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雑誌目次

雑誌文献

medicina37巻1号

2000年01月発行

雑誌目次

今月の主題 急性冠症候群 Editorial

なぜいま急性冠症候群か

著者: 山口徹

ページ範囲:P.6 - P.7

●急性心筋梗塞,不安定狭心症の発生病態はともにプラークの破綻,血栓形成,内腔閉塞であり,一括して急性冠症候群とする.
●急性冠症候群としてまとめて理解することで治療方針を明確にできる.
●虚血性心疾患は急性虚血,慢性虚血に分けて考えるほうが臨床的である.

病態の理解のために

プラーク破綻と血栓形成の病理

著者: 山路國弘 ,   由谷親夫

ページ範囲:P.8 - P.10

●急性冠症候群は,その原因が冠状動脈血栓症であるとの理由から急性心筋梗塞,不安定狭心症,および突然死が含まれる.
●冠状動脈血栓症のプラーク破綻の原因として線腫性被膜の菲薄化がいわれているが,その主役はマクロファージと考えられている.
●プラーク破綻には,粥腫破裂と粥腫びらんの2つのタイプがある.
●冠状動脈硬化症の新しい分類としてStaryの分類が用いられている.
●急性冠症候群の危険因子は,高血圧症,糖尿病,および喫煙である.

プラークの破綻と安定化のメカニズム

著者: 相川眞範 ,   代田浩之

ページ範囲:P.12 - P.15

●プラークの破綻(plaque rupture)と血栓形成は,acute coronary syndromesの主な原因とされる.
●脂質低下療法による冠疾患イベントの減少は,病変の縮小ではなくプラークの質的改善(安定化)によるものと推定されている.
●脂質低下療法は実験的プラークの炎症細胞を減少させ,細胞外基質分解活性や血栓性を低下させる.

血栓形成の病態生理

著者: 小川久雄

ページ範囲:P.16 - P.19

●冠動脈血栓形成には,血小板の活性化,血液凝固系の亢進および線溶系の低下が必要である.
●不安定狭心症においては,冠動脈組織において凝固系のinitiatorである組織因子の発現が亢進している.

スタニング・ハイバネーション・プレコンディショニング—Ca2+とアデノシンの関与

著者: 北風政史 ,   堀正二

ページ範囲:P.21 - P.24

●心筋スタニングは,狭心症発作の重積や急性心筋梗塞にて認める病態であり,Ca2+過負荷やO2-産生がその分子メカニズムである.心筋ハイバネーションは,冠灌流圧低下によるが,細胞内Ca2+レベルの低下が原因となる.
●プレコンディショニングによる心保護はアデノシン-PKC連関が関与する.
●虚血性心疾患の病態把握・治療は,これらの病態を十分に念頭に置く必要がある.

急性冠症候群の診断

外来での問診のポイント

著者: 百村伸一

ページ範囲:P.26 - P.27

●大動脈解離や心筋炎などの循環器疾患,肺梗塞,胸膜炎などの肺疾患,あるいは消化器疾患との鑑別が必要.
●冠動脈硬化のリスクファクターや大動脈瘤,下肢閉塞性動脈硬化症,頸動脈狭窄などの病歴のチェックも重要である.

外来での心電図診断のポイントとpitfall

著者: 杉薫

ページ範囲:P.28 - P.31

●胸部症状(不快感,絞扼感,胸痛など)があって,以前の心電図と異なったST変化,T波変化あるいは陰性U波,異常Q波の出現,新たな脚ブロックの出現が認められれば,急性冠症候群を疑い,冠動脈造影で冠動脈病変を確認する必要がある.

高齢者へのアプローチ

著者: 井阪直樹 ,   中野赳

ページ範囲:P.32 - P.33

●高齢患者では多臓器に疾患を合併していることが多く,虚血性心疾患の診断にあたっても総合診療の立場で全人的診断が必要である.
●狭心症は非典型的であったり,無症候性であることが稀ではなく(unrecognized myocardial infarction),特に脳血管障害の合併がある例で頻度が高い.高齢者の虚血性心疾患の診断は,典型的胸痛がなくても慎重に判断する.
●心電図経過が非典型的であることがあり,左室肥大所見が虚血を示す所見であることがある.病歴や心電図で診断が得られなければ核医学的診断を行い,必要ならばジピリダモール負荷心筋シンチを施行する.

無症候性心筋虚血の診断とその意義

著者: 前川正人 ,   尾崎行男

ページ範囲:P.34 - P.36

●無症候性心筋虚血(SMI)の臨床的意義は有症候性の狭心症と全く同等であり,積極的な診断,治療が必要である.
●Cohn I型の診断は容易ではないが,糖尿病患者や複数の冠危険因子を有する症例ではSMIの存在を考慮し,運動負荷心電図やホルター心電図を行うことが重要である.
●虚血性心疾患において狭心痛の有無は患者の予後を左右するものではなく,むしろ不安定狭心症や急性心筋梗塞ではSMIのほうが予後不良とする報告が多い.

どの症例を入院させるべきか

著者: 山科章

ページ範囲:P.37 - P.39

●不安定狭心症の診断/重症度評価に病歴が重要である.
●心電図ではST偏位,陰性T波,陰性U波の経過観察が重要である.
●トロポニンTは不安定狭心症の予後指標として有用である.

急性冠症候群の画像診断

著者: 秋山真樹 ,   吉田清

ページ範囲:P.40 - P.43

●心臓超音波検査は,急性冠症候群の診断とともに,重症度や合併症評価が可能である.
●急性冠症候群の冠動脈造影では血栓像(造影剤の染み込み像,造影欠損像など)が特徴的である.
●血管内視鏡,血管内超音波などの新しい診断法が急性冠症候群の病態を視覚化した.

急性冠症候群の生化学的診断

著者: 清野精彦 ,   緒方憲一 ,   岩原信一郎

ページ範囲:P.44 - P.48

●急性冠症候群高リスク症例の検出にTroponin T,心臓型脂肪酸結合蛋白(HFABP)の測定(全血迅速判定法)が有用である.
●炎症,感染症の関与が注目され,CRP,IL-6,HGF,Amyloid Aの測定により短期-中期予後の推定が可能である.
●循環器救急の現場で活用される初期診断・治療アルゴリズムを示す.

急性冠症候群に対する治療とEvidence

不安定狭心症に対する治療法選択の原則

著者: 相澤忠範

ページ範囲:P.51 - P.53

●不安定狭心症は冠動脈の粥腫の破綻を原因とする場合が多いが,その他種々の病態を含む.
●中等度ないし高リスク群ではただちに入院させ,アスピリン,抗狭心症薬の経口投与に加え,ヘパリンおよび硝酸薬の静注を行う.
●早期に冠動脈造影を行い,治療方針を決定する.治療法選択にあたってはevidenceを参考にするが,施設の医療水準を認識することが必要である.

急性心筋梗塞に対する治療法選択の原則

著者: 藤井謙司

ページ範囲:P.54 - P.56

●急性心筋梗塞の急性期治療の主体は再灌流療法である.欧米では血栓溶解薬の静注が主流だが,わが国ではPTCAによる再疎通が普及している.いずれにしても迅速に診断をつけ,再灌流治療開始までの時間(door to needle time)を短縮する努力が必要である.
●抗不整脈薬や利尿薬,硝酸薬,カテコラミンは病態に応じて使用する.β遮断薬とACE阻害薬は,忍容性がある場合は予後改善効果を期待して追加投与する.

不安定狭心症に対する薬物療法と効果

著者: 北村順 ,   住吉徹哉

ページ範囲:P.57 - P.59

●不安定狭心症はプラークの破綻により冠動脈内に血栓が形成されて発症する,という考えが提唱されている.
●アスピリンは,心筋梗塞発症率,死亡率ともに減少させ,不安定狭心症の予後を改善した.また,チクロピジン,ヘパリンも予後の改善に有効と考えられている.
●不安定狭心症の薬物治療は70〜80%の症例に有効であり,残る2O〜3O%に対し緊急の侵襲的治療が必要となる.

不安定狭心症に対する血行再建治療

著者: 原和弘

ページ範囲:P.60 - P.63

●不安定狭心症の血行再建では虚血性合併症が高頻度である.
●血小板IIb/IIIa拮抗薬Abciximabの投与は,バルーン血管形成術およびステント植え込みにおける虚血性合併症を減少させる.

急性心筋梗塞に対する冠動脈血栓溶解療法の適応と効果

著者: 本宮武司

ページ範囲:P.64 - P.66

●急性心筋梗塞に対する血栓溶解療法の適応は,発症後12時間までの75歳未満の出血性素因のない患者である.
●生命予後改善効果は再灌流の程度(TIMI分類3の完全再灌流)に比例し,発症から再灌流までの時間に反比例する.
●閉塞冠動脈の再開通率はt-PAやpro-UKがSKやUKより高く,さらにt-Pa の急速投与や修飾型t-PAが優れている.

急性心筋梗塞に対するカテーテル治療の適応と効果

著者: 後藤剛 ,   光藤和明

ページ範囲:P.69 - P.71

●急性心筋梗塞に対する再開通療法は,血栓溶解療法からPTCA,さらにステント治療へと進歩している.
●適応決定には患者の血行動態が大きな意味をもつ.血行動態が不良な症例は,迅速で確実な再開通が得られるPTCA治療をまず選択する.
●PTCA治療にも多量の血栓の処理,no reflow現象に対する治療,びまん性で細い冠動脈病変に対する限界などの問題点がある.

急性心筋梗塞に対するプレホスピタルケアはどこまで行うべきか

著者: 浜重直久 ,   川井和哉 ,   土居義典

ページ範囲:P.72 - P.74

●急性心筋梗塞の死亡の半数以上は病院到着前に起こる.
●再灌流療法による心筋サルベージ効果・死亡率減少効果は,発症から早ければ早いほど高い.
●一次医療施設でのt-PA静注開始(prehospital thrombolysis)により,より効果的な心筋サルベージが期待されるが,不整脈や心破裂のリスクについての検証が必要である.
●高齢者では,血栓溶解療法による心破裂のリスクが高いため,prehospital thrombolysisよりもdirect PTCAを選択するほうが賢明である.

心原性ショックへの対応と効果

著者: 斉藤太郎

ページ範囲:P.76 - P.79

●急性冠症候群におけるショックの原因となる責任病変は,ほとんど左主幹部かあるいはそれに匹敵する広範囲虚血である.
●冠動脈造影施行に先立ち呼吸管理,循環動態の改善を行う必要がある.
●冠動脈造影およびそれに続く再疎通療法はIABPサポート下に行う.
●再疎通療法は血栓量に留意しPTCAを行いステントを留置する.
●ショックからの離脱困難で適応のある場合はPCPSを使用する.

不整脈への対応と効果

著者: 家田真樹 ,   三田村秀雄

ページ範囲:P.80 - P.82

●急性冠閉塞は,虚血心筋から致死的な心室性頻脈性不整脈を発生させることがあり,これは心筋梗塞急性期死亡の主たる原因となる.また,同じ責任冠動脈による虚血が,心筋のみならず刺激伝導系の一部にも及ぶため,病変部位に対応した徐脈性不整脈を合併することもある.
●これらに対する適切な薬物あるいは非薬物治療の必要性に加え,積極的な早期再灌流療法が,梗塞範囲を縮小することによって不整脈発生を減らしうることがわかってきた.

高齢者への対応のポイント

著者: 岩坂壽二

ページ範囲:P.83 - P.85

●高齢者といえども急性冠症候群では若中年者と同様の積極的治療法(PTCA,stentなど)を行う.
●高齢者では非定型的症状の頻度が高く,多臓器に疾患を有し,多くの薬を服用しているので注意する.
●高齢者では薬剤の薬動態,薬力学に変化があるため薬剤開始時は特に注意する.

治療後はいつ退院させるべきか

著者: 平山治雄

ページ範囲:P.87 - P.91

●心筋壊死の有無により入院期間は異なる.不安定狭心症では心筋壊死はないので,責任冠動脈の血行再建後,早期に退院可能である.
●心筋梗塞では心不全,不整脈の有無により入院期間は異なる.急性期の冠動脈再灌流療法により梗塞範囲の縮小に成功すれば,2週間以内の退院が可能となり,退院後の運動制限は不要である.梗塞範囲が大きく,心不全や不整脈を合併すれば,慎重な管理が必要である.
●長期予後の冠事故の予防のため,虚血の原因となる高度狭窄には血行再建を施行してから退院させることが望ましい.

心筋梗塞後のリハビリテーションと効果

著者: 大宮一人 ,   三宅良彦

ページ範囲:P.92 - P.95

●心筋梗塞後のリハビリテーションは急性期,回復期,維持期の3つの時期に分けて考える.
●リハビリテーションにより運動耐容能や生活の質の改善は望めるが,生命予後への改善効果の有無は,今後,大規模無作為試験で検討する必要がある.

退院後の外来ケアのポイント

著者: 日浅芳一 ,   原田貴史

ページ範囲:P.96 - P.98

●外来ケアの目標は,全死亡からの回避,再発予防,QOLの改善である.
●心室性不整脈は発症後1年間は厳重な管理が必要である.
●重大な心事故発生を想定し,処置をシミュレーションしておく.
●幅広い生活習慣の改善や冠危険因子の是正により再発を予防する.
●精神的ケアや復職には家族や職場の人と協力して支援する.

再発予防のための生活指導

著者: 池ノ内浩 ,   羽田勝征

ページ範囲:P.99 - P.102

●生活指導の要点は,冠動脈硬化進行の抑制と発作の誘発因子のコントロールである.
●冠動脈疾患による死亡の約70%と,心筋梗塞の50%が,冠動脈疾患の既往例に発生する.
●喫煙がいかに動脈硬化を促進するかを患者さんに十分に納得していただき,禁煙を達成する.
●中等症以上の高血圧は重要な危険因子で,大部分で内服治療が必要である.
●LDL-Cの目標値は食事のみによる達成は不可能.総コレステロール値を長期治療の指標に用いる.
●家族にはサポートの重要性を説明しておくべきである.

心筋梗塞への進展予防を目的とした薬物治療

著者: 金政健 ,   池田章子 ,   内藤方克

ページ範囲:P.103 - P.105

●近畿大学第一内科の心筋梗塞の二次予防試験で心事故発生率は,β遮断薬服用群3.2%,非服用群6.8%で,β遮断薬服用群で有意に心事故が低下していた.
●抗血小板薬服用により心事故は7.1%から3.7%へと有意に減少していた.
●高脂血症治療薬は服用群2.2%,非服用群6.2%で有意に服用群で心事故が低下した.

トピックス

新しい抗血小板薬—血小板糖蛋白Gp Ⅱb/Ⅲa受容体阻害薬

著者: 後藤信哉 ,   長岡優多

ページ範囲:P.108 - P.110

●GP IIb/IIIa受容体阻害薬は,強力な抗血小板薬であり,冠血管形成術後の血管イベントを20〜50%抑制する.
●GP IIb/IIIa受容体阻害薬のなかでもマウスとヒトのキメラ抗体であるabciximabの効果が最も強力である.

血栓を有する病変に対する新しいカテーテルインターベンション

著者: 鈴木智毅

ページ範囲:P.111 - P.113

●血栓性病変に対する冠動脈インターベンション治療成績は,急性期の冠合併症が問題となる.
●血栓性病変に対する新しいカテーテル治療としてAngioJetTM,Percu Surge GuardWire System,Intravascular ultrasound thrombolysisが登場した.
●急性冠症候群に対する血小板糖蛋白IIb/IIIa阻害薬の有用性が期待されている.

Off-pump CABGとMIDCAB

著者: 塩野元美 ,   瀨在幸安

ページ範囲:P.114 - P.115

●現在CABGは年間13,000例以上行われ,初回待機手術では死亡率19%まで向上している.
●人工心肺の弊害から,最近ではこれを使用しない心拍動下の手術が増加している.
●脳血管障害,高齢,癌合併,腎不全,慢性肺疾患合併例などで適応される.
●早期退院や費用の低減化などの利点の反面,成績や適応は検討の余地がある.

21世紀のCCUに求められるものは何か?

著者: 木内要 ,   高野照夫

ページ範囲:P.116 - P.117

 CCUは1962年,急性心筋梗塞の治療目的のため米国で初めて設置され,以来急性心筋梗塞のみならず,急性心不全,重症不整脈,急性大動脈解離,急性肺動脈血栓塞栓症,開心術後の管理なども行われるようになった.CCUの設置により発症早期に適切な治療が開始でき,かつ急性期モニターが十分に行えるようになったことにより急性心筋梗塞の死亡率は1982年の20%から1997年の7%に減少した.
 また,CCUは高度の先端医療を提供する機関のみならず,循環器医の教育・育成,IABP,PCPS,LVADなど多くの最先端医療機器の研究・開発の場としても重要な役割を担ってきた.

座談会

急性冠症候群へのアプローチと治療戦略

著者: 高山守正 ,   一色高明 ,   中村正人 ,   山口徹

ページ範囲:P.119 - P.130

 山口(司会) 本日は「急性冠症候群へのアプローチと治療戦略」ということで煙先生方にお話をお伺いしたいと思います.
 急性冠症候群というのは,急性心筋梗塞,不安定狭心症,虚血性の心臓死が含まれる臨床的なentitiyです.その基礎に粥腫の破綻とそれに伴う血栓の形成,内腔の狭窄あるいは閉塞があるという点で一元的に理解できる疾患群として,最近広く使われるようになった言葉です.
 ただ,臨床的な対応としては,急速に壊死しつつある心筋梗塞と,まだ壊死が起こっていない,あるいは軽度の壊死しか起こっていない不安定狭心症,非Q波心筋梗塞とではやはり治療戦略に違いがあります.

理解のための28題

ページ範囲:P.131 - P.137

カラーグラフ 病原微生物を見る・5

腸管出血性大腸菌O157

著者: 竹田多惠

ページ範囲:P.145 - P.148

臨床症状および経過
 夏期に患者は多発するが,冬季にもしばしば発生する.潜伏期は平均3〜5日である1).さらに遅れての発症も報告されているが,8日以降の場合は二次感染の可能性が高い2).初発症状は水様性の下痢と腹痛が主で,熱や血便は1割程度,吐き気や嘔吐,風邪のような症状が数%にみられる1).夏風邪と区別がつきにくい.多くは翌日から血便に移行する.血便は血液が線状に付着する程度から,鮮血そのものといつたもの(図1)まで様々である(出血性大腸炎,hemorrhagic colitis).大腸壁,特に回盲部から上行結腸には潰瘍や強い浮腫がみられ(図2,3),時には腸重積や直腸脱をきたすこともある.虫垂炎症状もしばしばみられる.
 発症後1週間くらいすると,患者の約1割は溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syn-drome:HUS)を続発する(図4).初期から腹痛や血便,熱の程度が高いほどHUS発症の危険性が高い.血液検査で白血球数やCRP値が高いこと,総蛋白やアルブミン値が低下していることも重症化の予知因子となる1,3).HUSは乏尿と傾眠傾向などで気付かれる.破砕赤血球(図5)の出現,貧血,血小板減少,尿量減少,腎機能障害などが1週間頃から急激に現れる.時には下痢症があまり目立たず,貧血や出血傾向を訴えて受診する患者もある.HUSの予後は蛋白尿や血尿など腎機能不全が長く残ることがあり,3〜4%は死亡する.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.150 - P.154

図解・病態のメカニズム 胃疾患・3

胃の微小循環—構造とその調節機構

著者: 辻晋吾 ,   川野淳

ページ範囲:P.155 - P.158

胃微小血管系
 胃における血管構築を模式化すると,図1に示したように,粘膜下で動静脈叢が形成されており,そこから粘膜へ細動脈・細静脈が伸びている.ただし胃の小彎ならびに大彎では,細動静脈は直接胃壁を貫通していると報告されている.胃潰瘍が胃の小彎側に比較的多い理由の一つに,このような胃の血管構築の差異があるのかもしれない.
 胃粘膜の微小血管系は粘膜表層に向かって上行する毛細血管系に始まる.この毛細血管系の比較的上流には,主細胞や壁細胞などの細胞が局在している.特に壁細胞は,ミトコンドリアによる好気的代謝により.酸分泌に要するATPをまかなっている.したがって,大量の酸素を消費する壁細胞が胃粘膜微小循環の比較的上流に位置することは目的に適っている.また壁細胞からは,酸分泌と同時に大量の重炭酸イオンが胃粘膜毛細血管系に放出され,その一部は被蓋上皮その他から分泌される重炭酸イオンの源にもなると考えられる.一方,胃粘膜微小血管の血管系とそこにかかる静水圧の関係について検討した藤田らは,毛細血管系の総断面積が減少する増殖帯付近では活発な物質交換が行われていると推測している.この毛細血管系と増殖帯の位置的関係は,腸上皮化生粘膜においてもみられるという.

演習 胸部X線写真の読み方—肺疾患篇・3

健診で結節影を指摘された59歳の男性

著者: 楠本昌彦 ,   森山紀之

ページ範囲:P.141 - P.144

Case
 症 例:59歳の男性.
 主訴と経過:健康診断で,胸部単純X線写真上異常所見を指摘され精査のため当院受診.自覚症状はない.
 理学的所見:特記すべき所見は認められない.
 血液検査データ:WBC 6,700/μl,RBC 473万/μl,CEA 11.6ng/ml,CA 19-913U/ml,NSE 10.9ng/ml.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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