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雑誌目次

雑誌文献

medicina36巻5号

1999年05月発行

雑誌目次

今月の主題 高齢者医療—現状と展望 Editorial

高齢者医療の現状と展望

著者: 井藤英喜

ページ範囲:P.722 - P.723

●証拠に基づいた医療(EBM)を実施する必要がある.適切で無駄のない医療を実現するには,客観的な証拠の集積に努めなければならない.
●障害に悩まされることなく,活力のある老後(active aging)を送れるようにするために,全人的・包括的医療,予防医学を推進することが重要である.

高齢者医療に与えた長寿科学総合研究のインパクト

著者: 折茂肇

ページ範囲:P.724 - P.726

●長寿科学とは,高齢者の諸問題を学際的な立場から研究する学問である.厚生省は従来の「シルバーサイエンス研究」と「痴呆疾患研究」を一本化し,「長寿科学総合研究」として,平成2年度から助成を行っている.
●「長寿科学総合研究」では,基礎分野,老年病分野,リハビリテーション,看護・介護分野,支援機器開発分野,社会科学分野,漢方・東洋医学分野の6分野の研究が進められている.

高齢者総合医療

高齢者総合機能評価(CGA)とその有効性

著者: 高橋龍太郎

ページ範囲:P.728 - P.730

●高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)とは,治療方針を考えるうえで,慢性疾患を抱える高齢者の生活機能を総合的に把握し,専門医療が陥りやすい問題に対処しようというものである.
●各種スケールを用いて,栄養状態,心理・精神機能,身体機能,治療内容,目的(退院計画)の5項目を重点的に診療するのがCGAの基本である.その実践過程では,他職種とのチームケアが必須となる.
●気づかれなかつた疾病(特に心理・精神の問題),投薬数の減少がCGAの有効性として重要であり,その結果,QOL(quality of life)の改善(特に医師-患者関係の向上)や入院回数・日数の減少につながる.

高齢者QOLの考え方・評価

著者: 荒木厚 ,   服部明徳 ,   井藤英喜

ページ範囲:P.731 - P.733

●高齢者の身体機能,認知機能,精神機能,家族や社会経済状況などの指標を多面的に評価すること(comprehensive geriatric assessment:CGA)により問題点が明確となり,多面的・集約的な治療・ケアが行われ,quality of life(QOL)向上に寄与する.
●高齢者QOLを評価することにより,治療の評価を多面的に行うことができる.また,慢性疾患の治療においてもQOL評価は有用である.ただし,疾患に特異的なQOLを評価する必要がある.
●将来的には,高齢者QOLの評価は,検査,治療,ケアを行う際のdecision-makingに利用することができる.

高齢者のリハビリテーション—特殊性と注意点

著者: 江藤文夫

ページ範囲:P.734 - P.735

●高齢者の廃用症候群の治療と予防には,早期離床が原則である.
●リハビリテーションは,看護婦,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床心理士,医療ソシャルワーカーなど多職種によるチームアプローチが原則である.
●転倒・転落と寝たきりの悪循環を断つためには,日常生活を活発にするための社会資源の充実と高齢者の社会参加を円滑にする環境整備が必要である.

高齢者のターミナルケアの考え方

著者: 村井淳志

ページ範囲:P.737 - P.739

●有効な治療法がなく死が避けられなくなっても,症状を緩和しQOL(quality of life)を高める緩和ケアで援助する.
●死が近づき援助が必要になった患者は,すべて終末期ケアの対象になる.
●高齢者の終末期ケアでは摂食嚥下障害が重要な問題になっており,緩和ケアが求められている.

高齢者の予防医学

著者: 松林公蔵

ページ範囲:P.740 - P.741

●疾病の発症や臓器障害のみならず,生活機能障害も予防のターゲットである.
●高齢者の機能は包括的に評価する必要がある.
●高齢者の包括的機能維持に関する予防医学では,地域介入が重要である.

高齢者の栄養管理

著者: 内藤通孝 ,   井口昭久

ページ範囲:P.743 - P.745

●高齢者の栄養管理には,必須栄養素の欠乏の防止が重要である.
●高齢者は個人差が大きいので,個々に適切かつ柔軟に対応する.
●食事への配慮とともに,適切な身体活動や生活環境の調整など,全人的な立場からの指導・管理を行う.

高齢者に特有な症候—老年症候群に対する医療

転倒—危険因子と予防

著者: 山本精三

ページ範囲:P.746 - P.748

●転倒の原因と考えられる危険因子には,年齢,性,疾患,薬物などの内的要因と,室内の段差・照明,衣服,靴などの環境因子がある.
●転倒の危険性を予測する最も簡便な方法は,比較的近い過去の転倒の既往を調べることである.
●特に,①白内障などの視力障害,②眠剤,鎮静剤や降圧剤などの薬物使用による副作用,③筋力低下に伴う身体活動の低下,④家屋内の環境などは積極的に改善すべきである.

尿失禁—鑑別診断と治療

著者: 中内浩二

ページ範囲:P.749 - P.751

●尿が漏れた原因と発現機序の鑑別診断が,治療のために不可欠である.
●尿の漏れる前後の状況から尿失禁の型を見分ける.型と既往歴・現病歴を関連させて検討すると,尿失禁の原因と発現機序を推定することができる.
●治療法は,原因疾患が一過性か否かにより異なる.一過性の場合,原因疾患の治療により尿失禁も改善することが多い.

褥瘡—予防と治療

著者: 吉田哲憲

ページ範囲:P.753 - P.755

●高齢者の褥瘡は,多発性で,深い潰瘍をつくりやすく,治癒が遅く,発症すると治癒しないことも多い.また,尿失禁,便失禁により容易に悪化し,動けなくなると急激に状態が悪くなるといった特徴がある.
●褥瘡の予防・治療は,①圧迫の除去・軽減,②全身状態の改善,③局所状態の改善,④基礎疾患の治療が柱となる.
●褥瘡が治癒しても,体位変換などの予防対策を怠ると再発をきたすので,患者や家族に基本的な知識を理解してもらうことが大切である.

嚥下障害—評価と治療・ケア

著者: 武原格 ,   藤島一郎 ,   大熊るり

ページ範囲:P.757 - P.759

●嚥下障害のスクリーニング法として「水飲みテスト」があるが,むせない誤嚥(silent aspiration)もあり,注意が必要である.
●口腔・咽頭に障害のある患者には,食物形態と摂食時の体位を工夫する.特に嚥下食を用いると誤嚥を減少させるのに有効である.
●嚥下障害があると経口摂取のみでは十分な栄養や水分を摂取することが困難であり,適切な方法で不足分を補わなければならない.

痴呆—診断,治療・ケア

著者: 武田雅俊 ,   篠崎和弘 ,   西川隆 ,   柏木雄次郎

ページ範囲:P.761 - P.763

●痴呆とは,記憶と高次判断能力の障害を基本とする症候群をいい,その原因疾患は,外傷,感染症,代謝異常,脳血管障害,変性など多岐にわたる.
●痴呆の大多数は一次神経変性痴呆症と脳血管痴呆である.以前は一次神経変性痴呆症のほとんどはアルツハイマー病とされたが,現在は非アルツハイマー病型変性痴呆症の多くを独立した疾患として扱い,レビー小体病,皮質基底核変性症,前頭葉型痴呆などをアルツハイマー病と区別する.
●アルツハイマー病治療薬として,現在,3種類のアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有する薬剤が欧米で使用されている.

寝たきり—危険因子と予防

著者: 飯島節

ページ範囲:P.765 - P.767

●寝たきりの最大の危険因子は年齢であり,最も重要な原因は脳血管障害である.
●実際に寝たきりに至る過程では複数の因子が複合的に関与していることが多く,原因を特定できないことも少なくない.
●寝たきりを防ぐには主治医がリーダーシップを発揮して,早期離床と早期リハビリテーションを実現することが肝要である.

せん妄—診断,治療と予防

著者: 山之内博

ページ範囲:P.769 - P.771

●老年者では,全身性の様々な疾患を背景とするものと薬剤性のものが多い.
●症状は変動する(固定性ではない).
●不穏にはハロペリドールが有効なことが多い.

睡眠障害—診断,治療と予防

著者: 平沢秀人

ページ範囲:P.772 - P.773

●高齢者では,夜間睡眠時の不随意運動や寝ぼけ様行動などの異常行動が不眠の原因になることがある.
●睡眠は加齢により変化し,高齢者は若年者に比べ浅眠化の傾向がみられ,睡眠障害を起こしやすくなる.
●不眠を訴える高齢者には精神疾患を伴う例が多く,うつ病,神経症の合併に注意する必要がある.

高齢者によくみられる疾患

高血圧

著者: 荻原俊男

ページ範囲:P.774 - P.775

●高齢者の高血圧は大動脈の伸展性低下によるWindkessel機能障害が背景にあり,収縮期血圧の著増,脈圧の開大が特徴で,これらはいずれも高齢者の心血管系疾患発症・死亡のリスクとなる.
●血圧の動揺性増加,起立性低血圧,食後血圧低下などがみられ,これらは圧受容器反射の障害に起因する.また,早朝血圧上昇,白衣高血圧,夜間非降圧(non-dipper)などの頻度も増加する.
●降圧薬治療の効果は収縮期高血圧を含めて証明されている.利尿薬,β遮断薬,Ca 拮抗薬が現在までに介入試験で有効性が証明されている.心不全,腎障害の効果など臓器保護効果の面からACE(変換酵素)阻害薬も第一次薬として有用であり,合併症に応じて最も適した降圧薬を選択する.
●80歳代後半では新規の治療効果は少なく,緊急症の恐れがある場合を除いて積極的な治療はしない.高齢者においては一般に降圧はマイルドに,より緩徐に行う.

脳血管障害

著者: 藤島正敏

ページ範囲:P.777 - P.779

●近年,脳卒中の発症年齢は脳梗塞,脳出血とも高齢化し,80歳代の発症率が最も高い.
●高齢者の脳梗塞は心原性脳塞栓症が多く,非弁膜性心房細動(NVAF)がその主要なリスクである.
●高齢者脳卒中は短期の生命予後,長期の機能予後は悪く,退院後にADL(日常生活動作)はさらに低下する.
●脳卒中治療の基本は年齢を問わないが,高齢者では症候が非典型的で,治療にも注意を要する.
●高齢者脳血管障害は寝たきり,痴呆の要因となり,介護についての課題が大きい.

呼吸不全

著者: 木田厚瑞

ページ範囲:P.780 - P.781

●在宅酸素療法は,慢性呼吸不全を患う高齢者のquality of life(QOL)の改善,生存期間の延長に効果が期待できる.
●在宅酸素療法は,ステロイドを含む薬物療法や吸入療法など,ほかに考えられるすべての治療を検討したのちに,最終的に選択される治療法である.
●高齢者に対して在宅酸素療法を実施するには,医学的な適応基準を満たすだけでなく,患者や家族の理解,緊急時の対応策など,様々な条件を考慮する必要がある.

肺炎

著者: 板橋繁 ,   佐々木英忠

ページ範囲:P.783 - P.785

●高齢者の肺炎は慢性呼吸器疾患を基礎疾患として有していることが多く,その形態的・機能的な局所の変化に全身的な免疫系の機能低下が加わり,重症化しやすい.
●高齢者では,肺炎特有の症状が顕著に現れないことがある.特に院内肺炎では,浮腫,消化器症状,不整脈,傾眠傾向といった呼吸器以外の症状が前面に出てしまうケースがある.
●市中肺炎ではグラム陽性球菌を,院内肺炎や既に抗生剤が投与されている例ではグラム陰性桿菌を狙ってempiric therapy(経験的投与)を行う.誤嚥性肺炎では嫌気性菌も念頭に置いて行う.

尿路感染症

著者: 村山猛男

ページ範囲:P.786 - P.787

●高齢者の尿路感染症は慢性複雑性感染症である.
●高齢者の尿路感染症は,基礎疾患や尿道カテーテル,おむつ排尿などの危険因子を有する.
●高齢者の尿路感染症は尿路管理が重要である.

糖尿病

著者: 中野忠澄

ページ範囲:P.789 - P.791

●糖尿病の診断基準は,一般成人における場合と同様である.
●治療の前提として,ライフスタイルの是正が大切である.
●治療管理基準に関しては,厚生省班研究の提案が参考になる.
●食事療法では,摂取エネルギーは25〜30kcal/kgぐらいが適当である.
●運動もメディカルチェックの後,無理せずに行えば有効である.
●薬物療法は少量から開始し,無自覚性低血糖症に注意する.
●キーパーソンに十分な教育を行うことが極めて重要である.

骨粗鬆症

著者: 細井孝之

ページ範囲:P.793 - P.795

●骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微小構造の破綻によって特徴づけられる疾患であり,骨折はその合併症である.
●骨粗鬆症の診断は骨の評価と鑑別診断によって行う.
●高齢者においては,合併症である骨折を予防するために,総合診療的見地から骨粗鬆症の診療を進めるべきである.

変形性関節症

著者: 石井孝子 ,   佛淵孝夫

ページ範囲:P.796 - P.797

●変形性関節症(osteoarthritis:OA)は,関節軟骨の変性を基盤として,軟骨が形態学的にも機能的にも破壊され,修復機転として骨軟骨の増殖性変化を伴う疾患と定義される.
●最も罹患頻度の高い膝関節では原疾患のない一次性関節症が多く,股関節では先天性股関節脱臼を基盤とする二次性関節症が多い.
●ステロイド剤の関節内注入は,化膿性関節炎やステロイド関節症を惹起するため,適応を制限すべきである.
●膝・股関節における骨切り術や人工関節の手術成績は安定しており,患者のADL(日常生活動作)を高める選択肢の一つとなる.

高齢者医療におけるpitfall

高齢者における薬物療法の注意点

著者: 秋下雅弘 ,   鳥羽研二 ,   大内尉義

ページ範囲:P.798 - P.799

●腎機能や体重などから成人量の2/3以下を常用量とし,薬剤に応じて血中濃度をモニターしながら投与量を決定する.
●高齢者における薬剤有害作用の半分は,過量投与,合併症に対する配慮不足,薬歴への注意不足など,いわゆるmedication errorによるものである.
●投与薬剤数の増加も有害作用の一因となる.特に6薬剤以上になると有害作用が急激に増加する.

高齢者によくみられる薬物の副作用

著者: 葛原茂樹

ページ範囲:P.800 - P.801

●最近の薬剤性パーキンソニズムの原因薬として最も頻度が高いのは,老年科領域でも使用頻度の高い精神症状・問題行動治療薬と胃腸機能調整薬である.
●筋痛を伴う筋力低下,低カリウム血症と高CK血症を起こすのは,利尿剤(チアジド系,ループ利尿薬)と漢方薬の甘草である.
●強い痛みを伴うこむら返りは,高脂血症治療薬のHMG-CoA reductase阻害薬(プラバスタチン,シンバスタチン),クロフィブラート系薬剤で起こる.

高齢者における外科手術適応で考慮すべきこと

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.802 - P.803

●高齢者の手術適応において問題となるのは,高齢者に特徴的である多彩な術前併存症と術中・術後合併症のリスクである.
●神経系・糖尿病の病変が術前に併存する場合は,術後十分に呼吸器の監視を行い,誤嚥性肺炎の発生を予防することが重要と考えられる.
●高齢者においては,縮小手術,QOL(quality of life)重視の手術,癌の根治性を損なわない低侵襲手術が望まれ,現在追求されている.

高齢者における画像診断の留意点

著者: 間島寧興

ページ範囲:P.805 - P.807

●高齢者では生体の老化(萎縮)状態,病態反応状態などの個体差が大きいことに加え,画像診断の画質は萎縮状態の強い患者には適さないことなどから,高齢者画像診断学はまだ確立されているとはいえない.
●高齢者画像診断においては,大きさ,形による診断が困難な場合があり,画像のみに頼った診断は誤診に結びつきやすい.そのため,臨床所見,他の画像診断との比較が重要となる.

介護保険体制下における高齢者のケア

介護保険制度の概要

著者: 三浦公嗣

ページ範囲:P.808 - P.809

●被保険者による要介護認定の申請に基づいて,市町村は高齢者の心身の状況等に関する調査を行う.また,申請者が指名する主治医に対して,疾病または負傷の状態について意見を求める.
●調査結果・主治医の意見に基づき,学識経験者によって構成される介護認定審査会において,介護の必要性について,全国一律の客観的な基準をもって審査判定する.
●介護サービス計画の作成は介護支援専門員により行われる.介護支援専門員は高齢者の心身の状況などを把握して計画の原案を作成し,サービス担当者会議において,具体的なサービス内容とその提供方法などを改めて検討する.依頼者の承諾を得られれば,その計画に基づいて介護サービスが提供される.

ケアプラン—誰が,どのように作成するか

著者: 竹内孝仁

ページ範囲:P.810 - P.811

●「ケアプラン」という言葉は,要介護者とその家族に必要な援助の計画,すなわち「サービス計画」のことと誤解され,混乱を招いている.
●サービス計画は介護支援専門員(ケアマネジャー)によって作成される.ケアマネジャーは,いわば在宅ケアを専門とするソシャルワーカーで独自の専門性が要求されるが,日本では十分な教育体制がとられていない.
●ケアプランは,介護を受ける高齢者の個々のニーズに即し,医師,看護婦,介護職が作成する「治療計画」,「看護計画」,「余暇計画」などを指す.

介護保険における施設サービス

著者: 川合秀治

ページ範囲:P.813 - P.815

●介護保険法の究極的な目標は,「能力に応じ」,「自立した」在宅での日常生活・療養であり,施設サービスは居宅サービスの補完的役割に過ぎないことになっている.
●介護保険における施設サービスは3類型に分類される.一般入所サービスは要介護老人のみであるが,通所・短期入所サービスは要支援老人も利用することができる.
●ケアプランの作成者である介護支援専門員は自施設の特徴を十分に握み,全職員・利用者に理解してもらえるよう,取り組まなければならない.

介護保険における在宅ケア—利用できるサービスの種類と適応・利用法

著者: 山崎摩耶

ページ範囲:P.816 - P.817

●介護保険制度では,医療・福祉サービスが一体化して在宅療養者を支えていく.
●ケアマネジャーは,利用者の意向を取り入れ,訪問系サービスや通所系サービスをリンクさせながらケアプランを作成する.
●これらのサービスは,「都道府県の指定事業者」,「市町村の基準該当事業者」,「離島等の相当サービスの担い手」の3種類の指定サービス事業者により提供される.

介護保険制度下での痴呆性疾患のケア

著者: 吉岡充

ページ範囲:P.818 - P.821

●痴呆に関する医師の役割は,①痴呆の診断,②合併症の治療,③痴呆のリハビリテーションプログラムの処方,④向精神薬の処方を適切に行うことである.
●痴呆性老人を「抑制」するのではなく,問題行動を起こす頻度を減らし,人間らしさを取り戻すケアプランを作成することが必要である.

介護保険体制下の高齢者医療における医師の役割

著者: 遠藤英俊 ,   益田雄一郎 ,   井口昭久

ページ範囲:P.823 - P.827

●介護保険制度は医療・福祉を大きく変革する.
●医師はかかりつけ医となり,高齢患者を診察やアセスメントを通じて全体をよく把握し,意見書を書くことが求められる.
●医療・保健・福祉の連携を深める必要がある.

座談会

介護保険制度における高齢者医療—何が変わるか,医師の役割とは

著者: 三浦公嗣 ,   吉岡充 ,   鳥羽研二 ,   井藤英喜

ページ範囲:P.829 - P.840

介護保険のねらい
 井藤(司会) いよいよ2000年から介護保険制度が導入されます.介護保険ができると高齢者医療のありかたは大きく変わると予測されていますが,実際にどのように変わるのかということになると,介護保険の制度的な枠組みやディテールがはっきりせず,なかなか確定的なことがいえない状況です.そこでまず,厚生省が考える介護保険制度のねらいを三浦先生からお話し下さい.
 三浦 第一に,急速に進む高齢化への対応です.需要と供給の関係でいうと需要が非常に伸びてきますので,それへの対応がまず問題になります.同時に,供給サイドでも高齢化の影響はあります.既に高齢者の介護に従事されている方の約半数は60歳以上という状況ですので,介護を家庭の中で完結することが難しくなりつつあります.このような傾向は今後も続くと思われますので,現時点で何らかの対応をしておかないと,いずれ介護の質あるいは量が下がり,高齢者一人当たりについて提供されるサービスが低下していきます.そうしたことを勘案しますと,社会全体で高齢者を支えていく仕組みが必要になります.しかもそれは単にサービスを提供するだけではなく,様々な病気や障害を抱えながらも自立した生活をできるようにすることを目指します.

理解のための25題

ページ範囲:P.841 - P.845

図解・病態のメカニズム 胆道疾患・7

悪性胆道狭窄のマネジメント

著者: 今井英夫 ,   鈴木智博 ,   堀口祐爾

ページ範囲:P.855 - P.860

 胆道狭窄を起こす悪性疾患すなわち胆管癌,胆嚢癌あるいは膵頭部癌などの治療に関しては,可能な限り根治的切除術を行うことが現時点では最善と言えよう.また一方では,近年の画像診断の目覚ましい進歩が胆道癌の早期発見をもたらし,無黄疸にて比較的早期に発見され切除が可能である症例が増加しつつあるものの,依然として過進展した例や切除不能例が多くを占めているのも事実である.したがって,悪性胆道狭窄のマネジメントの可否や良悪が胆道癌症例の予後および患者のQOLを左右すると言っても過言ではない.
 胆道狭窄に対するアプローチの第一歩は,胆道ドレナージ術であることは言うまでもない.すなわち減黄,胆道感染の回避はもちろんのこと,ドレナージルートを用いた胆道鏡(PTCS)や胆管内超音波検査(IDUS)の精密検査が切除成績向上のためには必須となる.一方,胆道狭窄をきたした悪性腫瘍の切除率は向上したとはいえ肝門部癌や胆嚢癌では20%前後にすぎず,残された非切除例では内瘻化に代表されるinterventional radiologyを駆使してQOLの向上を目指すこととなる.そこで本稿では,治癒切除を目指した悪性胆道狭窄のマネジメントと非切除例における内瘻化術の最近の動向について述べてみたい.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.848 - P.854

演習 胸部X線写真の読み方—心疾患篇・2

心雑音と心肥大を認め自覚症状のない31歳の男性

著者: 大瀧誠

ページ範囲:P.865 - P.870

Case
 症例:31歳,男性.主訴と経過:生下時より心疾患を指摘されていたが,手術は拒否してきた.最近の検診で心雑音と心肥大を指摘され,手術適応の評価のために検査入院となった.これまでに呼吸困難,心悸亢進,胸痛を認めたことはなく,今回も明らかな自覚症状はない.
 入院時現症:胸骨左縁第2肋間に4度の収縮期雑音を聴取し,2音は固定性に分裂している.貧血,黄疸,チアノーゼは認めない.心電図では不完全右脚ブロックを示す.入院時の検査として胸部単純X線写真が撮影された(図1a,b).

症例によるリハ医療—内科医のために・10

在宅訪問

著者: 長谷川幹

ページ範囲:P.871 - P.874

 脳卒中者は生活圏が狭くなり,身体的・心理的な衰えがあると,発熱や外傷などを契機に「寝たきり」状態になりやすい.これを防止し,障害を抱えながらも張りのある生活をできるように援助する責務が医療関係者に求められる.
 ところで,筆者はこれまで約16年間勤務した総合病院内の脳卒中患者を中心にしたリハビリテーション病棟から,1998年9月リハビリテーションクリニックを開設し,本格的に在宅訪問に重点を置いた活動を開始した.現在,スタッフは医師1名,看護婦2名,理学療法士4名,言語治療士1名であり,その理念を①「障害者」と家族の方々の人間としての尊厳と自己決定の尊重,②「障害者」の機能回復などとともに新たな生活の再構築の援助協力,③「障害者」,家族とともに歩む,④「障害者」,高齢者になっても住みやすい社会の変革を住民とともに目指す,としている.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・49

天然痘を絶滅させたジェンナー

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.876 - P.877

 ジェンナーの牛痘種痘のお陰で天然痘(痘瘡)が地球上から絶滅したのは,WHOの宣言では1980年5月のことである.一つの病気,それも年々物凄い死者の山を築いた病気が,予防的医療行為によって地球上から絶滅したことは,医学史のなかでもほかに例のないことである.結核でもハンセン病でも抑え込むことはできているが,絶滅してはいない.それだけ天然痘の惨禍は大きく,種痘の効果への驚きは大きかった.
 ジェンナーが牛痘に注目したのは,彼が14歳から21歳まで外科医の徒弟をしていた頃である.発疹で治療に来た牛乳搾りの女が「私は牛痘にかかったから天然痘にかかるはずがない」といった言葉は,20年もジェンナーの心に焼き付いていた.ジェンナーは牛痘と天然痘との関係について症例を記録しつづけた.そして1796年に,牛痘に感染している女の痘漿を8歳の少年に接種した.この少年に天然痘の痘漿を植えて,牛痘感染が人の天然痘を防ぐことを実証したのである.

Scope

低ADL高齢患者に対する「腹臥位療法」のすすめ—全人間的アプローチ

著者: 有働尚子

ページ範囲:P.879 - P.887

 近年,わが国も本格的な高齢化社会を迎え,脳血管障害や種々の慢性疾患に起因する寝たきり状態に陥った高齢患者の増加は,社会的にも特に重要な問題となっており,今後ますます深刻さを増していく傾向にある.
 このような状況に際し,寝たきり状態の合併症が生じてから治療する,というサイクルで実践されてきた従来の老人医療の受け身的姿勢を反省するとともに,寝たきり状態に陥った後,単なる臓器レベルで延命治療を継続されるのではなく,「生きたヒトとしての健全な生活」を最大限に謳歌できるような「全人間的アプローチ」の一つとして,また,介護保険導入や在宅医療が奨励される昨今の医療情勢のなかで,いつでも・どこでも・誰にでも,安価に施行可能な寝たきり予防の具体的一方法として,今回「腹臥位療法」を紹介したい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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