icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina37巻12号

2000年11月発行

雑誌目次

今月の主題 消化器薬の使い方 2001 Editorial

対話とエビデンスに基づいた消化器薬の使い方

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.1736 - P.1738

従来の薬物治療の問題点
 いくら有用な薬剤があっても,それを正しく使わなければ意味をなさない.技術に長けた内視鏡医であっても,それを正しく適用する能力に欠ければ,むしろ危険きわまりない医師であるのと同様である.「薬の使い方」は薬理学とは少し異なる診療技術である.残念ながら,臨床医にとって重要なこの技術が正しく教育されているとは思えない.
 わが国の若手医師は,先輩に言われるがままに,あるいは先輩の処方を見様見真似で覚え,薬物治療を行うことが多い.その先輩も実は同じような方法で薬の使い方を学んでいるため,単なる表面的な技術の伝授の域を脱していない.そこで用いられる薬剤は,個々の患者で特定された問題点に対して最良の薬剤かどうかという評価がなされるはずもない.さらに悪いことに,医薬品は医療産業の中心的存在であるため,組織的な企業戦略により医師の判断と行動が左右されてしまうことも少なくない.

消化器治療薬を知る!

H2受容体拮抗薬

著者: 多賀須幸男

ページ範囲:P.1740 - P.1741

●胃の壁細胞のヒスタミン2(H2)受容体に結合して,夜間の酸分泌を90%以上抑制する.
●H2受容体拮抗薬の登場で,消化性潰瘍は容易に治すことができるようになった.
●食後の酸分泌の抑制は不十分である.
●腎排泄性であるから,腎機能が低下した患者では投与量を減らす必要がある.

プロトンポンプ阻害薬

著者: 石野祐三子 ,   木平健 ,   菅野健太郎

ページ範囲:P.1743 - P.1745

●プロトンポンプ阻害薬(PPI)は壁細胞において,胃酸分泌の最終段階を阻害することで,ほぼ完全に胃酸分泌を抑制する.
●PPIの主な適応症は胃潰瘍,十二指腸潰瘍,逆流性食道炎である.
●PPIは肝臓のチトクロームP-450で代謝されるため,併用薬剤には注意が必要である.

粘膜防御因子強化薬

著者: 加藤真子 ,   中村孝司

ページ範囲:P.1746 - P.1748

●粘膜防御因子強化薬において単剤での潰瘍に対する治癒効果は,スクラルファートや一部のプロスタグランジン誘導体を除いてH2受容体拮抗薬の治癒率に及ばない.
●粘膜防御因子強化薬は,今後,併用効果における有効性の証明が求められていくものと思われる.また潰瘍再発の予防効果においても単剤では,十分な効果が得られているとは言い難い.

消化管運動改善薬

著者: 茂木文孝 ,   関口利和

ページ範囲:P.1751 - P.1753

●副交感神経にはドパミン,オピオイド,セロトニンなどのレセプターが存在しており,アセチルコリンの遊離が調節されている.
●消化管運動改善剤には,これらのレセプターを刺激あるいは拮抗することで消化管運動を協調的に調節する薬剤が多い.
●消化管の器質的疾患は言うに及ばず,機能的疾患にまで医療の対象が広まっており,消化管運動改善薬の役割が大きくなってきている.

止痢・整腸剤

著者: 千葉英子 ,   鈴木亮一

ページ範囲:P.1754 - P.1756

●止痢剤には,収歛剤,吸着剤,粘滑剤などの腸粘膜刺激緩和剤や吸収促進剤,腸蠕動抑制剤などがある.
●整腸剤の主なものは,腸内殺菌剤と乳酸菌製剤である.
●対症療法のみならず,下痢の原因により適切な治療方針を決定するべきであり,治療においては,脱水と栄養補給に留意した全身管理が必要である.

下剤

著者: 福井チナミ ,   塩飽徳行

ページ範囲:P.1757 - P.1760

下剤の使い方
 下剤とは一般に腸内容物の排泄を促す薬剤の総称である.腸内容物を軟化させ排泄を容易にし,腸の運動を調整して内容物を排泄させる.下剤の応用は主に便秘の治療として用いられるほかに,大腸のX線,内視鏡などの検査や腹部の手術の腸管前処置としても使われている.また,経口摂取した有害物を腸内から排泄させる目的にも使用される.

炎症性腸疾患の治療薬

著者: 小林清典 ,   勝又伴栄 ,   五十嵐正広

ページ範囲:P.1761 - P.1763

●潰瘍性大腸炎とCrohn病の主な治療薬として,5アミノサリチル酸(5-ASA)製剤,副腎皮質ステロイドおよび免疫抑制剤が挙げられる.
●メサラジンは5-ASAの徐放剤で,副作用の発現頻度が低く,Crohn病の小腸病変にも有効である.
●ステロイドの離脱困難例や難治例には,免疫抑制剤が有効な場合がある.

肝疾患治療薬

著者: 銭谷幹男

ページ範囲:P.1765 - P.1767

 肝疾患治療薬は,①肝疾患の原因に対して用いられる薬物(表1)と,②肝疾患に基づく病態に対して用いられる薬物(表2)に大きく分けられる.それぞれの作用機序・使用法の詳細については本号の各論あるいは総説を参考にされたい.

膵疾患治療薬

著者: 丹藤雄介 ,   中村光男 ,   柳町幸

ページ範囲:P.1769 - P.1772

●急性膵炎では重症度に応じて治療方針を決定する.
●膵酵素阻害剤の使用には,薬剤のスペクトルと力価に注意する.
●慢性膵炎では病期に応じて治療方針を決定する.
●消化吸収不良を治療するためには,保険適用を超える量の酵素製剤の投与も必要である.
●消化酵素製剤使用後の血糖コントロールは緩やかに行う.

消化器病治療薬と臨床エビデンス

著者: 内田英二

ページ範囲:P.1775 - P.1778

●薬の作用機序や病態生理に基づく治療方針ではなく,実際に臨床で使用された結果を考慮した“真のエンドポイント”の設定が重要となってきている.
●EBMは,個々の患者さんにとって最適な医療を行ううえでの意思決定を支援するツールである.
●The Cochrane Library(コクラン・ライブラリー)は現在までの個々の文献や論文として公表されていない研究までを網羅してシステマティックレビュー(systematic review)を行っているとともに,MEDLINE(約20万件)をしのぐ数(約27万件)の臨床試験の結果を収載している.

消化器治療薬を使う!

胃・食道逆流症(GERD)

著者: 小山茂樹

ページ範囲:P.1781 - P.1784

GERDの概念と病態(図1)
 胃・食道逆流症(GERD:gastroesophagealreflux disease)は,胃酸を中心とする胃内容物の食道内逆流により生じる症状ないし(and/or)下部食道粘膜傷害を包括した疾患概念である.
GERDはendoscopy positive reflux disease(EPRD:内視鏡陽性逆流症)とendoscopy negative reflux disease(ENRD:内視鏡陰性逆流症)に亜分類される.EPRDは以前の「逆流性食道炎」と同意語であり,内視鏡検査にて下部食道粘膜に発赤・びらん・潰瘍の「粘膜傷害」のある疾患である(内視鏡的重症度分類であるLos Angeles分類1)は「mucosal break」と表現し,「粘膜傷害」と訳す).ENRDは内視鏡検査で明らかな「粘膜傷害」を認めない胃食道逆流症をいう.NUD(non-ulcer dyspepsia,現在ではfunctional dyspepsiaといわれている)は,内視鏡検査により慢性胃炎以外の所見を認めない疾患概念で,その症状より4亜型に分類(心窩部痛:ulcer-like,胃部膨満感:dysmotility-like,胸やけ:refiux-like,その他:nonspecific)されている2)が,reflux-like NUDはENRDと同一である.

消化性潰瘍

著者: 草刈幸次

ページ範囲:P.1786 - P.1788

◆Key Question
消化性潰瘍治療の第1選択はプロトンポンプ阻害薬(PPI:proton pump inhibitor)か?臨床エビデンス
 消化性潰瘍の治療は,近年大きく様変わりしている.外科的治療が一部の合併症に適用されるにとどまり,強力な酸分泌抑制薬による外来治療ができる疾患になった.また「消化性潰瘍は感染症か?」との議論の中で,除菌を中心とする治療が主流となる傾向にある.現在の医療体制の中には,2つの治療指針が示されている.
 内視鏡で診断された消化性潰瘍患者にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用する機会が増えたのは確かである.いわゆる潰瘍症状を訴え受診した患者の愁訴の早期寛解,早期治癒に向けて,H2受容体拮抗薬(H2RA)に比し,現時点ではPPIが最優先されている.PPI服薬後2〜3日以内に症状は消失し,自覚症状の消失した患者は潰瘍が治癒したものと勘違いし,その後の治療を放棄することさえままみられる.このことは,1980年代初めにH2RAが登場したときにも,症状消失期間こそ違え,同様な状況がみられた.このように,両者とも胃酸分泌を強力に抑えることで症状寛解に効果的である.しかし,この時期に治療中断すると胃・十二指腸に潰瘍は残存し,再び患者を悩ませることが多い.

機能性消化管障害

著者: 原澤茂

ページ範囲:P.1790 - P.1792

◆Key Question
どのような症例に消化管運動改善薬が効果的でしょうか?
臨床エビデンス
 機能性消化管障害(functional dyspepsia:FDまたはnon-ulcer dyspepsia:NUD)とは器質的疾患が認められずとも,慢性的に,胸やけ,食欲不振,悪心・嘔吐,胃部膨満感,腹部重圧感,上腹部痛などの消化器症状を訴える1つの症候群である1).この病態生理に関しては多くの検討がなされているが,1つの原因,1つの病態では説明できず,多くの要因が関与していることも事実であり,1つの証拠(エビデンス)で定義されるものではないのである.検討されている病態には,上部消化管運動障害(胃排出機能異常を含めて),胃酸分泌異常,Helicobacter pylori(H.pylori)の感染の有無,胃炎の程度,精神・心理的異常の有無,内臓知覚異常の有無などが報告されている.
 一方,FDまたはNUDは臨床的に自覚症状を大別して4つに分類され,胸やけ,呑酸を主症状とする胃・食道逆流型,食欲不振,膨満感,重圧感,悪心・嘔吐を主体とする運動不全型,空腹時痛,夜間痛などの腹痛を主症状とする潰瘍症状型,そしてうつ症,不安症的な症状が中心となる非特異型の4つである.これらの4つの亜型においてそれぞれ病態生理や臨床的特徴をまとめてみたものが表1になる2,3)これによると運動不全型と胃・食道逆流型はともに胃排出能の遅延状態が有意であるが,その他の亜型に関しては有意な病態がみられない.

H. pylori関連性疾患

著者: 高木敦司

ページ範囲:P.1794 - P.1795

◆Key Question
 EBMの観点からはHelicobacter pylori(H. pylori)の除菌対象の疾患は何が適当か?
 除菌療法の薬剤の組み合わせにはどのようなものがあるか?
臨床エビデンス
 H. Pyloriはヒト胃粘膜生検組織より分離培養されたグラム陰性のらせん状桿菌であり,慢性胃炎の主な病因として認められている.一方H. pyloriは消化性潰瘍においても高率に検出され,1994年の米国NIH(国立衛生研究所)のH. pylori除菌のためのコンセンサス・カンファレンスによりH. pylori陽性の消化性潰瘍の除菌が勧告され,欧米ではH. pyloriの除菌が潰瘍の治療として一般化している.さらにH. pyloriと胃癌や胃MALTリンパ腫との関連についても論じられている.
 EBMを発展させてきたSackettらの基準1)では,根拠の強弱を5段階に分け治療の推奨を3段階で行っている.消化性潰瘍の除菌療法による再発予防成績をまとめた総説2,3)では,H. pylori感染の治癒は,胃潰瘍,十二指腸潰瘍の再発減少に関連するため根拠が強いと結論づけられている.Hopkinsらの総説3)では,MEDLINEの検索が行われ,そのうち十二指腸潰瘍14編,胃潰瘍5編の論文の成績がまとめられた.その結果,総数892名の十二指腸潰瘍患者と222名の胃潰瘍患者がH. pyloriの除菌療法の結果が解析され,十二指腸潰瘍では,非除菌群の再発率が67%であるのに比し,除菌成功群は6%と低率であった.胃潰瘍においても除菌成功群での再発が低率であった.EBMの観点から,除菌療法は潰瘍の再発予防に根拠が強いと結論づけられている.

消化管感染症

著者: 小林文徳 ,   板倉勝 ,   松崎松平

ページ範囲:P.1796 - P.1798

 消化管感染症の多くは急性の経過をたどり,その治療薬は多岐にわたっている.さらに細菌自体の薬剤耐性なども加わって治療効果の判定を複雑にする因子が多い.そのため治療方針の根拠となるデータの多くはretrospectiveな症例研究から得られた知見である.

炎症性腸疾患

著者: 飯塚文瑛 ,   中村哲夫 ,   本間直子 ,   山岸直子

ページ範囲:P.1800 - P.1803

◆Key Question
スルファサラジン(サラゾピリン®),5-アミノサリチル酸(ペンタサ®)はどのように異なるのか.その使いわけの基準は?
臨床エビデンス
 炎症性腸疾患(IBD;潰瘍性大腸炎,Crohn病)は,わが国で次第に発症率が増加し続けている疾患で,潰瘍性大腸炎の患者が6万人を超え,Crohn病の患者は1万7千人に及ぶ.両疾患は病因,病態とも異なるが,以下のような共通点を有する.どちらも,①いまだ原因は特定されていない,②発症に多因子がかかわる,③免疫異常を伴う慢性・再発性の腸炎である,④ステロイドが治療薬となる合併症〔変形のない関節炎,眼の炎状(虹彩炎,強膜炎など),皮膚炎(結節性紅斑,壊疽性膿皮症)など〕を併発する,⑤腸病変の分布や腸炎の症状より診断される,いわば「症候群診断の疾患」である.
 これらの腸炎は治療においても以下のような共通点がある.いずれも適量・適切な用い方で,①活動期治療(軽症)の抗炎症薬の第一選択として,また緩解維持薬として,アミノサリチル酸製剤(サラゾスルファピリジン:サラゾピリン®や,5アミノサリチル酸:ペンタサ®が6〜8割に有用,②中等症・重症では,出血や潰瘍形成抑制にステロイド薬が8割に有用1〜6)

過敏性腸症候群

著者: 宮原透

ページ範囲:P.1804 - P.1805

◆Ke Question
消化管運動調整薬は過敏性腸症候群の治療薬となるか?
臨床エビデンス
 過敏性腸症候群とは,長期にわたる再発性の腹痛ならびに異常な便通障害(便秘,下痢もしくは両方)のコンビネーションと特徴づけられる.腹痛はしばしば食後に起こり,排便で軽快する.他の症状としては,腹部膨満感,粘液の排出,残便感などを伴う.原因としては器質的疾患,生化学的要因もしくは感染によるものではない.むしろ過敏性腸症候群は脳腸相関の調節失調,異常性に原因がある.そこには,痛覚の感受性の上昇,異常運動(消化管平滑筋運動の亢進もしくは不規則)を伴う.過敏性腸症候群患者は腸の通過時間の異常(下痢,便秘)のみならず,痙攣(強い収縮)を認める.痛覚の異常は知覚神経の過敏に起因する.内臓知覚神経が過敏であるうえに,通常の食事内容の消化,腸管の収縮にかかわらず腹痛,不快を訴える.ストレスが過敏性腸症候群を引き起こすわけではないが,ストレスは症状を増強する.ストレスは消化管機能に影響を与えるが,過敏性腸症候群ではさらに強い反応をもたらすと考えられている.
 しかしながら診療面においては,診断基準,治療ガイドラインもいまだ確立されていないのが現状である.最近,研究面の統一をはかるためRomeⅡの診断基準(表1)1)が普及している.治療についても,効果の判定も主観的要素の占める割合が多いため苦慮せざるをえない.

慢性ウイルス肝炎

著者: 柴田実

ページ範囲:P.1807 - P.1810

◆Key Question
慢性B型肝炎に対するIFN(インターフェロン)療法は長期予後を改善するか?
臨床エビデンス
 B型肝炎ウイルス(HBV)は世界で最も感染者(キャリア)が多い肝炎ウイルスであり,3億5千万人のキャリアが存在する.慢性肝炎が10年以上続くと10〜40%が肝硬変へ進展する.肝硬変では年間3〜6%に肝発癌を認め,年間4〜10%が死亡する.慢性B型肝炎の治療効果の判定には,ALT正常化,HBe抗原およびHBV-DNAの消失などが代用エンドポイントとして用いられる.HBe抗原陽性例では1回900〜1,000万単位のIFN(インターフェロン)を週3回4〜6ヵ月間,HBe抗原陰性かつHBV-DNA陽性例では1回600万単位のIFNを週3回24ヵ月間が最も有効な投与方法とされ,25〜40%に著効が得られる1).28の無作為対照試験(randomized controlled trial:RCT)のメタ分析では,自然経過観察群に比べIFN治療群では,ALT正常化が28%,HBe抗原消失が25%,HBV-DNA消失が24%増加する1).著効に関連する因子はHBV-DNA低値(<100pg/ml,ALT高値,肝組織HAIスコア高値,成人感染あるいは急性肝炎の既往,非アジア人種,HIV感染なし,IFN総投与量大である.

自己免疫性肝疾患

著者: 石橋大海 ,   具嶋敏文

ページ範囲:P.1812 - P.1815

◆Key Question
AIH(自己免疫性肝炎)に対してprednisolonは絶対的適応か?維持療法は何を目標にどの薬剤でどれくらいの期間続けるか?
臨床エビデンス(表1)
 AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)が正常の10倍以上,あるいは5倍以上で少なくとも正常の2倍以上の高γ-グロブリン血症,あるいは肝組織像でbridging necrosisを呈するような活動性が高いAIH(自己免疫性肝炎)症例に対して,prednisolon(PSL)が第一選択薬であることは,すでに1970年代に行われた臨床試験で確立している.その成績は,無治療での3年死亡率は50%,10年死亡率は約90%であるが,治療群ではそれぞれ10%,30%と大幅な改善が得られている.寛解導入の薬剤選択としてazathioprine(AZP)とPSL単独およびこれらの併用投与の比較もなされたが,AZP単独では効果が低い.寛解導入が得られた後は,維持療法において,どの薬剤をどのくらいの量でどのくらいの期間続けるかが問題となる.King's College Hospitalの報告では治療中止2ヵ月で約50%に再発をきたし,PSL単独継続しても2年後には約30%の再発がみられている.

非代償性肝硬変症

著者: 石井耕司 ,   住野泰清

ページ範囲:P.1816 - P.1818

◆Key Question非代償性肝硬変症に伴う肝性脳症に対して栄養治療は有効か?
臨床エビデンス
 非代償性肝硬変患者では黄疸,腹水,消化管出血とともに肝性脳症のコントロールが必要である.
 肝性脳症は,劇症肝炎,肝硬変で高度に肝機能が低下した場合に随伴する意識障害を主徴とする多彩な精神神経症状を意味する.肝性脳症の重症度は一般的には昏睡度分類I〜V度(表1)に従う.肝硬変が進展して高度に肝機能が低下した場合と,肝硬変に門脈大循環短絡を伴った場合に生ずる慢性の肝性脳症は劇症肝炎の進展に伴って出現する急性の脳症とは明らかに区別される(表2).

胆道系疾患

著者: 田中直見 ,   冨田慎二 ,   安部井誠人

ページ範囲:P.1820 - P.1822

◆Key Question
胆石疝痛発作,急性胆嚢炎は予防できるか?
 食事の欧米化に伴いわが国の胆石症の頻度も増加しており,成人における頻度は約5〜7%である.剖検例ではその頻度は高く,50歳代では10%を超え,80歳代では22.2%にも達する1).これから高齢化社会を迎えるわが国では,今後ますます胆石症が増加するものと思われる.胆石症には無症状期,有症状期,合併症期の3つの臨床病期が存在する.日常の臨床においては胆石があっても無症状の方も多い.本稿では有症状の代表である胆石発作や合併症の代表である急性胆嚢炎が予防あるいは予知可能であるか否かについて概説する.

膵疾患

著者: 田口進 ,   渡辺浩之 ,   天野長久

ページ範囲:P.1823 - P.1825

◆Key Question
急性膵炎に対するprotease inhibitorの持続投与はなぜ重要か?
臨床エビデンス
 急性膵炎の治療は,膵臓に起きた急性炎症を沈静化させることはもちろん,本疾患の病態の特性である全身の変化に対応することが必要であり,基本的な治療と急性膵炎に伴う合併症に対する治療とから成る.
 急性膵炎の発症,進展には多くの酵素が関与しているが,中でも蛋白分解酵素の1つであるトリプシンは,急性膵炎を発症させる重要な因子であり,さらにほかの膵酵素を活性化させ,これら活性化された膵酵素による膵自体の炎症の進展に加え,急性膵炎特有の全身臓器の障害を起こさせている.

消化器悪性腫瘍の化学療法

著者: 幾世橋篤

ページ範囲:P.1826 - P.1827

◆Key Question
胃癌化学療法の効果は何によって判定するか?
臨床エビデンス
 手術不能進行成人癌に対する化学療法の効果別ランクの中で,胃癌化学療法は奏効率が20〜50%止まりであり,著効(CR)は稀,長期生存も稀であるという「やや有効群」に属している.一般的には胃原発巣には奏効しにくく,リンパ節転移などには奏効しやすい.標準的治療となる胃癌化学療法では第Ⅲ相試験での生存期間の延長を示すことが必要である1,2).しかし,わが国ではこれまで生存期間の有意な延長を示した併用療法は出現していない.胃癌の化学療法は腫瘍縮小を評価基準として評価されてきた.CRと判定される患者はきわめて少ないが,確かに生存期間の延長を示す.問題は有効(PR)の患者が,不変(NC)や進行(PD)の患者に比べて生存期間が多少延長している場合と延長していない場合があることである.
 胃癌研究会により,胃癌化学療法の効果判定基準が日本癌治療学会の固形がん化学療法判定基準に従って作成されたのは,1985年であった.胃病変は測定可能胃病変(a病変),測定困難であるが評価可能である胃病変(b病変),およびびまん浸潤性病変(c病変)の3つに分けて評価し,NC以上は,新病変の出現なし,および4週間以上の持続を条件とされた.

消化器治療薬を求める!

GERDとアカラシアの薬物療法

著者: 本郷道夫 ,   佐竹学

ページ範囲:P.1830 - P.1832

●逆流性食道炎の治療は,逆流内容物の食道粘膜刺激性を減弱させる治療と,逆流現象を抑制する治療の2つのアプローチがある.
●実地臨床では酸分泌抑制の治療が汎用され,なかでもPPIの治療効果が高い.
●アカラシアの薬物治療には,舌下投与可能な形態の冠血管拡張剤が転用される.

H. pylori除菌治療の将来展望

著者: 穂刈格 ,   杉山敏郎 ,   浅香正博

ページ範囲:P.1834 - P.1836

●現在の標準的除菌法に使用されている抗菌薬に対して耐性H. pyloriが増加しており,早晩,新しい除菌法が必要となる.
●抗生剤に対するH. Pyloriの耐性機構の解明から,新たな抗菌薬が開発されよう.
●「胃」の特殊環境を十分に考慮した開発戦略が望まれる.
●ワクチンも検討されており,特に胃癌の予防に期待されている.

これからの炎症性腸疾患治療薬

著者: 船越信介 ,   日比紀文

ページ範囲:P.1838 - P.1841

●今後の治療薬として,①マクロファージやT細胞など免疫担当細胞の活性化の抑制,②炎症性サイトカインの作用抑制,③その前駆体を複製する遺伝子の転写を制御,④免疫調節サイトカイン,などが期待される.
●欧米でCrohn病に汎用されている抗TNF-α抗体は,日本でも近日中に認可されると予測される.

薬剤による大腸腫瘍の予防と治療

著者: 古賀秀樹 ,   飯田三雄 ,   垂水研一

ページ範囲:P.1842 - P.1843

●大腸癌は化学療法が困難であり,大腸腫瘍のchemopreventionが重要である.
●NSAIDsは家族性大腸腺腫症にも有効で,COX-2選択的阻害剤は副作用を軽減できる.
●アミノサリチル酸製剤は炎症性腸疾患での発癌予防効果が認知されつつある.
●PPARγリガンドは大腸腫瘍発生を予防する可能性がある.

ウイルス肝炎の新しい治療薬

著者: 岩渕省吾

ページ範囲:P.1844 - P.1846

●ラミブジン(LMV)はB型慢性肝炎に対する経口抗ウイルス剤として優れた効果を示し,保険適用が待たれる.
●LMV投与10ヵ月過ぎる頃,20〜30%の例で抵抗株による肝炎の再燃をみるが,それを機にeセロコンバージョンを示す例がみられる.
●ALT上昇例に有効例が多く,e抗体陽性例にも効果的である.
●従来IFN単独にて難治性であったC型慢性肝炎に対し,IFN+リバビリン併用が注目されている.

理解のための24題

ページ範囲:P.1849 - P.1853

SCOPE

HIV感染症診療の実際(後編)—専門医による治療の実際と保険診療とのギャップ

著者: 岡慎一

ページ範囲:P.1856 - P.1860

はじめに
 前編では,HIV患者の初診から病態の把握までを日和見感染症を中心に述べたが,本稿ではHIV感染症そのものに対する治療の歴史と,現在行われている強力な抗HIV併用療法(highly active anti-retroviral therapy:HAART)について概説する.ただし,HAART療法の進歩は非常に早く,最新のHAART療法は本稿が読まれる頃にはもっと新しいものに進化しているかもしれない.この点が,本稿の副題でもある治療の実際と保険診療のギャップにもつながっていく.

図解・病態のメカニズム—呼吸器疾患・1

目で見る肺の聴診所見

著者: 村田朗 ,   工藤翔二

ページ範囲:P.1863 - P.1867

 肺音(lung sounds)とは,われわれが胸壁上から聴取する音で,肺・胸郭内で発生し,正常・異常とは関係なく,心血管系を音源とする音を除くすべての音である.そして,呼吸により気道内に生じた空気の流れを音源とする生理的な音である呼吸音と,喘鳴など病的状態で発生する副雑音とに分類される1)(図1).この肺音の特徴は,第一に換気運動によってのみ音が発生することである.したがって聴診の際には,吸気・呼気のどの時期で聴こえるか,呼吸位相と関連付けて音を聴くようにしなければならない.第二に,肺内で発生した音は2つの異なる経路で胸壁に達する.一つは,肺を通過して胸壁に伝播されるものである.肺は高い音を通しにくい性質(低域通過型)のフィルターであり,発生源から遠いところでは小さく,低い音になる.したがって,肺音(特に呼吸音)の変化は,フィルターとしての肺の性質の変化を反映している2).もう一つの経路は,太い気道で発生する音の気道による伝播である.たとえば,喘鳴の90%以上は気管に伝播する.そのため気管の真上での頸部聴診は重要である.

演習 心電図の読み方・1

P波の異常

著者: 山科章 ,   近森大志郎

ページ範囲:P.1870 - P.1876

Case
 症例1:53歳,女性.健康診断での心電図.
 既往歴,現病歴,身体所見:特記すべきことなし.

新薬情報・5

コハク酸スマトリプタン(商品名:イミグラン注3)

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.1878 - P.1879

 適応■片頭痛または群発頭痛発作の治療.予防目的での使用は適応とされない.
 用法・用量■1アンプル(1ml)中にスマトリプタン3mgを含む.投与法は皮下投与のみであり,静注投与は冠動脈攣縮による虚血性心疾患や不整脈誘発の危険があるので禁忌である.当然,虚血性心疾患を合併する患者では禁忌である.また,本薬は内因性セロトニンが病因に関与すると推定される片頭痛または群発頭痛には有効であるが,脳血管障害などに続発する頭痛には無効であるのみならず,中枢血管収縮作用(下記「作用機序」参照)を介して原疾患を悪化させる可能性もあるので,投与は上記適応症の確定診断がある場合に限定し,また初回投与で効果がみられない場合には,いたずらに追加投与することなく専門医の再診を受けるべきである.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1882 - P.1887

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?