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文献詳細

雑誌文献

medicina40巻12号

2003年11月発行

文献概要

column

病理医との対話

著者: 下正宗1

所属機関: 1医療法人財団東京勤労者医療会東葛病院

ページ範囲:P.605 - P.605

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 病理診断は最終診断(final diagnosis)といわれています.確かに,現時点では,病理組織学的診断を最終診断として種々の医療行為が進行していきます.腫瘍マーカーが上昇していても,局在がはっきりしない腫瘍は切除のしようがありませんし,ましてや化学療法などの適応になりません.病理組織学的に判断が難しい症例に遺伝子診断などの手法も用いられてきていますが,その基本になるのはヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を中心とした病理組織学で,遺伝子診断が先に行われることはありません.病理医に診断を依頼する際には,できる限り詳細な臨床情報と肉眼・画像所見がある場合には,その所見を詳しく伝える努力をしてください.病理医は組織学的な所見だけでなく,臨床側からの情報を十分加味して病理組織学的診断を行います.しかしながら,病理医の診断が万能でないのも事実です.もし,自分が考えているものと違った診断名の報告用紙をもらったら,ぜひ病理医に診断に至った過程を聞いてみてください.

 私がまだ認定病理医になる前の研修時代の話です.胃内視鏡でⅡc型の胃癌が疑われ,生検された検体が届きました.標本を作って見てみると軽い炎症所見があるのみの胃粘膜でした.その結果を見た内視鏡検査を実施した内科医が「そんなはずはない.もう一度見直してほしい」ということで病理検査室を訪ねてきました.レクチャースコープで同じ標本を見ながら腫瘍細胞がないことを確認しましたが,写真を見ながら「出ないのはおかしい」ということになり,「深切り」することになりました.「深切り」とは,検体をさらに削ってたくさん標本を作ることです.顕微鏡で検索する検体の厚さは通常2~4μmです.1mmの生検検体で,熟達した技師で250~500枚までの間で標本ができていきます.つまり,1mmの検体をどの向きから薄切するかで,腫瘍細胞があっても標本に載ってこない可能性があるわけです.このケースの場合は,検体がなくなりかけた残り十数枚の場所から低分化型腺癌が出現してきました.臨床医の肉眼所見に対するこだわりが癌の診断に結びついたわけです.病理診断の限界もわかりながら,病理部門との連携を深めていってほしいと思います.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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