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雑誌目次

雑誌文献

medicina41巻5号

2004年05月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床行動に結びつく検査戦略 検査戦略の正しい理解

データ判読の基礎

著者: 北村聖

ページ範囲:P.740 - P.743

生体情報の特徴―ホメオスタシスとゆらぎ

 臨床検査は,いろいろな計測技術を利用して,生体の変化を捉えることである.便宜的に,心電図など患者からの情報を直接計測する場合を生理機能検査と呼び,患者から採取した血液・体液や組織の一部について計測する場合を検体検査と呼んでいる.

生体変化はあいまいなもの

 臨床検査の対象となる生体の変化はファジー(fuzzy:あいまい)なものであり,無生物を計測するのとは根本的に異なる.生体は常にゆらいでいるが,そのゆらぎは一定範囲内にあり恒常性(ホメオスタシス)を維持している.すなわち,身長を計測することに例えると,例えば乳児は背筋をちゃんと伸ばすことはないので,1mm単位まで測ることは困難で,あるがままの体勢で迅速に測らなければならない.また,髪の毛の多い人とない人では身長が違ってくる.日本髪のように非常に多い人ではどこまでが「真の体」なのか定かではないし,洗いざらしと結い上げた後では高さが変化している.また,一般に朝に比べ夕方では身長がやや短くなる.このように生体の測定は単に細部まで測定すればよいというのでなく,常に変化するものとして捉え,その変化の範囲が一定の範囲内であるかどうかを観察することが重要である.すなわち,臨床検査結果を判読する場合には,こうした検査数値をもう一度あいまいな変化のなかに戻して判断することが要求される(図1).単純な算術的現象ではないことをまず理解すべきで,それが十分にされていないために,臨床検査にさまざまな誤解や問題が発生している.

臨床検査とEBM

著者: 石田博

ページ範囲:P.744 - P.747

ポイント

 検査のEBMを行う場合に以下のことに注意する.

 ●バイアスが入る可能性など,どのような方法によって導き出されたエビデンスかを検証することが重要である.

 ●文献検索では検査の論文に使われやすいMeSH,subheading用語やテキスト用語を適切に組み合わせて行う.

 ●診断特性を適用する際に,患者の臨床的特徴がエビデンスの研究の対象となった患者と同様であるかを検討する.

基準範囲・臨床判断決定値とその正しい利用

著者: 高木康

ページ範囲:P.748 - P.750

ポイント

 “正常値”は「正常」と「異常」の判別値的要素を含むので,“基準範囲”を使用する.

 “基準範囲”は「検査値のものさし」であり,生活習慣などを同じくする比較対照群の値である.

 疾患と非疾患の鑑別には“病態識別値”を設定し,検査の標準化が徹底すれば,どの施設・医師でも使用できる.

 “意志決定値”は経験を踏まえて,医師個人が設定すべきである.

感度・特異度・尤度比とその正しい利用

著者: 三宅一徳

ページ範囲:P.752 - P.754

ポイント

 診断的検査では,検査固有の診断特性は感度と特異度で示される.

 検査の予測値は有病率の影響を受け,検査が用いられる場面により変動する.

 有病率が低い対象集団に対する検査では,陽性予測値が低く,偽陽性が多くなる.

 疾患の存在診断には特異度の高い検査が,除外診断には感度の高い検査が効率的である.

 オッズと尤度比を用いて検査前確率から検査後確率が容易に推定できる.

 定量的検査では層別尤度比が検査結果判定に用いられる.

一検査分野としての確立が期待されるPOCT―POCTを活用して医療サービスの向上を

著者: 石神達三

ページ範囲:P.755 - P.757

ポイント

 ポイント・オブ・ケア検査(POCT)が急速に拡大・普及しつつある.POCTには,診療・看護現場で医療スタッフが実施する簡易検査,ならびに患者自身が在宅で実施する自己検査が包含される.

 迅速,簡易,小型機器を必須とするPOCTに利用される測定用プラットフォーム技術にも,日進月歩の改良が加えられている.医療機関経営にとって,POCTは大きなインパクトをもつものとなりつつある.

クリティカルパスと臨床検査

著者: 武藤正樹

ページ範囲:P.758 - P.765

ポイント

 医療制度改革のなかでクリティカルパスが注目されている.

 特にDPCに基づく包括支払い制の導入がクリティカルパスの普及に大きな影響を与えるだろう.

 クリティカルパスを作成するにあたっての10のポイントをまとめた.

DPCと臨床検査

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.766 - P.768

ポイント

 DPCは2003年に特定機能病院に導入された,保険点数を疾患別に包括する制度である.

 DPCでは病院支出を抑えるため過小検査が行われる危険性がある.

 医師は病院経営を勘案しながら,患者のために診断・治療に最低限必要な臨床検査をする必要が生じている.

 ガイドラインを中心に適切な臨床検査の使い方を医師自らが考えていく必要がある.

院内感染対策と臨床検査

著者: 奥住捷子 ,   増田道明

ページ範囲:P.770 - P.773

ポイント

 院内(病院)感染には,①入院患者が,原疾患とは別に新たに感染した感染症と,②医療従事者が院内で罹患した感染症とがある.
 院内感染にかかわる臨床検査には,感染症の起因微生物検出検査,保菌調査があり,アウトブレイク時の介入・立ち入り検査とその検出菌の分子疫学的解析などがある.

 院内感染の原因は,日和見感染,医療器具などの挿入(各種カテーテルやドレーンなどの異物)に伴う感染,血液を介した感染,市中から持ち込まれた微生物による感染などに分けられる.

 院内感染は,日和見感染をも含むため,あらゆる微生物が起因微生物となりうる.

 院内感染防止の予防策には,標準予防策をもとに病原体別に空気感染予防策,飛沫感染予防策,接触感染予防策をとる.

医療の安全と臨床検査―いま確認しておくべきこと,そしてさらなる「検査の安全」「医療の安全」に向けて

著者: 鮎澤純子

ページ範囲:P.774 - P.776

ポイント

 臨床検査が医療事故(過誤)の原因となることが少なくないこと,臨床検査にかかわる医療従事者がその法的責任を問れることも少なくないことを認識しておく必要がある.

 検査において起こりうる事故の可能性を検討し,万が一の事故発生時にも適切な対応ができるようにしておかなければならない.

 安全な検査を安全に実施するためには,「患者参加の事故防止」という取り組みも重要である.

フォローアップ検査の概念と正しい利用

著者: 大西真

ページ範囲:P.778 - P.780

ポイント

 フォローアップ検査では,治療効果の判定,副作用のモニター,合併症や臓器障害のチェックがポイントである.

 フォローアップ検査では,常に時系列でデータを見ることが重要である.

よくみる疾患の効果的な臨床検査

急性上気道炎と肺炎

著者: 前田光一 ,   三笠桂一

ページ範囲:P.781 - P.783

ポイント

 急性上気道炎はウイルスによるものが大半で,症状や身体所見から診断されることが多い.原因ウイルスの分離や血清抗体価測定は診断に時間を要するが,迅速診断キットが利用できるものもある.

 肺炎は発熱などの症状,血液検査での炎症所見,胸部X線での新たな浸潤影などから診断する.原因微生物は呼吸器由来検体の塗抹・培養検査,血清抗体価測定,抗原検出などにより検索する.

間質性肺炎

著者: 田下浩之 ,   堀内正

ページ範囲:P.784 - P.786

ポイント

 特発性間質性肺炎の診断には,膠原病,環境曝露などの鑑別のため詳細な問診が必要である.

 典型的な特発性肺線維症は,HRCT,臨床所見から診断可能である.

 KL-6,SP-A,SP-Dなどの新しい血清マーカーが有用である.

慢性閉塞性肺疾患

著者: 青島正大 ,   春日郁馬

ページ範囲:P.788 - P.790

ポイント

 COPDは非可逆的な気流制限を特徴とする疾患であり,喫煙をはじめとする危険因子の存在がCOPDを疑う第一歩となる.

 症状の有無にかかわらず,危険因子に対する曝露歴とスパイロメトリーにより非可逆的な気道閉塞所見を認めれば診断が確定する.

 重症度判定,治療法選択,フォローアップもスパイロメトリーが中心となり,進行例では動脈血ガス分析も必要である.

糖尿病

著者: 根本茂之 ,   戸辺一之 ,   坂本健太郎 ,   山内敏正 ,   寺内康夫 ,   門脇孝

ページ範囲:P.791 - P.799

緊急性の有無

 外来あるいは入院してきた患者で糖尿病を疑ったら,まずは急いで治療を要する病態であるかを判断する必要がある(図1).以下に検査値ごとの対応を示す.

1. 緊急入院が必要

 随時血糖値が350mg/dlを超えるか,尿ケトン体が陽性あるいは±の場合(HbA1cでいうと12%以上)

 基本的にすぐ入院をさせインスリン治療を行う.入院できない場合には外来でインスリン治療〔中間型インスリンを1日2回(朝食前8単位,夕食前4単位程度)〕を開始する.その週は毎日病院に通院させ,血糖値低下と尿ケトン体の陰性化を確認する.1型のこともあるため,抗GAD抗体を測定する.

高脂血症

著者: 岡田純代 ,   山田信博

ページ範囲:P.800 - P.803

ポイント

 LDL-コレステロールとトリグリセリドに着目し,高脂血症の型を鑑別する.

 適切な食事療法と飲酒習慣の是正,運動療法と禁煙の指導を優先して治療を検討するため,ライフスタイルの把握が重要である.

 動脈硬化の危険因子の合併により薬物療法の治療目標値が異なることから,既往歴・合併疾患・薬剤歴の聴取が重要である.

 必ず二次性高脂血症を鑑別し,家族性高脂血症の徴候を見逃さない.

甲状腺機能亢進症

著者: 小澤安則

ページ範囲:P.804 - P.806

ポイント

 甲状腺機能亢進症の診断は,血中甲状腺ホルモン高値とTSH低値の確認から始まる(ただし,ごく稀なTSH産生性下垂体腫瘍などの例外あり).

 明らかな甲状腺機能亢進症症状をきたす疾患としてはBasedow病,次いで無痛性甲状腺炎が多い.両者は治療法が全く異なるので鑑別が必須.

狭心症・心筋梗塞

著者: 原和弘

ページ範囲:P.808 - P.810

ポイント

 狭心症と心筋梗塞のなかで,急性心筋梗塞と不安定狭心症を急性冠症候群と呼ぶ.

 診察,心電図検査,血液検査によりリスクの高い症例を遅延なく診断することが重要である.

 H-FABP定性検査は,急性心筋梗塞の発症4時間以内に最も感度の高い検査であり,血行再建治療の時代には有用な検査である.

 たとえ非ST上昇の心電図であってもトロポニンT試験陽性では予後が不良である.

ウイルス肝炎(肝癌を含む)

著者: 石井耕司 ,   住野泰清

ページ範囲:P.811 - P.814

ポイント

 近年,A~E型肝炎以外の肝炎ウイルスとされるウイルスが同定されているが,それらが肝炎を引き起こすかどうかについては疑問である.

 日常診療における急性肝炎の原因のほとんどはA型またはB型肝炎ウイルス感染である(ただし最近,海外渡航歴のないE型肝炎の報告が増加している).

 慢性肝炎のほとんどはB型,またはC型肝炎ウイルス感染である.

 C型肝炎ウイルスは本邦では以前から,セロタイプ1,2の2種類に分類(genotype分類では 1b,2a,2b)されているが,最近,B型肝炎もgenotype分類が可能となり(保険適用はない),本邦における従来型であるgenotype C,B(日本型Bj,アジア型Ba)に加えて,欧米型のAやDなども検出されるようになってきており,それぞれ特徴が報告されている6)

 近年の遺伝子学的検査の進歩により,ウイルス肝炎についての知見が集積するものと思われ,常に新しい情報を得る必要がある.

消化性潰瘍

著者: 山口康晴 ,   勝見直也 ,   高橋信一

ページ範囲:P.815 - P.817

ポイント

 臨床現場において消化性潰瘍を疑うべき患者背景として,次の3点が重要である.

 ●血液生化学的検査所見における血液ヘモグロビン値の低下,BUN/Cr比上昇,低アブミン血症.

 ●潰瘍症状として下血,上腹部痛.

 ●既往歴としてNSAIDsあるいは抗凝固薬などの内服歴,消化性潰瘍の既往.

 高齢者,糖尿病患者においては無症状なことも多く注意が必要である.

大腸癌

著者: 小林清典 ,   五十嵐正広 ,   勝又伴栄

ページ範囲:P.818 - P.820

ポイント

 大腸癌のスクリーニングに有効な臨床検査は,免疫学的便潜血検査である.進行癌では80~90%で陽性になるが,早期癌での陽性率は低い.

 血便などの臨床症状を認めた場合や大腸癌のhigh risk群には,最初から大腸内視鏡検査を行うべきである.

 血清CEAなどの腫瘍マーカーは,スクリーニングには不向きであるが,手術や化学療法の効果判定や再発の予測などに有用である.

腎炎・腎不全

著者: 田代享一 ,   富野康日己

ページ範囲:P.822 - P.825

ポイント

 腎炎・腎不全の診断のためには,まず詳細な病歴聴取と身体診察を行い,侵襲の少ない検査である尿検査と血液検査を行う.

 腎炎が疑われた場合には,画像検査などで他疾患を否定したのち,腎生検による病理組織検査なども組み合わせて診断し治療を行う.

 腎不全が診断された場合には,画像検査なども加え,急性腎不全と慢性腎不全の判断とそれぞれの原因検索を行い治療を開始する.

関節リウマチ

著者: 高田和生

ページ範囲:P.826 - P.830

ポイント

 RAの診断を「確定」する検査は存在しない.

 RAの診断・分類基準は一つの基準として参考になるが,実際の臨床での応用を目的に作られたものではない.

 リウマトイド因子の,RAの診断における単独での有用性は低い.

 RAに典型的なX線異常所見は早期にはほとんど認めない.

 治療反応評価には,関節症状および所見の変化に加えCRPも用いられる一方,リウマトイド因子は有用でない.

貧血

著者: 飯島喜美子 ,   浦部晶夫

ページ範囲:P.832 - P.834

ポイント

 貧血の鑑別診断の第一歩は,平均赤血球容積(mean corpuscular volume:MCV)を確認し,貧血の性状が小球性か正球性か大球性かを区別することである.

 小球性貧血では,鉄欠乏性貧血を考慮し鉄欠乏の有無を検査する.鉄欠乏性貧血と診断した場合は,鉄剤による治療と同時に鉄欠乏の原因の究明および治療を行うことが重要である.

 正球性貧血では,溶血性貧血または再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの骨髄不全などが含まれる.大球性貧血では巨赤芽球性貧血の鑑別を行う.

新しい検査・特殊な検査の有効的な利用

腫瘍マーカー

著者: 大倉久直 ,   大谷幹伸

ページ範囲:P.835 - P.837

ポイント

 腫瘍マーカーは,癌診療での行動決定にキー情報となりうる重要な臨床検査である.

 癌に対する感度と特異性は完全ではないが,その限界を認識して利用すれば,画像診断で得られない癌全体の動向を知るのに有用である.

 主要な腫瘍マーカーについて,本稿に記した程度の知識は臨床医に必須である.

癌の遺伝子診断

著者: 宮地勇人

ページ範囲:P.838 - P.841

ポイント

 造血器腫瘍の遺伝子検査の実施においては,病型に特異的な検査項目と測定法の選択,および検査目的ごとに適切な測定感度と測定レンジの確認が大切である.

 分子標的治療では,標的遺伝子(産物)の検出が不可欠である.

 抗癌剤の代謝酵素には,活性の個人差があり,遺伝子(変異)多型を調べることで適切な投与量の調整が可能である.

 癌の発症前診断では,検査陽性時にリスクに基づき癌の早期発見,治療や予防を支援する.

感染症の遺伝子検査

著者: 町田勝彦

ページ範囲:P.842 - P.845

ポイント

 感染症の遺伝子診断用試薬は次々と開発され,数多くの検査キットが市販されている.その利用法には,検査業者に検査委託を行う方法と,自ら検査を行う方法が存在する.

 感染症の遺伝子診断は目標を定めて,かつ遺伝子診断が必要である場合に実施することが望まれる.

代謝異常の診断

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.846 - P.848

ポイント

 電解質代謝異常の多くは無症状で,特異的症状を示す場合は少ない.

 非特異的症候を示す症例では,電解質代謝異常の有無を確認する必要がある.

 臨床検査により電解質代謝異常の存在が明らかとなった場合には,各電解質異常に特異的な検査により,その原因を検討し,対策を立てる.

凝固線溶系の分子マーカー

著者: 川合陽子

ページ範囲:P.850 - P.853

ポイント

 DICの早期診断のために多数の凝固線溶系分子マーカーが開発され,血栓症やその他の病態診断にも応用されるようになってきた.

 トロンビンを中心とした凝固活性化マーカーとプラスミンを中心とした線溶活性化マーカーを理解し,出血傾向が危惧される病態と多臓器障害への進展に留意すべき病態などの鑑別が可能な検査に熟知する.

骨代謝の分子マーカー

著者: 細井孝之

ページ範囲:P.854 - P.857

ポイント

 骨では,骨吸収と骨形成によるリモデリングが進行しており,血清や尿中の分子マーカーが骨代謝マーカーとして測定される.

 骨代謝マーカーによって,骨代謝状態の評価が可能となり,骨粗鬆症治療薬の選択や効果判定に用いられる.

 骨代謝マーカーは,骨量減少者においてはさらなる骨量減少の予測に,骨粗鬆症患者においては将来の骨折リスクの予測に用いることができる.

心血管ホルモン

著者: 進藤哲 ,   小室一成

ページ範囲:P.858 - P.860

ポイント

 循環器系疾患の病態把握に役立つ液性因子の検査,特に心不全に対する脳性Na利尿ポリペプチド(BNP)について,感度・特異度,さらには対費用効果などを念頭に置いた有効な利用方法を考える.

 NT-proBNPなどの新しい検査方法について知識を整理しておくことが重要である.

理解のための25題

ページ範囲:P.861 - P.865

演習・小児外来 (新連載)

〔Case1〕心雑音が聴取された生後1カ月の乳児

著者: 賀藤均

ページ範囲:P.868 - P.874

症 例:日齢32日の男児.

 主 訴:心雑音.

 現病歴:在胎39週5日で出生し,アプガースコアは9点(1分),10点(5分)で,出生時体重は3,210gだった.母乳栄養のみのため,1回哺乳量は不明だが,休み休みの哺乳で,片側の母乳を吸うのに約30分程度かかっているという.泣き声が他の赤ちゃんに比べて,小さいとは親は思っていたが,いつも不機嫌に泣いていることが多いので,声がかすれているのだろうと思っていたという.1カ月健診での体重は3,770gで,心雑音が聴取されたため,当科心臓外来を紹介された.

 身体所見:呼吸音正常,呼吸数約70回/分,吸気時に肋間の陥没をみる.心臓聴診では,胸骨左縁第3~4肋間に最強点をもつ全収縮期雑音がLevine2/6度聴取され,心拍数はほぼ130回/分だった.心音の異常は気がつかれない.肝臓は2横指触知するが,硬さは弾性硬.四肢近位部は細い.大腿動脈の触れは正常である.その他の理学的異常所見はない.

〔Case2〕咳嗽,喘鳴,陥没呼吸が認められた5カ月男児

著者: 横山美貴

ページ範囲:P.868 - P.874

症 例:生後5カ月男児.

 主 訴:咳嗽.

 家族歴・既往歴:特になし.

 現病歴:1月10日午前中から発熱・嘔吐・咳嗽が出現,近医を受診し輸液を受けた.11日未明,喘鳴と苦しそうな咳がみられてきたため当科救急外来を受診した.母乳は飲めていた.

 現 症:機嫌悪く啼泣,嗄声,犬吠様咳嗽.体温38℃,心拍数110回/分,呼吸数44回/分.陥没呼吸あり,チアノーゼなし,聴診器を付けずに吸気性喘鳴が聞かれる,aeration 軽度低下.

聖路加国際病院内科グランドカンファレンス(4)

血痰と血小板減少の精査加療のため入院した53歳男性

著者: 田口智博 ,   片岡明久 ,   野尻さと子 ,   鈴木高祐 ,   氣比恵 ,   奥川喜永 ,   加藤格 ,   真下陽子 ,   柚木佳 ,   内山伸 ,   小中 理会 ,   武田京子 ,   渡辺文彦 ,   出雲博子 ,   蝶名林直彦 ,   岡田定 ,   古川恵一 ,   衛藤光

ページ範囲:P.875 - P.885

田口(司会) それでは,本日の内科グランドカンファレンスを始めます.プレゼンテーションを片岡先生にお願いします.

症例呈示

 片岡(担当医) 症例は53歳の男性で,血痰と血小板減少の精査加療のため内科に入院しました.現病歴などを以下に示します.


 現病歴:当院入院の約40日前より左手の第1指と第2指の腫脹を認め,近医皮膚科を受診.ロキソニン(R),セルベックス(R),セフゾン(R)を処方され,一時症状は改善したが,服薬を中止したところ,再び腫脹と発赤が同部位に出現した.また,しびれ,冷感が両手の第1指と第2指に出現したため,入院24日前に当院皮膚科を受診.episodic angioedema with eosionophilia(好酸球性血管性浮腫)の疑いにてアレロック(R),メチコバール(R),ロキソニン(R)を処方されるも,上口唇に浮腫,両足に疼痛(左に優位),両足第1指にしびれ,および37°C台の発熱が出現した.その後,入院12日前の皮膚科受診にてセレスタミン(R)を処方され,上口唇・両手指・両足指の浮腫・腫脹は改善されてきたが,入院4日前より両手指・両下腿中心に紫斑が出現し,また咳嗽時に血痰が認められたため,入院前日皮膚科を受診し,内科への紹介入院となる.

連載

目でみるトレーニング

著者: 中曽一裕 ,   水野耕介 ,   河合盛光

ページ範囲:P.886 - P.891

問題 370

 症 例:83歳,女性.

 主 訴:右半身に力が入りにくい.

 既往歴:糖尿病,高血圧,脳血栓症.

 家族歴:特記事項なし.

 現病歴:某日夜,右半身に力が入りにくいことを自覚.その後,少し改善したためそのまま様子を見ていたが,翌日起床時,脱力が進行していたため受診.

カラーグラフ 足で診る糖尿病(5)

靴擦れ,熱傷

著者: 新城孝道

ページ範囲:P.892 - P.893

 糖尿病足病変の発生に関する誘因として,履物による障害と熱傷が主要因であることは,10年前と現在でも同様な傾向である.また長い“足の文化”を有する欧米での足病変の誘因としても,履物による足の障害が主とされている.履物として靴が最も多く使用され,それ以外にサンダル,雪駄,げた,長靴,地下足袋,安全靴,スキー靴と多種存在し,いずれもが足病変の原因となる.足と履物との適合性が不一致な点で足の障害が起こることは当然である.窮屈な履物は当然としても,履物が大きくて靴内で足が過剰に移動する場合も足の障害が起こるため,靴選びは重要である.靴と足の適合でのポイントは,爪先の形状と踵である.爪先は立位や歩行時に屈曲するため十分な高さが必要である.糖尿病患者は神経障害で足趾が屈曲する現象(称して「ハンマートウ」や「クロートウ」)を呈することが多く,爪先に高さが適切であるかが靴擦れ予防に重要である.靴と爪先との距離は通称「捨て寸」と呼ばれ,15~25mm必要である.履物の中での足の固定に,足の甲での押さえが重要である.オックスフォード型の外羽根式が最も好ましい.ヒモやマジックテープでの固定は十分に行う必要がある.男性に比し女性ではパンプスの使用が多いため,爪先と靴との圧着が多く,より注意が必要である.踵は靴との摩擦が鋭角的に行われ,かつ上下動での強い摩擦が起こるため,足の障害面積が多く,感染症を併発しやすい.踵の履物による障害を受けた例では,たとえ素足になっても室内での歩行で安静がとれず,炎症の拡大が止まらないことが多い.足の変形が高度な糖尿病神経障害例では,履物の選択が重要である.素足での歩行は危険のため,靴下を使用し足の保護に努めることが重要である.市販の履物が不適な場合,専門のフットケア外来や日本靴医学会への相談が必要である.

輸血のきほん(6)

貯血式自己血輸血

著者: 奧山美樹

ページ範囲:P.895 - P.900

本連載の第3回「赤血球製剤」の稿(第41巻第2号)でも触れたように,近年,日本赤十字社(日赤)がNAT(nucleic acid amplification test;核酸増幅検査)を導入したことで,感染性病原体に対する同種血輸血の安全性は以前に比べ飛躍的に向上した.さらに病原体の不活化導入へ向けて検討が開始されるなど,感染性副作用に対する対策は今後も順次講じられていくであろう.しかし技術の進歩に対する過信は禁物であり,病原体の検出感度をいくら上げても輸血による感染の危険性は決してゼロにはならないことを忘れてはならない.また感染性副作用以外にも,起こるときわめて重篤で致死率の高い輸血関連移植片対宿主病(transfusion associated graft versus host disease:TA-GVHD)や,血小板輸注不応状態の原因となる抗HLA抗体の産生などの免疫学的な副作用は,他人の細胞を使用している限り起こりうる反応である.

 このような同種血輸血による危険性を避けるために,自己血輸血が実施されるようになってきた.最近では,天皇陛下の手術の際に自己血を準備したという報道により,一般にも「自己血輸血」が広く知れわたってきているようである.また,今後社会の少子高齢化に伴い,輸血用血液の需要に対する献血者数の減少が危惧されている.限りある貴重な血液を有効に利用するためにも自己血輸血の推進は有意義であると考えられる.

院内感染コントロールABC(5)

院内の抗菌薬使用と耐性菌

著者: 古川恵一

ページ範囲:P.902 - P.908

 広域スペクトラムの抗菌薬(カルバペネム,第3・第4世代セファロスポリンなど)を数日以上長期に使うほど,人の常在菌は減少し,薬剤耐性菌の出現と増加がもたらされる.そして菌交代現象と薬剤耐性菌による二次感染が起こるリスクが高くなる.また入院中の多くの人に広域スペクトラム抗菌薬を使うほど,院内で薬剤耐性菌の増加がもたらされる.例えば近年,第3世代セファロスポリンが多用された結果,MRSAや広域βラクタマーゼ(ESBL)産生性の多剤耐性クレブシエラなどの増加がもたらされ,カルバペネムの多用に伴ってカルバペネムおよびセファロスポリンにも耐性の緑膿菌やアシネトバクターなど多剤耐性菌の増加がもたらされている.本邦の病院のなかにはカルバペネム耐性緑膿菌の分離率が緑膿菌全体の60%以上という市中病院があり,すべての抗菌薬に耐性の緑膿菌の分離率が9%という深刻な事態の大学病院もある.多剤耐性菌が患者に感染を起こせば治療薬は限られたものしかなく(あるいは全く存在せず),患者の予後は当然悪くなる.

 そこで,このような薬剤耐性菌をできる限り作らないような抗菌薬の使い方をするように,努力する必要がある.特定の医師や特定の科だけではなく,病院全体として薬剤耐性菌をできる限り作らないように方策をたてる必要がある.そのためにはどのような方策があるか,次に説明する.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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