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雑誌目次

雑誌文献

medicina41巻12号

2004年11月発行

雑誌目次

特集 臨床医必携 単純X線写真の読み方・使い方 総論

はじめに

著者: 黒崎喜久

ページ範囲:P.6 - P.7

放射線関連の画像診断というと,単純X線写真,CT,MR,超音波,核医学検査,などいろいろなmodalityがある.それらのなかで単純撮影をどのように位置付けているかは医師の世代によって異なるようである.画像診断を専門とする放射線科医を考えてみても,単純X線写真に対する姿勢は2大別される.一つは単純X線写真の意義を熱く語るタイプである.このタイプは一般にCTが導入される前に卒後研修を受けている年配者である.単純X線写真の意義を強調するあまり若手放射線科医師に煙たがられることもある.もう一つのタイプはCT,MR,超音波でトレーニングを受けた世代であり,単純X線写真への関心は決して高いとはいえない.放射線科以外の診療科の若手の医師も後者のタイプに属する.

 特殊な医療機関を除けば,普段実施されている画像診断検査のなかで圧倒的に多いのは依然として単純X線写真である.このように日常臨床に定着している単純X線写真が正しく活用されているかというと,疑問もある.検査伝票を書けば,予約なしで直ちに施行される簡便かつ安価な検査であるので,「単純X線写真で何が見たいのか?」という明確な目的を確認せずに,習慣的に単純X線写真のオーダーが行われていないか? 撮影された単純X線写真を丹念に読影して,その所見を誰が見てもわかるように診療録に記録しているか? 単純X線写真の結果が次に行うべき画像検査の選択や治療方針の決定などに適切に反映されているか? 読者には是非これらの点を一度チェックしてほしい.

CR(computed radiography)画像―CR画像を活用するための基礎知識

著者: 堂領和彦

ページ範囲:P.8 - P.15

CR画像の原理・基礎

1. デジタルとアナログ

 従来,一般撮影領域における診断は,アナログフィルムが主流であった.近年,デジタル技術の進歩に伴い,CR(computed radiography)が主流となりつつある.そこで,まずアナログ画像およびデジタル画像の違いについて述べる.

 アナログ画像とは,図1(a)に示すように空間的に連続的なデータ(光の強さ)をいう.デジタル画像とは,図1(b)に示すように連続的なデータに区切り,区切られた範囲のデータ値を飛び飛びの数値列で表現することである.データを区切ることをサンプリングあるいは標本化といい,数値列で表現することを量子化という.デジタル画像を評価する際,できるだけオリジナルに近い画像に近づけるには,図1(a,b)の比較からも理解できるように空間をできるだけ細かく区切り(画素サイズを小さくする),データ値を細かくきざめばよいことになる.この区切り方でデジタルデータの空間分解能と濃度分解能が決定する.デジタル化レベルを粗くとりすぎると図2のようにモザイク画像となったり,等高線が出る画像となってしまう.しかし,むやみに細分化することは,データ量が多くなるだけで経済的,運用的に非効率となる.

頭部・頭頸部

頭蓋骨―MR・CT時代に知っておくべき単純X線撮影所見

著者: 小野由子 ,   西井規子 ,   阿部香代子

ページ範囲:P.18 - P.25

正常解剖と撮影のコツ

 頭部単純X線撮影は,一昔前まで頭部の画像診断のなかで,まず最初の検査としてさまざまな病態を知る手段であった.MR/CTが一般的な検査法となり,頭蓋内の病変が容易に捉えられるようになって頭部単純X線写真のもつ意味が大きく変わってきた.単純X線写真の利用は,一つは外傷での骨折の診断を別とすれば,少なくとも単純X線撮影で病変の有無を評価するのではなく,骨変化や石灰化などから病変の性質や疾患の鑑別に利用することである.もう一つの大事な点は,CTで有用な情報を得るためのスライス断面の決定に利用することである.MR/CTとも,とにかく撮像すれば何らかの重要な情報は得られるが,手術あるいは内科的治療のために,病変の部位・範囲・性質をすべて表し,必要な情報を一度に全部引き出すことが一番効果的,経済的な方法である.そのために,特にCTでのsingle sliceの場合の撮像面の決定は単純撮影であるscout viewから行うわけであるから,頭蓋から見た脳構造の位置的関係を十分に理解しておくことがスライス像を理解することになる.

 MR・CTに対しての頭部単純X線像は正面側面だけでなく,場合によってはStenvers, Schüllerその他,従来からの撮影法が有用あるいは必要なことがあるが,ここでは誌面の関係から側面(図1),正面(図2)を基本として,Towne, Waterなどとりつきやすい画像のみに限って画像を供覧する.

側頭骨―CT・MRI時代における単純X線写真の意義

著者: 小玉隆男

ページ範囲:P.26 - P.32

単純X線撮影の意義

 側頭骨の画像診断を扱った最近の代表的なテキストでは,単純X線写真はほとんど取り上げられておらず,CTやMRIを中心とした画像診断プロトコールが示されているものが多い1).非常に微小な構造の診断を要求されるこの領域において,単純X線撮影の意義が乏しくなったことを示していると思われる.ただ,一部の総説では,スクリーニング的な目的での単純X線撮影の必要性が触れられている.わが国においても,耳科的疾患の診断におけるfirst stepの一つとして,多くの施設で単純X線写真が撮られている現状もある.側頭骨の単純X線撮影がもつ意義は,施設によってある程度異なると思われる.CTやMRIのない病院や医院では,大きな異常を除外する目的で単純写真が撮像されていることが少なくないようである.一方,CTやMRIが可能な施設においても,少なからず単純X線写真が撮像されている.症状や理学的所見からCTやMRIによる評価が必要と考えられる,あるいはこれらの検査が予定されている患者に対して,とりあえず単純写真を撮っておくという考え方には,医療経済やX線被曝の観点から問題があると考えているが,単純X線写真の所見もふまえてCTやMRIの適否を決定するということもあるようだ.

 単純X線撮影や断層撮影がCT以上に有用な状況としては,人工内耳や人工中耳の術中・術後評価が挙げられる.実効スライス厚を薄くできるMDCTの普及によってかなり改善されたとはいえ,CTにおける金属アーチファクトは一つの問題である(後述).また,CTまでは必要としないが乳突蜂巣の発達・含気などを評価しておきたいという状況もある.子どもの急性・滲出性中耳炎の予後判定,鼓膜チューブ留置の期間,鼓膜穿孔のない伝音・混合難聴耳の中耳炎の関与推定,急性中耳炎に伴う合併症の可能性推定などが挙げられる.

副鼻腔―単純X線検査の適応と限界

著者: 川波哲 ,   青木隆敏 ,   興梠征典

ページ範囲:P.33 - P.41

単純X線撮影の意義

 CT/MRIの普及した近年,副鼻腔領域における単純X線検査の精査的役割は従来と比べて減じている.しかし,その長い歴史と簡便性のため,単純X線検査は診断の出発点として現在も日常的に施行され,まだまだ臨床家にとっても馴染みが深い.副鼻腔領域の単純X線検査では,X線束の方向や骨同士の重なりに伴って生じる死角を減じるために複数方向の撮影を組み合わせるが,より詳細な検討が必要なときには,さらに次の診断ステップのCT/MRIへ進むべきである.適応や限界を踏まえて単純X線検査を適切に利用し,CT/MRIと上手に使い分けることは,無駄な検査を減らし,被曝低減や経済的利点にもつながるものと思われる.

撮影のコツ

 副鼻腔の単純X線検査には数多くの撮影方法があるが,通常はWaters撮影とCaldwell撮影もしくは側面撮影を撮影し,場合によってその他の撮像(軸位撮影,Rhese撮影,眼窩撮影,Towne撮影など)を追加する.重要な所見の一つである鏡面形成(air-fluid level)を見逃さないために,副鼻腔の単純X線検査は立位または坐位で行うのが好ましい.

咽頭・喉頭―CT・MRIの時代での意義

著者: 中山圭子 ,   赤土みゆき ,   井上佑一

ページ範囲:P.42 - P.48

単純X線写真撮影の意義

 咽頭・喉頭領域では現在CTやMRIが中心で,一般に単純X線写真の役割はきわめて少なくなっているのが現状である.しかしながら,迅速な撮影が要求される救急領域や小児では単純X線写真が行われることが多い.アデノイドのサイズの評価,異物,クループや急性喉頭蓋炎,気管切開後のカニューレの位置の確認で単純X線撮影が使用されている.また,頸椎や頭部,胸部の単純X線写真で偶然,咽頭・喉頭の病変が発見されることも少なくない.これらの点から,咽頭・喉頭の単純X線写真の知識を習得しておくことは重要である.

撮影のコツ

 咽頭・喉頭領域は,内腔の空気と軟部組織のコントラストが明瞭になるように撮影または処理することが重要である.CRがなかった頃は低電圧で焦点を縮小させたり,前頸部にウェッジ用のフィルターをのせて軟部の厚さを均一にして撮影していた.頸椎の単純X線写真では通常,立位で撮影するが,咽頭・喉頭の単純X線写真では体動の影響を受けやすいので一般に臥位で撮影する.

胸部

胸部単純X線撮影―正常解剖と読影のコツ

著者: 三角茂樹 ,   庄司友和 ,   佐藤雅史

ページ範囲:P.50 - P.60

胸部単純X線撮影の意義

 胸部単純撮影ほど疾患のスクリーニング検査に優れている画像診断法はない.簡便かつ安価で,読影の処理能力にもずば抜けている.そのためわが国においては,医療施設で頻用されるのみならず,学生の定期健康診断にも胸部撮影が行われるほど普及している.胸部CTの出現により,その診断精度に関しての限界も囁かれてはいるものの,その簡便性において,当分の間は臨床の現場で見捨てられることはないであろう.また医療被曝の面からみても,他の放射線検査とは比較にならないほど微量であり,胸部単純写真の被曝線量は自然放射能による年間被曝量の数分の一とされている.この点からも,放射線画像検査の唯一の欠点である放射線被曝量は,胸部写真から得られる情報と比較すれば全く問題にならないといえる.空気という気体で満たされ十分に膨らんだ肺臓内に起きる多くの病変は,炎症であれ腫瘍であれ,正常肺との強いコントラスト差により,前処置なしに,容易に異常陰影として描出されてくる.そのため,空気(陰性造影剤)で満たされた肺臓は,カルシウムなど(陽性造影剤)で構成される骨組織とともに,単純撮影には理想的な臓器といえる.

 わが国で広く行われている胸部検診を考えればわかるように,胸部単純撮影は老若年者を問わず健康管理にはきわめて有用な検査法である.特に結核の蔓延していた時期に,わが国独自で開発した間接撮影装置による胸部検診が発達している.このロールフィルムを使用した撮影装置は移動可能の組立式装置や大型自動車にも設置可能なため,被検者を移動することなしに効率良く多数の撮影を短時間のうちに処理できる.そして胸部の間接写真は,直接撮影と比べてその診断能において決して劣るものではなく,特に処理能力において,ロール状に巻かれていたフィルムを観察装置で巻取りながらの読影は,短時間で読影処理が可能な点からも検診には大変に有用な診断モダリティである.

無気肺―肺葉性無気肺を中心に

著者: 芦澤和人 ,   上谷雅孝 ,   林邦昭

ページ範囲:P.62 - P.71

典型的な症例

58歳,男性,扁平上皮癌.

 正面像(a)で,左上肺野内側に肺野濃度の上昇がみられるが,その外側の境界は不鮮明でありfade outしたような印象を受ける(後述する右上葉無気肺のX線像とは異なることに注目).肺門部陰影や大動脈辺縁はやや不鮮明であり(シルエットサイン陽性),横隔膜の挙上もみられる.側面像(b)では,大葉間裂は前方に偏位し前胸壁に対して平行である(矢印).

 経験の少ない医師にとっては,正面像のみでは一見肺炎と誤診される可能性がある(実際,前医では肺炎の診断で治療されていたようである).側面像で,無気肺のX線所見のなかで最も重要な葉間裂の偏位を確認することで,左上葉無気肺と診断可能である.なお,正面像で無気肺部外側の境界が不鮮明なのは,偏位した葉間裂がX線束に対して斜方向に走行するためであることがCTで理解される(c,矢頭).

肺水腫―画像所見から読みとる肺の循環動態

著者: 酒井文和

ページ範囲:P.72 - P.78

典型的な症例

 慢性腎不全の増悪,呼吸困難,起座呼吸にて入院.立位胸部正面像では,心陰影の拡大(黒矢印)と上肺野の血管陰影の増強,右優位の肺門部近傍を中心とする浸潤影やすりガラス陰影(白矢印)がみられ,いわゆる蝶形分布を示している.このために肺門部の血管陰影の輪郭は不鮮明化している(hilar haze).また両側胸水による肋骨横隔膜角の鈍化(黒矢頭)と上下葉間の葉間胸水による陰影(白矢頭)がみられる.またいわゆるvascular pedicle width(両端矢印)は増大し,循環血液量の増加を示している.典型的なvolume overloadおよび心不全による心原性肺水腫の所見である.

 肺水腫の診療における画像診断の役割は,その検出,肺水腫の病因の鑑別,肺水腫の程度の評価,経過や治療効果の評価,他疾患との鑑別などである.このためには,患者の臨床症状をよく把握することは必須である.またICUなどでは,ポータブル撮影などの条件の悪い単純撮影のみでの診断を迫られることも多く,ポータブル撮影写真によく慣れる必要があるとともに,単純撮影の限界もわきまえなければならない.さらにその病因の診断にあたっては,循環動態を把握することは重要であり,画像所見からもその症例の循環動態を表す指標を読みとり,肺水腫発生の病態生理まで遡って画像所見を解釈することが必要になる.

胸水―的確に胸部写真から胸水貯留を診断するコツ

著者: 小林健

ページ範囲:P.80 - P.87

典型的な症例

 正面像で,右下肺野の肋骨横隔膜角(costophrenic angle)の鈍化を認め,外側は上方へ弓状に滑らかに先細りしていく.これは三日月兆候(meniscus appearance)と呼ばれ,典型的な胸水貯留を示す単純X線写真の所見として広く知られている.胸水貯留では肺との境界は明瞭で尾側は均一な濃度となり,本来横隔膜下に透見できる右下葉の血管が全く見ることができない.小葉間裂も平滑に肥厚し三日月兆候と連続している.小葉間裂にも胸水貯留が指摘可能である.右下肺野の透過性が低下している所見は,大葉間裂や背側に貯留した胸水を見ていると考えられる.

 胸水貯留はさまざまな原因で胸腔内に液体貯留をきたすものであるが,少量の場合には聴診や打診では発見できず,胸部単純X線写真は胸水の診断にきわめて有用である.また,胸水量の推定,治療などに伴う胸水の変化の観察にも簡便で有力な診断法となる.

 しかし,ある程度以上の量の胸水で典型的な画像所見をとる場合には判断に困ることはないと思われるが,非典型的な画像所見をとる場合や少量の胸水を診断する場合,多量の胸水と無気肺の鑑別には注意を要する.本稿では,以上の点を中心に胸水の単純X線写真について述べる.

気胸―見落とし・誤診を減らす撮影法と読影

著者: 小野修一

ページ範囲:P.88 - P.96

典型的な症例

症例1:27歳,男性.

初発症状:突然の呼吸困難,背部痛.

立位,吸気位の胸部単純X線写真を提示した(図1).気胸は,左側肺野末梢の空気濃度の陰影としてみられる.同部は,肺野血管影の欠如,透過性の亢進を呈し,やや縮んだ肺の濃度はわずかに高く,気胸との間に臓側胸膜で縁取られた円弧状の境界面を形成している.一般に元々低い空気濃度の肺とより低い空気濃度の気胸であるので,少量の気胸を濃度の差として捉えることは難しいことが多く,この円弧状陰影と肺野血管影の欠如が有力な情報を与える.本症例では,肺野縦隔側にも気胸があり,肺野と境界面を形成,中央陰影の外側にmedial stripe sign(90ページ,「知っておきたいサイン」参照)を形成している.


 気胸は,種々の原因により胸膜腔に空気が貯留した状態を指す.全く無症状のものから非常に重篤で予後不良の経過をたどるものまであり,急速に進行するものもあるため,初診時の画像診断,特に単純X線写真の役割は重要である.多量の気胸はまず見落とされることはないが,比較的少量の場合,時に診断が難しく見落とされることがある.本稿は,気胸の診断で,見落とし,誤診を減らすための撮影法と,その画像所見,診断・治療に必要な情報を得るための臨床的事項について概説する.

感染性肺炎―単純X線写真でどこまで診断に近づけるか

著者: 阿部克己 ,   小須田茂 ,   鎌田憲子 ,   酒井文和

ページ範囲:P.98 - P.109

典型的な症例

 胸部単純X線写真正面像で,心陰影に重なり左肺下葉に区域性に分布する境界不鮮明,内部不均一な浸潤影とその周囲に斑状影が認められる(矢印).浸潤影は斑状影が融合したものと想像される.この症例は,ブドウ球菌による市中感染性の気管支肺炎であるが,咳嗽,発熱,血液検査から呼吸器感染症が示唆され,これに単純X線写真での病変の分布が区域性であること,小葉大の斑状影とそれらが融合したと考えられる内部不均一な浸潤影から気管支肺炎と診断できるが,このパターンを示す他の起因微生物の鑑別は画像所見のみでは困難である.この症例は,たまたまCTが行われているが,この症例も含め一般に市中肺炎ではCTの胸部単純写真に付加する情報はない.


 胸部単純X線写真は,症状や検査所見とともに肺炎の有無の診断に用いられる.肺の感染症の起因微生物は細菌,ウイルス,結核,真菌,リケッチア,クラミジア,原虫などがあり,これらの感染の強さや宿主の免疫状態,治療内容により同じ微生物による感染でも異なった病態をとる.一般にこれらの起因微生物の同定は,症状や検査所見および単純X線写真からは困難で,治療は細菌学的あるいは免疫学的検査による起因微生物の同定に基づいた抗菌薬の選択が最善であるが,実際には困難なことも多く,起因微生物不明のまま経験的に行われること(エンピリック治療)も多い.日本呼吸器学会の肺炎診療のガイドライン(以下,ガイドライン)1)では,肺炎を症状や検査所見および単純X線写真により重症度別に分類し,それぞれの起因微生物をカバーする抗菌薬を選択するとしている.しかし,臨床の場では抗菌薬の有効な選択のために,画像から考えられる起因微生物が求められることもある.

結核・非結核性抗酸菌症―知っておくべき画像のポイント

著者: 高橋雅士 ,   新田哲久 ,   村田喜代史

ページ範囲:P.110 - P.116

典型的な症例

 右上肺野外側に,浸潤影,すりガラス陰影を認める.陰影の内部には高濃度の粒状陰影が散在する(長い矢印).また空洞性変化を疑わせる透亮像(短い矢印)を包含する.肺門に連続する線状陰影を認め(矢頭),気管支壁の肥厚が疑われる.陰影は,通常の肺炎像に比較すると,陰影の強弱が多彩であり,また基本的にコントラストの高い“かたい”陰影である.これらのコントラストの高い陰影は,乾酪壊死物質の腔内貯留という二次結核の基本的病理像に一致する典型的な胸部単純X線写真像である.肺胞腔,肺胞管,細気管支を高吸収の乾酪壊死物質が充満し,周囲肺野とは比較的,境界が鮮明な高濃度の陰影を形成する.拡がりは,肺胞管レベルから小葉レベルまで多彩であり,これらが混在して,病変の陰影の強弱が多彩となる.空洞や気管支壁肥厚も結核を強く疑わせる所見である.

 CT(b)では,小葉内で分岐する高コントラストの微細な分岐線状陰影(白矢印),粒状陰影(矢印),空洞性病変,など,多彩な病変を認める.


 1997年,日本の結核の新登録患者は42,715人と38年ぶりに上昇に転じ,罹患率も10万対33.9と43年ぶりに上昇を示したことを受けて,厚生労働省が結核の非常事態宣言を出したことは記憶に新しい.その後数年は,これらの値は再び下降傾向にあるが,日本の結核罹患率(2002年)は,いまだに対10万人あたり25.8人であり,これは他の欧米先進国の4.5~10.1人と比べると,明らかに多い数値である.また,塗抹陽性患者の全結核患者における割合は,45.1%ときわめて高い割合を示している事実に対しても,われわれは認識を新たにする必要がある.一方,人口の高齢化,疾病構造の変化による潜在的な免疫不全患者の増加,外国人流入者の増加などの社会的要因が加わり,結核症は日常診療において必ず鑑別診断に含まれる感染症の一つになっている.結核の診断は画像診断でなされるものではなく,患者の自他覚所見やその他の種々の臨床所見を総合して初めて,その疑いが浮上するものである.しかし,結核を主治医が疑うようになる契機として,結核のいくつかの特徴的な画像を知っておくことは重要であり,さらに胸部画像診断の出発点でもある胸部単純X線写真におけるそれらの特徴を知っておくことは有益である.非結核性抗酸菌は,抗酸菌症の全体のなかでの施設別の割合では,結核療養所よりも一般病院で菌が分離される比率が高いことが知られており,一般病院でより問題となりうる抗酸菌症である.結核症例の画像との類似点,相違点を簡単に述べる.

肺結節と間違えやすい正常構造や病変―偽病変を作らないために

著者: 古村慎二 ,   黒崎喜久

ページ範囲:P.118 - P.123

典型的な症例

 正面像で,円形の結節(図a矢印)が右鎖骨のすぐ足側に見える.これに相当する陰影は側面像で肺内にはない.正面像を見直すと,この陰影は右側の第1肋骨と肋軟骨の結合部に重なって下方に突出している.側面像では,前胸壁から肺に向かって突出する半球状の陰影(図b矢印)がある.

 この陰影の本体は第1肋軟骨の骨化である.第1肋骨との結合部の肋軟骨の骨化が強いと,この症例のように肺結節と紛らわしいことがある.第1肋軟骨との位置関係に気付けば,診断は正面像のみで容易である.ただし,右上葉の結節が正面像でこの部位にほぼ重なることもあるので,疑問が残る場合には側面像を追加して両者の鑑別を行うべきである.


 肺癌の死亡者数は増加の一途をたどり,1998年には男女合わせた全体で癌死の第1位となった.撮影目的の如何を問わず,胸部単純X線写真の読影では肺癌を疑う陰影がないかどうか注意深い読影が要求される.各診療科の医師が胸部単純X線写真で肺結節を疑って胸部CT検査を依頼する症例のなかには,胸部単純X線写真のみで肺腫瘍以外のものであると診断できるものもある.不必要な放射線被曝を避ける観点からも,胸部単純X線写真で肺結節と間違えやすい病変や正常構造を理解しておくことは重要である.

肺癌―肺癌にみられやすい単純X線所見について

著者: 立石宇貴秀 ,   楠本昌彦 ,   荒井保明

ページ範囲:P.124 - P.130

典型的な症例

症例:77歳女性,検診で胸部異常陰影を指摘された.

所見:単純X線の正面像(図1a)で右中肺野にスピクラを伴う辺縁不明瞭な結節陰影を認める.肺門部,縦隔にリンパ節腫脹はみられない.また,胸水は認められない.

解説:典型的な高分化肺腺癌の所見である.スピクラ(図1b:拡大像,図1c:CT像)は棘状の辺縁を特徴づける所見で,肺実質内への浸潤か随伴する線維化を示す.結節陰影の辺縁は不整,分葉状,不明瞭,棘状などと表現される.これらの所見は確定診断の根拠になるほど信頼性はないが,悪性を示唆する所見となりうる.右上葉切除が施行され,中心に虚脱性線維性瘢痕を有する肺胞置換性増殖を示す高分化肺腺癌で,気管支を巻き込んでいた.


 肺癌における単純X線の読影は,多彩な陰影パターンの定義と非特異的所見により複雑な作業といえる.本稿では肺癌にみられる頻度の高い代表的な単純X線パターンについて,病理学的背景を踏まえいっそうわかりやすく呈示することに努めた.

良性肺腫瘍と腫瘍類似疾患―各良性疾患の特徴

著者: 藤本公則

ページ範囲:P.132 - P.142

典型的な症例

 症例は30歳,女性.検診時の胸部単純X線写真正面像で,右下肺野の上部に約3cm大の円形不透過影(腫瘤影)を認めた(図a矢印).腫瘤影の辺縁は平滑,周囲肺野との境界は明瞭で,血管影の集束や連続性は認めない.内部のX線透過性は,中心部より辺縁寄りがやや良好で,明らかな石灰化影は指摘できない.CTでは,中葉に辺縁平滑,境界明瞭な腫瘤影がみられる.内部のX線吸収値は不均等で,高吸収値を示す微細石灰化が介在し,辺縁部には脂肪を示唆する低吸収域(図b矢印)も混在している.以上より,過誤腫と思われたが,増大傾向にあったため腫瘤摘出術を施行し,chondromatous hamartomaの病理診断を得た.

 比較的若い成人女性にみられた増大傾向を有する,辺縁平滑,境界明瞭な円形陰影で,単純X線写真からは過誤腫,硬化性血管腫のような良性結節が考えられた.この症例のように臨床的事項や単純X線写真で,悪性より良性腫瘍を考えさせる所見(後述:「読影のポイント」参照)があるが,各所見は悪性腫瘍でもみられることがあるため,これらを組み合わせて鑑別の一助とせねばならない.また,悪性腫瘍のみならず,各良性疾患の特徴を知っておく必要がある.


 良性肺腫瘍の肺腫瘍全体に占める割合は2~7%とされるが,この頻度の差は,その定義の違いによると思われる.また,腫瘍類似疾患となると,定義は曖昧で,多彩な病態,病変が含まれることにもなる.そこで,本稿では,国際保健機関(WHO)による肺・胸膜腫瘍の組織分類に基づいて,肺良性腫瘍および腫瘍類似疾患を抜粋して記載した(表1).各疾患とも稀であるため,このなかから比較的遭遇する可能性の高い疾患,結節影ないし腫瘤影を形成する疾患および特徴的な画像を呈する疾患を選び,胸部単純X線写真,X線CT像を主体に呈示し解説する.

縦隔腫瘍―単純X線写真で絞る鑑別診断

著者: 高橋直幹 ,   藪内英剛 ,   本田浩

ページ範囲:P.144 - P.149

典型的な症例

 胸部単純X線写真正面像(a)で肺門部のレベルで,心陰影左側に接した腫瘤影を認める(黒矢印).境界は明瞭で,心陰影と上下端でなだらかに連続している.また,下行大動脈とのシルエット・サインは陰性で,傍脊椎線との連続性もないので,前縦隔由来の腫瘤と考えられる.また,左中肺野には内側は境界明瞭で,外側が境界不明瞭な腫瘤影がみられる(白矢印).また,左横隔膜は波状になっており(矢頭),いずれも胸膜腫瘤も疑われる.

 側面像(b)で前縦隔に濃度上昇がみられ,腫瘤が前縦隔に位置することが確認できる.また,横隔膜は正面像同様波状になっている(矢頭).

 胸膜播種を伴った前縦隔腫瘤の所見であり,胸腺腫や胸腺癌が第一に考えられる.鑑別としては悪性胚細胞腫や肺癌なども挙げられる.

びまん性肺疾患―パターン分類によるアプローチ

著者: 審良正則

ページ範囲:P.150 - P.157

典型的な症例

症例1:特発性間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP).69歳男性.1年前より労作時息切れ,乾性咳が出現し,徐々に増強してきた.胸部単純X線像では全肺野にわたって粗い網目状陰影が広がっているが,分布は下肺末梢優位である.肺門陰影と縦隔陰影の輪郭はきわめて不鮮明で,肋骨横隔膜角の輪郭も不鮮明である.下肺野では直径3~5mmで,壁の厚さ1~2mmの輪状影が入り混じって蜂の巣のような陰影を呈している.いわゆる蜂窩状陰影である.下肺の容積は減少し,上肺野ではブラもみられる.胸部CTでは蜂窩肺が明瞭で牽引性気管支拡張像もみられる. 症例2:BOOP(bronchiolitis obliterans organizing pneumonia).66歳女性.2カ月前より微熱が出現し,胸部単純X線上異常影が認められた.各種抗生物質使用にても改善せず,陰影に移動性が認められた.胸部単純X線像では両側肺野末梢性に均等な浸潤影が認められる.陰影内に空洞や気管支透亮像は認められない.胸水やリンパ節腫大もみられない.胸部CTでは胸膜下に非区域性の浸潤影とすりガラス様陰影が認められる.両側性,肺末梢性,移動性の肺胞性陰影で,臨床所見とあわせると好酸球性肺炎とBOOPが最も考えられる.両者は画像上鑑別困難である.Churg-Strauss syndromeも画像所見は一致しているが,末梢血好酸球増多と喘息症状はみられなかった.X線像からは肺胞上皮癌やリンパ腫も考えられるが,臨床経過(移動性陰影)からは否定的である.肺炎や肺結核,肺梗塞,肺胞出血,Wegener肉芽腫症なども鑑別に挙げられるが,臨床所見と陰影の移動性から考えにくい.肺吸虫症でも末梢性の移動性浸潤影がみられることがある.


 びまん性肺疾患の画像診断にHRCTは非常に有用であるが,その画像診断の第一歩は胸部単純X線写真である.びまん性肺疾患の胸部単純X線写真の読影には,いわゆる肺胞性パターンと間質性パターンの2つの基本的パターンに分けて読影することが有用である.これらのパターンに病変分布のパターンと急性か慢性かの経過を加えることによって鑑別診断を絞ることができる.

塵肺―珪肺とアスベスト肺

著者: 荒川浩明

ページ範囲:P.158 - P.168

典型的な症例

【症例1】 64歳男性.25年間,削岩夫をしていた.患者はすでに退職している.

 胸部単純X線写真(図1)では,両側肺野に多数の粒状影を認める.粒は上肺野に多く,癒合傾向を示している.比較的均一な大きさと考えられる.特に密度の高い部分では,大きな塊状巣を形成しているのがわかる(矢印).これが塵肺の大陰影,英語圏では,progressive massive fibrosis(PMF)と呼ばれるもので,塵肺の線維化巣である.もう一つ,両側肺門が腫大しており,いわゆるBHL (bilateral hilar lymphadenopathy)といわれる所見を呈している.

【症例2】 66歳男性.解体業に従事していた.患者はすでに退職しており,特に症状もない.

 胸部単純X線写真(図2a)では一見問題ないように見える.しかし,両側の側胸部,肩甲骨が重なるあたりなどに肋骨陰影の内側に線状の陰影が認められる(矢印).さらに,肺野の陰影が所々増強しているように感じられる.こうした一連の所見は胸膜の肥厚があることを意味する.

 CT写真の縦隔条件(図2b)では,両側の胸膜に沿ってうっすらと肥厚が認められる(矢印).一部で石灰化が認められるので,単純X線写真よりわかりやすい.

 これは胸膜プラークの所見であり,両側性であること,職業上アスベスト曝露の可能性のある職業に従事していたことなどから,アスベストプラークと考えられる.

 もし,片側にしかこうした所見がなければ結核性胸膜炎の跡などが考えられる.


 塵肺の診断は,①しかるべき粉塵曝露歴,②胸部単純X線写真での塵肺陰影の存在,の二点が必須項目である.病理学的な塵肺所見の有無は問われない.したがって,塵肺の診断には胸部単純X線写真が不可欠である.

胸部外傷―胸部外傷患者の単純撮影をどう読影するか~ピットフォールを含めて

著者: 水沼仁孝 ,   加藤弘毅 ,   利安隆史

ページ範囲:P.170 - P.177

典型的な症例

 症例は65歳男性,2004/04/20 11:30受傷の交通外傷.

 12:34撮影の胸部単純X線写真では,左肺野のX線透過性の低下を認めるが左肺の虚脱はない.よくみると,左第4肋骨以下の肋骨外側に多発骨折を認める.左肺野のX線透過性は,この多発肋骨骨折による血胸であることがわかる.

 胸部外傷で最も多いのが肋骨骨折である.これは骨折時に肺や肋間動静脈を損傷して気胸や血気胸を起こしやすく,また,肺挫傷や肺裂傷,時に心損傷や肝損傷も引き起こす.一つの肋骨が2カ所以上折れ,それが多発する場合には奇異呼吸をきたす,いわゆるflail chestとなり,急速に状態は悪化する.初療時に肋骨骨折のみと考えて,その後の観察を怠り,急激な血胸の進展や気胸の増大を見過ごすこともあり,頻回な観察が必要である.

 本稿では肋骨骨折を中心に血気胸,肺損傷,大動脈損傷,横隔膜損傷などについて述べる.

ポータブル胸部単純X線写真の読影法―いかに正確な情報を抽出するか

著者: 栗原泰之

ページ範囲:P.178 - P.186

典型的な症例

 ポータブル撮影装置による胸部単純X線写真(以下,ポータブル写真)には,さまざまなカテーテルやチューブが描出されていることが多い.これらのカテーテルやチューブは適切に挿入されていないと,機能しないだけではなく予想もしない合併症を招くこととなる.

 写真の心臓手術後の患者には,Swan-Ganzカテーテル,気管内挿管チューブ,左胸腔内チューブ,そして経鼻胃管が挿入されているが,経鼻胃管は食道ではなく気管内挿管チューブと同じ気管を通って,その先端は右下葉気管支末梢に位置している(矢印).このままでは経鼻胃管として機能しないのはもちろん,無気肺,肺炎あるいは気胸などの重大な合併症を招きかねないので直ちに抜去する必要がある.


 本邦ではあまり聞き慣れない言葉であるが,集中治療室や救急救命センターの患者に対して施行されるモニタリングのためのX線写真のことをintensive care radiologyとかintensive care imagingとかcritical care radiologyと呼び,広範囲をカバーする画像診断である.そのなかで最も多いのが,ポータブル胸部X線写真(以下,ポータブル写真)である.

 ポータブル写真は種々の制約があるものの,呼吸状態のみならず全身の水分量の評価もでき,きわめて情報量の豊富なモニタリングデバイスである.系統的で客観的なポータブル写真読影法と臨床情報の付き合わせから,かなり正確な病態把握が可能であると筆者は考えている.またカテーテルやチューブの不適切な挿入による医原性合併症を未然に防ぐことも可能であり,security controlのうえでもその重要性が増している.

 こうしたintensive care imagingが,実は中規模,大規模病院のX線診断のうち大きな割合を占めている.当院でもポータブル写真は,胸部単純X線写真の15%前後に達しており,全単純X線写真のうち10%に上っている.大量のポータブル写真から迅速に的確な画像情報を抽出する必要があるのだが,ポータブル写真という特異な写真であること,有所見率がきわめて高いこと,読影の担い手がきわめて多忙である集中治療室の主治医に任せられていることなどのため,多くの施設において個々のポータブル写真から正確な情報が十分抽出はされていないのが実情であろう.

 本稿では,ポータブル写真の読影に少しでも役立つように,実際の画像を中心に論を進めたい.

心大血管疾患―単純X線撮影でここまで読める

著者: 佐久間亨 ,   原田潤太

ページ範囲:P.188 - P.193

典型的な症例

 正面像(a)で心血管陰影の右縁上部は上行大動脈の狭窄後拡張のため突出している(矢印).左室の拡大がないため心左縁下部の張り出しはない.

 側面像では,心陰影の中央にリング状の石灰化を認める(矢印).この石灰化は大動脈弁の石灰化を示している.石灰化が著しいほど弁狭窄の程度が高いとされており大動脈弁狭窄を示唆する.狭窄に伴う圧負荷がかかるため求心性の左室肥大をきたすが,大動脈閉鎖不全と異なり,容量負荷がかからないため左室の拡張をきたさない.


 CT,MRI,超音波など各種の非侵襲的検査法の発達はめざましいものがあり,心疾患の画像診断法としても大きな役割を占めている.しかし胸部X線撮影はより簡便で,かつ肺血管,心大血管の形状,心房・心室などに関しての情報が得られ,いまだその重要性に変化はない.本稿では胸部単純X線撮影で知ることのできる心大血管系の異常に関して,代表的疾患の画像を紹介し,注目すべき点を挙げて解説する.

乳腺疾患―マンモグラフィでここまで読める

著者: 遠藤登喜子

ページ範囲:P.194 - P.202

典型的な症例

【症例1】 脂肪性乳房の右乳房外上部に,楕円形の腫瘤が認められ,さまざまな長さと太さを示すスピキュラを伴っている.腫瘤の境界および辺縁を観察すると,スピキュラとスピキュラの間には微細鋸歯状の毛羽立ちが,腫瘤から皮膚までには幅のある淡い陰影増強が,皮膚には肥厚と引きつれが認められる.線維成分の豊富な,周囲組織に浸潤する典型的浸潤性乳癌の像である.

【症例2】 右乳房上部に陰影の増強と,糸ミミズのような石灰化が多数認められる.中には線状のみならず,分枝した石灰化も混在し,その幅も長さもさまざまである.また,周辺には,無数の非常に細かい不整形石灰化も認められる.乳管内癌の増殖・壊死による石灰化と判断できる.


 乳腺疾患の診断における単純X線撮影(マンモグラフィ)の役割は大きい.診療においてのみならずスクリーニングにおいても,2004年4月からは乳がん検診での中心的役割を担うものとして位置付けられている1)

腹部

腹部単純X線撮影―これだけは知っておきたい腹部単純X線正常像

著者: 稲岡努 ,   山田有則 ,   油野民雄

ページ範囲:P.204 - P.208

腹部単純X線撮影の意義

 診断機器の発達,普及により腹部領域の診断において超音波,CT,MRI,核医学などの検査が容易に実施できるようになった.しかし,単純X線写真は急性期,慢性期の疾患を問わず腹部領域の診断において依然として重要な位置を占めている.単純X線写真は腹部全体を把握するのに適し,それのみで診断が可能なこともあるが,次に続く超音波,CT,MRI,核医学などの検査への道標として重要な役割を果たしている.また,CT,MRIを読影する際にも多くの情報を提供し,見返して初めて異常所見に気付かされることも少なくない.単純X線写真は,空気,脂肪,水,金属濃度から成り立つ画像であり,すべての異常を観察することは不可能であるが,そのコントラストの成因,正常X線解剖を学習し,常に意識しながら読影することにより多くの異常所見が拾えるようになる.

撮影のポイント

 腹部単純X線写真において最も基本的な撮影体位は背臥位前後方向撮影である.背臥位では腹厚が平均化し,腹部全体のコントラストが良好となる.また,腹部の臓器や腫瘤が後腹膜腔の脂肪を圧排し,辺縁をより良好に描出する.立位前後方向撮影を同時に撮影した場合には体位による所見の変化,移動を知ることができる.

腸閉塞―部位と原因,血行障害の有無を見きわめる

著者: 坂本力

ページ範囲:P.210 - P.219

典型的な症例

機械性腸閉塞には腸管の血行障害を伴わない腸閉塞(単純性腸閉塞)と血行障害を伴う腸閉塞(絞扼性腸閉塞)がある.図1は血行障害を伴わない腸閉塞である.立位(a)は拡張腸管(空腸)の鏡面形成(air-fluid level),背臥位(b)は腸管ループがhair pin appearanceを示す.図2の背臥位の腹単は血行障害を伴う腸閉塞で,頻回の嘔吐のためガスが少なく,骨盤腔は均一軟部組織濃度(骨盤腔暗影)を示す〔この所見は造影CT(b)では腸液で満たされた小腸,腸壁は造影されない.扇状に広がる腸間膜の浮腫,間膜根部は捻転している〕.

 腹部単純X線写真は簡便,無侵襲,安価で腹部全体が網羅でき,急性腹症には欠くことができない.特にガス像の異常を示す腸閉塞は最も診断が容易であるが,閉塞部位と閉塞の原因を診断することは困難なことが多い.特に閉塞腸管が血行障害を伴うか否かは予後に影響し,必ず診断しなければならない.血行障害を伴う腸閉塞は腹部単純X線写真で次の所見があれば推測できる.①多量の腹水の出現,②腸液で満たされ拡張腸管が偽腫瘍(pseudotumor sign)としてみえたり,あるいは骨盤腔を占拠した所見(骨盤腔暗影),③壁肥厚を示す腸管とその腸管が体位で形を変えない(腸管ループの固定).閉塞の原因を知るためにCT検査は欠かせない.

腹膜腔遊離ガス(free air)―腹膜腔遊離ガスを見落とさないために

著者: 鬼塚英雄 ,   山口健

ページ範囲:P.220 - P.227

典型的な症例

 腹部膨満の新生児の背臥位腹部単純写真である.一般に小児においては胸部に対し腹部の割合が成人のそれより大きいが,本症例の割合は異常と思われる.また腹部全体には楕円形の透亮像が広がっており,周辺では腹壁の軟部組織と明瞭に境されているのがわかる(矢印).これは大量の空気が腹腔内に充満しているためである.肝外側に入り込んだ遊離ガスによって肝辺縁が写し出されている(白矢頭).さらに肝表面の空気により肝と前腹壁の間にある肝鎌状間膜が,右上腹部から下腹部正中に向かって走る細い線状の陰影として描出されている(黒矢頭).この大きな楕円形の透亮像とその中を走る索状の陰影がラグビーのボールに似ていることからfootball signといわれる.大量の遊離ガスが腹腔内に充満している所見であり,特に新生児の消化管穿孔(胃穿孔が多い)によく認められる.

 腹腔内遊離ガスは開腹術後など特殊な場合を除き,消化管穿孔の重要なX線所見であり,急性腹症の際に撮影された腹部単純写真では,遊離ガスの有無が重要なキーとなることが多い.ここでは遊離ガスの検出に必要な撮影法,X線所見ならびにいくつかの鑑別診断について述べる.

腹部異常ガス―その原因と読影のポイント

著者: 後閑武彦 ,   信澤宏 ,   宗近宏次

ページ範囲:P.228 - P.233

典型的な症例

 立位腹部単純X線写真で,右上腹部に空気-液面形成を伴った異常ガス像がみられる(矢印).このガス像に連続し,線状のガス像が連続している(矢頭).部位から考えて,このガス像の由来は胆囊,腸管,右腎などの可能性があるが,矢頭は胆囊の輪郭(胆囊壁内ガス),矢印は胆囊内腔のガスと考えると胆囊の形態と一致し,気腫性胆囊炎と診断される.

 気腫性胆囊炎は胆囊腔,胆囊壁,胆囊周囲にガスが認められる急性胆囊炎の特殊型である.一般の胆囊炎と異なり,男性に多い.無胆石例も多く,糖尿病に合併することが多い.穿孔率が通常の急性胆囊炎の5倍あり,死亡率も高いので,早期の治療が必要である.腹部X線所見の特徴は胆囊壁内ガスであるが,その判定が困難なときにはCTが役立つ1)


 本稿では腹部単純X線写真でみられる腸管外ガス像のうち,腹膜腔遊離ガスを除いた異常ガス像について解説を行う.この異常ガス像は,腹部単純X線写真で特徴的な所見を示すものもあり,早期発見の手がかりとなることも少なくない.また,早急な治療を有する病態が関係することが多く,早期発見の臨床的意義は高い.

腹部石灰化をどう読むか―多様な所見を理解する

著者: 西井規子 ,   桑鶴良平 ,   三橋紀夫

ページ範囲:P.234 - P.241

典型的な症例

 腹部単純X線写真で石灰化を認めたとき,その局在や形状から成因を推測できるが,臓器の重なりのため単純写真だけで診断を確定することは困難なことも多い.

 症例は64歳,男性.胃泡に重なるように帯状に分布する小石灰化の集簇を認める. 両側の腎門部,左腎陰影のやや内側下方,小骨盤内にも多数の石灰化を認める.そのほか,下腹部に散在する結節状の高濃度領域も認められる.

 これらはCT上,膵石(①),両側腎結石(②,④),左尿管結石(③),右尿管膀胱移行部結石(⑤)および腸管憩室や虫垂内に残存したバリウム(矢頭)であった.石灰化に比べてバリウムのX線透過性は低く,石灰化よりも高濃度で認められることが多い.


 現在の画像診断は主にCTやMRIを中心として行われており,単純X線写真はそれらの前にスクリーニングとして撮影されることが多い.単純X線写真の利点として,胸部や腹部の全体像を一枚の写真で見ることができ,異常があればその概略を把握しやすい,ということがある.ここで述べる石灰化は単純X線写真で高濃度に描出され,検出感度は比較的高い.CTと単純X線写真では空間分解能が異なるが,X線で描出される石灰化病変はほぼ組織像に一致する.また,形状や分布の把握はCTよりも単純X線写真のほうが容易なことがある.腹部の石灰化には,単純写真のみでは成因や病態がよくわからないもの,臨床的にあまり意義をもたないと判断できるものから,疾患そのものや疾患の重症度を示唆するものまで含まれる.これらの多様な所見の理解は,病態の把握や次の検査法を選択するうえで有用である.

骨格系

軀幹骨格(脊椎,骨盤,股関節,肩関節)の単純X線写真―正常解剖と読影のコツ

著者: 藤川章

ページ範囲:P.244 - P.249

単純X線写真の名前は“単純”だが,三次元の物を平面上に凝縮するので,写真上に現れた形状は複雑なことが多い.異常所見を見つけるためには,正常解剖の知識と指先確認を用いて“影絵”のようなX線写真の所見を一つひとつ読み解くことが日々の診療では重要となる.目的によって撮影法やその組み合わせは多岐にわたるが,日常臨床で使用する頻度の高いものを選んで異常を見つけるための正常所見の概要を解説する.

四肢の単純X線撮影―正常解剖と読影のコツ

著者: 玉川光春 ,   晴山雅人

ページ範囲:P.250 - P.259

単純X線撮影の意義

 近年,四肢関節領域のMRIの重要性は明らかで多用されるが,骨折や奇形,変形性関節症などの重症度判定はX線写真で成される.ここでは,複雑で疾患の多い関節の単純X線撮影を中心に,実際に四肢関節の疾患が疑われる場合,疾患ごとの有効な撮像法をリストアップし,X線写真の注目点について解説した.関節の形状や可動性は個人差が大きいため,異常の発見には左右を撮像し比較することが重要である.なお骨腫瘍の撮像に関しては言及していないが,長管骨の場合は病変の存在する骨の正面像と側面像の二方向の撮像が基本である.

病変と紛らわしい正常変異―偽病変を作らないために

著者: 藤本肇

ページ範囲:P.260 - P.266

典型的な症例

 52歳男性の腹部単純X線写真正面像で,仙骨に重なる円形の石灰化陰影がある(図1a矢印).一見して尿管結石を思わせるが,CTを参照するとこの病変は仙骨の内部に存在するのが判明する(図1b矢印).

 この陰影の本体は仙骨内に発生した内骨腫(骨島)である.日常診療でしばしば遭遇する正常変異の一つであり,骨盤周囲や肋骨に好発する.辺縁明瞭で均一な硬化像を呈すること,撮影体位によらず位置が変わらないこと,正常骨梁との連続性が認められることなどを考慮すれば容易に診断可能であるが,時にCTによる確認を要することがある.

 骨格系の正常変異にはさまざまなものが知られている.これらの多くは単純写真で認められるものである.

 本稿では,特に骨腫瘍あるいは骨折などと誤診されやすい正常変異を取り上げ,診断の要点を解説する.

骨膜反応―病変の発見と診断へのアプローチ

著者: 原澤有美

ページ範囲:P.268 - P.272

典型的な症例

 下腿の脛骨,腓骨の骨幹部には骨皮質に沿って上下に連続した多層性,波状の石灰化像が認められる.骨膜反応の所見である.この症例は数年来,下腿静脈瘤と診断されており,下腿のびまん性腫脹が増強して疼痛があるため受診した.年余にわたる静脈うっ滞の持続に伴う骨膜反応は,このような連続性多層性~波状充実性骨膜反応を呈するのが典型的である.

 骨膜反応(periosteal reaction)または,骨膜新生(periosteal new born formation)は,骨病変や骨近傍の軟部組織病変に対する非特異的な骨膜の反応で,画像上は骨皮質の外側に沿った石灰化像として検出される.骨膜反応を分析することによる骨軟部疾患の特異的な鑑別診断は必ずしも容易ではないが,骨膜反応を検出することによって病変の発見,診断の契機に繋がることも多い.

 内科系診療を中心とした日常臨床の場では,原発性骨腫瘍に遭遇する機会は少なく,骨関節症状を主訴とする症例は必ずしも多くない.しかし,全身性疾患や内科的疾患の症例に合併する骨関節症状や,画像検査で遭遇する骨関節所見に注目する着眼点の一つとして認識しておく必要があると考える.

骨折―見逃さないためのポイント

著者: 館悦子 ,   佐志隆士

ページ範囲:P.274 - P.280

典型的な症例

 13歳男性.左足の痛みがあり受診.部活動でテニスをしている.左足の単純X線写真では明らかな骨折線を指摘できないが,第3中足骨にわずかに骨膜反応がみられる(図1a,b矢印).

 MRIでは,第3中足骨骨髄および骨周囲の軟部組織の信号変化が明瞭に観察される(図1c~f矢印).スポーツ歴,部位,画像所見など典型的な疲労骨折である.

 骨折とは,外力によって生理的な骨構造の連続性が断たれた状態をいう.骨折の大部分は,患者自身が外傷を自覚し,骨折部の疼痛を訴えて受診する.診察で骨折が疑われた場合,最初に行われる検査が単純X線写真撮影である.単純写真で,ひと目でわかるような骨折は,診断することに限ればほとんど問題にはならない.しかし,微細な骨折や単純X線写真ではっきりしないような骨折の場合には,知識の有無により診断できるかどうかに差が出てくる.本稿では,骨折の診断・治療を専門としていない方々が,特にひと目ではわかりにくい骨折を診断するための一助となることを目標としたい.

骨腫瘍―症例から学ぶ骨腫瘍とその鑑別疾患

著者: 松島理士 ,   福田国彦

ページ範囲:P.281 - P.287

典型的な症例

皮質骨不整症候群(cortical irregularity syndrome)

 cortical irregularity syndromeは,腫瘍性病変との鑑別が重要となる骨格筋の腱付着部のストレスに起因する変化である1).若年者の大腿骨遠位骨幹端内側後面の腓腹筋内側頭ないし大内転筋の腱付着部に好発する.単純X線写真上,症例のような長管骨骨幹端に骨皮質の菲薄化と境界明瞭な硬化縁を伴う囊胞状の溶骨性変化を示す.若年者で無症状,単純写真で上記のような典型像を呈するときはさらなる検査は不要である.疼痛や非典型的な画像所見を呈するときはMRIによる精査が必要で,本症例では疼痛の原因となる外側半月板断裂が認められた.加齢とともに硬化性変化を呈し溶骨性変化は消失する.基本的には画像で診断が可能であり,放置可能な疾患であるため,この部位にこのような所見を若年者に認めた場合には,この生理的皮質骨不整を考えるべきである.

症例提示設問 骨腫瘍を含めた骨軟部領域の診断においても単純X線写真は最初に行われる検査である.本稿では臨床現場の臨場感を感じながら読み・学んでいただくために,実際の症例の単純X線写真を呈示し,クイズ形式にて執筆した.

骨転移―単純X線写真で見逃さないために

著者: 青木純

ページ範囲:P.288 - P.293

典型的な症例

 図1は76歳男性の左肩正面像である.肺癌の既往があり,鎖骨骨折をきたした.X線像では鎖骨中央に骨吸収像が2カ所みられ,一方(矢印)が病的骨折を伴っている.多発病変であることがまず転移性腫瘍を示唆するが,個々の骨吸収の辺縁も不整(いわゆる浸潤像,permeated pattern)であり,悪性腫瘍を強く示唆する.

 図2は72歳男性の右股関節正面像である.膀胱癌全摘後放射線治療中の患者である.骨盤部のX線写真で右大腿骨転子間と座骨に骨硬化像が偶然発見された(矢印).同部位に特に症状はない.骨硬化の内部は比較的均一であり,辺縁は淡く外側に消退(fading)している.典型的な硬化性骨転移の像である.


 本稿は「単純X線写真の読み方・使い方」の企画の一環であるが,骨転移の診断,特にスクリーニングにおける単純X線写真の果たす役割は少ない.所見としては,先に挙げた不整形の骨吸収像や淡い骨硬化像あるいは両者の混在の像であるが,担癌患者にこのようなX線所見がみられる場合には臨床的にほぼ診断のついていることが多い.すなわち,骨転移の確認といった意味合いが強い.早期治療につながる早期診断のためには,骨シンチグラムやMRIあるいは最近ではFDG-PETが有用である.本稿では,単純X線写真の読影に際して有用と思われる骨転移の一般的知識と,知っていて役に立つと思われるいくつかのポイントを挙げる.

骨粗鬆症・骨軟化症―合併症としての骨折の有無を確認する

著者: 高尾正一郎 ,   上谷雅孝

ページ範囲:P.294 - P.301

典型的な症例

 全体的に骨梁は粗造である.両側大腿骨の彎曲(bowing)があり,左大腿骨頸部内側にLooser's zone (pseudofracture)を認める.骨盤骨や大腿骨の腱・靱帯付着部には過剰な骨化を認める.


 骨減少(osteopenia)は単純X線写真上,骨のX線透過性の亢進として認識される.単純X線写真で認識できる骨減少は30~50%以上の骨量低下で,軽度のものは診断が難しい.最近は骨量の定量評価(骨塩定量)が一般的に行われるようになり,単純X線診断よりも正確で信頼性のある診断が可能になっている.全身性骨減少の最も多い原因は,骨粗鬆症,骨軟化症,副甲状腺機能亢進症であるが,これらの診断は臨床所見で明らかなことが多い.したがって,単純X線撮影は,診断そのものよりもそれに伴う合併症の診断に重点が置かれるべきである.本稿では,骨粗鬆症および骨軟化症の基本的概念,特徴的なX線所見と診断のポイントについて論ずる.

変形性脊椎症,椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症,脊椎領域の骨化症―的確な治療方針を立てるために

著者: 辰野聡

ページ範囲:P.302 - P.307

典型的な症例

 明らかな誘因なく左前腕から示指~環指のしびれ感が6カ月前から徐々に増悪している.脱力はない.

 頸椎正面像(図1a)で左C6/7椎間における鉤椎関節の退行性変化が疑われる(a:矢印).側面像(図1b)ではC4の下位終板,C5,C6の上下終板,C7の上位終板の牽引性骨棘形成(b:矢頭)が認められるが,椎間腔は正常に保たれ,椎前部軟部組織の厚さと脊柱管の前後径も正常範囲内で靱帯骨化もみられない.骨破壊性病変は認められない.左前斜位像(図1c)上,C6/7椎間孔はC7の鉤状突起部の骨棘形成(c:矢印)によって狭小化している.左C7神経根障害の原因として一致する.

 中年以降では脊椎退行性変化の多くは無症候であり,画像所見は神経所見と一致して初めて有意となるが,本例では両者に矛盾がなく,これ以上の画像診断は行われなかった.

慢性腎不全と骨関節病変―慢性腎不全マネジメントに欠かせないポイント

著者: 工藤祥

ページ範囲:P.308 - P.315

典型的な症例

図1 35歳女性,透析歴8年,頭部顔面側面像

 骨濃度は全体的に低下し,頭蓋冠部はびまん性に小顆粒状影のいわゆるsalt and pepper appearanceを呈している.上顎骨,下顎骨では個々の歯根周囲に本来みられるべき歯槽硬線(lamina dura)が消失している.いずれも二次性副甲状腺機能亢進症による骨吸収の所見である.

図2 53歳女性,透析歴12年,右手正面像

 骨皮質および骨梁の吸収があり,骨は淡く,皮質・髄質の境界が不明瞭となっている.特に第2基節骨撓骨側の骨膜下骨吸収(矢頭)が顕著であり,軟骨下骨吸収(矢印)もみられる.第一末節骨も吸収され,小さくなっているようである.さらに,指間動脈に多数の石灰化がみられる.いずれも二次性副甲状腺機能亢進症に特徴的な所見である.


 慢性腎不全に関連する骨・関節・軟部の病変は多様であるが,最も典型的とされるのは腎性骨異栄養症(renal osteodystrophy)と総称される病態であり,これには二次性副甲状腺機能亢進症(図1~4),骨粗鬆症,骨硬化(図5),骨軟化症(図6,7),くる病(図8),軟部・血管の石灰化(図2)などが含まれる.また,長期の透析に関連してはアミロイド沈着症(図9~11),破壊性脊椎関節症(図11),アルミニウム骨症,結晶沈着症,腱断裂などがあり,骨・軟部感染症や骨壊死の合併もある.

代謝・内分泌疾患と骨関節病変―特徴的骨変化を読む

著者: 藤澤英文 ,   櫛橋民生

ページ範囲:P.316 - P.322

典型的な症例

 手関節の単純X線正面撮影で,尺骨端は,杯状陥凹(cupping)を示し,幅広い(flaring).予備石灰化層は不鮮明で,刷毛状不整化(fraying)を認める.橈骨骨幹端にも刷毛状不整化を認める.成長板間隙は開大している.

 膝関節の単純X線正面撮影では,予備石灰化層は消失し,骨幹端は不整で,横径が拡大している.これらは成長板の骨化障害による所見である.

 骨は全体的に骨濃度が低下しており,骨量減少(osteopenia)の状態である.本症例は抗てんかん薬を服用しており,薬剤性のくる病である.

膠原病と骨関節病変―単純X線所見が決め手になる関節炎の診断

著者: 苫米地牧子 ,   江原茂

ページ範囲:P.324 - P.330

典型的な症例

 62歳,女性.両手関節の腫脹と疼痛を訴えて来院.手の単純X線撮影が施行された.図はその写真である(図1a).手関節部の軟部組織の腫脹は明らかである.また遠位橈尺関節と手根中央関節裂隙が狭小化している.

 手関節部の拡大像(図1b)では,特に尺骨茎状突起の周囲に軟部組織の腫脹が著しく,また茎状突起尺側に侵食(erosion)を認める.さらに中手指節関節の拡大像(図1c)では,関節辺縁部皮質の輪郭が不明瞭化となっている.このような軽微な骨侵食は,第2~5中手指節関節のいずれでも認められる.これらはいずれも慢性化した滑膜炎の所見である.関節リウマチのこのような典型的所見の特異性は高い.

血液・造血器疾患と骨関節病変―単純X線写真から多くを読みとるクセをつける

著者: 篠崎健史 ,   藤田晃史 ,   杉本英治

ページ範囲:P.332 - P.339

典型的な症例

 64歳,女性.頭蓋骨正面(図1a),側面像(図1b)にて頭蓋冠に境界明瞭,多発性,円形,辺縁の硬化性変化のない透亮性変化(punched-out lesion)を認める(矢印).また下顎骨にも同様の所見を認める(矢頭).40歳以上の成人で,このような所見を認めた場合,転移性骨腫瘍か形質細胞骨髄腫(多発性骨髄腫と形質細胞腫の総称)をまず考える.形質細胞骨髄腫は転移性骨腫瘍に比べて,下顎骨が侵される頻度が非常に高く,また大きさが比較的揃っていることが多い.

 本症例は60歳代,頭蓋冠,下顎骨の多発性punched-out lesionを認め,形質細胞骨髄腫(多発性骨髄腫)と診断された.


 骨関節疾患というと整形外科的疾患をまず思い浮かべるが,代謝疾患,内分泌疾患,血液疾患,その他多くの臓器や全身性の疾患に伴い変化が生じることを忘れてはならない.またCT,MRI検査が全盛であるが,簡便かつ安価な単純X線写真(以下,単純写真)から非常に多くの情報が得られる点は,胸部単純写真と同様であり,必ずCT,MRI画像と単純写真は比較しながら読影する必要がある.今回は,血液・造血器疾患の骨関節病変の画像診断について,腫瘍性病変と非腫瘍性病変に分けて解説する.

結晶沈着疾患―痛風,偽痛風,石灰化腱板炎の診断と治療

著者: 西村浩 ,   濱田哲矢

ページ範囲:P.340 - P.345

典型的な症例

図1 慢性の痛風性関節炎(a:40歳男性,b:43歳男性)

いずれの例においても右母趾中足趾節関節に偏在性の軟部組織腫脹がみられる(矢印).bでは一部石灰化を伴っている.関節裂隙はaでは若干狭小化がみられるが,bでは狭小化はほとんど認められない.中足骨にはいずれの例でも比較的境界明瞭なびらんを認め,ややわかりにくいがoverhanging edges(矢頭)が認められる.

 結晶沈着誘発関節症(crystal induced arthritis)とは,生体または軟骨の代謝異常によって析出した無機塩の結晶が関節腔に遊離し白血球に貪食されて関節内の滑膜,軟骨などに沈着して起こる関節炎のことである.

 原因となる結晶には,尿酸ナトリウム結晶(痛風),ピロリン酸カルシウム(偽痛風),リン酸カルシウムの一種であるハイドロオキシアパタイト(石灰化腱板炎など),シュウ酸カルシウムなどがある(表1).本稿では,代表的な痛風,偽痛風,石灰化腱板炎の3疾患に絞って解説する.なお,尿酸ナトリウム結晶以外は,関節軟骨に石灰化がみられるために画像所見や病理学的用語としての軟骨石灰化症(chondrocalcinosis)とも呼ばれるが,結晶沈着症以外にも軟骨に石灰化をきたすことがあるため鑑別診断上注意が必要である(表2).

軟部組織疾患―CT,MRIといかに組み合わせるか

著者: 青木隆敏 ,   川波哲 ,   興梠征典

ページ範囲:P.346 - P.352

典型的な症例

 20歳代の女性.頸部単純X線側面像で,後頸部の軟部組織に種々の大きさの円形ないしリング状の石灰化が認められる(a).MRIT2強調横断像では頸椎の背側~左側に著明な高信号を示す腫瘤(矢頭)がみられ,腫瘤内部には単純X線写真での石灰化に相当する円形低信号(矢印)が認められる(b).

 この症例の単純X線写真で認められる円形やリング状の石灰化は静脈石であり,拡張した血管腔内の石灰化した血栓を示す.深在性の血管腫を単純X線写真で指摘することは困難なことが多いが,本例のように複数の集簇する静脈石を捉えることができれば,単純X線写真のみで特異的診断が可能である.

索引

ページ範囲:P.353 - P.361



悪性中皮腫…167

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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