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雑誌目次

雑誌文献

medicina36巻2号

1999年02月発行

雑誌目次

今月の主題 肝疾患診療 1999 Introduction

肝疾患の分類—診断プロセスとして

著者: 戸田剛太郎

ページ範囲:P.202 - P.204

●肝疾患の診断においては,病因,病態,ステージ診断の三つの要素に基づく分類により,各疾患を位置づけることが必要である.
●肝疾患は,トランスアミナーゼ,アルカリホスファターゼ,γ-GTPのレベルにその存在が反映されると考えられる.そのうち,最も重要なのはアルカリホスファターゼである.
●肝炎ウイルス持続感染者には,アルコール,薬物,自己免疫性肝疾患が合併することがある.

ウイルス学とウイルス肝炎

著者: 三田村圭二

ページ範囲:P.205 - P.209

●現在,5種類の肝炎ウイルス,HAV,HBV,HCV,HDV,HEVが同定されており,その病態が解明され診断が確立し,制御が可能となりつつある.
●ウイルス肝炎には急性肝炎と慢性肝炎が存在し,慢性肝炎にはB型およびC型慢性肝炎がある.
●持続感染は,HBVでは多くはHBe抗原陽性HBVキャリアからの母児感染によって成立するが,HBV母子間感染防御が可能となっている.HCVでは年齢にかかわりなく急性感染から高率に成立する.

肝疾患の外科治療

著者: 伊藤洋二 ,   草野満夫

ページ範囲:P.211 - P.213

●肝細胞癌については,一般的には総ビリルビン値が2mg/dl以下で,腹水がないかコントロール可能であれば肝切除を考慮し,ICG R15が15%以下で2区域,25%以下で1区域切除を目安としている.
●破裂の可能性が高い肝血管腫は外科治療の適応となるが,実際には破裂の頻度は低く,8cm以下で症状のない症例は肝切除せず,経過観察されることが多い.
●肝嚢胞の超音波検査で壁不整や乳頭状突出像などがあれば,悪性腫瘍の可能性がある.

肝細胞癌の病理—最近の進歩

著者: 中野雅行

ページ範囲:P.215 - P.217

●初期の高分化型肝細胞癌の病理組織学的特徴として,①結節は肉眼的に被膜を有さず境界が不明療,②組織像は正常の肝細胞に類似し,細胞異型が乏しい,③門脈域あるいは線維隔壁に浸潤が認められる,といったことがあげられる.

肝疾患治療の意義

著者: 柴田実

ページ範囲:P.218 - P.219

●肝疾患治療の意義は,患者に不利益を与えず,症状や予後の改善などの真の利得を与えるところに存在する.
●有益な治療を行うには,治療の目的や到達点を明らかにし,臨床試験によって正しく評価された治療法を選択し,個々の患者に実際に適用するか否かを判断する.
●臨床試験で検討される真のエンドポイントと代用エンドポイントには乖離が認められることが多いが,治療の意義はできる限り前者の改善に置くべきである.

肝疾患診断のfirst step

効率的な問診および身体所見のとりかた

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.220 - P.221

●問診には可能な限り時間をかけ,全身的に観察することが大切である.
●正診のためには思い込みにとらわれず,症状や検査成績を吟味して,必要に応じて改めて問診や身体所見をとり,見落とし,訊き落としのないよう努める.
●成書によって知識を深めるとともに,数多くの症例を経験することが必要である.特に誤診や遅診について反省し,今後の診断に生かすようにしたい.

肝機能検査の選択と解釈

著者: 西岡幹夫 ,   樋本尚志

ページ範囲:P.222 - P.225

●肝障害があっても必ずしも肝機能検査で異常になるとは限らず,逆に肝疾患以外でも肝機能検査で異常値を呈することがある.
●急性肝疾患の主な原因はウイルス感染,薬剤およびアルコールである.
●慢性肝疾患を鑑別する上で血清トランスアミナーゼ値の上昇は,GOT,GPTのいずれが優位か,ビリルビン値の上昇は抱合型,非抱合型のいずれが優位か,さらには胆道系酵素が上昇しているか否かを把握することが大切である.
●診断確定後は,その肝疾患の重症度あるいは活動性を判定する.

腹部超音波検査の臨床的意義

著者: 斎藤明子

ページ範囲:P.226 - P.228

●肝細胞癌の早期発見には,超音波検査による慢性肝疾患の経過観察が不可欠である.
●肝細胞癌の特徴所見を十分把握する.
●肝線維化の所見が認められる症例には,より注意深い検索が必要である.

外来でフォローアップする際のポイント

著者: 阿部和裕 ,   賀古眞

ページ範囲:P.229 - P.231

●初診時に急性肝障害か慢性肝障害かを鑑別する.自覚症状,肝機能障害の既往,家族内の肝疾患患者の有無がポイントとなる.
●初診時に肝実質障害か二次的肝機能障害(胆道疾患,循環障害などによる)かを鑑別する.
●肝機能障害の重症度を判定する.
●肝機能障害の原因を精査し,治療方針を決定する.

肝疾患のemergency

著者: 橋本直明 ,   松浦広 ,   池田有成

ページ範囲:P.232 - P.235

●見当識障害があり,計算能力低下や羽ばたき振戦を確認できれば肝性脳症である.門脈圧亢進症の側副血行路に起因する肝性脳症は門脈大循環(猪瀬型)脳症と呼ばれ,治療はアンモニア対策,特殊アミノ酸輸液とともに,誘因(感染,脱水,消化管出血など)の除去が肝要である.
●吐血の原因は,食道静脈瘤破裂とうっ血性胃症/潰瘍がほぼ半々である.
●特発性細菌性腹膜炎(SBP)は,有腹水の患者の約10%に発生する.
●肝腎症候群は腎血流量の低下が誘因となるため,prerenal azotemiaとならぬよう留意する.非ステロイド消炎薬(NSAIDs)の投与は腎血流量を低下させる.
●肝細胞癌結節は,しばしば破裂して腹腔内出血を起こす.
●肝生検の合併症には,腹腔内出血,肝内血腫,hemabiliaなどがある.

様々な状況で肝疾患をどうみるか

軽度の肝機能異常をどうみていくか

著者: 池上文詔

ページ範囲:P.236 - P.237

●軽度肝機能異常を精査する際には,詳細な問診と適切な画像診断が必須である.
●肝機能異常を呈する非肝疾患の存在を念頭に置いて精査を進める必要がある.
●軽度の異常が診断のきっかけにもなり,過度の不安を惹起する誘因ともなる.

トランスアミナーゼ300単位以上の肝障害をみたら

著者: 忠願寺義通 ,   安部井誠人

ページ範囲:P.239 - P.241

●肝疾患の重症度を,全身倦怠感や食欲不振などの自覚症状や黄疸,腹水,下腿浮腫あるいは意識状態,肝性脳症の有無など肝不全徴候,さらにプロトロンビン時間(PT)などより推測する.
●トランスアミナーゼの値は肝予備能を反映しないので,血小板数,空腹時総胆汁酸,ビリルビン,肝合成能の指標(アルブミン,コリンエステラーゼ,PT),線維化マーカー(ヒアルロン酸など),超音波所見などを総合的に勘案する必要がある.
●肝不全徴候やPT値の低下より肝不全が疑われる場合は,直ちに入院を要する.

黄疸の患者をみたら

著者: 馬場俊之 ,   三田村圭二

ページ範囲:P.242 - P.245

●血中総ビリルビン値が2.0〜3.0mg/dl以上になると,肉眼的に眼球結膜や皮膚の黄染が認められる.
●黄疸が認められたら,体外式超音波検査により閉塞性黄疸の有無を診断する.
●黄疸の治療は原因疾患により異なるが,緊急に対応が必要な疾患は,劇症肝炎と急性閉塞性化膿性胆管炎である.

腹水・浮腫を認める患者をみたら

著者: 久保修一 ,   保坂洋夫

ページ範囲:P.246 - P.247

●肝疾患における腹水で漏出液の場合,安静および塩分制限が第一で,これに薬物療法を加えるのが基本である.腹水・浮腫の患者では,可能なら1g/日,少なくとも2g/日のNa摂取制限を行わなければならない.
●利尿剤療法においては,経口薬ではスピロノラクトン(アルダクトンA®),注射薬ではカンレノ酸カリウム(ソルダクトン®)などの抗アルドステロン剤が第一選択薬となる.

肝内SOLを認める患者をみたら

著者: 高橋正一郎 ,   伊東友弘 ,   伊藤紘朗

ページ範囲:P.249 - P.251

●まず嚢胞性か充実性肝腫瘤かを鑑別する.充実性肝腫瘤であれば,基礎に慢性肝疾患がないかどうかを調べる.
●慢性肝疾患がある肝臓に充実性腫瘤が見つかった場合には,まず肝細胞癌を疑う.
●転移性肝癌は原発巣と同じ性質をもつ腫瘍になる.
●良性の充実性肝腫瘤で最も頻度の高い肝血管腫は,MRIで診断確定できる

発熱や腹痛を認める肝疾患をみたら

著者: 稲垣恭孝

ページ範囲:P.252 - P.255

●肝疾患の鑑別診断では,的確な問診による病歴聴取と注意深い身体所見の把握が基本である.
●肝疾患は全身性疾患の一部分症としてみられたり,逆に多臓器障害を引き起こす場合もあり,病歴,身体所見は常に全身を意識してとらねばならない.
●各種画像診断のうち超音波検査は,第一に行うべき基本的かつ必須の検査である.

大量飲酒者に肝機能障害をみたら

著者: 小針伸一 ,   箱崎幸也

ページ範囲:P.256 - P.258

●アルコール性肝障害の成因,進展度の正確な診断が重要であり,特にアルコール性肝炎,肝硬変の早期診断は予後改善に有用である.
●詳細な飲酒歴聴取が不可欠であり,異常飲酒行動の有無やKAST(久里浜式スクリーニングテスト)を用いた飲酒量の把握は,アルコール依存症の早期診断に有用である.
●飲酒マーカーとしては,GOT/GPT,γ-GTP値だけでなく,MCV,IgA,尿酸値なども有用で,禁酒後の各種マーカーの下降推移も重要な診断基準になる.
●GOT/GPT持続異常を伴うアルコール性肝硬変や依存症が疑われる患者に対しては,アルコール専門機関や専門医(精神科)を紹介しなければならない.

妊婦に肝機能異常をみたら

著者: 渋谷明隆 ,   中沢貴秀 ,   里道哲彦

ページ範囲:P.259 - P.261

●正常妊娠に伴う変化を異常と誤らないよう注意する.正常妊娠ではALT,ASTなどトランスアミナーゼは変化がないが,ALPは胎盤由来で増加し,妊娠末期には正常の2倍にまで上昇する.
●HELLP症候群とは,溶血性貧血(hemolytic anemia)・肝機能障害(elevated liver enzymes)・血小板数減少(low platelet)の頭文字に由来する.妊娠中毒症の約20%に合併し,心窩部・右季肋部痛を呈する.高血圧や蛋白尿など妊娠中毒に特徴的な症状を伴わないこともある.
●急性妊娠性脂肪肝(AFLP)は,妊娠34〜37週に全身倦怠感,悪心嘔吐,右季肋部痛,微熱などで発症し,急性肝不全に至る重篤な疾患で,早期に診断・治療しなければ致死的である.

少し高度な知識が必要な肝疾患

劇症化しやすい急性肝炎の早期発見と対策

著者: 山田春木 ,   三浦英明

ページ範囲:P.263 - P.265

●肝炎はウイルスを排除する過程でもあるので,このままみていたほうがよいのか,ステロイド剤を使って一刻も早く細胞破壊を食い止めなければ危ない状態なのか,劇症化が懸念される急性肝炎では重大な決断を迫られる.
●画像検査上の肝萎縮出現には時期のズレがあるので,「肝萎縮がない間は劇症化の心配はない」と考えると手遅れになることもある.
●劇症化しやすい急性肝炎では,中途半端な新鮮凍結血漿投与は,劇症化の有力な先行指標となるプロトロンビン時間(PT)を修飾してしまうので慎みたい.また,慢性肝不全に使われるBCAA製剤(アミノレバン®)投与は「禁忌」である.

非肝炎ウイルスによる肝炎

著者: 熊谷直樹 ,   土本寛二

ページ範囲:P.266 - P.269

●EBウイルスやサイトメガロウイルスなどのウイルスは,急性ウイルス感染症の部分症として肝障害を起こし,肝細胞に持続感染することはないと考えられている.
●免疫異常を伴う疾患や強力な免疫抑制剤治療の際には,全身性サイトメガロウイルス感染症を引き起こすことがある.

どういう場合に自己免疫性肝疾患を疑うのか

著者: 菊池健太郎 ,   宮川浩

ページ範囲:P.270 - P.272

●自己免疫性肝疾患の発症・進展機序の詳細は不明であるが,免疫異常に伴う自他覚症状,合併症,検出される自己抗体など,それぞれの疾患に特徴的な所見は少なくない.
●肝機能異常を指摘されて来院した患者に対しては,ウイルスマーカーの除外診断に加え,抗核抗体(ANA),抗ミトコンドリア抗体(AMA)とIgG,IgMのスクリーニングが求められる.

薬剤性肝障害の見つけかた

著者: 石橋大海

ページ範囲:P.273 - P.275

●急性肝炎あるいは肝障害をみたら,必ず薬剤性肝障害を疑う.
●薬物の服用に引き続いて肝障害があり,中止により改善を示したり,リンパ球刺激試験(D-LST)が陽性を示せば,薬剤性肝障害の可能性が高い.
●まずは疑わしい薬剤を中止する.

胆管細胞癌・混合型肝癌はどのような疾患か

著者: 山本雅一 ,   高崎健

ページ範囲:P.276 - P.277

●胆管細胞癌には,肝門近くの太い肝内胆管を原発とする腫瘍と末梢胆管を原発とする腫瘍があり,両者の臨床病理画像は大きく異なる.
●胆管細胞癌の病因として肝内結石,肝吸虫,胆管奇形,トロトラスト沈着症,原発性硬化性胆管炎などが指摘され,これまでウイルス肝炎との関係は否定的であったが,最近,腫瘤を形成する胆管細胞癌の一部でウイルス肝炎の関与も示唆されている.
●混合型肝癌は肝炎,肝硬変を基礎疾患とする症例が多く,肝細胞癌と同様の背景因子をもっている.

稀な肝疾患をどう診断するか

著者: 杉本元信 ,   落合香織

ページ範囲:P.279 - P.281

●稀な肝疾患は,その存在を知っておくことが重要である.知ってさえいれば診断できる.
●ヘモクロマトーシスは,肝を含む諸臓器に鉄が沈着する疾患で,肝硬変,糖尿病,皮膚の色素沈着の三徴を示す.原発性(遺伝性)と続発性とがある.血清鉄の上昇,フェリチンの上昇を認める.
●ポルフィリン症は肝や造血臓器にポルフィリンの異常増加が起こり,特有の臨床像を示す.尿が赤褐色を呈する.晩発性皮膚ポルフィリン症は後天性が多く,光線過敏症や慢性肝障害を示す.急性間欠性ポルフィリン症は先天性で,腹部症状や神経症状で発症し,肝障害は軽度である.
●Wilson病は先天性銅代謝異常により肝,脳,角膜などに銅が沈着し,肝硬変,錐体外路症状,Keyser-Fleischer角膜輪の三徴を示す.血清セルロプラスミン値の低下を認める

肝機能異常例に対する薬物投与

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.282 - P.283

●肝は多くの薬物の吸収,分布,除去に関与し,その障害は薬物動態に影響を与える.
●肝障害により,多くの薬物の肝クリアランスが低下し,血中半減期は延長する.
●肝障害の場合,腎機能障害の場合のような投与調節量の明確な指標はない.腎障害と異なり,肝機能を的確に反映する簡便な検査法が存在しないからである.

インフォームド・コンセントに必要な肝疾患の知識

肝疾患の経過や予後をどう説明するか

著者: 森實敏夫

ページ範囲:P.285 - P.293

●肝疾患の経過や予後を考える際には,診察時に呈している様々な自・他覚症状や患者が受けている治療などから総合的に判定することになる.そのための方法論として近年広く用いられているのが,Cox回帰分析とロジステック回帰分析である.
●疾患の予後を正確に判定するには,生存曲線を明らかにするとともに,Cox回帰分析による多変量解析が必要である.得られた回帰係数から,それぞれの症例のt年後の生存確率を求めることができる.

IFN療法の適応と副作用をどう説明するか

著者: 高取正雄

ページ範囲:P.295 - P.297

●IFN(インターフェロン)治療は,宿主のB型肝炎ウイルス(HBV)排除に向けた免疫反応が旺盛な肝炎期が適している.ALTがおよそ100IU/l以上で,HBV-DNA量が100Meq/ml未満(プローブ法)の時期が適当である.
●IFN治療の第一目標はHCV(RNAの持続陰性化,すなわちHCV感染からの離脱であるが,この目標が達成されなくてもALTの持続低下ないし正常化が得られれば肝炎は沈静化し,肝硬変化も抑制され,ひいては発癌のリスクも減少させることで生命予後の改善が期待される.

肝細胞癌の治療法の選択をどう説明するか

著者: 池田健次

ページ範囲:P.298 - P.300

●肝細胞癌の治療法は,画像診断や検査により肝癌の状態,肝予備能,合併病態を把握し,心機能,腎機能,神経系など全身状態のアセスメントを行うなど,必要な情報を得たうえで決定する.
●どの治療法が最も優れているとは一概にはいえず,肝癌・肝機能の状態を勘案して,個々に決められるものであることを説明する.また,治療法の併用や変更がありうることも説明する.

肝炎ウイルス感染の身近な問題

著者: 岩渕省吾

ページ範囲:P.301 - P.303

●HCV(C型肝炎ウイルス)抗体陽性でも,肝機能正常者にはHCV感染のない例が存在し,鑑別にはコア抗体価,HCV-RNA(アンプリコア定性)が有用である.
●HCVの夫婦間感染は10%以下,母児間感染による子供の長期キャリア化率は数%以下と考えられる.
●HBV(B型肝炎ウイルス)の一過性感染の多くが性行為感染(STD)による.
●HBキャリア(B型慢性肝炎)では,e抗体陽性化後もトランスアミナーゼの動揺する例があり,これらはHBV precore領域の変異株の増殖による.
●変異株の感染は重症化,劇症化と関連し,感染危険群へのワクチン接種は重要である.
●HGV(G型肝炎ウイルス)はHCVとの混合感染,TTVは健常者でも高率に検出され,両者ともに肝炎との関連は明確でない.

肝疾患治療のclinical controversy

劇症肝炎のG-I療法や特殊組成アミノ酸輸液は今でも行う意義があるのか

著者: 与芝真

ページ範囲:P.305 - P.307

●グルカゴン(G)とインスリン(I)はともに内因性の肝再生促成因子であるが,血中濃度が高値となり,レセプターのdown regulationが起こりうる急性肝不全下で小量投与して有効か否か疑問である.少なくとも欧米では有効性は認められていない.
●特殊組成アミノ酸は,ウレアサイクル機能に大きな障害のない場合に限って昏睡覚醒に有効である.その機能の障害が強い劇症肝炎急性期には,原則的に禁忌とすべきである

肝疾患の食事療法,生活指導,一般薬物療法に対するcritical appraisal

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.308 - P.310

●まずcritical appraisalの概念を簡単に解説した.
●肝庇護薬に関する文献に関してcritical appraisalを行った.
●Critical appraisalを行うと,肝庇護薬の臨床使用を推奨するevidenceになる文献は見当たらなかった.Critical appraisalは,臨床医個人の状況に照らし合わせて行うものであることに注意されたい.

肝移植—世界と日本の現況

著者: 矢永勝彦

ページ範囲:P.312 - P.315

●不可逆的かつ致死的な進行性の肝疾患で,肝移植以外に有効な治療法が現存せず,患者およびその家族が希望しており,肝移植の除外条件がない場合,適応とされる。
●わが国では1998年末現在,約730例の生体肝移植が行われている.成功率は80%,うち成人間肝移植は67%である.

肝疾患をめぐる最近の話題

G型肝炎ウイルスとTTウイルスをめぐる話題

著者: 三代俊治 ,   太田裕彦

ページ範囲:P.316 - P.319

●G型肝炎ウイルス(GBV-C/HGV)はC型肝炎ウイルス(HCV)に類似するが,後者のもつ重要な性質をいくつか欠いており“似而非HCV”と見なしうる.臨床的インパクトもHCVに比較してはるかに弱い.
●TTウイルス(TTV)は健常人にも高頻度で検出されるゆえ,疫学的には肝炎惹起性が自明ではない.ただし,現在唯一の診断系はゲノム検出であり,肝炎以外の病態を含めた病原性を探るには不十分である.

座談会

肝細胞癌治療のインターフェイス

著者: 斎藤明子 ,   草野満夫 ,   柴田実 ,   上野文昭

ページ範囲:P.321 - P.332

 上野(司会) 本日は,肝疾患の研究と診療に精力的に取り組まれている先生方に,「肝細胞癌治療のインターフェイス」というテーマで討論していただきます.
 肝細胞癌に対しては様々な治療がありますが,どの方法が正解ということはなく,それぞれの手法がそれなりの成績を得ています.私自身も,各種の治療手技を個々の症例で考えながら選択しておりますが,最近,肝細胞癌の治療法がさらに進歩しておりますので,各先生方の治療指針に関するお話を伺いたいと思います.

理解のための27題

ページ範囲:P.337 - P.342

カラーグラフ 内科医が知っておきたい眼所見・5

緑内障

著者: 白土城照

ページ範囲:P.343 - P.345

緑内障とは
 1.緑内障は単一の病名ではない
「緑内障」は,眼圧に起因する視神経障害と,その現れである視野障害をきたす疾患と定義されるが,眼圧が視神経を傷害するメカニズムは多様であることから,症状や治療法も一様ではない.したがって「緑内障」とは単一病名ではなく,眼圧を主因として特徴的視神経障害をきたす一連の疾患群名として捉えなければならない.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.347 - P.352

図解・病態のメカニズム 胆道疾患・4

コレステロール胆石症の成因と発生機序

著者: 安部井誠人 ,   田中直見

ページ範囲:P.353 - P.355

 近年,食生活の欧米化と高齢化の進展に伴い,わが国のコレステロール(以下,Ch)胆石症は増加し,成人人口の約10%に達するといわれる.医療経済上の観点からも,本疾患の成因の解明と予防が問題となっている.本稿では,Ch胆石症の成因と発生機序を概説する.
 Ch胆石の生成は多段階的,多因子的であり,大別して①Ch過飽和胆汁の生成(脂質凝集体のCh溶解度を超えて胆汁に存在する),②Ch結晶析出動態の亢進(過飽和状態から結晶が析出する速度が速い),③胆嚢クリアランスの低下(脂質凝集体やCh結晶が胆嚢内に停滞する)の3条件が関与する1〜3)

症例によるリハ医療—内科医のために・9

呼吸器疾患のリハビリテーション

著者: 丸山典良 ,   林拓男

ページ範囲:P.357 - P.360

 呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)とは,「呼吸器疾患患者の,呼吸機能障害とそれに起因する種々の社会的ハンディキャップを克服するための,患者個々にあった全人的な医療アプローチで,患者の地域社会での自立を目的とする」と定義されている(1974年American College of Chest Physician,1993年National Institute of Health,USA).
 近年,慢性呼吸不全の治療目標として,薬物療法を主体とした従来の疾病管理とともに,QOLの向上が重要視され,呼吸リハが治療ガイドラインの中核として位置づけられるようになった.また,全国で6万人を超えるといわれる在宅酸素療法(HOT)の普及も,呼吸リハを推進する大きな原動力となっている.それまで入院生活を余儀なくされていた慢性呼吸不全患者の在宅療養が可能となり,患者のQOLは確かに向上した.その一方,在宅ケア体制の不備,家庭生活における不安などの社会・心理的問題,患者の治療意欲や自己管理能力を高めるための患者教育の重要性など,多くの課題がクローズアップされてきた.そこで,多職種からなる医療チームを構成し,アセスメントから薬物療法,トレーニング,生活指導,社会・心理的サポート,さらに在宅でのフォローアップまでを多面的かつ効率的に行おうという「包括的呼吸リハビリテーション」の概念が提唱されている1)

続・アメリカの医学教育 スタンフォード大学病院レジデント生活・11

公営病院と復員軍人病院

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.363 - P.366

 スタンフォード大学病院の内科レジデントは,3年間を通してスタンフォード大学病院以外に,復員軍人病院とサンタクララ病院においても研修を行う.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・46

ファロー四徴の手術に挑んだブレイロクとタウシッグ

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.368 - P.369

 先天性心臓疾患の手術は,今ではどこでも安全に行われている.しかし,50年近く前には心臓カテーテルさえも安全ではなかった.筆者は心臓手術に挑み始めた頃の優れた外科医たちの苦悩とそれを乗り越えた挑戦の数々を目撃した.すでに心臓手術は心臓を移植するという新しい次元に突入している.移植を待ちつつ日々死んでいく子供のために優秀な外科医たちの連帯と決断を促したい.
 初めてファロー四徴の手術を考案したタウシッグが,のちに1947年に書いた『心臓の先天性奇形』の第2版(1960年)には,一人の少年の胸痛む写真が載っている.ファロー四徴などの典型的な姿勢であるsquatting(しゃがみ姿勢)である.少年は高度の肺動脈狭窄のために苦しみ,膝を胸につけた前かがみの姿勢をとり,死の影は少年の足元に迫っている.この一枚の写真を見るたびに,幼い病者が移植のために外国に行くという現状を引き起こしている非現実的な法律は速やかに改正すべきだと思う.

medicina Conference 解答募集・28

下記の症例を診断して下さい.

ページ範囲:P.361 - P.361

 症例:10歳,男児.
 主訴:高熱,嘔吐,食欲不振.
 家族歴・既往歴:特記すべきことなし.血族結婚なし.家族および本人の結核歴なし,渡航歴なし.ペットは飼っていない.最近,海・山・川などで虫刺されや外傷の既往なし.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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