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雑誌目次

雑誌文献

medicina39巻8号

2002年08月発行

雑誌目次

今月の主題 内分泌疾患の拾い上げとマネジメント overview

日常診療における内分泌疾患の拾い上げとマネジメント

著者: 和田典男 ,   𠮷岡成人

ページ範囲:P.1272 - P.1274

ポイント
 内分泌疾患を見逃さずに拾い上げるには,問診,身体所見,一般検査所見から医師自らが「気付く」ことが重要である.
 内分泌疾患を疑った場合のホルモン測定や画像診断は,それぞれの検査の意義や限界を知ったうえで適切な選択を行う必要がある.
 検査技術の進歩・普及に伴い,無症候あるいはsubclinicalな内分泌疾患の取り扱いをどうするかという新たな問題が浮かび上がってきている.

いつ,どのように内分泌疾患を疑うか?

いつ,どのように甲状腺疾患を疑うか

著者: 高須信行

ページ範囲:P.1276 - P.1279

ポイント
 必ず甲状腺を触診する.
 皮膚は甲状腺の機能を反映する.
 不整脈,頻脈,遅脈に注意する.
 原因不明の心不全は甲状腺の病気も考える.
 原因不明の体重減少はBasedow病も考える.
 Basedow病特有の眼を常に頭に!

いつ,どのように下垂体疾患を疑うか

著者: 井口元三 ,   千原和夫

ページ範囲:P.1281 - P.1283

ポイント
 下垂体疾患患者の訴えは,曖昧で非特異的な内容が多い.
 病名を念頭に置いて積極的に疑って問診,診察,検査を行うことが重要.
 食欲,体重,尿量,便通,気温変化の感受性,月経などの問診事項に注意する.
 単に高血圧,肥満,糖尿病,精神疾患と決めつける前に,内分泌疾患は必ず除外する.

いつ,どのように副腎疾患を疑うか

著者: 宮地幸隆

ページ範囲:P.1284 - P.1285

ポイント
 臨床的に明らかに副腎疾患が疑われる場合,各疾患の特徴的な症状から各疾患に応じた内分泌学的検査を行う.
 臨床的には明らかではないが副腎ホルモン分泌が正常でないことが疑われる場合,各疾患でみられる一般検査や非特異的な症状も考慮して内分泌学的検査を行う.
 他の検査などで偶然見つかる副腎疾患としては,超音波検査やCTスキャンなどにより偶然発見される無症状の副腎偶発腫瘍があり,副腎疾患のなかでは最も頻度が高い.

いつ,どのように性腺疾患を疑うか

著者: 藤枝憲二

ページ範囲:P.1286 - P.1289

ポイント
性腺疾患は生命にかかわる疾病ではないため,患者自身が自覚して受診することはあまり多くはない.したがって他の訴えで外来を受診した際,あるいは学校の内科検診などでピックアップすることが大切となる.この際,正常な二次性徴の発達年齢を熟知しておくことが重要で,年齢不相応に二次性徴の発達が早かったりあるいは遅かったりしたら,性腺疾患の疑いをもって診断・検査を行う.

いつ,どのように副甲状腺疾患を疑うか

著者: 加藤佳幸 ,   佐藤幹二

ページ範囲:P.1291 - P.1292

ポイント
 低アルブミン血症の場合には,血清Ca値の蛋白補正が必要である.
 血清Ca値が10mg/dl以上ならば高Ca血症と考えてよい.
 高Ca血症の症状は多彩で視診や問診では診断できないので,不定愁訴のある患者には血清Ca,P,アルブミンを測定する.
 低Ca血症は,Trousseau徴候が誘発されれば視診でも診断可能である.

内分泌疾患のマネジメント—一般医が対応できる疾患

バセドウ病

著者: 真尾泰生

ページ範囲:P.1294 - P.1296

ポイント
▶バセドウ病は一般に考えられるよりきわめて頻度の高い疾患である.典型的な症状が目立たない症例もあり注意を要する.
▶その診断は疑いをもてば容易であり,診断ガイドライン(案)も作成されている.
▶治療は患者の病態・生活を考えながら選択される.抗甲状腺薬治療は数年にわたることが一般的で,患者の理解と同意が欠かせない.

無痛性甲状腺炎

著者: 小澤安則

ページ範囲:P.1297 - P.1299

ポイント
 甲状腺中毒症を呈する疾患ではBasedow病に次いで多く(全体の約1割),治療法が異なるので鑑別が重要.
 無痛性甲状腺炎は甲状腺中毒症(1〜3ヵ月)→機能低下症(1〜数ヵ月)→正常甲状腺機能,と推移することを特徴とする.
 無痛性甲状腺炎は,再発を繰り返す傾向が強い(分娩後など).

亜急性甲状腺炎

著者: 山本邦宏

ページ範囲:P.1300 - P.1302

ポイント
 高熱と強い頸部痛を訴える症例では,必ず甲状腺の触診を行う心構えが必要である.
 強い自発痛・圧痛を伴う硬い甲状腺腫瘤を触れる.
 経過に伴い有痛性の硬結が他側に移動する(creeping現象).
 炎症による甲状腺濾胞の崩壊により大量の甲状腺ホルモンが血中に漏出して,2週間〜3ヵ月間の一過性甲状腺中毒症がみられる.
 炎症は自然緩解する(self-limiting).
 疼痛・発熱などの症状の強い症例では副腎皮質ホルモン治療を行う.
 血沈・CRPを指標として徐々に副腎皮質ホルモンを減量する.

甲状腺機能低下症—慢性甲状腺炎

著者: 高松順太

ページ範囲:P.1304 - P.1305

ポイント
 症状は「静か」なため,見逃されやすい.発見は医師ではなく,患者がテレビの「甲状腺」番組を見て自分のことではないかと気づくことが少なくない.
 ホルモンの補充量を適切に決定する.
 妊娠中のコントロールは,きわめて重要である.

甲状腺結節—良性病変

著者: 貴田岡正史

ページ範囲:P.1306 - P.1308

ポイント
 積極的マススクリーニングの可否については種々の意見がある.
 良悪性の鑑別は超音波断層検査を中心に行う.
 美容上の要求や腫瘍による圧迫症状がなければ,必ずしも治療の対象とならない.

内分泌疾患のマネジメント—専門医のマネジメントが望ましい疾患

甲状腺結節—悪性病変(特に濾胞癌と腺腫の手術適応)

著者: 岡本高宏 ,   小原孝男

ページ範囲:P.1310 - P.1311

ポイント
 甲状腺濾胞癌は良性腫瘍との鑑別が難しい.
 腫瘍が充実性で,大きく,血中サイログロブリン値が1,000ng/mlを超えるときには手術を勧める.
 腫瘍内に石灰沈着を認めるときにも手術適応と考えられる.

下垂体前葉機能低下症

著者: 安斎治一 ,   須田俊宏

ページ範囲:P.1312 - P.1316

ポイント
 月経異常,性欲低下,全身倦怠,筋力低下,低血糖,低ナトリウム血症などから下垂体前葉機能低下症を疑う.
 検査により下垂体機能を評価し,適切な補充療法を開始する.
 手術・外傷・感染症の合併時などには,副督皮質ホルモンの補充量を増量する.
 ACTH・TSH両者の分泌不全の場合,副腎皮質ホルモンの補充を開始した後に甲状腺ホルモンを投与する.

Cushing症候群

著者: 佐々木昭彦 ,   宗友厚 ,   安田圭吾

ページ範囲:P.1317 - P.1319

ポイント
 肥満・高血圧症・糖尿病の患者を診療する際はCushing症候群を念頭に置く.
 Cushing症候群は,病因によりACTH依存性と非依存性に分けられる.

先端巨大症

著者: 島津章

ページ範囲:P.1321 - P.1323

ポイント
 先端巨大症の症候として,発汗過多,軽微な顔貌変化,先端部の肥大などに注意する.
 成長ホルモンおよびインスリン様成長因子-1の高値,ブドウ糖負荷による成長ホルモン抑制の欠如,画像診断による下垂体腺腫の存在から診断する.
 トルコ鞍内に限局する腺腫では手術成績が良いことから,早期発見が望まれる.

尿崩症

著者: 石川三衛

ページ範囲:P.1324 - P.1326

ポイント
 多尿をきたす疾患では,中枢性尿崩症,腎性尿崩症,心因性多飲症の鑑別がキーとなる.
 中枢性尿崩症の病因には,家族性,特発性,続発性がある.特発性ではリンパ球性漏斗部下垂体後葉炎に,また続発性では下垂体前葉機能低下症の併発に留意する.
 腎性尿崩症には,バソプレシンV2受容体と水チャネルアクアポリン-2遺伝子の異常によるものがある.

下垂体炎

著者: 永井聡 ,   木島弘道 ,   小池隆夫

ページ範囲:P.1328 - P.1330

ポイント
 リンパ球性下垂体炎には,前葉炎と漏斗下垂体後葉炎があり,特徴的な画像所見を呈する.
 前葉炎では下垂体機能低下症を,漏斗下垂体炎では尿崩症を呈する.
 治療は低下したホルモンの補充療法を基本とするが,薬理量のステロイド投与の有効な例や自然回復例もある.

SIADH

著者: 本多一文

ページ範囲:P.1331 - P.1333

ポイント
 SIADHの診断では,脱水がなくNa利尿の持続を確認し,ADH分泌方進を証明することが重要である.
 水制限により脱水をきたす場合にはSIADHでない可能性があり,他の治療法を検討する.
 橋中心髄鞘融解の予防のために,低Na血症の補正は1日5mEq/l以内とすることが望ましい.

二次性高血圧症—原発性アルドステロン症

著者: 西川哲男 ,   齋藤淳

ページ範囲:P.1334 - P.1337

ポイント
 高血圧症に潜む二次性高血圧症で最も頻度の高いのが原発性アルドステロン症である.
 臨床症状は特になく,高血圧を示すのみでも本疾患が原因の高血圧症があることを決して忘れない.当然であるが,低カリウム血症を示せば本疾患を鑑別する必要がある.
 副腎腫瘍・過形成によるアルドステロン過剰症であり,塩分貯留型高血圧症である.通常のCT画像で副腎病変が明らかでない副腎の微小病巣により生じるアルドステロン過剰症も考慮する必要がある.

二次性高血圧症—褐色細胞腫

著者: 高野和彦

ページ範囲:P.1339 - P.1341

ポイント
 褐色細胞腫は稀であるが,二次性高血圧の代表的疾患であり,診断が確定されれば治癒も可能である.
 きわめて多彩な臨床像を呈するため,診断のためにはまず本症を疑うことが大切である.
 本症の診断は,血中および尿中のカテコールアミンとその代謝産物の増加の証明である.画像診断ではCT,MRIが有用であるが,131I-MIBGによるシンチグラフィは副腎外腫瘍や転移病巣の検出にきわめて有用である.

二次性高血圧症—腎血管性高血圧

著者: 村上英之 ,   島本和明

ページ範囲:P.1342 - P.1344

ポイント
 二次性高血圧症のなかでは腎実質性高血圧に次いで多く,根治可能な高血圧のなかでは最も頻度が高い.
 カプトプリル負荷試験はスクリーニングに有用であり,確定診断は腎動脈造影と腎静脈血レニン活性の評価が必要である.
 治療は経皮経管腎血管形成術を第一選択とする.

原発性副甲状腺機能亢進症

著者: 鈴木康博 ,   井上大輔 ,   松本俊夫

ページ範囲:P.1345 - P.1347

ポイント
 わが国では比較的頻度の高い疾患で,約3,000〜5,000人に1人の割合で発症する.
 血清Caが高値で低〜正P血症が存在し血清intact PTHが血清Caに対して高値である場合,家族性低Ca尿性高Ca血症(FHH)が否定されれば原発性副甲状腺機能亢進症と診断できる.
 無症候例でもすでに骨塩量が低下している場合も多く,禁忌例を除いては可能な限り手術を推奨する.

二次性副甲状腺機能亢進症

著者: 角田隆俊 ,   但木太

ページ範囲:P.1349 - P.1353

ポイント
 最近の透析患者では,活性型ビタミンD製剤や炭酸カルシウムを中心とするリン吸着剤が投与されているにもかかわらず,PTH分泌が亢進する.
 副甲状腺の活性型ビタミンDに対する抵抗性,Caイオンに対する感受性の異常,リンの直接効果などが,新たな機序と考えられている.
 二次性副甲状腺機能亢進症の治療の最終目的はPTH値を減少させることではなく,骨の改善と,Ca,Pの適正化による,心・脳血管障害の予防である.
 高Ca,Pを引き起こさないために内科的治療に抵抗する場合には,早期にPEIT,PTxなどの対処が必要と考えられる.

副甲状腺機能低下症

著者: 山本通子 ,   井原善明 ,   山本頼綱

ページ範囲:P.1354 - P.1357

ポイント
 副甲状腺機能低下症患者の主訴として多いのは,テタニー発作とてんかん様全身痙攣発作であるが,自覚症状のない例もある.
 生化学的診断は,慢性的低Ca高P血症の確認と血中PTHの測定により行う.治療は活性型ビタミンD製剤で行う.血清Ca値のコントロール目標を正常下限値付近とし,高Ca尿症の出現を避ける.

偶発腫瘍と腫瘍随伴症候群へのマネジメント

副腎incidentaloma

著者: 和田典男

ページ範囲:P.1358 - P.1360

ポイント
 画像診断(CT)における副督腫瘍の大きさと性状から,ある程度の診断の絞り込みが可能である.
 内分泌異常では,preclinical Cushing症候群と褐色細胞腫が重要である.
 手術適応はホルモン産生腫瘍と悪性が疑われる腫瘍であり,それ以外の場合は経過観察を行う.

下垂体incidentaloma

著者: 山王なほ子 ,   大山健一 ,   田原重志 ,   寺本明

ページ範囲:P.1362 - P.1364

ポイント
 非機能性の腫瘍性病変がほとんどであるが,無自覚の機能性腺腫を見逃してはならない.下垂体前葉ホルモンのチェックが必要.
 MRIで病変の大きさと視神経との関係を検討する.
 経過観察とする場合は,下垂体卒中の可能性について触れておく.

甲状腺微小癌

著者: 伊藤康弘 ,   隈寛二 ,   宮内昭

ページ範囲:P.1366 - P.1368

ポイント
 甲状腺微小癌は臨床的に問題になることは少ない.
 ハイリスクではない微小癌は,経過観察をしてよい.
 微小癌を経過観察する場合は,定期的に超音波検査を実施すべきである.

paraneoplastic syndrome

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1370 - P.1371

ポイント
 高カルシウム血症の原因の90%は副甲状腺機能亢進症と癌によるものである.
 癌の患者が食欲不振・嘔気・嘔吐・便秘を訴える場合には,高カルシウム血症の存在を考慮する.
 悪性高カルシウム血症の治療はカルシウム値が11.0mg/dlを超えた時点で始められる.14mg/dl以上では治療を強力に行う.
 治療の中心は,生理食塩水による脱水の改善とビスホスホネートによる破骨細胞作用の阻止である.

内分泌疾患の救急への対応

甲状腺疾患の救急(甲状腺クリーゼ)

著者: 高澤和永 ,   斉藤博紀 ,   高木正雄

ページ範囲:P.1372 - P.1374

ポイント
 高熱,異常発汗,頻脈,下痢があったら甲状腺クリーゼを疑う.
 眼症状,びまん性甲状腺腫の有無を確認.
 甲状腺のドプラエコーが緊急時には有効.

下垂体・副腎疾患の救急

著者: 松田彰

ページ範囲:P.1375 - P.1379

ポイント
 原因不明の循環不全,意識障害をみたら内分泌クリーゼを疑うこと.
 既往歴や最近の経過についての情報は,重要な診断の手ががりになる.
 クリーゼの原因が正しく診断できれば,治療が成功する可能性は高い.

高齢者の内分泌疾患

高齢者の内分泌疾患

著者: 阿部好文

ページ範囲:P.1380 - P.1382

ポイント
高齢者の内分泌疾患は若年者の場合と異なり,甲状腺腫や眼球突出,色素沈着といった診断の手がかりになる症状・症候に乏しく,全身倦怠感,易疲労感,筋力低下,記銘力低下,ぼけ,といった通常の老化と区別のつきにくい症状のみのことが多いので,普段から内分泌疾患かもしれないという意識で患者を診る習慣をつけ,拾い上げる努力をしないと誤診する可能が高い.

座談会

日常診療における内分泌疾患のマネジメント

著者: 石川三衛 ,   小原孝男 ,   高松順太 ,   𠮷岡成人

ページ範囲:P.1384 - P.1395

 𠮷岡(司会) 今日は「日常診療における内分泌疾患のマネジメント」というテーマで,お話をお伺いしようと思います.

理解のための29題

ページ範囲:P.1396 - P.1401

演習 腹部救急の画像診断・2

バイク走行中に乗用車と衝突した51歳男性

著者: 稲葉彰 ,   葛西猛 ,   八代直文

ページ範囲:P.1403 - P.1407

Case
 症例:51歳,男性.
 主訴と経過:バイク走行中に右折乗用車と正面衝突し,バイクのハンドルで上腹部を強打し救急搬送される,なお受傷時の意識喪失はなく,腹部以外の外傷は認められない.
 理学所見:バイタルサイン安定,意識清明,腹部全体の強い自発痛の訴えと筋性防御を認める.来院時の腹部CT像(通常条件)を提示する(図1).

連載

目でみるトレーニング

ページ範囲:P.1408 - P.1414

カラーグラフ 消化管内視鏡検査—知っておきたい基礎知識・20

大腸粘膜下腫瘍

著者: 宮崎士郎 ,   鶴田修 ,   豊永純

ページ範囲:P.1417 - P.1420

 消化管粘膜下腫瘍の定義1)は,「病変の主体が粘膜下層以深に存在し,その表面は周囲と同様の粘膜に覆われていて,なだらかな立ち上がりを呈する隆起性病変である」といえる.大腸粘膜下腫瘍は主に筋原性腫瘍や脂肪腫などの非上皮性腫瘍であるが,便宜上,上皮性腫瘍であるカルチノイドや非腫瘍性病変である腸管嚢腫様気腫症,子宮内膜症なども含めることが多い.

プライマリケアにおけるShared Care—尿失禁患者のマネジメント・11

高齢尿失禁患者の退院調整—ケアマネジャーの立場から

著者: 山脇みつ子

ページ範囲:P.1422 - P.1424

 今日,少子・超高齢化社会を迎え家族介護力が低下し,社会的入院の増加が問題視されている.2000年4月からスタートした介護保険は,おおむね順調に利用されているが,入院中からの退院調整は必ずしもうまく行われていないように感じられる.
 障害をもった患者が,退院後も住み慣れた地域で安心して在宅で暮らすには,入院中から退院後の生活を想定した早期退院調整が不可欠である.介護保険導入以来,退院した患者が利用するサービスは,介護保険と医療保険の両方にまたがり,多様化し複雑になった.しかし,送り出す医療現場は,入院患者の検査や処置などの業務に追われ,退院後の生活にまで目が向かない(向ける余裕がない)のが現実である.そのため退院調整が不十分になり,サポートがないまま退院したり,退院できる患者が施設への入所待ちになり,結果的にベッドの回転も悪くなるという悪循環に陥っている.

短期連載 医師が出遭うドメスティック・バイオレンス・3

DV被害の診断と被害者への支援

著者: 長谷川京子

ページ範囲:P.1426 - P.1430

医療機関がDV被害者の支援に連なる理由
1.DVは重大な健康問題
 DV防止法では,初めて,医師その他の医療関係者がDV被害者支援にかかわることになった.
 アメリカでは,年間200万人以上の女性がDVの被害に遭い,救急治療室で外傷の治療を受ける女性のうち19〜30%,外来女性患者のうち14%が,DVの被害を受けているといわれている.DVによる医療費の総額は,年間18億ドルにも上ることから,「公衆衛生の問題でもある」と認識されている.日本ではこれまで,DVを「派手な夫婦喧嘩」くらいに捉えて見過ごしてきたので,このように医療分野からDVを捉えたデータはまだない.しかしDVの実態そのものは,日本とアメリカ,いや世界のさまざまな文化的歴史的違いを持つ国との間で驚くほど共通しているため,今後調査すればやはり膨大な数値が現れて,その深刻な実態が明らかになることだろう.日本でも,DVは国民の重大な健康問題として総合的な取り組みが待たれる問題である.

内科医のためのリスクマネジメント—医事紛争からのフィードバック・5

内視鏡検査と医療事故(1)

著者: 長野展久

ページ範囲:P.1432 - P.1435

内視鏡事故
 医療技術の進歩に伴って内視鏡検査は広く普及するようになり,上部・下部消化管内視鏡検査,気管支内視鏡検査,腹腔鏡検査などは比較的気軽に施行できる身近な検査となりました.そして内視鏡関連の診断技術,治療技術も格段に向上し,学会などの教育講演でビジュアルに紹介されることもあって,数年前までは大学病院で扱うような難しい症例が,一般病院でもごく普通に治療できるようになりました.
 こうした内視鏡検査の進歩によってもたらされる「光」の面とは裏腹に,内視鏡検査に伴う「影」の部分も急増し始め,単純なミスからハイレベルの事故までさまざまなケースが医事紛争へと発展しています.医師の立場では,内視鏡検査に伴って発生する合併症を「偶発症」と呼んでいて,どちらかというと「不可抗力」という位置づけがなされており,またそう考えたくなるようなケースも実際に存在します.しかし内視鏡検査後に死亡したり,重度後遺障害が残ったりすると,患者は「治って当たり前」という意識が強いため,「偶発症」という考え方をなかなか受け入れることができません.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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