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雑誌目次

雑誌文献

medicina40巻13号

2003年12月発行

雑誌目次

今月の主題 肺炎 総論―肺炎治療へのアプローチ

日本におけるガイドライン作成の基本理念

著者: 渡辺彰

ページ範囲:P.1978 - P.1980

ポイント

・わが国の肺炎ガイドラインは,肺炎診療の流れをフローチャートによって具体的に提示し,理解しやすいようにしている.

・わが国の肺炎ガイドラインは,市中肺炎を細菌性肺炎と非定型肺炎の2つに大きく鑑別して治療薬剤選択の適正化と治療効果の向上を目指している.

・わが国の肺炎ガイドラインは,耐性菌の増加を抑制するために使用抗菌薬を群別に推奨して個別の具体的な薬剤名はできるだけ推奨しない方針を採用した.

肺炎の画像診断

著者: 黒﨑敦子

ページ範囲:P.1982 - P.1985

ポイント

・肺炎の分類の一つとして,肺胞性肺炎と気管支肺炎に分類する方法がある.

・画像だけで肺炎の原因菌を特定することは難しいが,特徴的な所見を示した場合,その推定に役立つこともある.

・肺炎の画像上の鑑別診断として常に悪性腫瘍を忘れてはならない.

肺炎の病理

著者: 植草利公 ,   畑中一仁

ページ範囲:P.1986 - P.1990

ポイント

・肺炎(肺胞性肺炎)は,肺実質を主体とする炎症である.

・多くは経気道的な起炎物質を吸引することにより起きる.

・肺炎には肉芽腫を形成するものがある.

・肺炎の原因は多種多様であるが,生体の組織反応には限りがあり,形態学的に明らかにできないものも多い.

市中肺炎

市中肺炎の診断基準

著者: 二木芳人

ページ範囲:P.1992 - P.1993

ポイント

・市中肺炎は通常の社会生活を営むヒトに急性に発症する肺炎であるが,類似の疾病との鑑別も重要.

・局所症状と全身症状があり,高齢者では後者が前面に出ることも少なくない.

・画像上の特徴は新たに出現した区域性のある浸潤陰影である.

・臨床検査成績ではCRP値,赤沈値の高値と末梢血好中球増多がみられるが,非定型肺炎では好中球増多はみられないか軽度.

予後からみた重症度分類と入院・外来治療の目安

著者: 青木洋介 ,   福岡麻美 ,   林真一郎

ページ範囲:P.1994 - P.1997

ポイント

・外来か入院診療かの適切な判別には,客観的重症度評価ができなければならない.

・“市中肺炎の重症度”とは,市中肺炎に罹患した患者の全身状態の重症度を意味する.

・重症度判定には肺炎による生理機能(主としてバイタルサイン)の変調,年齢,患者の従来の健康状態の三者を加味することが重要である.

細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別

著者: 石田直

ページ範囲:P.1998 - P.2000

ポイント

・非定型肺炎は市中肺炎のなかで重要な位置を占める.

・日本呼吸器学会市中肺炎ガイドラインでは,細菌性肺炎と非定型肺炎を鑑別することが特徴の一つである.

・高齢者では細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別は困難なことがあり,両者を考慮した治療も必要である.

原因微生物の検査法・迅速診断

著者: 佐藤長人

ページ範囲:P.2002 - P.2005

ポイント

・市中肺炎における原因微生物の検査法の基本は,喀痰のグラム染色と培養検査である.

・原因微生物の迅速診断法として,尿中抗原迅速診断キット(肺炎球菌・レジオネラ),インフルエンザウイルス迅速診断キット,抗マイコプラズマIgM抗体迅速検出キットは有用である.

細菌性肺炎群の治療

著者: 中森祥隆

ページ範囲:P.2006 - P.2008

ポイント

・細菌性肺炎の原因菌の第一位は肺炎球菌,次いでインフルエンザ菌である.

・治療開始時の原因菌推定に良質な喀痰のグラム染色と肺炎球菌尿中抗原検査が有用である.

・ペニシリン結合蛋白の変異によるペニシリン,セフェム,マクロライドの多剤耐性肺炎球菌が,またβ-ラクタマーゼ産生および非産生のアンピシリン耐性インフルエンザ菌が増加している.

非定型肺炎群(マイコプラズマ,クラミジア,レジオネラ)の治療

著者: 中谷龍王

ページ範囲:P.2010 - P.2012

ポイント

・市中肺炎のなかで,マイコプラズマ,クラミジア,レジオネラなどによる非定型肺炎は約40%を占め,稀な疾患ではない.

・病原体が細胞壁をもたない,あるいは宿主の細胞内に寄生,ないし増殖することなどから,ペニシリン系やセフェム系薬剤は無効である.

・マクロライド系,ケトライド系,テトラサイクリン系,ニューキノロン系薬剤などが有効である.

・第一選択薬はマイコプラズマ肺炎ではマクロライド系やケトライド系,クラミジア肺炎ではミノ(ドキシ)サイクリン系,レジオネラ肺炎ではマクロライド系,ニューキノロン系やケトライド系である.

市中肺炎の抗菌薬効果判定指針

著者: 川名明彦

ページ範囲:P.2013 - P.2015

ポイント

・抗菌化学療法開始後,3日目(有効性の評価)と7日目(中止できるか否かの判断)に治療効果判定を行う.

・効果判定上重要な臨床的項目は,体温,咳嗽,喀痰,呼吸困難など,検査項目は,白血球数,CRP,X線所見などである.

・抗菌化学療法を開始した後は,漫然と継続するのではなく,効果を評価して治療方針にフィードバックすることが大切である.

抗菌薬無効例における対応

著者: 田下悠子 ,   後藤元

ページ範囲:P.2016 - P.2020

ポイント

・肺炎に対する抗菌薬投与では,効果の判定を的確に行わなければならない.

・診断自体に問題がないか,適切な抗菌薬を投与しているか,起炎菌は抗菌薬に耐性をもっていないか,移行性の問題はないか,効果判定の時期は適切か,などが,治療効果が得られない肺炎に遭遇した際の重要なポイントである.

耐性肺炎球菌・インフルエンザ菌の治療

著者: 平泻洋一

ページ範囲:P.2021 - P.2023

ポイント

・肺炎球菌とインフルエンザ菌は市中肺炎の主要な原因微生物であるため,初期治療時には必ずこれらの細菌を考慮した抗菌薬を選択する.

・国内では肺炎球菌の40~60%がペニシリン非感受性であり,多くはセフェム系薬やマクロライド系薬にも耐性であり,薬剤耐性に応じた薬剤の選択を行う.

・インフルエンザ菌のβ-ラクタム耐性にはβ-ラクタマーゼによるものとβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(BLNAR)があり,最近では後者が増加している.

院内肺炎

院内肺炎の定義と病態生理

著者: 朝野和典

ページ範囲:P.2025 - P.2027

ポイント

・院内肺炎は市中肺炎と比較して,病態が複雑であり,発症機序として誤嚥(吸引)が最も重要である.

・診断は困難で,臨床的には胸部X線上の陰影に対して感染性か非感染性病変かの鑑別が重要であり,細菌学的診断では定着菌と原因(起炎)菌の鑑別が必要である.

・原因菌として薬剤耐性のグラム陰性菌やMRSAが多い.

原因微生物の決定方法

著者: 舘田一博

ページ範囲:P.2028 - P.2031

ポイント

・院内肺炎においては,弱毒菌,薬剤耐性菌が原因となることが多く,死亡率も高い.

・院内肺炎の診断においては,患者の基礎疾患,感染防御能の障害程度・部位,入院期間,抗菌薬の投与状況などが重要な情報となる.

・病原体の特定のためには塗抹鏡検検査,培養検査,血清抗体価,抗原検出法,遺伝子増幅法などをできるだけ組み合わせて実施することが必要である.

重症度と治療

著者: 古西満 ,   宇野健司 ,   三笠桂一

ページ範囲:P.2032 - P.2035

ポイント

・院内肺炎は最も死亡率の高い院内感染症である.

・院内肺炎の重症度を評価することは,初期治療の決定や予後の推定に重要である.

・院内肺炎の原因菌は多彩であり,医療機関ごとに原因菌を把握する努力は欠かせない.

・院内肺炎の初期治療はエンピリック治療となるので,患者の臨床情報を的確に把握し,可能性の高い原因菌すべてに対応できる抗菌薬を十分量投与する.

免疫不全患者の肺炎

著者: 木村一博 ,   中田紘一郎

ページ範囲:P.2036 - P.2038

ポイント

・免疫不全の種類によって,肺炎の起炎微生物が異なることに注意する必要がある.

・好中球減少時の肺炎に対しては,早急にエンピリック治療を開始すべきである.

・細胞性免疫不全時の肺炎では,起炎微生物が多岐にわたるため,可能な限り起炎微生物の同定を試みるべきである.

人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)

著者: 相馬一亥

ページ範囲:P.2040 - P.2043

ポイント

・VAPは院内感染症の一つと考えられるが,予防が可能である.

・気管挿管あるいは気管切開が引き金となるもので,カフ上の口腔内分泌物の気道内への吸引が原因の一つに挙げられている.

・気管挿管4日以内の早期VAPと5日目以降発症の晩期VAPに分類されるが,晩期VAPでは起炎菌として耐性菌を考慮しなければならない.

・VAP診断のゴールドスタンダードはないが,早期の適切な抗菌薬投与が最も重要である.

誤嚥性肺炎

著者: 加藤雅子 ,   松岡緑郎

ページ範囲:P.2044 - P.2046

ポイント

・誤嚥性肺炎は高齢者において脳血管障害による不顕性誤嚥に起因することが多い.

・嫌気性菌,グラム陰性桿菌の混合感染が多く,口腔内常在菌による肺炎発症であり,口腔内の清浄化が重要である.

・高齢者は典型的肺炎の症状を呈さないことも多く,意識レベルの変化や活動性低下に注意し,誤嚥を疑う必要がある.

治療無効例における対応

著者: 徳江豊

ページ範囲:P.2048 - P.2051

ポイント

・抗菌薬治療無効例ではまず病原微生物以外の要因(心不全・肺水腫,肺癌,各種びまん性肺疾患など)を考える.

・次に抗癌剤や免疫抑制剤,ステロイド薬による好中球減少および免疫抑制状態,誤嚥性機序,人工呼吸器装着,IVHカテーテル,ICU長期滞在,AIDS,骨髄移植・臓器移植後などの危険因子ごとに原因微生物を推定する.

・治療の妥当性,微生物側要因,宿主側要因(合併症・基礎疾患),薬剤側要因,効果判定時期の問題の順で検討を進める.

予防(院内感染対策)

著者: 門田淳一

ページ範囲:P.2052 - P.2054

ポイント

・院内感染予防の基本は,入院患者,医療者,入院環境を連動させてその対策を実施することにある.

・入院患者に対しては全身管理と侵入門戸の管理を徹底する.

・医療者にとって環境菌の伝播を防止するために最も重要なことは,手指の消毒,うがいを徹底することである.

・医療機関にとっては,医療者の教育,環境の整備が求められる.

MRSA肺炎の診断と治療

著者: 青島正大

ページ範囲:P.2055 - P.2057

ポイント

・喀痰から分離されるMRSAの多くは定着状態であり,感染症にまで至っていない.

・喀痰のグラム染色でブドウ球菌と多数の好中球,および貪食像を認め,培養にてMRSAが分離されればMRSAが起因微生物であると診断できる.

・MRSA肺炎の治療にはバンコマイシン,テイコプラニン,アルベカシンが用いられるがTDM(therapeutic drug monitoring:治療薬モニタリング)を必要とする.

・定着状態のMRSAは,抗MRSA薬による治療の対象ではない.

よくみられる呼吸器感染症の診断と治療

肺膿瘍

著者: 坂本晋 ,   中田紘一郎

ページ範囲:P.2058 - P.2060

ポイント

・肺膿瘍の発症には口腔内の嫌気性菌が関与している.

・喀痰から嫌気性菌が検出されても肺膿瘍の起炎菌としての意義は少ない.

・肺膿瘍の起炎菌決定には口腔内の常在菌の混入を避ける必要があり,病巣穿刺,TTA,気管支鏡,胸水穿刺などで検体を採取する.

・原発性肺膿瘍の起炎菌は嫌気性菌と好気性菌の混合感染が多いことから,両者に対して有効な薬剤を選択する必要がある.

結核・多剤耐性結核

著者: 二宮清

ページ範囲:P.2062 - P.2065

ポイント

・結核の診断は病歴や胸部画像所見から結核を疑うことから始まる.咳が2週間以上長引く場合は,胸部X線検査と喀痰検査を実施する.

・肺結核の診断は喀痰の塗抹・培養検査により,結核菌を証明することであり,蛍光染色,液体培地,核酸増幅法などの利用により迅速診断が可能となる.

・活動性結核患者の治療は菌に感受性があり,作用機序の異なる抗結核薬を最低3剤以上一定期間併用する.

非結核性抗酸菌症

著者: 倉島篤行

ページ範囲:P.2066 - P.2069

ポイント

・非結核性抗酸菌症は年間5,000人以上の新規発生があり,稀な疾患ではなくなっている.

・わが国の新たな診断基準が発表された.

・中年女性での中葉舌区を中心とする気管支拡張と結節の散布を特徴とするMAC肺感染症が増加している.

・多くの非結核性抗酸菌症治療において,結核菌用の感受性検査は役に立たない.

肺アスペルギルス症

著者: 中村茂樹 ,   本間栄

ページ範囲:P.2070 - P.2072

ポイント

・近年,医療の高度化とともに日和見感染症の原因として真菌感染症が重要となってきている.なかでもアスペルギルス症はカンジダ症と並んで頻度の高い真菌症である.

・肺はアスペルギルスの好発臓器であり,本稿では肺アスペルギルス症の診断,治療について述べる.

クリプトコックス症

著者: 岸一馬

ページ範囲:P.2074 - P.2075

ポイント

・肺クリプトコックス症は,基礎疾患のない健常人に発症する場合と,何らかの基礎疾患を有する患者に発症する場合がある.

・画像所見は多彩で,しばしば肺結核や肺癌との鑑別が困難である.

・診断方法には,真菌学的診断,組織学的診断,血清学的診断がある.

ニューモシスチス・カリニ

著者: 永井英明

ページ範囲:P.2076 - P.2078

ポイント

・カリニ肺炎は日和見感染症の代表的感染症である.

・AIDSではCD4陽性細胞数が200/μl未満になると合併しやすくなる.

・乾性咳嗽と労作時の息切れ,胸部X線写真におけるスリガラス陰影が特徴的である.画像に比べ聴診所見に乏しい.

・第一選択薬はST合剤であり,著しい低酸素血症にはステロイドが有効である.

インフルエンザウイルス

著者: 山本夏男 ,   川上和義

ページ範囲:P.2079 - P.2081

ポイント

・臨床検体中のウイルス抗原を検出する迅速診断キットは早期診断に有用である.

・抗インフルエンザ薬の投与は発症後早期であるほど有効である.

・高齢者や呼吸・循環器疾患など基礎疾患を有する患者では重症化しやすく,予防のためのワクチン接種が望まれる.

輸入呼吸器感染症の診断と治療

著者: 亀井克彦

ページ範囲:P.2082 - P.2085

ポイント

・輸入呼吸器感染症のなかでは,真菌症が重要な役割を演じているが,これらの輸入真菌症はコクシジオイデス症をはじめとして,一般の真菌症に比べて病原性・感染力が強い.

・輸入真菌症の診断では,流行地への訪問・滞在歴の確認が不可欠である.わずか数時間の訪問でも,あるいは30年前の滞在でも無視できない.

・培養検査は重要だが,感染事故が起きる可能性があるため,検査室との綿密な連携(情報提供など)が必要である.

・コクシジオイデス症,ヒストプラズマ症などでは,全身播種型の予後はきわめて不良である.

予防対策

ワクチン療法(肺炎球菌・インフルエンザウイルス)

著者: 本山浩道

ページ範囲:P.2086 - P.2088

ポイント

・肺炎球菌ワクチンは有効性が確認されているにもかかわらず認知度が低く,まだまだ普及していない.

・インフルエンザワクチンは有効性と安全性がほぼ確立したといってよいが,まだ十分には理解されていない.

・いずれのワクチンも接種率の向上が急務である.

バイオテロリズム対策

著者: 森澤雄司

ページ範囲:P.2090 - P.2093

ポイント

・生物兵器によるバイオテロリズム(以下,バイオテロ)は現実的な脅威であり,事前対策準備がきわめて重要である.

・稀な感染症が不可解な経過で集団発生した場合は,必ずバイオテロを疑ってみる.

・バイオテロによる炭疽,ペスト,野兎病は市中肺炎として発生することがある.

座談会

呼吸器領域における新興・再興感染症

著者: 岡部信彦 ,   川畑雅照 ,   高橋洋 ,   本間栄

ページ範囲:P.2094 - P.2107

本間(司会) 本日は,呼吸器領域における感染症の大家でおられる御三方にお集まりいただき,新興・再興感染症について座談会を企画させていただきました.

 新興感染症とは,「最近20年間に明らかになった病原体による感染症」と定義されますが,本概念が米国のInstitute of Medicineによって提唱された時期にさかのぼって,1973年以降に発見された病原体によるものを指すことが多いようです.

理解のための31題

ページ範囲:P.2109 - P.2115

Scope

重症急性呼吸器症候群(SARS)―これまでにわかってきたこと

著者: 岡部信彦

ページ範囲:P.2116 - P.2121

SARS発生のはじまり

 中国広東省では,2002年11月頃より非定型肺炎の多発があり,2003年3月までに約300例の患者と5名の死亡が報告され,当初これはクラミジア肺炎によるものであると中国当局はみなしていた.

 2003年2月19日には,香港において広東省に近い福建省から戻った親子2名よりトリ型インフルエンザH5N1が分離された.1名は死亡している.これは1997年香港でのヒトにおけるH5N1流行以来,再びヒトから分離された事例であり,広東省を起点とした新型インフルエンザ大規模流行(influenza pandemic)の前兆ではないかと世界中のインフルエンザ関係者の関心を集めた.

輸血のきほん(1)【新連載】

輸血の基本―新しい血液法の実施をふまえて

著者: 比留間潔

ページ範囲:P.2122 - P.2126

はじめに

 血液製剤は,他の治療材料と異なり次の点が特徴的である.第一に,献血者のボランティア精神に基づいていただいた貴重な人体の一部であるという点である.第二に,人体の細胞や体液の一部であるから,免疫性の副作用や感染性の副作用が皆無にならないという点である.したがって,血液製剤は他の治療材料以上に慎重に使用し,とりわけ適正使用に努めなければならない.

 連載企画の初めにあたり,輸血療法を行う際に知っておくべき基本的事項をまとめる.また,2003年7月に「安全な血液製剤の安定供給等の確保に関する法律」(血液法),および改正「薬事法」が実施された.これらは新しい血液事業や輸血の根拠になる法律である.このなかで,医師にとって知らなければならない重要事項を紹介する.

救急神経症候の鑑別とマネジメント(12)【最終回】

神経内科クリティカルケアのすすめ

著者: 永山正雄

ページ範囲:P.2128 - P.2132

“動の神経学”と“静の神経学”

 神経内科は,頭痛,めまい,しびれ,意識障害,痙攣などの症候,本邦の総死亡数の約15%を占める脳血管障害(脳卒中),変性・脱髄疾患,Guillain-Barré症候群や重症筋無力症,プリオン病などの難病患者さんを診療する科です.また神経系の中毒も担当し,神経内科は対象となる病気の種類,患者さんの数が最も多い科の一つです.

 主に画像診断の進歩と新たな治療法の導入により,神経疾患の理解と管理は飛躍的に向上しました.しかし現在もなお多くの臨床医は神経症候・疾患の診療を苦手としています.一方,たとえ神経内科医であっても脳卒中ほかの救急状態(いわゆる動の神経学)と,諸種神経難病(静の神経学)の両面について十分な知識と関心をもち,かつ的確な全身管理ができるものはきわめて少なく,これが現在われわれが本邦への神経内科クリティカルケア(critical care neurology:CCN)の導入と体系化を押し進めているゆえんです1,2)

カラーグラフ 手で診るリウマチ(12)【最終回】

T細胞白血病(T cell leukemia),多中心性網状組織球症(multicentric reticulohistiocytosis)

著者: 上野征夫

ページ範囲:P.2134 - P.2135

 症例は78歳,女性.数年前より,手,膝などに痛み・腫れが出現する.手では図1にみられるように,手関節,MCP(metacarpophalangeal)関節,それといくつかのPIP(proximal interphalangeal)関節に,腫れ,滑膜肥厚がみられる.これは,関節リウマチ(RA)に一致する所見である.しかしよく見ると,右手の手背と指に,散在性に紫斑が認められる.RAでも血管炎性の紫斑が出現することがあるが,発生部位は通常,下腿である.本症例ではその他の重要な身体所見として,両腋窩に大きなリンパ節を触知した.

 末梢血では,白血球数が24,200/mm3と増加,そのうち60%以上をリンパ球が占めている.赤沈は7mm/h.CRP,RFはともに陰性.膝関節穿刺液検査では,図2に示すように,花弁状の核をもつ異型リンパ球の滲出が多数認められた.末梢血リンパ球検査の結果,HTLV-1プロウイルスDNAのモノクローナルな組み込みが証明され,成人T細胞白血病の診断が確定された.

連載

目でみるトレーニング

著者: 河合盛光 ,   岩崎靖 ,   大久保仁嗣

ページ範囲:P.2137 - P.2142

問題 355

 症 例:41歳,女性.

 主 訴:全身浮腫.

 既往歴,家族歴:特記すべき事項なし.

 現病歴:受診の5年前より,経口避妊薬を内服していた.内科入院の2週間前より,上腹部膨満感,顔面・下肢の浮腫を認め,次第に増強してきた.

 身体所見:身長154cm,体重56kg(入院時には平素の10kg増),血圧144/90mmHg.体温37.7℃.意識は清明で全身浮腫を認めた.胸部の心音には異常なし.肺野にラ音なし.

 検査所見:尿検査;尿蛋白,尿潜血ともに2+.血液生化学検査;WBC6,000/μl,RBC363×104/μl,Hb11.5g/dl,Ht32.9%,Plt9.8×104/μl,PT77%,APTT37.3秒,CRP18.7mg/dl,AST9IU/l,ALT8IU/l,LDH254IU/l,γ-GTP22IU/l,CPK36IU/l,TP5.3g/dl,BUN13mg/dl,Cr0.9mg/dl.抗核抗体陰性,P-ANCA陰性.入院第19病日にはHb7.8g/dl,Plt2.1×104/μlと減少し,LDH4,300IU/l,Cr8.3mg/dl,BUN93mg/dlと上昇した.総ビリルビン2.08mg/dl,間接ビリルビン 1.46mg/dlであった.末梢血液塗抹標本を図1に,胸部CT像を図2に示す.

新薬情報(35)

安息香酸リザトリプタン(マクサルト®錠10mg,マクサルトRPD®錠10mg)

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.2144 - P.2146

適応■(国際頭痛学会の診断基準に合致する)片頭痛の発作治療.予防治療には適応となっていない.

用法・用量■通常,リザトリプタンとして1回10mgを片頭痛発作時に経口投与する.効果が不十分な場合には,投与後2時間以上経てば追加投与は可能であるが,1日総投与量は20mg以内とする.口腔内崩壊錠(RPD錠)は,口腔内で速やかに溶解するが,口腔粘膜から吸収されるわけではないので,唾液または水で飲み込むよう指導する必要がある.また,口腔内崩壊錠は吸湿性があるため,使用直前まで外袋を開封しないよう指導する必要もある.さらに,他のトリプタン製剤と同様に,本薬は血管収縮作用を有するため,虚血性心疾患(異型狭心症を含む),脳血管障害,間歇性跛行などの末梢循環障害を合併する患者や,他のセトロニン5-HT受容体作動薬を服用中の患者では,投与は禁忌である.

書評

今日の診断指針 第5版

著者: 川上義和

ページ範囲:P.2108 - P.2108

 先の第4版から5年の歳月を経て,責任編集者の一部,執筆者の全員が交代した第5版が出版された.第4版まで幾度か執筆に携わった者,つまりOBとして書評を試みてみた.OBという立場は基本的に後輩(第5版)に優しくはあるが,内情をよく知っている立場として厳しくありたい.しかし,結論から申し上げると,厳しく見つめても本書は座右の書として完璧に近い内容をもっていると思う.その理由をいくつか挙げて,読者の参考に供したい.

 診断の基本的な目標は“正しい確定診断に至ること,それを正しい治療に応用すること”に尽きる.そのための工夫は本書の構成を「症候編」と「疾患編」に分けたことからはじまる.つまり,本書は症候から診断へのアプローチの仕方と,疾患からの攻め方の逆向き双方向から構成されている.症候編では,「症候のメカニズム」,「定義」,「原因」などから始まって,「緊急処置」にまで及んでいる.「診断のチェックポイント」は親切な項目であるし,「鑑別のポイント」も重要である.「どうしても診断のつかないとき試みること」は理論を踏まえながらも執筆者の経験に照らしたポイントが書かれてあって貴重であり,本書の目玉の一つであろう.筆者はこの項目の執筆に苦心した記憶がある.

臨床倫理学入門

著者: 服部健司

ページ範囲:P.2127 - P.2127

 医療倫理学が大きな関心を集めるようになってきている.けれども医療倫理学が,いわば刺身のツマでなく,儀礼や訓示としてでもなく,医系教育機関でしっかりと教えられるようになってきたのは,ごくごく最近のことにすぎない.そこで多くのベテラン医療者は,医療倫理学を独学する必要に迫られている.かつて心電図やCT,エコーがそうであったように.

 今日,書店の棚には実にたくさんの医療倫理学書が並んでいる.それらの多くは,哲学・倫理学者の手になるものであって,知識や議論の蓄積を伝えることを主眼とした啓蒙教育書であるか,純粋に学問的研究を志向した専門書であるか,いずれかであるといってよい.著者の個人的な医療倫理観を開示しただけのものも散見される.そうしたなかで,本書の特性は明確である.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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