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雑誌目次

雑誌文献

medicina38巻11号

2001年10月発行

雑誌目次

脳脊髄 総論

読影の基本とポイント

著者: 青木茂樹

ページ範囲:P.7 - P.9

頭部MRI読影を中心に
 中枢神経系の画像診断の中心はMRIであるので,ここでは頭部MRIの読影法について述べる.頭部MRIの読影も,胸部X線写真やCTと大きく変わらない.一見して特定の病名と断定するのは,少なくとも最初のうちは慎むべきで,意識して分析的に読影すべきである.また,脳のMRIは最も多くスクリーニングが行われる部位で,まず病変を丁寧に探すところから始めなくてはならない.ここでは,異常所見の拾い上げから解釈までを強いて分けて,少し詳しく述べる.実際には,下記のステップをほとんど無意識に繰り返し,鑑別診断をいくつか考え,それにあった所見がないかと自問自答しながら読影していくことになる(図1).

正常解剖

著者: 寺田一志

ページ範囲:P.10 - P.20

はじめに
 神経放射線診断はすでにMRIが中心であり,X線CTはむしろ骨や石灰化などに対する「特殊検査」である.本稿ではMRIで解剖を解説する.
 MRIは個々の症例の症状や疑われる疾患によって,撮像領域や撮像平面,撮像条件(シーケンス)などを特化させて行う検査である.われわれはカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)放射線科神経放射線診断部門が作成したMRIプロトコールを応用している.99年版では頭頸部や脊椎を除いた脳の検査を29項目に分けている.第1項「STANDARD BRAIN」(表1)はいわゆる「スクリーニング」や「ルーチン」と称する検査に相当する.第2項以降が次章で述べられる各論に当たる.本稿では「総論としての正常解剖」としてこの「STANDARD BRAIN」で評価される/すべき構造の説明を行う.使用する図はすべてスクリーニングやルーチンの撮像条件で全脳を撮像したものであり,スライス厚は5〜7mm程度である.

各論

脳表

著者: 北垣一

ページ範囲:P.22 - P.26

正常解剖
大脳の脳表解剖(図1〜4)
 大脳は正中にある大脳縦裂(longitudinal cere—bral fissure)により左右の大脳半球に分けられる.そして中心溝(central sulcus),Sylvius裂(sylvian fissure),頭頂後頭溝(parieto-occipitalsulcus)により,前頭葉,頭頂葉,後頭葉,側頭葉に分けられる.
 正常解剖は同一被検者(64歳女性)のMRI横断・矢状断像と,3次元再構成した像を用いた.3DSPGR(spoiled gradient echo)法で,冠状断,1.5mm124枚のデータを元にした.

大脳白質

著者: 大場洋

ページ範囲:P.27 - P.31

はじめに
 大脳白質は一見単純で均質な構造にみえるが,神経線維の束が交錯し絡み合った複雑な構造をしている.脳の容積のかなりの部分を占め,様々な疾患が生じる場である.病変の形態は様々である.正確な病巣の把握と診断には,3次元的な詳細な解剖学的知識が不可欠である.この稿では,白質の主に線維の解剖を概説し,代表的な疾患を提示する.

海馬体・帯状回・脳梁

著者: 佐々木真理

ページ範囲:P.32 - P.37

はじめに
 海馬体,帯状回は大脳辺縁系を構成する主要な構造で,記憶との関連が深い.一方,脳梁は両側大脳半球をつなぐ最も発達した交連線維である.これらのなかでも海馬体は小さく複雑な構造をしている.本稿では超高磁場3Tesla装置による高解像度MR画像を用いて海馬体,帯状回,脳梁の正常所見について述べ,これらに異常をきたす代表的な疾患について解説する.

基底核

著者: 細川知紗 ,   幸茂男

ページ範囲:P.38 - P.45

はじめに
 基底核に異常をきたす疾患は,頻度的には脳血管障害が圧倒的に多く,日常臨床においては代謝異常にも遭遇することがある.画像所見はしばしば非特異的であり,臨床所見との対比が重要である.また,読影においては正常変異と区別することが大切である.

視床・松果体

著者: 石亀慶一 ,   大久保敏之 ,   荒木力

ページ範囲:P.46 - P.50

はじめに
 視床および松果体は,間脳に分類される頭蓋内構造である.
 視床は解剖学的にも機能的にも,別個の多数の細胞群や核からなる1).その機能的および解剖学的分類として,①特異的な知覚伝導系を受容し,対応する大脳皮質の一次感覚野に投射する感覚中継核(後腹側核,内側膝状体,外側膝状体),②小脳視床線維および淡蒼球内側部からの線維を受容し,中心前運動皮質に投射する二次中継核(中間腹側核,前腹側核),③乳頭体視床路を受容し,弓隆回に投射する複合前核,④連合皮質に広く投射する連合系(背内側核,視床枕を含む外側核),⑤中心・層内核または“非特異的”核(中心正中核,外側中心核,中心傍核,結合核),に分けられる.松果体は,内分泌機能を有する構造であり,視床上部構造の一部である.

下垂体・視床下部・傍鞍部

著者: 三木幸雄 ,   金柿光憲

ページ範囲:P.52 - P.57

はじめに
 下垂体・傍下垂体領域は,下垂体・下垂体柄・海綿静脈洞・Willis動脈輪・視交叉・視床下部など,解剖学的に複雑な構造物で構成される(画像で確認できる主要な構造物を,図1~4に示した).また,下垂体の大きさには個人差も大きい.疾患のMRI診断のためには,それらの構造物の正常像の理解が不可欠である1).本稿では,下垂体・傍下垂体領域の正常MRI像について解説し,続いて代表的な疾患例を提示する.

脳幹

著者: 飴谷資樹 ,   松末英司 ,   小川敏英

ページ範囲:P.58 - P.63

はじめに
 脳幹は中脳,橋,延髄を総称し,上方は間脳,下方は脊髄と連続し,後方の小脳とは三対の小脳脚で連結されている(図1).従来のCTでは,骨からのアーチファクトのため後頭蓋窩の微細な解剖学的構造を描出することは困難であった.しかし,MRIの登場により後頭蓋窩の解剖学的構造はきわめて詳細に観察できるようになった.本稿ではMRIで観察される脳幹の解剖学的構造を中心に述べるが,実際には脳幹には多数の神経線維と神経核が複雑に入り交じっており,現在臨床で用いられるMRIで明瞭に描出されるのはその一部にすぎない.また,脳幹には第3〜第12脳神経核が存在するが,個々の神経核の占める位置は成書により微妙に違いがあり,通常のMRIではこれらの神経核を描出することは困難であるため,本稿では全体の位置関係を図に示すにとどめる(図2).

小脳

著者: 土居逸平 ,   町田徹

ページ範囲:P.64 - P.67

正常解剖(図1〜7)
概説
 小脳は脳幹とともに,後頭蓋窩に位置する脳実質構造である.後頭蓋窩の上縁は小脳テントで境され,前縁は斜台および錐体骨後縁,後縁は後頭骨からなっている.小脳は,正中部に位置する虫部(vermis)と左右に位置する半球(hemisphere)から構成されている.小脳虫部と半球との境界は,上面では浅いparamedian sulcusであるが,下面では虫部が深く凹んで小脳谷(cerebellar val—lecula)を形成している.
 脳表面には横走する小脳溝が存在しており,小脳回が形成されている.比較的深い小脳溝によって,小脳回の集合である小脳小葉が境界されている.虫部の1つの小葉に対して,1対の半球小葉が対応している.第1裂によって前葉と後葉とに分けられ,後外側裂は後葉と片葉小節葉とを分けている.片葉小節葉は発生学的に最も古く,前庭系と密接に関連して平衡を調節する.前葉は脊髄小脳路を受けており,筋緊張を調節する.後葉は発生学的に最も新しく,大脳皮質からの入力を受けて随意筋を調節して巧緻運動に関与する.

脳室・髄膜・くも膜下腔

著者: 土屋—洋

ページ範囲:P.68 - P.72

 歴史的にみると,CTの導入が脳室や脳槽系を全く無侵襲に描出可能とし,さらにMRIが出現して,髄膜やも膜下腔の正常・異常像も容易かつ正確に診断できるようになった.これらは自身を侵す病変のほか,各種の病態によって二次的に様々な異常所見を示し,頭部の画像診断上で重要な構造物である.

小児

著者: 阿部礼 ,   相田典子

ページ範囲:P.74 - P.79

はじめに
 小児期の脳は系統だった発生の過程にあり,特に胎児期(早産児を含む)から新生児期,乳児期にかけて正常像は刻々と変化する.したがって,その変化を知っておくことが診断に役に立つ.ここでは小児画像診断における成長に伴う正常像の変化について簡単にまとめた.

脳神経

著者: 前田正幸

ページ範囲:P.80 - P.83

はじめに
 脳神経は脳幹から生じ,頭蓋底を走行する微細な構造のために,骨からの影響の強いCTはその描出にほとんど無力であった.MRIは高い組織コントラストを有し,骨からのアーチファクトが基本的にほとんどなく,また自由な撮像面を選択できるため,これら微細な脳神経を描出するのに適した方法である.しかも近年,3Dtime-of-flight(TOF)MRA,3Dfast spin-echo(FSE)MRなどの3Dフーリエ変換を用いた撮像法を用いることにより,その微細構造の描出能が著明に向上した1〜3).MRIによる脳神経の正常解剖像を知ることは,その病態の理解のためにも必要である.

脳血管

著者: 青木茂樹

ページ範囲:P.85 - P.92

はじめに
 血管・血流の情報は疾患,特に脳血管障害の診断に欠くことができない情報で,従来から脳腫瘍・脳血管障害などにおいてカテーテルを用いた選択的脳血管造影が広く行われていた.しかし,その合併症の頻度は高く,症状で観察した報告では少ないもので0.5%,MRIの拡散強調像で観察すると100回中23回の検査で異常が出現したという報告もあり,血管内治療は別として,その適応は術前や血管障害などに限られてきている.
 血管造影の適応を限定できるようになった背景には,CT,MRIの進歩で血管の情報が頭蓋内でも非侵襲的に得られるようになったことが大きい.

頭蓋底(眼窩,副鼻腔を含む)

著者: 酒井修 ,   藤田晃史

ページ範囲:P.94 - P.100

はじめに
 頭蓋底は,狭い領域ながら解剖は複雑で,直接肉眼的に観察できないこともあり,多くの臨床医にとって馴染みが少ない領域の一つかもしれない.頭蓋底は,単に“頭蓋の底”で脳を支えるものだが,頭蓋内と頭蓋外の境界で脳神経および脊髄が頭蓋外に出るとき,また脳を栄養する血管が頭蓋内に入るときに必ず通らなければならない領域で,臨床的にきわめて重要である.この領域の病変の多くは脳神経の異常として認められるが,頭蓋底自体は骨であり,多彩な骨・骨髄疾患も生じる.画像診断による頭蓋底病変の存在診断,広がり診断は特に手術前評価ではきわめて重要である.以前は手術不能だったが,最近では手術可能となっている領域も多く,CT,MRIによる画像診断は病変の正確な位置,術中に重要なランドマークとの関係などについて術前に有用な情報を提供でき,治療方針に大きな影響を与える1〜3)

側頭骨

著者: 藤井直子

ページ範囲:P.102 - P.105

はじめに
 側頭骨には外耳,中耳,内耳が含まれる.中耳は鼓膜,鼓室,乳様突起(乳突洞,乳突蜂巣),耳管からなり,内耳には蝸牛,前庭,三半規管が含まれる.中耳や内耳疾患では画像診断の占める役割が大きい.中耳の構成成分の大部分は骨であり,単純X線写真,X線断層撮影,CTが行われるが,腫瘍や真珠腫など軟部腫瘤を形成する疾患ではMRIが併用される.内耳の画像診断は,内耳奇形や内耳道から発生する聴神経腫瘍の診断に必須であり,CTとMRIが用いられる.
 本稿では,側頭骨のCT像について述べる.側頭骨は構造物が小さく,高分解能CT(high-reso—lution CT:HR-CT,ターゲットCT)像が作成される.これは,両側の側頭骨をスキャンした後で,左右の側頭骨に領域を限定し,高分解能フィルター処理をして1〜2mm厚の画像を再構成するものである.通常は軸位断と冠状断の2断面がスキャンされる.

頸椎・胸椎

著者: 大久保敏之

ページ範囲:P.106 - P.110

はじめに
 MRIでは,前処置なく脊髄,くも膜下腔,脊髄神経根が明瞭に描出できる.これに対してCTで脊髄の形態を同様に描出するためには,くも膜下腔に造影剤を注入する必要があり,侵襲性が高い.さらにMRIでは,脊髄の白質,灰白質の濃度差も描出可能である.またCTにおいては,静脈内造影剤による増強効果は脊柱管内では弱いが,MRIでは明瞭に描出できる.
 以上,脊椎・脊髄領域はMRIが有用であり,主にMRIについて述べることにする.

腰仙椎

著者: 浅野剛 ,   寺江聡

ページ範囲:P.111 - P.116

はじめに
 腰痛を主訴とする患者数は多く,また,腰椎椎間板ヘルニアや椎体の転移性腫瘍などは比較的頻度の高い疾患であり,日常臨床において腰仙椎領域のMRI,CTを目にする機会は少なくない.以下,腰仙椎の正常解剖,画像診断上の特徴および代表的疾患の画像所見について解説する.

頸部 総論

読影の基本とポイント

著者: 八代直文

ページ範囲:P.119 - P.119

 画像診断の基礎は,撮影法に関する知識,正常解剖の知識,病理統計学の知識,治療法に関する知識である.正常解剖の知識とは,平たくいえば画像に何が描出されているかを理解する能力である.局在性病変では,病変部以外は正常構造なので,正常構造を理解して初めて病変が見えてくるようになる.
 頸部は気管,食道,脊柱,脊髄,大血管,胸鎖乳突筋などの主要臓器が体軸に平行に存在するという特徴がある.頸部精査の第一の手段はCTであることが多いと思うが,横断像では,上記の特徴を考え,見ている断面の前後の画像を常に参照するように心がけることが重要である.頸部の読影法にはいろいろなやり方があると思うが,ランドマークとして総頸動脈,内頸動脈,内頸静脈,外頸静脈などの主要脈管を同定し,全体のオリエンテーションを把握することをお勧めしたい.頸部リンパ節の評価は,頸部CT撮影のポピュラーな適応であるが,一般にリンパ節は上記の主要脈管に沿って存在する.脈管を十分同定し,リンパ節や腫瘤と鑑別するために,頸部CTでは造影が有効で,禁忌のない限り造影で撮影するほうが良い.

正常解剖

著者: 井原信麿 ,   八代直文 ,   木下隆広 ,   吉儀淳

ページ範囲:P.120 - P.124

MRI像

各論

頸部リンパ節

著者: 田中宏子

ページ範囲:P.125 - P.130

はじめに
 頸部リンパ節の評価は,CTやMRIを施行する適応病態の一つである.頭頸部領域のリンパ節腫大の原因は,多くが頭頸部扁平上皮癌の転移である.このほかに悪性リンパ腫や非腫瘍性腫大もみられる.本稿では,頭頸部リンパ節の解剖と鑑別診断上の画像診断基準について述べる.

唾液腺と甲状腺

著者: 高橋直也

ページ範囲:P.132 - P.137

唾液腺・甲状腺疾患におけるCT・MRIの役割
 唾液腺と甲状腺は,表在に位置するため触診や超音波検査が有用であり,針生検によって組織診断が下される.CT・MRIの役割は,主に病変の由来や局在を正確に診断することにある.唾液腺と甲状腺の主な鑑別疾患を表1に示す.甲状腺疾患では核医学検査で機能が評価されるが,放射性ヨードを用いた核医学検査や内照射を予定する場合,ヨード造影剤を用いた造影CT検査を行ってはならない.

咽頭・喉頭

著者: 戸成綾子 ,   蜂屋順一

ページ範囲:P.138 - P.145

咽頭
 咽頭(pharynx)は鼻腔・口腔に連続し,下方は喉頭・食道に及ぶ管状構造で,気道と消化管の2つの機能を有する.

胸部 総論

読影の基本とポイント

著者: 八代直文

ページ範囲:P.149 - P.149

 躯幹部の画像診断のうち,50%以上は1胸部をターゲットとしたものである.肺には含気があり,何らの造影剤を使用することなく,肺の脈管構造や病変部を描出できるという利点がある.これは胸部の単純X線撮影の有効性を支える根本原理であり,X線CTでも有効に活かすことができる.一方,MRIでは,空気は信号を出さないため,一般に肺の画像は信号が不十分でノイズの多い画像になりやすい.
 肺のCTでは,2mm以下の薄いスライス幅で撮影するthin slice CTが有効で,上記の肺の特性を活かして肺の微細構造を描出できる.最近になって普及が進んでいるマルチディテクター型のCT装置では,全肺をthin sliceで撮影することも可能になっているが,一般にはCT装置の能力やフィルム枚数の制限などにより,thin slice CTはターゲットを絞って撮影されることが多い.

正常解剖

著者: 井原信麿 ,   八代直文 ,   木下隆広 ,   吉儀淳

ページ範囲:P.150 - P.155

はじめに
 肺腫瘤や胸膜病変を除き,実際の臨床では肺野についてはMRIよりCTが多く施行されているため,ここではCT解剖について主に述べる.
 胸部CT(肺野条件)を前にして,肺病変の部位,分布を理解するためには肺区域,肺動脈,肺静脈の把握が必要である.実際の読影では気管分岐部から気管支を末梢に追うことにより肺区域を把握する.肺静脈は各区域(亜区域)の境界を走行するため有用である.気管支や肺血管を把握するときには,上下のスライスでの連続性を確認する.また,気管支,肺動脈,肺静脈の分岐にはかなりのバリエーションがあるが,ここでは割愛する.

各論

肺胞・肺小葉

著者: 野間恵之 ,   小橋陽一郎 ,   伊藤春海

ページ範囲:P.156 - P.163

はじめに
 肺実質性陰影の典型例はいうまでもなく肺炎であろう.ただし一言で肺炎といっても,その病態は起炎菌と宿主の免疫の関係で千差万別である.また肺の画像診断の立場からいっても,この最も基本的な所見を正確に理解しておくことは,他の複雑なびまん性肺疾患の鑑別のためにも重要である.したがって本稿においては,まず肺の基本構造である小葉について整理し,さらに細気管支から周辺へ広がっていく病変がHRCT(high—resolution CT)を主体とした肺の画像診断でいかに把握されるかを,いくつかの典型例とその病理像を示しながら解説する.

肺間質

著者: 林英博 ,   平木祥夫

ページ範囲:P.164 - P.170

はじめに
 間質性肺疾患の多くは両肺を広範に侵すびまん性肺疾患であり,この領域の画像診断には高分解能CT(high-resolution CT,以下HRCT)が繁用されている.したがって本稿では,主な疾患の画像所見についてはHRCTに絞って概説する.

心臓・心嚢

著者: 中西正

ページ範囲:P.172 - P.177

はじめに
 心疾患の診断は形態のみでなく,機能的な評価が重要である.したがってリアルタイム性,簡便性に優れる経胸壁心エコー法が,ファーストラインの検査法である.CT,MRIは従来より心エコー法を補う役割を担っているが,近年,撮像の高速化や画像処理法の進歩により,冠動脈疾患におけるone-stop shopとしての検査法の確立に向けて研究が進んでいる.このような現状において心臓の形態を正確に描出し,把握することは診断の基本であり,今後CT,MRIのような断層データを用いて心疾患を診断する機会が増えてくると考えられる.またカテーテル法による冠動脈造影によってしか評価できなかった冠動脈の解剖も,CT,MRIによって描出できる時代となりつつあり,横断像における冠動脈像の理解は,今後重要である.

胸膜

著者: 三島慶子

ページ範囲:P.178 - P.183

正常解剖
 胸膜・胸壁の正常解剖1〜3)
 胸膜は肺表面を覆う臓側胸膜と胸壁内面を覆う壁側胸膜からなり,両者は肺門部で移行する.また,臓側胸膜は肺の葉間に入り込み,隔壁(葉間裂,fissure)を形成する(図1).
 胸膜は胸膜腔に面した一層の中皮細胞とこれを裏打ちする結合組織からなり,胸膜腔には少量の液体が存在する.臓側胸膜と胸壁の間には脂肪に富む結合織があり,胸膜外脂肪(extrapleural fat)という.

胸部の大動脈・大静脈

著者: 福田穂積 ,   衣袋健司

ページ範囲:P.184 - P.190

はじめに
 胸部の大血管に関して必要な情報は,ほぼルーチンのCT検査から得ることが可能である.したがって,日常の診療において臨床所見や胸部単純X線で胸部血管性病変が疑われる場合,まずはCTで診断する.3D-CTやMRIは,すでに存在が明らかな病変の,より詳細な付加情報が得られ,特に手術を前提とした検査として有用性が高いが,ルーチン検査としては一般的ではない.そこで本稿では胸部大血管についてCT像を中心に述べることにする.CTでの血管の同定は,中枢側から連続性を追跡していくのが原則となる.上下方向に走行する血管は,単純CTでも明瞭に分離描出され容易に同定可能である.造影CTでは斜め方向・横方向に走行する血管の同定や,リンパ節と血管の区別がより容易となり,血管内腔の情報も得られる.

食道・気管

著者: 中原圓 ,   田島廣之 ,   隈崎達夫

ページ範囲:P.192 - P.197

正常解剖
発生
 胎生4週,呼吸器系の原基である呼吸憩室が前腸腹壁より出現し(図1a),前腸は前方の呼吸憩室と食道に分割される(図1b).呼吸憩室は気管と2個の肺芽とを形成していく(図1c).前腸が不完全に分割されると,食道と気管の間に瘻が生じる.

胸部のリンパ節・胸腺

著者: 佐々木康夫

ページ範囲:P.198 - P.206

肺のリンパ流とリンパ節
 肺小葉間隔壁および呼吸細気管支のリンパ流は気管血管束に沿って肺門部方向へと流入する.胸膜の表面にはリンパ管が網目状に走行しており,肺内のリンパ路とは小葉間隔壁を介して交通している.
 リンパ節は,気管周囲,肺門,縦隔のみならず胸膜下や肺内にも存在する.左右のリンパ流は縦隔内で交通(cross over)しており,左肺のリンパ流が右肺の肺門や縦隔のリンパ節にも流入することがある(図1).肺癌の転移,悪性リンパ腫,サルコイドーシス,炎症および反応性過形成などでリンパ節の腫大を認める.腫大したリンパ節の画像診断上の鑑別診断は容易ではないが,縦隔と両側肺門部のリンパ節腫大(サルコイドーシス),各リンパ節の融合傾向(悪性リンパ腫),造影剤による増強効果(腎癌,甲状腺乳頭腺癌,サルコイドーシス,Castleman病)などを目安にする.なお,壊死性のリンパ節は,腫大していても造影剤による増強効果はない.石灰化したリンパ節を見た場合は,珪肺,結核,サルコイドーシス,アミロイドーシス,および悪性リンパ腫の治療後などを考える(図2)1,2).CTでは画像スライス厚が薄いほど小さなリンパ節の同定が容易になる.ただし,SN比が低くなるので,5mm前後のスライス厚が適切である.また,造影剤を投与したほうが血管とリンパ節を分離しやすい.MRIは造影剤を投与せずとも,血管とリンパ節の分離が可能である(図3).

腹部 総論

読影の基本とポイント

著者: 大友邦

ページ範囲:P.209 - P.209

基本姿勢—検出→鑑別→最終診断
 読影とは,異常所見を検出し,その原因・由来を鑑別し最終的な診断に至る作業である.検出の段階では「所見を丹念に拾う」ことがすべてである.単純な見落としを防ぐには,領域ごとに見る順番を決めておくのが望ましい.ただ正常変異を含めた異常所見に関する知識がなければ,目には映っていても,異常所見として認識できない(見えども見えず)という状態に陥る危険がある.
 鑑別の段階では,所見の由来臓器あるいは領域と,反映されている病態(主としてルーペ像あるいは弱拡大のミクロ像.例:浮腫,出血,線維化,細胞成分の増加)を推定する.鑑別では,なるべく間口を広くして,様々な種類の疾患の可能性(先天性疾患,外傷,炎症,腫瘍など)を考えることがきわめて重要である.臨床情報や各種検査データなしに鑑別はできないが,一方で臨床診断を絶対視しない姿勢が求められる.最終的な診断には,病名とともに進展範囲に関する分析が求められる(例:悪性腫瘍におけるリンパ節転移の有無).

正常解剖

著者: 岡田吉隆

ページ範囲:P.210 - P.217

はじめに
 腹部には,消化器系・泌尿器系・内分泌系・生殖器系などの多様な臓器と,それらに関連する支持組織・血管・リンパ管などが,複雑に入り組んだ形で分布している.読影を見落としなく進めていくためには,漫然と画像を眺めるのではなく,それぞれの臓器系を一定の順序で系統的に観察していくことが重要である.また,一つの臓器の病変が,隣接する全く別の重要臓器に進展していくことも腹部ではしばしば起こるので,各臓器をばらばらに見るだけでなく,常に周囲の臓器とのつながりを意識して読影すべきである.個別の臓器の詳しい正常解剖は各論で触れられるので,ここではおおよその臓器の配置と,それらのつながりを中心に説明する(図1).
 腹部のCTやMRIの画像では,脂肪組織の中に様々な臓器が分布している.腹腔内の脂肪が多い人では,各臓器の形態を観察するのが容易であるが,やせて脂肪が少ない人の場合は,臓器の境界が不鮮明になり,病変の有無もわかりにくいことがある.腹部臓器は腹腔内臓器と後腹膜臓器に大別できるが,CT・MRI上は腹腔内と後腹膜を一見して区別することはできない.後腹膜臓器は比較的一定の位置に認められることが多いのに対して,消化管などの腹腔内臓器の場合は,体型などに左右され,位置や形の個人差が大きいことに注意する必要がある.

各論

肝臓

著者: 近藤浩史 ,   兼松雅之 ,   星博昭

ページ範囲:P.218 - P.225

はじめに
 肝の画像診断において,MRIはT1/T2緩和時間,細胞密度,脂肪,出血,金属沈着,血流の評価が可能な点で,X線吸収値の差および血流のみを評価するCTに比べ,より多くの生体情報を提供し,肝の画像診断に大きく貢献している.一方,CTは近年,マルチスライス化が進み,肝全体をごく薄いスライス厚で,5秒前後で撮像することが可能となり,任意の断層像や広範囲のCTアンギオの再構成が可能になりつつある.本稿では,日常臨床で頻繁に遭遇する代表的な疾患を取り上げ,そのCT・MRI所見について解説する.

脾臓・肝外門脈系

著者: 中井資貴 ,   佐藤守男 ,   木村誠志

ページ範囲:P.226 - P.234

正常解剖
脾臓(spleen)
 脾臓は,左横隔膜下やや背側よりに存在する実質臓器であり,人体のリンパ系組織のなかで最大の臓器であり,各種の貧食機能,リンパ球Bcellを介する細胞免疫に関与している.また血球のプールの場所であり,寿命を終えた血球の処理を司どる.その他,代謝性疾患においてその異常代謝産物の貯蔵場所となる.正常の脾臓は,成人では最大径10cm以下とするのが一般的であるが,子どもでは10cm以上となることがある.脾は脾門部を除くと被膜に覆われている.膵の上縁後方を走行し,脾門部に達する脾動脈により栄養され,脾静脈は逆に脾門部から流出する1,2)
 CTでは,CT値は50 HUと肝臓よりやや低濃度である.造影ダイナミックCTの動脈相にて内部不均一に濃染し,異常を示唆する所見ではない.MRIのT1強調像で,肝に比して等〜低信号を示し,T2強調像ではやや高信りを示す(図1).

胆道(胆管・胆嚢)

著者: 澁谷剛一 ,   淀野啓

ページ範囲:P.236 - P.246

正常解剖
肝外胆道系の区分(図1)
 肝外胆道系は,肝外胆管,胆嚢,乳頭部からなる.胆道癌取扱い規約では,左右肝管より下流を肝外胆管と定めており,左外側区域と内側区域肝管の合流部,右前区域と後区域肝管の合流部が肝内外の境界となる.規約では肝外胆管は,左右肝管(Bl,Br)と肝管合流部からなる肝門部胆管(Bp),肝門部胆管から膵上縁までを2等分した上部胆管(Bs)と中部胆管(Bm),膵上縁以下の下部胆管(Bi)の4つに区分される.肝外胆管の区分には,胆管・胆嚢管合流部を指標とする解剖学的名称の総肝管ならびに総胆管を用いることも多いが,合流部はバリエーションに富み,実際には対応できない場合も少なくない.
 胆嚢は底部から胆嚢管までを3等分した底部(Gf),体部(Gb),頸部(Gn)と,胆嚢管(C)の4つに区分される.十二指腸壁内からVater乳頭に開口するまでの部分は乳頭部(A)に区分される1)

膵臓

著者: 大友邦

ページ範囲:P.248 - P.258

正常解剖
解剖学・発生学(図1,2)
 膵臓は第一および第二腰椎の高さで,胃の背側に横たわるように存在する.前面を腹膜に覆われた後腹膜臓器で,十二指腸や上行・下行結腸と同じ前傍腎腔(anterior pararenal space)にある.解剖学的には,右端の膨大した頭部,脊柱の前を横走する体部,および左端で脾臓の下部に接する尾部に区分される.膵体尾部の背側に接して脾静脈が横走している.膵頭部から下左に突出し上腸間膜動静脈の背側に位置する部分は特に鉤状突起と呼ばれている.
 外科的には,上腸間膜静脈・門脈の左縁を頭部と体部の境界とし,頭部を除いた尾側膵を2等分する線を体部と尾部の境界としている(図3b).

胃・十二指腸

著者: 水口昌伸 ,   工藤祥

ページ範囲:P.260 - P.265

正常解剖
 胃・十二指腸病変を対象としたCT・MRI検査は,一般に背臥位にて水や発泡剤,さらには陽性造影剤を用いて胃・十二指腸を拡張させた状態で行うため,胃はいわゆる牛角胃(大彎側が腹壁側を,小彎側が背側を向く)の状態になっていることが多い.したがって,胃はX線透視の立位正面像で見るほど下垂したイメージではなく,脾の腹側から腹壁正中側に向かい右背側の十二指腸に続く管腔臓器という認識をしたほうが良いと思われる.十二指腸は,胆嚢と膵頭部の間を通って背側に向かい,さらに大動脈と上腸管膜動脈の間を通過して腸間膜小腸に移行する.周辺臓器との関係を図に示す(図1).
 また胃,十二指腸とも伸縮性に富む臓器であり,胃壁の厚さは胃の拡張の程度によって異なる.そのため,病的な壁肥厚かどうかの判断を通常のCT・MRI検査のみで行うことは難しい.

小腸・大腸・直腸

著者: 杉村宏 ,   田村正三 ,   山口健一郎

ページ範囲:P.266 - P.271

 バリウムによる二重造影法や内視鏡検査は消化管内腔や粘膜の観察に有用な検査法で,病変の存在診断はこれらの方法で行うのが一般的である.一方,CTやMRIなどの画像診断は,存在診断よりも病変の広がりや周囲臓器との関係の評価,粘膜下病変の評価に利用されることが多い.

腎・尿管・膀胱

著者: 藤善史人 ,   福倉良彦 ,   井上裕喜

ページ範囲:P.272 - P.280

腎臓
正常解剖(図1,2)
 腎臓は,腎周囲腔の豊富な脂肪組織により取り囲まれており,境界明瞭な楕円形の構造物として,CTやMRIで容易に同定できる.通常,肝臓の存在のために,右腎は左腎よりも下方に位置する.腎門部は前内側を向くことが多いが,しばしば軽度の回転異常が存在する.腎静脈は腎動脈の前方に位置し,腎動脈より太い.左腎静脈は右と比べて長く,大動脈の腹側を横走し下大静脈に流入する.一方,右腎静脈は下大静脈に鋭角に流入するため,帯状もしくは類円形に描出される.腎動脈は上腸間膜動脈のすぐ下方で大動脈より分岐し,左腎動脈は左腎静脈の,右腎動脈は下大静脈の背側を走行する.
 単純CTでは,腎実質の吸収値は肝臓や脾臓よりやや低く,全体に均一であり皮質と髄質の区別はできない.造影の早期相では,皮質のみが濃染されるために皮質髄質境界を観察できる.腎孟腎杯系は,単純CTで水に近い吸収値であるが,造影の後期相では造影剤が排泄され,著明な高吸収値となる.

副腎

著者: 百瀬充浩 ,   角谷眞澄 ,   蒲田敏文

ページ範囲:P.282 - P.289

正常解剖
 副腎は第11〜12胸椎の高さで椎体の両外側を走る横隔膜脚の外側にあり,後腹膜腔(Gerota筋膜内)の最上方に位置している.CT(図1,2)・MRI(図3)の横断像では,線状ないし逆Y字構造として描出されるが,冠状断像では内翼と外翼の2枚の翼が上部で畳まれて下部で広がる構造である(図4,5).右副腎は肝右葉の内側,右横隔膜脚の外側,下大静脈の後方に,また,左副腎は脾臓の内側,左横隔膜脚の外側,脾動静脈ないし膵体尾部の後方に認められる(図2).副腎の長径は4〜6cm,幅が2〜3cmで,翼の厚みは通常3〜6mmである1)
 CT(図1,2)では,周囲を脂肪組織で囲まれた線状ないし逆Y字構造の軟部組織濃度陰影である.造影剤でよく染まり,早期相では動静脈に近い強い増強効果を示す(図2).スライス厚1cmでは輪郭がはっきりしがたいが,3mmでは明瞭に描出される.また,3mm以下で撮像した場合には,画像再構成によってMRIに劣らない冠状断像(図4)も可能である.

後腹膜

著者: 山田隆之 ,   石橋忠司

ページ範囲:P.291 - P.297

正常解剖
解剖学(図1〜5)
 後腹膜腔は,背側の壁側腹膜と腹横筋膜との間に囲まれるスペースで,前腎傍腔,腎周囲腔,後腎傍腔に分けられる(図1).前腎傍腔は,背側の壁側腹膜と前腎筋膜の間に広がる腔であり,外側はlateroconal fasciaで境界されている.前腎筋膜と後腎筋膜は,上方で強く癒合している(図2).しかし,時に前腎筋膜が腎上極レベルで欠損していることがあり,腎周囲腔の病変が肝臓のbare areaに進展することがいわれている.後腎傍腔は後腎筋膜から腹横筋膜に広がるスペースである.薄い脂肪層からなり,連続的にlaterocomal fasciaの外側を回り,腹壁の腹膜腹側の脂肪組織にまで連続している.また,後腎傍腔は横隔膜下の腹膜外脂肪層に連続している.前腎傍腔と後腎傍腔は,前腎筋膜と後腎筋膜の円錐状構造の下方を介し連続性があるが(図2),下方ではlateroconal fasciaもなく,外方を介した連続性も認められる.
 前腎傍腔には膵臓,球部以外の十二指腸,上行・下行結腸が含まれる.腎周囲腔には,副腎や腎臓周囲の脂肪が含まれる.

腹部大動脈・下大静脈

著者: 岡田宗正 ,   松永尚文

ページ範囲:P.298 - P.305

正常解剖
腹部大動脈の解剖(図1)
 腹部大動脈は,胸部大動脈が横隔膜の大動脈裂孔を通って移行した部位から,通常第4腰椎下縁の高さで左右の総腸骨動脈に分岐するまでの大動脈を指す.
 主な分枝には次のようなものがある.

腹膜・腹膜腔・腹壁

著者: 沖野由理子 ,   森宣

ページ範囲:P.306 - P.317

正常解剖
はじめに
 腹膜には腹腔内実質臓器を覆う被膜と腸管を包んでいる腸間膜,そして腹壁の最内側および後腹膜の表面を覆う腹膜が含まれる.腸間膜は腹膜が2枚合わさったもので,その間に消化管(小腸・大腸)を含み,これらを体壁に固定している.腹膜ひだ(靱帯)は2枚の腹膜が合わさって臓器と臓器,あるいは臓器と体壁とを結んでいるもので,内部に脈管や神経を含んでいる.これら間膜(腸間膜および靱帯)は臓器を結んでいるがために,様々な病態において病変の進展経路となりうる(図1).

子宮

著者: 藤原俊孝 ,   富樫かおり

ページ範囲:P.318 - P.324

正常解剖と生理的変化
正常解剖(図1)
 子宮は膀胱と直腸の間に位置する臓器で,体部と頸部,両者の移行部である子宮峡部に分けられる.子宮峡部はさ数mmであり,上界は解剖学的内子宮口,下界は組織学的内子宮口である.画像上の内子宮口は解剖学的内子宮口に一致する.
 体部は峡部の上方で子宮全体の約2/3を占め,幅広い底辺を有する逆三角形を呈する.その底辺部を子宮底といい,その両端は子宮角で卵管に連なる.体部は子宮内膜,筋層,外膜(腹膜)よりなっている.

卵巣

著者: 森田英夫 ,   青木純

ページ範囲:P.326 - P.332

正常解剖
 卵巣は子宮広間膜の背側に付着し,子宮とは子宮卵巣索により連結する.広間膜は卵巣堤索となって外側へ移行し,卵管を支持する.卵巣は皮質と髄質に分かれ,卵巣門を通じて広間膜と連絡し,卵巣動静脈とリンパ管がここに注入する.卵巣動脈は腹部大動脈より直接分岐する.左卵巣静脈は左腎静脈に合流し,右卵巣静脈は下大静脈へ直接合流する.皮質表面は胚上皮と呼ばれる1層の立方上皮に覆われている1).卵巣腫瘍の多くを占める上皮性腫瘍は,この胚上皮より発生したものである.卵胞は髄質内に存在し,周囲を顆粒膜細胞などの間質に支持され,かつホルモン分泌を受けながら成熟する.

男性生殖器

著者: 北村ゆり ,   楫靖 ,   杉村和朗

ページ範囲:P.334 - P.338

はじめに
 男性生殖器のなかでも,特に前立腺はその生理的働きや診療のうえからもいまだに解明しきれていない臓器である.今まで前立腺疾患の診断には主に直腸診がなされてきたが,最近は超音波検査や経直腸生検が主流になりつつある.また,補助的診断として,PSA(prostatic specific antigen;前立腺腫瘍マーカーの一つ)の測定も重要である.PSAは前立腺円柱上皮で生成され,腺腔内に分泌されるが,通常は基底膜を通らない.前立腺内に癌や炎症などが生じると基底膜が損傷され,PSAは間質内に漏出し,血中にて上昇する.このため,前立腺癌や前立腺肥大症,前立腺炎などの疾患において血中のPSAは高くなる.特に前立腺肥大症は年齢とともに罹患率が上昇することより,血中PSAも加齢により上昇するとされる.PSAは前立腺疾患の診断と治療方針決定に重要な役割を果たしている.またその一方で,最近はMRIの診断性能の向上により,前立腺内部構造の評価や疾患の局在,広がりなどの情報を得る点で,MRIもまた大きな役割を担うようになってきた.

骨盤のリンパ節・リンパ管

著者: 西江昭弘 ,   本田浩

ページ範囲:P.340 - P.344

はじめに
 画像診断でリンパ節の異常を診断することは様々な疾患において重要であるが,特に悪性腫瘍におけるリンパ節転移を診断することは,病期判定,腫瘍の進展や再発の早期発見に役立つものと考えられる.原発部位が不明な悪性腫瘍で認められるリンパ節転移から,原発部位の推測が可能になる場合もしばしばみられる.そのためにはリンパの還流領域および還流方向に対する理解が非常に重要である.本稿では,骨盤領域のリンパ節および各臓器部位からのリンパの還流について概説する.

骨・軟部 総論

読影の基本とポイント

著者: 八代直文

ページ範囲:P.347 - P.347

 整形外科などの骨・軟部の専門医を除けば,骨・軟部組織の異常が全身疾患の一部として表現される場合のほかは,読者が筋肉疾患,関節疾患などを診療する機会は少ないかもしれない.しかし,MRIの普及で関節,軟部組織の画像を目にする機会は増えているはずである.ふだん見る機会の少ない分野こそ正常解剖の知識が重要である.骨・軟部の画像に接するたびに本書を参照して基本的な知識をリフレッシュしていただきたいと思う.
 総論では,筋肉を中心に軟部組織の正常解剖を図示し,各論では関節疾患を中心に記述していただいた.関節疾患に対する画像診断の主役はMRIである.関節のMRIは,T1強調画像,T2強調画像の双方で筋肉.靱帯は低信号,骨皮質は無信号であるのに対し,軟骨は中間的な信号強度,骨髄脂肪は高信号を呈する.炎症,腫瘍などの病変部は一般にT2高信号を呈するようになり,T2強調像で鋭敏に描出できる.また,骨髄への腫瘍浸潤,炎症波及などは,正常では高信号の骨髄を置換するように拡がるため,T1強調像でよく描出できる.脂肪抑制撮像が有効なことも多い.

正常解剖

著者: 吉儀淳 ,   八代直文 ,   木下隆広 ,   井原信麿

ページ範囲:P.348 - P.353

はじめに
 この稿ではCT・MRIにおける四肢・躯幹の正常解剖について述べる.関節については各論に譲る.関節以外の四肢・?幹の骨・軟部組織が画像診断の関心領域となることは多いとはいえないが,腫瘤や外傷の存在部位,進展範囲の評価には正常解剖の把握は必要不可欠である.正常解剖の把握は必ずしも容易ではなく,CT・MRIにおいては一断面のみでなく多断面を連続して評価することが必要である.今回の図は一般的な横断像だが,目的によって様々な方向の断面も有用なため,検査依頼時に目的を明確に伝えることで適切な情報が得られる可能性が高くなる.CT・MRIでは筋肉,脈管の同定は比較的容易だが,神経の同定は必ずしも容易ではない.このため神経の詳細な走行については成書を参考とされたい.

各論

肩関節

著者: 麻生暢哉 ,   上谷雅孝 ,   林邦昭

ページ範囲:P.354 - P.359

はじめに
 肩関節は上腕骨頭(humeral head)と肩甲骨の関節窩(glenoid fossa)から構成される球関節である.肩関節の最大の特徴は,骨頭に対して関節窩が浅く関節の可動域が非常に大きいことである.そのことは逆に関節の安定性に欠けることを意味しており,同じ球関節である股関節と比べてきわめて不安定で脱臼しやすい.関節の安定性を保つため,関節唇や靱帯,筋肉,腱板などの構造物が補強している.
 従来,これらの関節,あるいは関節周囲の構造物を評価するために単純X線写真と関節造影が用いられてきた.しかしCT,MRIの発達に伴い,画像診断の適応の範囲が広がっている.特にMRIが診断に果たす役割は大きく,腱板や靱帯,関節唇などの評価に欠かせない検査法となっている.

肘関節

著者: 杉本英治

ページ範囲:P.360 - P.365

正常解剖(図1)
骨軟骨
 肘関節は,腕尺関節(ulnotrochlear joint),腕頭関節(radiocapitellar joint),上橈尺関節(prox—imal radioulnar joint)の3つの関節により構成される関節である.尺骨近位端は,肘頭(ole—cranon)と鉤状突起(coracoid process)により,滑車切痕(trochlear notch)が形成される.滑車切痕の関節軟骨は,95%の症例で中央部が欠損し,tro—chanter grooveを形成するが,これを軟骨病変と誤ってはならない(図2).また,この溝に遊離体が陥入することがある.上腕骨小頭のpseudodefectは,外側上顆と小頭との境界が軟骨の欠損様に見えるもので,横断像と冠状断像で出現する(図3).

手関節

著者: 荻成行 ,   入江健夫 ,   福田国彦

ページ範囲:P.366 - P.370

正常解剖
骨(図1〜5)
 手関節を構成する骨は,橈骨と尺骨の遠位端,手根骨,中手骨で,これらの骨とその周囲の多数の靱帯により,5つの関節,すなわち,遠位橈尺関節,橈骨手根関節,豆状三角骨関節,手根間関節,手根中手関節が構成される.橈骨手根関節の近位側は橈骨遠位端と三角線維軟骨複合体(triangu—lar fibrocartilage complex:TFCC)からなり,遠位側は舟状骨,月状骨,三角骨の近位手根骨から構成される.手根間関節は可動性の小さい各手根骨間の関節と可動性の大きい手根骨近位列(舟状骨,月状骨,三角骨)と手根骨遠位列(大菱形骨,小菱形骨,有頭骨,有鉤骨)間の手根中央関節の2つからなる.豆状三角骨関節は三角骨掌側と豆状骨背側からなる関節包を有する独立した関節である.手関節の掌背屈,橈尺屈運動には橈骨手根関節と手根間関節が関与するが,豆状三角骨関節は関与しない.

躯幹・四肢の軟部組織

著者: 及川博文 ,   江原茂

ページ範囲:P.372 - P.376

正常解剖
腹壁
 腹壁は皮膚,皮下脂肪,浅腹筋膜,腹筋,腹膜前脂肪組織,腹膜からなり,腹部の消化器系の諸臓器を覆い囲む.上方は肋骨弓,下方は腸骨稜,鼠径靱帯,恥骨と境されている.腹壁は浅層から前腹壁(図1),側腹壁(図2),後腹壁(図3)に区分される.前腹壁の腹筋は白線を挟み,腹直筋が縦走する.側腹壁の腹筋は外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋の3層で構成される.後腹壁の筋は後背筋,腰方形筋,腰筋からなる.腹壁は腹部臓器の保護のみでなく,体幹の運動,呼吸補助などの働きをする.また,腹筋の収縮により,腹腔内圧が上昇し,分娩,排尿,排便などの補助もする.

股関節

著者: 小山真道 ,   大橋健二郎

ページ範囲:P.378 - P.384

正常解剖
 骨盤の関節には,股関節,仙腸関節,恥骨結合があるが,このうち股関節のみが運動に関係し,仙腸関節と恥骨結合によって安定性が保たれている.股関節は,いわゆるball and socket状で,球状の大腿骨頭とカップ状の寛骨臼(臼蓋)からなっている.これにより股関節は,屈曲・伸展,内転・外転,内旋・外旋と多彩な動きが可能であるが,同時に体幹部を支え,起立するための安定性を保つという重要な役割を果たしている.
 大腿骨頭は,その中心の直下にある大腿骨頭靱帯(円靱帯)の付着部の陥凹を除き,表面全体が軟骨で覆われている.これに対して,臼蓋は,尾側に開く馬蹄状の軟骨で覆われている.

膝関節

著者: 中西克之

ページ範囲:P.385 - P.390

正常解剖
 膝関節のMRIを読影分析する場合,まず,関節を構成する構造物を把握し,その構造物がどのような組織特性をもち,MRI上どのような信号をもつかを把握しておく必要がある.図1に関節の模式図を示し,図2に関節を構成する構造物のMRI上の信号強度(JCAT 1984)を示す.
 関節面にはすべて,関節軟骨が骨を取り巻くように認められ,大腿骨,脛骨,膝蓋骨を覆っている.大腿骨—脛骨間の関節には,関節軟骨に加え,荷重に対するクッションの役割として関節半月(半月板—線維軟骨)が存在する.関節には,2つ以上の骨の接合部分を取り囲むように関節包(bursa)が存在し,関節包の表面の膜が滑膜(synovium)である.関節包内には関節液が存在し血流をもたない,関節軟骨や半月板の一部を栄養している.

足関節

著者: 蒲地紀之 ,   鬼塚英雄

ページ範囲:P.391 - P.395

はじめに
 足関節の外傷は頻度が高く,その程度も保存的治療ですむものから外科治療を要するものまで様々である.MRIは,靱帯や腱の損傷を正確かつ非侵襲的に判断することができ,その診断には欠かすことのできない存在となっている.しかし,足関節には多くの靱帯と腱が存在し,解剖構造も複雑なため,的確に診断するには,正常解剖を熟知しておくことが必要である.
 本稿では,MRIを中心とする正常解剖,および代表的な疾患の画像所見について述べる.

乳腺

著者: 木下隆広 ,   八代直文 ,   吉儀淳 ,   井原信麿

ページ範囲:P.396 - P.403

正常解剖
乳房の正常解剖(図1)
 乳房は前胸壁の第2〜6肋骨に位置し,後方に大胸筋がみられ,一部下方に前鋸筋が存在する.乳房は15〜20個の腺葉(lobe),結合織および脂肪織からなる.腺葉は多数の小葉(lobule),さらに腺房(acini)に分かれる.腺房の周囲に小葉内間質(intra—lobular Stroma),小葉間に小葉間間質(inter—lobular stroma)がある.小葉と終末乳管(termi—nal duct)は,分泌機能単位として終末乳管小葉単位(terminal ductal lobular unit:TDLU)と呼ばれる.多くの乳癌や良性疾患がこの単位から生じる.終末乳管は小葉内終末乳管(intralobular ter—minal duct:ITD)と小葉外終末乳管(extralobular terminal duct:ETD)に分類され,1本の乳管(lactiferous duct)に集束し乳管洞を形成した後,乳頭に開口する.乳腺は浅在筋膜浅層と深層の間に存在し,線維性の結合織(Coo—per靱帯)により支持されている.

WIDE SCOPE

“Un”clear medicine?

著者: 高橋直也

ページ範囲:P.20 - P.20

 本号の特集には,直接関係はありませんが,放射線診断にはもう一つの柱,核医学診断があります.核医学検査は,その他の画像診断と少し異なったところがあります.
 まず,放射性医薬品として検査に用いられるラジオアイソトープは半減期が短いため,ほとんど個々の検査に合わせて当日届けられます.だいぶ前のことですが,空港が雪で閉鎖され,大阪から空輸される肺換気検査のクリプトン・ジェネレータの到着が遅れて,予定通りに検査が行えなかったことがありました.逆に,突然検査がキャンセルされれば薬剤が余ってしまいます.放射性医薬品は,非常に高価ですが返品できません.検査の変更は早めに(具体的には前日ならOKです)連絡していただけるとスムーズにいきます.

病巣遠隔部の二次変性

著者: 小川敏英

ページ範囲:P.50 - P.50

 今から14年前になるが,米国国立衛生研究所でポジトロンCT(PET)のデータをレビューする機会を得た.対象は側頭葉てんかん患者で,F18—fluorodeoxyglucoeを用いたPET(FDG-PET)により脳ブドウ糖代謝を測定したデータである.側頭葉てんかんの原因疾患としては,mesial tem—poral sclerosisが最も高頻度であるが,発作間歇期のFDG-PETでは,てんかん焦点側の側頭葉内側部を中心としたブドウ糖代謝の低下を認める.また,この所見に加えて,病変とは離れた同側視床のブドウ糖代謝の低下を稀ならず認めた.これは,海馬から乳頭体,視床前核へ至り,帯状束を介して海馬に戻る神経回路であるPapez回路を介した機能的抑制ではないかと当時は考えていた.しかし,このような神経線維を介した病巣遠隔部の変化は,形態学的には捉えられないものと思い込んでいた.
 天幕上の梗塞病変などに伴い,SPECT,PETで観察される同側視床,対側小脳半球の血流,代謝の低下はremote effectとしてよく知られている.

レポートとサイン

著者: 河上聡

ページ範囲:P.72 - P.72

 画像診断を専門とした場合に避けて通れない(というよりは,これが一番の中心業務になる)のが診断レポートの作成です.このレポートの形式に関してはまさに千差万別,診断医の数だけ形式があるというのが本当でしょう.正常所見一つとっても「np」と一行書くだけの方もいれば,陰性所見も含め一つひとつの臓器に関して,すべて丁寧に記載するべきであると主張される先生もおられます.記載方法に関しても従来の手書き(場合によってはシェーマ付き)のものから,近年ではワープロによる印刷化,さらにはレポートシステムを利用しての院内へのweb配信への移行時期でもあり,まさに施設ごとに様々な状態がここ数年は続くものと思われます.どのような形式のレポートが良いのかという議論はなかなか解決する問題でなく,どの形式も一長一短の部分があるようです.印刷したレポートは読みやすくて良いのはもちろんなのですが,入力に手間がかかるために読影できる件数が減少したり(そのくせ検査件数は機械の進歩に比例してどんどん増加する),手書き時代には容易に表現できたシェーマがレポートシステムのうえではなかなか実現できにくかったりという問題もあります.

造影剤

著者: 土屋一洋

ページ範囲:P.83 - P.83

 「造影剤」との付き合いは長い.今でも多くの施設で同様だろうが,筆者が医学部を卒業して放射線科医となった20余年前の新人のころには,造影剤の注射が検査当番の大きな仕事であった.
 新しい画像診断技術の開発とともに,造影剤も長足の進歩を遂げてきた.CTやデジタル血管撮影(DSA)の出現によってヨード造影剤が改良され,次いでMRIの登場でガドリニウム製剤をはじめとする新たな薬剤が開発導入された.最近では,超音波検査にも造影剤が使われている.

“正常構造がなくなる”異常

著者: 青木茂樹

ページ範囲:P.110 - P.110

 画像上で限局性に病変が白くなったり,黒くなったりする場合は,病変を探すのに苦労することは少ない.特に白くなる場合で病変を見いだしやすい.脳転移は造影後,急性期脳梗塞は拡散強調像で探したりするのは,それが最も目立って白く描出されるからである.また,左右が対称な頭部では,病変が周囲と同程度の信号強度(吸収値)を呈する場合でも,そのために左右非対称となれば,解剖学的知識なしに病変の検出は可能である.そのため頭部の画像は質的診断は別として,誰でも病気を見つけるくらいはできると考えがちである.
 それでは,図の異常はどこであろう?

画像診断のコツ3題

著者: 片山仁

ページ範囲:P.131 - P.131

 医学部を卒業して43年にもなろうというのに,披露できるようなエピソードがないのも淋しい.縁の下の力持ち的な存在の放射線科医としては仕方がないことか?放射線科医として治療から診断まで何でもやってきたが,自身は放射線診断医と思っている.40年余の放射線科医としての経験のなかで印象に残る出来事は,Seldinger法と連続撮影装置による血管造影,低浸透圧造影剤の出現,X線CTの出現,MRIの出現である.さて,画像診断のコツ3題の中味は全然高邁なことではない.
 〔その1〕単純X線写真の読影は単純ではない.単純X線写真の読影が一番難しい.単純X線写真はこちらから問いかけないと答えてくれない代物である.期待感がないと何も見えないといいかえることができる.こういう疾患のときはこういう所見が出てもいい,こういう症状のときはこういう所見が出るという期待感が必要である.胸部でも,腹部でも,骨関節でも,単純X線写真を見るときは積極的なスタンスが必要である.漫然と見ていたのでは答はやってこない.放射線科医は幅広く臨床を知っていなければ,うまくない.

CT導入時のエピソード

著者: 田坂晧

ページ範囲:P.145 - P.145

 前世紀末期のCTおよびMRIの導入は,放射線診断の精度を著しく改善させた.わが国では,1976年に自動車賠償責任保険の益金を使って,全国の国公私立大学病院に一斉にCTが設置された.多分このことが,診療能力の全般的な向上,その後の装置の改良や普及などに,大変良い影響を与えたといえるだろう.
 自賠責保険の益金を交通事故対策などへ活用する目的で,担当の大蔵省銀行局保険部長と保険第二課長が,原案の作成に当たった文部省医学教育課の課長補佐と一緒に,1975年6月26日に東京大学医学部付属病院に意見を求めに訪れた.対応をしたのは,脳神経外科教授と放射線科教授の私とである.見せられたのは,1ヵ月前に文部省でまとめた,「脳神経外科医養成等に係る自賠責運用資金要求(案)」という数枚の書類である.設備助成と研究者の海外派遣などの内容である.約40億円の資金で,設備では医療機器の購入助成を考えていた.装置の目玉は,英国で開発されたEMIスキャナーで,全国を7ブロックに分け,交通事故の状況などを勘案し助成対象の大学を決める.3年計画で初年度は4台を予定していた.

肺の高分解能CTの始まり

著者: 村田喜代史

ページ範囲:P.163 - P.163

 肺の高分解能CT(HRCT)は,今では肺疾患の重要な形態診断法として世界中で用いられているが,実はこの方法が,日本の京都で始まったということは知らない方が多いと思う.別に誰が最初に始めたか自体は大して重要ではないが,そのアイデアを思いついた先輩から聞いた話は非常に興味深くて,今もよく覚えている.
 CTが臨床に登場し,頭部ばかりでなく体部にも応用が始まった1980年頃,まだ1スキャンに10秒近くかかっていて,胸部のCTにおいては縦隔病変の評価が中心であった.肺野のCTは単純X線写真で肺血管がよく見えるという事情もあって,それほど有用と思われていなかった時代だったと思う.当時,京都で胸部のCTを担当していた私の先輩が,何とか肺野の画質が良くならないかと考えていたときに,CTメーカーが頭部CTの特別ソフトとして,側頭骨の中の内耳構造をよく観察できる“bone algorithm”を大学にもってきたそうである.売り文句は“空気と骨というコントラストの高い構造を明瞭に描出する”.

留学はおもしろい

著者: 田村正三

ページ範囲:P.171 - P.171

 学会で外国人の招待講演を聞くと,いかにもスマートで学識も高く,何もかもハイレベルな印象を受ける.そういう人たちのなかで勉強してみたいと思う反面,一緒に仕事をするのは,なかなかしんどそうだなと気後れに近い感情をもつ人もあるかもしれない.しかし,実際にはアメリカ人もピンからキリまでいろいろで,あまり心配をしないほうがよい.思い出すままに,キリのレジデントの行状を紹介する.
 私のアメリカ某大学放射線科へのレジデント留学ももう20年前で,今とは異なる点も多いが,一方もう何を書いても時効である利点もある.当時そこのレジデントは米国人のほか,インド,パキスタン,韓国,イギリス,ユーゴスラビア,レバノン,ハンガリー,南アフリカ,キューバ,コロンビア,日本(私)とさながら国連のような状況であった.また,アメリカ人もWASP(whiteanglo saxon protestant)らしき人は少なく,アフリカ系,ユダヤ系,ギリシャ系などと様々であった.宗教も違うし歴史的に侵略植民地化した方された方,虐げた方虐げられた方入り乱れて,しかしみんな結構仲良く仕事をしていた.

肝内胆管癌の内部の線維化

著者: 佐藤守男

ページ範囲:P.246 - P.246

 CT,MRIでの肝腫瘤性病変の画像をまぶたを閉じてイメージできればしめたもので,画像診断レポートを書くのにも自信が湧くものである.ところで長らくこの仕事に従事していて,なぜこんなに差異があるものかと認識を新たにすることが時にある.最近,肝内胆管癌の病理と画像を対比して気づいたのもその一つである.肝内胆管癌の画像をイメージすると,周辺にenhanceを受ける病変があり,内部は早期にはenhanceを受けず,時間の経過とともに内部がenhanceを受ける.周辺に肝内胆管の拡張があれば決定的だが,ない場合もある.門脈血流を途絶させることが多く,区域濃染をみることが多いなどである.病理をみると周囲に腫瘍増殖を認め,その内側には肉芽様の結合織,さらにその内部に硝子化した(古い)結合織がみられ,腫瘍細胞はこれら結合織内に周辺と比べて粗に存在する.この病理像は肝細胞癌とは全く逆の配列である.成熟した肝細胞癌では中央に腫瘍が存在し,その周囲に偽被膜(結合織)が存在する.偽被膜は腫瘍側が時に硝子化し,肝側が肉芽様となっている.違いを説明できなくとも別に診断レポートに関係ないのだが,何かもっともらしい理由があってもよいのではと思う.

たらればの話

著者: 淀野啓

ページ範囲:P.280 - P.280

 インターベンショナル・ラジオロジー(IVR)において,「たられば」は禁句である.術者の指先のさらに遠くで操作するIVRの手技に2回目はない.放たれた乾坤一擲の必殺技に繰り返しは許されない.
 歴史においても,「たられば」を言っても何ほどの意味もなさない.しかし,たらればを夢想するのは人情である.なんとなく遅れた感のする東北に生まれ,育ち,生活するわが輩は,ときどき,あの日あの時東北の勇者たちがこうしていてくれたら,豊かなみちのくがあったのにと思う.東北が日本史の檜舞台に上るチャンスが過去3度あったように思うが,事実はそのようには進まなかった.1回目は,1189年,鎌倉幕府に攻められ滅び去った奥州平泉の藤原一族の滅亡するときである.政治的には恐ろしく無感覚であったが,常識外の奇襲戦法に長け,おそらく日本で最初に騎馬隊を作り上げた偉大な戦争戦術家,天才義経を擁し,当時10万騎といわれた奥州武者をまとめ,頼朝の恫喝に屈せず戦った藤原泰衡であったなら…….しかし,武家の台頭に恐れをなすひ弱な貴族である藤原一族に勇気はなかった.

アーチファクトと正常変異—画像診断のスタートライン

著者: 工藤祥

ページ範囲:P.289 - P.289

 画像診断でいつも悩まされるものにアーチファクトと正常変異がある.
 アーチファクト(artifact)を英和辞典で引くと,人工産物とある.目的外のものが画面に現れたときに使われる言葉であり,障害陰影と呼ぶほうがより適切であろう.X線写真ではヘアピン,ネックレスなどは一目瞭然であるが,束ねた髪が肺腫瘤に見えたり,Tシャツの印刷模様がX線不透過性であったりして難しいこともある.術後の腹部撮影に写っていた鉗子が,実は体内に存在していたという例はアーチファクトの逆事例といえよう.CTでは,partial volume effect,beamhardening artifactなどが有名である.また,頭部CTで画像の中心部に小さな高吸収像を認めた場合は,直ちに出血と結論づけず,画像再構成のミスによるアーチファクトである可能性も考え,他のスライスをチェックする必要がある.MRIはいっそう複雑で,機器・撮像法の設定,患者体内の金属,血流,脂肪,気体など,アーチファクトの要素は非常に多い.また元来,アーチファクトと目されていた現象を逆に利用した撮像法や読影法さえある.

白が異常か黒が異常か

著者: 工藤祥

ページ範囲:P.344 - P.344

 白黒をつけるといえば,普通は正邪の決着をつけることであるが,画像診断における白と黒では話がやや違ってくる.X線写真,CT,MRI,超音波,核医学などの画像はごく少数のカラー表示例を除き,いずれもが白,黒,あるいは中間のグレーの入り交じった模様である.ここで初学者が迷うのは,白いところが病変なのか,黒いところが病変なのかというところである.
 私が学生のころ,臨床講義で胃癌の造影X線写真が呈示された.画像の中心部に隆起性病変と潰瘍の両方があり,そこに向かって粘膜ひだの集中像があるということであったが,私にはいったいどれが隆起でどれが潰瘍なのか,どれが粘膜ひだでどれが粘膜の間隙なのかさっぱりわからなかった.教科書で調べると,白いのはバリウムによりX線が遮られたところであり,黒いのはバリウムがはじかれたところらしいということがわかったが,別の教科書をみると白黒反転した画像が使われており,いっそう混乱してきた.

失敗談

著者: 江原茂

ページ範囲:P.353 - P.353

 画像診断は客観的な情報を提供し,信頼性と再現性が高いといわれる.しかし,肺炎の初期と吸収期の像が同様の所見を呈することがあるように,同じ画像でも解釈は一様でないことがある.仕事をする限りミスを犯す危険から免れ得ないわけだが,リスクとの付き合い方を知ることも21世紀の医療人には必要な素養かもしれない.過去20年ほどは診断技術の発展の時期にあたったためか,5〜10年に一度くらいはしまったと思う経験をしている.以下はその2例である.
 第一は顎関節症の問題.現在では,顎関節造影は診断目的ではあまり行われなくなってきているが,1980年代は診断の主体であった.顎運動によって起こる疼痛,雑音,開口障害の診断には,関節内に造影剤を注入して関節円板の位置異常の評価することが必要であった.関節円板が前方に転位していると開口障害の原因となったり,転位した円板が下顎頭の上方に戻るときに雑音や痛みを引き起こす.そのため,当時関節造影で下顎頭より前方に転位した関節円板をみたら,異常所見であるとされていた.ところが,正常のボランティアの研究で,関節円板が前方に位置することがあるという論文が出た.

「放射線診断」と「画像診断」

著者: 蜂屋順一

ページ範囲:P.376 - P.376

 「画像診断」という言葉が使われ出したのは,そう古いことではない.1970年代後半のことだったと思われる.これには当時の超音波診断の急速な進歩が関係している.1960年代の後半から1970年代初頭にかけては,bistable ultrasonography(鏡面反射を主なエコー源とする,白と黒のみで構成される超音波画像)が束の間の脚光を浴びた時代である.しかしbistable画像では臓器輪郭は何とか描出され,嚢胞と充実性腫瘤の鑑別はできるものの,実質臓器や充実性腫瘤の内部構造を正確に捉えるのは難しく,感度断層法とよばれる煩雑な手技を用いても,その診断精度は知れたものであった.この時代までは「放射線診断」という表現だけで十分であった.ところが,1972年にオーストラリアのKosoffがgray-scale sonographyを考案し,現在,われわれが使用しているような精細な画像が得られるようになって事態は一変した.被膜や臓器境界からの強大な鏡面反射信号を圧縮増幅によって押さえ,実質臓器からの微弱な非鏡面反射を相対的に強調するgray-scale sonographyは,今にして思えばまさにコロンブスの卵であるが,実に素晴らしいアイデアであった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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