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雑誌目次

雑誌文献

medicina36巻7号

1999年07月発行

雑誌目次

今月の主題 不整脈患者のマネジメント 病歴から検査まで

病歴にもとづく動悸の鑑別診断

著者: 赤石誠

ページ範囲:P.1076 - P.1078

●動悸とは心拍の不快な自覚である.しかし,患者が用いる動悸という言葉は,必ずしも心拍の異常を指しているとは限らない.動悸という主訴が心拍の異常であることを確認し,さらにそれが頻拍を指しているのか否かを確認することが問診の第一歩である.
●そして,頻拍の開始と停止を明瞭に自覚できる場合は発作性上室性頻拍症,心房粗動/細動である.

病歴にもとづく失神の鑑別診断

著者: 小林洋一 ,   小原千明

ページ範囲:P.1079 - P.1081

●NMS(神経調節性失神)は起立時あるいは座位でのみ生じると考えてよい.心臓性失神は体位に関係なく生じる.
●冠攣縮性狭心症,Brugada症候群を含め特発性心室細動は夜間から早朝に,先天性QT延長症候群のtorsade de pointesは起床時や日中,運動時に,排尿・排便失神は夜間に起こりやすい.
●NMSは前駆症状として,熱感,口渇,空気不足感,消化器症状,欠伸,視野のかすみ,動悸,めまいが生じ失神に至る.
●心臓性失神は,動悸,胸痛などの前駆症状のある場合もあるが,短時間で失神に至る.しかし,NMSの心抑制型失神や状況失神の場合には前駆症状が乏しい.高齢者の場合にも前駆症状が乏しい.

心電図から危険な不整脈を予測する

著者: 加藤林也

ページ範囲:P.1082 - P.1088

●不整脈の重症度は患者の心機能にも依存するため,基礎心疾患を有する例では,不整脈の重症度診断に加えて,基礎心疾患の病態を正確に把握することが不整脈患者のマネジメントに最も重要である.
●心室細動や心室頻拍などの危険な不整脈の多くは,心筋梗塞や心筋症などの基礎心疾患を有する例に発現するが,基礎心疾患を合併しない特発性のものもあり,それらには非発作時にも特徴的な心電図所見を示すものがある.
●危険な不整脈を予測する心電図所見として,特発性心室細動例における前胸部誘導でのST上昇を伴った右脚ブロック型QRS波,torsades de pointesと呼ばれる多形性心室頻拍例におけるQT延長,心房細動を合併したWPW症候群におけるデルタ波の存在などが挙げられる.このほかにも連結期の短い心室期外収縮や,連発性あるいは多形性の心室期外収縮は,殊に急性心筋梗塞例においては不整脈の重症化を予測すべき所見として重要である(警告不整脈).

検診でみつかった不整脈をどうするか

著者: 白井徹郎

ページ範囲:P.1090 - P.1091

●検診で見つかる不整脈の多くは無自覚かつ特発性である.
●治療対象となることはほとんどなく,検診受診者に余計な不安を与えないような対応が重要である.

ホルター心電図の読み方

著者: 斎藤寛和 ,   岩崎雄樹

ページ範囲:P.1092 - P.1096

●ホルター心電図により不整脈の本態や性状の把握,薬効の評価が可能である.
●不整脈死high risk群の同定に心拍変動解析が有用である.
●埋め込み型ループ心電計が実用化されつつある.

発作性頻拍,粗動におけるP波の読み方

著者: 藤本良久 ,   草野研吾 ,   大江透

ページ範囲:P.1098 - P.1101

●房室性回帰性頻拍(AVRT)のorthodromic tachycardiaでは,ST部分にnotch様の逆行性P波(P'波)が認められる.
●通常型AVNRTでは,逆行性P'波はQRSと重なり認識できないことや,V1誘導でrSr' パターン(pseudo r')をとることが多い.

不整脈患者で心エコーは役に立つか

著者: 南雲美也子 ,   三田村秀雄

ページ範囲:P.1102 - P.1104

●不整脈患者において心エコー図検査は,基礎心疾患の有無を確認し,治療前の評価に有効である.
●心房細動では,左房径・左房内血栓の有無を確認して除細動の適応を判断する.
●左室収縮機能指標などを計測して,適切な抗不整脈薬を選択する.

心臓電気生理学的検査(EPS)はどこまで有効か

著者: 矢野佳 ,   平尾見三

ページ範囲:P.1105 - P.1107

●心臓電気生理学的検査により,カテーテルアブレーション,ペースメーカー,植え込み型除細動器,抗不整脈薬など不整脈疾患の治療法選択に結びついた有用な情報を得ることができる.
●また失神・動悸など,一般外来でも比較的みることの多い症状の鑑別診断上,本法が時に必要となるので,循環器専門医以外もその適応についての理解が必要である.

救急治療のdecision making

不整脈患者を入院させるとき・させないとき

著者: 小田倉弘典

ページ範囲:P.1109 - P.1111

●Adams-Stokes症候群を伴い,図1のような心電図を呈する場合は,何らかの処置により一時的にその不整脈が消失したとしても直ちに入院させるべきである.
●発作性心房細動・粗動,発作性上室頻拍を呈し,基礎心疾患のため心機能が低下している症例では,心室拍数が少ない場合でも容易に心不全やAdams-Stokes症候群を併発することがある.
●心電図所見のみならず,患者の基礎心疾患,脳虚血や心不全を示唆する症状の有無,心機能などを考慮し,総合的に入院の適否を判断することが重要である.

Narrow QRS頻拍の鑑別と救急治療

著者: 宮崎利久

ページ範囲:P.1112 - P.1115

●心電図から上室頻拍の機序を鑑別する際には,異所性心房興奮(P')に注目することが大切である.
●心房粗動の房室伝導比が2:1で一定の場合,上室頻拍との鑑別が難しいことがある.
●房室結節がその興奮旋回路に含まれる房室結節回帰性頻拍(AVNRT),房室回帰性頻拍(AVRT)は迷走神経刺激(頸動脈洞マッサージ・Valsalva法),ATP(アデホス®)またはベラバミル(ワソラン®)の静注で房室結節の伝導を抑制することによって停止できる.

Wide QRS頻拍の鑑別と救急治療

著者: 櫻田春水

ページ範囲:P.1116 - P.1118

●規則正しいwide QRS頻拍では,房室解離やQRS波形から心室頻拍(VT)を診断する.
●VT中の血行動態が不安定のときは直流通電を,安定していれば抗不整脈薬の静注を行う.
●不規則な頻拍では,脚ブロックを伴う心房細動(af)とWPW症候群を合併したafの鑑別を行う.WPW例にはジギタリス,ベラパミルは禁忌である.

心筋梗塞に伴う不整脈とその治療

著者: 高橋尚彦 ,   原政英 ,   犀川哲典

ページ範囲:P.1120 - P.1122

●急性心筋梗塞による死亡の多くは発症後1〜2時間以内に生じ,そのほとんどが心室頻拍(VT)や心室細動(VF)などによる不整脈死と考えられている.
●急性心筋虚血が原因となって生じているVTやVFに対しては,抗不整脈薬を用いた不整脈の抑制よりも,血行再建による心筋虚血の改善が優先されなければならない.
●急性心筋梗塞患者に対しては,急性期にみられる不整脈そのものに対する治療だけでなく,慢性期の心機能低下および不整脈基質形成を可能な限り抑える治療も考慮する必要がある.

一時式ペースメーカーの適応と入れ方

著者: 峰田自章 ,   中里祐二

ページ範囲:P.1123 - P.1125

●経静脈的なカテーテル電極の挿入はX線透視下で行うことが望ましいが,緊急にベッドサイドで行う場合は,心内電位図を指標に行う.
●ペーシング閾値は1Vもしくは2mA以下が望ましく,確実なペーシングが可能な位置にカテーテル電極を固定する.
●ペーシングの方法やアプローチは,その後の治療計画や患者管理も考慮し選択する.また,十分なモニタリングのうえ合併症の予防に注意し,一時的ペーシングは可能な限り短期間とする.

予防と長期管理

不整脈を予防するとき・しないとき

著者: 杉薫

ページ範囲:P.1127 - P.1129

●不整脈の重症度によって予防するときと,予防しないときが決定される.
●致死的不整脈へ移行するか,心不全を惹起するか,あるいはQOLを低下させる不整脈は予防すべきであり,健常人にも生理的に生じQOLを低下させることもない不整脈は予防しなくともよい.
●不整脈は機能的な疾患であり予防可能であるが,その手段は日常生活の注意から非薬物療法まで幅広い.

心室期外収縮の3連発をどうするか

著者: 臼田和生

ページ範囲:P.1130 - P.1132

●心筋梗塞や心筋症,心不全などの基礎心疾患を有する場合には,連発性PVC(心室期外収縮)と心臓死,不整脈死との関係が報告されている.
●基礎心疾患のない連発性PVCは予後良好であるため,原則的に治療の必要はない.
●基礎心疾患に合併した連発性PVCの治療方針は,PVCの減少を目的とするのではなく,基礎心疾患に対する治療を最優先に行う.抗不整脈薬の使用が必要な場合は,薬剤の心機能抑制作用や催不整脈作用に十分注意して使用する.

心機能低下例における抗不整脈薬の使い方

著者: 土谷健 ,   奥村謙

ページ範囲:P.1133 - P.1136

●心機能低下例においては,I群抗不整脈薬の使用はたとえ不整脈を抑制しえても生命予後を改善しない.
●III群薬投与は非虚血性心疾患例では生命予後を改善させるが,虚血性心疾患の例では予後改善効果は明らかではない.また,重篤な心性/心外性副作用を生じることがあるので,その使用には十分に注意する.
●持続性心室頻拍や心室細動を生じる例では,植え込み型除細動器の植え込みを考慮する.

心不全の治療は不整脈死を減らすか

著者: 清水昭彦

ページ範囲:P.1137 - P.1140

●心不全による不整脈発生の機序は,構造的要因,神経内分泌因子,電解質,薬剤などによるものが考えられている.
●心不全時には,交感神経系が充進すると,心収縮力を強めるが,同時に頻脈性不整脈や突然死の原因となる致死性不整脈が起こりやすくなる.
●心不全の悪化に伴う突然死が,本当に心不全の悪化のみによるかどうかを見分けることは必ずしも容易でない.

心房細動におけるアスピリンとワーファリン®

著者: 安岡良典 ,   是恒之宏

ページ範囲:P.1141 - P.1143

●非弁膜症性心房細動は年齢とともにその罹患率は飛躍的に増加する.
●脳塞栓予防にはアスピリン,ワーファリンの使い分けが重要である.
●高齢者でもハイリスク患者では積極的なワーファリンによる予防が必要である.

心房細動のパターンに応じた治療の選択

著者: 山下武志

ページ範囲:P.1144 - P.1146

●発作性心房細動の治療は,症状軽減だけでなく慢性化予防のためにも,心房細動発作を早期に停止させることが必要である.
●心房細動発作が終日均等に出現せず,ある一定の時間帯に出現しやすいという事実により,この発症には自律神経機能が密接に関与していると考えられる.また,この関与を逆に治療に応用することが効果的な予防につながる.
●電気的除細動の施行前には,経食道心エコー検査により左房内血栓がないことを確認し,ヘパリンあるいはワーファリン®による抗凝固療法を行っておく.

抗不整脈薬,一般薬による不整脈の悪化(催不整脈作用)

著者: 栗田隆志

ページ範囲:P.1148 - P.1152

●臨床的な経験から,もともとQTが延長傾向(QTcで0.44以上)にあるもの,基礎心疾患を有するもの,性別(女性),利尿剤による低カリウム血症などがQT延長に伴うtorsade de pointes発生の危険因子として知られている.
●QRS幅拡大による多形性VTの場合は,薬剤投与前からのQRS延長(非特異的心室内伝導遅延)や重篤な基礎心疾患が,この副作用を予見する所見として重要である.
●薬剤投与中にIncessant VTや遅いレートの持続性VTが頻発した場合は,催不整脈作用も念頭に置いて,むやみに他の抗不整脈薬を追加してはならない.

抗不整脈薬をいつまで続けるか

著者: 池主雅臣 ,   内山博英 ,   相澤義房

ページ範囲:P.1153 - P.1155

●明らかな基礎心疾患を有さない症例の上室性および心室性期外収縮や非持続型心室頻拍は,症例の生命予後に関係しない.
●基礎心疾患を有する症例の心室性期外収縮は,基礎心疾患の治療をまず第一に行う.
●心房細動が慢性化した場合はIa・Ic群の薬剤を中止し,ジギタリス,βブロッカー,Ca拮抗剤などにより心室レートの調節を目標とした治療に変更しなくてはならない.
●基礎心疾患を有する持続型心室頻拍は再発性で,血行動態の悪化により致死的となりうるため,たとえ数カ月間発作がなかったとしても,安易に抗不整脈薬を中止・変更してはならない.

精神安定剤,電解質補正,甲状腺治療は不整脈を改善するか

著者: 樅山幸彦

ページ範囲:P.1156 - P.1158

●不整脈をみた際には抗不整脈薬の投与だけを考えるのではなく,基礎心疾患の有無とともに電解質や甲状腺機能の異常についても検索すべきである.
●心室性不整脈を有する例で低カリウム血症を認めたら,まず血清カリウム値を3.5mEq/l以上に補正する.また,心筋梗塞の急性期は心室細動を併発しやすく,あらかじめ血清カリウム値を4.0〜5.0mEq/lにコントロールしておく.
●甲状腺機能充進症に合併した心房細動は心拍数のコントロールおよび洞調律への復帰が難しく,抗甲状腺薬による甲状腺機能の正常化が必須となる.

不整脈患者の一般手術,妊娠時の対応

著者: 久賀圭祐

ページ範囲:P.1160 - P.1165

●一般的には,手術のリスクを軽減するためだけを目的とした検査や治療が必要とされることはほとんどなく,不整脈のために手術が禁忌になることもほとんどない.
●妊娠時の抗不整脈薬の安全性が完全に証明されることはありえないので,使用が不可避の場合には量と期間を必要最小限として,効果・必要性・副作用・血中濃度を妊娠の状況に応じて常に再評価しながら使用する.

不整脈患者への指導—酒,喫煙,運動

著者: 早野元信

ページ範囲:P.1167 - P.1169

●飲酒の生体への作用は,交感神経活動の亢進すなわち高い血中カテコラミン濃度による.不整脈としては上室性不整脈,特に心房細動が最も多く認められる.
●喫煙は抗不整脈薬(フレカイナイド,リドカイン,プロプラノロール)代謝を促進し,薬の作用時間を短縮させる.
●心室性期外収縮では,運動によってその数が減少あるいは消失する場合には運動制限を要しない.運動によって増加する場合や2連発が出現する場合は,注意して認可するか,あるいは運動制限を行う.

ペースメーカー患者管理における注意点

著者: 岡田豊

ページ範囲:P.1170 - P.1171

●生理的ペースメーカーの機能維持に不可欠な心房センシングには,アキレス腱もある.
●電気メスに代表される電磁干渉には,的確な対策をとる.
●日和見感染を起こしやすい患者では,遠隔期においてもポケット部感染の兆候に注意を払う.

非薬物療法の展望

徐脈性不整脈におけるペースメーカーの適応

著者: 山科章

ページ範囲:P.1173 - P.1176

●恒久的ペースメーカー植え込み適応かと思ったら,ペースメーカーが,①徐脈による症状を改善するか,②生命予後を改善するか,を考える.適応と判断したら最適のペーシングモードを選択する.

QT延長症候群に対する交感神経切除術

著者: 藤木明

ページ範囲:P.1177 - P.1179

●QT延長症候群の失神発作には交感神経活動が関与する.
●β遮断薬やペースメーカー治療で発作がコントロールできない場合に外科的交感神経切除術を考慮する.

薬物療法よりアブレーションを勧める不整脈

著者: 笹野哲郎 ,   沖重薫

ページ範囲:P.1180 - P.1182

●従来は薬剤抵抗性例が高周波カテーテルアブレーション(RFCA)の適応とされていたが,近年ではRFCAは薬物療法と並ぶ“first line therapy”である.
●抗不整脈薬治療の問題点として,予防効果有効率がRFCAに比較して大幅に低いため,患者は不整脈発作という精神的ストレスに常にさらされていること,また長期間抗不整脈薬を服用し続けなければならない点が挙げられる.
●RFCAによる根治が高率に期待できる種類の不整脈に対しては,より積極的にRFCAの適応を考えるべきと思われる.また,心機能低下例,腎機能障害例,妊娠を希望する女性など薬物療法が困難な症例も良い適応となる.

ICDの適応はどこまで広げるべきか

著者: 庄田守男

ページ範囲:P.1184 - P.1187

●植え込み型除細動器(ICD)は,致死的不整脈に対する対症療法として,1980年から臨床応用されている.
●最近では,血行動態の破綻をきたさない心室性不整脈に対しても使用される傾向にある.
●突然死のハイリスク群に対する予防的使用については,検討を要する重要な課題である.

Maze手術は積極的に行うべきか

著者: 熊谷浩—郎

ページ範囲:P.1188 - P.1190

●Maze手術の適応としては,手術が必要な基礎心疾患を有している心房細動で心房機能の回復が期待しうる場合である.
●発作性心房細動の一部には,心房全体に侵襲を加えるMaze手術やカテーテルMazeは不要で,心房の一部の線状焼灼や肺静脈などの局所の焼灼で治療可能な例が存在する.
●孤立性発作性心房細動でも,頻回で症状が強く,カテーテルアブレーションを含む内科的治療が無効な場合は,Maze手術という治療法がある.

鼎談

不整脈患者を安全に管理する

著者: 庭野慎一 ,   西村敬史 ,   三田村秀雄

ページ範囲:P.1193 - P.1204

 三田村(司会) 本日は「不整脈患者を安全に管理する」をテーマに,プラクティカルな面を中心にディスカッションをしていきたいと思います.
 これまで不整脈治療に関する議論というと,不整脈にどんな薬が効くか,より効果の高い薬はどれか,といったことが中心でした.それが10年前にCASTが発表されて以来,不整脈治療に対する考え方が大分変わってきています.単に薬が効くか効かないかという判断によるアプローチではなく,その治療が患者さんにとって安全なのか,それで患者さんが長生きできるか,という見方がより重要となりつつあります.また最近では,抗不整脈薬以外の薬や薬以外の治療も見直されてきています.

理解のための29題

ページ範囲:P.1205 - P.1210

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1214 - P.1219

症例によるリハ医療—内科医のために・12

多発性硬化症患者のリハビリテーション

著者: 河合正行 ,   野崎貞徳 ,   江崎宏典 ,   藤田雅章

ページ範囲:P.1221 - P.1225

 多発性硬化症(以下MS)は,わが国では比較的稀な疾患であるといわれているが,複数の中枢神経系に生じる脱髄性変化(空間的多発)は,種々の神経学的症状,神経心理学的症状を引き起こす.また,生命予後は比較的良好で,若年成人が長期にわたって再発寛解を繰り返す(時間的多発)ことは,多大の身体的,精神的,社会的障害となり,リハビリテーション(以下リハ)の重要性をさらに増大させることとなる.
 当院は長崎県大村市に位置する高度総合診療施設であり,理学療法士2名の限られたスタッフでリハを行っている.そこで院内各病棟との連携と同時に院外の社会資源とも積極的に協力し,可能な限りスムーズな在宅生活への移行をはかっている.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・51

ファロッピオに届かなかったヴェサリウスの手紙

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.1240 - P.1241

 ヴェサリウスが『人体構造論』(ファブリカ)を出版したのは1543年である.ヴェサリウスにとってこの大著は,青春の7年の歳月をかけて完成したものであった.この本のあまりにも即物的な解剖記載に霊魂の支配を重視する宗教界や医学界が反発することを予測して,出版のときヴェサリウスは一部の真実を敢えて曲げさえした.それでも非難は激しかった.ヴェサリウスは翌年パドヴァ大学を去り,スペイン宮廷医としてマドリッドに移った.まだ30歳を越えたばかりの彼にとって,まことに痛恨の極みであった.
 ヴェサリウスのあとの外科解剖学教授の空席には,8年後の1551年にファロッピオがピサ大学から移って就任した.ファロッピオはヴェサリウスの9歳年下で,学生としてヴェサリウスの講義を聴いた.ファロッピオは結核のために10年後に39歳で死ぬが,死の前年の1561年に『解剖学的観察』をヴェネチアで出版した.約350ページのこの小型の本のなかでファロッピオは,のちに「ファロッピオの管」と呼ばれる輸卵管を記載してこれを「子宮のトランペット」と呼び,また,顔面神経管,三半規管,鼓索なども記載した.

medicina Conference・28

抗生剤に抵抗性の持続性高熱をきたした10歳の男児

著者: 山之上弘樹 ,   柴村和久 ,   森下慎二 ,   佐野正 ,   北原光夫

ページ範囲:P.1228 - P.1239

 症例:10歳,男児.
 主訴:高熱,嘔吐,食欲不振.
 家族歴・既往歴:特記すべきことなし.血族結婚なし.家族および本人の結核歴なし,渡航歴なし.ペットは飼っていない.最近,海・山・川などで虫刺されや外傷の既往なし.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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