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雑誌目次

雑誌文献

medicina37巻3号

2000年03月発行

雑誌目次

今月の主題 高血圧の診療—新しい話題

理解のための28題

ページ範囲:P.461 - P.466

総論

高血圧診療の進め方

著者: 島本和明

ページ範囲:P.344 - P.346

 ●本邦の高血圧患者数(140/90mmHg以上)は3,000万人以上である.
●加齢とともに増加し,50歳以上では50%以上が高血圧である.
●血圧は測定条件によって変動しやすいので一定の条件で測定する必要がある.
●白衣高血圧(家庭血圧正常,診察室血圧高値)に注意する.
●二次性高血圧を常に念頭に置いて診察を行う.

高血圧の病態

食塩感受性

著者: 安東克之 ,   藤田敏郎

ページ範囲:P.349 - P.351

●食塩感受性とは,食塩負荷したときの血圧の上がりやすさである.
●高齢,女性,黒人,肥満,高血圧家族歴陽性,腎機能低下,腎疾患の既往,糖尿病の合併,低レニンなどの特徴のある患者では,食塩感受性が亢進していることが多いが,個人個人の食塩感受性の診断は容易でない.
●一部の二次性食塩感受性高血圧では遺伝子異常が指摘されているが,食塩感受性本態性高血圧の遺伝子異常についてはわかっていない.

インスリン抵抗性

著者: 片山茂裕

ページ範囲:P.352 - P.354

●本態性高血圧症にも,肥満やインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)の病態であるインスリン抵抗性が存在する.
●高インスリン血症は,腎臓からナトリウムの再吸収を高め,あるいは交感神経系を刺激することにより,血圧の上昇に働く.
●高インスリン血症を示す者では,肥満や糖・脂質代謝異常を高頻度に合併する.
●治療にあたっては,減量や運動はもちろん,インスリン抵抗性を改善する降圧薬を選択することが重要である.

肥満を伴う高血圧

著者: 久代登志男 ,   上松瀬勝男

ページ範囲:P.356 - P.358

●高血圧患者に左室肥大,高脂血症,糖尿病などが複合すると,心臓血管系疾患発症リスクと生命予後は相乗的に悪化する.肥満は,高血圧患者に並存するそれら病態の重要な危険因子である.
●肥満は,心拍出量増加,食塩感受性,交感神経緊張,高レプチン血症,インスリン抵抗性を介して高血圧の成因に関与する可能性がある.軽度肥満であっても,高血圧患者および正常高値血圧例(130〜139/85〜89mmHg)例では,減量は治療目的達成,あるいは高血圧の予防をするうえで意義がある.
●血圧管理は降圧目標を達成することが重要であり,降圧薬療法を導入する際には,並存する代謝異常を増悪させない薬剤の併用療法が勧められる.

血圧測定をめぐる話題

家庭血圧の測り方と正常値

著者: 大久保孝義 ,   辻一郎 ,   今井潤

ページ範囲:P.359 - P.361

●家庭血圧計は,精度検定がなされている上腕用のものを用いる.毎日同時刻に,一定の条件下で1回,3週間測定し,その平均値が135/85mmHg以上であれば高血圧と判定する.対象者には,説明書をもとに正しい測定法を熟知させるとともに,定期的な機械の精度チェックを行う必要がある.

24時間血圧測定の診断的意義

著者: 桑島巌

ページ範囲:P.362 - P.364

●夜間睡眠時に十分な血圧下降が認められない症例はnon-dipperといわれ,夜間に血圧が下降するdipperに比して臓器障害が高度であり,予後も不良である.
●降圧薬服薬例では,夜間血圧管理の良否が生命予後を決定する.
●早朝高血圧には,起床後に血圧が上昇するタイプと夜間から持続して血圧が高いタイプがあり,前者は脳心血管障害のトリガーとして,後者は臓器障害促進因子として重要である.

白衣高血圧

著者: 齋藤郁夫

ページ範囲:P.366 - P.367

●外来血圧高値で,家庭血圧あるいは自由行動下血圧が135/85mmHg未満の場合,白衣高血圧と診断する.
●併存する心血管系疾患リスクファクターを評価し,あれば,それに対処する.
●白衣高血圧の約50%が持続性高血圧へ進展するので,経過観察が重要である.
●白衣高血圧の予後は持続性高血圧よりよい.
●ライフスタイル修正を中心とした管理を行う.降圧薬治療により白衣高血圧の正常な家庭血圧,自由行動下血圧は低下しにくいし,その有用性は不明である.

大規模臨床試験の成績から

欧米の現況

著者: 松岡博昭

ページ範囲:P.369 - P.371

●これまでの大規模臨床試験の成績から,降圧薬治療により脳血管障害は約40%,冠動脈疾患は約15%抑制されることが示されている.
●心血管系疾患の抑制には降圧自体が重要であり,薬剤間の優劣は明らかにされていない.
●大規模臨床試験ではJ型現象は認められていない.
●高リスク高血圧患者を対象とした大規模臨床試験が進行中である.

日本の現況

著者: 瀧下修一

ページ範囲:P.372 - P.374

●わが国での大規模臨床試験の施行が困難である状況は変わっていない.
●いくつかの成績が得られるようになったが,結果的には小規模な研究になり,インパクトは必ずしも強くない.
●進行中のものを含め,現在まで行われた試験の問題点を公にし,それらを基に問題の解決を図る具体的な組織,体制づくりが必要である.

高血圧ガイドラインから

新しい高血圧ガイドラインWHO/ISH 1999

著者: 荻原俊男

ページ範囲:P.377 - P.379

●高血圧分類の血圧区分をGrade1からGrade3までとし,米国のガイドラインJNG-VI(1997)と一致させている.これをもとに心血管系リスクを層別化している.
●降圧目標を,若・中年者では130/85mmHg未満と,より厳格な血圧コントロールを求めている.
●降圧薬の選択は,第一次選択薬として,利尿薬,β遮断薬,Ca拮抗薬,ACE阻害薬,α遮断薬およびアンジオテンシンII(AI I)拮抗薬を挙げている.

新しい老年者高血圧の治療指針

著者: 日和田邦男

ページ範囲:P.380 - P.382

●わが国における「老年者の高血圧治療ガイドライン―1999年改訂版」について紹介する.
●同じ1995年版の骨子と大きな変更点はない.しかし,その後発表された主要な成績は盛り込まれている.
●治療開始血圧レベルと治療目標血圧レベルについて若干変更したが,年代別による設定は踏襲している.
●第一選択薬は,持続性Ca拮抗薬,ACE阻害薬(咳のため投薬できない場合はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)と少量の利尿薬である.目標血圧レベルを達成するためには,上記3降圧薬の組み合わせによる併用が推奨されている.

降圧療法—生活習慣改善に関するエビデンス

運動降圧療法

著者: 浦田秀則 ,   藤見幹太 ,   荒川規矩男

ページ範囲:P.383 - P.385

●運動降圧療法の運動には,適切な運動の種類と強度がある.
●週に180分間以上,運動時心拍数が138-(年齢/2)になるように運動強度を調節する.
●合併症のある症例では,医師の管理下での運動療法が必要である.

食事療法—塩分,アルコール,肥満への対策

著者: 河野雄平

ページ範囲:P.386 - P.387

●高血圧治療における食事療法の基本は,減量(肥満者において)と,食塩制限およびアルコール制限である.
●カリウム,カルシウム,マグネシウム,魚油,食物繊維の摂取増加にも,軽度の降圧や心血管リスクの軽減が期待できる.
●食事療法は,降圧効果が比較的小さいことと,達成および維持することが難しい点が問題である.
●医療チームによる繰り返しの指導や簡便な食事プランの導入が,食事療法へのコンプライアンスの改善に有用と考えられる.

降圧薬の話題

降圧薬の選び方

著者: 内藤昭貴 ,   島田和幸

ページ範囲:P.389 - P.393

●降圧薬は,患者背景や合併症,各薬剤の特徴や副作用を考慮して選択する.
●軽症高血圧では,長時間作用型の降圧薬を少量から開始するのが望ましい.
●併用療法は,降圧効果が相加的で副作用が相殺される薬剤の組み合わせが望ましい.

カルシウム拮抗薬

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.395 - P.397

●Ca拮抗薬は,その優れた降圧効果と重篤な副作用がないことから,日本では高血圧治療において最も多く使用されている.
●作用持続の短いCa拮抗薬は血圧を動揺させ,虚血性心疾患に悪影響を与える可能性があるので,1日1回投与ですむような作用持続の長いCa拮抗薬を用いるべきである.
●ACE阻害薬とCa拮抗薬の脳・心血管疾患の発症阻止効果の比較試験で,Ca拮抗薬がACE阻害薬よりやや劣る成績が出てきている.
●今後Ca拮抗薬とACE阻害薬,あるいはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬との併用投与が多くなるであろう.

ACE阻害薬

著者: 楽木宏実 ,   檜垣實男 ,   荻原俊男

ページ範囲:P.399 - P.401

●WHO/ISHの高血圧ガイドラインにおいて第一選択薬の地位を確立した.
●本邦における高齢者高血圧についてのガイドライン(1999年)においても,Ca拮抗薬,利尿薬と並んで第一選択薬とされた.
●CAPPP(Captopril Prevention Project)という高血圧患者での一次予防効果についての初めての成績が報告され,有用性が確認された.
●糖尿病合併高血圧での有用性が,CAPPP,ABCD,FACET,UKPDSなどで確認された.

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

著者: 後藤淳郎

ページ範囲:P.402 - P.406

●アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(AIIA)は,アンジオテンシンⅡ(AIIタイプ1受容体に選択的に結合し,AIIの昇圧作用を受容体の場で抑制して,降圧効果をもたらす.
●高血圧症では,ほかのいずれの降圧薬と比較して同等以上の有効性が認められる.
●AIIAでは,ほかのいずれの降圧薬と比較して,空咳を含めて,副作用が少ない.
●AIIAでは,ほかのいずれの降圧薬と比較して,服薬継続率が高い.
●AIIAは,高血圧を伴う心不全例で優先して使用できる.

α1ブロッカーによる降圧療法の特徴

著者: 高橋伯夫

ページ範囲:P.407 - P.409

●新しいタイプの薬剤では,起立性血圧調節障害が起こり難い.
●降圧時の反射性交感神経刺激(頻脈)作用がない.
●インスリン抵抗性を改善する.
●脂質代謝改善作用が明らかである.
●前立腺肥大症患者で尿路抵抗の高い高血圧症患者に優れた適応を示す.

利尿薬

著者: 加藤丈司 ,   江藤胤尚

ページ範囲:P.410 - P.412

●利尿薬は,化学構造と作用部位により,サイアザイド系利尿薬およびサイアザイド類似利尿薬,ループ利尿薬,K保持性利尿薬に分類される.
●サイアザイド系利尿薬は,降圧薬として汎用されている薬剤であり,β遮断薬やACE阻害薬などのほかの降圧薬の併用薬としても有用である.
●ループ利尿薬は強力な利尿作用を有しており,K保持性利尿薬はほかの利尿薬による低K血症の予防にも有用である.
●利尿薬は,電解質および糖・脂質代謝に対して好ましくない影響を及ぼす場合があるが,同薬の第一次選択薬としての有益性は,多くの大規模介入試験により実証されている.

β遮断薬

著者: 築山久一郎 ,   大塚啓子

ページ範囲:P.415 - P.417

●β遮断薬は虚血性心疾患合併例で有効性が高い.
●β遮断薬の心不全例での使用はわが国では禁忌とされているが,欧米諸国では適応が拡大されつつある.
●疫学的に糖尿病合併例でβ遮断薬の予後への効果はACE阻害薬と同等とされ(UKPDS 39),適応を拡大する傾向が認められる.

合併症を伴う高血圧—個別治療の実際

脳血管障害

著者: 北川一夫 ,   松本昌泰 ,   堀正二

ページ範囲:P.418 - P.421

●脳卒中急性期には,脳循環自動調節能が障害されている.
●脳梗塞急性期には,原則として降圧療法を行わない.
●脳出血急性期には,治療前の血圧値の80%,もしくは収縮期血圧160mmHgをめどに降圧する.
●慢性期脳卒中の再発予防には,収縮期血圧130mmHg,拡張期血圧85mmHg未満の正常血圧値を目標にゆっくり降圧する.
●脳血管障害急性期の降圧には,ジルチアゼム,ニカルジピンの微量点滴静注,慢性期の降圧治療には各種の経口降圧剤を用いる.

心肥大,心不全

著者: 青柳昭彦 ,   平田恭信 ,   永井良三

ページ範囲:P.423 - P.427

●高血圧治療の目的は,血圧の正常化により,心血管事故を予防し生命予後やADl を改善することであり,高血圧にしばしば合併する心肥大や心不全は,この心血管事故,生命予後,ADLに関する危険因子である.
●アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が心不全の長期予後を改善することは,多くの大規模臨床試験で証明されている.アンジオテンシン受容体拮抗薬は,血管壁や心筋局所でキマーゼを介して産生されたアンジオテンシンⅡの作用も抑制するため,ACE阻害薬以上の心肥大抑制作用や心不全改善作用が期待されている.
●βブロッカー,特に最近注目されているcarvedilolでは,心不全の予後を改善することが示されている.副作用として心機能が悪化することもあるので注意を要する.

虚血性心疾患

著者: 山野繁 ,   土肥和紘

ページ範囲:P.429 - P.431

●降圧療法は,高血圧患者での虚血性心疾患の一次予防および二次予防に有用である.
●虚血性心疾患を合併した高血圧患者に有用な降圧薬は,大規模高血圧臨床試験の成績に基づいて明らかにされつつある.

腎疾患

著者: 八木知佳 ,   伊藤貞嘉

ページ範囲:P.433 - P.435

●腎障害を伴う高血圧をみた場合,まず腎性高血圧と高血圧性腎症の鑑別が必要である.
●腎性高血圧と高血圧性腎症の鑑別には,蛋白尿と血圧の経時的関係が重要である.
●腎障害を伴う高血圧の場合,降圧効果のみならず,腎保護作用を考慮しながら薬 物の選択,用量設定を行うことが最も重要と考えられる.

糖尿病

著者: 吉川隆一

ページ範囲:P.436 - P.437

●糖尿病と高血圧の共存は,各種臓器障害を相乗的に悪化させる病態である.
●したがって,血圧管理のターゲットレベルは厳しく設定(130/85mmHg以下)されるべきである.
●糖尿病性合併症の治療にも,血圧管理がきわめて有用であることが確認されている.
●単剤治療にこだわることなく,積極的に多剤治療を採用すべきである.

高脂血症

著者: 村上眞 ,   冨田公夫

ページ範囲:P.438 - P.439

●非薬物療法により高血圧,高脂血症の改善を行う.
●サイアザイド,ループ系利尿薬は血清脂質に悪影響を及ぼす.
●ISA(-)のβ遮断薬は血清脂質に悪影響を及ぼし,またインスリン感受性を低下させる.
●その他の降圧薬は脂質代謝に悪影響を及ぼさない.

高血圧緊急症

著者: 松浦秀夫 ,   梶山梧朗

ページ範囲:P.441 - P.444

●高血圧緊急症,急迫症患者の患者背景,臓器障害の種類,程度を把握し,患者背景と臓器障害に適した降圧薬の選択が重要である.
●速やかな降圧は必要であるが,過度な降圧は有害無益であるため,降圧治療は入院のうえ,血行動態や臓器機能をモニターしながら行う.
●降圧目標は,拡張期血圧110mmHg,あるいは治療前平均血圧の25%までが目安である.

妊娠における降圧薬の使い方

著者: 鈴木洋通

ページ範囲:P.445 - P.447

●妊娠の可能性のある女性には,ACE阻害薬またはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬は使用しない.
●カルシウム拮抗薬の安全性は確立されていないが,短期間の使用は問題がないと考えられる.
●安全性の高い降圧薬は,αメチルドパ,ヒドララジン,ラベタロールである.
●妊娠前から使用している利尿薬やβ遮断薬は,変更する必要はない.
●降圧薬を用いる前に,家庭血圧などで白衣高血圧あるいは白衣正常血圧の有無をチェックする.
●血圧をどこまで下降させるのがよいか,いまだ明確な基準はないが,125/75mmHgがよいのではないか.

小児・若年者高血圧とその治療

著者: 川村祐一郎 ,   羽根田俊 ,   菊池健次郎

ページ範囲:P.448 - P.450

●若年者高血圧では二次性高血圧の頻度が高く,加齢に伴い本態性高血圧症の頻度が増える.
●若年本態性高血圧症の特徴として,1)発症,昇圧機序に自律神経系,とりわけ交感神経活性の関与が大きく,食塩感受性は低いこと,2)臓器合併症をいまだ有さない場合が多いこと,が挙げられる.
●小児に対する降圧薬の投与量は成人とは異なり,体重を勘案すべきである.

鼎談

高齢者高血圧の新しい治療ガイドライン

著者: 荻原俊男 ,   松岡博昭 ,   島本和明

ページ範囲:P.453 - P.459

 島本(司会) 最近,WHO(世界保健機関)/ISH(国際高血圧学会)やJNC(米国合同委員会)などから,多くの新しい世界的なガイドラインが出てまいりましたし,日本においても高血圧学会を中心に,新しいガイドラインを検討中です.現在,日本で唯一のガイドラインとして,1995年に荻原俊男先生が班長としてつくられた高齢者高血圧のガイドラインがあり,1999年にその改定案が出されています.本日は,日本のガイドラインの班員であり前班長である荻原先生と松岡先生に,高齢者高血圧の新しい治療ガイドラインのお話を,世界をリードするJNC-VIあるいはWHO/ISHとの比較を含め,伺っていきたいと思います.
●高齢者高血圧の特徴
 島本 最近日本では高齢者の増加に伴い,高血圧患者も増えてきているわけですが,まず高齢者高血圧の特徴について,荻原先生,ご説明をお願いいたします.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.471 - P.477

カラーグラフ 病原微生物を見る・7

腸炎ビブリオ

著者: 本田武司

ページ範囲:P.480 - P.482

腸炎ビブリオとは
 腸炎ビブリオが藤野恒三郎博士(大阪大学名誉教授)により発見されてから約50年を経過したが,腸炎ビブリオは現在でも依然としてわが国における細菌性食中毒の主要な原因菌の一つである.本菌による食中毒の一次原因食品は海産魚介類である.グラム陰性の楡杆菌(図1)であり,培養条件によっては極単毛と側鞭毛を有する(図2).魚介類の生食という日本人の食嗜好,また昨今のグルメ志向,あるいは発展途上国への海外旅行ブームを考えれば,本菌感染症が当分減少するとは思えない.むしろ,わが国の食中毒統計をみると,ここしばらくの間,本菌による食中毒は2,3位の発生頻度であったが,平成10年度は9年ぶりに第1位(患者数)となった.この意味で腸炎ビブリオもリエマージング(再興)した感染症といえるかもしれない.その一つの理由は,ここ1〜2年急増してきたO3:K6(やO4:K68)という血清型の腸炎ビブリオの世界的な流行がいわれている.

図解・病態のメカニズム 胃疾患・5

胃粘膜とプロスタグランディン

著者: 三宅一昌 ,   坂本長逸

ページ範囲:P.485 - P.487

胃粘膜におけるプロスタグランディンの役割
 プロスタグランディン(PG)は,生体内において主にアラキドン酸(AA)という物質から作られる.外部からの様々な刺激(化学的,物理的)を受けて,細胞膜のリン脂質にエステル結合していたAAが,活性化されたホスホリパーゼA2により,加水分解され遊離してくる.AAは,アラキドン酸カスケードと呼ばれる代謝経路を介していろいろな種類のPGやロイコトルエンなどに変換される(図1).アラキドン酸カスケードには,大きく分けて二つの代謝経路が存在し,その一つが,シクロオキシゲナーゼ(COX)という律速酵素から作られる物質群で,PGやトロンボキサンがそれにあたる.
 それぞれの細胞にはその細胞特有のPG合成酵素群が存在し,また刺激の種類により特有のPGや関連物質が合成される.そして合成されたPGおよびその関連物質は,各臓器や組織により様々な生物活性を示すと考えられている.

症例によるリハ医療—内科医のために・15

筋萎縮性側索硬化症患者のリハビリテーション

著者: 藤田雅章 ,   江崎宏典 ,   河合正行 ,   野崎貞徳

ページ範囲:P.489 - P.494

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,原因不明で根本的治療法の確立されていない進行性の神経難病である.初発症状は上肢の不自由や筋萎縮が約半数であるが,次いで球麻痺や下肢筋萎縮が生じ,漸次進行すると筋萎縮,筋力低下は全身に及び,末期には寝たきり状態となる.多くは球麻痺による呼吸不全や誤嚥のために死に至る(表1)1)
 今回,筆者らは気管切開し人工呼吸器を着けたまま在宅復帰ができている症例を紹介し,その取り組みと問題点について述べる.

演習 胸部X線写真の読み方—肺疾患篇・5

咳,痰が4ヵ月間続いている58歳の男性

著者: 松島秀和 ,   高柳昇 ,   金沢実 ,   佐藤雅史

ページ範囲:P.495 - P.498

Case
 症例:58歳,男性.主訴と経過:4ヵ月前より咳と痰が出現・持続したため受診.胸部X線にて異常を指摘された.経過中発熱は認めない.既往歴に特記すべきことなし.喫煙歴なし.血液ガスデータ:Po2 72Torr,Pco2 36Torr
 血液検査所見:WBC 6,700/mm3,RBC 354×104/mm3,Hb 12.5mg/dl,ESR 26mm/hr,CRP 0.5mg/dl.受診時の胸部X線写真(図1a,b)を提示する.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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