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雑誌目次

雑誌文献

medicina4巻1号

1967年01月発行

雑誌目次

Leading Article

世界消化器病学会を終つて

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.25 - P.27

 第3回世界消化器病学会(The 3rd World Congress of Gastroenterology)は1962年のドイツ国ミュンヘンでの第2回のあとを受けついで,本年1966年9月に東京で開催された。ミュンヘンで次回は東京と決定したときから,思えば長くもあり,また短くも感じられた4年間であつたが,いざ始まつてしまえば1週間が一瞬のように過ぎ去つてしまうのは,すべてこういう行事のつねであろう。終つてからすでに1カ月あまりを経たいま,もういちどふりかえつて,私の感じたままを記してみよう。

100万人の病気

高血圧症—危険性の予測とその対策

著者: 伊藤良雄

ページ範囲:P.28 - P.38

 100万人の病気の最初に高血圧をとりあげた。高血圧患者をみたときに予後をどのように判定するか,脳卒中の危険性を予測できるか,また降圧のめやすなど,臨床家にとつて,もっとも悩み深い問題を中心に,解説をお願いした。日本人の脳卒中の実態の研究経過が紹介されており,予後判定の貴重な資料となることと思う。読後の疑問や感想を投稿されることをお願いする。

ファースト・エイド

脳卒中発作直後の処置

著者: 福井圀彦

ページ範囲:P.39 - P.41

重症患者の生命を救うために
 水分,酸素の補給や感染予防などについては周知のことでもあり,紙数の制限もあるのでここでは述べない。

座談会

高血圧の運命

著者: 日野原重明 ,   勝木司馬之助 ,   木村武 ,   増山善明 ,   秋山房雄

ページ範囲:P.42 - P.52

 高血圧者はなんといつても多くの危険性を持つている。その運命の分析と危険性の予測,予防,コントロールなど,現状で考えられる危険への対策を,日本人の高血圧の実態を中心に検討する……。

診断のポイント

低血糖症

著者: 木島滋二

ページ範囲:P.54 - P.56

 低血糖症は重症になると昏睡やけいれんを起こし,はなはだしいときは死亡することさえある。あるいは死なないまでも,脳がおかされて廃人になることがあるので,早くそれと気がついて適切な処置をとらなくてはならない。低血糖症はどんな場合に起こるのか。それぞれの特徴と,とるべき処置など,低血糖症をめぐる諸問題について述べたい。

婦人の下腹部痛

著者: 足立春雄

ページ範囲:P.57 - P.58

下腹部痛と婦人
 女性は男性と異なつて複雑な内性器をもつており,しかもそれに月経周期という生理的な変動が起こり,そのうえさらに妊娠のためのいろいろの変化が加わつてくるし,下腹部臓器の感染の機会も比較にならないほど多いものであるから下腹部痛の原因や種類も男性に比較して非常にこみいつてくるのは当然である。
 AdamsとResnikは一応腹痛を表のように分類しているが,婦人の下腹部痛を理解するのに参考になると思うので転載しておくが,太字にしたのは産婦人科学的に腹痛を解釈するのに役だつと考えたものである。

内科医のための発疹のみかた

著者: 柳下徳雄

ページ範囲:P.59 - P.61

 発疹性疾患の診断は、むずかしいといわれる方が多いが,ごもつともなことである。
 同一疾患の発疹でも症例によつて,ようすがかなり違うことがあり,また,発疹の特徴をつかむということ自体に,絵を言葉で説明するようなむずかしさがある。

治療のポイント

高血圧と酒

ページ範囲:P.62 - P.63

新しい抗結核剤—エタンブトールとカプレオマイシン

著者: 河盛勇造

ページ範囲:P.64 - P.65

二つの新薬
 すでに私どもが日常臨床に用いている各種抗結核剤に加えて,最近Ethambutol(EB)およびCapreomycin(CPM)が,わが国においていよいよ使用できることになつた。
 この二つの新抗結核剤について,すでにしばしば紹介の筆をとつてきたが1)2)3),この機会にこれらの特長・欠点を整理し,両者が結核化学療法のなかで占める位置を考察して,実地医家各位の参考に供したいと思う。

残尿の指導

著者: 近藤賢

ページ範囲:P.66 - P.67

残尿とは
 生理的には排尿終了時の膀胱は空虚になる。ところがいかに努力して排尿しても膀胱を空虚にできぬ場合がある。このように排尿終了直後に膀胱に残つている尿を残尿という。
 残尿の存在は量のいかんによらず排尿機能の異常を示しているが,臨床的に治療の必要があるのは成人で50ml以上の残尿がある場合である。

EDITORIAL

結核の治療—化学療法の限界

著者: 島村喜久治

ページ範囲:P.71 - P.71

 肺結核の治療は,療研(結核療法研究協議会),日結研(日本結核化学療法研究会),国療化研(国立療養所化学療法共同研究班)などのすぐれた共同研究によつて,みごとに定式化されている。それは,臨床医学中随一といつていいほどの科学的検定をへた定式化である1)。すなわち,初回治療例ではstreptomycin・INH・PASの1次薬3者併用6ヵ月ないし1年で排菌陰性化95%,陰性化しない例にさらにkanamycin・ethionamide・cycloserineの2次薬3者併用6ヵ月を加えれば70%は陰性化する。これでも陰性化しない例にはviomycin・ethambutol・INHを6カ月つづければ,さらに40%の排菌が止まる。結局,最初からみれば0.9%しか菌陽性例が残らないという計算である。
 しかし,現実は計算を裏ぎる。副作用や患者の恣意などによる脱落が少なくないのと,菌陰性化がそのまま治癒につながらないからである。脱落は管理が悪いと30%をこえる。また排菌が陰性化しても空洞の残つている例からの再悪化率は5年で39%にも達する2)。これでは歩止まりが0.9%ですむはずがない。

実験的高血圧症

著者: 西森一正

ページ範囲:P.72 - P.72

 Goldblatt(1938)の腎動脈狭窄実験以来,種々の高血圧実験が考案されてきた。とくに著名なものだけとりあげてみてもFriedman(1941)のセロファン腎周囲炎法,Selye(1942)のDOCA法,Skelton1)(1956)の副腎再生性高血圧,その他レニンやアンギオテンシン使用によるものなどあり,著者2)(1960)も腎炎増悪化による高血圧を作つたがそれぞれ特異性をもち実験成績に対する吟味もなされている。2,3の方法につき簡単な考按を試みると,まず実験高血圧の草分けとして多くの寄与をしてきたGoldblatt法は、人ではこのような条件になることがまれであるとの理由で要因が限定されるとする面もあつたが,血管造影法などの進歩に伴い動脈硬化症や先天性腎動脈狭小に起因する腎血管性高血圧症の起こりかたを説明するのにつごうよく,現在,人の高血圧症の一つの型にGoldblatt型の名が冠せられているのは興味深い。DOCAなど副腎皮質剤過剰投与の実験もその過剰性が人の高血圧症と直接に結びつかぬ点で問題があったが,最近原発性アルドステロン症の病理発生に関連して実験的意義が再検討されており,従来本態性高血圧症と診断されていた症例のなかに原発性アルドステロン症が多く含まれていたことは典型的な多くの症例や剖検例がこれを確認している。

薬の反省

糖尿病内服薬

著者: 宮尾定信 ,   三村悟郎

ページ範囲:P.68 - P.70

 糖尿病は近年成人病の一つとして注目されてきた疾患であり,本邦の発生頻度は一般人口中0.92%であり,欧米の発生頻度といちじるしい差異はない。WHOの死亡統計からみると,本邦の小児および若年性糖尿病の頻度が,欧米に比して低いことが臨床的な差異である。しかし生活様式が欧米化されつつあるこんにち,将来はその臨床像も彼我の間に差異は少なくなることが予想される。40歳以上の糖尿病の発生頻度は,糖尿病研究班の成績では7.2%と高率を示しており,臨床家として治療の対象となる糖尿病患者の主体は,40歳以上の年齢層であることがわかる。本章において論じる主題は、糖尿病内服薬の反省であり,糖尿病内服薬は主として40歳以上の患者が対象であり,現在多くの薬剤が臨床的に使用されているが,乱用されている傾向もみられる。したがつて内服糖尿病治療剤の適用と使用法についてのわれわれの考えを述べたいと思う。

グラフ

内科医のための発疹のみかた

著者: 柳下徳雄

ページ範囲:P.14 - P.15

 発疹は疾病によつて特異性が高いので,著明な時期の発疹をみれば,それだけで診断が可能なほど価値の高い症状である.
 しかも,発疹は目で見る症状であるから,脾を触れたり,心音を聞いたりするのと違つて,原則的には技術差がないはずである.それにもかかわらず,発疹症の診断はとかくむずかしがられるが,その理由の1つは,発疹の見かたが知られていないためであろう.

遊走腎と遊走腎症

著者: 赤坂裕

ページ範囲:P.17 - P.19

 元来腎臓が生理的呼吸性移動の範囲をこえて移動するものを遊走腎と定義されているが,たとえ腎臓が正常人の移動範囲(だいたい5.0cm)をこえて移動しても,なんら症状を起こさない人もあり,移動範囲は必ずしもそれほど大きくなくてもいろいろの訴えをする人もある。そこで最近は前者を遊走腎,後者を遊走腎症と区別することがふつうであり,遊走腎にはとくに治療を必要としないが,遊走腎症には腎固定術を行なわなければならない。後者をさらに具体的に述べれば,「臥位では正常位にある腎が,立位のさいに移動することによつて,腎の転倒,腎莖部(血管および神経)の索引,圧迫,捻転,あるいは尿管の異常屈曲,捻転,圧迫,けいれんなどを起こし,それらのために症状を現わすもの」ということができる。われわれが日常患者として診療に当たるものはこの遊走腎症で,その診断と治療法決定には,触診所見ももちろん参考にしなければならないが,腎盂撮影法が必要であり,かつ立位撮影を忘れてはならない。

胃冷凍法

著者: 長尾房大 ,   池内準次 ,   貴島政邑 ,   亀田慶三 ,   富田次夫 ,   曽爾一顕 ,   榎本玄治

ページ範囲:P.20 - P.22

 Khalil-macKeith(1954),ついでBarnard(1956)によつて,全身低体温のために胃冷却法すなわち胃内バルーンのなかに冷水を灌流するという方法が試みられたが,本法が実地治療面において脚光をあびるようになつたのは,Wangensteen(1958)がこれを重症胃出血の止血法として試み,その価値を強調してからである。かれは,さらに,冷却程度を強くすることによる胃冷凍法を十二指腸潰瘍の治療法として試み(1961),この方法が胃粘膜の塩酸分泌機能を抑制し,消化性潰瘍の治療にきわめて有効なことを報告した(1962)。以来,米国はもとより,諸外国においても多くの追試検討が行なわれるようになつた。
 Wangensteen一派によれば,1961年10月から1965年1月までの期間に669例の消化性潰瘍患者に934回の胃冷凍法が行なわれたが,症状の改善ないし消失率43〜65%(年次別の差がある)となつている。しかし,このような症状改善に対する成績および減酸効果に対する成績については,多くの追試者のあいだにそれぞれ異論・反論が提起され,最近の話題となつている。本邦においても当教室を初め各所の大学においてこの方法の研究が行なわれているので,その概略を紹介する。

心電図講座

慢性肺性心の心電図—症例を中心に

著者: 難波和 ,   藤垣元

ページ範囲:P.91 - P.95

 肺と心とは互いに密接な関係があり,一方の異常は他方に影響をおよぼす。たとえば心不全時には肺うつ血,肺水腫となり,肺の換気不全を起こし,逆に肺疾患から右心不全をきたすことがある。肺性心とは肺疾患にもとづき二次的に右心に変化をきたす状態を意味し心電図にも特徴ある変化を呈してくる。典型的なものでは心電図から逆に肺疾患を推測しうるものもあるので以下症例をあげどのような特徴があるか解説しよう。

他科との話合い

内科疾患と皮膚

著者: 日野志郎 ,   西山茂夫 ,   秋月源二

ページ範囲:P.96 - P.103

 皮膚の病変が内科的疾患の診断に有力な手がかりとなることは少なくない。また皮膚科でも内科的な知識なくしては適正な治療を欠くことになる。慢性じんま疹,薬疹,悪性腫瘍など皮膚の診かたと治療。

器械の使い方

即乾性副子材料

著者: 原武郎

ページ範囲:P.106 - P.108

副子およびその条件
 副子(splint)とは身体各部分に応用され,治療のためにある肢位に固定,支持し,機能的に補助を行なう簡単な装具ということができる。その適応として,局所の安静,変形の予防,ならびに矯正がおもなものであり,先天性の斜頸,手指の変形,内反足の変形矯正,骨折捻挫の固定,扁平足の足板,神経筋疾患の場合の尖足予防や手指の拘縮予防など,整形外科の治療のほかにも内科的疾患などにも広く応用される。さらに機能の回復が望めない場合,残存機能や代償機能などをうまく利用して日常生活に役だたせる装置,たとえば中枢および末梢神経麻痺の場合の機能的な手副子(Hand splint)などのごとく最近リハビリテーション医療で重視される治療手段となつてきた。したがつて,一時的な治療手段であるのみならず,一種の補助具として長期間使用する必要も出てきたわけである。現在使用されている副子の材質としては焼石膏(ギプス),軽金属(ジュラルミン,アルミニューム),鋼線,金網,皮革,木,紙,セルロイド,プラスチックなどがある。

正常値

ASLOの正常値

著者: 鈴田達男

ページ範囲:P.124 - P.125

正常値を過信するな
 抗ストレプトリジンO価測定反応(ASLO)の成績を測定するうえで忘れてならないことは,この反応は抗体価を測定する反応であるから,電解質や血液pHなどのように体内の恒常性がたもたれているものと本質的に異なり,むしろ後で述べるように外的な因子によつて左右される度合いが強いことである。
 たとえば1回測定した結果が166単位あつたとしても,これだけでは正常とも異常ともいいえない。なぜならば溶連菌は自然界に広く分布しており,発病にいたらなくてもヒトは不顕性感染によつて抗体をつくるので,正常な人の集団のなかにもこの程度の抗体価の人はざらにみられるし,逆に連鎖球菌感染症の人でも時期によつてはこの価以下のこともあるからである。

臨床ウィルス学

かぜとウイルス

著者: 加地正郎

ページ範囲:P.109 - P.112

 かぜという言葉で一括されている疾患群の大部分のものがウイルスで起こつていることは,すでに周知のとおりである。ウイルス以外に細菌性(ことに溶連菌による)のかぜもあり,またアレルギーその他の非感染性因子によるかぜもあろうが,それらはかぜのごく一部を占めるにすぎない。最近のウイルス検出技術の進歩普及は,かぜといえば,すぐにウィルス性のものを連想させるに十分な根拠を与えている。

症例 心音図の読みかた(4)

先天性心疾患の心音図(II)

著者: 楠川禮造

ページ範囲:P.113 - P.116

動脈管開存症
 症例 4歳 女。主訴は心雑音
 心音図(1図)は非常に特徴的な所見を示している。すなわち収縮期雑音はⅠ音から0.06秒遅れて始まり漸増型でⅡ音大動脈弁成分付近で最大となり拡張期雑音はこれにひきつづいて11Aより漸減するいわゆる連続性雑音である。心尖部ではⅢ音につづいて拡張中期雑音(DM)が認められる。その他Ⅰ音の強度は正常であるがQ-I時間が0.06秒でやや延長している。心基底部のⅡ音の各成分は連続性雑音のため不明である。

全身性疾患と肺

膠原病と呼吸器その1

著者: 三上理一郎 ,   柴田整一

ページ範囲:P.117 - P.122

 呼吸器それ自体の病気はいろいろと広く知られている。しかし,全身性疾患に目を向けるとき,呼吸器に病変をおよぼしてくる病気も少なくない。それらは従来しばしば看過され,あるいは誤診されることも多かつた。それは狭義の全身性疾患のみならず,呼吸器以外の他臓器の疾患の場合にもいいうることである。また,胸部の病気はX線という診断武器によつて,自覚症状発現前に早期発見されるという大きな利点がある。呼吸器病学の一つの特徴である。
 これから,全身性疾患におけるいろいろの胸廓内病変について,症例による解説を始める。そして,このシリーズをとおして,大きな内科学のなかにおける,呼吸器病学の一つの存在意義を求めてみたいと思う。

検査データ どうよみどうするか

PBIの増加

著者: 熊岡爽一

ページ範囲:P.9 - P.9

測定上の注意
 PBIとはProtein-bound Iodine,蛋白結合ヨードであり,主としてα-グロブリンと結合した甲状腺ホルモンすなわちthyroxineに含まれるヨードの値である。thyroxineは甲状腺でつくられ,約60%がヨードである。ヨードを含む化合物は他にないので,PBIを測定すれば甲状腺機能を知ることができる。その正常値は3.1〜7.7μg/100ml(Serum)であるから通常のヨード測定では検出できないので,セリウムイオンの褪色に対するヨードの触媒作用を利用して測定する1)。ふつう,病院はヨードで汚染された環境であるから,このような微量のヨードの測定にはかなり厳重な注意をはらう必要がある。滅菌,密封された注射器と針を用い,注射部位の消毒にはアルコールを使う。清潔な蓋のある遠心沈澱管に血液を入れたらすぐに蓋で密封する。PBI測定室は他の一般検査室とくに細菌検査室と隔絶された密室で行なわなければならない。この注意が守られないと汚染によりつねに値が変動し,正確なPBI測定は不可能である。このようにして得られたPBIは甲状腺検査のうちではもつとも安定したもので,しかもきわめて安くあがる。比色計以外に高価な器具を要しない。比色計もふつうの光電比色計でよい。

ルポルタージュ

英国の家庭医をたずねて

著者: 長崎太郎

ページ範囲:P.129 - P.132

 "ゆりかごから墓場まで"といわれる英国の保健サービス機構のなかで,家庭医のはたす役割は大きい。だが反面,それはそれなりに悩みもあるようだ。こうした英国の家庭医のなかに,これからの日本の開業医のありかたを,ともに考えてみたいと思う。

第一線の立場

結核患者連絡票は誰のもの

著者: 藤田豊治

ページ範囲:P.77 - P.77

 保健所から送付される連絡票に返信用封筒,切手が同封されていないことがかなりある。私個人についても兵庫県について2件(二つの保健所),大阪府について1件あつたことを記憶しているが,連絡票は保健活動の資料蒐集のために発行されているものなら返信に関する費用は保健所側がいつさい負担すべきであると思う。
 伝染病発生に関する届出については医師としての必然的な道義的責任を感じるし,もちろん,法律的にも規定されているのであるが,患者連絡票については当該患者の医療および事後管理がどのように行なわれているかを知るための調査であり,それは保健所の仕事であつて,医療担当者に票の記載を義務づける力は何もないはずである。返信に関する時間的・経済的負担をかけない心がけのほかに「よろしく頼みます」という謙譲な気持ちがあつて当然のことと思われる。

1966年ノーベル医学生理学賞

50余年におよぶ研究の成果—ラウスがあゆんだ苦難の道

著者: 山本正

ページ範囲:P.78 - P.79

 ペイトン・ラウスが1966年度のノーベル医学生理学賞を受けるだろうというその日は私どもの研究室にも朝からなにか変わつた雰囲気があつた。報道関係からの問い合わせの電話がつぎつぎと鳴つても意外にとり継ぐものごしがやわらかくみえるし,ささやかな私どものラウス肉腫ウイルスの研究にも少しは好ましい結果が出てくるしで,同じ肉腫ウイルスを取り扱う後進という親近感からでもあろう。皆の顔がにこやかに見えたものである。

ホルモン療法発展のいとぐちを開く—チャールス・ハギンスの業績

著者: 志田圭三

ページ範囲:P.79 - P.80

 C. B. Huggins教授は前立腺がんの抗男性ホルモン療法の開拓者である。1941年前立腺がん症例に対し合成発情ホルモン投与あるいは除睾術を行なうことにより劇的な治療効果をあげうると報告されて以来,全世界において追試がなされ,その卓効性が確認されて現在の抗男性ホルモン療法への発展の道がひらかれてきたものである。本療法は悪性腫瘍が病巣剔除という外科的手術療法あるいは放射線療法以外の薬物療法により抑制しうる可能性を示した最初のものである。前立腺がんにとどまらず,乳がんのホルモン療法への発展のいちぐちを与え,また,悪性腫瘍の化学療法への発展を勇気づけた画期的な業績であつて,今回のノーベル医学賞授賞は当然のことであり,むしろ遅きに失した観がある。

統計

医療施設における受療患者

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.11 - P.11

傷病の種類について
 前号にひきつづき患者調査によつて,病類別にみた受療患者がどのような状態であるかをつぎに記すことにします。
 表によりますと,昭和40年7月14日現在,全医療施設における入院患者81万4千のうち,もつとも多いのは結核で,これは24.7%を占めています。また精神病・精神神経症も20.4%で多く,つぎの消化器疾患12.4%,事故・暴力7.6%と比べると,かなりの差がみられます。外来患者では499万4千のうち,17.7%を占める歯牙疾患がもっとも多く,これについで神経・感覚器疾患14.8%,呼吸器疾患13.4%,消化器疾患11.2%の順となっています。つぎに30年の患者数と比べますと,入院では循環器疾患が4.9倍,骨・運動器疾患4.0倍,神経・感覚器疾患3.8倍,事故・暴力3.7倍,精神病・精神神経症3.6倍などが増加のいちじるしいものであります。外来でも骨・運動器疾患と循環器疾患の増加がいちじるしく,それぞれ4.0倍,3.7倍となつています。なお,結核のみは入院,外来とも減少を示しています。

FOREIGN MEDICAL BOOKS

医師の倫理への厳しい要求—Nikola Schipkowensky:Iatrogenie oder befreiende Psychotherapie(Scheideweg jeden Arztes)

著者: 黒沢良介

ページ範囲:P.123 - P.123

 著者はSofiaの大学の精神科の教授で,"人格の異常反応"その他多くの精神医学についての著書で知られている。ここに紹介する本は,著者が書中でくりかえし強調しているように,非常に重要な問題であるにかかわらず,いままでの精神科の教科書,叢書で,それ自体としてほとんどとりあげていないIatrogenieについて,古今東西の文献を紹介しながら,自己の豊富な経験をとりいれたきわめてユニークな本である。
 副題にもあるように,すべての医者はすべての患者の前にIatrogenieとbefreiende Psychotherapieの間の岐路に立たされている。すべての患者の医者との出会いは強い精神的作用の平面で行なわれる。決定的な問題はpositiv(befreiende Psychotherapie)かnegativ(atrogenie)かであり,中間的ではありえないという。医者のかるがるしい言葉,不十分な説明,病気をおもくみさせる言葉,あるいは医者が診察中に示す態度がいかに患者に重大な作用をおよぼすことがあるかは私たち医者がすべて経験していることではある。その事実を数多くの実例をもつて紹介されると,あらためてことの重大さに驚くのである。

話題

第3回世界消化器病学会より—膵・腸に関する話題

著者: 内藤聖二

ページ範囲:P.12 - P.12

 第3回世界消化器病学会の膵,腸に関する話題をとりあげて読者の参考に供したいと思う。胃がんのシンポジウムと8つのパネルを中心にのべ36の会場で消化器病の討論が行なわれたが,いずれの会場にても日本の消化器病の水準は高く評価されていることがわかる。

第14回内分泌学会西日本地方会から

著者: 加藤篤二

ページ範囲:P.53 - P.53

 内分泌学も逐年さかんになり,本年の東京における総会は385題の一般演題のほかに,シンポジウムとして蛋白ホルモンのImmunoassay,妊娠と内分泌疾患,RIを利用した測定法内分泌のFeedback,下垂体後葉の基礎と臨床,特講として外人1名の来日があつた。さて広島での西部内分泌地方会は顕真講堂で10月14,15日の両日3会場に分かれて行なわれ,一般演題も192の多きに達した。由来日本の内分泌学は主として内科学によつて発達し,これに産婦人科のいちじるしい貢献とその他病理学,解剖学,泌尿器科学,生化学などの分野が逐次参加して内分泌学は年々いよいよ隆昌をみるにいたつている。
 今回は泌尿器科が主宰することになつたが,さて計画となるとなかなか容易ではない。そこでまず特講にはゲストとして東大小林教授の胎児,胎盤系によるEstriolの代謝をお願いしたが,結果は好評で,Estriolの産生には胎児の関与が大きく,妊婦尿のそれを測定すれば胎児の体重予後と密な関係があり,低い者には体重も少なく未熟児が多く死亡率も高いという点は広く一般の学問的興味を喚起した。

文献抄録

ニューギニア土人のヨード欠乏症をヨード含有油の注射で是正—Lancet 2: 767-769 (Oct 16) 1965,他

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.126 - P.127

 ニューギニアの峨々たる山嶽地帯に住む土人のあいだには,風土病として甲状腺腫が高頻度で蔓延しているのを観察した。で,さつそく,ヨード含有油を試用してみることに決定した。
 一方で数千人の土人にヨード含有油を三角筋内に注射するとともに,他方コントロールとして数千人の土人に食塩水を注射した。非処置の土人の尿中ヨヨードと131Iの摂取量を調べたところでは,ヨード欠乏症はヨード含有油の注射後少なくとも30ヵ月は実質的に是正された。ヨード含有油をただ1回だけ注射したあと3カ月で甲状腺腫の相当な退縮が観察されたが,これは予期しなかつた所見であつた。

診療相談室

保険審査による減点,他

著者: 清原迪夫 ,   山口生

ページ範囲:P.133 - P.135

質問 保険診療の審査通知に,適応ではないとか,適当ではないなどの抽象的な表現で,減点されたりしますが,その点を少し解説してください。たとえば副腎皮質ホルモン,B1高単位,B12製剤ソルコセリルなどについても。 (東京・山口生)

今月の表紙

染色法による好塩基球の染色性の差

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.41 - P.41

 普通染色で血球に染色性の差がもっともよく表われるのは好塩基球であろう。ITPの8歳の男子から同時に3枚の塗抹標本を作り,pH6.4でそれぞれに3種の染色を施し,各標本にみられた好塩基球をつぎつぎに約10コ撮影,各染色で平均値的な外観を呈するものを1コずつ選んだ。図の1はWright染色(秋谷製),2はMay-Grunwald-Giemsa染色(Merck),3はGiemsa染色(Merck)による。このGiemsa染色標本はやや青く不満足なものだが,比較の対象にならないほどでなく,同標本にみられた好中球(図4)を対照にすればよい。
 Wrightで顆粒はもっともよく染まり,核に重なったものもはつきり見える。2になると顆粒はかなり抜けて孔になり,それでも残つた顆粒からそれとわかる。3は孔だらけで,気をつけて見ないと顆粒の残りも認めにくい。顆粒がまったくなくなったものも少なくない。このばあいの好中球との鑑別点は,1)細胞質の色,2)顆粒の抜けた孔,3)核の形の違い,4)核の構造の差である。

臨床メモ

しもやけの処置

著者: 高島巌

ページ範囲:P.108 - P.108

 しもやけは2つの病型に分けられる。多くは多形滲出性紅斑様の.隆起した紅斑を多発するものでM型とよばれ,主に小児にみられるのは,手足全体がチアノーゼを呈して樽柿状に腫脹する型でT型とよばれる。いずれも温ためると痒い。両型とも,サルコイドージスの一型である凍瘡様狼瘡や,急性播種状紅斑性狼瘡と鑑別する必要があるので,皮膚科医の診察を受けるのが望ましい。
 しもやけには,治療に先立つ手の保護を厳重にすることが大事である。すなわち,発症の季節には,厚い手袋・靴下を用いさせ,寒冷に曝露することを避けること,履物は通気性のよいものを用い,ゴム靴などを長時間はく時には,足がむれないうちに靴下をはき代えること.木綿の靴下を用いることなどである。戸外から室内に入つた時には,急に温ためず,十分にマッサージをしてから暖をとることが必要である。水仕事の後には,乾いた布で十分に拭いたあと,同様に摩擦をする。

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きのう・きょう・あした

著者: 島村喜久治

ページ範囲:P.73 - P.73

人間の医学
×月×日
 かねがね大学医学部のありかたに疑問をいだいていたが,友人が某大学の付属病院に慢性腎炎で入院して死亡,最近その遺稿を読んで,疑問は焦点を結んでしまつた。
 血液や尿の検査には非常に熱心で優秀であった若い医局員に,腎炎の友人が食事の不満を述べると,そんなことは医者の知ったことではないという答えが返つてきた。奥さんには,われわれは予後をひたかくしていたのに,ある医局員はとくとくと,あと3ヵ月もてばいいが,と説明して,奥さんを卒倒させた。いよいよ死が迫つたとき,隣りの内科に入院していたら腹膜灌流をやる専門家がいるんですが,うちの教室にはいませんからね,と放言したのまでいるという。ここには人間の医学が存在しているのか。精神科がなかったら,獣医学部といつてもおかしくない医学しか扱われていないのではないか。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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