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雑誌目次

雑誌文献

medicina42巻11号

2005年11月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医が知っておくべき がん治療 がんの基本的知識

がん治療のトレンド2005

著者: 向井博文

ページ範囲:P.1884 - P.1887

ポイント

がんによる死亡者数は男女とも増加しているが,増加率は減少傾向にある.

PETの検診における有用性評価はまだ定まっていない.

bevacizumabは VEGF分子を標的とするヒト化マウスモノクローナル抗体であり,VEGFの血管内皮に対する作用を阻害することで抗がん作用を示す.

erlotinibは小分子化合物であり,EGFRの細胞膜内チロシンキナーゼ領域を阻害することで抗がん作用を示す.

trastuzumabはHER2蛋白を標的とするヒト化マウスモノクローナル抗体であり,HER2を介する細胞増殖刺激シグナル伝達を遮断することで抗がん作用を示す

家族性がん,遺伝子異常とがん

著者: 菅野康吉

ページ範囲:P.1888 - P.1892

ポイント

成人に発症する家族性腫瘍は常染色体優性遺伝を示すものが多く,若年発症,特定のがんの家系内集積,多重多発がんへの罹患などの特徴を示す.

比較的頻度の高い疾患として,HNPCC,HBOCなどの疾患が挙げられる.

遺伝的リスクの評価と遺伝子検査の実施の前後には,遺伝カウンセリングが行われる必要がある.

食生活とがん

著者: 坪野吉孝

ページ範囲:P.1894 - P.1896

ポイント

食物や栄養素とがんとの関連性について,さまざまな研究が行われている.健康な集団のがん罹患リスクと食生活との関連を総括した2003年世界保健機関の報告書と,がん患者の予後と食生活との関連を総括した2003年米国対がん協会報告書第二版の概要を解説しながら,科学的知見の現状を整理した.

がんをとりまく諸問題

がん告知とインフォームド・コンセント

著者: 岡村仁

ページ範囲:P.1897 - P.1899

ポイント

がん告知は,インフォームド・コンセントを前提としたがん医療の重要な第一歩である.

現在は「如何に伝え,その後どのように対応し援助していくか」という告知の質が問われる時期にきている.

がん告知後の心理的反応を理解することが重要である.

がん告知はひとつの大切な医療行為であることをしっかりと認識する必要がある.

がん患者との向き合い方

著者: 栗原幸江

ページ範囲:P.1901 - P.1903

ポイント

コミュニケーション・スキルは学び習得可能なものであり,多職種チーム医療のなかで連携しながら「良いコミュニケーションをはぐくむ」ことを意識することで向上していく.

患者理解を深めるための信頼関係構築には,表情,アイコンタクト,身体の向きといった「非言語的コミュニケーション」や患者の気持ちに配慮した言葉かけなどが大切である.

「バッドニュース」を伝えるうえで重要なのは,まず患者の認識や理解度を把握することである.

がん治療とEBM

著者: 三浦裕司 ,   米盛勧 ,   勝俣範之

ページ範囲:P.1904 - P.1906

ポイント

EBMの方法論(3大要素と5つのステップ).

ASCOによるevidence levelと recommendation grade.

質の高いevidence が得られない場合の対処.

がんの補完代替医療

著者: 兵頭一之介

ページ範囲:P.1908 - P.1910

ポイント

わが国のがんの補完代替医療の利用率は45%.

大部分は健康食品.

有効性を検証するための臨床試験はほとんどないか,あっても質の低いものしかない.

医師は治療法の科学的,医学的評価法をよく理解しておく必要がある.

がんの臨床知識

放射線治療の知識

著者: 光森通英

ページ範囲:P.1911 - P.1913

ポイント

放射線治療は形態や機能を温存しつつがんを治療することができる身体にやさしい治療法である.

放射線治療の効果の実体は電離効果によるDNA二本鎖切断である.

放射線治療の成功には治療可能比が1を超えることが必要である.

治療可能比向上のために空間的線量分布の改善,薬剤による放射線感受性の修飾,時間的線量配分の工夫などが行われてきた.

病理組織診断の知識

著者: 堀井理絵 ,   秋山太

ページ範囲:P.1914 - P.1915

ポイント

がんの性質を知る手段として最も優れている方法は,現在のところ,免疫染色も含めた病理組織学的検索である.

がんの性質を知ることによって最適な治療法を選択することが可能である.

したがって,薬物療法を担当する内科医にも,病理組織学的な知識は必要不可欠である.

がんのステージング(拡がり診断)とTNM分類

著者: 奈良林至

ページ範囲:P.1916 - P.1920

ポイント

がんは,診断時点ですでに他臓器に転移している場合よりも限局している場合のほうが生存率が高いことがわかっており,正しい診断と病期分類を速やかに行うことはきわめて重要である(診断に関しては本特集の他稿を参照されたい).

その病期分類の基本となるものは,世界中で汎用されているTNM分類と呼ばれる分類法であり,その原則を理解しておくことはがんの診療に欠かすことができない.

腫瘍マーカーの使い方,その適応と限界を探る

著者: 大倉久直

ページ範囲:P.1923 - P.1925

ポイント

腫瘍マーカー検査の目的は,①ハイリスク群の追跡,②がん疑い症例での診断補助,③がんの組織と細胞の種類の鑑別,④治療効果の判定,⑤再発の診断などにある.

血清診断では,目的のがんに有用な2,3種類を組み合わせて検査する.

経過追跡では,がんが産生していた腫瘍マーカーを選択する.

コモンキャンサーズ 最新情報 【肺がん】

肺がん検診の方法,効用と問題点

著者: 楠本昌彦 ,   金子昌弘 ,   荒井保明

ページ範囲:P.1926 - P.1928

ポイント

わが国の肺がん検診は,胸部単純X線撮影と喀痰細胞診を行う方法が標準的である.

肺がん検診は,適切に行うならば死亡率減少に寄与する可能性が高い,と考えられている.

低線量CTを用いた肺がん検診は,発見率が高く,かつ発見された肺がんのなかでのⅠ期の割合が多いが,肺がん死亡数の減少効果については証明されていない.

非小細胞肺がんの内視鏡検査と治療

著者: 長束美貴 ,   坪井正博 ,   加藤治文

ページ範囲:P.1929 - P.1931

ポイント

内視鏡下での診断・治療法の発達がめざましい.

胸腔鏡下肺葉切除術は非小細胞肺がんの臨床病期I期を対象に行われる.

手術侵襲は術後早期には低いものの,長期的には開胸術との差はない.

治療成績は開胸術に比べ良好とする報告が多い.

非小細胞肺がんの薬物療法

著者: 倉田宝保 ,   中川和彦

ページ範囲:P.1932 - P.1936

ポイント

全身状態良好な進行非小細胞肺がんの初回治療として,プラチナ製剤と新規抗がん剤の2剤併用療法あるいは新規抗がん剤同士を2剤併用したレジメンが推奨される.

再発症例に対してはドセタキセル単剤が推奨される.

ゲフィチニブは現状では,生存を延長させるエビデンスはない.腺がん,非喫煙者などの臨床背景,あるいは遺伝子背景によってセレクトされた症例でのみ生存への寄与が得られる可能性は残っている.

小細胞肺がんの標準的治療

著者: 葉清隆 ,   西條長宏

ページ範囲:P.1938 - P.1940

ポイント

小細胞肺がんは進行が速い反面,化学療法や放射線治療に対する感受性が高いという特徴を有する腫瘍である.

小細胞肺がんの病期分類には,限局型(limited disease:LD)と進展型(extensive disease:ED)の2つに分ける分類が用いられる.

限局型小細胞肺がんに対する標準治療は,化学療法と胸部放射線治療の併用療法である.

【胃がん】

胃がん検診の方法,効果と問題点

著者: 飯沼元 ,   濱島ちさと ,   斎藤博

ページ範囲:P.1941 - P.1943

ポイント

胃がん検診方法として,有効性と不利益に関する評価から推奨される方法は胃X線検査(特に間接撮影)であり,死亡率減少効果が証明されている唯一の方法でもある.しかし検診実施機関の間における精度管理の差はきわめて大きく,受診者数の増加のため全国レベルでの標準的かつ効果的なシステム構築が今後の課題と考えられる.

内視鏡的胃がん治療

著者: 蓮池典明 ,   小野裕之 ,   乾哲也

ページ範囲:P.1944 - P.1946

ポイント

胃がんの局所治療である内視鏡的胃粘膜切除術は,低侵襲治療として確固たる地位を築いている.今後はさまざまな問題を克服し,さらなる発展が期待される.

【大腸がん】

大腸がん検診の方法・効用と問題点

著者: 石川勉 ,   平原美孝 ,   小林望

ページ範囲:P.1947 - P.1949

ポイント

無作為化比較対照試験がいくつか行われ,科学的に死亡率減少効果が十分に証明されているので,大腸がん検診のスクリーニングには便潜血検査が推奨されている.

便潜血検査の問題点は偽陰性例があることで,10~40%台と報告されている.

大腸内視鏡検査は個人を対象とした人間ドックなどの任意型検診で推奨されている.

大腸ポリープへのアプローチ

著者: 藤井隆広

ページ範囲:P.1950 - P.1952

ポイント

直腸の過形成性ポリープは,内視鏡治療の対象とはならないが,右半結腸に存在する10mm以上の過形成性ポリープや,松毬様を呈するserrated adenoma(SV型)においては内視鏡治療の対象となる.

5mm未満の微小腺腫性ポリープの内視鏡治療は,年齢に応じた対処が望ましい.

10mm以上の腺腫性ポリープは,がん化している可能性があるため,特例を除いては年齢を問わず内視鏡治療の適応と考える.

大腸内視鏡検査・治療を行う前には,十分な説明と同意(IC)が必要である.治療前には,抗凝血剤服用の有無は確認すべきである.

【消化器がん】

消化器がんの抗がん剤治療

著者: 目良清美 ,   大津敦

ページ範囲:P.1954 - P.1959

ポイント

食道がんに対する根治的放射線化学療法は,近年各ステージにおける重要な治療選択肢のひとつとして認識されている.

胃がんにおいては,S-1やイリノテカン,タキサンなど新規抗がん剤による治療成績の向上が期待されている.

大腸がんにおいては,従来の5-FU中心のレジメンにイリノテカン,オキサリプラチンが加わることによって生存期間の延長が得られ,分子標的治療薬によるさらなる成績向上が期待されている.

【乳がん】

内科医に必要な乳腺疾患の知識

著者: 岩田広治

ページ範囲:P.1960 - P.1962

ポイント

社会でも家庭でも重要な年代(30~60歳)の女性のがん死亡原因は圧倒的に乳がんである.

乳がんの症状はさまざまで,決まったものはない.

乳がんの診断・治療には高度な専門的知識が必要である.

乳がん検診の方法,効用と問題点

著者: 甘利正和 ,   石田孝宣 ,   大内憲明

ページ範囲:P.1963 - P.1965

ポイント

乳がんは女性のがん罹患率第1位で,罹患率,死亡率ともに増加傾向である.

視触診単独検診による乳がんの死亡率減少効果がないとする相応の根拠がある.

マンモグラフィと視触診併用の乳がん検診(50歳以上)は死亡率減少効果があるとする十分な根拠がある.

マンモグラフィと視触診併用の乳がん検診(40歳代)は死亡率減少効果があるとする相応の根拠がある.

薬物療法を中心とした乳がん治療の進め方

著者: 清水千佳子

ページ範囲:P.1966 - P.1968

ポイント

乳がんは日本人女性での罹患率の最も高い悪性腫瘍である.

薬物療法の進歩により乳がんの予後は改善している.

薬物療法は化学療法,ホルモン療法,抗体療法があり,腫瘍の生物学的性質によって選択される.

ステージにより治療の目的が異なり,薬物療法によるメリットとデメリットを勘案して患者に治療法を提示する.

【前立腺がん】

前立腺がん診療の進め方

著者: 赤倉功一郎

ページ範囲:P.1969 - P.1971

ポイント

本邦において前立腺がんの罹患率は近年急増している.

血清PSA(前立腺特異抗原)を用いたスクリーニングが有用である.

確定診断には経直腸エコーガイド下の前立腺針生検が行われる.

臨床病期,年齢,全身状態などを考慮して,無治療経過観察,手術(前立腺全摘除術),放射線治療(小線源治療,体外照射),ホルモン療法,抗がん剤治療などの方針が選択される.

前立腺がんの薬物療法

著者: 河野勤

ページ範囲:P.1972 - P.1975

ポイント

転移性の前立腺がんに対してはまず内分泌療法が適応となる.

外科的あるいは薬物的去勢術によって80~90%において骨痛などの症状を軽減させることが可能である.

MABは単独療法に比べ5年生存率は2~3%上昇するが,副作用やコストの増加を勘案する必要がある.

ホルモン不応性となった前立腺がんには抗がん剤が適応となり,近年はドセタキセルの効果が注目されている.

【肝細胞がん】

肝細胞がんの予防

著者: 狩野吉康 ,   赤池淳 ,   豊田成司

ページ範囲:P.1976 - P.1978

ポイント

肝発がんの予防のためには,抗ウイルス療法あるいは抗炎症療法により可及的に肝炎の鎮静化を図ることが重要である.

慢性肝炎・肝硬変に対するIFN療法はSVR例で顕著な肝発がん抑制効果が認められるが,ウイルス駆除が達成されない症例(一過性有効例)においても肝発がん抑制効果が認められる.

肝細胞がんの治療法選択の根拠

著者: 池田公史 ,   奥坂拓志

ページ範囲:P.1980 - P.1982

ポイント

肝細胞がんの治療法選択においては,がんの進行度と肝機能の両面から考慮する.

肝細胞がんの治療は,肝切除,穿刺療法(エタノール注入療法,ラジオ波焼灼術など),肝動脈(化学)塞栓術の3療法が中心に行われている.

「肝細胞癌治療アルゴリズム」が治療法選択の一助となる.

抗がん剤の副作用と対策

消化器症状

著者: 濱口哲弥

ページ範囲:P.1984 - P.1988

ポイント

抗がん剤の消化器症状は患者が忌み嫌う副作用のひとつであり,QOLの低下のみならず治療継続にも影響する.

悪心・嘔吐対策の基本方針は予防である.抗がん剤のリスクレベル,悪心・嘔吐の分類に準じた治療を行う.

口内炎,下痢,便秘に対しては対症療法で対応する.

骨髄抑制

著者: 水野聡朗 ,   北野滋久 ,   斉藤佳菜子

ページ範囲:P.1990 - P.1991

ポイント

low riskの発熱性好中球減少は,外来で経口抗生物質により治療可能である.

G-CSFの使用は,ガイドラインを参照して過剰投与にならないよう注意する.

皮膚症状,脱毛,神経症状,浮腫

著者: 有岡仁

ページ範囲:P.1992 - P.1994

ポイント

抗がん剤による皮膚障害や神経障害は,外見の変化のみならず苦痛を伴い,日常生活に支障をきたすものもあるので,過小評価は避けるべきである.

薬剤の血管外漏出に際しては早期の適切な処置が必要である.

脱毛の有効な予防法はないため,治療前からの対策が重要である.

間質性肺炎

著者: 小倉孝氏 ,   加藤晃史 ,   大江裕一郎

ページ範囲:P.1996 - P.1998

ポイント

がん薬物療法を行う際には,常に薬剤性間質性肺炎の合併を念頭に置くべきである.

初発症状は発熱,息切れ,乾性咳嗽などの非特異的な症状である.

薬剤性間質性肺炎の疑われる状況では,必ず胸部X線を撮像し,以前の画像と比較する.

治療は第一に薬剤の中止である.ステロイド投与にあたっては呼吸器科医へのコンサルトが望ましい.

病態に応じた対処法

オンコロジカル エマージェンシー

著者: 福山税 ,   安藤正志

ページ範囲:P.1999 - P.2001

ポイント

上大静脈症候群は呼吸困難,顔面や上肢の浮腫などの特徴的な症状を呈してくる.

頭蓋内圧上昇はがんの中枢神経への転移によって生じ,脳への不可逆的なダメージを与え,早急な治療を必要とする.

腫瘍による脊髄の圧迫によって,運動・感覚障害や膀胱直腸障害や疼痛を引き起こす.

電解質異常とその対策

著者: 沖隆

ページ範囲:P.2002 - P.2004

ポイント

悪性腫瘍に伴う電解質異常として,低ナトリウム血症(SIADH),低カリウム血症(異所性ACTH症候群)および高カルシウム血症(HHM,LOH)がしばしば認められる.

それぞれ的確な診断が重要であるが,転移のため腫瘍の完全摘出が困難な場合は病態生理に応じた電解質異常のコントロールにより患者QOLの改善を行う.

疼痛マネジメントの基本と実際

著者: 志真泰夫 ,   武田文和

ページ範囲:P.2005 - P.2009

ポイント

疼痛マネジメントの基本は痛みの訴えに直ちに対応し,定期的に痛みの有無を患者に尋ね,体温,呼吸,脈拍,血圧に続く5つ目のバイタルサインとして痛みをとらえて記録することである.

実際に選択すべき治療法は鎮痛薬による薬物治療である.一部の痛みでは2つ以上の治療法を組み合わせると良好な効果をもたらす.

理解のための34題

ページ範囲:P.2010 - P.2017

演習・小児外来

〔Case30〕 咳嗽,喘鳴,哺乳不良を主訴に来院した4カ月男児

著者: 斉藤一郎

ページ範囲:P.2019 - P.2022

症 例:4カ月,男児.

 主 訴:咳嗽,喘鳴,哺乳不良.

 現病歴:1月6日咳嗽,鼻汁始まる.1月8日喘鳴出現.1月10日哺乳力低下あり,当院受診.

 入院時身体所見・検査所見:体温36.8℃,呼吸数52回/分,心拍数150回/分,皮膚色異常なし,咽頭発赤なし,心雑音なし,肺野で喘鳴聴取,腹部平坦軟.血液検査所見;WBC6,500/μl(St1% Seg38% Ly53% Mo7% Eos1%),Hb11.0g/dl,Ht32.8%,Plt37.5万/μl,CRP0.3mg/dl未満,血液生化学に異常なし.血液ガス分析(静脈血,30%酸素投与下):PH7.326,PCO249.9mmHg,PO226.2mmHg,HCO3 25.5mmol/l,BE-1.2mmol/l.鼻汁によるRSウイルス抗原迅速診断陽性.

連載

目でみるトレーニング

著者: 有坂泰 ,   瓜田純久 ,   高橋勉

ページ範囲:P.2023 - P.2029

問題 424

 症 例:45歳,女性.

 主 訴:胸部写真で指摘された異常陰影の精査.

 既往歴・家族歴:特記すべきことはなし.

 現病歴:健康診断のため胸部X線写真を撮影したところ,左下肺野の結節性陰影を認めたため当院へ紹介.

 現 症:身長160cm,体重60kg,体温36.5℃,脈拍80/分・整,血圧110/70mmHg,肺野の血管性雑音を聴取せず,舌・皮膚に毛細血管の拡張なし,四肢のチアノーゼなし,ばち指なし.

病理との付き合い方 病理医からのメッセージ(8)

病理診断で用いられる染色法および各種補助診断について・1―基本染色・特殊染色・細菌検査

著者: 菅井有

ページ範囲:P.2030 - P.2034

病理診断は,①臨床所見,②肉眼所見,③組織診断,④補助診断,の4つで構成されている.組織診断が病理診断の中核であることは間違いないが,すべてではない.腸の炎症性腸疾患は肉眼所見のほうが主体で,組織所見はむしろ補助的である.このような考え方は,組織像を見ればたちどころに病理診断はできる,と勘違いしている臨床医に病理診断の本質を理解してもらうために重要である.組織像のみから診断を下す姿勢は,病理医が視野狭窄に陥る原因の1つと思われる.われわれが病理検体から引き出せる情報はもっと多彩なはずである.固定材料のみが病理医の守備範囲であると考えることは,もはや時代遅れではなかろうか.生体から診断のために切り離された組織の利用については,病理医が主体的な役割を果たすべきである.

 病理の補助診断には,a. 免疫組織化学,b. 電子顕微鏡,c. 細菌検査(主に感染症),d. フローサイトメーター,e. 遺伝子解析,f. 染色体解析,が含まれるが,いずれも的確に使用すれば病理診断に大きな貢献をすることは間違いない.これらの補助診断を的確に使用するマナーを知ることが重要である.

しりあす・とーく 第11回テーマ

医療におけるジェンダー・イッシュー―仕事と家庭の両立を考える(前編)

著者: 郷間厳 ,   松下克子 ,   岸誠司

ページ範囲:P.2036 - P.2043

医療施設に従事する医師のうち15.6%が女性といわれている(2002年).しかし,すでに20代では,3人に1人が女性という時代であり,今後も女性医師の比率が高まるのは間違いない状況となっている.一方で,医療界における女性の労働環境整備は進んでいるとは言いがたく,また,男性が家事や育児へ参加することへの理解も乏しいといわれている.昨今,経済事情から医療への締め付けは年々強まっており,医師の業務環境はますます厳しくなっている.仕事と家庭の間で葛藤を抱える医師も少なくない.

 これまで誰もが感じながら,あまり語られてこなかった,「医療におけるジェンダー」の問題を取り上げてみた.

■郷間 私は1987年卒で,天理よろづ相談所病院で初期研修を始め,シニアレジデント内科ローテートを修了し,呼吸器内科のスタッフとして勤務後,2000~2002年にアメリカへの留学を経て現在の病院で働いております.

危険がいっぱい―ケーススタディ・医療事故と研修医教育 第11回

体重減少と失神発作の74歳男性

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.2044 - P.2048

今回の症例は自宅で失神発作を起こし倒れた翌日、かかりつけ医を受診し、即入院と指示された74歳男性である.

 アリス(司会役) 今回の症例は,失神発作を起こした74歳男性です.

 エディ 患者は心筋梗塞・糖尿病・高脂血症・重複癌の既往のある74歳男性です.入院前日,台所で大きな物音を聞いた妻が見にきたら居間で患者が倒れていました.妻が助け起こそうとしたときにはもう意識は戻っていたので倒れていたのはものの1~2分間でしたが,後ろ向きに倒れて後頭部と右肘を打っていました.患者は意識を失ったことは自覚していましたが,意識消失の前には動悸や胸痛,痙攣はなかったそうです.翌日かかりつけ医を受診し,すぐに入院を指示されました.

「デキル!」と言わせるコンサルテーション 第11回

デキレジのコンサルテーション④神経系

著者: 早川幹人

ページ範囲:P.2050 - P.2054

外科病棟で

(とある午前中,外科をローテート中の研修医から専門医へ電話でのコンサルテーション)

●研修医:「お忙しいところすいません.相談したい患者さんがいるのですが,胃癌の術前精査で入院中の65歳,男性ですが,昨日の23時頃から発語に乏しく意識が不明瞭なのですが」

■専門医:「昨日から?」

●研修医:「頭部CTと採血をしましたが,どちらも取り立てて異常ないようなので様子を見ていました」

■専門医:「既往歴は?」

●研修医:「高血圧と心房細動で近医からCa拮抗薬,β遮断薬とアスピリンが処方されています.血圧は180/100と高めですが,もともと160/程度でコントロールはあまりよくなかったようです」

■専門医:「とりあえずすぐ行く」

(病棟で,簡単な診察の後に)

■専門医:「意識はJapan Coma Scale(以下JCS)Ⅰ-3,というより,失語が主体ですね.上肢優位のごく軽い右片麻痺があるようです.左側への共同偏視傾向も軽度ですが認められます.昨日のCTでは異常所見は確かにはっきりしないですね.すぐにCTを再検しましょう」

(CT室で)

■専門医:「……左中大脳動脈領域にLDA(低吸収域)があります.」

●研修医:「……」

脳梗塞では? と疑うことが重要

 心房細動が関連した心原性脳塞栓症でした.この研修医は疑いながらもその答えにたどり着けなかったようです.一般に脳梗塞はCTでは(もちろん病変の部位や大きさにもよりますが)12~24時間たたないと病変が描出されないことが多く,超急性期での感度は高くない検査です.この症例では失語が症状の中核をなし,共同偏視や麻痺症状がごく軽度だったために見逃され,脳梗塞の可能性が見落とされて(あるいは否定されて)しまいました.

東大病院内科研修医セミナー 7

挿管人工呼吸器管理が必要であった肺炎球菌性肺炎の一例

著者: 城大祐

ページ範囲:P.2056 - P.2060

Introduction

市中肺炎の重症度分類と重症市中肺炎の治療は?

肺炎球菌性肺炎の特徴は?

肺炎球菌性肺炎の予防は?

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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