところは,促成栽培的に腹部CTの読影力をつけることではありません.1年間の連載を通じて,CTの画像の前で病気を考え,画像を介して病理病態をdiscussionする能力を養うことです.
毎回の構成はこのような考えに則って作られています.まず1〜2葉の写真と,患者さんの簡単なプロフィールが提示されます.そしてその写真に対する設問が3〜4題用意されていますから,その設問に沿って写真を読み,解答を考えてください.解答を読めば,CT所見の病理学的な意味や,人体の解剖学的構造と疾患の進展の関係,さらにはCT所見から読み取れる患者さんの病態が徐々に理解できてくるでしょう.問題に関連する他のCTの画像とその解説は,この理解を助けるものです.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・24

シルヴィウスのソクラテス的教育

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.792 - P.793

 ライデン大学創設後間もない16世紀の末頃,医学教授はパドヴァ大学から招かれた.パドヴァ大学では,『ファブリカ』を出版して非難を浴びたヴェサリウスがパドヴァを離れた1543年に,モンタヌスが初めてベッドサイド教育を始めており,パドヴァ大学から来た教授たちもこれを踏襲しようとしたはずである.しかし,その実現は1636年まで見送られた.その前年,ライデンから50kmしか離れていないユトレヒトに大学ができると聞いて,学生をとられてしまうと危機感を抱いたライデン大学は急いで臨床教育の施設(実地医学コレギウム)を設立することに決めた.
 この病院の患者はライデンの町医者が治療するのだが,教授が臨床講義に出す患者を選ぶと,町医者2人がその当日教授の家に行って,教授と病院まで同行するという取り決めになった.初め,教授は患者を前にして学生たちに質問したが,このやり方は学生たちがいやがって取りやめになった.

medicina Conference 解答募集・22

下記の症例を診断して下さい.

ページ範囲:P.794 - P.794

 症例:49歳,男性.
 主訴:発熱,乾性咳,呼吸困難.
 既往歴:25歳時に虫垂炎の手術.
 職歴:事務職.粉塵,有機溶媒への曝露歴なし.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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