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雑誌目次

雑誌文献

medicina40巻8号

2003年08月発行

雑誌目次

今月の主題 循環器薬の使い方 2003 循環器疾患の薬物治療の基本:Overview

安定狭心症

著者: 斎藤穎 ,   高山忠輝 ,   遠藤正賢 ,   石川範和 ,   本江純子

ページ範囲:P.1268 - P.1272

ポイント

・プラークの安定化と一次・二次予防がポイントとなる.

不安定狭心症

著者: 吉野秀朗

ページ範囲:P.1273 - P.1281

薬物療法の位置づけ

 不安定狭心症は,重症から軽症まで幅広い患者層が含まれ,かつ病態の変化はスピードに富む.疾患の病態解明が進み,疾患の全体像が明らになるほどに,この疾患に対処するため,循環器内科医には多岐にわたる検査法と治療法への深い知識と高度な技術が要求される.薬物療法は不安定狭心症の治療の最も基本ではあるが,冠動脈形成術が治療手段の一つとして確立された現在,薬物療法そのものに精通することはもとより,検査・治療を含めた適切な評価と管理の全体のなかで薬物療法の役割を理解せねばならない.そして,個々の症例のもつ重症度と緊急性によって,治療の流れと内容は柔軟に変化されねばならない.

急性心筋梗塞

著者: 石川欽司

ページ範囲:P.1282 - P.1286

ポイント

・発症後は,一刻も早く冠動脈を再開通させることが最も大切な治療である.

・冠動脈造影ができる病院へ転送する.

・退院時には,アスピリン,β遮断薬が必須の薬剤である.

慢性心不全

著者: 朝野仁裕 ,   堀正二

ページ範囲:P.1288 - P.1293

ポイント

・治療を考えるうえで,まずその基礎疾患を診断し,病態を評価・把握することが必要である.

・心不全の発症には危険因子があり,構造的な変化(リモデリング)が心不全を進展させる.

・発症前より予防治療を開始することにより,入院率,死亡率ともに低下させることができる.

・大規模臨床試験においてエビデンスの確立した薬剤が第一選択薬である.

急性心不全

著者: 前田佳代 ,   和泉徹

ページ範囲:P.1294 - P.1297

ポイント

・急性心不全の治療の基本は血行動態の安定化である.原因疾患,成因を迅速に把握し,的確に対応する必要がある.

・血行動態に応じて,利尿薬,血管拡張薬,強心薬などを組み合わせて使用する.血管拡張以外の作用をもつフォスフォジエステラーゼⅢ阻害薬,アデニル酸シクラーゼ賦活薬,ヒト心房性利尿ペプチドなどを併用することもある.

・薬物療法による血行動態の安定化が図れない場合は,補助循環療法の適応がある.

心房細動

著者: 杉薫

ページ範囲:P.1299 - P.1303

ポイント

・発作性心房細動と持続性心房細動に対しては,抗不整脈薬による除細動と洞調律維持とともに心不全予防のレートコントロールと抗凝固薬による血栓塞栓症予防が行われる.また,永続性心房細動に対しては,心不全予防のレートコントロールと抗凝固薬による血栓塞栓症予防が行われる.

上室性期外収縮および心室性期外収縮

著者: 深江学芸 ,   中尾功二郎 ,   矢野捷介

ページ範囲:P.1304 - P.1308

ポイント

・期外収縮は,自動能亢進,triggered activity,リエントリーなどで起こる.

・器質的心疾患のない,無症候性の期外刺激は,一般に治療の必要がない.

・心機能低下例では,Ic群などのslow kineticのNaチャネルブロッカーの使用は,心機能抑制,催不整脈作用のため注意が必要.

・リスクの高い心室性不整脈には,アミオダロンの有効性が報告されている.

上室性および心室頻拍

著者: 相澤義房

ページ範囲:P.1310 - P.1314

ポイント

・発作性上室頻拍は日常誰もが遭遇する頻拍である.90%は房室結節性リエントリと房室回帰頻拍で占められ,突如発症して頻拍の停止を求めて来院する.薬剤により100%停止できるが,そのときに抗不整脈薬の作用機序と停止機序を考えながら行うと,リエントリの機序の理解にも役立つ.

・持続性心室頻拍も突如発症し,発症場所は院外がほとんどである.薬物による急激な悪化もありうるので,停止にあたり,心電図や血圧のモニターに加え,除細動器も準備しておく.

・両者とも予防には非薬物治療があることも忘れない.

高血圧および高血圧心臓病

著者: 松井芳夫 ,   島田和幸

ページ範囲:P.1315 - P.1319

ポイント

・高血圧の治療の目的は,単に血圧を下げるのみではなく,高血圧により引き起こされる標的臓器障害の予防または改善である.

・個々の患者の年齢,血圧レベル,心血管病リスク因子,合併する標的臓器障害を評価し,予後評価のためのリスクの層別化を行ったうえで,降圧目標値の設定や薬剤の選択を行う必要性がある.

・高血圧心臓病の臨床的出現形態の一つである左室肥大を早期に発見して,適切な降圧治療により退縮させることが,将来の心血管系イベントを抑制するうえで重要である.

・今後は,家庭血圧による早朝血圧の評価や24時間血圧測定計(ABPM)による血圧日内変動性を考慮した高血圧の病態把握と個別治療が,心血管系イベントの減少につながるであろう.

高脂血症

著者: 広田大輔 ,   寺本民生

ページ範囲:P.1320 - P.1324

ポイント

・LDL-Cの低下療法において,心血管イベントの発症予防は完璧に証明されている.

・二次予防もしくは高リスク患者では総死亡や脳卒中抑制効果も証明されている.

・高リスク患者ではLDL-C116mg/dl以上であれば治療効果が証明されている.

・一次予防では生活指導が重要であるが,LDL-C150mg/dl以上であれば薬物治療の効果が証明されている.

循環器薬の病態に応じた使い方 <ACE阻害薬とAII拮抗薬>

高血圧における使い方

著者: 平田恭信

ページ範囲:P.1326 - P.1327

ポイント

・ACE阻害薬およびAⅡ拮抗薬は穏やかな降圧作用を有し,合併症のない高血圧の第一選択薬の一つである.特に,若~中年者あるいは心不全・腎不全・糖尿病を合併する高血圧には有効性が高い.

・血清クレアチニン濃度が2mg/dl以上の患者には慎重投与.

・ACE阻害薬は乾性咳嗽を誘発することがある.

心不全における使い方

著者: 百村伸一

ページ範囲:P.1329 - P.1331

ポイント

・左室収縮機能低下に対しては,無症状の段階からACE阻害薬,またはAⅡ拮抗薬を投与する.

・少量より投与開始し,血清K+やクレアチニンのモニターを行う.

・エビデンスを重視すると,まずACE阻害薬を用い,ACE阻害薬が禁忌または使用できない場合AⅡ拮抗薬を用いる.

・ACE阻害薬,またはAⅡ拮抗薬のいずれかが導入できたならば,β遮断薬の導入も考慮する.

・拡張不全に関するACE阻害薬またはAⅡ拮抗薬の大規模試験のエビデンスは,今のところない.

心筋梗塞症における使い方

著者: 安田聡 ,   宮崎俊一

ページ範囲:P.1332 - P.1334

ポイント

・ACE阻害薬は,ブラジキニン系を介する付加的な効果も期待される.ただし腎機能障害例では慎重な投与が必要である.

・AII受容体拮抗薬は,肝排泄型であり,腎保護作用を有する.

・両薬剤ともに心臓・血管に対して保護的に作用し,心筋梗塞症例の生命予後を改善させることが期待される.

<β遮断薬>

高血圧における使い方

著者: 松岡博昭

ページ範囲:P.1336 - P.1338

ポイント

・β遮断薬は薬理作用から,β1選択性の有無,ISAの有無,α1遮断作用の有無などにより分類されるが,降圧効果はいずれも同等と考えられる.

・β遮断薬は,冠動脈狭窄あるいは頻脈など,交感神経緊張を伴う高血圧の積極的な適応である.

・β遮断薬は第一選択の降圧薬として用いられるが,高齢者高血圧に対しては,本邦のガイドラインでは第一選択とはなっていない.

安定狭心症における使い方

著者: 平山治雄

ページ範囲:P.1340 - P.1343

ポイント

・β遮断薬は運動耐容能を改善するのみならず,虚血性心疾患の長期予後を改善することが証明された薬である.

・虚血性心疾患患者の長期予後を改善する観点から,β遮断薬の選択基準は,①β1選択性があること,②脂溶性であること,③内因性交感神経刺激作用がないことである.

急性冠症候群における使い方

著者: 佐藤直樹 ,   高山守正

ページ範囲:P.1344 - P.1346

ポイント

・急性冠症候群におけるβ遮断薬の有用性は,胸痛,心筋虚血のコントロールと2次予防に関してはほぼ確立していると考えてよい.

・内因性交感神経刺激作用のない薬剤を選択し,心拍数は60/min台を目標に血圧低下に注意しながら投与する.

・心不全例は急性期にはβ遮断薬の適応はないが,安定期には導入を考慮すべきである.それによりさらなる予後改善が期待しうるからである.

心不全における使い方

著者: 宮本浩光 ,   今泉勉

ページ範囲:P.1347 - P.1349

ポイント

・収縮不全による心不全でACE阻害薬や利尿薬といった標準的な心不全治療を受けており,著明な臓器うっ血がなく症状や血行動態が安定している心不全が適応となる.

・少量より導入し,副作用に注意しながら徐々に増量する.

・導入困難例にはPDE阻害薬やCa感受性増強薬を併用することにより認容性が増加する.

不整脈における使い方

著者: 池田隆徳

ページ範囲:P.1350 - P.1352

ポイント

・β遮断薬には多くの種類があるが,個々の薬理学的作用を理解し,最も有効な薬剤を選択する.

・抗不整脈作用は弱いが,交感神経緊張の緩和や頻拍時の心拍数減少などの二次的な効果を利用して不整脈を治療することができる.

・不整脈の発現機序は,β遮断薬の適応を決定するうえで参考になる.

・基礎心疾患の違いで,不整脈に対する有用性が異なる.

<カルシウム拮抗薬>

高血圧における使い方

著者: 河野雄平

ページ範囲:P.1354 - P.1356

ポイント

・Ca拮抗薬は大部分の高血圧患者に適しており,特に老年者に推奨される.

・Ca拮抗薬は降圧効果が確実で,安全性と認容性に優れ,禁忌となることが少ない.

・Ca拮抗薬は高血圧患者の予後を改善し,その効果は利尿薬やACE阻害薬と同等である.

・24時間の血圧コントロールには長時間作用性の薬剤が望ましく,夜の服薬も効果的である.

狭心症における使い方

著者: 濱田希臣 ,   鈴木純

ページ範囲:P.1358 - P.1360

ポイント

・カルシウム拮抗薬は冠攣縮性狭心症の発作予防にきわめて有用である.

・長時間作用型カルシウム拮抗薬は,β遮断薬に劣らず心血管事故の抑制に有効である.

不整脈における使い方

著者: 河野了 ,   山口巖

ページ範囲:P.1361 - P.1363

ポイント

・ジヒドロピリジン系以外のカルシウム拮抗薬は,カルシウムによる緩徐内向き電流を抑制し,主に上室性不整脈とリエントリ性不整脈の治療に用いられる.

・特発性心室頻拍のなかにベラパミルが著効する症例がある.

・カルシウム拮抗薬は,心抑制作用による分類に留意しながら使用する必要がある.

<利尿薬>

心不全における使い方

著者: 川口秀明

ページ範囲:P.1364 - P.1367

ポイント

・利尿薬は,心不全治療のベースに用いられる基本薬物である.

・電解質バランスの崩れと神経体液性因子の活性化に注意する.

・電解質バランスの崩壊による重篤な不整脈に注意する.

・フロセミド投与時は低K血症,スピロノラクトン投与時は高K血症に注意する.

・副作用として高尿酸血症もみられる.

高血圧における使い方

著者: 山門実

ページ範囲:P.1368 - P.1370

ポイント

・利尿薬,殊にサイアザイド系利尿薬は,ステージ1高血圧,あるいは低リスク,高齢者,収縮期高血圧の第一選択薬と考えられる.

・JNC第7次報告では,さらに積極的適応のある病態として心不全,冠動脈疾患高リスク,糖尿病,脳卒中再発予防を挙げている.

・その使用に際しては,代謝性副作用,殊に低カリウム血症に注意する.

<抗血小板薬>

安定狭心症,冠血行再建術後における使い方

著者: 林孝浩

ページ範囲:P.1372 - P.1374

ポイント

・安定狭心症例に対するアスピリンは,禁忌でない限り,心臓死を予防し,長期予後を改善する目的で,投与を続けるべきである. 

・冠血行再建術後には,亜急性血栓性冠動脈閉塞症を予防するためアスピリンとチクロピジンの併用療法が有効であるが,チクロピジンの副作用には注意を要する.投与期間に関しては,患者および冠動脈の病態を考慮して決定すべきである.

急性冠症候群における使い方

著者: 本宮武司

ページ範囲:P.1376 - P.1377

ポイント

・急性冠症候群発症直後には,アスピリン162~325mgを咀嚼服用させる.急性期のみチクロピジンを併用してもよい.

・長期的にはアスピリン50~100mg/day,分1(維持量).アスピリン禁忌例ではチクロピジン200mg/day,分2.

・経皮的冠インターベンション,特にステント留置ではアスピリン初回量を維持量の2倍とし,チクロピジンを1カ月間併用する.

その他の循環器薬の使い方

抗凝固薬:ヘパリン,ワルファリンとその他

著者: 門田一繁

ページ範囲:P.1378 - P.1380

ポイント

・循環器疾患では血栓形成が関与する疾患が多く,その予防や治療の目的で抗凝固薬が使用される場合が多い.

・抗凝固薬としては,注射薬としてヘパリンが,内服薬としてワルファリンが使用される.

・ヘパリン投与時には,ACTやaPTTなどで抗凝固効果をモニターしながら,適切な投与量を決める必要がある.

・ワルファリン投与時には,他の薬物や食物との相互作用に十分注意する必要がある.

血栓溶解薬:t-PA,ウロキナーゼとその他

著者: 中島林太郎 ,   中村正人

ページ範囲:P.1381 - P.1384

ポイント

・血栓溶解療法は,発症12時間以内で出血性素因のない,65歳以下のST上昇型急性心筋梗塞に有効である.

・その効果は発症から投与までの時間に反比例し,再灌流の程度(TIMI grade)に比例する.

・使用にあたっては限界に留意し,PCIとのcombination therapyも視野に入れるべきである.

冠拡張薬:硝酸薬

著者: 長山雅俊 ,   住吉徹哉

ページ範囲:P.1385 - P.1387

 硝酸薬は抗狭心症薬として古くから繁用されてきたが,狭心症発作寛解のための頓用薬としての立場はいまだに揺るぎようがない.また薬理作用の多彩さから,狭心症のみならず心不全における血管拡張薬としても頻用されており,心筋梗塞後の左室リモデリングの抑制についての報告も散見される.本稿では臨床医が押さえておくべき硝酸薬の薬理作用や製剤・剤形の特徴,病態による使い方,耐性対策および最近の知見について述べる.

硝酸薬の作用機序と耐性発現の機序

 硝酸薬の血行動態や狭心症に対する臨床効果は,主に静脈系や動脈系を拡張したり,冠動脈を直接拡張することによりもたらされる.この血管拡張の機序は完全には解明されていないが,cyclic GMPの生成と密接に関係している.硝酸薬が血管平滑筋細胞に入ると最初に亜硝酸塩,次いで酸化窒素になり,さらに血管平滑筋レセプターのSH基と結合してS-nitrosothiolに変換される.このS-nitrosothiolがグアニレートシクラーゼの活性を亢進してcyclic GMPの産生を高める1).cyclic GMPは細胞内のCa2+濃度を低下させることにより血管平滑筋を弛緩させ,血管を拡張させる.硝酸薬の耐性は,この一連の反応がどこかで低下することにより発現すると考えられる.

冠拡張薬:ニコランジルとその他

著者: 伊藤浩

ページ範囲:P.1388 - P.1390

ポイント

・ニコランジルは冠拡張薬のなかで唯一,長期予後の改善効果が確認された薬である.

・急性心筋梗塞症例にニコランジルを持続静注することにより,心筋血流や左室収縮能の改善と合併症の予防効果が認められる.

・カルシウム拮抗薬は狭心症所見の改善効果があるものの,長期投与による心筋梗塞の二次予防には限界がある.

降圧薬:α遮断薬

著者: 桑島巌

ページ範囲:P.1391 - P.1393

ポイント

・α1遮断薬は脂質代謝やインスリン抵抗性の改善効果が期待された降圧薬であるが,冠疾患のリスクを有する高血圧を対象とした大規模臨床試験ALLHATの成績では,むしろ血管合併症の予防効果で利尿薬よりも劣るという結果であった.早朝高血圧の抑制効果による合併症予防効果が期待されているが,そのエビデンスが必要である.

高脂血症治療薬:HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)

著者: 梅本誠治 ,   梅地恭子 ,   松﨑益德

ページ範囲:P.1394 - P.1397

ポイント

・スタチンは,性別,血清脂質値,その他の冠危険因子の有無,投与時期に関係なく,冠動脈疾患の発症を抑制する.

・スタチンには,コレステロール低下を介さない抗動脈硬化作用がある.

・スタチンは,脳卒中や総死亡も抑制する.

・フィブラート系薬剤との併用で横紋筋融解症やミオパシーを生じることがある.

心不全治療薬:ジギタリス

著者: 石川和信 ,   丸山幸夫

ページ範囲:P.1398 - P.1400

ポイント

・ジギタリスは慢性心不全患者の生命予後を改善できないが,心不全症状を緩和し,心不全増悪による入院を減少させる.

・ジギタリスは心機能を低下させずに頻脈性心房細動を徐拍化する.

・ジギタリス血中濃度は種々の要因により変化する.モニタリングにより中毒を防止するとともに,有効な血中濃度の維持を心がける.

心不全治療薬:ジギタリス以外の経口薬

著者: 新家俊郎 ,   横山光宏

ページ範囲:P.1402 - P.1404

ポイント

・慢性心不全患者の予後は,特にNYHA III度以上の重症例では,依然として不良である.

・慢性心不全の治療目標は,生命予後の改善とQOL(quality of life)の改善である.

・ACE阻害薬(AII拮抗薬),β遮断薬は,慢性心不全患者の心機能や予後を改善することが証明されたが,運動耐容能の改善は十分とはいえない.

・慢性心不全に対する経口強心薬の少量長期投与は,生命予後を改善しないが,患者のQOL,運動耐容能を改善する効果が期待できる.

・重症心不全例では,静注カテコラミンからの離脱時,β遮断薬導入時などに,短期的な経口強心薬投与が有効.

心不全治療薬:ジギタリス以外の静注薬

著者: 平川洋次 ,   下川宏明

ページ範囲:P.1406 - P.1407

ポイント

・心不全治療においては,利尿薬・強心薬・血管拡張薬などの薬効機序を理解したうえで,個々の病態に則してそれらを使い分けることが大切である.

・強心薬は基本的に心仕事量を増大させるため,心筋虚血を誘発することがあるので注意が必要である.

・微妙な濃度の調節が必要な薬剤が多いため,なるべく単独の輸液ラインを用いて投与するよう努める.

不整脈治療薬:Naチャネル遮断薬(Ⅰ群薬)

著者: 呉正次 ,   櫻田春水

ページ範囲:P.1408 - P.1410

ポイント

・Ⅰ群抗不整脈薬はNaチャネル遮断に基づく伝導抑制が主作用であり,チャネルへの結合状態,解離速度,Kチャネル遮断作用の有無などからも細分類される.心房筋や心室筋の関与する頻脈に有効であるが,基礎心疾患例では心収縮力の抑制や催不整脈作用が生じやすいこと,さらには薬剤の代謝・排泄経路に留意することが重要である.

不整脈治療薬:Kチャネル遮断薬(Ⅲ群薬)

著者: 谷義則 ,   大江透

ページ範囲:P.1411 - P.1413

ポイント

・Kチャネル遮断薬は活動電位持続時間,有効不応期を延長させ抗不整脈作用を発揮する.

・アミオダロンとdl-ソタロールは多くの臨床試験でその生命予後改善効果が示された.

・アミオダロンは副作用の頻度が高く,特に肺線維症などの肺毒性が問題となる.

・ニフェカラントは静注薬のKチャネル遮断薬であり,緊急治療薬として使用される.

救急神経症候の鑑別とマネジメント(8)

急性期脳梗塞のneuro-critical care(後編)

著者: 永山正雄

ページ範囲:P.1422 - P.1430

 本来,脳梗塞の急性期治療は,①発症後の時間,②臨床病型(アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,心原性脳塞栓症)のほか,③機序(血栓性,塞栓性,血行力学性に加えて,動脈原性塞栓,branch atheromatous diseaseなど),④責任血管,⑤出血性梗塞か否か,⑥重症度,⑦合併症によって異なる.近々に,エビデンスに基づいて本邦で初めて作成された脳卒中治療ガイドライン2003(作成委員長:篠原幸人,事務局:筆者)1)も公表される予定であるが,エビデンスレベルのみならずこれらの正確な臨床像の評価がtailored best treatmentのためにきわめて重要である.本稿では脳梗塞急性期の治療指針について,脳卒中治療ガイドライン2003およびその脳梗塞部分の原案となり筆者も分担した平成14年度厚生労働科学研究班(脳梗塞班)報告書2)の意図を踏まえた私案を述べる.

病型未決定時の治療

 以下,脳卒中が疑われるがまだ脳卒中病型(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血)が未決定の段階における超急性期管理について述べる.意識障害例については,本連載第4回「意識障害」(40巻4号)も参照されたい.

聖路加国際病院内科グランドカンファレンス(1)〔新連載〕

呼吸困難が持続し救急車で搬送された45歳男性

著者: 岡田定 ,   内山伸 ,   西裕太郎 ,   坂田道教 ,   鈴木高祐 ,   藤田聡子 ,   和田匡史 ,   山本博之 ,   久田修 ,   北川諭 ,   藤田善幸 ,   伊藤俊之 ,   蝶名林直彦 ,   那須英紀 ,   林田憲明 ,   古川恵一 ,   松井征男

ページ範囲:P.1433 - P.1444

岡田(総合司会,以下総司会) それでは本日のグランドカンファレンスを始めます.症例のプレゼンテーションを坂田先生にお願いします.

症例呈示

坂田(担当医) 今回の症例は,十二指腸潰瘍穿孔に対して大網充填術の既往のある45歳の男性で,呼吸困難を主訴に来院されました.現病歴などを以下に示します.

演習・腹部救急の画像診断(13)〔最終回〕

交通事故により右側腹部痛を訴え来院した26歳女性

著者: 大橋正樹 ,   葛西嘉亮 ,   葛西猛 ,   八代直文

ページ範囲:P.1445 - P.1449

Case

症 例:26歳,女性.

主 訴:右側腹部痛.

既往歴:特記すべきことなし.

現病歴:乗用車の助手席に座っていて,乗用車同士の正面衝突事故にて受傷し,近医に搬送された.右側腹部痛を訴え,肉眼的血尿が認められたため,当院へ緊急搬送された.

現 症:血圧90/54mmHg,脈拍数100/min,体温36.4℃.意識清明.顔面蒼白.眼瞼結膜にて貧血著明.呼吸音正常であるが,呼吸数26/minと頻呼吸を呈していた.右肋弓下に圧挫傷様の皮下血腫を認め,圧痛著明.

血液および尿検査:Hb8.6g/dl,Ht24.0%,WBC17,800/μl,PT-INR1.75,PT18秒,APTT36.2秒,AST57IU/l,ALT41IU/l,LDH486IU/l,CPK149IU/l,BUN10mg/dl,Cr0.7mg/dl,肉眼的血尿(+),尿潜血(3+).

カラーグラフ 手で診るリウマチ(8)

デュピュイトラン拘縮(Dupuytren's contracture),ばち指(digital clubbing)

著者: 上野征夫

ページ範囲:P.1450 - P.1451

 デュピュイトラン拘縮(Dupuytren's contracture)とは,手掌筋膜(腱膜)の線維性肥厚のことを指す.1831年に,フランスの外科医Guillaume Dupuytrenが局所外科的所見を詳しく報告した.

 症状は,手掌の皮下に触れる索状の筋膜肥厚である.両側性に出現し,頻度は環指,小指,中指の順に多く,示指,母指に発生することは少ない.最初,手掌の遠位に小さな皮下結節として現れ,長い年月をかけて,次第に縦に伸びた索状物として触れるようになる.それによって指は拘縮し,持ち上がってくる(図1).まず最初にMCP(metacarpophalangeal)関節で屈曲し,次にPIP(proximal interphalangeal)関節で曲ってくる.進行した例では,指に著しい屈曲を残して固まる.痛みを伴わないため,発症時期がいつかわからないことがほとんどである.増殖した筋膜線維は,皮下組織と癒着する.そのため,周囲の皮膚に凹凸を作る.

連載

目でみるトレーニング

著者: 門伝昌巳 ,   木村真人 ,   成重隆博

ページ範囲:P.1453 - P.1458

問題 343

 症 例:42歳,女性.

 主 訴:意識消失.

 既往歴:特記事項なし.

 家族歴:特記事項なし.

 現病歴:2~3年前より,ときどき手足のしびれを認め,特に疲労やストレス,感冒時に手の硬直,顔面痙攣,しゃべりにくさを自覚していたが,放置していた.近医受診したことはあるが,血液検査では異常は指摘されなかった.入院当日,トイレにて意識なく壁に寄りかかっているところを家族が発見,救急車を要請し,当院救急外来に搬送された.救急車に乗車する際に意識は戻ったが,トイレに行ったことも覚えておらず,10分ぐらいの意識消失はあった.

 身体所見:身長154cm,体重50kg,体温36.6℃,血圧140/70mmHg,脈拍90回/分・整,意識清明.その他特記すべき所見なし.

 検査所見:WBC5,900/μl,RBC402万/μl,Hb12.7g/dl,Ht38.5%,Plt37.2万/μl,Na139mEq/l,K3.5mEq/l,Cl99mEq/l,Cr0.8mg/dl,AST33IU/l,ALT61IU/l,LDH582IU/l,CK2,599mg/dl,Ca3.9mg/dl,P6.1mg/dl,Mg1.8mg/dl(1.7~2.4).

 本症例の頭部CT像(図1),心電図(図2)を示す.

新薬情報(31)

カペシタビン製剤(ゼローダ®錠300)

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.1460 - P.1462

適応■手術不能または再発乳癌.術後補助療法や初回化学療法は適応とならない.また,単独投与を行う際には,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬を含む化学療法の増悪または再発例に限る.米国では転移性大腸癌の治療にも適応が認可されている.

用法・用量■患者の体表面積に合わせて,1.31m2未満では1回900mg,1.31m2以上1.64m2未満では1回1,200mg,1.64m2以上では1回1,500mgを,朝食後と夕食後30分以内に1日2回,21日間経口投与し,その後7日間休薬する.これを1コースとして投薬を繰り返す.体表面積当たりの投与量補正については,米国の添付文書により詳細な記述があるので,体表面積が日本のガイドラインの上・下限を逸脱する患者では参照するべきである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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