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雑誌目次

雑誌文献

medicina37巻5号

2000年05月発行

雑誌目次

今月の主題 血栓症と抗血栓薬 血栓症の基礎—最近の研究の進歩

血栓形成の3要因—Virchow's triad

著者: 安保浩伸 ,   半田誠

ページ範囲:P.682 - P.684

●19世紀に提唱されたVirchow's triad,すなわち,①血管壁の変化,②血液性状の変化,③血流のうっ滞,は現在までに明らかにされてきた血管壁,血小板,血液凝固因子,凝固制御因子,血流などの血栓形成の複数の要因を集約しているといえる.
●静脈血栓は,内皮細胞の障害,血流のうっ滞の増強,APC抵抗性・プロテインC・プロテインS・アンチトロンビンⅢ欠損症・抗リン脂質抗体などが発症要因として重要である.
●動脈血栓は高脂血症,高血圧,喫煙,肥満などを危険因子とする動脈硬化による狭窄の結果,血流速度が増加し高ずり応力が発生し,血小板の粘着,凝集が起こり形成される.
●血小板の粘着,凝集は,vWF,コラーゲン,フィブリノーゲンなどの粘着蛋白と血小板膜上のGP Ib/IX複合体,GP Ia/IIa複合体,GP IIb/IIIa複合体などとの結合により引き起こされる.

血栓症の病理

著者: 浅田祐士郎 ,   丸塚浩助 ,   住吉昭信

ページ範囲:P.685 - P.687

●動脈血栓の形成は,内皮下組織への血小板の粘着により始まり,引き続いて血小板凝集,フィブリン形成が起こる.
●動脈硬化巣の破綻部位では,血小板とともに外因系血液凝固系の活性化により,フィブリンに富んだ大きな血栓が形成される.
●播種性血管内凝固症候群(DIC)は,全身臓器の毛細血管レベルにフィブリン血栓が多発する.
●血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)では,心,脳,腎などの細小動脈と毛細血管に血小板血栓が多発する.

血栓形成における血小板の役割

著者: 西川政勝 ,   市岡希典

ページ範囲:P.688 - P.691

●虚血性心疾患などの動脈血栓症は,粥腫プラークの破壊とそれに伴う血栓形成により動脈閉塞や狭窄をきたす疾患で,その初期病変は血小板血栓の形成である.
●内皮細胞が傷害されると内皮下組織に血小板が粘着.凝集し,種々の生理活性物質を放出し壁在血栓が形成される.
●ADPやコラーゲンなどのアゴニスト惹起血小板凝集に加えて,狭窄部で生じた高いずり応力によるvon Willebrand因子依存性の血小板凝集が,血栓形成に重要な役割を演じていると考えられる.
●血小板は,動脈血栓形成初期に中心的役割を演じているばかりでなく,動脈硬化の進展にも密接に関係している.
●各種の抗血小板剤が開発され,動脈血栓症の治療や再発予防を目的に臨床使用されているが,これらのなかには抗動脈硬化作用を併せもつ薬剤がある.

組織因子と血栓形成

著者: 加藤久雄

ページ範囲:P.693 - P.696

●組織因子は細胞膜表面に存在する膜蛋白質である.
●組織因子の細胞外領域に血漿中のⅦ因子あるいはⅦa因子が結合することにより血栓生成反応が開始される.
●組織因子遺伝子の発現は種々の因子により制御され,また組織因子活性は血漿中のプロテアーゼインヒビター(TFPI)により阻害される.
●組織因子は血栓形成反応だけでなく,細胞内の情報伝達系の活性化反応にも関与し,血管新生や炎症,ガンの転移などにも関与している.

血液凝固制御因子と血栓形成

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.698 - P.700

●血液凝固系は,カスケード反応であり,かつリン脂質膜上でビタミンK依存性の凝固因子が分子集合して爆発的に進行する過剰反応型である.
●それに比して,この爆発的凝固反応を制御するインヒビターは種類も予備能も少ない.したがって,凝固系は促進系が制御系に比べて優位になっている.
●しかし,この過剰反応型の凝固系は内皮細胞依存性に効率よく制御されている.そこで内皮細胞が障害されると制御が破綻して血栓傾向となる.そのような内皮細胞障害因子としては,現代的には糖化蛋白,酸化変性LDLなどが重要である.

線溶異常と血栓形成

著者: 山本晃士

ページ範囲:P.701 - P.703

●動脈硬化,ループス腎炎,DIC(disseminated intravascular coagulation),肥満などの病態において血栓形成傾向が進展する背景には,線溶(血栓溶解反応)系因子の組織内発現異常が存在する.
●主要な線溶阻害因子であるPAI-1は,若年での心筋梗塞患者や静脈血栓症患者の血中において有意に高値を呈している.
●PAI-1は血小板にも含まれ,動脈硬化巣や血栓形成部位など局所での発現が亢進しており,フィブリンの溶解を阻害して血栓の存続,拡大に寄与している.

血栓症の臨床—疫学と病態

脳梗塞・TIA

著者: 棚橋紀夫

ページ範囲:P.705 - P.707

●脳梗塞の発症率は近年減少しているが,その低下率は鈍化している.
●脳梗塞は,発症機序の面からは血栓性,塞栓性,血行力学性の三つの機序がある.
●臨床病型の面からは,頭蓋内外の主幹動脈のアテローム硬化を原因とするアテローム血栓性脳梗塞,心腔内に生じた血栓が遊離して脳動脈を閉塞することにより起こる心原性脳塞栓症,深部の穿通枝動脈障害で生じるラクナ梗塞がある.
●アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症が増加しつつあり,ラクナ梗塞は減少傾向にある.

無症候性脳梗塞

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.708 - P.710

●無症候性脳梗塞は脳卒中の高危険群であるが,大半が高血圧を基盤とするラクナ梗塞であり,脳出血発症も20%に認められる.
●アスピリンによる一次予防では,脳卒中に対する予防効果は心筋梗塞に比して弱く,むしろ脳出血を有意に増加させるとされている.
●したがって,evidenceは不十分であるが,無症候性脳梗塞では主幹動脈病変例もしくはアテローム硬化や脳塞栓の高危険群に限って,十分に血圧を管理したうえで抗血小板療法を行うのが妥当と考えられる.

心房細動と脳塞栓—high riskとlow risk

著者: 山本啓二 ,   島田和幸

ページ範囲:P.711 - P.713

●器質的心疾患に心房細動が合併すると,塞栓発生の危険性が増加する.
●High risk groupは,リウマチ性弁膜症(特に僧帽弁狭窄症)や人工弁置換術後の患者である.
●高齢者の孤立性心房細動患者は,脳塞栓の危険が高まるため,抗凝固療法を考慮する.
●非弁膜症性心房細動における脳塞栓症の独立した危険因子は,脳塞栓症あるいは一過性脳虚血発作の既往,糖尿病歴,高血圧歴,年齢の増加(65歳以上)である.
●僧帽弁閉鎖不全は,非弁膜症性心房細動患者における塞栓発症のリスクを減少させる.
●発作性心房細動例も慢性心房細動とほぼ同様に塞栓症のリスクを有する.

急性冠症候群

著者: 後藤信哉

ページ範囲:P.715 - P.717

●急性冠症候群とは,冠動脈内の動脈硬化巣の破綻に引き続き,冠動脈が血栓性に閉塞することにより惹起される一連の疾患である.
●臨床症状としては,持続的な血流途絶による急性心筋梗塞症,間欠的な血流途絶による不安定狭心症のほかに,心臓性突然死が本疾患の範疇に含まれる.
●豊富な冠血流の存在下でできる冠動脈血栓の形成にあたっては,血小板が重要な役割を果たす.

冠インターベンションと血栓形成—頻度,病態解明の新知見

著者: 一色高明

ページ範囲:P.718 - P.720

●冠インターベンション施行部位では血管内皮から中膜に及ぶ損傷があるため,血小板活性化に伴ってある程度の血栓形成は必発である.
●経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の急性冠閉塞には,その大半に冠解離などによる血流障害が合併している.
●ステント植込み後には血小板機能が亢進し,その程度はPTCA施行後に比べて強大である.
●ステント植込み後の血栓性閉塞は大半が2週間以内に発症するが,強力な抗血小板療法によって,その発生頻度は1%以下に抑制される.

肺塞栓—その要因は?

著者: 栗山喬之

ページ範囲:P.721 - P.723

●肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)は,深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)とともに広義の静脈血栓塞栓性疾患(venous thromboembolism:VTE)に含まれる疾患である1)
●血栓形成にはVirchowの3条件が関係する.
●血栓形成に関する多くのリスクファクターは,累積的に作用する.
●VTEには人種差があり,その一部は凝固因子の遺伝的異常で説明される可能性がある.

深部静脈血栓症

著者: 池田正孝 ,   川崎富夫

ページ範囲:P.725 - P.727

●深部静脈血栓症の原因は,血流うっ滞による血液凝固カスケードの活性化である.
●具体的には,手術,悪性腫瘍,長期臥床,外傷,妊娠,高脂血症,抗リン脂質抗体症候群,自己免疫疾患,様々な先天性血栓性素因などが深部静脈血栓症を引き起こす.
●環境因子により,その発生頻度が大きく変わる.
●わが国では,原因不明とされる深部静脈血栓症のなかには,かなりの数の先天性血栓性素因を有する患者が存在する可能性がある.

閉塞性動脈硬化症—臨床像の変遷

著者: 重松宏 ,   大城秀巳

ページ範囲:P.728 - P.730

●慢性動脈閉塞症患者の90%以上は閉塞性動脈硬化症(ASO)を原因としている.
●ASO患者は動脈硬化のmultiple risk factorを有しており,他臓器病変に注意が必要である.
●虚血肢の客観的な重症度評価が重要で,ドプラ血流計による足関節部圧測定が欠かせない.
●患者により異なる治療目標を明らかにし,外科的血行再建と血管内治療,薬物療法による集学的治療が重要である.

血栓性血小板減少性紫斑病/溶血性尿毒症症候群—病態の鍵を握る新しい因子

著者: 八木秀男 ,   藤村吉博

ページ範囲:P.731 - P.734

●von Willebrand因子(vWF)特異的切断酵素は,vWFのマルチマーサイズを調節し,vWFのもつ向血栓作用を調節している.
●血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は,vWF切断酵素活性の著減がその病因であり,家族性TTPはこの酵素の先天的欠損症で,非家族性TTPは後天的にこの酵素に対する中和抗体が産生されているためと理解される.
●溶血性尿毒症症候群(HUS)は,TTPとは異なり,VTによる腎血管内皮細胞障害が主体の疾患で,vWF切断酵素の中等度低下はHUSへの進展に関与している.
●vWF切断酵素活性の測定はTTPとHUSの両疾患の鑑別に有用で,活性低下の程度と病勢は平行することから,今後,臨床において必要不可欠なものと考えられる.

DlC—病態の多様性

著者: 御舘靖雄 ,   朝倉英策

ページ範囲:P.735 - P.737

●播種性血管内凝固症候群(DIC)の本態は,基礎疾患存在下の持続性の極端な凝固活性化状態であり,全身性に微小血栓が多発する.
●線溶活性化の程度により,凝固優位型DICおよび線溶優位型DICに分類され,前者は臓器症状,後者は出血症状がみられやすい.
●DICの進展度により,DIC準備状態,代償性DIC,非代償性DICに分類され,臨床経過により,急性DIC,慢性DICに分類される.
●DICの病態ごとの治療法の選択が理想である.

抗リン脂質抗体症候群—血栓形成のメカニズム

著者: 鏑木淳一

ページ範囲:P.739 - P.741

●抗リン脂質抗体は,血栓症の後天性危険因子と考えられ,血栓症は,抗リン脂質抗体症候群における主要な臨床所見である.
●抗リン脂質抗体は,カルジオリピンなどのリン脂質のみならず,β2-グライコプロテインIなどの血漿蛋白質とも反応し,血栓症の病態に関与している.
●血栓症の病態は,プロスタサイクリン産生の低下,プロテインC活性化の低下,活性化プロテインCによる第Va因子・第Ⅷa因子不活化の抑制など多彩である.

悪性腫瘍と血栓症

著者: 新保卓郎

ページ範囲:P.742 - P.743

●肺癌,膵癌,胃癌,大腸癌,前立腺癌で血栓症の合併が多い.
●腫瘍で凝固亢進状態となる原因は,腫瘍細胞や活性化された単球が組織因子を産生,放出するためである.また,腫瘍から産生されるムチンは直接凝固因子を活性化する.さらに感染症や長期臥床も誘因である.これらにより慢性の播種性血管内凝固となる.
●悪性腫瘍と末梢の血栓性静脈炎の合併をTrousseau症候群という.移動性血栓性静脈炎の合併が有名だが,しばしば深部静脈血栓症から肺塞栓症に至る.また,非細菌性血栓性心内膜炎は動脈系の塞栓症の原因となる.脳塞栓が多い.

血栓症の臨床—診断と進歩

血栓性素因の診断へのアプローチ

著者: 川合陽子

ページ範囲:P.744 - P.746

●45歳以下の若年者の血栓症,家族性血栓症,稀な部位の血栓症,反復する血栓症,抗凝固療法施行中の血栓症などでは,血栓性素因の検査診断を進めることが重要である.
●頻度の高い血栓性素因は,先天性ではアンチトロンビンⅢ異常症,プロテインc 異常症,プロテインS異常症であり,後天性では抗リン脂質抗体症候群である.
●血管内皮細胞の抗血栓性の破綻が易血栓性をもたらすが,内皮細胞障害の指標は少ない.
●血栓症の治療中,最も適したモニタリング検査を選択し,治療効果を評価することも大切である.

検査診断—血栓準備状態の診断

著者: 野村昌作

ページ範囲:P.747 - P.749

●血中βトロンボグロブリン(β-TG)値は血小板活性化の指標の一つとして利用されている.
●β-TG,血小板第4因子(PF-4)ともに高値の場合は,in vitorでの血小板活性化による変化である可能性が高い.
●可溶型Pセレクチンの臨床的意義は,血栓症などの診断・治療効果判定の有用性などが挙げられるが,感染症や慢性の炎症性マーカーとしても注目されている.
●PAC-1もPセレクチンやCD 63と同様に,フローサイトメトリーを用いた活性化血小板の測定に利用されている.
●蛍光標識のアネキシンVとフローサイトメトリーを用いれば,容易に血小板のプロコアグラント活性を測定できる.
●マイクロパーティクル測定は種々の血栓性疾患の病態把握に有用であり,凝固系に関連した血小板活性化マーカーとして,また抗血小板薬のモニターとしても期待されている.

超音波

著者: 松本昌泰 ,   堀正二

ページ範囲:P.751 - P.754

●超音波検査は血栓症の臨床診断に必須の検査法となっている.
●経食道エコー法は左心耳内血栓,卵円孔開存,大動脈粥腫病変などの臨床診断に特に有用である.
●頸動脈エコー法は脳血管障害のみならず,血栓症の原因となる各種動脈硬化性疾患の評価に不可欠の診断法となっている.
●経頭蓋超音波ドプラ法により脳主幹動脈に飛来する浮遊栓子を栓子シグナル(これをhigh-intensity transient signal:HITSと称する)として捉えることができ,動脈血栓・塞栓症の臨床における有用性が注目されている.

MR angiography

著者: 湯浅祐二

ページ範囲:P.755 - P.757

●MRアンジオグラフィ(MRA)は,MRIによる非侵襲的な血流画像であり,方法には,Gd造影剤を用いるGd造影MRAと,造影剤を必要としないtime-of-flight法MRA,phase contrast法MRAがある.
●頭部では動脈の検査には3次元time-of-flight法が用いられることが多く,静脈はphase contrast法の応用が有効である.
●頸部,躯幹部,四肢では動・静脈ともにGd造影MRAが有効であり,phase contrast法は,腹部の静脈,門脈系の描出にも有効である.
●血管壁や血管腔内血栓の観察には,MRA以外のMRI画像が必要である.

核医学的アプローチ

著者: 小代正隆

ページ範囲:P.758 - P.760

●血栓症に対する画像診断法のうち,核医学的アプローチは非侵襲性で安易である.
125Iフィブリノーゲン摂取試験は深部静脈血栓症の診断,予防,治療効果の評価に用いられる.
●血小板シンチグラフィーは主に動脈血栓の評価に用いられる.
●肺シンチグラフィーは肺塞栓症の評価に有用である.

血栓症の臨床—治療

抗凝固薬—その種類と使い分け

著者: 辻肇

ページ範囲:P.762 - P.764

●抗凝固薬は,凝固過程の様々な段階を阻害するものであり,臨床使用に際しては,有効な抗凝固作用と同時に出血傾向をきたさないことが求められる.
●従来より多くの抗凝固薬が使用されており,また新たな薬理特性を付加した新規薬剤も開発されつつある.
●抗凝固薬の使用においては,個々の血栓性疾患の病態に即した作用機序の抗凝固薬が選択されるべきであり,この根拠となる臨床成績のいっそうの集積が望まれる.

抗血小板薬—その種類と作用機序

著者: 小田淳

ページ範囲:P.765 - P.767

●血栓症の治療や予防に,作用機序の異なる抗血小板薬の併用や抗インテグリンαIIbβ3(GPIIb/IIIa)薬が,顕著な臨床効果をあげている場合もある.
●一方で,強力な抗血小板薬の使用や併用により合併症の頻度が上昇する可能性もある.
●抗アレルギー剤などにも血小板受容体に結合するものがある.
●可逆性か否かを含めて,抗血小板薬の作用機序の十分な理解が臨床の場でますます重要になるものと考えられる.

血栓溶解療法薬—その種類と比較

著者: 上嶋繁 ,   松尾理

ページ範囲:P.769 - P.772

●血栓溶解療法薬としてプラスミノーゲンをプラスミンに活性化させるプラスミノーゲンアクチベータ(plasminogen activator:PA)が用いられている.
●ウロキナーゼ型PA(u-PA)にはフィブリン特異性がないため血栓溶解効率は悪く,全身性の線溶活性を亢進して出血傾向を招きやすい.
●組織性PA(t-PA)および一本鎖ウロキナーゼ型PA(scu-PA)にはフィブリン特異性があり,点滴静脈内投与が可能である.
●改変型t-PAの血中半減期はt-PAよりも長く,単回静脈内投与が可能である.
●血栓溶解療法は血栓溶解剤の冠動脈内投与が主流であったが,今後は静脈内投与も行われるようになるであろう.

ワルファリン療法の適応疾患とそのモニター法

著者: 川野晃一

ページ範囲:P.774 - P.775

●ワルファリンは,ビタミンK依存性凝固因子(凝固第II,VII,IX,X因子)の生合成を阻害することで抗凝固作用を発現する.
●ワルファリン療法のモニターにはプロトロンビン時間をもとに計算されるinternational normalized ratio(INR)が標準的に用いられ,疾患に応じてINR=2.0〜3.0または2.5〜3.5が推奨される.
●種々の薬剤,食品によって作用が増強または減弱されるので,併用薬剤には注意する.
●副作用として出血,皮膚壊死などがある.

抗血小板療法のメタ解析

著者: 松原由美子 ,   村田満

ページ範囲:P.776 - P.779

●脳梗塞,心筋梗塞の原因となる動脈血栓症,閉塞性動脈硬化症やBurger病の治療,予防に対して抗血小板療法が行われている.
●抗血小板療法に用いられる薬剤の有用性は,多くの大規模臨床試験により検討されており,それらの結果はEvidence-based Medicineの考え方が提唱されている臨床現場において重要視されている.
●抗血小板療法の大規模臨床試験の対象となる薬剤は,血小板活性化を制御する系の一部の作用点で働くもの(アスピリンに代表される)であるが,近年開発された,新しい作用機序をもつ血小板膜糖蛋白GP IIb/IIIa(integrin αIIbβ3)阻害薬に対するその検討結果が注目されている.

脳梗塞・TIAの抗血栓療法

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.781 - P.785

●進行性脳卒中や心原性脳塞栓症による虚血性脳血管障害(ICVD)には,ヘパリン療法の適応があると考えられているが,有効性は証明されていない.
●発症後3時間以内のICVDに米国ではt-PAの適用が承認されているが,日本では承認されておらず,発症後5日以内の脳血栓症にはオザグレル,2日以内のアテローム血栓性脳梗塞にはアルガトロバンが用いられており,最近大規模臨床試験によりアスピリンの早期再発低減効果と軽度の長期予後改善効果が示された.
●慢性期の動脈原性脳梗塞やTIAには抗血小板療法,心原性脳塞栓症にはワルファリンの再発予防効果が証明されている.

Acute coronary syndromeの抗血栓療法

著者: 本宮武司

ページ範囲:P.786 - P.787

●急性冠症候群(acute coronary syndrome)は不安定狭心症,急性貫壁性・非貫壁性心筋梗塞,心臓突然死を含む病態であり,発症病態の血液学的キーファクターは血小板とトロンビンと思われる.
●抗血小板療法はアスピリン,チクロピジン,また新しい抗血小板薬のGP IIb/IIIa 受容体拮抗薬で心事故予防効果が認められている.
●抗凝固薬はヘパリンと低分子ヘパリンで心事故予防効果が示されている.

インターベンションと抗血栓療法—冠動脈

著者: 三須一彦 ,   住吉徹哉

ページ範囲:P.789 - P.791

●冠動脈経カテーテル治療の抗血栓療法の主体は抗血小板薬である.
●ステント植え込み後の血栓性冠閉塞の予防には,アスピリンとチクロピジン併用が効果的である.
●GP IIb/IIIa受容体阻害薬は,強力な抗血小板薬として経カテーテル治療後の心事故抑制が期待できるが,至適用量の決定など今後の課題も多い.

インターベンションと抗血栓療法—末梢動脈

著者: 笹嶋唯博 ,   平田哲

ページ範囲:P.792 - P.794

●経皮経管的血管形成術(PTA)は閉塞性動脈硬化症の大動脈一次分枝(腸骨動脈狭窄,閉塞)および中膜型線維筋性異形成で,主に腎動脈狭窄が適応となる.
●術直後の血管内面は内皮細胞が脱落して,肥厚内膜の膠原線維が露出する.●早期内面はフィブリン膜で被覆され,中間期以降のフィブリン層血流面にはプラスミノーゲン/tPAの薄層が形成され抗血栓性を獲得する.
●中間期の内膜治癒過程は線維筋性細胞の増生による内膜肥厚で,内皮化されない.そのため再狭窄をきたすが,高血流条件では進行が抑制されうる.
●抗血小板療法はチクロピジン,シロスタゾール(およびベラプロスト)などが第一選択となる.可能な限りワルファリンを併用し,トロンボテスト25〜15%またはプロトロビン時間INR 1.5〜3倍に維持する.

心房細動と抗血栓療法—ワルファリン? 抗血小板薬?

著者: 揚志成 ,   茅野真男

ページ範囲:P.795 - P.797

●器質的心疾患(リウマチ性弁膜症,人工弁置換術後,左心室瘤など)に合併する心房細動症は抗凝固療法の適応である.
●非弁膜症に合併する心房細動症では,高リスク群(心不全,左室機能低下,塞栓症の既往,高齢者女性など)において,抗凝固療法が適応である.本邦では,低リスク群でアスピリン療法が行われているが,予防効果については,現在多施設無作為試験1)が進行中である.

深部静脈血栓・肺塞栓の治療戦略

著者: 松島秀和 ,   茂木充 ,   金沢実

ページ範囲:P.799 - P.801

●肺血栓塞栓症は,生活様式・食事の欧米化,診断技術の向上により年々増加傾向にある.
●症状が非特異的で診断の困難な疾患の代表とされる一方,しばしば病勢は進行性でかつ重症化するため,早期診断・早期治療が求められる.
●肺血栓塞栓症の治療は,①血栓生成の防止,②血栓溶解,③血栓の肺動脈への移動予防,の3点を中心に,抗凝固剤・血栓溶解剤の使用,下大静脈フィルター留置が行われている.内科的治療によっても血行動態の保てない症例は外科的治療が必要になる.

血栓性素因患者のマネージメント

著者: 藤村欣吾

ページ範囲:P.802 - P.804

●先天性,後天性を含めた血栓性素因について有効に管理を行うためには,病歴をはっきりさせ,診断を確実にすることが重要である.しかし,原因不明の場合もあり,新たな疾患の解明が必要となる.
●各種血栓症の発症,再発予防については,日常の生活習慣の是正に始まり,血栓症の引き金となる要因の排除ないし注意が必要である.
●治療については一定の見解を得るに至っていないが,血栓症の既往のある例ではとりあえずワルファリンをINR 1.5〜2を目安に使用する.動脈系や動静脈系の血栓症に対しては抗血小板薬を併用する.

座談会

抗血栓薬をどう使うか

著者: 峰松一夫 ,   笠貫宏 ,   石丸新 ,   池田康夫

ページ範囲:P.807 - P.817

池田(司会)本日は神経内科,循環器内科,血管外科と各領域の専門の先生にお集まりいただきました.今月の主題は「血栓症と抗血栓薬」ですが,この座談会では具体的に抗血栓薬をどのように使ったらよいかを中心に話を進めたいと思います.まず,それぞれの領域でエビデンスに基づいて,抗血栓薬を必ず使うという病態と,まだエビデンスははっきりしていないけれども,こういう患者さんが来たら使う余地があると思われるものとに分けてお話しいただきたいと思います.

理解のための32題

ページ範囲:P.819 - P.826

カラーグラフ 病原微生物を見る・9

緑膿菌

著者: 古谷信彦 ,   山口惠三

ページ範囲:P.846 - P.850

細菌学的特徴(図1)
 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は緑膿菌科,Pseudomonas属に属するグラム陰性桿菌で,その菌体はまっすぐかやや彎曲し,1本(稀に複数本)の極鞭毛をもち運動性を有する.本菌はまたブドウ糖を酸化的に分解し,発酵分解しないことからブドウ糖非発酵菌と呼ばれるグループにも含まれる.緑膿菌は土壌,水,下水,植物,哺乳類の腸管内に広く分布しており,病院内では流し場,吸入器,生野菜や果物,花瓶の水などの湿潤した環境から高率に分離される.通常,健常人では皮膚,口腔,糞便から緑膿菌が分離される頻度は低いが,入院中に抗菌薬や免疫抑制剤などの投与を受けた患者ではその頻度は高率となる1,2)

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.831 - P.837

図解・病態のメカニズム 胃疾患・7

ストレスと胃病変

著者: 矢花剛 ,   小林壮光

ページ範囲:P.839 - P.844

はじめに
 精神的・肉体的ストレスが胃病変の原因となり,腹痛など多彩な臨床症状を引き起こすことは,早くから知られていた.1950年代になってSelye1)が,ストレスと消化性潰瘍の関連性を指摘したかの有名な“ストレス学説”を提唱して以来,その発生機序に関する基礎的・臨床的研究が内外で精力的に進められてきた2〜6).これらの胃病変は,臨床の現場では“ストレス潰瘍”とも呼ばれ,その代表的なものとして,脳疾患や脳外科手術後のCushing潰瘍,広範な熱傷時に好発するCurling潰瘍などは特に有名である.
 こうしたストレス潰瘍の大部分は,最近では急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)あるいは病変の多くが粘膜にとどまらないことから急性胃病変(acute gastic lesion:AGL)とも呼ばれる7,8),一種の症候群に一括される傾向にある.そこで,本稿ではまずストレスと潰瘍・AGMLとの関係について述べ,次いでその病態生理およびHelicobacter pylori(Hp)感染との関連性など,ストレス潰瘍をめぐる最近の話題についても言及してみたい.

演習 胸部X線写真の読み方—肺疾患篇・7

労作時呼吸困難を訴えて受診し,胸部の異常陰影を指摘された67歳の男性

著者: 小倉高志

ページ範囲:P.851 - P.855

Case
 症例:67歳,男性.主訴:労作時呼吸困難.
 家族歴:特記事項なし.既往歴:特記事項なし,職業は公務員事務職.喫煙指数800.現病歴:2年前より,階段昇降時に息切れを自覚するようになる、最近は乾性咳嗽も認め,息切れも増強するため来院した,身体所見では,胸部背下部にfine cracklesを聴取.バチ指(+).精査目的にて,胸部単純X線写真(図1a,b)を撮った.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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