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雑誌目次

雑誌文献

medicina35巻13号

1998年12月発行

雑誌目次

今月の主題 内科evidenceは果たしてあるのか evidenceをどう探しどう読むか

非効率的な情報検索を行っていないか—evidenceの探しかたのコツ

著者: 名郷直樹

ページ範囲:P.2066 - P.2068

ポイント
●実際の患者の問題から始め,その問題を明確にすることが第一歩である.
●いきなり原著論文を探さず,Cochrane Library,ACP Journal Clubなどの二次資料からあたる.
●研究デザインにより選択のふるいにかける.
●Evidence-based Medicineを実践している医師にアドバイスを受ける.

evidenceを何で見ているか

著者: 安藤潔

ページ範囲:P.2069 - P.2071

ポイント
●エンドポイント(endpoint)には真のエンドポイントと代用エンドポイントがあり,前者による評価が信頼性の高いevidenceを提供する.
●仮説を設定することにより,研究テーマへの回答を有意差検定という統計的な手続きに置き換えることができる.
●バイアスの排除のためには,適切なスタディ・デザインを選択することが必要である.治療法の比較はrandomized controlled trial(RCT)によって行われたものがevidenceとして信頼できる.

evidenceを科学的に評価しているか

著者: 山本和利

ページ範囲:P.2072 - P.2075

ポイント
●サンプルの全体像を把握し,ベースラインにおける群間比較を行う.そのためには代表値と散らばりの概念を理解する.
●転帰の群間比較を評価するには95%信頼区間について熟知する必要がある.
●平均値と標準誤差が表記されていれば95%信頼区間を導き出すことができる.
●差があったときにその差を検出する力を統計的パワーと呼び,サンプル数が大きいほど強くなるが,統計的有意差があるからといって臨床上重要であるかどうかは別問題である.また,相関があることで因果関係があるということにはならない.
●3群以上の平均値を比較するには分散分析をする必要がある.

evidenceとしてのoutcomesの評価

RCTは最高のevidenceなのか

著者: 橋本英樹

ページ範囲:P.2076 - P.2079

ポイント
●EBMの本質は,科学という共通言語による,意思決定過程の合理化,透明化にある.
●科学的妥当性には内的・外的妥当性の2つがある.
●RCTは内的妥当性を保護する最も強力なデザインである.
●一方,外的妥当性が損なわれる可能性があり,体系的レビューが必要となる.
●「医療の質」やQOL研究などの新しい臨床研究領域ではRCTの実施は困難であり,最良の方法とは限らない.準実験的研究デザインを用いることも考慮すべきである.
●科学的根拠には数量的手法のみならず,質的手法も取り入れてアセスメントできる.
●EBMを実施するには,従来の生物医学的なパラダイムを超えて,より多様な研究デザインを活用する必要がある.

relative riskは絶対か

著者: 松村真司

ページ範囲:P.2080 - P.2084

ポイント
●Evidence-based Medicineの本来の目的は,患者あるいは医療費を負担する国民が満足する医療を提供するということである.
●アウトカムの評価には,適切な指標を用いなければならない.
●医師がしなければならないのは,アウトカムの種類とそれぞれの特徴を把握したうえで,情報を正確に患者に提供することである.
●evidenceの最終評価は医師ではなく,あくまでも患者あるいは国民が決めるべきである.

evidenceはこう活用される—その理論から問題点(限界)まで

evidenceを比較する:メタアナリシス(meta-analysis)

著者: 野口善令

ページ範囲:P.2085 - P.2089

ポイント
●メタアナリシスとは,臨床上の特定の疑問に関する複数の一次臨床研究を,定量的(統計学的)手法を用いて結合したものである.
●メタアナリシスは,それぞれの一次研究から得られたリスク比,リスク差,オッズ比などの比較パラメータを,研究対象者の数や研究の質などでで重み付けして平均したものである.
●メタアナリシスによる総説は,従来の叙述的総説(narrative review)に比べて,よりevidence-basedな総説を提供できる手法として期待されている.

医療決断分析—Outcome assessmentはどのように臨床決断に寄与するか

著者: 上村隆元 ,  

ページ範囲:P.2090 - P.2094

ポイント
●臨床判断学は,予防を含む医療行為の不確実性を十分認識したうえで,膨大な疫学データを根拠として体系的に定量化・確率化し,合理的な根拠に基づいた判断をし,最良の臨床医療行為を体系的・合理的に選択することを本質としている.
●臨床現場における実務的な臨床判定(clinical judgement)と比し,非人間的であるとか医師の経験的技能を否定するとか,根拠となる確立の数値が現実に即さないなどの批判を以って相反するものではない.しかし,機械的に最適の答えを導き出す“占い”でもない.

医療経済分析とその限界

著者: 笽島茂 ,   関根道和 ,   鏡森定信

ページ範囲:P.2096 - P.2101

ポイント
●効果が証明されている複数の医療プログラムを,費用も条件に入れて効率性の観点から比較するのが医療経済分析である.
●医療経済分析には,費用効果分析,費用効用分析,費用便益分析の三手法がある.
●医療経済分析は医療プログラムの選択の条件を提示するが,必ずしも決定の基準にはならない.

evidenceをどう実践するか

著者: 大生定義

ページ範囲:P.2102 - P.2104

ポイント
●Evidence-based approachの適用にあたっては,環境の問題やevidence適用の技術があるかなどの問題を解決しなければならない.
●最終的方針決定と数字の上での判断が違うものであることや,個々のケースの判断と総合的・社会的な判断が違うものであることなどを理解していることが大切であり,EBMの実践は,自らの診療の見直しを仕事をしながら(on jobで)やっていくことである.
●EBM実践の3要素は,Clinical expertise,Research evidence,Patient preferencesである.
●患者がリスクに対してどのような態度をとるかを判断しながら診療を進めていくべきである.
●自分のやっている診療行為が,患者の人生にとってどの程度のインパクトを与えているのかという認識も臨床医にとって重要である.

evidenceに基づいた内科の問題解決 消化器

急性膵炎の治療法は何を選択すべきか

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.2106 - P.2109

ポイント
●本邦では「常識」として通用する治療法のなかにもevidenceに乏しいものがある.
●急性膵炎と診断された患者における「治療」というカテゴリーのなかで,いくつかの疑問に関するevidenceを調べてみた.
●日常当然のように行われている急性膵炎の治療法の多くは,その有用性に対するevidenceを欠いていた.

大腸ポリープは切除すべきか

著者: 丸山雅一

ページ範囲:P.2110 - P.2113

ポイント
●大腸のポリープ(腺腫)には癌化するものがある.しかし,このことは大腸癌の大部分が腺腫に由来することを意味するものではない.
●大腸癌のなかには,腺腫を介さず正常粘膜から直接発生するものも存在する.
●以上のことは,筆者らの観察的データに基づく仮説である.そして現在の問題は,どのような腺腫が癌化するかということに,信頼性のあるデータが存在しないことである.
●また,腺腫と癌の組織学的な診断基準にも種々の偏り(診断医間の差,欧米とわが国における差など)がある.
●したがって,臨床の実際においてはポリープは切除するのが妥当である.

肝庇護薬は肝炎の治療に有用か

著者: 柴田実

ページ範囲:P.2115 - P.2118

ポイント
●肝庇護薬は慢性肝炎の肝機能さらには組織病変の一部を改善するとされているが,肝硬変への進展阻止,肝発癌の抑制,さらには死亡率の減少に対する効果は証明されていない.
●ほとんどの肝庇護薬は臨床試験論文の成績を有用性の根拠としているが,群内比較が強調されているために,得られた研究結果の信頼性は高くない.
●現時点では,慢性肝炎への肝庇護薬の投与が有益であるというevidenceは存在しないと考えられる.

循環器

カルシウム拮抗薬の使用が高血圧患者の長期生命予後に与える影響は

著者: 石川眞一郎

ページ範囲:P.2120 - P.2122

ポイント
●短時間作用型Ca拮抗薬は,長時間作用型に比べて心血管事故のリスクが大きい.
●合併症のない高血圧例では長時間作用型の脳血管事故への有用性と心血管事故への安全性が確認された.この結果は他の降圧利尿薬やβ遮断薬と同等であり,Ca拮抗薬の優越性を示すものではない.また,東洋人は心筋梗塞発症率が低く,Ca拮抗薬の一次予防の意義は小さい.
●Ca拮抗薬とACE阻害薬との比較では,NIDDM,女性の高血圧における心脳血管事故予防効果はACE阻害薬で高かった.

急性心筋梗塞の血栓溶解療法に付加する薬物療法は有効か

著者: 本宮武司

ページ範囲:P.2123 - P.2125

ポイント
●血栓溶解薬にはSK,UKと,血栓親和性の高いt-PA,pro-UK,APSACがある.
●血栓溶解療法の問題点は再開通率が60〜80%と比較的低いこと,再開通しても5〜30%に再閉塞のあることである.
●再開通率の向上にはヘパリンが有効である.
●再閉塞の予防にはヘパリンとアスピリンが有効である.
●予後の改善にはアスピリンの効果が認められている.
●アスピリン・ヘパリン併用は出血性合併症が多く,アスピリン単独を上回る効果はない.

喫煙は虚血性心疾患の危険因子か

著者: 石川道郎 ,   山口徹

ページ範囲:P.2126 - P.2129

ポイント
●喫煙は,高血圧,高脂血症とともに虚血性心疾患の三大危険因子の一つである.
●喫煙により虚血性心疾患の罹患率と死亡率が増加する.また禁煙によりこれらの危険率は改善する.
●喫煙により,組織での酸素分圧の低下、血管内皮細胞傷害,交感神経活性亢進,血小板機能活性化,総コレステロール・中性脂肪・VLDL・LDLコレステロールの増加,HDLコレステロールの低下,タバコ修飾LDLの生成,冠攣縮の誘発などがもたらされる.
●血清コレステロール値が低い本邦では,喫煙の有無が虚血性心疾患の発生率に大きな影響を与える可能性がある.

腸骨動脈閉塞症に対するステント留置療法と経皮的血管形成術(PTA)との比較

著者: ,   上村隆元

ページ範囲:P.2130 - P.2133

ポイント
●オランダにおけるメガトライアルのデータを用い,腸骨動脈閉塞症に対する複数の治療法を比較評価した.
●医療経済学的なアプローチを行い,費用と治療後に獲得された効用値について定量的評価を行った.
●PTA(後)の補助的適応としてのステント留置が最も良好な費用-効果比を示すことが,本データからは得られた.

感染症

抗菌薬の予防投与(SDD)について

著者: 大滝美浩

ページ範囲:P.2135 - P.2137

ポイント
●ICUの滞在期間が増えるとグラム陰性桿菌の消化管への定着は増え,肺炎発現率も増える.
●SDD(選択的消化管除菌)は,消化管への病原性細菌の定着をコントロールする手法である.
●腸管細菌叢の変化と多臓器不全発症の間には関連が示唆される.
●ただしBT(バクテリアルトランスロケーション)の意義は十分証明されていない.
●呼吸器感染症および多臓器不全をきたしたICU患者の予後は悪い.
●しかし多臓器不全の原因は多様であり,感染症はその一因でしかないのかもしれない.
●現在のところSDDをルーチンに行うことは推奨されない.

真菌感染の診断法は有効なのか

著者: 海野広道 ,   山口哲生

ページ範囲:P.2138 - P.2141

ポイント
●カンジダ症の診断には培養陽性所見が必要だが,補助的診断法として現時点で最も有用な血清診断法は1,3-beta-D-glucanである.
●侵襲性肺アスペルギルス症の塗抹/培養の陽性率は必ずしも高くなく,補助的診断法として早期の胸部CTと血清中1,3-beta-D-glucanおよびELISAによるgalactomannan検出法が有用である.
●クリプトコッカス症は,塗抹/培養いずれかが陽性なら診断がつく.血清/髄液の抗原診断は感度/特異度とも優れる.
●深在性真菌症は,特にAspergillusに対し決定的な治療薬がないため,早期に診断し経験的治療を開始すべきである.

血液・腫瘍

慢性骨髄性白血病(CML)慢性期の治療—IFNα療法と造血幹細胞移植のタイミング

著者: 渡邉茂樹 ,   安藤潔 ,   堀田知光

ページ範囲:P.2142 - P.2147

ポイント
●CMLで確実に治癒をもたらすのは造血幹細胞移植療法だけであるが,一方では移植関連合併症により予後を悪くしている症例もある.
●CML慢性期の薬物療法は,ハイドロキシウレアやIFNの導入によって,これまでのアルキル化剤を中心とした治療から大きく変化をとげてきた.
●これら治療法を症例ごとに異なるファクターを考慮し,個別化した最適な組み合わせを決めるうえでdecision analysisの手法は有用である.

Low-Grade悪性リンパ腫の治療のタイミングはいつがよいか

著者: 玉寄兼治 ,   押味和夫

ページ範囲:P.2149 - P.2153

ポイント
●低悪性度リンパ腫は,緩慢な自然経過をとり生存期間の中央値は8〜10年と長いが,長期予後でみると中・高悪性度リンパ腫をむしろ下回る.
●剖検例においてほとんどの症例に,より悪性度の高い組織学的悪性化が確認されている.
●臨床病期Ⅰ/Ⅱ期の治療には放射線療法が主に選択される.
●臨床病期Ⅲ/Ⅳ期の症例に関しては現在まで確立された治療法はない・
●若年のhigh risk群や再発治療抵抗性の症例に対しては同種骨髄移植を考慮する.

検診などで見つかる自覚症状のない白血球増多症にどこまで精査する必要があるか

著者: 朴載源

ページ範囲:P.2154 - P.2156

ポイント
●軽度の白血球増多では喫煙の有無を確認する.
●喫煙の程度と白血球数は正の相関を示す.
●禁煙後も数年間白血球増多が続く場合がある.
●無症状で発見されるCMLが増えている.
●CMLでは早期から好塩基球増多を認める.

腎臓

尿中蛋白は腎障害を助長するか

著者: 大石明

ページ範囲:P.2159 - P.2163

ポイント
●慢性腎不全の進展には,腎血行動態のほかに尿蛋白増加による近位尿細管の障害が関与している可能性がある.
●尿蛋白排泄量を減少させる治療法,例えばアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE inhibitor),蛋白制限,血小板凝集阻害薬,柴苓湯には腎不全進展を抑制する可能性があるが,ほぼ確立されたといえるのはACE inhibitorと蛋白制限だけである.
●Ca channel blockerは特に非ジヒドロピリジン系に尿蛋白減少作用があると報告されているが,ジヒドロピリジン系も腎不全進展抑制作用を有する可能性があり,臨床試験の結果が待たれる.

保存期腎不全患者の降圧療法

著者: 阿部圭志

ページ範囲:P.2164 - P.2167

ポイント
●血清クレアチニン濃度2.5mg/dl以下の糖尿病性腎症には,ACE阻害薬の腎保護作用が認められている.腎機能障害が軽いほど安心して使用でき,欧米では微量アルブミン尿(30〜300mg/クレアチニン)時からのACE阻害薬の投与が進められている.
●非糖尿病性腎疾患でもACE阻害薬は腎保護作用がある.腎機能障害の軽度のもの(Ccr50ml/min以上)ほど使用しやすい.
●持続性Ca拮抗薬との併用もすすめられる.

リウマチ

ループス腎炎の治療は何を選択すべきか

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.2169 - P.2171

ポイント
●ループス糸球体腎炎は,SLEにおける最も重要かつ頻度の高い病態の一つである.
●Ⅲ型およびⅣ型には,高用量ステロイドおよび免疫抑制剤が適用となる.
●パルス・ステロイドは経口ステロイド単独に比べ即効性はあるが,効果は短期的である.ステロイド非反応性の症例にはパルス・シクロホスファミドが多くの場合勧められる.ただし長期パルス・シクロホスファミドは,高率に無月経などの副作用を伴う.
●腎機能を維持する効果と副作用などを考慮した患者との話し合いが重要であり,治療に反応する可能性の少ない症例では過度に積極的な治療は避けることも必要である.

慢性関節リウマチにメトトレキサートは何ミリグラムまで使用すべきか,また定期肝生検は必要か

著者: 上野征夫 ,   山田伸夫 ,   横川美樹

ページ範囲:P.2172 - P.2175

ポイント
●メトトレキサート(MTX)の副作用には,口内炎,脱毛,胃腸障害など皮膚粘膜症状以外に重篤なものとして,汎血球減少,肺線維症,長期投与に伴う肝硬変がある.
●薬剤は効果が得られる最小量を投与することが望ましい.MTXを使用する場合,1錠2.5mg内服週1回から約2カ月ごとに漸増,最大投与量は10mgまでであろう.
●MTX長期投与による慢性肝病変について,米国リウマチ学会はかなりアグレッシブな肝生検のガイドラインを出している.この指針に沿うことは困難と思われる.

神経系

超急性期の脳梗塞に対するt-PAによる血栓溶解療法は有効か

著者: 峰松一夫

ページ範囲:P.2177 - P.2179

ポイント
●虚血性脳損傷の可逆性は,虚血の重篤度と虚血持続時間に依存する.
●発症3時間以内のt-PA静注療法の有効性が証明された.3時間目以降の治療効果は否定的である.
●血栓溶解療法は,頭蓋内出血の頻度を確実に増加させる.
●米国での試算では,発症3時間以内のt-PA静注療法は全体としての医療・介護費用を確実に低下させる.
●わが国では,本療法の保険適用はなく,一部で行われているウロキナーゼ動注療法の効果も証明されていない.

急性期の脳梗塞に対する抗凝固療法と抗血小板療法は有効か

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.2180 - P.2185

ポイント
●アスピリンは脳梗塞発症後直ちに投与を開始すれば,早期の再発予防効果と軽度の長期予後改善効果が期待できる.
●脳梗塞急性期の高用量ヘパリン療法は重篤な出血合併症の危険が大きいので,用いるとすれば少量がよい.
●低分子ヘパリンやヘパリノイドについては病型別の効果と安全性の相違を含めて,さらに今後の検討が必要である.
●アルガトロバンとオザグレルは薬理学的にはより有効性が期待できるが,臨床試験の症例数が不十分であり,現在進行中の比較試験の結果が待たれる.

代謝・内分泌

無症候性高尿酸血症もしくは数回の痛風発作のみの高尿酸血症に尿酸降下療法は必要か

著者: 山中寿

ページ範囲:P.2186 - P.2189

ポイント
●血清尿酸値が高いほど痛風性関節炎発症のリスクは高まるが,年間発症率は血清尿酸値9.0mg/dl以上で5%未満である.
●無症候性高尿酸血症で腎機能低下をきたすか否かは明らかではない.痛風を発症すると軽度の腎機能低下がみられ,結節を形成するほどの長期罹患例や高血圧合併例では腎機能はさらに低下する.
●血清尿酸値は,大規模調査では動脈硬化性疾患の独立した危険因子であるとの報告がある.また他の多くの要因と相加的に関与する.
●痛風患者に投与中の尿酸コントロール薬を中断した場合,半数以上は関節炎や痛風結節を再発する.

Evidence-basedな糖尿病の診断基準とは

著者: 松島雅人 ,   田嶼尚子

ページ範囲:P.2190 - P.2193

ポイント
●1997年,米国糖尿病協会は,煩雑な経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を診断過程から除き,スクリーニングを推進することで未診断糖尿病患者を減らそうと考え,糖尿病の新診断基準を発表した.
●新基準の最大の変更点は,従来,糖尿病の診断に多くの場合OGTTを必要としてきた点を変更し,FPGのみによる糖尿病の診断を推奨したこと,またFPGの基準を従来の140mg/dlから126mg/dlに引き下げたことである.
●一方,1998年の世界保健機構による診断基準についての中問報告では、やはりOGTTでの診断を原則としている.今一後のevidenceの集積が必要であろう.

呼吸器

市中肺炎・喀痰グラム染色に基づく抗生剤選択は治療効果を高めるか

著者: 石田直

ページ範囲:P.2195 - P.2197

ポイント
●喀痰グラム染色による抗生剤選択で治療効果が高まるかどうかを2群間で検討したevidenceは現在のところない.
●喀痰グラム染色の評価は,良質の喀痰を用いて熟練した医師や技師が行うことが前提となる.
●喀痰グラム染色を正しく行い起炎菌を推定したほうが狭いスペクトルの抗生剤を選択することが可能であり,耐性が生じにくく医療経済上も有利である.

上気道感染後の遷延する咳嗽に対する有効な薬物療法

著者: 罔野良 ,   倉富雄四郎

ページ範囲:P.2198 - P.2201

ポイント
●上気道感染後の持続性咳嗽の主な病態は,後鼻漏,気道過敏性の亢進,咳受容体感受性の亢進と考えられる.
●治療上問題となることの多い咳受容体感受性の亢進による持続性咳嗽に対して,十分なevidenceに基づく治療法の提言はみられない.
●咳受容体感受性の亢進による持続性咳嗽に対して,少数例の検討ではヒスタミン(H1)受容体拮抗薬と非麻薬性中枢性鎮咳剤の併用あるいはこれと麦門冬湯の併用および抗コリン剤吸入で有効性が示されている.
●多数例の臨床研究により,アプローチ法と治療法の確立が望まれる.

対談

EBMの道入と実践に向けて

著者: 福原俊一 ,  

ページ範囲:P.2203 - P.2209

 福原 本日はDr. Bylesをお迎えして,最近日本でも頻繁に取り上げられているEvidence-based Medicine(EBM)についておうかがいしたいと思います.はじめに,来日の経緯からお話しいただけますか.

理解のための23題

ページ範囲:P.2213 - P.2218

カラーグラフ 内科医が知っておきたい眼所見・3

眼瞼・結膜疾患

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.2222 - P.2224

眼瞼
 眼瞼は解剖学的には皮膚,毛,それに付属する分泌腺,マイボーム腺を含む瞼板そして眼瞼結膜からなっている.機能的には眼球表面の機械的な保護,上皮表面をおおう涙液の維持,およびその重要な成分である脂質をマイボーム腺が分泌している.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.2225 - P.2230

図解・病態のメカニズム 胆道疾患・2

色素胆石の成因—ビリルビンカルシウム石,黒色石

著者: 伊勢秀雄 ,   内藤剛

ページ範囲:P.2233 - P.2236

 色素胆石とは胆汁中色素,すなわちビリルビンを主成分とした胆石であり,その範疇にはビリルビンカルシウム石(以下,ビ石)と黒色石が入る.ビ石はビリルビンのカルシウム塩が,黒色石はビリルビンの重合体である黒色色素がそれぞれ主成分であるが,両者の成因は全く異なっており,同一の場で論じることは不可能である.そこで,ここでは両者の成因について,それぞれ教室での成績をもとに述べることとする.

演習 腹部CTの読みかた・13

腹部膨隆で来院した59歳の女性

著者: 岩田美郎 ,   山下詠子

ページ範囲:P.2237 - P.2246

Case
 59歳,女性.主訴:腹部膨隆.
数カ月前より軽い腹部膨満感を自覚していたが,それ以上の症状はなく放置していた.1カ月前に知人に腹部膨隆を指摘され,不安になり内科外来を受診した.既往歴,家族歴に特記すべき事項なし.理学的所見では腹部に膨隆を認める.fluctuationを証明できた.臨床検査データではWBC 10,000/μl,Hb 12.7g/dl,CRP 1.04mg/dl,ESR 41mm/hr,Cr 0.6mg/dl,Alb 4.3g/dl,LDH 936U/l,腫瘍マーカーはCEA 1.6ng/ml,CA 19-9 1.0>,CA 125 3,200,CA 72-4 970.免疫便潜血反応は陰性.尿潜血2+.腹部CTが施行された.

症例によるリハ医療—内科医のために・7

中枢性麻痺—痙縮への対処法(神経ブロックを中心に)

著者: 伊佐地隆 ,   大仲功一 ,   安岡利一 ,   大田仁史

ページ範囲:P.2247 - P.2254

 脳や脊髄が様々な原因によって何らかの損傷を受けたとき現れる麻痺を中枢性麻痺という.これは,脊髄前角細胞から末梢の損傷によって生ずる末梢性麻痺と区別して考えることが多い.
 中枢性麻痺は別に痙性麻痺1)(spastic paraly-sis)と同義語のように使われることがある.正確には,パーキンソン病などのような錐体外路系の障害の場合には固縮(rigidity)を生じたり,橋,小脳の損傷時には失調(ataxia)を伴ったり,純粋な錐体路の障害や大脳の広範な損傷の場合など,筋の緊張は低下する場合もあるので,中枢性麻痺=痙性麻痺とはならない(表1)2).しかし,中枢神経疾患においては通常複数の経路の神経が巻き込まれるので,筋は痙縮(spasticity)を示し,痙性麻痺となって現れる場合が圧倒的に多く,中枢神経疾患のリハビリテーション(以下,リハ)ではこれが問題となることが非常に多い.

Drug Information 副作用情報・32

低カリウム時のメトクロプラミド等投与と突然死

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.2259 - P.2264

 ベンザミド系薬剤のメトクロプラミド(プリンペランRなど)やH2受容体拮抗剤のファモチジン,抗ヒスタミン剤(H1拮抗剤)などは,いずれも潜在的に不整脈を起こしうる薬剤であるが,合併症がなく常用量の範囲内で1種類の場合には,不整脈のことはあまり問題にはならない.しかし著明な低カリウム血症,肝腎障害,心不全,もともと徐脈や不整脈のある場合,血中濃度を上昇させる薬剤の併用あるいは同種薬を2剤以上併用する場合には,不整脈の可能性が問題になりうる.
 今回は,もともと抗ヒスタミン剤が2種類とβ遮断剤が1種類投与されている男性が,著明な低カリウム血症となった状態で,1時間20分の間にファモチジン20mgが1回,メトクロプラミド10mgが2回静注され,約30分後に突然死(心停止)した例を紹介し,知らず知らずのうちに同種薬が重なることで突然死の原因となりうること,低カリウム血症では通常は問題になりがたい薬剤でも突然死が生じうることについて考察したい.

続・アメリカの医学教育 スタンフォード大学病院レジデント生活・9

集中治療室

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.2255 - P.2258

月初め
 また新しい月が始まった.各月の初日はレジデントのローテーション替えの日で,前月の担当者から患者を引き継ぎ,一から始めなくてはならない忙しい日である.すでに何日も入院している患者さんでも,新しい担当者にとっては新患と同様である.入院に至った経緯および入院中の経過を短時間に把握しなくてはならない.その際,頼りになるのがOff Service Noteである.これは前担当レジデントが一人一人の患者の病歴,治療経過などすべての情報を,要約としてカルテにまとめたものであり,担当替えの前日に作成される.1ヵ月のローテーションを終えるレジデントにとっては,このOff Service Note作りが月末の仕事の一つなのである.その際,特に複雑なケースの場合は,いかに患者の全体像を簡潔に要領よくまとめることができるかが,レジデントの腕の見せどころともいえよう.

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・24

患者が気になっていた問題を洗いざらい話してきたとき

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良 ,   竹中直美

ページ範囲:P.2266 - P.2267

症例:夫の看病を前に四肢痛,脱力を訴える妻
 ナカジマさんは61歳の女性で,長く腰痛,四肢痛,脱力感で悩んでいた.1年半前に65歳の夫が脳出血で倒れリハビリ病院に入ったのを,父親と同じ税理士事務所で働く息子と娘の3人で看病してきた.自宅へ戻るめどが立ち,新しく購入したマンションも改装して,夫の在宅介護が始まった.ナカジマさん自身も高血圧と肩関節周囲炎で7年近く治療してきた.「夫は市の税理士会長をやったりして,頼まれると何でも引き受けるんです.後始末は全部私なんですよ.朝からゴルフへ出掛けて夜になっても帰らないので心配していたら,酔っぱらって車を運転してくるんです.わがままで外面ばかり良くて,私が苦労しても平気なんですから」
 強い父親と葛藤のあった息子が結婚詐欺の被害にあい,独立して事務所を開くといって父と衝突した.事務所を手伝い母を支えてきた娘は婚期が遅れ,高齢での初産が重なった.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・44

初めて胃ガンを手術した音楽家ビルロート

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.2268 - P.2269

 医学は人の生命を守るものである.優れた医者は人間に深い愛を抱く.ヒポクラテスが「人を愛してこそ医学への愛もある」と語ったのもそのためである.愛なき医者の悲劇を歴史は多く記録している.
 愛にあふれた外科医ビルロートは,19世紀後半,チューリッヒとウィーンで近代外科学の先駆を務め,各地の医者に深い影響を与えて1894年に世を去った.ウィーンの墓地にあるビルロートの墓には,いまでも多くの医者が訪れている.

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「medicina」第35巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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