icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina35巻2号

1998年02月発行

雑誌目次

今月の主題 経静脈・経腸栄養療法のストラテジー Introduction

栄養補充から疾病治療へ,そして……

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.208 - P.209

ポイント
●本邦における栄養療法は,単なる栄養補充にとどまらず,疾患治療をも含めた戦略として施行され,実際にさまざまな疾患の予防・治療への効果が証明されている.
●現在の栄養療法には多くの問題点があり,①risk-benefit,②cost-benefit,③QOLなどの観点からの見直しが求められている.

栄養不良症の成因と疾病治療における重要性

蛋白栄養不良症の病態生理

著者: 松枝啓

ページ範囲:P.210 - P.213

ポイント
●人間が生存するために必要なグルコースの供給源であるグリコーゲンの貯蔵はきわめて少量であり,絶食時には生命維持に必要なグルコースを体内で産生する必要がある.
●このグルコースの供給は,主に筋肉組織と脂肪組織を分解して行われるが,外傷時には,筋肉組織の分解が飢餓時の3倍以上になるため蛋白栄養不良症が高頻度に発生する.
●この蛋白栄養不良症には,大別してマラスムス(Marasmus)とクワシオルコール(Kwashiorkor)の2種類が存在し,それらの身体的特徴および検査データが異なるため,それらの存在に気づかぬことがあり注意が必要である.
●蛋白栄養不良症は,易感染性および抗生物質に抵抗性の状況を惹起するため,患者の予後を左右する最も重要な因子である.

栄養評価法—初期評価から治療効果の評価まで

著者: 正田良介

ページ範囲:P.214 - P.218

ポイント
●適切な評価を行うと,栄養不良状態の入院患者の頻度は高く,またその状態が疾病の予後と関連している.
●正確な栄養状態の評価は,適切な栄養療法の開始と継続の決定に不可欠である.他方,体重と血清アルブミン値のみでは正確な栄養状態の評価は不可能である.
●適切な病歴・身体所見に加え,身体計測(上腕三頭筋皮下脂肪厚・上腕周囲長など)は現在でも栄養評価のスタンダードである.また,血清蛋白質・機能的栄養評価法なども有効な補助的評価法である.
●これらの評価法の問題点を理解しつつ,正しく使用することにより適切な栄養療法が可能になる.

入院患者での蛋白栄養不良症の頻度とその成因

著者: 福島亮治

ページ範囲:P.219 - P.221

ポイント
●蛋白栄養不良症は,食糧不足,食思不振などのために食物摂取が少なくなって起こることはもとより,疾病のためにエネルギーや蛋白の必要量が増大した場合,利用や代謝が異常となったり,体内から栄養素が喪失する場合にも起こる.
●入院患者の蛋白栄養不良症の頻度は予想以上に高く,欧米の報告では,一般入院患者の30〜50%程度に及ぶとされる.
●入院患者の栄養状態は多くが入院中に悪化することが報告されており,入院中の不適切な栄養管理(検査のためのたび重なる絶食など)もその一因と指摘されている.
●栄養不良患者では合併症や死亡率が明らかに高いことが知られており,入院患者に対する栄養評価と適切な栄養管理がきわめて重要である.

蛋白栄養不良症と疾病予後—癌を例として

著者: 切塚敬治 ,   西崎浩

ページ範囲:P.222 - P.223

ポイント
●非癌患者でも重症の,あるいは遷延する蛋白栄養不良症(PCM)があると感染や心不全が起こり,予後は不良である.
●癌患者の多くには診断時すでにPCMがあり,放置すると癌悪液質へと進行する.
●癌患者のPCMの程度は,種類,進行度によって差があり,特に消化器癌でつよい.
●化学療法,放射線療法時のTPN(高カロリー輸液)の併用は,副作用の軽減,奏効率の向上,予後の改善に有意には役立っていないが,supportive careとしての価値はある.
●手術前からのTPNは術後の合併症や死亡率を減らす.

栄養不良症と免疫

著者: 木下牧子

ページ範囲:P.224 - P.226

ポイント
●飢餓すなわち栄養不良が感染症の危険を増大することは周知の事実である.
●蛋白栄養不良を代表に,アミノ酸,ビタミン,微量元素などほぼすべての栄養素の欠乏は免疫を抑制する.
●また,ある種の栄養素の過剰も免疫を抑制する.
●経静脈栄養や経腸栄養療法では医原性栄養不良をきたす危険があり,感染症を合併している患者では栄養管理が非常に重要となる.
●感染の予防,感染症の治療において栄養管理は見逃されやすい,しかし重要な戦略である.

栄養療法時の基本的ルール

電解質・水分投与量の算出

著者: 原晶子 ,   斉間恵樹

ページ範囲:P.228 - P.230

ポイント
●水・電解質の投与量を決めるうえで,In-Outバランスを計算することが大切である.
●体重の変化量は体液バランスをよく反映しており,1日1回の体重測定は必須である.
●〔輸液維持量=尿量(1,000~1,500ml)+便+不感蒸泄-代謝水〕として計算される.
●脱水症では,それぞれの型に応じて水・電解質欠乏量を算出し,実際の投与量は欠乏量を2~3日で補正することを目標とする.
●低P血症は生命予後を左右するものであり,軽視してはならない.

エネルギー投与量の算出—過栄養は悪影響を及ぼすか?

著者: 田代亜彦 ,   山森秀夫 ,   高木一也

ページ範囲:P.231 - P.233

ポイント
●従来からのエネルギー投与量は,一般に高めに設定されている.したがって,適正なエネルギー投与量を決定するには,消費量を実測するのが望ましい.エネルギー消費量測定には間接熱量測定が行われ,現在はベッドサイドで測定可能な,簡便で比較的安価な機器が普及している.
●その結果,侵襲下のエネルギー消費量は意外に低いことが判明し,Curreriの式をはじめ種々の予測式はあまり参考にならないことがわかってきた.
●エネルギーを過剰に投与することは臨床上有害であるとの証拠も提出され,侵襲下ではかえってエネルギーを少なめに投与するほうが安全であるとされ,末梢静脈からの栄養管理なども見直されるようになった.

窒素(アミノ酸)投与量の算出法

著者: 岩佐正人

ページ範囲:P.234 - P.236

ポイント
●窒素平衡(N-balance)は,日常臨床上最も簡便かつ有用な窒素代謝の指標である.窒素平衡が正の場合には,生体内の窒素代謝は同化優位,負の場合には異化優位と判断される.
●栄養療法を施行する場合には窒素平衡を目安として,これを正に維持するように処方を調整すべきであり,有効な栄養療法施行のための基本的な指標とされる.
●窒素平衡は窒素投与量と窒素排泄量との差で表わされ,蛋白質(アミノ酸)重量の約16%が窒素であり,窒素(g)=蛋白質(g)/6.25で求められる.一般的に侵襲が大きい場合には大量の窒素投与が必要となるが,有効に利用されるためにはこれに見合う熱量投与が必要で,窒素1gあたり15kcalの熱量投与の場合に最も有効に利用される(カロリー/N比=150).

脂肪投与—必要量の算定と投与法

著者: 福田能啓 ,   奥井雅憲 ,   下山孝

ページ範囲:P.238 - P.239

ポイント
●完全静脈栄養や経腸栄養療法時には,必須脂肪酸欠乏症の発生が危惧される.
●欠乏症を予防するためには,リノール酸を含んだ脂肪乳剤の輸注が必要である.1日に10%脂肪乳剤では200ml,リノール酸量として総エネルギーの3%程度,α-リノレン酸では0.5%が必要とされている.

ビタミン投与量—経静脈栄養法とビタミンB群欠乏

著者: 岡田正 ,   垣田晴樹

ページ範囲:P.240 - P.242

ポイント
●高カロリー輸液施行時はビタミンの投与に注意をはらうこと.ビタミンB1の投与を怠ると,ビタミンB1欠乏性アシドーシスをきたす.
●ビタミンB1の需要量は,輸液の糖質および患者の状態によってばらつきがある.
●高カロリー輸液施行時のビタミンB1欠乏時期は,患者背景,ビタミンB1の摂取状況によりばらつきがみられるが,その多くは施行後2〜3週間で発生している.
●ビタミンB1欠乏によるアシドーシスが疑われた場合には,直ちにビタミンB1の100〜400mgの急速静脈内投与を行う.

微量元素投与量—亜鉛,銅からセレニウム,モリブデンへ

著者: 根津理一郎

ページ範囲:P.244 - P.246

ポイント
●経静脈栄養法(TPN),経腸栄養法の普及に伴い,純化学的に合成された製剤が長期使用される機会も増加し,各種微量元素欠乏症が報告されている.
●必須微量元素は,ヒトではCu,Zn,Mn,I,Co,Cr,Se,Moがあげられ,生体内機能のなかで栄養学的に最も重要なものは,金属酵素あるいは金属要求酵素としての触媒作用である.
●長期にわたるTPN,経腸栄養時においては,病態に応じた所要量の推定,各種指標の定期的なモニタリングによる過不足のない投与が必要である.

投与方法の選択と投与の実際

投与経路の選択—経腸栄養VS経静脈栄養(末梢および中心静脈)

著者: 貝瀬満

ページ範囲:P.248 - P.251

ポイント
●正確な病態把握と栄養状態の評価が,適切な栄養療法選択の前提である.
●高カロリー輸液(IVH)は日常的な治療法として定着しているが,非生理的な栄養療法であり,危険な合併症が起こりうるので,その適応をよく理解し,無制限な施行は慎む.
●絶対的腸管安静を要する病態が長期間つづく場合がIVHの良い適応である.
●腸管機能が保たれ,絶対的腸管安静を必要としない場合は,より生理的で,低コスト,合併症の少ない経管栄養を選択する.
●Crohn病ではprimary therapyとして,消化態栄養剤を用いた経管栄養やIVHが行われている.

投与間隔の選択—持続VS間欠

著者: 秋山純一

ページ範囲:P.252 - P.255

ポイント
●経腸栄養・経静脈栄養の投与方法には,持続投与と間欠投与がある.
●間欠投与は循環動態の安定した,栄養サポートが主たる目的の患者に対して行われる.
●間欠投与は持続投与に比べ,窒素平衡が良好に保たれることが報告されている.
●特に長期の栄養サポートを必要とする患者に対しては,代謝面での利点に加えQOLの面からも間欠投与が好まれる.

内視鏡的胃瘻造設術

著者: 清水利夫

ページ範囲:P.256 - P.259

ポイント
●経皮内視鏡的胃瘻造設術は手技が簡便で,患者のQOL改善に有効である.
●適応は広いが,合併症発生に注意を要する.
●各キットの長所・短所を理解して,術者2人が共同して処置を行う.

合併症とその対策

完全経静脈栄養法の外因性合併症—挿入時損傷および感染性合併症

著者: 田村潤

ページ範囲:P.260 - P.261

ポイント
●カテーテル挿入時合併症は,挿入手技の未熟さや無理な挿入によることが多い.したがって,挿入手技の修得と無理な挿入を避けることを心がける.
●気胸,血胸,カテーテル迷入などが起こることを念頭に置き,カテーテル挿入を実施する.起こった場合はただちに適切な処置を行う.
●感染性合併症の多くは挿入時の無菌操作やカテーテルの無菌管理により予防でき,無菌的カテーテル管理を心がけ,定期的ルート交換などを行う.

完全経静脈栄養法の代謝性合併症—アシドーシス,高血糖,低リン血症など

著者: 関川憲一郎

ページ範囲:P.263 - P.265

ポイント
●TPN(完全経静脈栄養法)に伴う代謝性合併症は重篤になるものも多く,予防,早期発見,発生時の対策を念頭に置いたうえでTPNを施行すべきである.
●重症の乳酸アシドーシスを回避するために,TPN施行時は早期より総合ビタミン製剤の投与が勧められる.
●TPN開始後早期には,1日数回血糖値のチェックと適宜速効型インスリンの投与を行い,異常な高血糖を予防する.
●高度の栄養障害患者では,TPN開始後比較的早期より低リン血症とそれに伴う多彩な神経症状を呈することがある.
●長期間のTPNでは小腸粘膜の萎縮が必発である.

経腸栄養法の合併症と禁忌

著者: 森一博

ページ範囲:P.266 - P.267

ポイント
●経腸栄養法は投与経路が生理的なため安全で,合併症は少ないとされてきたが,適用方法を誤れば様々な合併症を引き起こす.
●特に呼吸器感染症や菌・敗血症,また,代謝異常や欠乏症などの合併症に注意.
●対策としては,経腸栄養の開始前に,経腸栄養法のガイドライン1)などを参考にして慎重に適応を決める.また,起こりやすい合併症の特徴をよく理解しておき,経腸栄養開始後は合併症の早期発見に努める.

疾患特異的な栄養療法

外科的手術患者

著者: 酒井靖夫 ,   畠山勝義 ,   佐藤信昭

ページ範囲:P.269 - P.271

ポイント
●外科手術後には手術侵襲の大きさに相関してエネルギー消費が増大する.
●栄養障害のある患者は術後の易感染性,重篤な合併症の発生率や死亡率が高いが,栄養補給によりそれらが改善することから,手術前後には適切な栄養療法が不可欠である.
●栄養療法の内容は患者の栄養低下の程度,手術侵襲の大きさ,絶食期間の長さ,必要とする腸管の安静度および消化吸収機能の程度により決定される.
●術後早期は体液管理に重点を置いた経静脈栄養で開始し,循環動態の安定後に経腸栄養を併用し,最終的には経口栄養に移行するのが一般的である.
●消化器外科の拡大手術後は,退院後も栄養管理が必要となる例がある.

熱傷患者

著者: 後藤真弓 ,   大友康裕 ,   辺見弘

ページ範囲:P.272 - P.274

ポイント
●広範囲熱傷患者の救命に栄養管理は重要な位置を占め,患者の状態に即した集学的治療を要する.
●熱傷創の創傷治癒に伴う代謝亢進と蛋白異化亢進が起こるため,大量のカロリーを消費する.
●十分なカロリーの投与とともに,蛋白異化亢進に対して十分なアミノ酸投与を行う.
●投与経路としては,経口あるいは経管栄養に中心静脈栄養を併用する.特に腸管におけるbacterial translocationに起因した敗血症の点からも,経口・経管栄養を積極的に利用することが望ましい.
●必要エネルギーは,各種公式で算出されたカロリーだけでは決めにくい.間接熱量計などが使用できることが望ましいが,毎日の窒素バランス測定や体重測定により,栄養状態をモニターすることが重要である.

腎不全患者

著者: 秋山由里香 ,   斉間恵樹

ページ範囲:P.275 - P.277

ポイント
●投与水分量は,水分出納バランスシートを作成し決定する.
●1日投与カロリーは35〜50 kcal/kgとする.
●Cal/N比は300以上とし,蛋白異化の抑制に努める.
●保存期腎不全患者では,血中電解質濃度と併せて尿中電解質排泄量を参考にし,電解質の投与量を決定する.
●長期にわたる経静脈栄養の場合には,低K血症,低P血症,低Mg血症に注意する.
●リーナレン®は高カロリー,低蛋白で,従来の経腸栄養剤に比しNa,K,Pの含有率も低く,腎不全患者に利用しやすい.

慢性呼吸不全患者

著者: 有岡宏子 ,   工藤宏一郎

ページ範囲:P.278 - P.280

ポイント
●慢性呼吸不全状態を引き起こす疾患のなかでも特に肺気腫で,体重減少や栄養状態の悪化を認めやすい.
●慢性呼吸不全患者の栄養障害は,摂取不足と代謝亢進の両方が関与している.
●栄養障害により,呼吸筋の筋力低下,呼吸効率の低下のみならず,局所の免疫機能やサーファクタント,結合組織成分の合成能にも影響が及ぶ.
●栄養計画は,患者のその時々の栄養状態や代謝の状態に応じて,適宜調節しながら管理する必要がある.

Crohn病に対する経腸栄養

著者: 高添正和

ページ範囲:P.282 - P.286

ポイント
●Crohn病患者の多くが必要エネルギー量の多い若年者であり,一般生活を損なうこと著しい.
●Crohn病に対する栄養療法の意味は,①栄養補給,②腸管病変自体への治療効果向上にある.現時点では栄養療法がCrohn病治療に占める意味合いはきわめて高い.
●栄養治療選択の基本は,①腸管安静と②腸管自体へのエネルギー供給にある.この基本に則り,中心静脈栄養や経腸栄養を選択し,さらに栄養組成を考慮して栄養剤を選択する.
●実地臨床において栄養療法の効果は高く,たかが栄養療法と軽視することなく,各患者個別の病態に合った栄養療法を計画実行しなければならない.

短腸症候群患者

著者: 福島清乃

ページ範囲:P.287 - P.289

ポイント
●短腸症候群とは,小腸が様々な原因により広範に切除されるために,栄養素の吸収面積が減じ消化吸収障害をきたす病態である.
●水・電解質,栄養素の消化吸収には,空腸よりも回腸が重要で,特に胆汁酸とビタミンB12を吸収する終末回腸の切除は,様々な問題を起こす.
●短腸症候群患者の栄養療法は,低脂肪食が基本で,腸管粘膜の萎縮を防ぐため,できるだけ経腸的投与が望ましく,成分栄養剤が効果的に用いられる.

急性膵炎患者

著者: 上野秀樹 ,   白鳥敬子

ページ範囲:P.291 - P.293

ポイント
●重症急性膵炎において,発症早期には著明な脱水の是正を目的とした水・電解質輸液が大切である.
●循環不全離脱後は,エネルギー消費量増加および異化亢進を考慮し,十分なカロリーとアミノ酸を投与する.
●臨床症状および検査データの改善を認めたら,低脂肪食より慎重に経口摂取を開始する.
●経腸栄養は経静脈栄養から経口摂取への移行期に,胃腸管機能維持やbacterial translocation予防を目的として施行されることがある.

肝硬変症患者

著者: 正木尚彦

ページ範囲:P.295 - P.298

ポイント
●肝不全患者の血漿中では芳香族アミノ酸(Phe,Tyr)が増加するのに対し,分岐鎖アミノ酸(Val,Leu,Ileu)は相対的に低下している.
●肝硬変患者では体構成蛋白の異化亢進により負の窒素平衡にあるため,栄養療法を早期から開始する必要がある.
●分岐鎖アミノ酸は四肢筋肉が主な代謝臓器であるため,その補充療法は合理的である.

神経疾患患者

著者: 目黒謙一

ページ範囲:P.299 - P.301

ポイント
●全身性の栄養管理は一般疾患と変わりないが,神経疾患特有の着眼点が必要である.
●意識障害,嚥下障害(球麻痺・仮性球麻痺)のない状態では主として経口的に,それらがある場合は経静脈的あるいは経腸的に栄養を管理する.
●全身性の疾患が基礎にある場合にはその治療を栄養管理も含めて行うが,経腸栄養に関しては消化管の基礎疾患の有無に留意する.
●神経系に影響を与えている代謝性(欠乏症)の病態がある場合はその治療を行う.
●半側空間無視や食事に関する認知の問題も,症例によっては注意する.

癌患者

著者: 星野恵津夫 ,   茂木秀人 ,   鈴木大介

ページ範囲:P.302 - P.304

ポイント
●悪液質を呈した癌患者に強制栄養法を行っても,通常栄養状態や予後は改善しない.
●意識・意欲の障害や上部消化管の問題による低栄養状態には,栄養補助が有用である.
●食物摂取量増加のためには,症状の緩和とともにステロイド,向精神薬,漢方薬,食前酒などの投与や,環境調整が重要である.
●癌治療時に強制栄養法が有用であるのは,治療前に著明な低栄養状態の患者,あるいは治療後の経口摂取ができない時期に限られる.

高齢患者—在宅経腸栄養法について

著者: 津川信彦

ページ範囲:P.305 - P.307

ポイント
●長期に生命予後の期待できる患者には,胃瘻による在宅経腸栄養法を家族に理解してもらいすすめている.
●栄養剤の投与は,微温湯より開始して,維持量の3分の2くらいから経腸栄養剤を1〜2日ごとに増量することにしている.
●在宅成分栄養経管栄養法の対象は,原因疾患のいかんにかかわらず在宅成分栄養経管栄養法以外に栄養の維持が困難な者で,当該療法を行うことが必要であると医師が認めた者である.
●人工的な強制栄養であり,投与組成や投与法により栄養管理中に欠乏症を生じる.そのために栄養評価が最も大切である.

栄養療法による疾病治療

栄養としてのグルタミン

著者: 篠崎大 ,   斎藤英昭 ,   武藤徹一郎

ページ範囲:P.309 - P.311

ポイント
●グルタミンは,分裂能の高い細胞のエネルギー源や核酸合成の基質として重要である.
●高度侵襲時,グルタミンは腸上皮の萎縮を予防し,bacterial translocationを抑制する.

短鎖脂肪酸—大腸炎患者治療への応用は可能か?

著者: 佐々木雅也 ,   岡本敏彦 ,   馬場忠雄

ページ範囲:P.312 - P.314

ポイント
●短鎖脂肪酸は生理活性として,大腸粘膜増殖効果のほか,水・電解質吸収促進作用や血流増加作用も有している.
●短鎖脂肪酸,特に酪酸は,癌細胞のアポトーシス誘導作用や発癌遺伝子の抑制効果も有している.
●潰瘍性大腸炎では,酪酸溶液や酪酸,酢酸,プロピオン酸混合溶液の注腸療法が有用である.
●酪酸菌の経口投与にはDSS腸炎の抑制効果が認められ,短鎖脂肪酸の新しい治療法として期待される.

アルギニン—病態への関与と治療的利用の試み

著者: 大和滋

ページ範囲:P.317 - P.319

ポイント
●一酸化窒素(NO)は,生体の多くの部位においてその情報伝達物質として機能している.
●NOは,NO合成酵素によりアルギニンから産生される(L-アルギニン-NO系).
●L-アルギニン-NO系は,血管内皮細胞,中枢および末梢神経,免疫細胞などに存在し,産生されたNOは,血管拡張および血小板凝集抑制作用,神経伝達物質としての機能,微生物に対する抗菌作用などを有する.
●L-アルギニン-NO系の異常は,高血圧,腎障害,敗血症性ショック,消化管粘膜障害など種々の病態に関与している.
●これらの病態に対して,NOやL-アルギニン,あるいはNO合成阻害剤などの投与が試みられている.

成長ホルモン—Crohn病患者に合併する低身長への臨床応用の可能性

著者: 綾部時芳 ,   高後裕

ページ範囲:P.320 - P.321

ポイント
●Crohn病に合併する成長障害は,本邦においても決して稀な病態ではない.
●Crohn病の発症時期が成長期に重なるため,成長障害を残さないためには,早期診断して速やかに栄養療法を行うことが大切である.
●栄養療法を行っても改善しない骨端線閉鎖前の成長障害(低身長)に対する新しい治療として,筆者らの行った遺伝子組換え型ヒト成長ホルモン長期投与療法は期待できる.

経静脈栄養剤・経腸栄養剤の種類と特徴

経静脈栄養剤の種類と特徴

著者: 藤田健二 ,   半田智子

ページ範囲:P.322 - P.336

ポイント
●細胞外液補充剤,総合電解質輸液剤,アミノ酸製剤,高カロリー輸液剤など,各製剤の特徴を理解する.
●糖質の違いによる代謝の特性を理解する.
●高カロリー輸液投与時には,ビタミンB1欠乏症による代謝性(乳酸性)アシドーシスに注意する.
●輸液中のビタミン剤は光によって活性を失うので,適切な対策(遮光バッグの利用など)をとることが望ましい.

経腸栄養剤の種類と特徴

著者: 半田智子 ,   藤田健二

ページ範囲:P.339 - P.351

ポイント
●経腸栄養剤は,消化態栄養剤(成分栄養・ペプチド栄養),半消化態栄養剤,天然濃厚流動食に分類できる.
●経腸栄養剤の特徴を理解し,患者の病態(消化機能,腎機能,肝機能など)に合った栄養剤を選択する.
●経腸栄養剤を長期投与する場合には,ビタミン,ミネラルが不足することがあるので注意が必要である.
●特殊病態用アミノ酸製剤はそのアミノ酸配合の比率に特徴があり,ほとんどカロリーはない.

理解のための30題

ページ範囲:P.353 - P.359

カラーグラフ 感染症グローバリゼーション・11

最近増加している消化管条虫性疾患—(広節裂頭条虫,無鉤条虫,大複殖門条虫,瓜実条虫,有鉤条虫,有鉤嚢虫について)

著者: 西山利正 ,   竹内寛

ページ範囲:P.363 - P.369

 わが国で遭遇する消化管条虫としては,日本海裂頭条虫(Diphyllobothriitium nihonkaiense),広節裂頭条虫(Diphyllobotnrium latum),無鉤条虫(Taenia saginata),大複殖門条虫(Diplogonopor-us grandis),小形条虫(Hymenolepis nana),瓜実条虫(Dipylidium caninum),マンソン裂頭条虫(Spirometra erinacei),有鉤条虫(Taenia solium)などがあげられる.
 そのなかでも特に,日本海裂頭条虫,広節裂頭条虫,大複殖門条虫などは,その第二中間宿主である魚類が最近の低温食品流通経路の発達により,新鮮な状態で輸送され,かつ低価格で一般市民が購入できるようになっている.よって,これらを家庭で日常的に食するようになってきた現在,それらの感染の増加の傾向がみられる.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.371 - P.376

図解・病態のメカニズム 膵疾患・2

膵と臓器相関

著者: 池田みどり ,   白鳥敬子

ページ範囲:P.379 - P.382

 胃と膵,膵と胆嚢の間には,神経や消化管ホルモンによる調節機構が存在し,それぞれの生理機能を互いに制御し合っていると考えられる.ここでは,胃の膵外分泌への関与,膵の胃分泌への影響,膵液と胆汁分泌の腸管を介する調節機構など,消化管ホルモンからみた胃,膵,胆嚢の臓器相関の生理的意義について述べる.

Drug Information 副作用情報・23

薬剤性血液障害(4)—赤血球障害・貧血(その2)

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.383 - P.385

貧血を生じる薬剤とその特徴について
 1.非ステロイド系抗炎症鎮痛剤(NSAIDs)
 NSAIDsの関係した貧血としては,
 1)消化管出血による失血性の貧血
  a)急性貧血
  b)慢性貧血
  c)慢性+急性(混合)
 2)再生不良性貧血による貧血
 3)溶血性貧血(特にメフェナム酸)
 を考えておく必要がある.
 2.抗癌剤・免疫抑制剤
 cytotoxicな作用のある抗癌剤はすべて汎血球減少症を生じる.ciclosporin,mizoribineなどの免疫抑制剤は,絶対的/相対的過量により抗癌剤と同様,骨髄を抑制し,汎血球減少症を招く.患者にはこの点に関して十分に情報を提供しておかないと,いつソリブジンの悲劇が起こらないともかぎらない.

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・14

患者が鍼灸治療について相談してきたとき

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良

ページ範囲:P.402 - P.403

 症例 変形性膝関節症で苦しむ人の民間療法
 75歳のシバタさんは,6年前から両側の変形性膝関節症と腰椎の背椎管狭窄症で受診している.途中約1年半,私の都合で中断しほかの先生にかかっていたが,再び戻って来られた.
 子どものない娘夫婦と3人で暮らしており,家事や買物を分担している.就寝中の早朝,寝返りとともにこむら返りで下肢がつることがあり,入浴時によくマッサージしてから休むようにしている.左膝の疼痛,運動制限がひどく,アルツ®の注入を隔週で行い,杖歩行している.手術の適応もあり説明を受けたが,本人は拒否している.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・34

プロカと大脳機能局在説

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.404 - P.405

 1861年の春,パリの人類学会でガルの言語機能前頭葉局在説が論議された.ガルはドイツ生まれのフランス解剖学者で,友情,誇り,野心,詩才など27の性質を頭蓋骨の上に投影する,いわゆる骨相学(Phrenologie)を提唱した人であるが,40年ほど前に出版した本の中で,言語(記憶)は精神機能の基本素材であり,前頭葉に局在していると述べていた.
 このガルの考えは,シャリテ病院の内科教授が100症例以上の脳腫瘍患者でこれを支持したものの,高名な脳生理学者が脳の破壊や刺激実験でこれを否定して,一般には脳の機能は局在せず,脳は一つの全体臓器であると考える人が多かった.

medicina Conference・24

胸部不快感,動悸,労作時呼吸困難を訴えた48歳の男性

著者: 山田正和 ,   井上昌彦 ,   永森哲也 ,   高橋俊明 ,   亀井徹正

ページ範囲:P.388 - P.400

 症例:48歳,男性,会社員.
 主訴:胸部不快感,動悸,労作時呼吸困難.
 既往歴:特記すべきことなし.タバコ20本/日,30年.飲酒はしない.仕事は菓子原料運搬だが最近は休みがちであった.28歳で結婚し,30歳時長男が誕生している.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?