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雑誌目次

雑誌文献

medicina39巻3号

2002年03月発行

雑誌目次

今月の主題 わかりやすいゲノム・再生医療の基礎・現状・展望

理解のための31題

ページ範囲:P.516 - P.522

キーワード索引

ページ範囲:P.526 - P.527

欧文
angiogenesis 480
bio-artificial pancreas(BAP) 500
cag Pathogenicity island(cag PAI) 409
CAGリピート病 404
CD 34陽性細胞 476
clarithromycin(CAM) 436
cytochrome P 450(CYP) 432
cytochrome P 4502C19
(CYP 2 C 19) 436

ゲノム・再生医療の現状と展望

著者: 平井久丸

ページ範囲:P.384 - P.386

ポイント
 ゲノム医療と再生医療は21世紀の医学・医療の大きなテーマである.
 ゲノム医療においては,遺伝情報をもとに個体の遺伝学的差異に応じたオーダーメイド医療の実現が期待される.
 再生医療においては,自己再生能力の限界を超えた臓器・組織の機能不全に対し,ドナーの存在に依存しない臓器・組織の再生技術の確立が期待される.

ゲノム医療の基礎知識

ゲノムと疾患

著者: 呉繁夫 ,   松原洋一

ページ範囲:P.387 - P.389

ポイント
 ヒトゲノム計画により,ヒト遺伝子の総数は3〜4万個と推定されている.
 遺伝疾患には,染色体異常,単一遺伝子病,多因子病,体細胞遺伝疾患がある.
 SNPの系統的な解析により,高血圧や糖尿病といった生活習慣病の発症リスクの算定が可能になると期待されている.

ヒトゲノムプロジェクト—全解読へのカウントダウン

著者: 服部正平

ページ範囲:P.390 - P.393

ポイント
 ヒトゲノム計画の発端および目的,解読の現状などその歴史を把握する.
 ヒトゲノムの解析から,ヒト遺伝子の総数は3〜4万と推定されている.
 ヒトのもつ高度な機能の獲得は,遺伝子数よりもその転写,翻訳さらには相互作用が重要らしい.
 ヒトゲノムに関連したさまざまな情報の獲得と利用にはコンピュータ科学が必須である.

遺伝子診断に用いられる技術

著者: 村上善則

ページ範囲:P.394 - P.396

ポイント
 遺伝病や癌の遺伝子診断は,染色体やDNA,RNAの異常を検出することにより行われる.染色体の欠損や転座の検出には,Giemza染色に加え,FISH法,SKY法,CGH法などが,また塩基配列の異常の検出には,塩基配列決定法のほかに,SSCP法,変性HPLC法,DNAチップ法などが試みられている.
 PCR法の普及は,遺伝子診断の実用化に大きく貢献した.

遺伝子治療の理念と方法

著者: 島田隆

ページ範囲:P.398 - P.400

ポイント
 遺伝子治療は遺伝病を遺伝子レベルで治療する方法として考えられていたが,最近では遺伝子導入技術を利用した治療を広く遺伝子治療と呼ぶようになっている.
 高率で遺伝子導入できるウイルスベクターが開発されたことにより,遺伝子治療の臨床研究が可能になった.臨床応用されているレトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターだけでなく,アデノ随伴ウイルスベクターやHIVベクターの開発が行われている.
 すでに3,000人以上の患者に対する臨床試験が行われているが,技術的にはまだ多くの問題があり,有効性が確認できた例は少ない.今後,遺伝子治療を発展させていくためには,まだ多くの基礎研究が必要である.

ゲノム医療の倫理

著者: 福嶋義光

ページ範囲:P.402 - P.403

ポイント
 生殖細胞系列の遺伝子情報は生涯変化することがないこと,および本人だけではなく血縁者にも一部共有されていることから,種々の倫理問題を内包している.
 倫理問題の解決のためには4つの倫理原則(自己決定権の尊重,善行,被害防止,正義)に則って考える必要がある.
 遺伝子情報に関連した倫理問題の解決のためには,十分な遺伝カウンセリングを行うことのできる診療体制の構築が必要である.

ゲノム医療の現状

遺伝性神経疾患の遺伝子診断

著者: 後藤順

ページ範囲:P.404 - P.407

ポイント
▶数多くの遺伝性疾患の原因遺伝子が同定され,原理的には遺伝子診断が可能である.
▶遺伝子診断が可能になったことによって,これまで分類・診断の困難であった疾患の分類・診断が明確に行えるようになった.
▶疾患,すなわち対象とする遺伝子により遺伝子診断の難易度が異なる.

H. pyloriの遺伝子診断

著者: 杉山敏郎 ,   浅香正博

ページ範囲:P.408 - P.410

ポイント
 H. pylori感染胃粘膜では炎症細胞浸潤を伴う組織学的胃炎があるが,症状を伴う疾患を発症するのはその一部である.
 多様な病態はH. pylori菌株の多様性,感染宿主との相互作用などから検討されてきた.
 ウレアーゼは本菌を最も特徴づける酵素であり,感染診断の代表的な標的遺伝子である.
 vac A遺伝子の変異は感染の地理的分布によって決定ざれ,H. pyloriの進化過程を反映している.
 H. pylori感染胃粘膜では著しい白血球浸潤があり,組織傷害の重要な機序である.
 cag PAIは4型分泌機構を介し白血球活性化に中心的役割を演じているIL-8産生に関与する.
 cag A遺伝子は間接的にcagPAIの存在を示唆するマーカー遺伝子と考えられる.
 保険診療で可能な除菌法に含まれるクラリスロマイシン耐性菌が,年々増加している.本剤耐性菌の遺伝子診断も可能である.

白血病の遺伝子診断

著者: 三谷絹子

ページ範囲:P.412 - P.415

ポイント
 白血病の遺伝子診断の代表的技術は,サザン解析とRT-PCR法である.
 サザン解析では,リンパ性白血病の細胞系列決定のために免疫グロブリン遺伝子およびT細胞受容体遺伝子の再構成の有無が検討される.
 RT-PCR法では,染色体転座の結果発現するキメラmRNAの有無が検討される.

癌の遺伝子診断

著者: 湯浅保仁

ページ範囲:P.416 - P.418

ポイント
 癌化に関連する遺伝子には,癌遺伝子・癌抑制運伝子・DNA修復遺伝子があり,これらの異常として,点突然変異,塩基の欠失・挿入,染色体欠失,遺伝子増幅,メチル化などがある.
 遺伝子診断により,癌の検出,癌の性質の判定などができるほか,遺伝性腫瘍では確定診断,保因者かどうかの発症前診断が可能である.

高血圧の遺伝素因とその遺伝子診断—遺伝情報から発症リスクをどこまで予測できるか

著者: 檜垣實男 ,   勝谷友宏 ,   荻原俊男

ページ範囲:P.420 - P.423

ポイント
 単一遺伝子異常による高血圧症の原因遺伝子が明らかにされている.
 本態性高血圧のリスクとなる遺伝子多型も数多く報告されている.
 レニン-アンジオテンシン系遺伝子は最も重要な高血圧関連遺伝子である.
 本態性高血圧の遺伝子診断は環境因子を考慮したリスク評価となる.

糖尿病の遺伝素因とその遺伝子診断—遺伝情報から発症リスクをどこまで予測できるか

著者: 北里博仁 ,   原一雄 ,   野田光彦 ,   門脇孝

ページ範囲:P.424 - P.428

ポイント
▶糖尿病遺伝因子の一つは,疾患因子としての効果が強く保因者はほぼ罹患する単遺伝子異常によるものであるが,こうした遺伝子異常による糖尿病は糖尿病全体の数%を占めるに週ぎない.もう一つは,疾患因子としては効果が弱いが,糖尿病の運伝因子として頻度が高く非発症者にも存在する疾患感受性遺伝子で,その主な原因は1塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)と考えられている.今後,個々人の遺伝子多型情報を蓄積し,大半の2型糖尿病に対する運伝素因を解明することが非常に重要である.

遺伝子治療の実際と国内外の現状

著者: 小澤敬也

ページ範囲:P.429 - P.431

ポイント
 X連鎖重症複合免疫不全症に対する造血幹細胞遺伝子治療が成功した.
 血友病Bに対する遺伝子治療は一部の例で効果を認めたが,さらに改良が必要である.
 心血管病変などの慢性疾患に対する遺伝子治療が今後増えていくものと予想される.
 日本でも癌に対する遺伝子治療を中心に臨床研究が活発化しつつある.

ゲノム医療の展望

遺伝子多型と薬物代謝

著者: 中島美紀 ,   横井毅

ページ範囲:P.432 - P.435

ポイント
 薬の効き方の個体差の主要な要因は薬物代謝酵素の遺伝子多型にある.
 主な薬物代謝酵素であるチトクロムP450(CYP)には多くの分子種が存在するが,ほとんどの医薬品の代謝を触媒しているのは,CYP1〜3ファミリーに属する分子種であり,遺伝子多型が存在する.

SNPに基づくHelicobacter pyloriの治療

著者: 古田隆久 ,   白井直人 ,   杉本光繁

ページ範囲:P.436 - P.440

ポイント
 肝のCYP2C19にはSNPによる遺伝子多型が存在し,プロトンポンプインヒビター(PPI)の代謝,酸分泌抑制効果に個人差が生じる.
 H. pyloriは,23S rRNAのSNPによってclarithromycinに対して耐性を獲得する.
 PPIと抗生物質によるH. pyloriの除菌の成否は,CYP2C19の多型とH. pyloriの抗生物質感受性に依存し,これらを事前に検査して治療計画を立てることが有用である.

ファーマコジェネティクスとゲノム創薬

著者: 能見貴人 ,   藤田芳司

ページ範囲:P.441 - P.443

ポイント
 薬剤に対する応答性の個人差は,遺伝子配列の個人間での多様性に起因する.
 ファーマコジェネティクスでは,個々人の遺伝的多様性と薬剤に対する反応性を関連づける.
 テーラーメイド医療では,これまでの“集団”を対象にした医療から“個”を対象として個別最適化された医療が実施される.
 世界初のテーラーメイド薬ハーセプチンでは,使用する患者を特定することで副作用の出現を最小限に抑えながら高い治療効果を得ることに成功した.

DNAチップの医療への応用

著者: 油谷浩幸

ページ範囲:P.444 - P.448

ポイント
 DNAチップとは,DNAを高密度に整列化したものである.
 プローブDNAとのハイブリダイゼーションにより遺伝子発現量,遺伝子多型などの解析に用いられる.
 網羅的なゲノム機能解析に有効である.
 遺伝子診断,創薬への応用が期待される.

個人化医療(オーダーメイド医療)への展望

著者: 水島—菅野純子 ,   菅野純夫

ページ範囲:P.450 - P.452

ポイント
 個人化医療(オーダーメイド医療)とは,ゲノム情報の個人間での違いに基づいて,一人ひとりの病気の質または体質に合ったきめの細かい治療を行う医療のことである.
 個人化医療は,集団の平均値的治療を行う従来型医療に比し,薬の副作用を大幅に回避でき,確実に治療効果の得られる医療として期待されており,注目を集めている.

再生医療の基礎知識

組織幹細胞と間葉系幹細胞

著者: 朝比奈欣治 ,   立野知世

ページ範囲:P.453 - P.455

ポイント
 骨髄,脳,皮膚,小腸,肝臓,骨格筋などの組織には,多分化能をもつ組織幹細胞が存在している.
 骨髄に存在している造血幹細胞と間葉系幹細胞は,胚葉を超えた細胞分化能を示す.
 組織幹細胞を用いた再生医療応用が具現化しつつある.

胚性幹細胞(ES細胞)

著者: 小川峰太郎

ページ範囲:P.457 - P.459

ポイント
 胚性幹細胞は着床前胚である胚盤胞内の未分化細胞から,胚性生殖細胞は生殖隆起の始原生殖細胞からそれぞれ樹立される.
 胚性幹細胞は生殖細胞を含めたあらゆる細胞系列に分化する全能性をもち,この未分化性を維持したまま継代培養できる.
 胚性幹細胞は試験管内でもざまざまな細胞系列に分化する能力をもつ.

生体組織工学

著者: 田畑泰彦

ページ範囲:P.460 - P.462

ポイント
 生体組織工学とは,組織臓器の再生を促すための適切な場を構築するのに不可欠な医工学技術・方法論である.
 生体組織工学では,細胞,細胞の増殖分化のための足場,および細胞増殖因子を組み合わせて用いる.
 生体組織工学には生体材料が不可欠であり,その役割は,細胞の分離・培養および増殖分化の足場,細胞増殖因子のDDS,隔離である.
 再生医療のための幹細胞の生物学・医学の進歩も,生体組織工学の手助けがなければ,医療に還元することはできない.

移植と免疫

著者: 磯部光章

ページ範囲:P.463 - P.465

ポイント
 移植医療の医学的問題の解決は移植研究の中心的課題である.移植後の患者のQOLは決して健常人と同じでない.さらに,心臓移植では5年生存率は7割程度であり,肺や小腸ではそれにはるかに劣る.移植前後の医療の進展や移植に代わる新たな技術開発が望まれる.革新的な技術の開発により移植医療が根本的に変わっていくことが期待される.

再生医療の倫理

著者: 塚田敬義

ページ範囲:P.466 - P.467

ポイント
 現在,ライフサイエンスが社会とどうかかわり合っていくのかが問われており,まさにbioethicsの問題である.
 bioethicsとは,ELSI(ethical,legal and social issues:倫理的・法的・社会的問題)として捉えなくてはならない.

再生医療の現状

培養皮膚代替物の開発現状

著者: 黒柳能光

ページ範囲:P.468 - P.470

ポイント
 表皮の角化細胞と真皮の線維芽細胞は,皮膚の再生と修復に関与する重要な細胞である.
 角化細胞を使用したものは培養表皮,線維芽細胞を使用したものは培養真皮,両者の細胞を使用したものは培養皮膚と呼ばれ,すでに米国において製品化されている.
 国内では,組織工学製品に関するガイドラインが2000年末に発表され,製品化が期待されている.

脳死臓器移植の現状

著者: 松田暉 ,   福嶌教偉 ,   澤芳樹

ページ範囲:P.472 - P.474

ポイント
 本邦で臓器移植法施行後62例の臓器移植(肝13例,心臓11例,肺8例,腎24例,膵腎同時5例,小腸1例)が実施された.
 ドナー不足はきわめて深刻で,待機期間は長く,心臓移植では補助人工心臓からのブリッジが主体となっている.
 臓器移植の普及が切望されるとともに,代替治療,例えば再生医療の開発が期待される.

造血幹細胞と造血幹細胞移植

著者: 権藤久司

ページ範囲:P.476 - P.479

ポイント
 造血幹細胞は,骨髄のみならず,末梢血や臍帯血中にも存在する.
 骨髄に比べ,臍帯血にはやや未分化な造血前駆細胞が,末梢血中にはやや分化した造血前駆細胞が多く含まれている.
 幹細胞源が多様化し,さまざまな造血幹細胞移植が実施されている.各移植法の特徴と問題点を把握しておくことが重要である.

細胞移植を用いた血管再生医療

著者: 室原豊明 ,   明石英俊 ,   吉本幸治 ,   今泉勉

ページ範囲:P.480 - P.485

ポイント
 成人の末梢血液中には,内皮細胞に分化しうる内皮前駆細胞が存在する.
 内皮前駆細胞は,成人においては骨髄より動員される.
 自己骨髄細胞や,内皮前駆細胞,あるいは遺伝子導入された幹細胞を移植することで血管新生をコントロールすることができるようになる可能性がある.

生体肝移植

著者: 北順二 ,   窪田敬一

ページ範囲:P.486 - P.488

ポイント
 本邦で行われた生体肝移植は1,000例を超え,その生存率は,小児で80%,成人で70%を上回る.
 ドナーの選択は,主にABO式血液型判定とグラフト肝容積/レシピエント標準肝容積(GV/SV)で決定される.
 レシピエントの術後合併症は,肝動脈および門脈の血栓症,感染症,急性拒絶反応がある.移植肝の再生は,術後急速に起こる.

造血幹細胞の増幅

著者: 安藤潔

ページ範囲:P.490 - P.493

ポイント
 造血幹細胞移植は,造血幹細胞の自己複製能と多分化能に支えられた代表的な「再生医療」ということができる.
 造血幹細胞が体外で増幅できるようになれば,さまざまな臨床的有用性が期待される.
 ヒト造血幹細胞は異種動物に移植して,in vivoでの造血能をみる方法が代替法として考案され測定可能となった.
 骨髄ストローマ細胞とサイトカインを利用することにより,ヒト臍帯血幹細胞の体外増幅が可能となってきた.

再生医療の展望

組織工学技術を用いた骨・軟骨の再生医療

著者: 上田実

ページ範囲:P.494 - P.499

 人口の高齢化が進み,骨関節に障害を起こし日常生活に支障をきたす人の数は年々増加し,日本整形外科学会によればいまや人口の1%に達しようとしている.高齢者の歩行機能の障害は,最終的には体全体の生理機能を損なうことに直結しているので,なんとしても関節機能を回復させねばならない.関節に不可逆的な障害が生じると,これまでは人工関節が使用されてきた.わが国では現在,年間約5万個,費用総額約500億円の人工関節が設置され,根治療法の一つとして一定の地位を築いている.しかし長期間の使用によるゆるみ,感染,イオン溶出による全身反応など依然として未解決な問題を抱えている.したがって医療用具としての平均寿命は10年程度で,高齢者にとって手術のやり直しといった想像を絶する苦痛は避けて通れない.
 この状況を解決する有力な方法が最近になって開発された.再生医療である.損傷を受けたり吸収したりした骨・軟骨組織を再生することができれば,関節疾患に苦しんでいる患者を通常の健康な生活スタイルに復帰させることが可能になる.

膵島の再生医療

著者: 堀洋 ,   井上一知

ページ範囲:P.500 - P.505

ポイント
 増加の一途をたどる糖尿病患者に対して,合併症の進展阻止をもなしうる根本的な治療法の臨床応用が緊急的課題とされている.
 膵島細胞と高分子膜を組み合わせたバイオ人工膵・カプセル化膵島細胞を用いた再生医療は,糖尿病治療に有効と考えられる.
 血管新生誘導前処置後のバイオ人工膵・カプセル化膵島細胞皮下移植治療は,低侵襲かつ簡便で普遍的な膵島再生医療を提供しうる.
 当初ブタ膵島細胞の応用で実現されるであろう膵島再生医療は,幹細胞や胚性幹(ES)細鉋から分化誘導したヒト由来膵島細胞を用いた再生医療に転換されることが予想できる.

神経幹細胞を用いた神経再生医療

著者: 神鳥和代 ,   髙坂新一

ページ範囲:P.506 - P.508

ポイント
 神経幹細胞は,自己複製能および多分化能をもち,ニューロンやアストロサイトなど神経系を構成する種々の細胞の源となる未分化な細胞である.
 神経幹細胞から成熟した細胞へ分化していく過程には,細胞内の転写因子,細胞外のリガンド,細胞膜上のレセプターなど多くの因子が関与している.
 この神経幹細胞を脳内移植することにより,Parkinson病において傷害を受けている黒質線条体神経回路を再構築できることが期待される.

間葉系幹細胞を用いた心筋の再生

著者: 福田恵一

ページ範囲:P.510 - P.512

ポイント
▶骨髄間質細胞中の間葉系幹細胞に5-アザシチジンを投与することにより,心筋細胞に分化誘導できる.骨髄由来の心筋細胞は自己拍動能を有し,周囲の細胞と連結し同期して収縮する.また,収縮蛋白質の遺伝子発現は胎仔型を呈する.再生心筋細胞を心臓に移植することにより,新しい心不全の治療につながるものとして期待されている.

胚性幹細胞株樹立と再生医療

著者: 安近健太郎 ,   中辻憲夫

ページ範囲:P.513 - P.515

ポイント
 胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)株は,受精卵が発生を開始した初期の胚盤胞内に存在する内部細胞塊の細胞から樹立された細胞株である.
 ES細胞は三胚葉(外胚葉,中胚葉,内胚葉)すべての細胞に分化する能力をもつ多能性幹細胞であり,癌化することなく無制限の増殖能をもつ.
 ヒト胚の利用に関して,現在世界的コンセンサスとなりつつあるのは,受精後14日後にあたる原条期以前のヒト初期胚(着床前胚)については,医療・福祉に明確なメリットのある研究に限り,厳密な審査のうえ用いることができるというものである.

演習 心電図の読み方・17

薬剤による影響

著者: 大久保豊幸 ,   山科章

ページ範囲:P.529 - P.534

Case
 症例1:83歳女性.
 主訴:意識消失.
 経過:著明な洞性徐脈の精査目的に入院中,深夜に発作性心房細動(心拍数約120/分,意識清明)出現.当直医によりジソピラミド50mgを静脈注射され洞調律に復帰.再発予防のため翌朝ジソピラミド50mgを内服.同日夕,突然の胸部苦悶感に引き続く意識消失が出現.意識消失時のモニタ心電図,およびその拡大所見である.意識消失発作の既往はなく,入院時血液ガス,血清電解質に異常はない.

プライマリケアにおけるShared Care—尿失禁患者のマネジメント・6

治療—薬物療法・手術療法

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.536 - P.538

薬物療法
 下部尿路は自律神経支配臓器(図1)で,蓄尿・尿排出に自律神経が深くかかわっている.また,女性の下部尿路とこれを支える筋群・靱帯が女性ホルモンに感受性であることが薬物療法の根拠となっている.
 腹圧性尿失禁の原因は,膀胱底下降と後尿道膀胱角開大による尿道括約(閉塞)機能低下と解釈できる.α刺激薬は尿道と膀胱頸部を閉塞し,尿道括約機能を補助するため良好な臨床効果が得られるが,末梢血管収縮,血圧上昇の副作用により高齢者には使用できない.近年,α1受容体のサブタイプが明らかとなり,尿道特異的なα1遮断薬(タムスロシン,ナフトピジル)は臨床応用されており,有用な尿道特異的なα1刺激薬も開発される可能性はある.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.539 - P.544

カラーグラフ 消化管内視鏡検査—知っておきたい基礎知識・15

十二指腸疾患

著者: 橋本洋 ,   中村真一 ,   石黒久貴

ページ範囲:P.546 - P.550

十二指腸の内視鏡検査のポイント
 上部消化管内視鏡検査の時間配分を考慮すると,癌の発生頻度が低い十二指腸の観察より,食道-胃の観察に十分時間をかけるべきである.本稿では,十二指腸病変を効率よく観察するために十二指腸潰瘍と十二指腸球部の変形,十二指腸炎と十二指腸絨毛,十二指腸乳頭部病変を中心に内視鏡観察のポイントを述べる.

今求められる説明義務・12【最終回】

説明責任

著者: 古川俊治

ページ範囲:P.552 - P.555

説明責任の意義
 医療事故被害者にとって,法的手段により損害賠償を請求し,経済的救済を受けることは,最も基本的な権利である.しかし,大部分の医療事故被害者にとって,損害賠償の問題が最も重要なわけではない.現に愛する家族を失ったり,自分の身体機能が損なわれてしまった場合,単なる経済的救済ではなく,精神的な苦悩・憤慨に対する支援こそ,より重要な問題である1).多くの場合,医療事故被害者が望むのは,以下の3点である.
 第1に,自分(あるいは家族)に何が起きたのか,なぜ,それが起きたのかを知りたがり,医療従事者の誰かに責任があるのであれば,その者から対面して謝罪を受けること求める.

新薬情報・20

メシル酸イマチニブ(グリベック®)カプセル100mg

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.556 - P.558

適応■慢性骨髄性白血病(chronic myelocyticleukemia:CML).日本の添付文書では染色体検査〔Philadelphia染色体(Ph)陽性を指すと思われる〕および遺伝子検査(Bcr-Abl遺伝子陽性を指すと思われる)によりCMLと診断された患者に限ると注意がある.一方,米国では,すべての病期のCMLでインターフェロンαに不応の患者とされている.
用法・用量■成人には,慢性期のCMLに対しては1日1回イマチニブ400mgを食後に経口投与する.なお,臨床反応により1日1回600mgまで増量可能とされる.一方,移行期または急性転化期には1日1回600mgから開始し,適宜1日800mg(400mgを1日2回)まで増量できる.副作用として血小板や白血球減少症が発現した場合の減量ガイドラインは添付文書に与えられている.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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