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雑誌目次

雑誌文献

medicina37巻9号

2000年09月発行

雑誌目次

今月の主題 「考える」診断学—病歴と診察のEBM Editorial

内科診断のダイナミズムと基本的臨床技術

著者: 福原俊一

ページ範囲:P.1412 - P.1413

病歴と診察は単なる「技」か?
 基本的臨床技術(basic clinical skills:BCS)の重要な構成要素である病歴と診察が本特集のテーマだが,あえてこれに「考える」をつけたのは,診断のプロセスが非常にダイナミックなものであることを強調したかったからである.近年,わが国においてもBCSの重要性が認められ教育に導入されつつあるのは誠に喜ばしいが,BCSを単に「技」に限定するのはいかがなものだろうか?「ダイナミック診断学」と対照的なのが日本の大学の臨床講義やCPCで,一言でいえば「稀な疾患病名あてゲーム」のように見える.ゲームはB4紙1〜2ページのほとんどのスペースを埋め尽くす膨大な検査所見の結果をもとに行われる.回答者の学生は病歴と診察そっちのけで,検査所見と医学書で覚えた病名を結びつける.この教育方法には以下のような問題がある:
・診断・治療選択および解釈における思考プロセスにおけるロジック・ダイナミズムを教えていない.

考える診断学のイントロダクション

「考えて行う」医療面接・身体診察—pertinent negativeとは?

著者: 武田裕子

ページ範囲:P.1414 - P.1417

 診断の過程は,治療すべき疾患が存在するといえる(rule in)まで,あるいは確信をもって疾患を否定できる(rule out)まで続けられる.その最初のステップが医療面接と身体診察である.鑑別診断を挙げて,それぞれの疾患の可能性の高さや否定できる強さを考えていく.患者の年齢や性別,背景因子ごとの疾患の罹患率(疫学的データ),病歴と身体所見,さらに初診時までに得られた検査データ(検診結果や紹介元の前医での検査結果など)が,鑑別診断を考える指標となる.
 血液検査や画像診断の進歩により,診断は検査結果に基づいて行われるというイメージが強い.しかし,Sandlerの報告によると,診療所から総合病院内科に紹介されてきた患者630人のうち,病歴のみで診断がつけられた患者は56%,病歴と身体診察で診断された患者は73%であった1).病歴聴取や身体診察そのものが診断的価値を有し,診断法(diagnostic tests)の一つに位置づけられるという結果である.

コミュニケーション技法

著者: 飯島克巳

ページ範囲:P.1418 - P.1422

 筆者に与えられた,「コミュニケーション技法」というテーマは幅広く,奥が深い.一冊の本として著すにしても,紙幅が不足するくらい膨大である.しかし,最近の医学生や研修医はこの領域での講義や実習を受ける機会が多くなったようである.筆者の知るところでも,特に総合診療部や家庭医療学教室,地域医療学教室を有するいくつかの大学で,医学生や研修医がrole playやSP(standardized patient)の参加による実習によって,コミュニケーション技法を学習している.
 近年,権利意識の向上とともに,人々はこれまでの医師へ依存する“お任せ医療”から脱却して,“医療サービスを利用する”自立的な行動をとるようになった.すなわち,医療を提供する側は,まず人々の要望やニーズを把握し,次いでこれに応えるという過程が必然的なものになっている.

基本的臨床能力の客観的評価方法(OSCE)

著者: 大滝純司

ページ範囲:P.1424 - P.1426

 本特集では病歴と診察がテーマになっているが,病歴聴取を含む医療面接(medical interview)と身体診察(physical examination)の能力は,基本的な臨床能力の中核を成す.本稿では,これらの基本的な臨床能力の評価に関する話題を,OSCE(objective structured clinical examination,客観的臨床能力試験)を中心に紹介する.

病歴と診察所見に基づいた検査の選択・検査結果の解釈

著者: 尾藤誠司

ページ範囲:P.1428 - P.1432

症例
 当院の総合診療科では,卒後教育プログラムのなかで,研修医が初診の外来患者を実際に診療することを行っている.これら症例はすべからく上級医によってレビューされる.この症例は,ある研修医が今年実際に診療した初診の患者である.
 60歳,女性.生来健康,52歳時に閉経.前夜8:00頃より左臍下部から左大腿部にかけての軽い鈍痛が始まった.夜中の1:00に便意を自覚しトイレに行き,茶色の下痢便が出た.トイレから立ち上がったときに一瞬気が遠くなりその場に座り込んでしまったが,すぐに良くなったためそのまま就寝.一夜明けてまだ下腹部の違和感が続くために総合内科の外来を受診した.患者は意識清明で,見た感じの全身状態は良好である.めまい,上腹部の痛み,吐き気は認めない.

病歴・診察所見と患者アウトカム

著者: 松村真司

ページ範囲:P.1433 - P.1436

患者アウトカムとは
 医療の質は様々な形で評価されるが,最も頻繁に用いられる理論的枠組みがDonabedianの提唱する医療の質評価モデルである(図1).医療の質はこのモデルに基づき,①構造(structure),②過程(process),③アウトカム(outcome)の3つの視点より評価を受ける1)・構造とは,人的スタッフや予算など医療サービスのインフラストラクチャーであり,いわば医療をとりまく環境である.過程とは,医療サービスにおいて,実際に提供されるサービスの技術の確かさ,あるいは提供された医療サービスそのものである.そして,提供された医療サービスによって最終的にもたらされた結果がアウトカムである.このアウトカムを最良にすることが,医療サービスが目指すべき最終的な目標である.
 Donabedianのモデルでは,構造→過程→アウトカムの順にサービスの質を規定していると説明されている.例えば,十分な医療設備(構造)がなければ,いくら優れた診察技術をもつ医師がいてもその技術を十分に発揮することはできない.

考える診断学の実際 common symptoms and signs編

かぜ症状—どのようなときに副鼻腔炎を疑うか

著者: 木澤義之

ページ範囲:P.1438 - P.1441

なぜ正しい診断が重要か?
 かぜ症状を訴えて外来受診する患者は数多い.現在日本の一般臨床の場では,かぜ症状に対して抗生剤が処方されることが多いが,いわゆるかぜ症候群はウイルス性で,自然治癒することが多い疾患であり,すべてのかぜ患者に漫然と抗生剤が処方されることがあってはならない.かぜ症状を訴える患者で,抗生剤を処方する必要がある主たる疾患が3つある.それは,急性扁桃腺炎,肺炎,副鼻腔炎である.急性扁桃腺炎,肺炎については他書に譲り,本稿では,かぜ症状を訴える患者のなかから,いかにして的確に副鼻腔炎を起こしている患者を拾い上げるかを述べる.
 副鼻腔炎の診断のゴールドスタンダードは,副鼻腔穿刺と膿汁培養である.しかしながら,副鼻腔炎を疑った全患者に副鼻腔穿刺を行うのは,苦痛を伴うため現実的ではなく,実際には副鼻腔の単純X線写真がreference standardとなっている1,3).つまり,本稿の主題の一つは「かぜ症状を訴える患者の診察にあたり,どのようなときに副鼻腔単純X線写真をオーダーするか」であると考えてもよい.

胸痛

著者: 上塚芳郎

ページ範囲:P.1442 - P.1445

なぜ正しい診断が必要か
 胸痛を呈して外来を受診する患者は数多い.しかし,緊急度から考えると,図1に示すように,胸痛が心臓由来か非心臓性かを鑑別することがまず必要である.心臓性の胸痛の代表的なものが急性心筋梗塞であり,診断をしないで放置した場合に生命にかかわることが多いため,見逃しは許されない.

甲状腺機能異常を疑う徴候

著者: 小澤安則

ページ範囲:P.1447 - P.1451

なぜ正しい診断が重要か?
 Basedow病甲状腺機能亢進症は,甲状腺腫,眼球突出症,頻脈というMerseburg3主徴が歴然としているような場合は簡単に気づくが(snapdiagnosis),むしろ眼球症状や甲状腺腫大が目立たない例が多い.また,ある臓器の症状が際だって前面に出ていた場合は,Basedow病であることが隠蔽され気づきにくくなることが指摘されている.正しい診断がなされないために,心房細動が続いたり,心不全に陥ったり,見当はずれな消化管の内視鏡検査などが繰り返されたり,精神疾患と間違えられたりすることが生ずる.またBasedow病を放置すると,ささいな検査,手術,感染などを契機に,thyroid stormをきたす危険がある.
 一方甲状腺機能低下症は,潜在性から著しいものまで様々であるが,軽度の甲状腺機能低下症の場合でも,長く未治療のまま放置すると,動脈硬化症,血管障害のリスクを背負い込むことになる1).潜在性甲状腺機能低下症でも脂質異常をきたすし,動脈硬化の危険因子であることがRotterdam Studyでも明らかとなっている2)

結節性紅斑

著者: 田中勝

ページ範囲:P.1452 - P.1454

なぜ正しい診断が重要か?
 結節性紅斑(erythema nodosum:EN)は単一の疾患ではなく,様々な病因に基づく重要な急性炎症性の皮膚症状(症候群)である.若い女性に好発し,通常は約6週間で自然軽快する.その病因によって経過は異なる.
 その原因には,溶連菌感染アレルギー,薬疹,結核,サルコイドーシス,Behget病,潰瘍性大腸炎,Crohn病,悪性腫瘍(白血病,リンパ腫など),真菌感染,腸管感染症(Yersinia),Hansen病などがある.溶連菌感染アレルギーによるものが最も多く,それ以外によるものを症候性のENとして区別することもある.頻度は高くないが,重篤で致命的な疾患が隠れていることがあるため,正しい診断が不可欠である.

うつ病:身体的愁訴

著者: 柴山雅俊

ページ範囲:P.1456 - P.1458

 米国の診断基準によれば,気分の落ちこみや高揚を特徴とする病態は気分障害と呼ばれる.なかでも典型的なうつ病は,大うつ病性障害(major depressive disorder)と呼ばれている.その軽症・慢性型が気分変調性障害(dysthymic disorder)である.また従来躁うつ病と称されてきた疾患は,現代では双極性障害(bipolar disorder)と呼ばれる.
 大うつ病性障害の有病率は,女性では5〜9%,男性では2〜3%とされており,女性は男性の2倍である.また一般外来のうつ病の有病率は5〜10%,入院では20〜30%といわれている.

アルコール依存症—内科で患者の否認をどう診るか

著者: 加藤純二

ページ範囲:P.1459 - P.1461

症例
 症例1:58歳,男性.当院の近所の会社へ転勤してきたと受診.前医からの紹介状にある病名は,高血圧症,心室性期外収縮,高脂質血症,高尿酸血症,不眠症であった.飲酒習慣(1日ビール2本)があり,2週間後の採血検査を予約し,それまでの禁酒を指示した.「飲酒習慣がどの程度あなたの病気に影響しているか調べたい」と検査の理由を話すと,患者は「できない」という.「それなら他医を受診するように」と紹介状を返そうとすると,「やってみます」と帰っていった.2週間後の採血検査では,紹介状に添えられてあった異常値のすべてが改善していた.軽度の高血圧症と心室性期外収縮が残り,その後はβブロッカーのみの投与を続けている.飲酒はその後,家庭では止め,社交的に必要な最小限にとどめていて,6年後の現在,経過は順調である.
 症例2:35歳,男性.両親と3人で老舗の自営業を続けている.本人はこの3年間,十二指腸潰瘍による入退院を繰り返していた.店は実質的に母親が経営しており,本人は断続的に大量飲酒をしていた.母親が保健所へ相談に行き,本人が再び強い腹痛を訴えたとき,母が当診療所を勧めて受診した.

心音・心雑音異常

著者: 久代登志男 ,   上松瀬勝男

ページ範囲:P.1463 - P.1465

なぜ身体所見が重要か
●身体所見は視覚,聴覚,触覚による病態評価であり,ローテク診断技術である.エコー,シンチグラフィなどのハイテク検査が進歩し,身体所見は軽視された時期もあった.しかし,ハイテク検査所見との対比により身体所見の限界と有用性,感度と特異度が再評価され,客観的評価法として確立されている.
●身体所見で解決できる問題と解決できない問題を明らかにし,解決できない問題について必要最小限の二次検査プランを立てる必要がある.

プライマリケア外来における急性関節炎・関節痛の診断の進め方

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.1466 - P.1470

 関節症状の特徴(単関節・多関節,急性・慢性など)と関節外所見を組み合わせることにより,多くの場合,診断名を絞ることが可能である.本稿では,プライマリケア医が遭遇する可能性が高い疾患を中心に,最近経験した症例を使って解説する.

めまい

著者: 生坂政臣

ページ範囲:P.1472 - P.1475

なぜ病歴と身体診察が重要か
 外来で診るめまい患者の原因の多くは良性疾患だが,低頻度ながら見逃してはならない脳血管障害や聴神経腫瘍などが含まれている.脳血管障害ならば進行阻止や再発予防の手立てを講じ,聴神経腫瘍ならば脳外科的処置により聴力喪失を最小限にくい止めなければならない.ところが,めまいは多くの外来医が最も苦手とする症状の一つである.その理由に,めまいの程度と原因疾患の危険度が相関しないことが挙げられる.すなわち良性疾患である未梢性めまいのほうが嘔吐,起立困難などの激烈な症状を呈し,致死的な脳血管障害はめまい感などの軽い症状で始まる傾向がある.しかし外来診療で連日遭遇するこの症候の頻度を考えると,すべてのめまいの患者を入院精査するような医療は非現実的である.そこで本稿では,病歴と身体診察から,危険なめまいを効率的に拾い出す方法について,これまで報告されたevidenceをもとに検討した.

腰痛

著者: 菅田文彦 ,   鈴木康夫

ページ範囲:P.1476 - P.1478

 腰痛は,上気道炎に次いで外来初診時に多い主訴であるが,2週間持続的に腰痛を訴える患者は多くはなく,大部分は対症療法に反応する.しかしながら,時には特殊な治療を必要とする癌や重症感染症の1症状であることや外科的治療を要する疾病の場合もあるので,注意深い評価が肝要である.正しい診断を迅速に得るためには,①問診(病歴),②診察,③画像診断を含めた臨床検査が重要であるが,適切な検査を行い,専門医への紹介の必要性を決定するためには,問診と診察を特に注意深く行う必要がある.したがって本稿では,この2点を中心にEBMに基づいた腰痛へのアプローチを試みていく.

救急編

意識障害(特に失神)・痙攣

著者: 大生定義

ページ範囲:P.1480 - P.1482

なぜ正しい診断が必要か
 意識障害は,昏睡から一過性のものもあり,その原因疾患によりすぐに死に至るものから,無処置でよいものまで多岐にわたる.痙攣についても,その治療が本当に必要な場合と念のため望ましい場合,あるいは妊娠・分娩を控えた女性のように慎重でなくてはならない場合と副作用とのかねあいでむしろ有害の場合もある.治療の要否の診断は原因疾患の診断と同じ程度に重要である.本稿では失神・痙攣の症例を中心に説明を進める.

頭痛

著者: 植村研一

ページ範囲:P.1484 - P.1485

 頭痛は日常の一般診療での代表的好発症状である.頭痛以外に全くほかの症状がなくても生命の危険のある「怖い頭痛」がある一方,CT,MRIを含めて何の検査も診断に役に立たないが生命の危険のない「安全な頭痛」もある.プライマリケアにおける頭痛の鑑別診断に最も役立つのは,診察でも検査でもなく,ポイントをついた病歴聴取のみである.

腹痛

著者: 井出広幸

ページ範囲:P.1486 - P.1488

 腹痛の診断における病歴と身体所見は,医のアートと深くかかわる.本稿ではこれをEBMの観点から考えてみた.EBMとは臨床医の行動様式の名称であるから,臨床現場に即してevidenceを扱わなくてはならない.誰もが遭遇しうる症例を通じてイメージを得てほしい.

呼吸困難

著者: 木村弘 ,   猪狩英俊

ページ範囲:P.1489 - P.1491

なぜ診断が重要か
 通常,無意識下に行われている呼吸・循環系に何らかの異常が起こると,「呼吸の努力感」と「呼吸の不快感」が組み合わさり呼吸困難(呼吸困難感)を自覚する.呼吸困難は呼吸器疾患や循環器疾患で観察される主要徴候の一つであるが,神経・筋疾患や代謝性疾患においても認められ,その程度によってはquality of life(QOL)を低下させる症候ともなる.
 一方で,呼吸困難は生体のアラーム機構の一つと捉えることもできる.救急医療の現場では,的確に呼吸困難の診断治療を行うことは,生死を分ける重要なポイントであることはいうまでもない.しかし,呼吸困難は主観的な感覚表現であり,心理的要因によっても修飾され,単一の感覚ではなく複合した感覚より構成されていることを十分に理解しておく必要がある.

腫瘍による脊髄圧迫

著者: 安藤潔

ページ範囲:P.1492 - P.1495

なぜ正しい診断が必要か
 脊椎や硬膜外転移腫瘍による脊髄圧迫(epidural spinal cord compression:ESCC)は悪性腫瘍患者にしばしばみられる病態であり,最も注意を要する合併症の一つである.なぜなら,ESCCにより患者はベッド上に縛り付けられ,四肢の自由を奪われ,また膀胱直腸障害をきたし,すべての活動を他人に依存し,日常生活を行えなくなる状態を急速に引き起こすからである,したがって,悪性腫瘍による生命予後のいかんにかかわりなくpatient outcomeを著しく低下させることとなる.
 また,脊髄圧迫症候群はoncologic emergencyの一つである.なぜなら早期に発見し適切な処置を施せば予後を改善することができるからである.脊髄圧迫症状による神経機能予後を決める最も重要な単一の予後因子は治療開始時の神経機能の程度であるので,なるべく早く診断し,非可逆的な神経損傷の始まる前に治療を開始することが重要である.すなわち治療開始時に麻痺のない患者では80%以上が治療で神経機能が回復するが,不全麻痺の患者では50%,対麻痺をきたしている患者では10%以下となる1)

深部静脈血栓症

著者: 東尚弘 ,   福原俊一

ページ範囲:P.1497 - P.1500

 深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)は,1988年の厚生省系統的脈管障害調査研究班の77施設調査報告によると,昭和60年度で年間650例の発生例が認められており1),日本静脈学会事務局を中心とした1995年の50施設のアンケート調査では506例が発生している2).この2つの調査によると単純計算で施設当たりの発生例数は1.2倍となっており,ほかにも,発生頻度の増加を指摘する報告も多い3).食生活の欧米化から,今後増えていくものと思われる.特に近位DVT(=膝窩静脈より上)は,放置しておくと重篤な肺塞栓を起こす可能性があり,その発見と適切な治療が非常に重要である4).確定診断は静脈造影検査でなされるが,侵襲的な検査であり,また検査そのものによってDVTが発症する危険もある(約3%)5).したがって,この検査の前に診断を絞り込む必要がある.治療は抗凝固法が一般に行われ,DVTの増悪また肺塞栓の予防にきわめて有効である(DVTの再発を5%以下に,肺塞栓の発症を1%以下に抑える)が,合併症としての出血性リスクも高くなる(5%).したがって,不必要な抗凝固療法を避けるための診断努力が不可欠である.

高齢者の肺炎

著者: 岡野良 ,   倉富雄四郎

ページ範囲:P.1501 - P.1504

なぜ正しい診断が重要か?
 肺炎は65歳以上の年齢別死亡原因の第4位を占め,罹患率(65歳以上の入院者数/年で約1%),致死率(2〜30%)とも高い疾患である1)
 高齢者の肺炎では自覚症状が乏しい傾向にあり,また,意識障害や倦怠感,ふらつきなどの非特異的症状,基礎疾患の増悪で受診する場合があり,見逃されやすい2,3)

見逃してはならない疾患編

急性喉頭蓋炎

著者: 樋口昌孝

ページ範囲:P.1505 - P.1507

なぜ正しい診断が重要か
 急性喉頭蓋炎は,急速に進行し適切な治療が行われない場合,しばしば致命的になることがある.スウェーデンからの報告では,小児例の73%,成人例の19%で気道確保を必要とした
 診断には,喉頭蓋の著明な腫脹(しばしば披裂喉頭蓋ひだ・披裂部の腫脹も合併)を確認する必要がある.しかし,小児の場合,診察に伴う手技をきっかけに気道閉塞が起こる可能性が高い.

血栓性血小板減少性紫斑病

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1508 - P.1509

なぜ正しい診断が重要か
●血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)の頻度は低く,プロスペクティブ.スタディはなされていないので,データはレトロスペクティブである.
●診断がつかず無治療あるいは的確な治療が行われないと,死亡率は95%にも及ぶ.

精巣腫瘍を見逃さないために

著者: 賀本敏行 ,   筧善行

ページ範囲:P.1510 - P.1513

 精巣腫瘍に対する治療は著しく進歩し,初発時に転移のある症例でも根治に導くことが可能になっている.しかし,だからといって早期発見の重要さが減じたわけではない.病期Iであれば,原発巣(精巣)に対し,高位精巣摘除術を行うだけで治癒しうるし,また進行性精巣腫瘍のなかには,残念ながらいまだ治癒できない症例もある.さらに抗癌化学療法の副作用とリスクを考慮すると,やはり早期に発見することが重要である.また精巣腫瘍の好発年齢が青壮年であり,見逃して救命できなかった場合の社会的損失も大きい.本稿では精巣腫瘍を患者が見過ごす場合,一般医が見逃す場合,泌尿器科専門医が見逃す場合の実例を提示し,それぞれについて述べる.

乳癌—乳腺診察のポイント

著者: 竹大禎一 ,   雨宮厚

ページ範囲:P.1515 - P.1518

なぜ正しい診断が重要か?
 乳癌は,米国においては毎年約18万人の患者が診断され,44,000人の女性がそれによって死亡し,肺癌に次ぐ死因となっている1).わが国でも食生活などのライフスタイルが欧米化しつつあるためか,罹病率は年々増加している.
 乳癌の治療法に様々な変遷はあるものの,臨床病期ごとの死亡率においては,昔も今も大きな違いはなく,良好な予後は早期での発見に頼るほかはない.

悪性黒色腫

著者: 吉池高志

ページ範囲:P.1520 - P.1522

疑うか?見逃すか?
 悪性黒色腫は皮膚癌のなかでも悪性度がとりわけ高い.見逃せば,時機を失し転移によって不幸な転帰をとる.ならば“ほくろ”のような黒色病変はすべて切り取るべきか?
 メラニン色素産生の強いわれわれ黄色人種は,その紫外線防御能によって,悪性黒色腫の発生頻度が白人の1/6〜1/10と低い(ハワイ・カウアイ島での調査)代わりに,良性黒色病変も多い.

対談

基本的臨床能力と医療訴訟—事例から学ぶ

著者: 児玉安司 ,   福原俊一

ページ範囲:P.1523 - P.1532

 福原 児玉先生,本日はお忙しいところをお運びいただきありがとうございます.今回,本特集「『考える』診断学—病歴と診察のEBM」を編集させていただきました.私としましては,医療訴訟の現状について勉強させていただくとともに,本特集のテーマが現在の医療訴訟の状況にどんな関連をもっているかについても興味をもっているところです.と申しますのは,把握しやすそうでわからない医療現場の実態が,医療訴訟の切り口から何か見えてくるかもしれない,という予感をもっているからです.児玉先生は弁護士であられるとともに医師であるという,日本でも稀な存在のお一人です.また,慶應義塾大学法学部や東海大学医学部,獨協医科大学で教鞭もお取りになっていらっしゃいます.本日はお話を伺えることを楽しみにしてまいりました.

理解のための26題

ページ範囲:P.1535 - P.1539

新薬情報・3

硫酸アバカビル(商品名:ザイアジェン)

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.1544 - P.1545

 適応■対象はHIV感染症であるが,単独投与はせず,あくまでも他薬との併用で用いる.諸外国の臨床試験で成人および小児のHIV感染症における有効性が確認されている.
 用法・用量■成人に対しては,経口用錠剤(1錠中にアバカビル300mgを含む)を1日2回服用する.海外における小児(3ヵ月〜16歳)の投与量は,8mg/kgを1日2回(ただし,投与量の上限は1回300mg)である.

図解・病態のメカニズム 胃疾患・11

慢性胃炎の病態

著者: 石原俊治 ,   木下芳一

ページ範囲:P.1547 - P.1549

はじめに
 Helicobacter Pylori(H. pylori)の発見によって慢性胃炎の病態や成因についての概念が大きく変貌したことはいうまでもない.特に本菌の慢性萎縮性胃炎への関与は明らかであり,腸上皮化生や胃癌との関連についても注目されている.現在では自己免疫性胃炎など一部の特殊な例を除けば,H. pylori感染が慢性胃炎の病態の大部分を占めると考えられるようになった.そこで,本稿では主にH. pylori関連胃炎の病態について概説する.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1551 - P.1556

演習 胸部X線写真の読み方—肺疾患篇・11

突然の呼吸苦と胸痛で来院した26歳の男性

著者: 梶原景子 ,   佐藤雅史

ページ範囲:P.1559 - P.1563

Case
 症例:26歳,男性.
 主訴:呼吸苦と胸痛
 家族歴:特記事項なし
 既往歴:17歳虫垂炎,19歳Ménière病・突発性難聴
 現病歴:1999年2月7日より呼吸苦・胸痛出現,10日に会社の診療所を受診し,胸部単純X線写真で異常所見を指摘され当院受診.

カラーグラフ 病原微生物を見る・13

A群レンサ球菌

著者: 清水可方

ページ範囲:P.1564 - P.1566

 レンサ球菌はLancefield女史がC多糖体の抗原特異性により13群に分類した(Lancefield分類.その後21群まで拡大).主にヒトに病原性を持つのはA群レンサ球菌(Group A Streptococcus,Streptococcus Pyogenes,以下GAS)である.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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