icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina41巻6号

2004年06月発行

雑誌目次

今月の主題 血栓症の予防と治療 血栓症を理解する

出血すれば止血する―止血のメカニズムを理解する

著者: 松尾理

ページ範囲:P.918 - P.920

ポイント

 血液の相反する作用:血液は循環系の中にあるときは,流動性を保持(ゾル状態)して,スムースに流れる.これは細胞の物質代謝にとって非常に効果的である.血液が自然止血機構によって循環系の中で固まり(ゲル状態)血流を障害/遮断するような事態は,血栓症として生体に悪影響を与える.しかし,血管が損傷を受けた場合,速やかに出血部位を塞ぐ必要がある.こうしてできる止血血栓は生体にとって有益である.このように「ゾルゲル変換」が起こる場合によって,生体にもたらされる影響は極端に異なる.

 血栓:血栓は発生する血管によって白色血栓と赤色血栓に大別される.白色血栓は血流の速い動脈でみられ,血小板主体である.これに対して,赤色血栓は血流の遅い静脈でみられ,血液全体が固められているので,赤く見える.赤色血栓は血栓溶解療法によく反応する.

 出血:血管の損傷による出血の場合,血管の直径と内圧によって出血量が決まる.大きな血管の場合,直接結紮する必要がある.これに対して,微小血管からの出血の場合,自然止血機構の作用で止血する.しかし,病態によってはウージングと呼ばれるような出血があり,止血に困難な場合がある.特にDICの場合には,消化管出血や皮下出血など直接止血しにくい場合がある.DICでは止血のために抗凝固物質のヘパリンを使用する.

 止血機構:自然止血機構はその機能低下で出血傾向を引き起こし,機能亢進で血栓形成を起こす.このバランスが平衡状態に保たれ,正常な生命維持活動が営まれる.

血管壁は何をしているのか―血栓防止からその破綻まで

著者: 加藤久雄

ページ範囲:P.922 - P.927

ポイント

 血栓の形成反応と溶解反応は,制御因子により巧妙に調節されている.

 血管内皮細胞は正常では抗血栓性機能をもっているが,種々の物質により刺激を受けて血栓性に変化する.

 血管内皮細胞のそのような変化は,血小板や白血球などの血球成分と平滑筋細胞などの血管壁細胞との間のメディエーターや接着因子などを介するクロストークの結果である.

血栓準備状態―凝固亢進状態とは?

著者: 川合陽子

ページ範囲:P.928 - P.931

ポイント

 血栓準備状態とは,一つ以上の先天性血栓性素因が相互にかかわり合うような個体に,後天的な凝固亢進状態をもたらす生習慣やさまざまな疾患が引き金となり,凝固活性に刺激を与えることで,過凝固状態がもたらされ,易血栓性となる病態である.凝固亢進状態は,単一な危険因子で起こるのではなく,多因子のクロストークでもたらされる.

血栓症は増えているのか

著者: 池田康夫

ページ範囲:P.932 - P.934

ポイント

 血栓症を理解する一助として,国内外における動脈硬化を基盤として発症する動脈血栓症の疫学を中心に述べた.

血栓症を診断する

血栓症を血液検査で診断する―血栓形成のマーカー

著者: 尾崎由基男

ページ範囲:P.936 - P.938

ポイント

 血栓は凝固過程と線溶過程のバランスの上に成り立っている.

 血液検査は血栓形成傾向の存在はわかるが,血栓存在の確定診断にはならない.

 生体内の血小板活性化状態の判定には,11-DHTXB2とPF-4の測定などが適している.

 内皮細胞傷害マーカーとして現時点ではトロンボモジュリンが最も良い.

 凝固亢進の分子マーカーとしてはTAT,SFMC,F1+2などが適当である.

 線溶系分子マーカーとしてはD-ダイマー,PICが使用されている.

血栓症を画像で診断する―超音波法

著者: 浅田健一 ,   竹中克

ページ範囲:P.939 - P.941

ポイント

 経胸壁心エコー,経食道心エコーは心内血栓の診断に有用である.

 モヤモヤエコー像や左心耳内血流速度は,血栓のできやすさを予測する大きな助けとなる.

血栓症を画像で診断する―CT・MR

著者: 松本一宏 ,   陣崎雅弘 ,   栗林幸夫

ページ範囲:P.942 - P.944

ポイント

 下肢静脈血栓症の画像診断は従来の静脈造影に代わり,CT・MRが重要な位置を占めるようになってきている.

 マルチスライスCTを用い,肺動脈と下肢静脈を一度に評価できるようになった.

 MRでは造影剤を用いずに下肢静脈をある程度まで描出できるが,下腿部の詳細な評価には造影剤が用いられる.

血栓症を治療する―エビデンスを活かしたアプローチ 【基本的な診療の進め方】

血栓症治療・予防の原則

著者: 後藤信哉 ,   岡本奈美

ページ範囲:P.946 - P.948

ポイント

 血流うっ滞下の血栓形成には凝固系が,動脈血栓の形成には血小板が重要な役割を果たす.

 血小板と凝固系は相互に活性化し合ってpositive feedbackを形成する.

 血流うっ滞下の血栓には抗凝固薬,動脈血栓には抗血小板薬を選択するのが原則である.

血栓症治療のメタアナリシス(ATT)

著者: 内山真一郎

ページ範囲:P.949 - P.953

ポイント

 心筋梗塞の既往,急性心筋梗塞,脳卒中・TIAの既往,急性虚血性脳卒中,その他の高リスク患者では,抗血小板療法により血管イベント(脳卒中,心筋梗塞,血管死)は有意に減少する.

 抗血小板療法により出血性脳卒中と頭蓋外大出血は有意に増加するが,血管イベント減少効果がはるかに上回るので,これらの高リスク患者には抗血小板療法の適応が正当化される.

血栓症診療のガイドライン

著者: 西山信一郎

ページ範囲:P.954 - P.956

ポイント

 血栓症治療としてアスピリンの有用性は確立している.

 一次予防から急性心筋梗塞まで,虚血性心疾患の重症度にかかわらず,診療ガイドラインが策定されている.

 血栓症の発症頻度,重症度には人種差が存在する.

抗血栓薬の治療モニタリング

著者: 辻肇

ページ範囲:P.958 - P.960

ポイント

 ワルファリン,ヘパリンを用いる場合,投与量の治療モニタリングが必要である.

 ワルファリンの治療モニタリングには,INRを用いる.

 ワルファリン投与においては,適応疾患ごとに推奨治療域が提案されている.

 ヘパリンのモニタリングには,APTTが用いられる.

 低分子ヘパリンを用いる場合,通常モニタリングは必要とされない.

【疾患別にみた血栓症の治療と予防】

虚血性脳卒中の急性期治療

著者: 大坪亮一 ,   峰松一夫

ページ範囲:P.961 - P.963

ポイント

 脳梗塞は病型によって病態が異なり,治療選択には病型診断と病態把握が重要である.

 誤った治療選択は転帰を悪化させる可能性がある.各種治療の適応基準は遵守すべきである.

 脳卒中専門病棟の整備も重要である.

TIA/脳梗塞の再発予防

著者: 棚橋紀夫

ページ範囲:P.965 - P.967

ポイント

 TIA/脳梗塞の再発予防には,危険因子の発見・管理が重要である.

 危険因子としては,高血圧・喫煙・心疾患・糖尿病・高脂血症・飲酒・運動不足・肥満などがある.

 臨床病型(アテローム血栓性・心原性など)に応じた抗血栓療法が必要である.

 アテローム血栓性脳梗塞・ラクナ梗塞には抗血小板療法,心原性脳塞栓症には抗凝固療法が適応となる.

心房細動の塞栓症予防

著者: 安岡良典 ,   是恒之宏

ページ範囲:P.968 - P.970

ポイント

 脳塞栓予防には,アスピリン,ワルファリンの使い分けが重要で,ハイリスク群では高齢者でも積極的なワルファリンによる予防が必要である.

 洞調律に維持されている場合であっても,塞栓症の危険因子をもつ発作性心房細動では抗凝固療法の継続が必要である.

急性冠症候群(PCI後を含む)

著者: 林孝浩

ページ範囲:P.973 - P.975

ポイント

 冠動脈血栓症である急性冠症候群では,抗血栓療法の果たす役割は大きい.

 急性心筋梗塞では,血栓溶解薬の先行投与と冠動脈形成術の併用療法の有用性が示唆されている.

 急性冠症候群患者では,直ちにアスピリン162~325mgを咀嚼服用させる.

 PCI後の抗血小板薬は,アスピリンとチクロピジンの併用が有効である.

陳旧性心筋梗塞および安定狭心症

著者: 近森大志郎

ページ範囲:P.976 - P.977

ポイント

 陳旧性心筋梗塞では左室内血栓を生じることがあり,ワルファリンを使用する.

 安定狭心症ではプラーク破綻による急性心筋梗塞の発症を予防するために,アスピリン・β遮断薬・HMG-CoA還元酵素阻害薬・ACE阻害薬が有効であるとの治療エビデンスが確立している.

カテーテル治療後

著者: 加藤敦 ,   金澤正晴

ページ範囲:P.978 - P.980

ポイント

 禁忌例ではない冠動脈疾患症例すべてにアスピリンの投与は必要である.

 冠インターベンション後,抗血小板薬の使用は必須である.

 チクロピジンには重篤な副作用もあり,慎重な投与が望まれる.

心臓外科手術後の抗凝固療法

著者: 岡隆紀 ,   坪井潤一 ,   川副浩平

ページ範囲:P.982 - P.983

ポイント

 機械弁(パイロライトカーボンを材質とした)による人工弁置換術患者の管理は重要で,予後を左右する因子となっている.

 ワルファリン内服下でも1~3%程度の血栓の合併症がある.

 機械弁による弁置換術後,INRが安定していても1カ月に1度程度のPTINR検査は必要である.

大動脈瘤/閉塞性動脈硬化症・静脈瘤

著者: 西部俊哉 ,   安藤太三

ページ範囲:P.984 - P.987

ポイント

 腹部大動脈瘤,下肢閉塞性動脈硬化症,下肢静脈瘤は日常診療で最も頻繁にみられる血管疾患である.

 腹部大動脈瘤は大きくなるほど破裂しやすくなり,予防的手術が必要である.

 下肢閉塞性動脈硬化症の治療は,下肢症状の改善だけでなく生命予後の改善も目標とする.

 下肢静脈瘤は自覚症状が強い症例,皮膚症状のある症例,血栓性静脈炎を起こした症例,美容的な要望が強い症例などを手術適応とする.

急性肺血栓塞栓症

著者: 宮本貴庸 ,   丹羽明博

ページ範囲:P.990 - P.992

ポイント

 急性期治療の基本は,抗凝固療法である.血行動態が不安定な重症例では,血栓溶解療法,カテーテルインターベンション,外科療法も考慮される.

 急性期二次予防のためには,下肢静脈うっ滞予防と残存血栓対策が重要である.そのために早期離床および下大静脈フィルターを考慮する.

深部静脈血栓症の予防と治療

著者: 松尾汎

ページ範囲:P.993 - P.995

ポイント

 血栓は血管超音波検査で確認し,原因検索(Virchow三因)も併せて行う.

 抗凝固療法は早期に開始してもよいが,線溶療法は血栓確認後に開始する.

 治療の目標は症状改善や血栓除去と,合併症(肺塞栓症と血栓後症候群)の予防および再発予防である.

 発症・再発予防は,①血流遅延,②凝固亢進,③壁障害への対策である.

旅行者血栓症“いわゆるエコノミークラス症候群”

著者: 飛鳥田一朗 ,   大越裕文 ,   斉藤礼郎

ページ範囲:P.996 - P.998

ポイント

 いわゆるエコノミークラス症候群の病態は航空旅行に伴う深部静脈血栓症,肺動脈血栓塞栓症である.

 航空旅行のエコノミー席を揶揄するようなエコノミークラス症候群の名称は本病態に対して誤解を生みやすく,不適切である.

 発症予防には通常4時間を超えないごとに下肢の運動,水分摂取,深呼吸などを行うことが有用である.

血栓症のインターベンション治療

著者: 金井信恭 ,   黒木一典 ,   山口敏雄 ,   中島康雄

ページ範囲:P.1000 - P.1002

ポイント

 いずれの疾患も時間との戦いである.早期診断,迅速な治療が必要であるため十分な知識・技術が求められる.

 血栓溶解療法では出血のリスクを伴うため,個々の症例に応じた溶解薬投与量の決定が重要となる.

 IVRの適応と限界について十分に知っておく.

慢性DIC

著者: 廣澤信作

ページ範囲:P.1003 - P.1005

ポイント

 慢性DICは組織因子が発現して,凝固系が活性化される.

 大動脈瘤,心室瘤,巨大血管腫,固形癌などの基礎疾患で発症する.

 FDPやDダイマーは増加するが,フィブリノゲンや血小板は正常ないし軽度減少する.

 出血症状がみられることもあるが,臓器障害はみられない.

TTP/HUSの病態と治療

著者: 高松純樹

ページ範囲:P.1006 - P.1008

ポイント

 TTPは重篤な血小板減少症,溶血性貧血,精神神経学的異常,腎機能障害と発熱の5兆候を特徴とする進行性の致死的な疾患である.

 HUSは溶血性貧血,血小板減少,急性腎不全を特徴とした疾患である.

 TTPの本態はvWFメタロプロテアーゼ活性の低下であり,後天的なインヒビター例と先天性欠乏例がある.HUSではこの酵素活性の低下はない.

 治療の目標はこの酵素活性を十分に発現させること(血漿交換,血漿輸注)である.

生活習慣病にアスピリンは必須薬か

著者: 西村重敬

ページ範囲:P.1011 - P.1013

ポイント

 心血管事故率が約1.5%以上/年の例では,75,100mgの少量のアスピリン投与で,非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中発症率および心血管死亡率の減少効果が得られる.

 アスピリンの重大な副作用は,出血であり,量が増すと出血性合併症が増加する傾向がある.低用量の腸溶剤を投与しても,出血の副作用の危険性は避けられない.

血栓症診療プラスワン

そのほかの抗血栓薬にエビデンスはあるのか

著者: 池田宇一

ページ範囲:P.1014 - P.1016

ポイント

 抗血小板療法の基本薬はアスピリンであるが,ほかにも種々の作用機序の抗血小板薬があり,大規模臨床試験でその有用性が証明されてきている.

 経口トロンビン薬の臨床治験が進行中で,ワルファリンに代わる画期的な抗凝固療法薬になるものと期待される.

新しい血栓治療薬

著者: 宮本信三

ページ範囲:P.1018 - P.1020

ポイント

 重症の不安定狭心症例にはGPIIb/IIIa受容体拮抗薬を使用することが推奨されている.

 キシメラガトランは凝固モニタリングの必要性がなく,血栓塞栓症に対し優れた予防効果を示す.

 キシメラガトランは食物や他剤の影響を受けにくい.

アスピリンの対費用効果を考える

著者: 山崎力

ページ範囲:P.1022 - P.1023

ポイント

 医療の経済学的評価は,医療に投入される費用,健康の改善度の2つの指標を比較することで行う.

 アスピリンは,スタチン,ACE阻害薬などと比較してほぼ同等の心血管イベント抑制効果を有する一方,薬剤費用は少ないことから,医療経済の観点から非常に効率の良い治療薬といえる.

抗血栓療法中の患者に対する生活指導

著者: 上塚芳郎

ページ範囲:P.1024 - P.1027

ポイント

 ワルファリン療法の中断不能例については,手技によりワルファリンの減量ですむ場合と,ヘパリンに変更する必要のある場合がある.

 内視鏡的ポリペクトミーや胸腔穿刺の際はワルファリンを中止する.

 高齢者ではワルファリンの必要量が減る.

 ワルファリン療法中は納豆,クロレラ,乾燥ワカメは禁忌である.

抗血栓薬の薬物相互作用

著者: 上野和行

ページ範囲:P.1028 - P.1031

ポイント

 薬物動態に関する相互作用,特にワルファリンを中心に解説する.

 ワルファリンは光学異性体により薬理効果が異なり,R体よりS体が数倍強い.また代謝酵素も同様で,S体はCYP2C9により,R体はCYP1A2,CYP3A4で代謝される.

 ワルファリンではCYP2C9を介する相互作用が問題であり,ブコローム,アミオダロン,ベンズブロマロン,フルコナゾールなどがあり,血中濃度が約2倍上昇する.

理解のための30題

ページ範囲:P.1032 - P.1037

輸血のきほん(7)

輸血合併症と対処

著者: 松崎道男

ページ範囲:P.1038 - P.1042

輸血療法は,緊急時の出血や手術の際に欠かせない治療法であり,その有効性は広く認識されている.一方,この治療は,ヒトの細胞あるいは血液中の蛋白を使用する臓器移植に匹敵する独特な治療法であり,厳重な管理のもとで行われなければ,はなはだ危険な治療法になるものでもあり,医療者は輸血合併症と対処法を熟知しなければならない.


輸血副作用の種類


 輸血副作用の種類は非常に多いが,ここでは代表的なものを発症時間および免疫学的機序の有無により大別し表1に示した.

聖路加国際病院内科グランドカンファレンス(5)

発熱を主訴に受診した,肺結核の既往のある73歳男性

著者: 蝶名林直彦 ,   那須英紀 ,   佐藤智也 ,   小野宏 ,   小林美和子 ,   堀田敏弘 ,   堀ノ内秀仁 ,   春日章良 ,   田口智博 ,   鈴木高祐 ,   岡田定 ,   負門克典 ,   横田恭子 ,   小松康宏 ,   松井征男

ページ範囲:P.1044 - P.1053

蝶名林(司会) それでは本日のグランドカンファレンスを始めます.プレゼンテーションをお願いします.

症例呈示

 佐藤(担当医) 症例は,73歳男性.主訴は発熱.プロフィールは,もと教師(国語・体育)でADL(日常生活動作)は自立.奥さんと2人暮らしです.

 現病歴,既往歴などを以下に示します.


 現病歴:2002年1月に喀血を主訴に紹介され,当院を受診.手足の多発性関節痛,腫脹,筋力低下,RA高値が認められ,関節リウマチおよびそれに伴う肺病変との診断で経過観察された.同年5月にも同様の喀血があり,気管支鏡にてリンパ球優位の淡血性のBALF(気管支肺胞洗浄液)を認めた.同年7月には浸潤影の出現を認め,TBLB(経気管支肺生検)にて肺胞腔内器質化像を認め,関節リウマチに伴う器質化肺炎と診断され,プレドニン®を1日30mgで開始.同年8月のCTにて陰影の改善傾向を認め,以降外来でプレドニン®を減量し,同年10月上旬には20mg/日まで減量した.しかし,10月28日に再び発熱と胸部X線上の多発空洞影が出現し,腎機能の悪化を認めたため精査加療目的に入院となった.

院内感染コントロールABC(6) (最終回)

職員への院内感染対策

著者: 遠藤和郎

ページ範囲:P.1056 - P.1060

症例提示

 1年次研修医.発熱,咽頭痛,全身の水疱にて救急室受診.

 2週間前に救急室で水痘の児を診察.当直後から全身倦怠感出現.夜から発疹に気づく.翌日,全身に水疱が広がり,38℃以上の発熱が続き,入院となった.診断は水痘.4日間入院し,皮疹が痂皮化するまで8日間研修を休んだ.体調が回復するまで,8回の夜勤を他研修医に代わってもらった.医療費として約5万円支払った.水痘潜伏期間から発症時まで,この研修医は小児悪性腫瘍グループを研修しており,重症免疫不全児5名の診察をしていることが判明した.わが国には水痘用高力価γグロブリンがないため,仕方なくアシクロビルを予防投与した.幸い,水痘感染者は出なかった.

演習・小児外来

〔Case3〕左側腹部から鼠径部にかけての水疱群と発熱がみられた6歳男児

著者: 髙山直秀

ページ範囲:P.1061 - P.1063

症 例:6歳男児.

 主 訴:左側腹部から鼠径部にかけての水疱群と発熱.

 家族歴:父はアレルギー性鼻炎,妹は魚介類にアレルギー反応あり.

 既往歴:生後4カ月頃より1歳まで,アトピー性皮膚炎のため近医で外用薬と抗アレルギー薬の投与を受けていたが,それ以後は外用薬のみで経過をみている.1歳8カ月で水痘ワクチン接種(ロット:BVZ0034)を受けた.3歳7カ月のとき保育園で水痘が流行したが,発症しなかった.

 現病歴:5月1日より左側腹部から鼠径部にかけて小水疱ができた.翌日は水疱の数が増し,38℃台の発熱があったため,近くの皮膚科医院を受診し外用薬を処方された.5月3日には体温が39℃となり,右背部と顔面にも発疹が数個出現したため,近医から当院に紹介されて入院した.なお,入院翌日にペニスの右側に水疱が出現した.

 現 症:左腸骨部から左鼠径部,外陰部にかけて帯状に発赤と痂皮化し始めた小水疱がみられ,一部にびらんもみられた(図1).右背部(図2),左右頬部にも痂皮形成が始まった小水疱が数個みられた.

カラーグラフ 足で診る糖尿病(6)

足の変形

著者: 新城孝道

ページ範囲:P.1064 - P.1065

足の診察での視診は最も重要である.どのような所見が異常であるのかの鑑別が重要である.足の変形は,異常所見として捉えるべきである.

 「外反母趾」:足の変形では,第1基節骨がMP(中足趾節)関節で外転位をとる変形が外反母趾としてよく認知されている.X線検査では外反母趾角15度以上,M1M2角9度以上を外反母趾としている.外反母趾は先天的な要素と後天的な両要素を備えている.後者に関しては関節リウマチで好発し,女性によくみられ,殊にハイヒールのような履物との関係がよく取り沙汰されている.糖尿病の患者では,糖尿病神経障害で横アーチの低下がみられ開張足をとりやすい.また糖尿病患者での外反母趾は履物での機械的刺激を受けやすく,角質増殖反応をもたらす(図1).前足部中央の足底部の角質異常例は,メタタルザールバーなどの前足部のアライメントを是正するグッツが必要である.また関節変形部は滑液膜炎をきたしやすい.母趾の外反に対して小趾の内反の併発例が多い.履物の選択では爪先の広い,足趾を圧迫しないものが必要である.

連載

目でみるトレーニング

著者: 藤野晋 ,   今田恒夫 ,   津本学

ページ範囲:P.1067 - P.1074

問題 373

 症 例:68歳,女性.

 主 訴:増悪する労作時胸痛.

 既往歴:60歳のとき,検診で糖尿病,高血圧,高脂血症を指摘され,以後近医で投薬治療を受けている.喫煙歴はない.

 現病歴:5年前より時に労作時胸痛を認めていたが,安静にしていると10分程度で軽快していた.昨年の夏,一度胸痛発作があったときには冷汗を認めた.ここ1カ月は300m歩行でも胸痛を認め,胸痛の回数も週3回認めるようになったため,精査目的で当院循環器内科紹介となる.

新薬情報(40)

オルメサルタン メドキソミル(オルメテック®錠10mg,20mg)Olmesartan Medoxomil

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.1076 - P.1078

適応■高血圧症

用法・用量通常■成人にはオルメサルタン メドキソミルとして10~20mgを1日1回経口投与する.なお,1日5~10mgから投与を開始し,年齢,症状により適宜増減するが,1日最大量は40mgまでとする.

書評

胃の病理形態学

著者: 浅香正博

ページ範囲:P.971 - P.971

 滝澤先生の書かれた『胃の病理形態学』には,今をときめく分子生物学的研究成果がどこにも記載されていない.都立駒込病院病理時代の豊富な症例1例1例を丹念に観察した自分の目に全幅の信頼をおき,過去の文献を参照しながら考えをまとめる手法をとっている.古典的ではあるが,オーソドックスなやり方である.胃や腸疾患などの臨床病理学的研究は本来がretrospective studyなので,症例が他のどの施設より多く,また観察方法や解釈においてこれまでのどの報告をも凌駕しているとの確固とした自信がなければ,本にまとめる勇気などなかなか出るはずがない.

 著者自身が序文のなかで述べているように,2001年ニューヨークにおける同時多発テロと2002年の同僚の突然の腫瘍死がこの本をまとめるきっかけとなっている.“人生には限りがあり,本を書くための残り時間は少ないということを教えてくれた事件と人の死であった”との並々ならぬ決意から出発したのである.

心臓弁膜症の外科 第2版

著者: 渡邊剛

ページ範囲:P.981 - P.981

 ご存じのように編者の新井達太先生はSAM弁の考案者として知られる,弁膜症はもちろんのこと日本の心臓外科の泰斗である.

 本書の初版刊行は1998年の2月である.第2版序文にあるように,第28回日本心臓血管外科学会総会の図書展示で発売され,完売してなおback orderをかかえるほどの好評を博したということである.従来,心臓弁膜症に対する外科治療の,特に手技を中心とした日本語の教科書はほとんどなかった.この好評は,いかに多くの外科医が実践的な弁膜症の,しかも日本語の教科書を熱望していたかという証左であろう.第2版はその後5年を経て,多くの新知見,新たな術式の開発などを踏まえて大幅な改訂が行われたものである.初版時には普及していなかったstentless valveや大動脈弁輪拡張症の外科治療,僧帽弁温存手術,Maze手術,そしてRobot支援手術などが追加され書き改められている.

平静の心―オスラー博士講演集 新訂増補版

著者: 吉田修

ページ範囲:P.1043 - P.1043

 私の手元に3冊の『平静の心』(オスラー博士講演集 日野原重明,仁木久恵訳 医学書院)がある.1冊目は1983年9月発行の初版で,至るところに傍線や書き込みがあり,かなり傷んでいる.2冊目はその翌年新訂されたものであり,いつも自宅の書斎に置いている.3冊目が今回,新訂増補版として出版されたものである.

 「そこから何を学んできたか?」一言で答えるのは難しいが,「結びの言葉 L’ENVOI」に述べられている3つの信条を拳拳服膺してきた.第1は,今日の仕事に全力を傾注し,明日を思い煩わないというカーライルの言葉であり,第2は,同僚と患者に対して黄金律をもって接すること,すなわち何事でも人々からしてほしいと望むことは人々にもそのとおりにする,人々からされてはいやだと思うことは,他人に向かってもなさないようにすることであり,第3は,成功を謙虚に受け止めるだけの心の平静さをもつことである.医師にとって沈着な姿勢,これに勝る資質はなく,また悲しみの日が訪れたときには人間にふさわしい勇気をもってこれにあたることができるような,そういう平静の心を培うことである.第1の信条は「生き方A Way of Life」にも詳しく述べられているが,そこでは昨日と今日,今日と明日の間を鉄の隔壁で閉ざした防日区隔室(Day-tight-compartments)のなかで生きるよう説いている.これはオスラーがイギリスからアメリカへ渡るとき,船には安全を確保するために防水区隔室(Water-tight-compartments)があることを船長から聴いて,「水」を「日」に換えた造語を思いついたのである.さらに人生における習慣と集中力の重要さを強く訴えている.黄金律については,孔子の《恕》すなわち「汝の欲せざる所他の人に施すことなかれ」も引用している.「平静の心」は本書の題名にもなっているように,オスラーの医師としての生き方の基本になっているものである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?