icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina34巻7号

1997年07月発行

雑誌目次

今月の主題 頭痛とめまいの外来診療 Editorial

頭痛とめまい

著者: 濱口勝彦

ページ範囲:P.1248 - P.1249

ポイント
●頭痛とめまいの診断には病歴聴取が重要である.
●頭蓋内器質的疾患による頭痛とめまいの診断には,随伴する神経症候,眼振所見が重要であり,的確な早期治療が必要である.
●慢性の頭痛とめまいには,病態に関する説明と納得・同意が重要である.

頭痛の理解を深めるために

頭痛の発現機序

著者: 下村登規夫

ページ範囲:P.1250 - P.1254

ポイント
●片頭痛発作中には,セロトニンの代謝産物である5-hydroxyindole acetic acid(5-HIAA)が尿中で増加する.
●片頭痛の発症機構の一つとして,三叉神経と血管を考慮に入れた三叉神経血管説が提唱されている.
●Familial hemiplegic migraine(FHM)は一種の前兆を伴う片頭痛で,常染色体優性遺伝を示し,遺伝子座は第19番染色体上にある.
●片頭痛患者には,全身的なミトコンドリア機能異常が存在する可能性がある.

頭痛の分類と鑑別診断

著者: 畑隆志

ページ範囲:P.1255 - P.1261

ポイント
●頭痛は日常診療の場で遭遇する最も多い訴えの一つであるが,心因性の頭痛から致死的な脳疾患に至る,きわめて広いスペクトラムの疾患が含まれる.したがって,正確な鑑別診断は適切な治療手段を提供するためにも重要である.
●頭痛の国際分類は,病態生理を基礎にした詳細かつ包括的な分類であり,頭痛を整理し理解するためには大変有用である.
●また,頭痛を発症様式(temporal profile)によって急性,亜急性,慢性に分けて鑑別診断を進めることも実際的である.

頭痛の問診

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.1262 - P.1265

ポイント
●頭痛患者の問診に際しては,性・年齢とともに頭痛の発症様式,部位,性質,好発時刻・持続時間・頻度,誘因・素因,随伴症状についての聴取が重要である.
●これらの病歴聴取により,はじめての頭痛,進行性頭痛,労作時の発症,発熱,意識障害,局所神経症状といった警告徴候を認めたら,緊急性のある疾患として対処する必要がある.
●慢性頭痛で多いのは片頭痛と緊張型頭痛であり,頭痛の性質,部位,程度,持続時間,好発時間,誘因,運動による増悪,悪心・嘔吐,羞明,音過敏,前兆の有無,性別などから鑑別するが,両者の病態が混在している患者も少なくない.

頭痛の身体所見

著者: 五十嵐久佳

ページ範囲:P.1267 - P.1270

ポイント
●頭痛の原因は多岐にわたるため,一般身体所見,神経学的所見のいずれもチェックする.
●所見のとり方は各自順序を決め,見落としのないよう注意する.
●片頭痛,群発頭痛,緊張型頭痛などの機能性頭痛の典型例を熟知し,少しでも異常な点があれば精査する.

頭痛の随伴症状

著者: 北川泰久

ページ範囲:P.1271 - P.1273

ポイント
●髄膜炎,脳炎などの炎症性疾患,脳血管障害,脳腫瘍などによる症候性頭痛は約15%を占め,これらの疾患のなかには生命を脅かすものがある.
●随伴症候として,バイタルサインでは意識レベル,体温,血圧異常を,一般身体所見としては皮膚所見(帯状疱疹,浅側頭動脈の怒張),頭痛を誘発する体位を注意深くみる.
●神経学的所見では眼症候(瞳孔異常,眼瞼下垂,眼球運動障害,閃輝暗点),髄膜刺激徴候(項部硬直,Kernig徴候),麻痺の有無を十分にチェックする.

頭痛と眼症候

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.1275 - P.1277

ポイント
●眼科的疾患で頭痛を起こすものの代表は緑内障である.しかし,緑内障がどれも頭痛を起こすというのは間違いで,救急処置が必要なものは急性緑内障である.
●そのほか眼球,眼窩の炎症性疾患はいずれも頭痛を起こしうる.
●片頭痛に随伴する眼症候としては,閃輝暗点,一過性黒内障があげられるが,後者では恒常性視力視野異常をきたす可能性があり注意が必要である.
●複視を伴う頭痛としてTolosa-Hunt症候群,眼筋麻痺性片頭痛が有名だが,診断には正確さが求められる.
●目に異常があると思って眼科を受診しやすい頭痛として,群発頭痛,Raeder's syndromeを挙げた.

一般外来における頭痛の検査の進め方

著者: 星野晴彦

ページ範囲:P.1278 - P.1280

ポイント
●鑑別には画像診断よりも,問診と身体所見が重要である.
●急性発症の頭痛では,くも膜下出血と髄膜炎は必ず鑑別する.
●くも膜下出血が疑われたらCTを,CTで診断がつかなければ髄液検査を行う.
●高齢者の頭痛では側頭動脈炎を念頭に置き,側頭動脈生検により診断する.

頭痛と家族歴

著者: 海野佳子

ページ範囲:P.1281 - P.1285

ポイント
●頭痛の診断で家族歴が重要となるのは主に片頭痛であるが,脳動脈瘤やモヤモヤ病,ミトコンドリア脳筋症でも時に参考になる.
●片頭痛患者が家族内に片頭痛を持つ頻度は50%以上と推定され,片頭痛には遺伝的要因が関与していると考えられている.
●片麻痺性片頭痛は,前兆として片麻痺をきたすことがあり,麻痺が遷延することもある.家族内発症が多く,前兆を伴う片頭痛の亜型に分類される.
●19番染色体の短腕上の点変異を伴うことがあり,P/Q型Caチャネルα1サブユニットをコードする遺伝子の異常であるとの報告もある.

頭痛の適切な鑑別診断と患者管理のために

救急処置の必要な頭痛

著者: 阿久津二夫

ページ範囲:P.1287 - P.1290

ポイント
●救急処置が必要な頭痛の主要な原因として,脳血管障害と炎症がある.
●脳血管障害では,発症様式が診断の鑑別点として重要である.
●突発する頭痛では,くも膜下出血を念頭に置いて鑑別を進める.
●発熱を伴う頭痛は,全身性疾患の発熱か中枢神経系の炎症性疾患かを考える.
●発熱と髄膜刺激症状を伴う頭痛では,頭部CT検査後,髄液検査より診断を進める.
●細菌性髄膜炎とヘルペス脳炎は,可能な限り早く治療を開始する.

くも膜下出血のCT・MRI

著者: 小川敏英 ,   奥寺利男

ページ範囲:P.1292 - P.1293

ポイント
●急性期くも膜下出血の診断において,第一選択の検査法はCTである.
●亜急性期以後のくも膜下出血の診断には,CTに比べMRIが有用である.
●亜急性期以後のくも膜下出血のCT診断に際しては,脳溝・脳槽の不明瞭化,側脳室後角の血液貯留による液平面形成,脳室拡大の所見に注目する.
●画像診断でくも膜下出血の所見がとらえられなくても,臨床的にくも膜下出血を否定できないときには,腰椎穿刺による脳脊髄液検査を施行すべきである.

三叉神経痛の診断と治療

著者: 竹信敦充 ,   堀智勝

ページ範囲:P.1294 - P.1296

ポイント
●三叉神経痛は,頭蓋内での三叉神経根の血管圧迫によるものが大部分である.
●典型的な症例では,病歴と症状だけで診断可能である.
●三叉神経痛で発症する脳腫瘍として類上皮腫が有名であるが,この腫瘍はCTで低吸収,T1強調MRIで低信号域で描出されるため,注意が必要である.
●有効な内服薬としてテグレトール®があり,診断的投与も行われる.
●外科的治療として最も長期成績に優れるのは,神経血管減圧術(Jannettaの手術)である.

頸椎症と頭痛

著者: 持田讓治

ページ範囲:P.1297 - P.1298

ポイント
●頸椎症と頭痛の関連は予想外に多数例でみられる.
●血管運動性頭痛,筋緊張性頭痛,後頭部発作性頭痛に大別され,これらが組み合わさって発症することも多い.
●自覚症状と神経学的所見の不一致例が多く,診断はしばしば難渋する.

血管性頭痛の患者管理

著者: 作田学

ページ範囲:P.1299 - P.1301

ポイント
●血管性頭痛の治療は,発作を途中で頓挫させる治療と,発作を予防する治療とがある.
●治療法は,発作の強さ,頻度から選択する.
●エルゴタミン製剤を連用してはいけない.
●発作の誘因を患者とともに見いだし,極力避けるようにする.

緊張型頭痛の患者管理

著者: 寺本純

ページ範囲:P.1303 - P.1305

ポイント
●緊張型頭痛は,国際分類では発作性と慢性の2群に大別され,それぞれ頭部筋群の異常を伴うものと伴わないものに分類される.
●診断基準は,主に頭痛に関する臨床症状から成り立っており,問診が重要である.
●他の器質性疾患などが介在することがあり,その除外診断あるいは因果関係の有無について検討することが重要である.
●治療にあたっては,背景要因にも目を向けることが大切である.
●治療は薬物治療のみならず,物理療法,心理療法など多面的に考慮する.
●特に薬物治療については単一的にならないよう,また薬物性頭痛に陥らないよう心掛けていることが必要である.
●治療法,治療効果などにつき患者にきちんと説明しておくことは,治療効果の高揚に強く関係する.

薬と頭痛

著者: 山本正博

ページ範囲:P.1306 - P.1310

ポイント
●頭痛の原因の一つとして,ある種の薬剤服用が挙げられる.
●片頭痛の治療薬であるエルゴタミン製剤や頭痛・疼痛治療薬である鎮痛剤の慢性使用や中断で,慢性日常性頭痛(chronic daily headache)が起きる.
●服用量ではなく,服用した日数や頻度が重要であると考えられている.
●鎮痛剤やエルゴタミン依存症で,治療に反応しない強度の頭痛患者は入院が必要である.

めまいの正確な診断のために

めまいの病態生理

著者: 渡辺行雄

ページ範囲:P.1312 - P.1315

ポイント
●ヒト(動物)が姿勢を安定に保ち,運動時に合目的的な体位を維持する機能を平衡機能という.平衡機能は,視覚,内耳前庭,体性感覚(深部知覚)の各知覚系からの入力が脳幹,小脳を中心とした中枢神経系で統合され,四肢・躯幹筋,眼運動筋の筋緊張を出力とするフィードバックシステムを形成している.
●めまいは平衡機能の入力に現れた障害であり,自己の位置,加速度に関する感覚障害である.
●めまいは,平衡機能に関係する感覚器の障害や,日常経験しにくい刺激による感覚混乱により発症する.特に,頭部加速度受容器である前庭系の障害が,めまいの発現に大きく関与している.

めまいの分類と鑑別診断

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.1316 - P.1319

ポイント
●めまいは疾患ではなく症状であり,その分類のしかたも様々である.
●最も多く用いられている分類は,末梢性めまいと中枢性めまいの2つに分類する方法である.
●回転性めまいは,病巣の偏った病変が突発的に起こったときに生じる.
●急激に起こるめまいは末梢性疾患に比較的多い.
●蝸牛症状がめまいに随伴して生じた場合には内耳障害を考える.
●短時間の意識消失,手足のしびれ,ろれつが回らない,などの症状がみられたときには,脳血流の障害を考える.
●めまいの鑑別診断には初診時の問診と検査が最も大切である.

めまいの問診

著者: 吉井文均

ページ範囲:P.1321 - P.1325

ポイント
●めまいの問診では,その原因が末梢前庭性疾患によるものか,中枢前庭性疾患によるものか,あるいは非前庭性疾患よるものかを区別するように話を聞くことが重要である.
●そのためにはめまいの性状,誘発因子,発症様式と経過,持続時間,頻度,随伴症状などについて問診する.
●患者の既往症や合併症,および仕事の内容やライフ・スタイルに関する問診も診断の参考になる.
●高齢者や小児の場合には,成人とは原因疾患や病態がやや異なるので,その特殊性も考慮したうえで問診を進める.

めまいの診断に必要な神経学的診察

著者: 和泉唯信 ,   宇高不可思 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.1326 - P.1328

ポイント
●めまいは日常臨床でしばしば遭遇し,神経疾患でもめまいを訴えることが多い.
●比較的軽微なめまいでも重篤な神経疾患を認めることがあり,見落としのない丁寧な神経学的診察が要求される.
●神経所見を組み合わせることにより病変部位が推測される.一般内科的所見,意識レベル,髄膜刺激徴候,起立・歩行の観察,脳神経,運動系,反射,知覚系,小脳症状,頸椎病変の有無,自律神経検査などについて,各自でポイントをまとめ診察することが必要である.
●高齢者では,椎骨脳底動脈系の循環障害を念頭に置いて診察する必要がある.

一般外来におけるめまいの検査の進め方

著者: 岡安裕之

ページ範囲:P.1330 - P.1332

ポイント
●回転めまいの多くは,末梢前庭系の疾患で起こる.臨床症状と眼振の型から診断は可能だが,診断確定のためには耳鼻科的検査が必要である.
●回転めまいを認める中枢性疾患は,脳幹梗塞,小脳梗塞,小脳出血が主要なものであり,CT,MRIが診断に有用である.
●動揺めまいは末梢・中枢前庭系の疾患以外に広汎な疾患が原因となりうる.時に治療薬剤で起こることもある.
●失神型めまいでは,心血管系と血圧の検査が必要である.

めまいにみられる眼症候

著者: 長谷川修 ,   小宮山純

ページ範囲:P.1334 - P.1336

ポイント
●前庭系を中心に生じた環境変動に伴い,ヒトはめまいを感じる.このとき,原因病変自体あるいは前庭系のインバランスを表現する,様々な眼症候が出現する.
●末梢前庭系の障害では,水平回旋混合性の自発眼振がみられ,注視によって抑制される.
●中枢神経系の障害では,注視眼振や垂直性眼振がみられ,滑動性眼球運動や衝動性眼球運動の障害を示唆する眼症候が種々の組み合わせで検出される.また,特徴的な自発性異常眼球運動(opsoclonus,ocular flutterなど)がみられることがある.
●眼症候は注視時および非注視時,さらに必要に応じて頭位変換時に観察する.

聴覚平衡機能検査をどのように読むか

著者: 徳増厚二

ページ範囲:P.1337 - P.1339

ポイント
●めまいの性質,経過ならびに平衡障害,聴覚症状,神経症状の随伴の有無を問診し,聴覚検査で難聴を,平衡機能検査で平衡障害を確認する.それらの所見からめまい原因の病巣部位・広がりを推定する.必要な場合は神経検査,血液検査,生化学検査,画像検査などの所見と併せて疾患の診断,予後,治療方針決定を行い,経過観察,治療効果判定にも役立てる.
●聴覚検査では難聴の伝音性,感音性,混合性を区別し,感音難聴はさらに内耳性,後迷路性,脳幹性,大脳皮質性,機能性を鑑別する.
●平衡機能検査では平衡障害を未梢前庭性(内耳and/or前庭神経の障害),中枢性(脳幹,小脳,その他),視性,頸性,深部感覚性を鑑別する.

めまい患者の画像診断—MR画像を中心に

著者: 渡部恒也

ページ範囲:P.1340 - P.1344

ポイント
●めまいの原因を探る意味での画像診断の対象部位には内耳迷路系,内耳道,小脳橋角部脳槽,さらには脳幹および小脳画があげられる.
●側頭骨迷路系病変の一部を除けば,これらの領域の観察にはMR画像が最も有効である.
●特に,内耳道内に限局した小さな聴神経腫瘍の診断にはGdキレート剤による造影画像が有効であるが,非造影画像でも撮像面の工夫により診断は可能である.
●めまいの原因となる脳幹実質性病変の診断においては,前庭神経核などの解剖学的な部位をMR画像から類推することも必要である.

めまいの適切な治療のために

救急処置の必要なめまい

著者: 副島京子 ,   堀進悟

ページ範囲:P.1345 - P.1349

ポイント
●めまいを主訴とする患者のなかには,救急処置を要する場合がある.まず,患者のバイタルをチェックして“何がめまいを起こしているか?”を判断する.
●救急処置の必要な代表的なものは,不整脈(頻脈,徐脈)による脳血流低下である.不整脈を認めたら,①静脈路を確保して,②12誘導心電図を記録する.
●不整脈の種類,発作時の血行動態により治療法の選択が異なる.
●頻拍に対する治療には,①薬物療法と②カルディオバージョン・除細動がある.頻脈が原因でショックになり,意識が混濁しているような場合には,②の適応である.
●徐脈の場合では,硫酸アトロピン,ドパミンなどで,ある程度脈は増加することもあるが,最終的には経静脈ペーシングが必要なことも多い.

末梢前庭性めまい

著者: 神崎仁 ,   倉島一浩

ページ範囲:P.1350 - P.1355

ポイント
●本稿では,めまいの原因となる内耳および内耳神経(第8脳神経,聴神経)の疾患について述べる.
●内耳の感覚器は聴覚器(蝸牛)と平衡覚器(耳石器・半規管)に分けられる.
●同様に,内耳神経は聴覚を伝える蝸牛神経と,平衡覚を伝える上および下前庭神経からなる.
●したがって,これらの疾患におけるめまいを考える場合,難聴・耳鳴などの蝸牛症状を伴うか否かによって各疾患を分類すると理解しやすい.以下にその分類を示す.①蝸牛症状を伴わない疾患:良性発作性頭位眩暈症,前庭神経炎,②蝸牛症状を伴う疾患:突発性難聴,メニエール病,外リンパ瘻,ハント症候群,内耳炎,③蝸牛症状を伴うことも伴わないこともある疾患:聴神経腫瘍,薬物による耳中毒,外傷後のめまい.この分類はあくまでも原則であり,①や②には例外もある.

メニエール病

著者: 矢沢代四郎

ページ範囲:P.1356 - P.1357

ポイント
●メニエール病の病態は“内リンパ水腫”で,内リンパ嚢での内リンパ吸収障害が原因と考えられている.
●反復性めまい,難聴,耳鳴が3徴候である.
●めまい発作期には回転性めまいを自覚し,他覚的には水平回旋性自発眼振が観察される.
●めまい持続時間は,30分から数時間が多い.
●過労,睡眠不足,ストレスなどがめまいの誘因となりうる.

めまいと立ちくらみ

著者: 野村恭一 ,   島津邦男

ページ範囲:P.1359 - P.1361

ポイント
●「めまい」は,回転性,動揺性,失神性の3つに分けられる.
●失神性めまいは,短時間の脳全体の循環障害により起こり,起立によって生ずるめまいを「立ちくらみ」と表現する.
●脳循環自動調節の作動範囲を超えた低血圧,高血圧において「めまい」が生ずる.
●失神性めまいの原因の多くは起立性低血圧である.
●起立性低血圧は,自律神経系の圧受容器反射の障害による神経原性起立性低血圧と,心拍出量低下に伴う非神経原性起立性低血圧に大別される.

椎骨脳底動脈循環不全とめまい

著者: 髙田潤一 ,   井林雪郎

ページ範囲:P.1363 - P.1366

ポイント
●老年者におけるめまいは,脳動脈硬化に伴う循環不全や脳血管障害に起因するものが少なくない.前庭系の障害によるものと考えられるが,その領域の支配血管である椎骨脳底動脈系の循環障害で生じることが多い.
●椎骨脳底動脈循環不全では,めまいのほかに運動障害,感覚障害,複視,運動失調,半盲,意識障害,頭痛,嘔吐などの症候を随伴する.
●めまい時の特徴的他覚所見として眼振があり,末梢性では一方向性の眼振を示すが,中枢性の場合は病変部位によって様々なパターンの眼振を呈する.
●急性期脳血管障害に伴うめまいでは,その後急激に意識障害に陥る重篤な例もあり注意を要する.鑑別診断には,CT,MRI,MRA,頸部エコー,脳血流シンチ(SPECT)などが有用である.

全身疾患とめまい

著者: 鈴木雅裕 ,   茅野真男

ページ範囲:P.1367 - P.1369

ポイント
●病歴,理学的所見からめまいの原因を推測することが大切である.
●心疾患を疑ったときは,心電図,ホルター心電図,心エコー検査は必須である.
●心疾患によるめまいは予後の悪いものがあるので,入院させるべきものを見逃さないよう注意する.

めまいの治療と患者指導—内科から

著者: 田中耕太郎

ページ範囲:P.1370 - P.1373

ポイント
●めまいの治療は,原因疾患の治療と対症療法から構成される.
●急性期では,めまいをきたす多くの原因疾患の鑑別診断を的確に速やかに行うとともに,患者のめまいによる苦痛を一刻も早く軽減する必要がある.
●めまいに対する急性期の対症療法は,原因が耳鼻科的な末梢前庭系疾患であれ,内科的な中枢前庭系疾患であれ,一般的処置や抗めまい薬〔炭酸水素ナトリウム(メイロン®),循環改善薬など〕の使用には共通するものが多い.
●慢性期には再発予防のために,必要に応じ薬剤療法,生活指導,精神的カウンセリングを行う.

めまいの治療と患者指導—耳鼻科から

著者: 山下裕司 ,   高橋正紘

ページ範囲:P.1375 - P.1378

ポイント
●内耳性めまいの急性発症に対しては,心身の安静をはかり,対症的治療を行う.
●再発性めまいは初期治療が極めて重要であり,3カ月は通院が必要である.
●メニエール病では,ストレス源となっているライフスタイルの変更や,心理療法が有効である.
●良性発作性頭位めまい症では,運動療法の有効なことが多い.
●内耳性めまいに対する外科的治療は,薬物療法,心理療法,運動療法などの保存的治療がすべて無効なときに考慮する.

薬とめまい

著者: 石川良樹

ページ範囲:P.1379 - P.1381

ポイント
●めまいを起こす薬は非常に多いが,そのなかでも,蝸牛前庭系を障害する薬と小脳を障害する薬が重要である.
●日常の診療では,アミノグリコシド系抗生物質,抗けいれん薬,抗腫瘍薬,利尿薬などに注意が必要で,特に併用するときは慎重な観察が大切である.
●薬を併用するときには,薬の相互作用による血中濃度の変化に気を配らねばならない.また,薬ばかりでなく,グレープフルーツジュースなどの食物の影響を知っておく必要がある.

対談

プライマリ・ケアにおける頭痛とめまい—日米の医療事情

著者: 亀井徹正 ,   木村眞司

ページ範囲:P.1383 - P.1392

 亀井 今日は頭痛とめまいのプライマリ・ケアをテーマに,地域の一般病院ないし診療所での診療に関してお話をいただきたいと思います.木村先生は日本での初期研修と,アメリカで実地の臨床をやってこられたので,そのあたりのご経験をふまえてお話を伺えればと思っています.

理解のための35題

ページ範囲:P.1397 - P.1403

カラーグラフ 感染症グローバリゼーション・4

目で見るマラリア対策(4)—南太平洋バヌアツの人類とマラリアおよびその対策

著者: 金子明

ページ範囲:P.1413 - P.1422

 バヌアツは人口約16万が80の島に暮らす南西太平洋の島嶼である(図1).4回にわたり連載した「目で見るマラリア対策」最終回は,筆者が1987年から約7年間,WHO Malariologistとして現地対策に参画し,現在も当地をフィールドとした研究活動を継続中であるバヌアツのマラリアについて,最近の成果もふまえて紹介したい.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1405 - P.1410

図解・病態のメカニズム 腎疾患・7

水チャネルとその異常

著者: 伏見清秀

ページ範囲:P.1441 - P.1444

 水チャネル遺伝子群のクローニングにより,生体の水代謝調節機構の理解が大きく進歩した.さらに,AQP 2遺伝子異常が次々と報告され,水チャネル異常症としての腎性尿崩症の疾患概念が確立された.本稿では,バゾプレシン水チャネルについての最新の知見を中心に概説する.

内科医が知っておきたい小児科学・最近の話題・7

先天性心疾患と遺伝子

著者: 賀藤均

ページ範囲:P.1437 - P.1440

 最近のめざましい分子遺伝学の発達にも関わらず,遺伝子レベルの先天性心疾患の原因解明は依然として路半ばである.その理由として,以下のことがあげられる.
 先天性心疾患のほとんどは散発性で,その8%は染色体異常か単一遺伝子異常によるものであるが,90%以上はいくつかの座位に存在する対立遺伝子や環境因子など多要因の重合が原因と考えられること1),ノックアウトマウスが強力な方法として開発されたが,動物モデル作成がいまだに困難であることである.

日常診療に必要なHIV感染の知識・4

HIV-RNA定量法と臨床的意義

著者: 服部雅俊 ,   西田恭治 ,   福武勝幸

ページ範囲:P.1431 - P.1433

 最近の抗HIV療法には目覚ましい進歩が認められる一方,治療薬投与の開始や変更をいかにして効果的に行うかということが,HIV診療において考療すべき最重要課題の一つと考えられている.抗HIV治療を行う場合,感染症の進行を反映する指標として,CD 4細胞数を把握することが最も一般的な方法である.しかしCD 4細胞数のみによるモニタリングでは,抗HIV治療の開始や変更について判断に迷う状況にしばしば遭遇してきた.
 最近,血液中のHIV-RNAの定量的測定が可能となったことで,より早く適切な治療を行える環境が整いつつある.血液中HIV-RNA量の測定は,CD 4細胞数と並んでHIV感染症における必須の検査項目になろうとしている.

演習 腹部CTの読みかた・4

超音波検査で肝に異常の指摘された56歳の男性

著者: 岩田美郎

ページ範囲:P.1425 - P.1430

Case
56歳,男性.他院の検診超音波検査で,肝(下大静脈の内側の肝実質内)にやや高エコーを示す直径2.5cmの腫瘤が認められた.検診の肝機能検査では特に異常値は指摘されておらず,AFP,CEAなどtumor markerも正常値であった.HBS抗原,HCV抗体とも陰性であった.
検診から4週間後,当院で超音波検査が施行された.検診時と同部位にやはり腫瘤が確認されたが,今回は肝よりやや低エコーを示す腫瘤で,辺縁に高エコー帯が観察された.腫瘤の質的診断のためCTが依頼された.なお,患者に自覚症状はなく,特記すべき理学的所見もなかった.

Drug Information 副作用情報・16

消化性潰瘍・消化管潰瘍(1)

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.1447 - P.1449

 今回から3回にわたって,薬剤性の消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍),あるいは大腸や小腸の潰瘍性病変(消化管潰瘍)について扱う.

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・7

フォロー中の患者に見落としていた重大な病気が見つかったとき

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良

ページ範囲:P.1434 - P.1435

症例 予期せずC型肝炎と告知された患者
 イトウさん,72歳,女性.食事療法で良好にセルフケアしている糖尿病と,無症候性の胆嚢ポリープのため外来へ定期的に通院していた.胃癌のスクリーニング目的で上部消化管内視鏡検査を受けることになり,術前検査として感染症をチェックした.私はその検査を指示し,イトウさんは検査当日,まっすぐに検査室へ行った.
 上部消化管には有意な異常所見がなく,検査担当医は術前検査でHCV抗体陽性の結果を何気なく話した.この予期せぬ告知を受けたイトウさんは帰宅後,家庭医学書を読み,C型ウイルス肝炎が慢性化すると肝癌のリスクが高まることを知った.次の再診日,私は今にも泣きだしそうな顔つきのイトウさんをみた.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・27

バセドウのメルゼブルク3徴候

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.1450 - P.1451

 1840年3月28日にベルリンで発行された「治療週報」に,ドイツ中東部ザーレ川沿いのメルゼブルクの開業医バセドウ(von Basedow)が論文を発表した.1840年は日本では天保11年で,フーフェラントの『医戒』を訳した杉田成卿(せいけい)が24歳で幕府天文台翻訳局の訳官になった年である.バセドウの「眼窩内細胞組織の肥大による眼球突出」と題したこの論文は,甲状腺腫,眼球突出,頻脈(動悸)を伴う女性3人と男性1人の患者を報告していた.この3徴候は後にメルゼブルクの3徴候と呼ばれた.バセドウは論考の中で,類似の症例をフランスのドゥ・サン・イヴが1722年に記載していると述べている.報告当時バセドウは41歳であった.
 バセドウはライプチッヒの北のハレ大学で医師となった.ハレはザーレ川の両岸にまたがる町で,音楽家のヘンデルの生地である.バセドウはその後パリに出て,2年間シャリテ病院とオテル・デュ病院で主に外科修練をし,ライプチッヒ近くのメルゼブルクの町で開業していた.メルゼブルクもザーレ川の岸にあり,丘の上の古い聖堂と城が町を見下ろしている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?