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雑誌目次

雑誌文献

medicina35巻3号

1998年03月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医に必要な癌のマネジメント 癌の予防方法とコントロール

喫煙と飲酒と癌予防

著者: 谷口志穂 ,   篠原聡 ,   相澤好治

ページ範囲:P.414 - P.416

ポイント
●喫煙は肺癌をはじめとする,あらゆる癌のリスクとなりうる.禁煙をすることにより,5〜10年で喫煙によるリスクが低下していく.禁煙は最も効果的な癌の一次予防法である.
●飲酒による発癌作用は,単独では下部消化管の癌や前立腺癌を増加させる.アルコール飲料の種類や飲酒方法を工夫することにより,リスクを軽減することができる.

食生活と癌予防

著者: 菊地正悟 ,   黒澤美智子

ページ範囲:P.417 - P.419

ポイント
●食生活改善による予防が有効であるためには,食生活と癌の間に因果関係の存在が必要である.
●他の要因の存在や摂取量の地域差といった背景の差によって,食生活と癌の関係は異なることが少なくない.
●食生活改善には,費用の上昇やストレスを伴うことがある.
●脂肪分や高塩食品など特定の成分の過剰摂取や偏食を避け,なるべく多くの食品をまんべんなく摂取することが癌予防のうえで望ましい食生活である.

癌の遺伝学的コントロール

著者: 渡辺泱 ,   三神一哉 ,   中川修一 ,   小島宗門

ページ範囲:P.420 - P.423

ポイント
●癌の家族内発生の研究から導き出された概念である遺伝性腫瘍症候群・高発癌性遺伝病は,そのDNAレベルでの原因の解明が進んでおり,そうした研究は普遍的な癌の発生機序の解明に対して大きな役割を果たしている.
●こうした知見をもとに,家族歴のある患者の発癌前にDNA診断を行うことも可能となってきているが,インフォームド・コンセントなどの問題も大きく,どこまでの介入が必要なのかは議論のあるところである.
●これまでに解明された知見と,遺伝学的コントロールについて若干の考察を行った.

癌のスクリーニング

結腸・直腸癌のスクリーニング

著者: 小山捷平

ページ範囲:P.425 - P.427

ポイント
●結腸・直腸癌の診断のための第一歩は,結腸・直腸癌の病態生理を知った適切な問診である.
●免疫便潜血検査は,Dukes B(T3,NO)までの進行結腸・直腸癌をスクリーニングするためとすれば有用である.
●注腸X線検査は依然として欠かせない検査である.結腸・直腸癌をよく診断するためには,第一に前処置と撮影技術,第二にはX線写真の読影力である.
●内視鏡検査は,盲腸まで挿入する技術と腺腫から早期〜進行癌病変の画像認識がインプットされた頭脳で,大腸の全表面を高い集中力で見ることのできる“目”が必要である.
●血清CEA値の測定は,結腸・直腸癌のスクリーニングというより,病期の進行度を推定するのに有用である.

前立腺癌のスクリーニング

著者: 小林裕 ,   徳江章彦

ページ範囲:P.428 - P.431

ポイント
●前立腺肥大症や排尿困難を伴う疾患との鑑別に注意する.特に前立腺肥大症と前立腺癌の合併は決して稀ではないことを考慮する.
●安易に前立腺肥大症に対してホルモン療法は行ってはならない.
●腰痛症の中には前立腺癌の患者が隠れている可能性がある.
●前立腺癌を疑ったならばPSAチェックと直腸内指診を必ず行う.

乳癌のスクリーニング

著者: 雨宮厚

ページ範囲:P.432 - P.434

ポイント
●乳癌患者数は激増しており,乳癌も含めた乳腺疾患の基礎知識は内科医にとっても必須である.
●たとえ他疾患で来院した女性患者であっても,詳細な既往歴,家族歴,system reviewの聴取,および乳房のphysical examinationをルーチンに行うことで,乳癌早期発見の糸口を見つけることができる.
●検診というmass screeningに頼ることなく,個々の患者のリスクを評価したうえで的確に専門医に紹介することが重要である.

子宮癌のスクリーニング

著者: 佐藤健 ,   利部正博 ,   中田尋晶

ページ範囲:P.436 - P.438

ポイント
●子宮頸癌の危険因子としては,低年齢からの性経験,多産あるいはパピローマ感染症などがある.
●子宮体癌の危険因子としては,未妊や不妊,長期のエストロジェン服用など高エストロジェン環境などがあげられる.
●性交時の接触出血は子宮頸癌,閉経後婦人の不正出血や膿性黄色帯下は子宮体癌を疑う.
●子宮体癌は子宮頸癌に比べて発見しにくいことがあり,その確定には子宮腔内全面掻爬や子宮鏡検査が必要である.

肺癌のスクリーニング

著者: 佐藤研

ページ範囲:P.439 - P.441

ポイント
●近年肺癌が急増している.
●健康診断には年2回の直接撮影(必要ならばCTスキャン)と,重喫煙者に対する喀痰細胞診を行う.
●胸部異常影を見たら,まず肺癌を疑う.
●長引く風邪症状でも肺癌を疑う.
●40歳以上の男性で血痰を見たら肺癌を疑い,喀痰細胞診を繰り返す.
●確診が得られないまま漫然と経過観察をしてはならない.
●気管支鏡,経皮的針生検,VATS,試験開胸などで積極的に診断をつける.
●確診後は,TNM臨床分類に基づき病期を判定し,治療方針を速やかに決定する.

肝癌のスクリーニング

著者: 渋谷明隆 ,   里道哲彦

ページ範囲:P.443 - P.445

ポイント
●ハイリスクグループの設定が肝癌スクリーニングの第一歩である.
●肝細胞癌ハイリスクグループとして,①40歳以上(男性に多い),②HCV抗体陽性またはHBs抗原陽性,③肝硬変・慢性肝炎,④血小板数10万以下,⑤GPT値80以上持続例,があげられる.
●肝細胞癌スクリーニングとして,上記症例に対し①画像診断:腹部超音波検査(3〜6ヵ月ごと),CT,MRI(6〜12ヵ月ごと),②腫瘍マーカー:AFP(L-3分画)と高感度PIVKA-II(2〜4ヵ月ごと)を測定する.

癌マーカーによるスクリーニング

著者: 安藤真弘 ,   渋谷昌彦

ページ範囲:P.446 - P.448

ポイント
●現在使われている癌マーカーは癌に対して特異的ではないため,カットオフ値を設定し,特異度と感度の点から評価しなければならない.
●マーカーの経時的な測定は,治療の効果判定,術後再発の予知,再発の診断,予後の判定などに有用であるが,早期診断への応用はいまだ困難である.
●癌を疑うときは,その臓器と予測される組織型に応じてマーカーを選択すれば,無駄な検査を少なくすることができる.

癌治療の基本ルール

癌の基本的治療のルール

著者: 高見昭良 ,   中尾眞二

ページ範囲:P.449 - P.453

ポイント
●癌の治療法には外科療法のほかに,化学療法,放射線療法,免疫療法,集学的治療などがある.
●化学療法を行うためには,骨髄,肝,腎などの機能が十分に保たれていることが必要である.
●化学療法の効果は,有効性,安全性,および両者を考慮した有用性について検討される.
●現在の抗癌剤は毒性が不可避であるため,治療に際しては患者のQOL(quality of life)を十分に考慮し,慎重に適応を決定するべきである.

インフォームド・コンセントと告知

著者: 山本和利

ページ範囲:P.454 - P.456

ポイント
●インフォームド・コンセントがなされたというためには,①行われる検査や治療がどのようなものであるか,②それを行うことによって患者にどのような利得または危険をもたらすか,③何もしないということを含めて他の選択肢としてどのようなものがあるのか,を示すことである.
●患者の関心事,期待,医療に対する価値観などを,開いた質問をして引き出す必要がある.
●患者の気持ちの変化に,医師は柔軟性をもって対応しなければならない.
●入院治療が必要となった患者にどこまでインフォームド・コンセントをして欲しいか,事前に患者の意見を聞き出すのが現実的である.

抗癌剤による副作用のマネジメント

骨髄抑制

著者: 猪野裕英

ページ範囲:P.457 - P.459

ポイント
●癌の化学療法では,dose intensity(DI)をいかに高めるかが重要である.
●一方,各抗癌剤の投与規制因子を十分理解することが大切である.ほとんどの抗癌剤で骨髄抑制がみられ,投与規制因子となる.
●顆粒球減少症対策として,G-CSFの使用法の理解が重要である.
●骨髄抑制後の回復期には,白血球より血小板増加のほうが早い傾向にあり,骨髄抑制回復の目安となる.

口内炎

著者: 桑澤隆補

ページ範囲:P.460 - P.461

ポイント
●抗癌剤投与により発症する口内炎は疹痛,摂食障害などを引き起こし,患者のQOLを低下させる.また,重篤になると治療を中断せざるをえず,口内炎の予防,治療を適切に行うことは癌化学療法を行ううえで重要なことである.
●口内炎の予防は口腔の清掃を基本に,含嗽,oral cryotherapyが行われる.
●治療は対症療法が主で,様々な方法,薬剤が用いられているが,個々の病態に応じた治療が求められる.

嘔気・嘔吐

著者: 原猛

ページ範囲:P.462 - P.464

ポイント
●抗癌薬による嘔気・嘔吐は,acute emesis,delayed and persistent emesis,anticipatoryemesisに分類される.
●抗癌薬による嘔気・嘔吐は,若年者,女性,飲酒歴のないもの,前治療のあるもの,また投与方法では薬剤の量が多いほど,注入速度が速いほど,投与間隔が短いほど高率に出現する.
●催吐作用の強い抗癌薬としてはcisplatin(>50mg/m2),cyclophosphamide(>1,500mg/m2),methotrexate(>1,000mg/m2),dox orubicin(>60mg/m2)などがある.
●多剤併用療法で催吐作用が増強する場合がある.
●制吐療法としては5-HT3受容体拮抗薬の予防的投与が広く行われ,有効率は高い.無効例には副腎皮質ステロイドなど他剤との併用,制吐薬投与時期,抗癌薬投与方法の工夫および患者の精神面のケアなどの対策が必要である.

下痢

著者: 内藤雄二

ページ範囲:P.465 - P.467

ポイント
●抗癌剤による下痢は多くの場合dose-limiting factorであり,抗癌化学療法の継続を困難にさせるほか,患者のQOLを損なう.
●抗癌剤起因性大腸炎は,非特異的なものから急性出血性大腸炎や偽膜性大腸炎など様々な病像を示す.
●止痢薬や鎮痛薬の不適切な投与により,病状が増悪することがある.大腸内視鏡検査は,器質的診断へのアプローチとして最優先されるべきである.
●難治性麻痺性イレウスや中毒性巨大結腸症を合併した場合には,外科的治療の適応を考慮する.

肺臓炎

著者: 日高紀子 ,   内丸薫 ,   谷口俊恭

ページ範囲:P.468 - P.471

ポイント
●その抗癌剤のリスクファクターが何かを知っておくこと(総投与量,肺基礎疾患,高齢,放射線療法,高濃度酸素,他剤併用など).
●抗癌剤の投与中,投与後に乾性咳嗽,呼吸困難,原因不明の熱を認めたら,薬剤性肺障害を鑑別の一つに考える.
●早期発見が唯一肺臓炎を減少させ死亡率を下げるので,肺臓炎のわずかな徴候(finecrackle,DLco低下,労作時の酸素飽和度低下など)を見逃さないようにする.
●胸部X線は必ず投与前と比較して評価する.
●腫瘍,感染,放射線による肺臓炎と鑑別が必要で,時には生検を含む侵襲的な診断が重要である.
●治療の基本は薬剤の中止であり,必要に応じてステロイドを投与する.

出血性膀胱炎

著者: 浅野友彦 ,   早川正道 ,   中村宏

ページ範囲:P.472 - P.474

ポイント
●シクロホスファミド,イホスファミド投与後1〜3日目に,強度の膀胱刺激症状を伴う血尿で発症する.
●大量輸液,メスナ投与による予防が重要である.
●発症した場合には,速やかに原因となった薬剤の投与を中止する.
●強度の血尿のため尿閉を起こす患者では,3way留置カテーテルを留置し,持続膀胱洗浄を行い,1%ミョウバン水による持続膀胱灌流,マーロックス®やプロスタグランジン製剤の膀胱内注入などを行う.

抗癌剤の静脈からの漏出

著者: 佐々木純 ,   加藤淳

ページ範囲:P.475 - P.477

ポイント
●抗癌剤の漏出は医原性であり,重篤な後遺症を残す可能性があるため,迅速で適切な処置が必要である.
●現在推奨されている血管外漏出への対処法は,randomized studyによらない報告に基づいたものであり,いまだ流動的である.

癌患者にみられる合併症のマネジメント

感染症

著者: 岡三喜男 ,   寺師健二 ,   河野茂

ページ範囲:P.479 - P.481

ポイント
●癌患者はcompromised hostであり,常に感染の危険にさらされている.
●好中球減少時には感染による自覚症状が乏しいので,発熱の有無,血液検査を頻回にチェックしておく.
●好中球減少時の感染予防のためG-CSF製剤が用いられている.
●感染時には起炎菌の検索とともに,速やかに経験的な治療を開始する.

出血傾向

著者: 前川平

ページ範囲:P.482 - P.484

ポイント
●癌患者の約15%に何らかの出血傾向が認められ,その原因としては,抗癌剤や放射線治療,癌の骨髄転移による造血抑制と基礎病態自体による凝固・線溶系の異常(播種性血管内凝固症候群:DIC)に大別される.
●DICの基礎疾患として最も多いのは固形腫瘍であるが,白血病,産科的疾患,敗血症,外傷,ショック状態など多岐にわたる.
●白血病では線溶亢進/出血型DIC,敗血症では血栓形成/臓器障害型DICであり,固形癌では後者に近い病態をとることが多い.

高カルシウム血症

著者: 岡崎具樹

ページ範囲:P.486 - P.488

ポイント
●悪性腫瘍に伴う腫瘍随伴症候群の中で,高Ca血症は最も多いものの一つであり,骨転移が全くみられないものが多い.その際,血漿PTHrP値の測定が決め手になる場合が多い.
●アルブミン値で補正した修正Ca値が11.0mg/dlを超えればその存在を疑い,その是正に努めることは,末期癌患者のquality of lifeを維持するのに大切である.
●治療は必発する脱水を,溢水による心不全に十分注意しながら輸液で行い,修正Ca値が12.0mg/dlを超えれば,速やかにビスフォスフォネート製剤投与に踏み切る.

脊髄圧迫症候群

著者: 樋口逸郎

ページ範囲:P.490 - P.492

ポイント
●脊椎や硬膜外転移腫瘍による脊髄圧迫は癌患者にしばしばみられる病態であり,圧迫症状が急速に進行する場合には神経学的緊急症である.
●早期診断,早期治療が不可欠であり,治療開始が遅れれば麻痺症状の回復は困難となる.
●MRIにより診断が可能であり,特に造影剤であるgadoliniumを使用することで大多数の腫瘍は明瞭に検出される.
●脊髄圧迫症状が急速に進行している場合には,副腎皮質ステロイド薬や放射線治療による除圧をはかる.さらに,全身状態や原疾患の状況に応じて椎弓切除などによる脊髄の減圧術を行う.

腫瘍随伴神経症候群

著者: 星野晴彦

ページ範囲:P.495 - P.497

ポイント
●腫瘍随伴神経症候群は,悪性腫瘍が診断されるよりも数ヵ月先行して神経症状を呈する場合が多い.
●各種自己抗体が原因と考えられている.
●腫瘍随伴神経症候群と悪性腫瘍の種類との間に関連性が高いものが多い.
●悪性腫瘍の治療により症状が改善するものもあるが,関係なく進行するものもある.
●重症筋無力症,多発筋炎,Lambert-Eaton筋無力症症候群などではステロイドなどによる有効な治療法がある.

悪性胸膜炎

著者: 中西洋一

ページ範囲:P.498 - P.500

ポイント
●悪性胸水に対する治療の目標は,胸水をコントロールすることによってQOLを維持することである.
●悪性胸水のコントロールにおける標準的治療は,胸水ドレナージとこれに続く胸膜癒着術である.
●胸膜癒着術は,抗腫瘍効果よりも中皮の線維化と胸膜の小血管の閉塞を目的としたものである.
●胸膜癒着剤としては,ブレオマイシン,OK 432,テトラサイクリン系薬剤,タルクなどが使用される.

低栄養状態

著者: 松本主之

ページ範囲:P.501 - P.503

ポイント
●癌患者の低栄養状態は,悪液質に関連したいくつかのメディエーターがその発生に関与するため,難治性,進行性の経過をとる.
●筋組織における蛋白分解の亢進およびアミノ酸と乳酸からの糖新生の亢進による蛋白の消費が,癌患者の低栄養状態における主たる代謝異常である.
●身体計測,血液・尿データのみならず,筋力測定も癌患者の栄養指標となる.
●低栄養状態の治療には経腸栄養と中心静脈栄養が用いられるが,これらの栄養療法が癌治療の効果や予後を改善したとの臨床データはない.したがって,癌患者の栄養治療はquality of lifeの向上が主な目的となる.

癌患者の疼痛のマネジメント

疼痛対策のABC

著者: 加藤実

ページ範囲:P.504 - P.507

ポイント
●癌患者に疼痛が出現した場合,疼痛原因として複数の因子の関与を考慮する必要がある.
●痛みに対するアプローチのしかたを身に付けることが大切がある.
●適切な鎮痛法を選択するためには,痛みの原因とそれに関与する柊痛発生機序を理解する必要がある.
●WHOの除痛3段階ラダーにもとづいた鎮痛薬を中心とした疼痛管理を行う.
●副作用対策の投薬を必ず初めから行う.
●鎮痛補助薬を積極的に鎮痛薬と併用することで,迅速に疼痛の軽減や鎮痛薬の使用量を少なくできる.
●薬物療法以外の鎮痛法として,放射線療法,神経ブロック療法,外科的療法などがある.

癌患者の終末医療

ホスピスの理念

著者: 柏木哲夫

ページ範囲:P.509 - P.511

ポイント
●人が生きることを尊重し,誰にも例外なく訪れる「死への過程」に敬意をはらう.
●死を早めることも死を遅らせることもしない.
●痛みやその他の不快な身体症状を緩和する.
●精神的・社会的な援助を行い,患者に死が訪れるまで,生きていることに意味を見いだせるようなケア(霊的ケア)を行う.
●家族が困難を抱えて,それに対処しようとするとき,患者の療養中から死別したあとまで家族を支える.

ホスピス・緩和ケア病棟と一般病院のパリアティブケアの比較—問題点とその考察

著者: 木澤義之 ,   志真𣳾夫

ページ範囲:P.512 - P.515

ポイント
●ホスピス・緩和ケア病棟と一般病院の相違点としては,治療目標,人的・時間的余裕,チームアプローチ,症状コントロールの質などがあげられる.
●一般病院で質の良い緩和ケアを提供するためには,患者や家族に十分な説明を行ったうえで,症状コントロールを行うとともに精神心理的症状にも対応することが必要である.
●チームの中心は看護チームであることを認識し,カンファレンスなどを通じチーム内での意思疎通を密にする.
●質の良い緩和ケアを提供するためには人的,時間的余裕が必要であることを認識し,人員の増員などについても考慮する.

パリアティブケアに関わる諸問題

著者: 石谷邦彦

ページ範囲:P.517 - P.519

ポイント
●パリアティブケアに関わる諸問題について,サイコオンコロジーという専門分野が登場している.
●家族とは患者と血縁関係にある人,あるいはその他の人々で患者にとって重要な鍵となる人である.
●患者・家族,医療者間のコミュニケーションは,患者の意思を尊重することを中心に,適切なインフォームド・コンセントをもって行われる.
●安楽死の正確な意味,消極的安楽死という概念が否定されていることを知っておく必要がある.
●パリアティブケアにおいて経済的負担に見合う医療の質が保証されなければならない.

癌と遺伝子

癌と遺伝子の関係はどこまでわかったか

著者: 瀧本将人

ページ範囲:P.520 - P.523

ポイント
●癌は複数の癌遺伝子・癌抑制遺伝子に変異が生じたために起こる遺伝子病である.
●癌遺伝子・癌抑制遺伝子産物の機能が分子のレベルで明らかになってきた.
●最近の分子生物学的手法の開発により,新しい癌遺伝子・癌抑制遺伝子が次々と見つかっている.
●癌が遺伝子病であることは,癌の診断・治療・予防法の確立のために有利であり,癌の医学がさらに進歩すると期待される.

理解のための28題

ページ範囲:P.525 - P.530

カラーグラフ 感染症グローバリゼーション・12

最近話題の美食・ゲテモノ食いによる寄生虫症—幼虫移行症—アニサキス亜科幼虫移行症,顎口虫症,旋尾線虫症,マンソン孤虫症について

著者: 西山利正

ページ範囲:P.537 - P.542

 寄生蠕虫は,その本来の固有宿主に感染型幼虫や幼虫包蔵卵が感染した場合,宿主体内で成虫となりその生活史を維持することができる.従来わが国で猛威をふるっていた回虫症,鉤虫症,鞭虫症などの古典的消化管寄生虫症などがそれにあたる.これに対し,一部の蠕虫において,本来固有宿主でない宿主に偶発的に寄生した場合,成虫とならずに幼虫の状態で皮下や臓器を移行し,幼虫のままで宿主に寄生することが次第に判明してきた.このような寄生形態を幼虫移行症(Larva migrans)と呼び,現在の寄生虫学において重要な寄生概念の一つとなっている.
 幼虫移行症を引き起こす寄生虫としては,線虫類ではイヌ回虫,ネコ回虫,アニサキス亜科寄生虫,広東住血線虫,顎口虫,イヌ糸状虫など,吸虫類では宮崎肺吸虫など,条虫類ではマンソン孤虫,有鉤嚢虫,包虫などが知られている.今回,これらの幼虫移行症を起こす寄生虫のうち,海産魚類から感染する内臓幼虫移行症であるアニサキス亜科幼虫移行症ならびにいわゆるゲテモノ食いにより感染する皮膚幼虫移行症である顎口虫症,旋尾線虫症,マンソン孤虫症について述べることとする.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.545 - P.550

図解・病態のメカニズム 膵疾患・3

急性膵炎重症化のメカニズム

著者: 山本正博

ページ範囲:P.533 - P.536

 急性膵炎死亡例の検討によると,その死因は循環不全とそれに引き続いて発生する比較的早期の重要臓器不全と,後期の重症感染症に基づく多臓器不全の2つに大別される(図1)1)
 急性膵炎の重症化機序の解明が進むなかで,発症早期の臓器機能障害はもとより,現在なおその治療成績の改善を妨げている重症感染症発生の過程に,免疫をはじめとする生体反応との関連が指摘されるようになった.ここでは,臓器障害発症にかかわる急性膵炎重症化のメカニズムについて最近の知見を述べる.

演習 腹部CTの読みかた・8

黄疸を呈した67歳の男性

著者: 斎藤拓郎 ,   岩田美郎

ページ範囲:P.553 - P.561

Case
 67歳,男性.主訴:黄疸
 3ヵ月前より上腹部痛,全身倦怠感を自覚していた.1週間前より身体の黄染に気付き近医を受診.腹部超音波検査で膵頭部に異状を指摘され,当院紹介となった.当院受診時,皮膚の黄染は著明で眼球結膜にも黄疸を認めた.臍上部正中に固い腫瘤を触知したが,特に圧痛はなかった.
 臨床検査データでは,GOT 198U/l,GPT 429U/l,総ビリルビン 21.0mg/dl,直接ビリルビン 14.8mg/dl,ALP 851U/l,アミラーゼ 146U/l,CRP 0.26mg/dl,WBC 7600/ulと異常が認められた.腫瘍マーカーは,CA19-9が1,103U/mlと高値を示していた.

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・15

共感を表現することの苦手な医学生

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良 ,   竹中直美

ページ範囲:P.562 - P.563

 症例 日中独居で夜眠れないやもめの年寄
 69歳,男性.夜眠れないと訴えて受診したマツダさん.3年ほど前から不眠で近医にかかり,降圧剤とともに睡眠剤を服薬している.1回に4錠飲んでも眠れず,2週間分の睡眠剤は3日でなくなり,薬局で市販薬を購入する.
 「この1週間,夜まったく眠れなくて,昼はフラフラして,立って歩いても倒れそうになる」
 歯切れの悪い話し方で,うつむいて眠そうな表情のマツダさんは,妻を4年前に脳卒中で失い,本人も3年前に胃癌の手術をしている.現在,2人の息子と3人暮らしである.臨床実習で外来初診を担当したTさんは,マツダさんの日中の生活について尋ねた.

Drug Information 副作用情報・24

トログリタゾン(ノスカール®)による肝臓死—危険と利益のバランスをどう判断する?

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.565 - P.570

 トログリタゾン(ノスカール®)は,ビタミンEの骨格を有するチアゾリジン誘導体で,生体内におけるインスリンの作用を増強し,末梢(筋肉,脂肪)での糖利用の促進,肝糖新生の抑制等により血糖を降下させる新規の作用機序を有することが示された1)として,1995年に承認され,1997年3月に発売が開始された.11月末までの約半年間で15万〜20万人に処方され,13例に重症肝障害を生じ,そのうち3例の死亡例が報告された2).12月25日の発表では,入院あるいは入院相当の重症肝障害例が74人(2,700人に1人以上),うち死亡例は4人となった3,4).厚生省にはその後も報告されており,現在集計中とのことである4).潜在患者,潜在死亡者を考慮すると,死亡率も重症の患者発生率もさらに大きくなると思われる.
 アメリカでも,60万人に処方されて肝障害165例,死亡が4例報告されている3).イギリスでは,日本やアメリカからの死亡例の報告により,早速発売が中止された.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・35

ベーコンの「学問の進歩」への道

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.572 - P.573

 医学の分野では,すでに2世紀にローマのガレノスが,さまざまな動物の実験によって新しい科学的医学の構築を試みている.動脈には血液がなく精気(プネウマ)だけがあるという伝統的な思想を確かめるために,ガレノスは動脈を針で刺して血液の存在を示したり,尿が尿管によって膀胱に入ることも,尿管の結紮によって示した.しかし,時代思想としての4原質,4体液論からは逃れられないまま終わった.
 ロバート・ボイルが『懐疑的化学者』を書いて,すべての物質が4原質(火空土水)やパラケルススの3原質(水銀,硫黄,塩)からできているという古来の帰納的推論を排除したのは1661年のことである.ボイルは,ある理論の反証となる実験的事実がある場合には,先入観を去って疑問を提出しつづけた.

SCOPE

EBM(Evidence-based Medicine)による内科腫瘍学

著者: 勝俣範之 ,   渡辺亨

ページ範囲:P.577 - P.586

がん診療におけるEBM
 腫瘍内科医(medical oncologist)は,抗がん剤などの薬物療法を手段としてがん患者の治療を行う.何百種類ものがんを正しく診断し,約70種類の抗がん剤の中から最善と思われるものを選び出し,さらに患者の生命の質(Quality of Life:QOL)や医療経済効率(cost effectiveness)などを考えながら治療を組み立てていくのは容易なことではない.がん診療も,ともすれば経験主義,権威主義に走ってしまう傾向にあるが,“がん”という生命に重大な影響を与える疾患を持つ患者に対する医療が,何の科学的根拠もなく医師個人の限られた経験に基づいたものばかり行われた場合,時として患者に不利益をもたらしてしまうことがある.特に抗がん剤は副作用が強く,過剰投与をした場合,患者を死に至らしめることもある.逆に副作用を恐れ,投与量を加減したりすれば効果が出なくなってしまう.腫瘍内科医は,行おうとする治療が本当に患者に利益をもたらすことができるかどうか科学的根拠(evidence)を基に,日常の意志決定(decision making)をしていかなくてはならない.その際に,内科腫瘍学もまさにEBMの手法が必要不可欠のものとなる.

medicina Conference 解答募集・26

下記の症例を診断して下さい.

ページ範囲:P.551 - P.551

 症例:69歳,男性.沖縄県在.
 主訴:発熱,頭痛,意識障害.
 既往歴・家族歴:特記すべきことなし.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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