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雑誌目次

雑誌文献

medicina42巻13号

2005年12月発行

雑誌目次

今月の主題 急性冠症候群へのアプローチ Editorial

「急性冠症候群(ST上昇型と非ST上昇型)」とは何か?

著者: 吉野秀朗

ページ範囲:P.2070 - P.2071

ポイント

不安定狭心症と急性心筋梗塞をまとめて急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)と呼ぶ.

ACSでは,冠動脈硬化性粥腫(plaque)の破綻や冠動脈内皮のびらんが引き金となり,冠動脈局所に大量の血栓が形成され冠動脈閉塞や高度狭窄が生ずる.

冠動脈の完全閉鎖でST上昇型ACSが発生し,高度狭窄であれば非ST上昇型ACSとなる.

急性冠症候群の理解

急性冠症候群の疫学―急性冠症候群は増えているか?

著者: 渡辺和宏 ,   長尾建

ページ範囲:P.2073 - P.2075

ポイント

急性冠症候群とは,冠動脈プラークが破綻することにより急激に血栓形成を惹起させ,冠動脈内腔を閉塞または狭窄させるという機序をもつ疾患の総称である.

急性冠症候群には急性心筋梗塞,不安定狭心症,心原性突然死が含まれるが,現在その詳細なデータベースは存在せず,全体像の把握は困難である.

2000年に,心筋障害を示す心筋トロポニンが陽性の急性冠症候群であれば急性心筋梗塞として包括すると再定義された.

急性冠症候群の発症と心筋障害のメカニズムは?―冠動脈内で何が起こっているか

著者: 堀込実岐 ,   高橋将文 ,   池田宇一

ページ範囲:P.2076 - P.2078

ポイント

急性冠症候群の発症は冠動脈内の動脈硬化性プラークの破綻と,それに引き続く血栓形成により引き起こされる.

冠動脈プラークが破綻をきたす機序としては,血流の変化やスパスムなどの機械的ストレスが脆弱な不安定プラークに作用して,プラーク内膜の損傷を生じる.

不安定プラークでは,マクロファージやTリンパ球,好中球などの炎症細胞の浸潤が多く認められる.

冠動脈内での血栓形成には,血小板の粘着や凝集,血液凝固外因系,線溶系が関与している.

急性冠症候群の発症と心筋障害のメカニズムは?―心筋虚血障害の病理/生化学的変化

著者: 佐藤孝宏 ,   三浦哲嗣

ページ範囲:P.2079 - P.2081

ポイント

急性冠症候群における心筋障害は心筋ハイバーネーションと心筋スタニング,あるいはさらに心筋梗塞が合併した複雑な病態と考えることができる.

梗塞サイズの規定因子は虚血時間と冠側副血流量である.

細胞内Ca2+過負荷とミトコンドリアの透過性偏移が心筋細胞の虚血再灌流障害の発生機序に重要であると考えられている.

メタボリックシンドロームは急性冠症候群の発症にどう影響するか?

著者: 鬼柳尚 ,   宮崎哲朗 ,   代田浩之

ページ範囲:P.2082 - P.2085

ポイント

メタボリックシンドロームの概念は,内臓肥満を起源としたアディポサイトカインの分泌異常が,血管障害,耐糖能異常,高脂血症にかかわってくるとの考えが基になっている.

アディポネクチン,TNF-αなどのアディポサイトカインの分泌異常が,動脈硬化層の形成や凝固異常,炎症などを引き起こし,急性冠症候群の発症に関与する.

メタボリックシンドロームを早期に診断し,速やかに是正することが急性冠症候群の予防に重要である.

Ischemic Preconditioningと虚血耐性

著者: 真田昌爾 ,   北風政史

ページ範囲:P.2086 - P.2088

ポイント

ischemic preconditioningとは,臨床医の経験から実験的に確立された「虚血で障害から保護される」逆説的現象である.

急性期に細胞内ATP含量減少遅延,酸素消費量減少,細胞構造破壊減少,虚血細胞死遅延がみられる.

効果発現は経時的に二峰性で,多種多様な機序を経て強力・確実かつ普遍的な臓器保護効果を持つ.

慢性的にはリモデリング減少,血管新生に伴う血流量増加などの副次的効果もある.

左室リモデリングとは何か?

著者: 安斉俊久

ページ範囲:P.2089 - P.2091

ポイント

梗塞部伸展に引き続き,進行性の左室容積増大から慢性心不全に移行する現象を左室リモデリングという.

梗塞部伸展(早期リモデリング)は梗塞サイズ,壁応力,梗塞後治癒過程によって規定され,亜急性期の心破裂や心室瘤形成と関連する.

非梗塞部心筋の肥大および不全化(晩期リモデリング)は,左室拡張に伴う壁応力増大と神経体液性因子の過剰賦活化などにより生じ,非代償性心不全への移行と関連する.

左室リモデリングは,心室性不整脈,心臓突然死の背景因子としても重要である

心筋viabilityとは何か?

著者: 吉野秀朗

ページ範囲:P.2092 - P.2094

ポイント

心筋viabilityの評価は,虚血性心疾患の治療選択の基準になるばかりでなく,内科治療やリハビリテーションなど日常生活指導を含めた日常診療に不可欠である.

viableな心筋のどのような機能を検出するかによって,用いる方法が異なり,得られた結果の意味も異なる.

それぞれの検査法で長所と短所を持つ.心筋viabilityを評価する方法は一つではなく,各検査法の特徴をよく知り,目指す目標によって検査方法を組み合わせるべきである.

Vulnerable plaqueとは何か?―その検査法

著者: 大藪丈太 ,   平山篤志

ページ範囲:P.2095 - P.2097

ポイント

急性冠症候群は,冠動脈疾患の予後を決定する最大の原因で,その病態は冠動脈内のプラークの破綻とそれに続く血栓形成である.

急性冠症候群の多くは狭窄度50%未満の病変から発症し,原因となる不安定プラークは冠動脈造影では同定できない.

プラーク性状同定のため,さまざまな血管内イメージングが用いられている.

患者へのアプローチ 【胸痛患者へのアプローチ】

病歴聴取と身体所見―気をつけることと鑑別診断

著者: 佐藤徹

ページ範囲:P.2099 - P.2103

ポイント

迅速な病歴聴取が必要だが重要なチェックポイントは,逃さない.

身体所見からは容易に重要な情報を得られることがあるため,要点を習熟しておく.

超急性期の12誘導心電図―その重要性と解釈

著者: 小菅雅美 ,   木村一雄

ページ範囲:P.2104 - P.2108

ポイント

心筋梗塞超急性期の心電図では,T波の尖鋭・増高(hyperacute T)が診断の鍵となる.

胸痛とともにQRS幅の増大を認めた場合は,広範な心筋虚血が生じ,重篤な病態を呈していることが予想される.

一見,明らかな心電図異常がないようでも必ず以前の心電図がある場合には比較し,また経過を追って心電図を記録し比較することが重要である.

最新の血液生化学検査を利用する―解釈と限界

著者: 清野精彦

ページ範囲:P.2109 - P.2111

ポイント

心筋壊死・傷害マーカー,心筋ストレスマーカー,プラーク不安定化マーカーに分類される.

心筋細胞質マーカー(H-FABD)と筋原線維マーカー(トロポニンT)が活用される.

循環器救急の現場では,全血迅速診断法を利用することが重要.

心エコー検査の役割

著者: 坂田好美

ページ範囲:P.2112 - P.2120

ポイント

心エコーは,心電図所見が正常か診断困難な急性冠症候群の診断に最も有用である.

心エコーにより求めた左室収縮能および拡張能は,急性冠症候群の予後の重要な指標になる.

心筋コントラストエコー法は,急性冠症候群の診断や心筋viabilityの評価に有用である.

【非典型的症状を訴えて来院する患者へのアプローチ】

どのように虚血性心疾患を診断していくか

著者: 藤本眞一 ,   水野麗子 ,   上嶋運啓 ,   斎藤能彦 ,   中村忍

ページ範囲:P.2122 - P.2124

ポイント

非典型的症状で来院する虚血性心疾患患者が存在することを念頭に置く.

複数の冠危険因子を有する症例では特に注意する.

虚血性心疾患は症状が典型的でないからといって軽症と限らない.負荷心電図などをいきなり実施するのは危険である.安静心電図,心筋逸脱酵素,炎症所見などを確認してから,患者の顔色,表情をよく観察して,慎重に負荷心電図の実施を考慮すること.

急性冠症候群の治療 【ST上昇型急性冠症候群】

来院時の重症度判定

著者: 石原正治

ページ範囲:P.2126 - P.2128

ポイント

Killip分類は聴診器と血圧計だけでできる,簡便かつ有用なリスク層別化の指標である.

心原性ショック(Killip IV)の予後はきわめて不良である.

重症例ほど迅速かつ確実な治療が予後の改善に必要である.

ST上昇型急性冠症候群では迅速な再灌流を得ることが最も重要であり,重症度判定のために再灌流療法が遅れるようなことがあってはならない.

血栓溶解療法とカテーテル治療の比較

著者: 大嶋秀一

ページ範囲:P.2131 - P.2134

ポイント

急性心筋梗塞症(AMI)に対する血栓溶解療法には,経カテーテルから行うintracoronary thrombolysis(ICT)と経静脈的なintraveneous coronary thrombolysis(IVCT)に分けられる.さらにマイクロカテーテルから冠血栓に直接噴霧できるPIT(pulse infusion thrombolysis)が開発された.

AMIに対する急性期治療は,カテーテル治療が血栓溶解療法より短長期予後は優れている.

AMIの急性期治療では,末梢塞栓に伴うno-reflowを予防することが重要であり,PITや血栓吸引/末梢保護療法が有用である.

β遮断薬とACE阻害薬/ARBの効果―大規模無作為比較試験

著者: 小堀裕一 ,   山科章

ページ範囲:P.2135 - P.2137

ポイント

β遮断薬は急性期および慢性期予後改善効果があり,早期より開始すべきであるが,本邦では冠攣縮性狭心症が高頻度であることから躊躇される傾向にある.

ACE阻害薬はハイリスク症例ほど予後改善効果が期待できる.

ARBはACE阻害薬とほぼ同等の予後改善効果が期待でき,ACE阻害薬に忍容性のない患者に推奨される.

右室梗塞の診断と治療―右室梗塞は重症か?

著者: 白木裕人

ページ範囲:P.2138 - P.2140

ポイント

右室梗塞の梗塞域は右冠動脈の閉塞部位と関連し,中枢側ほど梗塞域は広い.

右室梗塞は梗塞前狭心症との関連性が高く,ともに下壁梗塞の院内予後の重要な予測因子である.

右室梗塞後の右心機能には自然回復がみられる.

右室梗塞による右心原性ショックの予後は不良である.

右室梗塞による血圧低下は梗塞急性期に出現する.

右室梗塞の診断は右側胸部誘導により早期に行う必要がある.

右室梗塞合併例では,利尿剤,亜硝酸剤,モルヒネの投与に慎重を要する.

血行動態の維持には,Swan-Ganzカテーテルによる血行動態のモニタリングが有用である.

【非ST上昇型急性冠症候群】

重症度の層別化と治療選択―ガイドラインをふまえて

著者: 藤本肇 ,   百村伸一

ページ範囲:P.2142 - P.2145

ポイント

短期リスク分類に基づき重症度を層別化する.

重症度に応じた治療方法を選択していく.

臨床現場の進歩・変化に応じたガイドラインの運用が必要である.

積極的カテーテル治療か,待機的治療か

著者: 伊苅裕二

ページ範囲:P.2146 - P.2147

ポイント

非ST上昇型急性冠症候群は,TIMI risk score, FRISC scoreなどによりリスク評価を行う.

ハイリスク例に対しては,積極的カテーテル治療が有益(または無害)である.

ローリスク例に対しては積極的カテーテル治療は無益(または有害)であり,待機的治療のほうが成績がよい.

【冠攣縮性狭心症の診断と治療】

急性冠症候群の発症と突然死への関与

著者: 大塚文之 ,   小島淳 ,   小川久雄

ページ範囲:P.2149 - P.2151

ポイント

冠攣縮の主因は,冠動脈内皮からの一酸化窒素(NO)産生低下および血管平滑筋の収縮性亢進であると考えられている.

冠攣縮が生じると血液凝固能や血小板凝集能は亢進,線溶能は低下し,冠動脈血栓が形成されやすい.

冠攣縮は,急性心筋梗塞や不安定狭心症の原因となりうるだけでなく,致死性不整脈の合併から突然死の原因となる場合がある.

【急性冠症候群の外科的治療】

どのような症例が手術適応か?

著者: 吉田成彦

ページ範囲:P.2152 - P.2154

ポイント

ステントなどのデバイスの品質向上により,PCIは急性冠症候群に対する治療の第一選択となったが,最大限の内科的治療によっても,心筋虚血が改善しない症例では緊急手術の適応となる.

外科冠動脈再建術には,大きく人工心肺を使用するCABGと使用しないOPCABに分類できるが,選択は術前状態や外科医の熟練度により異なる.しかし今後OPCABの適応は増加すると考えられる.

急性冠症候群に対する治療は,内科医・外科医の熟練度や成績に施設間較差が大きい.内科・外科の密接なチームワークで迅速な対応,治療戦略をたて,実行することが重要である.

【救急現場における致死性不整脈への対応】

医療従事者としてなすべきこと―BLSとACLS,チームとしての役割

著者: 青木聡 ,   高山守正

ページ範囲:P.2156 - P.2160

ポイント

急性冠症候群の治療に最も重要なことは治療方針を速やかに決定することである.

血栓溶解薬による急性期冠再灌流療法の恩恵を受けるのはST上昇型の心筋梗塞のみであり,12誘導心電図による迅速な診断が必要である.

虚血に伴う胸痛患者に対してアレルギーや禁忌がなければMONA(モルヒネ,酸素,ニトログリセリン,アスピリン)を使用する.

急性冠症候群による心原性ショックの患者の死亡率は高く,死亡の危険性が高い患者は迅速な血行再建ができる施設へ搬送する.

緊急心血管治療はBLSとACLSから成り,救命の連鎖(早期の通報,早期の心肺蘇生,早期の除細動,早期のACLS)で繋がっている.

除細動は心室細動に対し最も有効であり,除細動が成功する確率は1分遅れるごとに7~10%低下する.

市民による自動体外式除細動器の使用は良質な心肺脳蘇生へ繋がり,社会復帰率が上昇するため,その啓蒙および育成が急務である.

地域医療ネットワークの構築の重要性

著者: 野々木宏

ページ範囲:P.2162 - P.2164

ポイント

内因性院外心停止の最大の原因は急性心筋梗塞症である.

急性心筋梗塞症の致死率は20%以上となお高率であり,死亡の半数以上が院外死である.

院外心停止の救命には,救命の連鎖の確立とともに,心停止前の搬入システムの確立として救急医療ネットワーク構築が重要である.

【最重症例への対応】

心原性ショック症例をいかに救うか

著者: 堀内賢二

ページ範囲:P.2166 - P.2169

ポイント

心原性ショックを呈する原因の把握が必要である(梗塞責任病変と機械的合併症の把握および右室梗塞の循環動態の把握と治療).

急性心筋梗塞に伴う心原性ショックであり,機械的合併症がないことを確認した場合,早期の循環動態の安定化と梗塞責任病変の再灌流を実施すべきである.

再灌流療法後の微小循環の改善が院内死亡率を改善するため,末梢保護あるいは再灌流障害の予防を考慮すべきである.

【再灌流後の薬物療法】

β遮断薬の適応と効果

著者: 吉川勉

ページ範囲:P.2170 - P.2172

ポイント

β遮断薬は再灌流療法が行われた急性心筋梗塞患者においても有効である.

発症後24時間以内に開始することが望ましい.

ST上昇型急性冠症候群に禁忌がなければ,原則として全例にβ遮断薬を投与すべきである.

ポンプ失調・低血圧・徐脈などで急性期に投与できなくても,回復期にβ遮断薬の投与を再度検討する.

糖尿病合併例であっても,β遮断薬は有効である.

ハイリスクの心筋梗塞患者においてはβ遮断薬を長期継続投与する.

アンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の効果

著者: 小林欣夫 ,   小室一成

ページ範囲:P.2173 - P.2175

ポイント

ACE阻害薬の急性心筋梗塞後のイベント発生抑制効果は確立されている.

急性心筋梗塞発症後,ACE阻害薬を少量より慎重に投与し,24~48時間で維持量まで増量する.

ARBもACE阻害薬と同等の効果があることが示されている.

急性心筋梗塞症例におけるACE阻害薬とARBの併用の有用性に関するエビデンスはいまだ得られていない.

スタチンの効果と適用

著者: 中田佳延 ,   池脇克則

ページ範囲:P.2176 - P.2178

ポイント

現在までにスタチンを使ったさまざまな大規模介入臨床研究が実施され,冠動脈疾患に対する一次予防および二次予防においてその有効性が確立された.

急性冠症候群における有効性を示唆するデータも多数報告されている.

急性冠症候群に対する短期的なスタチンの効果は多面的薬理作用が関与し,長期的な効果はそのコレステロール低下作用によると考えられている.

急性冠症候群患者へのスタチン導入は発症早期に行い,十分にコレステロールを低下させることが望ましい.

座談会

急性冠症候群を学ぶうえで必要なこと―姿勢・技術・環境・システム

著者: 永井良三 ,   野々木宏 ,   山科章 ,   吉野秀朗

ページ範囲:P.2180 - P.2190

吉野(司会) 本日は,急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)診療を含めて研修医が何を学ぶべきか,教育する側はどのようなシステム作りを目指せばよいのかを,先生方にディスカッションしていただきます.さらに,その基本となる内科の教育はどうあるべきかをご提示いただければと思います.

臨床研修制度と循環器科専門研修

 吉野 まず最初に,研修医教育に,それぞれの先生方のお立場からどのようにかかわっていらっしゃるかを伺いたいと思います.

演習・小児外来

〔Case31〕 耳下腺腫脹と頭痛を主訴に来院した4歳男児

著者: 山本あつ子

ページ範囲:P.2199 - P.2201

症 例:4歳,男児.

 主 訴:左耳下腺腫脹,頭痛.

 家族歴・既往歴:特記すべきことなし.

 予防接種:定期接種(BCG,DPT,ポリオワクチン,麻疹ワクチン,風疹ワクチン,日本脳炎ワクチン)は受けているが,任意接種に関しては,インフルエンザワクチンのみ接種している.

 現病歴:2日前から,左側の耳下腺が疼痛を伴って腫脹した.体温が38℃になり,食欲がなく,固形物が食べられなかった.患児の保育園のクラスでは,2週間前から,5日間欠席した児童が2人いた.

連載

目でみるトレーニング

著者: 高田健治 ,   岩崎靖 ,   福田耕一

ページ範囲:P.2202 - P.2208

問題 427

 症 例:70歳,男性.

 主 訴:全身倦怠感,微熱,咳嗽.

 既往歴・家族歴・生活歴:特記事項なし.

 現病歴:元来健康で検診でも尿所見異常を指摘されたことはない.2カ月ほど前から全身倦怠感と咳嗽が出現.近医受診し感冒薬などを処方されたが症状が改善せず,検査所見で蛋白尿(+)および血清クレアチニン(Cre)3.2mg/dlを指摘され,当院を紹介され検査目的で入院となる.

 入院時現症:身長165cm,体重 50kg,眼瞼結膜は貧血様,右下肺で乾性ラ音を聴取する.両下腿に軽度の浮腫を認める.

病理との付き合い方 病理医からのメッセージ(9)

病理診断で用いられる染色法および各種補助診断について・2―免疫染色,遺伝子解析,染色体解析

著者: 菅井有

ページ範囲:P.2209 - P.2213

免疫組織化学

 免疫染色は組織切片内に含まれる物質(主に蛋白質)の同定のために用いられる.組織像と対比可能なことから,病理診断には不可欠の方法である.免疫染色の基本原理については成書を参照してほしい1).最近,多くの検査室で免疫染色の自動化が成されてきている.自動免疫装置はいくつかのメーカーから市販されている.

 免疫染色の所要時間は,自動染色機の場合,未染切片が用意されていれば1日で染色可能である.しかし,それらは染色枚数にも影響されるし,技師数にも関係する.加えてHE所見と免疫染色の結果を総合的に判断する知的所要時間はケースバイケースであるから,病理医とよく相談することが必要である.

しりあす・とーく 第12回テーマ

医療におけるジェンダー・イッシュー―仕事と家庭の両立を考える(後編)

著者: 郷間厳 ,   松下克子 ,   岸誠司

ページ範囲:P.2216 - P.2221

女性医師が抱える困難の原因は,そもそも日本の医師の労働環境そのものの問題でもある.経済状況はこの数年厳しさを増し,どの医療機関にも人員的な余裕はまったくなくなっている.医師にとって,仕事と家庭の両立はきわめて困難なのが現実だ.本誌では前号に引き続き,臨床の最前線で活躍する3人の医師に現状と今後の課題・展望を語っていただいた.

 (前号からつづく)

女性の働きやすさが国の将来を左右

■郷間 女性がさまざまな職場で,より力を発揮するためには何が必要か.これは,少子高齢社会のなかで今や国家的な課題にもなっています.ヨーロッパでは女性が働きやすい状況をつくった国で出生率が上がっているというデータもあり,女性にとっていかに働きやすい社会をつくるかが国の将来を 左右するとも言えます.

危険がいっぱい―ケーススタディ・医療事故と研修医教育 第12回【最終回】

起き上がれない34歳男性

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.2222 - P.2225

今回の症例は,尻餅をつき,腰痛で動けなくなったため,救急車でERを受診した34歳の男性である.

 アリス 本日の症例は,「起き上がれない」と救急車でERに運び込まれた34歳のアフリカ系男性です.

 エディ HIVと魚鱗癬の既往がある一人暮らしの34歳男性が,来院した日の朝,ちょっと物を持ち上げようとした拍子に尻餅をついて,それ以来腰の痛みで起き上がれなくなったそうです.しびれや筋力低下はありません.そのままでは身動きもできず,救急車を呼んでER受診しました. 既往歴としては重症の魚鱗癬と重度肥満(BMI54),HIV陽性でAIDS発症はなくHAART(高活性抗レトロウイルス療法)を受けています.そのHIVクリニックのDr.ケントにしか話したくないそうで,救急では病歴もそれ以上は取れませんでした.朝11時頃に救急に到着していますが,患者が「Dr.ケントを呼んでくれ」というので連絡を取ったところDr.ケントはあいにく学会出張中で,そう説明しても「明日は帰ってくるんだろう,それまで入院させてくれ」の一点張りで,救急医は一応内科研修医に入院として申し送ったのですが,日勤の入院担当研修医は「ぎっくり腰では入院適応はない」と拒否,しかし患者は動けないので,救急部の指導医が「入院適応はある,家に帰しても患者は自分で自分の面倒がみられない状態なのだから」と研修医に入院を命じたところ,その研修医は救急に患者を見にも来ないで4時に準夜帯の入院担当研修医に引き継いで帰宅してしまいました.その間,患者は,内科入院ということで,昼食が供され,完食しています.

「デキル!」と言わせるコンサルテーション 第12回

プライマリケア医(一般医)のためのコンサルテーション

著者: 横田雅史

ページ範囲:P.2226 - P.2230

ある病院で

(金曜日の夕方5時,病棟のナースステーションでの医師の会話)

●医師A:「また,××クリニックから急患だって?」

●医師B:「そうなんだよ.何でこんな患者,早く送ってくれないんだろうな.急性膿胸なんだから外来でダラダラ抗生剤点滴しないで,はやくドレナージしなきゃいけないんだけど,中途半端に治療しちゃってるから,癒着しちゃって,ドレーンも入らないんだよ……」

(金曜日の夕方5時,地域医療連携室へクレームの電話が……)

■クリニック院長:「××クリニックの院長だが,おたくの病院は患者を紹介しても,ろくに返事をもらったことがないが,どうなってるんだ! それから,何人も紹介してるんだが,一人としてクリニックの外来に帰ってこないんだが,そちらの病院は患者の囲い込みをやってるのか! そんなことだと,医師会としても対応を考えさせてもらうぞ!!」

 これまで本シリーズでは,主に研修医のためのコンサルテーションについて連載されてきましたが,今回は実地医家である開業医(一般医,プライマリケア医)のためのコンサルテーションについて考えてみたいと思います.最初にお断りしておきますが筆者自身もごく最近病院を退職して開業し,地域の一般医の仲間入りをさせていただいたばかりです.当然,さまざまなことが手探り状態でもあり,決して『デキル!』と言わせるコンサルテーションをいつも実践できている訳でもありません.ただ比較的最近まで総合病院でコンサルテーションを受ける側の立場にあったことからコンサルテーションをするほうと双方の視点からみて『デキル!』と言わせるコンサルテーションとまではいかなくともより良いコンサルテーションについて考えてみたいと思います.

東大病院内科研修医セミナー 8

緩徐進行性の運動障害,頭痛を主訴とした脳静脈洞血栓の症例

著者: 西村剛 ,   佐藤香菜子 ,   山下尋史

ページ範囲:P.2232 - P.2236

Introduction

MRI T2強調画像で広汎な高信号域を認めるが,神経所見が乏しい理由は何か?

脳静脈洞血栓症を起こす基礎疾患として何を考えるか?

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

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60巻12号(2023年11月発行)

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59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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