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雑誌目次

雑誌文献

medicina38巻4号

2001年04月発行

雑誌目次

今月の主題 Geriatrics—高齢者のQOLをみる医療 Aging—“老い”は“病”にあらず

高齢者医療の現状

著者: 土田昌一

ページ範囲:P.534 - P.537

ポイント
 高齢化社会における医療費の状況.
 出来高払い制度の破綻と今後展開されるであろう包括報酬の実践.
 高齢者医療現場の医療度の実態からみた療養病床の役割.
 包括報酬への対応と医師の資質.

データからみる高齢者医療

著者: 林修一郎

ページ範囲:P.538 - P.539

ポイント
 日本は世界一の長寿国であるが,平均寿命と健康寿命には数年の開きがある.
 高齢者医療の主目的は,健康寿命の延伸である.
 健康寿命の延伸のためには,疾病のリスクを把握し一次予防,二次予防などを組み合わせることが重要である.
 患者の身体の状況や生活環境などを総合的に考慮したうえでの,集学的な医療・保健サービスの提供が求められる.

総合医療としての高齢者医療

著者: 下門顕太郎

ページ範囲:P.540 - P.541

ポイント
 高齢者の疾病は加齢に伴う身体機能低下を基盤として生じることが多く,壮年期成人のそれとは異なる特徴を有している.
 高齢者の診療にあたっては,身体状況のみならず,患者の精神心理状態,経済状態,社会的状態を把握しておく必要がある.
 内科臨床研修にあたっては個別の専門知識・技能の修得のみならず,1人の高齢者が抱えている複数の問題を総合的に解決できるようになることを目指す必要がある.

Approach to the elderly patient—高齢者医療の実践

包括的診断

著者: 西村知樹

ページ範囲:P.543 - P.545

ポイント
 現在,日本において包括的な高齢者医療サービスの行われている施設はほとんどないが,アメリカにおいては高齢者医学(geriatric medicine)が発達するにつれて,疾患のある高齢者に対して病気,障害ばかりでなく社会的背景も含めて1人の人間として扱う包括的な診断,そして治療が行われるようになってきた.ここではそのようなサービス,プログラムによって明らかになっている有用性について述べることとする.

高齢者に対する処方

著者: 西村知樹

ページ範囲:P.546 - P.548

ポイント
 加齢に伴い変化するpharmacokinetics(薬物動態)並びにpharmacodynamics(薬力学)を検討し,高齢者の処方,並びに服用に際して現れる問題点を挙げ,処方に際し注意すべき点を考察する.

外来患者のマネジメント

著者: 畑恒土

ページ範囲:P.550 - P.551

ポイント
 外来診療は患者が来院して初めて成立するものであり,患者の自由度がきわめて高い.
 外来を訪れた患者に,もう一度来ようと思わせるためには,基本的臨床技術を駆使して,その場で納得してもらえる対応をとる必要がある.
 患者にとって一番良い選択をするには,家族を含めた患者の生活全般に関心をもち患者 とともに考える必要がある.

救急医療の現状

著者: 山田明生

ページ範囲:P.552 - P.553

ポイント
▶2000年65歳以上の老年人口割合は17.2%であるが,2010年には全人口の22.0%と増加する.
▶高齢者の運動機能の低下はミトコンドリアの機能の低下が主体である.
▶内分泌系変化は侵襲時若年者と比べ強く反応する.免疫系では特にT細胞系機能の低下が著明である.
▶脂肪率が高く,体内水分量は減少し,循環系の安全域は狭い.

救急における外科的治療

著者: 中西泉

ページ範囲:P.554 - P.556

ポイント
 高齢者救急医療にあっても患者の生活環境の把握が重要である.
 患者の自覚症状のみが症状とは限らない.
 普段から患者の状態を知っているキーパーソンの活用を心がける.
 全身状態の把握は壮年患者以上に十分に行い,特に脱水に留意する.
 高齢者のQOLを考えての診断治療.
 高齢者に合わせてのインフォームド・コンセント.

プライマリケアにおける救急

著者: 杉山孝博

ページ範囲:P.558 - P.559

ポイント
 症状が出現しにくく,いったん発症すると急激に変化するのが高齢者の特徴の一つである.
 プライマリケアにおける救急の内容として,脳血管疾患,心筋梗塞などの救急医療,慢性疾患の急性増悪,在宅ケアにおける救急,在宅ターミナルケアにおける救急,介護力の変化に伴う緊急対応がある.
 介護者を支えるシステムづくりも,プライマリケア医の重要な役割の一つとして考える必要がある.

地域における高齢者医療

著者: 齊藤正身

ページ範囲:P.560 - P.562

ポイント
 地域における医療保険から介護保険への流れを作る必要がある.
 医療機関がコーディネート能力を持つことが,求められる.

在宅患者のマネジメント

著者: 今井稔也

ページ範囲:P.564 - P.565

 2000年4月に介護保険がスタートし,在宅ケアがいっそう推進され,医療の現場が入院による施設ケアから在宅ケアへとシフトしてきている.在宅で継続的に医療を受ける患者に対して,どのような医療がより良い医療であり,かつ適切なマネジメントであるのかを概説する.

口腔ケア

著者: 池田博

ページ範囲:P.566 - P.567

ポイント
 口腔内の加齢的変化と歯科的な問題については以下の通りである.①骨の吸収などによる義歯の不適合,②義歯床下粘膜の菲薄化による痛み,③歯肉退縮による根面う蝕および歯牙の破折とそれによる咬傷,④歯の喪失による咬合不全,⑤ 唾液腺機能低下による口腔乾燥,⑥筋力低下による摂食・嚥下障害.

リハビリテーション医療

著者: 田中正樹

ページ範囲:P.569 - P.571

ポイント
 早期離床・早期歩行に必要なノウハウを体系化したのがリハビリテーションの技術である.
 リハビリテーション医療には急性期,回復期,維持期の3相ある.
 急性期では早期離床・早期歩行の努力がなされ,中枢神経系の傷病で中途障害を抱えた場合,回復期のリハビリテーションが必要となり,維持期では“閉じこもり”の対策が課題.

関節運動学的アプローチ

著者: 佐々木健 ,   博田節夫

ページ範囲:P.572 - P.573

ポイント
 関節運動学的アプローチは専門的徒手治療技術で,痛みの治療および関節包内運動を改善する効果的な運動療法で神経学的診断にも不可欠である.

ホルモン補充療法

著者: 櫛渕大策

ページ範囲:P.575 - P.577

ポイント
 更年期における肉体の変化.

終末期がん患者の疼痛マネジメント

著者: 高宮有介

ページ範囲:P.578 - P.580

ポイント
 高齢者の痛みの訴えは過小評価されやすい.
 高齢者は自己主張が少ないことに留意する.
 鎮痛薬の開始量は少量から,また副作用対策は予防的に行う.
 モルヒネで副作用が出現した場合,または副作用が予想される場合は,エプタゾシンやフェンタニルなどの代替薬を考慮する.
 高齢者はスピリチュアルペイン,特に生きている役割・意味への喪失感を持っている場合が多い.

終末期医療

著者: 内藤いづみ

ページ範囲:P.581 - P.583

ポイント
 高齢者の終末期におけるQOLの声を聴き取る力がわれわれにあるだろうか?
 病院治療中の責任のみではなく,“いのち”の終わり方を支えるために,医療者として広く選択肢を理解し各分野の専門職と協力し合いたい.
 患者と家族が不安なく,安心して過こせることが,QOLの第一歩である.

Geriatric syndrome—高齢者特有の病態

頭痛

著者: 長山隆

ページ範囲:P.585 - P.587

ポイント
 高齢者においても緊張型頭痛や片頭痛などの機能的頭痛が多いので国際頭痛学会の診断基準を活用する.
 エルゴタミンやベンゾジアゼピンの投与は高齢者では慎重にする.
 器質的頭痛が増えてくるので,神経学的所見に異常がなくともCT検査を積極的に活用する.
 側頭動脈炎は比較的多いが,見逃しやすいので,忘れずに鑑別する.

腰痛

著者: 木檜晃

ページ範囲:P.588 - P.591

ポイント
 腰痛は人類の宿命的な症状とも言われているが,70〜80%が画像上の器質的変化にその原因を求めることが困難で,70%が3週以内で自然緩解することが多い.
 高齢者に関しては腰痛の原因として,悪性腫瘍を常に考えておく必要がある.
 腰痛に対する従来からの物理療法は,理論的根拠に乏しく無効なことも多いが,AKA(arthrokinematic approach)は筆者の施設で約80%に有効性が認められた.
 高齢者の訴えをよく聞いてあげることが必要であり,治療の第一歩はそこから始まる.“年だから”の一言は口に出さないようにしたい.

言語障害

著者: 吉野眞理子

ページ範囲:P.592 - P.593

ポイント
 発話面のみに障害が現れるのが,構音障害と“発語失行”などと呼ばれる高次発話障害である.
 理解面や読み書きも含め,言語のすべての様式に障害が現れるのが失語(症)である.
 構音障害にも失語にも様々なタイプがある.

嚥下障害

著者: 今西剛史

ページ範囲:P.595 - P.597

ポイント
 嚥下のみの障害をみるのではなく,摂食行為全体をみていくことが重要である.
 摂食嚥下のメカニズムをよく把握することが重要である.
 嚥下機能検査としては,水のみテスト,反復唾液のみテスト,ビデオ嚥下造影,ビデオ内視鏡検査などがある.
 誤嚥には嚥下前,嚥下中,嚥下後に誤嚥する3つのタイプがある.
 高齢者においては,加齢による嚥下機能の低下,むせのない誤嚥に注意を要する.

視覚障害

著者: 簗島謙次

ページ範囲:P.598 - P.599

ポイント
 視覚的に日常生活に問題を有する高齢者は,まずその原因を明らかにし,問題を一つ一つ解決する努力を行い,できなければ次につなげる.原因のない視覚障害はない.

聴覚障害

著者: 岡本牧人

ページ範囲:P.600 - P.602

ポイント
 高齢者の難聴は老人性難聴だけではない.発症が急な難聴は治る場合もあるので,速やかに専門医に紹介する.
 高齢者にはゆっくり,はっきり,やや大きめの声で話す.聞こえているか,うるさすぎないか,理解しているかも確認する.
 難聴が疑わしければ,聴力検査を行う.
 補聴器は聴力検査結果と外耳道,鼓膜所見をみてから処方する.装用意欲を持たせ,機能重視で勧めたい.アフターケアのできる専門店を勧める.

歩行障害

著者: 大橋正洋

ページ範囲:P.604 - P.605

ポイント
 高齢者の歩行速度は,60〜70歳以後,目立って遅くなる.
 歩行能力の低下は,高齢者の生活範囲を狭くするとともに転倒などを起こしやすくする.
 神経疾患や骨関節疾患が合併すると,歩行障害はさらに重度となる.
 歩行分析などの手段によって歩行障害を評価し,原因に応じた対応が必要である.

転倒

著者: 小宮山純

ページ範囲:P.606 - P.608

ポイント
 転倒は高齢者における不慮の死亡原因の3位で,大腿骨頸部骨折後に死亡例が多い.死亡しないまでも寝たきり要因となる.
 原因は多要因であり,バランス・歩行障害,認知障害,薬物,活動状況,環境要因が絡み合わさって生じる.
 バランス障害があっても神経学的評価で検出できないことがあり,歩行・平衡機能評価が必要になる.包括的な転倒評価により危険因子を確認し,転倒予防を行う(ヒッププロテクターなど).

睡眠時呼吸障害と加齢

著者: 成井浩司

ページ範囲:P.609 - P.614

 近年,睡眠時呼吸障害に関する多くの疫学検討が行われ,睡眠時呼吸障害は稀な疾患でないことがわかってきた.30〜60歳の健常人602名を対象にしたYoungら1)の検討では,女性の9%,男性の24%に睡眠時呼吸障害を認め,健常人においてもしばしばみられる現象であると報告している.しかし,高齢者における睡眠時呼吸障害の発現頻度および臨床的意義はいまだ不明な点が多い.本稿では,高齢者における睡眠時呼吸障害に関する報告をまとめ,加齢に伴う睡眠時呼吸障害の発現頻度,臨床症状,病的意義,予後を検討する.

痴呆

著者: 高橋徹 ,   天野直二

ページ範囲:P.616 - P.617

ポイント
 痴呆の中核となる精神症状は,記憶・見当識障害,抽象思考障害,判断能力の障害などで,脳の器質的変化による非可逆性の症状と考えられる.
 痴呆の周辺にある精神症状には,抑うつ状態,不安・心気状態,幻覚妄想状態,興奮.攻撃性,不眠,せん妄などがあり,これは脳の機能的変化による可逆性の症状である.

うつ病

著者: 柴山雅俊 ,   江副努

ページ範囲:P.618 - P.619

ポイント
 うつ病は抑うつ気分,精神運動抑制,不安焦燥感を基本症状とする.
 高齢者のうつ病の特色としては,高い自殺率,不安焦燥感,心気的傾向,身体的愁訴,妄想傾向などが挙げられる.
 種々の原因で意識障害や身体的衰弱をきたしやすいことなどに注意をする.
 精神面と身体面をバランスよく診察することが重要である.

せん妄

著者: 杉山克好

ページ範囲:P.620 - P.621

ポイント
▶せん妄は精神病ではない.きちんと診断すること.それによって家族の不安も軽くなる.
▶精神科への転科を安易に考えないこと.
▶ハロペリドール(セレネース®)の使い方を熟知すること.必要時は遠慮なく精神科医にコンサルトすること.
▶薬の使い方は夕に多く,傾斜配分することをお勧めする.

尿失禁

著者: 杉村享之 ,   村田靖 ,   福井準之助

ページ範囲:P.623 - P.625

ポイント
 尿失禁の発現は,特に高齢者において身体の健康上に大きな影響を与えている.
 高齢者の尿失禁を加齢的な生理現象と誤ってとらえ,放置されていることも多い.
 尿失禁の病態は切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の2つに大きく分類でき,そのほかに機能性尿失禁を考慮に入れることが,高齢者の尿失禁を考えるうえで重要である.

褥瘡

著者: 真田弘美

ページ範囲:P.626 - P.628

ポイント
 褥瘡発生を,スケールを用いて予測し,骨突出部位の観察を毎日行うこと.
 圧分散のアセスメントは簡易体圧計を使用して,適切な体位と寝具を選択すること.
 創部は,肉芽形成期以降は湿潤環境とし,消毒せず洗浄すること.

Common Geriatric Diseases—高齢者特有の疾患

心血管系疾患

著者: 上田哲郎 ,   住吉徹哉

ページ範囲:P.630 - P.632

ポイント
 循環器疾患が死亡原因に占める割合は,加齢に伴い次第に高くなり,本邦では脳血管障害とともに高齢者の死因の上位を占める.
 高齢者の心血管系疾患には,動脈硬化性の大動脈弁狭窄症のような高齢者特有の疾患と,うっ血性心不全のように非高齢者にも認めるが,高齢者では特有の病態を示す疾患がある.
 今後,国民の高齢化がさらに進み,高齢者の循環器疾患がますます問題になってくると思われる.したがって日頃から高齢者に特有な循環器疾患についてよく把握しておくことが必要である.

神経疾患—脳卒中

著者: 土田昌一

ページ範囲:P.633 - P.635

ポイント
 若年者における脳血管障害についての知識は,常識として認識していてほしい.
 高齢者では,緩徐進行性の精神神経症状が脳血管障害であることもあり,十分な病歴聴取(既往歴,薬歴)・診察を行い,非侵襲的な検査にて診断すること.
 病態・治療・予後を十分に理解して,わかりやすく説明すること.

神経疾患—頸椎症

著者: 日髙聖 ,   稲田良宜

ページ範囲:P.636 - P.637

ポイント
 無症候性の頸椎症性変化も多く,診断にあたっては画像所見に頼り過ぎることなく,鑑別診断を常に念頭に置くことが大切である.
 高齢という理由で手術を躊躇し,手術のタイミングを逸さないことが大切戸ある.
 高齢者は全身合併症を伴っていることが多く,周術期は合併症の管理を念頭に置いた治療が必要である.

呼吸器疾患

著者: 中森祥隆 ,   清田康 ,   原田紀宏

ページ範囲:P.638 - P.640

ポイント
 高齢者肺炎の早期診断に具体的な問診が重要である.
 呼吸不全診断にパルスオキシメータが有用である.
 COPDは,閉塞性換気障害を特徴とする疾患で,ゆっくりと進行し,不可逆的である.禁煙が予防と治療の第一歩である.
 呼吸困難は日常生活を制限し,QOLを低下させるが,HOTにより,充実した社会,家庭生活を取り戻すことができる.

消化器疾患

著者: 光永篤

ページ範囲:P.641 - P.643

ポイント
 Helicobacter pylori感染率の減少に伴い高齢者での萎縮性胃炎は今後減少し,高齢者においても胃酸分泌は比較的保持されると考えられる.
 加齢により食道.胃接合部における緊張が低下し,胃酸分泌が保持されることで,逆流性食道炎の頻度が増加すると考えられる.
 社会の高齢化に伴い,各種合併症により内視鏡的治療が選択される早期消化癌症例が増加すると予想される.

内分泌代謝疾患—糖尿病

著者: 野上哲史

ページ範囲:P.644 - P.646

ポイント
 高齢者の糖尿病管理では,厳格な血糖コントロールが合併症の進展を阻止,あるいは遅延させるうえで有効であるが,治療目標を一律に定めることは危険である.患者の医学的評価に加えチームアプローチによる生活背景などの情報収集を基本に,患者ことに達成可能な目標(outcome)の設定ときめ細かい継続的な評価,介入が必要である.

内分泌代謝疾患—甲状腺疾患

著者: 伊藤公一

ページ範囲:P.648 - P.649

ポイント
 高齢者の甲状腺疾患を診療するにあたっては,加齢による全身の変化を十分に加味しなければならない.
 Basedow病の治療法には抗甲状腺薬,131I治療,手術の三者があるが,高齢者では抗甲状腺薬治療と131I治療が主力となる.
 橋本病の治療は甲状腺ホルモン(T4製剤)の補充療法であるが,高齢者の場合には,心合併症に注意を払い,少量より開始しなければならない.

泌尿器疾患—血尿・蛋白尿

著者: 加藤哲夫

ページ範囲:P.650 - P.652

ポイント
 試験紙法で尿潜血を認める場合には,尿沈渣の鏡検も行って診断することが望ましい.
 既往歴,臨床症状から鑑別できる疾患がある.
 尿潜血を高齢者に認める場合は,尿路系悪性腫瘍の鑑別が重要である.
 試験紙法で陽性の場合,蓄尿して尿蛋白の増加があれば,それが糸球体由来か尿細管性蛋白尿かを考える.

泌尿器疾患—前立腺疾患

著者: 合谷信行

ページ範囲:P.653 - P.655

ポイント
 人にとって,排尿は,排便と並んで最も基本的な生理的現象であり,この機能に障害を生じることは日常生活に不便だけであるというだけでなく,時には人としての自信を喪失させる大きな要因になる.高齢者の前立腺疾患である前立腺肥大症と前立腺癌は,高齢者人口の増加とともに頻度が増えている.これらの疾患の診断においては,男性が排尿障害を示す前立腺炎,膀胱頸部硬化症,尿道狭窄,神経因性膀胱との鑑別も必要であ る.

感染症

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.656 - P.657

ポイント
 インフルエンザにかかると細菌性肺炎を合併するので,ワクチンを流行前に接種する.
 高齢者の市中肺炎の最も多い原因菌は肺炎球菌である.ペニシリン耐性肺炎球菌が増加しているので,感受性検査を行う.
 肺炎球菌ワクチンは耐性菌にも有効である.
 高齢者の発熱をみたら,結核症,尿路系感染症,口腔内感染症などを考慮して慎重に診察をする.

貧血

著者: 宮腰重三郎

ページ範囲:P.658 - P.660

ポイント
 貧血を念頭に置いて,日常診療を行う.
 貧血の原因検査は,適切に十分に行う.
 高齢者の血液悪性疾患にも造血幹細胞移植が適応になることがある.

瘙痒性皮膚疾患

著者: 大槻典男

ページ範囲:P.663 - P.665

ポイント
▶高齢者の瘙痒性皮膚疾患の成因と痒みがQOLに与える影響.
▶高齢者の瘙痒性皮疹をみたときの診断プロセス.
▶代表的かつ知っておくべき皮膚疾患の典型的な所見(図2〜4)による皮膚症状の理解.
▶QOLを考慮した治療法や高齢者に対する薬剤の留意点.
▶皮膚科専門医のコンサルトや紹介の必要性.

Exhibition—座談会

Understanding geriatrics—高齢者医療の醍醐味

著者: 畑恒土 ,   下門顕太郎 ,   西村知樹 ,   土田昌一

ページ範囲:P.666 - P.676

 土田(司会) 今日はお忙しいところをお集まりいただきありがとうございます.早速ですが,本主題「Geriatrics—高齢者のQOLをみる医療」のなかのExhibition「Understanding geriatrics—高齢者医療の醍醐味」を始めたいと思います.まずはそれぞれご出席の先生方に,高齢者医療に携わるまでの経緯を自己紹介も兼ねて簡単にお話しいただきたいと思います.

理解のための38題

ページ範囲:P.679 - P.687

Scope

摂食・嚥下障害患者に対する代替栄養法—間歇的経管栄養法(intermittent tube feeding)の利点と適応

著者: 大熊るり ,   藤島一郎 ,   稲生綾

ページ範囲:P.692 - P.698

はじめに
 摂食・嚥下障害をもつ患者の治療にあたる際には,栄養や水分の摂取量を的確に管理し,全身状態を整えることが重要である.経口摂取では不足する量を見きわめ,適切な代替栄養法で補う必要があるが,その際,摂食・嚥下の妨げにならない栄養法を選択することが大切である.
 代替栄養法には点滴や経管栄養などいくつかの方法があるが,それぞれに利点と欠点がある.使用する時期や期間,経口摂取可能な量を考慮して,最も適した方法はどれか検討する(表1).

演習 心電図の読み方・6

Q波

著者: 山科章 ,   近森大志郎

ページ範囲:P.699 - P.704

Case
 症例1:63歳,男性.
 現病歴:定期検診.
 既往歴:約2年前に約1時間持続する胸痛の既往あり.
 現症:血圧120/74mmHg,心拍数56/min.

図解・病態のメカニズム—呼吸器疾患・6

過敏性肺炎,好酸球性肺炎

著者: 河端美則

ページ範囲:P.706 - P.708

肺炎とは
 肺炎とは,肺胞腔を主な炎症の場とする病態です.原因は主に微生物感染ですが,時に非感染性の肺炎もあります.肺炎の原因を知ることは治療に直結し,きわめて大切です.

プライマリケアにおけるShared Care—前立腺肥大症患者のマネジメント・3

前立腺肥大症を中心とした前立腺疾患の基礎知識—治療編

著者: 水野秀紀 ,   井川靖彦 ,   西沢理

ページ範囲:P.709 - P.712

はじめに
 前立腺肥大症では,肥大した前立腺が尿道を閉塞することによって,種々の下部尿路症状が出現する.蓄尿時症状としては頻尿,残尿感,尿意切迫が,排出時症状としては排尿開始遅延,排尿時間延長,終末時滴下,尿線細小,二段排尿,間欠排尿などがある.治療の目的はこれらの下部尿路症状の改善にある.
 今回,前立腺肥大症に対する治療法について,薬物療法を中心とした保存的療法と手術療法について解説する.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.713 - P.718

今求められる説明義務・1【新連載】

説明義務とインフォームド・コンセント

著者: 古川俊治

ページ範囲:P.720 - P.723

説明義務の2類型
 近年,「医師の説明義務」と題して,医師の患者に対する様々な内容の説明が求められるようになった.医師の説明義務は,説明の性質と義務違反の場合における法的効果の違いにより,以下の2種類に大別できる.
 第一は,患者の身体への侵襲行為について患者の承諾を得るための説明である.他人の身体へ侵襲を加えることは民事法上も刑事法上も原則として違法と評価されるが,診療行為が違法とならないのは,患者自身の同意があるからであり,その同意の前提として,医師には診療行為の内容について説明すべき義務があるとされるのである.この場合の医師の説明は診療行為そのものではない.今日では医師の基本的義務として認識されるようになったインフォームド・コンセント(IC)のための説明義務は,この類型の説明義務である.

新薬情報・9

塩酸パロキセチン水和物(パキシル®

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.728 - P.730

適応■うつ病・うつ状態,パニック障害
 用法・用量■剤型はパロキセチン10mgまたは20mgを含む錠剤である.日本の添付文書ではうつ病に対しては,成人では10〜40mgを,またパニック障害に対しては30mgを,それぞれ1日1回夕食後に経口投与するよう指示されている(米国では必ずしも夕食後の指示はなく,通常,朝に食前または食後に服用するよう指示されている).いずれの適応も10〜20mgから投与を開始し,1週ことに10mg/日で増量するとされている.最大効果の発現には2週間前後を要する.

カラーグラフ 消化管内視鏡検査—知っておきたい基礎知識・4

逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニア

著者: 長野正裕

ページ範囲:P.724 - P.727

逆流性食道炎の成因
 最近,逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニアの患者が増えている.第一線の実地医家でも遭遇する機会が増えており,実感として感じられる.原因として高齢化社会や食生活の欧米化が考えられる.また逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニアという疾患を胃食道逆流症として総括し,GERD(gastro esophageal reflex disease)の概念としての診断,治療が考えられている.
 逆流性食道炎の成因の一つに,胃液の逆流があり,食道裂孔ヘルニアが合併することが多い.食道裂孔ヘルニアの診断には,食道X線造影検査,内視鏡検査がある.ヘルニアの状況やその程度,体位による変化を判定するには,X線検査が優れている1)が,逆流性食道炎の診断には内視鏡検査のほうが有用である.食道裂孔ヘルニアの内視鏡分類は,I,II,III型に分ける分類法2)(表1)があり,噴門部がそのまま胸腔内上方に移動したI型の滑脱型(sliding type or axial type)(図1)の頻度が一番多い.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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