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雑誌目次

雑誌文献

medicina4巻5号

1967年05月発行

雑誌目次

トピック

日本内科学会・内科専門医制度方向きまる

ページ範囲:P.641 - P.642

 昭和40年3月,日本内科学会評議員会において,「内科専門医制度および大学内科講座に関する委員会」の委員が選定され,本委員会の発足をみたが,41年の8月30日の委員会までに,準備・立案・アンケート集計などの小委員会が,計13回にわたつてもたれ,内科専門医制度の原案の骨子ができあがつた。昭和41年10月7日の日本内科学会理事会に,この骨子が提出され,そこで承認された案は,ひきつづき編成された内科専門医制度立案準備会によつてさらにこまかく検討され,細則が付加され,42年2月10日の評議員会で検討された。そして,本年第17回医学会総会の前日,3月31日の評議員会において,原案の最終決定をみた。なお新たに編成される内科専門医制度審議会で,実施上の細綱がきめられ内容上の再検討もされることが予想される。本ニュースは,3月3日,名古屋市において,開催された,「全国国立大学医局長会議」において,日野原重明氏が講演された内容を,医局長会議の好意によつて傍聴したものであることを,お断わりしておく。

第17回医学会総会速報・1 総会から医学の将来を展望する

これからの医学教育

著者: 吉利和

ページ範囲:P.643 - P.644

 わが国の医学教育が,いま根本的な変革を必要とする重大な時期にきていることは,すでに明らかな事実である。このたびの第17回日本医学会総会のなかには,テーマとしてとくにこれをとりあげたものとしては,武見医師会長司会のもとに行なわれた「医学教育から医療制度へ」というシンポジウムがあつただけであるが,しかしいろいろの会場で発表されたそれぞれの講演のなかにもこの問題とどうしても切り離せないことはかずかずあつたように思う。iatrogenic diseaseなどはその1例であろう。しかし,医学教育の変革ということは,医学の研究そのものとは,絶対に切り離せないことを考えれば,これからの日本医学会のありかたも,当然ここで根本的に考えなおさなければならないことである。

医学教育再建のための三つの柱

著者: 石川中

ページ範囲:P.644 - P.645

 医療制度および医学教育が曲がり角にきたといわれはじめてからすでに久しいが,最近,新しい医学制度,医学教育のありかたに対する積極的な意見や,実践的な努力がみられるようになつたことは,嬉しいことである。
 今回の医学会総会においても「医学教育から医療制度」へという主題がとりあげられたので,その要約をまず紹介してみよう。

医学教育改革の声は強いか

著者: 中川米造

ページ範囲:P.645 - P.646

茅氏の提案
 医学教育の問題が医学総会でとりあげられたのは,もう17回をかぞえる総会始まつて以来初めてのことである。開会式にテホレルの酵素研究の過去現在未来についての講演とともに,茅誠司氏の"わが国大学教育に関する私見",の開陳があつたこと,2日目にはバウアーズの"インターンおよび学位問題についての研究"と題する特別講演,そして同日夜には,武見医師会長司会のもとでシンポジウム"医学教育から医療制度へ"の催しがあつた。いずれも,ほぼ満席の聴衆で医学教育に対する関心がかなり高まつてきたことを思わせた。
 茅氏の"私見"では,考える習慣をつけさせるために大学の入学試験を大改革し作文一本にしぼること,教養課程を1年や2年にとどめないで,在学中全期にわたり老練な教授による講義を行なうこと,図書館や自修室の整備,マスプロ教育の弊を補うゼミ方式の拡充,研究最優先と教育軽視を改めるため,老年教授には教育に重点をおかせることなどの五つの具体的な提案を含む率直な提案であつた。

医学教育シンポジウムへの茅提案

著者: 堀原一

ページ範囲:P.646 - P.647

 4年前大阪での第16回日本医学会総会と今回の第17回名古屋総会の間には,日本の医学界に大きな客観状勢の変化があり,それが開会に近く急拠4月2日の夜間シンポジウム「医学教育から医療制度へ」の開催を結実させたといつてよい。客観状勢とはいうまでもなく青医連や各地医学部学生による,インターン制廃止運動に端を発し,長いくすぶりからしだいに火のついた現行医学教育,医療制度批判からさまざまの世論を生んだいわゆる実力行使にいたつた一連の事件がその一つである。

分化と総合の問題

著者: 高橋晄正

ページ範囲:P.647 - P.648

部品を寄せ集めても"生きもの"にならない
 生体は一つの有機体である。いいかえると,生体はその構成成分にばらばらに分解することができ,それはそれなりに部品学の対象としての意味はあるであろう。けれども,それらを単に寄せ集めただけでは"生きもの"にはならないということである。
 一般に有機体を分解的にみていくことはやさしい。とくに形態が問題であるときには,分解的にみてもその所見はさほど変わらないと考えられる。たとえば巨視的な解剖学などは,そのような"素朴なる機械論"が十分よく成り立つ領域である。それが電子顕微鏡所見のようなミクロの世界になつても,固定とか染色とかいう観測手段の影響に気をつけるなら,それなりの部品学は成り立つであろう。

国民の医学としての社会的基盤を

著者: 金久卓也

ページ範囲:P.648 - P.649

 第17回日本医学会総会に出席して感じたことは,なんといつても,医学の諸領域の研究のものすごい躍進ぶりである。これは当然の感想だともいえようが,やはり4年に1回の総会といつた全体を見わたす機会がないと,なかなかリアルなものとして感じとることはむずかしかつたのではないかと思う。
 人間の生物学としての医学の原理的な問題については,ますます深いつつこみがなされ臨床面では,新しい疾病単位の発見,診療上の知識の深まりや新技術の開発などがあいついで,まことに壮観といわざるをえない。

内科のありかたと将来

著者: 和田武雄

ページ範囲:P.649 - P.650

 内科がどうあるべきか。また,これからさきどのように変わつてゆくか。だれしもが,既成の概念によつては考ええない現象が,ほうはいとしてわき起こるから,こうした概念をもつことは,むしろ自然であろう.それはひとり内科だけの問題でなく,臨床各科,あるいは旧来の医学体系全般の問題であるかもしれない。

小児科学の現状と問題点

著者: 中山健太郎

ページ範囲:P.650 - P.652

 昭和42年度の第70回日本小児科学会総会は,第17回日本医学会総会の第18分科会として開催された。
 総会のうちから,小児科に関係の深いものをひろつてみると,総会講演として,小児悪性腫瘍(高津教授),小児期における感染に対する生体の非特異的防御機構(永井前教授),小児外科(若林教授)があり,シンポジウムとして,小児の蛋白栄養,小児の心身発達に関する追跡研究,新生児脳の特殊性とその障害,精神薄弱の成因と対策,先天代謝異常,脳性麻痺,予防接種の検討などがあげられる。

小児科学のありかたと将来

著者: 山下文雄

ページ範囲:P.652 - P.653

「発育期のヒトの医学」の使命と分化
 小児は成人と質的に異なる。小児の特性である発育は,きわめて障害を受けやすい。
 今回の小児科学会,日本医学会総会を通じて強い印象を受けたものに,新生児の脳障害がある。出血,アノキシア,低血糖,アチドージス,高ビリルビン血症がいかに脳に障害を与えうるか。

国民生活の変貌と新しい問題点—衛連メイン・シンポより

著者: 松島松翠

ページ範囲:P.653 - P.654

産業構造の改変と労働者への影響
 衛生関係6分科会連合学会のメイン・シンポジアムが,「日本における国民生活の変貌と健康—その問題点と対策」をテーマに,4月5日南山大学で開かれた。そこで論議された要点をあげてみるとつぎのごとくである。
 最近の10年間を見ると,国民生活の変貌はたしかにいちじるしい。その理由を一口でいうならば,高度経済成長政策のもたらした産業構造の改変が,もつとも大きく国民の生産・労働・消費の生活に影響をおよぼしているといつてよいであろう。かかる大資本,大産業優先の政策が,人口の都市集中化をもたらし,都市と農村との格差ををすます増大させているといえる。いや,同じ都市のなかでも,すでに格差がひろがつているのである。このような状況のなかで,労働者,農民,一般市民の間に,いままでにない新しい型の健康障害,健康犠牲が生まれてきた。すなわち,職業病,労働災害,農薬中毒,その他多くの問題である。

医学会総会をかえりみて—一般実地医家の立場から

著者: 上田篤次郎

ページ範囲:P.654 - P.654

 私の所属する生理学会の分科会は3月30,31日であり,総会は4月1日から3月日まで,いかに4年に1回の総会とはいつても,個人開業のわれわれには休診して学会に出かける日数がいつものとおり問題であつた。
 あれも聴きたい,これも見たいと思いながら,結局聴くことのできたのは2日の講演だけだつた。

医学本来の使命を銘記すること

著者: 本間日臣

ページ範囲:P.657 - P.657

巨体と主体性の問題
  近年までお隣りの中国は,"眠れる獅子"とよばれていた。つまり本当に眼がさめた暁にはどれほどの測り知れない力を発揮するかわからない恐ろしい存在ということである。しかし現在ではそのような言葉を聞かない。中国はすでに久しい以前から眼ざめて咆吼しているにかかわらず,身体の巨大さに比べて筋力は弱くその動きは鈍い。近代世界で他国に伍して生きるために必要なさまざまな種類の熟練された敏感な動きをとることができないのだ。以上は知日家として知られるライシャワー前駐日大使の"世界におけるもつとも大きな国の一つ,日本"というエッセイの冒頭で,日本が国土の広さをのぞけば,あらゆる点で世界の大国であることの対照として中国を引用した個所の要旨であるが,筆者が今度の総会でゆくりなくもこの文章を思い出したのは,巨体となつた日本の医学が,それだけ自主自律性の喪失に悩んでいるように感じたからである。学が真理への祈願であり方法であるかぎり,各分科の学は初め医学のめざす目標に向かつてのその領域での一つの拠点として作られたものであつたにかかわらず,ひとたび前進を始めるとしだいにそれ自体の自律性の支配するところとなつて,ときに医学という実証科学の体系から逸脱して工学,理学,化学の分野へ入り込んでゆくことのあることは自然でもあり,また必然でもある。

医学の分化と総合をめざして—第17回日本医学会総会見聞

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.690 - P.696

 「分科と総合」をめざして,第17回医学会総会が,4月1日から3日間,名古屋市において開催された。開会式は,4月1日,名古屋市・愛知県体育館に,約1万人の会員を集めて開幕。壇上には故勝沼精蔵会頭の遺影を飾り,会頭の意志を受けついで,神田副会頭を初めとして,準備に当たられた人々の大変な努力が,ここに実つた。その努力に会場の人々は惜しみない拍手を贈つた。
 総会講演57。シンポジウム80題。外人講演16題。会場は21に分かれ,まさに名古屋の収容能力をあげてのマンモス学会である。このマンモス学会については,いろいろの批判もあろうし「医学会総会」の今後の課題ともなろうが,「20世期後半のめざましい医学の進歩のなかで,細分化された医学の領域を総合するところに方向を求めた」(神田副会頭の挨拶より)今学会の意図は一応の成功をみたといつてよかろう。(27頁総会速報参照)

100万人の病気

末梢神経疾患—主としてその判定について

著者: 東野修治

ページ範囲:P.658 - P.665

 末梢神経障害と思われる患者が内科医を訪れる例は最近ますます増えているが,障害されている神経の部位決定は必ずしも容易ではない。主として末梢神経障害の判定について。

座談会

末梢神経障害の診かた

著者: 田崎義昭 ,   豊倉康夫 ,   田川宏 ,   佐々木智也

ページ範囲:P.666 - P.675

 いわゆる神経痛,あるいは頸・肩・腰などの痛みを訴えて内科医を訪れる患者は意外に多い。その背後にひそむ疾患もまた多様である。このような訴えのある患者をどのように見分けていくか。内科と整形外科の立場から。

診断のポイント

肝性脳症

著者: 茂在敏司

ページ範囲:P.676 - P.677

肝性脳症を細分すると
 肝性脳症というのはいろいろの肝疾患のうえに体液性因子により二次的に脳障害の発展がみられる場合を総称しているものである。そしてそこにみられる精神神経症状は基礎となつている疾患のいかんにかかわらず類似しているものである。しかし脳障害の病因—いいかえれば基礎となつている肝疾患の状態—により予後が異なり,治療方針も異なるため,精神神経症状その他からこの症候群を細分する必要がある。これについてはいくつかの提案がされているが,私は一般に肝性脳症と称されるなかに,肝疾患の有無と関係なく,門脈大循環短絡が一義的因子をなす場合を認め,これを門脈側副路性脳症とし,肝実質障害の存在が重要な因子をなしている重症肝疾患型から区別した分類を提唱した。これによれば,門脈側副路性脳症のなかには錐体外路症状を主体とするWilms類似症候群と,猪瀬型といわれる慢性反覆性意識障害型とが含まれ,重症肝疾患型には多くの場合慢性肝疾患型と急性肝疾患型とが区別されるのである。

心筋硬塞が見のがされやすい場合

著者: 橋場邦武

ページ範囲:P.678 - P.679

 心筋硬塞の診断はその特有な臨床症状と心電図所見とから多くの場合にはあまり困難を感じない。白血球増多,血沈促進なども参考になり,また,現在広く行なわれているトランスアミナーゼの測定も診断上非常に有用である。しかしながら多少とも非典型的な症例や,あるいは診察や検査の時期のいかんによつては,診断が困難であつたり,または見逃がされたりする場合も少なくはない。以下,これに関した二,三の点について述べてみたいと思う。

治療のポイント

慢性腎炎の食事指導

著者: 井村棲梧

ページ範囲:P.680 - P.681

 食事療法は,慢性腎炎においては,急性腎炎におけるほどではないとしても,やはり,一応治療の中核であって非常に重要である。
 慢性腎炎の食事療法は,その腎炎の病状によつて種々考慮すべきはもちろんであるので,一応慢性腎炎をその症状によつてつぎの4型に分類しておいて,食事療法を論じたほうが便宜であり,わかりやすいと思うので,まず,その4型を簡単に述べる。ただし,この4型は不変固定したものではなく,相互に移行することが少なくないので,そのことをつねに念頭におくことが,たいせつである。

妊娠と肺結核

著者: 三上次郎

ページ範囲:P.682 - P.683

肺結核患者の妊娠出産を恐れる必要はない
 家庭の主婦の大役は妊娠・出産・育児であるが,この大役があるがゆえに古くから全身病である結核に罹患した女性の多くが結婚をあきらめ,あるいは離婚の悲しみを味わつてきたといえよう。
 しかし化学療法,手術療法の発達した現在においては結核に罹患した女性はいたずらに結婚生活,ひいては妊娠出産を恐れる必要はなくなつてきたように思われる。そこで私は自分の経験した症例と内外の文献よりみて妊娠と結核について考察してみたいと思う。

末梢血管拡張剤

著者: 後藤文男 ,   神田直

ページ範囲:P.684 - P.686

 血管拡張剤は,危険なわずらわしい副作用を伴わずに障害局所への血流を増やすために血管に直接作用し,できるだけ選択的に血管を拡張させることが望ましい。一般に末梢血管拡張剤は,同時に脳,冠,腎および末梢血行に影響をおよぼすものが多いので,拡張剤を投与するときには,その薬物が投与の対象以外の諸臓器および全身循環にどのような影響を与えるかにもつねに考慮しなければならない。

EDITORIAL

いわゆる神経痛—まず原因診断

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.687 - P.687

 便利な言葉には弊害が伴いやすいものである。神経痛などはその代表といつてもよいもので,さまざまなニュアンスを盛り込んだ定義(?)に従つて使用されている。神経痛とはどのような病的状態を指す言葉として理解されているのかを,学問的な意味をはなれて考えてみると,ほぼ3種類あるように思える。
 狭い意味での神経痛:神経病学の教科書にのつている定義と同じで,運動器疾患や神経病の専門家がおもにこの考えかたに従つている。すなわち,ある末梢神経の支配下に放散する激烈な疼痛のみを症状とする疾患で,痛みは発作性または間歇性の性質をもつている。神経幹の圧痛,知覚障害,発疹などはなく,間歇期には完全に無症状となる。このようなものは三叉神経痛としてしばしば診療するものであり,舌咽神経にもまれならずみられる。

食事療法における香辛料

著者: 阿部達夫

ページ範囲:P.688 - P.688

 香辛料は熱量源としての意義はほとんどなく,単にその香り,色,味などにより食事の風味を増し,また同時に食欲を亢進させる作用がある。したがつて食事療法において,食欲不振時などに香辛料を適当に使用できればたいへんありがたいことになる。ところがワサビやカラシがつんときて涙が出たりするところから,病人食事にはなんとなくあまり好ましくないように考えられ,ことに腎,肝,胃腸疾患などには禁忌とされているようである。かつて私は,はたしてそれほど害になるものかどうか臨床的ならびに実験的に調べてみたことがある。
 まず腎疾患であるが,ネフローゼの場合は問題ないとして,腎炎のさいはどうか。結論的にいつて香辛料の使用に対してあまり神経質になる必要はないということである。高血圧患者でも同様で,2週間にわたつて毎日1食はカレーライスにしてみたことがあるが,ほとんど悪影響はなかつた。シロネズミにいたつては,体重100gについて1gという大量のカラシを毎日強制投与1カ月におよび,そこで腎を組織学的に調べたがなんの変化もなかつた。もちろん悪食家のネズミとヒトを同日に論ずるわけにはいかない。またヒトに必要以上の大量を無理に与えるいわれもない。また香辛料が食欲を亢進させ,そのために肥満をまねいたり,口渇のために多飲になるようなことになれば有害である。ただ腎疾患や高血圧のさい食欲不振の対策として,あるいはときどき嗜好として適量の香辛料を用いることはなんらさしつかえはない。

グラフ

糖尿病食—食品交換表による

著者: 堀内光

ページ範囲:P.630 - P.631

 糖尿病食の内容を患者に示すとき,大切なことが2つある.第1は1日に摂る総カロリーを明示すること,第2は総カロリーをバランスのとれた内容として教えることである.
 1日に摂る総カロリーは標準体重で計算する.成人男子で軽労働者では25Cal/kgとする.労働の激しいものや,発育盛りの幼少年,妊婦,授乳中の婦人などは必要に応じて増加する.

TTCテスト—細菌尿のスクリーニング検査

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.633 - P.635

 腎盂腎炎,膀胱炎など尿路感染の診断には,尿中菌数が重視される。というのは,いわゆる中間尿を採取した場合はもちろん,無菌的にカテーテル尿をとつたとしても,尿道中の常在菌の混入をまぬがれないのである。したがつてこのようにとつた尿中に菌がいても,それが尿路感染の原因菌か,混入した尿道常在菌なのか区別がつかない。しかし中間尿にしろ,カテーテル尿にしろ,注意深くとれば,尿に混入する常在菌(雑菌)はごくわずかである。一方尿路感染があれば,ふつう尿中菌数は非常に多い。そこで尿中の菌数を調べ,菌数の多少から尿路感染の有無が診断されるようになつた。
 尿中菌数が105/ml以上であれば感染尿,それ以下であれば常在菌の混入と考えて,たいていの場合まちがいない。この尿中菌数を調べるには,尿の定量培養が必要である。

超音波による脳血管障害の鑑別

著者: 板原克哉 ,   佐藤元 ,   高瀬貞夫 ,   高橋郁郎 ,   吉田紀明 ,   伊藤辰男 ,   村田純治 ,   入野田侑宏

ページ範囲:P.636 - P.638

 医学的に超音波を用いる診断方法がとくに外科方面で開発されてすでに15年に近く,日本における超音波医学の進歩と普及は欧米よりもさかんであるといわれており,日本超音波医学会も回を重さねること10回であることはそれを物語つている。そして乳腺,胆石,膵,肝,最近ではドフラー法およびパルス反射法を利用した心疾患の診断に進展しつつある。1)〜5)
 しかし,世界的にみても最も普及しているのは反射法Aスコープ方式による頭蓋内疾患の診断法であつて,通常Echoencephalographyとよばれて,日常の臨床診断に用いられている。たとえば,Fordら6)は1,000例の対象者のうち頭蓋内疾患867例を得,Echoencephalographyにおいて326例(37.6%)に中心線エコーの偏位を認め,X線脳血管写と対比してみて偏位ありとした誤診例が29例,偏位を認めなかつたとした誤診例が24例,合計53例の誤まりをおかしたと思われるうちでfalse positive 24例,false negative 23例,逆偏位6例というように,90%以上のよい確診率を示している。

ファースト・エイド

昇圧剤に反応しないショックの治療

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.716 - P.717

 ショックに対する治療として,その原因にもよるが絶対安静とともに酸素吸入,輸液,輸血,昇圧剤,ステロイドなどを用いるのが常識となつている。しかし,これらの治療により,あるいは昇圧剤を増量しても効果が現われず,しだいに症状が悪化していく場合,その他にうつ手はないものだろうか。非可逆的と考えられる患者においてもできうるかぎりいろいろと手段をつくし,なんとか救う努力をはらうべきことはいうまでもない。

正常値

小児の年齢別正常値の変動—血清化学的成分

著者: 大場康寛 ,   佐々木匡秀

ページ範囲:P.718 - P.721

 日常診療上の必要性から,その研究,開発が進められていた超微量定量法は,近年,実用化の段階に達し1)2),日常臨床化学検査として組入れられるようになつた3)。これによつていままで臨床化学の盲点ともいわれていた小児領域においても,少量の試料(血清)からでも,同時に多種類の化学的成分の分析ができるようになり,成人と同様,病態の臨床化学的解析が可能になつた。
 この病態解析の尺度ともなるべき小児の各種血清化学的成分の正常値については,従来からすでに多くの報告がなされているが4)5),ここでは柴田,佐々木1)によつて開発された実用的で精度のよい超微量定量術式を用いて,大規模な小児検診を通じて得た15種類の血清化学的成分の正常値の年齢的変動について紹介する。

器械の選び方

ガストロカメラの選びかた

著者: 崎田隆夫

ページ範囲:P.722 - P.723

 最近,胃カメラの改良が少なからず行なわれつつあり,機械入手にあたつてとまどう点も多く,また本項をしたためるさい,当惑するしだいである。
 胃カメラには種々あるが,実地臨床に使用するさい,これを2つに大別することができる。1つは第1次検査用,他は第2次精密検査用である。これにのつとり,以下述べることにする。

心電図講座・5

心雑音—弁膜症の心電図

著者: 難波和 ,   藤垣元

ページ範囲:P.711 - P.715

 弁膜の異常が直接心電図に現われるわけではないが,心房や心室に肥大拡張を起こすと二次的に心電図にも変化が生じてくる。この変化は,弁膜症の種類やその病期により異なり,それぞれ特徴ある所見を示し,弁膜症の診断およびその重症度の検定に役だつので,どの弁膜症がどんな特徴を有するか,そのポイントをよく理解していただきたい。本号では,僧帽弁狭窄症および閉鎖不全症につき説明する。

臨床生化学

ビタミンB12の吸収

著者: 奥田邦雄

ページ範囲:P.724 - P.727

 B12の生理的吸収には内因子の介助を必要とする。吸収の初めの段階においてB12は内因子と複合体を作り,その複合体が腸粘膜表面に吸着される。興味ある合目的性反応である。

症例 全身性疾患と肺(V)

白血病と呼吸器—その1 固有の肺病変を伴つた急性白血病の2例

著者: 三上理一郎 ,   衣笠恵士 ,   北川正信

ページ範囲:P.729 - P.734

 白血病患者にみられる肺内変化については,白血病細胞浸潤や出血のごとき白血病固有の病変と,結核,真菌,一般細菌による肺内感染症の両者が起こる可能性がある。

膠原病の胸部レ線所見8例

著者: 敦本五郎 ,   上野謙蔵

ページ範囲:P.735 - P.739

 膠原病に伴つて起こる胸部変化について経過観察し,それら所見の2,3について述べる。胸部レ線写真では少数例をのぞきほとんどの症例に間質性または肺胞性肺炎,肋膜炎,心膜炎,心拡大の所見が得られた。今後新しい事実の出現により,これらレ線所見になんらかの修正が加わるかもしれない。

検査データ どう読みどうする?

好酸球増加

著者: 斎藤泰弘

ページ範囲:P.625 - P.625

 健康な日本人壮年男女計150名についての自験成績では,血中好酸球百分率の棄却限界は0.3〜6.3%(信頼限界は1.9〜2.8%)という数値が得られたが,周知のごとく一般にも,5〜6%を異常値の限界として,それ以上のものを好酸球増加とみなしている。まず好酸球増加のみられた1,2の症例の紹介から始めたい。
 症例1 34歳の婦人。2,3日来の夜間に増強するかるい喘息様呼吸困難感,咳,微熱で入院,胸部レ線像では,図のように両側中下肺野に散在する不定型塊状の陰影を認めたが,これは1週間後には消失した。入院時の血中好酸球は36.5%で,粘液状の痰には,図のようなダニとその幼虫が認められた。約5カ月間でダニの喀出は止み,好酸球も5.5%に下がった。この症例のような好酸球増加を伴う肺の一過性浸潤はLöffler症候群とよばれ,原因は多元的であると考えられているが,ダニの肺臓寄生(pulmonaryacariasis)も,その成因の一つとしてあげることができる。

この症例をどう診断する?・19

出題

ページ範囲:P.628 - P.628

■症例
 42歳 男 初診 4/5/66.
 生来健康であつたが,昨年12月27日に急性扁桃腺炎で40℃の発熱を起こし,抗生物質の注射とクロマイを4時間ごとに服用して,4日目にやつと正常熱にもどつた。このときから,1週間に一度ぐらい,37℃前後の発熱をみたがべつだん気にかけず,なんの治療も受けなかつた。本年の3月2日,午後2時ごろ,急に悪感をおこし,発熱(38℃)をみた。このとき,右前胸部に息苦しい感じを訴えている。この胸部不快感は1日中つづいたが,血痰もなく,チアノーゼも認められていない。医師に往診を乞い,「肺炎」と診断された。

討議

著者: 清水直容 ,   日野志郎 ,   田崎義昭 ,   和田敬 ,   森杉昌彦

ページ範囲:P.743 - P.748

 和田 これは,森杉先生に紹介していただいて,みせていただいた症例ですが,私が一応申しあげます。
 清水 結局最初の発熱からちようど3カ月間をおいているのですね。この間に,たとえば心不全のような呼吸困難とか……。

統計

保健薬の常用

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.627 - P.627

 厚生省では昭和38年以来「保健衛生基礎調査」を,全国から層化無作為抽出された約1万の世帯について,毎年10月1日現在で実施しております。この調査の目的は,保健衛生の実態を世帯の面からみるとともに,これに対する世帯員の意識,生活態度を把握し,保健衛生行政の基礎資料を得ることであります。調査項目はかなり盛りたくさんで多岐にわたり,年次によつても違つておりますが,ここでは保健薬の常用についての結果をお示ししたいと思います。
 図は健康法について,20歳以上の人を調査した39年の結果を年齢別にみたものであります。栄養に留意がどの年齢でももつとも多く,全年齢を平均しますと22.0%を占めています。これについでビタミン剤などの保健薬使用19.7%,睡眠に留意17.8%などとなつており,これらは40歳代ではそれぞれ26.1%,24.1%,19.6%といずれも最高であります。一方,体操など運動は20歳代で6.4%,散歩は70歳代で7.4%ともつとも高く,年齢によつて健康法も多少異なつております。この図は延数で実施者の割合を示してありますが,40歳代,50歳代になると,健康に注意し,半数近くのものがなんらかの健康法をとるようになつてきます。

臨床メモ

吐,下血の救急処置

著者: 常岡健二

ページ範囲:P.742 - P.742

 吐・下血はほとんどすべてが消化管疾患に由来するものであるが,このさいの治療はきわめて重要で,迅速にして適切な処置が行なわれなければしばしば致命的な結果をまねくことになる。

診療相談室

冠不全の予後判定上自覚症,E. K. G. 所見のいずれを重視すべきか,他

著者: 長尾透 ,   平井生

ページ範囲:P.749 - P.751

質問 冠不全の患者で,冠拡張剤を投与中,従来あつた胸部圧迫感や,胸部絞扼感などはどんどん軽減していくのにE. K. G. 所見は悪化していくのがありますが,この場合,どう考えたらよいでしようか。自覚症,E. K. G. 所見のいずれを予後判定上重視すべきか。またこのような現象を,臨床上,どのように説明解釈すべきでしようか。 (東京・平井生)

今月の表紙

婦人の腟プールスミア

著者: 高橋正宜

ページ範囲:P.748 - P.748

 近年癌への関心が高まるとともに細胞診といえば癌の検査法を連想させがちである。しかし,性周期に伴う細胞学的変化はPapanicolaouの研究の端緒をなしたように歴史的な意義をもつばかりでなく,第2回国際剥離細胞学会(1965,パリー)のパネルに大きく取り上げられたように現在の重要な研究課題である。
 子宮膣部,腟上部の粘膜上皮細胞は卵巣ホルモン周期性変化に加えて副腎ホルホンや外因性のホルモン剤投与に敏感に反応し特徴のあるスミア所見を呈する。ホルモン環境を表現する指数に細胞成熟度指数 maturation index,エオジン好性指数 eosinophilic index,核濃縮指数 karyopyknotic index,皺襞細胞指数 folded cell index,集合細胞指数 crowded cell index,あるいはsmear indexなどがある。

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きのう・きょう・あした

著者: 本間日臣

ページ範囲:P.689 - P.689

1966年10月7日
 14年ぶりに訪れたBellevueは,かつての活気を失つて廃墟の静けさのなかにあつた。一番街から眺めると,青銅の屋根をいただいたくすんだレンガの古めかしい建築は,EastRiverに面して秋の日ざしのなかにものうげにうずくまつていた。それは周辺の近代的なビルに囲まれて,老婆のように背をまげ,ふたたび戻つてきた私をなつかしんでいるかのようにみえた。正面玄関の右手,右翼の張り出すつけ根の部分にだれもが見おとすような小さなドアがある。このドアを入つて階段をのぼると2階のチェストクリニックの事務室の前に出るはずだつた。玉手箱をひらくような気持でこの小さなドアの見覚えのある真鍮の把手を引いてみた。手のひらに伝わる同じ重さ,それから鉄のらせん階段,2階の廊下へつながる防火ドア,そしてどうだ!往年の事務室とその隣りの図書室。右手にコンファランスルーム,左手にC病室D病室の指標。しかしそこまでだつた。ときが凝結したかに思えたのは。
 右心と肺との関係についての人類の知識は1940年までは北国の冬の太陽のように薄暮のなかの低迷をつづけていた。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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