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雑誌目次

雑誌文献

medicina35巻1号

1998年01月発行

雑誌目次

今月の主題 自己免疫性肝疾患のNew Wave

理解のための29題

ページ範囲:P.137 - P.143

ようこそ自己免疫性肝疾患へ

自己免疫性肝疾患とは何か

著者: 戸田剛太郎

ページ範囲:P.6 - P.11

ポイント
●自己免疫性肝疾患とは自己免疫機序が肝障害の発現に重要な役割を演じていると想定される肝病態であり,単に自己免疫現象を伴う肝障害と明確に区別すべきである.
●自己免疫性肝炎は,自己抗体,HCV感染の有無,HLA class II allotypeによって分類される.
●欧米とわが国の自己免疫性肝炎の臨床像の違いは,その免疫遺伝学的背景(HLA classII allotype)の違いに由来すると考えられる.
●原発性胆汁性肝硬変は,症候・症状の有無,肝病理組織像,自己免疫性肝炎合併の有無によって分類される.

自己免疫性肝炎の診断と治療の基本

著者: 西岡幹夫

ページ範囲:P.13 - P.18

ポイント
●ウイルスマーカー陰性の肝炎,特に中年女性ではAIHを疑う.
●抗核抗体陰性でもAIHを疑ってみる.
●高齢者の発症がある.
●HLA-DR 4陽性症例が多い.
●AIHには副腎皮質ホルモンが奏効する.重症例では経過中アザチオプリンを併用するとよい.

原発性胆汁性肝硬変の診断と治療の基本

著者: 柴田実

ページ範囲:P.20 - P.24

ポイント
●PBCの診断は,胆道系酵素の上昇,AMA陽性および肝組織所見などによりなされる.AMA陰性例にっいては,ELISA法およびWestern blot法による抗M2抗体の検出,あるいはgp210抗体の検出,さらには他の疾患の除外により診断する.
●PBCはSjögren症候群,CREST症候群,リウマチ様関節炎,強皮症,慢性甲状腺炎などの自己免疫性疾患を合併する頻度が高く,これらの合併症はPBCの発見の契機となることがある.
●PBCの発症病理はなお完全には解明されていない.したがって原因療法はない.肝病変に対して効果が認められている唯一の治療薬剤はUDCAであり,ある程度予後を改善すると考えられている.欧米では進行例に対して肝移植が行われている.

各種自己抗体の意義と用いかた

著者: 小野塚靖 ,   米沢仁 ,   磯部宣子

ページ範囲:P.25 - P.29

ポイント
●自己抗体の出現は自己免疫性肝疾患を特定する血清学的所見の一つである.
●自己抗体のスクリーニングには間接蛍光抗体法が適しており,自己免疫性肝疾患に関連したほとんどの自己抗体の検出あるいはその存在の推定ができる.
●自己免疫性肝疾患における自己抗体の検出は診断上有用であるが,抗体価は重症度の判定,治療効果や予後の予測にはほとんど役立たない.
●自己抗体は偽陽性例も認められるので,その臨床的あるいは診断的意義は,自他覚症状,検査成績,組織所見,特異抗体の同定などを総合して評価する.

肝組織像からみた自己免疫性肝疾患

著者: 平松活志 ,   原田憲一 ,   中沼安二

ページ範囲:P.31 - P.35

ポイント
●自己免疫性肝疾患は標的組織と病的機序の違いにより,自己免疫性肝炎(AIH),原発性胆汁性肝硬変(PBC),それに原発性硬化性胆管炎(PSC)に分けられる.
●AIHでは肝実質細胞が標的組織であり,肝実質炎,それに続く肝線維化を経て,肝硬変へと進行する.
●PBCでは肝内の小葉間胆管が標的組織であり,T細胞を介した機序でそれらが破壊され,胆汁性肝線維症,肝硬変へと進展する.
●PSCでは肝内外の胆管系が標的組織であり,胆管周囲の線維化と非特異的な炎症が主病像となる.具体的な異常免疫の機序は不明であるが,比較的早期から胆汁うっ滞が出現し,胆汁性肝硬変に移行する.
●これら自己免疫性肝疾患の肝病理組織所見を,大きく門脈域病変,胆管病変,肝実質病変の3つに分け解説する.

いま,そこにある自己免疫性肝疾患 診断の実際と臨床医の疑問点

非定型的なAIHをどう扱うか

著者: 宮川浩

ページ範囲:P.36 - P.40

ポイント
●非定型的なAIH(自己免疫性肝炎)とは,自己免疫的な特徴を有しているが,International AIH groupによるdiagnostic criteriaで,definiteでもprobableでもない疾患群である.
●自己免疫性肝炎には,PBC,PSCやC型慢性肝炎のoverlapがみられる.
●非定型的な自己免疫性肝炎に対する治療指針が示されているが,長期観察例の集積が求められる.
●自己免疫性肝炎では各種抗核抗体のほか,抗平滑筋抗体,抗肝腎マイクロゾーム1抗体,抗アシアロ糖蛋白受容体抗体などの自己抗体が報告されている.

保険診療を前提としたPBCの診断の進めかた

著者: 保坂洋夫

ページ範囲:P.42 - P.43

ポイント
●診断が困難な場合,種々の診断の可能性を考慮して検査を行うので,その理由を診療報酬明細にかわりやすく付記する.
●PBCの合併症が認められる場合には,診断名も併記する.
●検査指示をする理由を考慮すること.

抗ミトコンドリア抗体陰性のPBC疑診例をどう取り扱うか

著者: 北見啓之 ,   中嶋美香子 ,   清水秀剛

ページ範囲:P.44 - P.46

ポイント
●自己免疫性肝疾患であるPBCでは診断上AMAの存在が重要であるが,臨床的,組織学的にはAMA陰性PBC例と陽性PBC例でほとんど差は認められない.
●患者血清中のAMAの存在の有無にかかわりなく,PBCのほとんど全例で抗M2抗体が認められる.
●AMAの抗体力価は,4種類の抗M2抗体のうちの検出された抗体数と有意に関連する.
●AMA陰性PBC例とAMA陰性のPBC疑診例との差は,患者血清中の抗M2抗体の確認の有無の差にすぎず,疑診例は臨床上PBCに準じて治療すべきである.

早期PBCの診断とその意義

著者: 柴田実

ページ範囲:P.47 - P.49

ポイント
●早期PBCとは,①肝疾患に伴う臨床症状を認めず,②総ビリルビン,ALP,GOTなどの一般肝機能検査がすべて正常,③AMAが40倍以上陽性,④肝組織所見がPBCもしくは矛盾しない,以上4つの基準を満たす例とする.
●早期PBCの10年以上の観察により3/4以上が無症候性PBCに進展し,PBCの自然史は早期PBC→無症候性PBC→症候性PBCの過程で進展する.
●中年以後の女性で,IgM値上昇,自己免疫性疾患の合併,抗セントロメア抗体および抗核膜抗体が検出される例は,早期PBCの可能性があるため,AMAを測定すべきである.

PBCと紛らわしいPSC(原発性硬化性胆管炎)をどう鑑別するか—AMA陰性PBC例ではERCPは必須か

著者: 高取正雄

ページ範囲:P.50 - P.52

ポイント
●胆道系酵素優位の肝機能障害をみたらPBC,PSCを鑑別診断として思い浮かべることがまず重要である.
●AMA陰性の診断を厳密にすること(抗M2抗体の測定,低力価例での頻回測定).
●PBC atypical case(男性例,AMA陰性例,肝生検で結論の出ない例,腹痛を訴える例)とPSCとの鑑別ではERCPが有効である.

自己免疫性肝内胆汁うっ滞と薬物性肝障害の鑑別

著者: 溝口靖紘

ページ範囲:P.53 - P.55

ポイント
●自己免疫性肝炎,薬物性肝障害における肝内胆汁うっ滞は,ともに催胆汁うっ滞因子が関与し,従来とは全く異なった免疫性肝内胆汁うっ滞症という概念が導入された.
●自己免疫性肝炎,薬物性肝障害においてともに肝内胆汁うっ滞が発症するが,自己免疫性肝炎では肝内胆汁うっ滞は弱く,むしろ肝細胞障害の傾向が強く,薬物肝障害では高度の肝内胆汁うっ滞の傾向が強い.

自己免疫性肝疾患は病理組織でどこまで診断できるか

著者: 内田俊和

ページ範囲:P.57 - P.59

ポイント
●自己免疫性肝炎では虚脱,小葉間胆管の消失,多数の形質細胞の浸潤をみることがある.
●原発性胆汁性肝硬変では壊死炎症反応が必発し,門脈域に肉芽腫,多数の形質細胞・好酸球が認められたり,肝細胞に銅結合蛋白が沈着したりする.

自己免疫性肝疾患は腹腔鏡でどこまで診断できるか

著者: 渡辺誠 ,   赤木収二 ,   佐藤秀一

ページ範囲:P.60 - P.61

ポイント
●本稿では,自己免疫性肝炎(AIH),原発性胆汁性肝硬変症(PBC),原発性硬化性胆管炎(PSC)および自己免疫性胆管炎(AIC)の腹腔鏡所見について述べる.
●特徴的腹腔鏡所見は,AIHでは溝状陥凹,多小葉性赤色紋理,PBCでは赤色パッチ,白色紋理,なだらかな起伏,PSCでは溝状陥凹,白色紋理である.AICでは,PBCの腹腔鏡所見プラス赤色紋理である.
●自己免疫性肝疾患における肝病変には部位差がみられるので,腹腔鏡による肝表面全体の観察がきわめて重要である.

治療の実際と臨床医の疑問点

AIHの治療薬とその選択

著者: 池田有成 ,   佐藤芳之 ,   橋本直明

ページ範囲:P.62 - P.66

ポイント
●初回治療では十分量のステロイドを十分な期間投与するのが原則である.
●ステロイドの維持量を減らすため,ウルソデオキシコール酸(UDCA)やアザチオプリンの併用を考慮する.
●軽症例ではUDCA投与で経過をみる場合もある.
●少なくとも2年間は治療を行う.中断する場合は再発に注意する.

免疫抑制薬併用の是非と使いかた

著者: 山舗昌由

ページ範囲:P.68 - P.69

ポイント
●AIHではステロイドの著効例が多いので,軽症例を除いて積極的に用いるべきである.
●ステロイドが無効・禁忌のAIHでは,アザチオプリンやシクロスポリンの適応となるが,副作用に対する配慮が重要である.
●PBCに対する免疫抑制薬の有効性は確立されていないので,特殊な場合を除いてその投与は不適である.
●ウイルス性肝疾患と同様に,自己免疫性肝疾患に対しても漢方薬の併用を考慮すべきである.

AIHに対するUDCA療法

著者: 田中廣壽 ,   伊藤正春 ,   牧野勲

ページ範囲:P.71 - P.73

ポイント
●AIHの肝機能障害に対してウルソデオキシコール酸(UDCA)が有効な場合がある.
●今後,UDCAの有用性を明らかにするためには,適応症例,ステロイドとの比較,長期予後に与える影響などに関しても検討されなければならない.

AIHにおける治療効果のモニタリングと薬物療法の調節

著者: 銭谷幹男 ,   戸田剛太郎

ページ範囲:P.74 - P.75

ポイント
●治療中のモニタリングは1カ月ごとの肝機能検査で行い,治療薬物の副作用および服薬コンプライアンスに注意する.
●生化学成績と組織学的変化の改善は並行しないことに留意し,また,再燃は重篤で,治療抵抗性となる場合が多いので,減量・中止には細心の注意を払う.
●副腎皮質ステロイド薬無効症例あるいは服用不能症例には,アザチオプリン,シクロスポリン投与を考慮する.

肝硬変に進行したAIHをどう治療するか

著者: 住野泰清 ,   山室渡

ページ範囲:P.76 - P.77

ポイント
●AIH診断時に組織学的に肝硬変である症例の頻度は,わが国では20%未満である.
●AIHによる肝硬変は,肝硬変と活動性肝炎とが同時に存在することが特徴.非肝硬変例との臨床的な鑑別は容易でないことが多い.
●コルチコステロイド(CS)などの免疫抑制剤が著効し,非肝硬変例との間に治療効果の差はない.
●肝硬変例でも,活動性がある限りCS治療の適応や投与法は非肝硬変例と同様に考える.未治療例の予後は不良なので積極的に治療する.
●CS治療終了後の再燃とCSの副作用には,非肝硬変例以上の注意を要する.

HCV抗体陽性のAIHをどう治療するか

著者: 岩渕省吾

ページ範囲:P.78 - P.80

ポイント
●血中HCV-RNA量の少ない例(<1.0Meq)やセログループが2の例で,肝硬変の心配のない場合はインターフェロン(IFN)治療を考慮する.
●その際,IFNによる肝炎の増悪に注意し,悪化がみられたらプレドニゾロン投与に替える.
●肝障害の主体がC型慢性肝炎かAIHかの判別の難しい例には,初めにプレドニゾロン20mg×2週投与の反応をみるのもよい.

PBCの治療薬とその選択

著者: 石橋大海 ,   高崎智子

ページ範囲:P.81 - P.85

ポイント
●病期,病態に応じた治療計画を立てることが重要.
●無症候性で進行がみられなければ経過観察を.
●無症候性で進行する症例と症候性の症例にはUDCAが第一選択薬.
●UDCAの効果発現の機序は,胆汁酸を介した作用と免疫抑制作用である,
●免疫抑制剤は副作用があらわれやすいので使用は慎重に.
●門脈圧亢進をきたしやすいので,早期であっても食道静脈瘤のチェックは行う.
●骨粗鬆症を予防し,骨折に留意する.
●末期になれば肝移植の適応となる.

無症候性PBCの治療と予後

著者: 佐藤明 ,   末盛彰一 ,   鈴木博

ページ範囲:P.87 - P.89

ポイント
●PBC患者は年々増加しており,わが国で新たに診断されるPBCの70〜80%が無症候性PBCである.
●無症候性PBCの約1/3が症候性PBCに移行する.
●無症候性PBCのまま経過するものの予後は極めて良好であるが,黄疸を伴う症候性PBCに移行したものの予後は不良である.
●無症候性PBCでも肝組織進展例や門脈圧亢進所見を認める例がある.
●UDCAにより臨床検査所見の改善を認めることが多いが,予後改善効果については今後の問題として残されている.

UDCA抵抗性のPBCをどう治療するか

著者: 高橋正一郎 ,   伊東友弘

ページ範囲:P.90 - P.92

ポイント
●まず,UDCAを医師の指示どおりに服用しているか,他の薬剤の影響はないか,胆道系疾患の合併はないか,などをチェックする.
●UDCA無効の場合には,UDCAの増量,UDCAとコルヒチンの併用を考える.
●肝組織所見で慢性活動性肝炎の要素が強い場合にはプレドニゾロンの投与を試みる.
●進行例では,最終的に肝移植に期待することになる.

PBCにみられる食道静脈瘤の特徴と治療

著者: 國分茂博 ,   村上匡人

ページ範囲:P.93 - P.95

ポイント
●PBCでは過半数の症例で,食道胃静脈瘤の存在を認める(asymptomaticでも50%).その58%は組織学的にScheuer 1〜Ⅲ期などの非硬変期に生じ,出血を契機として診断されるPBC症例も多々ある.
●PBC早期に門脈圧亢進症を生ずる要因として,胆管炎の波及による小葉間胆管周囲の門脈末梢枝の狭窄と潰れによるpresinusoidal blockが有力視されている.
●EISを中心とするPBCの静脈瘤治療での難治例は,Child-Pugh分類T. Bilの項で2点以上を呈する4mg/dl以上の緊急例の再出血のみであり,他の待機・予防例の成績は良好である.

少し特殊な自己免疫性肝疾患

高齢者のAIH

著者: 柳川健

ページ範囲:P.96 - P.97

ポイント
●AIH(自己免疫性肝炎)は若年女性に多い疾患として報告されたが,非若年症例も多いことが最近指摘されている.
●高齢者の肝障害をみたとき,鑑別疾患の一つとしてAIHも念頭に置く必要がある.
●AIHに対するステロイド治療の場合,特に高齢者では感染症の有無や耐糖能異常に注意すべきである.

小児のAIH

著者: 伊藤哲史 ,   西岡幹夫

ページ範囲:P.98 - P.100

ポイント
●小児のAIH(自己免疫性肝炎)では,遺伝的背景,臨床像が成人自己免疫性肝炎とは異なるものがある.
●抗核抗体陰性で,抗平滑筋抗体または抗LKM 1抗体陽性の症例もある.
●急性発症型が多く,トランスアミナーゼ値が高値,黄疸が著明なわりに,血清γ-グロブリン値が低い傾向にある.
●黄疸出現例,肝予備能低下例では,早期の治療が重要である.
●治療はステロイド剤が第一選択であるが,他の免疫抑制剤の併用を要する症例も多い.
●肝臓専門医と小児科医との連携が重要である.
●妊娠,出産時に再燃しやすい.

PBC男性例

著者: 天木秀一 ,   荒川泰行 ,   茂木積雄

ページ範囲:P.102 - P.104

ポイント
●PBC 115例中男性は11例,9.6%で,女性は104例,90.4%であった.
●男性例は女性例と比較して年齢分布が高齢で,症候性(s-)PBCの比率が高く,血液生化学検査上も胆道系酵素やIgM値が高値を示した.
●男性例のAMAは全例陽性であり,腹腔鏡所見や組織所見に女性例と大きな相違は認めない.
●男性PBCとPSCとの鑑別診断では,PSC患者の年齢がやや若年で,ERCP上beadedappearanceの所見を認め,かつ潰瘍性大腸炎の合併頻度が高いことなどが重要である.

Autoimmune Cholangitis(AIC)は独立した疾患概念か

著者: 渡辺勲史 ,   加川建弘 ,   松崎松平

ページ範囲:P.105 - P.107

ポイント
●AMA陰性,ANA陽性でAIH類似の血液検査所見を示すが,肝組織上,慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)がみられ,PBCに類似する組織像を示す疾患群が自己免疫性肝管炎(autoimmune hepatitis:AIC)と提唱されている.
●AICが独立した疾患か否かはいまだ議論があり,PBCの一亜型とも考えられている.
●AIHおよびAMA陰性のPBCとの鑑別には慎重を要する.
●治療法は確立されていないが,プレドニゾロンの投与により肝機能の改善がみられる.

自己免疫性肝疾患における発癌の問題点

著者: 渋谷明隆 ,   田中克明

ページ範囲:P.108 - P.109

ポイント
●原発性胆汁性肝硬変における肝細胞癌の合併は,従来考えられているほど稀ではない.高齢者に多く,輸血歴,HBVやHCVなどウイルス感染を合併する症例の頻度が高いので注意すべきである.
●自己免疫性肝炎での肝癌発現も報告されているが稀であり,HCVの関与が重要と考えられる.罹病期間の長い症例に多いとされる.

自己免疫性肝疾患と肝外合併症

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.110 - P.113

ポイント
●原発性胆汁性肝硬変症・原発性硬化性胆管炎・自己免疫性肝炎などの自己免疫性肝疾患は肝外合併症を伴うことが多い.これらは肝疾患というよりも,肝病変を主体とする全身疾患と考えて診療にあたるべきである.
●好発する肝外合併症とその頻度を知ることは重要である.
●肝外合併症として自己免疫疾患が目立つが,それ以外の合併症もある.特に甲状腺疾患や骨粗鬆症など,正しい診断と治療が患者のQOL向上につながるものがあり,注意を要する.

自己免疫性疾患(特に膠原病)に伴う肝障害

著者: 箱崎幸也 ,   蕨治言 ,   松本俊治

ページ範囲:P.115 - P.117

ポイント
●膠原病と肝疾患との関連性は,肝疾患を合併する膠原病,関節症状を伴う肝疾患,薬剤性肝障害に3分類される.
●膠原病患者で肝障害を呈する約70%は薬剤性肝障害であり,アスピリンやステロイドによる頻度が高い.
●膠原病では壊死性血管炎が唯一の特異的肝病変であるが,通常では結節性動脈炎を除けば診断的価値は低い.
●RAの活動性とALP上昇は並行し,ALP上昇RA患者ではPBCを含むSicca症侯群の合併に注意を要する.
●SLEによる肝障害とAIHとの鑑別に最も有用なのは,抗2本鎖DNA抗体(蛍光抗体法)の測定でSLEに特徴的である.

自己免疫性肝疾患と劇症化

著者: 関山和彦

ページ範囲:P.118 - P.120

ポイント
●自己免疫性肝炎による劇症化の頻度は約3%と少ない.
●急性発症型では約2/3の症例が抗核抗体陰性,IgG 2,500mg/dl以下であり,診断が困難である.
●急性発症型で亜急性に経過する症例は予後不良である.

明日の自己免疫性肝疾患

発症機序はどこまで解明されたか

著者: 橋本直明 ,   潘活寛 ,   田中篤

ページ範囲:P.122 - P.125

ポイント
●自己免疫性肝炎(AIH)では肝障害の機序としてADCCが提唱され,抗アシアロ糖蛋白受容体抗体,肝腎ミクロソーム抗体1,抗スルファチド抗体,抗類洞内皮細胞抗体,抗熱ショック蛋白抗体など,特徴ある自己抗体がpathogenesisとの関連で研究途上にある.
●T細胞レセプターの検討により,肝浸潤T細胞はoligo-clonalであることがわかった.
●pathogenesisにおけるT細胞の役割の解明が今後の課題である.
●免疫遺伝学的背景として,わが国のAIHではHLA-DR4陽性者が90%を占める.
●原発性胆汁性肝硬変では,抗ミトコンドリア抗体の標的抗原としてピルビン酸脱水素酵素などが同定され,PBCのpathogenesisにおける役割の解明が進められている.

最近話題の自己抗体と臨床応用への課題

著者: 森實敏夫 ,   常松令

ページ範囲:P.126 - P.128

ポイント
●抗原分子の遺伝子クローニング,アミノ酸配列の解明によりエピトープ・マッピングが可能になり,自己抗体の疾患特異性がより明らかになりつつある.
●抗体分子の抗原結合部位の一次構造の解明が進み,抗体の反応性をアミノ酸配列で語ることが可能になりそうである.
●自己抗原に対する抗体産生系のトレランスは不完全なため,自己抗体の産生が起きると考えられる.

新しい治療薬の将来展望

著者: 山田春木

ページ範囲:P.130 - P.131

ポイント
●ステロイド難治性のAIHがある.
●ステロイドが無効・禁忌のAIHでは,アザチオプリンや6-メルカトプリンが使われてきた.
●ステロイドに代わる治療薬として,UDCAが試みられている.
●海外では,ステロイド無効AIHに対して,シクロスボリンやFK 506が試みられている.

自己免疫性肝疾患の肝移植

著者: 橋本悦子 ,   野口三四朗 ,   林直諒

ページ範囲:P.132 - P.134

ポイント
●原発性胆汁性肝硬変(PBC),原発性硬化性胆管炎(PSC)では数学モデルによる予後の解析がなされ,それに基づいて肝移植の施行時期を決定する.しかし,PSCでは肝外胆管の閉塞による胆道感染症,胆管癌などの合併症によって,予後予測は困難な場合が多い.
●自己免疫性肝炎(AIH)でコルチコステロイド治療が無効である症例は,次第に肝不全となり肝移植の適応となる.
●自己免疫性肝疾患(AIH,PBC,PSC)の肝移植の予後は,1年生存率75〜90%,5年生存率70〜90%と良好である.そして移植後の原疾患の再発は認められるが,その進行は緩徐で,臨床的に問題となることは少ない.

カラーグラフ 感染症グローバリゼーション・10

最近海外渡航者や外国人就労者にみられた経口感染性蠕虫性疾患—(回虫症,鉤虫症,鞭虫症,肺吸虫症について)

著者: 西山利正 ,   石田高明

ページ範囲:P.145 - P.151

 わが国では1953年前後より,回虫(Ascarislumblicoides,Roundworm)・鉤虫(Hookworms)・鞭虫(Tricuris trichiura,Whipworm)を中心とした消化管寄生蠕虫の撲滅運動が積極的に行われ,一時これらの寄生虫疾患は臨床の場ではほとんどみられなくなってきていた.ところが最近,自然食の流行,土壌媒介性寄生虫浸淫地への渡航者の増加により,これらの消化管寄生蠕虫が再び増加する兆しをみせている.また,タイや中国,韓国などの外国人就労者が自国の食習慣の延長で,わが国で肺吸虫(Paragonimus spp.)の第二中間宿主であるサワガニやモクズガニなどの淡水産のカニを不用意に生食することにより,肺吸虫症を発症していることが報告されている.
 このように,今回は海外との人的交流が著しく増加することにより再び経験されだした,わが国では古典的な寄生虫蠕虫性疾患のいくつか(感染経路を図1に示す)を述べることとする.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.153 - P.158

図解・病態のメカニズム 膵疾患・1

膵外分泌調節

著者: 宮坂京子

ページ範囲:P.161 - P.165

 膵臓には,消化酵素を合成して分泌する外分誠腺と,インスリンなどを分泌する内分泌腺があそが,本稿では,外分泌機能調節を中心に述べる.

演習 腹部CTの読みかた・7

上腹部痛で発症した51歳男性

著者: 斎藤拓郎 ,   岩田美郎

ページ範囲:P.169 - P.177

Case
 51歳,男性.主訴:上腹部痛.
 病歴:以前より胆石にて他院で経過観察されていた.昨日早朝より上腹部痛を覚えた.かかりつけの医院に朝夕2度受診するも痛みは改善しなかった.本日未明より背部痛も交じえた堪え難い痛みとなったため,本院救急外来を受診した.現症:バイタルサインは異常なし.腹部はやや膨満し,臍上部に筋性防御あり.Rebound tendernessも認められた.臨床検査所見:白血球 18,500/μl,血中Hb 18.6g/dl,血清amylase 2,930U/l,GOT 117U/l,GPT 191U/l,BUN 30mg/dl,Cr 1.0mg/dl.腹部超音波で胆嚢内に多数の結石あり.総胆管は直径9mmと拡張.肝内胆管の拡張はなし.肝周囲に腹水を認めるも,腹部は全体にガスが多くこれ以上の詳細な観察はできなかった.このためCTが撮影された.発症後約24時間である.

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・13

患者の受診理由が自覚症状でないとき

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良 ,   竹中直美

ページ範囲:P.178 - P.179

 症例 兄を肺癌で失った高齢者のリクエスト
 68歳,男性.イケダさんの第一声は,「1週間ほど前に兄が肺癌で亡くなったのですが,心配なので胸の写真を撮ってください」だった.初診を担当したヤマモト先生はレジデントを終了したばかりの6年目で,イケダさんの一言に少々驚いた.さっそく質問した.
 「咳が出るなど,具合の悪いところはありますか」
 特に自覚症状はなく,喫煙歴が毎日30本で約50年間,飲酒は水割り1杯を毎日であった.胃潰瘍の手術,骨折(ギプス固定),そして3年前に膀胱癌で手術を受けていた.実母を胃癌で失い,5人兄弟のすぐ上の兄が今回の肺癌であった.体重減少もみられなかった.

Drug Information 副作用情報・22

薬剤性血液障害(3)—赤血球障害・貧血(その1)

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.181 - P.185

 貧血,赤血球減少も,場合によっては生命にかかわることがある.特に溶血性貧血は,そのために発売が中止になった薬剤があるほどであり,重篤になる場合がある.今回と次回は,再生不良性貧血を含め,貧血を生じる薬剤について述べる.
 貧血は極めてポピュラーな病態であり,入院する患者の3分の1以上が貧血であるともいわれるくらいである1).そして,あまりにもポピュラーであり,入院患者などではしばしば血液検査が行われるのだが,かえって,そのために軽度の貧血が原因を精査されずに放置されるということすら稀ではない.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・33

臨床神経病学を築いたシャルコー

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.186 - P.187

 パリのサルペトリエール病院は,弾薬のための硝石(サルペトル)の製造所からできた病院である.この火薬製造所はもとはセーヌ川右岸にあって,土塁を隔てて市街に接していたが,市民たちの要請によってルイ13世がこれを市境の外に移した.100年後の1656年に,ルイ14世の命により,女性の浮浪者や貧民や精神障害者の収容施設となり,1780年代初頭に病院に改組され,1795年にピネルが赴任したときには6,000人を収容していた.サルペトリエール病院でピネルが死んだのは1826年の秋であるが,その1年前に,パリの車職人の17歳の妻がシャルコーを生んでいる.
 シャルコーは寡黙で冷静な賢い青年で,パリ大学の医学部長に目をかけられ,やがてサルペトリエール病院で痛風と関節炎の鑑別について学位論文を書き,1862年に37歳で主任医師になった.この頃,シャルコーは痛風の原因を鉛中毒と考えていた.臨床神経病学はまだ独立の分野ではなく,シャルコーが神経病学教授になったのは1882年,56歳のときである.シャルコーがサルペトリエールの主任医師になったときは,ロンベルクが運動失調について論じてからまだ15年後で,パリではドゥシェンヌが球性麻痺,ポリオの脊髄前角病変,脊髄後柱病変による運動失調を研究していたものの,医師たちの注目を集めることもなかった.

新春対談

EBM時代の内科診療

著者: 福井次矢 ,   上野文昭

ページ範囲:P.189 - P.199

 上野 本日は「EBM時代の内科診療」というテーマで,福井先生のお話しを伺いたいと考えております.
 最近,EBM(Evidence-based Medicine)という言葉がよく用いられるようになってきて,医学雑誌や教科書に,「EBMの〜」というタイトルがついたりしています.しかしその内容をみると,どうもEBMの意味を誤解しているのではないかというような論文が少なくありません.そこで今回は,単なるはやり言葉として用いられているようなEBMを,正しく読者の方に理解していただこうと考えています.さらにEBMがなぜ必要で,これからどう覚え,実行していくかについても,福井先生にお話しいただきたいと思ってます.それではまず,EBMとは何かについて,正しいご解説をお願いいたします.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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