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雑誌目次

雑誌文献

medicina35巻5号

1998年05月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医がよく遭遇する血管疾患

理解のための31題

ページ範囲:P.919 - P.925

イントロダクション

血管の解剖と病態

著者: 錦見尚道 ,   櫻井恒久 ,   二村雄次

ページ範囲:P.804 - P.808

ポイント
●動脈拍動を触知しないのか,触知できていないのかは,動脈疾患の診断で最も重要なポイントとなる.触知すべき動脈の位置を,筋肉,骨などとの関係において理解しておく必要がある.
●上肢に比べ下肢のほうが静脈疾患の頻度は多い.表在静脈の走向には個体差が大きいが,大伏在静脈は下肢内側の静脈還流を受け,小伏在静脈は下腿内側の静脈還流を受けている.下肢では深部静脈が90%,表在静脈が10%程度の割合で静脈還流に寄与している.

動脈硬化の成り立ち

著者: 森崎信尋

ページ範囲:P.809 - P.811

ポイント
●動脈硬化は,一つには,高脂血症に続くLDLの動脈壁への侵入,LDLの酸化,内皮細胞表面における接着因子の発現,単球の侵入とマクロファージ化,マクロファージの酸化LDL取り込みによる泡沫化,病巣の破裂などの機序で発生する.
●他の一つは,内皮細胞傷害に続く,中膜平滑筋細胞のフェノタイプ変換,遊走,増殖,線維形成の機序で発生する.
●これらの反応には防御的側面があるが,その行き過ぎや歪みから動脈硬化が発生する.

動脈疾患・静脈疾患の促進因子—外科の立場から

著者: 増田政久

ページ範囲:P.812 - P.813

ポイント
●各脈管疾患は確実に増加しており,各病態を促進する因子を把握することは重要である.
●これらの疾患に対して外科治療を施行する際,術後合併症の多くは術前から併存する危険因子によるものがほとんどで,まさにこれらは促進因子に起因する障害である.
●この領域に対する治療は内科と外科の相互連携が重要であり,各疾患の促進因子が手術成績を左右することを十分に認識すべきである.

診断の基本

動脈疾患・静脈疾患の症候と理学所見のとり方

著者: 平井正文

ページ範囲:P.815 - P.818

ポイント
●動脈・静脈疾患ともに,その診断には理学所見が極めて大きな比重を占めている.
●四肢のしびれ,冷感については,その部位と広がりの聴取が大切である.
●血行障害による間歇性跛行は極めて特異的であり,問診が重要である.
●静脈還流障害の診察は,原則的に立位で行う.
●静脈還流障害による浮腫の特徴は,片側性,チアノーゼ,慢性期での静脈拡張,色素沈着の合併である.
●血管疾患と同時に他疾患が併存する可能性を常に留意する.

血管疾患の画像診断—超音波法

著者: 加地修一郎 ,   吉田清

ページ範囲:P.819 - P.822

ポイント
●経胸壁心エコー図,経食道心エコー図は,急性大動脈解離の診断において的確な病態の把握に必要不可欠なものである.
●経胸壁心エコー図による急性大動脈解離の診断のポイントは,合併症である大動脈弁閉鎖不全症と心タンポナーデの有無の診断にある.経食道心エコー図は,上行大動脈,下行大動脈の描出に優れており,急性大動脈解離の診断精度は高い.またカラードプラ法を使用することにより,エントリーあるいは偽腔内の血流の有無の診断が可能である.
●腹部大動脈瘤の診断において,腹部超音波は径の測定や,内腔の血栓化の状態などを非侵襲的に評価することが可能であり,診断的価値は高い.

血管疾患の画像診断—X線CT・MRI

著者: 井上寿久 ,   渡辺滋

ページ範囲:P.823 - P.827

ポイント
●CTは大血管病変や石灰化病変の診断に有用である.
●ヘリカルCTの登場により3次元CTアンギオグラフィーが可能となった.
●MRIでは,任意の断面において撮像が可能で,形態診断だけでなく血流動態の把握ができる.
●造影3次元MRアンギオグラフィーは,大血管のみならず末梢の動静脈疾患の診断にも有用である.
●CT,MRIともに,診断的価値,禁忌を理解したうえで適応を考えなければならない.

血管疾患の画像診断—血管造影

著者: 栗林幸夫

ページ範囲:P.829 - P.833

ポイント
●血管造影は,大動脈疾患や末梢血管疾患などの血管疾患の最終画像診断法として用いられる.
●DSAの普及とカテーテルの細径化で,血管造影の侵襲度は低減している.
●胸部大動脈瘤では,弓部から分岐する主要分枝と動脈瘤との位置関係を明らかにすることが重要である.
●大動脈解離では,手術対象例における解離の流入口の同定が主たる役割である.
●下肢閉塞性動脈硬化症では,骨盤部から下腿にいたる血管の狭窄の程度や病変の長さ,さらに側副血行路の発達の有無を評価する.

治療の基本

血管疾患の薬物療法

著者: 松尾汎

ページ範囲:P.834 - P.837

ポイント
●血管疾患には動脈,静脈およびリンパ管の疾患がある.
●動・静脈疾患では,それぞれに内科治療,カテーテル的治療および外科治療が応用されている.
●内科治療の主流をなすのが薬物療法であり,一般的な鎮痛薬,動脈硬化危険因子としての高脂血症や高血圧症に対する抗動脈硬化薬,降圧薬などのほかに,抗血栓薬も繁用される.
●抗血栓療法には,血栓の形成を抑制するという観点から,凝固系に作用して血栓形成を阻害する抗凝血薬,また血小板の粘着・凝集機能を阻害して血栓形成を阻害する抗血小板薬などが含まれ,フィブリンを溶解し,血栓を溶解する線溶療法も含めて応用されている.

血管疾患の非薬物療法—Interventional therapy

著者: 畠山卓弥 ,   重松宏

ページ範囲:P.838 - P.842

ポイント
●近年,高齢者の増加により手術リスクの高い患者が増えているため,低侵襲で大きな効果が期待できるinterventional therapyが注目されている.
●治療方針の選択に際しては,病変の部位,程度,範囲,run-off,症状,年齢,合併症,手術リスク,cost-effectiveness,治療が不成功の場合や再閉塞時に予想される状況などを考慮する.
●Interventional therapyは発展途上にあるものが多く,長期成績の見きわめが必要である

緊急治療を必要とする血管疾患と治療の実際

著者: 佐久間まこと

ページ範囲:P.843 - P.845

ポイント
●大動脈疾患:突然の胸・背部痛で発症する急性大動脈解離,あるいは破裂性大動脈瘤は最も重篤な血管疾患であり,救命のためには迅速な診断と治療が不可欠である.
●末梢動脈疾患:急性動脈閉塞には塞栓症,血栓症があり,いずれも広範な閉塞では,虚血・再灌流障害による全身的合併症を併発して予後不良となることから,虚血障害が可逆的な時間内に血流回復手段を講ずる必要がある.
●静脈疾患:下肢深部静脈血栓症は突然の下肢腫脹,疼痛で発症し,有痛性赤股症などの重篤な循環障害をきたす可能性や,血栓の遊離によって肺梗塞を引き起こすこともあるため,その初期診断と早期治療が大切である

大動脈疾患

大動脈粥状硬化症

著者: 星賀正明 ,   中小路隆裕 ,   石原正

ページ範囲:P.848 - P.849

ポイント
●大動脈粥状硬化の病変は,脂肪線条,線維斑,混合病変と進展する.
●大動脈では腹部大動脈,特に腎動脈分岐部以下に粥状動脈硬化が最も起こりやすい.
●大動脈粥状硬化症を原因として大動脈瘤,大動脈解離,閉塞性動脈硬化症,動脈塞栓などを起こす.

大動脈瘤

著者: 安田慶秀

ページ範囲:P.850 - P.854

ポイント
●近年,大動脈瘤患者がますます増加し,高齢者や虚血性心疾患,脳血管疾患などの全身合併症を有する患者にも積極的に外科治療が行われ,治療成績は著しく向上している.
●大動脈瘤の自然予後は不良で,手術が唯一の根本的治療であり,診断が確定した段階で外科治療を考慮すべきである.
●破裂例,仮性動脈瘤,疼痛や圧迫などの症状を有する症候性大動脈瘤はすべて緊急手術の適応である.
●待機手術の適応は,good riskの患者では瘤径5cm以上,リスクファクターのある患者では瘤径6cm以上が手術適応となることが多い.

大動脈解離

著者: 雨宮邦子

ページ範囲:P.855 - P.858

ポイント
●近年,増加しつつある血管疾患のなかでも予後不良と考えられている大動脈解離は高血圧,先天性結合織疾患(Marfan症候群)などに合併して起こることが多い.
●特徴的な臨床症状は激しい胸・背部痛であるが,心不全,四肢の虚血症状,脳卒中様症状を呈する例もある.
●本疾患が疑われた場合は,血圧(四肢の左右差),心雑音の有無,胸部X線写真,心電図などをチェックする.
●確定診断への検査として,超音波,CT,さらには血管造影検査と段階的に施行する.これらの検査で解離の有無,偽腔閉塞の有無,解離範囲,合併症の有無を的確に診断し,治療方針を迅速に決定することが,救命への第一歩である.
●偽腔開存型のStanford A型は外科治療が原則であり,B型では急性期合併症を有する例,切迫破裂例,瘤径が5cm以上の例を除き,降圧療法主体の内科治療を行う.
●慢性期の治療は,解離腔が残存している例ではその部位の拡大を防ぐため降圧療法を継続し,定期的にCT検査などを行い,瘤径の拡大がないかなど慎重に経過観察する.
●Marfan症候群では,病型にかかわらず経過とともに瘤径の拡大してくる例が多く,早期手術が望ましい.

末梢動脈疾患

末梢動脈瘤

著者: 山口和男 ,   竹内栄二

ページ範囲:P.860 - P.862

ポイント
●末梢動脈瘤の病因には様々なものがあるが,動脈硬化性と外傷性が多い.
●大腿動脈瘤,膝窩動脈瘤などの下肢動脈瘤では動脈硬化性が多く,多発性動脈瘤を合併することがある.一方,上肢の動脈瘤では外傷性が多くみられる.
●末梢動脈瘤の症状は主に破裂,塞栓症,周囲組織への圧迫症状であるが,発生部位により多彩な症状を呈する.一般に破裂は少ないが塞栓症により四肢切断となることがある.
●手術は診断がつきしだいできるだけ早期に行うほうが成績は良い.原則として瘤切除+血行再建術を行う.

頸動脈の肥厚・狭窄

著者: 中野博司 ,   清野精彦

ページ範囲:P.863 - P.865

ポイント
●粥状硬化の病理は,マクロファージ泡沫化,脂肪斑,preatheroma, atheroma, fibroatheroma, complicated lesionの6型に分けられる.
●Carotid bruit聴取症例の80〜90%に頸動脈狭窄がある.
●内膜・中膜複合体厚(IMT)は動脈硬化の指標として有用である.
●IMT>1.5mmを壁肥厚と判断する.
●IMT>1.5mmで急性心筋梗塞,脳血管障害のリスクが倍増する.
●高コレステロール血症の改善とともにIMTは減少し,心血管事故も低下する.

急性動脈閉塞症

著者: 武田功 ,   杉村修一郎

ページ範囲:P.866 - P.868

ポイント
●急性動脈閉塞症では,急速な組織虚血の進行により四肢切断,時には生命予後に関わることもあり,迅速な診断と治療を必要とする.
●動脈塞栓症は心疾患に合併することが多く,心電図,心エコー検査などを行っておく.
●発症後6〜8時間がゴールデンタイムであり,この時間内に血行再建を行うとほとんどが障害を残さず回復する.
●血行再建時に患肢に蓄積したミオグロビン,カリウムなどの無酸素代謝産物,壊死物質の循環血液内への流入によりMNMSを引き起こすことがある.

閉塞性動脈硬化症

著者: 林富貴雄

ページ範囲:P.869 - P.871

ポイント
●ASOは動脈硬化を基盤に発症する血管疾患であり,近年疾患数は増加傾向にある.診断技術および治療法の進歩とともに,重症虚血肢よりは軽症疾患の増加が目立つ.
●ASOには他の動脈硬化性疾患の合併が多い.治療に当たっては,合併症による臓器障害を常に考慮すべきである.
●APIの測定は簡便で,再現性の高い検査法である.運動負荷と組み合わせれば軽症下肢虚血の診断が可能である.
●同じ動脈硬化性疾患である脳血管障害や虚血性心疾患と比較すると,発症年齢がやや高齢であること,危険因子のなかで喫煙が非常に高率という特徴を認める.
●ASOの長期予後は不良で,予防と早期発見・早期治療が望まれる.

閉塞性血栓血管炎

著者: 滝浪實 ,   数井暉久

ページ範囲:P.872 - P.874

ポイント
●閉塞性血栓血管炎は,主として四肢の中小動静脈が炎症性病変に侵されて血栓にて閉塞する慢性動脈閉塞性疾患である.
●喫煙習慣のある若い男性に好発する.
●症状はしびれ,冷感,安静時疼痛,潰瘍,壊死が四肢末梢に発現する.
●遊走性静脈炎を合併しやすい.
●治療は,禁煙,患肢の保温,清潔保持,外傷からの保護などの生活指導や,プロスタグランジン製剤などによる薬物治療が主軸となる.
●外科的治療は,血行再建術や交感神経節切除術があるが,適応は限られている.

Raynaud病・Raynaud症候群

著者: 倉持衛夫

ページ範囲:P.875 - P.877

ポイント
●寒冷や精神的緊張によって乏血が誘発される,四肢末梢の可逆的な一過性循環障害である.
●特定の疾患に伴うものをRaynaud症候群,特定の疾患とかかわりなく発現するものをRaynaud病という.
●若年女性に多く,膠原病などの症状として発現することが多い点に注意する.
●治療上寒冷曝露をさけることが重要で,末梢動脈を拡張させる薬剤により治療する.

高血圧に関連する動脈疾患

著者: 草野英二

ページ範囲:P.878 - P.880

ポイント
●腎血管性高血圧や大動脈縮窄症は,いずれも外科的に高血圧治療が可能であることから的確な診断が重要である.
●慢性期の腎血管性高血圧では血漿レニン活性は体液貯留のため必ずしも高くない.
●若年者ないしは50歳以上で,高血圧の家族歴がなく,眼底所見が重症で腎障害や低カリウム血症を伴う高血圧をみたら腎血管性高血圧を疑う.
●腎長径の左右差が1.5cm以上あり,高血圧を伴えば腎血管性高血圧を疑う.
●上半身の血圧が高く,下半身が低血圧,背部で収縮中期雑音が聴かれ,大腿動脈の拍動が減弱していたら大動脈縮窄症を疑う.

特殊な動脈疾患

著者: 高場利博 ,   成澤隆

ページ範囲:P.881 - P.883

ポイント
●本稿で述べる疾患はそれほど多いものではないが,末梢血管疾患の鑑別には必ず念頭におくべきものである.
●鎖骨下動脈盗血症候群と胸郭出口症候群は,上肢の間歇性跛行をきたす代表的症候群で,高齢者のみならず若年者にもよくみられる.
●膝窩動脈捕捉症候群と膝窩動脈外膜腫は,間歇性跛行など閉塞性動脈硬化症と類似の症状を訴えるが,前者は大部分が20歳前後の若年者であり,後者も50歳以下の壮年層に多い.バージャー病との鑑別が大切である.

静脈疾患

上大静脈症候群・下大静脈閉塞症

著者: 島田俊夫 ,   吉富裕之 ,   清水優美

ページ範囲:P.884 - P.888

ポイント
●上大静脈症候群・下大静脈閉塞症はそれぞれ特徴的な臨床症状を呈するため,その診断は容易である.
●原則的には悪性腫瘍および血栓形成が原因となることが多い.
●大静脈の閉塞部位に依存して関連臓器にうっ血を起こす.上大静脈症候群では顔面,胸部,頸部,頭部の腫脹をきたす.下大静脈閉塞症では下肢,閉塞部以下の腹部臓器にうっ血をきたす.
●一般的には予後は不良であるが,原因が良性の場合は生命予後は良好である.
●基礎疾患のすばやい診断が不可欠である.悪性の場合は治療は対症療法とならざるをえない.

深部静脈血栓症・深部静脈血栓性静脈炎

著者: 星野俊一 ,   小川智弘

ページ範囲:P.889 - P.891

ポイント
●深部静脈血栓症と深部静脈血栓性静脈炎とは同一疾患を指している.
●深部静脈血栓症は下肢に多く,浮腫,腫脹,疼痛,チアノーゼを呈し,重症になると有痛性青股腫や静脈性壊死に至る.
●本症は急性期には肺塞栓を惹起したり,放置すると慢性期には静脈血栓後遺症として慢性静脈不全を呈する.
●診断法にはベッドサイド検査としてHomans徴候,Lowenburgテストがあり,脈波法としてストレンゲージ脈波,光電脈波,空気脈波が用いられる.
●Duplex scanningは静脈のBモード,カラードプラにより静脈の閉塞,逆流の評価のみならず,血流動態の評価が可能である.本法は非侵襲的で,反復検査が可能であり,静脈疾患の診断法の主流となりつつある.
●静脈造影は現時点では検査のgold standardである.
●本症の治療のゴールは,急性期における症状の寛解と肺塞栓症の防止,および慢性期における静脈血栓後症候群としての慢性静脈不全の防止である.
●治療に際しては一般状態,症状の程度,発症原因および時期,血栓の存在部位,肺塞栓の有無などを考慮する.
●血栓溶解療法とそれに続く抗凝固療法は必須であり,カテーテル血栓溶解療法を第一選択とする.重症例および有痛性青股腫に対しては血栓摘除術を考慮する.
●肺塞栓予防として下大静脈フィルターの挿入は有効な方法である.

静脈瘤

著者: 江里健輔 ,   藤岡顕太郎

ページ範囲:P.893 - P.894

ポイント
●一次性静脈瘤は表在静脈,穿通枝の弁不全によって生じる疾患である.
●経産婦,立ち仕事に従事する人に多く,遺伝的要因もある.
●患肢のだるさを訴える症例が多い.
●症状のない症例に対しては積極的に治療をする必要はない.
●saphenousタイプに対しては,ストリッピングや静脈結紮術併用硬化療法が行われる.
●静脈瘤が原因と考えられる湿疹や潰瘍を有する症例に対しては,速やかに静脈瘤に対する治療を行うべきである.

肺血管疾患

肺動脈血栓塞栓症

著者: 藤岡博文 ,   中野赳

ページ範囲:P.896 - P.898

ポイント
●肺血栓塞栓症は少ない疾患ではなく,すべての科の治療過程で発症しうる.
●慢性肺血栓塞栓症は持続性の肺高血圧を呈する.
●本症の低診断率を克服するには本症を疑うことが重要である.
●確定診断には,できる限り肺動脈造影を行う.肺シンチグラムのみでは過診断につながる.
●治療はまずヘパリンを投与し,その後重症度,発症背景に応じた治療法を選択する.

血管炎症候群

高安動脈炎(大動脈炎症候群)

著者: 小林靖 ,   金子英司 ,   沼野藤夫

ページ範囲:P.900 - P.902

ポイント
●高安動脈炎は若い女性に好発する大型血管炎である.若年女子の不明熱の鑑別にあたっては本症を必ず念頭に置くことが大事である.
●本症の臨床症状は,傷害を受けた血管の部位により様々な症状が出現してくるが,上肢血圧左右差,脈拍欠損は特徴的である.
●若年者の胸腹部単純X線にて大動脈に石灰化像があれば本症を疑ってみる必要がある.

側頭動脈炎

著者: 鈴木憲明 ,   大田明英

ページ範囲:P.903 - P.905

ポイント
●側頭動脈炎(TA)は50歳以上の高齢者に好発し,しばしばリウマチ性多発筋痛症を合併する.
●高齢者の発熱,頭痛,視力障害の原因疾患の一つとしてTAを考慮する必要があり,側頭動脈の局所所見は診断上重要である.
●血沈亢進,CRP強陽性を認め,自己抗体は陰性である.
●側頭動脈の生検で巨細胞性肉芽腫性血管炎の所見が認められる.
●中等量のプレドニゾロン(40〜60mg/日)が著効するが,視力障害の予防には早期の大量投与が必要である

結節性多発動脈炎

著者: 竹内健 ,   橋本博史

ページ範囲:P.906 - P.908

ポイント
●結節性多発動脈炎(PN)は,中小動脈壁およびその周囲における病変を主体とする壊死性血管炎で,障害される血管の太さにより古典的PNと顕微鏡的PNに分類される.
●顕微鏡的PNは,肺および腎症状がほぼ必発で,MPO-ANCAが高率に陽性となる.
●いずれの病型のPNも急速に進行し,しばしば予後不良であるので,早期からの積極的治療法が望ましい

膠原病随伴性の血管炎

著者: 坂根剛 ,   鈴木登

ページ範囲:P.909 - P.911

ポイント
●膠原病では血管炎による血管壁の破壊のために多彩な臓器症状を示す.
●全身性エリテマトーデスや慢性関節リウマチにおいては,全般的な活動性が高い症例で血管炎が強くあらわれることがあり,普段より膠原病を良好なコントロール状態に保つことが必要である.
●血管炎の程度を早期に把握し,重篤な血管炎が存在するときにはステロイド薬や免疫抑制薬の早期からの使用が勧められる.

中小動脈・細動脈の血管炎

著者: 安倍達

ページ範囲:P.912 - P.914

ポイント
●血管炎は血管壁の一次性炎症性疾患である.
●臨床症状は血管炎と血栓形成による障害臓器の虚血症状である.
●血管障害による症状のほかに高率に全身症状を示す.
●Wegener肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎はANCA関連血管炎である.
●ANCA関連血管炎では,障害血管壁への免疫複合体の沈着はないか,少ない.
●Wegener肉芽腫症は,ステロイド剤と免疫抑制剤の併用によって高率に寛解が期待できる.

リンパ管疾患

リンパ浮腫

著者: 加藤逸夫 ,   北川哲也 ,   小川佳宏

ページ範囲:P.916 - P.918

ポイント
●リンパ浮腫とは,種々な原因によるリンパの輸送障害により,高蛋白性間質液が貯留して生じる軟部組織の腫脹である.
●本邦では子宮癌治療後の二次性リンパ浮腫が多く,次いで乳癌術後のものが多い.
●リンパ浮腫は放置すれば進行性である.
●リンパ浮腫治療の原則は,早期から徹底した保存的治療法を開始し,これを継続することにある.
●保存的治療法の骨子は,スキンケア,リンパ誘導マッサージ,圧迫,圧迫下の運動療法にある.
●今後,いっそう優れた外科的治療法の開発が望まれる.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.929 - P.934

演習 腹部CTの読みかた・9

胸部異常陰影から精査となった64歳男性

著者: 飯野美佐子 ,   岩田美郎

ページ範囲:P.935 - P.943

Case
 64歳,男性.乾性咳嗽,血痰を主訴に近医を受診.胸部異常陰影が認められたため,精査目的で本院紹介となる.胸部CT,気管支鏡などの所見から転移性肺癌と診断された.既往歴に特記すべきことなし.理学的検査では右下腹部に腫瘤を触知.原発巣検索目的の腹部超音波検査で,右腎下極に大きさ11×8cmの腫瘤が認められた.腫瘤は全体的には低エコーを示すものであったが,内部には壊死と思われる不均一なエコーも認められた.血液検査:WBC 8,000/μl,RBC 4.81×106/μl,Hb 14.2g/dl,Ht 42.8%,血小板 27.9×104/μl,CRP 1.07mg/dl,ESR 47mm/hr,BUN 14mg/dl,Cr 0.8mg/dl,図1aは単純CT,図1bは造影CT血管相,図1c,dは造影CT平衡相である.(図1a〜cは右腎下極付近を通る同一スライス面.図1dは右腎門部レベルのスライス)

図解・病態のメカニズム 膵疾患・5

アルコール性膵炎の病態と発生機序

著者: 山口泰三 ,   大槻眞

ページ範囲:P.945 - P.949

 膵臓に浮腫,出血,壊死などの急性病変を生じるか,あるいは線維化,肉芽組織などの慢性病変を生じて臨床症状を呈する病態が膵炎の典型例である.1878年,Friedreichが大酒家の剖検症例で,膵実質細胞が減少し,慢性間質性炎症像が存在することを報告して以来,アルコールが膵炎の重要な成因であることが知られているが,膵炎発生機序についてはいまだ解明されていない.

症例によるリハ医療—内科医のために・2

脳卒中患者のリハビリテーション(その2)

著者: 林拓男 ,   丸山典良

ページ範囲:P.951 - P.955

 脳卒中のリハビリテーション(以下,リハと略)には,発症早期から退院・在宅に至る一貫した流れがあり,急性期リハの目的は,安静臥床による二次的合併症としての廃用症候群の予防が最大のものである.本稿では当院における脳卒中リハについて,症例を通して紹介し私見を述べたい.

Drug Information 副作用情報・26

ステロイド剤による大腿骨頭壊死

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.957 - P.959

◆症例
 Aさんは女性で当時24歳.それまで特別な既往歴はなかった.2日前から下痢,当日には発熱,下痢,嘔吐,腹痛を主訴として,B内科を受診.感冒として治療中,受診3日目に手足の発疹,発熱,腹痛を認め,CRP+4,白血球数は7,000/mm3,白血球の分類では好酸球がやや増加しているほかは特別な異常は認めなかった.生化学検査で血清アミラーゼ値が1561U/lと高値であったために入院.入院後,急性壊死性膵炎に移行するかもしれないとの危惧からIVHを実施し,入院4日目からコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム(以下,メチルプレドニゾロンと略)のパルス療法を1g/日,1週間の予定で開始し,アミラーゼが正常化した後も,EBV-VCA-IgGの結果が640倍であることが判明したため,「劇症型伝染性単核球症」との診断のもとにメチルプレドニゾロンのパルス療法を続行した.
 メチルプレドニゾロン投与3日目には解熱し,メチルプレドニゾロン1g/日の投与は1週間で終了し,以降漸減する意図で500mgに減量して続行した.減量6日目に再度発熱(37.9℃)をみたために,炎症の再燃と考えて1,000mgに増量したところ,解熱したので,1,000mgをさらに9日間続行し,以降漸減するつもりで10日目より500mgに減量し,2日間投与後,500mgを隔日投与し,減量してから8日目に中止した.

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・17

MRの贈り物で患者の処方を変更した場合

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良 ,   竹中直美

ページ範囲:P.960 - P.961

 症例 潰瘍再発で久しぶりに受診した会社員
 46歳,男性.十二指腸潰瘍で以前苦しんだことのあるナカムラさんは,2年ぶりに再発した.服薬は長く中止しており通院も中断していた.
「先生,どうもまた始まったようです.このところ痛くて吐き気もあって辛いんで,薬いただけませんか」

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・37

パストゥールの不屈の批判的精神

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.962 - P.963

 パリのパンテオンからユルム通りを進むと,パストゥールの母校,高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)がある.いまはパリ大学の一部である.ベルグソンやサルトルもここで学んだ.後にパストゥールは母校の教師に迎えられた.この学校の壁には「ここにパストゥールの研究室があつた」と刻まれ,その下に1857年から1885年にかけて彼が成し遂げた偉業が列挙されている.発酵,生物の自然発生,ブドウ酒とビールの病気,かいこの病気,ウイルスとワクチン,狂犬病の予防と,まことに驚嘆すべき業績である.しかも,これらの研究の半分は46歳のときの左半身脳軟化麻痺の後に完成したもので,不屈の精神の現れである.
 パストゥールは情愛のある生真面目な人だったらしい.結婚前にパストゥールは酒石酸塩結晶の異性体を発見し,やがて発酵の研究に導かれるが,「私はいつも夕方になると,夜が短くて早く研究室に帰れればと望んでいた」と語っている.このような姿勢は結婚後35年たっても変わらず,夫人は子供に「お父さんはいつも考えにふけっています.夜明けには起きて出掛けて行きます.結婚以来ずっとそうです」と語っている.

続・アメリカの医学教育 スタンフォード大学病院レジデント生活・2

初出勤

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.965 - P.968

初出勤の朝
 インターンシップ1カ月目,私はスタンフォード大学病院一般内科配属となった.
 初出勤日の朝.“Pocket Pharmacopoeia”という薬に関するミニ事典,“The Sanford Guide toAntimicrobial Therapy”という,どの細菌に対してどの抗生物質を使うべきか,といった抗生物質だけをまとめたポケットブック,医学部時代に自分でまとめたアンチョコノート,患者一人ひとりの情報を細かく書き込むための5×3インチのカードの束,さらにポケットライトやら反射を確かめるreflex hammer,眼底鏡などを白衣のポケットにパンパンに詰め込み,“Haruko Akatsu MD”という真新しいネームバッジを付け,緊張気味にスタンフォード大学病院に到着した.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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