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雑誌目次

雑誌文献

medicina35巻6号

1998年06月発行

雑誌目次

今月の主題 カルシウム・骨代謝異常症と骨粗鬆症 Editorial

日常臨床におけるカルシウム・骨代謝異常症

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.976 - P.977

ポイント
●Ca・骨代謝異常症の診療においては,緊急時の対応を迫られる場合は多くないものの,患者のquality of lifeの向上に寄与できる部分は非常に大きい.
●近年Ca代謝調節に必須の分子が次々とクローニングされたこと,骨代謝細胞の分化や機能調節に関する理解が進んだことから,Ca・骨代謝異常症の診療ははるかに科学的になってきた.
●さらにCa代謝調節ホルモンの感度のよいアッセイが確立されたこと,Ca・骨代謝異常症に対する新たな薬剤が開発されたことから,Ca・骨代謝異常症の診療は容易にもなってきている.

カルシウム・骨代謝異常症理解のための基礎知識

血中カルシウム濃度の調節系

著者: 赤津拓彦

ページ範囲:P.978 - P.980

ポイント
●正常では,血中カルシウム(Ca)濃度は8.5〜10.5mg/dlの狭い範囲に調節されている.
●血中Ca濃度を調節する主なホルモンは副甲状腺ホルモン(PTH)と活性型ビタミンD[1α,25(OH)2D]である.
●血中Ca濃度は腸管でのCa吸収,骨Caとの動的平衡,腎でのCa排泄により調節されている.
●副甲状腺には血中Caイオン濃度を感知するCa感知性受容体が存在し,PTHの産生を制御している.

骨の構造と骨代謝の調節系

著者: 川口浩

ページ範囲:P.982 - P.984

ポイント
●骨は,皮質骨と海綿骨という構造的に異なった2つの組織によって形づくられており,皮質骨ではオステオン,海綿骨ではパケットと呼ばれる局所的機能単位(basic multicellular unit:BMU)の下で,常に破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返している(リモデリング).
●健常成人では,この骨吸収と骨形成との間に共役関係が存在し(カップリング),その結果,両過程間に動的平衡状態が保たれることにより骨量が一定に維持されている.この共役機構の解明が,各種の代謝性骨疾患における骨代謝動態の異常を明らかにし,病態を解明していくうえで重要な意味をもつことから,これを制御する諸因子の解析が急速に進められてきた.

カルシウム代謝異常症への臨床的アプローチ

著者: 滋野長平

ページ範囲:P.985 - P.988

ポイント
●ヒトは陸生生物であるため,ミネラル成分はすべて外部環境から体内に取り込む必要がある.
●Caホメオスタシスの中核を成す装置はCa受容体である.そして,Caホメオスタシスを調節する重要な全身性ホルモンとして,副甲状腺ホルモン(PTH)や1,25ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)2D)などが進化してきた.
●カルシトニンは,少なくとも胎生期を除いてCa調節ホルモンとしての生理的な役割をもっていない可能性が高い.
●血中全Ca濃度や補正Ca濃度がイオン化Ca濃度の指標となりうるのは,血液pHや血漿蛋白のCa結合能に異常のない場合に限られる.
●人体は負のCaバランスに傾きやすい.
●Caホメオスタシスの調節にはshort-loopとlong-loopの制御機構があり,骨からのCa動員が補償されるのは,腸管からのCa吸収が十分ある場合に限られる.
●高Ca血症刺激に対する制御機構では腎機能がネックになる.

骨量の評価法

著者: 伊東昌子

ページ範囲:P.989 - P.991

ポイント
●骨密度測定法には多くの種類がある.それぞれの特徴を理解し測定値を解釈することが重要である.
●腰椎DXAは簡便で精度が高く,骨粗鬆症に伴う骨折を起こしやすい部位をはじめ種々の部位の測定ができる.問題点は,投影スキャンであるので大動脈の石灰化や骨棘などを避けられないことである.
●QCTでは,海綿骨部を選択的に測定するため骨量の変化を鋭敏に検出し,また単位体積あたりの骨量を算出するため骨強度をよく反映する.ほかの測定法に比し被曝線量が高く,測定精度が低い.
●QUSでは被曝の心配はなく,骨質をも反映した骨のパラメータを提供すると考えられている.臨床における有用性についてはまだ十分解明されていない.

骨代謝マーカーによる骨代謝動態の評価

著者: 曽根照喜

ページ範囲:P.992 - P.994

ポイント
●骨組織では,成人後も常に骨の吸収と形成が活発に繰り返され,骨の再構築(リモデリング)が行われている.
●骨形成や骨吸収に伴って血中,尿中に放出される物質は,骨代謝の指標として利用することができ,骨代謝マーカーと総称される.
●骨代謝マーカーは全身の骨代謝動態を,骨形態計測は局所の骨代謝動態を反映する.
●骨代謝マーカー単独での診断的価値は少ないが,代謝性骨疾患の病態把握に有用であり,骨量減少の予知,治療薬の選定,治療効果の判定のほか,癌の骨転移診断の補助として利用される.

高カルシウム血症

高カルシウム血症の発症機序と鑑別診断

著者: 稲葉雅章

ページ範囲:P.996 - P.998

ポイント
●高Ca血症の原因疾患のうち,原発性副甲状腺機能亢進と悪性腫瘍によるものが90%以上を占める.それゆえ,鑑別診断はこの2つの除外から始めると効率がよい.
●血中Ca調節機序をよく知ったうえで高Ca血症の発症機序を理解すると,鑑別診断が容易となる.すなわち,腸管のCa吸収亢進,骨吸収の増大がその主因である場合,血中Ca上昇に加え,Pの上昇もみられる.血中Caが12.0mg/dlを超えている場合には,腎からのCa排泄が低下している.PTH,PTHrPの産生が増大している場合には,高Ca血症発症の主因は腎からのCa排泄低下であり,この場合血中P濃度は低下する.

原発性副甲状腺機能亢進症

著者: 杉本利嗣

ページ範囲:P.999 - P.1001

ポイント
●副甲状腺の組織型は腺腫,過形成あるいは癌であるが,わが国では欧米に比し癌の比率が高い.
●近年,無症候性が発見される頻度が高く,また進行的臨床経過をたどる例は比較的少ない.
●皮質骨優位の骨量低下を示す.
●家族性低Ca尿性高Ca血症との鑑別が重要である.
●根治させる治療法は病的副甲状腺の摘除であり,手術後かなりの骨量増加が期待できる.
●高Ca血症性クリーゼをきたした例には,脱水の是正とともに,カルシトニンやビスフォスフォネート製剤を投与する.

悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症

著者: 池田恭治

ページ範囲:P.1002 - P.1005

ポイント
●高Ca血症は進行期の悪性腫瘍に合併し,一般に予後不良のサインである.
●液性因子を介するHHM(humoral hypercalcemia of malignancy)と,局所機序によるLOH(local osteolytic hypercalcemia)の2つの病型がある.
●HHMの大部分は腫瘍が産生するPTHrPの過剰症であり,高Ca血症,低P血症,血中PTHrPの上昇が特徴である.扁平上皮癌やATLに合併することが多い.
●LOHは多発性骨髄腫や広範な骨転移を伴う乳癌に合併してみられる.
●HHMとLOH,いずれの場合にも,生理食塩水の大量補液とビスフォスフォネート薬などの骨吸収抑制薬が治療の基本である.

多発性内分泌腺腫症

著者: 櫻井晃洋 ,   藤森実 ,   橋爪潔志

ページ範囲:P.1006 - P.1008

ポイント
●多発性内分泌腺腫症(MEN)は臨床的にMEN1, MEN2A, MEN2Bに分類される.
●MEN1とMEN2はそれぞれMEN1遺伝子,RET遺伝子の変異による常染色体優性の形式をとる遺伝性疾患である.
●MEN1では約95%,MEN2Aでは約20%に原発性副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症を認める.
●病理学的には副甲状腺は過形成のことが多い.
●家族例では遺伝子診断により,発症前診断が可能になった.

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症と新生児重度副甲状腺機能亢進症

著者: 会田薫 ,   多和田眞人 ,   女屋敏正

ページ範囲:P.1010 - P.1012

ポイント
●FHH/NSHPTの原因はCaSR遺伝子変異である.ホモの変異でFHHが,ヘテロの変異でNSHPTが起こるが,例外もある.
●FHHでは高Ca血症,低Ca尿症を呈し,血清PTHは正常〜軽度上昇を示す.
●原発性副甲状腺機能亢進症との鑑別には,尿中Ca排泄量,Cca/Ccrが重要である.

高カルシウム血症の治療

著者: 高橋俊二

ページ範囲:P.1013 - P.1015

ポイント
●緊急治療が必要な高カルシウム血症は,ほとんどが悪性腫瘍に伴うものである.
●輸液は脱水状態の改善,腎機能の保持を目的とし,生食の高度負荷は必要のないことが多い.
●ビスフォスフォネート(アレディア®,オンクラスト®,テイロック®,ビスフォナール®)の単回点滴静注が原則で,カルシウムを急速に低下させる必要のある場合はカルシトニン(エルシトニン®)点滴静注1日2回を併用する.2〜4週間ごとの投与でコントロール可能なことが多い.

低カルシウム血症

低カルシウム血症の発症機序と鑑別診断

著者: 田中弘之

ページ範囲:P.1016 - P.1019

ポイント
●低カルシウム血症はイオン化カルシウムの低下であり,カルシウムの評価はイオン化カルシウムの評価によって行うべきである.
●低カルシウム血症の原因は副甲状腺ホルモンの作用異常とビタミンDの作用異常であるが,リンの変化によってもカルシウム値は変化する.
●低カルシウム血症の鑑別診断には,カルシウムのほかに血清リン値,PTH値の測定が必須である.
●偽性副甲状腺機能低下症はG蛋白の異常による.
●PTH分泌を制御する中心は,カルシウム受容体を介した血清カルシウムの変化である.

副甲状腺機能低下症

著者: 水梨一利

ページ範囲:P.1020 - P.1022

ポイント
●低Mg血症は,PTH分泌とPTH不応により低Ca血症をきたすので,血清Mgの測定を忘れてはならない.
●常染色体優性遺伝性の低Ca血症を示す病態には,副甲状腺細胞のCa受容体のgain-of-function mutationsによるものがある.高Ca尿症が認められ,ビタミンD治療によりnephrocalcinosisと腎機能低下をきたすので,副甲状腺機能低下症との鑑別を要する.
●PTH分泌低下による副甲状腺機能低下症では,遠位尿細管におけるCa再吸収が低下しており,治療後に血中Caの上昇に伴い高Ca尿症をきたしやすい.したがって,Caの尿中排泄量に注意しながら血中Caを正常範囲の低めに維持することが望ましい.

二次性副甲状腺機能亢進症

著者: 角田隆俊 ,   深川雅史

ページ範囲:P.1023 - P.1025

ポイント
●腎不全患者では,低カルシウム血症が補正され,生理量の活性型ビタミンD製剤が投与されているにもかかわらずPTH分泌が亢進する.
●副甲状腺のビタミンDに対する抵抗性,カルシウムイオンに対する感受性の異常,リンの直接作用などが新たな機序と考えられている.
●副甲状腺の腫大度は,ビタミンDに対する抵抗性の指標として有用である.
●腎不全では,骨のPTHに対する抵抗性も存在するので,PTH分泌亢進が必ずしも高回転骨病変と並行しない.

低カルシウム血症の治療

著者: 皆川真規 ,   安田敏行

ページ範囲:P.1026 - P.1027

ポイント
●活性型ビタミンD〔1αOHD3ないし1,25(OH)2D〕により治療する.
●高カルシウム尿症が高カルシウム血症に先行する.
●過剰投与による高カルシウム血症に十分注意する.
●血清カルシウム値を正常値以下で維持しなければならない症例が存在する.

くる病・骨軟化症

くる病,骨軟化症の発症機序,分類と診断

著者: 山本威久 ,   岡田伸太郎

ページ範囲:P.1029 - P.1031

ポイント
●くる病,骨軟化症は,カルシウム,リン,ビタミンDの不足あるいはビタミンDの作用不全による骨の石灰化障害である.
●石灰化障害をきたした時期が骨端線閉鎖前のものはくる病と呼ばれ,骨端線閉鎖後のものは骨軟化症と呼ばれる.
●ビタミンDに関連するくる病,骨軟化症には,生理量のビタミンDで治癒するビタミンD欠乏性のものと,生理量のビタミンDが無効であり,生理量または薬理量の活性型ビタミンDを必要とするビタミンD抵抗性のものがある.
●くる病,骨軟化症の診断には,X線所見のみでなく,血中カルシウム,リン,アルカリフォスファターゼ値を用いた総合評価が必要である.

低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病

著者: 長谷川行洋

ページ範囲:P.1033 - P.1037

ポイント
●Hypophosphatemic vitamin-D resistant rickets(低リン血症性ビタミンD抵抗性くる病,以下X連鎖性低リン血性くる病)はX染色体優性の遺伝形式をとり,Xp22.1〜22.2に存在するPEX遺伝子の変異により引き起こされる疾患である.
●1万〜2万人に1人と考えられている.歩行開始後のO脚でみつかることが多い.
●病態としては,PEX遺伝子の異常により引き起こされる尿中リン排泄増加,ビタミンD代謝障害を特徴とするが,その詳細は不明である.
●検査所見としては尿中リン排泄増加による低リン血症,くる病に伴う血中アルカリフォスファターゼ(ALP)値高値,X線上の所見を認める.治療には病態を考え,リン・ビタミンD投与が行われることが多い.

腫瘍性骨軟化症

著者: 宮内章光

ページ範囲:P.1038 - P.1041

ポイント
●腫瘍性骨軟化症(oncogenic osteomalaciaまたはtumor induced osteomalacia)とは,腫瘍〔骨,軟部腫瘍(中胚葉由来が多い)〕によりビタミンD抵抗性骨軟化症が発現する疾患である.
●腫瘍の摘出により低リン血症,骨軟化症が治癒する特徴をもつ.本邦,欧米を含め100余例の報告があり,骨,軟部腫瘍以外にも肺癌,前立腺癌などによるものが報告されている.
●腫瘍から産生される液性因子により,リン利尿,ビタミンD活性化抑制が起こると考えられている.このリン利尿物質は未同定であるがphosphatoninと命名されており,X連鎖性低リン血性くる病(XLH)と同一の原因物質であるという仮説が有力である.

ビタミンD依存症

著者: 大薗恵一

ページ範囲:P.1042 - P.1044

ポイント
●ビタミンDは,肝臓で25位,腎臓で1位が水酸化され,活性型の1,25位水酸化ビタミンDとなる.
●活性型ビタミンDは,標的細胞中のビタミンD受容体に結合し,標的遺伝子の発現を制御することでその作用を発揮する.
●ビタミンD依存症I型は腎臓における1位水酸化障害,ビタミンD依存症II型はビタミンD受容体の異常により引き起こされる疾患である.
●1位水酸化酵素およびビタミンD受容体遺伝子がクローニングされ,ビタミンD依存症I型・II型ともに遺伝子診断が可能となった.

腎疾患と骨

腎性骨異栄養症の病態

著者: 重松隆 ,   長谷川俊男 ,   小此木英男

ページ範囲:P.1047 - P.1049

ポイント
●腎性骨異栄養症(ROD)の組織学的分類には,線維性骨炎,骨軟化症,無形成骨,混合型がある.
●線維性骨炎は二次性副甲状腺機能亢進症と,骨軟化症はアルミニウム蓄積と,無形成骨は副甲状腺機能の抑制と関係が深い.
●最近では,無形成骨が線維性骨炎や骨軟化症より多く過半数に達している.
●確定診断には腸骨骨生検による組織学的検討が必要であるが,X線写真や血液検査も役に立つ.
●ROD発症機序として,低Ca血症・高P血症・ビタミンD欠乏に加え,ビタミンD受容体やCa受容体の関与が明らかにされつつある.

腎性骨異栄養症の治療

著者: 塚本雄介

ページ範囲:P.1050 - P.1052

ポイント
●骨病変により治療法が全く異なるので鑑別診断が重要である.
●アルミニウム蓄積の有無により骨病変が大きく変化する.
●血清PTH濃度だけに診断を依存しないことが重要である.
●血清PTH濃度の過剰抑制は無形成骨を生じる.
●高Ca血症と異所性石灰化は重篤な合併症の原因となるので,活性型ビタミンD剤の投与には注意が必要である.

骨粗鬆症

骨粗鬆症の発症機序と診断

著者: 竹内靖博

ページ範囲:P.1055 - P.1058

ポイント
●骨粗鬆症は,骨量の減少と骨微細構造の破綻により,骨折の危険度が高まる疾患である.
●骨粗鬆症は,骨吸収と骨形成の平衡関係の破綻により生じる.
●その主な原因は,閉経と加齢である.
●日本骨代謝学会により骨粗鬆症の診断基準が提唱されている.
●わが国の骨粗鬆症患者数は年々増加しており,2000年には1,000万人以上になると推測されている.
●骨粗鬆症による骨折の好発部位は椎体骨と大腿骨頸部である.

退行期骨粗鬆症の病因と病態

著者: 岡崎亮

ページ範囲:P.1060 - P.1061

ポイント
●閉経後骨粗鬆症の原因は,エストロゲン欠乏の結果,骨吸収が亢進することである.
●閉経後骨粗鬆症では,閉経前と比較して骨形成も亢進するが,骨吸収の亢進と比較して不十分なため骨量が減少する.
●老人性骨粗鬆症でも,必ずしも骨代謝回転が低下していない場合がある.
●高齢女性においても,エストロゲン欠乏が骨量減少にかかわっている可能性が高い.
●男性の加齢に伴う骨量減少の機序は不明である.
●PTHの上昇が,加齢に伴う骨量減少にかかわっている可能性がある.

続発性骨粗鬆症の病因と病態

著者: 藤山薫 ,   江島英理 ,   桐山健

ページ範囲:P.1062 - P.1065

ポイント
●続発性骨粗鬆症は決して稀な病態ではなく,原因治療が可能な場合も少なくない.骨粗鬆症の診断にあたっては,十分な鑑別診断を行わなくてはならない.
●当該患者においては,積極的かつ経時的な骨量測定を行い,早期診断あるいは将来の骨減少症の発症リスクの評価を行うべきである.
●現時点で骨減少の合併がなくとも,原発性骨粗鬆症と同様,女性患者,閉経期などは続発性骨粗鬆症発症のリスクファクターとなりうる.また,原因疾患・薬剤によっては,急激な骨減少が生じる時期やハイリスク患者の特徴が明らかにされてきている.

骨粗鬆症の治療—総論

著者: 細井孝之

ページ範囲:P.1066 - P.1068

ポイント
●骨粗鬆症治療における最大の目的は,骨の脆弱性亢進に基づく骨折の予防である.
●骨粗鬆症の治療は薬物療法,食事療法ならびに運動療法からなる.
●薬物療法の開始にあたっては,骨量減少のリスクと骨折のリスクを考慮する.
●近年薬剤の選択範囲が拡がった.現在,薬物療法の指針を含めたガイドラインが作成されつつある.
●合併症としての骨折予防,特に高齢者における骨折の予防においては,転倒の予防を念頭に置いた運動指導や環境の整備も重要である.

骨粗鬆症の薬物療法—エストロゲン,SERM

著者: 五来逸雄

ページ範囲:P.1070 - P.1073

ポイント
●閉経後女性にエストロゲンを投与すると骨量低下が抑制されるが,その機序は現時点では必ずしも明らかではない.
●エストロゲンの副作用を解決すべくSERMが開発されてきたが,その臨床応用は将来の課題である.
●エストロゲン療法を行う場合にはその長所・短所を理解して,インフォームド・コンセントを得て開始することが重要である.

骨粗鬆症の薬物療法—ビスフォスフォネート

著者: 井上大輔

ページ範囲:P.1075 - P.1077

ポイント
●ビスフォスフォネートはP-C-Pを基本骨格とし,ハイドロキシアパタイトに対して高親和性を有するため,骨に集積する.
●骨吸収に伴い破骨細胞内に取り込まれて,その機能を直接阻害する.
●骨代謝回転を低下させるので,特に高回転型骨粗鬆症に有効である.
●骨粗鬆症に対してはetidronate(ダイドロネル®)の200〜400mg/日の2週間連続投与と,それに引き続く10〜12週間の休薬という周期的治療を行う.
●経口ビスフォスフォネート薬であるダイドロネル®は,吸収効率を高めるため食間に投与する.

骨粗鬆症の薬物療法—活性型ビタミンD,カルシウム

著者: 松山敏勝

ページ範囲:P.1078 - P.1080

ポイント
●十分量のカルシウムと活性型ビタミンDの補充は,成長期および高齢者の骨粗鬆症の重要な治療法である.
●高齢者では必要量のカルシウムとビタミンDを食事だけで摂取することは難しく,薬物や特定保健用食品からの補充が必要である.
●活性型ビタミンDには骨形成への直接的薬理作用もあり,老人性骨粗鬆症では第一選択とすべき薬剤の一つである.

骨粗鬆症の薬物療法—カルシトニン,ビタミンK,イプリフラボン

著者: 和田誠基

ページ範囲:P.1081 - P.1083

ポイント
●カルシトニンは破骨細胞に直接作用して骨吸収を抑制する.
●カルシトニンは骨粗鬆症に伴う骨痛の治療に奏効する.
●カルシトニン,ビタミンK,イプリフラボンには骨量増加作用があることを示す報告もあるが,大腿骨頸部骨折や椎体の圧迫骨折の予防効果に関しては,現在大規模検討が実施されている.

トピックス

遺伝子異常によるカルシウム・骨代謝異常症

著者: 千勝典子 ,   福本誠二

ページ範囲:P.1085 - P.1087

ポイント
●分子生物学の進歩に伴いカルシウム(Ca)・骨代謝調節に必須の分子が次々と同定され,それらの異常による疾患が明らかにされてきた.
●疾患の原因遺伝子の同定は,疾患の病態生理や発症機序の解明に大きく寄与するものであるが,一方でこの技術をどのように一般臨床にフィードバックしていくかについての検討が必要である.

骨量を規定する遺伝子

著者: 宮本賢一 ,   新井英一

ページ範囲:P.1088 - P.1090

ポイント
●骨密度を規定する因子には,遺伝因子と環境因子とが複雑にかかわり合っている.
●ビタミンD受容体遺伝子の多型は骨密度と相関がある.
●ビタミンD受容体遺伝子の多型は,翻訳開始部位が2カ所存在する.
●2種類のビタミンD受容体蛋白は,標的遺伝子に対して異なる転写活性化能を示す.

理解のための33題

ページ範囲:P.1093 - P.1100

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1103 - P.1108

図解 病態のメカニズム 膵疾患・6

膵炎修復の機序

著者: 新川淳一 ,   佐藤貴也 ,   田口進 ,   三田村圭二

ページ範囲:P.1111 - P.1116

 膵組織を構成する種々の細胞は高度に分化しており,特に膵腺房細胞の再生能は比較的低いと考えられてきた.しかし,ヒトの急性膵炎では炎症を残すことなく機能的にも正常に復する場合があり,これはヒトにおける膵再生を示唆する現象と推定される.実験動物においても,1952年,Fitzgeraldら1)がラットエチオニン膵炎を作製して,組織学的に膵腺房細胞の再生像を認めると報告して以来,エチオニン膵炎を含めた各種成因の異なる膵炎モデルにおける膵再生の報告がなされてきた.本稿では,膵再生の起源,急性膵炎の修復機序,膵炎修復にかかわる膵再生因子,アポトーシスおよび急性膵炎から慢性膵炎への移行(膵線維化)について,膵外分泌細胞を中心に述べる.

症例によるリハ医療—内科医のために・3

脳卒中患者のリハビリテーション(その3)

著者: 藤田雅章 ,   江崎宏典 ,   河合正行

ページ範囲:P.1117 - P.1121

 脳卒中の早期リハビリテーション(以下,リハと略)の有用性は長年にわたり強調されてきたが,まだ十分に普及しているとはいえない.その効用としては,入院期間が短縮され,より高い機能で社会復帰できるといわれている1,3)リハの遅れによる最大の問題は,臥床に伴う二次的な合併症(廃用症候群)が生じることである1).本稿では,当院における脳卒中リハについて,症例を通してその取り組みと問題点について述べてみたい.

Drug Information 副作用情報・27

トログリタゾン(ノスカール®)の危険と利益のバランス(その2)

著者: 浜六郎

ページ範囲:P.1133 - P.1137

 トログリタゾンの危険と利益のバランスについて,TIP誌2月号1)および本誌3月号2)で論じたが,その後さらに種々の危険に関する情報が集積されてきた.重要な問題であるので,再度このバランスを検討する(詳細はTIP誌4月号3)参照,ただし,本稿ではさらにその後の情報も加えて論じた).

続・アメリカの医学教育 スタンフォード大学病院レジデント生活・3

当直勤務

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.1125 - P.1129

4日に一度の36時間勤務
インターン第一日目は無事に終わった.もっとも,本当の意味で大きなチャレンジとなるのは初当直である.当直の日の勤務時間は約36時間.そして私の初当直は初出勤の2日後にやってきた.
第1から第4まで4つの一般内科チームは,4日に一度交代で当直勤務を行う.当直チームの役割はいくつかあるが,まず一つは,当直日の朝8時から夜11時までに一般内科に新しく入院してくる患者をすべて担当することである.例えば,今日は第1一般内科チームが当直だとすると,今日スタンフォード大学病院の内科に入院する患者のうち,集中治療の必要がなく,心臓疾患,癌,血液疾患以外の患者はすべて第1一般内科所属となる.したがって,一般内科が担当する患者の疾患は,消化器系から呼吸器系,腎臓系,内分泌系など実に多岐にわたる.また,その当直日になってみないと,果たして何人の新患が入ってくることになるか,どのような疾患を持った患者が入院してくることになるのかはわからない.

CHEC-TIE—よい医師—患者関係づくりのために・18

頻回に転医している患者を救急でみたとき

著者: 箕輪良行 ,   柏井昭良 ,   竹中直美

ページ範囲:P.1130 - P.1131

症例 膵臓癌と告知され除痛されない会社
社長
 62歳,男性.カンダさんは腹痛,背部痛のため救急車で来院した.歩行可能でバイタルサインは安定,緊急性がないので診察でみせてもらった.
 7ヵ月前,腹痛のためN病院内科を初めて受診した.消化管造影と内視鏡検査で異常なく,保存的に腹痛も消失した.糖尿病と診断され,カンダさんは食事療法を指導された.その5ヵ月後,腰背部痛が出現したため同病院整形外科にかかり,湿布薬を処方された.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・38

少年のような心をもった大化学者エールリッヒ

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.1140 - P.1141

 化学療法と免疫学に偉大な足跡を残したエールリッヒは神童と呼ばれた秀才で,ラテン語が天才的にでき,後年折りに触れてラテン語で名句をくちずさんだという.少年のような心をもった愛すべき人であったらしい.コナン・ドイルとハバナ煙草が大好きで,新聞や雑誌の斜め読みが得意で,多くの友人に愛された.晩年のある年,2月26日のカレンダーのある大学の自室で,葉巻の灰を床にこぼしながら文献を読んでいる写真が残っている.まわりの机はどれも本や雑誌が山積みで,ソファの上には身の丈ほども雑誌が積み重ねられ,エールリッヒは残された狭い床に置かれた椅子で雑誌を読んでいる.整理整頓の不得意な筆者など,その写真を見るたびに安心する.
 エールリッヒがベルリン大学内科の助手としてシャリテ病院で研究していた28歳のころ,ベルリンの生理学会でコッホが結核菌の発見を公表した.この菌の研究を始めたエールリッヒは,掃除婦が染色標本をストーブの上に置いたことから,アニリン色素と加熱による結核菌染色法を発明した.エールリッヒが大学を出たころ,ドイツではアニリン色素を主とする化学染料が市場に出はじめており,エールリッヒは早くから色素と染色法に関心を抱いていた.ついで彼は,アニリン色素の生体染色で,組織細胞の生活現象が酸化作用で行われていることも明らかにした.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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