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雑誌目次

雑誌文献

medicina40巻3号

2003年03月発行

雑誌目次

今月の主題 糖尿病にどう対処するか 糖尿病とは

新しい診断基準と分類

著者: 小田原雅人

ページ範囲:P.376 - P.378

ポイント

 ・糖尿病は,世界的に増加傾向を示し,合併症の発症予防が急務である.

 ・大血管障害のリスクは,耐糖能異常者ですでに上昇しており,早期の耐糖能異常の発見が重要である.

 ・糖尿病は,成因により,1型,2型,その他に分類されている.

糖尿病の診断・病態把握へのアプローチ

著者: 菅田有紀子 ,   井上寛 ,   加来浩平

ページ範囲:P.380 - P.383

ポイント

 ・病型(1型,2型,その他),病態(インスリン依存状態か非依存状態か,インスリン分泌不全主体か抵抗性主体か)を的確に診断することが重要である.

 ・患者の生活習慣,嗜好,社会的背景を考慮し,実態に即した治療戦略を計画する.

糖尿病の疫学

著者: 松島雅人

ページ範囲:P.385 - P.388

ポイント

 ・世界各地域との比較では,わが国の糖尿病有病率は,中~下位に位置するのに対し,IGTは上~下位に広く分布している.

 ・患者調査での糖尿病外来受療率を,昭和48(1973)年と平成11(1999)年で比較すると約2倍近くとなっている.

 ・糖尿病の有病率,発生率が上昇しているとすると,その背景として食事の欧米化や生活活動状況の変化が考えられる.

糖尿病と医療経済,病診連携

著者: 大石まり子

ページ範囲:P.389 - P.391

ポイント

 ・糖尿病医療費は,主な疾患のなかで4番目に高額であり,患者数の増加,合併症の出現・進行,入院治療が医療費増加の要因である.

 ・良好な血糖管理による合併症予防は,対費用効果が良い.

 ・疾病管理の視点に立った病診連携,チーム医療による効率的な糖尿病地域管理体制の確立が望まれる.

糖尿病の病型をどう診断し、どう病態を把握するか

1型糖尿病

著者: 丸山太郎

ページ範囲:P.392 - P.394

ポイント

 ・1型糖尿病は,「膵島β細胞の破壊によるインスリンの欠乏を成因とする糖尿病」と定義される.

 ・1型糖尿病は,β細胞破壊の原因によって自己免疫性(1A)と特発性(1B)に,発症形式によって典型例(急性),緩徐進行性,劇症型に大別される.

 ・現時点では,臨床的にβ細胞破壊の有無を知る方法はないので,臨床像とC-ペプチド,抗GAD65抗体を総合判断して診断,分類する.

2型糖尿病

著者: 坂本健太郎 ,   戸辺一之 ,   寺内康夫 ,   門脇孝

ページ範囲:P.395 - P.401

ポイント

 ・2型糖尿病には,大きく分けてインスリン分泌低下が主体のものと,インスリン抵抗性が主体のものがあり,それぞれ治療方針が異なる.

 ・インスリン分泌能,インスリン抵抗性,肥満の評価が病態の解析に重要である.

その他の糖尿病

著者: 片平宏 ,   丸山雅弘 ,   石田均

ページ範囲:P.402 - P.405

ポイント

 ・母系遺伝で難聴を伴う糖尿病では,ミトコンドリア遺伝子異常を疑う.

 ・若年発症なのに家族性の糖尿病をみたら,MODYを疑う.

 ・高齢者で家族歴がなく,突然発症した糖尿病では,膵癌の合併を疑う.

妊娠糖尿病

著者: 穴澤園子

ページ範囲:P.406 - P.409

ポイント

 ・妊娠糖尿病は“妊娠中に発症・発見された糖代謝異常”と定義され,そのため多様な病態を含んでいる.

 ・妊娠糖尿病では周産期のリスクが高く,また母体が将来真の糖尿病になる可能性が高い.

 ・妊娠糖尿病のスクリーニング検査は,見逃されている妊娠前からの糖尿病を検出する目的でまず妊娠初診時に行い,次いで妊娠24~28週,さらに32週に行う.

耐糖能異常の管理をどうするか

エビデンスに基づいた耐糖能異常へのアプローチ

著者: 西村理明 ,   田嶼尚子

ページ範囲:P.410 - P.413

ポイント

 ・わが国では耐糖能異常は,糖尿病患者とほぼ同数かそれ以上存在する可能性がある.

 ・耐糖能異常は,心血管疾患のリスクファクターである.

 ・耐糖能異常は,糖尿病に移行する可能性が高いが,その進展を阻止・遅延しうることが示された.

 ・耐糖能異常のスクリーニングに関しては,データを蓄積したうえで十分検討する必要がある.

糖尿病の発症予防

著者: 目黒周

ページ範囲:P.414 - P.416

ポイント

 ・生活習慣への強力な介入およびメトホルミン,アカルボースの投与により,IGTからの糖尿病発症が抑制されることが複数の無作為化対照研究により示された.

 ・今後,IGTに治療介入することによる合併症の予防効果,介入対象の選択,介入方法などが検討課題として残されている.

耐糖能異常(IGT)と心血管病―DECODE studyとFunagata studyを中心に

著者: 谷山松雄

ページ範囲:P.418 - P.421

ポイント

 ・心血管病(心筋梗塞と脳血管障害)の危険は,IGTの段階から高まっている.

 ・空腹時血糖値やHbA1cだけでなく,食後の血糖値にも着目したきめ細かい診療が必要である.

 ・生活習慣の改善や薬物によってIGTの状態から脱却し,心血管病を予防することが期待される.

糖尿病をどう管理するか

1型糖尿病をどう管理するか

著者: 内潟安子

ページ範囲:P.422 - P.425

ポイント

 ・1型糖尿病を受け容れやすく.

 ・1型糖尿病の食事療法は,その年齢に必要な摂取カロリーを.

 ・アルゴリズムによる柔軟なインスリン療法を.

 ・どの年齢で発症しても慢性合併症を起こさせない気構えで.

 ・いつも患者に無理をさせない診療を.

2型糖尿病をどう管理するか

著者: 松岡健平

ページ範囲:P.426 - P.429

ポイント

 ・2型糖尿病治療に薬物療法の選択肢は増えたが,「インスリン作用障害」を軽減する食事・運動の基礎療法を欠くことはできない.

 ・2型患者は自覚症状に乏しく病識がない.糖尿病の知識の供給が本物でなければ,治療への動機づけは困難だ.治療がうまくいかないとき,医療側に患者の生活が見えていないからではないか,考えてみよう.

食事療法

著者: 丸山千寿子

ページ範囲:P.431 - P.433

ポイント

【食事療法の原則】

 ・エネルギー摂取を適正にする.体格,生活活動,病態などに応じて設定する.

 ・栄養素のバランスを保つ.糖質,脂質のエネルギー比をそれぞれ55~60%,20~25%とする.蛋白質は1.0g/標準体重kgにする.ビタミン,ミネラル,食物繊維が不足しないよう食品の質と種類を選ぶ.

 ・規則的な食習慣を維持する.

2型糖尿病の運動療法

著者: 勝川史憲

ページ範囲:P.434 - P.436

ポイント

 ・運動開始にあたり運動負荷心電図の施行が望ましい.

 ・運動による耐糖能の改善は,通常,運動後72時間以内に消失するため,運動は定期的に行う.

 ・従来の運動療法によるグリコヘモグロビンの改善は平均0.5~1%である.

 ・ウォーキングの場合,足に合った靴を選び,運動前後には靴ズレなどがないかチェックする.

糖尿病における日常生活管理をどうするか

著者: 宮川高一

ページ範囲:P.437 - P.439

ポイント

 ・喫煙は,糖尿病腎症,神経障害を悪化させる.

 ・糖尿病患者において,アルコール依存の診断は重要である.アルコールは糖尿病神経障害を悪化させる.

 ・糖尿病患者には一般的に,2単位,週5日間の飲酒を許可することが多い.しかしこれは糖質(表1)の代替にはならない.

 ・患者の約半数は民間療法の使用経験があることに留意する必要がある.

患者の治療実行度を高めるには

著者: 石井均

ページ範囲:P.440 - P.442

ポイント

 ・糖尿病治療は,患者が日常生活のなかで,選択,決定,実行していく.したがってその実行度には,環境要因,心理要因,結果要因などが関連している.また,実行に対する準備状態があり,その程度によってどのような援助が適切であるかが決まる.

 ・患者が糖尿病を効果的に管理し,合併症を減らし,QOLの高い生活を送るために,医師による心理行動面への介入が重要である.

経口糖尿病薬の使い分けをどうするか

著者: 岩本安彦

ページ範囲:P.444 - P.446

ポイント

 ・食後高血糖が目立つ症例には,α-グルコシダーゼ阻害薬かナテグリニドが良い適応となる.

 ・肥満し,インスリン抵抗性が目立つ症例には,ビグアナイド系かピオグリタゾンが良い適応となる.

 ・空腹時血糖が高く,非肥満の症例には,スルホニル尿素薬が良い適応となる.

SU薬

著者: 春日明

ページ範囲:P.447 - P.449

ポイント

 ・SU薬は最低量より開始し,HbA1c以外の情報も考慮しながら増量し,可能な限り少ない量で維持する.

 ・SU薬を開始するときには必ず,低血糖,体重増加,sick dayなどについて説明する.

 ・第三世代のSU薬の特徴は,低血糖が低頻度であることと,体重増加を起こしにくいことである.

ビグアナイド薬

著者: 戸塚康男

ページ範囲:P.451 - P.454

ポイント

 ・ビグアナイド薬は,単独または他の糖尿病治療薬との併用で血糖値低下作用を示す.

 ・UKPDSで,肥満2型糖尿病患者におけるメトホルミンの有用性が示された.

 ・メトホルミンの作用機序にAMPキナーゼが関与する可能性がある.

 ・腎機能低下など投与禁忌例を十分に認識し,乳酸アシドーシスの発生を防止する.

α-グルコシダーゼ阻害薬

著者: 田中逸

ページ範囲:P.455 - P.457

ポイント

 ・α-グルコシダーゼ阻害薬は,小腸粘膜上皮細胞の刷子縁における糖類分解酵素を阻害する.

 ・この結果,糖質の消化・吸収が遅延し,食後血糖の上昇が緩やかになる.

 ・糖尿病患者では食後早期のインスリン分泌が低下しており,食後血糖上昇より遅れてインスリンが緩徐に分泌される.本薬により食後血糖上昇とインスリン上昇のタイミングが接近することにより,インスリンが効果的に作用して食後血糖が改善する.

 ・本薬は腹満感や放屁などの腹部症状が現れやすいため,本薬の作用,薬効,使用目的,意義を十分説明したうえで開始する必要がある.

インスリン抵抗性改善薬

著者: 広瀬寛

ページ範囲:P.458 - P.460

ポイント

 ・チアゾリジンジオン誘導体はPPARγの強力なアゴニストであり,動物実験によると,大型脂肪細胞をインスリン感受性の良い小型脂肪細胞化する.

 ・血糖および血清インスリン濃度を低下させ,TG,HDL-Cにも好影響を与える.

 ・心不全や心不全の既往例には使用禁忌であり,心不全のおそれがある心疾患や高齢者には慎重投与が必要である.

速効型インスリン分泌促進薬

著者: 鈴木竜司

ページ範囲:P.461 - P.463

ポイント

 ・SU受容体を介したインスリン分泌作用が主だが,SU薬と比較し作用時間が短い.

 ・食後高血糖を特徴とする軽症2型糖尿病が適応で,毎食直前に服用する.

 ・健常人の食後追加インスリン分泌動態に近く,SU薬のような高インスリン血症,肥満,重篤な低血糖を生じにくい.

 ・新しい薬剤のため,今後の使用経験の蓄積が必要である.

2型糖尿病でのインスリン療法―どのように導入するか

著者: 河盛隆造

ページ範囲:P.464 - P.466

ポイント

 ・なぜ,多くの医師が2型糖尿病に対して的確にインスリン療法を施さないのか.

 ・外来でのインスリン療法導入が必要である.

 ・インスリン療法の目的を考えて,方法を選択する.

インスリン使用時の検査・周術期管理,sick dayへの対応をどうするか

著者: 及川洋一

ページ範囲:P.468 - P.470

ポイント

 ・sick day,検査および周術期の血糖管理の目的は,高血糖に伴う急性代謝失調や重症の低血糖,糖尿病合併症の出現・増悪を防止することである.

 ・糖尿病の病型・病態,インスリン治療内容などをもとに,個々の患者に即したsick day ruleを指導する.

 ・インスリン使用時の検査・周術期では,さらに処置内容や禁食期間などを考慮して血糖管理を行う.

糖尿病患者における高血圧をどう管理するか

著者: 篠村裕之

ページ範囲:P.471 - P.473

ポイント

 ・糖尿病患者の目標血圧は130/85mmHg以下である.

 ・日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン2000年版では,治療薬の第一選択はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,カルシウム拮抗薬,α遮断薬とされた.

 ・今後は,アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が第一選択薬に追加される可能性が予想される.

 ・利尿薬やβ遮断薬も病態に応じて使用する場合がある.

糖尿病患者における高脂血症をどう管理するか

著者: 杉本孝示 ,   山田信博

ページ範囲:P.474 - P.476

ポイント

 ・糖尿病は動脈硬化のハイリスクである.

 ・LDL<120mg/dl,HDL≧40mg/dl,TG≦150mg/dlを目標に.

 ・ライフスタイルの改善,薬物投与を行う.

糖尿病合併症をどう管理するか

糖尿病治療は患者アウトカムを改善させるか

著者: 野田光彦

ページ範囲:P.477 - P.480

ポイント

 ・DCCTでは1型の,Kumamotoスタディ・UKPDSでは2型の糖尿病に関し,血糖コントロールが患者アウトカムを改善させることが示された.

 ・良好な血糖コントロールの維持は,糖尿病合併症の発症・進展抑制に必須である.

 ・糖尿病合併症の発症・進展抑制のためには,血糖値とともに,血圧や血中脂質の管理が必須である.

糖尿病網膜症をどう管理するか

著者: 平形明人

ページ範囲:P.481 - P.485

ポイント

 ・糖尿病網膜症は,糖代謝異常による網膜血管障害(血管透過性亢進や虚血)を基盤とする疾患である.

 ・血管新生や黄斑浮腫,網膜剥離,硝子体出血,緑内障などを合併する.

 ・視力障害がないまま進行することも少なくないため,糖尿病と診断されたら定期的な眼底検査を施行することが失明予防に重要である.

 ・糖尿病罹病期間,高血糖,高血圧などが危険因子である.

 ・網膜症以外にも白内障,角膜症,外眼筋麻痺,虹彩炎などが生じる.

糖尿病性腎症をどう管理するか

著者: 杉本俊郎 ,   羽田勝計 ,   吉川隆一

ページ範囲:P.486 - P.489

ポイント

 ・すべての糖尿病患者に対し,少なくとも年に1回は,検尿にて,蛋白尿・微量アルブミン尿の有無を検討すべきである.

 ・微量アルブミン尿を呈している早期腎症患者に対しては,厳格な血糖管理・厳格な血圧管理〔アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体阻害薬(ARB)を中心とした〕が顕性腎症への進行を予防する.

 ・試験紙法陽性の蛋白尿を呈している顕性腎症患者に対して,ARBが腎機能の悪化を予防する.

糖尿病性神経障害をどう管理するか

著者: 鈴木吉彦 ,   松岡健平

ページ範囲:P.491 - P.493

ポイント

 ・糖尿病性神経障害は,早期に起こる最も頻度の高い合併症である.

 ・両側性で,下肢を中心に起こる多発性末梢神経障害の頻度が高い.

 ・時には,インスリン治療などによって,血糖コントロール改善後に起こることもある.

合併症を有する糖尿病患者と薬物療法

著者: 岸田みか ,   小林正

ページ範囲:P.494 - P.496

ポイント

 ・急速な血糖の是正により,合併症の一時的な増悪を認める可能性がある.

 ・合併症により降圧薬や抗高脂血症薬などの薬剤の適応が異なる.

糖尿病と大血管障害―心・脳血管障害を中心に

著者: 中野忠澄

ページ範囲:P.498 - P.502

ポイント

 ・糖尿病における大血管障害の発症進展予防のためには,治療の照準を単一の危険因子(血糖)にのみ置かずに,既知のすべての因子を同時に治療対象とすべきことに尽きる.今後,心血管合併症発症抑止にも留意した血糖コントロール目標を設定していく必要があろう.

 ・治療管理の指針として,日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患診療のガイドライン」が参考になる.ライフスタイルの改善と薬物療法が主体となるが,外科的治療法も成果を上げつつある.

 ・心血管障害については,特に脂質低下,血圧降下が,また脳血管障害については,特に血圧のコントロールが,それぞれ重要である.

糖尿病患者の足病変をみたら

著者: 渥美義仁

ページ範囲:P.503 - P.505

ポイント

 ・糖尿病患者は神経障害で足病変の自覚症状が弱いので,診察が重要である.

 ・潰瘍,壊疽は必ず外科,整形外科の診断を受け,漫然とした治療を避ける.

 ・予防が最善の治療であるので,ハイリスク患者を選択して十分なフットケアを行う.

糖尿病における急性合併症をどう管理するか

著者: 山田悟

ページ範囲:P.506 - P.509

ポイント

 ・DKAは若年者(1型糖尿病),HHSは高齢者(2型糖尿病)に多い.

 ・DKAもHHSも,インスリン投与と輸液が治療の基本である.

 ・血清K 濃度が見かけ上正常でも,補充を考える.

 ・血糖が50~70mg/dl/時くらいのペースで降下するよう,インスリンの投与スピードを調節する.

 ・DKAやHHSを生じた背景を考察し,必要があればそちらも速やかに治療する.

理解のための29題

ページ範囲:P.510 - P.516

medicina Conference・35

発熱・両下肢のしびれを訴え,精査・加療目的で入院となった,43歳男性

著者: 稲福徹也 ,   金城一志 ,   比嘉啓 ,   仲里信彦 ,   徳田安春

ページ範囲:P.523 - P.533

症 例:43歳,男性,無職.

主 訴:発熱,下肢のしびれ.

既往歴:交通事故,痛風(1989年),横行結腸憩室穿孔手術(1996年),右下腿潰瘍(1997年).

家族歴:特記事項なし.

生活歴:泡盛(沖縄の焼酎)3合/日(15年間),喫煙20本/日(15年間).ペット飼育歴なし.

演習・腹部救急の画像診断(9)

熱感,心窩部痛,嘔吐を呈する79歳女性

著者: 井原信麿 ,   八代直文 ,   葛西猛

ページ範囲:P.535 - P.539

Case

症 例:79歳,女性.

主 訴:心窩部痛,嘔吐.

現病歴:3日前から熱感,心窩部痛,嘔吐が出現したため受診した.右季肋部に圧痛および反跳痛があり,腫瘤を触知した.

検査所見:白血球数16,500/μl,総ビリルビン2.4mg/dl,CRP32.91mg/dl.

画像所見:受診当日の腹部超音波(US)像を示す(図1).図1の右中央部にみられる+印間の距離は5mmである.

カラーグラフ 手で診るリウマチ(3)

オスラー結節(Osler's node)と爪下線状出血斑(splinter hemorrhage),結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa)

著者: 上野征夫

ページ範囲:P.540 - P.541

 オスラー結節(Osler's node)は,指頭部にできる有痛性紅斑である.皮膚表面は発赤し,盛り上がり,中心部は蒼白色を呈する.1885年,ウィリアム・オスラー(William Osler)により,心内膜炎患者にみられる特徴的所見として記述された.以後120年近く経過しているが,オスラー結節を組織学的に検索した成績は驚くほど少ない.オスラーが示唆したように,敗血症性の塞栓を示唆する微小膿瘍を認めるという報告もあれば,免疫学機序によって成立する小血管炎症という見方もある.少なくとも亜急性の心内膜炎では,後者によるという説が有力である.オスラー結節は,全身性エリテマトーデス患者においてもみられることがある(図1).同様の所見は,手のひらにも現れることがあり,Janeway lesionと呼ばれる.ただし,オスラー結節と異なり無痛性で,肉眼所見では皮下溢血がより特徴的である.

 爪下線状出血斑〔splinter(subungual)hemorrhage〕も,リウマチ性疾患では,血管炎の存在を示唆する重要な所見である(図2).爪床毛細血管が破れると,この部位では縦長に出血する.最初はプラム色を呈し,その後黒味がかった褐色となる.爪の成長とともに,次第に爪の表面,遠位方向へと移動する.原因として最も多いものは,外傷によるものである.全身疾患では,血管炎,動脈塞栓,心内膜炎,白血病など血液疾患,壊血病,トリキネラ感染などによるものがある.図2は結節性紅斑にみられたもので,原因として血管炎性が疑われた.

連載

目でみるトレーニング

著者: 河岸由紀男 ,   久保典史 ,   大山高令

ページ範囲:P.542 - P.547

救急神経症候の鑑別とマネジメント(3)

急性期意識障害のneuro-critical care(前編)

著者: 永山正雄

ページ範囲:P.548 - P.552

 急性期の意識障害は,短時間での原因診断と治療の同時進行を必要とし,神経系の救急・集中治療上最も重要な病態である.第3回~4回(次号掲載予定)では,急性期意識障害の鑑別とマネジメントについて,病歴・所見上の問題点からアプローチする.

内科医のためのリスクマネジメント 医事紛争からのフィードバック(12)【最終回】

謝罪について

著者: 長野展久

ページ範囲:P.554 - P.558

予期せぬ事態の発生

 われわれ医師が処方する薬剤や,侵襲的な検査,手術などの医療行為には,ほんのわずかな思い違いやちょっとした手元操作のブレによっても,患者の生命を脅かすような事態へと発展する危険性が常に内在しています.例えば抗悪性腫瘍薬の用量をひと桁勘違いしたり,週3回投与の薬剤をうっかり連日投与したり,あるいは内視鏡検査で生検した組織が「動脈壁」で大量出血したりなど,真面目な医師たちであっても巻き込まれるかもしれない医事紛争の症例は,この連載でもたびたび取り上げてきました.ところが医事紛争の報道をみた多くの医師の反応は,「自分には関係ない」,「私がそんな間違いを犯すはずがない」となりがちであり,当事者になって初めて困惑するというのが実情ではないかと思います.

 こうした不幸な事態が発生した場合に,初期の対応としてどうしたらよいでしょうか.すぐに謝罪するべきでしょうか.もちろん,患者の取り違えや異型輸血,薬剤誤投与など,誰がみても明らかなミスと判断できるときには,すぐに謝罪したうえで患者が被った損害を賠償するという手続きをとるべきです.問題なのは,「自らが真面目に担当した医療行為によって,不幸にも患者が死亡ないし重度後遺障害を負ったのだけれども,これは病気のため,あるいは不可抗力である」と思いたくなるようなケースです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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