icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina42巻1号

2005年01月発行

雑誌目次

今月の主題 日常診療で診るGERD(胃食道逆流症) GERDの総論

GERDの疫学―GERDは多いのか

著者: 岩切龍一

ページ範囲:P.8 - P.10

ポイント

胃食道逆流症(GERD)には,典型的逆流性食道炎のほかに内視鏡所見と症状が一致しない症例や胸痛や咳など非定型的症状を有する症例を含み,疫学を論ずるのは必ずしも容易ではない.

従来,本邦におけるGERDの頻度は低いとされてきたが,定型症状や内視鏡所見で見る限り15%前後の頻度で患者が存在しており,本邦でも相当数の患者がいることが判明してきた.

GERDの成因

著者: 本郷道夫 ,   今野昌俊

ページ範囲:P.12 - P.14

ポイント

食道内酸逆流は,胃に食道粘膜傷害性を持った酸がある状態に,食道内への逆流防止機構が破綻したときに出現する.

逆流防止機構の破綻は,一過性LES弛緩,LESの解放状態のほか,腹圧上昇がLES圧を上回ったときに起こる.裂孔ヘルニアのような機械的変化のほか,日常生活動作による影響も少なくない.

GERDの分類

著者: 樋口和秀 ,   藤原靖弘 ,   荒川哲男

ページ範囲:P.16 - P.18

ポイント

週2回以上の胸やけがあればGERDと判断する

GERDは,肉眼的内視鏡所見から,内視鏡陽性GERD(endoscopy positive GERD,erosive GERD)と,内視鏡陰性GERD(endoscopy negative GERD,non-erosive GERD,symptomatic GERD)に分けられる.

通常のGERDは特発性であるが,続発性GERDにはCREST症候群などがある.

GERDの自然経過

著者: 黒澤進

ページ範囲:P.19 - P.21

ポイント

GERDの自然史は知られていないことが多い.

欧米ではBarrett食道から腺癌を発症するケースが増えてきた.

胃酸分泌はHelicobacter pyloriが陰性の場合,高齢になっても低下しない.

GERDは同様のgradeで推移する場合が多いが,治癒または悪化する症例がある.

高齢者で最初の食道炎の程度が高い患者は重症化する可能性がある.

GERD治療の医療経済

著者: 羽生泰樹 ,   渡邊能行 ,   川井啓市

ページ範囲:P.22 - P.24

ポイント

GERDの頻度は増加しており,治療の評価においては,費用対効果の医療経済的側面が重要である.

GERDの初期治療には,当初よりPPIを第1選択として用いるPPI 療法がステップアップ療法より費用対効果に優れ,合理的である.

PPIによる維持療法は,H2RAによる維持療法より費用対効果に優れ,合理的な治療法である.

GERDの診断

GERDの症状

著者: 下山康之 ,   草野元康

ページ範囲:P.25 - P.27

ポイント

逆流性食道炎患者は胃食道逆流による症状を「胸やけ」として訴え,それは内視鏡所見が重症化するにつれ顕著である.

非逆流性食道炎患者は胃食道逆流による症状以外も「胸やけ」と訴えている可能性があり,また神経症的な症状を訴えることも多い.

胸痛・慢性咳嗽・喘鳴・咽喉頭違和感・嗄声・喉頭肉芽腫・耳痛などの症状はGERD由来の可能性がある.

GERDに伴う食道びらん・潰瘍の特徴

著者: 城卓志 ,   和田恒哉 ,   伊藤誠

ページ範囲:P.28 - P.29

ポイント

内視鏡はGERDのルーチン検査として最も有用である.

ロサンゼルス分類では,周囲のより正常に見える粘膜から明確に区分される白苔ないし発赤をmucosal breakとする概念が導入された.

通常,食道遠位端に発生し,縦長,境界は明瞭である.白苔は通常発赤の中央にみられる.

病変の癒合は通常食道遠位端でみられ,変形や狭窄を伴う場合がある.

悪性疾患や腸上皮化生の存在が疑われる場合は生検が必要である.

Endoscopy negative GERDの特徴

著者: 三輪洋人

ページ範囲:P.30 - P.32

ポイント

内視鏡で食道炎の所見がなくても胸やけ症状を呈する患者をendoscopy negative GERD(内視鏡陰性GERD)と呼んでいる.

endoscopy negative GERDは逆流性食道炎の軽症型ではなく,異なった病態をもった疾患である.

endoscopy negative GERDの病態には,酸逆流のほか,食道知覚過敏や食道収縮異常などが考えられる.

GERD診療のための特殊検査

著者: 蘆田潔 ,   福知工 ,   山下博司

ページ範囲:P.33 - P.35

ポイント

食道内pHモニタリングは,胃食道逆流を数量的に捉えるのに優れている.

GERDの重症度と酸逆流量とは相関性があり,逆流量が多いほど重症化する.

症候性胃食道逆流症は,逆流性食道炎よりも逆流量はやや少ないが,病態は近似している.しかし,逆流が正常範囲内の場合でも知覚過敏により発症する.

胃食道逆流の大半は一過性LES弛緩(TLESR)が関与している.

逆流時間の延長例では,食道体部の蠕動運動機能低下がみられる.

GERDの診断プロセス

著者: 島谷智彦 ,   田妻進 ,   井上正規

ページ範囲:P.37 - P.39

ポイント

GERDには,下部食道に粘膜傷害(mucosal break)を伴うendoscopy positive GERDと,自覚症状はあるが粘膜傷害を伴わないendoscopy negative GERDの2つがある.

自覚症状の程度あるいは頻度と内視鏡所見は必ずしも一致しないことを念頭に置く必要がある.

endoscopy positive GERDは上部消化管内視鏡検査で診断可能である.

endoscopy negative GERDの診断は,詳細な問診とPPIテストないし24時間食道内pHモニタリングの組み合わせで行う.なお,心疾患や呼吸器疾患の鑑別も必要である.

GERDと鑑別を要する疾患

皮膚疾患に伴う食道病変

著者: 五味博子

ページ範囲:P.40 - P.43

ポイント

食道は皮膚と同じ扁平上皮なので,皮膚疾患が食道にも出現することがある.

特に口腔内に病変がある皮膚疾患は食道にも病変を伴っていることが多い.

病変の分布はGERDが下部食道であるのに対して,皮膚疾患は食道全範囲に及ぶことが多い.

HIV例の食道病変

著者: 末岡伸夫 ,   西垣均

ページ範囲:P.44 - P.45

ポイント

食道疾患がHIV感染症発見の契機となることがある.

感染性食道炎が主体であり,食道カンジダ症の合併が最も多い.

HIV抗体の有無を調べることによりHIV 感染症と診断できる.必ず,被検者の同意が必要である.

食道カンジダ症をはじめとする感染性食道炎とGERDとは内視鏡検査において鑑別診断可能である.

食道扁平上皮癌

著者: 今岡友紀 ,   森山修行 ,   駒澤慶憲

ページ範囲:P.46 - P.48

ポイント

食道扁平上皮癌のリスクファクターについて述べた.

表在型の食道扁平上皮癌の診断のコツと所見について述べた.

下部食道疾患の鑑別に必要な食道・胃接合部,柵状血管,粘膜接合部,Barrett食道と病変の関係把握が大切である.

物理化学的刺激による食道病変

著者: 河村朗 ,   足立経一 ,   木下芳一

ページ範囲:P.50 - P.51

ポイント

物理化学的刺激による食道病変は,病歴や症状によりGERDとの鑑別が可能である.

誘因となる刺激への曝露の有無や発症時の状況が鑑別のポイントとなる.

GERDの治療

GERDの生活指導

著者: 眞部紀明 ,   田中信治 ,   春間賢 ,   茶山一彰

ページ範囲:P.52 - P.54

ポイント

生活習慣の改善は,GERDの初期治療および長期治療の基本になる.

GERDの病態に影響を与えるわが国の独特な生活習慣として,帯の着用や高齢者にみられる亀背による腹圧の上昇がある.

高齢者におけるGERDは,併存疾患の治療薬による影響も考慮する.

GERDの食事指導

著者: 井上修志

ページ範囲:P.56 - P.58

ポイント

脂肪摂取過剰はTLESRの頻度の増加や胃排泄の遅延をもたらし,GERDに悪影響を与える可能性が大である.

炭水化物や蛋白質は,通常の摂取量ではGERDに与える影響は少ないと考えられている.

生活指導とともに食事療法を行うことにより,軽症の場合は薬剤の減量や無投薬となる可能性もある.

GERDの薬物治療(PPIの使用法)

著者: 大原秀一 ,   小池智幸 ,   有泉健

ページ範囲:P.59 - P.61

ポイント

GERDは酸依存性が高い疾患で,治療には酸分泌抑制が有効である.

PPIはH2受容体拮抗薬よりも日中の酸分泌抑制効果が優れる.

GERDの高率な再発を防止するためPPIによる維持療法の効果が高い.

GERDの薬物治療(H2ブロッカー,消化器運動機能改善薬の使用法)

著者: 稲森正彦 ,   阿部泰伸 ,   中島淳

ページ範囲:P.62 - P.64

ポイント

nocturnal gastric acid breakthoughはPPI投与中に起こる夜間の酸分泌であり,そのコントロールにはH2RAの眠前投与が効果的である.

H2RAの効果発現は速く,症状出現に応じた治療(on demand therapy)に適した薬剤である可能性がある.

酸分泌抑制剤を補助する目的で,消化管機能改善薬の効果が期待されている.

GERDの内視鏡治療

著者: 古田賢司

ページ範囲:P.65 - P.69

ポイント

GERDは日本においても増加傾向にあり,その治療法として薬物療法,手術療法のほか,内視鏡的な治療が行われるようになってきている.

GERDに対する内視鏡治療としては大きく分けて3種類,①plicating gastric folds法,②thermal tissue remodeling法,③injection/implantation法がある.

日本において,保険適用はないが医療用具として承認されているのはEndoCinchTMのみである.

GERDに対する内視鏡的治療の評価はさらなる比較検討,長期的な検討が必要である.

GERDの手術治療

著者: 小村伸朗 ,   柏木秀幸 ,   矢永勝彦

ページ範囲:P.70 - P.71

ポイント

GERDの手術術式にはNissen噴門形成術とToupet噴門形成術がある.

術後早期のQOLはToupet法が優れている.

両術式間の奏効率は同等と考えられ,90%以上である.

短食道や食道狭窄などの合併症を併発する前段階で手術適応を考慮すべきである.

GERDで起こる病態

GERDとBarrett食道

著者: 八木一芳 ,   中村厚夫 ,   関根厚雄

ページ範囲:P.72 - P.74

ポイント

Barrett食道は食道が円柱上皮で置き換わった病変であり,胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)を背景に発生するとされている.

Barrett食道は食道腺癌の発生母地であり,特に特殊円柱上皮と呼ばれる不完全型腸上皮化生が重要視されている.

本邦では3cm以上の長さを有する典型的Barrett食道は少ないが,3cm以下のshort segment Barrett’s esophagus(SSBE)は日常的に経験する.しかし,どのようなSSBEが食道腺癌のハイリスクかは今後の検討が必要である.

GERDと喘息

著者: 柘野浩史

ページ範囲:P.76 - P.79

ポイント

GERDは気管支喘息の増悪因子のひとつである.

GERDと合併する喘息の診断は症状のみに頼らないほうがよい.

逆流症状の強い喘息症例はPPI投与の良い適応である.

GERDと慢性咳・嗄声

著者: 渡邊雄介

ページ範囲:P.81 - P.83

ポイント

診断は胃酸逆流を疑うことと詳しい問診から始まる.

嗄声や慢性咳の原因として胃酸逆流も重要である.

慢性咳の21%は胃酸逆流が原因である.

胃酸逆流による嗄声は声帯所見に乏しいことがあり注意が必要である.

GERDと副鼻腔炎,耳痛

著者: 渡嘉敷亮二 ,   岡本伊作 ,   中村一博

ページ範囲:P.84 - P.85

ポイント

GERDと副鼻腔炎,耳痛の関連はいまだ議論中である.

副鼻腔炎は胃酸による鼻腔粘膜の腫脹から2次的に発症すると考えられている.

耳痛は中耳炎により生じる場合と,咽頭への逆流が知覚神経を介し耳痛として認識される場合との,2つの機序が考えられている.

GERDと非心臓性胸痛―食道痙攣を含めて

著者: 岩切勝彦 ,   林良紀 ,   坂本長逸

ページ範囲:P.86 - P.88

ポイント

胃酸逆流により胸痛をきたすことを常に念頭において診療する必要がある.

GERD患者の胸痛を有する頻度は約10%である.

冠動脈疾患患者の約半数はGERDを合併しているといわれ,心臓性,食道性胸痛の両者を有する可能性もある.

胃酸逆流による胸痛の場合には,制酸薬,飲水により症状の改善,またプロトンポンプ阻害薬(PPI)テストにより症状の改善,消失がみられる.

GERDと睡眠時無呼吸症候群

著者: 菅井望 ,   鈴木潤一 ,   斉藤拓志

ページ範囲:P.90 - P.92

ポイント

OSAS患者ではGERDの合併が多く,夜間の逆流がみられる.

OSASとGERDの合併機序には不明な点が多く,無呼吸と酸逆流の直接的な関係は明らかにはされていない.

CPAPはGERD合併OSAS患者の無呼吸だけではなく,夜間の逆流も改善させる.

GERDを起こす病態

全身性硬化症(SSc)とGERD

著者: 加藤則廣 ,   内木隆文 ,   森脇久隆

ページ範囲:P.93 - P.95

ポイント

全身性硬化症(SSc)は皮膚と内臓の線維化と硬化をもたらす膠原病の一つであるが,胃食道逆流症(GERD)を併発する頻度は比較的高い.

主たる発症機序は食道体部の一次蠕動波圧と下部食道括約筋圧の低下や消失といった食道運動機能障害と推察されている.

治療法はプロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期投与が必要である.

糖尿病とGERD

著者: 松井秀隆 ,   古川慎哉 ,   恩地森一

ページ範囲:P.96 - P.98

ポイント

糖尿病患者において,胸やけを伴う胃食道逆流の合併率は25%前後である.

糖尿病性神経障害を合併すると胸やけ症状は少なくなる.

糖尿病患者では食道蠕動運動と胃排出能の低下が,胃食道逆流症の要因となる.

第一選択薬は経口のプロトンポンプ阻害薬であるが,胃運動低下例には消化管運動改善薬の投与が必要となる.

H. pylori除菌治療とGERD

著者: 古田隆久 ,   杉本光繁 ,   白井直人

ページ範囲:P.100 - P.102

ポイント

H.pyloriを除菌すると多くの場合胃酸分泌が改善するため,5~10%の頻度で新たにGERDを発症する.

特に,滑脱型の食道裂孔ヘルニアを有していたり,肥満であったり,カルシウム拮抗薬や亜硝酸薬を内服中の患者など,リスクファクターを有する場合には注意が必要である.

H.pylori感染があるGERD患者での除菌は,除菌によって難治化するという報告もある.しかし,長期的にプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの酸分泌抑制薬を内服しなくてはならない場合は,萎縮性胃炎の発生,増悪を防ぐためにH.pyloriの除菌は必要と考えられる.

薬剤投与とGERD

著者: 藤原靖弘 ,   樋口和秀 ,   荒川哲男

ページ範囲:P.104 - P.106

ポイント

GERDを惹起または悪化させる薬剤には,カルシウム拮抗薬,抗コリン薬,テオフィリン,硝酸薬など下部食道括約筋弛緩作用を有するものと,アレンドロン酸,抗生物質など直接的食道粘膜傷害作用をもつものがある.

特殊な例のGERD

小児のGERD

著者: 位田忍

ページ範囲:P.108 - P.110

ポイント

ほとんどの乳児GERは1歳ごろで軽快することを念頭に入れて家族のケアをすること.

2歳以上続く嘔吐は,GERDを含めた嘔吐の精査が必要である.

乳幼児の嘔吐,哺乳不良,不機嫌などで,GERDを疑うこと.

高齢者のGERD

著者: 中田裕久

ページ範囲:P.111 - P.113

ポイント

GERDは高齢者に好発し,非高齢者と異なり女性に多い.

高齢者のGERDでは,食道知覚の低下から症状が起こりにくい.

GERDに罹患する高齢者ではH. pylori感染例が少なく,酸分泌が比較的保たれている.

高齢者に多い亀背では胃内容物の逆流が生じやすい.また横隔膜食道靱帯の強度の低下により食道裂孔ヘルニアが合併しやすく,GERD発症の原因となる.

ヘルニア症例では胃穹窿部伸展時のTLESRが健常人に比べて増加し,GERDを起こす可能性が考えられている.

高齢者では食道蠕動波の形成不全などの食道運動機能の異常が起こりやすく,GERDの発症や増悪を引き起こす.

胃切除例のGERD

著者: 片田夏也 ,   渋谷慈郎 ,   渡邊昌彦

ページ範囲:P.114 - P.116

ポイント

幽門側胃切除術や噴門側胃切除術後の逆流性食道炎は,逆流物質が胃液の場合と十二指腸液の場合がある.

胃液の逆流にはPPIが,十二指腸液のうち膵液の逆流には蛋白分解酵素阻害薬が有効である.

胃全摘術後の逆流性食道炎は十二指腸液の逆流により生じ,蛋白分解酵素阻害薬が有効である.

逆流の原因が消化管運動の低下にある場合には消化管運動亢進薬が有効なことがある.

座談会

なぜ今GERDか

著者: 春間賢 ,   金子宏 ,   足立経一 ,   木下芳一

ページ範囲:P.118 - P.128

木下 本日は,日本を代表するGERD(gastroesophageal reflux disease:胃食道逆流症)の研究者3名にお集まりいただきました.

 最近,GERDについてのテキストや雑誌の特集号が目につきますが,どうして,GERDがこんなに注目されてきたのかという点から,話を始めたいと思います.

理解のための33題

ページ範囲:P.131 - P.137

連載

目でみるトレーニング

著者: 小出隆司 ,   瓜田純久 ,   石井一慶

ページ範囲:P.165 - P.170

問題 394

 症 例:54歳,女性.

 主 訴:左上下肢の不随意運動.

 既往歴:特記すべき事項なし.

 現病歴:2003年11月26日より左上下肢の不随意運動あり.同月29日近医入院,ハロペリドール静注にて一時的な改善をみたが,完全には軽快せず当科転院.

 入院時現症:血圧226/112mmHg,脈拍84/分,意識清明.左上下肢の舞踏病様不随意運動のほか,特記すべき所見なし.

演習・小児外来

〔Case12〕哺乳後にチアノーゼがみられた生後1カ月の乳児 〔Case13〕微熱,眼周囲・口囲の発赤を認めた2歳5カ月男児

著者: 百々秀心 ,   生井良幸

ページ範囲:P.158 - P.161

症 例:1カ月,乳児.

 主 訴:哺乳時のチアノーゼ.

 現病歴:在胎39週で出生し,Apgarスコアは10(1分),10(5分)で出生体重3,000gだった.通常の経過で産科より退院後,1週間くらいしてから哺乳後に唇の色が黒紫色になることがしばしば認められた.母乳栄養であったため,児の両膝を曲げるような姿勢で抱きかかえるようにしていると色の改善が認められた.1カ月健診受診時に心雑音が聴取され心臓外来に紹介された.

 身体所見:体重3,500g,呼吸回数約40回/分,心拍数約130回/分,room airでの経皮的酸素飽和度は90%であった.顔貌は特に異常は認められなかった.唇および四肢末端の色は正常で紫色ではなかった.手足の指先の形は正常で変形はみられなかった.胸部の触診で右室の拍動を強く胸骨左縁下部および剣状突起のすぐ下に触れた.聴診所見は,過剰心音は認められなかったが,Ⅱ音は亢進して単一に聞こえた.また胸骨左縁第3~4肋間にLevine 3/6度の比較的周波数の高い収縮中期雑音が聴取された.腹部触診では肝臓,脾臓は触知されなかった.末梢の脈拍および大腿動脈は正常に触知され,特にbounding pulseではなかった.図1に胸部X線写真を示す.

しりあす・とーく 第1回テーマ【新連載】

臨床研修における危険と安全管理―患者・研修医を医療事故から守れるか?

著者: 川尻宏昭 ,   本村和久 ,   川島篤志 ,   飛田拓哉

ページ範囲:P.138 - P.147

■川尻 佐久総合病院の川尻です.卒後11年目で,途中2年間,関連の診療所に出ましたが,卒業してからずっと佐久の田舎の総合病院におります.現在,総合診療科というプライマリケアを中心に幅広く診療を行う部門にいます.研修医の指導に携わっており,研修医教育に強い関心をもっています.また,病院の安全管理室から,臨床研修の安全管理について相談を受けることがあります.

■本村 沖縄県立中部病院(以下中部病院)から来ました本村です.卒後8年目になります.初期研修を中部病院で終えた後,離島での診療所勤務,中部病院ほかでの内科中心の研修を経て,現在中部病院に戻っています.自分自身が研修医のときに医療事故を起こしたことがあり,院内の医療安全委員会に研修医時代から参加しています.自分自身の経験を後輩に伝えて,同じ思いをさせたくないという気持ちが強くあります.

危険がいっぱい―ケーススタディ・医療事故と研修医教育 第1回【新連載】

倒れていた老婦人

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.148 - P.153

今回の症例は,昨日まで元気だったのに自宅で倒れ,右片麻痺・失語症で救急車搬送入院となった,76歳の女性である.

 ベティ(症例提示役) 本日の症例は,76歳の白人女性です.高血圧・高脂血症の既往のある右利きの方が,自宅で倒れているのが発見され,右片麻痺と失語症にて,救急車搬送入院となりました.現病歴ですが,前日夕刻まで元気だったのに,翌朝電話に出ないのを不審に思った近くに住む娘さんが訪問して床に倒れているのを発見し,救急車を呼んだものです.救急隊の報告では,自発呼吸あり,痛み刺激で開眼するが発語はなく,GCS9(注1),体温36.2℃,脈拍110,呼吸数24,血圧180/110,酸素飽和度は90%で,右の手足が動かせませんでした.痙攣・嘔吐のあとはみられず,付き添ってきた娘さんによれば頭痛・発熱・咳嗽もなかったそうです.

「デキル!」と言わせるコンサルテーション 第1回【新連載】

コンサルテーションについて考えてみよう

著者: 川畑雅照

ページ範囲:P.154 - P.156

初期研修の病棟でのコンサルテーションの一場面

■指導医:「さっきの入院患者,よくわからないからコンサルトだ!よろしく!」

(そう言い放ち,忙しそうに病棟から立ち去った)

●研修医:「わかりました!」

(返事した瞬間,その研修医は消化器内科医のポケットベルをコールしていた)

●研修医:「今日の入院患者が,お腹が痛いって言ってるんで診てください.ついでに上部の内視鏡もやってほしいし,治療方針も教えてください!」

◆専門医:「この前も言ったが,何だ,そのコンサルトは!もう,おまえの相談は受けんぞ!」

“ガチャッ!ツー,ツー……”

●研修医:「・・・」

(怒鳴られた理由もわからず,立ちつくしていた……)

 さて,なぜこの研修医は怒鳴られたのでしょうか? 専門医が忙しい外来の最中だったから? そうかもしれません.いきなり診に来いという言い方が少し失礼だったから? その可能性もあるでしょう.しかし,それだけではありません.そもそも,この研修医の相談は,コンサルテーションとは言えないところが問題であることに,彼は気付いていないようです.この研修医は,日々の病棟業務の忙しさあまりか指導医の“言う通りに動くぞマシーン”と化し,一呼吸おいて考えることを忘れてしまったようです.

 そこで,連載第一回目の今回は,この不憫な研修医のためにも,診療の現場における他科の医師へのコンサルテーションとは何かについて,少し議論してみたいと思います.

書評

消化管の病理学

著者: 寺野彰

ページ範囲:P.99 - P.99

 藤盛教授が「もうすぐ出ますよ」とにんまりして筆者に話しかけたとき,「え?何が?」という返事に,「嫌だなあ.『消化管の病理学』ですよ.僕のライフワークなんだから」と不満そうな顔だったのが2,3カ月前のことである.「ああそうか.ついに出るのか」というのが筆者の感想であった.たしかに数年前から,同氏が“これまでとは根本的に違った独創的な消化管病理学のtextbookを出すのだ”と息巻いていたことは知っていた.このあたりのいきさつについては序文に詳しい.序文とあとがきを読むと,同氏の本書にかけた情熱が伝わってくる.同時に,本書の完成には極めて多くの人びとがかかわってきたことに驚きを禁じ得ない.藤盛教授の単著の形式を取ってはいるものの,これだけの人々が症例を提供し,病理標本を作製し,すばらしい写真をとり,本書に大きな貢献をしてきたらしいことがわかるし,氏もこの点に謙虚に深甚の意を表している.

 さて,本書の特徴を筆者なりに(病理学の素人として)挙げてみたい.

市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗

著者: 向井万起男

ページ範囲:P.117 - P.117

 私にとって特別な存在という作家・ライターが何人かいます.その人たちの新刊書が出たら,イの一番に書店に駆けつけて手に入れ,すぐに読むことにしています.読みかけの本があっても中断して.そこまでする価値が,その人たちの新刊書にはあるからです.そうした作家・ライターの一人が,李啓充.

 私にとって李啓充が特別な存在になったのは,『市場原理に揺れるアメリカの医療』を読んだときです.日本の医療界に旋風を巻き起こした,李啓充のアメリカ医療本第一作.

臨床研修の現在―全国25病院医師研修の実際

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.157 - P.157

 市村公一先生著「臨床研修の現在─全国25病院医師研修の実際」(医学書院)を拝読させていただいた.紹介されている各病院の研修の様子がまるで手にとるように具体的にわかりやすく紹介されており,それぞれの病院のレジデントに自分がなった思いで,楽しく一気に読ませていただいた.ちょうど映画を観ていて,気がついたら自分も映画の場面に入りこんでしまっていた感覚であった.

 本著の大変すばらしい点をいくつか紹介させていただきたい.まず第一に,本著は今年度からはじまったマッチングシステムの実質をサポートするものである.マッチングシステム導入は,医学部卒業生が全国規模で混じり合うことを奨励する.人が混じることは,そのグループに多様性を生み出す.多様性は新鮮な風,新しい光となる.新鮮な風と新しい光は自身を省み,切磋琢磨,自己研鑽を行うエネルギーとなる.しかし,このマッチングシステムを本当に成功させるためには,マッチング参加者がそれぞれの研修病院の研修内容に関する正確な情報をもっていることが重要である.人が混じらない時代には,よその研修内容など知らなくてもかまわなかった.どのみち,自分の今いる世界にそのまま居残ることになるのであるから.しかし,人が混じりはじめた今,本著のような具体的な情報は不可欠である.

医療におけるヒューマンエラー なぜ間違える どう防ぐ

著者: 菅野一男

ページ範囲:P.164 - P.164

 「文は人なり」,ならば,人を語ることがその人の書籍を語ることにつながるだろう.さればまず,本書「医療におけるヒューマンエラー」の著者,河野龍太郎氏の人となりについて述べながら本書を振り返ってみたい.

 私が河野氏を知ったのは,医療のTQM実証プロジェクト(NDP)で一緒に仕事を始めてからである.NDPのなかでは河野氏にいろいろなことを教えてもらった.「スイスチーズモデル」,「墓石安全」,「P-mSHELLモデル」,「事故防止策は終わりのない,決して勝利することのないゲリラ戦である」…….

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?