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雑誌目次

雑誌文献

medicina36巻9号

1999年09月発行

雑誌目次

今月の主題 下痢と便秘

理解のための31題

ページ範囲:P.1543 - P.1553

下痢と便秘の正しい理解

腸管の水分吸収のメカニズムと下痢の発症機序

著者: 馬場忠雄 ,   福田方子

ページ範囲:P.1414 - P.1418

●下痢とは,水分を多く含む形のない糞便を排泄する状態である.
●下痢発生の機序には,水・電解質の分泌亢進,吸収障害,腸管運動亢進の3つがあり,三者が互いに関与して下痢は生じる.
●下痢は大量の体液・電解質損失をきたすが,腸管内に停滞する有毒物質を洗い流すという点においては生体防御的な側面をもつ.
●NaClの吸収は,①NaCl共役吸収(Na+/H+交換輸送およびCl-/HCO3-交換輸送の共同作用),②グルコース・アミノ酸などの有機溶質吸収と共役したNaCl吸収,③大腸に限局した起電性Na+吸収,④小腸におけるNaCl共役吸収(Na+/Cl-共輸送)のルートがある.

排便のメカニズムと便秘の発症機序

著者: 佐々木賀広 ,   棟方昭博

ページ範囲:P.1419 - P.1422

●大腸運動パターンは筋層間神経叢の協調によりつくりだされ,神経叢の活動性は交感神経と副交感神経の拮抗支配を受ける.
●便秘とは,大便が長い間腸管にとどまり,水分が減少して固くなり,排便に困難を伴う状態である.
●便秘は,原因不明の特発性便秘(機能性便秘)と原因の明らかな二次性便秘に分類され,特発性便秘は弛緩性便秘と痙攣性便秘に分類される.

下痢の診断的アプローチ

ベッドサイドの下痢の診かたと便検査

著者: 河原弘規 ,   小林寅喆

ページ範囲:P.1424 - P.1427

●下痢のなかには保健所に届け出が必要な疾患もあるので,問診は確実に行う.
●身体所見では,まず脱水と貧血の有無を判断する.
●下痢の腹部触診では,炎症が腸管の漿膜側に及べば反動痛が出現することがある.
●採取された検体(便)は,冷蔵庫で数日保存が可能である.
●下痢の細菌学的検査では,一般的にはサルモネラ,シゲラ,ビブリオ,カンピロバクター,病原性大腸菌を目的菌として培養を行っている.

下痢の診断ストラテジー—誰に,いつ,どのような検査をすべきか

著者: 勝又伴栄

ページ範囲:P.1428 - P.1433

●下痢の原因疾患と病態は多種多様であるが,鑑別診断の基本となるのは病歴の聴取である.
●下痢診断のストラテジーとしては,急性下痢と慢性下痢に大別して計画するのが,診療上実用的かつ効率的である.
●急性下痢をきたす主な疾患は,感染性腸炎と薬剤性腸炎であり,初診時の重症度,血便の有無などにより,対処法や検査計画が異なる.
●慢性下痢をきたす主要な疾患としては,過敏性腸症候群と吸収不良を伴う慢性炎症性腸疾患である.便潜血や脂肪便の有無により,画像診断の手順や消化吸収試験を検討する.
●専門医へのコンサルトを考慮した診療も必要である.

腹部単純X線・超音波・CTから何がわかるか

著者: 水野富一

ページ範囲:P.1435 - P.1439

●下痢の患者では,腹部単純写真での鏡面像は生理的な所見であり,イレウスと診断すべきではない.
●腹部単純写真でのthumb printing signは大腸壁の肥厚を意味し,虚血性大腸炎以外でも認められる所見である.
●突然の腹痛と下痢症状を主訴に来院した場合は血管障害を念頭に置く.
●腸管壁の直接評価には超音波検査がよい.

大腸内視鏡検査・X線造影検査で何がわかるか

著者: 杉野吉則

ページ範囲:P.1440 - P.1441

●下痢のほとんどは急性や一過性のもので,画像検査が必要となるのは器質的疾患が疑われるとき,あるいは器質的疾患を否定しなければならないときである.
●疑っている疾患の種類やその後の検査の進めかたによって,内視鏡か注腸を使い分けるべきである.
●下痢をしていても患者の状態が許せば,前処置は十分に行ったほうが,微細病変も簡単に診断でき,かえって患者の負担が少なくなる.

自然寛解性の下痢と特異的治療を要する下痢の見分けかた

著者: 竹島史直 ,   牧山和也

ページ範囲:P.1443 - P.1445

●自然寛解性の下痢と特異的治療を要する下痢を区別するには,まず後者を診断する必要がある.そのポイントは,①詳細な問診(症状の発症時と経過),食餌内容,海外渡航歴,抗生物質などの薬剤の使用,放射線照射歴,ペットとの接触,高齢者の基礎疾患,発生の集団性,②下痢便の肉眼的観察,③大腸前処置なしで直腸からS状結腸内視鏡検査,挿入可能な限り口側までの観察と生検,である.
●迅速な診断と治療を要する下痢には,①高齢者,小児の下痢,②細菌性腸炎,③Cronkhite-Canada症候群,④潰瘍性大腸炎などが挙げられる.

下痢の一般的治療

急性・慢性下痢患者に対する生活・食事指導

著者: 町田マキヨ ,   佐竹儀治

ページ範囲:P.1447 - P.1449

●頻回の激しい急性下痢では,まず脱水はあるものと考え,水分,電解質投与を第一とする.
●慢性下痢を起こす代表的疾患であるCrohn病では,病期によって経腸栄養法,半消化態栄養剤などが有効である.食事開始により再燃する場合が多く,慎重で思いやりのある食事指導が必須である.

代表的な止痢薬と対症療法の注意点

著者: 朝倉均

ページ範囲:P.1450 - P.1452

●下痢治療のポイントとしては,以下のことが挙げられる.
 ①止痢薬を用いて下痢を止めてよい場合とよくない場合(感染性腸炎)の判断
 ②下痢による脱水に対して補液をどの程度の量,どのような方法(経静脈,経口)で,どのような内容のものを,どのくらいの速度で行うかの決定
 ③下痢をきたした原病に対する治療法

下痢のクリティカルケア

著者: 六倉俊哉

ページ範囲:P.1453 - P.1455

●下痢の多くは原因が除去されれば自然に治癒するが,特別な治療を必要とする重症例を見逃さないことが重要である.
●感染性腸炎の軽症例には抗菌剤は必要としないが,激しい下痢で腹痛,発熱を伴い,全身状態のよくないもの,高齢者や基礎疾患を有するものには抗菌剤を投与する.
●アメーバ赤痢やHIV感染症に伴っての下痢も散見されるため注意が必要である.
●炎症性腸疾患は重症度に応じて適切に治療していく必要がある.
●高齢者の血便では虚血性腸炎,出血性直腸潰瘍,大腸憩室出血,大腸癌を疑って精査を行う.
●肝硬変症の患者の下痢は腹膜炎,菌血症を伴っていることがあるため要注意である.

感染性下痢に対して抗生物質はいつ必要か

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.1456 - P.1458

●たとえ細菌性であっても多くの感染性腸炎では抗生物質は必要ではない.
●必要ない抗生物質治療により,有害作用の出現,コストの増大,耐性菌の出現を招く.
●抗生物質治療を決断するときは,患者の年齢,合併症の状況,全身状態などを考慮すべきである.

下痢の特殊病態—病態,診断から治療まで

抗生物質関連性腸炎

著者: 岩男泰 ,   渡辺守 ,   日比紀文

ページ範囲:P.1460 - P.1462

●抗生物質の投与に関連して菌交代現象として生じる腸炎であり,偽膜性大腸炎,出血性大腸炎,MRSA腸炎がある.
●偽膜性大腸炎は,大腸内視鏡検査で特徴的な偽膜形成がみられれば確定診断がつく.
●出血性大腸炎は虚血性腸炎との鑑別が必要であるが,主として横行結腸から上行結腸の深部結腸に好発する.
●MRSA腸炎は小腸が主病変であり,麻痺性イレウスを呈する.
●一過性下痢および出血性大腸炎は,起因抗生物質の投与を中止すれば,対症療法のみで軽快することが多い.
●偽膜性大腸炎,MRSA腸炎では基礎疾患をもつ患者が多く,全身管理が重要であり,塩酸バンコマイシンを経口投与する.

海外渡航者の下痢

著者: 森下鉄夫 ,   大庭堅太郎 ,   広川雅彦

ページ範囲:P.1463 - P.1467

●海外渡航者の下痢,すなわち旅行者下痢の大部分は,感染性腸炎である.その感染性腸炎の下痢起因菌は,腸管毒素原性大腸菌,サルモネラ,腸炎ビブリオ,カンピロバクター,プレジオモナス,赤痢菌などが多く,ウイルスではロタウイルスが多い.治療の基本は補液で,まず経口補液,重症であれば経静脈輸液を行う.さらに収斂・吸着薬,乳酸菌製剤が投与され,腹痛が激しい場合に抗蠕動薬が用いられる.抗菌薬は,起炎菌を同定し感受性のあるものを投与することが望ましいが,その余裕のない場合は,ニューキノロン系を投与する.
●開発途上国では水・食品はすべて汚染されていると考え,熱を通したものをとり,生食をしない.

免疫不全症例における下痢

著者: 林繁和

ページ範囲:P.1469 - P.1471

●原発性免疫不全症では腸粘膜の防御機構が障害されて腸内抗原が侵入し,リンパ組織は著しい変化を示し,吸収不良や下痢を生ずる.
●続発性免疫不全症では腸リンパ管拡張症や蛋白漏出性胃腸症,リンパ系組織の悪性腫瘍や増殖症などで吸収不良や下痢を生ずる.
●免疫不全症では易感染性のため様々な感染性下痢を生じ,なかには致死的な例もあるので的確な診断と治療が要求される.
●GVHDでみられる下痢は重篤であるが,放射線照射や薬剤による非免疫学的臓器障害あるいは感染性下痢との鑑別も重要である.

病原性大腸菌感染症

著者: 堀木紀行

ページ範囲:P.1473 - P.1475

●病原性大腸菌は,①毒素原性大腸菌,②病原血清型大腸菌,③組織侵入性大腸菌,④腸管付着性大腸菌,⑤腸管出血性大腸菌またはVero毒素産生性大腸菌の5つに分類される.
●診断は便培養により分離培養した大腸菌のH抗原とO抗原を用いた血清型による.
●腸管出血性大腸菌(大半がO157:H7)では,Vero毒素により出血性大腸炎や続発する溶血性尿毒症症候群,脳症が起こる.
●病原性大腸菌症の治療は抗生剤の投与と輸液が主である.

便秘の診断的アプローチ

ベッドサイドの便秘の診かた

著者: 草刈幸次 ,   安彦隆一

ページ範囲:P.1476 - P.1478

●「便秘です」と訴える患者の便秘の捉え方をよく吟味して治療の適応を決める.
●便秘を自覚した時期,継続期間,随伴症状の確認をする.
●身体的検査(視診・聴診・触診・打診)に加え,直腸指診を励行する.
●便秘を急性・慢性便秘と,機能性・器質性便秘分類で理解し対応する.
●機能性便秘は弛緩性・痙攣性・直腸型便秘に分けられる.
●器質性便秘との鑑別を兼ねて臨床検査・画像診断・内視鏡検査を併用する.

便秘の診断ストラテジー—誰に,いつ,どのような検査をすべきか

著者: 星加和徳 ,   飯田三雄

ページ範囲:P.1480 - P.1484

●排便状況の変化は器質性病変の存在を推定させる重要な病歴であり,患者自身の通常の排便状況がいつ,どのように変化したかを聴取することが重要である.
●便秘の検査では器質性病変を除外することが最も重要で,特に,便に血液混入を認めた場合はそれだけで大腸癌の存在を疑い,大腸内視鏡検査の対象となる.
●器質性便秘を否定できた場合は機能性便秘として取り扱うが,症候性便秘や薬剤性便秘があることも忘れてはならない.

腹部単純X線・超音波・CTから何がわかるか

著者: 井筒睦

ページ範囲:P.1485 - P.1487

●腹部単純X線は簡便,非侵襲的であり,便秘患者に対する消化管ガス像の評価にスクリーニング検査として役立っ.
●超音波(US),CTは断層像が特徴であり,便秘患者へのスクリーニング検査として用いられることは少ないが,便秘の原因となる器質的病変の性状や進展度診断には有用である.
●CTは高速化により,種々の消化管疾患の診断に積極的に用いられ,新しい表示法による新しい情報が期待されている.

大腸内視鏡検査・造影X線から何がわかるか

著者: 神長憲宏

ページ範囲:P.1489 - P.1491

●便秘において,大腸内視鏡検査や注腸造影検査は器質的疾患の有無を知るために必要である.
●便秘の原因で最も多いのは弛緩性便秘であるが,大腸癌などの器質的疾患を疑って,大腸内視鏡や注腸造影を行う必要がある.
●便秘を主訴とする患者には,腹痛,腹部膨満感,下痢を主訴とする患者よりも腫瘍性疾患(大腸癌とポリープ)の発見頻度が高い.

注意すべき便秘の見分けかた

著者: 横山信之 ,   鈴木亮一

ページ範囲:P.1492 - P.1493

●便秘の患者には十分な問診と身体所見をとることが必要で,特に直腸指診は必ず行う.
●症状が進行性で悪性腫瘍の存在を否定できない場合は大腸の精密検査が必要であるが,前処置でイレウスとなることがあり注意を要する.

便秘の一般的治療

慢性便秘患者に対する生活・食事指導

著者: 岩下悦郎 ,   岩井淳浩 ,   宮原透

ページ範囲:P.1495 - P.1497

●排便習慣を身につける.
●散歩や軽い運動を奨励し,心身の安定化,ストレスの除去を促す.
●高残渣食をすすめ,便量を増すことにより腸通過時間の短縮・便の水分量の増加・腸壁への刺激の増加を図る.
●脂肪の過剰摂取により大腸内常叢菌中のビフィズス菌の割合が低下し,腸内の異常発酵を伴う便秘を誘発するので,乳酸発酵を利用してできた食品を摂取する.

代表的な便秘薬と対症療法の注意点

著者: 長主直子

ページ範囲:P.1498 - P.1500

●対症療法を行う場合でも,常に器質的疾患の存在の可能性を念頭に置く.
●器質的疾患を有する患者に便秘薬は禁忌である.
●刺激性下剤の長期濫用は,腸管の弛緩をきたすことがあり,注意する.

便秘のクリティカルケア

著者: 豊永高史 ,   廣岡大司

ページ範囲:P.1501 - P.1503

●大腸壊死や穿孔をきたし急速に致死的な状態に陥ることがある.
●大腸壊死に進展しないうちに排便させうるかどうかがポイントとなる.
●盲腸の拡張が9cmを越えると穿孔の危険性が高まる.
●大腸壊死や穿孔がはっきりした段階では救命困難なことが多いので,手術適応の判断が重要である.

高齢者の便秘治療と宿便の予防

著者: 林篤 ,   田代博一 ,   大原信 ,   北洞哲治

ページ範囲:P.1505 - P.1507

●高齢者の便秘は基礎疾患を有することも多く,その鑑別診断が特に重要である.
●薬物療法を行う前に,生活および食事の指導を試みるべきである.
●薬剤の選択にあたっては,便秘の病態把握が大切である.
●高齢者の重篤な偽性腸閉塞症例の報告もあり,注意すべき病態と考えられる.
●便秘治療に伴う便失禁も高齢者では問題となることが多い.

便秘の特殊病態—病態,診断から治療まで

女性の便秘と妊娠中の便秘

著者: 高橋裕

ページ範囲:P.1508 - P.1510

●女性・妊婦の便秘の多くは,機能性便秘である.
●女性の便秘が妊娠中に多くみられるのは,①プロゲステロンがモチリン分泌を抑制することと相まって腸管蠕動を抑制すること,②食生活や生活習慣が乱れること,③腹筋が弱いこと,④増大した子宮による腸管の圧排,⑤便意の抑制(特に痔をもつ妊婦),などによる.
●治療は,規則正しい生活習慣と食事療法より始める.妊娠自体が便秘の原因であることを理解させる.
●下剤は,刺激性ではなく膨張性のものを勧めたいが,便秘⇔痔疾の悪循環を絶つために早期に症状をとる必要がある.母体・胎児に安全な薬剤を選択する.

刺激性下剤長期乱用と便秘薬依存症

著者: 星野恵津夫 ,   茂木秀人 ,   鈴木大介

ページ範囲:P.1511 - P.1513

●刺激性下剤乱用(laxative abuse)は,若い女性に多く,やせ願望,食行動異常,境界人格障害,薬物依存性などの精神科的・心身医学的な問題が背景となる.
●合併症として,低カリウム血症,代謝性アルカローシス,pseudo-Bartter症候群,尿路結石,大腸メラノーシス,腎不全,周期性四肢麻痺,直腸脱などが問題となる.
●薬物治療として,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の有用性が期待されるが,それ以外の向精神薬,消化器用薬,漢方薬なども用いられる.

直腸粘膜脱症候群・宿便性潰瘍

著者: 小林文徳 ,   板倉勝 ,   松崎松平

ページ範囲:P.1514 - P.1516

●比較的若年で下血を主訴に来院する患者では,MPSも念頭に置いて,排便時のいきみの習慣がないかなど,詳細な問診が重要である.
●宿便潰瘍は,高齢者で脳血管障害や手術後など,長期臥床を強いられる状態で発症する可能性が高く,食事療法や緩下剤などで便通をコントロールする.
●MPSも宿便潰瘍も内科治療が原則で,宿便潰瘍からの出血に対しては,ヒートプローブによる内視鏡的な止血治療が有効である.

大腸・直腸・肛門・骨盤腔の解剖学的異常に伴う便秘症

著者: 高橋俊毅

ページ範囲:P.1519 - P.1521

●鎖肛は出生時の視診と盲端の位置確認が治療上重要である.
●便秘症の発症が新生児のときからの場合,Hirschsprung病の可能性が高い.
●特発性巨大結腸症はnarrow segmentを認めない.しかし,きわめて短いshort segment型のHirschsprung病との鑑別は困難なことがある.
●緊張性骨盤床症候群は,随意筋の恥骨直腸筋と外肛門括約筋の機能障害と考えられる.
●中高年女性の便秘の場合,直腸瘤(rectocele)の可能性がある.

内科診療でよくみる下痢と便秘

過敏性腸症候群の診断と治療

著者: 佐々木大輔 ,   佐藤研

ページ範囲:P.1522 - P.1523

●IBSは軽症例も多いが,治療の困難な重症例もあり,患者層は幅広い.
●IBSは診断基準に拠って診断する.診断は器質的疾患の除外診断から行う.除外のための検査項目は必要最小限にとどめる.IBSは大腸神経症ではないという認識が重要である.
●IBSと診断したならば,重症度を判定し,重症度に合わせた治療を行う.
●治療は生活指導と薬物治療が中心となる.薬物には消化管機能調整薬を用いるが,必要に応じて向精神薬を併用する.症状が続く場合は心理療法も併用する.
●治療の最終目標は,患者が症状を自己コントロールし,社会適応性を身につけることにおく.

全身疾患に伴う下痢と便秘

著者: 柳川健

ページ範囲:P.1524 - P.1525

●慢性下痢や慢性便秘の場合には,器質的疾患の存在を疑いその原因疾患の検査をすべきである.その場合,消化器疾患にとどまらず,全身疾患を視野に入れた問診や検査が必要である.

内科治療に伴う下痢と便秘

著者: 櫻井幸弘

ページ範囲:P.1526 - P.1528

●多数の薬剤が下痢や便秘をきたすことを知っておく.
●入院患者での便秘や下痢は注意を要する.
●高齢者では,薬剤投与に際し,殊に下痢と便秘の副作用を知らせるべきである.

座談会

下痢と便秘―私はこう診断し,治療する

著者: 柳川健 ,   櫻井幸弘 ,   岩男泰 ,   上野文昭

ページ範囲:P.1531 - P.1542

 上野(司会) 本日は「下痢と便秘」の診断と治療に関するお話をお伺いいたします.
 今日お集まりいただいた三人の先生方はいずれも消化器内科をご専門とされていますが,それぞれ個人クリニック,市中の総合病院,大学病院と診療の場が違います.したがって患者層も異なり,下痢・便秘に対する診療の進めかたが異なるのではないかと思います.今日はそれぞれの立場を代表して,個性のあるご意見をいただけることを期待しております.

カラーグラフ 病原微生物を見る・2

コレラ

著者: 相楽裕子 ,   蜂谷かつ子

ページ範囲:P.1555 - P.1558

検査法
 コレラ菌の分離には,患者糞便などを選択培地,増菌培地を用いて培養し,疑わしい集落について形態,生化学的性状,0〜10%NaC1加ペプトン水での発育などにより,類似菌と鑑別する.血清型別,生物型別,コレラ毒素(cholera toxin:CT)産生性を確認したうえで,最終的にO1,O139型でCT産生の株をコレラの原因菌と判定する.コレラ菌の決定については迅速性が求められている.このため,分離同定にあたっては,疑われた時点での主治医への報告とともに,同定確定のために地方衛生研究所などの確認機関へ速やかに菌株を送付する.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1559 - P.1564

演習 胸部X線写真の読み方—心疾患篇・5

労作時呼吸困難を訴える78歳の男性

著者: 飯野美佐子 ,   大瀧誠

ページ範囲:P.1565 - P.1570

Case
 症例:78歳,男性.
 主訴と経過:うっ血性心不全にて入退院を繰り返している.今回,労作時呼吸困難を主訴に来院.来院時に撮影された胸部単純写真正面像,側面像を図1に示す.

医道そぞろ歩き—医学史の視点から・53

血液型とポリオの研究を開拓したラントシュタイナー

著者: 二宮陸雄

ページ範囲:P.1572 - P.1573

 ウイーン大学とロックフェラー研究所で研究したカール・ラントシュタイナーが,A,B,M,N,P,Rhの血液型を発見してノーベル賞を受賞したことはよく知られている.しかし,彼がポリオと人類の戦いで重要な発見をしたことを知る人は少ない.ポリオがウイルスで起きること,そしてある種のサルで発病させることができることを初めて発見し,ポリオの研究を飛躍的に前進させたのは40歳のラントシュタイナーであった.この他にも自己免疫疾患(発作性寒冷血色素尿)を初めて記載したり,サルで初めて梅毒を作ったり,リケッチアの組織培養に成功するなど,感染病学と免疫化学の分野での巨人である.
 ここではポリオの話をしたい.現在ポリオはワクチンによって制圧されているが,ソーク・ワクチンの有効性が確立されるまでは,例えばスウエーデンでは子供の死因の5番目で,アメリカでは年間6万近い子供が発病し,2万もの子供が麻痺を起こし,3千人が死んでいた.ソーク・ワクチンの安全性と有効性が報道された1955年4月12日には,アメリカ中の教会が鐘を鳴らした.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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