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雑誌目次

雑誌文献

medicina40巻7号

2003年07月発行

雑誌目次

今月の主題 ブレイン アタック―超急性期から維持期まで Editorial

ブレイン アタックの診療態勢

著者: 橋本洋一郎

ページ範囲:P.1086 - P.1088

ポイント

・脳卒中(ブレイン アタック)では早期受診・早期治療が必要である.

・一般住民向けに,脳卒中の予防と早期受診のブレイン アタック・キャンペーンを行う.

・かかりつけ医,急性期病院,回復期のリハビリテーション専門病院,維持期の病院・施設の4つのチームの連携による脳卒中診療態勢の構築を行う.

脳卒中を診る前に

脳卒中急性期診療の実態

著者: 峰松一夫

ページ範囲:P.1090 - P.1091

ポイント

・わが国の脳卒中急性期診療は,多くの零細診療チームによって支えられている.

・脳梗塞患者の高齢化,アテローム血栓性脳梗塞の増加傾向がめだつ.

・診療内容に,かなり大きな施設差・地域差が認められる.

・全国規模で継続的な急性期脳卒中データバンクの整備が始まっている.

脳梗塞ガイドラインの開発

著者: 棚橋紀夫

ページ範囲:P.1092 - P.1097

ポイント

・脳卒中合同ガイドラインが,脳卒中合同ガイドライン委員会により作成中である.

・このガイドラインは,脳卒中一般,脳梗塞,脳出血,クモ膜下出血,リハビリテーションに分類されている.

・本稿では,脳梗塞ガイドラインのうち,急性期治療,慢性期治療について,各項目別に推奨の部分のみ紹介する.

脳卒中の危険因子と一次予防

著者: 鎌田寛 ,   阿部康二

ページ範囲:P.1098 - P.1100

ポイント

・脳卒中の最大の危険因子は,高血圧である.

・生活習慣の欧米化とともに,耐糖能異常,高コレステロール血症,肥満など,粥状動脈硬化と関係した危険因子が増加し,アテローム血栓性脳梗塞が増加傾向にある.

・脳卒中の一次予防には,生活習慣の改善と危険因子の早期発見および管理が重要である.

脳梗塞急性期の基礎病態

著者: 田中耕太郎

ページ範囲:P.1102 - P.1106

ポイント

・脳は虚血に対し大変脆弱であり,脳血流量低下のレベルに応じて種々の細胞機能障害が出現する.

・虚血中心領域周囲には,ペナンブラと称される領域が存在する.本領域は治療によって梗塞化を免れる可能性があり,急性期治療のターゲットとなる.

・大脳灰白質と白質で虚血性傷害機序はかなり異なり,白質はフリーラジカル傷害を特に受けやすい.

脳梗塞の臨床病型と発症機序

著者: 古井英介

ページ範囲:P.1108 - P.1110

ポイント

・発症機序に基づいて正確な脳梗塞の臨床病型を診断することは,超急性期から慢性期にかけての治療および再発予防に重要である.

・現在,脳梗塞の臨床病型分類は,一般的にNINDS Ⅲ分類に基づいて行われる.

・臨床カテゴリーはアテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症・ラクナ梗塞・その他に分けられ,発症機序として血栓性・塞栓性・血行力学性の3つが挙げられている.

・治療方針をたてるにあたっては,臨床カテゴリー分類が特に重要である.

脳卒中の診断

診断の手順

著者: 一戸淳 ,   長田乾

ページ範囲:P.1111 - P.1116

ポイント

・救急医療では,病歴聴取と神経所見から,まず脳卒中か否かを見きわめる.

・脳卒中急性期の診断は,最短時間で適切な治療に結びつけることを目的とする.

・来院から1時間以内に頭部CTを撮像して治療方針を決定し,治療を開始することが望ましい.

・超急性期の虚血性病変の検出には,MRI拡散強調画像(DWI)が威力を発揮する.

脳卒中の症候―脳卒中か否か?

著者: 田川皓一

ページ範囲:P.1118 - P.1121

ポイント

・脳卒中の症候は多彩であり,脳卒中に特有の症候というものはない.

・脳卒中の診断は,症候の発現様式や臨床経過,さらに画像所見を考慮して実施する.

・中枢神経系の局所症候や意識障害を主徴とする疾患は,脳卒中の鑑別診断の対象になる.

・局所症候を伴わない意識障害は器質的病変によっても,機能的病変によっても出現する.

・意識障害を主徴とする限局性の脳卒中の責任病巣としては,視床内側部や内包膝部,内包前脚,尾状核などを考慮したい.

CTとMRI

著者: 平野照之

ページ範囲:P.1122 - P.1125

ポイント

・脳卒中の診断に画像診断は必須であり,治療選択に重要な役割を果たしている.

・CTでは,出血性病変の除外だけでなくearly CT signを判読し,血栓溶解の適応を検討する.

・MRI拡散強調画像では,発症早期から組織障害の広がりが検討できる.

・治療を念頭に置いた脳梗塞超急性期の画像検査体制の構築が必要である.

超音波検査

著者: 木村和美 ,   中島誠

ページ範囲:P.1127 - P.1130

ポイント

・頸部血管エコー検査で,総頸動脈の動脈硬化の程度,プラークの性状,内頸動脈と椎骨動脈の狭窄性病変の評価ができる.

・経頭蓋ドプラ・カラードプラで,脳動脈の狭窄性病変と右左シャント疾患のスクリーニングができる.

・心エコー図検査は,塞栓源の検索や心機能のチェックに必須である.

・下肢静脈エコー検査は,奇異性塞栓症の塞栓源となりうる深部静脈血栓の診断に有用である.

脳血流SPECTと脳血管造影

著者: 中川原譲二

ページ範囲:P.1132 - P.1134

ポイント

・脳血流SPECTでは,脳塞栓症急性期のischemic coreとischemic penumbraを残存脳血流量によって同時に評価することが可能である.

・脳血管造影のうち,MR検査中に短時間で行われる迅速MRA(磁気共鳴血管造影)は,脳主幹動脈の責任血管病変を評価する方法として有用性が高い.

・診断精度の高いDSA(デジタル減算血管造影)では,閉塞部位や狭窄度,側副血行路についての詳細な検討が可能である.

脳卒中患者のマネジメント

超急性期のマネジメント

著者: 富田博樹

ページ範囲:P.1136 - P.1137

ポイント

・脳卒中を発症したら,すぐに脳卒中診療施設を受診すること.

・脳卒中センターにおけるstroke teamにおける脳卒中治療は,予後を改善する.

・救命救急センターあるいはそれに準ずる施設ではstroke teamを配備して,脳卒中センターとして機能すべきである.

クリニカルパス

著者: 稲富雄一郎 ,   米原敏郎

ページ範囲:P.1139 - P.1143

ポイント

・クリニカルパスは,チーム医療態勢構築のためのツールである.

・クリニカルパス作成の最大のメリットは,診療業務標準化と情報共有化である.

・クリニカルパスの有効運用のためには,絶えず見直しと教育が必要である.

血圧管理

著者: 須賀隆子 ,   平田幸一

ページ範囲:P.1144 - P.1146

ポイント

・脳血管障害急性期は,降圧療法は原則として行うべきではないが,場合により降圧が必要である.

・降圧療法は,脳血管障害発症による脳循環自動調節能の変化や脳血流量への影響を考慮し,選択することが望ましい.

・特に脳梗塞では,降圧開始の基準を,病態に応じ検討するべきであろう.

リハビリテーション

著者: 渡辺進 ,   中西亮二 ,   山永裕明

ページ範囲:P.1147 - P.1150

ポイント

・脳卒中の急性期リハビリテーションは,急性期における治療の一部として,発症と同時に開始されなければならない.

・回復期リハ病棟では,専従の医師,リハスタッフ,看護・介護スタッフ,医療ソーシャルワーカーがチームを作り,家庭復帰へ向けて総合的アプローチが展開される.

・維持期のリハの目的は,①日常の健康管理,②機能維持および向上,③社会参加の促進であり,介護保険による在宅介護・施設介護サービスを利用する.

維持期のケア

著者: 門祐輔 ,   中村紀子 ,   上赤賢司

ページ範囲:P.1151 - P.1154

ポイント

・維持期のケアのポイントは,「生活全体の活性化」によりその人のもつ能力を最大限発揮できる環境をつくることである.

・能力の維持・向上のため,立ち上がり訓練は有効である.

・環境整備も重要で,特にベッド周囲,トイレ,浴室の整備や外出路の確保は,障害や家族負担の軽減に対して有効である.

・介護支援専門員との連携や介護保険の利用,身体障害者手帳の取得・活用も重要である.

脳卒中の治療戦略 脳出血の治療

脳内出血の急性期治療と外科適応

著者: 鹿野恒 ,   寶金清博

ページ範囲:P.1155 - P.1157

ポイント

・脳出血の外科適応は要約すると,①小出血は手術を行わなくても予後良好である,②大出血は保存的治療・外科的治療によらず予後不良である,③中等度出血は治療法を選択しなければならない.

・神経内視鏡的血腫吸引術の普及により手術適応が変わるであろう.

くも膜下出血の急性期治療と外科適応

著者: 塩川芳昭

ページ範囲:P.1158 - P.1160

ポイント

・くも膜下出血のほとんどは脳動脈瘤の破裂が原因である.

・初回出血により,約半数は治療の対象とならないほど重篤化する.

・初期診療では,早期の診断確定と再出血予防への配慮が重要である.

・外科治療(手術,血管内治療)の目的は再出血の防止である.

・動脈瘤処置後は脳血管攣縮予防が治療の中心となる.

脳梗塞の治療

脳梗塞急性期の治療戦略

著者: 桂研一郎 ,   片山泰朗

ページ範囲:P.1161 - P.1163

ポイント

・脳梗塞急性期治療で有効性が確認されたものとして,①脳卒中専門病棟での治療,②発症48時間以内のアスピリン,③発症3時間以内のt-PA療法が挙げられる.

・脳保護療法の登場により,脳梗塞と診断がついた時点で脳保護療法を開始し,病型診断後,病型および重症度による治療を追加することができる.

・evidenceに基づいた急性期治療のためのガイドラインの早急な作成が必要である.

脳梗塞急性期の薬物療法

著者: 中村智実 ,   内山真一郎

ページ範囲:P.1164 - P.1166

ポイント

・高張グリセロール静脈内投与は,頭蓋内圧亢進を伴う大きな脳梗塞の急性期に推奨される.

・組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)の静脈内投与は,一定の条件を満たす症例に対して有効性が期待される.

・発症48時間以内の脳梗塞ではヘパリンが有用であるとする科学的根拠がない.

・アスピリンは,脳梗塞を発症したら直ちに開始したほうがよい.

血栓溶解療法と血管内治療

著者: 江面正幸 ,   松本康史 ,   高橋明

ページ範囲:P.1167 - P.1169

ポイント

・NINDS studyは,発症3時間以内の脳梗塞に対して,アルテプラーゼを0.9mg/kg静注するもので,初めてt-PAが有効と判定された.

・局所線溶療法は,現在のところ,大規模臨床試験では有効は証明されていない.

・本邦でも,いくつかの静注法や局所線溶療法の臨床治験や臨床研究が進行中である.

血行再建術―頸動脈内膜剝離術とバイパス術

著者: 宇野昌明 ,   永廣信治

ページ範囲:P.1170 - P.1172

ポイント

・頸動脈狭窄が症候性では70%以上,無症候性では60%以上認められる症例に対して,頸動脈内膜剝離術の適応がある.

・頸動脈内膜剝離術の合併症として,術中・術後の脳梗塞と心筋虚血が重要である.

・浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス術は,頭蓋内内頸動脈・中大脳動脈の重度の狭窄や閉塞があり,脳血流および血管反応性が低下している症例に適応がある.

脳梗塞急性期の特殊療法

著者: 宮下光太郎 ,   成冨博章

ページ範囲:P.1173 - P.1175

ポイント

・脳梗塞急性期における薬物療法以外の治療法として,低体温療法,高(気)圧酸素療法,減圧開頭術が現在実施可能である.

・低体温療法は,発症後6時間以内に開始した場合,著明な抗脳浮腫効果をはじめとする脳保護効果を示し,機能予後の改善をもたらす可能性がある.

・高(気)圧酸素療法は,発症後24時間以内に1.5~2.5気圧の純酸素吸入を行うことにより虚血性脳障害の改善を図る治療であるが,効果は定まっていない.

・減圧開頭術は重症広範囲なテント上の脳梗塞に対し,脳圧亢進状態を解消する目的で施行されるが,生命予後のみならず,機能予後を改善する可能性がある.

脳梗塞の二次予防(回復期・維持期)

著者: 米倉隆雄 ,   井林雪郎

ページ範囲:P.1176 - P.1178

ポイント

・脳梗塞の回復期・維持期における降圧目標は従来の140/90mmHg未満から,最近ではさらに低値が推奨されている.

・喫煙,飲酒などの生活習慣の改善,高血圧,糖尿病,高脂血症などの動脈硬化性危険因子のコントロールが重要である.

・薬物療法は脳梗塞の臨床病型に沿って,抗血小板療法,抗凝固療法を選択する.

臨床病型ごとの治療

ラクナ梗塞

著者: 野村栄一 ,   郡山達男 ,   松本昌泰

ページ範囲:P.1180 - P.1182

ポイント

・ラクナ梗塞は発症時の重症度は低く,比較的予後のよいものが多いが,入院後症状の進行する症例(脳卒中データバンクの累積症例では約10%)も少なくないことに留意する必要がある.

・治療はオザグレルナトリウムが用いられることが多いが,エダラボンあるいは症状進行例に対するアルガトロバン,ヘパリンなどとの併用療法の有効性について検証していく必要がある.

アテローム血栓性脳梗塞

著者: 山村修 ,   栗山勝

ページ範囲:P.1183 - P.1185

ポイント

・急性期治療では原則的にベッド上安静とし,降圧薬は使用しない.

・急性期には血栓溶解療法を検討し,抗脳浮腫薬と抗血小板薬を投与する.進行性ならば,抗凝固薬を追加する.

・慢性期は抗血小板薬を中心に,危険因子に応じて降圧薬や脂質低下薬を投与する.

・内頸動脈高度狭窄例や潰瘍形成例には,頸動脈内膜剝離術を考慮する.

心原性脳塞栓症

著者: 松浦豊

ページ範囲:P.1186 - P.1188

ポイント

・適切な治療を選択するために,迅速な急性期診断が必要である.

・急性期治療には抗凝血薬療法,脳保護療法,抗浮腫療法があり,病状に応じて組み合わせて行う.

・急性期のヘパリンナトリウムと維持期のワルファリンカリウムによる抗凝血薬療法は切れ目なく行う.

・感染対策・栄養管理,早期離床・早期リハなど,一般的治療も重要である.

一過性脳虚血発作

著者: 粕谷潤二

ページ範囲:P.1190 - P.1193

ポイント

・一過性脳虚血発作(TIA)は症候が24時間以内に消失するものと定義され,脳梗塞が切迫している状態である.

・TIAの平均持続時間は内頸動脈系14分,椎骨脳底動脈系8分である.1時間以上持続した場合,24時間以内に改善するものは14%である.

・治療目的は脳梗塞へ進展させないことである.

・TIAは,急性期脳梗塞と同じように入院のうえ精査を行い,脳梗塞の臨床カテゴリーに準じて抗血小板療法,抗凝血薬療法,頸動脈血栓内膜剝離術を行う.

・十分な精査ができないときは,脳卒中専門病院へ紹介する.

脳卒中診療の現状と将来展望

かかりつけ医の役割

著者: 田坂佳千

ページ範囲:P.1194 - P.1196

ポイント

・日常診療のなかでは,脳卒中の一次予防・二次予防に積極的に取り組む.

・緊急時には,電話で病歴のみから「疑い診断」を下し,直ちに専門施設に紹介する.

・患者・家族の「相談役」として常にかかわりをもち,シームレスケアの要となる.

・リビングウィルの確認など,本人の代弁者としての役割も期待される.

へき地における脳卒中診療

著者: 山本和巳

ページ範囲:P.1198 - P.1202

ポイント

・軽症脳卒中の症候を,問診や身体所見で的確にとらえる能力が必要である.

・X線CTのないへき地診療所では,脳卒中を疑う場合は専門病院へ速やかに搬送する.

・救急患者搬送システム,専門病院の24時間断らない受け入れ態勢,良好な病診連携が重要である.

・脳卒中後遺症は在宅復帰を難しくし,それを支えるリハビリ・介護資源もへき地には乏しい.

・へき地での脳卒中診療では,一次予防,軽症脳卒中患者の二次予防が最も重要である.

脳卒中センター

著者: 井上勲

ページ範囲:P.1204 - P.1206

ポイント

・脳卒中センターは,医療機器などのハード面のみでなく,脳卒中医療チームや受け入れ態勢などソフト面での充実がより大切である.

・急性期治療にとどまらず,予防に対する情報発信や啓発活動,地域ネットワーク,病診連携の推進も重要な責務である.

ブレイン アタック・キャンペーン

著者: 寺崎修司

ページ範囲:P.1208 - P.1211

ポイント

・ブレイン アタック・キャンペーンの柱は脳卒中の予防,脳卒中早期徴候の発見,発症後の迅速な対応である.

・脳卒中では,生活習慣の修正と危険因子の治療による予防が重要である.

・一般市民が脳卒中の初期徴候を知り,早期受診を促すように啓発する.

・脳卒中急性期治療は市民から始まる連携プレーである.

脳卒中急性期治療の将来展望

著者: 小林祥泰

ページ範囲:P.1212 - P.1214

ポイント

・脳卒中急性期治療を進歩させるには,評価の標準化が必須である.

・病院単位の標準脳卒中データベースが集合するデータバンクは有用である.

・日本独自のエビデンスをもとに,ガイドラインを検証していく必要がある.

患者支援に向けて

著者: 中山博文

ページ範囲:P.1215 - P.1217

ポイント

・脳卒中患者への支援は,患者の能力障害および健康関連QOLの改善を促進する.

・脳卒中患者の介護をしている家族の3~5割がうつ状態にある.

・介護者への支援は,介護者がうつ状態に陥るリスクを低下させ,介護者の社会的活動性を高め,QOLを改善する.

座談会

地域完結型の脳卒中診療態勢

著者: 岡田靖 ,   宮本享 ,   原寛美 ,   橋本洋一郎

ページ範囲:P.1219 - P.1232

 橋本(司会) 本日はお忙しいなか,ありがとうございます.日本脳卒中学会が日本医学会の加盟団体になり,専門医制度が始まるなど,ようやく制度的に学会も大きく動き始めたなかで,本座談会が開催できることを非常にうれしく思います.

■現在の脳卒中診療の問題点

 橋本 わが国の脳卒中医療には表1に示すような問題点があります.多数の脳卒中患者を24時間断らずに受け入れて,かつ高度先進医療,最高の医療を提供する,急性期脳卒中治療施設が少ないのが現状です.

救急神経症候の鑑別とマネジメント(7)

急性期脳梗塞のneuro-critical care(前編)

著者: 永山正雄

ページ範囲:P.1240 - P.1248

 脳血管障害の別名として用いられる“脳卒中”は,元来は“脳の病気で突然に何かにあたったように倒れる”ことを意味する.近年,脳卒中はheart attackになぞらえてbrain attackとも呼ばれるが,わが国での死亡率は心筋梗塞の約2倍,発症数では3~5倍に達する.特に脳梗塞は単一臓器の死亡原因として最も多い.本稿では,その頻度と緊急性からcritical care neurologyの中心命題の一つである脳卒中,特に脳梗塞の診断の実際について,現時点での到達点を踏まえてレビューする.

脳卒中を疑うべき症候

 まず始めに,脳卒中か否かを鑑別する.病歴上,突然の激しい頭痛や意識障害,特に急な構音障害,片麻痺,複視の存在は,強く脳卒中を疑わせ識別性も高い.急な感覚障害,めまい,運動失調,失語症や痴呆症のみの例もあり注意を要するが,意識障害(どこかぼんやりしているなど),構音障害,病的反射(特にBabinski反射,Chaddock反射)や髄膜刺激徴候の有無に注意し,頭部CT(1~2日後に再検)やMRI所見に注目する.また表1に脳卒中と間違われうる状態をまとめた.これらの例は脳卒中と同様に意識障害で搬送されることが多いが,片麻痺などの局所症候も,特に低血糖,高浸透圧性非ケトン性昏睡,硬膜下血腫,脳腫瘍,頭部外傷,ミトコンドリア脳筋症でみられうるので注意を要する.なお意識障害例の鑑別については,本連載第3~4回を参照されたい.

カラーグラフ 手で診るリウマチ(7)

手根管症候群(carpal tunnel syndrome),乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)

著者: 上野征夫

ページ範囲:P.1250 - P.1251

 手首の掌側,手根管部位で正中神経が圧迫されると,手指にしびれが起こる.正中神経は,母指,示指,中指,および薬指の橈側半分の感覚を支配する(図1).中年の女性に多く,症状は,朝方,手のしびれで目が覚めるというものが多い.手を少し振ると治ってくる.しびれは掌側のみならず,指先端の背側部に生じることがある.それは正中神経が,指背側,爪周囲の皮膚感覚をも支配しているからである.

 診断は,手根管で正中神経が通る部分を軽く叩くと,しびれが正中神経に沿って指先にまでひびくことから容易である(チネル徴候:Tinel's sign,図2).あるいは両手を90度に背屈,ないしは屈曲させて30秒~1分間待つと,同様に指先にジンジンとした感覚が現れる(ファレン徴候:Phalen's sign,図3).慢性化した例では,母指球が萎縮してくる.原因として,手根管を刺激圧迫する状態,すなわち手首の腱鞘炎,関節リウマチ,外傷,急激に体重が増えた,妊娠,甲状腺機能低下症によるムコ蛋白の沈着,痛風結節,アミロイド沈着などがある.また末端肥大症の30~50%に手根管症候群が現れる.そのうち最も多いのは,腱鞘刺激によるもので,手首の使い過ぎ,反復作業に従事している人にみられる.

連載

目でみるトレーニング

著者: 西村進 ,   松村正巳 ,   藤田浩之

ページ範囲:P.1252 - P.1257

問題 340

 症 例:59歳,女性.

 主 訴:左上腕痛.

 現病歴:4カ月前から左上腕部の疼痛を自覚していた.3日前,打撲を契機に疼痛の増強を認め当院整形外科を受診.内科に紹介された.

 身体所見:身長151cm,体重48kg,血圧120/76mmHg,体温36.6℃.貧血,黄疸なし.心雑音聴取せず,肝脾を触知せず.

 検査所見:WBC5,530/μl(seg50.8%,lymph44.3%,mono3.8%,eosino0.4%),RBC392万/μl,Hb11.8g/dl,Plt21.1万/μl,TP11.2g/dl,Alb3.3g/dl,AST16IU/l,ALT12IU/l,LDH133IU/l,BUN16.2mg/dl,Cr0.7mg/dl,CRP0.18mg/dl,IgG6,663mg/dl,IgA 83mg/dl,IgM52.6mg/l,血清蛋白免疫電気泳動にてIgG-λのM蛋白を認めた.骨髄穿刺にて形質細胞が17%認められた.上腕部骨X線写真(図1)を示す.

新薬情報(30)

イベルメクチン(ストロメクトール®錠3mg)

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.1258 - P.1259

適応■腸管糞線虫症

用法・用量■通常,イベルメクチンとして体重1kg当たり約200μgを2週間間隔で2回,空腹時に経口投与する.添付文書には,体重15kgから80Kg以上までの簡易的な投与ガイドラインが表の形で提供されている.免疫抑制患者では,通常の投与量で駆虫効果が不十分であることも多いので,投与後の効果モニタリングは慎重に行うべきである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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