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雑誌目次

雑誌文献

medicina4巻9号

1967年09月発行

雑誌目次

Leading Article

医原性疾患—ホルモン剤によるもの

著者: 高岡善人

ページ範囲:P.1259 - P.1262

医原性疾患とは
 Dorlandによれば医原性疾患iatrogenic diseaseとは1932年ごろSir ArthurHurstが医師の反省として「医師の言動あるいは議論をもとに患者自身の自己暗示によつて起こる障害」を戒しめたのが語源となつている。このころはいま60歳の医師が入局した当時であり,治療剤はきわめて幼稚でサルバルサン,アドレナリン,インスリンがあつたにすぎない。スルファミンもなかつたが昭和7年ごろの患者の医師に対する尊敬もほとんど絶対的であり日本では医原性疾患(I. D. と略)という言葉はつい最近まで知らないですんでいた。大学病院の総回診などは重症または暗示に富む患者に悪い影響を与えがちと思われるがそのまま習慣的に行なわれてきた。
 しかるに戦後驚異的な治療効果をもたらす薬剤の発見とともにストマイによる難聴,ペニシリンショック,副腎皮質ホルモンの副産物としての新しい疾患をも経験するにいたつた。その他白血病,がんを初め外科系諸領域を含めてほとんど治療界全般にわたる躍進と副作用について私どもが追いまくられているとき,外国でサリドマイド禍が発表され,あらためてI. D. が浮かび上がつてきた。

100万人の病気

いわゆる胃けいれん

著者: 日野貞雄

ページ範囲:P.1263 - P.1270

 胃けいれんという診断名はすでに過去のものとなったが,患者はしばしば"胃けいれん"を訴えてくる。"胃けいれん"の症状を呈する疾患は胃疾患以外にも数多くある。それらを見逃がさないために,いわゆる"胃けいれん"をどう考え,どう診断し,処置すべきだろうか。

座談会

老人の腹痛

著者: 長尾透 ,   伊藤一元 ,   河野実 ,   近藤台五郎 ,   常岡健二

ページ範囲:P.1272 - P.1279

 老人患者は,若い患者と違つて症状に対する反応も,また訴えも的確でなく,ために診断がなかなかむづかしい。腹痛の訴えも,必ずしも消化器疾患によるものばかりではなく,したがつてその際,老人の全身状態をどう把握するかがたいせつになつてくる。今まで消極的に考えられがちであった老人患者の手術適応の問題も含めてお話合いいただいた。

診断のポイント

心筋硬塞の酵素診断

著者: 新谷博一

ページ範囲:P.1280 - P.1282

どんな酵素が使われるか
 1954年La Due,Wroblewski,Karmenらが急性心筋硬塞における血清glutamicoxalacetic transaminase(SGOT)の上昇を報告して以来,心筋硬塞の臨床診断上血清酵素測定の有用性が認められ,広く行なわれるようになつた。SGOTはその活性値の上昇が一過性で,臓器特異性が少ない欠点があり,同時に使われるようになつたglutamic pyruvic transaminase(GPT)のほか,lactic dehydrogenase(LDH),malic dehydrgenase(MDH),succinic dehydrogenase(SDH),aldolase(ALD),phosphohexose isomerase(PI),glucose-6-phosphate dehydrogenase(G6PD),cholineesterase(ChE),oxidase,creatine phosphokinase(CPK),α-hydroxybutyrate dehydrogenase(HBD),さらにLDHのアイソザイム,とくにLD5など多くの酵素が急性心筋硬塞のさいにその血清活性値の上昇または低下(ChEのみ)することが報告されている。しかしその特徴,測定上の技術的問題などから現在比較的広く日常臨床上使用されるようになつたのは,トランスアミナーゼのほかはLDH,HBDである。

虫垂炎

著者: 野並浩蔵

ページ範囲:P.1285 - P.1286

右下腹部痛即虫垂炎は誤診のもと
 虫垂炎という病気は1886年Reginald Fitzがこれに関する論文を発表するまで医師でもだれにもなにごともいわれなかつたらしいが,しかし最近では盲腸炎といえばしろうとでも日常茶飯の病気のように安易に考えているように思われる現状である。たしかに虫垂炎ははなはだしく頻発する疾患である。全人口の約半数は一度は虫垂炎にかかるとさえいつてる人もあるくらいで,軽症はまつたく自覚症状なく経過するものがあり,また疼痛発作を起こしても医師を訪れない患者も多く,剖見で虫垂炎の瘢痕がみいだされてしかも虫垂炎の既往歴のないものをしばしばみうるということも理解できるわけである。このように例数が多いので教科書的な症例では診断は容易であるが,非定型的な症例においては非常に困難になることもある。単純に右下腹部痛をなんでも虫垂炎と診断すると大変な誤診のもとになる。また反対に腹痛を伴ういかなる症例にもいわば急性虫垂炎は鑑別診断を要する疾患のなかにはいつている。それにもかかわらず外科医が初歩の訓練のためにまず虫垂炎の手術を手がけるとよく聞くが,けつして容易な手術の手本とばかりとはならないであろうと思う。故塩田博士は「盲腸手術はやさしかたし」といつているが,けだし名言である。なおかつて私のほうの病院の外科で急性虫垂炎の診断で切除した虫垂を全部病理組織学的検査を行なつたところ,その1/10は完全に虫垂炎でなく,明らかに誤診であつた。

むち打ち症候群

著者: 近藤駿四郎

ページ範囲:P.1283 - P.1284

 「むち打ち症候群」と一般によばれている臨床的立場からの私見は,すでに多くを記述してきたのでいまさらこれにつけ加えることはなにもないのであるが,内科方面の実地医家にもこの症状を一応理解しておいていただくことはたいへん有意義と思うので,ごく簡単に要点をかいつまんで述べることにした。
 第一に本症状を示す患者の大多数は追突事故が原因となつているが,このとき頸部の過伸展過屈曲が生じることが症状発生に必要であり,また頭部に直接外力が作用することはまれである。

治療のポイント

授乳とクスリ

著者: 西村昻三

ページ範囲:P.1288 - P.1289

 授乳期間中に母体に投与された薬剤が,どの程度母乳中に出現し,それが児にどういつた影響をおよぼしうるかということは,日常の臨床において授乳婦よりしばしば質問を受ける問題である。理論上はいつたん母体内に吸収された薬剤は量の多寡はあつてもなんらかのかたちで母乳中にも移行するものと思われるが,その詳細についてはあまりよく知られていないようで,これに関する文献も意外に少ない。筆者はこの方面を専門とするものではないが,臨床医として知つておかねばならないことでもあるので,二,三の文献を参考にしながら,主としてどういつた薬剤が用いられた場合には注意が必要かという点について述べたいと思う。

眼精疲労の治療

著者: 樋渡正五

ページ範囲:P.1290 - P.1291

 過度の使用によつて疲労しても休息によつて完全に回復する健康な眼と異なり,病的な眼(非常にあいまいな表現であるが)は休息によつても容易に疲労が回復しないか,ふつうなら疲れない程度の仕事でも容易に疲労を起こし,視力減退,複視,流涙,眼瞼眼窩深部の圧迫痛や圧迫感,鼻根部前頭部の不快感や頭痛,圧力痛や圧迫感などより,後頭部や首すじ,肩甲部の疼痛から緊張感,違和感,さらには倦怠感やなんとも表現しがたい息苦しさ,はなはだしくなれば悪心や嘔吐,心悸亢進などまで起こしてくるのであつて,これを眼科では一般に眼精疲労Asthenopiaとよんでいる。

癌化学療法の問題点

著者: 斎藤達雄

ページ範囲:P.1292 - P.1293

 がんの化学療法が,具体的な事項として広く世界の学者,臨床家によつてとりあげられてから久しく,本邦においてもだいたい16〜17年になるが,当初の期待に反して,大きな壁につきあたり,これをいかにして突破するかという困難に直面しているのが現状である。
 本来,がんそのものの本態が,未解決であつてみれば,これも当然とはいえ,やはり多くの問題点が残されている。

右脚ブロックをもつ患者の治療と生活指導

著者: 矢野勝彦

ページ範囲:P.1294 - P.1295

 右脚ブロックは心室内興奮伝導障害の一種で,心電図上QRS群およびST・T部に特徴のある著明な変化を示すので,初学者の注意をひきやすく,ややもすると重篤な心疾患の存在を示す所見に受取られがちである。また,右脚ブロックの臨床的意義や予後に関する従来の報告も,病院を訪れる心疾患患者を主とする統計が多く,過大に評価されていたきらいがある。近時心臓血管病の集団検診や疫学的調査がさかんになり,心疾患愁訴の有無にかかわりなく,広範囲の年齢,社会層を含む男女の心電図検査が行なわれるようになるとともに,右脚ブロックの実態や自然史がしだいに明らかにされつつある。このような事実を足場にして右脚ブロックをもつ患者の治療および生活指導について筆者の考えを述べてみたい。

目で見る神経病学・2

意識障害のある患者の診察

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.1302 - P.1304

 意識障害のある患者について,正しい神経系の診察をすることは,その意識障害の原因をみきわめるのに重要である。すなわち意識障害で四肢の麻痺,眼球運動麻痺,顔面麻痺,瞳孔の異常,眼振などの巣症状を伴うときは脳腫瘍,脳軟化,脳出血など脳内に病巣をつくる疾患,あるいは抗けいれん剤中毒のように中枢神経系のある局部を主としておかす疾患が考えられる。また髄膜刺激症状を伴うときは,くも膜下出血,髄膜炎が疑われる。これに対して単に意識障害のみを起こすのは肝性昏睡,糖尿病昏睡,低血糖昏睡,睡眠剤による中毒など主として神経系の代謝異常を起こす疾患である。したがつてこれら神経症状の有無を明らかにすることが,その患者に対するその後の処置,治療を決めるうえにいかに重要であるかはいうまでもない。
 まず頭部に腫張,陥没,叩打痛がないか視診,触診,打診をし,さらに項部強直がないか調べるのは意識がはつきりしている患者の診察と同じである。

器具の選び方

採尿コップの選び方

著者: 林康之 ,   猪狩淳

ページ範囲:P.1296 - P.1297

 市販採尿コップはガラス製,合成樹脂製,紙製の3種類に分けられ,それぞれ容量,形状,目盛りの有無などで多種類のものがある。また採尿コップの使用頻度から,単に容器でありさえすればよいと考えればどんなものでも利用されている可能性はあろう。ただ,それぞれの材質や形状によつて多少の長所欠点があり,検査件数や検査種目,目的によつて選択の余地はあると考えられるので,種類別に気づいた点を述べる。

正常値

髄液電解質

著者: 高木康行

ページ範囲:P.1298 - P.1299

 髄液は,中枢神経系をとりまき,その特異な内部環境を維持するのに大きな役割をはたしているものと考えられる。
 特にその電解質組成は脳組織の代謝活動をたもつうえにきわめて重大な影響を与えると同時に髄液の酸塩基平衡を規定する大きな因子として呼吸調節にも深い関連を有することが知られ注目されている。

EDITORIAL

胃けいれん

著者: 松永藤雄

ページ範囲:P.1305 - P.1305

 私が「胃けいれん否定論」を日本医事新報誌上に書いてから,もう10年にもなろうとしている。そしてこんにちでも,その当時とまつたく意見は変化していない。それは,いわゆる「胃けいれん症状」を呈する胃の真のけいれん症例に,その後もいぜんとして1例も遭遇していないからでもある。
 わが国の医界にいつの時代からこの病名が用いだされたかについては,不勉強にも私はまだ調査の努力をはらつていないが,こんにちにいたつてもなお,内科の専門誌のEditorialにとりあげられるべきものなのかと,疑問をさえ覚えるのである。

神経病学のterminology

著者: 土肥一郎

ページ範囲:P.1306 - P.1306

 内科的神経疾患の用語は,他の分野と同じく新しい概念の発生―命名―混乱―約束による用語設定―この枠をはみ出す概念の発生という循環をくりかえしながら厳密な用語の数を増してきた。一度きめられた用語は内容をすりかえたり拡張したりしないで使用されることによつて地位を確立するが,日本語のもつあいまいさのために,われわれは話が通じなくなると外国語をひきあいに出してきりぬけることが少なくない。これはわれわれの外国語の底が浅く,概念と用語とが,せいぜいひととおりしか結合しないことも一因となつている。たとえば痙直と痙縮,硬直と固縮とが入り乱れるとき,前二者はspasticity,後二者はrigidityといいなおせば,内容はさしたる混乱なく把握される。
 用語のなかには解剖学的部位の名称や,個々の機能の細目の表現のようなものから,疾患の命名のようなものまでのいく段階かがある。前者は約束でけりがつくことが多いが,後者はしばしば専門研究者を論争にまきこみ,圏外の人を途方にくれさせる。後者の場合病変の部位,性状,経過などを一般名で表現した命名,たとえば脊髄性進行性筋萎縮症というような場合はもつとも普遍妥当性をもつており,ある疾患にそのような名称を与えることによつて混乱が起こることは少ない。

グラフ

抗核抗体

著者: 勝田保男

ページ範囲:P.1248 - P.1249

 1948年KlempererらによりLE細胞が発見されて以来,全身性エリテマトーデス(SLE)患者血清中に,抗核抗体と総称される細胞核,およびその構成成分と反応する自己抗体が,種々の免疫学的方法で証明された.抗核抗体はSLEの臨床診断上重要であるばかりでなく,臓器特異性,種属特異性のない,重要な生体高分子であるデゾキシリボ核蛋白,DNAなどに対する抗体である点興味が深い.臨床的にもつとも使用される抗核抗体検査法はLE細胞検査,LEテスト(Hyland),螢光抗体法である.LE細胞現象は,患者血清中にあるImmunoglobulin Gに属するLE細胞因子とよばれる抗核蛋白抗体により起こる現象である.螢光抗体法はもつとも鋭敏であるが,陽性の場合でも他疾患を否定できない.LEテストは陽性率は低いが,陽性の場合信頼性は高い.

肺癌早期診のための末稍病巣擦過法

著者: 坪井栄孝

ページ範囲:P.1251 - P.1253

 喀痰の細胞診は肺門近くの肺がんには早期診断法としての価値ももつている。しかし,末梢型,特に早期肺がんには診断率が非常に低く,その診断のためには直接病巣からがん細胞を採取する方法が必要である。従来,肺がんの擦過細胞診は気管支鏡下に行なわれるのが通例とされてきた。しかし,その対象は肺門付近のがんに限定され末梢肺がんには無力であつた。1957年千葉大肺研では選択的気管支擦過法を考案し,気管支鏡下の末梢肺がんの診断を可能にした。一般的には最近,心カテーテルを気管支鏡下に末梢へ挿入して分泌物を採取する方法がとられ,特にヨーロッパにおいてさかんに行なわれている。一方,1953年メトラが気管支造影のために独特の彎曲をもつ数種の気管支カテーテルを考案してからこのメトラ氏ゾンデを利用して気管支分泌物を採取して末梢肺がんの診断をする方法が行なわれるようになつた。
 1954年私はこのメトラ氏ゾンデをとおしてX線透視下に図のような器具を末梢病巣に挿入してがん細胞を採取する方法を考案し,末梢肺がんの早期診断に成功した。

肝シンチグラム

著者: 楢林和之

ページ範囲:P.1254 - P.1256

 放射性金コロイド(198Au:物理的半減期2.3日)や疏化テクニチウム・コロイド(99mTc2S7:物理的半減期6時間)など肝臓の網内系細胞に摂取される放射性同位元素による肝シンチグラムは,種々の肝疾患の診断に役だつ。とくに肝腫瘍,肝膿瘍では欠損像として病巣の大きさと位置を示し,また,肝硬変症,バンチ氏症候群などでは肝全域のR.I.分布の疎な所見と脾への集積像から診断が容易である。
 シンチスキャナーには,記録方法によつて,打点式,写真式,オッシロスコープ式などがあるが,最近では,われわれが1962年に開発した断層シンチスキャニングやあるいはまた,R.I.の肝への集積を刻々ブラウン管上に映像できるシンチカメラやオートフルオロスコープなどが案出され,実用に移りつつある。ここではシンチスキャナーによるシンチグラムについて図説する。

心電図講座・9

心筋硬塞—発作から治癒まで

著者: 難波和 ,   藤垣元

ページ範囲:P.1329 - P.1334

 心筋硬塞の診断は心電図がもつとも威力を発揮するものの一つである。もちろん,問診による心臓痛の発生,血沈,白血球数,血清GOTなどの検査も欠かすことはできないが,心電図は硬塞発生の時期や硬塞部位およびその範囲を推定することが可能である。本号では,硬塞心電図の発生から治癒までの経過を示し,心電図がどのように変化していくか,心電図から逆に硬塞の時期を推定するにはどういう点をみればよいか,などを主として説明した。

他科との話合い

めまい—その診断と治療

著者: 加瀬正夫 ,   小此木啓吾 ,   猪初男

ページ範囲:P.1335 - P.1342

 「めまい」といえば,メニエール病を考えがちだが,その背後には他の疾病がかくされている場合がある。患者の訴えが主観的であるがゆえに,それを客観的にとらえなおすための心構えはいつそうたいせつといえる。診断のコツ,必要な検査法,治療の実際について。

臨床免疫学

免疫抑制療法

著者: 山村雄一

ページ範囲:P.1343 - P.1346

 抗腫瘍剤として開発された免疫抑制剤が自己免疫疾患の治療に使用されるようになつた歴史は浅いが,すでにSLE,肝炎などかなりの疾患に有効なことが証明され,副作用,離脱作用の点からステロイドホルモンに代わる薬剤として,臓器移植における免疫抑制剤として,将来が期待される。その作用機序,有効性などについて。

症例 全身性疾患と肺(IX)

神経疾患と呼吸器

著者: 三上理一郎 ,   土持恒人 ,   高木昭男 ,   北川正信

ページ範囲:P.1347 - P.1352

症例1 縦隔腫瘍を伴つたVon Recklinghausen病—手術摘出後悪性化した死亡例
 美○逸○37歳 家婦(NN 1124)
 家族歴:両親同胞に患者と同じような色素斑などがあつたか否かは明らかでないが,次女が5歳ごろから躯幹の皮膚に多数の色素斑が認められる。

腸の癒着—レ線診断を中心に

著者: 斎藤泰弘

ページ範囲:P.1353 - P.1359

 腸管癒着症は,イレウスの軽度のもの,あるいはイレウスの前駆症として取り扱われており,成書にもこれを独立した単位疾患として,記載しているものはきわめて少ない。しかし腸管の癒着にもとづくと考えられる愁訴をもつ患者を診療する機会は,それほど少ないものではないので,その診断とくにレ線像および治療について,内科の立場から考察を加えてみる。

検査データ どう読みどうする?

血小板減少

著者: 安部英

ページ範囲:P.1243 - P.1243

 点状の紫斑が出たり,わずかな打撲で容易に出血したりして,ある程度血小板の減少が予期される場合でも,また血液検査の結果偶然血小板の少ないことを認めた場合でも,この血小板減少がどうして招来されたかを検索し,その原疾患を究明することは,その対策治療に直接つながり,また予後の判定にも欠くべからざる要件である。

付表 血小板減少症診断の道すじ

ページ範囲:P.1346 - P.1346

この症例をどう診断する?・22

出題

ページ範囲:P.1246 - P.1246

■症例
63歳男アパート経営
主訴:微熱,咳,痰

討議

著者: 太田怜 ,   金上晴夫 ,   和田敬 ,   田崎義昭 ,   松尾裕 ,   菅邦夫 ,   光永慶吉

ページ範囲:P.1360 - P.1365

まずどこに目をつけるべきか
 菅(司会) まず,このような症例をみた場合,初めになにを考えたらよいかにつき,太田先生からご発言ください。
 太田 この症例の考えかたみたいなものを一応簡単にお話させていただきますけれども,この症例はなかにニボーを含んだ空洞があるということが,非常に大きな問題点だと思います。それからあとのほうは,検査成績のところでお話したいと思います……。

統計

心・血管疾患による死亡

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.1245 - P.1245

 脳卒中,心臓病,高血圧症を個別に観察することももちろん必要でありますが,これらを心・血管疾患として総合してみることもまた意義のあることであります。表には心・血管疾患の死亡率をかかげましたが,イギリスが最高の532.6を示しているほか,各国ともわが国と比べてかなり高率であります。
 つぎにこの内訳についてみるわけでありますが,死因統計作成上高血圧症とは,心臓または腎臓に合併症があつた場合であり,脳に異常のある場合は,脳卒中とする規則になつています。心臓病とくに冠状動脈疾患が外国にきわめて多いことは,前号でふれましたが,表にみるとおり脳卒中はわが国が173.4と高率であります。ただし西ドィツも178.2でわが国を上まわつているようにみられますが,これは西ドイツがわが国より老人の多いためであり,かりに人口の年齢構成が同じであると仮定しますと,わが国は西ドイツより男で2倍,女では1.5倍の高率を示すことになります。まして他の国との差は,さらに大きいものであります。死亡割合をみましても,わが国では脳卒中が60%をこえていますが,外国では20〜40%程度となつています。これはわが国の医師の方たちが,急性死のような場合に心死よりも脳死と診断される傾向のあることにもよりますが,剖検例やその他の研究から脳卒中の多いことも事実であるといわれております。

第一線の立場

第一線医師はいかに生くべきか?

著者: Y・T

ページ範囲:P.1309 - P.1309

1)医師は研究機関を離れて開業したとたんから,医学の進歩からとり残されるおそれがある。このことをきもに銘じて収入の何%かは医学書の購入にあてるべきである。先生といわれると人間つい唯我独尊におちいりやすい。
2)開業医を一国一城の主というがこれは昔の話である。診断も治療も正確なデータによりぴしやりと決定する現代医学の横行闊歩するこんにち,勘にたよつたり,経験を売りものにしたらどこまで患者がついてくることだろう。竹槍300万本の戦争論は通用すべくもない。

文献抄録

「掌斑と心疾患」—JAMA, Vol. 197, 689〜692, (August 29, 1966)

著者: 高階経和

ページ範囲:P.1312 - P.1313

"Medical Dermatoglyphist"
 私が,1958年から1962年の4年間,ニュー・オルリンズ市のTulase University School of MedicineでCardiologistのProf. George E. Burchとともに心臓病の研究室で働いていたとき,ちようど同じ研究室に,解剖学者であり,同時にすばらしい臨床家でもあるDr. Alfred Haleが脳循環の問題にとりくんでおられた。
 かれは,最初に掌斑と先天性心疾患の患者との間には,胎生学的にいつて変化が必ず現われてくるに違いないという仮説をたて,これらの変化を白人と黒人の患者の間にみごとに証明したのである(JAMA 176:41〜45, 1961)。当時,私はDr. Haleと一緒に病棟をもち,ずいぶんいろいろなことをともに話し,そしてともに研究した。

診療相談室

大動脈弁閉鎖不全症の手術に対する不安,他

著者: 加藤和三

ページ範囲:P.1366 - P.1369

質問 下記の症例について手術の適否をご教示ください。
 5年前に大動脈弁閉鎖不全症を発見。当時の所見以下のとおり。 21歳 男子

話題

盛んな失語症研究—第4回リハビリテーション医学会総会から

著者: 芳賀敏彦

ページ範囲:P.1271 - P.1271

すべての疾患については今後に期待
 一般講演を発表順にみるとCVA1)に関するものが18題つづき62題の全演題の約3割を占めた。CVAの分類,治療(含整形外科手術),心理面,遠隔成績,についてかなり活発な質疑応答があつた。対麻痺に関するものは3題でとくに早期(発症後10日まで)の治療,看護がその予後に強く影響することが述べられた。PMD2)に関するもの3題で東大上田らは呼吸問題をとりあげ病期と%VCの正の相関を示した。いつもながらの徳大山田らの積極的研究,治療が発表された。CP3)はシンポジウムももたれたためか3題にすぎなかつた。本学会で特にめだつたのは12題の言語障害関係のものがあり,うち10題が失語症に関するものであつた。このうち7題は,失語症の情報科学的研究のテーマのもとにシリーズとして組織だつた方法で電子計算器を使用した分析をも含めて行なわれた。切断の問題が義肢も含めて4題あり,各種疾患の理学療法,作業療法を中心としたリハビリテーションが8題つづいた。N2O使用下の機能訓練は麻酔科と組んだ新しい方法であつた。心に関するものが3題でいずれも心筋硬塞に関してであつたがうち1題は弁膜疾患,高血圧性心疾患にもおよんだ。老人に関するもの2題はいずれも老人のADL4)を点数で評価分析したもので一つは都内特定施設につき他の1題はその全国調査であつた。

今月の表紙

便の脂肪染色

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1282 - P.1282

 糞便中の脂肪は中性脂肪と脂肪酸からなり,脂肪酸の一部は腸内にあるカルシウムなどと結合して脂肪酸塩として存在する。正常人では中性脂肪と脂肪酸の割合は1:3であつて,約1cmの直径にぬりつけた便中に数滴の脂肪滴を認めるにすぎない。0.2%ズダンIVエタノール溶液を加えると中性脂肪のみがまず赤く染まり,つぎに氷醋酸1滴を加えて酸性にして泡だつ程度に加熱すると中性脂肪および脂肪酸塩は水解されて脂肪酸となり脂肪全体が赤く染まつてくる。したがって,加熱前と加熱後の脂肪滴のようすを観察すれば中性脂肪と脂肪酸との割合をおおよそ見当づけることができるわけである。膵外分泌機能低下によつてリパーゼの分泌が少ないと中性脂肪が主として増加し,腸吸収不全症候群や閉塞性黄疸では主として脂肪酸が増加する。

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きのう・きょう・あした

著者: 河盛勇造

ページ範囲:P.1307 - P.1307

1967年4月17日
 最後の臨床講義をすませた。
 3月の年度末にやめようと思っていたので,最終講義のことなど,考えてもみなかつたが,医学会の総会や,転任先のつごうなどから,4月末まで大学に籍をおくことに決まると,一つ思い出に最終の臨講をやつてみようという気持になつた。これもやはり,しやばつ気というものであろうか。

夢の処方

著者: 橘直矢

ページ範囲:P.1310 - P.1311

 中国は昔の物語。鄲邯なる地に一軒の茶屋があり,ある日ひとりの道士が休んでいた。そこへ旅の若者がやつて来た。名は盧生,彼は雄飛の心やみがたく都へ上つての立身を思い立つての旅路であつた。鄲邯で憩をとった青年盧生は道士の枕をかりて横になるうちにいっしか眠り込んでしまった。彼はここで都に行つた自分が立身出世して栄耀栄華をきわめた夢をみる。ふとめざめた盧生は気づく……先程この店で火にかけてあつた黄粱の粥はまだ炊き上るか炊き上らぬかであることを……あの出世あの栄華はこの短いつかの間のことであつた……。黄粱の炊き上る迄のこのつかの間のこと! これは有名な黄粱一炊の夢のお話である。
 夢には心の奥底が顔を出すという。栄華を瞳れた青年盧生の心はつかのまのまどろみにも顔を現した。が,あはれ,それは黄粱一炊の間であつた。この物語はいくらのかの教訓を含んでいる。古典のまますなおに受けとろうと,現代的に逆説的に受けとろうと勝手であるが。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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