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雑誌目次

雑誌文献

medicina41巻8号

2004年08月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医が診るしびれと痛み しびれと痛みの基礎

しびれと痛み―Overview

著者: 山脇健盛

ページ範囲:P.1258 - P.1260

ポイント

 しびれの定義は人によって異なる.一般には自発的に生じる異常な自覚的感覚を指すことが多いが,運動障害のことを「しびれ」と訴えることがあり,具体的な内容を確認する必要がある.

 表在感覚,深部感覚のどの種類の感覚が障害されてもしびれは出現しうる.また感覚経路のどこで障害されてもしびれは出現しうる.

 しびれ,痛みの診察では問診が最も重要である.

しびれ,痛みを感じるメカニズム

著者: 國本雅也

ページ範囲:P.1261 - P.1263

ポイント

 しびれ発生の末梢機序は,有髄神経の脱髄巣に生じる神経軸索からの異常興奮である異所性インパルスの発生と,脱髄部どうしの神経線維間のインパルス交換であるエファプス伝達が主なものである.

 痛みも末梢では同様の原因が考えられ,さらに中枢では痛覚伝導路が切断された場合に,より上位のニューロンが過剰反応する求心路遮断痛が重要である.

しびれと痛みの理解に必要な神経解剖

著者: 長谷川修

ページ範囲:P.1265 - P.1267

ポイント

 しびれは病的な複合感覚である.

 侵害受容性疼痛には鎮痛薬が効きやすいが,神経原性疼痛には効きにくい.

 痛覚受容器には2種類あり,高閾値機械受容器はAδ線維を通してfast painを,ポリモーダル受容器は無髄C線維を通してaching painを伝える.

 皮膚の触圧覚や深部感覚の一次求心神経は太いAα線維とAβ線維から,温痛覚は細いAδ線維と無髄C線維から成る.これらは別経路を介して視床に至る.

 慢性痛は痛覚系神経回路における一種の記憶と捉えられる.

病歴聴取,所見のとり方と鑑別診断

一側または両側上肢のしびれと痛み

著者: 原田俊英

ページ範囲:P.1268 - P.1273

ポイント

 患者から具体的な表現を聴取記載し,感覚障害の部位・進展範囲,発症様式,経過,既往歴などを聴取する.

 皮膚の感覚神経支配領域または皮膚分節に一致するか,いずれにも合致しないか,上半身のチャートに記載すれば,所見を把握しやすい.

 鑑別診断は,末梢神経,脊髄,脳の障害あるいはその他の内科疾患に分類して行う.

一側または両下肢のしびれと痛み

著者: 田中尚 ,   藤村晴俊

ページ範囲:P.1274 - P.1276

ポイント

 下肢のしびれと疼痛をきたす原因は,末梢神経障害,脊髄障害,脊椎疾患,神経根障害,下肢の血管障害など多岐にわたる.

 糖尿病,悪性腫瘍,代謝性疾患など内科的合併症による疾患も多い.

 種々の疾患の特徴を念頭に入れて,病歴を聴取し,神経学的診察と検査を行うことによって,局在診断と鑑別診断を絞り込んでいく.

四肢の対称または非対称的なしびれと痛み

著者: 矢崎正英

ページ範囲:P.1277 - P.1279

ポイント

 四肢の知覚障害(しびれ・痛み)を訴える患者を診察する場合,以下の点に留意して鑑別診断を行う.

 ・知覚障害の性質,分布を的確に把握する.

 ・病歴・身体所見を総合して,局所診断を進めていく.感覚障害だけにとらわれず,筋力や深部腱反射の異常の有無も必ず診察する.

 ・神経疾患のみにとらわれず,常に隠れた内臓疾患の有無には留意して診察する.

一側上下肢のしびれと痛み

著者: 片田栄一

ページ範囲:P.1280 - P.1283

ポイント

 一側上下肢(軀幹,顔面を含む)の感覚障害をきたす脳疾患では,脳血管障害・脳腫瘍・多発性硬化症がある.

 頸部以下の半身のしびれでは,脊髄疾患として変形性頸椎症・脊髄腫瘍・脊髄型多発性硬化症が挙げられる.

 多発単神経炎の病初期に一側上下肢に感覚障害を認める.ヒステリー性半身知覚障害や局在関連てんかんも鑑別すべき精神疾患である.

軀幹部のしびれと痛み

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.1284 - P.1286

ポイント

 軀幹部のしびれや痛みは胸腹部のそれらと重複するので,神経系由来か内臓由来か,それとも筋・骨格系由来かを鑑別する必要がある.

 神経系の診察ではデルマトーム(皮膚分節)の理解が重要であり,C4とT2分節の間の不連続線を利用した診察法(cervical line)が有用である.

 胸部帯状痛や狭心痛様発作は頸椎部病変でも出現する(偽性局在徴候).

緊急を要するしびれと痛み

著者: 福田倫也

ページ範囲:P.1287 - P.1289

ポイント

 緊急を要するしびれ,痛みをきたす疾患として,脳血管障害,脊髄血管障害,多発性硬化症,Guillain-Barré症候群などが挙げられる.

 脳血管障害では,視床の障害でしびれを訴えることが多い.

 前脊髄動脈症候群では,障害部以下に感覚解離が認められる.

 多発性硬化症の初発症状ではしびれは25%の症例に認められ,運動麻痺より多い.

 Guillain-Barré症候群の臨床経過中にも65%にしびれが認められ,決して稀な症状ではない.

しびれ,痛みの評価

しびれ,痛みの定量的評価

著者: 寺山靖夫

ページ範囲:P.1290 - P.1293

ポイント

 しびれ,痛みを客観的に定量化することは困難である.

 主観的なしびれ,痛みを,質と強さの面から記述する評価方法が主流である.

 QOLに及ぼす影響を定量的に評価する方法が開発されている.

電気生理学的検査の意義

著者: 園生雅弘

ページ範囲:P.1294 - P.1296

ポイント

 “しびれ”の評価のための電気生理学的検査は,十分な神経学的検討に基づいて計画されるべきであり,神経内科専門医からオーダーされるべきである.

 “しびれ”が運動障害を指す場合,特に筋力低下が存在する場合には,電気生理学的に障害のレベル診断・局在診断が可能である.

 “しびれ”が感覚障害を指す場合,感覚低下・脱失などの陰性症状は電気診断の対象となるが,陽性症状である異常感覚や“痛み”は電気生理学的評価が難しい.

 脳梗塞は,感覚障害としての“しびれ”の原因としては頻度は低い.他疾患を先に検索すべきである.

画像診断の適応と限界

著者: 小張昌宏

ページ範囲:P.1298 - P.1301

ポイント

 すべての画像検査を機械的に施行すると,無駄が多く精度も低くなる.

 まず,十分な問診と神経学的診察を行い,しびれや痛みの原因となる病巣部位を絞り込む(局所診断).

 必要に応じ,適切な画像検査と撮影法(造影剤の有無など)を選択する.

内科医が知っておきたい整形外科的疾患の診断のポイント

頸椎病変

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.1302 - P.1304

ポイント

 しびれや痛みをもたらす頸椎病変は多い.

 椎間板ヘルニアや頸椎症の頻度が高い.

 関節リウマチなどの炎症性疾患や,腫瘍などもしびれの原因となる.

腰椎病変

著者: 水谷潤

ページ範囲:P.1306 - P.1309

ポイント

 神経学的脱失症状と疼痛部位の把握をすることでおおよその障害部位が見えてくる.おかしいなと思うセンスを養うこと.

 専門的に個別疾患の診断をする必要は全くない.

 おかしいと感じたら迷わず専門施設へ紹介を.

胸郭出口症候群

著者: 西田淳 ,   嶋村正

ページ範囲:P.1310 - P.1312

ポイント

 胸郭出口症候群は腕神経叢が絞扼されて,上肢のしびれ,肩凝りなどの症状をきたす疾患である.

 なで肩の人に発症しやすく,中年女性に多い.

 症状誘発試験による症状の再現性の有無,種々の検査所見の結果などから総合的に診断する.

 まず体操療法を行い,効果が不十分な例には装具療法,ブロック療法を追加する.

手根管症候群

著者: 佐藤和毅 ,   高山真一郎

ページ範囲:P.1313 - P.1315

ポイント

 手根管症候群は正中神経が手関節掌側の手根管で絞扼障害されるもので,絞扼性神経障害のなかで最も頻度が高い.

 母指から示指,中指,環指の橈側にしびれ,知覚障害,疼痛を訴え,特に,中指,環指の症状が初発となることが多い.

 診断には,視診,知覚機能検査,各種誘発試験のほか,電気生理学的試験が有用である.

 治療は軽症例では保存的となるが,進行例では手術を考慮する.

その他のentrapment neuropathy

著者: 長岡正宏

ページ範囲:P.1316 - P.1318

ポイント

 頸椎に障害がなく,環小指にしびれ感を訴える場合は第一に肘部管症候群を考える.

 筋萎縮を呈する絞扼神経障害(entrapment neuropathy)は手術の適応がある.

 糖尿病性神経障害は否定的で,脊椎障害がなく,足指・足底にしびれ感を訴える場合には,足根管症候群も考慮する.

内科的疾患の診断と治療

糖尿病性ニューロパチー

著者: 安田斎

ページ範囲:P.1320 - P.1322

ポイント

 糖尿病性ニューロパチーには多様な病型が含まれるので,主要病型のポリニューロパチーの診断には注意を要する.

 糖尿病性ポリニューロパチーはおおむね足袋型の感覚異常を呈するが,種々の原因による根神経症やモノニューロパチーの合併が多いので注意を要する.

 治療法は血糖コントロールが重要.HbA1cは6.5%以下を目指す.

 本質的治療薬アルドース還元酵素阻害薬は一部患者には有用であるが,エビデンスはあまり高くない.痛み・しびれには三環系抗うつ薬が最も有効で,抗痙攣薬やメキシレチンも有用.

全身疾患に伴うニューロパチー(膠原病,悪性腫瘍,代謝性など)

著者: 湯浅浩之 ,   三竹重久

ページ範囲:P.1323 - P.1325

ポイント

 膠原病に伴うニューロパチーは,主として神経栄養血管の血管炎に起因する多発単神経炎であるが,多発神経炎・単神経炎の型をとることもある.

 悪性腫瘍に伴うニューロパチーは,そのほとんどが肺小細胞癌に伴う亜急性感覚性ニューロパチーである.腫瘍に先行してニューロパチーが出現することがあり注意を要する.

免疫性ニューロパチー

著者: 市川靖充 ,   荒崎圭介

ページ範囲:P.1326 - P.1328

ポイント

 免疫性ニューロパチーには大別して膠原病に伴うニューロパチー,悪性腫瘍などに伴うニューロパチー,自己免疫に伴うニューロパチーがある.

 自己免疫に伴うニューロパチーは,基本的な病態は末梢神経を標的とする自己免疫疾患で,発症する機序に先行感染がかかわっていると考えられている.

中毒性・薬剤性ニューロパチー

著者: 千葉進 ,   田中真悟 ,   古山裕康

ページ範囲:P.1329 - P.1331

ポイント

 重金属,化学物質,薬剤などによる末梢神経障害を中毒性・薬剤性ニューロパチーという.

 診断には中毒物質の曝露,薬剤服用歴,職業歴や居住歴の病歴聴取が重要.

 原因物質の曝露,薬剤投与の中止で症状は停止・改善するが,一部は中止後も症状が進行.

 ビタミンB6の大量投与はむしろ末梢神経障害の原因.

脊髄・馬尾疾患に伴うしびれと痛み

著者: 安藤哲朗 ,   杉浦真 ,   加藤博子

ページ範囲:P.1332 - P.1334

ポイント

 脊髄疾患の診断には,部位診断(高位,横断面の広がり)と質的診断の両者が必要である.

 脊髄硬膜動静脈瘻(arteriovenous fistula:AVF)は,有効な治療があるので,見逃してはいけない.

 四肢の一定部位に起こる短時間の発作的な疼痛と痙攣(painful tonic seizure)やかゆみ発作(paroxysmal itching)は,多発性硬化症で特徴的な症候である.

脳血管障害に伴うしびれと痛み

著者: 奥田聡

ページ範囲:P.1336 - P.1338

ポイント

 脳血管障害発症時に不快感を伴う四肢のしびれや痛みが主訴となることは稀である.

 手口症候群は診断上有用な症候である.

 Wallenberg症候群では,感覚解離とともに交差性感覚麻痺を呈する.

 動脈解離による頭痛・顔面痛に注意する必要がある.

 視床痛は求心路遮断痛と考えられ,通常の鎮痛薬は無効である.

 肩手症候群は反射性交感神経性ジストロフィの一種である.

精神科疾患・心理要因によるしびれと痛み

著者: 龍庸之助 ,   水野雅文

ページ範囲:P.1339 - P.1341

ポイント

 精神科疾患でしびれと痛みを呈する疾患を解説した.

 しびれや痛みの存在や強さは,不安や気分障害により左右される.

 精神疾患の適切な診断により,治療法が選択される.

原因がつかめないしびれと痛み

著者: 後藤淳

ページ範囲:P.1342 - P.1346

ポイント

 臨床の現場では,原因がつかめないしびれや痛みは少なくない.

 原因がつかめないときには,十分な問診や診察,適切な臨床検査による情報が不足している可能性を絶えず検討すべきである.
 
 原因がつかめても治療抵抗性であることもあるので,原因解明のみに固執せず,しびれと痛みを取るさまざまな努力を続けるべきである.

特殊な病態や疾患

Complex regional pain syndrome

著者: 大内貴志 ,   小板橋俊哉

ページ範囲:P.1349 - P.1351

ポイント

 CRPSは強い痛みを主体とする疾患であるが,さまざまな病状を呈するうえに除外診断を行う必要があるため,診断が困難な場合がある.

 また,早期診断・早期治療を行えなかった場合,治療抵抗性を示すことがあるため,この疾患を疑った際は,早期に専門病院に紹介することを考慮する.

帯状疱疹(zoster sine herpeteを含む)

著者: 寺井正

ページ範囲:P.1352 - P.1354

ポイント

 帯状疱疹で皮疹に先行した痛みを主訴として来院することがあり,肋間神経領域の痛みでは他の胸痛を呈する疾患との鑑別が重要.

 帯状疱疹で皮疹治癒後も痛みが持続することがあり,帯状疱疹後神経痛という.難治性である.

 水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化時,皮疹を生じずデルマトームに一致した痛みのみが主症状となることがあり,zoster sine herpeteと呼ぶ.

リウマチ性多発筋痛症

著者: 坂野章吾

ページ範囲:P.1356 - P.1357

ポイント

 痛みを主訴とする比較的高齢者に多い疾患としてリウマチ性多発筋痛症がある.

 リウマチ性多発筋痛症は除外診断的な要素があり,鑑別診断が重要である.

 少量のステロイド薬で症状は劇的に改善し,診断的治療になる.

閉塞性動脈硬化症

著者: 内田智夫 ,   佐久間正祥

ページ範囲:P.1358 - P.1360

ポイント

 閉塞性動脈硬化症(ASO)は四肢のしびれや痛みが出現する疾患の一つである.

 ASOは全身の動脈硬化症の一部分症であり,脳梗塞や虚血性心疾患を合併していることが多い.

 これらの患者は運動制限のため間歇性跛行が出現しにくいので,動脈の拍動を触診することが重要である.

 ABPIが0.9以下では,血管造影を施行し,血管内治療を含む外科的治療の適応を検討することが望ましい.

こむら返り(有痛性筋痙攣)

著者: 高尾昌樹

ページ範囲:P.1361 - P.1363

ポイント

 「こむら返り」とは特に下腿三頭筋に生じる有痛性筋痙攣である.

 有痛性筋痙攣は不随意で突然の筋収縮であり,痛みを伴うものである.

 正常者に加え,妊娠,肝硬変,血液透析患者に多い.

 有痛性筋痙攣を起こした際は,その筋のストレッチが有効であり,普段からストレッチを心がけることは予防にもつながる.

 内服治療も一部には有効であるが,常に利点と欠点を考えたうえで使用する.

しびれと痛みに対する対症療法

ビタミン剤は有効か

著者: 高橋一司

ページ範囲:P.1364 - P.1368

ポイント

 しびれと痛みに対するビタミン剤の有効性は,エビデンスとして確立されていない.

 臨床試験の結果から,B1製剤は痛みを中心にした病状に,B12製剤はしびれや異常感覚に対して効果が期待できる.

 治療効果が不明瞭の場合には,長期に及ぶ投与の継続は避けるべきである.臨床試験では4週間程度,長くても3カ月以内に効果が確認されていることが多く,長期にわたる治療の有効性はほとんど検討されていないからである.

その他の薬物治療

著者: 高橋慎一

ページ範囲:P.1369 - P.1371

ポイント

 いずれの薬剤も初回は少量から開始し,効果が得られる維持量まで漸増する.

 作用機序の異なる鎮痛補助薬は非ステロイド抗炎症薬とともに2,3剤を併用することが多い.

外科治療

著者: 平孝臣

ページ範囲:P.1372 - P.1375

ポイント

 しびれや痛みは,神経が障害されて生じる神経因性疼痛である.

 神経因性疼痛の治療は,生理的な痛みの治療とは全く異なる.

 十分な保存治療にも抵抗する場合には,外科的治療が適応となる.

 外科的治療には,脳や脊髄の慢性電気刺激,脊髄後角の凝固術などさまざまなものがある.

東洋医学からのアプローチ

著者: 藤井亜砂美 ,   佐藤弘

ページ範囲:P.1376 - P.1378

ポイント

 しびれ・痛みの部位,原因,性状などにより異なる漢方薬を使い分ける.

 近代医学的治療に反応しないしびれ・痛みにも効果を発揮しうる.

 しびれ・痛み以外の全身への効果も同時に期待できる.

 治療に伴う副反応に考慮した処方を選択することができる.

ペインクリニックからのアプローチ

著者: 大瀬戸清茂

ページ範囲:P.1379 - P.1381

ポイント

 しびれと痛みは,中枢から脊髄,末梢神経に至る部分で何らかの障害を受けた場合に,生じると考えられる.

 ペインクリニックで行われる神経ブロックは,それぞれ神経の障害に応じた部位への治療が可能である.

 しびれの原因にはいくつかあるが,それらのなかで神経因性疼痛の治療には難渋する.

リハビリテーションからのアプローチ

著者: 出江紳一 ,   近藤健男

ページ範囲:P.1382 - P.1384

ポイント

 しびれの治療に用いられるリハビリテーション技術には,物理療法,神経ブロック,知覚再教育,認知行動療法などがある.

 治療適応の決定には日常生活動作 (ADL)改善効果の有無が重視される.言い換えれば治療効果が痛みの抑制だけでなくADLの改善度でも計られる.

 中枢性疼痛で,治療効果の機序は感覚野の可塑性から理解される.

理解のための36題

ページ範囲:P.1386 - P.1392

輸血のきほん(9)

免疫グロブリン製剤

著者: 加藤栄史 ,   高本滋

ページ範囲:P.1394 - P.1398

免疫グロブリン製剤は血漿中のγグロブリン分画を分離・精製した製剤である.本製剤はIgクラスのうち,主としてIgGを含んでおり,ウイルスや毒素を不活化したり,貪食細胞の食作用を助けるオプソニン活性を増強する働きを示し,無・低免疫グロブリン血症や免疫不全患者に対する感染症予防,重症感染症の治療に用いられている.また,Fcレセプターの結合阻害などの免疫学的変化を起こすことが知られており,特発性血小板減少性紫斑病(ideopathic thrombocytopenic purpura:ITP)や川崎病などの自己免疫疾患に対しても用いられている.免疫グロブリン製剤の自給率は徐々に改善され,80%に達したものの,残り20%はいまだ輸入に依存している現状である.さらに,他の血液製剤と異なり,明確な使用基準がなく,適応疾患を含め,使用方法が議論されている.本稿では,免疫グロブリン製剤の特徴とその使い方について解説する.

聖路加国際病院内科グランドカンファレンス(6)

頭痛,嘔吐,意識レベルの変容を主訴とした67歳女性

著者: 古川恵一 ,   小林美和子 ,   出雲博子 ,   氣比恵 ,   銭鴻武 ,   真下陽子 ,   綾部悦里好 ,   藤澤聡郎 ,   元木葉子 ,   田口智博 ,   小野宏 ,   飛田拓哉 ,   岡田定 ,   橋本明美 ,   蝶名林直彦 ,   岡安裕之 ,   二ツ山みゆき ,   小林信雄

ページ範囲:P.1400 - P.1410

古川(司会) それでは本日のグランドカンファレンスを始めます.小林先生,プレゼンテーションをお願いします.

症例呈示

 小林(担当医) 患者は67歳女性,独身で一人暮らし, 無職です.主訴は頭痛,嘔吐,意識レベルの変容です.

 現病歴ですが,数日前には元気に買い物に出かけていたとのことですが,9月15日に家族が訪問したところ,不穏状態で床に倒れているのを発見されました.頭痛・腹痛を訴え嘔吐しており,救急車にてF病院へ搬送されました.F病院受診時の血液検査は,WBC22,000/μl,Hb16.4 g/dl,AST165IU/l,ALT75IU/l,BUN24.9 mg/dl,Cre1.7 mg/dl,CK5,828IU/l,CRP25.5 mg/dlと脱水,炎症反応とCKの上昇がみられました.不穏の精査目的で頭部CTを撮影したところ,下垂体部に直径約2cm大の高濃度の陰影を認め,下垂体腺腫が疑われました.

演習・小児外来

〔Case5〕 呼吸困難,頸部・前胸部の膨隆と疼痛を主訴とする15歳女性

著者: 小林茂俊

ページ範囲:P.1411 - P.1414

症 例:15歳,女性.

 主 訴:呼吸困難,喘鳴,頸部・前胸部の膨隆と疼痛.

 現病歴:入院の3日前から軽度の咳嗽が出現していたが,内服により軽快したため放置していた.友人の喫煙を契機に咳嗽が増悪し,急速に呼吸困難が生じたため,近医を受診し入院した.入院時,会話,歩行,食事など不能であった.入院後の治療によっても軽快せず,症状がむしろ悪化し,頸部・前胸部の疼痛とともに膨隆が出現したため,当院に搬送された.

 入院時現症:来院時,起坐呼吸,苦悶様顔貌,多呼吸,陥没呼吸,呼気性喘鳴,呼気の延長を認めた.頸部,前胸部,頬部に膨隆を認め,疼痛を伴っていた.

連載

目でみるトレーニング

著者: 香川礼香 ,   杉山裕章 ,   佐原真 ,   八尾厚史 ,   永井良三 ,   橋本尚子

ページ範囲:P.1415 - P.1423

問題 379

 症 例:75歳,女性.

 主 訴:嘔吐.

 既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴:入院1カ月前に心窩部痛があり胆石症と診断されたが,自然軽快したため放置していた.入院2日前の夕方と入院前日の早朝に右季肋部痛があり,その後腹痛は消失したが,悪心,嘔吐が出現するようになり,嘔吐後楽になるといった症状を繰り返すため,当院受診し入院した.

 入院時現症:身長151.5cm,体重47kg,発熱なく,腹部軽度膨満していたが圧痛ははっきりせず,腸雑音の亢進はなかった.

カラーグラフ 足で診る糖尿病(8)

神経障害による足病変:Charcot関節と絞扼性神経障害

著者: 新城孝道

ページ範囲:P.1424 - P.1425

糖尿病神経障害による足病変は種々あり,骨折や脱臼が生じることは教科書にも記載されている.しかし,実際の臨床の現場で経験することは少ないものと思われる.階段を踏み外したり,高い所から飛び降りたり,落ちたりすると,骨折したのではないかとの疑いが起こり,整形外科を受診したり,単純X線を撮影したりして,容易に診断される.しかし,糖尿病患者ではこのような足への過激な衝撃が及ばなくても脱臼や骨折が起こりやすい.糖尿病患者にみられる骨折は“病的骨折”と称される.

 Charcot関節は神経障害性足関節症とも呼ばれ,Hansen病や脊髄空洞症を含む変性性神経障害でも起こるが,臨床的には糖尿病で好発する.障害部位は足が最も多く,膝関節,股関節,脊椎,肘関節などでもみられる.平坦な道での連続歩行や,階段の上下や坂の登り下りで起こりやすい.また,バスのタラップより地面への着地でCharcot関節を生じた例もある.重い荷物を持っていると荷重負荷がかかりいっそう起こりやすい.足では,足趾部,前足部,中足部,後部および足関節部でみられる.

新薬情報(42)

インスリングラルギン(遺伝子組換え)(ランタス®注カート,キット300) insulin glargine

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.1426 - P.1429

適応■インスリン療法が適応となる糖尿病

用法・用量■通常成人では,初期は1日1回4~20単位をペン型注入器を用いて皮下投与するが,時に他のインスリン製剤を併用することがある.注射する時刻は朝食前または就寝前のいずれでもよいが,毎日一定の時刻とする.投与量は,患者の症状および検査値に応じて増減する.投与量は,その他のインスリン製剤と合計して1日4~80単位であるが,それ以上の投与量が必要になることもある.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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