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雑誌目次

雑誌文献

medicina42巻2号

2005年02月発行

雑誌目次

今月の主題 肥満症―診断・治療の新展開 特集にあたって

肥満症がなぜいけないのか?

著者: 松澤佑次

ページ範囲:P.180 - P.182

ポイント

肥満のなかで減量治療を必要とする肥満症の疾病概念,診断基準が確立されている.

内臓脂肪の蓄積が,肥満に伴う病態の発症に大きな役割をもっている.・メタボリックシンドロームのキープレイヤーは内臓脂肪である.

肥満症の疫学

肥満の増加,最近の動向は?

著者: 吉池信男 ,   草間かおる ,   金田芙美

ページ範囲:P.184 - P.187

ポイント

日本人の肥満者は男性の中高年,小児を中心に全般的に増え続けている.

一方,十代後半から40歳代の女性ではBMIは低下し,むしろ低体重(やせ)の者の増加が懸念されている.

これらの経年的な推移には地域差(大都市と郡部)がみられ,効果的な肥満対策を考える際にはそのような背景要因の考慮も必要である.

肥満症の自然歴とその予後

著者: 中村正

ページ範囲:P.188 - P.190

ポイント

肥満の程度が生命予後と関連し,特に心血管死と密接に関連する.

肥満者の体重減少は全死亡や心血管死の低下に関与しない.

意識的な減量は死亡率の減少に貢献する.

小児期の肥満は高率に成人肥満にトラッキングする.

小児期の肥満は成人してからの生命予後に関連する.

早期からの意識的な減量が肥満症の予後を改善する重要な要素である.

肥満症診療へのアプローチ

肥満と肥満症の違いは

著者: 井上修二 ,   鳥飼陽子 ,   金井幸子

ページ範囲:P.192 - P.195

ポイント

肥満と肥満症の違いを理解する.

肥満の生活習慣病罹患のリスクファクターは,肥満の程度(BMI)と体脂肪分布である.

欧米白人の肥満はBMI≧30であるのに,わが国ではBMI≧25である.

上半身肥満のほうが下半身肥満よりも生活習慣病に罹患しやすい.

内臓脂肪型肥満のほうが皮下脂肪型肥満より生活習慣病に罹患しやすい.

肥満症判定法―BMI・体脂肪率・内臓脂肪

著者: 梁美和 ,   中村正

ページ範囲:P.197 - P.199

ポイント

“肥満”と“肥満症”は明確に区別されている.

日本人は軽度の肥満でも疾病合併頻度が高い.

内臓脂肪量の増加が合併症の成因として最も重要である.

内臓脂肪蓄積の基準は内臓脂肪面積100cm2以上である.

腹部生体インピーダンス法によって安全・簡易で精度良く内臓脂肪量を評価できる.

肥満症患者診察の基本と留意点

著者: 川村光信

ページ範囲:P.200 - P.202

ポイント

肥満の診療においては,必ず二次性肥満の除外を念頭におく.これがなされて初めて単純性肥満の診断が下せる.

二次性肥満のうち,もっとも頻度の高いのは内分泌性肥満である.特に甲状腺機能低下症,Cushing 症候群は見逃さないようにする.

単純性肥満でも,内臓脂肪蓄積による肥満症ではさまざまな代謝異常を生じ,個々の病態が軽度であっても,それらの集積は強い冠動脈疾患の誘引となるので,全体像を注意深く評価する.

肥満症の病因と病態メカニズム

肥満症の病因

著者: 前田和久

ページ範囲:P.203 - P.205

ポイント

肥満症の病因として以下のメカニズムが重要である.

1) 肥大した脂肪細胞自身の機能障害.特にマクロファージとのクロストークが糖尿病と動脈硬化の同時発症に深く関与する.

2) 脂肪細胞から分泌される蛋白質(アディポサイトカイン).

3) 内臓脂肪蓄積.

4) 生活習慣.

これらを日常の肥満症患者治療にて包括的に管理することが肝要である.

食欲調節と肥満症

著者: 加隈哲也

ページ範囲:P.206 - P.207

ポイント

末梢のエネルギー代謝情報は,摂食活動に伴い消化管,膵臓や脂肪組織から視床下部へと伝達されている.この中枢と末梢の情報交換が正常に機能すると肥満は発症しない.

ヒトの食欲は物質で駆動されるというより情動や概念に左右される.ヒトでは大脳皮質連合野が発達しているため,末梢代謝による調節を凌駕しやすい.その典型例がヒト肥満である.

脂肪細胞遺伝子制御と肥満症

著者: 小川渉

ページ範囲:P.208 - P.209

ポイント

肥満の病態形成には脂肪組織の遺伝子発現の変化が深く関与する.

肥満における遺伝子発現変化を制御する機構は明らかではないが,PPARγ依存性の転写カスケードに障害が生じている可能性がある.

脂肪組織における遺伝子操作により,肥満が改善するモデル動物も作成されており,そのような遺伝子は新たな肥満治療の標的となる可能性がある.

生体内生理活性物質と肥満症

著者: 木原進士

ページ範囲:P.210 - P.211

ポイント

肥満症は高脂血症,高血圧,耐糖能異常以外にも一般臨床検査に表れない種々の脂肪細胞由来生理活性物質アディポサイトカインの異常を有しており,高度に動脈硬化惹起性の病態となっている.

肥満症―減量により改善する病態

メタボリックシンドロームとは

著者: 石橋俊

ページ範囲:P.213 - P.215

ポイント

動脈硬化の危険因子は互いに重複しやすい傾向がある.

診断基準が発表され,メタボリックシンドロームの実態が明らかにされつつある.

メタボリックシンドロームは動脈硬化のリスクであると同時に,糖尿病発症のリスクでもある.

糖尿病患者や高齢者では,メタボリックシンドロームの有病率が高い.

耐糖能障害

著者: 住田安弘

ページ範囲:P.216 - P.220

ポイント

肥満はインスリン抵抗性を惹起させ,2型糖尿病発症の重要な危険因子となる.

ほとんどの2型糖尿病の発症に,インスリン分泌低下を伴う.

上半身肥満(内臓脂肪過剰蓄積型の肥満)では,動脈硬化の危険因子が重積しやすい.

ライフスタイル(食習慣や身体活動)の改善は,境界型耐糖能異常(IGT)から2型糖尿病への発症抑制に効果がある.

高血圧症

著者: 浦信行 ,   進士靖幸

ページ範囲:P.222 - P.224

ポイント

・肥満者には高血圧が合併しやすく,また高血圧患者には肥満が多い.両者は相互に関係しながら心血管系疾患の重要な危険因子となる.

・肥満合併高血圧発症の機序には,体液量貯留,交感神経活性亢進,インスリン抵抗性などの要因がある.

・治療はライフスタイルの改善を基盤とし,肥満に基づく代謝異常の改善も考慮した降圧薬の選択(RA系抑制薬,α遮断薬)が必要である.また,一部のCa拮抗薬で抗肥満作用が報告されている.

脂質代謝異常

著者: 小竹英俊 ,   及川眞一

ページ範囲:P.225 - P.227

ポイント

内臓脂肪型肥満にみられる脂質代謝異常は高TG血症・HDL-C血症が特徴的である.

内臓脂肪型肥満ではレムナントリポ蛋白の増加やsmall dense LDLの出現も指摘されている.

肥満症に合併した脂質代謝異常の是正には,身体的活動量の増加や脂肪摂取制限などのライフスタイルの適正化が最も重要である.

高尿酸血症・痛風

著者: 中島弘

ページ範囲:P.228 - P.232

ポイント

肥満治療で尿酸値が低下する場合は薬物による尿酸降下療法は不要である.

薬物療法にエビデンスがあるのは痛風発作の予防と腎障害・尿路結石予防のみ.

尿路結石は高尿酸血症の最も多い合併症であり,尿路管理を行って未然に防ぐ.

尿酸値が動脈硬化性疾患のリスクファクターとなる疫学結果がほぼ確立された.

肥満者における尿酸のリスクは内臓脂肪の軽減なくしては低下しない.

生活指導で重要なことは適正なカロリー制限と有酸素運動による減量である.

脂肪肝:NASH

著者: 西原利治 ,   岩崎信二 ,   大西三朗

ページ範囲:P.234 - P.235

ポイント

本邦成人の2~3割は脂肪肝を有する.

飲酒歴に乏しいのに肝組織像はアルコール性肝炎に酷似する症例をNASH(nonalcoholic steatohepatitis)と呼ぶ.

代謝症候群の肝臓における表現型はNASHであり,肝硬変や肝細胞癌の発生母地となる.

日本人は遺伝的にNASHに高感受性の人種であり,肥満が最大の危険因子である.

睡眠時無呼吸症候群

著者: 陳和夫

ページ範囲:P.236 - P.238

ポイント

肥満は閉塞型睡眠時無呼吸の重要な発症要因である.

40~69歳の5人に1人は睡眠1時間当たり5回以上の無呼吸-低呼吸を呈しており,肥満になればその頻度は数倍以上になる.

10%体重増加,減量により睡眠中の閉塞型無呼吸はおよそ各約30%増減する.

睡眠時無呼吸低呼吸症候群の治療には通常,経鼻持続気道陽圧(nCPAP)療法が第一選択となる.

冠動脈疾患

著者: 川本俊治

ページ範囲:P.240 - P.242

ポイント

メタボリック症候群は虚血性心疾患発症の約1/4に関与している.

メタボリック症候群に対する治療は,現在有効性が証明されたものはない.

生活習慣の改善を基本として,おのおのの病態に応じた厳格な治療目標達成が望まれる.

脳血管障害

著者: 寺崎泰和 ,   長束一行

ページ範囲:P.243 - P.245

ポイント

本邦では,肥満は女性のラクナ梗塞の独立した危険因子である.

脳卒中治療ガイドラインでは,肥満が脳卒中の危険因子であることに肯定的な報告も否定的な報告もあることから,脳卒中の再発予防を目的とした肥満の是正には十分な科学的根拠がないとされている.

肥満症を改善することで血管障害のリスクファクターである生活習慣病を是正し,脳血管障害を防ぐことができる可能性がある.

整形外科疾患

著者: 入江一憲

ページ範囲:P.246 - P.248

ポイント

変形性膝関節症の発生予防には40歳以下の時期のBMIを25未満とし,進行予防にはその後もBMIを25未満にとどめる.

変形性膝関節症の発症予防には約5kg以上の減量と活動量の維持に努める.

重度肥満でなければBMIは変形性膝関節症に対しての手術適応を左右しない.

肥満と変形性股関節症,変形性脊椎症,腰痛症とは弱い関連性にとどまる.

月経異常

著者: 高橋一広 ,   高田恵子 ,   倉智博久

ページ範囲:P.250 - P.252

ポイント

肥満は排卵障害や月経周期異常の原因となる.

内臓脂肪型肥満のほうが皮下脂肪型肥満より月経異常の頻度が高い.

最も月経周期が安定するBMIは22~23である.

理想体重まで達しなくても,減量により月経周期と妊孕力の回復が期待できる.

肥満が影響を与える疾患・病態

肥満と骨代謝異常

著者: 稲葉雅章 ,   西沢良記

ページ範囲:P.253 - P.255

ポイント

肥満患者での骨量増加は,骨に対する荷重の増加の結果であるため,必ずしも骨折率の低下にはつながらない.

糖尿病患者では,骨芽細胞機能低下に伴う低回転骨となるため,微小骨折の蓄積などにより骨質の劣化を伴うことや,神経障害・視力低下・大血管障害など糖尿病合併症による転倒率の上昇などで,骨密度が低下していなくても骨折率がかえって上昇する.

肥満に対する減量時に,負のCaバランスが生じたり,運動量低下による骨吸収亢進による骨密度低下がしばしば起こる.このため,減量時には,経口Ca摂取を増やしたり,運動量確保に気をつけ,減量時の骨密度低下を防止するよう心がける.

肥満と妊娠異常

著者: 和栗雅子

ページ範囲:P.256 - P.258

ポイント

肥満に起因する種々の健康障害が妊娠異常に関連することがある.

妊娠前からの肥満や妊娠中の過剰な体重増加が,周産期予後を不良にすることも多い.

肥満に関連する種々の母児合併症を防ぐためには,妊娠前から分娩後長期にわたる体重管理の必要性を妊娠可能年齢の女性に十分に説明し,標準体重を目標に体重管理するように指導することが大切である.

肥満とGERD(胃食道逆流症)

著者: 天野和寿 ,   木下芳一

ページ範囲:P.260 - P.262

ポイント

胃食道逆流症(GERD)は近年増加傾向にあり,肥満の増加がその一因である.

脂肪の過剰摂取や過食は,食後の胃酸逆流を引き起こし,GERD発症につながると考えられている.

GERDの治療法として日常生活・食生活の改善および胃酸分泌抑制薬による薬物療法を行う.

肥満と癌

著者: 宮崎滋

ページ範囲:P.263 - P.265

ポイント

肥満は,糖尿病,高血圧,高脂血症を起こしやすいだけでなく,癌の発生率も高める.

肥満に関連して発生する癌は,女性では子宮内膜癌,乳癌,男性では結腸,直腸癌である.

乳癌では,体重の増加が発生率を高める.

新しい肥満症治療の考え方

肥満症治療ガイドラインの作成に向けて

著者: 加隈哲也 ,   坂田利家

ページ範囲:P.266 - P.267

ポイント

肥満症治療ガイドラインのコンセプト

肥満に起因する疾病,さらには重複発症する疾患群を対象に,その病態の改善,解消,防止を目的にした減量治療法を解説する.

基本になる治療技法,つまり食事療法,運動療法,薬物療法,行動療法,外科療法などについて,それぞれの方法,成果,適応などの統一見解を示す.

肥満に起因する疾患群の大半が内臓脂肪の蓄積によって発症・重症化することを重視し,その治療的対応への見解を示す.

効果的な食事指導の実際

著者: 徳永勝人

ページ範囲:P.268 - P.270

ポイント

肥満症の食事療法は,①脂肪細胞機能異常による肥満症と,②脂肪組織の増加による肥満症の2つに分けて考える.

肥満症の食事療法は1,800~1,000kcal/日の肥満症治療食と,600kcal以下の超低カロリー食に分類される.

肥満症の食事治療は標準体重にする必要はなく,肥満に伴う合併症を改善することにある.

運動指導の工夫と長続きの秘訣

著者: 勝川史憲

ページ範囲:P.272 - P.274

ポイント

糖尿病を有する者では,はじめに運動負荷試験で冠疾患の有無を評価する.

当初は,短時間の低~中等度の強度の有酸素運動,または日常生活で身体活動量を増やすことから始め,中等度の運動/身体活動をほぼ毎日合計30分以上行うレベルまで活動量を増加させる.

減量後の体重維持にはさらに大量の活動量が必要で,長期的には(可能ならば)強い強度の運動も考慮する.

肥満症の行動療法

著者: 吉松博信

ページ範囲:P.275 - P.277

ポイント

肥満症の行動療法では患者の「動機づけ」と「自己管理」が重要である.

肥満症患者には食行動や日常生活の「ずれ」と「くせ」が存在する.

グラフ化体重日記は「問題行動の抽出」「問題行動の修正」「報酬」「適正行動の強化と維持」「自己管理」といった点で行動療法に有用である.

薬物療法の考え方と問題点

著者: 高橋和男

ページ範囲:P.278 - P.279

ポイント

肥満治療では食事療法と運動療法が原則であり,薬物療法はその補助的な治療法である.

欧米では肥満に伴う生活習慣病の改善と長期投与が可能であることを抗肥満薬の認可基準として,すでにいくつかの薬剤が臨床応用されている.

わが国でも臨床治験が進行しており,今後の臨床応用が期待される.

いかなるケースに外科療法を考慮するか

著者: 児玉多曜 ,   川村功

ページ範囲:P.280 - P.282

ポイント

肥満の外科療法の適応はBMI>40 kg/m2のmorbid obesityである.

morbid obesity患者のほとんどが外科療法以外ではリバウンドを繰り返す.

現在の肥満外科療法の術式は拡大Roux-en Y胃バイパス術が主流である.

摂食障害・ひきこもりなど明らかな精神・心理的障害の合併患者は適応外である.

患者および患者家族の外科療法に対する理解と協力が必要である.

チーム医療の重要性

著者: 小山朝一 ,   白井厚治

ページ範囲:P.284 - P.287

ポイント

肥満治療では,病態に加え患者を取り巻く生活環境までを把握することが重要で,それにはチーム医療が必要となる.

減量治療には,内科医,精神科医,看護師,栄養士,臨床心理士などが,それぞれの専門的視点で観察することが求められる.

複数のスタッフによる患者介入は,かえって患者の混乱を招くこともあり,患者の問題点を共通認識し,統一したアプローチが重要で,それには,合同カンファランスが有効である.

個々の介入は,全般的に行動療法的サポートが基本である.

誤った減量法の危険性

著者: 吉田俊秀

ページ範囲:P.288 - P.289

ポイント

テレビ,ラジオ,週刊誌などを通じ種々なダイエット情報が氾濫し,このなかには死亡例も報告されている.

本稿では,極端に偏った食品摂取による減量と,誤った薬物使用による減量に焦点を絞り,問題点を明確にすることにより,肥満症の正しい知識に基づいた食事指導の必要性を再確認したい.

難治例への対応―摂食障害・精神疾患

著者: 石堂考一 ,   河合啓介 ,   久保千春

ページ範囲:P.290 - P.293

ポイント

若年女性で肥満や急速な体重の増減がみられた場合,摂食障害を合併していることがある.

摂食障害を合併していた場合,肥満に対し食事制限や減量の指示のみでは無効で,心理社会的背景も対象に含め,心理療法,薬物療法を組み合わせる統合的な治療アプローチが必要なことが多い.

体重や体脂肪率といった客観的な測定値だけでなく,その背景にある患者の心理社会的問題を整理し,患者と共有するように努める.

理解のための34題

ページ範囲:P.296 - P.302

しりあす・とーく 第2回テーマ

どうする? どうなる? 後期研修―これからの内科後期研修はどうあるべきか?

著者: 本村和久 ,   川尻宏昭 ,   飛田拓哉 ,   川島篤志

ページ範囲:P.304 - P.312

昨(2004)年4月医師臨床研修の必修化が行われ,多くの研修医が出身大学外,特に市中病院での臨床研修を選ぶという変動が起きた.臨床研修病院を「選ぶ時代」の到来だ.ところが,その先の「後期研修」については,選ぼうにも全くの情報不足であり,不安感を呈する研修医も少なくない状況だ.そこで,本号では,後期研修プログラムをもつ4つの病院の若手医師に,日本における後期研修の現状と課題,今後の方向性などについてお話しいただいた.

内科後期研修の現状

■本村 本日は,初期臨床研修の必修化により,関心が高まっている「後期研修」のあり方について,ディスカッションしたいと思います.まず,各先生方から,現在の後期研修の状況と問題点をお話しください.

危険がいっぱい―ケーススタディ・医療事故と研修医教育 第2回

頭痛・嘔吐・視覚異常と低ナトリウム血症をきたした授乳中の女性

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.314 - P.319

クリス(症例提示役) 本日の症例は34歳の白人女性です.人工授精で11週間前に出産,現在授乳中の方が,4時間持続する頭痛・嘔吐と視覚異常にて来院されました.

 現病歴ですが,産後特に問題なく過ごされていましたが,受診日の夕食後突然激しい頭痛が始まりました.場所は前頭部,拍動性で,痛みの強さは10段階で8,アセトアミノフェンにても改善しませんでしたが,暗い部屋に行くと痛みは軽減しました.同時に左目の視野に光が波うつようなものが現れてよく見えない状態が3時間持続しました.軽い嘔気もあり2回嘔吐しましたが,内容は食物残さのみで血液は混じっていませんでした.立ちくらみもあり,5分間ほどでしたが,両手のしびれる感じもありました.発熱・悪寒・意識消失・筋力低下・発語障害はなし.先週尿路感染症に罹り抗生物質3日間服用で完治.ERでのバイタルサインは体温36℃,脈拍73,呼吸数20,血圧137/96,酸素飽和度は100%と全く正常だったのですが,Na121と低ナトリウム血症があったため入院となりました.

「デキル!」と言わせるコンサルテーション 第2回

明確な内容で“旬のコンサルテーション”を

著者: 川畑雅照

ページ範囲:P.320 - P.323

初期研修の病棟でのコンサルテーションの一場面

(月曜日の午前11時,外来の診察室で,その専門医のポケベルは鳴った)

●研修医:「電話で失礼しますが,患者さんについてコンサルテーションしたいのですが……」

■専門医:「今,外来中だけど,急ぎの患者なら手短に話してくれ」

●研修医:「患者さんは,78歳の男性で,既往歴は……」

(と彼はプレゼンを始めました.2週間前の入院時の状況から10分以上延々話して……)

■専門医:「わかった! その状況ならすぐ人工呼吸器をつけなきゃならないな.すぐ行くから,病室はどこだ?」

●研修医:「いえ,実は患者さんは昨夜お亡くなりになったんです.それで,自分の治療のどこがまずかったか,教えてもらいたくて電話したんですが……」

■専門医:「今ごろ,そんな電話するな!!」

“ガチャッ!ツー,ツー……”

「デキル!」と言われるコンサルテーションのために

 また, “ダメ・レジ”(“ダメなレジデント”の略)の彼は,やってしまいました.まだまだ修業が足りないようです.そこで,今回は,コンサルテーションにおいて,内容の明確化とプレゼンのコツ,時間軸への配慮,タイミングの問題について解説したいと思います.

演習・小児外来

〔Case14〕 不穏を主訴に来院した8歳女児 〔Case15〕発熱を繰り返す1歳男児

著者: 小野博 ,   平岡政弘

ページ範囲:P.324 - P.327

 症 例:8歳,女児.

 主 訴:不穏.

 家族歴,既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴:1月30日未明から急に39℃度台の発熱を認めた.咳嗽,鼻汁は軽度であった.嘔吐,悪寒,全身倦怠感を認めたため,翌朝9時近医受診した.なお患児のクラスでは5人休んでいる児童がいた.患児は昨年11月,12月に計2回インフルエンザ予防接種を行っている.

 身体所見:体温40℃,顔色蒼白,咽頭発赤軽度,肺野清,心雑音聴取せず,腹部平坦軟,圧痛なし,末梢冷感あり,項部硬直なし,Kernig’s signなし.

連載

目でみるトレーニング

著者: 高橋裕一 ,   高田浩史 ,   土山芳徳 ,   岩崎靖

ページ範囲:P.331 - P.337

問題 397

 症 例:47歳,女性.

 主 訴:多関節痛.

 既往歴:約3年前より高血圧,糖尿病.

 現病歴:1年前に前医にて高血圧,糖尿病治療経過中に肺病変を指摘され,リウマトイド因子検査するも陰性であった.1カ月前頃から両手指の中手関節の腫脹,疼痛出現,さらに左膝関節痛もあり,2003年10月31日の検査でリウマトイド因子陽性といわれたため,同年11月27日当院を受診した.

書評

ゲノムと疾患

著者: 黒川清

ページ範囲:P.259 - P.259

 遺伝子の二重らせん構造が明らかにされた1953年から50年後,ヒトのゲノムの塩基配列が解読された.これにはコンピュータ演算能力の長足の進歩,分析法のマイクロ化・オートメーション化が進んだことで可能だった.このようなゲノム解析が可能になると何が変わるか.20世紀の100年で人間社会は大きく変わった.出生時余命は40歳から80歳に,人口は16億から64億に,工業化と都市化による生活は疾病構造,社会構造をすっかり変えた.そこでゲノム解析が可能になったが,何を知りたいのか,何のためなのか.本書はゲノムとゲノム解析,そして各種主要疾患の遺伝子の変化などについて,第一線の研究者によって書き著したものである.

 対象とされる読者は医学医療関係者であり,ゲノム分野についてよく耳にする言葉が手際よく解説されている.ゲノム計画,マイクロアレイ,SNP,また取り上げられている疾患も近年話題になっている糖尿病,高血圧,高脂血症,自己免疫疾患,Alzheimer病,骨粗鬆症,癌など,多くが生活習慣病というカテゴリーのものであり,ファーマコゲノミクス,遺伝カウンセリングまで記されている.図表も多数あり,手元においてあると便利な書であろう.

糖尿病ケアの知恵袋 よき「治療同盟」をめざして

著者: 屋宜宣治

ページ範囲:P.294 - P.294

 糖尿病治療にたずさわる医療者に「糖尿病の心理的アプローチ」という言葉は広く知られている.しかし,どのようにして「心理的アプローチ」を行っていくかについて十分理解している医療者は多くはないと考える.本書は「心理的アプローチをこれから行っていきたい」と思っている皆さんや,現在「心理的アプローチを実践している」皆さんにぜひ読んでいただきたい1冊である.

 本書は,事例編と解説編の2部で構成されている点が特徴的である.事例編は医師,看護師,管理栄養士,理学療法士の先生がタイプの異なった7ケースに対して,ディスカッション形式で心理的アプローチの実際を詳しく語っている.解説編は,「心理的アプローチ」「食事療法」「運動療法」「経口薬治療」「インスリン療法」「血糖自己測定」「高齢者」のトラブルとなるポイントをわかりやすく解説している.

臨床試験データマネジメント データ管理の役割と重要性

著者: 福田治彦

ページ範囲:P.303 - P.303

 EBMの普及に伴い,近年わが国でも「研究者主導臨床試験」の重要性の認識が高まり,学会においても臨床試験の発表が増えてきた.製薬企業の治験でのデータマネジメントは,本書の著者である辻井敦先生や監修の大橋靖雄教授のご尽力で急速に欧米のレベルに追いつきつつある.しかし,研究者主導臨床試験においてはまだまだデータマネジメントの認知度は低く,ようやく学会で“言葉”として登場するようになってきたばかりである.これは欧米での1980年前後に相当し,日本は“20年遅れ”と言える.その現状を反映してか,わが国の臨床試験関連書で「データマネジメント」は以下のように説明される.

 「データマネジメントは,

 ・製薬企業やCRO(開発業務受託機関)が行う,治験データの処理業務

 ・SOP(標準業務手順書)に従って行う業務

今日の小児診断指針 第4版

著者: 横田俊平

ページ範囲:P.330 - P.330

 最近の合計特殊出生率は1.29にまで落ち込み,少子化対策は待ったなしの状況にあるが,この事態は母親から子育ての経験がどんどん奪われていることを示しており,そのぶん,小児科医が子育て支援に大きくかかわる状況を生んでいる.したがって小児科医の“質の向上”が期待される世の中となり,小児医療は学問的にも実践的にも身近な症候から病態,診断を探し当てていく姿勢と,一方で高次先端医療に必要とされる知識,医療技術を身に付けていく姿勢との両方が求められるようになった.

 学生や研修医が,小児科学の膨大な知識をすべて吸収することは不可能である.教育の場で成し得ることは,診察技術を徹底して身に付けさせ判断の足場を確立させること,病態の説明を論理的に行いその論理に普遍性をもたせること,細かな知識ではなく曖昧な所見や情報からおおづかみに疾患の流れる方向を把握でき,その流れから疾患の細部へ攻め込む能力を磨いていく姿勢を培うこと,などかと考えている.

トピックス

【映画評】ヴィタール

ページ範囲:P.313 - P.313

・監督・脚本:塚本晋也/主演:浅野忠信,柄本奈美,KIKI・他/2004年/日本/86分/配給:ゼアリズエンタープライズ/2004年ベネチア国際映画祭特別招待作品

・全国各地で公開中.詳細:www.vital-movie.com

・医師割:当日一般より200円引,医学生割:当日学生より200円引

 事故で記憶を失った医学生の博史は,解剖実習にのめり込む.やがて解剖中の遺体の女性涼子と自分との関わりを思い出し,彼女と一緒に過ごす幻覚を見るようになる.一方,現実の世界では,同級生の郁美が博史に激しい想いをぶつけてきて….

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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