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雑誌目次

雑誌文献

medicina39巻11号

2002年10月発行

雑誌目次

増刊号 内科医が使う薬の副作用・相互作用 循環器薬

ジギタリス(ジゴキシン,ラニラピッド)

著者: 竹内一郎 ,   和泉徹

ページ範囲:P.6 - P.7

適応
●慢性心不全(chronic heart failure:CHF)
●心房細動・粗動による頻脈のrate control
●発作性上室性頻拍

カテコールアミン(イノバン,ドブトレックス,ノルアドレナリン,ボスミン,プロタノールL,タナドーパ)

著者: 小板橋俊美 ,   和泉徹

ページ範囲:P.8 - P.10

適応
 カテコールアミンは心臓や血管にある交感神経α受容体やβ受容体,それにドパミン受容体を刺激する.各種ショック(出血性,心原性,神経原性,敗血症性,アナフィラキシー),高度徐脈など主に急性循環不全の昇圧,心拍数増加,強心作用を目的に用いられる.それぞれに特徴があり,病態に応じて薬剤を選択する必要がある.また,即効性であるが,長期投与により受容体の馴れ現象(down-regulation)が生じ効果が減弱するため,早期での離脱が求められる.

ホスホジエステラーゼ阻害薬(カルトニック,ミルリーラ)

著者: 蔦本尚慶

ページ範囲:P.12 - P.13

適応
 急性心不全(他の治療薬で効果が不十分な場合).

その他の強心薬(カルグート,アカルディ,ハンプ)

著者: 蔦本尚慶

ページ範囲:P.14 - P.15

デノパミン(カルグート®
適応
 慢性心不全.

硝酸薬(ニトロールR,アイトロール,ニトロペン,ミオコールスプレー,ニトロダームTTS,ミリスロール)

著者: 鈴木健 ,   岸田浩

ページ範囲:P.16 - P.19

 最も使用されている抗狭心症薬である.本剤は狭心症発作緩解を目的とした即効性薬剤と発作予防を目的とした持続性薬剤に分けられる.薬剤にはニトログリセリン(NTG),硝酸イソソルビド(ISDN),一硝酸イソソルビド(ISMN)があり,即効性薬剤には舌下錠,スプレー剤,持続性薬剤には錠剤,パッチ剤,テープ剤,口腔粘膜付着剤,注射剤がある.

その他の冠拡張薬(シグマート,ロコルナール,ペルサンチン)

著者: 鈴木健 ,   岸田浩

ページ範囲:P.20 - P.23

 ニコランジル(シグマート®
 冠動脈の持続的拡張により冠血流を増加し,静脈還流量も減少させて抗狭心症作用を発現する.

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(カプトリルR,レニベース,ロンゲス,タナトリル,エースコール)

著者: 中田智明 ,   島本和明

ページ範囲:P.24 - P.26

適応
 ACE阻害薬は,その降圧薬としての高い有効性に加え,幅広い臓器保護作用(心,腎,脳,血管),心血管事故の抑制・生命予後改善効果が実証されている.これには,レニン—アンジオテンシン—アルドステロン(RAA)系の抑制や降圧系のカリクレイン—キニン—プロスタグランジン系の増強作用,細胞増殖抑制,心肥大の退縮,交感神経抑制,血管内皮機能改善など,多彩な薬理作用が大きく寄与している.現在では高血圧治療の第一選択薬として確立している1〜3).わが国の保険適用は高血圧症以外では,慢性心不全はエナラプリルとリシノプリル,1型糖尿病性腎症はイミダプリルである(表1).しかし薬理学的には,いずれのACE阻害薬にも臓器保護効果は期待でき,降圧効果にも大きな差異はない.

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ニューロタン,ブロプレス,ディオバン)

著者: 中田智明 ,   島本和明

ページ範囲:P.27 - P.29

適応
 強力な昇圧性生理活性物質であるアンジオテンシン(AT)IIの1型受容体を特異的に拮抗阻害する高血圧治療薬である.本薬剤は高い忍容性,安全性が認められ,主な内外の高血圧ガイドライン―1997年米国合同委員会第6次報告,1999年世界保健機構/国際高血圧学会,2000年日本高血圧学会1~3),ほか―で第一選択の降圧薬ないしACE阻害薬に準じた位置付けである.ATII受容体拮抗薬はその降圧作用に加え,心・腎臓器保護作用が臨床レベルでも実証され始め4~6),心不全,蛋白尿,糖尿病の合併例やこれら病態でACE阻害薬不適応例では特に積極的な適応がある.ただし,わが国における保険適用は今のところ高血圧症のみである.

カルシウム拮抗薬(アダラートL,ペルジピンLA,ノルバスク,コニール,ヘルベッサー)

著者: 羽野卓三 ,   西尾一郎

ページ範囲:P.30 - P.32

 カルシウム拮抗薬は,現在使用中の降圧薬のなかでは最も使用頻度が高く,多くのものがジヒドロピリジン系に属する.本稿では主な薬剤の副作用と相互作用について述べる.ジヒドロピリジン系の薬剤の副作用で頻度の高いものは,降圧に伴う交感神経の緊張によるものであり,相互作用の多くは肝でのP450酵素の阻害によるものである1,2)

β遮断薬(インデラル,テノーミン,メインテート,セロケン,ミケラン,アルマール,アーチスト)

著者: 並木温

ページ範囲:P.33 - P.35

適応
●本態性高血圧症(軽症〜中等症)
●狭心症
●頻脈性不整脈
 最近は慢性心不全に対しての適応が認められつつある1〜3)

α遮断薬(カルデナリン,ミニプレス)

著者: 並木温

ページ範囲:P.36 - P.37

適応
●本態性および腎性高血圧症
●褐色細胞腫による高血圧症
●前立腺肥大症に伴う排尿障害

交感神経中枢抑制薬(カタプレス,アルドメット)

著者: 津田和志 ,   西尾一郎

ページ範囲:P.38 - P.40

 α受容体の中枢内分布は,ノルアドレナリン(noradrenaline:NA)ならびにアドレナリン(adrenaline:Ad)含有神経終末の局在とほぼ一致し,特に延髄孤束核,尾側腹外側核,吻側腹外側核が血圧調節に重要とされている.
 α受容体はα1受容体,α2受容体に大別され,α1受容体は後シナプス(postsynaptic site)に,α2受容体は前シナプス(presynaptic site)ならびに後シナプスに存在する1).後シナプスα2受容体刺激はニューロンの興奮性を低下させ,遠心性交感神経活性を減少させることにより降圧的に作用する.一方,交感神経終末部の前シナプスα2受容体は神経終末からのノルアドレナリンの遊離に対して抑制的に作用するが2〜4),血圧調節にどのように関与しているかについては,さらに検討を要する.

昇圧薬(エホチール,リズミック,メトリジン,ジヒデルゴット)

著者: 濱田昌範 ,   西尾一郎

ページ範囲:P.41 - P.47

 エホチール注射液®(塩酸エチレフリン)
 エホチール注射液®(Effortil®injection,一般名:塩酸エチレフリン,etilefrine hydrochloride)は,フェニレフリンのN-アルキル誘導体の薬理作用を研究した結果,開発された薬剤であり,基本的にはαおよびβアドレナリン受容体刺激薬である.アドレナリンと異なりタキフィラキシー現象は認められない.心拍出量および分時拍出量を増大させて血圧を上昇させるが,心拍数は上昇させない.末梢血管抵抗は減弱させるので循環を改善させる.静脈内投与した場合の血中濃度の半減期は2時間である.静注後24時間で78%が腎臓排泄され,残りは便中に排泄される.透析による除去率に関しては資料がない.

抗血小板薬(バファリン,バイアスピリン,パナルジン,プレタール.アンプラーグ)

著者: 副島弘文 ,   小川久雄 ,   岸川秀樹

ページ範囲:P.48 - P.50

適応
 バファリン81mg錠®〔アスピリン81mgとダイアルミネート33mg(アルミニウムグリシネート11mgと炭酸マグネシウム22mg)の合剤〕とバイアスピリン®(アスピリン)の適応症は同じで,狭心症(慢性安定狭心症,不安定狭心症),心筋梗塞,虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作,脳梗塞),冠動脈バイパスあるいは経皮経管冠動脈形成術施行後における血栓・塞栓形成の抑制である.
 パナルジン®(塩酸チクロピジン)の適応症は,血管手術および体外循環に伴う血栓・塞栓の治療ならびに血流障害の改善,慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍,疼痛および冷感などの阻血性諸症状の改善,虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作,脳梗塞)に伴う血栓・塞栓の治療,くも膜下出血術後の脳血管攣縮に伴う血流障害の改善である.

抗凝固薬(ワーファリン,ヘパリン,フラグミン,ノバスタン,スロンノン)

著者: 副島弘文 ,   小川久雄 ,   岸川秀樹

ページ範囲:P.51 - P.53

適応
 ワーファリン®(ワルファリンカリウム)の適応症は,静脈血栓症,心筋梗塞症,肺塞栓症,脳塞栓症,緩徐に進行する脳血栓症の治療および予防である.
 ノボ・ヘパリン®(ヘパリンナトリウム)とヘパリンナトリウム注N®(ヘパリンナトリウム)の適応症は同じで,汎発性血管内血液凝固症候群の治療,血液透析・人工心肺その他の体外循環装置使用時の血液凝固の防止,血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止,輸血および血液検査の際の血液凝固の防止,血栓塞栓症(静脈血栓症,心筋梗塞症,肺塞栓症,脳塞栓症,四肢動脈血栓塞栓症,手術中・術後の血栓塞栓症など)の治療および予防である.

血栓溶解薬(ウロキナーゼ,ハパーゼ,アクチバシン,クリアクター,ソリナーゼ)

著者: 渡辺郁能 ,   上松瀬勝男

ページ範囲:P.54 - P.56

 プラスミノーゲンをプラスミンに活性化する物質がプラスミノーゲンアクチベータであり,これが血栓溶解薬の基本的な薬理作用である.フィブリンに結合したプラスミノーゲンアクチベータによってフィブリンのプラスミンは活性化され,血栓は溶解する(図1).現在臨床で用いられている血栓溶解薬を表1に示した.ウロキナーゼ(UK)やストレプトキナーゼ(SK)は循環血液中で作用するプラスミノーゲンアクチベータであり,α2プラスミンインヒビターで失活される以上の量が必要であることから全身の線溶能を高めることになり出血傾向に注意を払わなければならない.そのため,血栓親和性を有し血栓上で作用するt—PAやpro-UKが開発された.t-PAには遺伝子組換え型(recombinant)t-PAと細胞培養による天然型t-PAの2種類がある.t-PAやpro-UKにより全身の線溶能を高めることなく血栓を溶解し,UKに比べ高い溶解率が得られるようになった.しかし,血中半減期が短く持続点滴が必要なため,より半減期が長いt-PAが開発された.mutant t-PAは,遺伝子組換え技術によりアミノ酸配列を置換することで半減期を長くしたt—PAであり,単回投与が可能となった.

プロスタグランジン製剤(プロスタンディン,リプル,オパルモン,プロサイリン)

著者: 渡辺郁能 ,   上松瀬勝男

ページ範囲:P.58 - P.59

 プロスタグランジン製剤は強力な血管拡張物質の一つであり,閉塞性動脈硬化症をはじめとする末梢循環障害(図1)に対して有効である.注射用プロスタグランジンは末梢血管拡張・血小板凝集抑制・赤血球変形態改善・活性酸素産生抑制など血液と血管壁の両面に作用し,心機能・血圧・呼吸に対する影響が比較的少ない薬剤である.近年使用できる製剤が増え,動脈内・静脈内投与や経口投与も可能になり応用範囲も拡大されてきた.

ループ利尿薬(ラシックス,ダイアート)

著者: 松島秀樹 ,   菱田明

ページ範囲:P.60 - P.62

適応
 ループ利尿薬は,ヘンレ係蹄の太い上行脚部におけるNa-K-2 Clの共輸送系を尿細管腔側から阻害し,Na,Clの再吸収を抑制することにより,強力な利尿作用を発揮する.フロセミド(ラシックス®),アゾセミド(ダイアート®),トラセミド(ルプラック®)などが代表的な薬剤である.
 心性浮腫,腎性浮腫,肝性浮腫などが適応となるが,浮腫,胸水,腹水がある場合には,初めにその原因の鑑別診断を行うことが大切である.特に心不全,肝硬変,腎不全,ネフローゼなどの疾患の有無を明らかにし,それらの治療を十分に行う必要がある.原疾患の治療,および食塩制限や安静などによっても浮腫の改善が認められない場合,本剤の投与が考慮される.緊急にループ利尿薬の投与が必要となるのは,心不全や腎不全により肺水腫をきたしている場合や,高度の腹水が貯留して呼吸不全を呈している場合である.

サイアザイド系利尿薬(フルイトラン,ナトリックス)

著者: 佐野晃司 ,   菱田明

ページ範囲:P.63 - P.65

適応
 高血圧症(本態性,腎性),悪性高血圧,心性浮腫(うっ血性心不全),腎性浮腫,肝性浮腫や,月経前緊張症における軽い浮腫.

カリウム保持性利尿薬(アルダクトンA,ソルダクトン)

著者: 高平玲子 ,   菱田明

ページ範囲:P.66 - P.67

適応
 高血圧症(本態性,腎性),浮腫(本態性,腎性,特発性),悪性腫瘍に伴う浮腫および腹水,栄養失調性浮腫,原発性アルドステロン症の診断および症状の改善.

Ia群抗不整脈薬(アミサリン,リスモダン,シベノール)

著者: 大田恵子 ,   大江透

ページ範囲:P.68 - P.69

 Ia群抗不整脈薬はNaチャネル遮断作用が主であるが,一部Kチャネル遮断作用も有するので,活動電位持続時間を延長させる.このIa群薬に共通する重大な副作用は催不整脈作用である.そのなかで特に重要なのは,QT延長に伴う多形性心室頻拍(torsades de pointes:TdP)である(図1).特にQT延長をきたすような薬剤との併用や,低K血症などの電解質異常を有する場合は十分な注意が必要である.また伝導遅延に伴う心室頻拍が起こることがある.これらはそれぞれ不応期の延長・伝導抑制が問題となるため,QTc・QRS幅に注意する.

Ib群抗不整脈薬(キシロカイン,メキシチール,アスペノン)

著者: 大田恵子 ,   大江透

ページ範囲:P.70 - P.71

 Ib群薬のうち,リドカイン(キシロカイン®)・メキシレチン(メキシチール®)は,他のI群薬同様,Naチャネル遮断作用が主であるが,K電流を減少させないので活動電位持続時間は短縮する.またQT延長・QRS幅増大は通常認めない.このため他のI群薬と比べ,副作用としての心室頻拍・心室細動の頻度は少ないといわれている.アプリンジン(アスペノン®)はIb群に属するが,結合解離動態は中間型で(前二者は速い),弱いながらCa・Kチャネル遮断作用をもつ点で前二者と異なる.

Ic群抗不整脈薬(タンボコール,サンリズム,プロノン)

著者: 大田恵子 ,   大江透

ページ範囲:P.72 - P.73

 Ic群抗不整脈薬の主な作用は強力なNaチャネル遮断作用であるが,Ia・Ib群薬と異なり活動電位持続時間には影響せず,強い伝導抑制作用をもっ.副作用のうち特に重要なものは,催不整脈作用と心抑制作用である.前者に関連する重要な研究にCAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)がある.心筋梗塞後の心室性期外収縮に対し,不整脈による突然死を予防する目的で,Ic群薬〔フレカイニド(タンボコール®)とエンカイニド(日本未発売)〕を用いたこの試験では,投与群で心室性不整脈を減少させたにもかかわらず不整脈死・心臓死の発生率がプラセボ投与群よりも有意に高かったと報告され,不整脈治療を見直すきっかけとなった1).その結果を考慮し,同じIc群に属するピルジカイニド(サンリズム®)およびプロパフェノン(プロノン®)においても,心筋梗塞後の患者には原則使用しないこととされている.

III群抗不整脈薬(アンカロン,ソタコール,シンビット)

著者: 小宮憲洋 ,   矢野捷介

ページ範囲:P.74 - P.75

塩酸アミオダロン(アンカロン®
適応
 生命に危険のある再発性不整脈で他の抗不整脈薬が無効か,使用できない場合に用いる.心室頻拍,心室細動,肥大型心筋症に伴う心房細動.

IV群抗不整脈薬(ベプリコール,ワソラン)

著者: 小宮憲洋 ,   矢野捷介

ページ範囲:P.76 - P.77

塩酸ベプリジル(ベプリコール®
適応
 他の抗不整脈薬が使用できないか,無効な心室性頻拍性不整脈に用いる.

消化器薬

H2受容体拮抗薬(タガメット,ザンタック,ガスター,アルタット,アシノン,プロテカジン)

著者: 西元寺克禮 ,   黒山政一

ページ範囲:P.80 - P.82

 H2受容体拮抗薬は胃底腺壁細胞のヒスタミン受容体(H2受容体)を遮断することにより,強力な酸分泌抑制力を発揮するもので,Blackらの開発したシメチジン(タガメット®)が最初に臨床応用され,以後膨大な酸関連疾患患者に投与されてきた.H2受容体拮抗薬は他の薬剤同様,共通の副作用と,各自のものとがあるが,長期投与を含め基本的には安全な薬剤であることが確認されている.

プロトンポンプ阻害薬(オメプラール,オメプラゾン,タケプロン,パリエット)

著者: 山口康晴 ,   高橋信一

ページ範囲:P.83 - P.85

薬剤の種類と適応
 プロトンポンプ阻害薬(PPI)は,現在われわれが使用しうる最も強力な胃酸分泌抑制薬であり,オメプラゾール(オメプラール®,オメプラゾン®),ランソプラゾール(タケプロン®),ラベプラゾール(パリエット®)の3種類が使用可能である.その適応疾患は,胃潰瘍,十二指腸潰瘍,吻合部潰瘍,逆流性食道炎,Zollinger-Ellison症候群である.さらにオメプラゾールおよびランソプラゾールは,消化性潰瘍に対するHelicobacter pylori(H. pylori)除菌療法における併用薬として使用が認められ,また同2剤は再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法において長期投与が認められている.

酸中和薬(マーロックス,アルミゲル)

著者: 真丸祐一 ,   鈴木亮一

ページ範囲:P.86 - P.88

 水酸化アルミニウム・水酸化マグネシウム(マーロックス®),乾燥水酸化アルミニウムゲル(アルミゲル®)はいずれも代表的な酸中和薬であるが,その主な作用機序としては,制酸作用と胃粘膜保護作用の2つに分けられる.制酸作用としては,マーロックス®懸濁内服用1.2gにより約30mEqのHCL(hydrochloric acid)を中和する作用をもち1),また中和によりペプシノーゲンの活性化を抑制する.胃粘膜保護作用としては,ゲル状になって酸に不溶性のゼラチン様皮膜を形成し,胃粘膜に付着して機械的に胃酸の粘膜を保護する.そのほか内因性プロスタグランジンやNO(nitric oxide)を介さないサイトプロクテクション作用を有するともいわれている2)

粘膜防御因子強化薬(アルサルミン)

著者: 遠藤徹

ページ範囲:P.90 - P.91

適応
●胃潰瘍,十二指腸潰瘍
●下記疾患の胃粘膜病変(びらん,出血,発赤,浮腫)の改善
●急性胃炎,慢性胃炎の急性増悪期

ドパミン拮抗薬(プリンペラン,ナウゼリン)

著者: 高木敦司

ページ範囲:P.92 - P.94

適応
1.メトクロプラミド(プリンペラン®
次の場合における消化機能異常(悪心,嘔吐,食欲不振,腹部膨満感).
●胃炎,胃・十二指腸潰瘍,胆嚢・胆道疾患,腎炎,尿毒症,乳幼児嘔吐,薬剤(制癌剤,抗生物質,抗結核薬,麻酔薬)投与時,胃内・気管内挿管時,放射線照射時,開腹術後
●X線検査時のバリウムの通過促進

セロトニン作動薬(ガスモチン)

著者: 小山茂樹

ページ範囲:P.96 - P.97

 セロトニン作動薬は,消化管のコリン作動性神経(迷走神経)の節後神経上に存在するセロトニン5-HT4受容体を刺激して,迷走神経末端からアセチルコリンの遊離を促進し,遊離したアセチルコリンが消化管の平滑筋に働き消化管の運動を促進させる薬剤で,5—HT1,3,4受容体アゴニストでドパミン遮断作用を有するシサプリド(アセナリン®,リサモール®)と,選択的セロトニン5-HT4受容体アゴニストのクエン酸モサプリド(ガスモチン®)がある.
 シサプリドは,肝チトクロームP 450 3A4で代謝されるため,相互作用があるアゾール系抗真菌薬,エリスロマイシン,クラリスロマイシン,インジナビル,リトナビル,ネルフィナビル,アンプレナビル,エファビレンツ,マレイン酸フルボキサミンとの併用やQT延長のある患者(先天性QT延長症候群,特発性QT延長,糖尿病性QT延長),先天性QT延長症候群の家族歴のある患者への投与により,QT延長や重篤な心室性不整脈をきたす.

副交感神経遮断薬(ブスコパン)

著者: 井上泉 ,   有井研司 ,   一瀬雅夫

ページ範囲:P.98 - P.100

使用法と使用上の注意
副交感神経遮断薬は,副交感神経節や副交感神経支配臓器に存在するアセチルコリン受容体に対するアセチルコリンの作用を遮断する薬物であり,腹部の内臓痛を対象として広く使用される.副交感神経遮断薬は,天然アルカロイド・3級アミン製剤・4級アンモニウム製剤・選択的ムスカリン受容体拮抗薬に分類されるが,天然アルカロイドや3級アミン製剤は血液・脳関門を通過し中枢神経への副作用を示すため,臨床的には4級アンモニウム製剤〔臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン®)〕が汎用される.
常用量は,内服薬で1回10〜20mgを1日3〜5回,注射薬で1回10〜20mg(静注・皮下注・筋注)を用い,作用は2〜6時間持続する.

大腸刺激性下剤(アローゼン,プルゼニド,ラキソベロン)

著者: 太田慎一 ,   藤盛健二 ,   藤原研司

ページ範囲:P.101 - P.101

適応
弛緩性便秘が適応となる.便秘は排便の回数と量が減り,腹部膨満や腹痛などの症状が発現した状態を指す.便秘の際は摂取した食物残渣の大腸通過時間が延長し,水分が大腸より過剰に吸収され,便が固くなりさらに排出困難をきたす.塩類下剤・膨張性下剤・浸潤性下剤は便を軟化させる作用があり,大腸刺激性下剤との併用は弛緩性便秘に有効である.
アローゼン®(センナ)の作用は,大黄中のsennosideが腸内細菌によって活性物質となり,大腸粘膜筋層内の神経叢を刺激し蠕動運動を亢進させることにより発揮される.

塩類下剤(酸化マグネシウム,マグコロールP)

著者: 遠藤豊 ,   船津康裕

ページ範囲:P.102 - P.103

適応
●酸化マグネシウム(カマ):便秘症,胃・十二指腸潰瘍,胃炎,上部消化管機能異常における制酸
●クエン酸マグネシウム(マグコロールP®):大腸内視鏡・注腸造影検査・外科手術前処置用下剤(前処置用のみの適応しかない)

特殊組成電解質液(ニフレック)

著者: 和田亮一

ページ範囲:P.104 - P.105

適応
本剤は,大腸内視鏡検査および大腸手術時の前処置における腸管内容物の排除を目的として使用される特殊組成電解質液(表1)である.1980年にDavisら1)がポリエチレングリコールと電解質からなる経口腸管洗浄液を考案し,本邦においては上野ら2)によって大腸内視鏡検査の前処置におけるその有用性が報告されている.前処置はいかなる検査においても,被検者に負担が少なく受容性が高く,簡便でしかも精密な検査を可能とするものでなければならないが,ニフレック®はBrown法3)を基本としたこれまでの各種の方法より優れた評価が得られ,広く用いられている.

腸管運動抑制・分泌抑制薬(ロペミン)

著者: 奥平圭輔 ,   三浦総一郎

ページ範囲:P.106 - P.108

 止瀉薬の領域では従来,収斂剤,吸着剤,副交感神経遮断薬,腸内細菌殺菌剤,整腸剤などのいわゆる古典的薬剤が使用されてきたが,効果や副作用の点で限界があった.また,opium, morphine, codeineなどの作用の強い止瀉薬は特に長期間使用した場合,中枢作用に由来する依存性を生じる可能性があり,その使用には限界があった.そこで腸管に対する作用と中枢に対する作用が分離された止瀉薬が求められ合成されたのが,塩酸ロペラミド(ロペミン®)である.塩酸ロペラミドは腸管神経叢に作用し,腸管内コリン作動性ニューロン機能を抑制し,また,腸管の輪状筋方向の進展により誘発されるアセチルコリンとプロスタグランジンの放出を抑制し,腸管内容物輸送抑制,蠕動抑制をもたらす.塩酸ロペラミドは,morphineやcodeine, diphenoxylateよりも強力かつ持続的な止瀉作用を示す一方1),非毒性用量では中枢作用を示さないのが大きな特徴である.

過敏性腸症候群治療薬(コロネル,ポリフル)

著者: 長沼誠

ページ範囲:P.109 - P.111

適応
過敏性腸症候群治療薬であるポリカルボフィルカルシウム(コロネル®,ポリフル®)の適応は「過敏性腸症候群における便通異常(下痢,便秘)および消化器症状」であるが,まず過敏性腸症候群の診断をきちんと行うことが重要である.過敏性腸症候群は腹痛,腹部不快感などの腹部症状に加え,便秘または下痢の便通異常や排便困難・排便切迫などの排便不快感を主訴とし,不安・緊張・ストレスなどの精神的な要素が影響することが多い.下痢が主体の下痢型,便秘が主体の便秘型,これらが交互に出現する交替型に分類される.下痢,腹痛,排便困難のために内科を受診する患者は多く,そのなかで感冒,感染性腸炎,薬剤性腸炎,潰瘍性大腸炎,Crohn病などの他の器質的疾患を除外し,最終的に診断を行う必要がある.過敏性腸症候群の診断基準として最もスタンダードな基準であるRome II診断基準1)を表1に示す.

炎症性腸疾患治療薬(サラゾピリン,ペンタサ)

著者: 千葉満郎

ページ範囲:P.112 - P.115

 サリチルアゾスルファピリジン(サラゾピリン®)は,大腸において,腸内細菌の作用を受けてアゾ結合が解離しスルファピリジンと5-アミノサリチル酸(5-ASA)に分解される.前者は大腸においてほとんど吸収されるが,後者は1/3が大腸から吸収され,残りの2/3が糞便中に排泄される.メサラジン(ペンタサ®)はサラゾピリン®で起こる種々の副作用の原因であるスルファピリジンを除去し,有効成分の5-ASAのみにしたものである.したがって炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,Crohn病)における両剤の治療効果はほとんど同等であり1),適応などでも両剤に共通点がみられる.両剤ともに5-ASA製剤であり,サラゾピリン®はサルファ剤でもある.

蛋白分解酵素阻害薬(ミラクリッド,フオイパン,エフオーワイ)

著者: 峯徹哉

ページ範囲:P.116 - P.117

適応
1.ウリナスタチン(ミラクリッド®
(1)急性膵炎〔外傷性,術後およびERCP(endoscopic retrograde cholangiopancreatography)後の急性膵炎を含む〕,慢性再発性膵炎の急性増悪期.
(2)急性循環不全(出血性ショック,細菌性ショック,外傷性ショック,熱傷性ショック).

グリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンシー)

著者: 又木紀和 ,   藤岡高弘 ,   近藤寿郎

ページ範囲:P.118 - P.120

 グリチルリチン(GL)は甘草から抽出され,肝疾患に対し有用性が認められている.その効果には,AST・ALTの改善のみならず,組織学的改善1)があり,その結果,肝硬変・肝癌への進展抑制2)などが報告されている.このため,慢性ウイルス性肝炎を主たる対象として広く使用されている.
 剤型には経口剤と注射剤があるが,注射剤に比して経口剤の効果は弱い.また,注射剤の効果は,一般的に1回投与量や投与回数に相関する.保険適用上,100ml投与可能な製剤とそうでない製剤があるので注意が必要である.常用量は1日20〜40mlであり,一般にAST・ALTの推移をみながら投与量・投与回数は適宜増減されるが,強力ネオミノファーゲンシー®などは,AST・ALTの改善が不十分な場合には1日100mlまで増量できる.なお,急な中止後にはAST・ALTの再上昇がみられる場合が多いので注意を有する.

インターフェロン製剤(スミフェロン,フェロン,イントロンAなど)

著者: 平松憲 ,   大石和佳 ,   茶山一彰

ページ範囲:P.121 - P.123

適応
インターフェロン(IFN)は,B型,C型慢性肝疾患の治療の中心的役割を果たす薬剤である.このほか,腎癌,多発性骨髄腫,膠芽腫,皮膚悪性黒色腫,慢性骨髄性白血病(CML)など,消化器以外の腫瘍性疾患に対して用いられている.本稿では,肝臓領域で主に用いられるIFNについて解説する.
①HBe抗原陽性かつDNAポリメラーゼ陽性のB型慢性活動性肝炎
②C型慢性肝炎

C型肝炎ウイルス治療薬(レベトール)

著者: 菊池健太郎 ,   宮川浩

ページ範囲:P.124 - P.126

 リバビリン(レベトール®)は1972年に合成されたプリンヌクレオシドアナログで,ウイルスの増殖を複数の作用点で阻害する薬剤である.1991年にC型慢性肝炎に対する治療結果が報告されたが,本剤単独では十分な抗ウイルス効果は得られなかった1).しかしその後インターフェロン(IFN)との併用療法の有用性が確認され2,3),難治性といわれるHCV genotype Ibで高ウイルス量(100kcopies/ml以上,1Meq/ml以上)を示す症例に対する新しい治療法として登場した.本稿では本剤の使用に際しての注意事項を中心に述べる.

B型肝炎ウイルス治療薬(ゼフィックス)

著者: 岩渕省吾

ページ範囲:P.127 - P.129

適応
●ALT上昇を示すB型慢性肝炎.
●B型急性肝炎重症型ないし遷延例.
●HBe抗原陽性・陰性にはかかわらず.
●肝硬変の疑われる例には慎重投与.

胆汁酸製剤(ウルソ®

著者: 柴田実

ページ範囲:P.130 - P.132

適応
 ウルソ®(ウルソデオキシコール酸)は1957年に承認された肝・胆・消化機能改善薬であり,わが国で年間約280万人に使用されている.わが国の保険診療における適応は以下のとおりである.
(1)下記疾患における利胆:胆道(胆管・胆嚢)系疾患および胆汁うっ滞を伴う肝疾患
(2)慢性肝疾患における肝機能の改善
(3)下記疾患における消化不良:小腸切除後遺症,炎症性小腸疾患
(4)外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解
(5)原発性胆汁性肝硬変における肝機能の改善
 海外では,胆石溶解,急速な減量を行った肥満者における胆石予防,原発性胆汁性肝硬変が適応であり,有用性の評価は未定ではあるが肝移植後の肝機能の改善目的に投与されている1)

5—HT3受容体拮抗型制吐薬(カイトリル,ゾフラン)

著者: 幾世橋篤

ページ範囲:P.134 - P.135

塩酸グラニセトロン(カイトリル®
適応
(1)錠・細粒:抗悪性腫瘍薬(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心,嘔吐).通常,成人にはグラニセトロンとして1回2mgを1日1回経口投与する.なお,年齢,症状により適宜増減する.
(2)注射:抗悪性腫瘍薬(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心,嘔吐).通常,成人にはグラニセトロンとして40μg/kgを1日1回静注または点滴静注する.なお,年齢,症状により適宜増減するが,症状が改善されない場合には,40μg/kgを1回追加投与できる.通常,小児にはグラニセトロンとして40μg/kgを1日1回点滴静注する.なお,年齢,症状により適宜増減するが,症状が改善されない場合には,40μg/kgを1回追加投与できる.

呼吸器薬

麻薬(リン酸コデイン)

著者: 櫻本稔 ,   田口善夫

ページ範囲:P.138 - P.139

適応
(1)各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静.
(2)疼痛時における鎮痛.
(3)激しい下痢症状の改善.

中枢性非麻薬性鎮咳薬(アスベリン,アストミン,メジコン,レスプレン)

著者: 北俊之 ,   藤村政樹

ページ範囲:P.140 - P.142

 咳嗽は,多くの呼吸器疾患や一部の非呼吸器疾患の症状であり,QOLを損なう.近年,8週間以上持続する慢性咳嗽の原因としてアトピー咳嗽や咳喘息といった疾患概念が確立され,それぞれの特異的治療法によって治療できるようになった1)が,原因を特定できない場合が多い2〜8週間持続する遷延性咳嗽や1〜2週間で自然軽快する急性咳嗽では,対症療法として中枢性鎮咳薬を処方することが多い.
 一般的に,咳嗽は気道粘膜に存在するrapidlyadapting receptorやC—線維末端にある咳受容体が,化学的あるいは物理学的に刺激を受けることによって発現する.その刺激は,求心性神経の有髄のAδ線維あるいは主に気管支領域に分布している無髄のC—線維を介して延髄の孤束核に入り,以後,延髄の咳反射の統合経路を経て,各種の遠心性神経に伝えられる.中枢性鎮咳薬の鎮咳効果は,反射経路のうち咳中枢を抑制することによって生じる.非麻薬性鎮咳薬は麻薬性のものに比べ,耐性・依存性がなく,副作用も弱いという利点がある(表1).

生薬(フスタギン,ブロチン,キョウニン水)

著者: 鈴木幸男 ,   竹下啓 ,   山口佳寿博

ページ範囲:P.144 - P.145

 生薬とは薬草の根や茎,葉など,天然の植物・動物・鉱物の全部または一部を採取し,乾燥あるいは簡単な処理を行って調整した薬物をいう.一つひとつの生薬には,さまざまな作用をもつ多くの有効成分が含まれている.数種類の生薬を組み合わせた薬剤が漢方薬である.すなわち,生薬は漢方薬の最も基本となるものであり,生薬の品質によって漢方薬の治療効果は大きく左右される1).医療に用いられる生薬は,『日本薬局方』により厳密に規定されており,その品質が保証されている.
 従来,漢方薬は重篤な副作用の頻度が少ないと信じられ,1976年には漢方薬が医薬品として認可された.しかし,1991年の小紫胡湯による間質性肺炎発症の報告2)はわれわれ医療従事者にとって衝撃的であり,生薬でもその使用にあたっては副作用および相互作用に注意を要することがあらためて喚起された.近年,医療現場における漢方薬の使用量および使用頻度は,併用も含めて増加しており,それに伴って新たな副作用や相互作用が報告されている.

粘液溶解薬(ビソルボン,ムコフィリン)

著者: 古田島太

ページ範囲:P.146 - P.147

 粘液溶解薬は,粘液の粘稠度を低下させることにより,痰の喀出を促す薬剤である.
 代表的薬剤であるビソルボン®(塩酸ブロムヘキシン)は,気管支粘膜および粘膜下気管支腺の分泌を活性化し,漿液性分泌を増加させることにより,気管支粘膜の杯細胞および気管支腺において粘液溶解作用を示す.また,線毛運動亢進作用も認められている.経口薬(錠剤,細粒,シロップ),注射薬,吸入薬の各種剤型が用意されており,使用頻度の高い薬剤である.

粘膜潤滑薬(ムコソルバン,ムコサール)

著者: 三上正志

ページ範囲:P.148 - P.149

適応
塩酸アンブロキソール(ムコソルバン®,ムコサール®など)の作用機序は,気道の分泌性上皮細胞(杯細胞)や粘膜下分泌腺からの分泌の亢進,クララ細胞からの顆粒状物質の分泌亢進,肺胞II型細胞からのサーファクタント分泌の促進を通じて喀痰の排出経路である気道を潤滑にし,喀出を容易にすることである1,2).剤型としては錠(15mg),液(7.5mg/ml),Lカプセル(45mg),シロップ(3mg/ml),ドライシロップ(15mg/g)がある.塩酸アンブロキソール・錠,同・液,同・Lカプセルの共通した適応疾患として,下記疾患の去痰が挙げられる.

粘液修復薬(ムコダイン,クリアナール)

著者: 玉置淳

ページ範囲:P.150 - P.151

適応
以下の急性および慢性疾患における気道分泌亢進・喀痰喀出困難.
1.ムコダイン®(L-カルボシステイン)
上気道炎(咽頭炎,喉頭炎),急性気管支炎,気管支喘息,慢性気管支炎,気管支拡張症,肺結核,慢性副鼻腔炎の排膿,滲出性中耳炎の排液(ムコダイン®シロップ5%のみ).

第1世代交感神経刺激薬(ボスミン,メジヘラー・イソ,アロテック)

著者: 藤井一彦 ,   後藤英介 ,   興梠博次

ページ範囲:P.152 - P.153

 呼吸器の薬剤としての交感神経刺激薬はβ2受容体刺激作用による気管支拡張作用を主眼に用いられており,β2受容体選択性の程度により第1世代,第2世代,第3世代に分類される.第1世代交感神経刺激薬は最も早く開発されたが(〜1960年代),α受容体刺激性を多かれ少なかれもっており,β2受容体選択性も高くない.一方,それ以後に開発された第2・第3世代交感神経刺激薬はα受容体刺激性はほとんどなく,世代が進むにつれβ2受容体選択性が強まり,また作用時間も長くなってきている.
 第1世代交感神経刺激薬の主な薬剤としてはエピネフリン,イソプロテレノール,オルシプロナリンなどがあり,通常は気管支喘息の発作治療薬(リリーバー)として用いられる.エピネフリンは臨床で用いられた初めての合成β受容体刺激薬であるが,β作用よりはα作用が強く,一般には中等〜重症の気管支喘息発作時に皮下あるいは筋肉内注射薬として使用される.またbrittleasthma,特に比較的安定した状態から,突然予期せぬ重症発作を起こすtype 2のbrittleasthmaとよばれる病型には有効性が高いとされている.

第2世代交感神経刺激薬(サルタノールインヘラー,ベネトリン)

著者: 川畑雅照

ページ範囲:P.154 - P.157

 交感神経刺激薬は,最も強力な気管支拡張作用を有し,特に気管支喘息の急性増悪時の症状軽減および運動誘発性喘息の予防に対して,有効性が確立している.慢性閉塞性肺疾患(chronicobstructive pulmonary disease:COPD)の気道攣縮の改善に対しても用いられている.
 交感神経刺激薬は,作用時間から短時間作用型(イソプロテレノールなど),中時間作用型(サルブタモール,テルブタリンなど),長時間作用型(サルメテロールなど)に分類される.また,β受容体選択性から第1世代(イソプロテレノール,オルシプレナリンなど),第2世代(サルブタモール,テルブタリンなど),第3世代(フェノテロール,プロカテロール,ツロブテロールなど)に分類され,世代が進むごとにβ2受容体選択性が高くなり,β1受容体刺激による動悸や脈拍増加などの副作用が少なくなった.

第3世代交感神経刺激薬(メプチン,ベロテック)

著者: 大塚義紀 ,   棟方充

ページ範囲:P.158 - P.160

 気管支拡張薬であるβ2アドレナリン受容体刺激薬(以下β2刺激薬)は,その効果が即効性で強力であるため,現在でも気管支喘息発作の第一選択薬として用いられている.第2,第3世代と進むにつれてβ2選択性が高まり,循環器系への影響は少なくなってきている.気管支拡張薬の吸入方法も改善されてきており,第3世代はより使いやすく有用な薬となってきた.また,長時間作用型のβ2刺激薬も発売され,気管支喘息の予防維持薬や慢性閉塞性肺疾患治療薬としての位置づけもなされてきているため,気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患患者の増加とともに,今後ますます日常臨床にて第3世代β2刺激薬を使用する機会が増えると思われる.本稿では,β2刺激薬を使用する際に必要な相互作用・副作用を中心に,最近の知見を含めて紹介することとする.

キサンチン誘導体(テオドール,ユニフィル,ネオフィリン)

著者: 青島正大

ページ範囲:P.161 - P.163

 キサンチン誘導体にはテオフィリン,アミノフィリン,ジプロフィリン,プロキシフィリンが市販されている.このうち,呼吸器系に対して使用されているものにテオフィリン(内服薬としてテオドール®・テオロング®・スロービッド®・ユニコン®・ユニフィル®,注射薬としてテオドリップ®)とアミノフィリン(内服薬としてネオフィリン®,坐剤としてアルビナ®,注射薬としてネオフィリン®〉,ジプロフィリン(内服薬・坐剤としてアストモリジン®,注射薬としてネオフィリンM®),プロキシフィリン(内服薬・注射薬としてモノフィリン®)がある.ジプロフィリンおよびプロキシフィリン注射薬はうっ血性心不全に適応を有する.

抗コリン薬(アトロベント,テルシガン,フルブロン)

著者: 巽浩一郎

ページ範囲:P.164 - P.165

 薬の副作用を考慮するにあたり,抗コリン薬(アトロベント®,テルシガン®,フルブロン®)は(経口ではなく)吸入で使用するため,全身的な副作用は軽微であるのが特徴である.しかし,投与対象となる疾患は慢性閉塞性肺疾患(chronicobstructive pulmonary disease:COPD)が主であり,そのため高齢者が多いことを考慮すると,併存疾患・併用薬剤に留意して吸入抗コリン薬を使用する必要はある.
 吸入抗コリン薬は,日本呼吸器病学会が提唱しているCOPDガイドラインでは第一選択薬になっている.気管支喘息の気道閉塞に対する効果は限られているので,COPDが投与対象の主な疾患になる.

吸入ステロイド薬(フルタイドロタディスク,ベコタイド,パルミコート)

著者: 今井俊道 ,   足立満

ページ範囲:P.166 - P.168

適応
気管支喘息長期管理
気管支喘息は可逆性の気流制限により特徴づけられる疾患であるが,さまざまな炎症細胞や気道構成細胞が関与する気道炎症が重要な基本的病態である.気道炎症により気道過敏性が惹起され,容易に気流制限が起きる.喘息長期管理の目標は,気道炎症を制御・鎮静化することであり,強力な抗炎症作用をもつ吸入ステロイド薬(inhaledcorticosteroid:ICS)が中心的治療薬として位置づけられている.

ケミカルメディエーター遊離抑制薬(インタール,リザベン)

著者: 平島由香 ,   中村治 ,   猪熊茂子

ページ範囲:P.169 - P.172

 ケミカルメディエーター遊離抑制薬は,アレルゲンにより感作された肥満細胞からのケミカルメディエーターの遊離抑制によりアレルギー反応を抑制する薬剤である.気管支喘息,アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患に適応があり,抗ヒスタミン薬よりも抗コリン作用による症状(眠気,口渇)が少なく,副作用も軽微なものが多い.
 気管支喘息の予防効果が認められるまでに2~4週間必要であり,急性期症状の改善には無効である.患者指導においては,予防的に使用する薬剤であること,自己判断による服薬中止をしないこと,発作時には適切な対応がとれるように指導する必要がある.

ヒスタミンH1拮抗薬(ザジテン,アゼプチン)

著者: 小荒井晃 ,   一ノ瀬正和

ページ範囲:P.173 - P.176

適応
ヒスタミンH1拮抗薬は,蕁麻疹やアトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎,花粉症,気管支喘息などのアレルギー性疾患に対して使用される.

ロイコトリエン拮抗薬(オノン,アコレート,シングレア,キプレス)

著者: 蝶名林直彦 ,   那須英紀 ,   渡部一宏

ページ範囲:P.177 - P.179

適応
わが国での喘息予防・管理のガイドライン(1998年)のなかでは,抗喘息薬として急性増悪に対する治療薬ではなく,長期管理における重症度対応段階的薬物療法1)のなかに含まれる薬剤である.すなわち,軽症間欠型(ステップ1),軽症持続型(ステップ2),中等症持続型(ステップ3),重症持続型(ステップ4)のすべてに取り上げられており,諸外国のガイドライン(GINA,EPR—II)より,重視されている2).ステップ1ではロイコトリエン拮抗薬考慮,ステップ2,3では適用,ステップ4では考慮とされている.

トロンボキサンA2阻害薬(ベガ,ドメナン,ブロニカ,バイナス)

著者: 大林王司 ,   大田健

ページ範囲:P.180 - P.182

適応
抗アレルギー薬は,広義にはアレルギー性炎症を抑制する薬を指し,狭義にはIgEを介するアレルギー反応,すなわち即時型あるいはI型アレルギー反応に関与する化学伝達物質,すなわち炎症性メディエーター(表1)1)の遊離や作用を調節する薬剤の総称である.本稿では,そのなかでトロンボキサンA2阻害薬について述べる.この薬には,トロンボキサンA2合成酵素阻害薬とトロンボキサンA2拮抗薬(受容体拮抗薬)の2種類がある(表2).

Th2サイトカイン阻害薬(アイピーディ)

著者: 水野耕介

ページ範囲:P.184 - P.185

適応
気管支喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎.

抗結核薬(アプテシン,ヒドラ,イスコチン,エサンブドール,ピラマイド,硫酸ストレプトマイシン)

著者: 倉島篤行

ページ範囲:P.186 - P.189

 抗結核薬は一般に多剤併用が原則であり,副作用出現はどの薬剤が責任薬剤かわかりがたいことが多い.重篤な副作用出現時は全薬剤を中止し,可能性が低いと考えられる薬剤から1剤ずつ,経過をみながら再投与するのが原則である.この過程は比較的長期を要するので,この間の化学療法をカバーする観点から,該当副作用とは無関係と考えられる他抗結核薬(注射薬を含む)をこの期間投与すべきである.
 以下,結核症の標準治療に用いられる薬剤の主な副作用について記載する.

代謝・栄養障害薬

HMG-CoA還元酵素阻害薬(メバロチン,リポバス,ローコール,リピトール)

著者: 山田信博

ページ範囲:P.193 - P.197

 近年の疫学調査によって,高脂血症,特に高コレステロール血症は,冠動脈疾患の最も重要な危険因子であることが明らかになっている.
 生体のコレステロールは,食事から吸収されるもの(約30%)と,自ら生合成するもの(約70%)に大別される.HMG-CoA還元酵素阻害薬は,後者の律速酵素である3—ヒドロキシ−3—メチルグルタリル—CoA(HMG-CoA)還元酵素を阻害することによって,肝細胞内のコレステロール含有量を減少させる.肝細胞は細胞内のコレステロール含有量維持のためにLDL受容体を増加させ,LDLの肝への取り込みを増加させて,結果として血中のLDLを低下させる.

プロブコール(シンレスタール,ロレルコ)

著者: 石橋俊

ページ範囲:P.198 - P.199

適応
高脂血症(家族性高コレステロール血症,黄色腫を含む).

フィブラート系薬剤(ベザトールSR,リパンチル)

著者: 辻昌宏

ページ範囲:P.200 - P.202

 フィブラート系薬剤は,主にトリグリセライド(triglyceride:TG)を低下させ,高比重リポ蛋白(high density lipoprotein:HDL)を上昇させる作用をもち,わが国で以前から使用されていたが,総コレステロールの低下作用ではスタチン系薬剤に比べ弱かった.しかし,最近のベザフィブラート(ベザトールSR®)・フェノフィブラート(リパンチル®)はコレステロール低下作用も強い.フィブラート系薬剤の作用機序の詳細はこれまで明らかではなかったが,最近,肝細胞内の核内受容体の一つであるperoxisome proliferatoractivated receptor(PPAR)αを活性化して種々の蛋白質の発現を調節することにより,遅延する超低比重リポ蛋白(very-low-density lipoprotein:VLDL)の代謝を改善し,HDLを増加させることが明らかとなってきた.基本的にTGリッチなリポ蛋白の代謝を改善し,HDLを増加させる作用は,ベザフィブラート・フェノフィブラートとも共通であるが,肝機能や尿酸値に及ぼす影響は,この2剤では差が認められる.
 本稿では,最近使用頻度の高くなったフィブラート系薬剤の副作用・相互作用につきまとめた.

イオン交換系薬剤(コレバイン)

著者: 中谷矩章

ページ範囲:P.203 - P.205

 陰イオン交換樹脂(レジン)系薬剤には,コレスチポール,コレスチラミン(クエストラン®),コレスチミド(コレバイン®)の3種があるが,コレスチポールはわが国では発売されず,コレスチラミンも本年5月に発売中止となったため,現在市販されているのはコレスチミドだけである.

ニコチン系薬剤(ペリシット,コレキサミン,ユベラニコチネート)

著者: 城所秀子 ,   及川眞一

ページ範囲:P.206 - P.207

適応
ニコチン系薬剤(ペリシット®,コレキサシン®,ユベラニコチネート®など)は高TG(トリグリセリド)血症〔高VLDL(超低比重リポ蛋白)血症〕,高コレステロール血症〔高LDL(低比重リポ蛋白)血症〕に対して適応がある.Lp(a)の低下作用は,今のところ本剤にのみ認められている.

イコサペント酸エチル(エパデール)

著者: 寺野隆 ,   齋藤康

ページ範囲:P.208 - P.210

 イコサペント酸エチル(エパデール®)は二重結合を5つもつn−3多価不飽和脂肪酸であるイコサペント酸(eicosapentaenoic acid:EPA)のエチルエステル体である.構造式を図1に示す.
 本剤はイワシの脂から高純度に精製した脂肪酸で,魚脂中に多く含まれ,安全性は高いと考えられる.イコサペント酸エチルを服用すると,EPAとして各種細胞の細胞膜の主にリン脂質に取り込まれる.細胞膜がEPAに富むと,細胞膜の流動性が増し,血小板は凝集しにくくなり,血液粘度が下がり,赤血球は変形しやすくなるなど1),体が抗血栓に傾く.

インスリン製剤(ヒューマリン,ヒューマカート,モノタード,ヒューマログ,ノボリン,ノボレット,ペンフイル,ノボラピッド)

著者: 佐倉宏

ページ範囲:P.211 - P.213

適応
(1)ほとんどすべての1型糖尿病.
(2)食事・運動療法,経口血糖降下薬で,血糖が十分に改善しない2型糖尿病.
(3)他の治療法では血糖が改善しない,その他の糖尿病.
(4)手術,外傷,感染症,高カロリー輸液などで,一時的に高血糖状態になっている症例.
(5)妊娠糖尿病および糖尿病合併妊娠.

スルホニル尿素薬(オイグルコン,ダオニール,グリミクロン,アマリール)

著者: 柳澤克之 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.214 - P.216

 スルホニル尿素薬(以下SU剤)は最も古くから糖尿病治療に用いられており,単剤での使用で最も血糖降下作用の強い経口糖尿病薬である.SU剤の主作用は,膵β細胞を刺激して内因性インスリンの分泌を促進することによって,血糖を下げることである.また,抗脂肪分解作用により血中遊離脂肪酸,中性脂肪の低下などが認められている.最も新しいSU剤であるグリメピリド(アマリール®)は,インスリン分泌作用はグリベンクラミド(ダオニール,オイグルコン®)に比べやや劣るが,血糖降下作用はほぼ同等であり,これはインスリン感受性改善などの膵外作用や肝内への糖の取り込み促進作用によるものと考えられている.

フェニルアラニン誘導体(スターシス,ファスティック)

著者: 森豊 ,   田嶼尚子

ページ範囲:P.217 - P.220

適応
2型糖尿病における食後血糖推移の改善(ただし,食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合,または食事療法・運動療法に加えてα-グルコシダーゼ阻害薬〔アカルボース(グルコバイ®),ボグリボース(ベイスン®)〕を使用している患者で,十分な効果が得られない場合に限る.

α—グルコシダーゼ阻害薬(ベイスン,グルコバイ)

著者: 小沼富男 ,   河盛隆造

ページ範囲:P.221 - P.224

 α-グルコシダーゼ阻害薬は,小腸からの糖の吸収を遅らせることによって,2型糖尿病の初期にみられる食後の血糖上昇を抑制し,「ブドウ糖毒性」によるインスリン分泌能およびその感受性の低下を改善させる.それは,糖尿病性網膜症,腎症,神経障害だけでなく,高脂血症,高血圧,肥満,動脈硬化などの発症・進展を抑えることにつながる.
 本剤は単独投与だけでなく,他の経口血糖降下薬またはインスリンとの併用が有効である.現在市販されているのは,アカルボース(グルコバイ®)とボグリボース(ベイスン®)である.

ビグアナイド薬(グリコラン,メルビン,メデット,ジベトスB)

著者: 堀田饒

ページ範囲:P.225 - P.227

適応
●ビグアナイド(biguanide:BG)薬は,インスリン分泌を介さない膵外作用により血糖を下げ1〜4)(図1),表1に示すものが市販されている.
●血糖降下作用はmildで,単独あるいはスルホニル尿素(sulfonylurea:SU)薬をはじめとして,いずれの経口血糖降下薬およびインスリン製剤とも併用が可能で,大きな効果を発揮する5〜7)

インスリン抵抗性改善薬(アクトス)

著者: 小林正

ページ範囲:P.228 - P.230

適応
2型糖尿病の患者で,食事・運動療法は無効で軽症〜中等症の糖尿病患者が適応となる・肥満でインスリン抵抗性の有するものほど有効であるので,インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRの高いものに効果がみられる.また,男性よりも女性により有効である.1型糖尿病には適応とならない.SU剤など,治療していた患者が無効になった場合には,インスリン抵抗性改善薬を併用投与することにより,血糖が改善することもある.また最近,α—グルコシダーゼ阻害薬との併用も,保険適用が認可された.

アルドース還元酵素阻害薬(キネダック)

著者: 加藤宏一 ,   中村二郎

ページ範囲:P.231 - P.233

適応
糖尿病性末梢神経障害に伴う自覚症状(しびれ感,疼痛),振動覚異常,心拍変動異常の改善1)

食欲抑制薬(サノレックス)

著者: 安田透 ,   吉松博信

ページ範囲:P.234 - P.239

 肥満症治療は食事療法と運動療法がその中心となるが,その実践と長期的維持には行動療法的アプローチが必要である.さらにその補助療法として,薬物・外科療法などが用いられる.肥満症治療に用いられる薬物は,①中枢性食欲抑制薬,②代謝促進薬,③消化吸収阻害薬に分類される(表1).このなかで,わが国で現在使用可能な抗肥満薬は,保険適用のあるマジンドール(サノレックス®)に限られている.本稿では,この薬物を中心にわれわれの使用経験を交え,概説する.

尿酸生成阻害薬(ザイロリック,サロベール,アロシトール,リボール,アノプロリン,アリスメット,アロチーム,アロック,アロリン,アンジーフ,サイトックD,モナーク)

著者: 河田哲也 ,   植松理恵 ,   寺谷弘二

ページ範囲:P.240 - P.242

 アロプリノール〔alloprinol:AP(ザイロリック®,サロベール®,アロシトール®,リボール®,アノプロリン®,アリスメット®,アロチーム®,アロック®,アロリン®,アンジーフ®,サイトックD®,モナーク®)〕はキサンチンオキシダーゼ阻害薬であり,体内のキサンチンオキシダーゼの基質となるヒポキサンチンやキサンチンと拮抗して尿酸生成合成を抑制し,血中および尿中尿酸値を低下させる.

尿酸排泄促進薬(ユリノーム)

著者: 富野康日己

ページ範囲:P.244 - P.245

適応
(1)痛風における高尿酸血症の改善.
(2)高尿酸血症を伴う高血圧症における高尿酸血症の改善.
尿酸排泄促進薬(ユリノーム®)は,尿細管における尿酸の再吸収を特異的に阻害し,尿酸の尿中への排泄を促進することで高尿酸血症を改善させる.

カルシトニン製剤(エルシトニン,オステン)

著者: 市川靖子 ,   遠藤正之

ページ範囲:P.246 - P.247

 骨吸収抑制薬にはカルシトニン製剤,エストロゲン製剤,イプリフラボン,ビスホスホン酸製剤がある.本稿では,カルシトニン製剤およびイプリフラボンについて述べる.

活性型ビタミンD3製剤(ロカルトロール,アルファロール,ワンアルファ)

著者: 細井孝之

ページ範囲:P.248 - P.249

 活性型ビタミンD3製剤には,ビタミンD3の1α位のみが水酸化されたものと,1α位と25位の両方が水酸化されたものがある.前者がアルファカルシドール(ワンアルファ®,アルファロール®など)であり,後者がカルシトリオール(ロカルトロール®)である.
 ビタミンD3はカルシトリオールの形で核内受容体に作用し,その生物活性をもたらすものであるため,厳密にはカルシトリオールのみが,「活性型」であるが,わが国においては両者が活性型ビタミンD3製剤として,保険適用を受けている.

ビスホスフォネート製剤(オンクラスト,アレディア,フォサマック)

著者: 伊藤祐司 ,   井上大輔 ,   松本俊夫

ページ範囲:P.250 - P.252

適応
1.経口薬
(1)骨粗鬆症,骨Paget病,脊髄損傷後・股関節形成術後の異所性骨化の抑制:エチドロネート(ダイドロネル®).
(2)骨粗鬆症:アレンドロネート(ボナロン®),フォサマック®),リセドロネート(アクトネル®,ベネット®).

ビタミンK製剤(グラケー,ケイツー)

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.253 - P.255

 ビタミンKは出血を防止する因子として発見されたビタミンで,凝固第II・VII・IX・X因子,プロテインC,オステオカルシンなどの蛋白に存在するグルタミン残基のγカルボキシル化(Gla化)に必須である.ビタミンKには,植物由来のK1(フィロキノン,別名フィトナジオン),動物由来のK2(メナキノン),および人工のK3(メナジオン)が存在する(図1).ビタミンK2には種々の同族体が存在するが,本邦では,K1およびメナキノン−4であるメナテトレノンが薬剤として使用されている(図1).ビタミンK2製剤としては,用量の異なる製剤(グラケー®,ケイツー®)が異なる疾患に対し保険適用となっている.

神経・筋疾患薬

抗てんかん薬(フェノバール,アレビアチン,デパケン,デグレトール,リボトリール)

著者: 高橋三津雄

ページ範囲:P.258 - P.262

 最初に,抗てんかん薬の種類を表1に示す.

レボドパ製剤(ドパストン,ネオドパストン,メネシット,マドパ,EC・ドパール,ドパール)

著者: 山本光利 ,   影山孝彦

ページ範囲:P.263 - P.265

適応
Parkinson病,Parkinson症候群.

ドパミン受容体アゴニスト(パーロデル,ペルマックス,カバサール,ドミン)

著者: 野元正弘

ページ範囲:P.266 - P.268

 ドパミン受容体アゴニストは,ドパミン受容体を刺激して,ドパミン神経機能を高める薬である.現在,Parkinson病や下垂体腫瘍,産後の乳漏症の治療に用いられている.前者ではドパミンの不足によって起こるParkinson病の症状に対して,ドパミン受容体アゴニストを用いた補充療法である.後者は隆起漏斗系のドパミン神経が下垂体におけるプロラクチン分泌の抑制因子であることから,ドパミン受容体アゴニストによりプロラクチンの分泌を抑制するものである.
 本稿では,前者の適応について概説する.

抗コリン作動薬(アーテン,アキネトン,パーキン)

著者: 山田人志

ページ範囲:P.270 - P.271

 抗コリン薬はParkinson病治療薬として最も古い歴史があり,19世紀中頃より利用されている.現在使用されている抗コリン薬は1940年代後半に開発されたもので,中枢性抗コリン作用の強いものである.治療薬の中心がレボドパからドパミンアゴニストに移ってきた現在でも,発症初期の静止時振戦を主症状とする比較的若いPar—kinson病患者に対しては,first choiceとして使用されることがある.また,抗コリン薬が著効し,他剤では効果が期待できないParkinson症候群の例もある1)
 大脳基底核における神経伝達において,ドパミンとアセチルコリンの間に均衡関係があると考えられている.コリン作動薬はParkinson症状を悪化させ,抗コリン薬はその症状を改善させることが示されてきている.Parkinson病における抗コリン薬の正確な作用機序は不明であるが,本疾患では黒質線条体ドパミンニューロンの機能低下によって,線条体コリン作動性ニューロンが機能亢進状態にある.したがって,その線条体コリン作動性ニューロンを抑制することにより,不均衡になった両ニューロンを是正することで治療効果を発揮すると考えられている.

その他のParkinson病治療薬(シンメトレル,エフピー,ドプス)

著者: 近藤智善

ページ範囲:P.272 - P.274

塩酸アマンタジン(シンメトレル®
適応
Parkinson症候群,脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性の低下.

脳循環改善薬(サアミオン,ケタス,セロクラール)

著者: 篠原伸顕 ,   関山西里 ,   北川泰久

ページ範囲:P.275 - P.277

 脳卒中の後遺症として頻度が高いものに,自覚症状としての頭重感,めまい,精神症候としての自発性の低下,抑うつ気分,知的機能の低下などがある.これらの後遺症が起こる病態として,脳循環代謝の障害が想定されている.
 脳卒中後遺症に対する治療の中心は薬物療法であり,最初に薬物が用いられたのは約40数年前である.その後,多くの脳循環改善薬が開発されたが,最近の厚生省の指導による見直しにより,かなりの薬物が承認の取り消しを受けた1)

抗痴呆薬(アリセプト)

著者: 橋本衛 ,   森悦朗

ページ範囲:P.278 - P.280

適応
アリセプト®(塩酸ドネペジル)は軽度および中等度のAlzheimer型痴呆に対して,認知機能や行動異常の改善ならびに痴呆症状の進行抑制効果をもつ.1日1回3mgから開始し,1〜2週後に5mgに増量する.重度のAlzheimer型痴呆に適応はなく,またAlzheimer型痴呆の病理そのものの進行を抑制するという成績も得られていない.
現時点では,Alzheimer型痴呆以外の痴呆性疾患に適応はないが,最近,Lewy小体を伴う痴呆や血管性痴呆に対する有効性を確認した研究がいくつか報告されており,将来的に適応拡大される可能性はある.

末梢性筋弛緩薬(ダントリウム,ボトックス)

著者: 幸原伸夫

ページ範囲:P.281 - P.283

 本稿ではダントリウム®とボトックス®をとりあげる.両者の作用機序は全く異なり,ダントリウム®は筋に直接働くが,ボトックス®は神経終末からの神経伝達物質放出を阻害することにより神経筋伝達を阻害し,間接的に筋力を弱める.

中枢性筋弛緩薬(セルシン,リオレサール,ミオナール)

著者: 三浦浩子 ,   栗原照幸

ページ範囲:P.284 - P.286

 中枢性筋弛緩薬は大脳,脳幹,脊髄の単シナプス・多シナプスに作用し抑制することで,筋弛緩をもたらす薬剤のことである1〜5).末梢性筋弛緩薬が外科的手術時に筋弛緩を得るために全身麻酔薬と併用されることが多いのに比べ,中枢性筋弛緩薬では痙性麻痺などに対する筋弛緩の目的で使用される.
 痙性麻痺をきたす原因には,脳血管障害や脊髄障害などによる中枢神経系の器質性疾患が多い.上位運動ニューロン症候群(upper motor neuronsyndrome)では,痙直のほか,反射亢進,病的反射の出現,クローヌス,巧緻運動障害がみられる.中枢性筋弛緩薬は患者が最も困る上位運動ニューロン症候群の症状のうち,巧緻運動障害の改善には効果がないので,治療にはおのずと限界がある.つまり,手指の細かい運動,例えば箸を使ったり,手紙を書いたり,編み物をしたり,料理で食材を細かく切ったりする緻密な運動は,筋弛緩薬で痙直をとっても必ずしも改善しないので,薬効には限度があることを知ったうえでこれらの薬を使う必要がある.

浸透圧利尿薬(グリセロール,マンニトール)

著者: 下田雅美

ページ範囲:P.287 - P.289

適応(両剤共通)
(1)脳浮腫または頭蓋内圧亢進の改善.
(2)脳外科手術時の脳容積縮小.
(3)脳血流増加作用(血液粘度低下による微小循環改善).
(4)眼圧下降,眼容積縮小.

片頭痛発作時治療薬(カフェルゴット,ジヒデルゴッド,イミグラン,ゾーミック,レルパックス)

著者: 飯塚高浩

ページ範囲:P.290 - P.293

カフェルゴット®(酒石酸エルゴタミン1mg,無水カフェイン100mg)
適応
片頭痛発作.

抗めまい薬(ドラマミン,イソメニール,メリスロン)

著者: 小宮山純

ページ範囲:P.294 - P.296

 本邦では,めまい急性期に炭酸水素ナトリウム(メイロン®)静注が,慢性期にメシル酸ベタヒスチン(メリスロン®),アデノシン三リン酸二ナトリウム(アデポス®),塩酸ジフェニドール(セファドール®)などが,漠然と使われる機会が多い.しかし,これらの薬物は今日的意味でエビデンスは得られていないばかりか,臨床の現場で有用性を実感することもほとんどない.専門的立場からすると,めまい急性期には前庭抑制薬(抗ヒスタミン薬,ベンゾジアゼピン,抗コリン薬)と制吐薬の点滴治療で十分足りるし,それ以降は疾患に応じた特異的治療を行うことになる1,2).加えて,めまい発作で来院困難な状況,ないし来院に及ばない軽症発作時用に,前庭抑制薬と制吐薬の内服薬を頓服処方する.
 以下,高度の急性めまい発作時の点滴治療薬とそれ以外の内服治療薬について解説する.

抗炎症薬・リウマチ性疾患薬

プレドニゾロン(プレドニン)

著者: 佐藤由紀夫

ページ範囲:P.298 - P.300

適応
(1)慢性および急性副腎皮質機能不全.
(2)各種膠原病・自己免疫疾患:エリテマトーデス(全身性および慢性円板状),関節リウマチ,若年性関節リウマチ,リウマチ性多発筋痛症,全身性血管炎,多発性筋炎(皮膚筋炎)など.
(3)ネフローゼおよびネフローゼ症候群.
(4)呼吸器疾患:気管支喘息,間質性肺炎など.
(5)重症感染症(化学療法と併用する).
(6)血液疾患:自己免疫性溶血性貧血,特発性血小板減少性紫斑など.
(7)その他:潰瘍性大腸炎,劇症肝炎,アレルギー性皮膚炎など.

その他のステロイド薬(メドロール,ソルメドロール,デカドロン,リメタゾン,リンデロン,ケナコルトA)

著者: 野島美久

ページ範囲:P.301 - P.303

 内科医が処方するステロイド薬には,プレドニゾロンのほか,メチルプレドニゾロン(メドロール®,ソルメドロール®),デキサメタゾン(デカドロン®,リメタゾン®),ベタメタゾン(リンデロン®),トリアムシノロン(ケナコルトA®)などがある.ヒドロコルチゾンを基準とした各種ステロイド薬の薬理作用の比較を表1に示す.ここではプレドニゾロン以外のステロイド薬について概説する.

代謝拮抗薬(免疫抑制薬として)(イムラン,ブレディニン,メソトレキセート)

著者: 亀田秀人 ,   竹内勤

ページ範囲:P.304 - P.306

適応
1.アザチオプリン:AZP(イムラン®など)
 わが国における保険適用は臓器移植における拒絶反応の抑制のみであり,副腎皮質ステロイドや他の免疫抑制薬との併用で用いることとなっている.膠原病はすべて保険適用外であるが,ステロイド抵抗性のさまざまな病態の改善目的でステロイドと併用される.例えば一次性血管炎や全身性エリテマトーデス(SLE)・関節リウマチ(RA)などに伴う二次性血管炎,筋炎,SLEや混合性結合組織病(MCTD)の腎炎・漿膜炎・関節炎・血小板減少症,あるいは筋炎などである1,2)(しかし,これらの疾患や病態に対して,最近ではシクロホスファミドパルス療法やシクロスポリンAが用いられることが多くなっている).通常1mg/kg/dayの単回投与より開始し,効果不十分なら2mg/kg/dayの2分割投与まで増量する.イギリスでの膠原病治療における最大投与量は3mg/kg/dayである.

アルキル化薬(エンドキサン)

著者: 稲田進一

ページ範囲:P.307 - P.309

 エンドキサン®(シクロホスファミド)は本来ナイトロジェンマスタード系の抗悪性腫瘍薬で,アルキル化薬に分類される.投与後,生体内で活性化されて抗悪性腫瘍作用を示すプロドラッグでもある.しかし,同時に免疫抑制作用を有し,抗炎症薬ないし抗リウマチ薬として添付文書,医薬品インタビューフォーム(塩野義製薬)には記載されていない特異な使われ方をしている薬剤である.

生物活性物質(サンディミュン,ネオーラル,プログラフ)

著者: 広畑俊成

ページ範囲:P.310 - P.312

 プログラフ®(タクロリムス)は,シクロスポリン(サンディミュン®,ネオーラル®など)と同様の内服薬・注射薬に加えて,アトピー性皮膚炎の治療に用いる外皮用軟膏がある.以下,プログラフ®に関しては,内服薬・注射薬について,シクロスポリンとの相違点を挙げておく.

金製剤(シオゾール,リドーラ)

著者: 安田正之

ページ範囲:P.314 - P.315

適応
注射金製剤(シオゾール®:金チオリンゴ酸ナトリウム,以下GST),経口金製剤(リドーラ®:オーラノフィン,以下Aur),ともに関節リウマチが適応である.GSTは,抗リウマチ薬のなかでは中等度の薬効をもっており,病初期から中期の中等度の活動性の症例に使用される.Aurの抗リウマチ作用は軽度であるので,病初期の軽症症例に使用されることが多い.
GSTは筋注後,速やかに吸収され,約2時間で血中濃度は最高となる.その後,徐々に低下し,1週間後には半減する.毎週筋注を行うと血中金濃度は徐々に上昇し,6〜8週後にプラトー(平衡状態)に達する.Aur 6mgを経口投与すると,血中金濃度は約2時間後に最高となり,その半減期は17日である.6mg/dayを投与し続けると,血中濃度は徐々に上昇し,約2〜3ヵ月後にプラトーに達する.

SH基化合物(メタルカプターゼ,リマチル)

著者: 藤田義正 ,   三森経世

ページ範囲:P.316 - P.318

適応
1.メタルカプターゼ®(D-ペニシラミン)
(1)関節リウマチ(100mg/dayより開始し,200〜300mg/dayまで).
(2)Wilson病(1,000mg/dayを分1〜数回).
(3)強皮症(100mg/dayより開始し,200〜300mg/dayまで,保険適用外).

代謝拮抗薬(抗リウマチ薬として)(メソトレキセート,リウマトレックス,ブレディニン,アラバ)

著者: 鈴木康夫

ページ範囲:P.319 - P.322

 関節リウマチ(RA)の治療に用いられる代謝拮抗薬はメトトレキサート(MTX)とミゾリビン(MZR),アザチオプリン(AZ)である.近い将来認可されるレフルノミド(LEF)も,代謝拮抗薬に属する新規抗リウマチ薬である1)

その他の抗リウマチ薬(アザルフィジンEN,モーバー,オークル)

著者: 田中良哉

ページ範囲:P.324 - P.325

適応
関節リウマチ.

サリチル酸系(バイアスピリン,バファリン)

著者: 木村利美 ,   赤星透

ページ範囲:P.326 - P.328

適応
頭痛,歯痛,月経痛,感冒の解熱,関節リウマチ,リウマチ熱,症候性神経痛,狭心症・心筋梗塞・虚血性脳血管障害における血栓・塞栓形成の抑制,冠動脈バイパス術あるいは経皮経管冠動脈形成術施行後における血栓・塞栓形成の抑制.

アリール酢酸系(ボルタレン,インダシン,インテバンSP,クリノリル,インフリー,ハイペン,オステラック,レリフェン)

著者: 川合眞一

ページ範囲:P.330 - P.331

 アリール酢酸系の非ステロイド抗炎症薬(non—steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)は,一般に強力な薬物を多く含む薬物群とされてきた.しかし,近年の研究により,こうした化学構造によるNSAIDsの差別化よりは,シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenage:COX)選択性,血中半減期,プロドラッグといったNSAIDsのもつ機能で分けるほうが実際的であることが明らかとなってきた.そこで,本稿ではアリール酢酸系に含まれる薬物の副作用と相互作用の特徴について,以上の視点からまとめてみたい.なお,本稿で扱うNSAIDsは,ジクロフェナク(ボルタレン®),インドメタシン(インダシン®,インテバンSP®),スリンダク(クリノリル®),インドメタシンファルネシル(インフリー®),エトドラク(ハイペン®,オステラック®),ナブメトン(レリフェン®)である.

プロピオン酸系・メフェナム酸(ロキソニン,ブルフェン,ナイキサン,ポンタールなど)

著者: 高崎芳成

ページ範囲:P.332 - P.333

適応
1.プロピオン酸系
プロピオン酸系のロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン®),イブプロフェン(ブルフェン®),ナプロキセン(ナイキサン®)などは,消炎,鎮痛,解熱作用を平均的に有し,関節リウマチ(RA)をはじめ,変形性関節症などRA以外の関節炎,腱・腱鞘炎,腰痛症,頸腕症候群,肩関節周囲炎,子宮付属器炎などの炎症性疾患に加え,神経痛,生理痛(月経困難),術後・抜歯後疼痛などの疼痛性疾患,さらにその解熱効果より急性上気道炎などの適応が認められている.

オキシカム系(モービック,フルカム,ロルカム)

著者: 沢田哲治

ページ範囲:P.334 - P.336

 メロキシカム(モービック®),アンピロキシカム(フルカム®),ロルノキシカム(ロルカム®)は,オキシカム系に属する非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs:NSAID)である.オキシカム系NSAIDは一般に半減期が長いが,ロルノキシカムは半減期が短いのが特徴である.一般にNSAIDの副作用で最も問題となるのは,消化器系副作用であるが,アンピロキシカムはプロドラッグ化により,メロキシカムはCOX2選択性により消化器系副作用が軽減されている.

痛風発作予防薬(コルヒチン)

著者: 藤森新

ページ範囲:P.337 - P.339

適応
コルヒチン®(コルヒチン)は痛風発作の予防として,予感期に0.5mg(1錠)使用して発作の進展を防止する.日本医薬品集には痛風発作の寛解に,1日3〜4mg(6〜8錠)を6〜8回に分けて分服すると記載されているが,発作の寛解には非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を使用すべきである.尿酸降下薬の開始後に痛風発作を予防する目的で,1日0.5mgを尿酸降下薬に併用してしばらく連用するコルヒチンカバーと呼ばれる使用法もある.その他,保険適用はないがBehçet病,アミロイドーシス,原発性胆汁性肝硬変などの治療にも使われる.

内分泌疾患薬

成長ホルモン製剤(ジェノトロピン)

著者: 安本久美子 ,   肥塚直美

ページ範囲:P.342 - P.343

 ヒト成長ホルモン(hGH)は,191個のアミノ酸からなる分子量22Kのポリペプチドホルモンである.成長促進作用だけでなく,種々の代謝をつかさどっている.以前は,ヒト下垂体から抽出した製剤が用いられたが,現在はすべて遺伝子組換えによるhGHが製剤として用いられている.

成長ホルモン分泌抑制薬(サンドスタチン)

著者: 橋本浩三

ページ範囲:P.344 - P.345

適応
1.先端巨大症・下垂体性巨人症(GH産生腺腫)
 治療の第一選択は手術療法であるが,手術が困難な場合や,手術で効果が不十分な場合(残存腫瘍)に本剤が用いられる1).大きい腺腫の場合,術前に短期間(2週間程度),本剤の投与を行って腫瘍サイズの縮小を図ることが有効な場合がある.

ブロモクリプチン(パーロデル)

著者: 山王なほ子 ,   寺本明

ページ範囲:P.346 - P.349

適応
産褥性乳汁分泌抑制,乳汁漏出症,高プロラクチン血性排卵障害,高プロラクチン血性下垂体腺腫,末端肥大症,下垂体性巨人症,Parkinson症候群.

下垂体後葉ホルモン製剤(デスモプレシン,ピトレシン)

著者: 本多一文

ページ範囲:P.350 - P.351

 デスモプレシン®(酢酸デスモプレシン:desmopressin acetate)点鼻液・点鼻スプレーは,下垂体後葉ホルモンの一つであるアルギニン・バゾプレシン(arginine vasopressin)の類似体であり,1位のシステインを脱アミノ化し,8位のL-アルギニンをD-アルギニンに置換した合成ペプチド(1-deamino−8-D-arginine vasopressin:dDAVP)である.バゾプレシンの受容体にはV1受容体とV2受容体があり,抗利尿作用にかかわるのはV2受容体で,d DAVPはV2受容体に親和性の高い類似体で,V1受容体を介した血管収縮作用,平滑筋収縮作用などが弱い.ピトレシン®(バゾプレシン:vasopressin)注射液は水溶性のバゾプレシン製剤で,受容体選択性はなく,血管収縮作用,平滑筋収縮作用をもつ.いずれも中枢性尿崩症の治療に用いるが,副作用,持続性,投与の簡便性からデスモプレシン®が主流となっている1).以前にタンニン酸ピトレシンが使われたこともあるが,効果の安定性,副作用,投与の簡便性で劣っており,わが国では販売されていない.

抗甲状腺薬(メルカゾール,プロパジール,チウラジール)

著者: 和田典男

ページ範囲:P.352 - P.353

適応
甲状腺機能亢進症.

甲状腺ホルモン製剤(チラーヂンS)

著者: 木島弘道

ページ範囲:P.354 - P.355

適応
粘液水腫,クレチン症,原発性ならびに下垂体性甲状腺機能低下症,甲状腺腫(内因性TSH分泌抑制による甲状腺良性腫瘍・甲状腺癌の縮小を目的とする).

男性ホルモン製剤(エナルモンデポー)

著者: 伊藤直樹 ,   塚本泰司

ページ範囲:P.356 - P.358

適応
エナルモンデポー®(エナント酸テストステロン)の適応は,男子性腺機能不全症(類宦官症),造精機能障害による男子不妊症,再生不良性貧血,骨髄線維症,腎性貧血である.

エストロゲン製剤(プレマリン)

著者: 若槻明彦 ,   池上信夫 ,   深谷孝夫

ページ範囲:P.359 - P.361

適応
1.機能性出血
卵巣機能の低下によりエストロゲン濃度の変動をきたし,結果として少量の子宮出血を認める.

プロゲステロン製剤(プロベラ)

著者: 塩之入亜矢 ,   太田博明

ページ範囲:P.362 - P.364

適応
プロゲステロン製剤は,製剤により多少異なるが,以下のような臨床的適応がある.
①無月経,②月経周期異常(希発月経,多発月経),③月経量異常(過少月経,過多月経),④機能性子宮出血,⑤黄体機能不全,⑥切迫流・早産,⑦習慣性流・早産,⑧乳癌,⑨子宮体癌,⑩前立腺癌,⑪前立腺肥大.
以上のようにその多くが産婦人科領域である.しかし,近年では閉経後骨粗穎症に対するホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)として,内科領域などでも処方されることが多い.この場合,プロゲステロン製剤はエストロゲン単独投与による子宮内膜増殖および子宮体癌の発生を抑制する目的で使用するので,子宮を摘出した者に対して併用する必要はない.

エストロゲン・プロゲステロン配合剤(プラノバール)

著者: 佐久間一郎 ,   北畠顕

ページ範囲:P.365 - P.367

 エストロゲン・プロゲステロン配合剤には,いわゆる中用量ピルとしても用いられた配合剤と,避妊に用いられる低用量ピルがある1)

ACTH製剤(コートロシン,コートロシンZ)

著者: 野村政壽 ,   柳瀬敏彦 ,   名和田新

ページ範囲:P.368 - P.370

 ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)製剤として現在使用されている酢酸テトラコサクチドは,天然ACTHと同じアミノ酸配列(N末端から24番目)を有する合成ペプチドである(図1).コートロシン®注(静注,筋注)と,その作用を亜鉛懸濁液として持続化したコートロシンZ®注(筋注のみ)の2種類の酢酸テトラコサクチドが発売されている.

血液疾患薬

鉄剤(フェロミア,フェジン)

著者: 鈴木憲史

ページ範囲:P.372 - P.373

 鉄は薬物でもあるが,自然界にも豊富に存在する.肉類,レバー,マメ科の植物,ひじき,のりなどに多く含まれ,また鉄製の調理道具からもかなりの鉄が食物中に放出される.しかし果物には鉄分は少なく,アルミやステンレスの調理道具からは鉄分の放出はほとんどみられない.健康成人は毎日平均食物鉄を20〜30mg摂取し,そのうちの5〜10%を主に十二指腸で吸収している.
 鉄は人体内に3〜4g存在し,そのうち2〜2.5gはヘモグロビン(Hb)として末梢血赤血球内に,残りは大部分が貯蔵鉄で,ごく一部はチトクローム,ミオグロビンなどに含まれている.貯蔵鉄はフェリチンとヘモジデリンの2つの形で存在している.フェリチンは水溶性の鉄貯蔵蛋白質で,約2,500個のFe分子の格子型配列を核としアポフェリチンと呼ばれる蛋白で包まれている.ヘモジデリンは水に不溶性なフェリチンの重合したもので固定貯蔵鉄とも呼ばれ,肝細胞やマクロファージの中にみられる.鉄の吸収・排泄は成人男性では1mgに過ぎず,閉鎖系の代謝が行われている.

G-CSF製剤(グラン,ノイトロジン)

著者: 井口豊崇 ,   木崎昌弘

ページ範囲:P.374 - P.376

 コロニー形成刺激因子(colony-stimulatingfactor:CSF)は,1966年にBradleyら1)が報告して以来,代表的なものとしてgranulocyte—CSF(G-CSF),granulocyte-macrophage-CSF(GM-CSF),macrophage-CSF(M-CSF),interleukin−3(IL−3)などが同定されているが,市販され,汎用されているのは前二者である.本稿では臨床の現場でしばしば用いられるG-CSF製剤の適応,副作用などについて概説したい.G—CSF製剤は,現在でこそ種々の好中球減少時に手軽に使用できる状態であるが,臨床的に使用可能となったのは,わずか10年前,1991年である.他の造血因子と同様,細胞表面の特定の受容体に接着し,好中球への分化および増殖の促進作用を有する糖蛋白である.

エリスロポエチン製剤(エスポー,エポジン)

著者: 上村由樹

ページ範囲:P.378 - P.379

 ヒトエリスロポエチン(EPO)は赤血球産生を調節する糖蛋白ホルモンとして1977年にMiyakeらによってヒトの尿から分離された1).1985年にはEPO遺伝子がクローニングされ2),rHuEPO(recombinant human erythropoietin)が生産可能となって以来,短期間で世界各地で臨床応用されるに至った.わが国ではエポチンアルファ(エスポー®),エポチンベータ(エポジン®)がよく使用されている.

ヒト免疫グロブリン製剤(ヴェノグロブリン—IH)

著者: 松野直史 ,   麻生範雄

ページ範囲:P.380 - P.382

適応
ポリエチレングリコール処理ヒト免疫グロブリン(ヴェノグロブリン—IH®)の適応疾患は,①低ならびに無ガンマグロブリン血症,②重症感染症における抗生物質との併用,③特発性血小板減少性紫斑病(他剤が無効で,著明な出血傾向があり,外科的処置または出産など一時的止血管理を必要とする場合),④川崎病の急性期(重症であり,冠動脈障害の発生の危険がある場合)である.適応関連の注意として,川崎病に用いる場合は,発症後7日以内に投与を開始することが望ましい.

慢性骨髄性白血病薬(グリベック)

著者: 谷本光音

ページ範囲:P.383 - P.385

適応
慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leuke—mia:CML)(染色体検査もしくは遺伝子検査にて診断されたもの)

感染症薬

ペニシリン系(結晶ペニシリンGカリウム,ユナシン,ペントシリン,ビクシリン)

著者: 内山伸 ,   古川恵一

ページ範囲:P.388 - P.390

1.結晶ペニシリンGカリウム®(ベンジルペニシリンカリウム:PCG)
 主にグラム陽性球菌,特に連鎖球菌に抗菌力を発揮する.βラクタマーゼ,特にペニシリナーゼに加水分解される弱点があり,例えば,黄色ブドウ球菌の大部分は耐性である.

セフェム系第1世代(セファメジンα,ケフラール)

著者: 武田多一 ,   武田裕子

ページ範囲:P.391 - P.393

適応
(1)グラム陽性菌のブドウ球菌,連鎖球菌に有効である.ただし,腸球菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)には無効.
(2)大腸菌,プロテウス,クレブシエラなどのグラム陰性菌にも抗菌力を有するが,耐性化は進行しつつある.臨床的にはグラム陰性菌感染症治療の第一選択薬とはしない.

セフェム系第2世代(パンスポリン,セフメタゾン)

著者: 武田多一 ,   武田裕子

ページ範囲:P.394 - P.395

適応
(1)第1世代と比較してグラム陽性菌に対する有効性では劣るが,βラクタマーゼに対する安定性が増強されており,グラム陰性菌であるインフルエンザ菌,バクテロイデス,モラクセラ,髄膜炎菌に対する抗菌力に優れている.広域スペクトラムの抗菌薬として頻用される.緑膿菌には無効.
(2)セフォチアム(CTM:パンスポリン®)は,呼吸器や耳鼻科領域の市中感染によく用いられる.嫌気性菌には全く抗菌作用を有しない.

セフェム系第3世代(ロセフィン,クラフォラン,セフォタックス,モダシン,マキシピーム,セフゾン,フロモックス)

著者: 武田多一 ,   武田裕子

ページ範囲:P.396 - P.398

適応
(1)グラム陰性菌に対して特に強い抗菌作用を有し,院内感染や多剤耐性菌による感染症で用いられる.腸球菌あるいはMRSAには無効である.嫌気性菌には中等度の効果が期待される.しかし,同じ第3世代であっても緑膿菌や腸内細菌科Enterobacteriaceae(大腸菌,クレブシエラ,プロテウス,エンテロバクター,セラチアなど)に対する抗菌力には差がある.感染部位,患者の状況から起因菌を予測し,各施設の起因菌感受性パターンに合わせて適切な抗菌薬を選択する.抗菌薬は,細菌培養・感受性検査結果をみて変更する.
(2)セフトリアキソン(CTRX:ロセフィン®)を除くと,グラム陽性菌感染症の第一選択薬として使用されることは通常ない.

モノバクタム系(アザクタム)

著者: 吉田正樹

ページ範囲:P.400 - P.401

適応
アザクタム®(アズトレオナム)の適応は,下記適応菌種による下記適応疾患である.
適応菌種:①淋菌,②髄膜炎菌,③大腸菌,④シトロバクター属,⑤クレブシエラ属,⑥エンテロバクター属,⑦セラチア属,⑧プロテウス属,⑨緑膿菌,⑩インフルエンザ菌.

カルバペネム系(チエナム)

著者: 吉田正樹

ページ範囲:P.402 - P.404

適応
チエナム®(イミペネム・シラスタチンナトリウム)の適応は,下記適応菌種による下記適応疾患である.
適応菌種:①ブドウ球菌属,②レンサ球菌属,③腸球菌,④ペプトコッカス属,⑤ペプトストレプトコッカス属,⑥大腸菌,⑦シトロバクター属,⑧クレブシエラ属,⑨エンテロバクター属,⑩セラチア属,⑪プロテウス属,⑫シュードモナス属,⑬インフルエンザ菌,⑭アシネトバクター属,⑮バクテロイデス属.

アミノ配糖体系(ハベカシン,ゲンタシン,ビクリン)

著者: 貫井陽子 ,   古川恵一

ページ範囲:P.405 - P.407

適応
1.硫酸アルベカシン(ハベカシン®
メチシリン,セフェム耐性の黄色ブドウ球菌による敗血症,肺炎(バンコマイシンが使用できない例など).

テトラサイクリン系(ミノマイシン,ビブラマイシン,アクロマイシンなど)

著者: 大西健児

ページ範囲:P.408 - P.409

 テトラサイクリン系抗菌薬は,細菌の30Sリボソームに作用して,マクロライド系抗菌薬と同じく細菌の蛋白合成を阻害することにより抗菌力を発揮する.

マクロライド系(エリスロシン,クラリシッド,ルリッド,リカマイシン,ジスロマックなど)

著者: 大西健児

ページ範囲:P.410 - P.411

 マクロライド系抗菌薬は微生物の細胞内リボソームに結合し,50Sサブユニットでペプチド転移酵素反応を阻害することでテトラサイクリン系抗菌薬と同様に細菌の蛋白合成を阻害し,抗菌活性を発揮する.

リンコマイシン系(リンコシン,リンタマイシン,ダラシン)

著者: 笠原寿郎

ページ範囲:P.412 - P.414

 リンコマイシン系抗菌薬は,わが国では塩酸リンコマイシン(リンコシン®,リンタマイシン®)と塩酸クリンダマイシン(ダラシン®)が市販されている.いずれも,ブドウ球菌属,レンサ球菌属,肺炎球菌属,ペプトストレプトコッカス属,ペプトコッカス属に適応症を有している.ブドウ球菌属,レンサ球菌属,肺炎球菌属に対する抗菌活性は,現在用いられている他の抗菌薬(セフェム系,カルバペネム系)と比較して強いものではなく,これらの細菌に対して第一選択として用いられることは少ない.リンコマイシン系抗菌薬の優れた特徴は,嫌気性菌に対する強い抗菌活性にある.特に塩酸クリンダマイシンは嫌気性菌感染症に対する第一選択として用いられることが多い.また塩酸クリンダマイシンはマイコプラズマに対しても適応を有している.

ホスホマイシン系(ホスミシンS)

著者: 笠原寿郎

ページ範囲:P.416 - P.417

 ホスホマイシン(FOM)は1969年,アメリカのメルク社とスペインのセパ社によって共同開発されて,日本では1980年より臨床応用されている.ホスホマイシンは図1のようなエポキシ環とC—P結合の両方を併せもつユニークな化学構造で,分子量は138.1と低分子の薬剤である.本物質の遊離酸は不安定であるが,カルシウム塩およびナトリウム塩はそれぞれ安定で,前者は経口薬,後者は注射剤・外用剤として製品化され,使用されている.

その他の抗菌薬(塩酸バンコマイシン,タゴシッド)

著者: 遠藤和郎

ページ範囲:P.418 - P.419

 塩酸バンコマイシン(塩酸バンコマイシン®)およびテイコプラニン(タゴシッド)®は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)感染症に適応のある数少ない抗菌薬である.これらの薬剤を有効に作用させつつ,独特の副作用を回避するために,留意点がいくつかある.臨床医の立場でこれらを述べてみたい.

ニューキノロン系(クラビット,シプロキサン)

著者: 浦野哲哉

ページ範囲:P.420 - P.422

 ニューキノロンは広域スペクトルを有する薬剤で,DNA合成阻害により抗菌力を発揮する.レボフロキサシン(LVFX,クラビット®)はオフロキサシン(OFLX)の一方の光学活性体であり,OFLXに対して約2倍の抗菌活性を有する経口薬である.シプロフロキサシン(CPFX,シプロキサン®)には,経口薬のほかニューキノロン系として初の注射薬がある.

ST合剤(バクタ)

著者: 浦野哲哉

ページ範囲:P.423 - P.425

 ST合剤(バクタ®)は,持続性サルファ剤スルファメトキサゾール(sulfamethoxazole)に抗菌物質トリメトプリム(trimethoprim)を配合した製剤である.

ポリエン系抗真菌薬(ファンギゾン)

著者: 古西満 ,   高橋賢 ,   三笠桂一

ページ範囲:P.426 - P.427

適応
1.注射用製剤
 アスペルギルス属,カンジダ属,ムコール属,クリプトコッカス属,ブラストマイセス属,ヒストプラズマ属,コクシジオイデス属,ホルモデンドラム属,ヒアロホーラ属,ホルミシチウム属による深在性真菌症.

トリアゾール系抗真菌薬(ジフルカン,イトリゾール)

著者: 古西満 ,   高橋賢 ,   三笠桂一

ページ範囲:P.428 - P.430

適応
フルコナゾール(FLCZ:ジフルカン®
 注射薬,カプセル薬ともに,カンジダ属・クリプトコッカス属・アスペルギルス属による真菌血症・呼吸器真菌症・消化管真菌症・尿路真菌症・真菌髄膜炎.

白癬菌治療薬(ラミシール)

著者: 古西満 ,   高橋賢 ,   三笠桂一

ページ範囲:P.432 - P.433

適応
皮膚糸状菌(トリコフィトン属・ミクロスポルム属・エピデルモフィトン属)・カンジダ属・スポロトリックス属・ホンセカエア属による深在性皮膚真菌症・表在性皮膚真菌症.

インフルエンザ治療薬(リレンザ,タミフル)

著者: 堤裕幸

ページ範囲:P.434 - P.436

適応
1.リレンザ®(ザナミビル水和物:zanamivirhydrate,図1)
A型またはB型インフルエンザウイルス感染症・インフルエンザ様症状の発現から2日以内に投与を開始すること.また成人の患者を対象とする.

ヘルペスウイルス治療薬(ゾビラックス)

著者: 堤裕幸

ページ範囲:P.437 - P.439

適応
1)経口:単純疱疹,骨髄移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制,帯状疱疹,水痘(顆粒のみ).
2)注射:免疫機能の低下した患者に発症した単純疱疹・水痘・帯状疱疹,脳炎・髄膜炎.

トリコモナス治療薬(フラジール)

著者: 村上愛 ,   大石和徳

ページ範囲:P.440 - P.441

適応
1)内服:トリコモナス症(膣トリコモナスによる感染症).
2)膣錠:トリコモナス膣炎.

カリニ肺炎治療薬(ベナンバックス)

著者: 村上愛 ,   大石和徳

ページ範囲:P.442 - P.443

適応
ニューモシスチス・カリニ肺炎.

抗マラリア薬(メファキン)

著者: 村上愛 ,   大石和徳

ページ範囲:P.444 - P.445

適応
マラリアの治療および予防.メファキン®(メフロキン)を予防目的に使用する場合は保険適用不可.

解熱・鎮痛・向精神薬

ピリン系解熱鎮痛薬(メチロン,スルピリン)

著者: 赤真秀人

ページ範囲:P.448 - P.450

 ピラゾロン誘導体(スルピリン,アンチピリン,イソプロピルアンチピリンなど)にピラゾリジンジオン誘導体(スルフィンピラゾンなど)を加え,ピリン(pyrine)系薬剤と総称される.多くは酸性の非ステロイド抗炎症薬(NSAID:non-steroidal anti-inflammatory drug)に属する.近年,日本でも医師による処方頻度は減少している.今回は,ピリン系解熱鎮痛薬の代表であるスルピリン(メチロン®,スルピリン®)を紹介したい.

非ピリン系解熱鎮痛薬(ピリナジン,カロナール)

著者: 鈴木貴博

ページ範囲:P.451 - P.453

適応
(1)頭痛,耳痛,症候性神経痛,腰痛症,筋肉痛,打撲痛,捻挫痛,月経痛,分娩後痛,癌による疼痛,歯痛,歯科治療後の疼痛.
(2)急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)の解熱・鎮痛.

非麻薬性鎮痛薬(レペタン,ソセゴン,ペンタジン)

著者: 谷口敦夫

ページ範囲:P.454 - P.455

適応
1.塩酸ブプレノルフィン(レペタン®
術後・各種癌・心筋梗塞における鎮痛,麻酔補助.

麻薬性鎮痛薬(MSコンチン,デュロテップ)

著者: 宮崎東洋

ページ範囲:P.456 - P.458

適応
麻薬性鎮痛薬というと癌性疼痛に使われる薬剤と誤解されている.麻薬が鎮痛を目的として使われるときに麻薬性鎮痛薬と呼ばれているだけであり,麻薬としては鎮痛以外にもいくつかの適応がある.
①激しい疼痛時における鎮痛,鎮静.
②激しい咳嗽発作における鎮咳.
③激しい下痢症状の改善.
④腸管蠕動抑制.
⑤麻酔前投薬,麻酔補助.
⑥激しい疼痛を伴う各種癌における鎮痛.

古典的抗精神病薬(コントミン,セレネース,ドグマチール)

著者: 冨高辰一郎

ページ範囲:P.460 - P.461

適応
統合失調症,興奮や焦燥感の強い躁うつ病,せん妄,うつ病〔スルピリド(ドグマチール®)のみ〕.

非定型抗精神病薬(リスパダール,ルーラン,ジプレキサ,セロクエル)

著者: 三木和平

ページ範囲:P.462 - P.463

適応
 従来,統合失調症の治療にはクロルプロマジンやハロペリドールなどの定型抗精神病薬が用いられてきた.定型抗精神病薬は幻覚や妄想などの陽性症状には有効であるが,意欲低下や感情鈍麻などの陰性症状には効果が乏しく,薬剤性パーキンソニズムやアカシジアなどの錐体外路症状や長期間使用すると遅発性ジスキネジアなどの副作用を認めるといった問題点がある.そこで,効果は同等以上で,陰性症状にも効果があり,より副作用の少ない薬剤として非定型抗精神病薬が開発された.非定型抗精神病薬は,SDA系とMARTA系の2群に大きく分類される.SDAはセロトニン・ドパミン拮抗薬の略で,現在わが国ではリスパダール®(リスペリドン)とルーラン®(塩酸ペロスピロン水和物)の2種類が使用されている.MARTAは,multi-acting receptor targeted antipsychoticsの略で,広範な各種の神経伝達物質受容体の遮断作用を認める.チエノベンゾジアゼピン系のジプレキサ®(オランザピン)がその代表であるが,ジベンゾチアゼピン系のセロクエル®(フマル酸クエチアピン)も同様の特徴をもつ.
 現在わが国では,以上の4種類の非定型抗精神病薬が使用されているが,適応は統合失調症のみである.また,現在のところ適応はないものの,その他の精神病状態,双極性障害(躁状態),小児期の精神障害,老年期精神障害,せん妄などにも効果を認めるとの報告がある.内科医が直接,非定型抗精神病薬を処方する頻度は少ないと思われるが,今後さらに処方数は増加するものと予想され,統合失調症の薬物療法の主流となるものと考えられている.生活習慣病や合併症などで内科を受診する症例も増加するものと思われ,非定型抗精神病薬の副作用や相互作用を十分理解しておく必要があるだろう.

三環系・四環系抗うつ薬(トフラニール,トリプタノール,アナフラニール,テトラミド)

著者: 大川義則 ,   朝倉幹雄

ページ範囲:P.464 - P.466

適応
うつ病,うつ状態(神経症,慢性疼痛,夜尿症など).

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(ルボックス,デプロメール,パキシル)

著者: 山田朋樹

ページ範囲:P.467 - P.469

 1999年5月に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)がわが国に導入されてから,3年以上が経過した.今日,うつ病・うつ状態の生涯有病率は13.3〜17.1%1)と驚くべき高い数値が報告されている.一般的にうつ病は,早期発見・早期治療にてそのほとんどが寛解するといわれている.しかし,うつ病に罹患した患者が専門医を受診する割合はまだまだ低く,多くは身体症状を主訴として内科医を受診していると考えられる.SSRIは,うつ病治療の第一選択薬のなかに含まれており,従来の三環系抗うつ薬と比較し,臨床的には同等の効果を有しながら副作用が少なく安全に使用できる抗うつ薬として,すでに広く使用されている.またSSRIは,うつ病以外の広い適応をもち,パニック障害などさまざまな精神疾患に対し治療効果を上げている.このように,治療上の利点が多く使用されやすいSSRIではあるが全く副作用が存在しないわけではない.なかには生命に危険が及ぶものも含まれる.また相互作用に関しても注意すべき点があり,以下にこれらの点について簡単にまとめた.

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)(トレドミン)

著者: 山田和夫

ページ範囲:P.470 - P.472

適応
うつ病,うつ状態.

ベンゾジワゼピン系(超短時間〜短時間型)/非ベンゾジワゼピン系睡眠薬(マイスリー,ハルシオン,アモバン,レンドルミン,リスミー,ロラメット/エバミール)

著者: 中島亨

ページ範囲:P.473 - P.477

 薬物は一般には作用の持続時間が長いほうが長所となることが多いが,睡眠薬では眠っている間だけ効果が持続することが理想であるため,薬物の体内への蓄積性および効果の持続時間という観点から,特に生物学的半減期(半減期)による分類がなされている.すなわち,本稿で述べる超短時間〜短時間型の睡眠薬は,両者とも体内への蓄積性はなく,超短時間型(半減期6時間以内)では翌朝起床時に効果はかなり消失し,短時間型(半減期6〜12時間)では翌日入眠時に効果はほとんど消失している薬物であると定義される.
 ここでは,短時間〜超短時間作用型の睡眠薬であるゾルピデム(マイスリー®),トリアゾラム(ハルシオン®),ゾピクロン(アモバン®),プロチゾラム(レンドルミン®),リルマザホン(リスミー®),ロルメタゼパム(ロラメット®,エバミール®)について,主として各薬剤のインタビューフォームを元に概説する.

ベンゾジアゼピン系(中間型)(ソラナックス,レキソタン,ベンザリン)

著者: 八田耕太郎

ページ範囲:P.478 - P.480

適応
 ベンゾジアゼピン系中間型の適応は薬剤ごとに異なるが,次のようにまとめられる.

ベンゾジアゼピン系(長時間型)(セルシン,ホリゾン,セパゾン,レスタス)

著者: 中原理佳 ,   張賢徳

ページ範囲:P.482 - P.483

適応・禁忌・特徴
1.適応
ベンゾジアゼピン系薬物は,①不安や緊張を速やかに軽減させる作用のほか,②催眠・鎮静作用,③抗痙攣作用,④筋弛緩作用,⑤自律神経調節作用などが期待でき,また比較的副作用が少ないことから,精神科に限らず,日常診療において広く使用されている.適応となる疾患としては,下記のようなものが挙げられる.
(1)不安障害:パニック障害,社会恐怖,強迫性障害など.
(2)うつ病性障害
(3)心身症:過敏性腸症候群,胃・十二指腸潰瘍,高血圧など.
(4)筋骨格系疾患:肩こり,緊張性頭痛,書痙など.
(5)手術や検査時の不安・緊張の軽減
(6)不眠
(7)痙攣,てんかん重積発作
(8)アルコール依存症の離脱症状

column

チョコレート茶褐色顔貌

著者: 松村理司

ページ範囲:P.10 - P.10

 40歳の女性である.20歳で胃悪性リンパ腫に対して胃全摘・脾摘術を受けている.30歳代にオピオイド系鎮痛薬の依存症に罹っている.喫煙は20本/日.4回の結婚歴があり,現在は内縁関係にある.家族歴もかなり複雑.
 さて,38歳で重症筋無力症を発症しているが,診断はその1年2ヵ月後であった.外来は来ず,薬は服用せず,仕事(ホステス業・家事など)は忙しすぎるわで,5ヵ月前に筋無力症性クリーゼを起こし,人工呼吸器に乗ったまま,抜管することなく胸腺摘出術を受けている.血漿吸着療法も行い,経過良好で3週間後には退院したが,1ヵ月で再増悪をきたし,再入院.その後はプレドニゾロン30mg/日とメスチノン®(ピリドスチグミン)180mg/日で,原因不明の腹痛以外は経過順調だったが,1週間前の外出時より息切れが出現するようになった.爪の色が黒いとも言う.息切れと口唇・手指のチアノーゼはさらに増強.内服薬は,上記以外に,アルサルミン®・フェロミア®・セルシン®・デプロメール®・バクタ®である.

フランスの薬屋さん

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.13 - P.13

 フランスは完全医薬分業制度なので,患者さんは開業医や病院でもらった処方箋を持って自宅の近くの薬局に行くことになる.24時間薬局,配達してくれる薬局など,個性的なものも沢山そろっているのもうれしい.稀に在庫が切れていても,1日に数回の配達により半日以内に取り寄せてくれるが,それが待てない場合は2〜30メートル歩けば隣の薬局があるという便利さである.
 すべて製薬会社から適当な量に分けられた箱単位でそのまま売られるので,キャラメルを買うような気軽さで待ち時間もスーパーのレジ以下になる.子どもの抗生物質なども,アメリカでは薬剤師がシリンダーで水の量を測りながら仰々しく作っていたが,フランスでは粉の入ったビンの線まで水を入れてよく振って作ってくださいと言われ,ちゃんと図入りの作り方説明書と体重分の1回量を測るスポイトが入っている.箱には大きく商品名が印刷されており,万が一薬剤師が間違えても,患者さんには一目瞭然であり事故も起こりにくい.

‘豪快’な“大リーガー医”

著者: 松村理司

ページ範囲:P.29 - P.29

 当院内科では,卒後臨床研修に資するために,主として米国の秀でた臨床医たちを指導医として招聘してきた.これらの“大リーガー医”たちは,臨床や医学教育以外の面でも多士済々であるが,なかにはユニークな‘豪快さ’も散見される.
 時は午後2時.リチャード・ダイアモンド先生の公舎にいる奥さんから,ご主人の様子がおかしいとの電話があり.早速ストレッチャーで救急室搬送された先生だが,「頭がものすごく痛い,割れそうだ」と半分白目のパニック状態.血圧は,230/140mmHg!高血圧性危機(クリーゼ,クライシス)のようだが,‘恩師’の突然の変化に全員が戸惑い気味.眼底所見も取れず.

アスピリン(アセチルサリチル酸)

著者: 上野征夫

ページ範囲:P.50 - P.50

 サリチル酸は柳の樹皮に含まれている.ヒポクラテスの時代から,すでに柳の樹皮は医療用に使われていたようである.もっともその頃は,まだポプラの樹皮などと張り合っていた.要するに,“にがさ”を競っていた時代である.
 19世紀になってスコットランドの医師が,湿地に生息する柳なら,湿った空気にさらされると症状が悪化するような病気を負かすかもしれないという理論で,柳の樹皮の抽出物をリウマチの治療に用いることを考えた.そして100年前,アスピリンが合成され,解熱薬や抗リウマチ薬として,なくてはならない薬となっている.

お国変われば.

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.59 - P.59

 ニューヨークで研修を始めたころは,マークハントのパンチのように早い英語がさっぱりわからず,Yes Noで答える質問ばかりに切り替え何とか診療した記憶がある.夜CNNを見ては,どうしてこういうきれいな英語を話す患者が入院してこないんだと嘆いたものであった.英語だけの問題ではないだろうが,他の研修医の患者で喘息発作時用の気管支拡張薬の効きが悪いというので実際に使ってみてもらったら,消臭スプレーのように空気中に2スプレーしていきなり深呼吸を始めたというのを聞いたことがある.
 5年前にフランスに移ってからは,久しぶりに日本人の患者さんを診察することが多くなったが,思わぬ落とし穴によく遭遇する.坐薬だから座って飲んだというのはよく聞く話だが,「よく振ってからあげてください」といったら,お母さんから「薬を飲ませると吐くんですけど」と電話を受けて,よく聞くと赤ちゃんを振ってからシロップを飲ませていたというのには驚いた.「あの薬は飲みにくいので変えて下さい」といわれ,「苦いですか」と聞くと,「口の中がシュワシュワしてあまり好きじゃないです」といわれたのは,水に溶かす錠剤だった.NSAIDなども,「食後に飲んでください」と指導しても,フランスではゆっくり食べて,デザート,コーヒー,そして食後酒まで済んでから飲まれてしまうともう寝る寸前で,胃が痛くなる人が多いため,食事と混ざるように「メインの後に飲んでください」という説明にする必要があった.

リンパ節腫脹

著者: 上野征夫

ページ範囲:P.77 - P.77

 抗てんかん薬ジフェニルヒダントインほどユニークな副作用をもつ薬はない.その一つに,歯肉肥厚がある.神経内科のレジデントローテーションをしているとき,スタッフがたびたび痙攣を繰り返す患者の口の中をのぞき込み,歯内に肥厚があるのを見て,「薬は飲んでいた」とつぶやいたのを聞き,変な確認の仕方があるものだと思ったことがある.リンパ節腫脹も,またユニークな副作用である.
 症例は17歳の女子高校生.1週間前より頭痛が現れ,次第に激しくなってきた.それでも通学は続けていたが,一度脳のCT写真を撮ってみましょうということになった.驚いたことに右頭頂葉から後頭葉にかけて,大きな4cm×4.5cm大の脳内血腫があった.若い人の脳は柔軟なものである.神経学的には,何の異常もみられない.

肝炎の人は,寝酒飲むくらいなら睡眠薬

著者: 山田春木

ページ範囲:P.82 - P.82

 今回の「medicina」増刊号は薬の暗黒面(?)特集です.ならば本コラムでは,副作用を心配せず薬を使っていただくケースをご紹介しましょう.
 肝障害を副作用に挙げている薬や肝臓で代謝される薬は非常に多く,畢竟,肝炎の患者を前に一般医は投薬には慎重にならざるを得ません.肝硬変の人が不眠を訴え来院したら,あなたはどうしますか?

プロフェッショナリズム

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.91 - P.91

 プロフェッショナルというのは日本語では何か時代遅れの響きがあるかもしれないが,その自覚は医師として大変重要である.私たち内科医は,プロとして薬を処方する.そう,研修医の先生方,生半可な気持ちでしてはいけないのである.
 降圧薬でもそうである.血圧は数字を正常にするのが目標ではない.血圧上昇に伴う心疾患,脳血管障害,腎疾患などを予防することが重要である.よって,個々の患者さんの合併症により,薬物治療が必要になる血圧のレベル,降圧薬の選択,必要な検査の種類や頻度,すべてが異なる.同じCaチャンネルブロッカーでも,ベラパミル,ジルチアゼム,アムロジピンでは薬理作用が全く違うのは当然だが,最近使用頻度の非常に増えたアンジオテンシン受容体拮抗薬でも,半減期や大規模臨床治検のデータの有無だけでなく,食事と一緒になると吸収が40%も落ちてしまう飲みにくいものと,他の薬と一緒に食後に飲めるものとがあることなど,処方する側として知っていなくてはならないことがたくさんある.

ワルファリンと健康食品

著者: 橋本洋一郎

ページ範囲:P.94 - P.94

 ワルファリン(ワーファリン®)は,血栓・塞栓症の一次予防,二次予防に使われる薬剤である.われわれの領域では,心原性脳塞栓症の二次予防にワルファリンを使うことが多い.心原性脳塞栓症の急性期に,一定の基準のもとにヘパリンの24時間持続点滴を行う.ベッドサイドリハから訓練室リハに移行するためには,ワルファリンコントロールを早く行い,早くヘパリンの持続点滴を終了する必要がある.そのためには早期よりワルファリンを投与開始し,治療域に達した時点でヘパリンを中止する.ワルファリンコントロールの指標は,国際標準であるPT-INRで行う.心原性脳塞栓症では,経食道心エコーを入院から3〜4日以内に行い,心内血栓がなければPT-INRで1.5を超えたあたりでヘパリンを中止するが,心内血栓がある場合には2.0を超えるまではヘパリンを続行し,心内血栓が消失するまで1週間に1回程度の頻度で経食道心エコーを行う.
 ワルファリンは,凝固因子(第II,VII,IX,X因子)とともに抗凝固因子であるプロテインCやSなどの肝臓でのビタミンK依存性の合成を抑制する薬剤である.

法的にみた薬剤の情報提供とは?

著者: 津田真智子

ページ範囲:P.115 - P.115

薬剤の情報提供はどこまで行うべきか?
担当医師や薬剤師がいつも悩む問題ですが,明確な基準を設けるのは難しいと思います.そもそも,薬剤を服用するかどうかの最終的な判断は患者自身に委ねられていますが,日常の臨床では,患者は医師から処方された薬剤を黙って服用し,その際の説明も,「何かあったらいらっしゃい」程度のこともあるでしょう.しかし法的には,患者自身が判断できるだけの具体的情報の提供と説明がなければ,必要にして十分な情報提供とはいえず,不十分なインフォームドコンセントで副作用が出現すると,「説明義務違反」かどうかを問われることになります.以下の判例は,薬剤の情報提供をめぐって医事紛争に発展した教訓的な症例です.

添付文書にはよく目を通して

著者: 津田真智子

ページ範囲:P.120 - P.120

 薬剤投与をめぐって発展した医事紛争では,医薬品添付文書に明記されている内容と実際の医療行為を照らし合わせて過失の有無を詳細に検討し,担当医師の注意義務違反や説明義務違反などを判断します.そもそも添付文書には,高度かつ専門的な情報を有している製造業者が,投与を受ける患者の安全を確保するために,これを使用する医師や歯科医師,薬剤師に対して必要な情報を提供する目的で記載しているという前提がありますので,添付文書に記載された注意事項に従わず医療事故が発生した場合には,特段の合理的理由がない限り担当医師の過失は免れません.そこで添付文書の重要性が示された判決をご紹介します.

日本最古の薬の記録は「因幡の白うさぎ」

著者: 津田真智子

ページ範囲:P.123 - P.123

 日本で一番古い「薬」に関する記録は,『古事記』に記載されている「因幡の白うさぎ」とされています.
 隠岐島に住んでいた白うさぎが,対岸の本土に渡るのに「どっちの仲間が多いか比べてみよう」と嘘をつき,ワニザメを並ばせてその背中を渡って行ったのですが,最後の最後で本当のことを口走ってしまい,最後のサメに皮をはがされ赤肌となってしまいました.そこへ,出雲の国から来た大勢の兄弟神(八十神)が通りかかり,泣いている白うさぎに「もとの体にもどりたいのなら,海水を浴びて風に当たり,高い山の頂上で寝ていれば良い」と教えました.その教えに従った白うさぎは,体が乾くにつれて前よりも痛みが増し,泣き苦しんでいました.そこへ兄神たちの荷物持ちをさせられて遅れてやって来た大国主命が「今すぐ河口に行って真水で体を洗い,河口に生えているガマノハナ(蒲黄)を取り敷き詰めて,その花粉の上を転げ回るが良い」と教えました.その通りにすると,傷は癒えて元通りのきれいな体になったというものです.

今更ながら,既往歴は大切

著者: 山田春木

ページ範囲:P.129 - P.129

 「この病院は,初診時既往歴を記載した外来カルテがほとんどありません!」とお叱りを受けたのは,大規模な保険監査が入ったときのこと.卒業したての医者じゃあるまいし,分刻みの外来で風邪だの腹痛でいちいち内科診断学の真似事をしていられるかと反発を感じた中堅若手医師もいたようですが,わたしは真摯にこの言葉を受けとめたのでした.
 今更ながら,既往歴は大切だと思います.以下の失敗談2例は氷山の一角にすぎません.

調剤過誤について

著者: 津田真智子

ページ範囲:P.136 - P.136

処方箋は正確に
数年前,某病院から発行された院外処方箋をもとに,調剤薬局で調剤された薬剤を服用した患者が,容態急変して入院するという医療事故が発生しました.ちょうどこの病院では,院内調剤から院外処方箋に切り替えたばかりで,「アレビアチン10倍散2g」として処方するところを,担当医師は規格の「10倍散」を省略して「アレビアチン2g」という処方箋を発行しました.薬局は念のため疑義照会を行いましたが,病院からの回答は「医師の処方通りに」であり,薬剤師はおかしいなと思いながらもそのまま調剤して患者に渡してしまいました.結果として患者は服用数時間後に痙攣発作を起こし,意識のないまま救急車で病院に運ばれました.
この病院で採用していたアレビアチンは10倍散だけでしたので,処方箋に「アレビアチン2g」とあれば,院内薬局では「アレビアチン10倍散2g」を調剤する慣行になっていました.そのため,処方医師は,院内処方箋を書くのと同じ感覚で院外処方箋を発行したものと思われます.しかし,院外処方箋はどこの薬局に持ち込まれるのかわかりませんので,全国どこでも通じる書き方で記載する必要があります.

臨床試験成績の表現法

著者: 佐久間昭

ページ範囲:P.143 - P.143

 イタリアの開業医148名(平均卒後年数18年)について,少々意地悪な調査をした結果がある(Lancet 343:1209-1211,1994).心臓イベントと総死亡の二重遮蔽比較試験,Helsinki Heart Study(HHS)(N Engl J Med 317:916-921,1987)が材料で,5年間に2,051例がgemfibrozil,2,030例がプラセボの投与を受け,治療群,プラセボ群でのイベントはそれぞれ56例(2.73%),84例(4.14%),総死亡はそれぞれ45例(2.19%),42例(2.07%)であった.このことから,
 ①イベントの絶対リスク減(absolute risk reduction:ARR)ARR=4.14-2.73=1.41%,

処方箋を書く前に

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.176 - P.176

 私は昭和21(1946)年2月,国立東京第二病院(現 国立病院東京医療センター)内科に着任した.その年の3月,新しい院長として慶応義塾大学医学部内科の初代教授・西野忠次郎先生が就任された.そして昭和30(1955)年3月までの足掛け10年間,私は西野先生直々に内科診療の手解きを受ける幸せな機会に恵まれた.先生は,薬物療法についてはあまり細かいことを言われなかったが,今でも忘れられない思い出が2つ残っている.
 「高価薬を使わなければならない病気かどうか,はっきり確かめなさい.使うにしても患者の経済的な状況をよく考えて,慎重に処分しなければいかんよ.せっかく病気を治そうとしても,経済的に患者を殺すこともあるからね.」

「患者の話をよく聞け」

著者: 伊藤澄信

ページ範囲:P.182 - P.182

 医者になって数年.三次救急にも不安がなくなった頃.16歳の高校生がお母さんに連れられて総合内科の初診外来を受診.昨日から手が震えるようになり,歩行もしにくいという.診察してみると手がこきざみに震えている.歩行させると少し不安定である.これは,年齢も若いし先天性の神経・筋疾患かもしれないが,脳腫瘍なども見落とすわけにはいかないしと,CPKを含む採血と頭部CTを緊急で撮影し,神経内科医長の外来に診療依頼をした.しばらくして,神経内科医長から電話があり,「おまえ,患者さんから話をちゃんときいてないだろう.昨日,○○病院からプリンペラン®が出ているじゃないか.変な症状が出ているときは薬を疑わなきゃだめじゃないか」と怒られた.セカンドオピニオンとまでいわなくても,他の医師の意見も聞きたいと受診される患者さんも多いが,他院に通院していたことを自己申告してくれる患者さんは少ない.「何か薬を飲んでいますか」と聞くのが患者さんの抵抗が少ないので,成人患者には必ず聞くことにしているが,まさか,元気そうな高校生が薬を飲んでいるとは思っていなかった.その患者さんは,プリンペラン®をやめてすぐに不随意運動は消失した.頭部CTや血液検査などに異常がなかったことはいうまでもない.

薬の効き目に男女差がある?

著者: 島田美樹

ページ範囲:P.207 - P.207

 ラットやマウスでは薬の動態と代謝に,性差のあることが古くから知られています.ラットでは,成長ホルモンの分泌パターンに著しい性差があり,この違いが代謝酵素などの発現に影響して,薬効と動態の性差が生じます.ヒトでは成長ホルモンの分泌パターンに性差は認められず,しかも先天的な遺伝的因子や後天的な食事や環境因子などによって現れる「個人差」が大きく,薬の効き目に男女差はないと信じられてきました.
 しかし最近,薬の効き目に男女差があるという報告が増えてきました.例えば,メチルプレドニゾロン,チリラザド,ベラペミルの血漿クリアランスは,女性が男性より高い値を示すという報告があります.これらの薬の代謝にかかわる主な酵素(チトクロームP450)として,CYP3A4があります.この分子種含量に男女差があるとする報告があり,薬物代謝酵素含量の差が薬の効き目に影響している可能性があります.

NNT(治療必要数)告知のすすめ

著者: 別府宏圀

ページ範囲:P.210 - P.210

 「このワクチンを打てば病気に罹患するリスクが半減する」という説明はよく行われる.しかし,罹患率2/10が1/10に減るのも,罹患率2/100万が1/100万に減るのも「半減した」という表現(相対リスク減少,relative risk reduction:RRR)には変わりない.しかし,ワクチン接種を受ける側の身になれば,これを全く同じ表現で説明されるのはどうも釈然としない.それよりは「リスクが10分の1だけ減る」とか,「リスクが100万分の1だけ減る」という表現(絶対リスク減少,absolute risk reduction:ARR)が実態を正しく表している.最近,これに代わってよく使われるのが,治療必要数(number needed to treat:NNT)である.NNTはその治療を何人の人が受ければ,その治療を受けなかった同数の集団よりも1人だけ余分に助かるかを表す数字である.NNTはARRの逆数として計算できる.この表現は,素人にも分かりやすいため,患者に治療の効果や意味を伝えるときに便利である.

チクロピジン(パナルジン®)に関する緊急安全性情報と新聞報道の読み方

著者: 別府宏圀

ページ範囲:P.220 - P.220

 抗血小板薬,チクロピジン(商品名:パナルジン®他)の投与で,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),顆粒球減少などの副作用による死亡患者が過去1年間で17人に及び,死亡を含む重篤な副作用報告は97人であったと報道されている.
 今年7月24日の新聞報道で注目されるのは,国立循環器病センター名誉総長Y氏の談話で次のような内容が添えられていたことである.毎日新聞によると,同氏は「脳梗塞後の患者100人を放置すれば,1年間で10人程度が再発し,この薬(チクロピジン)を使えば,再発は7人程度に減る.つまり,飲んだ患者100人のうち3人程度が利益を得る.一方,この薬は国内で約100万人が飲んでいると推定され,この1年で死亡を含め,重い副作用は145人.(つまり)副作用で苦しむのは1万人に2人弱となる」と述べたことになっている.

生兵法はけがのもと

著者: 大菅俊明

ページ範囲:P.224 - P.224

 病気には,自然経過に任せたほうがよいものと積極的に治療しなくてはならないものとがあります.医学の未熟さから思わぬ病気を医者が作ってしまうことがあります.薬剤による傷害や手術ミスなどです.これらは悪意から出たものではなく,予期もできなかったから,治療という大きな目的のためには仕方がなかったことと言い訳されがちです.しかし,患者さんにとっては大変なことです.
 同じようなことが,医者の誤った説明から起こることがあります.医学の進歩の理解が生半可なために,医者の説明が患者さんを惨めな目に遭わせてしまうことがあります.例えば,こんなことを経験しました.国民病ともいわれるC型肝炎に対する関心が高まっています.60歳の輸血歴のある男性がある病院を受診し,C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性という結果が出ました.そこで主治医から「あなたは将来,慢性肝炎から肝硬変,さらには肝癌になります」と説明されました.しかし,当方では抗体価は低く,さらにHCV-RNA定性検査は陰性でした.肝機能も正常.そこで,「これは既往の感染の可能性が高く,日常生活はもちろん普通にしてよいし,将来もまず肝癌にはならないだろう」と説明しました.

臨床試験でのFinagleの10則

著者: 佐久間昭

ページ範囲:P.230 - P.230

 かつて「犬が西向きゃ,尻尾は東」式のさまざまな言い草を新聞にFinagleあるいはFineigleの筆名で投稿した人がいたらしい.Cyril MaxwellはClinical Trials' Protocol(Stuart Phillips Pubs,1969)のCommon Errors in Clinical Trialsの章に,臨床試験のFineigleの第1法則として「試験が始まると病気は消えていく」と書いている.この種のことには,臨床試験ではよく出合う.LasagnaまたはMünchの法則ともいう.椿・他(編)「これからの臨床試験」(朝倉書店,1999)にまとめたものに若干の解説をつけて,10則を以下に示す.

賠償

著者: 伊藤澄信

ページ範囲:P.233 - P.233

 免疫抑制剤と散剤のステロイドを内服している天疱瘡をもつ45歳男性.患者さんから「ステロイドの減量時と同じように口腔内病変が悪化したので,薬がおかしいのではないか」と連絡があり,調査の結果,薬剤部がステロイドの量を間違えて1/10量を調剤したことが発覚した.散剤なので見た目や味などではわかるはずがないが,病態の変化で薬剤の投与量の違いを指摘できるほど,患者さんは鋭い.40歳代の働いている方なので,口腔内病変の悪化のために勤務できなくなった分の休業補償と医療費の弁済を申し出られている.
 ある病院で1歳の女児で入院中,解熱薬の坐薬を肛門と膣を間違えて挿入.膣からの出血があり,患者さんの家族から高額の賠償と将来問題が生じたときの補償を請求されたという.医療への不信は日増しに強くなっている印象があり,訴訟までは至っていないが,表に出ない事例の示談交渉で病院事務方は頭を抱えている.日本の賠償責任保険費用は米国に比べると著しく低廉であるが,1988(平成元)年に年間300件代後半だった医療訴訟件数が,2000(平成12)年には800件を超え,このままでは保険費用が高騰しかねない.

ゲノム情報の活用事例

著者: 劉世玉

ページ範囲:P.242 - P.242

 近年,遺伝子解析技術の飛躍的な進歩を背景に,ヒトをはじめとする各種生物のゲノム解析や新規遺伝子探索研究が急速に進展し,このゲノム情報の活用が多方面にわたって検討されている.このなかで最も重要でニーズが高いと考えられているのが,各人のゲノム情報・遺伝的特徴をもとに,より個人個人に適した医療を提供することであろう.製薬企業は,薬剤の開発時間を短縮するために,ゲノム情報を基にしたゲノム創薬といわれる新しいアプローチを試みようとしている.ここでは,2つの例を紹介することでこのアプローチの有用性を説明したい.
 アバカビル(ザイアジェン®)は,ヒト免疫不全ウィルス(HIV)の治療によく使われている薬の一つである.この薬の主な副作用は過敏反応(HSR)である.約4.3%の患者が投与開始後6週以内に発熱,発疹,胃腸および呼吸器不快などの症状を訴える.投与を中止すると,症状は速やかに消失する.そこで,アバカビルで治療した患者中,HSRを発症した人としなかった人を選び,遺伝子解析を行った.2つの遺伝子TNF-α-238とHLA-B 57上の多型の有無に,このHSRとの相関性が認められた.

新薬の臨床試験

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.252 - P.252

 最近,治験の参加者を募集する一面全紙の新聞広告をよく見掛ける.「治験への参加は患者全体の利益になるからぜひ参加して下さい」と訴える医師もいる.それでも新薬の臨床試験(治験)は遅々として進まないのが現状であろう.新聞広告で治験の透明性を高めることが,患者の治験の参加を容易にさせる効果はあるかもしれない.しかし,この場合でも,治験を実施する医師は患者の納得・同意(informed consent)を得ることは必須である.「いい薬が出ましたから試してみましょう」という医師の呼びかけに,「お任せします」と答えて,止むなく治験に参加させられる場合が,今でもあるのではないかと危惧している.
 古い話で恐縮だが,昭和61(1986)年7月30,31日の2日間にわたって,生存科学研究所とハーバード大学公衆衛生大学院との共催の形で,「医薬品の開発と行政および倫理」に関する国際シンポジウムが開催された.その席で私は「日本のGCP(Good Clinical Practice)」と題して講演を行い,後のパネルディスカッションにも参加した.

服薬による臨床検査値への影響

著者: 河合忠

ページ範囲:P.265 - P.265

 病める患者はもとよりのこと,健康な人であっても,さまざまな医薬品や一般薬を服用している.時には,成分不詳の漢方薬,いわゆる健康食品と称する薬物らしきものなどを愛用している人たちがいる.こうした人たちの血液や尿を使用して検査を行う場合には,さまざまな形で臨床検査値に影響が出ることを念頭に入れておきたい.2つの異なった様式で影響が現れる.
 一つは,投薬によって体内の代謝が変わって,その結果として,患者の病気とは直接関係なく,臨床検査値が変化する場合である.この場合は,主治医は服用している薬物の薬理作用を知っていれば,どのような形で臨床検査値に変化が現れるかを予測することができる.こうした事項は副作用として説明書に記載されているので,使い慣れない薬物を処方するときはMRから説明を聞くか,または一度は説明書をよく読んでおく必要がある.

地獄で仏

著者: 大菅俊明

ページ範囲:P.280 - P.280

 これは実際の話です.52歳男性.大学教授.診察室のドアを青菜に塩の様子で現れ,「体がだるいし食欲もない」と言います.「自分は肝硬変と診断されており,最近進行しているように思い,眠れない,講義もできない」とも訴えました.診察の結果,たしかに肝硬変はありますが,完全に代償されています.そこで,「肝硬変といってもパンが固いというのと同じで,慢性肝炎とはっきりした差はない.いまの状態は江戸時代だったら発見されず,健常人と同じ.積極的に活動しなくては人生の損」といささか乱暴な説明をしました.しばらくして来られたときは,これが同じ人かとびっくりするような元気な顔つきで,「韓国へ出張講義をしてきた」とのことでした.
 その後,この先生は無事定年まで勤務され,さらには他大学の学長として活躍し,天寿を全うされました.このような例はしばしば経験されます.心臓(気管支ではない)喘息で起座呼吸している男性に聴診器を当てたら,一再ならず収まったこともあります.“病は気から”で,医学的に正確な説明が必ずしも患者さんを元気にするとは限りません.

ISOと臨床検査室

著者: 河合忠

ページ範囲:P.286 - P.286

 患者により安全で,良質の医療サービスを提供するよう,病院機能評価が行われている.(財)日本医療機能評価機構により認定された病院も数百施設に上っているし,それとは別にISO(国際標準化機構)9001「品質管理」規格に基づいた認証を受けている病院もある.
 病院臨床検査部や臨床検査センターについても,同様な動きがある.ISOは1995年から「臨床検査と体外診断検査システム」専門委員会(ISO/TC212)を発足させて,臨床検査室や臨床検査に関連した国際規格案を準備している.また2002年秋に国際規格(IS)として登録される予定の一つに「ISO 15189,臨床検査室—質と適合能力に関する特定要求事項」がある.これは,臨床検査室が消費者(主治医,患者など)により良いサービスを提供するための検査室管理基準である.この国際規格に適合するかどうかを審査する場合の基準でもある.すなわち,このような基準に従って適切に審査する第三者機関により,合格と判断された場合には認定証が発行される.例えば,国際オリンピック委員会は,選手のドーピング検査を担当する臨床検査室については,ISO認定を受けることを条件として提示している.

思いがけない副作用—“浦島太郎”と“幻覚”

著者: 北野邦孝

ページ範囲:P.303 - P.303

 50歳,男性・普段は蓼科に住んでいる.とある瀟洒なレストランのシェフである.季節ごとに帰省というか自分の家に帰ってくると,私のところへ訪ねてくる.ある日のこと,いつものように呼び入れて対面したとたん本当に驚いた.彼のフサフサとした黒髪が全く消え失せ,頭は全面的にツルツルである.しかも,蓄えた口髭と顎髭が真っ白ではないか.つい先般まで流行であったスキンヘッドにしてはおかしい.頭髪を剃った感じではない…,抜け落ちたとしか思えない.口髭,顎髭に手を加えて見事に真っ白にしたとも思えない.私は,思わず「どうしたの?!」と口走ってしまった.「先生,実は蓼科の冬は雪が深くて…,屋根から落ちてきた雪の固まりで背中と腕に打撲傷を負ったんです.あまりに痛いものですから近くの病院へ行きましてね…,ボルタレン®(ジクロフェナクナトリウム)という鎮痛剤をもらったんです.飲みましたらね,痛みはほどなく落ち着いたんですが頭の髪がどんどん抜ける,髭は白くなってしまってこんな有様です」,「へー,驚いた…,まるで浦島太郎だね.頭の髪は抜けて,髭は白くなった?…同じ毛でも性質が違うんだ」.それから半年後,彼の頭髪と髭は元の通りに戻っていた.

漢方にしては効きすぎる?

著者: 中島伸

ページ範囲:P.318 - P.318

 新聞や週刊誌などを見ていますと,「古今東西,詐欺のネタは尽きまじ」という気がします.「米空軍大佐で英国王室の末裔」と自称する結婚詐欺などは,10年周期ぐらいで週刊誌ネタになってきました.彼の場合,これぞという女性の家に正月に電話をかけて,
 「ピー,ガガガガガ(雑音)…,ただ今,厚木基地の上空を飛行中.…ガガガ(雑音).とりあえず,…ア,ハッピー,ニュー,イヤー!」

副作用調査会の頃のこと①

著者: 多賀須幸男

ページ範囲:P.328 - P.328

 私は1975年から1994年まで,厚生省(現,厚生労働省)中央薬事審議会の副作用調査委員会委員をつとめた.全国から厚生省に寄せられる副作用の事例は年間1万件に及ぶそうであるが,そのうちの,死亡の全例,重篤な副作用,新しい副作用などを各分野の委員25名余が集まって討議し,「医薬品副作用情報」にまとめて配布した.現在の「医薬品安全性情報」である.
 重要な副作用情報をいかに速やかに医師に伝達するか,副作用調査会は非常にてこずっていた.印象に残るのはホパテ(calcium hopantenate)の場合である.1978年に小児の脳炎後遺症を適応にして承認されたホパテには,当初から痙攣などの副作用が知られていた.1983年2月に脳出血後遺症に摘応が拡大されると,その年末には低血糖・アシドーシスによる意識障害の事例が報告され,使用量が急増するとともに増え続けた.1987年8月副作用情報,1988年6月に企業から緊急安全情報(ドクターレター),1989年3月医薬品情報と繰り返し警告してようやく終息したが,その間にホパテは30社から発売され,47例の低血糖・アシドーシスが報告され,21例が死亡した.

副作用調査会の頃のこと②

著者: 多賀須幸男

ページ範囲:P.336 - P.336

 副作用調査会では,提出された副作用症例票に基づき審議する.安全性情報に掲載されている症例の概要に比べると遙かに詳しく,関係者の必死な対応の様子が生々しい.配布された資料は手許に残してはいけないことになっていたので記憶に頼るほかないが,想像を絶する多種類の薬剤を併用している事例に委員全員が眉をひそめることがしばしばあった.残念ではるが薬漬けの現実を認めざるを得ない.
 多数の薬剤のうち,どれが被疑薬かを決めるのも調査会の仕事である.時間的な関係などから多少とも疑わしい薬剤はすべて被疑薬としてコンピュータにインプットし,症例数があるレベル以上たまったものは改めて審査をする手堅いシステムになっている.

「薬じゃないけれど」—健康食品・サプリメントの使用について

著者: 丹藤雄介

ページ範囲:P.339 - P.339

 外来に出ていると,患者さんが「これを飲んでもいいですか」と健康食品を持ってくることがあります.忙しいときには「そんなものを飲まないで,病院で出している薬だけを飲んでいなさい」などと言いたくもなるのですが,「健康になりたい」という患者さんの気持ちは大切にしたいものです.また,このような患者さんの相談を無視すると,危険性のあるものに手を出したり(中国産のダイエット剤の事故は記憶に新しいと思います),医師に黙って服用して,首を傾げたくなる検査結果が出たり(糖尿病の患者さんが「疲れるから」と栄養ドリンクを飲んでいたりすることもよくあることです),思いがけないことも起こります.
 「健康食品を利用するのは自己責任で」といった考え方もあるでしょうが,生活指導としてこのような健康食品の適切な利用法や情報の提供を行うことも医師の役割です.日本では現在,非常に多くの健康食品が市販されています.『サプリメント』という言葉も広く普及してきているようです.2002年7月12日現在,厚生労働省が特定保健用食品として認可している食品は,297品目あります.このなかにはヤクルトやカルシウム配合菓子などコンビニなどで見かけるものもたくさんあります.

不安発作?焦燥感?

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.349 - P.349

 大学病院の研修医時代に精神科当直をしていた若い頃の話です.救急医から「32歳の男性で,不安発作の患者さんが来ています」と呼び出されました.不安発作,今では「パニック発作」といいますが,急に漠然とした不安感が患者さんを襲い,動悸がしたり,胸痛がしたり,呼吸困難感を自覚するものです.一般科の先生でも,当直などしているとしばしば経験されるものです.このパニック発作の呼吸困難感に伴って,必然的に浅い息をハーハーするような過呼吸がみられる場合があります.このときには,呼気のなかに二酸化炭素が出過ぎてしまい,結果的に呼吸性アルカローシスの状態に至ってしまいます.そのため,意識がもうろうとなったりするものです.当直をされている先生方は,紙袋再呼吸法によって動脈血中の二酸化炭素分圧を上げようとしたり,精神安定剤の注射をしたり,「大丈夫ですよ,安心してください.息をゆっくり吸って,深呼吸をして…」などと声をかけたりするものです.
 しかしその夜呼ばれた患者さんは,過呼吸もなく,ベッドに横になったり座り直したりしていました.しかし,やはり説明できないような不安な気持ちとか,イライラした気持ち(焦燥感)などは訴えます.

依存と自立

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.358 - P.358

 私は研修医を終了してからもう20年間,精神科医をやっています.その20年間を振り返ると,前半の10年間と後半の10年間では明らかにやり方を変えてきました.もちろん最初から意図したことではなく,いろいろなことがあって修正してきたことですが,これがすなわち臨床医としての成長なんだろうと思っています.
 若いときには,非常に熱心に患者さんの心の中に入り込んで,性格や葛藤を分析したり,アドバイスしたり…という診療態度でした.そうすると,今思えば当たり前のことですが,患者さんは退行し,治療者に依存してくるわけです.さまざまな気持ちを治療者に向けることになり,これは「転移」といわれます.若いときには,あるいは医者になったばかりのときには,患者さんに頼られることは一人前の医者になったようで心地よく,患者さんに依存されることは一人前の大人になったかのように思えるものです.しかしそのような研修の時期には,遠くに転勤したり留学したりする機会があって,そのような患者さんと別れて,他の治療者にバトンタッチすることがしばしばあるわけです.そのようなときに,バトンタッチがうまくいかないと,患者さんは支えを失い不安定になるのです.

糖尿病と腎毒性を有する薬物

著者: 丹藤雄介

ページ範囲:P.364 - P.364

 生活習慣病の代表である糖尿病の診療では,血糖コントロールはもちろん,網膜症や腎症,神経障害の管理や併存している高血圧,高脂血症の治療も行います.外来診療では,特に重篤でない限り,ひと月に1回の受診になることが多いのですが,その間にも患者さんは他の病院や診療科を受診して薬を処方されることがあります.いつも紹介状や頼診券で連絡できるとは限らず,突然腎機能が悪化していたりしてびっくりすることがあります.先日も風邪で近医を受診し,消炎鎮痛薬と抗生物質をもらって5日間服用し,定期外来日に血清クレアチニンが1.0mg/dlから2.4mg/dlまで上昇していた患者さんがいました.非ステロイド系消炎薬は,このほかにも頭痛や歯の治療,整形外科疾患,関節リウマチなどで処方されることが多いのですが,患者さんにも説明しておくことが必要です(糖尿病教室などで説明はするのですが,自分のことと思っていない患者さんが多いようです).また,CTの造影剤や蛍光眼底検査のフルオレセインなどでも腎機能が悪化する症例があることにも注意が必要です.糖尿病では,この症例のような腎機能の悪化以外にも急激な血糖正常化による治療後神経痛,抗血小板薬による眼底出血の悪化など,薬物治療の副作用が知られています.

鎮痛薬誘発型頭痛と慢性連日性頭痛

著者: 橋本洋一郎

ページ範囲:P.376 - P.376

 慢性頭痛の患者は,市販の鎮痛薬で治療を行っていることが多いし,病院を受診した場合でも,医療者側も鎮痛薬を安易に処方してしまうことが多い.それを続けていると鎮痛薬の量が増し,慢性連日性頭痛(chronic daily headache)や鎮痛薬誘発型頭痛(analgesics-induced head—ache,analgesics abuse headache)をきたしてくる場合がある.鎮痛薬誘発型頭痛をきたして大量の鎮痛薬を必要とするようになった場合には,入院のうえ,すべての鎮痛薬を中止し,抗うつ薬や抗不安薬などでしばらく対処し,食事もとれなくなるので輸液を併用する.1週間経過すると頭痛が軽減し始めて食事もとれるようになり,2〜3週間で鎮痛薬なしでも頭痛のコントロールが可能となる.ただし頭痛が完全に消失するのではなく,ある程度の頭痛が以後も長期持続する.頭痛患者で鎮痛薬の量が多い場合は,鎮痛薬誘発型頭痛の存在と予防的治療の必要性について説明し,鎮痛薬の量を減らす努力をしなければならない.最近,片頭痛の治療薬としてトリプタン系薬剤が出現し,片頭痛患者のQOLが向上している.

ありがたい薬—トフラニール®

著者: 北野邦孝

ページ範囲:P.393 - P.393

 42歳,女性.「先生,右眼の周りから奥のほうへ…,痛いんです.本当にイヤな,うずくような,えぐられるような痛みがずっと続いているんです.もう1年以上にもなるでしょうか.あちこちのお医者様で診ていただいたんですが,三叉神経痛とか,いろいろ言われて….でも,治らないんです.何とかしていただきたくて….」
 相当つらそうである.診察すると眼球運動,顔面の動き・感覚に異常はない.痛みの拡がりは三叉神経のどの枝とも,また他の脳神経の分布とも一致しないでやや漠然としている.眼球や眼球周囲の顔面に腫脹や発赤がある訳でもない.

ワーファリンとバファリン

著者: 平野聖治

ページ範囲:P.407 - P.407

 4年前の糖尿病教室でのことであった.嗜好食品について話をしていたところ,Aさんが「主治医から納豆を食べないようにと言われているが,なぜだろうか」との質問を受けた.私はすぐ,食事内容が書かれた患者リストを見た.確かに,Aさんは納豆禁止である.それはワーファリン服用のためで,当然主治医が説明しているはずだと思ったが,Aさんの話を聞くと,確かに以前,心筋梗塞を起こして数種類の薬を服用しており,そのなかにワーファリン剤も含まれていたという.私はAさんに「納豆を食べると薬の効きが弱くなりますよ.なぜかと言えば……」と納豆とワーファリンの関係について説明した.Aさんが納得し,本題に戻ろうすると今度は,Bさんからも「その薬,私も飲んでる」との声があがった.再び,患者リストを見たが,Bさんには納豆禁止のコメントがない.「じゃ,Bさんも納豆禁止だね」と言って,私は本題に戻り話を進めた.教室終了後,Bさんのことが気になり,主治医にBさんが服用している薬をたずねたところ,糖尿病以外の病気でバファリン剤を服用しているとのことであった.

目とブルーベリー

著者: 平野聖治

ページ範囲:P.414 - P.414

 3年前のことになる,温厚そうで大柄な男性(Cさん)が栄養指導を受けに来た.Cさんは年齢52歳,職業は僧侶,身長175cm,体重86 kg(BMI 28.1)で,以前から糖尿病をわずらい,近くの医院に通院していた.しかし,最近,視力低下がみられるようになり,心配になったCさんは,本院の眼科にやってきた.検査の結果,Cさんの目には眼底出血があることがわかった.本人の希望もあり,眼科からの依頼で栄養指導を受けることになったCさんに聞き取りを行ったところ,仕事柄,法事などで会食が多く,最近はアルコールや食事量が増えていたという.ここ3ヵ月間で体重が約5kg増え,自分でも気になっていたらしい.しかし,よくよく話を聞いていくと,Cさんは,毎日小瓶1個のブルーベリージャムを摂っていたことがわかった.事の始まりはこうだ.3ヵ月前,友人が視力回復を願うCさんにブルーベリーは,目に良いと教えてくれた.早速ブルーベリーを用意しようと思ったCさんは,手に入れやすいブルーベリージャムを買い占め,食パンにつけたり,ヨーグルトに混ぜたりして,せっせと食べだしたというのである.

ビタミンB12の威力

著者: 小松則夫

ページ範囲:P.430 - P.430

 20歳代の女性.産婦人科に不妊のため通院中,軽度の貧血と浮腫を指摘され,紹介受診した.低蛋白血症と大球性貧血を認めたが,よく聞くと,小さい頃に腸管の切除をしたという.物心ついたころからずっと浮腫があり,便も下痢状で,近所の医者に診てもらったが,原因はよくわからなかったという.さっそくビタミンB12と葉酸を測定した.葉酸値は正常で,血清ビタミンB12値は正常下限であったと記憶しているが,ずいぶん昔の話で記憶が定かでない点をご容赦願いたい.検査結果が出てから,とりあえずビタミンB12製剤を筋注してみた.なんと驚いたことに,貧血の改善とともに低蛋白血症も改善し,浮腫も消失し,そしてついに妊娠したのである.今では2児の母親となっている.現在も3ヵ月に1回の注射に外来を訪れるが,2人の娘を必ず連れてくる.彼女には私が神様にみえるらしい.
 さてビタミンB12の欠乏と低蛋白血症との関係がわからぬまま,数年が経った.卒後5年目の血液コンサルト係の大学院生が相談に来た.貧血と難治性の浮腫で外科病棟に入院しているという.1ヵ月間精査したが,原因はわからず,その大学院生がコンサルト係として相談を受けたのである.

誰か日本人のエビデンスを作ってくれ!

著者: 中島伸

ページ範囲:P.436 - P.436

 先日,片麻痺で搬入された患者さんは直径3cmの被殻出血でした.3年前に脳梗塞を起こして以来,抗血小板薬を服用しているということです.よもやと思って頭部MRIを撮影すると,T2強調画像で点状に見える病変が多数認められました.あるものは白く高信号に,別のものは黒く無信号に描出されています.どうやらこの患者さんは,ラクナ梗塞のみならず,いわゆるラクナ出血ももっておられたようです.
 ラクナ出血は最近注目されている病態で,陳旧性の微小出血のことです.T2強調画像やFLAIRではラクナ出血とラクナ梗塞の区別がつきにくいものの,T 2強調画像では出血部位に沈着したヘモジデリンが黒く抜けて見えます.

一度飲み始めると,一生…

著者: 加藤哲夫

ページ範囲:P.439 - P.439

 よく,薬を処方するときに患者さんから言われる言葉に,「一度飲み始めると,一生飲み続けないといけないのですか?」というものがある.
 特に血圧関係の薬を初めて処方するときに多い気がする.例えば高血圧の薬物療法に際しては“そのバックグラウンドとなるエビデンスを示して,科学的に説明することを心がけるとよい”とどんな本にも書いてあるので,何はともあれ一生懸命説明をする.「食事の内容を変えるなどするだけで,血圧が下がって薬を飲む必要のなくなる方もいますが,遺伝的な要因があったりすると,それだけではうまくいかない人もいます.あなたもこれまでの経過を見るとどうやらそうなので,このままだと将来これだけのリスクがあり,これを飲むとこれだけリスクが減るのですよ」などと.

恐竜と4割打者の絶滅について

著者: 加藤哲夫

ページ範囲:P.477 - P.477

 先ごろ惜しまれながら亡くなったハーバード大学の古生物学者グールド教授は,古生物や進化のメカニズムを論じた良質な一般向けエッセイの書き手であった一方で,熱狂的な野球ファンでもあった.彼は,大リーグでは1941年のテッド・ウイリアムズ以来なぜ4割を打つ打者が出現しなくなったかを,恐竜の絶滅に対するのと同じような熱意と科学的アプローチで論じている(フルハウス・生命の全容,早川書房).
 彼は言う.打者にとって打撃とは,来た球を何十年前と変わらない素材,つまり木製のバットでひっぱたくだけのことであり続けたのに対して,投手には4割打者がいたころは直球とカーブだけだった球種にさまざまな変化球が加えられ,さらに役割分担の整備された継投策が発達した.したがって徐々に投手が有利になってきていると一般的には考えられているようだが決してそうではないと.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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