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雑誌目次

雑誌文献

medicina39巻5号

2002年05月発行

雑誌目次

今月の主題 腸疾患診療のノウハウ Editorial

腸疾患の診断・病態・治療

著者: 日比紀文

ページ範囲:P.752 - P.753

ポイント
 ライフスタイルの欧米化で,腸疾患の様相は変貌しつつある.
 病態の正しい把握が適切な治療につながる.

症状からの診断

腹痛・腹部膨満

著者: 朝倉均

ページ範囲:P.755 - P.757

ポイント
 腹痛の診断は患者の愁訴をよく聞くことである.
 腹痛には,内臓痛性腹痛,体性痛性腹痛,および連関痛がある.
 腹痛を訴える部位は体性痛とは一致するが,内臓痛とは一致しないことが多い.
 腹痛には緊急に対処しなければならない急性腹症がある.
 腹痛以外の症状を勘案して,原因疾患を絞る.
 腹部膨満は腹水,鼓腸,気腹,腫瘤による.

便通異常(下痢・便秘)

著者: 佐々木賀広 ,   棟方昭博

ページ範囲:P.758 - P.759

ポイント
 下痢の診断は,発症様式,罹患中の疾患,薬剤の服用歴,既往歴,誘発因子,随伴症状の問診から.
 糞便検査と大腸内視鏡検査で診断を確定する.
 便秘の診断は二次性便秘(薬剤性,代謝・内分泌性,神経・筋原性,器質的障害)の除外診断から.
 特発性便秘は,弛緩性便秘と痙攣性便秘に分類され,臨床症状から鑑別する.

下血

著者: 高橋宏明 ,   伊東文生 ,   今井浩三

ページ範囲:P.760 - P.762

ポイント
 下血,血便を主訴とする患者を診察する際には,まず全身状態を把握し,循環動態を安定させることが重要である.
 問診や理学所見だけでもある程度の鑑別診断は可能であり,内視鏡,血管造影などの適切な検査法の選択により確定診断が可能となる.

診断のための検査法

診察手技(腹部診察・直腸診)

著者: 吉川敏一 ,   東原博司 ,   吉田憲正

ページ範囲:P.764 - P.766

ポイント
 腹部診察に際して,腹部だけでなく全身を系統的に診察することが重要であり,まず視診により全体像を評価し局所所見へと移る.
 視診,触診,打診,聴診を駆使し,決して診察を急いで行ったり省略するべきではない.触診を行うときは,軽い触診から始めるようにする.

検便

著者: 藤谷幹浩 ,   高後裕

ページ範囲:P.768 - P.770

ポイント
 便潜血反応検査は,化学法と免疫法に大別される.化学法は全消化管の出血を,免疫法は主に下部消化管の出血を反映する.
 化学法では動物のHbや鉄剤などの薬剤により偽陽性を生じることがある.免疫法では洗浄剤の混入により偽陰性を生じやすい.
 便細菌学的検査および寄生虫検査では,検査前に目的菌(寄生虫)をできるだけ絞り込んでおく.
 便細菌学的検査の結果を正しく解釈するには,検出された菌が常在菌か否か,血清型や毒素産性の有無はどうか,について十分考慮する必要がある.

血液検査

著者: 太田慎一 ,   藤盛健二 ,   藤原研司

ページ範囲:P.772 - P.773

ポイント
▶良性疾患では,貧血と炎症所見が重要である.
▶悪性疾患では,貧血と腫瘍マーカーが重要である.

大腸内視鏡

著者: 岩男泰 ,   日比紀文

ページ範囲:P.775 - P.777

ポイント
 大腸内視鏡はルーチン検査ではあるが,手技的に難度が高く,患者に負担を強いる検査である.
 検査の必要性や内容をよく説明し,患者の不安を取り除くことが重要である.
 吸引,引き戻し操作を多用して腸管の短縮を図り,なるべく直線的に挿入する.
 大腸の解剖学的特徴をよく理解し,体位変換や用手圧迫などの補助操作を行う.

注腸造影および小腸造影

著者: 杉野吉則

ページ範囲:P.778 - P.781

ポイント
 注腸X線検査では造影剤が均一に付着した二重造影像を盲点なく撮影し,詳細に読影すれば,微細な病変も見逃すことはない.
 検査に際して,前処置を十分に行い,適切な造影剤を十分に用いて,個々の患者の大腸に応じた空気量を注入する.
 体位変換を効率よく行うには,大腸の立体的な走行を理解していなければならない.
 造影剤を流した直後に撮影し,背臥位や腹臥位の正面像だけでなく側面や強い斜位の画像も撮る.
 腸管の屈曲や重なりに対しては,軽度の圧迫が有効である.
 小腸検査は,盲点を作らないように腸の係蹄を一本ずつ分離してみていくことが肝要である.

腸炎における専門医へのコンサルトのタイミング

著者: 飯塚文瑛

ページ範囲:P.782 - P.784

 炎症性腸疾患の診断は,病歴・理学所見・病原微生物の検出・腸管の画像診断・腸管粘膜の病理診断・病態の時間経過による変化,治療に対する反応などにより総合的になされる.その内容は以下のように分類され,各診断のための検査ごとに,専門医へのコンサルトのタイミングが考えられる.分類には,「診断の目的による分類」と「検査方法による分類」があり,「診断の目的による分類」は,①疾患の鑑別診断,②腸炎の活動度診断,③治療の効果診断,④colitic cancer surveillance(長期経過の腸炎に合併する癌の検索),に分けられる.
 コンサルトにあたり,まず臨床経過を詳細・簡潔に述べ,検査をどの目的で行っているかわかるように検査内容(観察・所見の取り方・記録写真の撮り方)を告げることが必要である.「発症からの経過・症状・腹部理学所見・全身状態」の詳細な分析は,どのレベルの医師にとっても欠かせない腸炎の診断方法である.

新しい検査法(CT・MRI)

著者: 今井裕

ページ範囲:P.785 - P.787

ポイント
 炎症性腸疾患に対して,CT検査では病変部位,周囲脂肪織への炎症の波及,さらに膿瘍などの合併症の有無を診断することができる.
 MRIは正常腸管壁の層構造を描出でき,癌の壁内浸潤を含めた病期診断をすることができる.
 痔瘻などの他の腸疾患においても,MRIは鑑別に重要な画像所見を提供する.

大腸癌スクリーニング

著者: 五十嵐正広 ,   若林健司 ,   勝又伴栄

ページ範囲:P.788 - P.789

ポイント
 無症状群のスクリーニングには,便潜血検査を行う.
 便潜血検査が1回でも陽性になった場合には,大腸の検査を行う必要がある.
 便潜血検査陰性であっても大腸癌は否定できない.
 有症状群のスクリーニングには,注腸造影検査と大腸鏡検査を行う.

治療

腸疾患の生活指導・食事指導

著者: 林篤 ,   北洞哲治

ページ範囲:P.791 - P.793

ポイント
 慢性腸疾患の症状は軽いことも多く長期にわたるため自己管理が難しく,生活指導・食事指導が重要である.
 過敏性腸症候群では患者に病気を理解させ,患者自身が治療に積極的に関与していると感じさせることが大切である.
 潰瘍性大腸炎では過度の生活・食事指導は不要である.女性に対しては妊娠しても安全に薬を使えることを説明するべきである.
 Crohn病では厳格な食事指導が必要であり,特に脂肪制限が重要である.

止痢薬・整腸薬

著者: 樋田信幸 ,   里見匡迪

ページ範囲:P.794 - P.796

ポイント
 止痢薬には収敷薬,吸着薬といった腸粘膜刺激緩和薬や,アヘンアルカロイド,塩酸ロペラミド,副交感神経抑制薬などの腸運動抑制薬,殺菌防腐薬がある.
 整腸薬は乳酸菌製剤などの生菌製剤が主であり,近年プロバイオティクスと定義される.
 下痢の原因により適切な止痢薬・整腸薬を使用することが肝要である.

下剤

著者: 岡崎和一

ページ範囲:P.797 - P.799

ポイント
 近年,高齢化や食生活の欧米化などにより便秘は増加しており,下剤の使用法はますます重要になっている.
 器質性(症候性)便秘では,下剤投与よりも原因疾患の治療が第一である.
 便秘の訴えがあっても,不快や苦痛がなければ,下剤の必要はない.
 使用に際してはそれぞれの作用機序と禁忌を理解し,乱用は避けるべきである.

腸管運動(機能)調節薬—抗コリン薬など

著者: 永田博司

ページ範囲:P.800 - P.802

ポイント
 腸疾患の病態には,腸管運動とこれを調節する内在性腸管神経系の異常が関与している.
 腸管運動と腸管神経系調節にかかわる受容体・神経伝達物質が,薬物治療のターゲットである.
 疾患と病型に応じて,腸管運動の促進薬・抑制薬のなかから適切な薬剤を選択する.

抗菌薬

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.803 - P.805

ポイント
 感染性腸炎以外にも抗菌薬治療の対象となる腸疾患は多い.
 感染性腸炎の多くは自然寛解性であり,抗菌薬の濫用は慎みたい.
 炎症性腸疾患,特にCrohn病の一次的治療として,抗菌薬の有効性が注目されている.
 重篤な腸疾患では,微小穿孔に由来する腹腔内・全身性感染症の予防と治療を目的とした抗菌薬治療が妥当とされる.

日常よくみられる疾患

過敏性腸症候群

著者: 本郷道夫 ,   吉沢正彦

ページ範囲:P.806 - P.808

ポイント
 過敏性腸症候群は,反復する便通異常と排便によって軽快する腹痛があり,それを説明するに足る器質的所見のないものを指す.
 除外診断のための検査は必要最小限にとどめる.
 治療にあたっては,十分な説明と保証のうえで,生活習慣の改善,ストレスの回避を行い,病態に関与するさまざまな要因に焦点を当てた薬物療法を行う.

虚血性腸炎

著者: 佐々木大輔

ページ範囲:P.810 - P.811

ポイント
 原因不明の腸管の虚血による壊死性病変をいう.
 病型は壊疽型および非壊疽型に分ける.
 大腸内視鏡検査のなかの0.1〜1.0%にある.
 高齢者に多いが,若年発症もある.
 好発部位は左側結腸である.
 最も多い症状は腹痛,下痢,血便である.
 内視鏡は診断の確定にきわめて有用であり,できるだけ早期に実施する.
 非壊疽型は保存的療法を主体とする.壊疽型は手術が適応であるが,死亡率は約50%である.

大腸憩室炎・憩室出血

著者: 渡邊昌彦

ページ範囲:P.812 - P.814

ポイント
 憩室症の半数以上は無症状である.
 注腸X線透視や大腸内視鏡で確定診断される.
 憩室炎の診断はCTが有用である.
 憩室炎の治療は原則として保存的治療である.
 穿孔性腹膜炎,瘻孔,膿瘍,狭窄は外科的治療が必要である.
 大量下血の止血にバリウムによる注腸X線透視が有用である.

大腸ポリープ・早期大腸癌

著者: 津田純郎 ,   松井敏幸

ページ範囲:P.816 - P.819

ポイント
 大腸ポリープは,広義には大腸管腔内に隆起したものすべてを呼称する言葉である.狭義には良性上皮性腫瘍や腫瘍様病変などを指す言葉として使われることが多い.したがって,大腸ポリープには多くの疾患が含まれる.
 腺腫は良性上皮性腫瘍だが,頻度が高く,癌のprecurcerとも考えられており,臨床的にも病理学的にも重要な病変である.
 早期大腸癌は,病理組織学的に粘膜内癌と癌浸潤が粘膜下層にとどまる病変で,固有筋層以深に浸潤した進行癌と区別されている.

大腸癌

著者: 小平進 ,   野澤慶次郎

ページ範囲:P.820 - P.822

ポイント
 大腸癌はわが国でも増加傾向が続く重要な疾患で,その主たる治療法は手術療法である.
 根治性と術後QOLを考慮した適切な治療法(術式)の選択のためには,病期決定因子に対する詳細な検索が必要となる.そのために必要な診断・検査法を十分理解することが大切である.
 手術療法も年々進歩してきており,その成績も向上してきている.

急性虫垂炎

著者: 荒武寿樹 ,   亀岡信悟

ページ範囲:P.824 - P.826

ポイント
 典型例では心窩部から次第に右下腹部に移行する腹痛を訴える.
 臨床病理学的にはカタル性,蜂窩織炎性,壊疽性に分類されるが,一連の炎症過程のどの時期であるかを早期に診断することが大切である.
 治療は,カタル性のものでは抗生物質投与により改善することがあるが,基本的には虫垂切除である.過度に進行すると,回盲部切除など侵襲の大きな手術を余儀なくされることがある.

痔核・痔瘻

著者: 船橋公彦 ,   寺本龍生

ページ範囲:P.827 - P.830

ポイント
 痔核・痔瘻は日常よく経験する疾患であるが,その診断にあたっては悪性疾患や炎症性疾患を念頭に置いた診察が必要であり,特に指診が重要となる.
 肛門は解剖学的には排泄のコントロールという重要な機能を有し,その障害は患者のQOLに大きな影響を与えることから,肛門疾患に対しては的確な診断と治療が要求される.

腸閉塞

著者: 佐々木巌 ,   椎葉健一 ,   内藤広郎

ページ範囲:P.832 - P.834

ポイント
 腹痛の発症,排ガス停止,反射性嘔吐などの初期症状から敗血症を呈しMOFとなる晩期症状までの変化に注目.
 単純性イレウスと絞扼性イレウスの鑑別診断が重要.
 POSに基づく治療方針の決定が有用.
 局所所見の変化とともに全身状態の悪化に注意し,脱水・電解質異常の補正を腹部の治療に併行して行う.

海外渡航者の下痢症

著者: 福元俊孝 ,   三浦総一郎

ページ範囲:P.836 - P.838

ポイント
 旅行者下痢症の頻度は高く,その予防が重要である.
 下痢症患者の診察に際しては,海外渡航歴の問診を忘れてはならない.
 一般的対症療法に加え,重症例に対してはempiric therapyや病原体に応じた積極的治療も必要である.

鑑別すべき重要な疾患

潰瘍性大腸炎

著者: 倉田仁 ,   渡辺守

ページ範囲:P.840 - P.843

ポイント
 血便,下痢の患者を診たとき,潰瘍性大腸炎は常に鑑別疾患の一つに挙がる.
 特異的な所見はないので,特徴的な所見を多く集め総合的な診断が必要であり,また鑑別診断が重要となる.
 基本は内科治療であるが,重症・激症例では外科,専門施設との連携が重要となる.

Crohn病

著者: 飯田三雄

ページ範囲:P.844 - P.846

ポイント
 腹痛,下痢,発熱,体重減少を主症状とする原因不明の難治性炎症性疾患である.
 臨床症状,血液一般検査所見,便潜血反応から疑診し,消化管のX線・内視鏡検査と生検によって確診する.
 縦走潰瘍,敷石像,非乾酷性類上皮細胞肉芽腫,アフタが診断上重要な所見である.
 治療は,栄養療法を主体とし,薬物療法を併用する内科的治療が基本である.

出血を伴う感染性腸炎

著者: 櫻井幸弘

ページ範囲:P.848 - P.850

 感染性腸炎は程度の差こそあれ,ほとんどが出血を伴う疾患である.ロタウイルス腸炎は出血を呈さないとされていたが,最近の報告では血便をきたすことがあるとされている.コレラは例外であるが,出血は細菌が組織へ侵入し上皮細胞を破壊することで起きる.出血という観点からみると大量出血は稀で,血便量が多く見えても水様下痢便で希釈されるためであり,ヘモグロビンの低下をきたすことは少ない.下痢や腹痛が強いため臨床的には重症感が強く,周囲も患者も慌てることが少なくない.診断に際しての注意点を述べ,症例を通じて鑑別診断について述べたい.

アメーバ赤痢

著者: 向林知津 ,   有井研司 ,   一瀬雅夫

ページ範囲:P.851 - P.852

ポイント
 アメーバ赤痢は近年増加傾向を認め,性行為感染が主な要因の一つとされている.
 慢性型では粘血便,下痢,腹痛,発熱などの症状を呈し,炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎),過敏性腸症候群などとの鑑別が重要である.
 診断にあたっては,病変の分布および典型的な内視鏡像をよく理解し,その所見より本症を疑うことが大切であり,確定診断にはアメーバを標的とした検査,特に内視鏡下生検組織の病理学的検査と免疫学的血清反応が有効である.

薬剤性腸炎

著者: 吉岡政洋

ページ範囲:P.853 - P.855

ポイント
 薬剤性腸炎は抗菌薬,NSAIDs,抗癌剤などにより発症する.その病像は,偽膜,出血,潰瘍,びらんなど多彩で,感染性腸炎,虚血性腸炎,炎症性腸疾患などとの鑑別を要する.
 便培養や内視鏡像などから診断は比較的容易である.しかし原因薬剤を中止して,対症療法を行いながら治療的診断を行うべきである.

偽膜性腸炎

著者: 金城福則 ,   豊見山良作 ,   川根真理子

ページ範囲:P.856 - P.857

ポイント
 抗菌薬の投与後,下痢や発熱,腹痛,腹部膨満などの症状がみられ,白血球増多がみられたら偽膜性腸炎を疑う.診断が遅れると死に至ることもあり,注意を要する.
 直腸中心の内視鏡検査で迅速に診断が可能である.また,ほとんどの症例で前処置は不要である.
 原因となった抗菌薬の中止や,メトロニダソール,バンコマイシンなどの内服で多くは治癒する.止痢薬・抗コリン薬などの腸管蠕動抑制薬は,中毒性巨大結腸症を誘発することもあり,控える.

その他の稀な疾患

著者: 古賀秀樹 ,   春間賢 ,   清水香代子

ページ範囲:P.858 - P.860

ポイント
 腸の器質的疾患で腹部症状を呈する場合,腫瘍性疾患や感染性腸炎などの頻度が高い.
 稀ではあるが重要な疾患として,腸結核,腸型Behcet病・単純性潰瘍,非特異性多発性小腸潰瘍症,直腸粘膜脱症候群,cap polyposis,急性出血性直腸潰瘍が挙げられる.
 潰瘍性大腸炎やCrohn病とは全く異なる特徴的な臨床像を十分に理解したうえで,腸疾患診療に臨む必要がある.

理解のための30題

ページ範囲:P.861 - P.866

Scope

座談会—消化吸収不良患者から栄養を考える

著者: 鈴木一幸 ,   福田能啓 ,   丹藤雄介 ,   中村光男

ページ範囲:P.868 - P.876

 中村(司会)お忙しいところお集まりいただきまして,ありがとうございます.本日は「消化吸収不良患者から栄養を考える」というタイトルで,それぞれの専門の先生にお話をお伺いしたいと思います.
 今まで日本の医学においては,主に糖尿病,肥満,高血圧症,高脂血症といったものが生活習慣病として取り上げられてきましたが,今後は消化器病もそういった側面から見る必要があると思われます.食物を消化吸収するステップが障害されるという場合を考えながら,日常生活において栄養がどういうものかを,疾患から眺めてみるというのが今回の趣旨です.

プライマリケアにおけるShared Care—尿失禁患者のマネジメント・8

高齢者尿失禁の調節・治療時の留意点

著者: 並河正晃

ページ範囲:P.878 - P.881

高齢者尿失禁の特性
 高齢者の身体の特徴は,治らない(慢性の)複数の疾患と,それらを原因とする複数の病態が,1人ひとりの高齢者に同時に存在(共存)し続けることである.
 そのため高齢者の疾患・病態の調節・治療は,診療各科,看護,リハビリテーションなど,①専門各分野の適切な連携(shared care)が必要であり,尿失禁の場合も同様である.尿失禁以外の疾患・病態が,すでに調節・治療されていることも多く,それらのための薬剤の②副作用として尿失禁が生じていることもある.逆に尿失禁の調節・治療薬が新たな疾患・病態を起こしうる.また,多疾患・多病態のなかの尿失禁は,複数の原因(疾患)による③複数の尿失禁タイプによって構成されることも多い.さらに,多疾患・多病態のなかで,排便障害,ことに④糞づまりが重要であり,糞づまりの予防が,尿失禁をはじめ続発する疾患や病態の発来防止になるという認識が欠かせない.要介護の高齢者のなかで⑤寝たきり高齢者には,排泄(排尿・排便)に適した姿勢があらかじめ整えられる必要がある.

カラーグラフ 消化管内視鏡検査—知っておきたい基礎知識・17

大腸ポリープ

著者: 佐竹儀治 ,   町田マキヨ ,   益満博

ページ範囲:P.883 - P.886

●大腸ポリープとは
 大腸ポリープとは,大腸の粘膜面に隆起を形成する良性の上皮性病変の総称である.粘膜下腫瘍は非上皮性病変であるから,内視鏡的にそれとわかる病変に対しては大腸ポリープとは呼ばない.また,形態的特徴から悪性と診断できる病変も最初から大腸癌と診断する.しかし病理組織診断によらなければ癌であることがわからない病変も少なくないので,これらの早期癌が摘除前に大腸ポリープと診断されることは少なからずありうる.
 このように大腸ポリープとは,病理検査後にいろいろと質的診断される隆起性病変の確定診断以前の臨床診断名である.

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.887 - P.892

内科医のためのリスクマネジメント—医事紛争からのフィードバック・2

診療録(カルテ)の重要性

著者: 長野展久

ページ範囲:P.894 - P.897

診療録の位置づけ
 診療録の記載方法については,医学生時代に内科総論でPOMR(problem oriented medical record)を体系学的に学び,研修医として勤務する頃からSOAP(主観的所見・客観的所見・評価・計画)に沿った記載方法を用いている場合が多いと思います.ところが,訴訟へと発展するケースの診療録は往々にして,メモ書きのような記載で字が汚くて判読できないとか,あるいは肝心なことが記載されていないために「粗診粗療ではないか」と判断されがちです.そのために医師の立場からみるときわめて不当な判決へと至ることがあります.
 それでは,どのような診療録にすれば過不足なく質の高い医療を行っていると判断されるのか,という点については,各大学,各診療科,出身医局などによってもさまざまな意見があり,なかなか統一するのは難しいと思います.そこでご参考までに,米国のある研修病院におけるガイドラインを紹介しますと,この施設では,「history」,「examination」,「medical decision making」の3つを最低限の記載項目と定め,さらに同僚医師による診療録の評価(peer review)も取り入れています.

新薬情報・21

インターフエロンアルファコン-1(遺伝子組換え)(アドバフェロン®注射液1200,アドバフェロン®注射液1800)

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.898 - P.900

適応■HCV-RNAが陽性のC型慢性肝炎患者のウイルス血症の改善
用法・用量■成人には,1日1回1,200万〜1,800万国際単位(IU)を連日または週3回皮下投与する.投与期間は通常24週間である.欧米の文献では投与量を重量で記載している場合が多い.本剤1,800万IUは18μgに相当する.インターフェロンアルファコン-1は溶液の剤型で市販されており,ヒト血清由来アルブミンも添加されておらず,液量も少ない(アドバフェロン®注射液1200は0.4ml,アドバフェロン®注射液1800は0.6ml).このため皮下投与が容易である利点がある.ちなみに米国で発売されている剤型では用量が1瓶当たり900万および1,500万IUに相当する9μgおよび15μgである.貯蔵は遮光条件で2〜8℃とし,凍結すると効力が低下するため保存にあたっては注意を要する.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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