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雑誌目次

雑誌文献

medicina41巻11号

2004年11月発行

雑誌目次

今月の主題 慢性心不全を最近の知見から整理する―病態生理から治療まで Editorial

心不全とは? どのように診断し治療していくか?

著者: 川名正敏

ページ範囲:P.1774 - P.1778

ポイント

 さまざまな研究により,心不全の病態,重症度に関与する因子が明らかにされ,心不全の考え方が大きく変貌している.

 新しい診断・治療法が開発されつつあるが,心不全診療の基本は,患者の個別情報の収集とリスク評価,基礎治療薬の正しい導入と維持であり,EBM本来の姿勢を忘れてはならない.

心不全の疫学-本邦と欧米を比較して

著者: 前嶋康浩 ,   磯部光章

ページ範囲:P.1781 - P.1783

ポイント

 心不全の有病率は本邦においても年々増加している.

 心不全の病因となる疾患は,本邦と欧米とではその構成が異なる.

 慢性心不全による死亡率は,欧米と比べると本邦では比較的に低い.

心不全の病態を理解するための基礎知識

適応現象としての心肥大から心不全へ―何が変化するのか

著者: 倉林正彦

ページ範囲:P.1786 - P.1788

ポイント

 肥大心筋の低酸素やエネルギー枯渇が不全への進行に重要である。

 心臓線維化ではコラーゲンの量的変化だけでなく質的変化が起こる。

 心臓線維化にはアンジオテンシンII,アルドステロンおよびCTGFが重要である。

 カテコラミンは心筋毒性をもち両刀の剣である。

 心不全治療には心筋アポトーシスの分子機構の解明が重要である。

細胞内カルシウム・ハンドリングの変化

著者: 小田哲郎 ,   矢野雅文 ,   松﨑益德

ページ範囲:P.1790 - P.1793

ポイント

 心筋筋小胞体(SR)は,Ca2+動員機構の中心的役割を担う.

 SERCAはSR膜上に多数存在し,心筋リアノジン受容体(RyR)から放出されたCa2+を再びSRに汲み上げるCa2+ポンプの働きをしている.

 RyRは,SR膜上に存在するCa2+放出チャンネルである.

 RyRの調節蛋白であるFK506結合蛋白(FKBP12/FKBP12.6)はRyRに結合し,チャンネル開閉機能を安定化させる.

交感神経受容体からのシグナル伝達の変化

著者: 吉川勉

ページ範囲:P.1794 - P.1796

ポイント

 慢性心不全に陥った心筋では,交感神経β受容体シグナル伝達はさまざまな段階で障害されており,交感神経刺激に反応しにくい状態になっている.

 レニン・アンジオテンシン系は細胞内クロストークを介して,交感神経シグナリングと連携している.

 拡張型心筋症患者の約4割がβ1アドレナリン受容体に対する自己抗体を有する.

 βアドレナリン受容体の遺伝子多型は,心不全の病態,生命予後,薬物の反応と密に関係する.

 交感神経系,特にβ1アドレナリン受容体は心肥大やアポトーシス誘導に関与することが明らかとなってきた.

レニン-アンジオテンシン系に関する新知見

著者: 高野博之 ,   鄒雲増 ,   小室一成

ページ範囲:P.1797 - P.1799

ポイント

 心臓リモデリングの進展機序にレニン・アンジオテンシン系が関与している.

 アンジオテンシンIIが存在しなくてもメカニカルストレスだけで心筋細胞のアンジオテンシンII 1型受容体 (AT1) が活性化され,心肥大反応が惹起される.

 アンジオテンシンII 受容体拮抗薬にはAT1受容体の活性化を抑制する作用をもつタイプ(inverse agonist)が存在する.

アルドステロンに関する新知見―RA研究からRAA研究へ

著者: 吉村道博

ページ範囲:P.1800 - P.1802

ポイント

 アルドステロンは副腎から分泌され,腎臓の尿細管に作用するホルモンとしての概念であったが,徐々にその概念は変わりつつある.アルドステロンは副腎外,特に心血管系にても微量ながら合成され,それが組織の局所にて作用している.過剰になると血管炎などを引き起こし,心血管病につながる.

最近注目されている病態の特徴と臨床

拡張不全

著者: 山本一博 ,   真野敏昭 ,   増山理

ページ範囲:P.1804 - P.1806

ポイント

 拡張不全は,心不全症例の約40%を占め,高齢者,女性に多い.

 拡張不全の発症には,心筋細胞肥大と線維化の亢進が寄与している.

 拡張不全,あるいはそのリスクのある症例では脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide:BNP)が高値を示すことが多い.

 治療方針は確立していない.

慢性心不全に伴う睡眠時無呼吸症の治療

著者: 弓野大

ページ範囲:P.1808 - P.1813

ポイント

 慢性心不全患者には睡眠障害が高率に併存し,その存在は心不全の予後増悪因子の一つとなることが明らかとなっている.

 OSAの低酸素血症,高炭酸ガス血症,交感神経活性亢進,胸腔内陰圧の増悪という病態生理が心血管系に与える重要な因子である.

 CSAは心不全の単なる帰結となるだけでなく,心不全の病態自体をより増悪させる因子となる.

 HF-CSAの治療には,薬物治療,酸素療法,および陽圧呼吸療法(CPAP, BiPAP)などがあるが,患者の背景や病態など個々の症例により十分に検討を行うことが必要である.

高齢者の心不全

著者: 土持英嗣

ページ範囲:P.1814 - P.1816

ポイント

 高齢者心不全の診断と治療において,痴呆を含む精神機能障害や合併症の有無に注意する必要がある.

 CGA(comprehensive geriatric assessment)とは身体的,社会的に脆弱な高齢者を包括的に評価したうえで最適の治療環境を整え,高齢者医療を行おうとする動きである.心不全患者の再入院の抑制に効果があるとされる.

心筋炎後心不全

著者: 小玉誠

ページ範囲:P.1817 - P.1819

ポイント

 軽微な症状しかない心筋炎でも,致死的不整脈が出現することがある.

 発熱とともに心症状が出現してきたら,鑑別疾患の一つに心筋炎も疑う.

 心筋炎は自然治癒が期待できる疾患であり,急性期は積極的に管理する.

 慢性心筋炎には遷延性と不顕性がある.

 心筋炎の治癒後に心室リモデリングが進行すると,心筋炎後拡張型心筋症に進展する.

心不全の診断法

自覚症状と身体所見の重要性を再認識する

著者: 室生卓

ページ範囲:P.1820 - P.1823

ポイント

 慢性心不全は日常の些細なことが増悪の引き金となりうる.

 うっ血性心不全の問診上,夜間の呼吸困難や咳は重要である.

 肺うっ血を示唆する身体所見はⅢ音,頸静脈の怒張,肺野の湿性ラ音である.

 慢性心不全ではさまざまな代償機序が働いているため症状や所見がマスクされることがあり注意を要する.

胸部X線写真で診断する

著者: 小泉摩希子 ,   百瀬満

ページ範囲:P.1824 - P.1826

ポイント

 左心不全では肺うっ血・右心不全では上大静脈や奇静脈の拡張を認める.

 心拡大は心胸郭比50%以上(ポータブルX線では55%以上).

 肺うっ血は重症度によりX線所見が異なる.

心不全の原因疾患を明らかにする

著者: 井手友美 ,   筒井裕之

ページ範囲:P.1829 - P.1831

ポイント

 心不全の原因疾患として代表的なものは,虚血性,弁膜症,高血圧,心筋症,である.

 診断するための検査としては,心エコーが必要不可欠であり,疾患ごとのエコー上の特徴をよく把握することが重要である.その際に,収縮障害であるのか,拡張障害であるのか,病態の把握も必要である.

BNPをどのように利用するか

著者: 蔦本尚慶 ,   堀江稔

ページ範囲:P.1832 - P.1835

ポイント

 心不全の病態生理において神経体液因子が重要である,なかでもBNPは臨床的指標(診断,重症度,治療効果判定,予後推測因子)として非常に有用である.

 BNPは心不全診断(収縮機能低下,拡張機能低下)の生化学的指標として有用である可能性があるが,年齢,性別,腎機能なども考慮して判断する必要がある.

 BNPは,左室拡張末期圧と最も相関が強いが,ノルエピネフリン,エンドセリンなどの影響によりさらに上昇する.

 最近わが国でも可能になったBNP迅速測定系は,シオノリアBNP濃度と良好に相関し有用である.

心臓超音波の利用法とピットフォール

著者: 神崎秀明 ,   中谷敏

ページ範囲:P.1837 - P.1841

ポイント

 前壁や後壁に局所壁運動異常がある場合,左室径短縮率(FS)は左室全体の機能を反映していない.

 心エコー図Simpson法での計測は,カテーテルによる左室造影と比較して左室容積は低めに算出されるが,左室駆出率(EF)はおおむね同じである.

 僧帽弁流入波形の拡張早期波(E波)の減速時間(DcT)の短縮は,左室拡張末期圧(LVEDP)の上昇を反映している.

 中心静脈圧(右房圧)は下大静脈の径と呼吸性変動からある程度推定される.

予後を予測する検査所見のいろいろ―血液検査から核医学検査まで

著者: 安村良男

ページ範囲:P.1842 - P.1845

ポイント

 心不全の予後規定因子は,心不全の病態に深くかかわっている.

 心不全の病態は,神経体液性因子の亢進と左室リモデリングに要約される.

心不全治療に関する具体的対処法 〈治療・管理の基本〉

心不全の予防

著者: 半田俊之介

ページ範囲:P.1846 - P.1848

ポイント

 最善の心不全治療は事前の予防である.

 心不全は症候群である.さまざまな病因を早期に管理することが予防につながる.

 わが国でも最大の病因は虚血性心疾患であり増加する傾向にある.

 冠危険因子,特に高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙習慣が大きな問題である.

 冠危険因子の管理はなお不十分といわねばならない.

心不全患者の家庭管理

著者: 加藤祐子 ,   山根吉人 ,   清野精彦

ページ範囲:P.1849 - P.1853

ポイント

 心不全の増悪を繰り返す症例に対し,家庭管理の重要性を患者とその家族,医療者ともに再認識すべきである.

 一般的な事項とともに薬剤,身体的活動度,予防接種,旅行,食生活などに関し,具体的に指導することが重要である.

 基礎心疾患,腎機能などを含む全身状態を把握したうえで判断していくべきであろう.

入院治療をどのように考えるか

著者: 平光伸也 ,   宮城島賢二 ,   森本紳一郎

ページ範囲:P.1854 - P.1856

ポイント

 急性期より,心筋保護を意識した治療が大切である.

 慢性心不全では,心臓を動かすことよりも休ませることが大切である.

 急性期を乗り切るための治療と,遠隔期の予後を改善する治療は別である.

治療の目標

著者: 麻野井英次

ページ範囲:P.1858 - P.1861

ポイント

 無症候性心機能障害では心不全の発症を予防する.

 軽症心不全では心不全の増悪と突然死を防ぐ.

 重症心不全では自覚症状を軽減する.

〈薬の使い方〉

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の使い方

著者: 廣岡慶治 ,   是恒之宏

ページ範囲:P.1862 - P.1865

ポイント

 ACE阻害薬は慢性心不全治療の基本薬である.

 ACE阻害薬は忍容性があれば最大限投与量を増やすのがよい.

 長時間作用型ACE阻害薬でも1日2回投与するほうが好ましい.

 血圧が低めでも極少量より導入を試みる.

 腎機能低下例にはエナラプリルを血清クレアチニン値とカリウム値に注意し,極少量から用いる(肝・腎排泄型のテモカプリルを用いるのも一つの方法).

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の現状は?

著者: 百村伸一

ページ範囲:P.1866 - P.1870

ポイント

 アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)が副作用などで使用できない場合には第一選択薬となる.

 ACEIとの併用により,さらなる心血管イベント抑制が期待できる.

 拡張不全に対する心血管イベント抑制効果の可能性もある.

β遮断薬

著者: 青山直善

ページ範囲:P.1872 - P.1875

ポイント

 β遮断薬は慢性心不全症例の予後を少なくとも30%以上改善することが明らかになった.

 軽症から重症例まで,虚血性・非虚血性の区別なく慢性心不全症例に対するβ遮断薬の有効性はほぼ確立した.

 β遮断薬であればどれを使用しても慢性心不全に有効というわけではない.

 β遮断薬療法中の副作用の発現,予防,管理において,循環器専門医,家庭医,薬剤師の連携が大切である.

腎不全合併例での薬物療法のポイント,水分管理

著者: 中西啓太 ,   鈴木祥司 ,   飯田啓治

ページ範囲:P.1876 - P.1879

ポイント

 心機能,腎機能の評価を行い,病態に合わせたモニタリングを必要とする.

 腎不全を合併した心不全では潜在的溢水があり,治療域が狭く,容易に悪化しやすい.

 慢性期治療ではACE阻害薬は重要な薬剤であるが,腎機能が悪化したり,高カリウム血症を呈する例もあり,その導入には注意を要する.

 急性期治療は腎不全の非合併例に準ずるが,利尿薬やその他の薬剤の反応性が正常例と異なることが多く,用量の調整が必要である.

心不全を誘発する,悪化させうる薬剤とその注意点

著者: 川城直美 ,   川名正敏

ページ範囲:P.1880 - P.1882

ポイント

 日常診療で使用する薬剤のなかにも心臓に対する陰性変力作用をもつものがある.

 アドリアマイシン心筋症は用量依存性に心毒性を示すが,その作用は長期にわたり観察の必要がある.

 心毒性,心筋障害を早期に発見する必要がある.

〈病態に即した治療と管理〉

虚血性心不全

著者: 小川崇之 ,   望月正武

ページ範囲:P.1883 - P.1889

ポイント

 心筋梗塞後にみられる広範囲な心筋細胞の虚血壊死による左室拡大,非梗塞領域も含めた左室収縮力の低下を左室リモデリングという.

 重度あるいは慢性的な心筋虚血の残存によるスタンニング(気絶心筋),ハイバーネーション(冬眠心筋)も虚血性心不全の一因である.

 虚血性心不全の治療として左室リモデリングの抑制,心筋虚血・ハイバーネーションの解除は重要な治療戦略である.

 虚血性心不全において,ACE阻害薬・β遮断薬・アルドステロン拮抗薬はその有効性が確立されている.

 虚血性心疾患の再発予防も重要であり,今後,血行再建術・ARB・スタチンなど有望な治療の検討が期待される.

低心機能例の不整脈管理

著者: 板倉英俊 ,   杉薫

ページ範囲:P.1890 - P.1893

ポイント

 低心機能の患者では,

  ・心房細動の除細動には,電気的除細動が安全である.

  ・心房細動の脈拍コントロールには,ジギタリス,ジルチアゼムを使用する.

  ・心房細動に対して,発作性や慢性にかかわらず抗凝固療法を行う必要がある.

  ・心室頻拍にIc抗不整脈を使用しない.

  ・非持続型心室頻拍を認める例では,植え込み型除細動器の適応を評価する.

右心不全

著者: 赤石誠

ページ範囲:P.1894 - P.1897

ポイント

 右心不全とは,右心機能低下のために心拍出量が減少し,体静脈圧が増大した状態を指す.

 三尖弁逆流あるいは肺高血圧が存在しない右心不全という病態は稀である.

 右心不全は心筋の病気ではないので,原因となる肺高血圧,三尖弁逆流,心房中隔欠損などを治療することが最終的な治療法である.

心不全の運動療法

著者: 小池朗 ,   伊東春樹

ページ範囲:P.1900 - P.1902

ポイント

 心不全患者における適切な運動療法は,心不全を改善し生命予後にも好影響をもたらす.

 運動強度と運動時間は,個々の症例に応じて設定する必要がある.

 運動療法中は心不全の程度を適宜評価し,運動療法が無効と判断された場合は速やかに運動療法を中止すべきである.

抗血栓療法はどのような症例に行うか

著者: 後藤信哉

ページ範囲:P.1903 - P.1905

ポイント

 左室収縮機能障害を有する症例では,左室内の血流うっ滞に伴い左室内血栓が形成されやすい.

 左室内血栓形成,血栓塞栓症の予防にはワルファリンによる抗凝固療法が有効である.

 心不全を合併すると心房細動症例における血栓塞栓症の発症率が増加する.

 心不全症例では肺静脈血管内皮細胞への圧負荷刺激を介して全身の血栓性が亢進する.

ペースメーカ治療,左心補助,左室形成術,僧帽弁手術,心臓移植

著者: 後藤葉一

ページ範囲:P.1906 - P.1909

ポイント

 両室ペーシング療法は,心室内同期不全(主として左脚ブロックパターン)を有する心不全症例の血行動態,QOL,予後を改善する.

 植え込み型除細動器(ICD)は,重症心室性不整脈を有する低心機能患者の生存率を改善する.

 心不全に対する主な外科手術として,左室拡大症例に対するDor手術,僧帽弁逆流症例に対する僧帽弁リング形成術がある.

付録

心不全治療に関する臨床試験一覧

著者: 渡辺淳

ページ範囲:P.1910 - P.1915

循環器領域大規模治験の歴史は,心不全に対する治験の歴史であると言って過言ではない.本稿では心不全治療に関する臨床試験を一覧表の形でまとめる.すべてを網羅することはもとより不可能である.システマテックレビュー(SR)およびRCTで予後を評価項目とした臨床研究を対象とした.目的は臨床試験論文へのアクセスを容易にすることであり,詳細は読者自身が原著にあたっていただきたい.わが国で実行可能な治療を中心としたが一部未認可のものも含まれる.

解 説

 多くの臨床試験は主観的判断を排除するため,全死亡や心不全入院など客観的事実を評価項目(end points)としている.無作為化対照研究(RCT)において全死亡が有意に改善した場合,予後改善効果が証明されるが,死亡率のみが抑制されるわけではない.心筋能改善に伴うADL(activity of daily living)改善も期待できるが,これは数字としては表されてはいない.ある臨床試験からのエビデンスを実際に適応する場合,対象患者が被試験群と完全に合致する必要はないと考えられる.Sackettらは名著“Evidence-Based Medicine”38)の中で,症例の“同一性”よりも有用なエビデンスを適応できないほどの“異質性”が明らかでない限り適応可能であると主張している.

座談会

日本人の心不全を診る―海外のエビデンスをどのように適用するか<特に慢性心不全について>

著者: 山崎力 ,   三谷一裕 ,   横山広行 ,   川名正敏

ページ範囲:P.1916 - P.1928

川名 本日は,お集まりいただきありがとうございました.

 本号の特集テーマである「慢性心不全」については,エビデンスが矢継ぎ早に出て,ガイドラインも整備されてきました.そこで,海外のエビデンスをどのように解釈し,実際の医療現場で,個々の患者にどのように適応するかというテーマで話し合ってみたいと思います.

 私と山崎先生は,大学病院で働いておりますが,心不全の患者が多い基幹病院や実地医家の先生とどのように連携したらいいかという問題もありますので,地域の中核病院で活躍なさっている横山先生と,実地医科の先生として三谷先生にお越しいただきました.

理解のための32題

ページ範囲:P.1930 - P.1936

連載

目でみるトレーニング

著者: 井上篤 ,   中曽一裕 ,   香川礼香

ページ範囲:P.1937 - P.1943

問題 388

 症 例:50歳,女性.

 既往歴:特記すべきことなし.

 併存症:アルコール性肝硬変.

 家族歴:妹がBasedow病.

 現病歴:アルコール性肝硬変のため,当院の外来で通院加療していたが,2003年8月頃より微熱(36.8℃)と動悸を自覚し,8月19日当院内科を受診した.

 初診時現症:眼球結膜に黄疸,眼瞼結膜に貧血あり.頸部には横径5.5cmのびまん性,弾性硬の甲状腺腫が触れるが,圧痛はなし.心肺異常なし.腹部は平坦,軟で自発痛,圧痛なし.肝性脳症認めず.下肢に軽度の浮腫(pitting-edema)を認めた.その他,神経学的に異常所見なし.

演習・小児外来

〔Case9〕発熱,縦隔腫瘤を認めた8歳男児

著者: 康勝好

ページ範囲:P.1944 - P.1947

症 例:8歳男児.

 主 訴:発熱,咳嗽.

 家族歴・既往歴:特になし.

 現病歴:12月7日頃より,咳嗽,鼻汁,発熱が出現し,近医を受診した.上気道炎の診断にて抗生物質,鎮咳薬を処方され経過をみていたが,軽快傾向なく12月14日,近医を再診した.胸部X線にて縦隔腫瘤を認めたため,同日,当科外来を紹介受診した.

 現 症:38℃台の発熱を認め,全身倦怠感があった.湿性咳嗽を認めるが,呼吸困難はなく,経皮酸素飽和度も99%であった.眼瞼結膜は軽度貧血様で,両側頸部リンパ節腫脹を認めた.顔面浮腫はなかった.胸部は聴診上,心音純,肺音清で,理学所見に異常は認められなかった.腹部はやや膨隆しており,肝を6cm,脾を4cm触知した.体幹,両下肢に小出血斑が散在していた.

〔Case10〕下肢の発疹と腹痛を訴える8歳男児

著者: 関根孝司 ,   林泰佑

ページ範囲:P.1945 - P.1949

症 例:8歳男児.

 主 訴:発疹,腹痛.

 家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴:9月半ばに発熱があり,近医で扁桃炎といわれた.9月29日に下肢に発疹が出現.10月7日に腹痛が出現し,救急外来を受診した.

 現 症:意識清明,体温37℃,心拍数92回/分.口腔内:扁桃の軽度腫大あり.咽頭,扁桃の発赤なし.腹部:平坦,軟.腸雑音正常.臍周囲部に自発痛,圧痛がある.肝臓,脾臓は触知せず.腫瘤を触知せず.リンパ節:病的リンパ節を触知せず.皮膚:下肢を中心に径数mmのやや盛り上がった紫斑が散在(図1).関節:自発痛なし.腫脹なし.

書評

心房細動の治療と管理

著者: 杉本恒明

ページ範囲:P.1779 - P.1779

 心房細動は日常の診療で最もありふれて,また,頭を悩ますことの多い疾患である.本書によれば,60歳代で0.5%,80歳代で2.5%にみられるというが,これは健康人を含めての一般人のなかでの頻度である.悩むというのは,心房細動を診たときの検査の手順,細動発作の停止のさせ方,再発防止のための薬の選択,アブレーション治療の適応,主要な合併症である塞栓症の予防,さらにはQOLに対する洞調律維持と心拍数コントロールとの効果の違い,といった事柄である.本書はこうした疑問を6章にまとめ,47項目のQ&Aとこれに付随する解説という形で解答を与えている.

 印象に残ったことをいくつか書いておきたい.その1は心房細動発作の扱いである.発作後「24時間以内の場合は心拍数コントロールのみで自然に洞調律化する」ことが多い,とあってわが意を得た.β遮断薬を頓用してお休み願うというのが評者のポリシーであるが,その根拠は経験的なものでしかなかったからである.実は以前にはジギタリスを頓用させたのであるが,昨今,ジギタリスは有効というよりも無効あるいは悪化とされることが多い.最もここで紹介されているエビデンスはジギタリス使用例も含んでいる.

大動脈瘤・大動脈解離の臨床と病理

著者: 居石克夫

ページ範囲:P.1836 - P.1836

 「大動脈瘤」と「大動脈解離」は緊急を要する血管手術の代表的な疾患であるが,病型,病因により症状が多彩であり,しかも病変部破綻はしばしば致死的であることから,正確な早期診断と早期の適切な治療法選択がきわめて大切な疾患である.しかしながら,これら疾患の正診率と予後は現在もまだ十分ではなく,さらに慢性期の治療法の選択には多くの議論を残している.

 近年は,この分野の血管生物学や画像診断が急速に進歩し,大動脈瘤・大動脈解離の諸病型における病理・病態の詳細が明らかになり,内科的・外科的治療法選択の指針や急性・慢性期の看護方針が提唱され,これら疾患の医療が大きく変貌しつつある.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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