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雑誌目次

雑誌文献

medicina36巻6号

1999年06月発行

雑誌目次

今月の主題 慢性呼吸不全に必要な基礎知識 Introduction

呼吸不全とは?—その定義と疫学

著者: 川上義和

ページ範囲:P.896 - P.898

●呼吸不全とは,肺ガス交換の破綻によって正常な生体機能が営みえない状態である.
●空気呼吸下でPao2が60Torr未満のもの,あるいはこれに相当する状態を呼吸不全とし,さらにPaco2が正常なものをⅠ型呼吸不全,Paco2が45Torr以上のものをII型呼吸不全とした.
●混合静脈血の酸素化が組織レベルの酸素化を表現すること,さらに混合静脈血Po2が正常値の35Torr未満のとき組織レベルで酸素不足があると判断できること.
●息切れは全例が必ずしも酸素不足によらない.

呼吸不全とはいかなる病態か?—知っておくべき病態生理

呼吸不全をきたすメカニズム

著者: 小山信一郎 ,   堀江孝至

ページ範囲:P.900 - P.901

●動脈血酸素分圧(Pao2)は,測定時の体位や加齢によって変化する.
●吸入気酸素分圧低下による低酸素血症.
●肺胞低換気による低酸素血症(A-aDo2が正常).
●肺胞気と毛細血管血の問のガス交換障害による低酸素血症(A-aDo2が開大).

呼吸不全の肺循環への影響

著者: 国枝武義

ページ範囲:P.903 - P.905

●呼吸不全の肺循環への影響では,肺胞低酸素症により肺血管が収縮するメカニズムが存在し,低酸素性肺血管収縮(HPV)といわれる.
●呼吸不全でも肺性心を起こす病態もあれば,起こさない病態もあるが,肺胞低換気を伴う呼吸不全では肺動脈圧の上昇から右室機能障害がみられる.この換気障害型肺性心では,赤血球増多,心拍出量の増加を伴い,肺動脈圧の反復上昇により漸次悪化する高心拍出量性心不全である.

低O2血症・高CO2血症の他臓器への影響

著者: 楊観虎 ,   栂博久

ページ範囲:P.906 - P.907

●低O2血症では皮膚,内臓の血管は収縮し,脳血管,冠動脈は拡張する.低酸素性肺血管攣縮のため肺血管抵抗は上昇し,長期になれば肺性心(右心不全)に陥りやすい.
●高CO2血症を伴う慢性呼吸不全では中枢のCO2レスポンスが低下し,主として低O2血症の刺激により呼吸が維持されている.そのため,不用意に高濃度の酸素吸入を行うといっそう換気が抑制され,ますます高CO2血症が進み,CO22ナルコーシスとなる.
●低02血症による脳障害は高CO2血症によるよりもはるかに重篤で非可逆的であるから,迷うときはPao2を上げることを優先し,CO2ナルコーシスは機械呼吸で対応するべきである.

慢性呼吸不全における呼吸筋不全

著者: 鈴木基好 ,   鈴木俊介

ページ範囲:P.908 - P.911

●呼吸不全は,肺不全と呼吸筋不全に分けて捉えることができる.
●呼吸筋不全は換気不全による高炭酸ガス血症をきたす.
●慢性呼吸器疾患が存在すると呼吸筋疲労をきたしやすい.

診断の組み立て—どのように診断するか,そのプロセス

病歴と症状のポイント

著者: 石橋正義

ページ範囲:P.912 - P.914

●発症の経過からみると,慢性呼吸不全の主な原因疾患であるCOPD,特発性あるいは膠原病による間質性肺炎,心疾患でも僧帽弁狭窄症,稀ではあるが原発性肺高血圧症などでは,10年来持続しているような慢性の呼吸困難がみられる.
●呼吸仕事量の増加をきたす疾患では,頸部の補助呼吸筋である胸鎖乳突筋の活動性,斜角筋の活動性,鎖骨上窩の陥凹,肩呼吸などの努力呼吸の徴候がみられる.
●急性増悪の症状は悪化原因となった病態を反映しており,慢性呼吸不全の症状ではないが,診断の手がかりとして重要である.

見落としてはいけない身体所見

著者: 冬野玄太郎

ページ範囲:P.916 - P.918

●慢性呼吸不全患者で慢性低酸素血症が持続していると,チアノーゼが生じても呼吸困難を認めないことがある.またチアノーゼは貧血症では出現しにくく,多血症では出現しやすい.
●慢性呼吸不全患者の意識障害は低酸素血症より高炭素ガス血症で生じやすい.発汗・手指振戦・傾眠が主症状である.
●ばち状指は肺疾患でも最も多くみられるが肺気腫患者では少ない.また,消化器疾患・心疾患では認めることがある.
●連続性ラ音(wheezes)を聴取した場合,肺気腫・心臓喘息・気管支喘息の鑑別は聴診所見のみでは不可能である.問診とほかの身体所見・検査所見が必要である.

慢性呼吸不全で重要な画像所見

著者: 小林利毅 ,   柳町徳春

ページ範囲:P.920 - P.924

●慢性呼吸不全の日常診療における画像診断の役割として,原疾患の診断のほかに新たな変化を早期に知ることも大切です.
●慢性呼吸不全の循環系への影響にも注意を払う必要があります.
●画像診断で,胸部単純X線検査は簡便で経過観察の手段として有用です.日頃から胸部単純X線写真と接していくことが大切です.

動脈血液ガス分析,パルスオキシメータ

著者: 三藤久 ,   小林弘祐

ページ範囲:P.925 - P.928

●慢性呼吸不全の症例では,低酸素血症だけでなく高炭酸ガス血症や酸塩基平衡の異常を伴っていることが多い.このため,慢性呼吸不全の症例を診断・治療管理していくうえで,動脈血液ガス分析は欠かせない検査の一つである.
●パルスオキシメータは,リアルタイムに非侵襲的に連続してSao2を推定できることから用途が拡大しているが,種々の誤差要因があり値の解釈に注意を要する.

慢性呼吸不全において重要な疾患・病態とその治療

慢性閉塞性肺疾患

著者: 永井厚志

ページ範囲:P.929 - P.933

●COPDに属する疾患として肺気腫,慢性気管支炎(末梢気道疾患)などの疾患がある.
●FEV1はCOPDの予後の予測によい指標である.
●肺気腫は気腔の拡大と気腔を構成する肺胞壁の破壊として病理形態学的に規定された疾患である.
●慢性気管支炎は持続する咳痰という臨床症状で定義づけられる.

肺結核後遺症

著者: 寺本信嗣 ,   長瀬隆英 ,   大内尉義

ページ範囲:P.934 - P.937

●肺結核後遺症は,在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)の原因疾患の第2位である.
●肺結核後遺症では患者全体の45%が呼吸不全症例である.
●肺結核後遺症症例では,他の呼吸不全症例に比べ,心合併症,特に肺高血圧の頻度が高い.
●高炭酸ガス血症を伴うII型呼吸不全のほうが予後がよい.

間質性肺炎・肺線維症

著者: 菅守隆

ページ範囲:P.938 - P.942

●間質性肺炎のうち,慢性呼吸不全をきたす最も重要な疾患は特発性間質性肺炎(Ii P)である.
●IIPの病態のうち,機能的変化をきたした上皮細胞から産生されるmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)は病態形成に重要な役割を果たしているのみならず,臨床的に間質性肺炎の疾患活動性,治療反応性を示すマーカーとしても重要である.
●間質性肺炎の治療には,ステロイド療法が中心に行われているが,IIPにおける効果は低い.

肺性心

著者: 福永興壱 ,   山口佳寿博

ページ範囲:P.943 - P.945

●肺高血圧を惹起する過程から,解剖学的肺血管閉塞が主因となる肺血管障害型と,長期にわたる低酸素症やアシドーシスによる肺血管収縮が主因となる換気障害型に分類される.
●換気障害型肺性心の治療を考えていくものとする.最も基本となる治療は,低酸素血症に対する酸素投与である.薬物療法としては,心負荷の軽減を目的として利尿薬,気管支拡張薬などの投与が試みられる.

神経・筋疾患と慢性呼吸不全

著者: 石原傳幸

ページ範囲:P.946 - P.949

●神経・筋疾患の呼吸不全は肺胞低換気が原因である.
●呼吸筋には原疾患による異常に加えて,疲労による筋破壊(セントラル・コア変化)が加わっている.
●呼吸不全治療の第一選択は鼻マスク法(NIPPV)で,Paco2が60Torrを超えたら開始する.
●予後は気管切開法が優れているが,NIPPVではよいQOLが得られる.

慢性呼吸不全の急性増悪

著者: 佐藤昌子 ,   鈴川正之

ページ範囲:P.950 - P.955

●人工呼吸管理を行う際には,非侵襲的な方法があることを念頭に置くべきである.
●非侵襲的陽圧人工呼吸(NIPPV)を施行するときのポイントは,適応をよく理解すること,マスクを装着するときには安定するまでそばについていること,病棟全体へのNIPPVの普及と教育である.

慢性呼吸不全における睡眠呼吸障害

著者: 小野容明

ページ範囲:P.957 - P.959

●慢性呼吸不全は夜間睡眠中に悪化する.
●悪化の病態は肺胞低換気が主因である.
●急性増悪を繰り返す以前にNIPPVの導入を試みるべきである.

慢性呼吸不全患者に対する外科手術の適応

著者: 諏訪邦夫 ,   豊田千穂

ページ範囲:P.960 - P.961

●%肺活量とFEV1.0%の双方を考えて「いずれも50%以上なら安全」,「一方が50%を下回れば,その度合いに応じて危険度が増す」という考え方が,手術適応を考える基準として確立している.
●手術により呼吸機能が損なわれるが,それには気道の変化,呼吸筋の損傷,疼痛と臥床,反射などの要素が関与している.

比較的稀な疾患—稀ではあるが知っていると得をする疾患

原発性肺高血圧症

著者: 半田俊之介 ,   岩田理

ページ範囲:P.962 - P.964

●臨床的に病因を確定できない肺高血圧症を原発性肺高血圧症(primary pulmonary hypertension)と呼ぶ.
●原発性肺高血圧症の肺血管の病理所見は3種類に分かれる.
●肺血管抵抗の著しい上昇は,当然の帰結として右室の拍出量および拍出予備能を低下させる.

肺リンパ脈管筋腫症

著者: 月野光博 ,   西村浩一 ,   北市正則

ページ範囲:P.966 - P.967

●妊娠可能な年齢の女性の肺に,平滑筋が異常に増殖するびまん性肺疾患である.
●病変の進行とともに嚢胞形成の傾向が明らかとなり,肺野の縮みよりもむしろ過膨張所見を示す.
●X線CT所見では,肺内に多数の低濃度領域が存在する.
●1秒率や1秒量の低下に示されるような閉塞性の換気障害が多い.
●10年生存率は20〜40%である.

原発性肺胞低換気症候群

著者: 高﨑雄司 ,   金子泰之 ,   伊藤永喜

ページ範囲:P.968 - P.970

●原発性肺胞低換気症候群(PAHS)における肺胞低換気の原因は,呼吸中枢障害に伴う化学感受性の著明な低下1)である.
●健常人では覚醒中,MRCSとBRCSの2系統が,一方睡眠とともにBRCSの働きは消失する.
●鼻マスクなどを介する非侵襲的間欠的陽圧呼吸療法(non-invasive intermittent positive pressure ventilation:NIPPV)を用いる治療法が主流である.

慢性呼吸不全の日常管理

日常管理の基本

著者: 喜屋武幸男 ,   宮城征四郎

ページ範囲:P.971 - P.973

●慢性呼吸不全の日常管理の目標は,呼吸不全症状の改善と,その維持により良好なQOLを維持することである.
●治療体系としては,薬物療法や呼吸管理法のみならず,理学療法,リハビリテーション,栄養管理なども重要である.
●日常生活指導として,禁煙や感染予防の指導,増悪時の対処法なども重要であり,必要に応じて在宅ケアシステムとの連携などの手配を要する.

薬物療法

著者: 蝶名林直彦

ページ範囲:P.974 - P.978

●基礎疾患の違いとともに,まずその病態が安定しているかどうかを念頭に置く必要があり,共通した病態として呼吸不全以外に,①気道閉塞,②気道感染,③肺性心などがあげられる.
●吸入薬は外来での管理の中心となるものであり,近年携帯用の定量噴霧式吸入器(metered dose inhaler:MDI)が一般的に用いられる.
●気道感染の起炎微生物としては,疾患により異なるもののH. influenzae(インフルエンザ桿菌),S. Pneumoniae(肺炎球菌),S. aeruginosa(緑膿菌),S. aureus(黄色ブドウ球菌),B. cataralis(モラクセラ・カタラーリス)が多い.なおペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の頻度は,ここ数年急速に増加している.
●抗菌薬に他剤との相互作用があり,留意しなければならない.
●特に肺結核後遺症による慢性呼吸不全では,日常管理においては脱水や電解質に留意しつつ,ループ利尿剤(ラシックス®)を用いる場合もある.

在宅酸素療法

著者: 西村正治

ページ範囲:P.979 - P.981

●慢性呼吸不全に陥った慢性閉塞性肺疾患患者に対して在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)が生命予後改善効果を有することは,既に古典的研究ともいえる欧米の二つの大規模研究で明らかとなった1,2)
●表1,2で述べられている適応基準は一つの目安であり,それですべての適応が決まるわけではない.当然ながら,他臓器合併症の評価や患者の年齢・社会的背景などをも考慮した臨床的.総合的判断を必要とする.

在宅人工呼吸療法の実際

著者: 成井浩司

ページ範囲:P.983 - P.985

●在宅人工呼吸療法(HMV)の対象は,高炭酸ガス血症を伴う慢性呼吸不全患者で,在宅酸素療法中にもかかわらず呼吸不全の急性増悪で頻回に入退院を繰り返す患者,睡眠時呼吸障害があり夜間の肺胞低換気のため高炭酸ガス血症,低酸素血症の悪化がみられる患者,入院中長期人工呼吸療法から離脱はできない患者などがあげられる.
●睡眠時在宅NIPPV療法について:神経筋疾患,ポリオ後の状態,Kyphoscoliosis,肺結核後遺症患者では,睡眠時呼吸障害により,日中の血液ガス所見から予測のできない高炭酸ガス血症,低酸素血症の悪化をきたすことがある.このような患者は,NIPPVTを用いたHMVのよい対象となる.睡眠時呼吸障害の早期検出とNIPPV療法の早期導入は,患者のADL,QOLを向上させ予後を改善する.

呼吸リハビリテーション

著者: 宮川哲夫

ページ範囲:P.986 - P.988

●欧米では呼吸リハビリテーションの方法論・効果が十分に確立されており,そのEBM(Evidence-based Medicine)が明らかである.
●呼吸リハビリテーションの目的は予防であり,対象は呼吸不全である.
●今後,わが国の呼吸リハビリテーションのガイドラインを作成し,多施設問の無作為化比較対象試験を行うべきである.

慢性呼吸不全患者の栄養管理

著者: 吉川雅則 ,   米田尚弘 ,   成田亘啓

ページ範囲:P.989 - P.992

●COPDでは,高率にアミノ酸インバランスとrapid turnover proteinの低下に基づく蛋白・エネルギー栄養障害を認める.
●COPDでは,lean body massの低下が肺機能障害,呼吸筋力低下,運動能低下などの病態生理と相関している.
●COPDの日常栄養管理では,十分なエネルギー源の投与と蛋白源として分枝鎖アミノ酸(BCAA)の投与が推奨され,高濃度BCAA強化成分栄養剤による経口栄養補給療法で,栄養状態,呼吸筋力,QOLの改善が得られた.

日常生活指導

著者: 木田厚瑞

ページ範囲:P.994 - P.996

●本邦では,慢性呼吸不全は高齢者が大部分を占めている.
●高齢者の慢性呼吸不全では,全身性の障害という視点に基づき,包括的な管理が重要である.
●日常生活を快適にするという点からは,呼吸困難の緩和対策が大切である.
●急性増悪の予防ではワクチンの接種が有用である.

慢性呼吸不全に合併しやすい全身合併症

著者: 市瀬裕一 ,   平嶺陽子

ページ範囲:P.998 - P.999

●高度の低酸素血症や高炭酸ガス血症の結果引き起こされた意識障害を肺性脳症といい,高炭酸ガス血症による場合をCO2ナルコーシスという.
●呼吸不全に合併する臨床的に重要な消化管出血の発症頻度は2.0%である.
●消化性潰瘍や不定の消化器症状を伴い,食事摂取に際しても呼吸困難が悪化するため食事摂取が不十分となりやすい.
●併発する感染症は,肺を含む各種臓器組織に障害を与え,多臓器不全の原因となる.

慢性呼吸不全に関わる法律的事項

慢性呼吸不全に関わる法律的事項

著者: 大崎逸朗

ページ範囲:P.1000 - P.1004

●慢性呼吸不全における障害者手帳の交付は呼吸器機能障害の程度に応じて適応となり,1級,3級,4級の3段階の等級に分かれる.
●公害健康被害による補償については,新たな認定は行われない.
●年金による給付は,呼吸機能障害の障害者手帳を持つ方がすべて対象となるわけではない.

慢性呼吸不全—最近のトピックス

肺気腫に対する肺容量減少手術(lung volume reduction surgery:LVRS)

著者: 岩﨑正之 ,   井上宏司

ページ範囲:P.1006 - P.1008

●肺容量減少手術は,肺気腫患者の肺機能改善を目的とした外科治療である.
●肺容量減少手術は機能改善を目的とした手術であるため,根本的(根治的)治療とは異なる.したがって何年間有効であるか現在追試中である.

肺移植の問題

著者: 大貫恭正 ,   新田澄郎

ページ範囲:P.1009 - P.1012

●肺移植は現在,世界で年間1,000例以上施行されているが,腎,肝,膵臓,心の移植と比較し数が少なく成績も良くない.
●欧米での適応疾患はPE,IPF,CF,PVDが主である.
●生体両側肺葉移植成功が本邦でも報告され,脳死ドナーからの移植も始まり,移植の機運は高まっている.

座談会

慢性呼吸不全の日常管理をめぐって

著者: 福地義之助 ,   吉田稔 ,   上田暢男

ページ範囲:P.1013 - P.1023

患者さんのアメニティをいかに確保するか
 福地(司会) 本日のテーマとなる「慢性呼吸不全の日常管理」については,特集の本文中にも比較的詳細に取り上げられていますが,一口に言えば,患者さんが呼吸不全という状況を抱えながら日常生活を送っていくうえで,どのようにしてQOLを確保するか,それを医療関係者がどうサポートできるかということだと思います.したがって,まず基本的には患者さんのアメニティの確保が重要で,その点では,苦痛の最大の要因である呼吸困難感の軽減がまず重要になります.そのための最適な薬物療法については,既に評価が済んでいる状況もあり,あとはそれを効率よく維持するための方策,つまり薬物療法のコンプライアンスを高める対策を考えることになります.
 もう1つのアメニティとしては,低酸素による組織hypoxiaに起因する心循環系の負荷増大や精神神経系の変調に伴う身体全体の違和感,不快感の軽減があります.これは在宅酸素療法(HOT)が一般的になっていますので,その安全性をいかに確保して,最も有効に治療効果が上がる設定を定期的にチェックして行えるかが重要になると思います.

理解のための22題

ページ範囲:P.1025 - P.1029

カラーグラフ 内科医が知っておきたい眼所見(最終回)

高血圧と眼・網膜動脈硬化症

著者: 戸張幾生

ページ範囲:P.1035 - P.1038

 高血圧,動脈硬化による眼底所見には,本態性高血圧,二次性高血圧,網膜中心静脈閉塞症,網膜分枝静脈閉塞症,網膜細動脈瘤,網膜動脈閉塞症などがある.本態性高血圧による眼底変化は不可逆的な網膜細動脈硬化所見が主体であり,腎疾患などによる二次性高血圧は血管痙縮性網膜症が主体になる.
 網膜中心静脈閉塞症は,主に網膜細動脈の硬化により視神経乳頭部での網膜中心静脈の還流障害により網膜出血を起こす疾患であり,網膜静脈分枝閉塞症は,網膜動静脈交叉部での細動脈硬化に伴う交叉部静脈の圧迫による還流障害により,閉塞静脈域に出血がみられる疾患である.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1039 - P.1044

演習 胸部X線写真の読み方—心疾患篇・3

呼吸困難と胸部痛を訴える44歳の女性

著者: 小林利毅 ,   大瀧誠

ページ範囲:P.1055 - P.1060

Case
 主訴と経過:突然の呼吸困難と胸部痛を主訴に受診.今まで心疾患や呼吸器疾患など既往歴に特記すべきことはない.
入院時理学所見:両側肺野呼吸音は整で,ラ音聴取や呼吸音の減弱は認めない.その他特記すべき所見は認められない.
血液ガスデータ:PO2 68Torr,PCO2 31.9Torr.
血液検査データ:WBC 8,200/μl,RBC 368万/μl,血小板 2843万/μl,総ビリルビン 0.4mg/dl,CPK 28U/l,LDH 455U/l,GOT 31U/l,GPT 21U/l.
 受診時ルーチンの胸部X線写真(図1a,b)を提示する.

症例によるリハ医療—内科医のために・11

脳血管障害による嚥下障害のリハビリテーション—発症から長期間経過してから経口摂取が可能になった2例

著者: 大仲功一 ,   伊佐地隆 ,   安岡利一 ,   大田仁史

ページ範囲:P.1061 - P.1065

 脳血管障害に嚥下障害を合併する頻度は決して少なくなく,大脳一側性病変であっても急性期で30〜40%,慢性期で5〜10%ともいわれている1).そして大脳両側性病変や脳幹病変では,より高頻度に嚥下障害が生じることが知られている2).嚥下障害のリハビリテーション(以下,リハ)については林ら3)によって総論的に紹介されているが,参考までに嚥下障害に対する4つのリハアプローチ(藤島)2)を表1に示した.
 本稿では,脳血管障害に起因する重度の嚥下障害を有し,発症から比較的長期間を経過してから経口摂取が可能になった2例を紹介し,いくつかの手法に焦点を絞って解説を行いたい.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・50

神と聖霊の世界に引き返したパラケルスス

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.1066 - P.1067

 医学史をひもとくと,科学としての医学からさらに進んで宗教へと踏み出し,思索の深みにはまりこんだ医者に出会う.ヴァン・ヘルモントもそうであったし,パラケルススもそうである.いずれも時代を超越した鋭い思考と感性の持ち主で,精気と霊魂と自然力が混然として医学思想を支配していた時代から,理性的な科学の時代へと最後の跳躍を試み,そしてふたたび神と精霊の世界へ引き返した.
 パラケルススは北イタリアのフェラーラ大学で医学を学び,欧州を遍歴した.有名な出版業者フローベンの痛風と思われる下肢の病気を治して彼に信頼され,33歳のときにバーゼル大学の教授になったが,1527年6月5日に「ヒポクラテスやガレノスたちの教義から離れて自らの経験と研究により教える」と宣言したため,教授たちに排斥されて1年後にバーゼルを去った.

Report

98年10月ドミニカ共和国ハリケーン災害国際緊急援助隊派遣に参加して

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.1047 - P.1050

はじめに ―ハリケーン災害は歴史以来の大惨事
 「ドミニカはマリア様が岬の先にいらしてハリケーンを左右に振って下さってきたのに,今回はサボられた」.この言葉に大らかな国民性が現れています.ハリケーン「ジョージ」は最東端のマリア岬から,島国で九州ほどの面積のドミニカを,最大瞬間風速70m/秒,時速15kmで15時間かけてじっくりと横断直撃しました.その暴風雨による被害は死亡者249人,避難者12万人,電気や通信,道路のインフラストラクチャー,食料や家屋の日常生活被害,農作物被害で当該国の国家予算の1.42倍に及ぶ,国の歴史始まって以来空前の大惨事でした.衛生状態が悪化して感染症の発生が予測されました.同じ規模の台風がわが国のような文明国を直撃したら,想像を絶するでしょう.当該国はまだ開発途上で家屋,公共施設,電気や通信,上下水やガスが十分に確保されていません.国民もこのような文化的生活環境やものがないことにあまりびっくりしない人々に見えました.こんなときでも毎日正午から午後2時までは,商店も銀行も,仕事はお休みになります.わが国なら,きっと非常事態ということで休み返上となって復旧に励むところではないでしょうか.そういうお国柄にみえました.怠け者というのではなく,おそらくそういう形で,結果を受け入れているのでしょう.実際,その時間帯に屋外は32〜33℃で私たちはとても働けませんでした.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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