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研修医と読書
著者: 木崎昌弘1
所属機関: 1慶應義塾大学医学部内科
ページ範囲:P.91 - P.91
文献購入ページに移動 実際に指導医として,病棟や外来で研修医の指導をするようになって久しいが,どうしても自分たちの研修医時代と比較して,昨今の研修医を評価することが多い.私が特に最近気になるのは,書物に親しんでいる研修医が少ないことだ.もちろん,研修医の業務はわれわれの時代に比し格段に多く,忙しくて本を読む時間を捻出することが難しいことは重々承知している.それでも気になる.どんなところにそれが表れるかというと,患者と接しても,時にとんでもない非常識な言動や教養に欠ける研修医が多いと感じることが間々あることだ.もっと低レベルなところでは,カルテを書かせても意味が通じない文章や誤字が多い,他人が読むに耐えうる字になっていないなどの点に表れていると思う.医師という職業は,患者に接するにあたり医療技術や知識はもとより,全人的な人間としての素養も大切である.人間的な素養となるのは,自らの育った環境で養われることが多い.理系,文系というわけ方は好きではないが,医学部の入試は理系であっても,医師としての職業は文系的な要素がかなり大きなウエートを占めている.病気を通して患者の人生観や,時には死生観といったものにまで踏み込まなくてはならないことが臨床の現場では往々にしてあるが,そんなとき,答えは1つでないことはよくあることである.患者とともに,患者の立場に立って考えることはとても大切ではあるが,『ブラックジャックによろしく』の斉藤先生のように自らの感情を移入しすぎても,患者にとっては迷惑なこともあるかもしれない.自分の子どもや孫の年代に相当するような若くても,自分の生き方や医師としての姿勢がはっきりしている研修医は患者にとって魅力的である.指導医としてもこのような研修医と仕事をするのは楽しいし,何よりも安心感がある.自らの人生観はそれまでの経験やめぐり合う人との交流など,人生の過程で影響される多くの因子によって形成されるものである.そうであるならば,自ら優れた書物を求めることは,職種に関係なく大切なことであると思う.どんなに忙しくても,研修医時代に医学の勉強とともに優れた書物に親しみたいものである.私は今でも週に1冊は文庫本か新書を読むようにしているが,きわめて忙しいときにめぐり合った書物ほど印象に残っているし,自分の人生に影響を与えているように思う.自らがめぐり合う書物や人を大切にし,患者の立場に立って,責任のある行動がとれる医師に育ってほしいと願いながら,病棟で研修医諸兄と接する毎日である.
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