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雑誌目次

雑誌文献

medicina41巻10号

2004年10月発行

雑誌目次

今月の主題 肝疾患の疑問に答える―研修医と内科医のために 総括的な疑問に答える

肝疾患―診療の現状と展望

著者: 小俣政男

ページ範囲:P.1594 - P.1596

ポイント

 HCVウイルスの駆除が肝の線維化の寛解と,ひいては癌発生を減少させる.

 HBV駆除は不可能であるが延命効果が期待できる薬剤が出現する.

肝疾患の疫学

著者: 坂内文男 ,   森満

ページ範囲:P.1597 - P.1599

ポイント

 A型肝炎ウイルス抗体保有率は低下してきている.

 B型肝炎ウイルスキャリアは,B型肝炎母児感染防止事業の成果により近年減少している.

 肝硬変の死亡率は男女とも漸減傾向にある.

 C型慢性肝炎から発症する肝細胞癌は,今後も増え続けると予測されており,肝悪性腫瘍による死亡率は漸増傾向にある.

肝疾患の治療の進め方

著者: 柴田実

ページ範囲:P.1600 - P.1602

ポイント

 肝疾患の治療は,特異的治療と非特異的治療に分けられる.

 治療は,医師の熱意や誠意のみでなく,科学的に患者の便益を考えて臨床決断する必要がある.

 そのためには期待効用,治療閾値,判断樹法などのEBM的考え方も理解する必要がある.

肝疾患の予後

著者: 森實敏夫

ページ範囲:P.1603 - P.1605

ポイント

 比例ハザード解析に基づく多変量のモデルにより,リスクスコアを算出し個別症例の予後を予測することができる.

 原発性胆汁性肝硬変,原発性硬化性胆管炎のMayoモデルを用いると,臨床症状,臨床検査の結果から予後を予測可能である.

 消化管出血のない肝硬変症の予後の予測は,Child-PughスコアおよびBUN,平均赤血球容積,%前腕筋周径から可能である.

診断の疑問に答える

偶然発見された肝機能異常へのアプローチ

著者: 池田有成 ,   佐藤芳之

ページ範囲:P.1607 - P.1609

ポイント

 肝機能異常は肝疾患に特異ではなく,心疾患,筋肉疾患,内分泌疾患,血液疾患,膠原病でもみられる.

 肝実質障害型と胆道系酵素上昇型とを区別して考える.

 ビリルビン値の上昇や肝合成能の低下からも疾患を鑑別できる.

肝疾患における身体診察の重要性

著者: 峯徹哉

ページ範囲:P.1610 - P.1612

ポイント

 触診だけではなく,視診,打診,聴診も重要である.

 身体診察は診断・治療に有益である.

急性肝疾患の診断

著者: 銭谷幹男

ページ範囲:P.1613 - P.1615

ポイント

 急性肝疾患の成因のほとんどはウイルス性急性肝炎である.従来わが国では稀であるとされていたE型肝炎,D型肝炎も散見され,診断にあたっては注意が必要である.

 自己免疫性肝炎の急性肝炎様発症例は診断が困難な場合が多いので,中年女性例では常に鑑別を念頭におくことが大切である.

慢性肝疾患の診断

著者: 伊藤敬義 ,   井廻道夫

ページ範囲:P.1616 - P.1618

ポイント

 肝障害を指摘されて医療機関を受診してきた患者に対し,初診時の問診や身体所見から慢性肝疾患の存在を疑うことができる.

 肝障害の原因を血液生化学検査所見,各種ウイルスマーカー,自己抗体などの結果から鑑別診断できる.

 血液検査,画像検査,肝組織検査から慢性肝疾患患者の病態や病期を理解できる.

肝腫瘍の診断

著者: 池田弘 ,   金吉俊彦

ページ範囲:P.1619 - P.1622

ポイント

 鑑別法の基本は,①超音波像,②造影CT(MRI)による腫瘤のvascularityの評価,③ウイルス性肝炎,肝硬変の有無,である.

 日常診療で遭遇する頻度が高い肝腫瘤性病変は囊胞,血管腫,肝細胞癌,転移性肝癌である.

 肝細胞癌は90%以上の症例が基礎にウイルス性肝炎,肝硬変を合併しており,これらの疾患の有無が鑑別に重要である.

 転移性肝癌は原発巣,組織型によって画像所見が異なってくる.

 肝細胞癌と鑑別困難な良性疾患として限局性結節性過形成がある.

病態把握の疑問に答える

急性肝炎の病態把握

著者: 箱崎幸也 ,   花田健治 ,   岡村芽里

ページ範囲:P.1624 - P.1626

ポイント

 急性肝炎の段階での重症・劇症化への予知により,予知された時点での集学的治療にて救命率向上が可能となる.重症・劇症化の確実な予知には,急性肝炎の正確な病態把握が不可欠である.

 肝機能は多彩で日々大きく変化し悪化することもあり,急性肝炎の病態把握にはいくつかの検査を組み合わせ,経時的に観察・評価しなければならない.

 急性肝炎の重症度判定には,直接/総ビリルビン比,血液凝固因子(PT/HPT),尿素窒素の低下が重要である.

肝硬変の病態把握

著者: 竹平安則 ,   影山富士人 ,   室久剛

ページ範囲:P.1627 - P.1629

ポイント

 肝硬変は種々の原因による慢性肝疾患の終末期像である.

 肝硬変は病理組織学的に慢性肝炎と区別されるが,臨床的には困難なことがある.

 肝硬変は画像的に超音波検査およびCT検査が簡便で,その診断と評価に有用である.

 肝硬変は腹水や食道胃静脈瘤以外にも多くの合併症を有するが,その程度はさまざまであり,その病態に応じた治療が必要である.

自己免疫性肝疾患の病態把握

著者: 戸田剛太郎

ページ範囲:P.1630 - P.1632

ポイント

 自己免疫性肝疾患の鑑別にはアルカリホスファターゼ,γGTPが重要である.

 自己免疫性肝炎の抗核抗体の染色パターンはhomogenousまたはspeckledである.

 autoimmune cholangitisの疾患単位としての独立性は確立していない.

 自己免疫性膵炎において原発性硬化性胆管炎類似のcholangiogramを認めることがある.

検査の疑問に答える

肝炎ウイルスマーカーの選び方と読み方

著者: 木村武志

ページ範囲:P.1634 - P.1636

ポイント

 肝炎ウイルスマーカーを選択する場合,問診・身体所見など診察結果に基づき合理的に行うべきである.

 急性肝炎,慢性肝炎の鑑別が予後の判断のためにも重要である.

 検査結果が必ずしも原則に従わない場合もあることを念頭において診断するべきである.

画像検査の選び方と読み方

著者: 磯崎哲男

ページ範囲:P.1637 - P.1639

ポイント

 画像検査の第一選択は超音波検査になることが多い.

 各画像検査の長所と短所を知ったうえで,目的を明確にして検査オーダーをするべきである.

 造影剤を用いることにより肝腫瘍の質的診断が可能.

肝生検,腫瘍生検の適応

著者: 橋本直明 ,   松浦広 ,   松川雅也

ページ範囲:P.1640 - P.1643

ポイント

 肝生検は侵襲的,観血的でリスクを伴う検査である.「組織診断で何がわかるのか,どこまで言えるのか」結果を予測したうえで,適応を選び,禁忌を避けて,慎重に施行すべきである(「生検でもしてみるか」は禁句である).

 リスクを勘案し,リスク対策を立てて施行する.

 「適応」に記載した内容は他の画像診断では代用できない分野である.

 肝細胞癌の生検については,EASLカンファレンスの報告を紹介した.

病理診断の読み方

著者: 中野雅行

ページ範囲:P.1644 - P.1646

ポイント

 病理組織を読むには正常構造と病的構造の知識が必要である.

 病変には変性,炎症,線維化,結節がある.

 術語には深い意味が含まれているので,そこまで理解する.

治療の疑問に答える

B型,C型慢性肝炎,肝硬変に対する肝庇護薬の使い方

著者: 宜保行雄

ページ範囲:P.1648 - P.1650

ポイント

 肝庇護薬はB型(CH-B),C型慢性肝疾患(CH-C)での根本治療であるインターフェロン(IFN)や抗ウイルス薬無効例,非適応例に対するあくまでも対症療法として位置づけられる.

 肝庇護薬療法の目的は,慢性肝炎(CH)ではALT改善による肝硬変(LC)への進展,肝細胞癌(HCC)合併を阻止し延命を図ることである.LCまで進展した症例では,肝不全やHCC合併を阻止し肝疾患関連死亡を減少させることである.

早期肝細胞癌の治療

著者: 斎藤明子

ページ範囲:P.1651 - P.1653

ポイント

 早期肝細胞癌を含め,2cm以下の症例の多くはRFAにて治療可能である.

 画像上で肝細胞癌の典型像を呈さない症例は,早期肝細胞癌を除き,切除の対象である.

 RFAの成績は,今後さらに検討を重ねる必要がある.

進行期肝細胞癌の治療

著者: 伊東和樹

ページ範囲:P.1654 - P.1658

ポイント

 進行期肝癌の「標準的治療法」はいまだ確立されていない.

 腫瘍の拡がりだけでなく,肝予備能や肝癌以外の硬変合併症なども総合的に評価する.

 患者ごと,同一症例でも治療セッションごとに,予後とQOLの規定因子を見きわめ,治療の適否と治療法を決定する.

B型慢性肝炎の治療

著者: 長谷川潔

ページ範囲:P.1660 - P.1661

ポイント

 B型肝炎に対するラミブジン治療は,効果が確実で,副作用も少ないことから,第一選択薬となっている.

 ラミブジンは,耐性株の出現や,生殖細胞への影響など,長期投与には問題がないといえない.

 今後は,IFNや他の核酸アナログとの併用療法を含めた治療法の選択が,重要となってくる.

C型慢性肝炎の治療

著者: 岩渕省吾

ページ範囲:P.1662 - P.1664

ポイント

 治療適応と方法は肝炎の程度,進行度,年齢,ウイルス量,サブタイプなどを総合して判断する.

 治療適応で最も重視されるのはALT値である.

 ALT正常で無症候性キャリアに近い例は原則的に経過観察とする(☆).
 
 IFN治療で重視されるのは,開始後8週までのHCV減少(陰性化時期)であり,投与期間,投与法の目安となる(☆☆☆).

 瀉血,除鉄療法は難治性C型肝炎の肝炎鎮静化療法として有用である(☆☆).

肝不全の治療

著者: 三浦英明 ,   山田春木

ページ範囲:P.1665 - P.1667

ポイント

 肝硬変症はその病態として,慢性肝炎に近い初期肝硬変から慢性肝不全まで呈しうる臨床的に幅の広い疾患である.

 慢性肝不全とは,肝硬変患者に合併した浮腫,胸腹水貯留,肝性脳症などの病態を指す.

 肝硬変症に対する治療の基本は生活指導,食事療法,肝庇護療法であるが,肝不全を呈するものには,さらに適切な薬物治療が必要になってくる.

食道胃静脈瘤の治療

著者: 石川晶久 ,   岡裕爾

ページ範囲:P.1668 - P.1670

ポイント

 食道胃静脈瘤出血は上部消化管出血の主要な出血源であり,大量出血では肝不全をきたし致命的になるので,早急に止血が必要である.

 食道胃静脈瘤治療には内視鏡治療,IVR(interventional radiology)治療,薬物治療,外科的治療がある.

 門脈血行動態をよく見て,考え,適切な治療を選択することが大切である.

肝移植の現況

著者: 横田徳靖 ,   矢永勝彦

ページ範囲:P.1672 - P.1674

ポイント

 わが国では生体肝移植が,末期肝障害に対する有用な治療としてほぼ確立された.

 脳死および生体肝移植間で,術後生存率に差はない.

 2004年1月より,成人の生体肝移植にも保険が適用された.

 脳死肝移植がきわめて少ないわが国では,生体肝移植が現実的な手段である.

特発性門脈圧亢進症(IPH)の診断と治療

著者: 村島直哉 ,   中山聡 ,   山名大吾 ,   遠藤寛子

ページ範囲:P.1675 - P.1677

ポイント

 特発性門脈圧亢進症の診断は,まず肝硬変の除外から始まる.

 3D-CTによる画像診断が,きわめて有用である.

 手術を視野に入れた消化管出血のコントロールが治療の基本で,予後は良好.

他科からのコンサルトに答える

薬物性肝障害の対応

著者: 滝川一

ページ範囲:P.1679 - P.1681

ポイント

 薬物性肝障害の診断には,①薬物投与と肝障害の出現と消退の時間的関係,②他の原因の除外診断の2つがポイントとなる.

 薬物性肝障害を疑ったのであれば,もし起因薬物を現在も服用中であれば直ちに中止する必要がある.薬物投与をどうしても中止できない場合には,薬物の変更を考慮する.

脂肪肝(NASHを含む)

著者: 石井耕司 ,   住野泰清

ページ範囲:P.1682 - P.1686

ポイント

 脂肪肝(NAFLD)の多くは,良性な可逆性病変であり,原因を除去または改善すれば治癒する予後の良好な疾患である.

 しかし,その約1割はNASHで,病因はいまだに不明であるが,脂肪肝に何らかの要因が加わることによって炎症が惹起されると考えられている.

 NASHは進行性で肝硬変,肝癌に進展することがある.

肝炎ウイルス感染の予防

著者: 森屋恭爾 ,   小池和彦

ページ範囲:P.1687 - P.1689

ポイント

 医療従事者は既知の感染症,特にB型肝炎について自分自身が抗体を有しているかどうか知っている必要がある.

 抗体を有していない感染症に対しては,可能な限りワクチン接種を心がける.安全器材を正しく用いて,針刺し事故が起きる可能性を低くする.

 ウイルス肝炎では,A型肝炎,B型肝炎についてはワクチンが存在するが,C型肝炎には有効なワクチンは現在ない.

 針刺し事故を起こした場合,その日のうちに自分の血液とともに針刺し事故の届け出を提出する.

化学療法,免疫抑制療法と肝障害

著者: 忠願寺義通

ページ範囲:P.1690 - P.1693

ポイント

 抗癌剤による肝障害には有効な治療は少なく,早期に診断し抗癌剤投与量を修正する必要がある.

 肝機能正常のHBVキャリアに対する化学療法,免疫抑制療法施行後に,HBVの再活性化による肝炎再燃が起き,時に致死的になりうる.

 HBVの再活性化による肝炎には,ラミブジンが有効である.

患者から質問されやすい疑問

肝炎ウイルスキャリアとの結婚

著者: 髙橋正一郎

ページ範囲:P.1696 - P.1697

ポイント

 一般的な日常生活で,相手に感染させる危険はないが,血液を介した感染の危険性があり注意を要する.

 B型肝炎ウイルスキャリアは,セックスによって相手にウイルスを感染させる危険性がある.しかし,C型肝炎ウイルスキャリアでは,セックスによる感染の危険性はほとんどない.

 B型肝炎ウイルスに対してはワクチンによる感染予防の方法が確立されているが,C型肝炎ウイルスに対しては,いまだワクチンは開発されていない.

 結婚相手に対する感染の危険性と対策を,本人だけでなく,相手にも正しく認識してもらえるように説明することが重要である.

肝炎ウイルスの母子感染―感染率のreviewと予防対策,授乳,帝王切開は感染を予防するか?

著者: 高口浩一 ,   喜田恵治 ,   浅木彰則

ページ範囲:P.1698 - P.1699

ポイント

 C型肝炎ウイルスの母子間感染率は約10%前後である.

 C型肝炎ウイルスの母子間感染は授乳で起こる可能性は低い.

 母体のHCV-RNA量の多い症例では感染のリスクが高く,帝王切開も考慮に入れる必要がある.

慢性肝疾患患者の妊娠,出産

著者: 渡部幸夫

ページ範囲:P.1700 - P.1703

ポイント

 慢性B型肝炎の若年層では,自然経過や妊娠出産を契機にHBeAgのseroconversionやHBV-DNA量の減少が生じることが多い.

 慢性C型肝炎は,妊娠期間中は安定した状態であっても出産前後や産褥期に悪化することがある.

 妊娠中におけるインターフェロン治療の安全性や効果については,まだ知られていない.

 自己免疫性肝炎では妊娠の中期・後期においては肝機能が安定し,出産後に再燃することがあるので,産褥期4~6週間は特に注意が必要である.

インターフェロン著効例の経過観察

著者: 姜貞憲

ページ範囲:P.1704 - P.1706

ポイント

 IFN著効後観察期間における再燃は稀ながら存在する.

 SVR後 HCV再感染は生活歴から予測可能である.

 IFN著効例における肝癌診断時期は,90%以上の症例で治療終了5年以内である.

 肝発癌のrisk factorとして,進行した肝線維化stage,NASHやアルコール性肝障害の合併,耐糖能障害などが想定されるが,いまだに明らかな証拠はない.

肝疾患患者の飲酒・喫煙

著者: 松下昌直 ,   宮川浩

ページ範囲:P.1707 - P.1709

ポイント

 飲酒・喫煙はともに肝硬変への進展を促進する増悪因子である.

 飲酒・喫煙はともに肝発癌のリスクを増加させる危険因子である.

 飲酒はC型慢性肝炎におけるインターフェロン治療の効果を減弱させる.

座談会

肝疾患診療ガイドラインの現状と問題点

著者: 森實敏夫 ,   銭谷幹男 ,   柴田実 ,   上野文昭

ページ範囲:P.1712 - P.1722

上野 本日は,「肝疾患診療ガイドラインの現状と問題点」というテーマで,ご討論いただきたいと思います.

 昨今日本でも,各種疾患のガイドラインが,国や学会主導で作成されています.しかし,このガイドラインを臨床医が正しく理解して,使いこなせているかというと,問題もあるようです.

 例えば,臨床医のなかには“ガイドライン盲信派”と“ガイドライン嫌悪派”がいて,後者には「ガイドラインに従わないと医療訴訟で負けるのではないか」という不安を感じている人もいます.

 そもそもガイドラインはスタンダードではないので,診療において固執する必要もないし,全面的に依存もできず,もう少しフレキシブルに考えなければいけないはずです.

理解のための32題

ページ範囲:P.1725 - P.1731

聖路加国際病院内科グランドカンファレンス(7)

数カ月の腰痛に続いて歩行困難と両下肢異常知覚をきたした53歳女性

著者: 高尾信廣 ,   飛田拓哉 ,   冨本彩子 ,   堀田敏弘 ,   堀ノ内秀仁 ,   兼元みずき ,   氣比恵 ,   田口智博 ,   小野宏 ,   内山伸 ,   藤沢聡郎 ,   鈴木高祐 ,   上村明博 ,   那須英紀 ,   岡田定 ,   伊藤幹人 ,   蝶名林直彦 ,   出雲博子 ,   古川恵一 ,   関口建次

ページ範囲:P.1734 - P.1743

飛田(司会) 内科グランドカンファレンスを始めます.症例のプレゼンテーションをお願いいたします.

症例提示

 冨本(担当医) 症例は53歳女性.主訴は腰痛.プロフィールは主婦で,事務系のパートをされており,趣味はテニスです.

既往歴,現病歴などを以下に示します.

 既往歴:34歳時虫垂炎,43歳時貧血(特に治療,精査を受けていない).

 現病歴:2003年7月頃より特に誘因なく腰部の違和感が出現し,徐々に腰痛がひどくなったため,近医を受診.腰部単純X線写真では,特に異常所見は認められず,慢性腰痛の診断でNSAIDsを処方,経過観察.しかし腰痛は増悪,8月中旬には疼痛で動けないほどになり,他院近医を受診したが,やはり異常は指摘されず.さらに他院総合病院整形外科を受診,MRIを施行したが,特に異常は認められず.4軒目の医院では,腰部に局所麻酔薬を局注され,経過観察.やはり腰痛は改善せず.11月13日頃より,進行する歩行困難と両下肢の異常知覚も認めるようになり,11月17日当院整形外科を受診.血液所見にて異常を認めたため,11月20日,血液内科を紹介受診,翌日入院となった.

 入院時身体所見:身長157cm,体重45.7kg,一般状態;体動時には腰痛のため苦悶様.意識清明.血圧126/76mmHg,脈拍88/分,体温37.1℃,呼吸数16/分,眼瞼結膜に貧血を認める.眼球結膜に黄疸なし.瞳孔は正円同大で対光反射迅速.咽頭発赤なし.頸部リンパ節腫脹なし.肺音;両肺清明.心音;整・LevineII/VI度の収縮期心雑音あり.過剰心音聴取せず.腹部;平坦,軟.肝脾触知せず.腸音亢進.背柱肋骨角部叩打痛あり.下腿浮腫を認めず.直腸指診にて痔核・圧痛なく,Douglas窩に異常なし,トーヌス良好.

カラーグラフ 足で診る糖尿病(10)【最終回】

足切断後の変形と足の新たな病変

著者: 新城孝道

ページ範囲:P.1744 - P.1745

糖尿病足病変で壊疽に至ると切断術が必要となる.切断レベルは病変の程度,背景因子の存在などを考慮し決定される.足切断は創部の閉鎖で治癒とされ,社会生活に復帰できる.高齢者は下肢骨格系異常が高度であると,立位および歩行困難な例が問題となる.座位と臥位での生活が多くなり,褥瘡形成が問題となる.褥瘡は踵,下腿,大腿背部,骨盤および背部に形成される.踵の褥瘡は糖尿病患者では多く,「diabetic heel」と称されるほど高頻度にみられる.

 立位および歩行が可能な患者の問題点は次の通りである.

連載

目でみるトレーニング

著者: 岩崎靖 ,   田中治彦 ,   橋本尚子

ページ範囲:P.1746 - P.1751

問題 385

 症 例:78歳,男性.

 主 訴:めまい,歩行障害.

 既往歴:高血圧にて内服治療中.

 現病歴:朝起床時より,めまい,ふらつきを自覚した.同日神経内科を初診し入院した.

 身体所見:身長165.0cm,体重60.0kg,血圧186/100mmHg,脈拍76/分・整.呼吸数20/分・整,呼吸音正常.その他,一般内科所見に異常なし.

 神経学的所見:意識は清明で,嚥下障害・嗄声を認めた.瞳孔は右2.0mm,左3.0mmで右眼裂の狭小を認めた.対光反射,輻輳反射は両側正常.眼球運動に障害はないが,左注視方向性の水平回旋性眼振を認めた.右軟口蓋は低位で咽頭挙上は左へ偏位し,咽頭反射は消失.舌の偏位や萎縮はなし.四肢の筋力は正常.左顔面と左上下肢を含む左半身の温痛覚低下を認めたが,触覚は四肢・顔面ともに両側でよく保たれていた.指鼻試験,踵膝試験で右上下肢の失調が認められた.腱反射は四肢で軽度亢進していたが,左右差・病的反射はなし.喉頭ファイバー所見で右声帯麻痺を認めた.

演習・小児外来

〔Case7〕乳児湿疹が増悪したとのことで来院した4カ月男児

著者: 横山宏和 ,   高見澤勝 ,   岩田力

ページ範囲:P.1754 - P.1758

症 例:生後4カ月男児.

 主 訴:湿疹.

 家族歴・既往歴:父・母ともに小児期には気管支喘息として加療されていた.

 現病歴:妊娠中・出生時には特に問題なかった.生後1カ月ごろより,顔面・間擦部などに湿疹が出現し,近医小児科にて乳児湿疹として非ステロイド系抗炎症外用薬を処方されていた.皮膚所見は次第に悪化し,発赤は強く,湿潤化し滲出液も認め,びらんも認めるようになった.2カ月以上経過するも改善傾向は全くなく,むしろ悪化し,かつ数日間で急激に増悪したとのことで,当科アレルギー外来を受診された.

 身体所見: 初診時の皮膚所見を図1に示す.顔面・頸部・四肢屈曲部などに滲出液を伴う湿潤性紅斑局面を認め,紅斑上に水疱が存在し,破れてびらん・痂皮化を認めている.採血データは,WBC 23,800/μl(好酸球 8,330/μl),CRP1.9mg/dl,IgE 1,402U/mlであった.また,皮膚滲出液の培養では多量の黄色ブドウ球菌を認めた.

〔Case8〕乳児検診にて頻脈を認めた1カ月の男児

著者: 中村嘉宏

ページ範囲:P.1755 - P.1761

症 例:日齢27日の男児.

 主 訴:頻脈.

 家族歴・既往歴:特記事項なし.

 現病歴:在胎41週2日,出生時体重3,356g,自然分娩にて出生した.出生後の哺乳や体重増加は良好であった.啼泣や哺乳に伴うチアノーゼなどは認めなかった.日齢27日,当科に1カ月健診の目的で受診した.

 現 症:身長55cm,体重4,468g,体温36.7℃,心拍数250/分,血圧87/46mmHg,SpO2 100%,全身状態良好,チアノーゼ(-),末梢冷感(-).顔色良好,眼瞼結膜に明らかな貧血所見は認めなかった.呼吸音正常,若干の陥没呼吸パターンと呼吸数 40~50/分と軽度の多呼吸を認めた.心音は著しい頻脈であり,拡張期ランブルは明らかでなかった.腹部は軟かつ平坦,肝臓は季肋下に1cm触知され,脾臓は触れなかった.

新薬情報(44)

塩酸バルデナフィル水和物(レビトラ®錠5mg,10mg) Vardenafil hydrochloride hydrate

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.1762 - P.1764

適応■勃起不全(満足な性行為を行うに十分な勃起とその維持ができない患者).

用法・用量■通常,成人には1日1回バルデナフィルとして10mgを,性行為の約1時間前に経口投与する.高齢者(65歳以上),中等度の肝障害のある患者については,本剤の血漿中濃度が上昇することが認められているので,5mgを開始用量とする.1日の投与は1回とし,投与間隔は24時間以上とする.

書評

肝の最新MRI

著者: 栗林幸夫

ページ範囲:P.1694 - P.1694

 このたび,谷本伸弘先生の編著による「肝の最新MRI」が上梓された.肝のMRI,特に肝特異性MRI造影剤の臨床と研究に心血を注ぎ,優れた成果を挙げてきた谷本先生の姿を知る私としては,大きな喜びである.

 谷本先生は,従来から腹部実質臓器の画像診断を専門領域として活躍してきたが,肝特異性MRI造影剤の研究に進むようになったのは,1990年にHarvard大学Massachusetts General Hospitalに留学し,彼の恩師となるDavid Stark博士の薫陶を受けたのが契機となっている.留学から戻ってからも,網内系細胞に貪食される超常磁性酸化鉄製剤(SPIO)に関する一連の基礎的,臨床的研究を続け,生体顕微鏡を用いてSPIOの空間的分布がMRIの信号強度,特にT2*緩和時間に影響を与えることを明らかにし,またKupffer細胞の組織内密度ばかりでなく,その機能がMRI上の信号強度に変化を及ぼすことを証明した.これら一連の研究は,種々の病態における網内系細胞の動態を明らかにするとともに,肝腫瘍性病変の画像診断と鑑別診断に大きく貢献したことから,国内外から高く評価された.慶應義塾大学においても,優れた研究業績に対して与えられる医学部三四会北島賞を2002年に受賞している.

消化管の病理学

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1732 - P.1732

 本書は従来の教科書の“常識の壁”をつき抜けた,まことにユニークな本である.わずか213ページの中に,口腔から肛門までの腫瘍性疾患と炎症性疾患の病理を網羅し,さらにその理解に必要な発生と正常組織に言及し,染色法と遺伝子診断に関係する技術のエッセンスまでが記述されている.これほどユニークで読者の立場に立った教科書は類をみないと言ってよい.病理学者の教科書は,概して記述が長く,しばしば自己主張が多いのが一般的であるが,本書はそれとは全く逆に,記述は短く簡潔で研究的データ,自己主張は一切なく,公認されている分類と必要最小限の写真が提示されているのみである.読者はまず本書の記述の思い切りのよさに感嘆するであろう.やろうと思えば,物事はここまで無駄をなくすことが可能なのである.しかし,症例を中心にまとめたと著者が述べているように,教科書としての十分な情報も満載されている.単著であるがゆえの,あれも書きたいこれも書きたいという誘惑をバッサリと断ち切って,ここまで簡略にまとめた著者の勇気と英断には,お見事と感服せざるをえない.

 著者の藤盛博士は今では高名な消化管病理の大家であるが,筆者は氏が現在のように主役を演じる以前から注目し,期待を込めて見守っていた.従来の病理医とはちょっと肌合いの違う言動に,戸惑いを感じる臨床家も少なくなかったと想像するが,分子生物学的手法を古典的病理学に積極的に取り入れる,という新しい方向をめざす姿勢には常に声援を送ってきた.氏の教室には学内外から常に多数の留学生が集まっていると聞くが,本書の出版に際して彼らの協力が大きかったことは同慶の至りである.比較的短期間にかかる大著(ページ数は少なくても内容は大著に匹敵する)が著せたのも,多方面からの資料提供を可能にした氏の日頃の情熱とリーダーシップのなせる業であると敬服している.

国立がんセンター大腸内視鏡診断アトラス

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1733 - P.1733

 誠にすばらしく貴重な本が出版されたものである.近年,大腸に関してはさまざまな名著が著されたが,早期大腸癌の各型をこれほど見事に,無駄なく,かつ詳細に提示してある成書は他に類をみない.

 通常内視鏡所見,拡大内視鏡所見と病理組織所見が,各症例10枚前後の美しい写真で見開き2頁にまとめられている.通常内視鏡観察時の診断の要点も記載されており,読者はまず,通常内視鏡所見から各病変の深達度を推定してみるとよい.次に,拡大内視鏡所見を加味して深達度診断を考える.著者らの提唱するinvasive patternとnon-invasive patternの違いがここでよく理解できるであろう.最後に,標本の組織所見と比較することによって,通常内視鏡診断と拡大内視鏡診断における自らの正診度を比較することができる.著者らの分析によれば,invasive patternを示す病変でsm癌は94.7%,non-invasive patternでは腺腫・m癌が98.4%であり,感度・特異度とも申し分がない.数ある分類の中でも,著者らの拡大内視鏡の臨床分類は最も実用的であり,今後,一般に広く利用されることであろう.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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